(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-15
(45)【発行日】2023-12-25
(54)【発明の名称】振動型角速度センサ
(51)【国際特許分類】
G01C 19/5776 20120101AFI20231218BHJP
G01C 19/567 20120101ALI20231218BHJP
【FI】
G01C19/5776
G01C19/567
(21)【出願番号】P 2020052440
(22)【出願日】2020-03-24
【審査請求日】2023-03-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000183369
【氏名又は名称】住友精密工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104433
【氏名又は名称】宮園 博一
(74)【代理人】
【識別番号】100202728
【氏名又は名称】三森 智裕
(72)【発明者】
【氏名】森口 孝文
【審査官】續山 浩二
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第108253952(CN,A)
【文献】国際公開第2015/129464(WO,A1)
【文献】特表2007-520716(JP,A)
【文献】特開平06-258083(JP,A)
【文献】国際公開第01/79862(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01C 19/5776
G01C 19/567
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
振動子と、
閉じた制御ループを有し、前記閉じた制御ループの出力が前記振動子に1次振動を誘起させる1次側制御回路と、
前記振動子に印加される角速度に起因して前記振動子に発生する2次振動を検出する閉じた制御ループを有するとともに、前記閉じた制御ループにオフセット値を加算することによって、センサ出力の補正を行うように構成されている2次側制御回路と、を備え、
前記1次側制御回路と前記2次側制御回路とは、前記1次側制御回路としての機能と、前記2次側制御回路としての機能を入れ替え可能に構成されており、
入れ替え後の前記オフセット値と入れ替え前の前記オフセット値とは、所定の基準値に対して対称な値である、振動型角速度センサ。
【請求項2】
前記1次側制御回路および前記2次側制御回路は、それぞれ、前記閉じた制御ループ内に、1次側ループフィルタおよび2次側ループフィルタを含み、
前記2次側ループフィルタの入力に前記オフセット値を加算することによって、前記センサ出力の補正を行うように構成されている、請求項1に記載の振動型角速度センサ。
【請求項3】
入れ替え前の前記オフセット値をaとした場合、入れ替え後の前記オフセット値は、入れ替え前の前記オフセット値の極性が反転された-aである、請求項1または2に記載の振動型角速度センサ。
【請求項4】
入れ替え前の仮の前記オフセット値をaとし、
入れ替え後の仮の前記オフセット値を-aとし、
入れ替えの前の前記センサ出力と、入れ替えの後の前記センサ出力との中央値に対する仮の前記オフセット値をbとした場合、
入れ替え前の前記オフセット値は、a+bであり、入れ替え後の前記オフセット値は、-a+bである、請求項1または2に記載の振動型角速度センサ。
【請求項5】
前記センサ出力をアナログ的に補正する場合には、前記2次側制御回路の閉じた制御ループに、前記2次側制御回路からの前記振動子の利得の温度変化の二乗に反比例するセンサ出力の補正を行うために、前記振動子の利得の温度変化に反比例する前記1次側制御回路の前記出力に基づく第1オフセット値と、前記2次側制御回路からの前記振動子の利得の温度変化に反比例するセンサ出力の補正を行うために、温度に依存しない一定の信号に基づく第2オフセット値とを加算するとともに、前記第1オフセット値および前記第2オフセット値の加算量を調整することによって、前記センサ出力の補正を行うように構成されている、請求項1~4のいずれか1項に記載の振動型角速度センサ。
【請求項6】
前記振動子の温度に依存する利得をG
R(T)とし、A、BおよびCを温度に依存しない一定値とした場合に、前記2次側制御回路を構成する回路ブロックから生じるエラー信号により前記2次側制御回路の閉じた制御ループに生じる前記センサ出力の誤差と前記1次側制御回路から前記2次側制御回路へのクロストークにより前記2次側制御回路の閉じた制御ループに生じる前記センサ出力の誤差の合計V
Out_Total_Errorは、以下の数式で表され、以下の数式の第1項であるA/G
R
2(T)を低減するように、前記振動子の利得の温度変化に反比例する温度に依存する前記1次側制御回路の前記出力に基づく前記第1オフセット値の加算量を調整するとともに、以下の数式の第2項であるB/G
R(T)を低減するように、温度に依存しない前記一定の信号に基づく前記第2オフセット値の加算量を調整することによって、アナログ的に前記センサ出力の補正を行うように構成されている、請求項5に記載の振動型角速度センサ。
【数1】
【請求項7】
前記センサ出力をデジタル的に補正する場合には、前記振動子の利得の温度変化に反比例する温度に依存する前記1次側制御回路の前記出力を量子化するとともに、量子化した前記1次側制御回路の前記出力に対して、温度変化による前記センサ出力の誤差を低減する前記オフセット値を、前記2次側制御回路に加算することによって、前記センサ出力の補正を行うように構成されている、請求項1~4のいずれか1項に記載の振動型角速度センサ。
【請求項8】
前記振動子は、リング型の振動子を含む、請求項1~7のいずれか1項に記載の振動型角速度センサ。
【請求項9】
振動子と、
閉じた制御ループを有し、前記閉じた制御ループの出力が前記振動子に1次振動を誘起させる1次側制御回路と、
前記振動子に印加される角速度に起因して前記振動子に発生する2次振動を検出する閉じた制御ループを有するとともに、前記閉じた制御ループにオフセット値を加算することによって、センサ出力の補正を行うように構成されている2次側制御回路と、を備え、
前記1次振動を誘起する機能と前記2次振動を検出する機能とを入れ替え可能に構成されており、
入れ替え後の前記オフセット値と入れ替え前の前記オフセット値とは、所定の基準値に対して対称な値である、振動型角速度センサ。
【請求項10】
前記1次側制御回路および前記2次側制御回路は、それぞれ、前記閉じた制御ループ内に、1次側ループフィルタおよび2次側ループフィルタを含み、
前記2次側ループフィルタの入力に前記オフセット値を加算することによって、前記センサ出力の補正を行うように構成されている、請求項9に記載の振動型角速度センサ。
【請求項11】
入れ替え前の前記オフセット値をaとした場合、入れ替え後の前記オフセット値は、入れ替え前の前記オフセット値の極性が反転された-aである、請求項9または10に記載の振動型角速度センサ。
【請求項12】
入れ替え前の仮の前記オフセット値をaとし、
入れ替え後の仮の前記オフセット値を-aとし、
入れ替えの前の前記センサ出力と、入れ替えの後の前記センサ出力との中央値に対する仮の前記オフセット値をbとした場合、
入れ替え前の前記オフセット値は、a+bであり、入れ替え後の前記オフセット値は、-a+bである、請求項9または10に記載の振動型角速度センサ。
【請求項13】
前記センサ出力をアナログ的に補正する場合には、前記2次側制御回路の閉じた制御ループに、前記2次側制御回路からの前記振動子の利得の温度変化の二乗に反比例するセンサ出力の補正を行うために、前記振動子の利得の温度変化に反比例する前記1次側制御回路の前記出力に基づく第1オフセット値と、前記2次側制御回路からの前記振動子の利得の温度変化に反比例するセンサ出力の補正を行うために、温度に依存しない一定の信号に基づく第2オフセット値とを加算するとともに、前記第1オフセット値および前記第2オフセット値の加算量を調整することによって、前記センサ出力の補正を行うように構成されている、請求項9~12のいずれか1項に記載の振動型角速度センサ。
