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特許7404065気泡分離器、および気泡分離器を備える自動車の流体回路
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-15
(45)【発行日】2023-12-25
(54)【発明の名称】気泡分離器、および気泡分離器を備える自動車の流体回路
(51)【国際特許分類】
   F01M 11/00 20060101AFI20231218BHJP
   B01D 19/00 20060101ALI20231218BHJP
   F01P 3/12 20060101ALI20231218BHJP
   F16H 57/04 20100101ALI20231218BHJP
【FI】
F01M11/00 U
B01D19/00 102
F01P3/12
F16H57/04 Z
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019235227
(22)【出願日】2019-12-25
(65)【公開番号】P2021042754
(43)【公開日】2021-03-18
【審査請求日】2022-07-15
(31)【優先権主張番号】P 2019160119
(32)【優先日】2019-09-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000151209
【氏名又は名称】マーレジャパン株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】506292974
【氏名又は名称】マーレ インターナショナル ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】MAHLE International GmbH
【住所又は居所原語表記】Pragstrasse 26-46, D-70376 Stuttgart, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【弁理士】
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】小林 裕貴
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 淑和
【審査官】小関 峰夫
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-226394(JP,A)
【文献】特開2007-187141(JP,A)
【文献】特開2010-028980(JP,A)
【文献】特開2012-050929(JP,A)
【文献】特表2014-516314(JP,A)
【文献】特開2016-147214(JP,A)
【文献】特開2017-114477(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 19/00
F01M 11/00
F01P 3/12
F16H 57/04
H02K 9/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動車の流体回路に用いられ、液体中の気泡を分離する気泡分離器であって、
円柱形の内部空間を有する旋回流形成部と、
前記旋回流形成部の一端に配置され、該旋回流形成部の内周面の接線方向に液体を流入させて該内周面上に旋回流を形成するように開口している、流入口と、
前記旋回流形成部の他端に配置され、前記内周面から接線方向に液体を流出させるように開口している、流出口と、
前記旋回流形成部において液体から分離された気体を該旋回流形成部の外に排出する気体排出口と、
前記旋回流形成部の内部に設けられた、該旋回流形成部と同軸に延びる管状の気柱促進部と、
を備え、
前記気体排出口が、前記旋回流形成部の両端にそれぞれ設けられており、
前記流入口の内径をd としたとき、前記旋回流形成部の内径Dが1.5d ~3d であることを特徴とする、気泡分離器。
【請求項2】
自動車の流体回路に用いられ、液体中の気泡を分離する気泡分離器であって、
円柱形の内部空間を有する旋回流形成部と、
前記旋回流形成部の一端に配置され、該旋回流形成部の内周面の接線方向に液体を流入させて該内周面上に旋回流を形成するように開口している、流入口と、
前記旋回流形成部の他端に配置され、前記内周面から接線方向に液体を流出させるように開口している、流出口と、
前記旋回流形成部において液体から分離された気体を該旋回流形成部の外に排出する気体排出口と、
前記旋回流形成部の内部に設けられた、該旋回流形成部と同軸に延びる管状の気柱促進部と、
を備え、
