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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-15
(45)【発行日】2023-12-25
(54)【発明の名称】蓄電池制御装置、方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/48 20060101AFI20231218BHJP
   H02J 7/00 20060101ALI20231218BHJP
   H01M 10/42 20060101ALI20231218BHJP
   G01R 31/392 20190101ALI20231218BHJP
   G01R 31/396 20190101ALI20231218BHJP
【FI】
H01M10/48 P
H02J7/00 Y
H01M10/42 P
H01M10/48 301
G01R31/392
G01R31/396
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2019220673
(22)【出願日】2019-12-05
(65)【公開番号】P2021089871
(43)【公開日】2021-06-10
【審査請求日】2022-08-03
(73)【特許権者】
【識別番号】598076591
【氏名又は名称】東芝インフラシステムズ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】近藤 敦美
(72)【発明者】
【氏名】唐澤 基也
(72)【発明者】
【氏名】山崎 修
【審査官】岩井 一央
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-325324(JP,A)
【文献】特開2018-057220(JP,A)
【文献】特開2019-152636(JP,A)
【文献】特開2001-051680(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 31/36-31/44
H01M 10/42-10/48
H02J 7/00-7/12
H02J 7/34-7/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の電池セルを備えた複数のセルモジュールと、前記セルモジュールにおいて異常状態あるいは前記異常状態に到る虞がある予兆状態を検出する検出部と、検出された異常状態あるいは予兆状態の種類毎に発生回数を計数する計数部と、前記発生回数の計数値に基づいて、前記セルモジュールあるいは蓄電池装置の劣化状態を判断する判断部と、を備えた蓄電池装置から前記電池セルの温度データを受信する受信部と、
受信した前記温度データを同一の測定タイミングとみなす測定タイミング毎にソートして温度順に並び替える並び替え部と、
最も温度が高い温度データと、次に温度が高い温度データとの差が所定の第1しきい値温度より大きい場合に前記最も温度が高い温度データを除外し、最も温度が低い温度データと、次に温度が低い温度データとの差が所定の第2しきい値温度より大きい場合に前記最も温度が低い温度データを除外する処理を繰り返し行うとともに、温度変化履歴を参照して、処理対象の温度データの変化が温度データ全体の温度変化傾向に沿っていない場合に当該処理対象の温度データを除外して処理を行う処理部と、
を備えた蓄電池制御装置。
【請求項2】
複数の電池セルを備えた複数のセルモジュールと、前記セルモジュールにおいて異常状態あるいは前記異常状態に到る虞がある予兆状態を検出する検出部と、検出された異常状態あるいは予兆状態の種類毎に発生回数を計数する計数部と、前記発生回数の計数値に基づいて、前記セルモジュールあるいは蓄電池装置の劣化状態を判断する判断部と、を備えた蓄電池装置から前記電池セルの温度データを受信する受信部と、
温度変化履歴を参照して、処理対象の温度データの変化が温度データ全体の温度変化傾向に沿っていない場合に当該処理対象の温度データが異常であると判定する判定部と、
前記判定部により異常と判定された温度データを除外して処理を行う処理部と、
を備えた蓄電池制御装置。
【請求項3】
前記異常状態は、過温度状態である、
請求項1又は請求項2記載の蓄電池制御装置。
【請求項4】
前記予兆状態は、前記過温度状態よりも所定温度範囲内で温度が低い高温度状態である、
請求項3記載の蓄電池制御装置。
【請求項5】