【請求項14】
前記振動子の温度に依存する利得をG
R
(T)とし、A、BおよびCを温度に依存しない一定値とした場合に、前記2次側制御回路を構成する回路ブロックから生じるエラー信号により前記2次側制御回路の閉じた制御ループに生じる前記センサ出力の誤差と前記1次側制御回路から前記2次側制御回路へのクロストークにより前記2次側制御回路の閉じた制御ループに生じる前記センサ出力の誤差の合計V
Out_Total_Error
は、以下の数式で表され、以下の数式の第1項であるA/GR
2
(T)を低減するように、前記振動子の利得の温度変化に反比例する温度に依存する前記1次側制御回路の前記出力に基づく前記第1オフセット値の加算量を調整するとともに、以下の数式の第2項であるB/G
R
(T)を低減するように、温度に依存しない前記一定の信号に基づく前記第2オフセット値の加算量を調整することによって、アナログ的に前記センサ出力の補正を行うように構成されている、請求項13に記載の振動型角速度センサ。
【数2】
【請求項15】
前記センサ出力をデジタル的に補正する場合には、前記振動子の利得の温度変化に反比例する温度に依存する前記1次側制御回路の前記出力を量子化するとともに、量子化した前記1次側制御回路の前記出力に対して、温度変化による前記センサ出力の誤差を低減する前記オフセット値を、前記2次側制御回路に加算することによって、前記センサ出力の補正を行うように構成されている、請求項9~12のいずれか1項に記載の振動型角速度センサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、振動型角速度センサに関し、特に、振動子に1次振動を誘起する1次側制御回路と振動子に印加される角速度に起因して振動子に発生する2次振動を検出して出力する2次側制御回路とを備える振動型角速度センサに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、振動型角速度センサが知られている(たとえば、特許文献1および2参照)。
【0003】
上記特許文献1には、リング状のエレメント部と、リング状のエレメント部の径方向外側にかつ周状に複数の電極が配置されている。複数の電極は、一次電極と二次電極とを含む。一次電極と二次電極とのうちの一方には、一次電極と二次電極とのうちの一方に交流電圧を印加することにより、リング状のエレメント部に一次振動を発生させる交流電源が接続されている。また、一次電極と二次電極とのうちの他方には、一次電極と二次電極とのうちの他方に発生する電気信号の大きさを検出する検出手段が接続されている。そして、リング状のエレメント部に一次振動が発生している状態で、エレメント部の法線方向回りに回転運動が発生すると、回転運動の角速度に応じた二次振動がエレメント部に発生する。そして、一次電極と二次電極とのうちの他方に接続されている検出手段によって、二次振動に起因して一次電極と二次電極とのうちの他方に発生する電気信号の大きさが検出される。また、検出された電気信号の大きさに基づいて、二次振動を打ち消すための交流電圧が一次電極と二次電極とのうちの一方に印加される。そして、二次振動を打ち消すための交流電圧の大きさに基づいて角速度の大きさが演算される。
【0004】
また、上記特許文献1に記載のような従来の振動型角速度センサでは、振動型角速度センサが検出する角速度にはバイアス成分(角速度が加わっていない状態でもセンサから出力されるゼロ点からの誤差)が含まれている。バイアス成分は、振動型角速度センサに含まれるジャイロ素子の非対称性などに起因して生じる。そこで、上記特許文献1のような従来の振動型角速度センサは、交流電源が接続されている電極(一次電極と二次電極とのうちの一方)と、検出手段が接続されている電極(一次電極と二次電極とのうちの他方)とを切り替えるように構成されている。そして、切り替えられた前後の振動型角速度センサの出力を差分することにより、バイアス成分がキャンセルされる。
【0005】
ここで、上記特許文献1に記載のような、交流電源が接続されている電極と検出手段が接続されている電極とを切り替えてバイアス成分をキャンセルする振動型角速度センサでは、キャンセルされずに残存するバイアス成分が生じる場合がある。この場合、残存したバイアス成分が、周囲の環境の温度によって変動する。
【0006】
上記特許文献2には、振動子に1次振動を誘起する1次側制御回路と振動子に印加される角速度に起因して振動子に発生する2次振動を検出して出力する2次側制御回路とを備える振動型角速度センサが開示されている。この振動型角速度センサでは、1次側制御回路と2次側制御回路とは、共に、閉じた制御ループにより構成されている。また、2次側制御回路の閉じた制御ループに、振動子の利得の温度変化に反比例する1次側制御回路の出力に基づく第1オフセット値と、温度に依存しない一定の信号に基づく第2オフセット値とが加算される。これにより、1次側制御回路から2次側制御回路へのクロストークに起因する誤差(振動子の利得の一乗および二乗に反比例する誤差)が低減される。なお、第1および第2オフセット値は、1次側制御回路から2次側制御回路へのクロストークに起因する誤差を低減するように調整されている。これにより、2次側制御回路からのセンサ出力の補正が行われる。その結果、振動型角速度センサからの出力の温度変動(周囲の温度によって出力値が変化すること)を低減することが可能になる。
【0007】
そして、上記特許文献1に記載のような、交流電源が接続されている電極と検出手段が接続されている電極とを切り替えてバイアス成分をキャンセルする振動型角速度センサに対して、切り替えの前後において各々上記特許文献2の構成を適用することにより、残存したバイアス成分の温度変動を低減することが可能になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2009-115559号公報
【文献】特許第6463335号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記特許文献1に記載のように、交流電源が接続されている電極と検出手段が接続されている電極とを切り替えてバイアス成分をキャンセルするためには、切り替えの前後の振動型角速度センサの制御の対称性が重要となる。ここで、切り替えの前後において、上記特許文献2の構成を適用して、切り替えの前後に対して個別に第1および第2オフセット値を設定すると、一般的には、切り替えの前後の第1および第2オフセット値は対称にはならない。このため、切り替えの前後において対称でない第1および第2オフセット値を設定すると、振動型角速度センサの制御の対称性がくずれるので、キャンセルされずに残存するバイアスの温度変動成分が大きくなってしまう場合があるという問題点がある。
【0010】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、この発明の1つの目的は、キャンセルされずに残存するバイアスの温度変動成分が大きくなるのを抑制することが可能な振動型角速度センサを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、この発明の第1の局面による振動型角速度センサは、振動子と、閉じた制御ループを有し、閉じた制御ループの出力が振動子に1次振動を誘起させる1次側制御回路と、振動子に印加される角速度に起因して振動子に発生する2次振動を検出する閉じた制御ループを有するとともに、閉じた制御ループにオフセット値を加算することによって、センサ出力の補正を行うように構成されている2次側制御回路と、を備え、1次側制御回路と2次側制御回路とは、1次側制御回路としての機能と、2次側制御回路としての機能を入れ替え可能に構成されており、入れ替え後のオフセット値と入れ替え前のオフセット値とは、所定の基準値に対して対称な値である。
