IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社東芝の特許一覧 ▶ 東芝電機サービス株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-真空バルブ 図1
  • 特許-真空バルブ 図2
  • 特許-真空バルブ 図3
  • 特許-真空バルブ 図4
  • 特許-真空バルブ 図5
  • 特許-真空バルブ 図6
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-15
(45)【発行日】2023-12-25
(54)【発明の名称】真空バルブ
(51)【国際特許分類】
   H01H 33/664 20060101AFI20231218BHJP
【FI】
H01H33/664 D
H01H33/664 C
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020005797
(22)【出願日】2020-01-17
(65)【公開番号】P2021114386
(43)【公開日】2021-08-05
【審査請求日】2022-11-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】598076591
【氏名又は名称】東芝インフラシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001737
【氏名又は名称】弁理士法人スズエ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 遥
(72)【発明者】
【氏名】吉田 剛
(72)【発明者】
【氏名】近藤 淳一
【審査官】関 信之
(56)【参考文献】
【文献】実開昭49-103553(JP,U)
【文献】特開2003-123600(JP,A)
【文献】特開平9-245589(JP,A)
【文献】特開2009-032481(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01H 33/664
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁材で筒状に構成され、筒軸方向の両端に開口部をそれぞれ有する絶縁容器と、
前記絶縁容器に収容され、接離可能な一対の電極と、
前記開口部にそれぞれ接合され、前記絶縁容器を閉塞する封着金具と、を備え、
前記電極は、通電部分である基部と、前記基部に形成されたスリット部と、前記スリット部に隣接して配置されて前記基部を補強する補強部と、を有し、
前記補強部は、前記基部の外周面上に広がるように前記基部と一体をなして形成されている
真空バルブ。
【請求項2】
絶縁材で筒状に構成され、筒軸方向の両端に開口部をそれぞれ有する絶縁容器と、
前記絶縁容器に収容され、接離可能な一対の電極と、
前記開口部にそれぞれ接合され、前記絶縁容器を閉塞する封着金具と、を備え、
前記電極は、通電部分である基部と、前記基部に形成されたスリット部と、前記スリット部に隣接して配置されて前記基部を補強する補強部と、を有し、
前記基部は、導電性を有する金属で構成され、
前記補強部は、前記基部を構成する金属と、これとは異なる金属との合金で構成されている
真空バルブ。
【請求項3】
絶縁材で筒状に構成され、筒軸方向の両端に開口部をそれぞれ有する絶縁容器と、
前記絶縁容器に収容され、接離可能な一対の電極と、
前記開口部にそれぞれ接合され、前記絶縁容器を閉塞する封着金具と、を備え、
前記電極は、通電部分である基部と、前記基部に形成されたスリット部と、前記スリット部に隣接して配置されて前記基部を補強する補強部と、を有し、
前記スリット部は、一対の前記電極のうち一方における他方との離接側で外部に開口する始点から連続し、一方の前記電極の前記基部内の終点で突き当たり、
前記補強部は、前記終点およびその近傍を前記スリット部の連続方向および幅方向に取り囲んで配置されている
真空バルブ。
【請求項4】
絶縁材で筒状に構成され、筒軸方向の両端に開口部をそれぞれ有する絶縁容器と、
前記絶縁容器に収容され、接離可能な一対の電極と、
