IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ビアメカニクス株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-レーザ加工装置及びレーザ加工方法 図1
  • 特許-レーザ加工装置及びレーザ加工方法 図2
  • 特許-レーザ加工装置及びレーザ加工方法 図3
  • 特許-レーザ加工装置及びレーザ加工方法 図4
  • 特許-レーザ加工装置及びレーザ加工方法 図5
  • 特許-レーザ加工装置及びレーザ加工方法 図6
  • 特許-レーザ加工装置及びレーザ加工方法 図7
  • 特許-レーザ加工装置及びレーザ加工方法 図8
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-15
(45)【発行日】2023-12-25
(54)【発明の名称】レーザ加工装置及びレーザ加工方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 26/388 20140101AFI20231218BHJP
   B23K 26/082 20140101ALI20231218BHJP
   B23K 26/00 20140101ALI20231218BHJP
   H05K 3/00 20060101ALI20231218BHJP
【FI】
B23K26/388
B23K26/082
B23K26/00 N
H05K3/00 N
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019212890
(22)【出願日】2019-11-26
(65)【公開番号】P2020157375
(43)【公開日】2020-10-01
【審査請求日】2022-07-30
(31)【優先権主張番号】P 2019055711
(32)【優先日】2019-03-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000233332
【氏名又は名称】ビアメカニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002066
【氏名又は名称】弁理士法人筒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】坂本 淳
(72)【発明者】
【氏名】二穴 勝
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 武史
(72)【発明者】
【氏名】武川 裕亮
【審査官】山下 浩平
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-101904(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0250714(US,A1)
【文献】特開2005-342749(JP,A)
【文献】特開2008-036667(JP,A)
【文献】特開平08-039283(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2007/0075063(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 26/00 - 26/70
H05K 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザパルスを発振させるレーザ発振器と、
駆動信号の周波数に基づいて、前記レーザ発振器から出射されたレーザパルスを2次元方向に偏向し、前記駆動信号の振幅に基づいて、出射するレーザパルスのエネルギを制御する第1のレーザ偏向部と、
前記第1のレーザ偏向部から出射されたレーザパルスを前記2次元方向と同じ平面での2次元方向に偏向し、前記第1のレーザ偏向部よりも動作が遅い第2のレーザ偏向部と、
前記レーザ発振器の動作を制御するレーザ発振制御部と、
前記第1のレーザ偏向部の動作を制御する第1のレーザ偏向制御部と、
前記第2のレーザ偏向部の動作を制御する第2のレーザ偏向制御部と、
を有し、
前記第2のレーザ偏向部から出射されたレーザパルスを用いて、基板上の穴あけ位置に、所定の軌道に沿って前記レーザパルスを照射するトレパニング加工を複数回繰り返すことで、前記穴あけ位置に止まり穴を開けるレーザ加工装置において、
前記基板は、第3の層と、前記第3の層に積層される第2の層と、前記第2とは異なる材質の層であり、前記第2の層に積層される第1の層と、を有し、
前記第1のレーザ偏向制御部は、
同一の周波数に対して、第1のエネルギに対応する第1の振幅と、前記第1のエネルギとは異なる第2のエネルギに対応する第2の振幅とを定めた制御テーブルをメモリに記憶し、