複数の電池セルを備えた複数のセルモジュールと、前記セルモジュールにおいて異常状態あるいは前記異常状態に到る虞がある予兆状態を検出する検出部と、検出された異常状態あるいは予兆状態の種類毎に発生回数を計数する計数部と、前記発生回数の計数値に基づいて、前記セルモジュールあるいは蓄電池装置の劣化状態を判断する判断部と、を備えた蓄電池装置から前記電池セルの温度データを受信して処理を行う蓄電池制御装置で実行される方法であって、
前記蓄電池装置から前記電池セルの温度データを受信する過程と、
受信した前記温度データを同一の測定タイミングとみなす測定タイミング毎にソートして温度順に並び替える過程と、
最も温度が高い温度データと、次に温度が高い温度データとの差が所定の第1しきい値温度より大きい場合に前記最も温度が高い温度データを除外し、最も温度が低い温度データと、次に温度が低い温度データとの差が所定の第2しきい値温度より大きい場合に前記最も温度が低い温度データを除外する処理を繰り返し行う過程と、
温度変化履歴を参照して、処理対象の温度データの変化が温度データ全体の温度変化傾向に沿っていない場合に当該処理対象の温度データを除外して処理を行う過程と、
を備えた方法。
【請求項6】
前記異常状態は、過温度状態である、
請求項5記載の方法。
【請求項7】
前記予兆状態は、前記過温度状態よりも所定温度範囲内で温度が低い高温度状態である、
請求項6記載の方法。
【請求項8】
複数の電池セルを備えた複数のセルモジュールと、前記セルモジュールにおいて異常状態あるいは前記異常状態に到る虞がある予兆状態を検出する検出部と、検出された異常状態あるいは予兆状態の種類毎に発生回数を計数する計数部と、前記発生回数の計数値に基づいて、前記セルモジュールあるいは蓄電池装置の劣化状態を判断する判断部と、を備えた蓄電池装置から前記電池セルの温度データを受信して処理を行う蓄電池制御装置をコンピュータにより制御するためのプログラムであって、
前記コンピュータを
前記蓄電池装置から前記電池セルの温度データを受信する手段と、
受信した前記温度データを同一の測定タイミングとみなす測定タイミング毎にソートして温度順に並び替える手段と、
最も温度が高い温度データと、次に温度が高い温度データとの差が所定の第1しきい値温度より大きい場合に前記最も温度が高い温度データを除外し、最も温度が低い温度データと、次に温度が低い温度データとの差が所定の第2しきい値温度より大きい場合に前記最も温度が低い温度データを除外する処理を繰り返し行う手段と、
温度変化履歴を参照して、処理対象の温度データの変化が温度データ全体の温度変化傾向に沿っていない場合に当該処理対象の温度データを除外して処理を行う手段と、
して機能させるプログラム。
【請求項9】
前記異常状態は、過温度状態である、
請求項8記載のプログラム。
【請求項10】
前記予兆状態は、前記過温度状態よりも所定温度範囲内で温度が低い高温度状態である、
請求項9記載のプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、蓄電池制御装置、方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、リチウムイオン二次電池等の蓄電池技術の進歩により、大規模電力蓄積システムへの蓄電池の利用が検討されている。
【0003】
リチウムイオン二次電池を例に考えると、単セルの蓄電容量は概ね100Wh程度である。したがって、MWhオーダーの蓄電池装置を実現するには、数千個乃至数万個オーダーのセルを直列および並列に並べ、所望の電圧及び電流容量を有する蓄電池装置を構成する必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平11-003486号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、蓄電池装置の保護の観点から、監視すべき蓄電池装置の電圧状態として、過充電、充電末、放電末、過放電等の状態が存在する。
また、蓄電池装置の保護の観点から、監視すべき蓄電池装置の温度状態として過温度、高温度の状態が存在する。
これらの状態に到る可能性は、蓄電池装置が劣化するに従って内部抵抗値が増加することから高くなる。
特に鉄道車両に蓄電池装置を搭載するような場合には、内部抵抗の上昇が容量減少よりも顕著に現れるため、寿命末期に内部抵抗が上昇して、容易にこれらの状態に移行する虞があった。
【0006】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、早期に蓄電池装置の劣化状態を把握し、劣化診断を行うことが可能な蓄電池制御装置、方法及びプログラムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
