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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-15
(45)【発行日】2023-12-25
(54)【発明の名称】半導体加工用粘着テープ
(51)【国際特許分類】
   C09J 7/38 20180101AFI20231218BHJP
   C09J 133/04 20060101ALI20231218BHJP
   C09J 11/06 20060101ALI20231218BHJP
   H01L 21/304 20060101ALI20231218BHJP
   H01L 21/301 20060101ALI20231218BHJP
【FI】
C09J7/38
C09J133/04
C09J11/06
H01L21/304 631
H01L21/78 M
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019570712
(86)(22)【出願日】2019-01-30
(86)【国際出願番号】 JP2019003246
(87)【国際公開番号】W WO2019155970
(87)【国際公開日】2019-08-15
【審査請求日】2021-12-13
(31)【優先権主張番号】P 2018020358
(32)【優先日】2018-02-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000102980
【氏名又は名称】リンテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001494
【氏名又は名称】前田・鈴木国際特許弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 裕也
【審査官】高崎 久子
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-225389(JP,A)
【文献】国際公開第2016/139840(WO,A1)
【文献】特開2008-027960(JP,A)
【文献】特開2008-214386(JP,A)
【文献】特開2011-122100(JP,A)
【文献】特許第3620810(JP,B2)
【文献】特開2009-064975(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J
B32B
H01L21/301;21/304;21/463;21/78
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、基材の一方の面側に設けられたエネルギー線硬化性の粘着剤層とを有する粘着テープであって、
前記粘着剤層が、架橋構造と、重量平均分子量が500以上10000以下である多官能型オリゴマーと、を有し、
前記架橋構造は、少なくとも官能基含有アクリル系重合体と、ポリイソシアネート系架橋剤およびエポキシ系架橋剤と、から構成され、
前記粘着剤層に対するエネルギー線照射前において、前記粘着剤層のゲル分率が35%以上であり、50℃における前記粘着剤層の損失正接が0.30以上0.65未満であり、
前記粘着剤層に対するエネルギー線照射後において、前記粘着剤層の粘着力が3100mN/25mm以下であることを特徴とする半導体加工用粘着テープ。
【請求項2】
前記架橋構造のゲル分率が70%以上95%以下であることを特徴とする請求項に記載の半導体加工用粘着テープ。
【請求項3】
半導体ウエハを加工する工程において、加工装置に固定されるリングフレームと前記半導体ウエハとが前記粘着剤層に貼付されることを特徴とする請求項1または2に記載の半導体加工用粘着テープ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体加工用粘着テープに関する。特に、半導体ウエハを加工する際に回路面を保護するために好適に使用される半導体加工用粘着テープに関する。
【背景技術】
【0002】
各種電子機器に搭載される半導体チップは、回路が形成された半導体ウエハを個片化することにより得られる。電子機器は、小型化、多機能化が急速に進んでおり、半導体チップにも小型化、低背化、高密度化が求められている。チップを小型化および低背化するには、半導体ウエハの表面に回路を形成した後、半導体ウエハの裏面を研削して、チップの厚さ調整を行うことが一般的である。
【0003】
半導体ウエハの裏面研削時には、ウエハ表面の回路を保護し、かつ、半導体ウエハを保持するために、ウエハ表面にバックグラインドテープと呼ばれる粘着テープが貼付される。
【0004】
裏面研削後の半導体ウエハは、ウエハを個片化するダイシング工程等の次工程に搬送される。しかしながら、裏面研削後の半導体ウエハは非常に薄く、粘着テープとともに反りやすい傾向にある。また、半導体ウエハは、剛性の低い粘着テープのみに保持されているため、搬送時に半導体ウエハに負荷が掛かり破損しやすくなる。
【0005】
そこで、特許文献1および2には、バックグラインドテープの周縁部を、裏面研削時に研削装置に装着されるリング状のフレーム(以降、リングフレームとも言う)にも貼り付けて、半導体ウエハを、バックグラインドテープを介してリングフレームに固定してから、裏面研削を行うことが記載されている。すなわち、金属製のリングフレームと半導体ウエハとバックグラインドテープとが一体化された状態で、チャックテーブル上に載置および固定され、グラインダーにより、半導体ウエハの裏面が研削される。
【0006】
半導体ウエハとリングフレームとが一体化することにより、裏面研削後の半導体ウエハを、剛性の高いリングフレームと共に次工程に搬送することができる。したがって、研削後の半導体ウエハが非常に薄くても、リングフレームにより半導体ウエハの反りが抑制される。さらに、搬送時にウエハに負荷がほとんど掛からないため、ウエハの破損を抑制することができる。
【0007】
