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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-15
(45)【発行日】2023-12-25
(54)【発明の名称】触媒層の形成方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 18/16 20060101AFI20231218BHJP
   B01J 37/02 20060101ALI20231218BHJP
   C23C 18/42 20060101ALI20231218BHJP
   B01D 53/88 20060101ALI20231218BHJP
   B01D 53/94 20060101ALI20231218BHJP
   H01M 4/90 20060101ALI20231218BHJP
   H01M 4/92 20060101ALI20231218BHJP
   H01M 4/88 20060101ALI20231218BHJP
   H01M 4/86 20060101ALI20231218BHJP
【FI】
C23C18/16 B
B01J37/02 301N
B01J37/02 301F
C23C18/42
B01D53/88 ZAB
B01D53/94 300
H01M4/90 M
H01M4/92
H01M4/88 K
H01M4/86 B
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020052021
(22)【出願日】2020-03-24
(65)【公開番号】P2021147699
(43)【公開日】2021-09-27
【審査請求日】2022-10-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(72)【発明者】
【氏名】小幡 進
(72)【発明者】
【氏名】佐野 光雄
(72)【発明者】
【氏名】松尾 圭一郎
(72)【発明者】
【氏名】樋口 和人
(72)【発明者】
【氏名】下川 一生
【審査官】池ノ谷 秀行
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2009/110431(WO,A1)
【文献】特開2019-046570(JP,A)
【文献】特開2019-140225(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 18/10-20/08
B01J 21/00-38/74
H01M 4/86-4/98
H01L 21/30-21/308
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体からなる表面を有し、前記表面が複数の凸部を有する基材に対して置換めっきを行って、前記複数の凸部の位置で触媒金属を析出させることを含み、前記複数の凸部の各々は、前記表面と交差する方向に伸びた針形状を有しており、前記触媒金属は、前記複数の凸部の各々の位置で、この凸部の形状に対応して前記方向に伸びた粒子状に析出させる触媒層の形成方法。
【請求項2】
前記複数の凸部の高さは50乃至300nmの範囲内にある請求項1に記載の触媒層の形成方法。
【請求項3】
前記複数の凸部の隣り合ったものの平均中心間距離は10乃至100nmの範囲内にある請求項1又は2に記載の触媒層の形成方法。
【請求項4】
前記半導体からなる平坦な表面を有する基材に対して置換めっきを行って、前記平坦な表面に複数の触媒金属粒子からなる層を前記複数の触媒金属粒子間に隙間を有するように形成することと、
前記複数の触媒金属粒子を触媒として利用して、前記複数の触媒金属粒子の位置で前記半導体をエッチングすることにより、前記隙間の位置に前記複数の凸部を形成することとを更に含んだ請求項1乃至の何れか1項に記載の触媒層の形成方法。
【請求項5】
前記エッチングの前に形成する前記層における触媒金属の量と比較して、前記エッチングの後に析出させる前記触媒金属の量をより多くする請求項に記載の触媒層の形成方法。
【請求項6】
前記半導体はシリコンを含み、前記触媒層は、金、銀、白金及びパラジウムからなる群より選ばれる1以上を含んだ請求項1乃至の何れか1項に記載の触媒層の形成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、触媒層の形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