前記開口部にそれぞれ接合され、前記絶縁容器を閉塞する封着金具と、を備え、
前記電極は、通電部分である基部と、前記基部に形成されたスリット部と、前記スリット部に隣接して配置されて前記基部を補強する補強部と、を有し
前記補強部は、前記基部の電気抵抗値に基づいて設定された範囲内に配置されている
真空バルブ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、真空バルブに関する。
【背景技術】
【0002】
金属閉鎖形スイッチギヤが備える真空遮断器は、接点同士を離接させ、電極を導電状態または絶縁状態に適宜切り換えて電流を遮断する真空バルブを有している。真空バルブが電流を遮断する際に真空アークが発生すると、発生した真空アークには電流と磁力線によって軸芯方向に働く電磁ピンチ力が作用する。例えば、大容量の真空バルブは、電磁ピンチ力の影響を受けて真空アークが接点表面の狭い範囲に集中しやすい。真空アークの集中によって接点材料が溶融蒸発した場合、その損耗の程度によっては接点が機能を十分に果たせなくなるおそれがある。
【0003】
このため、真空アークの集中を抑えるべく、従来から種々のバルブ構造が提案されている。例えば、接点に平面的なスリットを入れ、螺旋状の電流パスを形成することで電磁力を生じさせ、真空アークを引き回すスパイラル電極の構造が挙げられる。あるいは、接点の下の電極に三次元的なスリットを形成することで電磁力を生じさせ、集中アークを分散させる縦磁界電極の構造が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平8-222089号公報
【文献】特開平9-245589号公報
【文献】特開昭63-4519号公報
【文献】特開昭61-245426号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したような集中アークを抑えるための構造では、いずれも所望の電磁力を生じさせる電流パスを形成することを目的として、複数のスリットが形成されている。これらのスリットは、材料力学的には両端支持梁の構造をなしているため、例えば真空バルブの接点の開閉動作時の衝撃により、スリットの根元部位およびその近傍(以下、根元部分という)を支点として撓んで振動する。スリットの根元部分は、それ以外の部分と比べて曲率が大きく、振動による疲労破壊の起点となりやすい。
【0006】
また、一般的な真空バルブは真空ろう付けで製造されるため、真空バルブを構成する金属部材は、いずれも600℃から900℃程度の高温に曝される。その結果、金属部材は、焼き鈍されて軟化した状態と同等となり、一般的な金属加工品よりも疲労破壊に対する耐性が乏しい状態となりやすい。
【0007】
これらが要因となり、接点が開閉動作を多数回に亘って繰り返した場合には、スリットが疲労破壊するおそれがある。このため、このような場合であっても、スリットの疲労破壊を適切に抑止することが求められている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
実施形態の真空バルブは、絶縁材で筒状に構成され、筒軸方向の両端に開口部をそれぞれ有する絶縁容器と、絶縁容器に収容され、接離可能な一対の電極と、開口部にそれぞれ接合され、絶縁容器を閉塞する封着金具とを備える。電極は、通電部分である基部と、基部に形成されたスリット部と、スリット部に隣接して配置されて基部を補強する補強部とを有する。補強部は、基部の外周面上に広がるように基部と一体をなして形成されている。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施形態の真空バルブの概略的な構成を示す筒軸(軸芯)を含む一平面での断面図。
図2】実施形態の真空バルブにおける電極の構成を概略的に示す図。
図3】実施形態の真空バルブの電極における補強部の形成範囲を概略的に示す図。
図4】補強部の形成範囲の第1の変形例を概略的に示す図。
図5】補強部の形成範囲の第2の変形例を概略的に示す図。