また、バックグラインドテープはリングフレームに固定された状態で、次工程に搬送されるので、次工程がダイシング工程である場合には、リングフレームに貼り付けられたバックグラインドテープがダイシングテープを兼ねることができる。以降、このような粘着シートを総称して、「半導体加工用粘着テープ」とも言う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開平6-302569号公報
【文献】特開平11-45866号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、半導体ウエハはリングフレームに直接支持されている訳ではなく、バックグラインドテープに貼り付けられているので、バックグラインドテープには、半導体ウエハの荷重がかかる。この半導体ウエハは、裏面研削前のウエハであるため、裏面研削後のウエハに比べて重い。そのため、半導体ウエハの自重により、バックグラインドテープが弛んでしまうという問題があった。
【0010】
また、特許文献1および2にも記載されているように、裏面研削時には、グラインダーとリングフレームとが接触しないように、リングフレーム側を押し下げる、あるいは、半導体ウエハが載置されているチャックテーブル側を押し上げることにより、バックグラインドテープは伸ばされる。
【0011】
裏面研削終了後に、バックグラインドテープの伸びは開放されるが、裏面研削前のバックグラインドテープの状態まで復帰せずに、バックグラインドテープが弛んでしまうという問題があった。
【0012】
さらに、裏面研削終了後には、半導体ウエハまたは半導体チップを他のテープに転写するために、半導体加工用粘着テープを半導体ウエハおよびリングフレームの両方から剥離する必要がある。当該粘着テープは半導体ウエハよりもリングフレームに強固に接着しているため、当該粘着テープの剥離時に、リングフレームに当該粘着テープの粘着剤の一部が残ったり、当該粘着テープ自体が破れて残ったりするという問題があった。このような糊残りが生じると、その後の工程において不具合が生じてしまう。
【0013】
本発明は、このような実状に鑑みてなされ、粘着テープの弛みが抑制され、かつリングフレームからの剥離性が良好な半導体加工用粘着テープを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の態様は、
[1]基材と、基材の一方の面側に設けられた粘着剤層とを有する粘着テープであって、
粘着剤層に対するエネルギー線照射前において、粘着剤層のゲル分率が35%以上であり、50℃における粘着剤層の損失正接が0.65未満であり、
粘着剤層に対するエネルギー線照射後において、粘着剤層の粘着力が3100mN/25mm以下であることを特徴とする半導体加工用粘着テープである。
【0015】
[2]粘着剤層が架橋構造とエネルギー線硬化性樹脂とを有することを特徴とする[1]に記載の半導体加工用粘着テープである。
【0016】
[3]架橋構造は、少なくともアクリル系重合体と架橋剤とから構成されることを特徴とする[2]に記載の半導体加工用粘着テープである。
【0017】
[4]架橋構造のゲル分率が70%以上95%以下であることを特徴とする[3]に記載の半導体加工用粘着テープである。
[5]半導体ウエハを加工する工程において、加工装置に固定されるリングフレームと半導体ウエハとが粘着剤層に貼付されることを特徴とする[1]から[4]のいずれかに記載の半導体加工用粘着テープである。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、粘着テープの弛みが抑制され、かつリングフレームからの剥離性が良好な半導体加工用粘着テープを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1図1は、本発明の一実施形態に係る半導体加工用粘着テープの断面図である。
図2A図2Aは、本発明の一実施形態に係る半導体加工用粘着テープを用いた半導体装置の製造方法を説明するための模式的な断面図である。
図2B図2Bは、図2Aの続きの図である。
図2C図2Cは、図2Bの続きの図である。
図2D図2Dは、図2Cの続きの図である。
図2E図2Eは、図2Dの続きの図である。
図2F図2Fは、図2Eの続きの図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を、具体的な実施形態に基づき、以下の順序で詳細に説明する。
【0021】
(1.半導体加工用粘着テープ)
本実施形態に係る半導体加工用粘着テープ1は、図1に示すように、基材10上に粘着剤層20が積層された構成を有している。半導体加工用粘着テープは、図1に記載の構成に限定されず、本発明の効果が得られる限りにおいて、他の層を有していてもよい。たとえば、粘着剤層20を被着体に貼り付けするまで粘着剤層20を保護するために、粘着剤層20の主面20aに剥離シートが形成されていてもよい。以下、半導体加工用粘着テープの構成要素について詳細に説明する。
【0022】
(1.1.粘着剤層)
本実施形態では、半導体ウエハを加工(たとえば裏面研削)する前に、被着体(半導体ウエハを固定するリングフレームおよび半導体ウエハの表面)が粘着剤層20の主面20aに貼り付けられる。そして、半導体ウエハの加工後に、半導体加工用粘着テープ、すなわち、粘着剤層20が半導体ウエハおよびリングフレームから剥離される。したがって、粘着剤層は、被着体である半導体ウエハおよびリングフレームの両方に対して、適度な再剥離性を示す粘着力を有している。
【0023】
粘着剤層20の厚さは、特に制限されないが、好ましくは1μm以上50μm以下、より好ましくは5μm以上30μm以下、さらに好ましくは12μm以上18μm以下である。粘着剤層の厚さが薄すぎると、半導体ウエハの加工時における粘着剤層の粘着力が低い傾向にある。一方、厚すぎると、裏面研削中に、半導体ウエハの厚みがばらつく傾向にある。
【0024】
本実施形態では、リングフレームおよび半導体ウエハが貼付される粘着剤層の主面は以下の物性を有している。以下の物性は、粘着剤層の主面において、少なくともリングフレームおよび半導体ウエハが貼付される領域において発現している。
【0025】