【0012】
この発明の第1の局面による振動型角速度センサでは、上記のように、1次側制御回路と2次側制御回路とは、1次側制御回路としての機能と、2次側制御回路としての機能を入れ替え可能に構成されており、入れ替え後のオフセット値と入れ替え前のオフセット値とは、所定の基準値に対して対称な値である。これにより、1次側制御回路としての機能と2次側制御回路としての機能が入れ替えられた前後において、オフセット値が所定の基準値に対して対称になるので、入れ替えの前後における振動型角速度センサの制御の対称性がくずれるのを抑制することができる。その結果、キャンセルされずに残存するバイアスの温度変動成分が大きくなるのを抑制することができる。
【0013】
上記第1の局面による振動型角速度センサにおいて、好ましくは、1次側制御回路および2次側制御回路は、それぞれ、閉じた制御ループ内に、1次側ループフィルタおよび2次側ループフィルタを含み、2次側ループフィルタの入力にオフセット値を加算することによって、センサ出力の補正を行うように構成されている。ここで、閉じた制御ループにおける出力は、ループフィルタの出力に対応する。そして、ループフィルタの出力は、閉じた制御ループの帰還動作によって温度に依存する振動子の利得(ゲイン)に反比例する。本発明では、この点に着目して、2次側ループフィルタの入力に、オフセット値を加算することにより、振動子の利得の一乗および/または二乗に反比例するクロストークに起因する誤差を低減することができる。
【0014】
上記第1の局面による振動型角速度センサにおいて、好ましくは、入れ替え前のオフセット値をaとした場合、入れ替え後のオフセット値は、入れ替え前のオフセット値の極性が反転された-aである。このように構成すれば、1次側制御回路としての機能と2次側制御回路としての機能が入れ替えられた前後において、オフセット値がゼロに対して対称になるので、入れ替えの前後における振動型角速度センサの制御の対称性がくずれるのを抑制することができる。
【0015】
上記第1の局面による振動型角速度センサにおいて、好ましくは、入れ替え前の仮のオフセット値をaとし、入れ替え後の仮のオフセット値を-aとし、入れ替えの前のセンサ出力と、入れ替えの後のセンサ出力との中央値に対する仮のオフセット値をbとした場合、入れ替え前のオフセット値は、a+bであり、入れ替え後のオフセット値は、-a+bである。このように構成すれば、1次側制御回路としての機能と2次側制御回路としての機能が入れ替えられた前後において、オフセット値がbに対して対称になるので、入れ替えの前後における振動型角速度センサの制御の対称性がくずれるのを抑制することができる。また、入れ替えの前後におけるオフセット値が、入れ替えの前後のセンサ出力の中央値に対するオフセット値bに対して対称になるので、バイアス成分の残渣の環境の温度に対する勾配を低減しながら、入れ替えの前後における振動型角速度センサの制御の対称性がくずれるのを抑制することができる。なお、「仮の」とは、最終的なオフセット値を求めるまでの中間段階のオフセット値を意味する。
【0016】
上記第1の局面による振動型角速度センサにおいて、好ましくは、センサ出力をアナログ的に補正する場合には、2次側制御回路の閉じた制御ループに、2次側制御回路からの振動子の利得の温度変化の二乗に反比例するセンサ出力の補正を行うために、振動子の利得の温度変化に反比例する1次側制御回路の出力に基づく第1オフセット値と、2次側制御回路からの振動子の利得の温度変化に反比例するセンサ出力の補正を行うために、温度に依存しない一定の信号に基づく第2オフセット値とを加算するとともに、第1オフセット値および第2オフセット値の加算量を調整することによって、センサ出力の補正を行うように構成されている。ここで、2次側制御回路の閉じた制御ループに、温度に依存しない一定の信号に基づく第2オフセット値を加算した場合、2次側制御回路の出力は、温度に依存する振動子の利得に反比例した特性を有する。また、1次側制御回路の出力も同様に、閉じた制御ループの帰還動作によって振動子の利得に反比例した特性を有するため、2次側制御回路の閉じた制御ループに、振動子の利得に反比例した特性を有する1次側制御回路の出力に基づく第1オフセット値を加算することによって、2次側制御回路の出力は、振動子の利得の二乗に反比例した特性を有するものとなる。すなわち、振動子の利得の二乗に対応する第1オフセット値と振動子の利得の一乗に対応する第2オフセット値とを加算するとともに、第1オフセット値および第2オフセット値の加算量を調整することにより、センサ出力の補正を行うことによって、振動子の利得の一乗に反比例した補正と、振動子の利得の二乗に反比例した補正とを行うことができる。
【0017】
この場合、好ましくは、振動子の温度に依存する利得をG
R(T)とし、A、BおよびCを温度に依存しない一定値とした場合に、2次側制御回路を構成する回路ブロックから生じるエラー信号により2次側制御回路の閉じた制御ループに生じるセンサ出力の誤差と1次側制御回路から2次側制御回路へのクロストークにより2次側制御回路の閉じた制御ループに生じるセンサ出力の誤差の合計V
Out_Total_Errorは、以下の数式で表され、以下の数式の第1項であるA/G
R
2(T)を低減するように、振動子の利得の温度変化に反比例する温度に依存する1次側制御回路の出力に基づく第1オフセット値の加算量を調整するとともに、以下の数式の第2項であるB/G
R(T)を低減するように、温度に依存しない一定の信号に基づく第2オフセット値の加算量を調整することによって、アナログ的にセンサ出力の補正を行うように構成されている。このように構成すれば、センサ出力の誤差の1次(振動子の利得の一乗)の成分と2次(振動子の利得の二乗)の成分との両方を、低減することができるので、補正の精度を確実に高めることができる。なお、一定値Cが残存するものの、Cは温度に依存しない一定値であるため、温度変化によるセンサ出力の誤差に影響を及ぼすことはないことから、補正上は問題とならない。
【数2】
【0018】
上記第1の局面による振動型角速度センサにおいて、好ましくは、センサ出力をデジタル的に補正する場合には、振動子の利得の温度変化に反比例する温度に依存する1次側制御回路の出力を量子化するとともに、量子化した1次側制御回路の出力に対して、温度変化によるセンサ出力の誤差を低減するオフセット値を、2次側制御回路に加算することによって、センサ出力の補正を行うように構成されている。このように構成すれば、温度変化によるセンサ出力の誤差を低減するオフセット値を、2次側制御回路に加算するだけでセンサ出力の補正を行うことができるので、温度に依存する1次側制御回路の出力に基づくオフセット値以外のオフセット値を加算する場合と異なり、振動型角速度センサの構成を簡略化することができる。
【0019】
上記
第1の局面による振動型角速度センサにおいて、好ましくは、振動子は、リング型の振動子を含む。ここで、リング型の振動子は、対称的な形状を有するので、1次側制御回路による振動モードと、2次側制御回路による振動モードとが類似する。このため、本発明をリング型の振動子を含む振動型角速度センサに適用すれば、振動モードの差異の影響を考慮する必要がないので、容易に、センサ出力の補正を行うことができる。
上記目的を達成するために、この発明の第2の局面による振動型角速度センサは、振動子と、閉じた制御ループを有し、閉じた制御ループの出力が振動子に1次振動を誘起させる1次側制御回路と、振動子に印加される角速度に起因して振動子に発生する2次振動を検出する閉じた制御ループを有するとともに、閉じた制御ループにオフセット値を加算することによって、センサ出力の補正を行うように構成されている2次側制御回路と、を備え、1次振動を誘起する機能と2次振動を検出する機能とを入れ替え可能に構成されており、入れ替え後のオフセット値と入れ替え前のオフセット値とは、所定の基準値に対して対称な値である。