前記トレパニング加工を複数回繰り返す際に、前記制御テーブルに基づいて、前記第1の層を対象とする回では前記第1のレーザ偏向から出射される前記レーザパルスのエネルギを前記第1のエネルギに設定し、前記第2の層を対象とする回では前記第1のレーザ偏向から出射される前記レーザパルスのエネルギを前記第2のエネルギに設定する、
レーザ加工装置。
【請求項2】
請求項1に記載のレーザ加工装置において、
前記第2のレーザ偏向制御部は、前記レーザパルスを前記基板上の特定座標に位置決めするのに用いられ、
前記第1のレーザ偏向制御部は、前記2次元方向における前記特定座標を中心とした周辺領域に前記レーザパルスを高速に位置決めするのに用いられる、
レーザ加工装置。
【請求項3】
請求項2に記載のレーザ加工装置において、
前記制御テーブルにおける前記第1の振幅の値は、前記周波数が異なる毎に前記第1のエネルギとなるよう補正された値になっており、
前記制御テーブルにおける前記第2の振幅の値は、前記周波数が異なる毎に前記第2のエネルギとなるよう補正された値になっている、
レーザ加工装置。
【請求項4】
請求項1に記載のレーザ加工装置において、
前記第1の層は、金属層であり、
前記第2の層は、樹脂層であり、
前記第2のエネルギは、前記第1のエネルギよりも小さい、
レーザ加工装置。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載のレーザ加工装置において、
前記第1のレーザ偏向部は、音響光学素子から構成される、
レーザ加工装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加工するために必要なエネルギが異なる層を含む基板、例えば表面が銅層の如き金属層、その下に樹脂層が積層された基板の複数位置にレーザを使用して穴あけを行う場合に好適なレーザ加工装置及びレーザ加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
図8は加工するために必要なエネルギが異なる層を含む基板の例を示すもので、基板表面が銅層81、その下に樹脂層82が積層された基板の断面図である。84は樹脂層82の下に積層された銅層である。加工するために必要なエネルギは銅層の方が樹脂層よりも大きい。
この基板1の複数位置で、レーザを使用して銅層81と樹脂層82を加工し止まり穴(ブラインドホール)83をあける方法として、従来、以下のような方法がある。図7はその加工経過を説明するためのタイミングチャートである。
【0003】
すなわち、レーザとしては銅に対して吸収率のよいUVレーザを用い、一つの穴位置において、第1段階として主に銅層81の加工が行われる。この加工においては、レーザビームの直径を小さくすることによりレーザパルスのエネルギ密度を高くしてガルバノスキャナの如き機械的なレーザ偏向機構(図示せず)により、例えば渦巻状(螺旋状)の所定の軌道に沿う複数箇所への照射を連続して行う(以下、一つの穴位置の所定の軌道に沿う複数箇所へ連続して照射を行って加工することをトレパニング加工と呼ぶ)。図8(b)は第1段階のトレパニング加工後の状態を示している。
なお、第1段階のトレパニング加工においては、通常は樹脂層82の銅層81側が若干加工される。
【0004】
他の穴位置の銅層81についても、上記レーザ偏向機構や同じく機械的なテーブル駆動機構の動作を行って同様なトレパニング加工を行ない、これが終わったら、基板とレーザ偏向機構等を実装するレーザ照射機構(図示せず)の間隔を機械的に変えることにより、焦点位置を変更してレーザビームの直径を大きくすることによりレーザパルスのエネルギ密度が低くなるようにする。
そして、上記レーザ偏向機構やテーブル駆動機構の動作を行って、第2段階としてトレパニング加工済みの穴位置に1回あるいは同一箇所へ複数回の照射を行う(以下、一つの穴位置において1回あるいは同一箇所へ複数への照射を行って加工することをパンチング加工と呼ぶ)。
【0005】
この第2段階のパンチング加工においては、主に樹脂層82の加工が行なわれる。図8(c)は第2段階のパンチング加工後の状態を示している。
止まり穴83は銅層84の手前までの深さとなっており、第2段階のパンチング加工におけるレーザパルスのエネルギ密度は、銅層84に損傷をできるだけ与えないように調整されている。他の穴位置についても上記レーザ偏向機構や同じく機械的なテーブル駆動機構の駆動動作を行って同様なパンチング加工を行ない、穴あけ動作は終了する。
【0006】
上記の如き従来技術においては、第1段階での銅層81のトレパニング加工では、一つの穴位置において、機械的なレーザ偏向機構によりレーザパルスに渦巻状の所定の軌道に沿う複数箇所へ照射を行うので時間がかかり、さらに、第2段階での樹脂層82の加工では、第1段階と同じ加工位置にパンチング加工を行うために、機械的なレーザ偏向機構やテーブル駆動機構の駆動動作が再度必要であり、加工時間が長くなる欠点がある。
