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特許7404114環状オレフィン系樹脂組成物、架橋体、成形体、プリプレグ、回路基板および電子機器
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-15
(45)【発行日】2023-12-25
(54)【発明の名称】環状オレフィン系樹脂組成物、架橋体、成形体、プリプレグ、回路基板および電子機器
(51)【国際特許分類】
   C08L 23/08 20060101AFI20231218BHJP
   C08L 45/00 20060101ALI20231218BHJP
   C08L 65/00 20060101ALI20231218BHJP
   C08G 61/08 20060101ALI20231218BHJP
   C08J 5/18 20060101ALI20231218BHJP
   C08J 5/24 20060101ALI20231218BHJP
   H05K 1/03 20060101ALI20231218BHJP
【FI】
C08L23/08
C08L45/00
C08L65/00
C08G61/08
C08J5/18 CES
C08J5/18 CER
C08J5/24 CES
C08J5/24 CER
H05K1/03 610J
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2020041887
(22)【出願日】2020-03-11
(65)【公開番号】P2021143247
(43)【公開日】2021-09-24
【審査請求日】2022-12-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【弁理士】
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】小松原 理志
(72)【発明者】
【氏名】何 家成
(72)【発明者】
【氏名】竹内 文人
【審査官】岡部 佐知子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/150218(WO,A1)
【文献】特開2019-179684(JP,A)
【文献】特開2015-140364(JP,A)
【文献】特開平11-189743(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 45/00
C08L 23/02
C08L 65/00
C08G 61/08
C08J 5/04
C08J 5/18
C08J 5/24
H05K 1/03
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
環状オレフィン共重合体(m)と、
前記環状オレフィン共重合体(m)とは異なる環状オレフィン重合体(n)と、
を含む環状オレフィン系樹脂組成物であって、
前記環状オレフィン共重合体(m)は、
(A)下記一般式(I)で表される1種以上のオレフィン由来の繰り返し単位と、
(B)下記一般式(III)で表される1種以上の環状非共役ジエン由来の繰り返し単位と、
(C)下記一般式(V)で表される1種以上の環状オレフィン由来の繰り返し単位と、を含み、
前記環状オレフィン共重合体(m)中の繰り返し単位の合計モル数を100モル%とした場合に、前記オレフィン由来の繰り返し単位(A)の含有量が10モル%以上90モル%以下、前記環状非共役ジエン由来の繰り返し単位(B)の含有量が1モル%以上40モル%以下、および前記環状オレフィン由来の繰り返し単位(C)の含有量が1モル%以上30モル%以下であり、
前記環状オレフィン重合体(n)は、エチレンまたはα-オレフィンと環状オレフィンとの共重合体(n1)(ただし、前記共重合体(n1)は下記一般式(III)で表される環状非共役ジエン由来の繰り返し単位を含まない)および下記一般式(IV)で表される繰り返し単位からなる環状オレフィンの開環重合体の未水添物(n2)を含み、
前記環状オレフィン系樹脂組成物に含まれる前記環状オレフィン共重合体(m)と前記環状オレフィン重合体(n)との合計量を100質量部としたとき、前記環状オレフィンの開環重合体の未水添物(n2)の含有量が5質量部以上20質量部以下である、環状オレフィン系樹脂組成物。
【化1】
〔上記一般式(I)において、R300は水素原子または炭素原子数1~29の直鎖状または分岐状の炭化水素基を示す。〕
【化2】
〔上記一般式(III)中、uは0または1であり、vは0または正の整数であり、wは0または1であり、R61~R76ならびにRa1およびRb1は互いに同一でも異なっていてもよく、水素原子、ハロゲン原子、炭素原子数1~20のアルキル基、炭素原子数1~20のハロゲン化アルキル基、炭素原子数3~15のシクロアルキル基または炭素原子数6~20の芳香族炭化水素基であり、R104は水素原子または炭素原子数1~10のアルキル基であり、tは0~10の正の整数であり、R75およびR76は互いに結合して単環または多環を形成していてもよい。〕
【化3】
〔上記一般式(V)中、uは0または1であり、vは0または正の整数であり、wは0または1であり、R61~R78ならびにRa1およびRb1は互いに同一でも異なっていてもよく、水素原子、ハロゲン原子、炭素原子数1~20のアルキル基、炭素原子数1~20のハロゲン化アルキル基、炭素原子数3~15のシクロアルキル基または炭素原子数6~20の芳香族炭化水素基であり、R75~R78は互いに結合して単環または多環を形成していてもよい。〕
【化4】
〔上記一般式(IV)中、mおよびnはそれぞれ1または0である。nが1のとき、mは0または1であり、RおよびRは水素原子である。aは二重結合である。n=0の場合はmは0または1であり、RおよびRは内部に2重結合を有する炭素原子数2の炭化水素基または水素原子である。mおよびnがともに0であるとき、Rは炭素原子数2の炭化水素基であり、内部に2重結合を有し、RはRと同一基である。〕
【請求項2】
請求項に記載の環状オレフィン系樹脂組成物において、
前記環状オレフィンの開環重合体の未水添物(n2)の重量平均分子量Mwが15,000以上27,000以下である環状オレフィン系樹脂組成物。
【請求項3】
請求項1または2に記載の環状オレフィン系樹脂組成物において、
前記環状非共役ジエン由来の繰り返し単位(B)を構成する環状非共役ジエンが、5-ビニル-2-ノルボルネンおよび8-ビニル-9-メチルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]-3-ドデセンから選択される少なくとも一種を含む環状オレフィン系樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1乃至のいずれか一項に記載の環状オレフィン系樹脂組成物において、
前記環状オレフィン由来の繰り返し単位(C)を構成する環状オレフィンが、ビシクロ[2.2.1]-2-ヘプテンおよびテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]-3-ドデセンから選択される少なくとも一種を含む環状オレフィン系樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1乃至のいずれか一項に記載の環状オレフィン系樹脂組成物において、
溶媒をさらに含み、ワニス状である環状オレフィン系樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1乃至のいずれか一項に記載の環状オレフィン系樹脂組成物において、
架橋剤をさらに含む環状オレフィン系樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1乃至のいずれか一項に記載の環状オレフィン系樹脂組成物を架橋してなる架橋体。
【請求項8】
請求項に記載の架橋体を含む成形体。
【請求項9】
フィルムまたはシートである請求項に記載の成形体。
【請求項10】
請求項に記載の成形体において、
前記フィルムまたはシート上にさらに基材を含む成形体。
【請求項11】
請求項1乃至のいずれか一項に記載の環状オレフィン系樹脂組成物とシート状繊維基材とを含むプリプレグ。
【請求項12】
請求項に記載の架橋体を含む電気絶縁層と、前記電気絶縁層上に設けられた導体層とを含む回路基板。
【請求項13】
請求項12に記載の回路基板を備えた電子機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、環状オレフィン系樹脂組成物、架橋体、成形体、プリプレグ、回路基板および電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
環状オレフィン共重合体からなる成形体は、例えば耐熱性、機械的特性、透明性、誘電特性、耐溶剤性、成形性、寸法安定性などに優れており、種々の分野に利用されている。しかし、用途によっては耐熱性、耐溶剤性あるいは機械的強度をさらに要求される場合があり、環状オレフィン共重合体を硫黄架橋、有機過酸化物架橋、電子線架橋、放射線架橋など種々の方法で架橋することにより、耐熱性、耐溶剤性、機械的強度をさらに向上させる試みが行われている。
【0003】
環状オレフィン系共重合体の架橋に関する技術としては、例えば、特許文献1(国際公開第2017/150218号)に記載のものが挙げられる。
【0004】
特許文献1には、特定の繰り返し単位を特定量含む環状オレフィン共重合体(m)と、上記環状オレフィン共重合体(m)とは異なる環状オレフィン共重合体(n)と、を含み、上記環状オレフィン共重合体(n)は、エチレンまたはα-オレフィンと環状オレフィンとの共重合体(n1)(ただし、上記共重合体(n1)は特定の環状非共役ジエン由来の繰り返し単位を含まない)および環状オレフィンの開環重合体(n2)から選択される少なくとも一種を含み、上記環状オレフィン共重合体(m)と上記環状オレフィン共重合体(n)との合計量を100質量%としたとき、上記環状オレフィン共重合体(m)の含有量が5質量%以上95質量%以下であり、上記環状オレフィン共重合体(n)の含有量が5質量%以上95質量%以下である環状オレフィン共重合体組成物が開示されている。