(1.1.1.エネルギー線照射前のゲル分率)
本実施形態では、粘着剤層に対するエネルギー線照射前において、粘着剤層のゲル分率が35%以上である。エネルギー線照射前、すなわち、裏面研削等の工程においてゲル分率が上記の範囲内であることにより、粘着剤層に力が掛かった場合であっても、粘着剤層が変形しにくい。その結果、テープの弛みが抑制される傾向にある。
【0026】
粘着剤層のゲル分率は37%以上であることが好ましく、40%以上であることがより好ましい。また、粘着剤層のゲル分率は70%以下であることが好ましく、60%以下であることがより好ましく、50%以下であることがさらに好ましい。ゲル分率が大きすぎる場合には、テープの弛みは十分に抑制されるが、裏面研削時のテープの伸びが小さくなり、グラインダーがリングフレームに接触してしまう傾向にある。
【0027】
(1.1.2.エネルギー線照射前の損失正接)
本実施形態では、50℃における粘着剤層の損失正接(tanδ)が0.65未満である。損失正接(tanδ)は、「損失弾性率/貯蔵弾性率」で定義され、動的粘弾性測定装置により対象物に与えた引張り応力やねじり応力等の応力に対する応答によって測定される値である。損失正接が上記の範囲内であることにより、粘着剤層に力が掛かった場合であっても、粘着剤層が変形しにくいので、テープの弛みが抑制される傾向にある。
【0028】
粘着剤層の損失正接は0.60以下であることが好ましく、0.55以下であることがより好ましい。また、粘着剤層の損失正接は0.30以上であることが好ましく、0.40以上であることがより好ましい。損失正接が小さすぎる場合には、テープの弛みは十分に抑制されるが、裏面研削時のテープの伸びが小さくなり、グラインダーがリングフレームに接触するおそれがある。
【0029】
(1.1.3.エネルギー線照射後の粘着力)
粘着剤層に対するエネルギー線照射後において、粘着剤層の粘着力が3100mN/25mm以下である。エネルギー線照射後、すなわち、半導体加工用粘着テープをリングフレームから剥離する際に、粘着剤層の粘着力が上記の範囲内であることにより、ウエハだけでなく、リングフレームから良好に剥離することができる。
【0030】
エネルギー線照射後の粘着剤層の粘着力は3000mN/25mm以下であることが好ましく、2500mN/25mm以下であることがより好ましい。
【0031】
粘着剤層が上記の(1.1.1.)から(1.1.3.)に示す物性を有することにより、裏面研削時には粘着テープの弛みが抑制され、裏面研削後にリングフレームから良好に剥離することができる。
【0032】
(1.2.粘着剤層の構造および構成成分)
粘着剤層は上記の物性を有していれば、粘着剤層の構造および組成は特に限定されないが、本実施形態では、以下のような構造および構成成分を有していることが好ましい。
【0033】
本実施形態では、半導体ウエハおよびリングフレームからの粘着テープの剥離を良好とするために、エネルギー線照射前後における粘着剤層の粘着力の変化を利用している。すなわち、裏面研削等の加工工程では、粘着剤層に対してエネルギー線照射を行わずに、粘着テープと、リングフレームおよび半導体ウエハとの接着性を確保する。加工工程後にリングフレームから剥離する際には、粘着剤層にエネルギー線を照射して、粘着剤層の粘着力を低下させ、粘着テープをリングフレームから剥離しやすくしている。
【0034】
したがって、本実施形態に係る半導体加工用粘着テープの粘着剤層には、構成成分として、エネルギー線硬化性樹脂が含まれていることが好ましい。ところが、このようなエネルギー線硬化性樹脂は比較的に低分子量であり凝集性が低い。そのため、粘着剤層に、エネルギー線照射前のエネルギー線硬化性樹脂が含まれている場合、粘着剤層に力が掛かるとエネルギー線硬化性樹脂が動きやすい。その結果、粘着剤層の変形が生じやすく、テープの弛みを抑制することが困難となってしまう。
【0035】
そこで、エネルギー線硬化性樹脂を含有することにより得られる半導体加工用粘着テープの再剥離性を維持しつつ、半導体ウエハの加工時における半導体加工用粘着テープへの負荷に起因する粘着剤層の変形を抑制するために、本実施形態では、粘着剤層中に架橋構造を導入している。架橋構造が存在することにより、エネルギー線硬化性樹脂の動きが架橋構造により阻害され、上述したゲル分率および損失正接を上記の範囲内とすることが容易となり、しかもエネルギー線照射後における粘着力を十分に低下させることができる。
【0036】
本実施形態では、上記の架橋構造は、官能基含有アクリル系重合体および架橋剤により形成されることが好ましい。したがって、粘着剤層は、官能基含有アクリル系重合体、架橋剤およびエネルギー線硬化性樹脂を有していることが好ましい。これらの構成成分について詳細に説明する。
【0037】
(1.2.1.官能基含有アクリル系重合体)
官能基含有アクリル系重合体としては、公知のアクリル系重合体であればよい。官能基含有アクリル系重合体は、1種類のアクリル系モノマーから形成された単独重合体であってもよいし、複数種類のアクリル系モノマーから形成された共重合体であってもよいし、1種類または複数種類のアクリル系モノマーとアクリル系モノマー以外のモノマーとから形成された共重合体であってもよい。
【0038】
本実施形態では、官能基含有アクリル系重合体は、アルキル(メタ)アクリレートと官能基含有モノマーとを共重合したアクリル系共重合体であることが好ましい。なお、本明細書においては、「(メタ)アクリレート」とは、「アクリレート」および「メタクリレート」の双方を示す語として用いており、他の類似用語についても同様である。
【0039】
アルキル(メタ)アクリレートとしては、炭素数1~18のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレートが挙げられ、好ましくは炭素数1~8のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレート、より好ましくは炭素数1~4のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0040】