実施形態の蓄電池制御装置は、複数の電池セルを備えた複数のセルモジュールと、前記セルモジュールにおいて異常状態あるいは前記異常状態に到る虞がある予兆状態を検出する検出部と、検出された異常状態あるいは予兆状態の種類毎に発生回数を計数する計数部と、前記発生回数の計数値に基づいて、前記セルモジュールあるいは蓄電池装置の劣化状態を判断する判断部と、を備えた蓄電池装置から前記電池セルの温度データを受信する受信部と、受信した前記温度データを同一の測定タイミングとみなす測定タイミング毎にソートして温度順に並び替える並び替え部と、最も温度が高い温度データと、次に温度が高い温度データとの差が所定の第1しきい値温度より大きい場合に前記最も温度が高い温度データを除外し、最も温度が低い温度データと、次に温度が低い温度データとの差が所定の第2しきい値温度より大きい場合に前記最も温度が低い温度データを除外する処理を繰り返し行うとともに、温度変化履歴を参照して、処理対象の温度データの変化が温度データ全体の温度変化傾向に沿っていない場合に当該処理対象の温度データを除外して処理を行う処理部と、を備える。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、実施形態の蓄電池装置を備えた蓄電池システムの概要構成ブロック図である。
図2図2は、電池セルの温度と、異常状態及び予兆状態と、の関係説明図である。
図3図3は、電池セルの電圧と、異常状態及び異常状態及び予兆状態と、の関係説明図である。
図4図4は、従来の問題点の説明図である。
図5図5は、電池セル温度と、異常状態あるいは予兆状態の発生回数と、季節、すなわち、環境温度との関係を説明する図である。
図6図6は、電池セル電圧と、異常状態あるいは予兆状態の発生回数と、季節、すなわち、環境温度との関係を説明する図である。
図7図7は、第2実施形態の動作説明図である。
図8図8は、蓄電池制御装置として機能する装置の動作説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
次に図面を参照して、実施形態の蓄電池装置について詳細に説明する。
図1は、実施形態の蓄電池装置を備えた蓄電池システムの概要構成ブロック図である。
蓄電池システム10は、大別すると、電力を蓄える蓄電池装置11と、蓄電池装置11から供給された直流電力を所望の電力品質を有する交流電力に変換して負荷に供給する電力変換装置(PCS:Power Conditioning System)12と、を備えている。
【0010】
蓄電池装置11は、大別すると、複数の電池盤21-1~21-N(Nは自然数)と、電池盤21-1~21-Nが接続された電池端子盤22と、を備えている。
電池盤21-1~21-Nは、互いに並列に接続された複数の電池ユニット23-1~23-M(Mは自然数)と、ゲートウェイ装置24と、後述のBMU(Battery Management Unit:電池管理装置)及びCMU(Cell Monitoring Unit:セル監視装置)に動作用の直流電源を供給する直流電源装置25と、を備えている。
【0011】
ここで、電池ユニットの構成について説明する。
電池ユニット23-1~23-Mは、それぞれ、高電位側電源供給ライン(高電位側電源供給線)LH及び低電位側電源供給ライン(低電位側電源供給線)LLを介して、出力電源ライン(出力電源線;母線)LHO、LLOに接続され、主回路である電力変換装置12に電力を供給している。
【0012】
電池ユニット23-1~23-Mは、同一構成であるので、電池ユニット23-1を例として説明する。
電池ユニット23-1は、大別すると、複数(図1では、24個)のセルモジュール31-1~31-24と、セルモジュール31-1~31-24にそれぞれ設けられた複数(図2では、24個)のCMU32-1~32-24と、サービスディスコネクト33と、電流センサ34と、コンタクタ35と、ヒューズ37と、電流センサ38と、を備え、複数のセルモジュール31-1~31-24、サービスディスコネクト33、電流センサ34及びコンタクタ35は、直列に接続されている。
【0013】
ここで、セルモジュール31-1~31-24は、電池セルを複数、直並列に接続されて組電池を構成している。そして、複数の直列接続されたセルモジュール31-1~31-24で組電池群を構成している。
【0014】
さらに電池ユニット23-1は、BMU36を備え、各CMU32-1~32-24の通信ライン、電流センサ34の出力ラインは、BMU36に接続されている。
