IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 住友精密工業株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-方位角姿勢角計測装置 図1
  • 特許-方位角姿勢角計測装置 図2
  • 特許-方位角姿勢角計測装置 図3
  • 特許-方位角姿勢角計測装置 図4
  • 特許-方位角姿勢角計測装置 図5
  • 特許-方位角姿勢角計測装置 図6
  • 特許-方位角姿勢角計測装置 図7
  • 特許-方位角姿勢角計測装置 図8
  • 特許-方位角姿勢角計測装置 図9
  • 特許-方位角姿勢角計測装置 図10
  • 特許-方位角姿勢角計測装置 図11
  • 特許-方位角姿勢角計測装置 図12
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-15
(45)【発行日】2023-12-25
(54)【発明の名称】方位角姿勢角計測装置
(51)【国際特許分類】
   G01C 19/00 20130101AFI20231218BHJP
   G01C 19/5677 20120101ALI20231218BHJP
   G01C 21/06 20060101ALI20231218BHJP
【FI】
G01C19/00 Z
G01C19/5677
G01C21/06
【請求項の数】 18
(21)【出願番号】P 2020052443
(22)【出願日】2020-03-24
(65)【公開番号】P2021152467
(43)【公開日】2021-09-30
【審査請求日】2023-03-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000183369
【氏名又は名称】住友精密工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104433
【弁理士】
【氏名又は名称】宮園 博一
(74)【代理人】
【識別番号】100202728
【弁理士】
【氏名又は名称】三森 智裕
(72)【発明者】
【氏名】森口 孝文
【審査官】續山 浩二
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第108253952(CN,A)
【文献】特表2007-520716(JP,A)
【文献】国際公開第2015/129464(WO,A1)
【文献】特開平06-258083(JP,A)
【文献】国際公開第01/79862(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01C 19/00
G01C 19/5677
G01C 21/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1角速度センサと、
制御部と、を備え、
前記第1角速度センサは、
振動子と、
閉じた制御ループを有し、前記閉じた制御ループの出力が前記振動子に1次振動を誘起させる1次側制御回路と、
前記振動子に印加される角速度に起因して前記振動子に発生する2次振動を検出する閉じた制御ループを有する2次側制御回路と、を含み、
前記1次側制御回路と前記2次側制御回路とは、前記1次側制御回路としての機能と、前記2次側制御回路としての機能とを入れ替え可能に構成されており、
前記制御部は、前記1次側制御回路と前記2次側制御回路との機能を入れ替えて、角速度を検出する第1状態と、前記1次側制御回路と前記2次側制御回路との機能を入れ替えずに、角速度を検出する第2状態とのいずれかに、前記第1角速度センサの状態を切り替える制御を行うように構成されている、方位角姿勢角計測装置。
【請求項2】
前記第1角速度センサは、複数のスイッチ素子をさらに含み、
前記制御部は、前記第1状態では、前記複数のスイッチ素子の切替動作により前記1次側制御回路と前記2次側制御回路との機能を入れ替えるとともに、前記第2状態では、前記複数のスイッチ素子の切替動作を行わないことにより前記1次側制御回路と前記2次側制御回路との機能を入れ替えない制御を行うように構成されている、請求項1に記載の方位角姿勢角計測装置。
【請求項3】
前記制御部は、静止状態と運動状態とにおいて、前記第1角速度センサの検出範囲および周波数帯域の少なくとも一方を切り替える制御を行うように構成されている、請求項1または2に記載の方位角姿勢角計測装置。
【請求項4】
前記2次側制御回路は、前記閉じた制御ループを構成するとともに、第1増幅回路を含む駆動回路と、前記閉じた制御ループからの出力を増幅する第2増幅回路とを有し、
前記制御部は、静止状態と運動状態とにおいて、前記第1増幅回路と前記第2増幅回路とのうちの前記第1増幅回路の増幅率を切り替えることにより、前記第1角速度センサの検出範囲および周波数帯域を切り替える制御を行うように構成されている、請求項3に記載の方位角姿勢角計測装置。
【請求項5】
前記制御部は、前記第1状態と前記第2状態とにおいて、温度変化によるセンサ出力の変動を補正するオフセット値を切り替える制御を行うように構成されている、請求項1~4のいずれか1項に記載の方位角姿勢角計測装置。
【請求項6】
前記振動子と、前記1次側制御回路と、前記2次側制御回路とを含む第2角速度センサをさらに備え、
前記制御部は、前記第2状態において、所定期間において前記第1角速度センサの前記1次側制御回路と前記2次側制御回路との機能を入れ替えずに角速度を検出するとともに、前記第2角速度センサの前記1次側制御回路と前記2次側制御回路との機能を入れ替えて角速度を検出し、前記第1角速度センサによる角速度の検出結果と、前記第2角速度センサによる角速度の検出結果と、に基づいて、前記第1角速度センサのバイアス成分を取得する制御を行うように構成されている、請求項1~5のいずれか1項に記載の方位角姿勢角計測装置。
【請求項7】
前記振動子と、前記1次側制御回路と、前記2次側制御回路とを含む第2角速度センサをさらに備え、
前記制御部は、前記第1状態において、所定期間において前記第1角速度センサの前記1次側制御回路と前記2次側制御回路との機能を入れ替えて角速度を検出するとともに、前記第2角速度センサの前記1次側制御回路と前記2次側制御回路との機能を入れ替えずに角速度を検出し、前記第1角速度センサによる角速度の検出結果と、前記第2角速度センサによる角速度の検出結果と、に基づいて、前記第2角速度センサのバイアス成分を取得する制御を行うように構成されている、請求項1~5のいずれか1項に記載の方位角姿勢角計測装置。
【請求項8】
前記振動子と、前記1次側制御回路と、前記2次側制御回路とを含む第3角速度センサと、
前記第1角速度センサおよび前記第3角速度センサに電力を供給する電源部と、をさらに備え、
前記制御部は、前記第1状態と前記第2状態との両方において、前記第1角速度センサおよび前記第3角速度センサのうちの一方により演算のための角速度を検出している場合に、前記第1角速度センサおよび前記第3角速度センサのうちの他方により、前記1次側制御回路と前記2次側制御回路との機能の入れ替えを行わないように構成されている、請求項1~7のいずれか1項に記載の方位角姿勢角計測装置。
【請求項9】
前記第1状態では、ジャイロコンパスとして機能するとともに、前記第2状態では、慣性航法装置として機能するように構成されている、請求項1~8のいずれか1項に記載の方位角姿勢角計測装置。
【請求項10】
第1角速度センサと、
制御部と、を備え、
前記第1角速度センサは、
振動子と、
閉じた制御ループを有し、前記閉じた制御ループの出力が前記振動子に1次振動を誘起させる1次側制御回路と、
前記振動子に印加される角速度に起因して前記振動子に発生する2次振動を検出する閉じた制御ループを有する2次側制御回路と、を含み、
前記第1角速度センサは、前記1次振動を誘起する機能と、前記2次振動を検出する機能とを入れ替え可能に構成されており、
前記制御部は、前記1次振動を誘起する機能と前記2次振動を検出する機能を入れ替えて、角速度を検出する第1状態と、前記1次振動を誘起する機能と前記2次振動を検出する機能を入れ替えずに、角速度を検出する第2状態とのいずれかに、前記第1角速度センサの状態を切り替える制御を行うように構成されている、方位角姿勢角計測装置。
【請求項11】
前記第1角速度センサは、複数のスイッチ素子をさらに含み、
前記制御部は、前記第1状態では、前記複数のスイッチ素子の切替動作により前記1次振動を誘起する機能と前記2次振動を検出する機能を入れ替えるとともに、前記第2状態では、前記複数のスイッチ素子の切替動作を行わないことにより前記1次振動を誘起する機能と前記2次振動を検出する機能を入れ替えない制御を行うように構成されている、請求項10に記載の方位角姿勢角計測装置。
【請求項12】
前記制御部は、静止状態と運動状態とにおいて、前記第1角速度センサの検出範囲および周波数帯域の少なくとも一方を切り替える制御を行うように構成されている、請求項10または11に記載の方位角姿勢角計測装置。
【請求項13】
前記2次側制御回路は、前記閉じた制御ループを構成するとともに、第1増幅回路を含む駆動回路と、前記閉じた制御ループからの出力を増幅する第2増幅回路とを有し、
前記制御部は、静止状態と運動状態とにおいて、前記第1増幅回路と前記第2増幅回路とのうちの前記第1増幅回路の増幅率を切り替えることにより、前記第1角速度センサの検出範囲および周波数帯域を切り替える制御を行うように構成されている、請求項12に記載の方位角姿勢角計測装置。
【請求項14】
前記制御部は、前記第1状態と前記第2状態とにおいて、温度変化によるセンサ出力の変動を補正するオフセット値を切り替える制御を行うように構成されている、請求項10~13のいずれか1項に記載の方位角姿勢角計測装置。
【請求項15】
前記振動子と、前記1次側制御回路と、前記2次側制御回路とを含む第2角速度センサをさらに備え、
前記制御部は、前記第2状態において、所定期間において前記第1角速度センサの前記1次振動を誘起する機能と前記2次振動を検出する機能を入れ替えずに角速度を検出するとともに、前記第2角速度センサの前記1次振動を誘起する機能と前記2次振動を検出する機能を入れ替えて角速度を検出し、前記第1角速度センサによる角速度の検出結果と、前記第2角速度センサによる角速度の検出結果と、に基づいて、前記第1角速度センサのバイアス成分を取得する制御を行うように構成されている、請求項10~14のいずれか1項に記載の方位角姿勢角計測装置。
【請求項16】
前記振動子と、前記1次側制御回路と、前記2次側制御回路とを含む第2角速度センサをさらに備え、
前記制御部は、前記第1状態において、所定期間において前記第1角速度センサの前記1次振動を誘起する機能と前記2次振動を検出する機能を入れ替えて角速度を検出するとともに、前記第2角速度センサの前記1次振動を誘起する機能と前記2次振動を検出する機能を入れ替えずに角速度を検出し、前記第1角速度センサによる角速度の検出結果と、前記第2角速度センサによる角速度の検出結果と、に基づいて、前記第2角速度センサのバイアス成分を取得する制御を行うように構成されている、請求項10~14のいずれか1項に記載の方位角姿勢角計測装置。
【請求項17】
前記振動子と、前記1次側制御回路と、前記2次側制御回路とを含む第3角速度センサと、
前記第1角速度センサおよび前記第3角速度センサに電力を供給する電源部と、をさらに備え、
前記制御部は、前記第1状態と前記第2状態との両方において、前記第1角速度センサおよび前記第3角速度センサのうちの一方により演算のための角速度を検出している場合に、前記第1角速度センサおよび前記第3角速度センサのうちの他方により、前記1次振動を誘起する機能と前記2次振動を検出する機能の入れ替えを行わないように構成されている、請求項10~16のいずれか1項に記載の方位角姿勢角計測装置。
【請求項18】