上記第2の局面による振動型角速度センサにおいて、好ましくは、1次側制御回路および2次側制御回路は、それぞれ、閉じた制御ループ内に、1次側ループフィルタおよび2次側ループフィルタを含み、2次側ループフィルタの入力にオフセット値を加算することによって、センサ出力の補正を行うように構成されている。
上記第2の局面による振動型角速度センサにおいて、好ましくは、入れ替え前のオフセット値をaとした場合、入れ替え後のオフセット値は、入れ替え前のオフセット値の極性が反転された-aである。
上記第2の局面による振動型角速度センサにおいて、好ましくは、入れ替え前の仮のオフセット値をaとし、入れ替え後の仮のオフセット値を-aとし、入れ替えの前のセンサ出力と、入れ替えの後のセンサ出力との中央値に対する仮のオフセット値をbとした場合、入れ替え前のオフセット値は、a+bであり、入れ替え後のオフセット値は、-a+bである。
上記第2の局面による振動型角速度センサにおいて、好ましくは、センサ出力をアナログ的に補正する場合には、2次側制御回路の閉じた制御ループに、2次側制御回路からの振動子の利得の温度変化の二乗に反比例するセンサ出力の補正を行うために、振動子の利得の温度変化に反比例する1次側制御回路の出力に基づく第1オフセット値と、2次側制御回路からの振動子の利得の温度変化に反比例するセンサ出力の補正を行うために、温度に依存しない一定の信号に基づく第2オフセット値とを加算するとともに、第1オフセット値および第2オフセット値の加算量を調整することによって、センサ出力の補正を行うように構成されている。
この場合、好ましくは、振動子の温度に依存する利得をG
R
(T)とし、A、BおよびCを温度に依存しない一定値とした場合に、2次側制御回路を構成する回路ブロックから生じるエラー信号により2次側制御回路の閉じた制御ループに生じるセンサ出力の誤差と1次側制御回路から2次側制御回路へのクロストークにより2次側制御回路の閉じた制御ループに生じるセンサ出力の誤差の合計V
Out_Total_Error
は、以下の数式で表され、以下の数式の第1項であるA/GR
2
(T)を低減するように、振動子の利得の温度変化に反比例する温度に依存する1次側制御回路の出力に基づく第1オフセット値の加算量を調整するとともに、以下の数式の第2項であるB/G
R
(T)を低減するように、温度に依存しない一定の信号に基づく第2オフセット値の加算量を調整することによって、アナログ的にセンサ出力の補正を行うように構成されている。
【数3】
上記第2の局面による振動型角速度センサにおいて、好ましくは、センサ出力をデジタル的に補正する場合には、振動子の利得の温度変化に反比例する温度に依存する1次側制御回路の出力を量子化するとともに、量子化した1次側制御回路の出力に対して、温度変化によるセンサ出力の誤差を低減するオフセット値を、2次側制御回路に加算することによって、センサ出力の補正を行うように構成されている。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、上記のように、キャンセルされずに残存するバイアスの温度変動成分が大きくなるのを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】第1実施形態による振動型角速度センサの構成を示したブロック図である。
【
図2】第1実施形態による振動型角速度センサのセンサ出力の補正(1/G
R(T)(温度の一乗)に比例する成分の補正)を説明するための図である。
【
図3】第1実施形態による振動型角速度センサのセンサ出力の補正(1/G
R
2(T)(温度の二乗)に比例する成分の補正)を説明するための図である。
【
図5】オフセット値によるセンサ出力の補正後の温度とバイアス成分の関係を示す図(1)である。
【
図6】(a)オフセット値によるセンサ出力の補正後の温度とバイアス成分の関係を示す図(2)である。(b)オフセット値によるセンサ出力の補正後の温度とバイアス成分の関係を示す図(3)である。
【
図7】オフセット値によるセンサ出力の補正後の温度とバイアス成分の関係を示す図(3)である。
【
図8】第2実施形態による振動型角速度センサの構成を示したブロック図である。
【
図9】第2実施形態による振動型角速度センサのセンサ出力の補正を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0023】
(第1実施形態)
まず、
図1を参照して、第1実施形態による振動型角速度センサ100の構成について説明する。この第1実施形態では、振動型角速度センサ100のセンサ出力をアナログ的に処理することにより、補正を行う例について説明する。
【0024】
図1に示すように、振動型角速度センサ100は、振動子1と、振動子1を駆動する閉じた制御ループを有する1次側制御回路2と、1次側制御回路2により駆動された振動子1の振動を検出して出力する閉じた制御ループを有する2次側制御回路3とを備えている。ここで、第1実施形態では、振動子1は、リング型の振動子1からなる。
【0025】
1次側制御回路2は、増幅回路21と、同期検波回路22と、ループフィルタ23と、変調回路24と、駆動回路25と、PLL(Phase Locked Loop)回路(位相同期回路)26と、基準信号生成回路27とを含む。そして、振動子1、増幅回路21、同期検波回路22、ループフィルタ23、変調回路24および駆動回路25が、この順で接続されており、閉じた制御ループを構成している。なお、ループフィルタ23は、たとえば積分フィルタからなる。また、ループフィルタ23は、特許請求の範囲の「1次側ループフィルタ」の一例である。
【0026】
2次側制御回路3は、増幅回路31と、同期検波回路32と、加算回路33と、ループフィルタ34と、変調回路35と、駆動回路36と、増幅回路37とを含む。そして、振動子1、増幅回路31、同期検波回路32、加算回路33、ループフィルタ34、変調回路35および駆動回路36が、この順で接続されており、閉じた制御ループを構成している。なお、加算回路33は、オペアンプを用いた一般的な加減算回路により構成されている。また、ループフィルタ34は、たとえば積分フィルタからなる。また、ループフィルタ34の出力が、増幅回路37に入力される。そして、増幅回路37から出力された信号が、振動型角速度センサ100のセンサ出力として、外部に出力される。なお、ループフィルタ34は、特許請求の範囲の「2次側ループフィルタ」の一例である。
【0027】
ここで、第1実施形態では、1次側制御回路2と2次側制御回路3とは、1次側制御回路2としての機能と、2次側制御回路3としての機能を入れ替え可能に構成されている。具体的には、1次側制御回路2において、振動子1に対する信号の入力側にスイッチ41、および、振動子1に対する信号の出力側(増幅回路21の出力側)にスイッチ42が設けられている。また、2次側制御回路3において、振動子1に対する信号の入力側にスイッチ43、および、振動子1に対する信号の出力側(増幅回路31の出力側)にスイッチ44が設けられている。スイッチ41、スイッチ42、スイッチ43、および、スイッチ44は、各々、1次側制御回路2に接続される状態と、2次側制御回路3に接続される状態とを切り替え可能に構成されている。
図1では、スイッチ41およびスイッチ42は、1次側制御回路2に接続された状態を示しており、スイッチ43およびスイッチ44は、2次側制御回路3に接続された状態を示している。また、スイッチ41およびスイッチ42が、2次側制御回路3に接続されるように切り替えられ、スイッチ43およびスイッチ44が、1次側制御回路2に接続されるように切り替えられることにより、1次側制御回路2としての機能と、2次側制御回路3としての機能とが入れ替えられる。
【0028】
また、振動型角速度センサ100には、1次側制御回路2からの出力(ループフィルタ23からの出力)が入力される加減算量調整回路4aおよび4bが設けられている。加減算量調整回路4aおよび4bは、温度に依存する1次側制御回路2のループフィルタ23の出力の大きさを調整して、調整した出力(仮の第1オフセット値)を、2次側制御回路3の加算回路33に入力するように構成されている。たとえば、加減算量調整回路4aおよび4bにおいて、ポテンショメータ(ボリューム抵抗)などを用いて分圧することにより、仮の第1オフセット値の加算量の調整が行われる。