BMU36は、ゲートウェイ装置24の制御下で、電池ユニット23-1全体を制御し、各CMU32-1~32-24との通信結果(後述する電圧データ及び温度データ)及び電流センサ34の検出結果に基づいてコンタクタ35の開閉制御を行う。
【0015】
次に電池端子盤の構成について説明する。
電池端子盤22は、電池盤21-1~21-Nに対応させて設けられた複数の盤遮断器41-1~41-Nと、蓄電池装置11全体を制御するマイクロコンピュータとして構成されたマスタ(Master)装置42と、を備えている。
【0016】
マスタ装置42には、電力変換装置12との間に、電力変換装置12のUPS(Uninterruptible Power System)12Aを介して供給される制御電源線51と、イーサネット(登録商標)として構成され、制御データのやりとりを行う制御通信線52と、が接続されている。
【0017】
さらにマスタ装置42のメモリ42MあるいはPCS12のメモリ12Mは、各種データを記憶する記憶部として機能している。
【0018】
次に実施形態の原理について説明する。
図2は、電池セルの温度と、異常状態及び予兆状態と、の関係説明図である。
蓄電池装置の保護の観点から、監視すべき蓄電池装置の温度状態(異常状態)として過温度状態が存在する。
過温度状態とは、製造者等が安全の観点から設定する動作温度の最高温度であるしきい値温度Tth2を電池セルの温度が超えている状態である。
【0019】
さらに蓄電池装置の保護の観点から、監視するのが好ましい蓄電池装置の温度状態(異常状態に到る虞が高い予兆状態)として、高温度の状態が存在する。
高温度状態とは、製造者等が安全の観点から設定する動作温度の最高温度であるしきい値温度Tth1に電池セルの温度がなっている状態である。
なお、温度及び安全の観点から低温側で異常状態、予兆状態はあまり考慮する必要がない。
【0020】
図3は、電池セルの電圧と、異常状態及び異常状態及び予兆状態と、の関係説明図である。
また、蓄電池装置の保護の観点から、監視すべき蓄電池装置の電圧状態(異常状態)として、過充電状態、充電末状態、放電末状態、過放電状態の状態が存在する。
【0021】
過充電状態とは、電池セルの製造者等が安全の観点から設定する動作電圧を超えた電圧(充電電圧)であるしきい値電圧VthH3に電池セルの電圧がなっている状態である。
充電末状態とは、製造者等が安全の観点から設定する動作電圧の最大電圧(充電電圧)であるしきい値電圧VthH2に電池セルの電圧がなっている状態である。
【0022】
放電末状態とは、製造者等が安全の観点から設定する動作電圧の最小電圧(放電電圧)であるしきい値電圧VthL2に電池セルの電圧がなっている状態である。
また過放電状態とは、電池セルの製造者等が安全の観点から設定する動作電圧未満のた電圧(放電電圧)であるしきい値電圧VthL3に電池セルの電圧がなっている状態である。
【0023】
さらに蓄電池装置の保護の観点から、監視するのが好ましい蓄電池装置の電圧状態(異常状態に到る虞が高い予兆状態)として、充電末近傍の電圧状態及び放電末近傍の電圧状態が挙げられる。
充電末近傍の電圧状態とは、放電末電圧よりは低いものの、放電末電圧であるしきい値電圧VthL2よりも所定値範囲内で電圧が低い状態である。すなわち、電圧がしきい値電圧VthH1よりも高く、しきい値電圧VthH2よりも低い状態である。
放電末近傍の電圧状態とは、放電末状態の電圧よりも所定値範囲内で電圧が高い状態である。すなわち、電圧がしきい値電圧VthL2よりも高く、しきい値電圧VthL1よりも低い状態である。
【0024】
ところで、いずれの異常状態及び予兆状態においても、電池の劣化が進んでくるとその頻度が高くなることが分かっており、電池の劣化の進行に伴って、指数関数的にそれらの発生頻度が高くなっている(図5(c)、図6(c)参照)。
【0025】
図4は、従来の問題点の説明図である。
これらの結果、充電の場合には、初期状態(BOL)において、環境温度25℃におけるSOC90%の状態からの充電曲線は、図4中、右側上部に破線で示すように、充電電力0から、所要最大充電電力の範囲のいずれにおいても上限電圧であるしきい値電圧VthH2に到ることはない。
これに対し、寿命末期状態(EOL)においては、環境温度25℃におけるSOC90%の状態からの充電曲線は、図4中、右側上部に実線で示すように、所要最大充電電力の60%程度の状態で、上限電圧であるしきい値電圧VthH2を超え、これ以上充電が行えないため、実効的な放電可能電力量が少なくなる。
一方、放電の場合には、初期状態(BOL)において、環境温度25℃におけるSOC15%の状態からの放電曲線は、図4中、左側下部に破線で示すように、放電開始から、所要最大放電電力範囲のいずれにおいても下限電圧であるしきい値電圧VthL2に到ることはない。