前記第1状態では、ジャイロコンパスとして機能するとともに、前記第2状態では、慣性航法装置として機能するように構成されている、請求項10~17のいずれか1項に記載の方位角姿勢角計測装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、方位角姿勢角計測装置に関し、特に、角速度センサを備える方位角姿勢角計測装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、角速度センサを備える電子機器が知られている(たとえば、特許文献1参照)。
【0003】
上記特許文献1には、角速度センサと、角速度センサを載置する基板とを備える電子機器が開示されている。この角速度センサは、リング状のエレメント部と、リング状のエレメント部の径方向外側に周状に配置された複数の電極を備えている。この複数の電極は、一次電極と二次電極とを含んでいる。この一次電極と二次電極とのうちの一方には、一次電極と二次電極とのうちの一方に交流電圧を印加することにより、リング状のエレメント部に一次振動を発生させる交流電源が接続されている。また、この一次電極と二次電極とのうちの他方には、一次電極と二次電極とのうちの他方に発生する電気信号の大きさを検出する検出手段が接続されている。この角速度センサでは、検出手段により検出された電気信号の大きさの変化に基づいて、角速度が演算される。
【0004】
また、この角速度センサは、交流電源が一次電極に接続され、検出手段が二次電極に接続された第1状態と、交流電源が二次電極に接続され、検出手段が一次電極に接続された第2状態とに、交流電源および検出手段の接続状態を切り替えるように構成されている。この角速度センサは、切り替え前後の角速度センサの出力を差分することにより、角速度センサのバイアス成分をキャンセルするように構成されている。なお、バイアス成分は、角速度が加わっていない状態でも角速度センサから出力されるゼロ点からの誤差であり、振動型角速度センサに含まれるジャイロ素子の非対称性などに起因して生じる。
【0005】
上記特許文献1に記載された角速度センサは、1次側と2次側との機能を入れ替えて角速度を検出するように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2009-115559号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献1に記載された角速度センサでは、1次側と2次側との機能を入れ替えて角速度を検出するため、たとえば1次側と2次側との機能を入れ替えるタイミングでは、角速度を検出することができない。この結果、角速度の検出が断続的になる。角速度の検出が断続的になったとしても、静止状態では角速度を正確に検出することができるが、角速度の検出が断続的になった場合、時間とともに角速度が変化しやすい運動状態では角速度を正確に(連続的に)検出することが困難である。このため、上記特許文献1に記載された角速度センサのように、1次側と2次側との機能を入れ替え可能な角速度センサを用いる場合に、静止状態での角速度および運動状態での角速度の両方を正確に検出することが望まれている。
【0008】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、この発明の1つの目的は、1次側制御回路と2次側制御回路との機能を入れ替え可能な角速度センサを用いる場合にも、静止状態での角速度および運動状態での角速度の両方を正確に検出することが可能な方位角姿勢角計測装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、この発明の第1の局面による方位角姿勢角計測装置は、第1角速度センサと、制御部と、を備え、第1角速度センサは、振動子と、閉じた制御ループを有し、閉じた制御ループの出力が振動子に1次振動を誘起させる1次側制御回路と、振動子に印加される角速度に起因して振動子に発生する2次振動を検出する閉じた制御ループを有する2次側制御回路と、を含み、1次側制御回路と2次側制御回路とは、1次側制御回路としての機能と、2次側制御回路としての機能とを入れ替え可能に構成されており、制御部は、1次側制御回路と2次側制御回路との機能を入れ替えて、角速度を検出する第1状態と、1次側制御回路と2次側制御回路との機能を入れ替えずに、角速度を検出する第2状態とのいずれかに、第1角速度センサの状態を切り替える制御を行うように構成されている。
【0010】
この発明の第1の局面による方位角姿勢角計測装置では、上記のように、制御部を、1次側制御回路と2次側制御回路との機能を入れ替えて、角速度を検出する第1状態と、1次側制御回路と2次側制御回路との機能を入れ替えずに、角速度を検出する第2状態とのいずれかに、第1角速度センサの状態を切り替える制御を行うように構成する。これにより、静止状態での角速度を検出する場合、制御部により第1角速度センサの状態を第1状態に切り替えることができる。その結果、第1状態では、1次側制御回路と2次側制御回路との機能を入れ替えて、静止状態での角速度を検出することができるので、第1角速度センサのバイアス成分をキャンセルしつつ、角速度を検出することができる。これにより、静止状態では、角速度を正確に検出することができる。また、運動状態での角速度を検出する場合、制御部により第1角速度センサの状態を第2状態に切り替えることができる。その結果、第2状態では、1次側制御回路と2次側制御回路との機能を入れ替えずに、運動状態での角速度を検出することができるので、たとえば1次側制御回路と2次側制御回路との機能を入れ替えるタイミングで、角速度を検出することができないという不都合が発生することを防止することができる。これにより、角速度の検出が断続的になることを防止することができるので、1次側制御回路と2次側制御回路との機能を入れ替え可能な第1角速度センサを用いる場合にも、運動状態での角速度を正確に(連続的に)検出することができる。これらの結果、1次側制御回路と2次側制御回路との機能を入れ替え可能な第1角速度センサを用いる場合にも、静止状態での角速度および運動状態での角速度の両方を正確に検出することが可能な方位角姿勢角計測装置を提供することができる。
【0011】
上記第1の局面による方位角姿勢角計測装置において、好ましくは、第1角速度センサは、複数のスイッチ素子をさらに含み、制御部は、第1状態では、複数のスイッチ素子の切替動作により1次側制御回路と2次側制御回路との機能を入れ替えるとともに、第2状態では、複数のスイッチ素子の切替動作を行わないことにより1次側制御回路と2次側制御回路との機能を入れ替えない制御を行うように構成されている。このように構成すれば、単に複数のスイッチ素子の切替動作を制御するだけで、第1状態と第2状態とに第1角速度センサの状態を切り替えることができるので、第1角速度センサの状態を制御部により簡単に制御することができる。
【0012】
上記第1の局面による方位角姿勢角計測装置において、好ましくは、制御部は、静止状態と運動状態とにおいて、第1角速度センサの検出範囲および周波数帯域の少なくとも一方を切り替える制御を行うように構成されている。ここで、静止状態での角速度を検出する場合と、運動状態での角速度を検出する場合とでは、求められる検出範囲および周波数帯域が異なる。具体的には、静止状態での角速度を検出する場合には、ノイズを小さくするために、小さい検出範囲および小さい周波数帯域が求められる。また、運動状態での角速度を検出する場合には、検出する角速度が大きく変化も速いため、大きい検出範囲および大きい周波数帯域が求められる。そこで、上記のように、静止状態と運動状態とにおいて、第1角速度センサの検出範囲および周波数帯域の少なくとも一方を切り替えれば、検出範囲および周波数帯域の少なくとも一方を、静止状態での角速度を検出する状態と、運動状態での角速度を検出する状態とに適した状態に切り替えることができるので、静止状態での角速度および運動状態での角速度の両方をより正確に検出することができる。
【0013】
この場合、好ましくは、2次側制御回路は、閉じた制御ループを構成するとともに、第1増幅回路を含む駆動回路と、閉じた制御ループからの出力を増幅する第2増幅回路とを有し、制御部は、静止状態と運動状態とにおいて、第1増幅回路と第2増幅回路とのうちの第1増幅回路の増幅率を切り替えることにより、第1角速度センサの検出範囲および周波数帯域を切り替える制御を行うように構成されている。ここで、第1角速度センサの出力のS/N比は、基本的には、閉じた制御ループにおいて生じる信号およびノイズと、第2増幅回路において生じる入力ノイズとに基づいて決定されている。この場合、第2増幅回路の増幅率を切り替えることにより、第1角速度センサの検出範囲および周波数帯域を切り替えると、閉じた制御ループにおいて生じる信号およびノイズと、第2増幅回路において生じる入力ノイズとの割合は変化しないので、第1角速度センサの出力のS/N比は変化しない。一方、上記のように、第1増幅回路と第2増幅回路とのうちの第1増幅回路の増幅率を切り替えることにより、第1角速度センサの検出範囲および周波数帯域を切り替えれば、第2増幅回路の増幅率を切り替える場合と異なり、閉じた制御ループにおいて生じる信号およびノイズを変化させることができるので、閉じた制御ループにおいて生じる信号およびノイズを増加させた場合、第2増幅回路において生じる入力ノイズを閉じた制御ループにおいて生じる信号およびノイズに対して相対的に小さくすることができる。これにより、第1角速度センサの出力のS/N比を改善させつつ、第1角速度センサの検出範囲および周波数帯域を切り替えることができる。
【0014】
上記第1の局面による方位角姿勢角計測装置において、好ましくは、制御部は、第1状態と第2状態とにおいて、温度変化によるセンサ出力の変動を補正するオフセット値を切り替える制御を行うように構成されている。ここで、1次側制御回路と2次側制御回路との機能を入れ替える場合と、1次側制御回路と2次側制御回路との機能を入れ替えない場合とでは、適切なオフセット値が異なる。そこで、上記のように、第1状態と第2状態とにおいて、温度変化によるセンサ出力の変動を補正するオフセット値を切り替えれば、温度変化によるセンサ出力の変動を補正するオフセット値を、1次側制御回路と2次側制御回路との機能を入れ替える第1状態と、1次側制御回路と2次側制御回路との機能を入れ替えない第2状態とに適した状態に切り替えることができるので、第1状態と第2状態とのいずれにおいても、温度変化によるセンサ出力の変動を精度よく補正することができる。その結果、静止状態での角速度および運動状態での角速度の両方をより正確に検出することができる。
【0015】
上記第1の局面による方位角姿勢角計測装置において、好ましくは、振動子と、1次側制御回路と、2次側制御回路とを含む第2角速度センサをさらに備え、制御部は、第2状態において、所定期間において第1角速度センサの1次側制御回路と2次側制御回路との機能を入れ替えずに角速度を検出するとともに、第2角速度センサの1次側制御回路と2次側制御回路との機能を入れ替えて角速度を検出し、第1角速度センサによる角速度の検出結果と、第2角速度センサによる角速度の検出結果と、に基づいて、第1角速度センサのバイアス成分を取得する制御を行うように構成されている。このように構成すれば、1次側制御回路と2次側制御回路との機能を入れ替えないために、機能の入れ替えによるバイアス成分のキャンセル効果が得られない第2状態の第1角速度センサにおいても、第2角速度センサを利用して、バイアス成分を取得してキャンセルすることができる。その結果、運動状態での角速度をより正確に検出することができる。
【0016】