特許文献1には、このような環状オレフィン共重合体組成物を用いると、回路基板等に好適な高周波領域での誘電特性および耐熱性に優れた架橋体を得ることができると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2017/150218号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者らの検討によれば、特許文献1に記載の環状オレフィン共重合体組成物には、伸びおよび屈曲性について改善の余地があることが明らかになった。
【0007】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、誘電特性、伸びおよび屈曲性の性能バランスに優れた成形体を実現できる環状オレフィン系樹脂組成物を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、以下に示す環状オレフィン系樹脂組成物、架橋体および成形体が提供される。
【0009】
[1]
環状オレフィン共重合体(m)と、
上記環状オレフィン共重合体(m)とは異なる環状オレフィン重合体(n)と、
を含む環状オレフィン系樹脂組成物であって、
上記環状オレフィン共重合体(m)は、
(A)下記一般式(I)で表される1種以上のオレフィン由来の繰り返し単位と、
(B)下記一般式(III)で表される1種以上の環状非共役ジエン由来の繰り返し単位と、
(C)下記一般式(V)で表される1種以上の環状オレフィン由来の繰り返し単位と、を含み、
上記環状オレフィン共重合体(m)中の繰り返し単位の合計モル数を100モル%とした場合に、上記オレフィン由来の繰り返し単位(A)の含有量が10モル%以上90モル%以下、上記環状非共役ジエン由来の繰り返し単位(B)の含有量が1モル%以上40モル%以下、および上記環状オレフィン由来の繰り返し単位(C)の含有量が1モル%以上30モル%以下であり、
上記環状オレフィン重合体(n)は、エチレンまたはα-オレフィンと環状オレフィンとの共重合体(n1)(ただし、上記共重合体(n1)は下記一般式(III)で表される環状非共役ジエン由来の繰り返し単位を含まない)および下記一般式(IV)で表される繰り返し単位からなる環状オレフィンの開環重合体の未水添物(n2)を含む環状オレフィン系樹脂組成物。
【化1】
〔上記一般式(I)において、R300は水素原子または炭素原子数1~29の直鎖状または分岐状の炭化水素基を示す。〕
【化2】
〔上記一般式(III)中、uは0または1であり、vは0または正の整数であり、wは0または1であり、R61~R76ならびにRa1およびRb1は互いに同一でも異なっていてもよく、水素原子、ハロゲン原子、炭素原子数1~20のアルキル基、炭素原子数1~20のハロゲン化アルキル基、炭素原子数3~15のシクロアルキル基または炭素原子数6~20の芳香族炭化水素基であり、R104は水素原子または炭素原子数1~10のアルキル基であり、tは0~10の正の整数であり、R75およびR76は互いに結合して単環または多環を形成していてもよい。〕
【化3】
〔上記一般式(V)中、uは0または1であり、vは0または正の整数であり、wは0または1であり、R61~R78ならびにRa1およびRb1は互いに同一でも異なっていてもよく、水素原子、ハロゲン原子、炭素原子数1~20のアルキル基、炭素原子数1~20のハロゲン化アルキル基、炭素原子数3~15のシクロアルキル基または炭素原子数6~20の芳香族炭化水素基であり、R75~R78は互いに結合して単環または多環を形成していてもよい。〕
【化4】
〔上記一般式(IV)中、mおよびnはそれぞれ1または0である。nが1のとき、mは0または1であり、RおよびRは水素原子である。aは二重結合である。n=0の場合はmは0または1であり、RおよびRは内部に2重結合を有する炭素原子数2の炭化水素基または水素原子である。mおよびnがともに0であるとき、Rは炭素原子数2の炭化水素基であり、内部に2重結合を有し、RはRと同一基である。〕
[2]
上記[1]に記載の環状オレフィン系樹脂組成物において、
上記環状オレフィン系樹脂組成物に含まれる上記環状オレフィン共重合体(m)と上記環状オレフィン重合体(n)との合計量を100質量部としたとき、
上記環状オレフィンの開環重合体の未水添物(n2)の含有量が5質量部以上20質量部以下である環状オレフィン系樹脂組成物。
[3]
上記[1]または[2]に記載の環状オレフィン系樹脂組成物において、
上記環状オレフィンの開環重合体の未水添物(n2)の重量平均分子量Mwが15,000以上27,000以下である環状オレフィン系樹脂組成物。
[4]
上記[1]乃至[3]のいずれか一つに記載の環状オレフィン系樹脂組成物において、
上記環状非共役ジエン由来の繰り返し単位(B)を構成する環状非共役ジエンが、5-ビニル-2-ノルボルネンおよび8-ビニル-9-メチルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]-3-ドデセンから選択される少なくとも一種を含む環状オレフィン系樹脂組成物。
[5]
上記[1]乃至[4]のいずれか一つに記載の環状オレフィン系樹脂組成物において、
上記環状オレフィン由来の繰り返し単位(C)を構成する環状オレフィンが、ビシクロ[2.2.1]-2-ヘプテンおよびテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]-3-ドデセンから選択される少なくとも一種を含む環状オレフィン系樹脂組成物。
[6]
上記[1]乃至[5]のいずれか一つに記載の環状オレフィン系樹脂組成物において、
溶媒をさらに含み、ワニス状である環状オレフィン系樹脂組成物。
[7]
上記[1]乃至[6]のいずれか一つに記載の環状オレフィン系樹脂組成物において、
架橋剤をさらに含む環状オレフィン系樹脂組成物。
[8]
上記[1]乃至[7]のいずれか一つに記載の環状オレフィン系樹脂組成物を架橋してなる架橋体。
[9]
上記[8]に記載の架橋体を含む成形体。
[10]
フィルムまたはシートである上記[9]に記載の成形体。
[11]
上記[10]に記載の成形体において、
上記フィルムまたはシート上にさらに基材を含む成形体。
[12]
上記[1]乃至[7]のいずれか一つに記載の環状オレフィン系樹脂組成物とシート状繊維基材とを含むプリプレグ。
[13]
上記[8]に記載の架橋体を含む電気絶縁層と、上記電気絶縁層上に設けられた導体層とを含む回路基板。
[14]
上記[13]に記載の回路基板を備えた電子機器。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、誘電特性、伸びおよび屈曲性の性能バランスに優れた成形体を実現できる環状オレフィン系樹脂組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施形態に基づいて説明する。なお、本実施形態では、数値範囲を示す「A~B」はとくに断りがなければ、A以上B以下を表す。
【0012】
まず、本発明に係る実施形態の環状オレフィン系樹脂組成物について説明する。
本実施形態の環状オレフィン系樹脂組成物は、環状オレフィン共重合体(m)と、環状オレフィン共重合体(m)とは異なる環状オレフィン重合体(n)と、を含有する。
本実施形態に係る環状オレフィン系樹脂組成物に含まれる環状オレフィン共重合体(m)と環状オレフィン重合体(n)との合計量を100質量%としたとき、環状オレフィン共重合体(m)の含有量が好ましくは5質量%以上95質量%以下、より好ましくは10質量%以上90質量%以下、さらに好ましくは20質量%以上80質量%以下、さらにより好ましくは25質量%以上75質量%以下であり、環状オレフィン重合体(n)の含有量が好ましくは5質量%以上95質量%以下、より好ましくは10質量%以上90質量%以下、さらに好ましくは20質量%以上80質量%以下、さらにより好ましくは25質量%以上75質量%以下である。
以下、各成分について具体的に説明する。
【0013】
[環状オレフィン共重合体(m)]
本実施形態の環状オレフィン共重合体(m)は、(A)下記一般式(I)で表される1種以上のオレフィン由来の繰り返し単位と、(B)下記一般式(III)で表される1種以上の環状非共役ジエン由来の繰り返し単位と、(C)下記一般式(V)で表される1種以上の環状オレフィン由来の繰り返し単位と、を含む。
【0014】
【化5】
【0015】
上記一般式(I)において、R300は水素原子または炭素原子数1~29の直鎖状または分岐状の炭化水素基を示す。
【0016】
【化6】
【0017】
上記一般式(III)中、uは0または1であり、vは0または正の整数、好ましくは0以上2以下の整数、より好ましくは0または1であり、wは0または1であり、R61~R76ならびにRa1およびRb1は互いに同一でも異なっていてもよく、水素原子、ハロゲン原子、炭素原子数1~20のアルキル基、炭素原子数1~20のハロゲン化アルキル基、炭素原子数3~15のシクロアルキル基または炭素原子数6~20の芳香族炭化水素基であり、R104は水素原子または炭素原子数1~10のアルキル基であり、tは0~10の正の整数であり、R75およびR76は、互いに結合して単環または多環を形成していてもよい。
【0018】
【化7】
【0019】
上記一般式(V)中、uは0または1であり、vは0または正の整数、好ましくは0以上2以下の整数、より好ましくは0または1であり、wは0または1であり、R61~R78ならびにRa1およびRb1は、互いに同一でも異なっていてもよく、水素原子、ハロゲン原子、炭素原子数1~20のアルキル基、炭素原子数1~20のハロゲン化アルキル基、炭素原子数3~15のシクロアルキル基または炭素原子数6~20の芳香族炭化水素基であり、R75~R78は互いに結合して単環または多環を形成していてもよい。
【0020】
環状オレフィン共重合体(m)において、環状オレフィン共重合体(m)中の繰り返し単位の合計モル数を100モル%とした場合に、オレフィン由来の繰り返し単位(A)の含有量が10モル%以上90モル%以下、好ましくは15モル%以上85モル%以下、より好ましくは20モル%以上80モル%以下、さらに好ましくは30モル%以上80モル%以下、さらにより好ましくは35モル%以上80モル%以下、特に好ましくは40モル%以上80モル%以下であり、環状非共役ジエン由来の繰り返し単位(B)の含有量が1モル%以上40モル%以下、好ましくは2モル%以上35モル%以下、さらに好ましくは3モル%以上30モル%以下であり、環状オレフィン由来の繰り返し単位(C)の含有量が1モル%以上30モル%以下、好ましくは3モル%以上25モル%以下、さらに好ましくは5モル%以上20モル%以下である。