これに対し、寿命末期状態(EOL)においては、環境温度25℃におけるSOC15%の状態からの放電曲線は、図4中、左側下部に実線で示すように、所要最大放電電力の60%程度の状態で、下限電圧であるしきい値電圧VthL2を下回り、これ以上放電が行えないため、実効的な充電可能電力量が少なくなる。
【0026】
図5は、電池セル温度と、異常状態あるいは予兆状態の発生回数と、季節、すなわち、環境温度との関係を説明する図である。
図5(A)及び図5(B)において、縦軸は、異常状態あるいは予兆状態の発生回数である。また横軸は、季節(時間)である。
なお、図5(A)及び図5(B)は、概念図であり、実際には、予兆状態の発生回数の方が、異常状態の発生回数よりは多くなっているが、その傾向は同様となっている。
図5(A)に示すように、初期状態(BOL)の電池セルの温度は、環境温度Tcが高い、夏~初秋にかけて異常状態あるいは予兆状態の発生回数が他の季節と比較して増加しているのがわかるが、その頻度はさほど高くはない。
これに対し、図5(B)示すように、寿命末期状態(EOL)においては、春の終わり頃には、既に異常状態あるいは予兆状態の発生回数が他の季節と比較して増加するとともに、初期状態と比較して長い期間、発生回数も多くなっていることが分かる。
【0027】
図5(C)は、電池の寿命と、異常状態あるいは予兆状態の発生回数と、の関係を説明する図である。
図5(C)に示すように、初期状態(BOL)から寿命末期状態(EOL)に向けて指数関数的に異常状態あるいは予兆状態の発生回数が増加していることが分かる。
【0028】
なお、図5(C)は、概念図であり、実際には、予兆状態の発生回数の方が、異常状態の発生回数よりは多くなっているが、その増加傾向は同様となっている。
【0029】
従って、異常状態発生回数及び予兆状態の発生回数を計数し、予め設定した所定のしきい値発生回数(異常状態発生回数及び予兆状態の発生回数のそれぞれ別個に定める)と比較することにより、電池セルの劣化状態、ひいては、電池モジュール若しくは蓄電池装置自体の寿命を予測することができ、メンテナンス対応などのスケジュールを容易に立てることが可能となり、蓄電池システムの安定した運用を行うことができる。
【0030】
この場合において、異常状態発生回数、予兆状態の発生回数のデータ及び日時データのみを保存するように構成すれば、データ保存のためのデータ容量を抑制することができる。
【0031】
図6は、電池セル電圧と、異常状態あるいは予兆状態の発生回数と、季節、すなわち、環境温度との関係を説明する図である。
図6(A)及び図6(B)において、縦軸は、異常状態あるいは予兆状態の発生回数である。また横軸は、季節(時間)である。
なお、図6(A)及び図6(B)は、概念図であり、実際には、予兆状態の発生回数の方が、異常状態の発生回数よりは多くなっているが、その傾向は同様となっている。
図5(A)に示すように、初期状態(BOL)の電池セルの電圧は、環境温度Tcが低い冬において異常状態あるいは予兆状態の発生回数が他の季節と比較して増加しているのがわかるが、電池温度の場合と同様に、その頻度はさほど高くはない。
【0032】
これに対し、図6(B)示すように、寿命末期状態(EOL)においては、秋の終わり頃には、既に異常状態あるいは予兆状態の発生回数が他の季節と比較して増加し始めるとともに、初期状態と比較して長い期間、発生回数も多くなっていることが分かる。
【0033】
図6(C)は、電池の寿命と、異常状態あるいは予兆状態の発生回数と、の関係を説明する図である。
図6(C)に示すように、電池セル電圧の観点においても、初期状態(BOL)から寿命末期状態(EOL)に向けて指数関数的に異常状態あるいは予兆状態の発生回数が増加していることが分かる。
【0034】
なお、図6(C)は、概念図であり、実際には、予兆状態の発生回数の方が、異常状態の発生回数よりは多くなっているが、その増加傾向は同様となっている。
【0035】
従って、電池セル電圧の観点においても、異常状態発生回数及び予兆状態の発生回数を計数し、予め設定した所定のしきい値発生回数(異常状態発生回数及び予兆状態の発生回数のそれぞれ別個に定める)と比較することにより、電池セルの劣化状態、ひいては、電池モジュール若しくは蓄電池装置自体の寿命を予測することができ、メンテナンス対応などのスケジュールを容易に立てることが可能となり、蓄電池システムの安定した運用を行うことができる。
【0036】
この場合においても、異常状態発生回数、予兆状態の発生回数のデータ及び及び日時データのみを保存するように構成すれば、データ保存のためのデータ容量を抑制することができる。