特許文献1の段落0037~0038には、基板表面が銅層、その下に樹脂層が積層された基板に止まり穴をあける場合、第1段階での銅層のトレパニング加工と第2段階での樹脂層のパンチング加工を行う上記の如き従来技術が開示されている。
【0007】
また特許文献2の段落0004~0005には、基板表面が導体層、その下に絶縁層が積層された基板に止まり穴をあける場合、ガルバノスキャナの如き機械的なレーザ偏向機構を使用してトレパニング加工のみで行う技術が開示されている。
この特許文献2の技術においては、機械的なレーザ偏向動作によるトレパニング加工なので、加工時間が長くなる欠点がある。さらに段落0007には、絶縁層を加工する場合には照射エネルギを下げるとしているが、照射エネルギを具体的にどのようにして下げるかの開示がない。
【0008】
また特許文献3の段落0044~0049には、トレパニング加工を高速に行う方式として、ガルバノスキャナの如き機械的なレーザ偏向機構の前段に高速偏向動作が可能な音響光学素子(以下AODと略す)を配置し、AODの偏向動作を制御して所定の軌道に沿う複数箇所への照射を連続して行うようにする技術が開示されている。
この特許文献3の技術においては、加工するために必要なエネルギが異なる層を含む基板を加工する場合、それぞれの層を加工する場合のエネルギをどのように調整するかについての言及がなく、このままでは加工品質を確保できない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】国際公開第2016/185614号
【文献】特開2003-48088号公報
【文献】特開2003-136270号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
そこで本発明は、加工するために必要なエネルギが異なる層を含む基板の複数位置にレーザを使用してトレパニング加工により穴あけを行う場合に、制御を容易にして、加工時間を短縮するとともに加工品質を確保することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため、本願において開示される発明のうち、代表的なレーザ加工装置は、レーザパルスを発振させるレーザ発振器と、当該レーザ発振器から出射された前記レーザパルスを2次元方向に偏向する第1のレーザ偏向部と、当該第1のレーザ偏向部から出射されたレーザパルスを前記2次元方向と同じ平面での2次元方向に偏向する第2のレーザ偏向部であって前記第1のレーザ偏向部よりも動作が遅いものと、前記レーザ発振器の動作を制御するレーザ発振制御部と、前記第1のレーザ偏向部の動作を制御する第1のレーザ偏向制御部と、前記第2のレーザ偏向部の動作を制御する第2のレーザ偏向制御部とを有し、前記第2のレーザ偏向部から出射されたレーザパルスを基板に照射して当該基板における複数の加工位置を加工する。そして前記第1のレーザ偏向制御部は、前記加工位置の各々において所定の軌道に沿う複数箇所に順次連続してレーザパルスを照射するように前記第1のレーザ偏向部を制御し、また前記所定の軌道での照射を繰返す途中で前記第1のレーザ偏向部から出射するレーザパルスのエネルギが変化するように前記第1のレーザ偏向部を制御し、前記加工位置の各々において前記複数箇所への連続照射により加工を完了させることを特徴とする。
【0012】
また本願において開示される代表的なレーザ加工方法は、第1のレーザ偏向部によりレーザ発振器から出射されたレーザパルスを2次元方向に偏向し、前記第1のレーザ偏向部よりも動作が遅い第2のレーザ偏向部により前記第1のレーザ偏向部から出射されたレーザパルスを前記2次元方向と同じ平面での2次元方向に偏向し、前記第2のレーザ偏向部から出射されたレーザパルスを基板に照射して当該基板における複数の加工位置を加工する。そして前記第1のレーザ偏向部により前記加工位置の各々において所定の軌道に沿う複数箇所に順次連続してレーザパルスを照射し、また前記所定の軌道での照射を繰返す途中で前記第1のレーザ偏向部から出射するレーザパルスのエネルギを変化させ、前記加工位置の各々において前記複数箇所への連続照射により加工を完了させることを特徴とする。
【0013】
なお、本願において開示される発明の代表的な特徴は以上の通りであるが、ここで説明していない特徴については、以下に説明する実施例に適用されており、また特許請求の範囲にも示した通りである。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、加工するために必要なエネルギが異なる層を含む基板の複数位置にレーザを使用してトレパニング加工により穴あけを行う場合に、制御を容易にして、加工時間を短縮するとともに加工品質を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の一実施例となるレーザ加工装置のブロック図である。