【0029】
また、振動型角速度センサ100には、温度に依存しない一定の信号S1が入力される加減算量調整回路5aが設けられている。加減算量調整回路5aは、一定の信号S1の大きさを調整して、調整した一定の信号S1(仮の第2オフセット値)を、2次側制御回路3の加算回路33に入力するように構成されている。たとえば、加減算量調整回路5aにおいて、ポテンショメータ(ボリューム抵抗)などを用いて分圧することにより、一定の信号S1の加算量の調整が行われる。
【0030】
また、振動型角速度センサ100には、温度に依存しない一定の信号S2が入力される加減算量調整回路5bが設けられている。加減算量調整回路5bは、一定の信号S2の大きさを調整して、調整した一定の信号S2(仮の第2オフセット値)を、2次側制御回路3の加算回路33に入力するように構成されている。たとえば、加減算量調整回路5bにおいて、ポテンショメータ(ボリューム抵抗)などを用いて分圧することにより、一定の信号S2の加算量の調整が行われる。
【0031】
ここで、第1実施形態では、センサ出力をアナログ的に補正する場合には、2次側制御回路3の閉じた制御ループ(2次側制御回路3のループフィルタ34の入力)に、2次側制御回路3からの振動子1の利得の温度変化の二乗に反比例するセンサ出力の補正を行うために、振動子1の利得の温度変化に反比例する1次側制御回路2の出力(ループフィルタ23の出力)に基づく第1オフセット値と、2次側制御回路3からの振動子1の利得の温度変化に反比例するセンサ出力の補正を行うために、温度に依存しない一定の信号に基づく第2オフセット値とを加算するとともに、第1オフセット値の加算量と第2オフセット値の加算量とを、それぞれ、加減算量調整回路4aおよび4bと、加減算量調整回路5aおよび5bにより調整することによって、センサ出力(2次側制御回路3からの出力)の補正が行われる。そして、2次側制御回路3を構成する回路ブロックから生じるエラー信号により2次側制御回路3の閉じた制御ループに生じるセンサ出力の誤差と、1次側制御回路2から2次側制御回路3へのクロストーク(信号交差)により2次側制御回路3の閉じた制御ループに生じるセンサ出力の誤差とを低減するように、第1オフセット値および第2オフセット値を決定して加算することにより、センサ出力の補正が行われる。
【0032】
そして、第1実施形態では、入れ替え後のオフセット値(第1オフセット値および第2オフセット値)と入れ替え前のオフセット値とは、所定の基準値に対して対称な値である。言い換えると、入れ替え前において閉じた制御ループに加算されるオフセット値と所定の基準値との差の絶対値と、入れ替え後において閉じた制御ループに加算されるオフセット値と所定の基準値との差の絶対値とは、略等しくなるように構成されている。
【0033】
具体的には、第1実施形態では、入れ替え前の仮のオフセット値をaとし、入れ替え後の仮のオフセット値を-aとし、入れ替えの前のセンサ出力と、入れ替えの後のセンサ出力との中央値に対する仮のオフセット値をbとした場合、入れ替え前のオフセット値は、a+bであり、入れ替え後のオフセット値は、-a+bである。なお、仮のオフセット値をaは、後述する仮の第1オフセット値a1、および、後述する仮の第2オフセット値a2を意味する。また、仮のオフセット値bは、後述する仮の第1オフセット値b1、および、後述する仮の第2オフセット値b2を意味する。なお、中央値に対する仮のオフセット値bは、特許請求の範囲の「所定の基準値」の一例である。
【0034】
詳細には、
図1に示すように、1次側制御回路2の出力側には、加減算量調整回路4aと加減算量調整回路4bとが設けられている。加減算量調整回路4aの出力側には、反転回路51と、スイッチ52とが設けられている。スイッチ52は、加減算量調整回路4aに接続される状態と、反転回路51に接続される状態とを切り替え可能に構成されている。そして、
図1に示すように、スイッチ52が加減算量調整回路4aに接続されている状態では、加算回路33には、加減算量調整回路4aからの出力(a1)と、加減算量調整回路4bからの出力(b1)とが入力される。すなわち、2次側制御回路3に、第1オフセット値としてa1+b1が加算される。また、スイッチ52が反転回路51に接続されている状態では、加算回路33には、反転回路51からの出力(-a1)と、加減算量調整回路4bからの出力(b1)とが入力される。すなわち、2次側制御回路3に、第1オフセット値として-a1+b1が加算される。なお、a1およびb1の求め方についは、後述する。
【0035】
また、加減算量調整回路5bの出力側には、NOT回路45と、スイッチ46とが設けられている。スイッチ46は、加減算量調整回路5bに接続される状態と、NOT回路45に接続される状態とを切り替え可能に構成されている。そして、
図1に示すように、スイッチ46が加減算量調整回路5bに接続されている状態では、加算回路33には、加減算量調整回路5bからの出力(a2)と、加減算量調整回路5aからの出力(b2)とが入力される。すなわち、2次側制御回路3に、第2オフセット値としてa2+b2が加算される。また、スイッチ46がNOT回路45に接続されている状態では、加算回路33には、NOT回路45からの出力(-a2)と、加減算量調整回路5aからの出力(b2)とが入力される。すなわち、2次側制御回路3に、第2オフセット値として-a2+b2が加算される。なお、a2およびb2の求め方についは、後述する。
【0036】
(機能の入れ替えなしの構成)
次に、
図1を参照して、振動型角速度センサ100のセンサ出力の補正について詳細に説明する。以下では、1次側制御回路2としての機能と、2次側制御回路3としての機能を入れ替えない場合(すなわち、上記特許文献2の構成)について説明する。
【0037】
まず、補正の対象となる振動型角速度センサ100の出力の誤差について説明する。振動型角速度センサ100の出力の誤差としては、2次側制御回路3を構成する回路ブロックから生じるエラー信号によって生じる振動型角速度センサ100のセンサ出力の誤差と、1次側制御回路2からの影響(クロストーク)に起因して発生する振動型角速度センサ100のセンサ出力の誤差とが存在する。2次側制御回路3を構成する回路ブロックから生じるエラー信号の成分(エラー成分)は、温度依存性を有しない一定値であるとする。なお、一般的に、フィードバック回路(帰還回路)では、各回路からの出力信号は、各回路に入力される入力信号をフィードバックゲインで除した値(出力信号=入力信号×1/(フィードバックゲイン))により表される。
【0038】
上記特許文献2(特許第6463335号)に記載されるように、2次側制御回路3を構成する回路ブロックから生じるエラー信号により2次側制御回路3の閉じた制御ループに生じるセンサ出力の誤差と1次側制御回路2から2次側制御回路3へのクロストークにより2次側制御回路3の閉じた制御ループに生じるセンサ出力の誤差の合計V
Out_Total_Errorは、下記の数式3により表される。なお、A、BおよびCは、温度に依存しない一定値(係数)である。
【数3】
【0039】
次に、上記の数式3で表される振動型角速度センサ100のセンサ出力の誤差VOut_Total_Errorに対して、センサ出力をアナログ的に補正する場合について、具体的に説明する。
【0040】
まず、2次側制御回路3のループフィルタ34の入力(経路2)に、温度に依存しない一定の信号に基づくV
In_Const_Corr(第2オフセット値)が加算される。この場合、振動型角速度センサ100のセンサ出力V
Out_Const_Corrは、下記の数式4により表される。
【数4】
【0041】