環状オレフィン共重合体(m)中の繰り返し単位の各含有量が上記範囲内であると、上記環状オレフィン系樹脂組成物から得られる架橋体は、誘電特性の経時的安定性が優れるとともに耐熱性にも優れる。さらに、機械特性、誘電特性、透明性およびガスバリア性にも優れた架橋体(Q)を得ることができる。言い換えればこれらの物性のバランスに優れた架橋体(Q)を得ることができる。
【0021】
環状オレフィン共重合体(m)の共重合原料の一つであるオレフィンモノマーは、付加共重合して上記式(I)で表される骨格を与えるモノマーであり、下記一般式(Ia)で表されるオレフィンである。
【0022】
【化8】
【0023】
上記一般式(Ia)中、R300は水素原子または炭素原子数1~29の直鎖状または分岐状の炭化水素基を示す。一般式(Ia)で表されるオレフィンとしては、例えば、エチレン、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、3-メチル-1-ブテン、3-メチル-1-ペンテン、3-エチル-1-ペンテン、4-メチル-1-ペンテン、4-メチル-1-ヘキセン、4,4-ジメチル-1-ヘキセン、4,4-ジメチル-1-ペンテン、4-エチル-1-ヘキセン、3-エチル-1-ヘキセン、1-オクテン、1-デセン、1-ドデセン、1-テトラデセン、1-ヘキサデセン、1-オクタデセン、1-エイコセン等が挙げられる。より優れた耐熱性、機械的特性、誘電特性、透明性およびガスバリア性を有する架橋体(Q)を得る観点から、これらの中でも、エチレンまたはプロピレンが好ましく、エチレンがより好ましい。上記式(Ia)で表されるオレフィンモノマーは二種類以上を用いてもよい。
【0024】
環状オレフィン共重合体(m)の共重合原料の一つである環状非共役ジエン単量体は付加共重合して上記式(III)で表される構成単位を形成するものである。具体的には、上記一般式(III)に対応する下記一般式(IIIa)で表される環状非共役ジエンが用いられる。
【0025】
【化9】
【0026】
上記一般式(IIIa)中、uは0または1であり、vは0または正の整数、好ましくは0以上2以下の整数、より好ましくは0または1であり、wは0または1であり、R61~R76ならびにRa1およびRb1は、互いに同一でも異なっていてもよく、水素原子、ハロゲン原子、炭素原子数1~20のアルキル基、炭素原子数1~20のハロゲン化アルキル基、炭素原子数3~15のシクロアルキル基または炭素原子数6~20の芳香族炭化水素基であり、R104は水素原子または炭素原子数1~10のアルキル基であり、tは0~10の正の整数であり、R75およびR76は、互いに結合して単環または多環を形成していてもよい。
【0027】
上記一般式(IIIa)で表される環状非共役ジエンとしては、特に限定されるものではないが、例えば、下記化学式で表される環状非共役ジエンを挙げることができる。これらのうち5-ビニル-2-ノルボルネンおよび8-ビニル-9-メチルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]-3-ドデセンから選択される少なくとも一種が好ましく、5-ビニル-2-ノルボルネンがより好ましい。
【0028】
【化10】
【0029】
【化11】
【0030】
上記一般式(IIIa)で表される環状非共役ジエンは、具体的には以下の一般式(IIIb)で表すこともできる。
【0031】
【化12】
【0032】
一般式(IIIb)中のnは0~10の整数であり、Rは水素原子または炭素原子数1~10のアルキル基であり、Rは水素原子または炭素原子数1~5のアルキル基である。
【0033】
本実施形態の環状オレフィン共重合体(m)には、一般式(III)で表される環状非共役ジエン由来の構成単位が含まれることにより、側鎖部分、すなわち共重合の主鎖以外の部分に二重結合を有することが特徴である。
【0034】
環状オレフィン共重合体(m)の共重合原料の一つである環状オレフィンモノマーは付加共重合して上記式(V)で表される構成単位を形成するものである。具体的には、上記一般式(V)に対応する下記一般式(Va)で表される環状オレフィンモノマーが用いられる。
【0035】
【化13】
【0036】
上記一般式(Va)中、uは0または1であり、vは0または正の整数、好ましくは0以上2以下の整数、より好ましくは0または1であり、wは0または1であり、R61~R78ならびにRa1およびRb1は、互いに同一でも異なっていてもよく、水素原子、ハロゲン原子、炭素原子数1~20のアルキル基、炭素原子数1~20のハロゲン化アルキル基、炭素原子数3~15のシクロアルキル基、または炭素原子数6~20の芳香族炭化水素基であり、R75~R78は、互いに結合して単環または多環を形成していてもよい。
【0037】
上記一般式(Va)で表される環状オレフィンの具体例については国際公開第2006/118261号に記載の化合物を用いることができる。
上記一般式(Va)で表される環状オレフィンとしては、ビシクロ[2.2.1]-2-ヘプテン(ノルボルネンとも呼ぶ。)およびテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]-3-ドデセン(テトラシクロドデセンとも呼ぶ。)から選択される少なくとも一種が好ましく、テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]-3-ドデセンがより好ましい。これらの環状オレフィンは剛直な環構造を有するため共重合体および架橋体の弾性率が保持され易く、また異種二重結合構造を含まないため架橋の制御をし易くなる利点がある。
【0038】
共重合成分として、前述した一般式(Ia)で表されるオレフィンモノマー、一般式(Va)で表される環状オレフィンを用いることにより、環状オレフィン共重合体(m)の溶媒への溶解性がより向上するため成形性が良好となり、製品の歩留まりが向上する。
【0039】
環状オレフィン共重合体(m)は、(A)一般式(I)で表される1種以上のオレフィン由来の繰り返し単位、(B)一般式(III)で表される環状非共役ジエン由来の繰り返し単位および(C)一般式(V)で表される1種以上の環状オレフィン由来の繰り返し単位に加えて、一般式(III)で表される環状非共役ジエンおよび一般式(V)で表される環状オレフィン以外の環状オレフィン、および/または鎖状ポリエン由来の繰り返し単位とから構成されていてもよい。
この場合、環状オレフィン共重合体(m)の共重合原料として、一般式(Ia)で表されるオレフィンモノマー、一般式(IIIa)で表される環状非共役ジエンモノマー、一般式(Va)で表される環状オレフィンモノマーに加えて、一般式(IIIa)で表される環状非共役ジエンモノマーおよび一般式(Va)で表される環状オレフィンモノマー以外の環状オレフィンモノマー、および/または鎖状ポリエンモノマーを用いることができる。
このような環状オレフィンモノマーおよび鎖状ポリエンモノマーとしては下記一般式(VIa)または(VIIa)で表される環状オレフィン、または下記一般式(VIIIa)で表される鎖状ポリエンである。これらの環状オレフィンや鎖状ポリエンは異なる二種以上を用いてもよい。
【0040】
【化14】
【0041】
一般式(VIa)中、xおよびdは0または1以上の整数、好ましくは0以上2以下の整数、より好ましくは0または1であり、yおよびzは0、1または2であり、R81~R99は互いに同一でも異なっていてもよく、水素原子、ハロゲン原子、炭素原子数1~20のアルキル基もしくは炭素原子数3~15のシクロアルキル基である脂肪族炭化水素基、炭素原子数6~20の芳香族炭化水素基またはアルコキシ基であり、R89およびR90が結合している炭素原子と、R93が結合している炭素原子またはR91が結合している炭素原子とは、直接あるいは炭素原子数1~3のアルキレン基を介して結合していてもよく、またy=z=0のとき、R95とR92またはR95とR99とは互いに結合して単環または多環の芳香族環を形成していてもよい。
【0042】
【化15】
【0043】
一般式(VIIa)中、R100およびR101は、互いに同一でも異なっていてもよく、水素原子または炭素原子数1~5の炭化水素基を示し、fは1≦f≦18である。
【0044】
【化16】
【0045】
一般式(VIIIa)中、R201からR206は互いに同一でも異なっていてもよく、水素原子、または炭素原子数1~20の炭化水素基であり、Pは炭素原子数1~20の直鎖または分岐状の炭化水素基で、二重結合および/または三重結合を含んでいてもよい。
【0046】
一般式(VIa)および一般式(VIIa)で表される環状オレフィンの具体例については国際公開第2006/118261号の段落0037~0063に記載の化合物を用いることができる。
【0047】
一般式(VIIIa)で表される鎖状ポリエンとして、具体的には、1,4-ヘキサジエン、3-メチル-1,4-ヘキサジエン、4-メチル-1,4-ヘキサジエン、5-メチル-1,4-ヘキサジエン、4,5-ジメチル-1,4-ヘキサジエン、7-メチル-1,6-オクタジエン、DMDT、1,3-ブタジエン,1,5-ヘキサジエン等が挙げられる。また1,3-ブタジエン、1,5-ヘキサジエン等のポリエンから環化した環化性のポリエンを用いてもよい。
【0048】
環状オレフィン共重合体(m)が、上記一般式(VIIIa)で表される鎖状ポリエン由来の構成単位、あるいは一般式(III)で表される環状非共役ジエンおよび一般式(V)で表される環状オレフィン以外の環状オレフィン〔例えば、一般式(VIa)、一般式(VIIa)〕に由来する構成単位を含む場合は、該構成単位の含有量は、上記一般式(I)で表される1種以上のオレフィン由来の繰り返し単位、上記一般式(III)で表される1種以上の環状非共役ジエン由来の繰り返し単位、上記一般式(V)で表される1種以上の環状オレフィン由来の繰り返し単位の合計モル数に対して、通常0.1~100mol%、好ましくは0.1~50mol%である。
【0049】
共重合成分として、前述した一般式(I)で表されるオレフィンモノマー、一般式(VIa)または(VIIa)で表される環状オレフィンおよび一般式(VIIIa)で表される鎖状ポリエンを用いることにより、環状オレフィン共重合体の溶媒への溶解性がより向上するため成形性が良好となり、製品の歩留まりが向上する。これらのうちでも一般式(VIa)または(VIIa)で表される環状オレフィンが好ましい。これらの環状オレフィンは剛直な環構造を有するため共重合体および架橋体の弾性率が保持され易く、また異種二重結合構造を含まないため架橋の制御をし易くなる利点がある。
【0050】