前記気体排出口が、前記旋回流形成部の両端にそれぞれ設けられており、
前記流出口の内径をd としたとき、前記気柱促進部の、前記旋回流形成部内に突出している部分の高さlが2d 以上であることを特徴とする、気泡分離器。
【請求項3】
前記気柱促進部は、その一端が前記旋回流形成部の端面の気体排出口を貫通していることを特徴とする、請求項1または2に記載の気泡分離器。
【請求項4】
前記液体が、冷却器または冷却システムの冷媒である、請求項1からまでのいずれか1項に記載の気泡分離器。
【請求項5】
自動車用の粘性流体回路であって、
オイルパンと、
前記オイルパンからオイルを送出するポンプと、
前記ポンプから送出されたオイルから気泡を分離するための、請求項1から4までのいずれか1項に記載の気泡分離器と、
前記気泡分離器により気泡が分離されたオイルによって冷却されるモータと、
を備え、
前記気泡分離器は、前記ポンプの吐出圧力により内部に旋回流を生じるように構成されていることを特徴とする、自動車用の粘性流体回路。
【請求項6】
前記オイルは、潤滑油またはオートマチックトランスミッションフルードである、請求項に記載の自動車用の粘性流体回路。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体中に含まれる気泡を遠心力によって分離する気泡分離器に関し、また、この気泡分離器を備える、自動車の流体回路に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電気自動車や電車に採用されている駆動用モータなどの、出力密度が比較的大きいモータでは、変速ギアまたはディファレンシャルギアにおける潤滑油や、トランスミッションのATFなどを使用して、モータシャフトやコイルエンド等を冷却するための流体回路からなるモータ冷却システムが採用されている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平09-226394号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のような流体回路からなるモータ冷却システムでは、ギアによるオイルの掻き揚げや、モータシャフトやコイルエンドに対するオイルの噴射等に起因して、オイル中に多数の気泡が発生してしまう。オイル中の気泡の量が多くなるほど、ポンプによって冷却対象のモータに圧送されるオイルの実流量が低下するために、モータの冷却効率が低下するという問題が生じる。さらに、気泡が潰れることによる騒音が発生したり、ATFを冷却油として使用する場合には、トランスミッションでは油圧応答性の悪化に伴い変速効率が低下したりするという問題も生じる。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであって、液体中に含まれる気泡を効率良く除去する気泡分離器、並びに、そのような気泡分離器を用いることで冷却効率を高めた自動車の流体回路を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明の一実施形態によれば、自動車の流体回路に用いられ、液体中の気泡を分離する気泡分離器であって、円柱形の内部空間を有する旋回流形成部と、旋回流形成部の一端に配置され、旋回流形成部の内周面の接線方向に液体を流入させて内周面上に旋回流を形成するように開口している、流入口と、旋回流形成部の他端に配置され、内周面から接線方向に液体を流出させるように開口している、流出口と、旋回流形成部において液体から分離された気体を旋回流形成部の外に排出する気体排出口と、を備え、気体排出口が、旋回流形成部の両端にそれぞれ設けられている、気泡分離器が提供される。
【0007】
これによると、旋回流形成部内で液体が旋回する間に、遠心力によって液体中に含まれる気泡が分離され、分離された気体は、旋回流形成部の両端に設けられた気体排出口から排出されるので、液体からの脱気を高い効率で行うことができる。
【0008】
旋回流形成部の内部に、該旋回流形成部と同軸に延びる管状の気柱促進部をさらに備えていてもよい。これによると、旋回流形成部内で、液体から分離された気体から成る気柱の形成が促進されるので、一度液体から分離された気体が再び液体に巻き込まれることが少なくなる。よって、脱気効率を一層高めることができる。
【0009】
気柱促進部は、その一端が旋回流形成部の端面の気体排出口を貫通していてもよい。これによると、気柱形成の促進と気体の排出とを一体構造で行うことができる。
【0010】
流入口の内径をdとしたとき、旋回流形成部の内径Dが1.5d~3dであってもよい。こうすると、旋回流形成部内に、液体から分離された気体から成る気柱が存在する空間が十分に確保されることで、高い脱気効率を達成することができる。
【0011】