貴金属などの金属は、燃料電池や排ガス浄化用触媒などの様々な物品において、触媒金属として使用されている。触媒金属として使用する金属は一般に高価であるので、触媒金属は大きな比表面積を有していることが望ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特表2009-509776号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明が解決しようとする課題は、見かけ上の面積に対する触媒金属の表面積の比が大きな触媒層を形成可能とする技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
一側面によれば、半導体からなる表面を有し、前記表面が複数の凸部を有する基材に対して置換めっきを行って、前記複数の凸部の位置で触媒金属を析出させることを含み、前記複数の凸部の各々は、前記表面と交差する方向に伸びた針形状を有しており、前記触媒金属は、前記複数の凸部の各々の位置で、この凸部の形状に対応して前記方向に伸びた粒子状に析出させる触媒層の形成方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1】実施形態に係る触媒層の形成方法における第1触媒層形成工程によって得られる構造を示す断面図。
図2】実施形態に係る触媒層の形成方法におけるエッチング工程を示す断面図。
図3図2の工程によって得られる構造を示す断面図。
図4】実施形態に係る触媒層の形成方法における第2触媒層形成工程によって得られる構造を示す断面図。
図5】試験例1で得られた触媒層の電子顕微鏡写真。
図6】試験例2で得られた触媒層の電子顕微鏡写真。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、同様又は類似した機能を発揮する構成要素には全ての図面を通じて同一の参照番号を付し、重複する説明は省略する。
【0008】
実施形態に係る触媒層の形成方法では、先ず、半導体からなる表面を有し、この表面が複数の凸部を有する基材を準備する。そのような基材は、例えば、以下の方法により得る。
【0009】
先ず、図1に示す構造を準備する。図1の構造は、基材10とマスク層90と層80aとを含んでいる。
【0010】
基材10は、シリコンなどの半導体材料を含んだ基材である。基材10は、どのような形状を有していても構わない。ここでは、一例として、基材10は単結晶シリコンウェハであるとする。単結晶シリコンウェハの面方位は特に問わないが、本例では、一主面が(100)面であるシリコンウェハを用いる。基材10としては、一主面が(110)面であるシリコンウェハを用いることもできる。
【0011】
マスク層90は、基材10の一方の主面(以下、第1面という)上に設けられている。マスク層90は、1以上の開口部を有している。マスク層90は、基材10の第1面のうちマスク層90によって覆われた領域に、貴金属が接触するのを防止する。
【0012】
マスク層90の材料としては、例えば、ポリイミド、フッ素樹脂、フェノール樹脂、アクリル樹脂、及びノボラック樹脂などの有機材料や、酸化シリコン及び窒化シリコンなどの無機材料が挙げられる。
【0013】
マスク層90は、例えば、既存の半導体プロセスによって形成することができる。有機材料からなるマスク層90は、例えば、フォトリソグラフィによって形成することができる。無機材料からなるマスク層90は、例えば、気相堆積法による無機材料層の成膜と、フォトリソグラフィによるマスクの形成と、エッチングによる無機材料層のパターニングとによって成形することができる。或いは、無機材料からなるマスク層90は、基材10の表面領域の酸化又は窒化と、フォトリソグラフィによるマスク形成と、エッチングによる酸化物又は窒化物層のパターニングとによって形成することができる。マスク層90は、省略可能である。
【0014】
層80aは、基材10の第1面のうちマスク層90によって覆われていない領域に設けられている。層80aは、触媒金属粒子81aからなる粒状層である。層80aは、触媒金属粒子81a間に隙間を有している。
【0015】