環状オレフィン共重合体(m)は目的とする用途に応じて、モノマーの仕込み比により、そのコモノマー含有量、およびガラス転移点(Tg)をコントロールできる。環状オレフィン共重合体(m)のTgは、例えば300℃以下、好ましくは250℃以下、さらに好ましくは200℃以下、さらにより好ましくは170℃以下、とりわけ好ましくは150℃以下である。Tgが上記上限値以下であると、環状オレフィン共重合体(m)の溶融成形性およびワニス化するときの溶媒への溶解性がより一層向上する。Tgが上記下限値以上であると、得られる成形体の耐熱性をより一層向上させることができる。
【0051】
環状オレフィン共重合体(m)の、135℃中デカリン中で測定した極限粘度[η]は、例えば0.10~15dl/g、好ましくは0.10~5dl/g、より好ましくは0.15~3dl/gの範囲である。極限粘度[η]が上記上限値以下であると、成形性やワニス化するときの溶媒への溶解性が向上する。また、極限粘度[η]が上記下限値以上であると、環状オレフィン系樹脂組成物を架橋することによって得られる架橋体(Q)の耐熱性や機械的特性が向上する。
なお、環状オレフィン共重合体(m)の極限粘度[η]は、重合触媒、助触媒、H添加量、重合温度等の重合条件により制御することが可能である。
【0052】
[環状オレフィン共重合体(m)の製造方法]
本実施形態に係る環状オレフィン共重合体(m)は、例えば、国際公開第2012/046443号の段落0075~0219に記載の環状オレフィン共重合体の製造方法にしたがって製造することができる。ここでは詳細は省略する。
【0053】
[環状オレフィン重合体(n)]
環状オレフィン重合体(n)は、環状オレフィン共重合体(m)とは異なる環状オレフィン共重合体である。具体的には、環状オレフィン重合体(n)は、エチレンまたはα-オレフィンと環状オレフィンとの共重合体(n1)および下記一般式(IV)で表される繰り返し単位からなる環状オレフィンの開環重合体の未水添物(n2)を含む。
本実施形態に係る環状オレフィン系樹脂組成物は、環状オレフィン重合体(n1)を含むことにより、環状オレフィン系樹脂組成物を架橋して得られる架橋体の誘電特性を良好なものとすることができる。さらに、本実施形態に係る環状オレフィン系樹脂組成物は、環状オレフィンの開環重合体の未水添物(n2)をさらに含むことにより、環状オレフィン系樹脂組成物を架橋して得られる架橋体の誘電特性を良好に維持しながら、伸びおよび屈曲性を良好なものとすることができる。
ここで、上記共重合体(n1)は上記一般式(III)で表される環状非共役ジエン由来の繰り返し単位を含まない。本実施形態において、上記共重合体(n1)が上記一般式(III)で表される環状非共役ジエン由来の繰り返し単位を含まないとは、上記共重合体(n1)中の繰り返し単位の合計モル数を100モル%とした場合に、上記一般式(III)で表される環状非共役ジエン由来の繰り返し単位の含有量が0.05モル%以下であることを意味する。
【0054】
【化17】
上記一般式(IV)中、mおよびnはそれぞれ1または0である。nが1のとき、mは0または1、好ましくは0であり、RおよびRは水素原子である。aは二重結合である。n=0の場合はmは0または1、好ましくは1であり、RおよびRは内部に2重結合を有する炭素原子数2の炭化水素基または水素原子である。mおよびnがともに0であるとき、Rは炭素原子数2の炭化水素基であり、内部に2重結合を有し、RはRと同一基である。
【0055】
本実施形態に係る環状オレフィン系樹脂組成物に含まれる環状オレフィン共重合体(m)と環状オレフィン重合体(n)との合計量を100質量部としたとき、環状オレフィンの開環重合体の未水添物(n2)の含有量は、環状オレフィン系樹脂組成物を架橋して得られる架橋体の伸びおよび屈曲性をより一層向上させる観点から、5質量部以上であることが好ましく、7質量部以上であることがより好ましく、本実施形態に係る環状オレフィン系樹脂組成物の溶解性をより一層向上させる観点から、20質量部以下であることが好ましく、10質量部以下であることがより好ましい。
【0056】
環状オレフィンの開環重合体の未水添物(n2)の重量平均分子量Mwは、環状オレフィン系樹脂組成物を架橋して得られる架橋体の伸びおよび屈曲性をより一層向上させる観点から、15,000以上であることが好ましく、16,000以上であることがより好ましく、本実施形態に係る環状オレフィン系樹脂組成物の溶解性を向上させる観点から、27,000以下であることが好ましい。
【0057】
エチレンまたはα-オレフィンと環状オレフィンとの共重合体(n1)としては、例えば、国際公開第2008/047468号の段落0030~0123に記載の重合体を用いることができる。本実施形態においてエチレンまたはα-オレフィンと環状オレフィンとの共重合体(n1)は1種類を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0058】
例えば、繰り返し構造単位の少なくとも一部に脂環族構造を有する重合体(以下、単に「脂環族構造を有する重合体」ともいう)であり、重合体の繰り返し単位の少なくとも一部に脂環族構造を有するものであればよく、具体的には下記一般式(3)で表される1種ないし2種以上の構造を有する重合体を含むことが好ましい。
【0059】
【化18】
(式(3)中、x、yは共重合比を示し、0/100≦y/x≦95/5を満たす実数である。x、yはモル基準である。
nは置換基Qの置換数を示し、0≦n≦2の実数である。
は、炭素原子数2~20の炭化水素基よりなる群から選ばれる2+n価の基である。
は、水素原子、又は炭素原子数1~10の炭化水素基よりなる群から選ばれる1価の基である。
は、炭素原子数2~10の炭化水素基よりなる群から選ばれる4価の基である。
Qは、COOR(Rは、水素原子、または炭素原子数1~10の炭化水素基よりなる群から選ばれる1価の基である。)である。
、R、RおよびQは、それぞれ1種であってもよく、2種以上を任意の割合で有していてもよい。)
【0060】
また上記一般式(3)において、Rは、好ましくは、炭素原子数2~12の炭化水素基から選ばれる1種ないし2種以上の2価の基であり、さらに好ましくはn=0の場合、下記一般式(7)で表される2価の基であり、最も好ましくは、下記一般式(7)において、pが0または1である2価の基である。Rの構造は1種のみ用いても、2種以上を併用しても構わない。
【0061】
【化19】
ここで、式(7)中、pは、0~2の整数である。
【0062】
また、エチレンまたはα-オレフィンと環状オレフィンとの共重合体(n1)としては、下記一般式(4)で表現される環状オレフィン系共重合体である。例えば、エチレンまたは炭素原子数が3~30の直鎖状または分岐状のα-オレフィン由来の構成単位(A)と、環状オレフィン由来の構成単位(B)とからなる。
【0063】
【化20】
(式(4)中、Rは、炭素原子数2~20の炭化水素基よりなる群から選ばれる2価の基である。
は、水素原子、または炭素原子数1~10の炭化水素基よりなる群から選ばれる1価の基である。
およびRは、それぞれ1種であってもよく、2種以上を任意の割合で有していてもよい。
x、yは共重合比を示し、5/95≦y/x≦95/5を満たす実数である。好ましくは50/50≦y/x≦95/5、さらに好ましくは、55/45≦y/x≦80/20である。x、yはモル基準である。
【0064】
エチレンまたはα-オレフィンと環状オレフィンとの共重合体(n1)は、エチレンおよび環状オレフィンからなる共重合体が好ましく、環状オレフィンがビシクロ[2.2.1]-2-ヘプテン、テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]-3-ドデセン、1,4-メタノ-1,4,4a,9a-テトラヒドロフルオレン、シクロペンタジエン-ベンザイン付加物およびシクロペンタジエン-アセナフチレン付加物からなる群から選ばれる一種または二種以上であるものが好ましく、ビシクロ[2.2.1]-2-ヘプテンおよびテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]-3-ドデセンから選択される少なくとも一種であるものがより好ましい。
エチレンまたはα-オレフィンと環状オレフィンとの共重合体(n1)体としては、上記一般式(3)で表される1種ないし2種以上の構造を有する重合体または上記一般式(4)で表現される環状オレフィン系共重合体が水素添加処理された重合体であってもよい。
【0065】
また、エチレンまたはα-オレフィンと環状オレフィンとの共重合体(n1)としては、炭素数4~12のα-オレフィンと環状オレフィンとの共重合体も好ましい。炭素数4~12のα-オレフィンと環状オレフィンとの共重合体としては、例えば、国際公開第2015/178145号の段落0056~0070に記載の重合体を用いることができる。
炭素数4~12のα-オレフィンと環状オレフィンとの共重合体を構成する環状オレフィンとしては、例えば、ノルボルネン及び置換ノルボルネンが挙げられ、ノルボルネンが好ましい。上記環状オレフィンは、1種単独で又は2種以上組み合わせて使用することができる。
【0066】
上記置換ノルボルネンは特に限定されず、この置換ノルボルネンが有する置換基としては、例えば、ハロゲン原子、1価又は2価の炭化水素基が挙げられる。置換ノルボルネンの具体例としては、下記一般式(A)で示されるものが挙げられる。
【0067】
【化21】
(式中、R~R12は、それぞれ同一でも異なっていてもよく、水素原子、ハロゲン原子、及び、炭化水素基からなる群より選ばれるものであり、RとR10、R11とR12は、一体化して2価の炭化水素基を形成してもよく、R又はR10と、R11又はR12とは、互いに環を形成していてもよい。また、nは、0又は正の整数を示し、nが2以上の場合には、R~Rは、それぞれの繰り返し単位の中で、それぞれ同一でも異なっていてもよい。ただし、n=0の場合、R~R及びR~R12の少なくとも1個は、水素原子ではない。)
【0068】
一般式(A)で示される置換ノルボルネンについて説明する。一般式(A)におけるR~R12は、それぞれ同一でも異なっていてもよく、水素原子、ハロゲン原子、及び、炭化水素基からなる群より選ばれるものである。
【0069】
~Rの具体例としては、例えば、水素原子;フッ素、塩素、臭素等のハロゲン原子;炭素数1以上20以下のアルキル基等を挙げることができ、これらはそれぞれ異なっていてもよく、部分的に異なっていてもよく、また、全部が同一であってもよい。
【0070】