流出口の内径をdとしたとき、気柱促進部の、旋回流形成部内に突出している部分の高さlが2d以上であってもよい。こうすることで、旋回流形成部内での気柱を維持することができる。
【0012】
本発明の別の実施形態によると、自動車用の粘性流体回路であって、オイルパンと、オイルパンからオイルを送出するポンプと、ポンプから送出されたオイルから気泡を分離する気泡分離器と、気泡分離器により気泡が分離されたオイルによって冷却されるモータと、を備え、気泡分離器は、ポンプの吐出圧力により内部に旋回流を生じるように構成されている、自動車用の粘性流体回路が提供される。
【0013】
これによると、気泡分離器によって液体中に含まれる気泡が効率良く除去されるので、モータの冷却効率の低下を防ぐことができる。また、気泡に起因する騒音の低減や、油圧応答性の向上を見込むことができる。
【0014】
オイルは、自動車用の潤滑油またはオートマチックトランスミッションフルードであってもよく、冷却システムまたは冷却器の冷媒であってもよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、旋回流形成部内で液体が旋回する間に、遠心力によって液体中に含まれる気体が分離され、分離された気体は、旋回流形成部の両端に設けられた気体排出口から排出されるので、液体からの脱気を高い効率で行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】モータ冷却システムの概略図である。
図2】気泡分離器の詳細図である。
図3】(a)、(b)は、気泡分離器における液体の流れを説明する図である。
図4】気泡分離器内での液体と気体の分離状態を示すコンター図である。
図5】気柱促進器の有無による脱気効率の違いを表すグラフである。
図6】旋回流形成部の内径と脱気効率の関係を表すグラフである。
図7】気柱促進器の突出部の長さと脱気効率の関係を表すグラフである。
図8】気泡分離器における温度と脱気効率の関係を表すグラフである。
図9】本発明に係る気泡分離器を備えたオイルポンプを示す図である。
図10】本発明に係る気泡分離器を備えたオイルクーラを示す図である。
図11】本発明に係る気泡分離器を備えたオイルクーラを示す図である。
図12】本発明に係る気泡分離器を備えたオイルクーラを示す図である。
図13】本発明に係る気泡分離器を備えたオイルパンを示す図である。
図14】本発明に係る気泡分離器を備えたオイルパンを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を実施するための一形態について、図面を参照して説明する。
【0018】
図1は、本発明の一実施形態に係る気泡分離器を備える流体回路からなる、モータ冷却システム10の概略回路図である。このモータ冷却システム10は、例えばEVのリダクションギア等、モータを内蔵する遊星歯車式ギア機構のケーシング内に組み込まれることが想定されている。図中の実線34、40、46は、例えばATF(オートマチックトランスミッションフルード)であるオイルの流れを表しているが、この流れは概念的なものであり、パイプ等の中を流れるものに限られない。
【0019】
例えば遊星歯車式ギア機構のリングギアやデフ、クラッチなどの回転体がオイルを掻き揚げることによって、オイル内に相当量の気泡が混入してしまう。また、冷却のためにオイルをモータに噴射することによっても、オイル内に気泡が混入する。本実施形態に係る気泡分離器は、オイルから気泡を効率的に分離するために設けられている。
【0020】
図1において、オイルパン12は、図示しないケーシングの底部に配置されており、オイル16を収集、蓄積している。ポンプ18は、オイルパン12内のオイル16を、オイルストレーナ14を介して汲み上げ、経路34を介して気泡分離器20に圧送する。気泡分離器20は、オイルと気体とを分離し、経路40を介してオイルを排出するとともに、経路36を介して分離した気体を排出する。気泡分離器20については、図2において詳述する。
【0021】
気泡分離器20から排出されたオイルは、熱交換器42によって冷却され、その後、モータ44の冷却対称要素、例えばコイルエンドに滴下され、またはモータシャフトに対して圧送され、これを冷却する。噴射されたオイルは、経路46を介してオイルパン12に回収される。
【0022】
図2は、気泡分離器20の詳細図である。気泡分離器20は、鉛直方向に延びる、円筒形の旋回流形成部22を有している。旋回流形成部22は、内部に円柱状空間を備えている。旋回流形成部22の上流側の一端近傍には、水平方向に延びる管状の流入口24が設けられている。流入口24は、ポンプ18から圧送されたオイルを受け入れ、旋回流形成部22内へと送出する役割を有している。流入口24は、旋回流形成部22の内周面の接線方向にオイルを流入させるような位置で、つまり旋回流形成部22の中心軸に対してオフセットした位置で、内周面に開口している。