図6】補強部の形成範囲の第3の変形例を概略的に示す図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、実施形態に係る真空バルブについて、図1から図6を参照して説明する。真空バルブは、例えば電力の配送電系統における電路の保護、電力の制御、設備の監視などを目的に設置される金属閉鎖形スイッチギヤの真空遮断器などに備えられ、電流を遮断するスイッチとして利用される。
【0011】
図1は、本実施形態の真空バルブ1の概略的な構成を示す図であって、後述する筒軸(軸芯C)を含む一平面での断面図である。なお、以下の説明においては、図1に矢印UPで示す方向を上、その反対方向を下としてそれぞれ規定する。これらの方向は、真空バルブが実装された状態での方向と一致していればよいが、異なっていてもよい。
【0012】
図1に示すように、真空バルブ1は、絶縁容器2と、封着金具3と、通電軸4と、電極5と、接点6とを備えている。
【0013】
絶縁容器2は、絶縁材で筒状に構成され、筒軸(軸芯C)方向の両端に開口部21(第1の開口部21aおよび第2の開口部21b)をそれぞれ有している。絶縁材としては、アルミナ(Al)等のセラミック、ガラスなどを適用できるが、これらに限定されない。開口部21は、封着金具3で閉塞されている。具体的には、第1の開口部21aが第1の封着金具3aで閉塞され、第2の開口部21bが第2の封着金具3bで閉塞されている。封着金具3は、アルミニウムやステンレス鋼(SUS)などの金属材料で形成可能である。ただし、素材はこれらに限定されない。封着金具3は、例えば略円板状をなし、周縁部が絶縁容器2の軸芯C方向の端部に接合され、軸芯Cと同軸状に配置されている。
【0014】
封着金具3と絶縁容器2との接合部分30a,30bは、導電部位であり、絶縁部位である絶縁容器2および真空部位である絶縁容器2の内部22と相互に接する部分(三重合点)に相当する。したがって、真空バルブ1に電圧が印加された際、三重合点の電界強度は、他の部位に比べて高くなる。このため、封着金具3には、三重合点の電界強度を緩和させる電界緩和シールド7a,7bが設けられている。電界緩和シールド7a,7bは、筒状に構成され、絶縁容器2の内部22に三重合点と対向して配置されている。電界緩和シールド7a,7bの筒軸は、絶縁容器2の軸芯Cと同軸状に伸びている。
【0015】
電界緩和シールド7a,7bは、例えばアルミニウムやステンレス鋼(SUS)などの金属材料で形成可能である。ただし、素材はこれらに限定されない。電界緩和シールド7a,7bは、例えば銀、金、銅などにより封着金具3(第1の封着金具3aおよび第2の封着金具3b)にろう付けされ、封着金具3から絶縁容器2の内部22に突出している。図1に示す例では、電界緩和シールド7a,7bの突出端は、全周に亘って縮径するように湾曲して折り返されている。
【0016】
通電軸4は、導電材、例えば銅(無酸素銅)、アルミニウム、クロムなどで形成可能である。ただし、素材はこれらに限定されない。通電軸4は、絶縁容器2の軸芯Cと同軸状に一対をなして配置された第1の通電軸4aおよび第2の通電軸4bにより構成されている。
【0017】
第1の通電軸4aは、電極5(具体的には後述する固定電極5a)から第1の封着金具3aへ向けて伸び、第1の封着金具3aの孔部31aから絶縁容器2の外部へ突出している。孔部31aは、第1の封着金具3aの中心部を貫通している。第1の通電軸4aは、孔部31aにおいて第1の封着金具3aと接合され、第1の封着金具3a、端的には真空バルブ1における位置が固定されている。
【0018】
第2の通電軸4bは、電極5(具体的には後述する可動電極5b)から第2の封着金具3bへ向けて伸び、第2の封着金具3bの孔部31bから絶縁容器2の外部へ突出している。孔部31bは、第2の封着金具3bの中心部を貫通している。第2の通電軸4bは、後述する可動電極5bとともに軸芯C方向へ進退する。したがって、第2の通電軸4bと孔部31bとの間には、孔部31bにおいて第2の通電軸4bの変位(軸芯C方向への進退)を許容する空隙Sが形成されている。換言すれば、第2の通電軸4bの軸径は、孔部31bの孔径よりも小さい。第2の通電軸4bには、第2の通電軸4bを軸芯C方向へ進退可能に支持するベローズ8が取り付けられている。
【0019】
