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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-15
(45)【発行日】2023-12-25
(54)【発明の名称】処理方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 37/02 20060101AFI20231218BHJP
   B01J 23/44 20060101ALI20231218BHJP
【FI】
B01J37/02 301C
B01J23/44 A
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020013598
(22)【出願日】2020-01-30
(65)【公開番号】P2021120141
(43)【公開日】2021-08-19
【審査請求日】2022-10-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000220804
【氏名又は名称】東京濾器株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】弁理士法人一色国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山村 貴幸
(72)【発明者】
【氏名】徳山 正
【審査官】末松 佳記
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-516642(JP,A)
【文献】特表2002-506720(JP,A)
【文献】特開2009-136833(JP,A)
【文献】特開昭60-216848(JP,A)
【文献】特開2018-015704(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00 - 38/74
B05C 1/00 - 21/00
B05D 1/00 - 7/26
F01N 3/10 - 3/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
壁によって仕切られた複数のセルを有する基材に対する処理方法であって、
前記セルの開口が上に向けられるよう前記基材を配置し、
底面が複数の孔を有する部材で形成された容器を、前記基材の上側の端部に載せ置き、
前記孔は丸孔であり、
一の前記丸孔の直径は150.0-1200.0μmであり、
所定量のスラリーまたは金属溶液を前記容器内に供給し、
前記スラリーまたは前記金属溶液の粘度は、4.0-3000.0mPasであり、
セル内と前記容器内とに圧力差を生じさせることで、前記スラリーまたは前記金属溶液を前記容器の底面を介して前記開口から前記セル内に導入し、前記壁を処理する処理方法。
【請求項2】
壁によって仕切られた複数のセルを有する基材に対する処理方法であって、
前記セルの開口が上に向けられるよう前記基材を配置し、
底面が複数の孔を有する部材で形成された容器を、前記基材の上側の端部に載せ置き、
前記孔は長円形の孔であり、
一の前記長円形の孔の長径は4000.0μm、短径は350.0-450.0μmであり、
所定量のスラリーまたは金属溶液を前記容器内に供給し、
前記スラリーまたは前記金属溶液の粘度は、600.0-3000.0mPasであり、
セル内と前記容器内とに圧力差を生じさせることで、前記スラリーまたは前記金属溶液を前記容器の底面を介して前記開口から前記セル内に導入し、前記壁を処理する処理方法。
【請求項3】
前記圧力差は、-10kPa以下であることを特徴とする請求項1から2のいずれか一つに記載の処理方法。
【請求項4】
前記圧力差は、-10kPa~-70kPaであることを特徴とする請求項3記載の処理方法。
【請求項5】
前記部材は金属であることを特徴とする請求項1から4のいずれか一つに記載の処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数のセルを有する基材に対する処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車から排出された排ガスには、炭化水素(HC)、一酸化炭素(CO)、窒素酸化物(NOx)、粒子状物質(PM)等の環境汚染物質が含まれている。これらの環境汚染物質を除去するために、各種の排ガス浄化用触媒が開発されている。このような排ガス浄化用触媒は、一般に、壁によって仕切られた複数のセルを有するハニカム構造の基材と、壁に形成された触媒層とを有する。基材内のセルに供給された排ガスが触媒層と接触した場合、触媒層に含まれる触媒金属の作用によって排ガス中の有害成分が浄化される。