【0023】
流入口24から流入したオイルは、その速度エネルギーによって、旋回流形成部22の内周面上に旋回流を形成する。この旋回流は、例えば10G以上の遠心力を有しており、図3(a)に示すように、螺旋状に旋回しながら旋回流形成部22の下方へと流れる。この旋回中に、オイルと気泡とが受ける遠心力の差によって、オイルが外周側へ、気泡が内周側へと移動するので、オイルと気泡とが分離される。
【0024】
旋回流形成部22の下流側の他端近傍には、水平方向に延びる管状の流出口26が設けられている。流出口26は、旋回流形成部22内を螺旋状に流れてきたオイルが、内周面の接線方向に流出するような位置で、つまり旋回流形成部22の中心軸に対してオフセットした位置で、内周面に開口している。
【0025】
図3(b)の平面図に示すように、流入口24によって旋回流形成部22の内周面の接線方向にオイルを流入させ、流出口26によって旋回流形成部22の内周面の接線方向でオイルを流出させることによって、ポンプ18によって圧送されたオイルの運動エネルギーの損失を最小限にしている。
【0026】
オイルから分離された気体は、旋回流形成部22の中心軸付近に集まる。旋回流形成部22の上面と下面の中心部には、気体排出口30、32がそれぞれ設けられており、気体は、旋回流形成部22の内部と外部との圧力差によって、気体排出口30、32から排出される。
【0027】
上述のように、旋回流形成部内で分離された気体は、上下の気体排出口30、32を通して排出される。このとき、分離された気体は、旋回流形成部22の中心に集まって気柱を形成する。しかし、この気柱の下端が、気体排出口32ではなく流出口26につながってしまうと、流出口26付近において気体がオイルに再び巻き込まれてしまうことが、本願発明者の試験により判明した。
【0028】
そこで、好ましい実施形態では、旋回流形成部22の内部に気柱促進部28が設けられる。気柱促進部28は、旋回流形成部22の中心軸に沿って鉛直方向に延びる円筒形状を有している。そして、気柱促進部28の下端は、旋回流形成部22の下面の気体排出口32を貫通して延びている。
【0029】
このような気柱促進部28を設けると、旋回流形成部22内に形成された気柱の下端が、気柱促進部28を介して気体排出口32へと導かれるので、気柱が流出口26につながるのを防止することができる。したがって、流出口26の付近において、オイルに再び気体が混入することが抑制され、ひいては気泡の分離効率を高めることができる。
【0030】
なお、図1~3では、旋回流形成部22は内径Dが均一である円筒形として表されているが、ポンプ18から圧送されてきたオイルをその内周面に沿って旋回させることが可能であれば、他の形状であってもよい。例えば、上端から下端に向けて内径が減少する漏斗形でもよいし、漏斗形の上部と円筒形の下部とを組み合わせた形状でも、液体と気体の分離は可能である。
【0031】
さらに、図1~3では、気泡分離器20は、旋回流形成部22が鉛直方向に延びるように配置されているが、これに限られない。ポンプからの圧送によって旋回流形成部22内に所定の遠心力を有する旋回流を形成することができる限り、気泡分離器20は旋回流形成部22が水平方向に延びるように配置されてもよいし、旋回流形成部22が傾斜するように配置されてもよい。
【0032】
図4は、気柱促進部の有無による気泡の分離度合いを、CAE(Computer Aided Engineering)にて求めた気液コンター図である。右図は、気柱促進部を設けない場合の結果であり、左図は、気柱促進部を設けた場合の結果である。色が薄いほど空気の割合が高く、色が濃いほどオイルの割合が高いことを表している。なお、ここでは、円筒形の分離器ではなく、上部のみを漏斗形にした気泡分離器についての結果が示されている。
【0033】
気柱促進部が存在しない右図では、旋回流形成部の上部では空気がオイルから分離されているものの、明瞭な気柱は形成されておらず、特に流出口近傍ではオイルからの空気の分離が十分ではないことが分かる。
【0034】
これに対し、気柱促進部が存在する左図では、旋回流形成部の中央に明瞭な気柱が形成されており、分離された空気が上下の気体排出口を通して排出されていることが分かる。また、流出口を通して流出しているオイル内には、ほとんど空気が含まれていないことも分かる。
【0035】
図5は、気柱促進部の有無による脱気効率、すなわち気泡を含む液体から分離できた空気の割合を、CAEにて求めたグラフである。これによると、気柱促進部を設けることで、脱気効率が20%程度増大することが分かる。
【0036】