上記第1の局面による方位角姿勢角計測装置において、好ましくは、振動子と、1次側制御回路と、2次側制御回路とを含む第2角速度センサをさらに備え、制御部は、第1状態において、所定期間において第1角速度センサの1次側制御回路と2次側制御回路との機能を入れ替えて角速度を検出するとともに、第2角速度センサの1次側制御回路と2次側制御回路との機能を入れ替えずに角速度を検出し、第1角速度センサによる角速度の検出結果と、第2角速度センサによる角速度の検出結果と、に基づいて、第2角速度センサのバイアス成分を取得する制御を行うように構成されている。このように構成すれば、1次側制御回路と2次側制御回路との機能を入れ替えないために、機能の入れ替えによるバイアス成分のキャンセル効果が得られない第2角速度センサにおいても、第1角速度センサを利用して、バイアス成分を取得してキャンセルすることができる。その結果、運動状態での角速度をより正確に検出することができる。
【0017】
上記第1の局面による方位角姿勢角計測装置において、好ましくは、振動子と、1次側制御回路と、2次側制御回路とを含む第3角速度センサと、第1角速度センサおよび第3角速度センサに電力を供給する電源部と、をさらに備え、制御部は、第1状態と第2状態との両方において、第1角速度センサおよび第3角速度センサのうちの一方により角速度を検出している場合に、第1角速度センサおよび第3角速度センサのうちの他方により、1次側制御回路と2次側制御回路との機能の入れ替えを行わないように構成されている。ここで、1次側制御回路と2次側制御回路との機能の入れ替えを行う際、角速度センサにおける消費電流が定常状態から大きく変動するため、共通の電源部に接続された角速度センサの出力が影響を受ける場合がある。そこで、上記のように、第1角速度センサおよび第3角速度センサのうちの一方により角速度を検出している場合に、第1角速度センサおよび第3角速度センサのうちの他方により、1次側制御回路と2次側制御回路との機能の入れ替えを行わないようにすれば、1次側制御回路と2次側制御回路との機能の入れ替えに起因して共通の電源部に接続された角速度センサの出力が影響を受けることを防止することができる。
【0018】
上記第1の局面による方位角姿勢角計測装置において、好ましくは、第1状態では、ジャイロコンパスとして機能するとともに、第2状態では、慣性航法装置として機能するように構成されている。このように構成すれば、本発明の方位角姿勢角計測装置を、ジャイロコンパスおよび慣性航法装置として容易に機能させることができるので、方位角姿勢角計測装置を、ジャイロコンパスおよび慣性航法装置の両方の用途に容易に用いることができる。
【0019】
この発明の第2の局面による方位角姿勢角計測装置は、第1角速度センサと、制御部と、を備え、第1角速度センサは、振動子と、閉じた制御ループを有し、閉じた制御ループの出力が振動子に1次振動を誘起させる1次側制御回路と、振動子に印加される角速度に起因して振動子に発生する2次振動を検出する閉じた制御ループを有する2次側制御回路と、を含み、第1角速度センサは、1次振動を誘起する機能と、2次振動を検出する機能とを入れ替え可能に構成されており、制御部は、1次振動を誘起する機能と2次振動を検出する機能を入れ替えて、角速度を検出する第1状態と、1次振動を誘起する機能と2次振動を検出する機能を入れ替えずに、角速度を検出する第2状態とのいずれかに、第1角速度センサの状態を切り替える制御を行うように構成されている。
上記第2の局面による方位角姿勢角計測装置において、好ましくは、第1角速度センサは、複数のスイッチ素子をさらに含み、制御部は、第1状態では、複数のスイッチ素子の切替動作により1次振動を誘起する機能と2次振動を検出する機能を入れ替えるとともに、第2状態では、複数のスイッチ素子の切替動作を行わないことにより1次振動を誘起する機能と2次振動を検出する機能を入れ替えない制御を行うように構成されている。
上記第2の局面による方位角姿勢角計測装置において、好ましくは、制御部は、静止状態と運動状態とにおいて、第1角速度センサの検出範囲および周波数帯域の少なくとも一方を切り替える制御を行うように構成されている。
この場合、好ましくは、2次側制御回路は、閉じた制御ループを構成するとともに、第1増幅回路を含む駆動回路と、閉じた制御ループからの出力を増幅する第2増幅回路とを有し、制御部は、静止状態と運動状態とにおいて、第1増幅回路と第2増幅回路とのうちの第1増幅回路の増幅率を切り替えることにより、第1角速度センサの検出範囲および周波数帯域を切り替える制御を行うように構成されている。
上記第2の局面による方位角姿勢角計測装置において、好ましくは、制御部は、第1状態と第2状態とにおいて、温度変化によるセンサ出力の変動を補正するオフセット値を切り替える制御を行うように構成されている。
上記第2の局面による方位角姿勢角計測装置において、好ましくは、振動子と、1次側制御回路と、2次側制御回路とを含む第2角速度センサをさらに備え、制御部は、第2状態において、所定期間において第1角速度センサの1次振動を誘起する機能と2次振動を検出する機能を入れ替えずに角速度を検出するとともに、第2角速度センサの1次振動を誘起する機能と2次振動を検出する機能を入れ替えて角速度を検出し、第1角速度センサによる角速度の検出結果と、第2角速度センサによる角速度の検出結果と、に基づいて、第1角速度センサのバイアス成分を取得する制御を行うように構成されている。
上記第2の局面による方位角姿勢角計測装置において、好ましくは、振動子と、1次側制御回路と、2次側制御回路とを含む第2角速度センサをさらに備え、制御部は、第1状態において、所定期間において第1角速度センサの1次振動を誘起する機能と2次振動を検出する機能を入れ替えて角速度を検出するとともに、第2角速度センサの1次振動を誘起する機能と2次振動を検出する機能を入れ替えずに角速度を検出し、第1角速度センサによる角速度の検出結果と、第2角速度センサによる角速度の検出結果と、に基づいて、第2角速度センサのバイアス成分を取得する制御を行うように構成されている。
上記第2の局面による方位角姿勢角計測装置において、好ましくは、振動子と、1次側制御回路と、2次側制御回路とを含む第3角速度センサと、第1角速度センサおよび第3角速度センサに電力を供給する電源部と、をさらに備え、制御部は、第1状態と第2状態との両方において、第1角速度センサおよび第3角速度センサのうちの一方により演算のための角速度を検出している場合に、第1角速度センサおよび第3角速度センサのうちの他方により、1次振動を誘起する機能と2次振動を検出する機能の入れ替えを行わないように構成されている。
上記第2の局面による方位角姿勢角計測装置において、好ましくは、第1状態では、ジャイロコンパスとして機能するとともに、第2状態では、慣性航法装置として機能するように構成されている。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、上記のように、1次側制御回路と2次側制御回路との機能を入れ替え可能な角速度センサを用いる場合にも、静止状態での角速度および運動状態での角速度の両方を正確に検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】一実施形態による方位角姿勢角計測装置の構成を示したブロック図である。
図2】一実施形態による方位角姿勢角計測装置の複数の角速度センサを示した斜視図である。
図3】一実施形態による角速度センサの回路構成を示したブロック図である。
図4】一実施形態による角速度センサの信号とノイズを説明するための図である。
図5】一実施形態による角速度センサのセンサ出力の補正(1/G(T)(温度の一乗)に比例する成分の補正)を説明するための図である。
図6】一実施形態による角速度センサのセンサ出力の補正(1/G (T)(温度の二乗)に比例する成分の補正)を説明するための図である。
図7】温度とバイアス成分の関係を示す図である。
図8】オフセット値によるセンサ出力の補正後の温度とバイアス成分の関係を示す図(1)である。
図9】(a)は、オフセット値によるセンサ出力の補正後の温度とバイアス成分の関係を示す図(2)である。(b)は、オフセット値によるセンサ出力の補正後の温度とバイアス成分の関係を示す図(3)である。
図10】オフセット値によるセンサ出力の補正後の温度とバイアス成分の関係を示す図(3)である。
図11】一実施形態による振動型角速度センサのバイアスの算出を説明するための図である。
図12】一実施形態による複数の角速度センサの1次側制御回路の機能と2次側制御回路の機能との入れ替えタイミングを説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0023】
図1図12を参照して、一実施形態による方位角姿勢角計測装置100の構成について説明する。
【0024】
方位角姿勢角計測装置100は、方位角および姿勢角を検出するように構成されている。具体的には、方位角姿勢角計測装置100は、互いに直交するX軸、Y軸およびZ軸周りの角速度をそれぞれ検出して、検出した角速度に基づいて、3次元的な方位角および姿勢角を検出するように構成されている。
【0025】
方位角姿勢角計測装置100は、図1に示すように、制御部101と、電源部102と、角速度センサ103aと、角速度センサ103bと、角速度センサ104aと、角速度センサ104bと、角速度センサ105aと、角速度センサ105bと、を備えている。角速度センサ103aおよび103bと、角速度センサ104aおよび104bと、角速度センサ105aおよび105bとは、互いに交差する軸線回りの角速度を検出するように構成されている。また、角速度センサ103aおよび103bは、互いに平行または同軸の軸線回りの角速度を検出するように構成されている。また、角速度センサ104aおよび104bは、互いに平行または同軸の軸線回りの角速度を検出するように構成されている。また、角速度センサ105aおよび105bは、互いに平行または同軸の軸線回りの角速度を検出するように構成されている。
【0026】
具体的には、図2に示すように、角速度センサ103aおよび103bは、X軸周りの角速度を検出するように構成されている。また、角速度センサ104aおよび104bは、Y軸周りの角速度を検出するように構成されている。また、角速度センサ105aおよび105bは、Z軸周りの角速度を検出するように構成されている。角速度センサ103aおよび103bは、互いに隣接して配置されている。また、角速度センサ104aおよび104bは、互いに隣接して配置されている。また、角速度センサ105aおよび105bは、互いに隣接して配置されている。なお、角速度センサ103aは、特許請求の範囲の「第1角速度センサ」の一例である。また、角速度センサ103bは、特許請求の範囲の「第2角速度センサ」の一例である。また、角速度センサ104aは、特許請求の範囲の「第3角速度センサ」の一例である。また、角速度センサ105aは、特許請求の範囲の「第3角速度センサ」の一例である。
【0027】
制御部101は、方位角姿勢角計測装置100の各部を制御するように構成されている。制御部101は、CPU(CENTRAL PROCESSING UNIT)と、メモリとを含んでいる。
【0028】
電源部102は、方位角姿勢角計測装置100の各部に電力を供給するように構成されている。具体的には、電源部102は、角速度センサ103a、103b、104a、104b、105aおよび105bに電力を供給するように構成されている。また、電源部102は、角速度センサ103a、103b、104a、104b、105aおよび105bに交流電力を供給するように構成されている。電源部102は、外部の電力源または方位角姿勢角計測装置100に設けられたバッテリから電力が供給されるように構成されている。たとえば、電源部102は、供給された電力を変換する電力変換回路である。電源部102は、スイッチング素子、コンデンサ、ダイオードなどを有している。
【0029】