アルキル(メタ)アクリレートとしては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、t-ブチル(メタ)アクリレート、n-ペンチル(メタ)アクリレート、n-ヘキシル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、n-オクチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらの中では、ブチルアクリレートが好ましい。
【0041】
アルキル(メタ)アクリレートは、官能基含有アクリル系共重合体において1種のみが含まれていてもよいし、2種以上が含まれていてもよい。
【0042】
アルキル(メタ)アクリレート由来の構成単位は、官能基含有アクリル系共重合体の全構成単位中、70質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましい。一方、アルキル(メタ)アクリレート由来の構成単位は、99質量%以下であることが好ましく、90質量%以下であることがより好ましい。
【0043】
官能基含有モノマーは、反応性官能基を含有するモノマーである。反応性官能基は、後述する架橋剤等の他の化合物と反応することが可能な官能基である。アクリル系共重合体は、官能基含有モノマー由来の構成単位を有することで、架橋剤により架橋される。
【0044】
反応性官能基としては、具体的には、カルボキシ基、ヒドロキシ基、エポキシ基等が挙げられる。これらの中では架橋剤との反応性が良好であるため、カルボキシ基がより好ましい。
【0045】
官能基含有モノマーとしては、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、イタコン酸、シトラコン酸などのエチレン性不飽和カルボン酸が例示される。また、ヒドロキシメチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートなどのヒドロキシ基含有(メタ)アクリレートが例示される。また、ビニルアルコール、アリルアルコール等の不飽和アルコールが例示される。また、グリシジル(メタ)アクリレート、β-メチルグリシジル(メタ)アクリレート、(3,4-エポキシシクロヘキシル)メチル(メタ)アクリレート、3-エポキシシクロ-2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート等のエポキシ基含有(メタ)アクリレートが例示される。また、グリシジルクロトネート、アリルグリシジルエーテル等の非アクリル系エポキシ基含有モノマーが例示される。
【0046】
官能基含有モノマーは、アクリル系共重合体において1種のみが含まれていてもよいし、2種以上が含まれていてもよい。
【0047】
これらの中では、架橋剤との反応性の観点から、エチレン性不飽和カルボン酸が好ましく、中でもアクリル酸、メタクリル酸がより好ましく、アクリル酸がさらに好ましい。
【0048】
官能基含有モノマー由来の構成単位は、官能基を含有するアクリル系共重合体の全構成単位中、1質量%以上であることが好ましく、5質量%以上であることがより好ましい。一方、官能基含有モノマー由来の構成単位は、30質量%以下であることが好ましく、15質量%以下であることがより好ましい。
【0049】
官能基含有アクリル系重合体の重量平均分子量(Mw)は、塗工時の造膜性の観点から1万~200万であることが好ましく、10万~150万であることがより好ましい。なお、本明細書における重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法により測定したポリスチレン換算の値である。
【0050】
また、官能基を含有するアクリル系重合体は、上述したアルキル(メタ)アクリレートおよび官能基含有モノマー以外の構成モノマーを含有していてもよい。具体的には、シクロアルキル基の炭素数が1~20程度のシクロアルキル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレートなどの環状骨格を有する(メタ)アクリレート;アクリルアミド、N-メチルアクリルアミド、N,N-ジメチルアクリルアミドなどのアクリルアミド化合物;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニルなどのビニルエステル化合物;エチレン、プロピレン、イソブチレンなどのオレフィン;塩化ビニル、ビニリデンクロリドなどのハロゲン化オレフィン;スチレン、α-メチルスチレンなどのスチレン系単量体;ブタジエン、イソプレン、クロロプレンなどのジエン系単量体;アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどのニトリル系単量体などが挙げられる。
【0051】
(1.2.2.架橋剤)
架橋剤としては、粘着剤層が上記の特性を満足することが容易な架橋構造を形成可能な架橋剤であれば特に制限されない。本実施形態では、このような架橋構造として、比較的に緩く架橋した構造を主として形成し、当該構造中に、部分的に比較的に強く架橋した構造を存在させている。比較的に緩く架橋した構造の一部が、比較的に強く架橋した構造となっていることにより、上記の粘着剤層の物性を満足させることが容易となる。
【0052】
このような架橋構造を形成するため、官能基を含有するアクリル系共重合体に対する架橋剤として、少なくとも2種類の架橋剤を用いる。このようにすることにより、架橋構造中に、比較的に緩く架橋した構造と、比較的に強く架橋した構造と、を共存させることが容易となる。
【0053】
具体的には、比較的に緩く架橋した構造を形成する架橋剤として、ポリイソシアネート系架橋剤を用い、比較的に強く架橋した構造を形成する架橋剤として、エポキシ系架橋剤を用いることが好ましい。
【0054】
これらの架橋剤は、官能基含有アクリル系重合体中の官能基と反応して、官能基含有アクリル系重合体を架橋する。ポリイソシアネート系架橋剤とエポキシ系架橋剤とでは、架橋の程度が異なっており、これらの架橋剤を用いることにより、エネルギー線照射前のゲル分率および損失正接と、エネルギー線照射後の粘着力とを両立可能な架橋構造を形成することができる。すなわち、得られる架橋構造の架橋の程度を好ましい範囲に制御することができる。