また、R~R12の具体例としては、例えば、水素原子;フッ素、塩素、臭素等のハロゲン原子;炭素数1以上20以下のアルキル基;シクロヘキシル基等のシクロアルキル基;フェニル基、トリル基、エチルフェニル基、イソプロピルフェニル基、ナフチル基、アントリル基等の置換又は無置換の芳香族炭化水素基;ベンジル基、フェネチル基、その他アルキル基にアリール基が置換したアラルキル基等を挙げることができ、これらはそれぞれ異なっていてもよく、部分的に異なっていてもよく、また、全部が同一であってもよい。
【0071】
とR10、又はR11とR12とが一体化して2価の炭化水素基を形成する場合の具体例としては、例えば、エチリデン基、プロピリデン基、イソプロピリデン基等のアルキリデン基等を挙げることができる。
【0072】
又はR10と、R11又はR12とが、互いに環を形成する場合には、形成される環は単環でも多環であってもよく、架橋を有する多環であってもよく、二重結合を有する環であってもよく、またこれらの環の組み合わせからなる環であってもよい。また、これらの環はメチル基等の置換基を有していてもよい。
【0073】
一般式(A)で示される置換ノルボルネンの具体例としては、5-メチル-ビシクロ[2.2.1]ヘプタ-2-エン、5,5-ジメチル-ビシクロ[2.2.1]ヘプタ-2-エン、5-エチル-ビシクロ[2.2.1]ヘプタ-2-エン、5-ブチル-ビシクロ[2.2.1]ヘプタ-2-エン、5-エチリデン-ビシクロ[2.2.1]ヘプタ-2-エン、5-ヘキシル-ビシクロ[2.2.1]ヘプタ-2-エン、5-オクチル-ビシクロ[2.2.1]ヘプタ-2-エン、5-オクタデシル-ビシクロ[2.2.1]ヘプタ-2-エン、5-メチリデン-ビシクロ[2.2.1]ヘプタ-2-エン、5-ビニル-ビシクロ[2.2.1]ヘプタ-2-エン、5-プロペニル-ビシクロ[2.2.1]ヘプタ-2-エン等の2環の環状オレフィン;トリシクロ[4.3.0.12,5]デカ-3,7-ジエン(慣用名:ジシクロペンタジエン)、トリシクロ[4.3.0.12,5]デカ-3-エン;トリシクロ[4.4.0.12,5]ウンデカ-3,7-ジエン若しくはトリシクロ[4.4.0.12,5]ウンデカ-3,8-ジエン又はこれらの部分水素添加物(又はシクロペンタジエンとシクロヘキセンの付加物)であるトリシクロ[4.4.0.12,5]ウンデカ-3-エン;5-シクロペンチル-ビシクロ[2.2.1]ヘプタ-2-エン、5-シクロヘキシル-ビシクロ[2.2.1]ヘプタ-2-エン、5-シクロヘキセニルビシクロ[2.2.1]ヘプタ-2-エン、5-フェニル-ビシクロ[2.2.1]ヘプタ-2-エンといった3環の環状オレフィン;テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ-3-エン(単にテトラシクロドデセンともいう)、8-メチルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ-3-エン、8-エチルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ-3-エン、8-メチリデンテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ-3-エン、8-エチリデンテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ-3-エン、8-ビニルテトラシクロ[4,4.0.12,5.17,10]ドデカ-3-エン、8-プロペニル-テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ-3-エンといった4環の環状オレフィン;8-シクロペンチル-テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ-3-エン、8-シクロヘキシル-テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ-3-エン、8-シクロヘキセニル-テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ-3-エン、8-フェニル-シクロペンチル-テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ-3-エン;テトラシクロ[7.4.13,6.01,9.02,7]テトラデカ-4,9,11,13-テトラエン(1,4-メタノ-1,4,4a,9a-テトラヒドロフルオレンともいう)、テトラシクロ[8.4.14,7.01,10.03,8]ペンタデカ-5,10,12,14-テトラエン(1,4-メタノ-1,4,4a,5,10,10a-へキサヒドロアントラセンともいう);ペンタシクロ[6.6.1.13,6.02,7.09,14]-4-ヘキサデセン、ペンタシクロ[6.5.1.13,6.02,7.09,13]-4-ペンタデセン、ペンタシクロ[7.4.0.02,7.13,6.110,13]-4-ペンタデセン;ヘプタシクロ[8.7.0.12,9.14,7.111,17.03,8.012,16]-5-エイコセン、ヘプタシクロ[8.7.0.12,9.03,8.14,7.012,17.113,l6]-14-エイコセン;シクロペンタジエンの4量体等の多環の環状オレフィンを挙げることができる。
【0074】
中でも、アルキル置換ノルボルネン(例えば、1個以上のアルキル基で置換されたビシクロ[2.2.1]ヘプタ-2-エン)、アルキリデン置換ノルボルネン(例えば、1個以上のアルキリデン基で置換されたビシクロ[2.2.1]ヘプタ-2-エン)が好ましく、5-エチリデン-ビシクロ[2.2.1]ヘプタ-2-エン(慣用名:5-エチリデン-2-ノルボルネン、又は、単にエチリデンノルボルネン)が特に好ましい。
【0075】
炭素数4~12のα-オレフィンと環状オレフィンとの共重合体を構成する炭素数4~12のα-オレフィンとしては、例えば、炭素数4~12のα-オレフィンや、ハロゲン原子等の少なくとも1種の置換基を有する炭素数4~12のα-オレフィンが挙げられ、炭素数4~12のα-オレフィンが好ましい。
【0076】
炭素数4~12のα-オレフィンは特に限定されないが、例えば、1-ブテン、1-ペンテン、1-へキセン、3-メチル-1-ブテン、3-メチル-1-ペンテン、3-エチル-1-ペンテン、4-メチル-1-ペンテン、4-メチル-1-へキセン、4,4-ジメチル-1-ヘキセン、4,4-ジメチル-1-ペンテン、4-エチル-1-へキセン、3-エチル-1-ヘキセン、1-オクテン、1-デセン、1-ドデセン等が挙げられる。中でも、1-ヘキセン、1-オクテン、1-デセンが好ましい。
【0077】
本実施形態に係る炭素数4~12のα-オレフィンと環状オレフィンとの共重合体は、当該共重合体中に含まれる繰り返し単位の合計を100モル%としたとき、炭素数4~12のα-オレフィン由来の繰り返し単位の割合が、好ましくは10モル%以上90モル%以下、より好ましくは15モル%以上80モル%以下、さらに好ましくは20モル%以上70モル%以下である。
また、本実施形態に係る炭素数4~12のα-オレフィンと環状オレフィンとの共重合体は、当該共重合体中に含まれる繰り返し単位の合計を100モル%としたとき、環状オレフィン由来の繰り返し単位の割合が、好ましくは10モル%以上90モル%以下、より好ましくは20モル%以上85モル%以下、さらに好ましくは30モル%以上80モル%以下である。
【0078】
炭素数4~12のα-オレフィンと環状オレフィンとの共重合体を得るための重合工程の条件は、所望の共重合体が得られる限り、特に限定されず、公知の条件を用いることができ、重合温度、重合圧力、重合時間等は適宜調整される。
【0079】
また、環状オレフィンの開環重合体の未水添物(n2)の重合原料の一つである環状非共役ジエン単量体は開環重合して上記一般式(IV)で表される構成単位を形成するものである。このような環状非共役ジエン単量体としては、例えば、2,5-ノルボルナジエン、5-ビニル-ビシクロ[2.2.1]ヘプタ-2-エン、5-エチリデン-2-ノルボルネン、トリシクロ[4.3.0.12,5]デカ-3,7-ジエン(慣用名:ジシクロペンタジエン)、3a,4,4a,5,8,8a,9,9a-オクタヒドロ-4,9:5,8-ジメタノ-1H-ベンゾ〔f〕インデン(慣用名:トリシクロペンタジエン)、2-エチリデン-1,2,3,4,4a,5,8,8a-オクタヒドロ-1,4:5,8-ジメタノナフタレン等が挙げられる。これらの中でも、耐熱性の観点から、ジシクロペンタジエンが好ましい。
【0080】
本実施形態において環状オレフィンの開環重合体の未水添物(n2)は1種類を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0081】
[添加剤]
本実施形態の環状オレフィン系樹脂組成物には、目的に応じて、各種添加剤を添加してもよい。添加剤の添加量は、本発明の目的を損なわない範囲内で用途に応じて適宜選択される。
上記添加剤としては、ラジカル重合開始剤などの架橋剤、エラストマー、耐熱安定剤、耐候安定剤、耐放射線剤、可塑剤、滑剤、離型剤、核剤、摩擦磨耗性向上剤、難燃剤、発泡剤、帯電防止剤、着色剤、防曇剤、アンチブロッキング剤、耐衝撃剤、表面ぬれ改善剤、充填材、塩酸吸収剤および金属不活性化剤からなる群から選択される一種または二種以上の添加剤が挙げられる。
【0082】
[環状オレフィン系樹脂組成物の調製方法]
本実施形態の環状オレフィン系樹脂組成物の調製方法は、環状オレフィン共重合体(m)と、環状オレフィン重合体(n)と、必要に応じて各種添加剤と、を混合することにより調製できる。混合方法としては、押出機等で溶融ブレンドする方法、または適当な溶媒、例えばヘプタン、ヘキサン、デカン、シクロヘキサンのような飽和炭化水素;トルエン、ベンゼン、キシレンのような芳香族炭化水素等に溶解、分散させて行う溶液ブレンド法等を採用することができる。
【0083】
[ワニス]
本実施形態に係る環状オレフィン系樹脂組成物は、溶媒と混合することによりワニス状とすることができる。