図1に示すように、角速度センサ103a、103b、104a、104b、105aおよび105bの各々は、振動子11と、閉じた制御ループを有し、閉じた制御ループの出力が振動子11に1次振動を誘起させる1次側制御回路12と、振動子11に印加される角速度に起因して振動子11に発生する2次振動を検出する閉じた制御ループを有する2次側制御回路13と、を含んでいる。振動子11は、リング型の振動子を含んでいる。
【0030】
図3に示すように、角速度センサ103a(103b、104a、104b、105aおよび105b)の1次側制御回路12は、増幅回路21と、同期検波回路22と、ループフィルタ23と、変調回路24と、駆動回路25と、PLL(Phase Locked Loop)回路(位相同期回路)26と、基準信号生成回路27とを含んでいる。そして、振動子11、増幅回路21、同期検波回路22、ループフィルタ23、変調回路24および駆動回路25が、この順で接続されており、閉じた制御ループを構成している。ループフィルタ23は、たとえば積分フィルタを含んでいる。なお、図3では、角速度センサ103aの構成について示しているが、角速度センサ103b、104a、104b、105aおよび105bも同様の構成である。
【0031】
角速度センサ103a(103b、104a、104b、105aおよび105b)の2次側制御回路13は、増幅回路31と、同期検波回路32と、加算回路33と、ループフィルタ34と、変調回路35と、増幅回路36aを含む駆動回路36と、増幅回路37とを含んでいる。そして、振動子11、増幅回路31、同期検波回路32、加算回路33、ループフィルタ34、変調回路35および駆動回路36が、この順で接続されており、閉じた制御ループを構成している。加算回路33は、オペアンプを用いた一般的な加減算回路により構成されている。また、ループフィルタ34は、たとえば積分フィルタを含んでいる。また、ループフィルタ34の出力が、増幅回路37に入力される。そして、増幅回路37が、閉じた制御ループ(ループフィルタ34)からの出力を増幅する。そして、増幅回路37から出力された信号が、角速度センサ103a(103b、104a、104b、105aおよび105b)のセンサ出力として、出力される。また、増幅回路36aは、変調回路35からの出力を増幅する。なお、増幅回路36aは、特許請求の範囲の「第1増幅回路」の一例である。また、増幅回路37は、特許請求の範囲の「第2増幅回路」の一例である。
【0032】
ここで、本実施形態では、1次側制御回路12と2次側制御回路13とは、1次側制御回路12としての機能と、2次側制御回路13としての機能とを入れ替え可能に構成されている。具体的には、角速度センサ103a(103b、104a、104b、105aおよび105b)は、複数のスイッチ素子41~44を含んでいる。1次側制御回路12において、振動子11に対する信号の入力側にスイッチ素子41、および、振動子11に対する信号の出力側(増幅回路21の出力側)にスイッチ素子42が設けられている。また、2次側制御回路13において、振動子11に対する信号の入力側にスイッチ素子43、および、振動子11に対する信号の出力側(増幅回路31の出力側)にスイッチ素子44が設けられている。スイッチ素子41、スイッチ素子42、スイッチ素子43、および、スイッチ素子44は、各々、1次側制御回路12に接続される状態と、2次側制御回路13に接続される状態とを切り替え可能に構成されている。図3では、スイッチ素子41およびスイッチ素子42は、1次側制御回路12に接続された状態を示しており、スイッチ素子43およびスイッチ素子44は、2次側制御回路13に接続された状態を示している。また、スイッチ素子41およびスイッチ素子42が、2次側制御回路13に接続されるように切り替えられ、スイッチ素子43およびスイッチ素子44が、1次側制御回路12に接続されるように切り替えられることにより、1次側制御回路12としての機能と、2次側制御回路13としての機能とが入れ替えられる。複数のスイッチ素子41~44は、制御部101により制御されるように構成されている。
【0033】
制御部101は、1次側制御回路12としての機能と、2次側制御回路13としての機能との入れ替え前後のセンサ出力を差分することにより、バイアス成分をキャンセルするように構成されている。
【0034】
また、制御部101は、1次側制御回路12と2次側制御回路13との機能を入れ替えて、角速度を検出する第1状態と、1次側制御回路12と2次側制御回路13との機能を入れ替えずに、角速度を検出する第2状態とのいずれかに、角速度センサ103a(104aおよび105a)の状態を切り替える制御を行うように構成されている。具体的には、制御部101は、複数のスイッチ素子41~44の切替動作により1次側制御回路12と2次側制御回路13との機能を入れ替えるとともに、第2状態では、複数のスイッチ素子41~44の切替動作を行わないことにより1次側制御回路12と2次側制御回路13との機能を入れ替えない制御を行うように構成されている。これにより、方位角姿勢角計測装置100は、静止状態における第1状態では、ジャイロコンパスとして機能するとともに、運動状態(移動状態)における第2状態では、慣性航法装置として機能するように構成されている。方位角姿勢角計測装置100は、第1状態では、地球の自転角速度を検出して、南北の方向を検出する。また、方位角姿勢角計測装置100は、第2状態では、運動(移動)による自身の角速度を検出して、自身の位置(向き)を検出する。
【0035】
なお、角速度センサ103a(104aおよび105a)が第1状態および第2状態のいずれの状態である場合にも、角速度センサ103b(104bおよび105b)は、1次側制御回路12と2次側制御回路13との機能を入れ替えて、角速度を検出するように構成されている。
【0036】
(検出範囲および周波数帯域の切り替え)
ここで、本実施形態では、制御部101は、静止状態と運動状態(本実施形態では、第1状態と第2状態)とにおいて、角速度センサ103a(104aおよび105a)の検出範囲および周波数帯域を切り替える制御を行うように構成されている。具体的には、制御部101は、静止状態と運動状態(第1状態と第2状態)とにおいて、増幅回路36aと増幅回路37とのうちの増幅回路36aの増幅率を切り替えることにより、角速度センサ103a(104aおよび105a)の検出範囲および周波数帯域を切り替える制御を行うように構成されている。なお、検出範囲とは、飽和せずに検出可能な角速度の範囲を意味している。また、周波数帯域とは、検出可能な角速度の入力周波数を意味している。
【0037】
制御部101は、静止状態(第1状態)では、増幅回路36aの増幅率を第1増幅率に切り替えることにより、角速度センサ103a(104aおよび105a)の検出範囲および周波数帯域を、それぞれ、第1検出範囲および第1周波数帯域に切り替える制御を行うように構成されている。また、制御部101は、運動状態(第2状態)では、増幅回路36aの増幅率を第1増幅率よりも大きい第2増幅率に切り替えることにより、角速度センサ103a(104aおよび105a)の検出範囲および周波数帯域を、それぞれ、第1検出範囲よりも大きい第2検出範囲および第1周波数帯域よりも大きい第2周波数帯域に切り替える制御を行うように構成されている。すなわち、制御部101は、増幅回路36aの増幅率を小さくすることにより、検出範囲および周波数帯域を小さくするとともに、増幅回路36aの増幅率を大きくすることにより、検出範囲および周波数帯域を大きくする制御を行うように構成されている。なお、詳細な説明は省略するが、角速度センサ103b(104bおよび105b)も、角速度センサ103a(104aおよび105a)と同様に、検出範囲および周波数帯域を切り替えるように構成されている。
【0038】
ここで、図4(A)(B)を参照して、増幅回路36aを用いた検出範囲および周波数帯域の切り替え時の、角速度センサ103a(103b、104a、104b、105aおよび105b)のS/N比の変化と、増幅回路37を用いた検出範囲および周波数帯域の切り替え時の、角速度センサ103a(103b、104a、104b、105aおよび105b)のS/N比の変化とについて説明する。なお、角速度センサ103a(103b、104a、104b、105aおよび105b)の出力のS/N比は、基本的には、閉じた制御ループにおいて生じる信号およびノイズと、増幅回路37において生じる入力ノイズとに基づいて決定されている。
【0039】
図4(A)に示すように、増幅回路37の増幅率を切り替えることにより、角速度センサ103a(103b、104a、104b、105aおよび105b)の検出範囲および周波数帯域を切り替えると、閉じた制御ループにおいて生じる信号およびノイズと、増幅回路37において生じる入力ノイズとの割合は変化しないので、角速度センサ103a(103b、104a、104b、105aおよび105b)の出力のS/N比は変化しない。たとえば、閉じた制御ループにおいて生じる信号の値を5とし、閉じた制御ループにおいて生じるノイズの値を1とし、増幅回路37において生じる入力ノイズの値を1とした場合を考える。この場合、増幅前のS/N比は、5/√(1+1)=3.53である。また、増幅回路37によりノイズを含む信号を10倍に増幅した場合、増幅後のS/N比は、5×10/10√(1+1)=3.53である。以上のように、増幅回路37によりノイズを含む信号を増幅した場合、角速度センサ103a(103b、104a、104b、105aおよび105b)の出力のS/N比は変化しない。
【0040】
一方、図4(B)に示すように、増幅回路36aの増幅率を切り替えることにより、角速度センサ103a(103b、104a、104b、105aおよび105b)の検出範囲および周波数帯域を切り替えると、増幅回路37において生じる入力ノイズを変化させずに、閉じた制御ループにおいて生じる信号およびノイズを変化させることができるので、角速度センサ103a(103b、104a、104b、105aおよび105b)の出力のS/N比を改善することができる。たとえば、閉じた制御ループにおいて生じる信号の値を5とし、閉じた制御ループにおいて生じるノイズの値を1とし、増幅回路37において生じる入力ノイズの値を1とした場合を考える。この場合、増幅前のS/N比は、5/√(1+1)=3.53である。また、増幅回路36aによりノイズを含む信号を10倍に増幅した場合、増幅回路37において生じる入力ノイズの値は1のままである一方、閉じた制御ループにおいて生じる信号の値は50となり、閉じた制御ループにおいて生じるノイズの値は10となる。このため、増幅後のS/N比は、50/√(10+1)=4.98である。以上のように、増幅回路36aによりノイズを含む信号を増幅した場合、増幅回路37によりノイズを含む信号を増幅した場合に比べて、角速度センサ103a(103b、104a、104b、105aおよび105b)の出力のS/N比を改善することができる。
【0041】
なお、一般的に、周波数帯域を変化させた場合、周波数帯域の変化に伴ってノイズの値も変化するが、図4(A)(B)の例では、理解の容易化のため、周波数帯域の変化に伴うノイズの変化については考慮していない。
【0042】
(オフセット値の切り替え)
ここで、本実施形態では、制御部101は、第1状態と第2状態とにおいて、温度変化によるセンサ出力の変動を補正するオフセット値を切り替える制御を行うように構成されている。
【0043】
具体的には、図3に示すように、角速度センサ103a(103b、104a、104b、105aおよび105b)には、1次側制御回路12からの出力(ループフィルタ23からの出力)が入力される加減算量調整回路14aおよび14bが設けられている。加減算量調整回路14aおよび14bは、温度に依存する1次側制御回路12のループフィルタ23の出力の大きさを調整して、調整した出力(第1オフセット値)を、2次側制御回路13の加算回路33に入力するように構成されている。たとえば、加減算量調整回路14aおよび14bにおいて、ポテンショメータ(ボリューム抵抗)などを用いて分圧することにより、第1オフセット値の加算量の調整が行われる。