【0055】
ポリイソシアネート系架橋剤は、1分子当たりイソシアネート基を2個以上有する化合物である。具体的には、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート等の芳香族ポリイソシアネート;ヘキサメチレンジイソシアネート等の脂肪族ポリイソシアネート;イソホロンジイソシアネート、水素添加ジフェニルメタンジイソシアネート等の脂環式ポリイソシアネートなどが挙げられる。また、それらのビウレット体、イソシアヌレート体、さらには、それらとエチレングリコール、プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパン、ヒマシ油等の低分子活性水素含有化合物との反応物であるアダクト体などが挙げられる。ポリイソシアネート系架橋剤は、1種のみが含まれていてもよいし、2種以上が含まれていてもよい。
【0056】
エポキシ系架橋剤としては、たとえば、1,3-ビス(N,N’-ジグリシジルアミノメチル)シクロヘキサン、N,N,N’,N’-テトラグリシジル-m-キシレンジアミン、エチレングリコールジグリシジルエーテル、1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンジグリシジルエーテル、ジグリシジルアニリン、ジグリシジルアミン等が挙げられる。エポキシ系架橋剤は、1種のみが含まれていてもよいし、2種以上が含まれていてもよい。
【0057】
ポリイソシアネート系架橋剤の含有量は、官能基含有アクリル系共重合体100質量部に対し、5質量部以上であることが好ましい。一方、当該含有量は15質量部以下であることが好ましい。
【0058】
また、エポキシ系架橋剤の含有量は、官能基含有アクリル系共重合体100質量部に対し、0.01質量部以上であることが好ましく、0.03質量部以上であることがより好ましい。一方、当該含有量は0.5質量部以下であることが好ましく、0.3質量部以下であることがより好ましく、0.1質量部以下であることがさらに好ましい。
【0059】
ポリイソシアネート系架橋剤およびエポキシ系架橋剤の含有量が上記の範囲内にあると、半導体ウエハおよびリングフレームに対するエネルギー線照射前の半導体加工用粘着テープの粘着力を調整することが容易となる。また、半導体加工用粘着テープの製造後、過度に長い養生期間を要することなく粘着特性が安定する。
【0060】
また、本実施形態では、架橋構造のゲル分率、すなわち、官能基含有アクリル系重合体と架橋剤とから形成される架橋構造のゲル分率が、70%以上95%以下であることが好ましい。上述した粘着剤層のゲル分率は、架橋構造だけでなく、比較的に低分子量であるエネルギー線硬化性樹脂も考慮されたゲル分率であるため、エネルギー線硬化性樹脂の量および分子量に左右される。たとえば、低分子量のエネルギー線硬化性樹脂が多く含まれていると、粘着剤層のゲル分率は低くなる傾向にある。一方、架橋構造のゲル分率は、エネルギー線硬化性樹脂の影響を排除しているので、架橋の程度をより反映していると考えられる。本実施形態では、架橋構造のゲル分率は、粘着剤層のゲル分率よりも大きいことが好ましい。
【0061】
(1.2.3.エネルギー線硬化性樹脂)
エネルギー線硬化性樹脂は、分子内に、エネルギー線照射により硬化可能な不飽和基を有する樹脂である。このような不飽和基としては、(メタ)アクリロイル基、ビニル基等が例示される。
【0062】
本実施形態では、エネルギー線硬化性樹脂は、低分子量化合物(単官能型、多官能型のモノマーおよびオリゴマー)であることが好ましい。また、上記の架橋構造は熱架橋により形成されるので、エネルギー線照射前の粘着力を確保するために、エネルギー線硬化性樹脂は熱架橋しにくいものが好ましい。
【0063】
このような低分子量のエネルギー線硬化性樹脂としては、トリメチロールプロパントリアクリレート、テトラメチロールメタンテトラアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ジペンタエリスリトールモノヒドロキシペンタアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、1,4-ブチレングリコールジアクリレート、1,6-ヘキサンジオールジアクリレート、あるいは、ジシクロペンタジエンジメトキシジアクリレート、イソボルニルアクリレートなどの環状脂肪族骨格含有アクリレート;ポリエチレングリコールジアクリレート、オリゴエステルアクリレート、ウレタンアクリレートオリゴマー、エポキシ変性アクリレート、ポリエーテルアクリレート、イタコン酸オリゴマーなどのアクリレート系化合物等が例示される。これらは1種でもよいし、2種以上であってもよい。
【0064】
これらの中でも、多官能型モノマーまたはオリゴマーであることがより好ましく、多官能型ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーであることが特に好ましい。
【0065】
エネルギー線硬化性樹脂の分子量(オリゴマーの場合は重量平均分子量)は、500以上であることが好ましく、1000以上であることがより好ましい。一方、当該分子量は10000以下であることが好ましく、7000以下であることがより好ましく、5000以下であることがさらに好ましく、3000以下であることが特に好ましい。エネルギー線硬化性樹脂の分子量が上記の範囲内であることで、エネルギー線照射前には、所定の粘着力を有し、エネルギー線照射後には、リングフレームから剥離可能な程度に粘着力を低下させることが容易となる。
【0066】
また、比較的低分子量(2000未満)のエネルギー線硬化性樹脂と比較的高分子量(2000以上)のエネルギー線硬化性樹脂とを併用することにより、エネルギー線照射前の粘着力とエネルギー線照射後の粘着力との調整が容易となる。
【0067】
