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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-15
(45)【発行日】2023-12-25
(54)【発明の名称】負イオン生成装置
(51)【国際特許分類】
   H01J 37/08 20060101AFI20231218BHJP
   C23C 14/46 20060101ALI20231218BHJP
   H01J 27/02 20060101ALI20231218BHJP
   H05H 1/48 20060101ALI20231218BHJP
【FI】
H01J37/08
C23C14/46 Z
H01J27/02
H05H1/48
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020049133
(22)【出願日】2020-03-19
(65)【公開番号】P2021150184
(43)【公開日】2021-09-27
【審査請求日】2022-12-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100162640
【弁理士】
【氏名又は名称】柳 康樹
(72)【発明者】
【氏名】北見 尚久
(72)【発明者】
【氏名】前原 誠
(72)【発明者】
【氏名】木下 公男
【審査官】大谷 純
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-192102(JP,A)
【文献】特開平08-115904(JP,A)
【文献】国際公開第2019/239613(WO,A1)
【文献】特開2002-289583(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 27/02、37/00-37/36
C23C 14/46
H05H 1/00-1/54
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
負イオンを生成して対象物に照射する負イオン生成装置であって、
内部で前記負イオンの生成が行われるチャンバと、
前記チャンバ内においてプラズマ生成と停止を繰り返すことで、前記負イオンを生成する負イオン生成部と、
前記対象物を配置させる対象物配置部と、
前記負イオン生成部と前記対象物配置部との間で、前記対象物配置部に対する紫外光を抑制する紫外光抑制機構と、を備え
前記紫外光抑制機構は、
前記紫外光の通過を抑制する部材と、
前記プラズマの生成時に前記チャンバ内において前記負イオン生成部と前記対象物配置部との間に前記部材を配置し、前記プラズマの停止時に前記チャンバ内において前記負イオン生成部と前記対象物配置部との間から前記部材を退避する切替部とを有する、負イオン生成装置。
【請求項2】
前記対象物配置部の載置面に沿った方向の磁場を形成する磁場形成部を更に備える、請求項1に記載の負イオン生成装置。
【請求項3】
負イオンを生成して対象物に照射する負イオン生成装置であって、
内部で前記負イオンの生成が行われるチャンバと、
前記チャンバ内においてプラズマの生成と停止を繰り返すことで、前記負イオンを生成する負イオン生成部と、
前記対象物を配置させる対象物配置部と、
前記対象物配置部が設けられ、前記チャンバ内と連通した空間を構成する照射室と、
前記負イオン生成部のプラズマの中心位置と前記対象物配置部の中心位置との間で、前記対象物配置部に対する紫外光を内壁で遮断する前記チャンバによって構成される紫外光抑制機構と、を備える、負イオン生成装置。
【請求項4】
負イオンを生成して対象物に照射する負イオン生成装置であって、
内部で前記負イオンの生成が行われるチャンバと、
前記チャンバ内においてプラズマを生成することで、前記負イオンを生成する負イオン生成部と、
前記対象物を配置させる対象物配置部と、
前記対象物配置部が設けられ、前記チャンバの内部と連通した空間を構成する照射室と、
前記対象物配置部の載置面に沿った方向の磁場を形成する磁場形成部と、