ここで、温度に依存しない一定の信号に基づく第2オフセット値をループフィルタ34の入力に加算した場合、上記数式4に示すように、センサ出力VOut_Const_Corrは、温度に依存する利得GR(T)に反比例した値となる。なお、上記数式4中のpは、一定値である。そして、上記数式4中のpと、上記数式3中の第2項であるB/GR(T)のBとの大きさが等しく(p=-B)なるように、VIn_Const_Corr(第2オフセット値)を加減算量調整回路5aにより調整することにより、上記数式3の第2項であるB/GR(T)がキャンセルされる。すなわち、温度に依存しない一定の信号に基づく第2オフセット値を調整してループフィルタ34の入力に加算することによって、上記数式3の温度に依存する利得GR(T)の二乗に反比例した項をキャンセルすることが可能となる。
【0042】
また、温度に依存する1次側制御回路2のループフィルタ23の出力V
AGCは、下記の式5により表される。なお、ループフィルタ23の出力V
AGCは、閉じた制御ループを考慮したループフィルタ23の出力であり、温度に依存する値となる。
【数5】
【0043】
ここで、第1実施形態によるアナログ的な補正では、上記した温度に依存しない一定の信号に基づくV
In_Const_Corr(第2オフセット値)に加えて、出力V
AGCにある比率qを乗じた値(第1オフセット値)を、2次側制御回路3のループフィルタ34の入力(経路2)に加算する。この第1オフセット値を加えた場合の振動型角速度センサ100のセンサ出力V
Out_AGC_Corrは、下記の数式6により表される。
【数6】
【0044】
ここで、温度に依存する1次側制御回路2の出力に基づく第1オフセット値をループフィルタ34の入力に加算した場合、上記数式6に示すように、センサ出力VOut_AGC_Corrは、温度に依存する利得GR(T)の二乗に反比例した値となる。なお、上記数式6中のrは、一定値である。そして、上記数式6中のrと、上記数式3中のGR(T)の二乗を含む第1項のA/GR
2(T)のAとの大きさが等しく(r=-A)なるように、qを加減算量調整回路4bにより調整することにより、上記数式3の第1項であるA/GR
2(T)がキャンセルされる。すなわち、振動型角速度センサ100のセンサ出力は、センサ出力の補正を行わない場合には、本来のセンサ出力に、上記数式3で表される誤差が加えられた値になる一方、第1実施形態では、第1オフセット値および第2オフセット値が加算されることにより、振動型角速度センサ100のセンサ出力は、本来のセンサ出力に一定値Cが加算された値となる。
【0045】
なお、数式3のCは、温度に依存しない一定値であるため、補正上問題にならない。また、上記数式3における係数A、BおよびCは、各温度における補正前(補償前)の振動型角速度センサ100のセンサ出力を計測(実測)するとともに、計測されたデータを最小二乗法による多項式近似することによって算出される。なお、係数A、BおよびCの算出は、振動型角速度センサ100ごと(製品ごと)に算出される。
【0046】
このように、数式3の第1項であるA/GR
2(T)(温度に依存する利得GR(T)の二乗に反比例した項)を0にするように、温度に依存する1次側制御回路2の出力に基づく第1オフセット値の加算量を調整するとともに、数式3の第2項であるB/GR(T)(温度に依存する利得GR(T)に反比例した項)を0にするように、温度に依存しない一定の信号に基づく第2オフセット値の加算量を調整することによって、アナログ的にセンサ出力の補正が行われる。
【0047】
すなわち、
図2に示すように、温度に依存しない一定の信号に基づく第2オフセット値の加算により、振動型角速度センサ100のセンサ出力の誤差の1/G
R(T)に比例(温度に依存する利得G
R(T)に反比例した項)する成分(数式3の第2項)がキャンセルされることにより、温度に依存する特性を有していたセンサ出力(
図2の点線)が、略一定(
図2の実線)になる。しかしながら、
図3に示すように、略一定にされたセンサ出力でも、微視的には、温度に依存する特性(
図3の点線)を有する。そこで、温度に依存する1次側制御回路2の出力に基づく第1オフセット値の加算により、振動型角速度センサ100のセンサ出力の1/G
R
2(T)に比例(温度に依存する利得G
R(T)の二乗に反比例した項)する成分(数式3の第1項)もキャンセルすることにより、センサ出力が温度に依存しない略一定(
図3の実線)になる。その結果、補正の精度を高めることが可能になる。また、振動型角速度センサ100のセンサ出力をアナログ的に補正する場合、デジタル的(信号が離散値)に補正する場合と異なり、信号が連続値であるので、振動型角速度センサ100のセンサ出力がステップ状に変化するのを抑制する(センサ出力を連続値にする)ことが可能になる。
【0048】
(機能の入れ替えありの構成)
次に、1次側制御回路2としての機能と2次側制御回路3としての機能とを入れ替え可能に構成されている第1実施形態のオフセット値について説明する。
【0049】
図4に示すように、一般的に、振動型角速度センサ100では、温度の変化(横軸)に対して、振動型角速度センサ100が検出する角速度のバイアス成分(縦軸)は、変化する。また、1次側制御回路2としての機能と2次側制御回路3としての機能を入れ替える前のバイアス成分の変化(
図4のP)と、入れ替え後のバイアス成分の変化(
図4のS)とは、異なる。そして、
図5に示すように、入れ替えの前において、上記の数式3の第1項および第2項をキャンセルするように、第1オフセット値および第2オフセット値を加算することにより、センサ出力の温度変化(
図5のP)が小さくなる。また、入れ替えの後において、上記の数式3の第1項および第2項をキャンセルするように、第1オフセット値および第2オフセット値を加算することにより、センサ出力の温度変化(
図5のS)が小さくなる。なお、
図5のPのSとは、横軸に沿った線分(
図5の一点鎖線)に対して対称にならないので、
図5のPとSとの差分の温度変動成分は、ゼロにはならない。このように、入れ替えの前後で、個別に、上記の数式3の第1項および第2項をキャンセルするように第1オフセット値および第2オフセット値を決定した場合、
図5のPとSとの差分の温度変動成分は、ゼロにならない。
【0050】
そこで、
図6(a)に示すように、入れ替えの前後で、差分の温度変動成分が最も小さくなるように、かつ、入れ替え前後でオフセット値の極性が反転するように、入れ替え前後の仮の第1オフセット値a1および仮の第2オフセット値a2が決定される。なお、入れ替え前に仮の第1オフセット値a1および仮の第2オフセット値a2を用いた場合、上記の数式3の第1項および第2項がキャンセルされないので、入れ替え前の状態でバイアス成分は温度に対して勾配を有する。同様に、入れ替え後に仮の第1オフセット値-a1および仮の第2オフセット値-a2を用いた場合、上記の数式3の第1項および第2項がキャンセルされないので、入れ替え後の状態でバイアス成分は温度に対して勾配を有する。
【0051】
そこで、
図6(b)に示すように、1次側制御回路2としての機能と2次側制御回路3としての機能を入れ替える前のバイアス成分の変化(
図4のP)と入れ替え後のバイアス成分の変化(
図4のS)との中央値(
図4のM)に対して、上記の数式3の第1項および第2項をキャンセルするように、仮の第1オフセット値b1および仮の第2オフセット値b2を決定する。そして、入れ替え前の第1オフセット値をa1+b1、第2オフセット値をa2+b2とし、入れ替え後の第1オフセット値を-a1+b1、第2オフセット値を-a2+b2とする。これにより、入れ替え前後で、中央値に対する仮の第1オフセット値b1に対して、第1オフセット値が対称になるとともに、中央値に対する仮の第2オフセット値b2に対して、第2オフセット値が対称になる。その結果、
図7に示すように、入れ替える前のバイアス成分の変化(
図7のP)と入れ替え後のバイアス成分の変化(
図7のS)は、共に、温度勾配が小さくなる。その結果、
図7のPとSとの差(バイアス成分の残存)を小さくしながら、バイアス成分の温度勾配を小さくすることが可能になる。
【0052】