ベローズ8は、軸芯C方向へ伸縮可能な蛇腹状に構成されている。ベローズ8の一端8aは、第2の封着金具3bに接合されている。ベローズ8の他端8bは、他端8bを覆うベローズカバー9を介して第2の通電軸4bに接合されている。ベローズカバー9は、アークによって飛散する金属溶融物のベローズ8への付着を抑制するとともに、空隙Sを気密に封止する。これにより、ベローズカバー9は、封着金具3(第1の封着金具3a、第2の封着金具3b)およびベローズ8とともに、絶縁容器2の内部22を気密に保っている。絶縁容器2の内部22の圧力は、1×10-2Pa以下であることが好ましい。
【0020】
電極5は、通電軸4に支持され、封着金具3で閉塞された絶縁容器2に収容されている。電極5は、導電材、例えば銅(無酸素銅)、アルミニウム、クロムなどで形成可能である。ただし、素材はこれらに限定されない。
【0021】
電極5は、一対をなす固定電極5aと可動電極5bを含んで構成されている。固定電極5aは、第1の通電軸4aに接続され、絶縁容器2に対して位置が変動(変位)しない。可動電極5bは、第2の通電軸4bに接続され、固定電極5aに対して接離可能に変位(本実施形態では上下動)する。
【0022】
固定電極5aと可動電極5bの周囲には、これらの電極5a,5bを取り囲むように筒状のアークシールド10が配置されている。アークシールド10は、開極状態において固定電極5aと可動電極5bの間にアークが生じた際、アークによって溶融した金属が飛散するのを防ぎ、金属溶融物が内周面23に付着して絶縁容器2の絶縁性能が低下することを抑制する。アークシールド10は、例えばステンレス鋼(SUS)や銅などで形成可能であるが、これらに限定されない。アークシールド10は、外周面101から絶縁容器2に向けて突出する突起102を有している。突起102は、例えば外周面101の全周に亘って連続し、絶縁容器2の内周面23に接合されている。
【0023】
接点6は、一対をなす第1の接点6aと第2の接点6bを含んで構成され、これらが接合部11を介して電極5にそれぞれ接合されている。接点6は、導電性を有する合金、例えば銅クロムなどで形成可能である。接合部11は、接点6よりも電気抵抗が小さな素材、例えば電極5と同一素材の一つである銅などで形成可能である。ただし、接点6および接合部11の素材は、これらに限定されない。
【0024】
第1の接点6aは、第1の接合部11aを介して固定電極5aに接続され、第2の接点6bは、第2の接合部11bを介して可動電極5bに接続されている。これにより、第1の接点6aと第2の接点6bは、対向配置され、固定電極5aに対して可動電極5bが変位することで離接する。接点6a,6bの離接により、固定電極5aと可動電極5bとの間が導電状態と絶縁状態に遷移される。導電状態は接点6a,6bが接触(閉極)した状態であり、絶縁状態は接点6a,6bが分離(開極)した状態である。絶縁状態には、接点6a,6bが接触して電極5a,5b間が閉じることで形成される回路の遮断状態や断路状態が含まれる。
【0025】
図2は、真空バルブ1における電極5の構成を概略的に示す図である。固定電極5aと可動電極5bは同様の構成であるため、図2には、一方の電極5(一例として可動電極5b)の構成を示す。
【0026】
図2に示すように、電極5は、基部51と、スリット部52と、補強部53とを有している。
【0027】
基部51は、接合部11に接続され、通電時に電極5の導体となる部分である。また、基部51は、電極5の外観形状(外形)を規定する部分であり、図2に示す例では略円柱状とされている。
【0028】
スリット部52は、基部51の外周面511と端面512との間を連通させる空隙(切れ目)であり、基部51の一部を切削するなどして形成されている。外周面511は、軸芯Cを中心とする基部51の周面である。端面512は、軸芯C方向における基部51の接点6(接合部11)側の端面であり、図2に示す例では上面である。すなわち、スリット部52は、軸芯C方向および軸芯Cを中心とした周方向の双方向と斜めに交差する方向(以下、スリット方向という)に連続している。スリット方向は、スリット部52の連続方向である。図2に示す例では、複数のスリット部52が軸芯Cを中心として回転対称となるように形成されている。したがって、各スリット部52は、軸芯Cを中心として回転対称となる三次元形状を有している。スリット部52の数は特に限定されないが、例えば四つもしくは五つ程度のスリット部52を、軸芯Cを中心として回転対称となるように等間隔で配置すればよい。