触媒金属粒子81aは、触媒金属として、上記の半導体材料よりも貴な金属、例えば、貴金属を含んでいる。貴金属は、例えば、金、銀、白金、ロジウム、パラジウム、及びルテニウムの1以上である。層80a及び触媒金属粒子81aは、チタンなどの貴金属以外の金属を更に含んでいてもよい。好ましくは、層80a及び触媒金属粒子81aは、金、銀、白金及びパラジウムの1以上を含む。
【0016】
層80aは、例えば、電解めっき、還元めっき、又は置換めっきによって形成することができる。層80aは、貴金属粒子を含む分散液の塗布、又は、蒸着及びスパッタリング等の気相堆積法を用いて形成してもよい。これら手法の中でも、置換めっきは、基材10の第1面のうちマスク層90によって覆われていない領域に、触媒金属を直接的且つ一様に析出させることができるため特に好ましい。以下、一例として、置換めっきによる層80aの形成について記載する。
【0017】
触媒金属粒子81aからなる層80aを形成するための置換めっきは、少なくともマスク層90の開口部の位置に半導体からなる平坦な表面を有する基材10に対して行う。これにより、この平坦な表面に、複数の触媒金属粒子81aからなる層を、触媒金属粒子81a間に隙間を有するように形成する。
【0018】
置換めっきによる触媒金属の析出には、例えば、テトラクロロ金(III)酸カリウム水溶液、亜硫酸金塩水溶液又はシアン化金(I)カリウム水溶液を用いることができる。以下、触媒金属は金であるとして説明を行う。
【0019】
置換めっき液は、例えば、テトラクロロ金(III)酸カリウム水溶液と弗化水素酸との混合液である。弗化水素酸は、基材10の表面の自然酸化膜を除去する作用を有している。
【0020】
置換めっき液は、錯化剤及びpH緩衝剤のうち少なくとも一方を更に含んでいてもよい。錯化剤は、置換めっき液に含まれる貴金属イオンを安定化する作用を有している。pH緩衝剤は、めっきの反応速度を安定化させる作用を有している。これら添加剤として、例えば、グリシン、クエン酸、カルボン酸イオン、シアン化物イオン、ピロリン酸イオン、エチレンジアミン四酢酸、アンモニア、アミノカルボン酸イオン、酢酸、乳酸、リン酸塩、ホウ酸、又はそれらの2以上の組み合わせを使用することができる。これら添加剤としては、グリシンとクエン酸とを用いることが好ましい。
【0021】
この置換めっき液中におけるテトラクロロ金(III)酸カリウムの濃度は、0.0001mol/L乃至0.01mol/Lの範囲内にあることが好ましく、0.0005mol/L乃至0.005mol/Lの範囲内にあることがより好ましい。この濃度が低いと、十分な大きさの触媒金属粒子81aが低い密度で分布した触媒層80を得ることが難しい。この濃度が高いと、触媒金属粒子81aが多層に積層され、場合によっては、樹枝状晶が生じることがある。
【0022】
上記置換めっき液中における弗化水素濃度は、0.01mol/L乃至5mol/Lの範囲内にあることが好ましく、0.5mol/L乃至2mol/Lの範囲内にあることがより好ましい。弗化水素濃度が低い場合、十分な大きさの触媒金属粒子81aが低い密度で分布した層80aを得ることが難しい。弗化水素濃度が高い場合、半導体表面の溶解が進行し、エッチングに悪影響を及ぼす可能性がある。
【0023】
上記置換めっき液中におけるグリシン濃度は、0.1g/L乃至20g/Lの範囲内にあることが好ましく、1g/L乃至10g/Lの範囲内にあることがより好ましい。グリシン濃度を過度に低くすると、置換めっき液が不安定になり、触媒金属粒子81aが多層に積層され、場合によっては、樹枝状晶が生じることがある。グリシン濃度を過度に高くすると、十分な大きさの触媒金属粒子81aが低い密度で分布した層80aを得ることが難しくなる。
【0024】
上記置換めっき液中におけるクエン酸濃度は、0.1g/L乃至20g/Lの範囲内にあることが好ましく、1g/L乃至10g/Lの範囲内にあることがより好ましい。クエン酸濃度を過度に低くすると、置換めっき液が不安定になり、触媒金属粒子81aが多層に積層され、場合によっては、樹枝状晶が生じることがある。クエン酸濃度を過度に高くすると、十分な大きさの触媒金属粒子81aが低い密度で分布した層80aを得ることが難しくなる。
【0025】
また、グリシン及びクエン酸の代わりに、これらと同様の機能を有するものを用いてもよい。グリシンの代わりに、例えば、カルボン酸イオン、シアン化物イオン、ピロリン酸イオン、エチレンジアミン四酢酸、アンモニア、又はアミノカルボン酸イオンを用いてもよい。クエン酸の代わりに、例えば、カルボン酸イオン、酢酸、乳酸、リン酸塩、又はホウ酸を用いてもよい。