【0003】
排ガス浄化用触媒としては、たとえば、ウォールフロー型の基材を用いるガソリン・パーティキュレート・フィルター(GPF)やディーゼル微粒子捕集フィルター(DPF)がある。
【0004】
基材の壁に触媒層を形成する方法としては、ウォッシュコート法が挙げられる。ウォッシュコート法には、上面コート法と下面コート法がある。下面コート法は、触媒金属を含むスラリーを入れた容器にハニカム構造の基材を浸し、基材の上側から吸引することで壁をスラリーでコーティングする。その後、基材を焼成することにより触媒層を形成する。下面コート法は、基材の壁に金属溶液を含浸させる場合にも実施することができる。
【0005】
しかしながら、下面コート法は、スラリーまたは金属溶液をセル内に安定的に供給することが難しいため、スラリーまたは金属溶液の量を本来必要な量以上に準備することが必要となる。よって、スラリー(スラリーに含まれる触媒金属)または金属溶液に余剰が生じることとなる。
【0006】
一方、上面コート法の場合、触媒金属を含むスラリーまたは金属溶液を基材の上側に配置し、基材の下側から吸引することで壁をスラリーでコーティングする。この場合、スラリーをセル内に安定的に供給することが可能となる。下面コート法と同様、上面コート法も、基材の壁に金属溶液を含浸させる場合に実施することができる。
【0007】
ここで、スラリーまたは金属溶液の粘度が低い場合、上面コート法では、吸引する前からセルにスラリーまたは金属溶液が流れ込むため、均一な処理が難しくなる。よって、上面コート法で使用するスラリーまたは金属溶液は、粘度が高くなるよう調整する必要がある。しかし、粘度が高いスラリーまたは金属溶液は流動性が低いため、セルに導入し難く、またセルに導入できたとしてもコーティングの厚みや含浸の程度にばらつきが生じ易い。よって、排ガス浄化用触媒として実際に使用する際、圧損上昇や触媒層の剥離強度の低下といった問題が生じる。なお、以下の説明において「処理」とは、基材の壁をスラリーでコーティングすること、及び基材内に金属溶液を含浸させることを含むものとする。
【0008】
特許文献1には、基材の上側の端面を覆うように水溶性薄膜を配置し、水溶性薄膜によって原料スラリーを貯留部内に保持し、流路と貯留部との圧力差によって水溶性薄膜を破断させて原料スラリーを基材の流路に導入する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2018-103131号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、特許文献1の技術によれば、水溶性薄膜を破断させることで原料スラリーを基材の流路(セル)に導入するため、水溶性薄膜の再利用ができない。よって、一の排ガス浄化用触媒を製造する都度、新たな水溶性薄膜を基材上に配置する必要があり、煩雑である。
【0011】
本発明の目的は、触媒金属を含むスラリーまたは金属溶液を基材の上面に配置し、当該スラリーまたは金属溶液で基材の壁を処理する際に、作業が簡易であり、且つスラリーまたは金属溶液の余剰を低減することが可能な処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するための発明は、壁によって仕切られた複数のセルを有する基材に対する処理方法であって、前記セルの開口が上に向けられるよう前記基材を配置し、底面が複数の孔を有する部材で形成された容器を、前記基材の上側の端部に載せ置き、所定量のスラリーまたは金属溶液を前記容器内に供給し、セル内と前記容器内とに圧力差を生じさせることで、前記スラリーまたは前記金属溶液を前記容器の底面を介して前記開口から前記セル内に導入し、前記壁を処理する処理方法である。
本発明の他の特徴については、後述する明細書及び図面の記載により明らかにする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、触媒金属を含むスラリーまたは金属溶液を基材の上面に配置し、当該スラリーまたは金属溶液で基材の壁を処理する際に、作業が簡易であり、且つスラリーまたは金属溶液の余剰を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】実施形態に係る基材を示す図である。
図2】実施形態に係る基材の断面を示す図である。
図3】実施形態に係る容器を示す図である。