前記負イオン生成部のプラズマの中心位置と前記対象物配置部の中心位置との間で、前記対象物配置部に対する紫外光を内壁で遮断する前記チャンバによって構成される紫外光抑制機構と、を備える負イオン生成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、負イオン生成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、負イオン生成装置として、特許文献1に記載されたものが知られている。この負イオン生成装置は、チャンバ内へ負イオンの原料となるガスを供給するガス供給部と、チャンバ内において、プラズマを生成することで負イオンを生成する負イオン生成部と、を備えている。負イオン生成部は、プラズマによってチャンバ内で負イオンを生成することで、当該負イオンを対象物へ照射している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-025407号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、上述のような負イオン生成装置においては、負イオン生成部がプラズマを生成したとき、プラズマ光に紫外光が含まれる。このとき、紫外光が、負イオン照射の対象物に照射されることで、当該対象物にダメージを与える可能性がある。
【0005】
そこで本発明は、対象物に対するダメージを抑制することができる負イオン生成装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明に係る負イオン生成装置は、負イオンを生成して対象物に照射する負イオン生成装置であって、内部で負イオンの生成が行われるチャンバと、チャンバ内においてプラズマを生成することで、負イオンを生成する負イオン生成部と、対象物を配置させる対象物配置部と、負イオン生成部と対象物配置部との間で、対象物配置部に対する紫外光を抑制する紫外光抑制機構と、を備える。
【0007】
本発明に係る負イオン生成装置は、負イオン生成部と対象物配置部との間で、対象物配置部に対する紫外光を抑制する紫外光抑制機構を備えている。負イオン生成部が、負イオンを生成するためにプラズマを生成した場合、紫外光を含むプラズマ光が、対象物配置部に配置された対象物の方へ向かう。このとき、紫外光抑制機構が、対象物に対する紫外光を抑制することで、対象物に照射される紫外光を低減、または遮断することができる。以上より、対象物に対するダメージを抑制することができる。
【0008】
紫外光抑制機構は、チャンバ内においてイオン生成部と対象物配置部との間に配置された、紫外光の通過を抑制する部材を有してよい。この場合、チャンバ全体の形状を変更しなくとも、既存のチャンバに対して部材を追加するだけで、対象物に対する紫外光を抑制できる。
【0009】
部材は、紫外光の通過を抑制し、且つ、負イオンの通過を許容してよい。この場合、部材を移動させる機構などを設けなくとも、対象物に対する紫外光を抑制できる。
【0010】
紫外光抑制機構は、負イオン生成部でプラズマを生成するタイミングと、プラズマを停止するタイミングとで、部材の位置を切り替える切替部を有してよい。この場合、プラズマが生成されているタイミングでは、切替部が部材を負イオン生成部と対象物との間に配置して、対象物に対する紫外光を遮断できる。一方、プラズマが停止しているタイミングでは、切替部が部材を除くことで、負イオン生成部で生成した負イオンを対象物へ照射させることができる。
【0011】
紫外光抑制機構は、負イオン生成部と対象物配置部との間で紫外光を壁部で遮断するチャンバによって構成されてよい。この場合、別途の部材を追加することなく、対象物に対する紫外光を抑制できる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、対象物に対するダメージを抑制することができる負イオン生成装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本実施形態に係る負イオン生成装置の構成を示す概略断面図である。
図2】プラズマPのON/OFFのタイミングと正イオン及び負イオンの対象物への飛来状況を示すグラフである。
図3】開口率調整部材の例を示す概略図である。
図4】変形例に係る負イオン生成装置の構成を示す概略断面図である。
図5】変形例に係る負イオン生成装置の構成を示す概略断面図である。
図6】変形例に係る負イオン生成装置の構成を示す概略断面図である。
図7】変形例に係る負イオン生成装置の基板周辺の構造を示す概略拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、添付図面を参照しながら本発明の一実施形態に係る負イオン生成装置について説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0015】
まず、図1を参照して、本発明の実施形態に係る負イオン生成装置の構成について説明する。図1は、本実施形態に係る負イオン生成装置の構成を示す概略断面図である。なお、説明の便宜上、図1には、XYZ座標系を示す。X軸方向は、対象物である基板の厚さ方向である。Y軸方向及びZ軸方向は、X軸方向と直交すると共に互いに直交する方向である。