図2図1のレーザ加工装置におけるガルバノ偏向部とAOD偏向部の役割を説明するための図である。
図3図1のレーザ加工装置におけるRF信号の例を示す図である。
図4図1のレーザ加工装置における制御テーブルの内容を示す図である。
図5図1のレーザ加工装置における制御テーブルの内容を示す図である。
図6】本発明の一実施例となるレーザ加工装置における加工経過を説明するためのタイミングチャートである。
図7】従来のレーザ加工方法における加工経過を説明するためのタイミングチャートである。
図8】本発明の一実施例となるレーザ加工装置により加工する基板の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【実施例
【0016】
以下、本発明の実施の形態について図面を用いて説明する。
図1は、本発明の実施例となるレーザ加工装置のブロック図である。各構成要素や接続線は、主に本実施例を説明するために必要と考えられるものを示してあり、レーザ加工装置として必要な全てを示している訳ではない。
【0017】
ここで説明するレーザ加工装置は、図8に示したように、表面が銅層81、その直下に樹脂層82が積層された基板1の複数箇所に止まり穴83をあけるものである。
図1において、2は加工すべき基板1が載置されるテーブル、3はテーブル2を駆動するためのテーブル駆動部で、テーブル2を基板1の上から見て互いの直角となる2次元方向に移動させるものである。4はUVレーザの波長をもつレーザパルスL1を発振するレーザ発振器、5はレーザ発振器4から出射されたレーザパルスL1を反射するビームスプリッタ、6はビームスプリッタ5で反射されたレーザパルスL1を基板1の上から見て互いの直角となる2次元方向にAODを用いて偏向させるAOD偏向部(第1のレーザ偏向部)である。
【0018】
7はAOD偏向部6において加工方向へ偏向されず透過したレーザパルスL3を吸収するダンパ、8はAOD偏向部6において加工方向へ偏向されたレーザパルスL2を基板1の上から見て互いの直角となる2次元方向にガルバノスキャナを用いて偏向させるガルバノ偏向部(第2のレーザ偏向部)、9はガルバノ偏向部8からのレーザパルスL4をプリント基板の穴あけ位置に照射する集光レンズである。
AOD偏向部6とガルバノ偏向部8の各々での2次元方向への偏向は、基板1における同じ平面内で行われるようになっている。
【0019】
なお本実施例では、テーブル駆動部3、AOD偏向部6及びガルバノ偏向部8の各々における2次元方向は、以下の説明で判るが、同じ方向になるように設定しておくものとする。このことは必ずしも必須ではないが、この方が制御上は好ましい。
AOD偏向部6とガルバノ偏向部8の偏向範囲を比較すると、後者の方が圧倒的に広く、両者の動作速度を比較すると前者の方が圧倒的に早い。
以上の如きレーザ光学系は、例えば上記特許文献3(特開2003-136270号公報)に開示されている。
【0020】
16はAOD偏向部6、ダンパ7、ガルバノ偏向部8及び集光レンズ9が実装されたレーザ照射ユニットである。テーブル駆動部3によりテーブル2を図の紙面に対して左右方向(以下、X方向とする)と垂直方向(以下、Y方向とする)に移動させることにより基板1とレーザ照射ユニット16との相対移動を行い、さらにAOD偏向部6とガルバノ偏向部8の各々においてX方向とY方向にレーザパルスを偏向させることにより、基板1の必要な穴あけ位置に照射できるようになっている。
テーブル駆動部3、AOD偏向部6及びガルバノ偏向部8の各々には、X方向への移動(偏向)を行う系とY方向への移動(偏向)を行う系の両方が設けられている。
【0021】
AOD偏向部6とガルバノ偏向部8による偏向領域は、テーブル2を移動させることにより変えていくようになっている。
AOD偏向部6は機械的動作を伴わないので動作速度が速いが偏向範囲は小さく、従って、ガルバノ偏向部8は、レーザパルスを基板1の中の特定座標に位置決めするのに用い、AOD偏向部6は当該特定座標を中心としたX方向、Y方向の周辺領域に高速に位置決めするのに用いる。
特定座標と周辺位置との関係を図2に示す。図2において、20は特定座標を示し、21は特定座標20の周辺となる周辺領域を示す。
【0022】
トレパニング加工する場合のレーザパルスは、特定座標20にはガルバノ偏向部8により、トレパニング加工領域が含まれる周辺領域21内にはAOD偏向部6で位置決めされる。なお、特定座標20への位置決めは、ガルバノ偏向部8だけでなく、AOD偏向部6やテーブル駆動部3も協働させるようにしてもよい。
【0023】