【0026】
基材10を置換めっき液中に浸漬させると、基材10の第1面の自然酸化膜が除去されるのに加え、基材10の第1面のうちマスク層90によって覆われていない領域に、触媒金属、ここでは金が析出する。これにより、触媒金属粒子81aからなる層80aが得られる。なお、基材10の第1面は、当初は平坦であるが、置換めっきにより、触媒金属粒子81aの位置及びその近傍で僅かに凹む。
【0027】
次に、触媒金属粒子81aを触媒として利用して、それら触媒金属粒子81aの位置で半導体をエッチングする。これにより、触媒金属粒子81a間の隙間の位置に複数の凸部を形成する。
【0028】
具体的には、図2に示すように、基材10をエッチング剤100でエッチングする。例えば、基材10を液状のエッチング剤100に浸漬させて、エッチング剤100を基材10と接触させる。
【0029】
エッチング剤100は、酸化剤と弗化水素とを含んでいる。
エッチング剤100における弗化水素の濃度は、1mol/L乃至20mol/Lの範囲内にあることが好ましく、5mol/L乃至10mol/Lの範囲内にあることがより好ましく、3mol/L乃至7mol/Lの範囲内にあることが更に好ましい。弗化水素濃度が低い場合、高いエッチングレートを達成することが難しい。弗化水素濃度が高い場合、過剰なサイドエッチングを生じる可能性がある。
【0030】
酸化剤は、例えば、過酸化水素、硝酸、AgNO、KAuCl、HAuCl、KPtCl、HPtCl、Fe(NO、Ni(NO、Mg(NO、Na、K、KMnO及びKCrから選択することができる。有害な副生成物が発生しないことから、酸化剤としては過酸化水素が好ましい。
【0031】
エッチング剤100における酸化剤の濃度は、0.2mol/L乃至8mol/Lの範囲内にあることが好ましく、2mol/L乃至4mol/Lの範囲内にあることがより好ましく、3mol/L乃至4mol/Lの範囲内にあることが更に好ましい。
【0032】
エッチング剤100は、緩衝剤を更に含んでいてもよい。緩衝剤は、例えば、弗化アンモニウム及びアンモニアの少なくとも一方を含んでいる。一例によれば、緩衝剤は、弗化アンモニウムである。他の例によれば、緩衝剤は、弗化アンモニウムとアンモニアとの混合物である。
エッチング剤100は、水などの他の成分を更に含んでいてもよい。
【0033】
このようなエッチング剤100を使用した場合、基材10のうち触媒金属粒子81aと近接している領域においてのみ、基材10の材料、ここではシリコンが酸化される。そして、これによって生じた酸化物は、弗化水素酸により溶解除去される。そのため、触媒金属粒子81aと近接している部分のみが選択的にエッチングされる。
【0034】
触媒金属粒子81aは、エッチングの進行とともに、基材10の他方の主面(以下、第2面という)へ向けて移動し、そこで上記と同様のエッチングが行われる。その結果、図2に示すように、層80aの位置では、第1面から第2面へ向けて、第1面に対して垂直な方向にエッチングが進む。
【0035】
但し、層80aは、触媒金属粒子81a間に隙間を有しているので、これら隙間に対応した位置ではエッチングが進行しない。その結果、図2及び図3に示すように、凹部の底部に、エッチング残りとして、第1面と交差する方向、特には凹部の深さ方向に各々が伸びた針形状の凸部10Rを生じる。
【0036】
以上のようにして、半導体からなる表面を有し、この表面が複数の凸部10Rを有する基材10を得る。
【0037】
次に、この基材10に対して置換めっきを行って、凸部10Rの位置で触媒金属を析出させる。これにより、複数の触媒金属粒子81bからなる層80bを形成する。
【0038】
層80bを形成するための置換めっきは、例えば、層80aについて上述したのと同様の方法により行うことができる。但し、層80bを形成するための置換めっきは、好ましくは、層80aを形成するための置換めっきと比較して、より多くの触媒金属が析出するように行う。即ち、好ましくは、エッチングの前に形成する層80aにおける触媒金属の量と比較して、エッチングの後に析出させる触媒金属の量をより多くする。
【0039】