【0016】
図1に示すように、本実施形態の負イオン生成装置1は、チャンバ2、対象物配置部3、負イオン生成部4、ガス供給部6、回路部7、電圧印加部8、及び制御部50を備えている。
【0017】
チャンバ2は、基板11(対象物)を収納し負イオンの照射処理を行うための部材である。チャンバ2は、内部で負イオンの生成が行われる部材である。チャンバ2は、導電性の材料からなり接地電位に接続されている。
【0018】
チャンバ2は、X軸方向に対向する一対の壁部2a,2bと、Y軸方向に対向する一対の壁部2c,2dと、Z軸方向に対向する一対の壁部(不図示)と、を備える。なお、X軸方向の負側に壁部2aが配置され、正側に壁部2bが配置される。Y軸方向の負側に壁部2cが配置され、正側に壁部2dが配置される。
【0019】
対象物配置部3は、負イオンの照射対象物となる基板11を配置させる。対象物配置部3は、チャンバ2の壁部2aに設けられる。対象物配置部3は、載置部材12と、接続部材13と、を備える。載置部材12及び接続部材13は、導電性の材料によって構成される。載置部材12は、載置面12aに基板11を載置するための部材である。載置部材12は、壁部2aに取り付けられて、チャンバ2の内部空間内に配置される。載置面12aは、X軸方向と直交するように広がる平面である。これにより、基板11は、X軸方向と直交するように、ZY平面と平行となるように、載置面12a上に載置される。接続部材13は、載置部材12と電圧印加部8とを電気的に接続する部材である。接続部材13は、壁部2aを貫通してチャンバ2外まで延びている。なお,接続部材13の位置関係は、負イオン生成部4であるプラズマガン14と陽極16に干渉しない位置であれば、どのような位置関係が採用されても良い。
【0020】
負イオン照射の対称となる基板11として、例えば、基材の表面にITO、IWO、ZnO、Ga、AlN、GaN、SiONなどの膜を形成したものが採用される。基材として、例えばガラス基板やプラスチック基板などの板状部材が採用される。
【0021】
続いて、負イオン生成部4の構成について詳細に説明する。負イオン生成部4は、チャンバ2内において、プラズマ及び電子を生成し、これによって負イオン及びラジカル等を生成する。負イオン生成部4は、プラズマガン14と、陽極16と、を有している。
【0022】
プラズマガン14は、例えば圧力勾配型のプラズマガンであり、その本体部分がチャンバ2の壁部2cに設けられて、チャンバ2の内部空間に接続されている。プラズマガン14は、チャンバ2内でプラズマPを生成する。プラズマガン14において生成されたプラズマPは、プラズマ口からチャンバ2の内部空間へビーム状に出射される。これにより、チャンバ2の内部空間にプラズマPが生成される。
【0023】
陽極16は、プラズマガンからのプラズマPを所望の位置へ導く機構である。陽極16は、プラズマPを誘導するための電磁石もしくは磁石を有する機構である。陽極16は、チャンバの壁部2dに設けられて、プラズマガン14とY軸方向に向かい合う位置に配置されている。これにより、プラズマPは、プラズマガン14から出射されてY軸方向の正側へ向かいながらチャンバ2の内部空間で広がった後、収束しながら陽極16へ導かれる。なお、プラズマガン14と陽極16との位置関係は、上述のものに限定されず、負イオンを生成することができる限り、どのような位置関係が採用されてもよい。
【0024】
ガス供給部6は、チャンバ2の外部に配置されている。ガス供給部6は、壁部2dに形成されたガス供給口26を通し、チャンバ2内へガスを供給する。ガス供給口26は、負イオン生成部4と対象物配置部3との間に形成される。ここでは、ガス供給口26は、壁部2dのX軸方向の負側の端部と、陽極16との間の位置に形成される。ただし、ガス供給口26の位置は、特に限定されない。ガス供給部6は、負イオンの原料となるガスを供給する。ガスとして、例えば、Oなどの負イオンの原料となるO、NHなどの窒化物の負イオンの原料となるNH、NH、その他、CやSiなどの負イオンの原料となるC、SiHなどが採用される。つまり、電子親和力が正である原料が採用されると言える。なお、ガスは、放電を安定されるキャリアガスとしてArなどの希ガスも含む。
【0025】