図4A】実施形態に係る処理方法を説明するための図である。
図4B】実施形態に係る処理方法を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
<実施形態>
以下、本発明の好ましい実施の形態につき、添付図面を用いて詳細に説明するが、必ずしもこれに限定するわけではない。なお、本発明の目的、特徴、利点、及びそのアイデアは、本明細書の記載により、当業者には明らかであり、本明細書の記載から、当業者であれば、容易に本発明を再現できる。以下に記載された発明の実施の形態及び具体的な実施例などは、本発明の好ましい実施態様を示すものであり、例示又は説明のために示されているのであって、本発明をそれらに限定するものではない。本明細書で開示されている本発明の意図並びに範囲内で、本明細書の記載に基づき、様々な改変並びに修飾ができることは、当業者にとって明らかである。
【0016】
==基材==
基材1は、排ガス浄化用触媒の骨格となる構造体である。図1は、基材1の斜視図であり、図2は、基材1の断面の一部を示す図である。
【0017】
図1に示すように、基材1は円筒状の部材である。基材1は、壁Wによって仕切られた複数のセルCを有する構造である。セルCは、排ガスの流路であり、図2に示すように、基材1の長軸方向に沿って延びている。本実施形態において、基材1は、ウォールフロー型の構造体である。ウォールフロー型の構造体の場合、図2に示すように、複数のセルCは、排ガス流出側の開口が封止された流入セルCI、または排ガス流入側の開口が封止された流出セルCOのいずれかとなる。流入セルCIと流出セルCOとは、多孔質の壁によって仕切られている。後述する処理方法により、たとえば、流入セルCIの壁Wの表面に触媒金属を含むスラリーSがコーティングされる。
【0018】
基材1のサイズ(直径、長さ)やセルCの数は、特に限定されない。また、基材1は、楕円や多角形の構造体であってもよい。
【0019】
基材1の材料は、高耐熱性を有するものが好ましい。より具体的に、基材1の材料としては、酸化アルミニウム(Al23)、酸化セリウム(CeO2)、酸化チタン(TiO2)、酸化ジルコニウム(ZrO2)、酸化ケイ素(SiO2)、チタン酸アルミニウム(Al2TiO5)等の酸化物系のセラミックスが好ましい。また、他の材料としては、コージェライト(2MgO・2Al23・5SiO2)等の複合酸化物系のセラミックスや炭化ケイ素(SiC)等の炭化物系のセラミックスなども好ましい。一方、基材1の材料としては、セラミックス以外にステンレス鋼等の合金を用いることも可能である。
【0020】
なお、基材1は、セルCの両端が開口しているストレートフロー型の構造体であってもよい。ストレートフロー型の構造体の場合、後述する処理方法により、たとえば、全てのセルの壁Wの表面に触媒金属を含むスラリーSがコーティングされる。或いは、基材1として、排ガス流入側と排ガス流出側でセルCの径が異なる構造体(HAC:High Ash Capacity)を用いてもよい。また、基材1は、正六角柱の複数のセルから構成されるハニカム構造であってもよい。
【0021】
==スラリー、金属溶液==
スラリーSは、触媒金属及び担体を、水などの水系溶媒に分散させたペースト状の懸濁した材料である。なお、スラリーSは、触媒金属及び担体の他に増粘剤などの添加物や触媒金属以外の金属元素等が含まれていてもよい。
【0022】
触媒金属は、酸化触媒や還元触媒として機能する金属である。具体例として、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)、白金(Pt)、ルテニウム(Ru)、オスミウム(Os)、イリジウム(Ir)、銀(Ag)、金(Au)等が挙げられる。或いは、これらの触媒金属を合金化したものを用いることもできる。このうち、還元活性の高いロジウム、酸化活性が高いパラジウムや白金が好ましく、これらを2種以上組み合わせたものがより好ましい。
【0023】
担体は、触媒金属の支持体である。具体例として、セラミック体が挙げられる。特に、比表面積が大きく、且つ優れた耐熱性を有する多孔質セラミック体が好ましい。多孔質セラミック体としては、たとえば、アルミナ(Al23)、セリア(CeO2)、チタニア(TiO2)、ジルコニア(ZrO2)、シリカ(SiO2)が挙げられる。或いは、これら多孔質セラミック体の固溶体(たとえば、セリア-ジルコニア複合酸化物(CZ複合酸化物))や、複数の多孔質セラミック体の組み合わせであってもよい。
【0024】
金属溶液は、ニッケル(Ni)やバリウム(Ba)のような金属を水などの水系溶媒に溶解させた透明の液体である。