【0037】
[1]第1実施形態
次に第1実施形態の概要動作を説明する。
以下の説明においては、蓄電池装置のBMUが検出部として機能し、マスタ装置42が計数部、判断部として機能する場合を例として説明する。
【0038】
検出部として機能するBMU36は、CMU32-1~32-24を介して、電池セル(あるいは当該電池セルに相当するセルモジュール31-1~31-24)の温度及び電池セルの電圧を取得するように指示する。
【0039】
これによりCMU32-1~32-24は、電池セル(あるいは当該電池セルに相当するセルモジュール31-1~31-24)の温度及び電池セルの電圧を取得して、BMU36に通知する。
【0040】
これによりBMU36は、CMU32-1~32-24から取得した電池セル(あるいは当該電池セルに相当するセルモジュール31-1~31-24)の温度及び電池セルの電圧に基づいて、セルモジュール31-1~31-24において異常状態あるいは異常に到る虞がある予兆状態を検出し、それぞれ別個の情報として、計数部、判断部として機能するマスタ装置42に通知する。
この結果、マスタ装置42は、検出された異常状態あるいは予兆状態の種類毎に発生回数を計数し、発生回数の計数値に基づいて、セルモジュール31-1~31-24あるいは当該蓄電池装置10の劣化状態を判断し、必要に応じて、PCSあるいはより上位のコントローラに通知する。
【0041】
これらの結果、PCS12あるいは上位のコントローラは、通知に基づくセルモジュール31-1~31-24あるいは当該蓄電池装置10の劣化状態に基づいて、オペレータに警報を出したり、メンテナンスを促す情報を提示することができる。
したがって本第1実施形態によれば、早期に蓄電池装置の劣化状態を把握し、劣化診断を行うことが可能となる。
【0042】
[2]第2実施形態
次に第2実施形態について説明する。
上記第1実施形態においては、CMU32-1~32-24からセルモジュール31-1~31-24に対応する正しいデータが常に出力されることを前提としていたが、実際には、CMU32-1~32-24が用いている温度センサあるいは電圧センサが故障してしまう場合が生じる。
【0043】
この場合において、各センサの出力がなくなれば、容易に故障であることが分かるが、各センサの出力値が固定されてしまった場合には、センサ出力の有無による故障判断は行えない。
【0044】
そこで、本第2実施形態においては、電池セルの全電圧及び全温度を蓄電池制御装置として機能するPCS12、あるいは、より上位のコントローラでモニタすることにより温度検出異常あるいは電圧検出異常を検知する場合の実施形態である。
【0045】
図7は、第2実施形態の動作説明図である。
図7においては、理解の容易のため、各セルモジュール31-1~31-n(図1の例では、n=24)毎に6箇所の温度を測定して温度検出異常を検知する場合を例として説明する。
この場合において、各セルモジュール31-1~31-n(図1の例では、n=24)は、互いに隣接して、並べて配置されており、セルモジュール31-1については、6箇所の温度測定箇所に対応する温度データT_11~T_16がCMU32-1に出力され、セルモジュール31-2については、6箇所の温度測定箇所に対応する温度データT_21~T_26がCMU32-21に出力され、…、セルモジュール31-nについては、6箇所の温度測定箇所に対応する温度データT_n1~T_n6がCMU32-nに出力されるものとする。
これらの結果、BMU36は、CMU32-1~CMU32-nから、温度データT_11~T_16、温度データT_21~T_26、…、温度データT_n1~T_n6を受け取り、蓄電池制御装置として機能するPCS12、あるいは、より上位のコントローラに温度データT_11~T_16、温度データT_21~T_26、…、温度データT_n1~T_n6を転送する。
【0046】
図8は、蓄電池制御装置として機能する装置の動作説明図である。
この結果、蓄電池制御装置として機能するPCS12、あるいは、より上位のコントローラは、同一の測定タイミングとみなす測定タイミング毎に転送された温度データT_11~T_16、温度データT_21~T_26、…、温度データT_n1~T_n6を温度の高い方から低い方に順番に温度データをソートする。
【0047】
そして、蓄電池制御装置として機能するPCS12、あるいは、より上位のコントローラは、最も温度が高い温度データ(図8の例では、温度データT_n1)と、次に温度が高い温度データ(図8の例では、温度データT_11)との差が所定の第1しきい値温度より大きい場合には、最も温度が高い温度データは、信頼性が低いとして除外して、処理を行う。