回路部7は、可変電源30と、第1の配線31と、第2の配線32と、抵抗器R1~R3と、スイッチSW1と、を有している。可変電源30は、接地電位にあるチャンバ2を挟んで、負電圧をプラズマガン14の陰極21に、正電圧を陽極16に印加する。これにより、可変電源30は、プラズマガン14の陰極21と陽極16との間に電位差を発生させる。第1の配線31は、プラズマガン14の陰極21を、可変電源30の負電位側と電気的に接続している。第2の配線32は、陽極16を、可変電源30の正電位側と電気的に接続している。抵抗器R1は、第1の中間電極22と可変電源30との間において直列接続されている。抵抗器R2は、第2の中間電極23と可変電源30との間において直列接続されている。抵抗器R3は、チャンバ2と可変電源30との間において直列接続されている。スイッチSW1は、制御部50からの指令信号を受信することにより、ON/OFF状態が切り替えられる。スイッチSW1は、抵抗器R2に並列接続されている。スイッチSW1は、プラズマPを生成するときはOFF状態とされる。一方、スイッチSW1は、プラズマPを停止するときはON状態とされる。
【0026】
電圧印加部8は、基板11にバイアス電圧を印加する。電圧印加部8は、基板11にバイアス電圧を印加する電源36と、電源36と対象物配置部3とを接続する第3の配線37と、第3の配線37に設けられたスイッチSW2とを有している。電源36は、バイアス電圧として、正の電圧を印加する。第3の配線37は、一端が電源36の正電位側に接続されていると共に、他端が接続部材13に接続されている。これにより、第3の配線37は、電源36と基板11とを、接続部材13及び載置部材12を介して電気的に接続する。スイッチSW2は、制御部50によってそのON/OFF状態が切り替えられる。スイッチSW2は、負イオン生成時に所定のタイミングでON状態とされる。スイッチSW2がON状態とされると、接続部材13と電源36の正電位側とが互いに電気的に接続され、接続部材13にバイアス電圧が印加される。一方、スイッチSW2は、負イオン生成時における所定のタイミングにおいてOFF状態とされる。スイッチSW2がOFF状態とされると、接続部材13と電源36とが互いに電気的に切断され、接続部材13にはバイアス電圧が印加されず、接続部材13は浮遊状態となる。接続部材13が浮遊状態となると、例えばプラズマON時に基板11に流れ込む粒子は正負がバランスして最小限となる。
【0027】
制御部50は、負イオン生成装置1全体を制御する装置であり、装置全体を統括的に管理するECU[Electronic Control Unit]を備えている。ECUは、CPU[Central Processing Unit]、ROM[Read Only Memory]、RAM[Random Access Memory]、CAN[Controller Area Network]通信回路等を有する電子制御ユニットである。ECUでは、例えば、ROMに記憶されているプログラムをRAMにロードし、RAMにロードされたプログラムをCPUで実行することにより各種の機能を実現する。ECUは、複数の電子ユニットから構成されていてもよい。
【0028】
制御部50は、チャンバ2の外部に配置されている。また、制御部50は、ガス供給部6によるガス供給を制御するガス供給制御部51と、負イオン生成部4によるプラズマPの生成を制御するプラズマ制御部52と、電圧印加部8によるバイアス電圧の印加を制御する電圧制御部53と、を備えている。制御部50は、プラズマPの生成と停止を繰り返す間欠運転を行うように、制御を行う。
【0029】
プラズマ制御部52の制御により、スイッチSW1がOFF状態とされているとき、プラズマガン14からのプラズマPがチャンバ2内に出射されるため、チャンバ2内にプラズマPが生成される。プラズマPは、中性粒子、正イオン、負イオン(酸素ガスなどの負性気体が存在する場合)、及び電子を構成物質としている。プラズマ制御部52の制御によりスイッチSW1がON状態とされているとき、プラズマガン14からのプラズマPがチャンバ2内に出射されないのでチャンバ2内におけるプラズマPの電子温度が急激に低下する。このため、チャンバ2内に供給されたガスの粒子に、電子が付着し易くなる。これにより、生成室10b内には、負イオンが効率的に生成される。電圧制御部53は、プラズマPが停止しているタイミングで、電圧印加部8を制御して基板11に正のバイアス電圧を付与する。これにより、チャンバ2内の負イオンが基板11へ導かれ、負イオンが基板11へ照射される。
【0030】