(第1実施形態の効果)
第1実施形態では、以下のような効果を得ることができる。なお、以下では、Q値(振動の状態を示す無次元数)は、概ね温度に反比例した特性を有するものとして、説明している。
【0053】
第1実施形態では、上記のように、1次側制御回路2と2次側制御回路3とは、1次側制御回路2としての機能と、2次側制御回路3としての機能を入れ替え可能に構成されており、入れ替え後のオフセット値と入れ替え前のオフセット値とは、所定の基準値に対して対称な値である。これにより、1次側制御回路2としての機能と2次側制御回路3としての機能が入れ替えられた前後において、オフセット値が所定の基準値に対して対称になるので、入れ替えの前後における振動型角速度センサ100の制御の対称性がくずれるのを抑制することができる。その結果、キャンセルされずに残存するバイアスの温度変動成分が大きくなるのを抑制することができる。
【0054】
また、第1実施形態では、上記のように、1次側制御回路2および2次側制御回路3は、それぞれ、閉じた制御ループ内に、ループフィルタ23およびループフィルタ34を含み、ループフィルタ34の入力にオフセット値を加算することによって、センサ出力の補正を行うように構成されている。ここで、閉じた制御ループにおける出力は、ループフィルタの出力に対応する。そして、ループフィルタの出力は、閉じた制御ループの帰還動作によって温度に依存する振動子1の利得(ゲイン)に反比例する。第1本実施形態では、この点に着目して、ループフィルタ34の入力に、オフセット値を加算することにより、振動子1の利得の一乗および/または二乗に反比例するクロストークに起因する誤差を低減することができる。
【0055】
また、第1実施形態では、上記のように、入れ替え前のオフセット値をaとした場合、入れ替え後のオフセット値は、入れ替え前のオフセット値の極性が反転された-aである。これにより、1次側制御回路2としての機能と2次側制御回路3としての機能が入れ替えられた前後において、オフセット値がゼロに対して対称になるので、入れ替えの前後における振動型角速度センサ100の制御の対称性がくずれるのを抑制することができる。
【0056】
また、第1実施形態では、上記のように、入れ替え前の仮のオフセット値をaとし、入れ替え後の仮のオフセット値を-aとし、入れ替えの前のセンサ出力と、入れ替えの後のセンサ出力との中央値に対する仮のオフセット値をbとした場合、入れ替え前のオフセット値は、a+bであり、入れ替え後のオフセット値は、-a+bである。これにより、1次側制御回路2としての機能と2次側制御回路3としての機能が入れ替えられた前後において、オフセット値がbに対して対称になるので、入れ替えの前後における振動型角速度センサ100の制御の対称性がくずれるのを抑制することができる。また、入れ替えの前後におけるオフセット値が、入れ替えの前後のセンサ出力の中央値に対するオフセット値bに対して対称になるので、バイアス成分の残渣の環境の温度に対する勾配を低減しながら、入れ替えの前後における振動型角速度センサ100の制御の対称性がくずれるのを抑制することができる。
【0057】
また、第1実施形態では、上記のように、センサ出力をアナログ的に補正する場合には、2次側制御回路3の閉じた制御ループに、2次側制御回路3からの振動子1の利得の温度変化の二乗に反比例するセンサ出力の補正を行うために、振動子1の利得の温度変化に反比例する1次側制御回路2の出力に基づく第1オフセット値と、2次側制御回路3からの振動子1の利得の温度変化に反比例するセンサ出力の補正を行うために、温度に依存しない一定の信号に基づく第2オフセット値とを加算するとともに、第1オフセット値および第2オフセット値の加算量を調整することによって、センサ出力の補正を行うように構成されている。ここで、2次側制御回路3の閉じた制御ループに、温度に依存しない一定の信号に基づく第2オフセット値を加算した場合、2次側制御回路3の出力は、温度に依存する振動子1の利得に反比例した特性を有する。また、1次側制御回路2の出力も同様に、閉じた制御ループの帰還動作によって振動子1の利得に反比例した特性を有するため、2次側制御回路3の閉じた制御ループに、振動子1の利得に反比例した特性を有する1次側制御回路2の出力に基づく第1オフセット値を加算することによって、2次側制御回路3の出力は、振動子1の利得の二乗に反比例した特性を有するものとなる。すなわち、振動子1の利得の二乗に対応する第1オフセット値と振動子1の利得の一乗に対応する第2オフセット値とを加算するとともに、第1オフセット値および第2オフセット値の加算量を調整することにより、センサ出力の補正を行うことによって、振動子1の利得の一乗に反比例した補正と、振動子1の利得の二乗に反比例した補正とを行うことができる。
【0058】
また、第1実施形態では、上記のように、振動子1の温度に依存する利得をGR(T)とし、A、BおよびCを温度に依存しない一定値とした場合に、2次側制御回路3を構成する回路ブロックから生じるエラー信号により2次側制御回路3の閉じた制御ループに生じるセンサ出力の誤差と1次側制御回路2から2次側制御回路3へのクロストークにより2次側制御回路3の閉じた制御ループに生じるセンサ出力の誤差の合計VOut_Total_Errorは、上記の数式3で表され、上記の数式3の第1項であるA/GR
2(T)を低減するように、振動子1の利得の温度変化に反比例する温度に依存する1次側制御回路2の出力に基づく第1オフセット値の加算量を調整するとともに、上記の数式3の第2項であるB/GR(T)を低減するように、温度に依存しない一定の信号に基づく第2オフセット値の加算量を調整することによって、アナログ的にセンサ出力の補正を行うように構成されている。これにより、センサ出力の誤差の1次(振動子1の利得の一乗)の成分と2次(振動子1の利得の二乗)の成分との両方を、低減することができるので、補正の精度を確実に高めることができる。なお、一定値Cが残存するものの、Cは温度に依存しない一定値であるため、温度変化によるセンサ出力の誤差に影響を及ぼすことはないことから、補正上は問題とならない。
【0059】
また、第1実施形態では、上記のように、振動子1は、リング型の振動子1を含む。ここで、リング型の振動子1は、対称的な形状を有するので、1次側制御回路2による振動モードと、2次側制御回路3による振動モードとが類似する。このため、本発明をリング型の振動子1を含む振動型角速度センサ100に適用すれば、振動モードの差異の影響を考慮する必要がないので、容易に、センサ出力の補正を行うことができる。
【0060】
(第2実施形態)
次に、
図8を参照して、第2実施形態による振動型角速度センサ101の構成について説明する。第2実施形態では、1次側制御回路2のループフィルタ23の出力をデジタル的に処理することにより、補正を行う例について説明する。
【0061】
図8に示すように、振動型角速度センサ101は、振動子1と、1次側制御回路2と、2次側制御回路3と、AD変換回路6と、補正演算処理部7と、DA変換回路8とを備えている。なお、振動子1、1次側制御回路2および2次側制御回路3の構成は、上記第1実施形態と同様である。
【0062】
また、上記の第1実施形態と同様に、1次側制御回路2と2次側制御回路3とは、1次側制御回路2としての機能と、2次側制御回路3としての機能を入れ替え可能に構成されている。具体的には、1次側制御回路2において、振動子1に対する信号の入力側にスイッチ41と、振動子1に対する信号の出力側(増幅回路21の出力側)に、スイッチ42とが設けられている。また、2次側制御回路3において、振動子1に対する信号の入力側にスイッチ43と、振動子1に対する信号の出力側(増幅回路31の出力側)に、スイッチ44とが設けられている。
【0063】