エネルギー線硬化性樹脂の含有量は、官能基含有アクリル系共重合体100質量部に対し、50質量部以上であることが好ましく、100質量部以上であることがより好ましい。一方、当該含有量は250質量部以下であることが好ましく、200質量部以下であることがより好ましい。エネルギー線硬化性樹脂の含有量が上記の範囲内であることで、エネルギー線照射前には、所定の粘着力を有し、エネルギー線照射後には、リングフレームから剥離可能な程度に粘着力を低下させることが容易となる。
【0068】
粘着剤層を硬化させるためのエネルギー線としては、紫外線、電子線などが挙げられる。これらのうちでも、比較的照射設備の導入の容易な紫外線が好ましい。
【0069】
紫外線を用いる場合には、取り扱いの容易さから波長200~380nm程度の紫外線を含む近紫外線を用いることが好ましい。光量としては、粘着剤層が有するエネルギー線硬化性基の種類や、半導体加工用粘着テープの厚さに応じて適宜選択すればよく、通常50~500mJ/cm程度であり、100~450mJ/cmが好ましく、200~400mJ/cmがより好ましい。また、紫外線照度は、通常50~500mW/cm程度であり、100~450mW/cmが好ましく、200~400mW/cmがより好ましい。紫外線源としては特に制限はなく、例えば高圧水銀ランプ、メタルハライドランプ、UV-LEDなどが用いられる。
【0070】
(1.2.4.その他の成分)
また、粘着剤層は、その他の成分として、染料、顔料、劣化防止剤、帯電防止剤、難燃剤、シリコーン化合物、連鎖移動剤、可塑剤、光重合開始剤等を含有してもよい。
【0071】
粘着剤層が、エネルギー線硬化性樹脂を含む場合、光重合開始剤を含有させることにより、硬化が十分行われ、エネルギー線照射後の粘着力をリングフレームから良好に剥離可能な程度まで下げることができる。
【0072】
光重合開始剤としては、ベンゾイン化合物、アセトフェノン化合物、アシルフォスフィンオキサイド化合物、チタノセン化合物、チオキサントン化合物、パーオキサイド化合物等の光開始剤、アミンやキノン等の光増感剤などが挙げられる。具体的には、α-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンジルジフェニルサルファイド、テトラメチルチウラムモノサルファイド、アゾビスイソブチロニトリル、ジベンジル、ジアセチル、β-クロールアンスラキノン、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイドなどが例示される。エネルギー線として紫外線を用いる場合には、光重合開始剤を配合することにより照射時間、照射量を少なくすることができる。
【0073】
(1.3.基材)
本実施形態に係る半導体加工用粘着テープ1の基材10は、半導体ウエハの加工時において、グラインダーとリングフレームとが接触しない程度に伸び、かつ粘着テープが破断しない材料から構成されていれば特に制限されない。
【0074】
具体的には、エチレン-酢酸ビニル共重合体フィルム、エチレン-(メタ)アクリル酸共重合体フィルム、エチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体フィルム等のエチレン系共重合体フィルム;低密度ポリエチレン(LDPE)フィルム、直鎖低密度ポリエチレン(LLDPE)フィルム、高密度ポリエチレン(HDPE)フィルム等のポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリブテンフィルム、ポリブタジエンフィルム、ポリメチルペンテンフィルム、エチレン-ノルボルネン共重合体フィルム、ノルボルネン樹脂フィルム等のポリオレフィン系フィルム;ポリ塩化ビニルフィルム、塩化ビニル共重合体フィルム等のポリ塩化ビニル系フィルム;ポリウレタンフィルムなどが挙げられる。
【0075】
また、これらの架橋フィルム、アイオノマーフィルムのような変性フィルムも用いることができる。上記の基材10はこれらの1種からなるフィルムでもよいし、これらを2種類以上組み合わせた積層フィルムであってもよい。
【0076】
また、基材10において、粘着剤層20が形成される面には、コロナ処理が施されていてもよいし、プライマー層が設けられていてもよい。
【0077】
本実施形態では、基材10を構成するフィルムは、エチレン系共重合体フィルムおよびポリオレフィン系フィルムから選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0078】
基材10の厚さは、本実施形態に係る半導体加工用粘着テープ1が本発明の効果を奏する限りにおいて限定されない。本実施形態では、好ましくは20μm以上450μm以下、より好ましくは25μm以上400μm以下、特に好ましくは50μm以上350μm以下の範囲にある。
【0079】
(2.半導体加工用粘着テープの製造方法)
本実施形態に係る半導体加工用粘着テープを製造する方法は、基材の一方の面に粘着剤層を形成できる方法であれば特に制限されず、公知の方法を用いればよい。
【0080】
まず、粘着剤層を形成するための組成物として、たとえば、上述した構成成分(官能基含有アクリル系重合体、架橋剤、エネルギー線硬化性樹脂)を含有する粘着剤組成物、または、当該粘着剤組成物を溶媒等により希釈した組成物を調製する。
【0081】
溶媒としては、たとえば、メチルエチルケトン、アセトン、酢酸エチル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、シクロヘキサン、n-ヘキサン、トルエン、キシレン、n-プロパノール、イソプロパノール等の有機溶剤が挙げられる。
【0082】
そして、この粘着剤組成物等を、基材上に、スピンコート法、スプレーコート法、バーコート法、ナイフコート法、ロールコート法、ブレードコート法、ダイコート法、グラビアコート法等の公知の方法により塗布し、加熱し乾燥させて基材上に粘着剤層を形成する。あるいは、剥離シートの剥離処理面に、粘着剤組成物等を塗布し、加熱し乾燥させて剥離シート上に粘着剤層を形成し、その後、その剥離シート上の粘着剤層と基材とを貼り合わせて、基材上に、粘着剤層、及び剥離シートがこの順に設けられた半導体加工用粘着テープを製造してもよい。