【0029】
図2に示す例において、スリット部52は、接点6側からみて始点52sから終点52eまで左巻きの螺旋状に連続している。始点52sは、スリット部52の接点6側の端部(基端部)であり、基部51の端面512に開口して(突き抜けて)いる。接点6側は、軸芯C方向において電極5が接点6と接続する側であり、図2に示す例では上側である。終点52eは、始点52sから連続するスリット部52の末端部、つまりスリット部52の通電軸4側の端部である。通電軸4側は、電極5が通電軸4と接続する側であり、図2に示す例では下側である。始点52sとは異なり、終点52eは、基部51の端面513に開口する(突き抜ける)ことなく、基部51内で突き当たって(行き止まって)おり、スリット部52の根元部分に相当する。スリット部52の根元部分には、終点52eのみならず、その近傍も含む。端面513は、軸芯C方向における基部51の通電軸4側(接点6側とは反対側)の端面であり、図2に示す例では下面である。
【0030】
スリット部52の幅52wは、始点52sから終点52eまで略一定とされている。幅52wは、基部51の外周面511上において、スリット方向と直交する方向へのスリット部52の差渡し寸法である。
【0031】
スリット部52の根元部分の外周面511上の縁形状(稜線形状)は、スリット方向において隅(角)がなく、なだらかな曲線状とされている。また、終点52eの突き当たり面521(図3参照)は、スリット方向へ凹曲状に窪んでいてもよい。加えて、終点52eおよびその近傍の稜線部分は、外周面511上、幅方向において隅(角)がない曲線状であってもよい。スリット部52の幅方向は、スリット方向と直交する方向(スリット部52の差渡し方向)である。すなわち、スリット部52の根元部分は、スリット方向、幅方向、深さ方向のいずれにも曲線状となる三次元的になだらかな形態であってもよい。スリット部52の深さ方向は、スリット方向および幅方向の双方と直交する方向であり、基部51の径方向に相当する。
【0032】
複数のスリット部52が形成されることで、基部51には、スリット部52以外の部分、例えば隣り合うスリット部52の間に複数のアーム部54が構成される。これらのアーム部54は、スリット部52と同様に、軸芯Cを中心として回転対称となる三次元形状を有している。上述したとおり、スリット部52の終点52eは、端面513に開口することなく、基部51において突き当たり面521(図3参照)で突き当たっている。このため、隣り合うスリット部52の間に構成されるアーム部54は、これらのスリット部52の根元部分を支点とするいわゆる片持ちばねのような構造をなす。
【0033】
電極5間が通電している導電状態である場合、電流は空隙であるスリット部52を通過せず、アーム部54を通過する。すなわち、アーム部54は、基部51における通電部分となっている。したがって、基部51、端的には電極5には、アーム部54に沿って螺旋状の電流が生じ、その周方向成分により軸芯C方向の縦磁界が印加される。このため、真空バルブ1が電流を遮断する際に真空アークが発生した場合であっても、印加された縦磁界によって真空アークを分散させることができる。
【0034】
補強部53は、基部51を補強する部分であり、スリット部52に隣接して配置されている。例えば、補強部53は、基部51と比べて疲労耐性が高い素材で形成されていればよい。一例として、補強部53は、基部51と比べて硬度が高い。硬度の比較尺度としては、ロックウェル硬さ、ブリネル硬さ、ビッカース硬さなどを適用できる。また、比較尺度としてヤング率(縦弾性係数)を適用して、補強部53を基部51よりも剛性の高い素材で形成してもよい。
【0035】
このような疲労耐性を持たせるべく、補強部53は、基部51とは異なる金属で構成されている。例えば、補強部53は、複数の金属からなる合金、具体的には基部51を構成する金属(基材)と、基材とは異なる金属との合金とすればよい。一例として、基部51が銅で形成されている場合、補強部53は、銀、金、ニッケル、クロム、鉄、あるいはこれらの少なくとも一つと銅との合金で構成すればよい。
【0036】