【0044】
また、角速度センサ103a(103b、104a、104b、105aおよび105b)には、温度に依存しない一定の信号S1が入力される加減算量調整回路15aが設けられている。加減算量調整回路15aは、一定の信号S1の大きさを調整して、調整した一定の信号S1(第2オフセット値)を、2次側制御回路13の加算回路33に入力するように構成されている。たとえば、加減算量調整回路15aにおいて、ポテンショメータ(ボリューム抵抗)などを用いて分圧することにより、一定の信号S1の加算量の調整が行われる。
【0045】
また、角速度センサ103a(103b、104a、104b、105aおよび105b)には、温度に依存しない一定の信号S2が入力される加減算量調整回路15bが設けられている。加減算量調整回路15bは、一定の信号S2の大きさを調整して、調整した一定の信号S2(第2オフセット値)を、2次側制御回路13の加算回路33に入力するように構成されている。たとえば、加減算量調整回路15bにおいて、ポテンショメータ(ボリューム抵抗)などを用いて分圧することにより、一定の信号S2の加算量の調整が行われる。
【0046】
〈機能の入れ替えなしの構成〉
ここで、1次側制御回路12としての機能と、2次側制御回路13としての機能とを入れ替えない場合(すなわち、第2状態の場合)の補正について説明する。
【0047】
まず、補正の対象となる角速度センサ103a(103b、104a、104b、105aおよび105b)の出力の誤差について説明する。角速度センサ103a(103b、104a、104b、105aおよび105b)の出力の誤差としては、2次側制御回路13を構成する回路ブロックから生じるエラー信号によって生じる角速度センサ103a(103b、104a、104b、105aおよび105b)の出力の誤差と、1次側制御回路12からの影響(クロストーク)に起因して発生する角速度センサ103a(103b、104a、104b、105aおよび105b)の出力の誤差とが存在する。2次側制御回路13を構成する回路ブロックから生じるエラー信号の成分(エラー成分)は、温度依存性を有しない一定値であるとする。なお、一般的に、フィードバック回路(帰還回路)では、各回路からの出力信号は、各回路に入力される入力信号をフィードバックゲインで除した値(出力信号=入力信号×1/(フィードバックゲイン))により表される。
【0048】
2次側制御回路13を構成する回路ブロックから生じるエラー信号により2次側制御回路13の閉じた制御ループに生じるセンサ出力の誤差と1次側制御回路12から2次側制御回路13へのクロストークにより2次側制御回路13の閉じた制御ループに生じるセンサ出力の誤差の合計VOut_Total_Errorは、式(1)により表される。なお、A、BおよびCは、温度に依存しない一定値(係数)である。
【数1】
【0049】
次に、式(1)で表されるセンサ出力の誤差VOut_Total_Errorに対する補正を行う場合について、具体的に説明する。
【0050】
まず、2次側制御回路13のループフィルタ34の入力(経路2)に、温度に依存しない一定の信号に基づくVIn_Const_Corr(第2オフセット値)が加算される。この場合、センサ出力VOut_Const_Corrは、式(2)により表される。
【数2】
【0051】
ここで、温度に依存しない一定の信号に基づく第2オフセット値をループフィルタ34の入力に加算した場合、上記式(2)に示すように、センサ出力VOut_Const_Corrは、温度に依存する利得G(T)に反比例した値となる。なお、式(2)中のPは、一定値である。そして、上記式(2)中のPと、上記式(1)中の第2項であるB/G(T)のBとの大きさが等しく(P=-B)なるように、VIn_Const_Corr(第2オフセット値)を加減算量調整回路15aにより調整することにより、式(1)の第2項であるB/G(T)がキャンセルされる。すなわち、温度に依存しない一定の信号S1に基づく第2オフセット値を調整してループフィルタ34の入力に加算することによって、式(1)の温度に依存する利得G(T)に反比例した項をキャンセルすることが可能となる。
【0052】
また、温度に依存する1次側制御回路12のループフィルタ23の出力VAGCは、式(3)により表される。なお、ループフィルタ23の出力VAGCは、閉じた制御ループを考慮したループフィルタ23の出力であり、温度に依存する値となる。
【数3】
【0053】
ここで、本実施形態による補正では、上記した温度に依存しない一定の信号に基づくVIn_Const_Corr(第2オフセット値)に加えて、出力VAGCにある比率qを乗じた値(第1オフセット値)を、2次側制御回路13のループフィルタ34の入力(経路2)に加算する。この第1オフセット値を加えた場合のセンサ出力VOut_AGC_Corrは、式(4)により表される。
【数4】
【0054】
ここで、温度に依存する1次側制御回路12の出力に基づく第1オフセット値をループフィルタ34の入力に加算した場合、式(4)に示すように、センサ出力VOut_AGC_Corrは、温度に依存する利得G(T)の二乗に反比例した値となる。なお、式(4)中のrは、一定値である。そして、式(4)中のrと、式(1)中のG(T)の二乗を含む第1項のA/G (T)のAとの大きさが等しく(r=-A)なるように、qを加減算量調整回路14bにより調整することにより、上記式(1)の第1項であるA/G (T)がキャンセルされる。すなわち、センサ出力は、センサ出力の補正を行わない場合には、本来のセンサ出力に、式(1)で表される誤差が加えられた値になる一方、本実施形態では、第1オフセット値および第2オフセット値が加算されることにより、センサ出力は、本来のセンサ出力に一定値Cが加算された値となる。
【0055】
なお、式(1)のCは、温度に依存しない一定値であるため、補正上問題にならない。また、式(1)における係数A、BおよびCは、各温度における補正前(補償前)のセンサ出力を計測(実測)するとともに、計測されたデータを最小二乗法による多項式近似することによって算出される。なお、係数A、BおよびCの算出は、角速度センサ103a(103b、104a、104b、105aおよび105b)ごと(製品ごと)に算出される。
【0056】
このように、式(1)の第1項であるA/G (T)(温度に依存する利得G(T)の二乗に反比例した項)を0にするように、温度に依存する1次側制御回路12の出力に基づく第1オフセット値の加算量を調整するとともに、式(1)の第2項であるB/G(T)(温度に依存する利得G(T)に反比例した項)を0にするように、温度に依存しない一定の信号に基づく第2オフセット値の加算量を調整することによって、センサ出力の補正が行われる。
【0057】
すなわち、図5に示すように、温度に依存しない一定の信号に基づく第2オフセット値の加算により、センサ出力の誤差の1/G(T)に比例(温度に依存する利得G(T)に反比例した項)する成分(式(1)の第2項)がキャンセルされることにより、温度に依存する特性を有していたセンサ出力(図5の点線)が、略一定(図5の実線)になる。しかしながら、図6に示すように、略一定にされたセンサ出力でも、微視的には、温度に依存する特性(図6の点線)を有する。そこで、温度に依存する1次側制御回路12の出力に基づく第1オフセット値の加算により、センサ出力の1/G (T)に比例(温度に依存する利得G(T)の二乗に反比例した項)する成分(式(1)の第1項)もキャンセルすることにより、センサ出力が温度に依存しない略一定(図6の実線)になる。その結果、補正の精度を高めることが可能になる。
【0058】
以上のように、1次側制御回路12としての機能と、2次側制御回路13としての機能とを入れ替えない場合(すなわち、第2状態の場合)、2次側制御回路13の閉じた制御ループ(2次側制御回路13のループフィルタ34の入力)に、2次側制御回路13からの振動子11の利得の温度変化の二乗に反比例するセンサ出力の補正を行うために、振動子11の利得の温度変化に反比例する1次側制御回路12の出力(ループフィルタ23の出力)に基づく第1オフセット値と、2次側制御回路13からの振動子11の利得の温度変化に反比例するセンサ出力の補正を行うために、温度に依存しない一定の信号に基づく第2オフセット値とを加算するとともに、第1オフセット値の加算量と第2オフセット値の加算量とを、それぞれ、加減算量調整回路14bと、加減算量調整回路15aとにより調整することによって、センサ出力(2次側制御回路13からの出力)の補正が行われる。そして、2次側制御回路13を構成する回路ブロックから生じるエラー信号により2次側制御回路13の閉じた制御ループに生じるセンサ出力の誤差と、1次側制御回路12から2次側制御回路13へのクロストーク(信号交差)により2次側制御回路13の閉じた制御ループに生じるセンサ出力の誤差とを低減するように、第1オフセット値および第2オフセット値を決定して加算することにより、センサ出力の補正が行われる。
【0059】
〈機能の入れ替えありの構成〉
次に、1次側制御回路12としての機能と、2次側制御回路13としての機能とを入れ替える場合(すなわち、第1状態の場合)の補正について説明する。
【0060】
この場合、本実施形態では、入れ替え後のオフセット値(第1オフセット値および第2オフセット値)と入れ替え前のオフセット値とは、所定の基準値に対して対称な値である。言い換えると、入れ替え前において閉じた制御ループに加算されるオフセット値と所定の基準値との差の絶対値と、入れ替え後において閉じた制御ループに加算されるオフセット値と所定の基準値との差の絶対値とは、略等しくなるように構成されている。
【0061】
具体的には、本実施形態では、入れ替え前の仮のオフセット値をaとし、入れ替え後の仮のオフセット値を-aとし、入れ替えの前のセンサ出力と、入れ替えの後のセンサ出力との中央値に対する仮のオフセット値をbとした場合、入れ替え前のオフセット値は、a+bであり、入れ替え後のオフセット値は、-a+bである。なお、仮のオフセット値をaは、後述する仮の第1オフセット値a1、および、後述する仮の第2オフセット値a2を意味する。また、仮のオフセット値bは、後述する仮の第1オフセット値b1、および、後述する仮の第2オフセット値b2を意味する。
【0062】
詳細には、図3に示すように、加減算量調整回路14aの出力側には、反転回路51と、スイッチ素子52とが設けられている。スイッチ素子52は、加減算量調整回路14aに接続される状態と、反転回路51に接続される状態とを切り替え可能に構成されている。そして、スイッチ素子52が加減算量調整回路14aに接続されている状態では、加算回路33には、加減算量調整回路14aからの出力(a1)と、加減算量調整回路14bからの出力(b1)とが入力される。すなわち、2次側制御回路13に、第1オフセット値としてa1+b1が加算される。また、スイッチ素子52が反転回路51に接続されている状態では、加算回路33には、反転回路51からの出力(-a1)と、加減算量調整回路14bからの出力(b1)とが入力される。すなわち、2次側制御回路13に、第1オフセット値として-a1+b1が加算される。なお、a1およびb1の求め方については、後述する。
【0063】
また、加減算量調整回路15bの出力側には、反転回路45と、スイッチ素子46とが設けられている。スイッチ素子46は、加減算量調整回路15bに接続される状態と、反転回路45に接続される状態とを切り替え可能に構成されている。そして、スイッチ素子46が加減算量調整回路15bに接続されている状態では、加算回路33には、加減算量調整回路15bからの出力(a2)と、加減算量調整回路15aからの出力(b2)とが入力される。すなわち、2次側制御回路13に、第2オフセット値としてa2+b2が加算される。また、スイッチ素子46が反転回路45に接続されている状態では、加算回路33には、反転回路45からの出力(-a2)と、加減算量調整回路15aからの出力(b2)とが入力される。すなわち、2次側制御回路13に、第2オフセット値として-a2+b2が加算される。なお、a2およびb2の求め方についは、後述する。