ワニス状の環状オレフィン系樹脂組成物を調製するための溶媒としては、環状オレフィン共重合体(m)および環状オレフィン重合体(n)に対して溶解性または親和性を損なわないものであれば特に限定されない。溶媒として好ましく用いられるものは、例えば、ヘプタン、ヘキサン、オクタン、デカン等の飽和炭化水素;シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、デカヒドロナフタレン等の脂環状炭化水素;トルエン、ベンゼン、キシレン、メシチレン、プソイドクメン等の芳香族炭化水素;メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、プロパンジオール、フェノール等のアルコール;アセトン、メチルイソブチルケトン、メチルエチルケトン、ペンタノン、ヘキサノン、シクロヘキサノン、イソホロン、アセトフェノン等のケトン系溶媒;メチルセルソルブ、エチルセルソルブ等のセルソルブ類;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、プロピオン酸メチル、ギ酸ブチル等のエステル類;トリクロルエチレン、ジクロルエチレン、クロルベンゼン等のハロゲン化炭化水素等が用いられる。好ましくはヘプタン、デカン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、デカヒドロナフタレン、トルエン、ベンゼン、キシレン、メシチレン、プソイドクメンが用いられる。これらの溶媒は単独で、または2種以上を任意の割合で混合して用いることができる。
【0084】
本実施形態において、ワニス状の環状オレフィン系樹脂組成物作製する方法としては、いかなる方法で実施してもよいが、通常は環状オレフィン系樹脂組成物と溶媒とを混合する工程を含む。各成分の混合については、その順序に制限はなく、一括または分割等のいかなる方式でも実施することができる。ワニスを調製する装置としても、制限はなく、撹拌、混合が可能な、バッチ式、もしくは連続式の、いかなる装置で実施してもよい。ワニスを調製する際の温度は、室温から溶媒の沸点までの範囲で任意に選択することができる。
なお、環状オレフィン共重合体(m)が得られた際の反応溶液をそのまま溶媒として用い、そこへ環状オレフィン重合体(n)を溶解させることによりワニスを調製してもよい。また、環状オレフィン共重合体(m)が得られた際の反応溶液に、別途調製した環状オレフィン重合体(n)のワニスを混合することによりワニスを調製してもよい。
【0085】
[架橋体(Q)]
本実施形態に係る架橋体(Q)は、本実施形態に係る環状オレフィン系樹脂組成物の架橋体であり、上述の環状オレフィン系樹脂組成物中の環状オレフィン共重合体(m)を架橋することにより得られる。環状オレフィン共重合体(m)の架橋方法としては特に制限はないが、ラジカル重合開始剤や硫黄、ヒドロシリル基含有化合物などの架橋剤、電子線や他の放射線を用いて、任意の形に成形しながら、または成形後に架橋する方法等が挙げられる。
【0086】
ラジカル重合開始剤による架橋は、ポリオレフィンで適用されている通常のラジカル重合開始剤による架橋方法をそのまま適用できる。すなわち環状オレフィン系樹脂組成物にジクミルペルオキシドのようなラジカル重合開始剤を配合し、加熱、架橋する。ラジカル重合開始剤の配合割合は特に制限がないものの、環状オレフィン共重合体(m)100質量部あたり通常は0.02~20質量部、好ましくは0.05~10質量部であり、さらに好ましくは0.5~10質量部である。ラジカル重合開始剤の配合割合が上記上限値以下であると、架橋体(Q)の誘電特性が向上し、上記下限値以上であると、架橋体(Q)の耐熱性、機械的特性を向上させることができる。
【0087】
上記ラジカル重合開始剤としては、公知の熱ラジカル重合開始剤、光ラジカル重合開始剤およびこれらを併用することができる。これらのラジカル重合開始剤のうち、熱ラジカル重合開始剤を使用する場合は、保存安定性の観点から10時間半減期温度が通常80℃以上、好ましくは120℃以上のものである。このような開始剤として、例えば、ジクミルパーオキシド、t-ブチルクミルパーオキシド、2,5-ビス(t-ブチルパーオキシ)2,5-ジメチルヘキサン、2,5-ビス(t-ブチルパーオキシ)2,5-ジメチルヘキシン-3、ジ-t-ブチルパーオキシド、イソプロピルクミル-t-ブチルパーオキシド、ビス(α-t-ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン、等のジアルキルパーオキシド類;1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)シクロドデカン、n-ブチル-4,4-ビス(t-ブチルパーオキシ)バレレート、エチル-3,3-ビス(t-ブチルパーオキシ)ブチレート、3,3,6,6,9,9-ヘキサメチル-1,2,4,5-テトラオキシシクロノナン等のパーオキシケタール類;ビス(t-ブチルパーオキシ)イソフタレート、t-ブチルパーオキシベンゾエート、t-ブチルパーオキシアセテート等のパーオキシエステル類;t-ブチルハイドロパーオキシド、t-ヘキシルハイドロパーオキシド、クミンハイドロパーオキシド、1,1,3,3-テトラメチルブチルハイドロパーオキシド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキシド、p-メンタンハイドロパーオキシド等のハイドロパーオキシド類;2,3-ジメチル-2,3-ジフェニルブタン等のビベンジル化合物類;3,3,5,7,7-ペンタメチル-1,2,4-トリオキセパン等が挙げられる。
【0088】
ラジカル重合開始剤のうち、光ラジカル重合開始剤は具体的には、例えば、ベンゾインアルキルエーテル、ベンジルジメチルケタール、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オン、ベンゾフェノン、メチルベンゾイルフォーメート、イソプロピルチオキサントンおよびこれらの2種以上の混合物等が挙げられる。また、これらの光ラジカル重合開始剤とともに増感剤を使用することもできる。増感剤の例としては、アントラキノン、1,2-ナフトキノン、1,4-ナフトキノン、ベンズアントロン、p,p'-テトラメチルジアミノベンゾフェノン、クロラニル等のカルボニル化合物、ニトロベンゼン、p-ジニトロベンゼン、2-ニトロフルオレン等のニトロ化合物、アントラセン、クリセン等の芳香族炭化水素、ジフェニルジスルフィド等の硫黄化合物、ニトロアニリン、2-クロロ-4-ニトロアニリン、5-ニトロ-2-アミノトルエン、テトラシアノエチレン等の窒素化合物等を挙げることができる。
【0089】
硫黄等により架橋する場合には、環状オレフィン系樹脂組成物に硫黄系化合物、必要に応じて加硫促進剤、加硫促進助剤を配合して加熱し、架橋反応を行う。硫黄系化合物の配合量はとくに制限はないものの、架橋反応を効率よく進行させ、かつ得られる架橋物の物性改善を計ることおよび経済性の面等から環状オレフィン共重合体(m)100質量部に対して通常0.1~10質量部、好ましくは0.3~5質量部の範囲で使用され、加硫促進剤や加硫促進助剤を併用する場合には通常0.1~20質量部、好ましくは0.2~10質量部の範囲で使用される。
架橋反応を起こすため使用される硫黄系化合物は公知の種々のものが使用でき、一例を挙げると硫黄、一塩化硫黄、二塩化硫黄、モルホリンジスルフィド、アルキルフェノールジスルフィド、テトラメチルチウラムジスルフィド、ジメチルジチオカルバミン酸セレン等がある。また加硫促進剤も種々のものを使用でき、N-シクロヘキシル-2-ベンゾチアゾール-スルフェンアミド、N-オキシジエチレン-2-ベンゾチアゾール-スルフェンアミド、N,N-ジイソプロピル-2-ベンゾチアゾール-スルフェンアミド、2-メルカプトベンゾチアゾール、2-(2,4-ジニトロフェニル)メルカプトベンゾチアゾール、2-(2,6-ジエチル-4-モルホリノチオ)ベンゾチアゾール、ベンゾチアジル-ジスルフィド等のチアゾール系;ジフェニルグアニジン、トリフェニルグアニジン、ジ-オルソ-トリルグアニジン、オルソートリルバイグアナイド、ジフェニルグアニジンフタレート等のグアニジン系;アセトアルデヒド-アニリン反応物;ブチルアルデヒド-アニリン縮合物;ヘキサメチレンテトラミン、アセトアルデヒドアンモニア等のアルデヒドアミン、またはアルデヒド-アンモニア系;2-メルカプトイミダゾリン等のイミダゾリン系;チオカルバニリド、ジエチルチオユリアジブチルチオユリア、トリメチルチオユリア、ジオルソートリルチオユリア等のチオユリア系;テトラメチルチウラムモノスルフィド、テトラメチルチウラムジスルフィド、テトラエチルチウラムジスルフィド、テトラブチルチウラムジスルフィド、ジペンタメチレンチウラムテトラスルフィド等のチウラム系;ジメチルジチオカルバミン酸亜鉛、ジエチルチオカルバミン酸亜鉛、ジ-n-ブチルジチオカルバミン酸亜鉛、エチルフェニルジチオカルバミン酸亜鉛、ブチルフェニルジチオカルバミン酸亜鉛、ジメチルジチオカルバミン酸ナトリウム、ジメチルジチオカルバミン酸セレン、ジエチルジチオカルバミン酸テルル等のジチオ酸塩系;ジブチルキサントゲン酸亜鉛等のザンテート系;等を挙げることができる。加硫促進助剤としては、酸化亜鉛、活性亜鉛華、炭酸亜鉛、複合亜鉛華、酸化マグネシウム、リサージ、鉛丹、塩基性炭酸鉛等の金属酸化物系、ステアリン酸、オレイン酸、ラウリン酸、ステアリン酸鉛等の脂肪酸系、トリエタノールアミン、ジエチレングリコール等の有機アミン・グリコール系等を挙げることができる。
【0090】
環状オレフィン系樹脂組成物をラジカル重合開始剤架橋、硫黄架橋共に、架橋する温度は通常100~300℃、好ましくは120~250℃、さらに好ましくは120~220℃の温度で行い、温度を段階的に変化させて架橋を行ってもよい。上記下限値以上であると、架橋を十分に進行させることができる。また、上記上限値以下であると、得られる架橋体の着色が抑制できたり、プロセスを簡略化できたりする。なお、参考として、代表的な二重結合含有重合体であるポリブタジエンは、一般に上記のような条件では架橋できず、300℃のような高温での架橋条件を必要とする。
【0091】
本実施形態に係る環状オレフィン系樹脂組成物は、ヒドロシリル基を1分子中に少なくとも2つ有するヒドロシリル基含有化合物を用いて架橋することもできる。ヒドロシリル基含有化合物を用いた架橋については、例えば、特開2015-193680号公報に記載の方法にしたがって行うことができる。ここでは詳細は省略する。
【0092】
電子線や他の放射線を用いて架橋する方法は、成型時の温度、流動性の制限を伴わないという利点があり、放射線としては、電子線の他、γ線、UV等を挙げることができる。
【0093】
ラジカル重合開始剤や硫黄、ヒドロシリル基含有化合物等を用いる方法、放射線を用いて架橋する方法のいずれの場合も、架橋助剤の併用下に架橋することができる。
【0094】