【0025】
ここで、本実施形態で説明する処理方法は、セルC内にスラリーSを導入し、壁Wをコーティングする、或いは、セルC内に金属溶液を導入し、壁Wを介して基材1内に含浸させる。よって、スラリーSまたは金属溶液の粘度は低いことが好ましい。たとえば、スラリーSまたは金属溶液の粘度は、4.0~3000.0mPasであることが好ましい。また、ずり速度との関係では、ずり速度6秒-1における粘度が500.0~1500.0mPas、ずり速度9秒-1における粘度が500.0mPas以下であることが好ましい。
【0026】
==容器==
容器2は、基材1のセルC内に導入するスラリーSまたは金属溶液を一時的に貯留する。図3に示すように、容器2は底面Bを有する円筒状の部材である。容器2の上側は開口している。
【0027】
容器2の底面Bは、複数の孔を有する部材で形成されている。底面Bを形成する部材は、ステンレス鋼、テフロン(登録商標)や樹脂材料である。なお、底面Bを形成する部材は、撥水性を有することが好ましい。ステンレス鋼のように材料自体が撥水性を有しない場合、撥水処理を施してもよい。
【0028】
孔は、たとえば丸孔、長円形の孔、矩形の孔である。複数の孔は、様々な方法により形成することができる。たとえば、底面Bを形成する部材に対して打ち抜き加工やレーザー加工を行うことで複数の孔を形成することができる。また底面Bを形成する部材が樹脂材料の場合、射出成形により孔を形成することも可能である。
【0029】
丸孔の場合、一の丸孔の直径は、150.0-1200.0μmであることが好ましい。長円形の場合、一の長円形の孔の長径は、4000.0μm、短径は350.0-450.0μmであることが好ましい。
【0030】
更に、底面Bの孔の開口率は、18.3-40.3%であることが好ましい。
【0031】
==処理方法==
本発明の処理方法は、セル内にスラリーを導入し、セルの壁をコーティングする方法、またはセル内にスラリーを導入し、セルの壁を介して基材内に金属を含浸させる方法である。図4A及び図4Bはセルの壁をコーティングする方法を説明する模式図である。図4A及び図4Bにおいては、基材1の断面及び容器2の断面を示している。なお、以下に説明する処理方法は専用のシステムにより実行される。
【0032】
セルの壁をコーティングする方法は、まず流入セルCIの開口が上に向けられるよう基材1を縦置きの状態で配置する。そして、基材1の上側の端部に容器2を載せ置く。なお、基材1の下側(他方の開口側)の端部は、吸引装置3に取り付けられる(図4A参照)。
【0033】
次に、基材1に載せ置かれた容器2内に所定量のスラリーSを供給する。所定量は、基材1の壁Wの表面にスラリーSをコーティングするのに過不足が無い量である。所定量は、セルCの長さや径に応じて予め設定されている。
【0034】
ここで、容器2の底面Bは複数の孔を有する部材で形成されている。よって、容器2内にスラリーSを供給したとしても、孔の直径や開口率が適当に設定されている場合(たとえば、直径:150.0-1200.0μm、開口率:18.3-40.3%)には、スラリーSが自重でセルC内に流れ出ることはない。
【0035】
次に、吸引装置3を駆動して流入セルCI内の空気を吸引する(図4Aの矢印参照)ことにより、流入セルCI内を負圧にする。流入セルCI内が負圧になることにより、容器2内のスラリーSは、底面Bの網目を介して流入セルCIの開口から流入セルCI内へと導入され、壁Wの表面を覆う。吸引する圧力差は、スラリーSの粘度、基材1のサイズ等に応じて適宜設定される。たとえば、圧力差は、-10kPa以上であればよく、-10kPa~-70kPaの範囲であってもよい。一方、流出セルCOは、容器2の底面B側が封止されているため、スラリーSがセル内に導入されることはない。
【0036】
なお、スラリーSを流入セルCI内に導入するためには、流入セルCI内と容器2内とに圧力差を生じさせればよい。たとえば、基材1の上側の端部に載せ置かれた容器2に加圧装置を設ける。そして、加圧装置を駆動して容器2の内圧を上昇させ、相対的に流入セルCI内の圧力を低くすることにより、容器2内のスラリーSを流入セルCI内に導入してもよい。すなわち、一実施態様に係る処理方法によれば、セル内と容器内との差圧を利用して、容器内のスラリーをセル内に導入できる。なお、セルの壁を介して基材内に金属を含浸させる方法についても同様である。
【0037】
==焼成処理==