【0083】
塗布後の乾燥条件としては、たとえば、80~150℃の温度で30秒~5分間加熱すればよい。粘着剤組成物等が架橋剤を含有する場合には、加熱により架橋反応が生じるので、架橋反応を十分に進行させるために、上記の乾燥の条件(温度、時間など)を変えてもよいし、加熱処理を別途設けてもよい。さらに、通常、基材10に粘着剤層20を形成した後、得られた半導体加工用粘着テープを、たとえば23℃、相対湿度50%の環境に1週間程度静置する養生を行う。
【0084】
(3.半導体装置の製造方法)
本実施形態に係る半導体加工用粘着テープを用いた半導体装置の製造方法の一例として、半導体ウエハから半導体装置としての回路が形成された半導体チップを製造する方法を図2Aから図2Fを用いて説明する。
【0085】
まず、図2Aに示すように、半導体ウエハ50の回路が形成された面(表面50a)とリングフレーム60とを半導体加工用粘着テープ1の粘着剤層の一方の主面に貼付して、回路面を保護しつつ、半導体ウエハ50を、半導体加工用粘着テープ1を介してリングフレーム60に固定する。
【0086】
半導体ウエハは、シリコンウエハであってもよく、またガリウム・砒素などの化合物半導体ウエハであってもよい。また、回路を形成する方法は公知の方法を採用すればよい。所定の回路が形成された半導体ウエハの研削前の厚みは特に限定はされないが、通常は500~1000μm程度である。
【0087】
続いて、半導体ウエハが、研削装置のチャックテーブル上に載置され、リングフレームが研削装置に固定される。このとき、図2Bに示すように、研削装置において、グラインダー70とリングフレーム60との接触を防止するために、リングフレーム60側を押し下げる、あるいは、チャックテーブル75側を押し上げる。これに伴い、半導体加工用粘着テープ1は伸び、この状態で半導体ウエハ50の裏面50bがグラインダー70により研削される。
【0088】
半導体ウエハ50が所定の厚みまで研削されると、裏面研削が終了し、リングフレーム60側またはチャックテーブル75側が当初の位置に戻り、半導体加工用粘着テープ1の伸びが開放される。
【0089】
裏面研削後、半導体加工用粘着テープにエネルギー線を照射し、粘着剤を硬化させ、粘着力を低下させて、回路面から半導体加工用粘着テープを剥離してもよいが、本実施形態では、半導体加工用粘着テープがリングフレームおよび半導体ウエハに貼り付けられた状態で、ダイシング工程に搬送する。すなわち、半導体加工用粘着テープがバックグラインドテープだけでなく、ダイシングテープも兼ねる。
【0090】
ダイシング工程では、半導体ウエハを複数の半導体チップに個片化する。個片化する方法としては、公知の方法を採用することができる。たとえば、図2Cに示すように、ダイサー等の回転刃80を用いて半導体ウエハ50の表面と裏面とを貫通する溝を形成することにより、半導体ウエハ50を切断して個片化する。個片化された半導体ウエハは半導体チップ51として得られる。
【0091】
次に、個片化された半導体ウエハ(すなわち、複数の半導体チップ)から、半導体加工用粘着テープを剥離する。
【0092】
まず、粘着テープ1の粘着剤層がエネルギー線硬化性樹脂を含む場合には、図2Dに示すように、エネルギー線照射源90からエネルギー線を照射して粘着剤層を硬化して、粘着剤層の粘着力を低下させる。次いで、図2Eに示すように、複数の半導体チップ51の裏面51b側およびリングフレーム60に、ピックアップテープ100を貼付する。次いで、図2Fに示すように、ピックアップテープ100上に保持された複数の半導体チップ51から半導体加工用粘着テープを剥離して、半導体チップの回路面51aを露出させる。
【0093】
その後、ピックアップテープ上にある複数の半導体チップを公知の方法によりピックアップし基板等の上に固定して、半導体装置を製造する。
【0094】
なお、上記では、半導体ウエハの裏面研削後にダイシング工程を行っているが、いわゆる先ダイシング工程を行ってもよい。具体的には、半導体ウエハの回路形成面(表面)に、ウエハ厚さよりも浅い切込み深さの溝を形成した後、当該回路形成面とリングフレームとに対して、半導体加工用粘着テープを貼付する。そして、上記と同様に、半導体ウエハの裏面研削をすることでウエハの厚みを薄くするとともに、研削面が切り込みまで達することにより半導体ウエハを個片化してもよい。
【0095】
(4.本実施形態における効果)
リングフレームと半導体ウエハとが同じ面に貼り付けられる粘着剤層には、半導体ウエハの加工時に求められる特性と、半導体ウエハの加工後に求められる特性とがある。
【0096】
そこで、本実施形態では、半導体ウエハの加工時に求められる特性として、エネルギー線照射前の粘着剤層のゲル分率および損失正接に着目し、これらを特定の範囲内に制御している。一方、半導体ウエハの加工後に求められる特性として、エネルギー線照射後の粘着力に着目し、これを特定の範囲内に制御している。
【0097】
その結果、本実施形態に係る半導体加工用粘着テープは、半導体ウエハの加工時には弛みが抑制され、半導体ウエハの加工後にリングフレームから当該粘着テープを剥離する際にも良好な剥離性を示すことができる。
【0098】
このような特性を実現する粘着剤層の一例として、上述したように、エネルギー線硬化性樹脂と所定の架橋構造とを粘着剤層に存在させている。また、所定の架橋構造は、2種類の架橋剤を用いることにより容易に得ることができる。
【0099】
以上、本発明の実施形態について説明してきたが、本発明は上記の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の範囲内において種々の態様で改変しても良い。
【実施例
【0100】
以下、実施例を用いて、発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0101】
本実施例における測定方法および評価方法は以下の通りである。
【0102】
(ゲル分率)