凸部10Rは針状であるので、そのほぼ全体で置換めっきが進行する。それ故、凸部10Rの形状に対応して、触媒金属は、第1面と交差する方向に伸びた粒子状に析出する。即ち、この置換めっきにより、凹部の深さ方向に伸びた形状を有する触媒金属粒子81bからなる層80bが得られる。
【0040】
以上のようにして、層80aと層80bとを含んだ触媒層80が得られる。なお、図1乃至図4には、理解を容易にするために、単純化した構造を描いている。実際には、触媒金属粒子81bを生じさせるためのめっき処理において、触媒金属粒子81a同士が繋がることや、触媒金属粒子81b同士が繋がることがある。また、触媒金属粒子81bを生じさせるためのめっき処理において、触媒金属粒子81aと触媒金属粒子81bとが繋がることもある。従って、触媒層80は、図4に示すように2つの層を明確に互いから区別可能な構造を有しているとは限らない。
【0041】
上記の方法では、第1面が複数の凸部10Rを有する基材10に対して置換めっきを行って、それら凸部10Rの位置で触媒金属を析出させる。このようにして得られる層80bは、凸部10Rの位置で触媒金属を析出させてなるので、見かけ上の面積に対する触媒金属の表面積の比が大きい。即ち、この層80bを含んだ触媒層80は、見かけ上の面積に対する触媒金属の表面積の比が大きい。
【0042】
また、この触媒層80は、層80aと層80bとを含んだ多層構造を有している。この多層構造も、見かけ上の面積に対する触媒金属の表面積の比の増大に寄与する。
【0043】
更に、上記の通り、触媒金属粒子81bは、凹部の深さ方向に伸びた形状を有している。この構造も、見かけ上の面積に対する触媒金属の表面積の比の増大に寄与する。
【0044】
この触媒層80は、例えば、気相又は液相中の物質の反応を促進するのに利用することができる。また、この触媒層80を利用して、基材10を更にエッチングしてもよい。このエッチングは、例えば、凸部10Rの形成について上述したのと同様の方法により行うことができる。このエッチングにより、例えば、より深い凹部又は貫通孔などを基材10に形成することが可能である。
【0045】
上記の方法では、各置換めっきにおいて、めっき液の組成は反応を通じて一定であってもよい。或いは、少なくとも一方の置換めっきにおいて、反応の途中でめっき液の組成を変更してもよい。また、上記のエッチングでは、エッチング剤の組成は、反応を通じて一定であってもよく、反応の途中で変更してもよい。
【0046】
隣り合った触媒金属粒子81bは、図4に示すように、互いから離間していてもよい。或いは、隣り合った触媒金属粒子81bは、層80bが触媒金属粒子81b間に隙間を有している限り、接していてもよい。
【0047】
上記の方法において、層80aは、1乃至100nmの範囲内の厚さを有するように形成することが好ましく、5乃至50nmの範囲内の厚さを有するように形成することがより好ましい。また、層80aは、触媒金属粒子81aが1乃至100nmの範囲内の平均粒径を有するように形成することが好ましく、触媒金属粒子81aが5乃至50nmの範囲内の平均粒径を有するように形成することがより好ましい。触媒金属粒子81aの平均粒径及び層80aの厚さを上記範囲内とした場合、十分な大きさの径又は幅を有する凸部10Rを高い密度で生じさせることができる。
【0048】
ここで、触媒金属粒子81aの「平均粒径」は、以下の方法により得られる値である。先ず、電子顕微鏡により層80aの断面を撮像する。次に、この画像から得られる触媒金属粒子81aの面積を算術平均する。この平均面積と等しい面積を有する円の直径を、触媒金属粒子81aの平均粒径とする。
【0049】
凸部10Rの隣り合ったものの平均中心間距離は、3乃至200nmの範囲内にあることが好ましく、10乃至100nmの範囲内にあることがより好ましい。この平均中心間距離を大きくすると、触媒金属粒子81bの中心間距離も大きくなる。従って、見かけ上の面積に対する触媒金属の表面積が大きな触媒層80を得る観点では、この平均中心間距離は小さいことが望ましい。但し、この平均中心間距離を過剰に小さくすると、隣り合った触媒金属粒子81bの接触面積が大きくなり、場合によっては、触媒金属粒子81b間に隙間を有していない層80bが得られる可能性がある。
【0050】
凸部10Rの高さは、50乃至300nmの範囲内にあることが好ましく、100乃至200nmの範囲内にあることがより好ましい。凸部10Rの高さを過剰に小さくすると、触媒金属粒子81a間の隙間が触媒金属粒子81bによって埋め込まれ易くなる。この高さを過剰に大きくすると、凸部10Rの倒壊を生じ易くなる。