【0048】
同様に蓄電池制御装置として機能するPCS12、あるいは、より上位のコントローラは、最も温度が低い温度データ(図8の例では、温度データT_(n-1)1)と、次に温度が低い温度データ(図8の例では、温度データT_(n-2)1)との差が所定の第2しきい値温度より大きい場合に最も温度が低い温度データは、信頼性が低いとして除外して、処理を行う。
【0049】
これらの処理は、信頼性が低いとして温度データを除外した後に繰り返して行われる。
そして、残った温度データに基づいて、蓄電池装置の状態を判断することとなる。
電池セルの電圧データの場合も同様である。
さらに以上の説明は、信頼性の低いデータが伝送された場合のものであったが、通信ネットワーク上の伝送エラーにより同様の状態が発生した場合にも適用が可能である。
これらの結果、より信頼性の高い温度データあるいは電圧データを用いて蓄電池装置の管理を行うことができる。
【0050】
ところで、以上の説明は、要するに外れ値を信頼性が低いデータとして除外するものであり、一見すると健全な値に温度データあるいは電圧データが固定されて続ける場合等には、これらの信頼性の低いデータは除外することができない。
【0051】
一方、電池セルの温度は、蓄電池装置10全体で同様な変化傾向を有している。例えば、電池セル全体の温度が上昇する状況では、個々の電池セルでも温度は異なるものの温度が上昇傾向にあるはずであり、電池セルの全体の温度が下降する状況では、個々の電池セルでも温度は異なるものの温度が下降傾向にあるはずである。
【0052】
したがって、蓄電池制御装置として機能するPCS12あるいはより上位のコントローラは、各電池セルあるいは温度測定箇所毎に温度変化履歴を参照して、信頼性の低いこれらのデータが伝送された場合や、通信ネットワーク上の伝送エラーにより同様の状態が発生した場合にこれらの温度変化が全体の温度変化傾向の沿っていない場合は、信頼性が低いとして除外して処理を行う。
【0053】
この結果さらなる信頼性の高い温度データあるいは電圧データを用いて蓄電池装置の管理を行うことができる。
【0054】
以上の説明のように、本第2実施形態によれば、第1実施形態の効果に加えて、得られるデータの信頼性をより向上させることができる。
【0055】
以上の説明のように、各実施形態によれば、早期に蓄電池装置の劣化状態を把握し、劣化診断を行うことができる。
【0056】
本実施形態の蓄電池装置は、MPUなどの制御装置と、ROM(Read Only Memory)やRAMなどの記憶装置と、を備えており、通常のコンピュータを利用したハードウェア構成を備えている。
【0057】
本実施形態の蓄電池装置で実行される制御プログラムは、インストール可能な形式又は実行可能な形式のファイルでDVD(Digital Versatile Disk)等の光ディスク、USBメモリあるいはSSD(Solid State Disk)等の半導体メモリ装置等のコンピュータで読み取り可能な記録媒体に記録されて提供される。
【0058】
また、本実施形態の蓄電池装置で実行される制御プログラムを、インターネット等のネットワークに接続されたコンピュータ上に格納し、ネットワーク経由でダウンロードさせることにより提供するように構成しても良い。また、本実施形態の蓄電池装置で実行される制御プログラムをインターネット等のネットワーク経由で提供または配布するように構成しても良い。
また、本実施形態の蓄電池装置の制御プログラムを、ROM等に予め組み込んで提供するように構成してもよい。
【0059】
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。
【0060】
例えば、本実施形態では各電池ユニットは1並列多直列のユニットを用いているが、多並列多直列であっても良い。電池ユニットが多並多直列で接続されている場合、並列に接続されている複数の単セルを1つの単セルとみなして各構成要素が処理を実行することにより本実施形態の課題解決手段を利用することができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0061】
10 蓄電池システム
11 蓄電池装置
12 電力変換装置(PCS)
12M メモリ
21 電池盤
22 電池端子盤
23-1~23-M 電池ユニット
24 ゲートウェイ装置
25 直流電源装置
31-1~31-24 セルモジュール
32-1~32-24 CMU
36 BMU
37 ヒューズ
38 電流センサ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8