【0064】
図7に示すように、一般的に、角速度センサでは、温度の変化(横軸)に対して、角速度センサが検出する角速度のバイアス成分(縦軸)は、変化する。また、1次側制御回路12としての機能と2次側制御回路13としての機能とを入れ替える前のバイアス成分の変化(図7のP)と、入れ替え後のバイアス成分の変化(図7のS)とは、異なる。そして、図8に示すように、入れ替えの前において、上記の式(1)の第1項および第2項をキャンセルするように、第1オフセット値および第2オフセット値を加算することにより、センサ出力の温度変化(図8のP)が小さくなる。また、入れ替えの後において、上記の式(1)の第1項および第2項をキャンセルするように、第1オフセット値および第2オフセット値を加算することにより、センサ出力の温度変化(図8のS)が小さくなる。なお、図8のPとSとは、横軸に沿った線分(図8の一点鎖線)に対して対称にならないので、図8のPとSとの差分の温度変動成分は、ゼロにはならない。このように、入れ替えの前後で、個別に、上記の式(1)の第1項および第2項をキャンセルするように第1オフセット値および第2オフセット値を決定した場合、図8のPとSとの差分の温度変動成分は、ゼロにならない。
【0065】
そこで、図9(a)に示すように、入れ替えの前後で、差分の温度変動成分が最も小さくなるように、かつ、入れ替え前後でオフセット値の極性が反転するように、入れ替え前後の仮の第1オフセット値a1および仮の第2オフセット値a2が決定される。なお、入れ替え前に仮の第1オフセット値a1および仮の第2オフセット値a2を用いた場合、上記の式(1)の第1項および第2項がキャンセルされないので、入れ替え前の状態でバイアス成分は温度に対して勾配を有する。同様に、入れ替え後に仮の第1オフセット値-a1および仮の第2オフセット値-a2を用いた場合、上記の式(1)の第1項および第2項がキャンセルされないので、入れ替え後の状態でバイアス成分は温度に対して勾配を有する。
【0066】
そこで、図9(b)に示すように、1次側制御回路12としての機能と2次側制御回路13としての機能とを入れ替える前のバイアス成分の変化(図7のP)と入れ替え後のバイアス成分の変化(図7のS)との中央値(図7のM)に対して、上記の式(1)の第1項および第2項をキャンセルするように、仮の第1オフセット値b1および仮の第2オフセット値b2を決定する。そして、入れ替え前の第1オフセット値をa1+b1、第2オフセット値をa2+b2とし、入れ替え後の第1オフセット値を-a1+b1、第2オフセット値を-a2+b2とする。これにより、入れ替え前後で、中央値に対する仮の第1オフセット値b1に対して、第1オフセット値が対称になるとともに、中央値に対する仮の第2オフセット値b2に対して、第2オフセット値が対称になる。その結果、図10に示すように、入れ替える前のバイアス成分の変化(図10のP)と入れ替え後のバイアス成分の変化(図10のS)は、共に、温度勾配が小さくなる。その結果、図10のPとSとの差(バイアス成分の残存)を小さくしながら、バイアス成分の温度勾配を小さくすることが可能になる。
【0067】
以上のように、1次側制御回路12としての機能と、2次側制御回路13としての機能とを入れ替える場合(すなわち、第1状態の場合)、2次側制御回路13の閉じた制御ループ(2次側制御回路13のループフィルタ34の入力)に、2次側制御回路13からの振動子11の利得の温度変化の二乗に反比例するセンサ出力の補正を行うために、振動子11の利得の温度変化に反比例する1次側制御回路12の出力(ループフィルタ23の出力)に基づく第1オフセット値と、2次側制御回路13からの振動子11の利得の温度変化に反比例するセンサ出力の補正を行うために、温度に依存しない一定の信号に基づく第2オフセット値とを加算するとともに、第1オフセット値の加算量と第2オフセット値の加算量とを、それぞれ、加減算量調整回路14aおよび14bと、加減算量調整回路15aおよび15bとにより調整することによって、センサ出力(2次側制御回路13からの出力)の補正が行われる。そして、2次側制御回路13を構成する回路ブロックから生じるエラー信号により2次側制御回路13の閉じた制御ループに生じるセンサ出力の誤差と、1次側制御回路12から2次側制御回路13へのクロストーク(信号交差)により2次側制御回路13の閉じた制御ループに生じるセンサ出力の誤差とを低減するように、第1オフセット値および第2オフセット値を決定して加算することにより、センサ出力の補正が行われる。
【0068】
(運動状態でのバイアス成分の補正)
ここで、本実施形態では、制御部101は、第2状態において、所定期間において角速度センサ103a(104aおよび105a)の1次側制御回路12と2次側制御回路13との機能を入れ替えずに角速度を検出するとともに、角速度センサ103b(104bおよび105b)の1次側制御回路12と2次側制御回路13との機能を入れ替えて角速度を検出し、角速度センサ103a(104aおよび105a)による角速度の検出結果と、角速度センサ103b(104bおよび105b)による角速度の検出結果と、に基づいて、角速度センサ103a(104aおよび105a)のバイアス成分を取得する制御を行うように構成されている。
【0069】
具体的には、制御部101は、角速度センサ103b(104bおよび105b)により、所定期間において、2次側制御回路13により振動子11の2次振動に基づく角速度を検出する処理と、1次側制御回路12と2次側制御回路13との機能を入れ替えて、1次側制御回路12により振動子11の2次振動に基づく角速度を検出する処理と、を行う制御をするように構成されている。図11(C)に示すように、時間t1から時間t2まで、および、時間t4から時間t5までの所定期間において、角速度センサ103b(104bおよび105b)の2次側制御回路13により振動子11の2次振動に基づく角速度を検出する処理と、角速度センサ103b(104bおよび105b)の1次側制御回路12により振動子11の2次振動に基づく角速度を検出する処理と、が行われる。
【0070】
また、制御部101は、第2状態の角速度センサ103a(104aおよび105a)により、所定期間において、角速度を検出する処理を行う制御をするように構成されている。図11(B)に示すように、時間t1から時間t2まで、および、時間t4から時間t5までの所定期間において、第2状態の角速度センサ103a(104aおよび105a)の2次側制御回路13により振動子11の2次振動に基づく角速度を検出する処理が行われる。
【0071】
また、制御部101は、所定期間において第2状態の角速度センサ103a(104aおよび105a)により検出した第1検出結果の値から、所定期間において角速度センサ103b(104bおよび105b)により検出した第2検出結果の値を減じることにより、第2状態の角速度センサ103a(104aおよび105a)のバイアス成分(B1(t))を算出するように構成されている。
【0072】
なお、所定期間は、2次側制御回路13により振動子11の2次振動に基づく角速度を検出する処理を行う第1期間(時間t1から時間t2までの期間)と、1次側制御回路12により振動子11の2次振動に基づく角速度を検出する処理を行う第2期間(時間t4から時間t5までの期間)とを含んでいる。また、第1期間および第2期間は、同じ長さの時間である。図11に示すように、第1期間および第2期間は、各々時間Tの長さを有している。
【0073】
また、第1検出結果は、所定期間において第2状態の角速度センサ103a(104aおよび105a)により検出した角速度の積分値である。また、第2検出結果は、所定期間において角速度センサ103b(104bおよび105b)により検出した角速度の積分値である。
【0074】
また、所定期間は、角速度センサ103b(104bおよび105b)のバイアス成分が略一定である期間である。たとえば、所定期間は、数秒から数十秒程度の長さを有している。また、所定期間は、温度変化の影響が無視でき、角速度センサ103b(104bおよび105b)のバイアス成分が略変わらないと仮定できる期間である。
【0075】
図11(B)に示す、所定期間(時間t1から時間t2までの第1期間、および、時間t4から時間t5までの第2期間)における第1検出結果の積分値I1は、式(5)のように表される。
【数5】
【0076】
ただし、第2状態の角速度センサ103a(104aおよび105a)の2次側制御回路13により検出した角速度ω1(t)は、図11(A)に示す運動(移動)により生じる角速度(真の角速度)ω0(t)および第2状態の角速度センサ103a(104aおよび105a)のバイアスB1(t)を用いて、式(6)のように表される。
【数6】
【0077】
したがって、式(5)は、式(7)のように導出される。
【数7】
【0078】
また、図11(C)に示す、所定期間(時間t1から時間t2までの第1期間、および、時間t4から時間t5までの第2期間)における第2検出結果の積分値I2は、式(8)のように表される。
【数8】
なお、時間t4から時間t5までの第2期間は、ω2(t)がバイアス成分に対して反転されることを考慮して、積分値を減算している。
【0079】
角速度センサ103b(104bおよび105b)の2次側制御回路13により検出した角速度ω2(t)および1次側制御回路12により検出した角速度ω2(t)は、図11(A)に示す運動(移動)により生じる角速度(真の角速度)ω0(t)および角速度センサ103b(104bおよび105b)のバイアスB2(t)を用いて、それぞれ、式(9)および式(10)のように表される。
【数9】
なお、時間t4から時間t5までの第2期間の式(10)では、ω0(t)がバイアス成分に対して反転されるため、マイナスがかけられる。
【0080】
したがって、式(8)は、式(11)のように導出される。
【数10】
【0081】
第1検出結果の積分値I1から第2検出結果の積分値I2を減じると、式(12)のように導出される。
【数11】
【0082】
ここで、時間t1から時間t2までの第1期間、および、時間t4から時間t5までの第2期間において、第2状態の角速度センサ103a(104aおよび105a)のバイアスB1(t)と、角速度センサ103b(104bおよび105b)のバイアスB2(t)とは、各々、時間的な変化量が無視できるので(一定であるので)、式(13)および式(14)が成り立つと仮定できる。
【数12】
ただし、B1は、第1期間および第2期間における第2状態の角速度センサ103a(104aおよび105a)のバイアス値であり、B2は、第1期間および第2期間における角速度センサ103b(104bおよび105b)のバイアス値である。
【0083】
したがって、式(12)から、式(15)が導出される。
【数13】
【0084】
Tは、既知であるため、(I1―I2)を2Tで除算することにより、第2状態の角速度センサ103a(104aおよび105a)のバイアス値B1が算出される。算出したバイアス値B1を、第2状態の角速度センサ103a(104aおよび105a)による角速度検出に用いる。たとえば、カルマンフィルタの観測更新として利用する。
【0085】
なお、角速度センサ103b(104bおよび105b)の1次側制御回路12としての機能と、2次側制御回路13としての機能とを入れ替える制御を行い、バイアス値B1を算出するための角速度の測定を行う期間中に式(13)および式(14)の関係が成立していればよい。このため、たとえば、次の処理の開始点となる時間t6までの時間間隔(t6-t5)が大きく、B1が変化した場合でも、同様に、次の時間t6からの処理により補正可能である。ただし、常に、B1の変化を小さくするために、時間間隔(t6-t5)を十分に小さくすることが好ましい。