補強部53の形成方法は、特に限定されないが、湿式めっきにて真空バルブ1の製造段階で形成すればよい。この場合、補強部53は、真空バルブ1の絶縁容器2と封着金具3、封着金具3と電界緩和シールド7a,7b、電極5と接点6など、各部材の接合に使用される銀ろうを補強部53の形成範囲に塗布し、600℃から900℃程度の高温に曝して基部51の基材である銅と合金化させて形成される。すなわち、補強部53は、上記のような各部材が接合されて真空バルブ1が製造される際、これと同時に基部51と一体をなして電極5に形成される。これにより、補強部53は、基部51の一部として構成される。銀ろうは、銅と銀からなる微細な金属組織を有する2相合金であり、例えば電極5を構成する無酸素銅よりも疲労耐性が高い。
【0037】
補強部53は、基部51の一部である所定範囲、アーム部54が片持ちばねのような動作をする場合に支点となり負荷が掛かる部位、換言すればこのような動作時に応力が集中する部位を補強可能であればよい。補強部53の表面は、基部51の外周面511と面一であればよいが、アーム部54の電気抵抗やアーム部54を流れる電流によって印加される縦磁界などに影響を与えない程度に外周面511に対して隆起や陥没していてもよい。
【0038】
図3は、電極5における補強部53の形成範囲を概略的に示す図である。図3に示すように、補強部53は、スリット部52の終点52eおよびその近傍(根元部分)に亘って形成されている。図3に示す例では、スリット部52の根元部分をスリット方向および幅方向に取り囲んで外周面511上に広がるように形成されている。
【0039】
これにより、スリット部52の根元部分の疲労耐性をそれ以外の部位に比べて高めることができる。したがって、例えば真空バルブ1の接点6が開閉動作を長期間に亘って多数回繰り返した場合であっても、スリット部52の根元部分が疲労破壊することを抑止できる。
【0040】
また、図3に示すように、補強部53は、隣り合うスリット部52から離間して配置されている。すなわち、隣り合う二つスリット部52のうち、同一のアーム部54を規定する他方のスリット部52から離間して、補強部53が配置されている。別の捉え方をすれば、補強部53は、基部51、具体的にはアーム部54の電気抵抗値に基づいて設定された範囲内に配置されていればよい。例えば、アーム部54の電気抵抗値が所定の閾値以下となるような範囲に補強部53を配置すればよい。これにより、補強部53を配置することによるアーム部54の電気抵抗、換言すれば電極5間の通電性への影響を最小限にとどめることができる。
【0041】
また、補強部53は、スリット部52の根元部分に湿式めっきして形成され、形成範囲が基部51の局所的な範囲に限定されている。このため、補強部53は、基部51(アーム部54)を通過する電気の流れをほぼ阻害しない。したがって、電極5に印加される縦磁界が変化することを抑制でき、真空アークの分散効果を低下させずに済む。
【0042】
上述したように補強部53は、さらに補強部53は、真空バルブ1において絶縁容器2と封着金具3など、各部材の接合に使用される銀ろうを合金の成分として形成可能である。銀ろうは、真空バルブ1の通常の製造工程で使用されている素材であるため、特別な管理基準を別途新たに規定する必要がなく、容易に取り扱うことができる。したがって、銀ろうを使用することで、補強部53の形成がしやすくなる。
【0043】
補強部53の形成範囲は、スリット部52の根元部分が補強可能であれば、図3に示すような範囲に限定されない。図4から図6には、第1から第3の変形例を示す。
【0044】
図4に示す第1の変形例や図5に示す第2の変形例のように、補強部53は、スリット部52の直線状の稜線52aと曲線状の稜線52bとの連続部52pに、輪郭線53aが接続する範囲内にとどめてもよい。稜線52aは、スリット部52のスリット方向および深さ方向で規定される面(壁面)の外周面511上の辺縁である。稜線52bは、スリット部52の幅方向および深さ方向で規定される面(突き当たり面521)の外周面511上の辺縁である。連続部52pは、直線状の稜線52aと曲線状の稜線52bとがスリット部52の根元部分で連続する部分である。輪郭線53aは、補強部53と補強部53以外の基部51との境界を規定する境界線(区画線)である。