【0051】
凸部10Rの径又は幅に対する凸部10Rの高さの比は、1乃至10の範囲内にあることが好ましく、3乃至6の範囲内にあることがより好ましい。この比を過剰に小さくすると、触媒金属粒子81a間の隙間が触媒金属粒子81bによって埋め込まれ易くなる。この比を過剰に大きくすると、凸部10Rの倒壊を生じ易くなる。
【0052】
層80bは、10乃至300nmの範囲内の厚さを有するように形成することが好ましく、100乃至200nmの範囲内の厚さを有するように形成することがより好ましい。また、層80bは、触媒金属粒子81bが10乃至200nmの範囲内の平均径又は平均幅を有するように形成することが好ましく、触媒金属粒子81bが20乃至100nmの範囲内の平均径又は平均幅を有するように形成することがより好ましい。触媒金属粒子81bの平均径又は平均幅と層80bの厚さとを上記範囲内とした層80bは、一般に、見かけ上の面積に対する触媒金属の表面積の比が大きい。
【0053】
ここで、触媒金属粒子81bの「平均径」又は「平均幅」は、以下の方法により得られる値である。先ず、電子顕微鏡により層80bの断面を撮像する。次に、この画像から得られる触媒金属粒子81bの面積を算術平均する。この平均面積を層80bの厚さで除することにより得られる値を、触媒金属粒子81bの平均径又は平均幅とする。
【0054】
触媒層80は、密度が20乃至200μg/cmの範囲内となるように形成することが好ましく、密度が40乃至80μg/cmの範囲内となるように形成することがより好ましい。触媒層80の密度を過剰に小さくすると、見かけ上の面積に対する触媒金属の表面積の比を十分に大きくすることが難しくなる可能性がある。触媒層80の密度を過剰に大きくすると、触媒金属粒子間の隙間が少なくなり、見かけ上の面積に対する触媒金属の表面積の比を十分に大きくすることが難しくなる可能性がある。
【0055】
エッチング前後での置換めっきによる触媒金属の合計析出量に占める、エッチング後における置換めっきによる触媒金属の析出量の割合は、10乃至90質量%の範囲内にあることが好ましく、30乃至50質量%の範囲内にあることがより好ましい。この割合を過剰に小さくすると、十分な数の凸部10Rを生じさせることが難しくなるか又は凸部10Rでの置換めっきを十分に進行させることが難しくなり、見かけ上の面積に対する触媒金属の表面積の比を十分に大きくすることが難しくなる可能性がある。この割合を過剰に大きくすると、触媒金属粒子間の隙間が少なくなり、見かけ上の面積に対する触媒金属の表面積の比を十分に大きくすることが難しくなる可能性がある。
【0056】
ここでは、針形状の凸部10Rを形成する方法について記載しているが、凸部10Rは他の形状を有していてもよい。例えば、凸部10Rは、平板形状を各々が有し、互いから離間して厚さ方向に配列していてもよい。
【実施例
【0057】
以下、試験例について説明する。
<試験例1>
試験例1では、後述する試験例2との比較の目的で、以下に説明する方法により、シリコンウェハ上に触媒層を形成した。
【0058】
先ず、一主面が(100)面であるシリコンウェハを準備した。
次に、このシリコンウェハの先の主面上に、開口部を有するマスク層を形成した。マスク層は、フォトレジストを用いたフォトリソグラフィによって形成した。
【0059】
次いで、テトラクロロ金(III)酸カリウム水溶液と弗化水素酸とを混合して、置換めっき液を調製した。この置換めっき液は、テトラクロロ金(III)酸カリウム濃度が0.003mmol/Lであり、弗化水素濃度が1mol/Lであった。
【0060】
この置換めっき液の温度を20℃に調節し、これにマスク層を形成したシリコンウェハを3分間浸漬させた。以上のようにして、シリコンウェハ上に触媒層を形成した。
【0061】
<試験例2>
試験例2では、図1乃至図4を参照しながら説明した方法により、基材10上に触媒層80を形成した。
【0062】
ここでは、基材10として、試験例1と同様のシリコンウェハを使用した。また、マスク層90は、試験例1と同様の方法により形成した。
【0063】
層80aを形成するための置換めっき液は、テトラクロロ金(III)酸カリウム水溶液と弗化水素酸とを混合して調製した。この置換めっき液は、テトラクロロ金(III)酸カリウム濃度が0.0005mmol/Lであり、弗化水素濃度が1mol/Lであった。層80aは、この置換めっき液の温度を20℃に調節し、これにマスク層90を形成した基材10を90秒間浸漬させることにより形成した。