流入セルCI内にスラリーSを導入し、壁Wの表面をスラリーSでコーティングした後、基材1に対して焼成処理を施す。焼成処理を行うことにより、壁Wの表面に触媒層が形成された排ガス浄化用触媒が得られる。焼成処理の具体的な方法や条件は、従来と同様であるため詳細な説明を省略する。
【0038】
このように、本実施形態で説明した処理方法によれば、基材1の流入セルCI内を負圧にすることで、スラリーSを容器2の底面Bを介して開口から流入セルCI内に導入し、壁Wの表面をスラリーSでコーティングすることができる。或いは、基材1の流入セルCI内を負圧にすることで、金属溶液を容器2の底面Bを介して開口から流入セルCI内に導入し、壁Wの表面を介して基材1内に含浸させることができる。このような処理方法によれば、一の容器を繰り返し使用することができる。よって、一の基材を処理する毎に新たな容器を準備する必要がないため、簡便である。また、基材1の上面から流入セルCI内にスラリーSまたは金属溶液を導入できるため、スラリーSまたは金属溶液の余剰を極力少なくすることができる。
【0039】
<実施例>
1.丸孔
実施例1-5、及び比較例1により、底面Bに形成された孔が丸孔である場合について試験を行った。
【0040】
(基材)
全ての実施例及び比較例において、基材は、円筒状のウォールフロー型の構造体を用いた。基材の直径は118mm、高さは90mm、セルの数は約300(流入セルと流出セルの数はほぼ同等)である。
【0041】
(スラリー)
全ての実施例及び比較例において、スラリーは、触媒金属としてパラジウムを含み、粘度3000.0mPasのものを用いた。また全ての実施例及び比較例において、スラリーの量(容器に供給する量)は同量(200g)である。
【0042】
(容器)
全ての実施例及び比較例において、直径118mm、深さ45mmの容器を用いた。また、容器の底面が、撥水処理をしたステンレス鋼により形成されているものを用いた。撥水処理は、撥水剤(MSN-02 AGC株式会社製)を網目状の底面に直接吹き付けることにより行った。
【0043】
一方、実施例及び比較例により、丸孔の直径、ピッチ、及び開口率は異なるものを用いた(表1参照)。
【0044】
(試験)
試験は、保持性及び通過性について確認した。保持性は、容器の底面がスラリーを保持する性能である。保持性は、スラリーが自重でセル内に流れ出るかどうかにより判定した。通過性は、吸引装置によりセル内の空気を吸引した場合に、容器の底面がスラリーを通過させる性能である。通過性は、セル内の空気を吸引した後、スラリーが容器内にどれくらい残っているかにより判定した。吸引の圧力差は、全ての実施例及び比較例において一律(-10kPa)とした。
【0045】
具体的に、セルの開口が上に向けられるよう基材を縦置きの状態で配置した。そして、基材の上側の端部に容器を載せ置いた。また、基材の下側の端部を吸引装置に取り付けた。次に、容器2内にスラリーを供給し、スラリーが自重でセル内に流れ出るかどうかを確認した。スラリーがセル内に流れ出ない状態が5分以上保たれた場合を「〇」とし、5分未満の場合を「×」として判定した。
【0046】
その後、吸引装置を駆動してセル内の空気を吸引することにより、容器内のスラリーをセル内へと導入した。この際、容器内にスラリーがほぼ残っていない場合を「〇」、容器内にスラリーが大量に残っている場合を「×」として判定した。
【0047】
【表1】
【0048】
表1から明らかなように、丸孔の直径が1500.0μmの場合(比較例1)、吸引後は容器内にスラリーがほとんど残らなかったが、5分未満でスラリーがセル内に流れ出る結果となった。一方、丸孔の直径が150.0μm(実施例1)~1200.0μm(実施例4)の場合、スラリーが自重でセル内に流れ出ることはなく、また吸引を行った場合に、容器内にスラリーはほとんど残らなかった。
【0049】
2.長円形の孔
実施例6及び7により、孔が長円形である場合について試験を行った。
【0050】
(基材)
基材は「1.丸孔」と同じものを用いた。
【0051】
(スラリー)
スラリーは「1.丸孔」と同じものを用いた。
【0052】
(容器)
全ての実施例において、直径118mm、深さ45mmの容器を用いた。また、容器の底面が、撥水処理をしたステンレス鋼により形成されているものを用いた。撥水処理は、撥水剤(MSN-02 AGC株式会社製)を網目状の底面に直接吹き付けることにより行った。
【0053】
一方、実施例6と実施例7では、丸孔の短径及び開口率が異なるものを用いた(表2参照)。
【0054】
(試験)
試験及び判定は「1.丸孔」と同様に行った。
【0055】
【表2】
【0056】