【0086】
(1次側制御回路の機能と2次側制御回路の機能との入れ替えタイミング)
ここで、本実施形態では、制御部101は、第1状態と第2状態との両方において、角速度センサ103a、104a、104b、105aおよび105bのうちのいずれかにより角速度を検出している場合に、角速度センサ103a、103b、104a、104b、105aおよび105bのうちの他の角速度センサにより、1次側制御回路12と2次側制御回路13との機能の入れ替えを行わないように構成されている。
【0087】
具体的には、制御部101は、角速度センサ103a、103b、104a、104b、105aおよび105bのうちのいずれかにおいて、1次側制御回路12と2次側制御回路13との機能を入れ替える前後で演算に用いるための角速度を検出している場合に、角速度センサ103a、103b、104a、104b、105aおよび105bのうちの他の角速度センサにおいて、1次側制御回路12と2次側制御回路13との機能を入れ替える制御を行わないように構成されている。
【0088】
ここで、角速度センサ103a(103b、104a、104b、105aおよび105b)は、電源部102から電力が供給されて駆動されている場合には、常に角速度を検出し、検出した角速度に基づく信号を出力している。制御部101は、角速度センサ103a(103b、104a、104b、105aおよび105b)から出力される信号に基づいて、角速度、姿勢角、方位角を演算するように構成されている。また、制御部101は、角速度センサ103a(103b、104a、104b、105aおよび105b)から出力される信号に基づいて、角速度センサ103a(103b、104a、104b、105aおよび105b)のバイアス成分を算出する演算を行うように構成されている。制御部101は、角速度センサ103a(103b、104a、104b、105aおよび105b)において、1次側制御回路12と2次側制御回路13との機能を入れ替えている場合に、他の角速度センサ103a(103b、104a、104b、105aおよび105b)において検出した角速度を演算に用いない。
【0089】
また、制御部101は、角速度センサ103a(103b、104a、104b、105aおよび105b)の2次側制御回路13により振動子11の2次振動を検出した角速度の検出結果と、角速度センサ103a(103b、104a、104b、105aおよび105b)の1次側制御回路12と2次側制御回路13との機能を入れ替えて、1次側制御回路12により振動子11の2次振動を検出した角速度の検出結果と、に基づいて、角速度センサ103a(103b、104a、104b、105aおよび105b)により検出する角速度のバイアス成分をキャンセルする演算を行うように構成されている。
【0090】
たとえば、制御部101は、図12(A)の時間t11から時間t12の期間において、角速度センサ103aの2次側制御回路13により振動子11の2次振動を検出した角速度を検出(取得)する。また、制御部101は、図12(A)の時間t14から時間t15の期間において、角速度センサ103aの1次側制御回路12により振動子11の2次振動を検出した角速度を検出(取得)する。そして、制御部101は、時間t11から時間t12の期間において取得した角速度と、時間t14から時間t15の期間において取得した角速度と、に基づいて、角速度センサ103aのバイアス成分を算出する。
【0091】
また、たとえば、制御部101は、図12(B)の時間t21から時間t22の期間において、角速度センサ104aの2次側制御回路13により振動子11の2次振動を検出した角速度を演算のために取得する。また、制御部101は、図12(B)の時間t24から時間t25の期間において、角速度センサ104aの1次側制御回路12により振動子11の2次振動を検出した角速度を演算のために取得する。そして、制御部101は、時間t21から時間t22の期間において取得した角速度と、時間t24から時間t25の期間において取得した角速度と、に基づいて、角速度センサ104aのバイアス成分を算出(演算)する。
【0092】
また、たとえば、制御部101は、図12(C)の時間t31から時間t32の期間において、角速度センサ105aの2次側制御回路13により振動子11の2次振動を検出した角速度を演算のために取得する。また、制御部101は、図12(C)の時間t34から時間t35の期間において、角速度センサ105aの1次側制御回路12により振動子11の2次振動を検出した角速度を演算のために取得する。そして、制御部101は、時間t31から時間t32の期間において取得した角速度と、時間t34から時間t35の期間において取得した角速度と、に基づいて、角速度センサ105aのバイアス成分を算出(演算)する。なお、詳細な説明は省略するが、角速度センサ103b、104bおよび105bについても同様である。
【0093】
また、制御部101は、角速度センサ103a(103b、104a、104b、105aおよび105b)の1次側制御回路12と2次側制御回路13との機能を入れ替える前後の所定期間は、角速度センサ103a(103b、104a、104b、105aおよび105b)の角速度のバイアス成分をキャンセルするための角速度の検出を中断するように構成されている。たとえば、図12(A)の角速度センサ103aの1次側制御回路12と2次側制御回路13との機能を入れ替えるタイミング(時間t13)の前後の所定期間(時間t12から時間t14の期間)において、制御部101は、角速度センサ103b、104a、104b、105aおよび105bの角速度のバイアス成分をキャンセルするための角速度の検出(演算のための取得)を中断する。また、たとえば、図12(B)の角速度センサ104aの1次側制御回路12と2次側制御回路13との機能を入れ替えるタイミング(時間t23)の前後の所定期間(時間t22から時間t24の期間)において、制御部101は、角速度センサ103a、103b、104b、105aおよび105bの角速度のバイアス成分をキャンセルするための角速度の検出(演算のための取得)を中断する。また、たとえば、図12(C)の角速度センサ105aの1次側制御回路12と2次側制御回路13との機能を入れ替えるタイミング(時間t33)の前後の所定期間(時間t32から時間t34の期間)において、制御部101は、角速度センサ103a、103b、104a、104bおよび105bの角速度のバイアス成分をキャンセルするための角速度の検出(演算のための取得)を中断する。
【0094】
また、制御部101は、角速度センサ103a、103b、104a、104b、105aおよび105bのうちいずれかにおける、1次側制御回路12と2次側制御回路13との機能を入れ替える前後の所定期間において、他の角速度センサ103a、103b、104a、104b、105aおよび105bにおける、1次側制御回路12と2次側制御回路13との機能を入れ替える制御を行うように構成されている。たとえば、制御部101は、図12(A)の角速度センサ103aの1次側制御回路12と2次側制御回路13との機能を入れ替えるタイミング(時間t13)の前後の所定期間(時間t12から時間t14の期間)において、角速度センサ103b、104a、104b、105aおよび105bの1次側制御回路12と2次側制御回路13との機能を入れ替える。また、たとえば、制御部101は、図12(B)の角速度センサ104aの1次側制御回路12と2次側制御回路13との機能を入れ替えるタイミング(時間t23)の前後の所定期間(時間t22から時間t24の期間)において、角速度センサ103a、103b、104b、105aおよび105bの1次側制御回路12と2次側制御回路13との機能を入れ替える。また、たとえば、制御部101は、図12(C)の角速度センサ105aの1次側制御回路12と2次側制御回路13との機能を入れ替えるタイミング(時間t33)の前後の所定期間(時間t32から時間t34の期間)において、角速度センサ103a、103b、104a、104bおよび105bの1次側制御回路12と2次側制御回路13との機能を入れ替える。
【0095】
好ましくは、制御部101は、角速度センサ103a、103b、104a、104b、105aおよび105bにおける、1次側制御回路12と2次側制御回路13との機能を入れ替えるタイミングを略同時にするように構成されている。つまり、制御部101は、図12(A)の時間t13と、図12(B)の時間t23と、図12(C)の時間t33とを同じタイミングとして、角速度センサ103a、103b、104a、104b、105aおよび105bにおける、1次側制御回路12と2次側制御回路13と機能を入れ替える。
【0096】
(本実施形態の効果)
本実施形態では、以下のような効果を得ることができる。
【0097】
本実施形態では、上記のように、制御部101を、1次側制御回路12と2次側制御回路13との機能を入れ替えて、角速度を検出する第1状態と、1次側制御回路12と2次側制御回路13との機能を入れ替えずに、角速度を検出する第2状態とのいずれかに、角速度センサ103a(104aおよび105a)の状態を切り替える制御を行うように構成する。これにより、静止状態での角速度を検出する場合、制御部101により角速度センサ103a(104aおよび105a)の状態を第1状態に切り替えることができる。その結果、第1状態では、1次側制御回路12と2次側制御回路13との機能を入れ替えて、静止状態での角速度を検出することができるので、角速度センサ103a(104aおよび105a)のバイアス成分をキャンセルしつつ、角速度を検出することができる。これにより、静止状態では、角速度を正確に検出することができる。また、運動状態での角速度を検出する場合、制御部101により角速度センサ103a(104aおよび105a)の状態を第2状態に切り替えることができる。その結果、第2状態では、1次側制御回路12と2次側制御回路13との機能を入れ替えずに、運動状態での角速度を検出することができるので、1次側制御回路12と2次側制御回路13との機能を入れ替えるタイミングで、角速度を検出することができないという不都合が発生することを防止することができる。これにより、角速度の検出が断続的になることを防止することができるので、1次側制御回路12と2次側制御回路13との機能を入れ替え可能な角速度センサ103a(104aおよび105a)を用いる場合にも、運動状態での角速度を正確に(連続的に)検出することができる。これらの結果、1次側制御回路12と2次側制御回路13との機能を入れ替え可能な角速度センサ103a(104aおよび105a)を用いる場合にも、静止状態での角速度および運動状態での角速度の両方を正確に検出することができる。
【0098】
また、本実施形態では、上記のように、角速度センサ103a(103b、104a、104b、105aおよび105b)を、複数のスイッチ素子41~44を含むように構成する。また、制御部101を、第1状態では、複数のスイッチ素子41~44の切替動作により1次側制御回路12と2次側制御回路13との機能を入れ替えるとともに、第2状態では、複数のスイッチ素子41~44の切替動作を行わないことにより1次側制御回路12と2次側制御回路13との機能を入れ替えない制御を行うように構成する。これにより、単に複数のスイッチ素子41~44の切替動作を制御するだけで、第1状態と第2状態とに角速度センサ103a(103b、104a、104b、105aおよび105b)の状態を切り替えることができるので、角速度センサ103a(103b、104a、104b、105aおよび105b)の状態を制御部101により簡単に制御することができる。
【0099】