【0064】
次に、弗化水素酸と過酸化水素とを混合してエッチング剤を調製した。このエッチング剤は、弗化水素濃度が3.8mol/Lであり、過酸化水素濃度が0.5mol/Lであった。このエッチング剤の温度を20℃に調節し、これにマスク層90と層80aとを形成した基材10を75秒間浸漬させてエッチングした。これにより、凸部10Rを形成した。
【0065】
その後、層80bを形成した。層80bを形成するための置換めっき液は、テトラクロロ金(III)酸カリウム水溶液と弗化水素酸とを混合して調製した。この置換めっき液は、テトラクロロ金(III)酸カリウム濃度が0.003mmol/Lであり、弗化水素濃度が1mol/Lであった。層80bは、この置換めっき液の温度を20℃に調節し、この置換めっき液に、マスク層90と層80aと凸部10Rとを形成した基材10を3分間浸漬させることにより形成した。
【0066】
<評価>
試験例1及び2で得られた構造の断面を、走査電子顕微鏡で撮像した。
図5及び図6は、それぞれ、試験例1及び2で得られた触媒層の電子顕微鏡写真である。めっき処理を1回のみ行った場合に得られた触媒層、即ち、試験例1で得られた触媒層では、図5に示すように、触媒金属粒子は縦横の寸法がほぼ等しかった。他方、めっき処理、エッチング及びめっき処理をこの順に行った場合に得られた触媒層、即ち、試験例2で得られた触媒層では、図6に示すように、触媒層の上部に位置した触媒金属粒子は、試験例1で得られた触媒層の触媒金属粒子の径とほぼ等しい径又は幅を有していた。但し、試験例2で得られた触媒層では、触媒層の上部に位置した触媒金属粒子は、触媒層の厚さ方向に伸びた形状を有していた。即ち、試験例2で得られた触媒層は、試験例1で得られた触媒層と比較して、見かけ上の面積に対する触媒金属の表面積の比が大きかった。
【0067】
なお、本発明は、上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具現化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。更に、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。
以下に、当初の特許請求の範囲に記載していた発明を付記する。
[1]
半導体からなる表面を有し、前記表面が複数の凸部を有する基材に対して置換めっきを行って、前記複数の凸部の位置で触媒金属を析出させることを含んだ触媒層の形成方法。
[2]
前記複数の凸部は、前記表面と交差する方向に伸びた針形状を有している項1に記載の触媒層の形成方法。
[3]
前記触媒金属は、前記方向に伸びた粒子状に析出させる項2に記載の触媒層の形成方法。
[4]
前記複数の凸部の高さは50乃至300nmの範囲内にある項1乃至3の何れか1項に記載の触媒層の形成方法。
[5]
前記複数の凸部の隣り合ったものの平均中心間距離は10乃至100nmの範囲内にある項1乃至4の何れか1項に記載の触媒層の形成方法。
[6]
前記半導体からなる平坦な表面を有する基材に対して置換めっきを行って、前記平坦な表面に複数の触媒金属粒子からなる層を前記複数の触媒金属粒子間に隙間を有するように形成することと、
前記複数の触媒金属粒子を触媒として利用して、前記複数の触媒金属粒子の位置で前記半導体をエッチングすることにより、前記隙間の位置に前記複数の凸部を形成することとを更に含んだ項1乃至5の何れか1項に記載の触媒層の形成方法。
[7]
前記エッチングの前に形成する前記層における触媒金属の量と比較して、前記エッチングの後に析出させる前記触媒金属の量をより多くする項6に記載の触媒層の形成方法。
[8]
20乃至200μg/cm2の範囲内の密度で前記触媒層を形成する項1乃至7の何れか1項に記載の触媒層の形成方法。
[9]
前記半導体はシリコンを含み、前記触媒層は、金、銀、白金及びパラジウムからなる群より選ばれる1以上を含んだ項1乃至8の何れか1項に記載の触媒層の形成方法。
【符号の説明】
【0068】
10…基材、10R…凸部、80…触媒層、80a…層、80b…層、81a…触媒金属粒子、81b…触媒金属粒子、90…マスク層、100…エッチング剤。
図1
図2
図3
図4
図5
図6