脱気効率は、その他の条件によっても変化する。以下では、いくつかの条件下での脱気効率の変化を確認したCAEの結果について説明する。
【0037】
図6は、旋回流形成部22の内径Dと流入口24の内径dとの比率と、脱気効率との関係を、CAEにて求めたグラフである。図6から分かるように、旋回流形成部の内径Dを大きくしていくと、脱気効率は低下している。これは、旋回流形成部の内径Dを大きくすると、形成部の断面積の増加により、内周面上を流れる旋回流の流速が低下してオイルに作用する遠心力が小さくなるので、オイルから分離される空気の量が低下するためである。また、内径Dを小さくしすぎると、圧力損失が増大してしまう。
【0038】
以上の考察から、本願発明者は、旋回流形成部の内径がD=1.5d~3dであると、脱気効率が最大になることを見い出した。
【0039】
図7は、気柱促進部の高さと脱気効率の関係をCAEにて求めたグラフである。グラフの横軸は、気柱促進部の、旋回流形成部内に突出している部分の高さlと、流出口の内径直径dとの比を表しており、縦軸は脱気効率を表している。図7から分かるように、l/dが2以上であるとき、つまりlが2d以上であると、脱気効率が向上することが分かった。
【0040】
気泡分離器内でのオイルの温度によっても脱気効率が異なることも、CAEによって明らかになっている。図8は、これを説明するグラフである。横軸は、気泡分離器内での油温であり、縦軸は脱気効率を表している。
【0041】
CAEによると、油温が40℃、ポンプにより圧送されるオイルの質量流量が7kg/sのときに、脱気効率は約50%であった。油温が上昇するほど、脱気効率も向上しており、例えば油温80℃の場合は、脱気効率は約60%であり、油温120℃の場合は、脱気効率は約90%まで増加した。
【0042】
さらに、オイルから分離される気泡は、一定温度下では、PV=nRTで表されるボイル・シャルルの法則にしたがって、低圧では気泡径が大きくなり、高圧では気泡径が小さくなる。気泡径と浮力とは比例関係にあり、気泡径が大きい方が遠心力による影響が大きいため、オイルからの分離が容易である。したがって、低圧環境下でオイルと気泡の遠心分離を行うことが好ましい。
【0043】
以上説明したように、本実施形態によれば、ポンプによって圧送されるオイル内に含まれる気泡を、効率的に除去することが可能である。
【0044】
気泡の除去により、オイルが滴下または圧送されるモータの冷却効率を向上させることができる。また、気泡の除去により、気泡が潰れるときに発生する騒音の抑制や油圧応答性の向上を見込むことができる。
【0045】
また、本実施形態に係る気泡分離器は、非常にコンパクトに形成することができるため、流体回路からなる既存のモータ冷却システムに容易に組み込むことが可能である。また、気泡分離器は、既存のモータ冷却システムに当然備えられているポンプによって圧送されるオイルを利用して気液分離を行うので、動作のための別の要素を必要としない。したがって、システムの設計を大きく変更する必要なしに、例えばトランスミッションのケーシング内に収めることが可能である。
【0046】
上記では、トランスミッションに内蔵された流体回路からなるモータ冷却システムにおける気泡分離器の使用について述べたが、本発明に係る気泡分離器は、液体中に含まれている気泡を分離する必要性がある任意の装置またはシステムに組み込むことが可能である。例えば、エンジンオイルに含まれている気泡の分離にも応用可能である。気泡分離器が装置に組み込まれるとき、旋回流形成部は、円柱形の内部空間を有している限り、独立した部品である必要はない。例えば、装置の筐体に予め形成された円柱形の内部空間を旋回流形成部として利用してもよい。
【0047】
気液分離の対象となる液体は、ATFや潤滑油のような粘性液体に限られない。例えば、液体は、冷却器または冷却システムの冷媒であってもよい。同様に、分離される気体は空気に限られない。
【0048】
以下、本発明に係る気泡分離器が組み込まれる装置の例について説明する。
【0049】
図9は、本発明に係る気泡分離器120を備えたオイルポンプ100の概略透視図である。気泡分離器120は、オイルポンプ100のハウジングに内蔵されている。気泡分離器120の流入口124は、オイルポンプ100のポンプ室に直結されており、ポンプ室から吐出されたオイルが流入口124を通って旋回流形成部122に流入する。旋回流形成部122内で気泡が分離されたオイルは、流出口126から流出し、気体は気体排出口130、132から排出される。
【0050】