図2は、プラズマPのON/OFFのタイミングと正イオン及び負イオンの対象物への飛来状況を示すグラフである。図中、「ON」と記載されている領域はプラズマPの生成状態を示し、「OFF」と記載されている領域はプラズマPの停止状態を示す。時間t1のタイミングで、プラズマPが停止される。プラズマPの生成中は、正イオンが多く生成される。このとき、チャンバ2中に電子も多く生成される。そして、プラズマPが停止されると、正イオンが急激に減少する。このとき、電子も減少する。負イオンは、プラズマPの停止後、所定時間経過した時間t2から急激に増加し、時間t3にてピークとなる。なお、正イオン及び電子は、プラズマPの停止後から減少してゆき時間t3付近で、正イオンは負イオンと同量となり、電子はほとんど無くなる。
【0031】
ここで、負イオン生成装置1は、紫外光抑制機構60を更に備える。紫外光抑制機構60は、負イオン生成部4と対象物配置部3との間で、対象物配置部3に対する紫外光UV、すなわち基板11に対する紫外光UVを抑制する機構である。本実施形態では、紫外光抑制機構60は、チャンバ2内において負イオン生成部4と対象物配置部3との間に配置された、紫外光UVの通過を抑制する開口率調整部材61A,61B(部材)を有する。開口率調整部材61A,61Bは、紫外光UVの通過を抑制し、且つ、負イオン、ラジカル(不対電子を有する原子、分子)等の供給物PMの通過を許容する。なお、本実施形態では、プラズマPからの紫外光UV及び供給物PMは、主に、X軸方向における正側から負側へ向かって進行し、基板11へ照射される。従って、X軸方向のことを「照射方向」と称する場合がある。また、X軸方向の正側を「照射方向における上流側」、X軸方向の負側を「照射方向における下流側」と称する場合がある。
【0032】
開口率調整部材61A,61Bは、それぞれ貫通部を有する板状部材である。開口率調整部材61A,61Bは、照射方向と直交するように、すなわちYZ平面と平行に広がるように配置される。また、開口率調整部材61A,61Bは、照射方向に互いに対向するように配置される。ここでは、開口率調整部材61Aが照射方向における上流側に配置され、開口率調整部材61Bが照射方向における下流側に配置される。61Bまた、開口率調整部材61A,61Bは、照射方向から見て、互いの貫通部をずらすように配置させることで、開口率を事前に調整しておくことができる。
【0033】
図3を参照して、開口率調整部材61A,61Bの一例について説明する。図3(a)は、開口率調整部材61Aと開口率調整部材61Bとが重なっている様子を照射方向における上流側から見た概略図である。図3(b)は、開口率調整部材61Aを取り除いて、開口率調整部材61Bのみを照射方向における上流側から見た概略図である。図3(a)に示すように、開口率調整部材61Aは、所定のパターンで分布する円形の貫通部62Aを有している。また、図3(b)に示すように、開口率調整部材61Bは、所定のパターンで分布する円形の貫通部62Bを有している。貫通部62Aと貫通部62Bとは、照射方向から見て、互いにずれるように配置されている。従って、開口率調整部材61Aの貫通部62Aは、開口率調整部材61Bの板部(貫通部62B以外の部分)で塞がれた状態となる。
【0034】
上述のように、開口率調整部材61A,61Bは、照射方向から見たときに、開口部分が存在しないような構成となっている。従って、プラズマPから出射された紫外光UVが照射方向に進行すると、開口率調整部材61A,61Bの組み合わせによって、遮断される。その一方、開口率調整部材61A,61Bは照射方向に互いに僅かに隙間をあけて離間している。従って、開口率調整部材61A,61BよりもプラズマP側の空間SP1(図1参照)と、開口率調整部材61A,61Bよりも基板11側の空間SP2(図1参照)とは、貫通部62A、隙間、及び貫通部62Bを介して、空間的には連通されている。そのため、空間SP1からの供給物PMは、部材間での反射などを繰り返すことで、空間SP2へ進入することができる。これにより、供給物PM、特に負イオンは、開口率調整部材61A,61Bの通過を許容されて、基板11に照射される。なお、紫外光UVも、照射方向に対して傾斜した成分や、部材間で反射する成分を有することで、一部は空間SP2へ進入する。しかし、進入する紫外光UVの量は、供給物PMに比べれば、かなり少ない。
【0035】
図3(a)(b)では、開口率調整部材61A,61Bの組み合わせ構造は、照射方向から見て、開口部が存在していなかった。しかし、供給物PMの通過量を増やすために、開口部が形成されてもよい。具体的には、図3(b)に示すように、貫通部62A(仮想線)と貫通部62Bとを一部重ねることで、開口部OP(ハッチングで示す領域)を形成してよい。また、開口部OPの大きさは、開口率調整部材61Aと開口率調整部材61Bとのずれ量を調整することで、制御可能である。このように、開口率調整部材61A,61Bは、互いのずれ量を調整することで、開口率を調整することができる。