架橋助剤としては特に制限はないが、例えば、p-キノンジオキシム、p,p'-ジベンゾイルキノンジオキシム等のオキシム類;エチレンジメタクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、アクリル酸/酸化亜鉛混合物、アリルメタクリレート等のアクリレートもしくはメタクリレート類;ジビニルベンゼン、ビニルトルエン、ビニルピリジン等のビニルモノマー類;ヘキサメチレンジアリルナジイミド、ジアリルイタコネート、ジアリルフタレート、ジアリルイソフタレート、ジアリルモノグリシジルイソシアヌレート、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート等のアリル化合物類;N,N'-m-フェニレンビスマレイミド、N,N'-(4,4'-メチレンジフェニレン)ジマレイミド等のマレイミド化合物類等、ビニルノルボルネン、エチリデンノルボルネン、ジシクロペンタジエン等の環状非共役ジエン類が挙げられる。これらの架橋助剤は単独で用いてもよいし、組み合わせて使用することもできる。
【0095】
本実施形態に係る架橋体(Q)には、必要に応じて、耐熱安定剤、耐候安定剤、帯電防止剤、スリップ剤、アンチブロッキング剤、防曇剤、滑剤、染料、顔料、天然油、合成油、ワックス、有機または無機の充填剤などを本発明の目的を損なわない程度に配合することができ、その配合割合は適宜量である。任意成分として配合される安定剤として、具体的には、テトラキス〔メチレン-3(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕メタン、β-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオン酸アルキルエステル、2,2’-オキザミドビス〔エチル-3(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネートなどのフェノール系酸化防止剤;ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム、12-ヒドロキシステアリン酸カルシウムなどの脂肪酸金属塩;グリセリンモノステアレート、グリセリンモノラウレート、グリセリンジステアレート、ペンタエリスリトールモノステアレート、ペンタエリスリトールジステアレート、ペンタエリスリトールトリステアレートなどの多価アルコール脂肪酸エステルなどをあげることができる。これらは単独で配合してもよいし、組合せて配合してもよく、たとえばテトラキス〔メチレン-3(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕メタンとステアリン酸亜鉛およびグリセリンモノステアレートとの組合せなどを例示できる。
【0096】
有機または無機の充填剤としては、シリカ、ケイ藻土、アルミナ、酸化チタン、酸化マグネシウム、軽石粉、軽石バルーン、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、塩基性炭酸マグネシウム、ドロマイト、硫酸カルシウム、チタン酸カリウム、硫酸バリウム、亜硫酸カルシウム、タルク、クレー、マイカ、アスベスト、ガラス繊維、ガラスフレーク、ガラスビーズ、ケイ酸カルシウム、モンモリロナイト、ベントナイト、グラファイト、アルミニウム粉、硫化モリブデン、ボロン繊維、炭化ケイ素繊維、ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維などを例示できる。
【0097】
架橋体(Q)と各種添加剤を混合するには、環状オレフィン系樹脂組成物と各種添加剤を押出機などで溶融ブレンドする方法、または環状オレフィン系樹脂組成物と各種添加剤を適当な溶媒、たとえばヘプタン、ヘキサン、デカン、シクロヘキサンのような飽和炭化水素;トルエン、ベンゼン、キシレンのような芳香族炭化水素などに溶解、分散させて行う溶液ブレンド法などを採用することができる。
【0098】
架橋反応は、環状オレフィン系樹脂組成物と、上記したラジカル重合開始剤や硫黄、ヒドロシリル基含有化合物等の化合物との混合物を溶融状態として行うこともできるし、または該混合物を溶媒に溶解、または分散させた溶液状態で行うこともできるし、または溶媒に溶解した溶液状態から溶媒を揮発させフィルム、コーティング等任意の形に成形した後にさらに架橋反応を進行させることもできる。
【0099】
溶融状態で反応を行う場合はミキシングロール、バンバリーミキサー、押出機、ニーダ、連続ミキサー等の混練装置を用いて、原料の混合物を溶融混練して反応させる。また、任意の手法で成形した後に更に架橋反応を進行させることもできる。
【0100】
溶液状態で反応を行う場合に使用する溶媒としては上記溶液ブレンド法で用いた溶媒と同様の溶媒が使用できる。
【0101】
電子線またはその他の放射線、UVを用いて架橋反応を行う場合には、任意の方法で付形した後に、反応を行うことができる。
【0102】
[成形体]
本実施形態に係る成形体は、本実施形態に係る架橋体(Q)を含む。
本実施形態に係る成形体は、例えば、フィルムまたはシートである。
本実施形態に係る環状オレフィン系樹脂組成物を用いて、フィルムまたはシートを形成する方法としては、各種公知の方法が適用可能である。例えば、熱可塑性樹脂フィルム等の支持基材上に上述したワニスを塗布して乾燥後、加熱処理等して本実施形態に係る環状オレフィン系樹脂組成物を架橋することにより形成する方法が挙げられる。ワニスの支持基材への塗布方法は特に限定されないが、例えば、スピンコーターを用いた塗布、スプレーコーターを用いた塗布、バーコーターを用いた塗布等を挙げることができる。
また、本実施形態に係る環状オレフィン系樹脂組成物を溶融成形して、フィルムまたはシートを得る方法も挙げることができる。
【0103】
本実施形態の上記フィルムまたはシートは基材に積層することにより、積層体として各種用途に用いることができる。本実施形態の積層体を形成する方法は各種公知の方法が適用可能である。
例えば、基材に対し、上述の方法により製造したフィルムまたはシートを積層し、必要に応じてプレス等により加熱硬化することにより積層体を作製することができる。
また、導体層に対して、前述した架橋体を含む電気絶縁層を積層することにより積層体を作製することもできる。
【0104】
本実施形態に係る環状オレフィン系樹脂組成物は、各種の多層成形体または多層積層フィルムの表層に形成してもよい。このとき、本実施形態に係る環状オレフィン系樹脂組成物により形成された樹脂層は100μm以下であるのが好ましい。
各種の多層成形体または多層積層フィルムとしては、例えば、樹脂光学レンズ表面に本実施形態に係る環状オレフィン系樹脂組成物が形成された光学レンズ用多層成形体や、PETフィルムやPEフィルム等の樹脂フィルム表面にガスバリア性付与のために本実施形態に係る環状オレフィン系樹脂組成物が形成された多層ガスバリアフィルム等が挙げられる。
【0105】
[プリプレグ]
また、本実施形態のプリプレグは、本実施形態に係る環状オレフィン系樹脂組成物とシート状繊維基材とを複合して形成されたものである。
プリプレグの製造方法としては特に限定されず、各種公知の方法が適用可能である。例えば、上述したワニスをシート状繊維基材に含浸し含浸体を得る工程と、得られた含浸体を加熱し上記ワニスに含まれる溶媒を乾燥する工程とを含む方法が挙げられる。
上記ワニスのシート状繊維基材への含浸は、例えば、所定量のワニスを、スプレーコート法、ディップコート法、ロールコート法、カーテンコート法、ダイコート法、スリットコート法等の公知の方法によりシート状繊維基材に塗布し、必要に応じてその上に保護フィルムを重ね、上側からローラー等で押圧することにより行うことができる。
また、上記含浸体を加熱し、上記ワニスに含まれる溶媒を乾燥する工程はとくに限定されないが、例えば、バッチ式で送風乾燥機により空気中あるいは窒素中で乾燥する、あるいは、連続工程で加熱炉を通すことによって乾燥する、等の方法を挙げることができる。
本実施形態においては、ワニスをシート状繊維基材に含浸させた後、得られた含浸体を所定温度に加熱することにより、上記ワニスに含まれる溶媒が蒸発し、プリプレグが得られる。
【0106】
本実施形態に係るシート状繊維基材を構成する繊維としては無機系および/または有機系の繊維が使用でき、特に限定されないが、例えば、PET(ポリエチレンテレフタレート)繊維、アラミド繊維、超高分子ポリエチレン繊維、ポリアミド(ナイロン)繊維、液晶ポリエステル繊維等の有機繊維;ガラス繊維、炭素繊維、アルミナ繊維、タングステン繊維、モリブデン繊維、チタン繊維、スチール繊維、ボロン繊維、シリコンカーバイド繊維、シリカ繊維等の無機繊維;等を挙げることができる。これらの中でも、有機繊維やガラス繊維が好ましく、特にアラミド繊維、液晶ポリエステル繊維、ガラス繊維が好ましい。ガラス繊維としては、Eガラス、NEガラス、Sガラス、Dガラス、Hガラス、Tガラス等を挙げることができる。
シート状繊維基材へのワニスの含浸は、例えば、浸漬および塗布によって実施される。含浸は必要に応じて複数回繰り返してもよい。
これらのシート状繊維基材は、それぞれ単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができ、その使用量は、所望により適宜選択されるが、プリプレグあるいは積層体中の、通常、10~90質量%、好ましくは20~80質量%、より好ましくは30~70質量%の範囲である。この範囲にあれば、得られる積層体の誘電特性と機械強度が高度にバランスされ、好適である
【0107】
本実施形態に係るプリプレグの厚みは、使用目的に応じて適宜選択されるが、通常は0.001~10mmであり、好ましくは0.005~1mmであり、より好ましくは0.01~0.5mmである。この範囲にあれば、積層時の賦形性や、硬化して得られる積層体の機械強度や靭性等の特性が充分に発揮され好適である。
【0108】
[回路基板]
上述したように、本実施形態の環状オレフィン系樹脂組成物は、誘電特性、耐熱性、機械的特性等に優れることから、回路基板に好適に用いることができる。
回路基板の製造方法としては一般的に公知の方法を採用でき特に限定されないが、例えば、前述の方法により製造したフィルム、シートまたはプリプレグを積層プレス等により加熱硬化し、電気絶縁層を形成する。次いで、得られた電気絶縁層に導体層を公知の方法で積層し、積層体を作製する。その後、該積層体中の導体層を回路加工等することにより、回路基板を得ることができる。
【0109】
導体層となる金属としては、銅、アルミニウム、ニッケル、金、銀、ステンレス等の金属を用いることができる。導体層の形成方法としては、例えば、該金属類を箔等にして電気絶縁層上に熱融着させる方法、該金属類を箔等にして電気絶縁層上に接着剤を用いて張り合わせる方法、あるいはスパッタ、蒸着、めっき等の方法で電気絶縁層上に該金属類からなる導体層を形成する方法等が挙げられる。回路基板の態様としては、片面板、両面板のいずれでもよい。