表2から明らかなように、長円形の孔の長径が4000.0μm、短径が350.0μm(実施例6)~450.0μm(実施例7)の場合、スラリーが自重でセル内に流れ出ることはなく、また吸引を行った場合に、容器内にスラリーはほとんど残らなかった。
【0057】
3.スラリーの粘度
実施例8-30、及び比較例2-9により、スラリーの粘度について検討を行った。
【0058】
(基材)
基材は「1.丸孔」と同じものを用いた。
【0059】
(スラリー)
実施例8-13及び比較例2-4において、スラリーは、触媒金属としてパラジウムを含み、粘度4.0mPasのものを用いた。実施例14-19及び比較例5-7において、スラリーは、触媒金属としてパラジウムを含み、粘度15.0mPasのものを用いた。実施例20、27、29、及び比較例8において、スラリーは、触媒金属としてパラジウムを含み、粘度600.0mPasのものを用いた。実施例21-26、28、30、及び比較例9において、スラリーは、触媒金属としてパラジウムを含み、粘度1500.0mPasのものを用いた。なお、スラリーの量(容器に供給する量)は全ての実施例及び比較例において同量(200g)である。
【0060】
(容器)
全ての実施例及び比較例において、直径118mm、深さ45mmの容器を用いた。また、容器の底面が、撥水処理をしたステンレス鋼により形成されているものを用いた。撥水処理は、撥水剤(MSN-02 AGC株式会社製)を網目状の底面に直接吹き付けることにより行った。
【0061】
一方、実施例及び比較例における、孔の形(丸孔の場合は直径、長円形の孔の場合は長径と短径)、ピッチ、及び開口率は表3に示した通りである。
【0062】
(試験)
試験及び判定は「1.丸孔」と同様に行った。
【0063】
【表3】
【0064】
表3から明らかなように、粘度が低い場合であっても、孔の径や開口率を調整することにより、保持性及び通過性の要件を満たすことが明らかとなった。たとえば、孔が丸孔の場合、粘度4.0mPas、15.0mPas及び1500.0mPasにおいて、丸孔の直径450.0-1200.0μmの範囲で保持性及び通過性の要件を満たした。また、孔が長円形の孔の場合、粘度600.0mPas及び1500.0mPasにおいて、長径4000.0μm、短径350.0-450.0μmの範囲で保持性及び通過性の要件を満たした。
【0065】
4.圧力差
上記「1.丸孔」、「2.長円形の孔」、及び「3.スラリーの粘度」における実施例から明らかなように、-10kPaの圧力差であっても保持性及び通過性の要件を満たすことができる。よって、それよりも大きい圧力差を生じさせることにより、当然に保持性及び通過性の要件を満たすことができると考えられる。この点について、実施例30-43により検討を行った。
【0066】
(基材)
基材は「1.丸孔」と同じものを用いた。
【0067】
(スラリー)
実施例31、34、38、40、及び42において、スラリーは、触媒金属としてパラジウムを含み、粘度15.0mPasのものを用いた。実施例32、37、39、41、及び44において、スラリーは、触媒金属としてパラジウムを含み、粘度3000.0mPasのものを用いた。実施例33において、スラリーは、触媒金属としてパラジウムを含み、粘度4.0mPasのものを用いた。実施例35及び43において、スラリーは、触媒金属としてパラジウムを含み、粘度600.0mPasのものを用いた。実施例36において、スラリーは、触媒金属としてパラジウムを含み、粘度1500.0mPasのものを用いた。なお、スラリーの量(容器に供給する量)は全ての実施例及び比較例において同量(200g)である。
【0068】
(容器)
全ての実施例において、直径118mm、深さ45mmの容器を用いた。また、容器の底面が、撥水処理をしたステンレス鋼により形成されているものを用いた。撥水処理は、撥水剤(MSN-02 AGC株式会社製)を網目状の底面に直接吹き付けることにより行った。
【0069】
一方、実施例における、孔の直径、ピッチ、及び開口率は表4に示した通りである。
【0070】
(試験)
試験及び判定は「1.丸孔」と同様に行った。但し、吸引の圧力差は、全ての実施例において-70kPaとした。
【0071】
【表4】
【0072】
表4から明らかなように、圧力差を-70kPaとした場合であっても、保持性及び通過性の要件を満たすことが明らかとなった。たとえば、実施例14と圧力差が異なるだけである実施例31の場合であっても保持性及び通過性の要件を満たした。
【符号の説明】
【0073】
1 基材
2 容器
3 吸引装置
C セル
W 壁
図1
図2
図3
図4A
図4B