【0036】
ここで、開口率調整部材61A,61Bの開口率について説明する。当該開口率は、照射方向から見たときの基準領域の面積を100%とした時の、当該基準領域内に形成された開口部OPの面積の合計の割合である。ここで、基準領域とは、図1において「E1」で示す、基板11と重なる部分の領域としてよい。あるいは、基板11が載せられていない状態では、載置部材12と重なる部分の領域を基準領域としてよい。図3(a)に示す例では、開口率調整部材61A,61Bの組み合わせ構造は、開口部OPを有していないため、開口率は0%となる。開口率調整部材61A,61Bのずれ量を調整したり、貫通部62A,62Bの大きさを調整して開口部OPを大きくすることで開口率が大きくなってゆく。なお、開口率調整部材61A,61Bの組み合わせ構造では、貫通部62A,62Bを完全に重ね合わせたときが、開口率の上限値となる。すなわち、貫通部62A,62Bを完全に重ね合わせても、基準領域E1は、開口率調整部材61Aの貫通部62A以外の部分の板部により塞がれる。従って、開口率の上限値は、100%以下となっている。ただし、場面によっては、基準領域E1から開口率調整部材61A,61B自体を取り除くことで、開口率を100%としてもよい。また、開口率を0%とするとき、電子の照射を許容する場合は、図2に示すようなプラズマPの間欠制御を行うことなく、プラズマPを連続的に発生させてもよい。なお、開口率を0%とするときは、紫外光UVが基板11に照射されない状態としつつ、電界で供給物PMを引っ張ってよい。
【0037】
なお、開口率調整部材の形状は特に限定されるものではない。例えば、図3(c)(d)に示すように、櫛歯状の貫通部64A,64Bを有する開口率調整部材63A,63Bを採用してもよい。開口率調整部材63A,63Bの貫通部64A,64Bのずれ量を調整することで、図3(c)に示すように、開口率を0%としてもよく、図3(d)に示すように、開口率を大きくしてもよい。なお、平板の入れ子構造を採用してもよい。また、図3に示す例以外でも、様々な貫通部の形状が採用されてもよい。また、開口率調整部材の枚数も更に増やしてもよい。様々な組み合わせを採用することで、開口率調整部材の組み合わせに係る構造は、開口率を0%から100%まで調整可能であってよい。
【0038】
また、開口率調整部材の枚数が1枚でも良い。この場合、図7(a)に示す様に基板11の上部を覆う一枚の板200で塞ぐ構造が採用される。当該構造では、板200の外側から供給物PMを回り込ませて照射する。図7(a)の構造では、基準領域E1を基準としたときの開口率は0%となる。しかし、供給物PMが回り込む開口部の大きさは大きく、仮に当該開口部を基準領域E1と照らし合わせた場合、開口部の大きさは、開口率100%に相当する大きさとなってもよい。このような構成では、チャンバ2の断面積に対しての開口部の割合を調整する。電子の照射を許容する場合は、図2に示すようなプラズマPの間欠制御を行うことなく、プラズマPを連続的に発生させてもよい。
【0039】
例えば、図3に示す形態では、貫通部の大きさが基板11に比べて小さかった。ただし、開口率調整部材201,202の貫通部は、図7(b)に示すように大きく形成されてもよい。例えば、貫通部の大きさは、「基板11のサイズ/2」の大きさなどとなってもよい。この場合、開口率調整部材201,202の重ね合わせ態様を調整することで、分布斑を抑制する。
【0040】
次に、本実施形態に係る負イオン生成装置1の作用・効果について説明する。
【0041】
本実施形態に係る負イオン生成装置1は、負イオン生成部4と対象物配置部3との間で、対象物配置部3に対する紫外光UVを抑制する紫外光抑制機構60を備えている。負イオン生成部4が、負イオンを生成するためにプラズマPを生成した場合、紫外光UVを含むプラズマ光が、対象物配置部3に配置された基板11の方へ向かう。このとき、紫外光抑制機構60が、基板11に対する紫外光UVを抑制することで、基板11に照射される紫外光UVを低減、または遮断することができる。以上より、基板11に対するダメージを抑制することができる。
【0042】
紫外光抑制機構60は、チャンバ2内において負イオン生成部4と対象物配置部3との間に配置された、紫外光UVの通過を抑制する開口率調整部材61A,61Bを有する。この場合、チャンバ2全体の形状を(例えば図6のように)変更しなくとも、既存のチャンバ2に対して開口率調整部材61A,61Bを追加するだけで、基板11に対する紫外光UVを抑制できる。
【0043】