図1に戻るが、10は装置全体の動作を制御するための全体制御部であり、例えばプログラム制御の処理装置を中心にして構成され、その中の各構成要素や接続線は、論理的なものも含むものとする。また各構成要素の一部はこれと別個に設けられていてもよい。また、全体制御部10はここで説明するもの以外の制御機能を有し、図示されていないブロックにも接続されているものとする。
【0024】
全体制御部10の内部には、レーザ発振器4でのレーザパルスL1の発振と減衰を指令するためのレーザ発振指令信号Sを出力するレーザ発振制御部11、テーブル駆動部3を制御するためのテーブル駆動信号Tを出力するテーブル駆動制御部12、AOD偏向部6を制御するための制御情報を登録しておく制御テーブル13、制御テーブル13の内容に従ってAOD偏向部6を制御するためのAOD駆動信号Dを出力するAOD制御部(第1のレーザ偏向制御部)14、ガルバノ偏向部8を制御するためのガルバノ制御信号Gを出力するガルバノ制御部(第2のレーザ偏向制御部)15が設けられている。
AOD制御部14とガルバノ制御部15は、それぞれX系とY系の二つのAOD偏向部6、ガルバノ偏向部8を制御する。制御テーブル13は一つしか図示していないが、X系とY系の二つ設けられている。
【0025】
AOD制御部14から出力されるAOD駆動信号DはRF信号から成り、AOD偏向部6の偏向角はこのRF信号の周波数によって変化させ、また出射エネルギはこのRF信号の振幅レベルによって変化させる。
図3にAOD駆動信号Dの例を示すが、AOD駆動信号Da、Dbの周波数はそれぞれfa、fb、振幅はAa、Abである。周波数fbはfaよりも高く、振幅AbはAaよりも大きい。
AOD駆動信号Dbが印加された時は、AOD駆動信号Daが印加された時よりもAOD偏向部6での偏向角度と出射エネルギが大きくなる。
【0026】
制御テーブル13には、AOD偏向部6に与えるRF信号の周波数毎に、その時与える振幅を決定するためのデータが登録されている。
そして本発明に基づくと、制御テーブル13には、AOD偏向部6に与えるRF信号の周波数毎に2種類の振幅を決定するためのデータが登録されている。
すなわち、X系の制御テーブル13Xには、図4に示すように、AOD偏向部6に与えるRF信号の周波数fx1、fx2、fx3・・・毎に、銅層81を加工する場合は振幅C-Ax1、C-Ax2、C-Ax3・・・、樹脂層82を加工する場合は振幅P-Ax1、P-Ax2、P-Ax3・・・を決定するためのデータが登録されている。
【0027】
またY系の制御テーブル13Yには、図5に示すように、AOD偏向部に与えるRF信号の周波数fy1、fy2、fy3・・・毎に、銅層81を加工する場合は振幅C-Ay1、C-Ay2、C-Ay3・・・、樹脂層82を加工する場合は振幅P-Ay1、P-Ay2、P-Ay3・・・を決定するためのデータが登録されている。
なお、ここでの制御テーブル13X、13Yの内容はデータ相互の論理的関係を説明するためのものであり、例えば制御テーブル13Xでの場合、RF信号の周波数fy1、fy2、fy3・・・の各々毎にX方向の位置x1、x2、x3・・・を示すデータが必ずしも登録されている訳ではない。
【0028】
銅層81を加工する場合のRF信号の振幅は、AOD偏向部6からの出射エネルギーが銅層81の加工に適合するようにし、樹脂層82を加工する場合のRF信号の振幅は、銅層81を加工する場合のRF信号の振幅より低くして、AOD偏向部6からの出射エネルギーが樹脂層82の加工に適合するようになっている。
ところで、例えば特開2008-36667号公報に開示されているように、AOD偏向部6はRF信号の周波数によって出射エネルギーが変動するので、RF信号の周波数の大小にかかわらず所定の出射エネルギーが得られるようにRF信号の振幅を補正する必要がある。
上記の制御テーブル13X、13Yに登録されている銅層81と樹脂層82の加工用のRF信号の振幅は、上記補正後の振幅をベースにしてさらに調整されたものであり、実験データそのものやそれに計算式を組み入れて求められたものである。
【0029】
以上のレーザ加工装置は、図8に示す基板1の複数箇所に止まり穴をあける場合、各加工位置での加工をトレパニング加工だけで完結するものであり、以下のように動作する。図6はその加工経過を説明するためのタイミングチャートである。
全体制御部10の制御の下で、ガルバノ偏向部8、あるいはガルバノ偏向部8とAOD偏向部6との協働、あるいはガルバノ偏向部8とAOD偏向部6とテーブル駆動部3との協働により、レーザ照射位置を基板1の図2に示す一つの特定座標20に位置決めするとともに、以下のようにAOD偏向部6を制御し、図2に示す周辺領域21において所定の渦巻状の軌道を描かせるように複数箇所への照射を連続して行う。
【0030】