【0045】
図3に示す例は、連続部52pが補強部53の形成範囲内に含まれるように、輪郭線53aを幅方向から稜線52aと連続させた補強部53の形態である。これに対し、図4に示す第1の変形例は、輪郭線53aを幅方向から連続部52pに接続させた形態であり、図5に示す第2の変形例は、輪郭線53aをスリット方向から連続部52pに接続させた形態である。
【0046】
また、図6に示す第3の変形例のように、スリット部52の根元部分に隅(角)52cを設けた場合、補強部53は、隅(角)52cを少なくとも補強可能に配置すればよい。この場合、スリット部52の直線状の稜線52aと直線状の稜線52dとが隅(角)52cで連続している。稜線52dは、スリット部52の幅方向および深さ方向で規定される面(突き当たり面521)の外周面511上の辺縁である。図6には、隅(角)52cが補強部53の形成範囲内に含まれるように、輪郭線53aを幅方向からスリット部52の直線状の稜線52aと連続させた補強部53の形態を一例として示す。
【0047】
特に図示しないが、補強部53は、一つの連続範囲ではなく、複数の領域に分散して配置されていてもよい。この場合、連続部52pや隅(角)52cを少なくとも補強可能に、補強部53を配置すればよい。
また、複数のスリット部52の根元部分にそれぞれ補強部53を形成する場合、これらの補強部53の形成範囲(形態)は、同等であってもよいし、異なっていてもよい。
【0048】
このように本実施形態によれば、スリット部52の根元部分が補強部53で補強され、真空バルブ1の接点6が開閉動作を長期間に亘って多数回繰り返した場合であっても、スリット部52の根元部分が疲労破壊することを抑止できる。
【0049】
ここで、金属の疲労耐性の向上を図る一般的な方法としては、材料特性の向上、発生応力や振動数の低減などが挙げられる。材料特性の向上は、例えば新たな成分添加による固溶強化、熱処理や加工による組織微細化、ショットピーニングなどによる圧縮残留応力の付加が考えられる。しかしながら、成分添加では接点材料や電極材料の遮断特性や通電特性といった機能を損なう可能性が高い。また、組織微細化や圧縮残留応力付加では、真空バルブ1の製造工程である真空ろう付け時の加熱によってすべての金属部材が焼き鈍されてしまい、効果が持続されない。発生応力や振動数の低減では、スリット部52の設計変更や振動抑制のための機構追加が必要となり、設計変更や機構追加に伴うコストの増加を招きやすい。このように、真空バルブ1の製造工程を考慮すれば、金属の一般的な疲労耐性の向上策を講じたとしても、電極5に形成されたスリット部52の根元部分の疲労耐性の向上には限界がある。
【0050】
これに対し、本実施形態によれば、真空バルブ1が製造される際、これと同時に基部51と一体をなして補強部53を電極5に形成することができる。すなわち、補強部53は、真空バルブ1の製造過程で600℃から900℃程度の高温に曝されて合金化される。このため、真空バルブ1がこのような高温に曝された後であっても、スリット部52の根元部分の疲労耐性の向上を適切に図ることができる。これにより、真空バルブ1の本来の機能を損なうことなく、また、真空バルブ1の製造コストの増大を招くことなく、電極5の疲労破壊を適切に抑止することが可能となる。
【0051】
以上、本発明の実施形態(変形例を含む)を説明したが、上述した実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これらの実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0052】
1…真空バルブ、2…絶縁容器、3…封着金具、4…通電軸、5…電極、6…接点、7a,7b…電界緩和シールド、8…ベローズ、9…ベローズカバー、10…アークシールド、11…接合部、21…開口部、51…基部、52…スリット部、52a…稜線の直線部分、52b…稜線の曲線部分、52c…隅(角)、52e…終点、52s…始点、52w…幅、52p…稜線の連続部分(連続部)、53…補強部、53a…輪郭線、511…外周面、512…端面、513…端面、521…突き当たり面、C…軸芯、S…空隙。
図1
図2
図3
図4
図5
図6