図10は、本発明に係る気泡分離器220を備えたオイルクーラ200の斜視図である。オイルクーラ200は、プレートとフィンとが交互に積層して形成されているコア部250と、ベースプレート252とを有しており、コア部250およびベースプレート252を垂直方向に貫通する1つのセンターポート262と4つの通路264とが設けられている。気泡分離器220はベースプレート252に内蔵されている。図示しないポンプからオイルが流入口224へと圧送され、旋回流形成部222内でオイルと気泡とが分離される。脱気されたオイルは流出口226から流出し、オイルクーラ200の1つの通路264に導かれ、コア部250において冷媒との熱交換によって冷却される。旋回流形成部222の両端の気体排出口から延びる流路は、1つの流路240にまとめられている。
【0051】
図11は、本発明に係る気泡分離器320を備えたオイルクーラ300の断面図である。オイルクーラ300は、プレートとフィンとが交互に積層して形成されているコア部350と、コア部350の下側に配置されるベースプレート352と、コア部350の上側を覆うアッパープレート360とを有している。アッパープレート360は、コア部350を貫通するセンターポート362と一体的に形成されている。さらに、センターポート362と、ベースプレート352に形成された凹部とによって、円柱形の内部空間が形成されている。この内部空間が、気泡分離器320の旋回流形成部322として利用される。図示しないポンプからオイルが流入口324へと圧送され、旋回流形成部322内でオイルと気泡とが分離される。脱気されたオイルは、ベースプレート352内に形成された流出口326を通って、コア部350を垂直方向に貫通する通路364に流出し、コア部350において冷媒との熱交換によって冷却される。旋回流形成部322において分離された気体は、気体排出口330、332から排出される。
【0052】
図12は、本発明に係る気泡分離器420を備えたオイルクーラ400の断面斜視図である。オイルクーラ400は、プレートとフィンとが交互に積層して形成されているコア部450と、コア部450の下側に配置されるベースプレート452と、コア部450の上側を覆うアッパープレート460とを有している。この例では、気泡分離器420の旋回流形成部422がアッパープレート460と一体的に固定されている。センターポート462からのオイルが流入口424を通って旋回流形成部422に導かれ、旋回流形成部422内でオイルと気泡とが分離される。脱気されたオイルは、流出口426からコア部450を垂直方向に貫通する通路464に流出し、コア部450内の通路を図中の矢印のように流れ、この際に冷媒との熱交換によって冷却される。旋回流形成部422において分離された気体は、気体排出口430、432から排出される。
【0053】
図13は、本発明に係る気泡分離器520を備えたオイルパン500の斜視図である。この例では、気泡分離器520は、オイルパン500の内壁面に取り付けられている。図示しないポンプからオイルが流入口524へと圧送され、旋回流形成部522内でオイルと気泡とが分離される。脱気されたオイルは流出口526から流出し、図示しない冷却対象に導かれる。気体排出口530、532はオイルパン500内に開口しており、オイルから分離された気体がオイルパン500内に戻されるようになっている。
【0054】
図14は、本発明に係る気泡分離器620を備えるオイルパン600の斜視図である。この例では、気泡分離器620は、オイルパン600の外壁面に取り付けられている。図示しないポンプからオイルが流入口624へと圧送され、旋回流形成部622内でオイルと気泡とが分離される。脱気されたオイルは流出口626から流出し、図示しない冷却対象に導かれる。気体排出口630、632はオイルパン600内に通じており、オイルから分離された気体が気体排出口630、632を通ってオイルパン600内に戻されるようになっている。
【0055】
以上、本発明のいくつかの実施形態について説明したが、本発明はこれらの実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、様々な変形、改良が可能である。
【符号の説明】
【0056】
10 モータ冷却システム
12 オイルパン
14 オイルストレーナ
16 オイル
18 ポンプ
20、120、220、320、420、520,620 気泡分離器
22、122、222、322、422、522、622 旋回流形成部
24、124、224、324、424、524、624 流入口
26、126、226、326、426、526、626 流出口
28、428 気柱促進部
30、130、230、330、430、530、630 気体排出口
32、132、232、332、432、532、632 気体排出口
42 熱交換器
44 モータ
100 オイルポンプ
200、300、400 オイルクーラ
500、600 オイルパン
図1
図2
図3
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図14