また、AD変換回路6は、1次側制御回路2のループフィルタ23から出力される温度に依存するアナログ信号が入力されるとともに、アナログ信号をデジタル信号に変換(量子化)して、補正演算処理部7に出力するように構成されている。そして、第2実施形態では、補正演算処理部7は、量子化した1次側制御回路2の出力(AD変換回路6からの出力)に対して、温度変化によるセンサ出力の誤差を低減するオフセット値を、DA変換回路8に出力するように構成されている。また、DA変換回路8は、オフセット値をアナログ信号に変換して、2次側制御回路3のループフィルタ34の入力に加算するように構成されている。これにより、振動型角速度センサ101は、センサ出力の補正を行うように構成されている。
【0064】
次に、
図8および
図9を参照して、センサ出力をデジタル的に補正する場合について具体的に説明する。
【0065】
まず、2次側制御回路3の加算回路33に入力されるオフセット値(補正値)をスイープ(様々な値に変化)させながら、振動型角速度センサ101のセンサ出力を計測することにより、上記第1実施形態と同様に、入れ替えの前後で、バイアス(入れ替えの前後の差分)の温度変動成分の残渣が最も小さくなるように、かつ、入れ替え前後でオフセット値の極性が反転するように、入れ替え前後における、各温度(T1、T2・・・、
図9参照)におけるオフセット値(y1、y2・・・、
図9参照)を探索する。また、入れ替えの前後のバイアス成分の中央値に対して、振動型角速度センサ101のセンサ出力の誤差(上記数式3により規定された誤差に対応する誤差)が0または略0になる、各温度(T1、T2・・・、
図9参照)におけるオフセット値(z1、z2・・・、
図9参照)を探索する。
【0066】
次に、各温度における量子化された1次側制御回路2(ループフィルタ23)からの出力をxとし、バイアス(入れ替えの前後の差分)の温度変動成分の残渣が最も小さくなるオフセット値をyとして、
図9に示されるデータを最小二乗法による多項式近似して、下記の数式7(l、m、nは、一定値の係数)を求める(算出する)。第2実施形態では、下記の数式7に示すように、2次の多項式を用いている。
【数7】
【0067】
同様に、各温度における量子化された1次側制御回路2(ループフィルタ23)からの出力をxとし、入れ替えの前後のバイアス成分の中央値に対するオフセット値として、下記の数式8が求められる。
【数8】
【0068】
その結果、各温度におけるオフセット値と、各温度における量子化された1次側制御回路2の出力との関係式(上記の数式7および数式8)が予め(実際の振動型角速度センサ101の使用の前に)求められる。なお、関係式の算出は、振動型角速度センサ101ごと(製品ごと)に行われる。そして、実際に振動型角速度センサ101が使用される場合において、振動型角速度センサ101では、量子化された1次側制御回路2の出力(x)に対して、上記の数式7および数式8を用いて補正演算処理部7においてソフトウェアにより演算し、得られたオフセット値(入れ替え前は、y+z、入れ替え後は、-y+z)を2次側制御回路3に加算することにより、補正が行われる。すなわち、センサ出力をデジタル的に補正する場合には、関係式(数式7および数式8)を用いて常時演算が行われ、量子化された1次側制御回路2の出力に対応して補正が常時行われる。
【0069】
第2実施形態では、以下のような効果を得ることができる。
【0070】
第2実施形態では、上記のように、センサ出力をデジタル的に補正する場合には、振動子1の利得の温度変化に反比例する温度に依存する1次側制御回路2の出力を量子化するとともに、量子化した1次側制御回路2の出力に対して、温度変化によるセンサ出力の誤差を低減するオフセット値を、2次側制御回路3に加算することによって、センサ出力の補正を行うように構成されている。これにより、温度変化によるセンサ出力の誤差を低減するオフセット値を、2次側制御回路3に加算するだけでセンサ出力の補正を行うことができるので、温度に依存する1次側制御回路2の出力に基づくオフセット値以外のオフセット値を加算する場合と異なり、振動型角速度センサ101の構成を簡略化することができる。
【0071】
なお、今回開示された実施形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施形態の説明ではなく特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれる。
【0072】
たとえば、上記第1および第2実施形態では、リング型の振動子が用いられる例を示したが、本発明はこれに限られない。たとえば、振動子が対称的な形状を有していればよく、円盤型、カップ型(ワイングラス型)、八角形型などの振動子を用いてもよい。
【0073】
また、上記第1および第2実施形態では、振動子、増幅回路、同期検波回路、ループフィルタ、変調回路および駆動回路により閉じた制御ループが構成されている例を示したが、本発明はこれに限られない。たとえば、増幅回路、同期検波回路、ループフィルタ、変調回路および駆動回路からなる構成以外の構成により制御ループが構成されていてもよい。
【0074】
また、上記第1および第2実施形態では、ループフィルタとして積分フィルタが用いられる例を示したが、たとえば、積分フィルタ以外のループフィルタを用いてもよい。
【0075】
また、上記第1実施形態では、入れ替え前の第1オフセット値がa1+b1であるとともに第2オフセット値がa2+b2であり、入れ替え後の第1オフセット値が-a1+b1であるとともに第2オフセット値が-a2+b2である例を示したが、本発明はこれに限られない。たとえば、入れ替え前の第1オフセット値をa1とするとともに第2オフセット値をa2とし、入れ替え後の第1オフセット値を入れ替え前の第1オフセット値a1の極性が反転された-a1とするとともに、入れ替え後の第2オフセット値を入れ替え前の第2オフセット値a2の極性が反転された-a2としてもよい。これにより、1次側制御回路2としての機能と2次側制御回路3としての機能が入れ替えられた前後において、バイアスの温度変動成分の残渣がある程度残るものの、振動子1の利得の二乗に反比例した補正を行うための第1オフセット値、および、振動子1の利得の一乗に反比例した補正を行うための第2オフセット値がゼロ(所定の基準値)に対して対称になるので、入れ替えの前後における振動型角速度センサの制御の対称性がくずれるのを抑制することができる。
【0076】
また、上記第1実施形態では、入れ替え前の第1オフセット値がa1+b1であるとともに第2オフセット値がa2+b2であり、入れ替え後の第1オフセット値が-a1+b1であるとともに第2オフセット値が-a2+b2である例を示したが、本発明はこれに限られない。たとえば、中央値が、上記の数式3の第1項をキャンセルするように決定され(すなわち、第1オフセット値はb1で固定され)、入れ替え前の第2オフセット値がa2+b2であり、入れ替え後の第2オフセット値が-a2+b2であるように構成してもよい。すなわち、第2オフセット値のみが、入れ替えの前後で、所定の基準値に対して対称な値であってもよい。
【0077】
また、上記第1および第2実施形態では、入れ替えの前後で、バイアス成分の残渣が最も小さくなるように入れ替え前後の仮の第1オフセット値a1および仮の第2オフセット値a2が決定される例を示したが、本発明はこれに限られない。たとえば、入れ替えの前後で、バイアス成分の残渣が最も小さくなる値の近傍の値になるように入れ替え前後の第1オフセット値および第2オフセット値を決定してもよい。
【0078】
また、上記第1実施形態では、オフセット値a+b、および、オフセット値-a+bを出力するために、加減算量調整回路4aおよび4b、および、加減算量調整回路5aおよび5b(4つの個別の回路)が設けられている例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、オフセット値a+b、および、オフセット値-a+bに相当する信号を出力する回路が設けられていればよい。
【符号の説明】
【0079】
1 振動子
2 1次側制御回路
3 2次側制御回路
23 ループフィルタ(1次側ループフィルタ)
34 ループフィルタ(2次側ループフィルタ)
100、101 振動型角速度センサ