開口率調整部材61A,61Bは、紫外光UVの通過を抑制し、且つ、負イオンの通過を許容する。この場合、図4に示すような部材を移動させる複雑な機構を設けなくとも、基板11に対する紫外光UVを抑制できる。
【0044】
本発明は、上述の実施形態に限定されるものではない。
【0045】
例えば、図4に示す負イオン生成装置1の構成を採用してもよい。図4に示す例では、紫外光抑制機構60は、負イオン生成部4でプラズマPを生成するタイミングと、プラズマPを停止するタイミングとで、シャッター部材66(部材)の位置を切り替える切替部67を有してよい。シャッター部材66は、基板11及び載置部材12と照射方向の下流側で対向する部材である。シャッター部材66は、図3に示すような貫通部を有しない、平面状の板部材である。切替部67は、シャッター部材66に駆動力を付与することで、回転移動させたり、往復移動させることができる。これにより、切替部67は、シャッター部材66で基板11を覆う状態と、シャッター部材66と退避させて基板11を露出させる状態と、を切り替えることができる。
【0046】
この場合、プラズマPが生成されているタイミング(図2の「ON」のタイミング)では、切替部67がシャッター部材66を負イオン生成部4と基板11との間に配置して、基板11に対する紫外光UVを遮断できる。一方、プラズマPが停止しているタイミング(図2の「OFF」のタイミング)では、切替部67がシャッター部材66を除くことで、負イオン生成部4で生成した負イオンを基板11へ照射させることができる。図4に示す構成によれば、プラズマPが生成されているときは、開口部を有さないシャッター部材66は、図1に示す開口率調整部材を用いた構成よりも、更に確実に紫外光UVを遮断できる。そして、プラズマPが停止している時は、基板11を露出させることで、図1に示す開口率調整部材を用いた構成よりも、多くの負イオンを基板11に照射できる。
【0047】
また、図5に示す負イオン生成装置1の構成を採用してもよい。図5に示す例では、開口率調整部材61A,61Bよりも基板11側の空間SP2に対して、磁場形成部80が設けられている。磁場形成部80は、チャンバ2を挟むように、Y軸方向の正側と負側にそれぞれ設けられた磁場発生装置81を備えている。磁場形成部80は、載置部材12の載置面12aに沿った方向の磁場を形成する。すなわち、磁場形成部80は、基板11の被照射面11aに沿った方向の磁場を形成する。載置面12a及び被照射面11aに沿った方向とは、これらの面と略平行な方向を意味する。図5に示す例では、磁場発生装置81が発生する磁束Bが、Y軸方向と略平行に延びている。磁場形成部80は、基板11付近に磁場を形成することによって、電子をトラップすることができる。これにより、磁場形成部80は、基板11に照射される電子の量を低減することができる。従って、図5に示す構成を採用することで、図2に示すようなプラズマPの間欠制御を行うことなく、プラズマPを連続的に発生させてもよくなる。
【0048】
更に、磁場形成部80、対象物配置部3、及び電圧印加部8の組み合わせに係る構成は、マグネトロンを行う放電部90として機能することができる。また、負イオン生成部4は、ラジカルを生成するラジカル供給源として機能することができる。放電部90は、ラジカル供給源から供給されるラジカルを用いてマグネトロン放電を行うことができる機構である。これにより、放電部90は、マグネトロン放電によっても、基板11に照射する負イオンを生成することができる。
【0049】
具体的に、磁場形成部80は、基板11の被照射面11aに対して略平行な磁場を印加できる。すなわち、被照射面11a(及び載置面12a)の位置にて、被照射面11aに略平行な磁場が形成されている。そして、電圧印加部8は、基板11の被照射面11aに対して垂直なバイアス電圧を印加できる。すると、放電部90は、被照射面11a付近の位置において「E×B」のマグネトロン放電を行うことができる。また、負イオン生成部4は、高密度のプラズマPから大量のラジカルを供給することができる。これにより、基底状態のガスなどとは異なり、放電を行い易くなり、プラズマ照射による改質が可能となる。なお、マグネトロン放電によって、新たにプラズマ光が発生するが、負イオン生成部4のプラズマPよりは、放電が行いやすいため紫外光は少ない。従って、基板11に対するダメージは、許容できる範囲に抑えることができる。このようなマグネトロン放電により、陽極となる基板11には、新たに生成された負イオン及び電子が照射される。
【0050】