【0110】
このような回路基板は、例えば、半導体素子等の電子部品を搭載することにより、電子機器として使用することができる。電子機器は公知の情報に基づいて作製することができる。
このような電子機器としては、例えば、サーバ、ルータ、スーパーコンピューター、メインフレーム、ワークステーション等のICTインフラ機器;GPSアンテナ、無線基地局用アンテナ、ミリ波アンテナ、RFIDアンテナ等のアンテナ類;携帯電話、スマートフォン、PHS、PDA、タブレット端末等の通信機器;パーソナルコンピューター、テレビ、デジタルカメラ、デジタルビデオカメラ、POS端末、ウェアラブル端末、デジタルメディアプレーヤー等のデジタル機器;電子制御システム装置、車載通信機器、カーナビゲーション機器、ミリ波レーダー、車載カメラモジュール等の車載電子機器;半導体試験装置、高周波計測装置等;等が挙げられる。
【0111】
[発泡体]
また、本実施形態の環状オレフィン系樹脂組成物を架橋するとともに発泡せしめることにより発泡体とすることができる。このとき、環状オレフィン系樹脂組成物に発泡剤を添加してもよい。
【0112】
[用途]
本実施形態に係る環状オレフィン系樹脂組成物および架橋体(Q)は、耐溶剤性、耐熱性、機械的強度、透明性に優れるので、架橋体(Q)からなる成形体は、例えば光ファイバー、光導波路、光ディスク基盤、光フィルター、レンズ、光学用接着剤、PDP用光学フィルター、有機EL用コーティング材料、航空宇宙分野における太陽電池のベースフィルム基材、太陽電池や熱制御システムのコーティング材、半導体素子、発光ダイオード、各種メモリー類等の電子素子、ハイブリッドIC、MCM、回路基板、回路基板の絶縁層を形成するために用いられるプリプレグや積層体、表示部品等のオーバコート材料あるいは層間絶縁材料、液晶ディスプレイや太陽電池の基板、医療用器具、自動車用部材、離型剤、樹脂改質剤、ディスプレイ用透明基板、リチウムイオン電池用部材、半導体プロセス部材、フィルムコンデンサ、ガスバリアコート材、電線被服材、自動車用部材、航空宇宙用部材、半導体用プロセス材、電線被覆材、リチウムイオン電池用部材、燃料電池用部材、コンデンサーフィルム、フレキシブルディスプレイ部材、アンカーコート材、透明接着剤、改質材、架橋助剤、医療用容器、医療用カテーテル部材、防水シール材、離型材、ハードコート材、発泡改質剤といった用途で使用することができる。
特に、誘電特性の経時安定性に優れ、耐溶剤性、耐熱性、透明性、機械的特性等にも優れるので、高周波回路基板等の高周波用途に好適に用いることができる。さらに、ガスバリア性にも優れるため、液晶ディスプレイ用基板や太陽電池の基板やフィルムまたはシートとして好適に用いることができる。
【0113】
以上、本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することもできる。
また、本発明は前述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
【実施例
【0114】
以下、本発明を合成例、実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれにより何等制限されるものではない。
【0115】
なお、環状オレフィン共重合体(m)の組成、環状オレフィンの開環重合体の未水添物(n2)の重量平均分子量Mwは、次に述べる方法で測定した。
【0116】
[環状オレフィン共重合体(m)を構成する各構成単位の含有量の測定方法]
環状オレフィン共重合体(m)を構成する各構成単位の含有量は、日本電子社製「EXcalibur270」核磁気共鳴装置を用い、下記条件で測定することにより行った。
溶媒:o-ジクロロベンゼン-d4
サンプル濃度:30~40g/l-solvent
パルス繰り返し時間:5.5秒
積算回数:16~64回
測定温度:室温
上記のような条件で測定したH-NMRスペクトルにより、環状オレフィン共重合体(m)を構成するエチレン、TDおよびVNBの含有量をそれぞれ定量した。
【0117】
[重量均分子量(Mw)]
環状オレフィンの開環重合体の未水添物(n2)の重量平均分子量Mwは、GPC測定により測定し、標準ポリスチレン換算値として求めた。GPC測定は以下の条件で行った。
装置:GPC HLC-8321 GPC/HT型(東ソー株式会社製)
溶剤:o-ジクロロベンゼン
カラム:TSKgel GMH6-HT×2+TSKgel GMH6-HTL×2(何れも東ソー社製)
流速:1.0ml/分
試料:1mg/mL o-ジクロロベンゼン溶液
温度:140℃
【0118】
実施例および比較例によって得られたフィルムは次に述べる方法で評価を行った。
【0119】
誘電正接評価:実施例および比較例によって得られたフィルムについて、誘電正接を評価した。評価はJIS K6911に準拠し、試験装置にはprecision LCR meter HP4284A(アジレントテクノロジー(株)製)、試験片の形状は50mm×50mmとし、試験片に主電極(φ18mm)、ガード電極(φ26mm)、対電極(φ28mm)を導電ペーストで形成し、試験環境22℃×60%RH、測定周波数1MHzで測定を行った。誘電正接が0.002以上となるものを×、0.002未満となるものを○とした。
【0120】
屈曲試験:無負荷屈曲試験(ユアサシステム機器社製DMLHP―CS)を用いて、各試験片を屈曲速度30rpm/min、屈曲半径0.25mm、屈曲角度180℃で300回屈曲させ屈曲性を評価した。測定には長さ50mm、幅5mmの短冊型に切抜いた試験片3枚をセットし。試験後の試験片で1枚でも破断及び割れが生じたものは×、全試験片が破断及び割れなく保持できたものを〇と評価した。
【0121】
引張試験:万能材料試験機(島津製作所社製AG-X-5)を用いて試験片両端より引っ張り速度10mm/minにて引っ張り、破断強度、及び破断伸びを測定した。測定には各実施例、比較例で得られたプレスフィルムから、長さ50mm、幅5mmのダンベル型に打ち抜いた試験片を使用した。
【0122】
実験には以下の原材料を用いた。
重合体1:エチレンとテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]-3-ドデセンからなる共重合体(製品名:APEL6509T、三井化学社製)
重合体2:環状オレフィンの開環重合体水添化物(製品名:ゼオネックスE48R、日本ゼオン社製)
架橋剤(ラジカル重合開始剤):パークミルD(日本油脂社製)
【0123】
遷移金属化合物(1)
(特開2004-331965号公報に記載の方法により合成。)
【0124】
【化22】
【0125】
〔合成例1〕
十分に窒素置換した内容積1LのSUS製オートクレーブに、トルエン455mL、5-ビニル-2-ノルボルネン(VNB)29.1mL、テトラシクロドデセン(TD)15.7mL、メチルアルミノキサンをアルミニウム換算で0.75mmol装入し、溶液を35℃に加温後して水素446mLを投入した。その後、系中にエチレンを全圧0.60MPaになるまで導入した。次いで、遷移金属化合物(1)の0.002Mトルエン溶液3.1mLを添加し、重合を開始した。35℃で50分間反応させた後、少量のメタノールを添加することで重合を停止した。重合終了後、反応溶液にイオン交換水100gを添加して1時間攪拌した後に、有機層を濾紙でろ過した。この有機層をアセトン4Lに投入してポリマーを析出させ、攪拌後濾紙でろ過した。得られたポリマーを80℃、10時間で減圧乾燥をした後、エチレン/TD/VNB共重合体を25.1g得た。NMRより決定したポリマー中、TD由来構造の組成比は10.0mol%、VNB由来構造の組成比は25.2mol%であった。
【0126】
〔合成例2〕
内容積100mlガラス容器に、溶剤としてトルエン40mL、モノマーとしてトリシクロ[4.3.0.12,5]デカ-3,7-ジエン(ジシクロペンタジエン)5.4mL、連鎖移動剤として1,5-ヘキサジエン0.07mL装入し、溶液を50℃に加温した。 系中にGrubbs触媒(2nd,Aldrich社製)14mgをトルエン1mLに溶解した触媒溶液を添加し、重合を開始した。50℃で60分間反応させた後、ブチルアルデヒド0.2mL添加することで重合を停止した。重合終了後、200mLのトルエンを添加することで2wt%の希釈反応溶液とし、800mLのアセトン/メタノール溶液に塩酸5mLを加えて晶析、ろ過すること粉末状のポリマーを得た。得られたポリマーを50℃、10時間で真空減圧乾燥した後、ポリジシクロペンタジエン開環重合体5gを得た。GPCにより決定したポリマー分子量Mwは26,900であった。
【0127】
〔合成例3〕
連鎖移動剤として1,5-ヘキサジエン量を0.085mLに変更した以外は、合成例2と同様にして、ポリジシクロペンタジエン開環重合体5gを得た。GPCにより決定したポリマー分子量Mwは15,800であった。
【0128】
[実施例1]
(ワニス調整)
合成例1で得られた環状オレフィン共重合体(m)、環状オレフィン共重合体(n1)である重合体1、合成例2で得られた環状オレフィンの開環重合体の未水添物(n2)、架橋剤(ラジカル重合開始剤)として日本油脂社製パークミルD、溶媒としてトルエン、シクロヘキサンを用い、表1の配合組成に従い秤量した。秤量したサンプルを、100mlのガラス製の三角フラスコに装入し、十分に溶解するまで撹拌し、目的とするワニス状の環状オレフィン系樹脂組成物を得た。なお、表中における各原料の配合割合の単位は質量部である。
【0129】
(フィルム製膜)
得られたワニス状の環状オレフィン系樹脂組成物を、離型処理されたPETフィルム上に10mm/秒の速度で塗工した後、窒素気流下送風乾燥機中にて150℃で4分乾燥した。得られたフィルムを2枚重ね、真空プレスにより、3.5MPaに加圧し、室温(25℃)から一定速度で昇温し、180℃で120分保持し架橋体からなるフィルムを得た。得られたフィルムをPETフィルムから剥がして、各評価を行った。得られた結果を表1に示す。
【0130】
[実施例2]
表1に示す配合組成に変えた以外は、実施例1と同様にしてフィルムを作製し、それぞれ評価を実施した。得られた結果を表1に示す。
【0131】
[比較例1、2]
表1に示す配合組成に変えた以外は、実施例1と同様にフィルムをそれぞれ作製し、評価を実施した。得られた結果を表1に示す。
【0132】
【表1】
【0133】
上記表実施例1、2からもわかるように、環状オレフィンの開環重合体の未水添物(n2)を配合することで、比較例に記載された組成物よりも靭性が改良されていることが確認できた。