先ず最初の段階として、AOD制御部14は制御テーブル13から銅層用振幅を決定するためのデータを使用してAOD偏向部6を制御し、所定の渦巻状の軌道に沿っての連続照射を1回あるいは複数回行う。この場合、同じ軌道で複数回繰返す場合には、レーザ照射が同じ位置に周期的に複数回行われることになる。
ここでは主に銅層81の加工が行われ、このトレパニング加工後の状態は図8(b)のようになる。
【0031】
そして次の段階として、AOD制御部14は制御テーブル13から樹脂層用振幅を決定するためのデータを使用してAOD偏向部6を制御するように切替え、新たに所定の渦巻状の軌道に沿っての連続照射を1回あるいは複数回、上記と同様に行う。この場合も、上記と同様、同じ軌道で複数回繰返す場合には、レーザ照射が同じ位置に周期的に複数回行われることになる。
従って、ここではAOD偏向部6からの出射エネルギは銅層81の加工を行った時よりも低くなって主に樹脂層82の加工が行われ、この後の状態は図8(c)のようになり、一つの穴あけ位置の加工が完了する。
この後、ガルバノ偏向部8、あるいはガルバノ偏向部8とAOD偏向部6との協働、あるいはガルバノ偏向部8とAOD偏向部6とテーブル駆動部3との協働により、レーザ照射位置を別の位置にある特定座標20へ位置決めするとともに、上記と同様にトレパニング加工を行う。
【0032】
以上の実施例によれば、基板表面が銅層81、その直下に樹脂層82が積層された図8に示した基板1の複数位置に穴あけを行う場合、銅層81のトレパニング加工に続けて樹脂層82をトレパニング加工できるので、従来行っていた、樹脂層82を後からパンチング加工するための機械的なレーザ偏向機構やテーブル駆動機構の再度の駆動動作は不要となる。
しかも銅層81と樹脂層82のトレパニング加工は、機械的動作を伴わない動作速度の速いAOD偏向部6を用いて行うので、加工時間を大幅に短縮することができる。
【0033】
また、樹脂層82を加工する場合には銅層81を加工する場合よりも加工エネルギーを小さくするので、樹脂層82の下にある銅層84に損傷を与えるようなことがなくなる。従って、加工品質を確保することができる。
さらに、樹脂層82を加工する場合には照射エネルギを低くするが、レーザ発振器4からの出射エネルギは変える必要はない。すなわち、AOD偏向部6の偏向動作を制御するための制御テーブル13X、13Yに登録しておくRF信号の振幅情報を調整しておくだけで照射エネルギを変化させることができる。
照射エネルギを変化させるのに、レーザ発振器4自身からの出射エネルギーを制御することが考えられるが、この方法ではレーザ発振器4とAOD偏向部6の両方を制御する必要がある。上記実施例によれば、AOD偏向部6だけ制御すればよいので、調整部位や制御部位が少なくなり、制御が容易となり装置設計がやりやすくなる。
また、レーザ発振器4の発振状態を一定に保つことができるので、レーザの安定性を高め、加工品質を向上させることができる。
【0034】
以上、実施の形態に基づき本発明を具体的に説明したが、本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることはいうまでもなく、様々な変形例が含まれる。
【0035】
例えば、以上の実施例においては、渦巻状の所定の軌道に沿ってのトレパニング加工を行う場合であるが、所定の軌道は必ずしも渦巻状にする必要はなく、同心円状や矩形状にする等の方法もある。
また、所定の軌道を複数回繰返す場合、必ずしも前回の軌道と同じである必要はない。また、銅層81を加工する場合と樹脂層82を加工する場合とで軌道を変更させてもよい。要は軌道の経路が予め定められていればよい。
また、基板1の構成材料に応じて所定の軌道を複数回繰返す場合、構成材料の種類、レーザパルスのエネルギやビームスポット径の大きさによっては、所定の軌道の繰返し回数は必ずしも整数である必要はなく、軌道の途中で終了させてもよい。
【0036】
さらに、図8に示すように、樹脂層82の下に銅層84が積層された3層の基板1に止まり穴83をあける場合を説明したが、銅層84がない2層の基板に貫通穴をあける場合でもよい。また、加工するために必要なエネルギが高い方の層を銅層、低い方を樹脂層としたが、それぞれ他の材料であってもよい。さらには、もっと多くの層が積層された基板であってもよい。
【符号の説明】
【0037】
1:基板、2:テーブル、3:テーブル駆動部、4:レーザ発振器、
6:AOD偏向部、8:ガルバノ偏向部、9:集光レンズ、10:全体制御部、
11:レーザ発振制御部、12:テーブル駆動制御部、
13X、13Y:制御テーブル、14:AOD制御部、15:ガルバノ制御部、
16:レーザ照射ユニット、81、84:銅層 82:樹脂層、83:止まり穴
L1~L4:レーザパルス
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8