表1に示す組成の粘着剤を剥離シート上に塗工、乾燥した。塗工してから7日後の粘着剤を0.3g計量し、♯200メッシュに包み込んで23℃条件下で酢酸エチル中に1日間浸漬した。浸漬後メッシュを取り出し、100℃にて2時間乾燥後、23℃50RHの環境下で1時間調湿した後、粘着剤の重量を測定した。ゲル分率(%)は、下記の式から算出した。
((浸漬前粘着剤重量-浸漬後粘着剤重量)/浸漬前粘着剤重量)×100
【0103】
また、実施例4および比較例1については、粘着剤からエネルギー線硬化性樹脂を除去した組成の粘着剤を剥離シート上に塗工、乾燥した。塗工してから7日後の粘着剤について、上記と同じ方法によりゲル分率を測定した。
【0104】
(エネルギー線照射後の粘着力)
粘着力の測定方法を規定するJIS Z0237に準じ、次の手順により測定した。23℃、50RH%の環境下で、2kgゴムローラーを用いて、粘着シートを被着体であるステンレス鋼(SUS304)製鏡面板(算術平均粗さRa=0.05μm)に貼付した。50℃条件下において7日間経過後、リンテック社製紫外線照射装置(RAD-2000m/12)を用いて、基材側から照度230mW/cm、積算光量500mJ/cmの照射条件で紫外線を照射し、粘着剤層を硬化させた。粘着剤層を硬化させた粘着シートを、島津製作所製万能型引張試験機(オートグラフAG-IS)を用いて剥離角度180°、剥離速度300mm/minで、ステンレス鋼(SUS304)製鏡面板から剥離して、粘着力を測定した。得られた値をエネルギー線照射後の粘着力とした。
【0105】
(損失正接)
粘着剤層 (厚み1000μm)の両面にPET系剥離フィルム(リンテック社製:SP-PET381031、厚み:38μm)が貼付された積層体を調製した。次に、得られた積層体を8mmφ×3mmの円柱にカットし、損失正接を測定するための試料を得た。粘弾性測定装置(TA Instruments社製:ARES)を使用して、上記の試料に周波数1Hzのひずみを与え、0~100℃の貯蔵弾性率G’および損失弾性率G’’を測定し、それらの値から50℃における損失正接tanδを算出した。
【0106】
(テープ弛み)
8インチウエハ用SUS304製リングフレームと、4インチのシリコンウエハとに、実施例および比較例の半導体加工用粘着テープをRAD-2700で貼付した。研削装置に、リングフレームとシリコンウエハとに貼り付けられた半導体加工用粘着テープを載置し、リングフレームを下方に4mmまで押し下げ、半導体加工用粘着テープを伸ばした。その後、リングフレームの押し下げを解除し、5分後に弛みの大きさを測定し、以下の基準でテープの弛みを評価した。
○:弛みなし
△:弛みがあるが実用上問題なし
×:弛みがあり実用上問題あり
【0107】
(リングフレームからの剥離)
次に、リングフレームを押し下げた状態で、シリコンウエハを仕上げ厚150μmとなるように研削した。研削後、リングフレームの高さを元に戻し、紫外線照射(照度:230mW/cm、光量:190mJ/cm)を行ったのち、半導体加工用粘着テープをリングフレームから剥離し、リングフレームからの剥離状態を以下の基準で評価した。
○:剥離不良無し
△:剥離不良発生 (重剥離化)
×:剥離不良発生 (リングフレームへテープが固着)
【0108】
(実施例1)
(粘着剤組成物の調製)
ブチルアクリレート(BA)91質量部と、アクリル酸(AA)9質量部とを共重合し、官能基含有アクリル系共重合体(重量平均分子量:70万)を得た。得られたアクリル系重共重合体100質量部(固形分換算、以下同じ)と、トリレンジイソシアネート系架橋剤(トーソー社製,製品名「コロネートL」)9質量部と、ポリグリシジルアミン系化合物(三菱ガス化学社製,TETRAD-C)0.045質量部と、多官能型ウレタンアクリレートオリゴマーA(セイカビームEXL-810TL:Mw=5000)127質量部と、多官能型ウレタンアクリレートオリゴマーB(シコウUV-5806:Mw=1740)40質量部と、を溶媒としてのメチルエチルケトン中で混合し、固形分の含有量が35質量%である粘着剤組成物を得た。
【0109】
(半導体加工用粘着テープの製造)
剥離シート(リンテック社製,SP-PET381031)の剥離面上に、上記の粘着剤組成物を塗布した。次いで、加熱による乾燥を行い、架橋反応を進行させ、粘着剤組成物の塗膜を粘着剤層とした。この粘着剤層の厚さは15μmであった。その後、得られた剥離シート上の粘着剤層と、基材として一方の面がコロナ処理されたエチレン-メタクリル酸共重合体(EMAA)フィルム(厚さ:80μm)のコロナ処理面とを貼合することで、半導体加工用粘着テープを得た。
【0110】
(実施例2~5、比較例1および2)
粘着剤の組成を表1に示す組成とした以外は、 実施例1と同じ方法により、半導体加工用粘着テープを得た。
【0111】
【表1】
【0112】
得られた試料(実施例1~5、比較例1および2)に対して、上記の測定および評価を行った。結果を表2に示す。なお、実施例1において、粘着剤からエネルギー線硬化性樹脂を除去した組成の粘着剤のゲル分率は75%であり、実施例4において、粘着剤からエネルギー線硬化性樹脂を除去した組成の粘着剤のゲル分率は85%であった。また、比較例1において、粘着剤からエネルギー線硬化性樹脂を除去した組成の粘着剤のゲル分率は55%であった。
【0113】
【表2】
【0114】
表2より、ゲル分率および損失正接が上述した範囲内である場合には、テープの弛みが良好であることが確認できた。また、紫外線照射後の粘着力が上述した範囲内である場合には、リングフレームからの剥離性が良好であることが確認できた。
【0115】
また、実施例1および4より、架橋構造のゲル分率は、粘着剤層のゲル分率よりも非常に高いことが確認できた。すなわち、実施例に係る半導体加工用粘着テープの粘着剤層には、見掛けのゲル分率よりも強く架橋した架橋構造が存在することが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0116】
本発明の半導体加工用粘着テープは、たとえば、リングフレームと半導体ウエハとに貼り付けられた状態での半導体ウエハの加工に好適に使用することができる。
【符号の説明】
【0117】
1…粘着シート
10…基材
20…粘着剤層
図1
図2A
図2B
図2C
図2D
図2E
図2F