なお、負イオン及び電子は、磁束Bの周りを旋回するような挙動を示す。このとき、電子は小さい径で磁束Bの周りを旋回するのに対し、負イオンは大きい径で磁束Bの周りを旋回する。そのため、磁場形成部80の磁場を調整しておくことで、大きく旋回する負イオンは、なるべく基板11に当たるようにしつつ、小さく旋回する電子はなるべく基板11に当たらないようにしてよい。これにより、電子よりも負イオンが基板11に照射され易くなる。
【0051】
上述の実施形態及び変形例では、チャンバ2内に新たな部材を設けることによって、紫外光抑制機構が構成されていた。これに代えて、紫外光抑制機構は、負イオン生成部4と対象物配置部3との間で紫外光UVを壁部で遮断するチャンバ102によって構成されてよい。この場合、図1,4に示すような別途の部材を追加することなく、基板11に対する紫外光UVを抑制できる。具体的には、図6に示すように、対象物配置部3及び基板11をプラズマPからの紫外光UVが直接向かわない位置に配置してよい。
【0052】
図6に示すチャンバ102は、プラズマPを生成するためのプラズマ室RM1と、基板11に対する負イオンの照射を行う照射室RM2と、を備えている。プラズマ室RM1は、図1のチャンバ2の内部空間に対応する空間であって、壁部2a~2dに囲まれる空間によって形成される。照射室RM2は、プラズマ室RM1のX軸方向の負側の端部において、Y軸方向の負側へ延びる空間によって形成される。具体的に、照射室RM2は、壁部2aをY軸方法の負側へ延長させた壁部2eと、壁部2cからY軸方向の負側へ延びる壁部2fと、壁部2e,2fのY軸方向の負側の端部同士を接続する壁部2gと、を備える。プラズマ室RM1において、負イオン生成部4の構成要素は、図1と同様の位置に設けられている。それに対し、対象物配置部3は、照射室RM2の壁部2eに設けられる。
【0053】
基板11の被照射面11aと直交する方向(X軸方向)を照射方向と定義する。このとき、対象物配置部3が設けられる照射室RM2は、照射方向と直交する方向(ここではY軸方向)において、プラズマ室RM1からずれた位置に配置されている。また、照射室RM2は、プラズマガン14及び陽極16よりも、照射方向における下流側に配置され、プラズマPの縁部Paよりも、照射方向における下流側に配置される。なお、プラズマPの縁部Paとは、最大出力でプラズマPを生成したときに、視覚的に確認できる発光範囲の境界部分を示す。なお、プラズマPの発光強度の違いがあるため、その輪郭はある程度の幅を持っている。
【0054】
このような位置関係により、基板11から見て、プラズマPが直接見えない構造となっている。具体的には、基板11側の基準位置から負イオン生成部4側を見た場合に、プラズマPの全部、又は一部が見えない状態となっている。例えば、基板11の端部を基準位置P1としたとき、基準位置P1から、プラズマPの縁部Paが見えない配置となっていてよく、陽極16の中心位置CP2が見えない配置となっていてよく、プラズマPの中心位置CP1(プラズマガン14と陽極16との間の領域の中心位置)が見えない配置となっていてよく、プラズマガン14の中心位置CP3が見えない配置となっていてよい。なお、基準位置P1から中心位置CP1が見えない状態とは、基準位置P1と中心位置CP1とを結ぶ仮想線VLが、チャンバ102の壁部に干渉する状態を指す(図6参照)。なお、載置部材12の中心を基板11側の基準位置P2としてもよい。これらの位置関係が成り立つことで、プラズマPから基板11へ向かう紫外光UVは、チャンバ102の壁部2cで遮断される。以上より、チャンバ102によって紫外光抑制機構60が構成される。
【0055】
なお、図6に示す負イオン生成装置1も、基板11の被照射面11a及び載置面12aに沿った方向の磁場を形成する磁場形成部80を有している。これにより、マグネトロン放電によって、基板11に負イオンが照射される。なお、当該磁場形成部80は省略されてもよい。
【0056】
例えば、上記実施形態では、プラズマガン14を圧力勾配型のプラズマガンとしたが、プラズマガン14は、チャンバ2内にプラズマを生成できればよく、圧力勾配型のものには限られない。
【0057】
また、上記実施形態では、プラズマガン14とプラズマPを導く陽極16の組がチャンバ2内に一組だけ設けられていたが、複数組設けてもよい。また、一箇所に対して、複数のプラズマガン14からプラズマPを供給してもよい。
【符号の説明】
【0058】
1…負イオン生成装置、2…チャンバ、3…対象物配置部、4…負イオン生成部、11…基板(対象物)、60…紫外光抑制機構、61A,61B,63A,63B…開口率調整部材(部材)、66…シャッター部材(部材)、67…切替部、102…チャンバ(紫外光抑制機構)。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7