また、本実施形態では、上記のように、制御部101を、静止状態と運動状態とにおいて、角速度センサ103a(103b、104a、104b、105aおよび105b)の検出範囲および周波数帯域を切り替える制御を行うように構成する。ここで、静止状態での角速度を検出する場合と、運動状態での角速度を検出する場合とでは、求められる検出範囲および周波数帯域が異なる。具体的には、静止状態での角速度を検出する場合には、ノイズを小さくするために、小さい検出範囲および小さい周波数帯域が求められる。また、運動状態での角速度を検出する場合には、検出する角速度が大きく変化も速いに、大きい検出範囲および大きい周波数帯域が求められる。そこで、上記のように、静止状態と運動状態とにおいて、角速度センサ103a(103b、104a、104b、105aおよび105b)の検出範囲および周波数帯域を切り替えれば、検出範囲および周波数帯域を、静止状態での角速度を検出する状態と、運動状態での角速度を検出する状態とに適した状態に切り替えることができるので、静止状態での角速度および運動状態での角速度の両方をより正確に検出することができる。
【0100】
また、本実施形態では、上記のように、2次側制御回路13を、閉じた制御ループを構成するとともに、増幅回路36aを含む駆動回路36と、閉じた制御ループからの出力を増幅する増幅回路37とを有するように構成する。また、制御部101を、静止状態と運動状態とにおいて、増幅回路36aと増幅回路37とのうちの増幅回路36aの増幅率を切り替えることにより、角速度センサ103a(103b、104a、104b、105aおよび105b)の検出範囲および周波数帯域を切り替える制御を行うように構成する。ここで、角速度センサ103a(103b、104a、104b、105aおよび105b)の出力のS/N比は、基本的には、閉じた制御ループにおいて生じる信号およびノイズと、増幅回路37において生じる入力ノイズとに基づいて決定されている。この場合、増幅回路37のゲインを切り替えることにより、角速度センサ103a(104aおよび105a)の検出範囲および周波数帯域を切り替えると、閉じた制御ループにおいて生じる信号およびノイズと、増幅回路37において生じる入力ノイズとの割合は変化しないので、角速度センサ103a(103b、104a、104b、105aおよび105b)の出力のS/N比は変化しない。一方、上記のように、増幅回路36aと増幅回路37とのうちの増幅回路36aの増幅率を切り替えることにより、角速度センサ103a(103b、104a、104b、105aおよび105b)の検出範囲および周波数帯域を切り替えれば、増幅回路37の増幅率を切り替える場合と異なり、閉じた制御ループにおいて生じる信号およびノイズを変化させることができるので閉じた制御ループにおいて生じる信号およびノイズを増加させた場合、増幅回路37において生じる入力ノイズを閉じた制御ループにおいて生じる信号およびノイズに対して相対的に小さくすることができる。これにより、角速度センサ103a(103b、104a、104b、105aおよび105b)の出力のS/N比を改善させつつ、角速度センサ103a(103b、104a、104b、105aおよび105b)の検出範囲および周波数帯域を切り替えることができる。
【0101】
また、本実施形態では、上記のように、制御部101を、第1状態と第2状態とにおいて、温度変化によるセンサ出力の変動を補正するオフセット値を切り替える制御を行うように構成する。ここで、1次側制御回路12と2次側制御回路13との機能を入れ替える場合と、1次側制御回路12と2次側制御回路13との機能を入れ替えない場合とでは、上記の通り、適切なオフセット値が異なる。そこで、上記のように、第1状態と第2状態とにおいて、温度変化によるセンサ出力の変動を補正するオフセット値を切り替えれば、温度変化によるセンサ出力の変動を補正するオフセット値を、1次側制御回路12と2次側制御回路13との機能を入れ替える第1状態と、1次側制御回路12と2次側制御回路13との機能を入れ替えない第2状態とに適した状態に切り替えることができるので、第1状態と第2状態とのいずれにおいても、温度変化によるセンサ出力の変動を精度よく補正することができる。その結果、静止状態での角速度および運動状態での角速度の両方をより正確に検出することができる。
【0102】
また、本実施形態では、上記のように、制御部101を、第2状態において、所定期間において角速度センサ103a(104aおよび105a)の1次側制御回路12と2次側制御回路13との機能を入れ替えずに角速度を検出するとともに、角速度センサ103b(104bおよび105b)の1次側制御回路12と2次側制御回路13との機能を入れ替えて角速度を検出し、角速度センサ103a(104aおよび105a)による角速度の検出結果と、角速度センサ103b(104bおよび105b)による角速度の検出結果と、に基づいて、角速度センサ103a(104aおよび105a)のバイアス成分を取得する制御を行うように構成する。これにより、1次側制御回路12と2次側制御回路13との機能を入れ替えないために、機能の入れ替えによるバイアス成分のキャンセル効果が得られない第2状態の角速度センサ103a(104aおよび105a)においても、角速度センサ103b(104bおよび105b)を利用して、バイアス成分を取得してキャンセルすることができる。その結果、運動状態での角速度をより正確に検出することができる。
【0103】
また、本実施形態では、上記のように、制御部101を、第1状態と第2状態との両方において、角速度センサ103a、103b、104a、104b、105aおよび105bのうちのいずれかにより角速度を検出している場合に、角速度センサ103a、103b、104a、104b、105aおよび105bのうちの他の角速度センサにより、1次側制御回路12と2次側制御回路13との機能の入れ替えを行わないように構成する。ここで、1次側制御回路12と2次側制御回路13との機能の入れ替えを行う際、角速度センサにおける消費電流が定常状態から大きく変動するため、共通の電源部102に接続された角速度センサの出力が影響を受ける場合がある。そこで、上記のように、角速度センサ103a、103b、104a、104b、105aおよび105bのうちのいずれかにより角速度を検出している場合に、角速度センサ103a、103b、104a、104b、105aおよび105bのうちの他の角速度センサにより、1次側制御回路12と2次側制御回路13との機能の入れ替えを行わないようにすれば、1次側制御回路12と2次側制御回路13との機能の入れ替えに起因して共通の電源部102に接続された角速度センサ103a、103b、104a、104b、105aおよび105bの出力が影響を受けることを防止することができる。
【0104】
また、本実施形態では、上記のように、方位角姿勢角計測装置100を、静止状態における第1状態では、ジャイロコンパスとして機能するとともに、運動状態における第2状態では、慣性航法装置として機能するように構成する。これにより、本実施形態の方位角姿勢角計測装置100を、ジャイロコンパスおよび慣性航法装置として容易に機能させることができるので、方位角姿勢角計測装置100を、ジャイロコンパスおよび慣性航法装置の両方の用途に容易に用いることができる。
【0105】
また、本実施形態では、上記のように、振動子11を、リング型の振動子11を含むように構成する。ここで、リング型の振動子11は、対称的な形状を有するので、1次側制御回路12による振動モードと、2次側制御回路13による振動モードとが類似する。このため、方位角姿勢角計測装置100の角速度センサ103a、103b、104a、104b、105aおよび105bにリング型の振動子を設けることにより、振動モードの差異の影響を考慮する必要がない。
【0106】
(変形例)
なお、今回開示された実施形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施形態の説明ではなく特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更(変形例)が含まれる。
【0107】
たとえば、上記実施形態では、リング型の振動子が用いられる例を示したが、本発明はこれに限られない。たとえば、振動子が対称的な形状を有していればよく、円盤型、カップ型(ワイングラス型)、八角形型などの振動子を用いてもよい。
【0108】
また、上記実施形態では、振動子、増幅回路、同期検波回路、ループフィルタ、変調回路および駆動回路により閉じた制御ループが構成されている例を示したが、本発明はこれに限られない。たとえば、増幅回路、同期検波回路、ループフィルタ、変調回路および駆動回路からなる構成以外の構成により制御ループが構成されていてもよい。
【0109】
また、上記第実施形態では、ループフィルタとして積分フィルタが用いられる例を示したが、たとえば、積分フィルタ以外のループフィルタを用いてもよい。
【0110】
また、上記第実施形態では、第1状態と第2状態とにおいて、角速度センサ(第1角速度センサ)の検出範囲および周波数帯域の両方が切り替えられる例を示したが、本発明では、制御部が、第1状態と第2状態とにおいて、第1角速度センサの検出範囲および周波数帯域のいずれか一方のみが切り替えられてもよい。
【0111】
また、上記第実施形態では、駆動回路の増幅回路(第1増幅回路)と、閉じた制御ループからの出力を増幅する増幅回路(第2増幅回路)とのうちの駆動回路の増幅回路の増幅率が切り替えられることにより、角速度センサ(第1角速度センサ)の検出範囲および周波数帯域が切り替えられる例を示したが、本発明では、制御部が、第1増幅回路と、第2増幅回路とのうちの第2増幅回路の増幅率が切り替えられることにより、第1角速度センサの検出範囲および周波数帯域が切り替えられてもよい。
【0112】
また、上記第実施形態では、第1状態と第2状態とにおいて、温度変化によるセンサ出力の変動を補正するオフセット値が切り替えられる例を示したが、本発明では、第1状態と第2状態とにおいて、温度変化によるセンサ出力の変動を補正するオフセット値が必ずしも切り替えられなくてもよい。たとえば、上記実施形態の第2状態でのオフセット値を、第1状態でのオフセット値として用いてもよい。ただし、補正の精度の観点から、温度変化によるセンサ出力の変動を補正するオフセット値が切り替えられる方が好ましい。
【0113】
また、上記実施形態では、入れ替え前の第1オフセット値がa1+b1であるとともに第2オフセット値がa2+b2であり、入れ替え後の第1オフセット値が-a1+b1であるとともに第2オフセット値が-a2+b2である例を示したが、本発明はこれに限られない。たとえば、入れ替え前の第1オフセット値をa1とするとともに第2オフセット値をa2とし、入れ替え後の第1オフセット値を入れ替え前の第1オフセット値a1の極性が反転された-a1とするとともに、入れ替え後の第2オフセット値を入れ替え前の第2オフセット値a2の極性が反転された-a2としてもよい。これにより、1次側制御回路12としての機能と2次側制御回路13としての機能が入れ替えられた前後において、バイアスの温度変動成分の残渣がある程度残るものの、振動子1の利得の二乗に反比例した補正を行うための第1オフセット値、および、振動子1の利得の一乗に反比例した補正を行うための第2オフセット値がゼロ(所定の基準値)に対して対称になるので、入れ替えの前後における振動型角速度センサの制御の対称性がくずれるのを抑制することができる。
【0114】
また、上記実施形態では、入れ替え前の第1オフセット値がa1+b1であるとともに第2オフセット値がa2+b2であり、入れ替え後の第1オフセット値が-a1+b1であるとともに第2オフセット値が-a2+b2である例を示したが、本発明はこれに限られない。たとえば、中央値が、上記の式(1)の第1項をキャンセルするように決定され(すなわち、第1オフセット値はb1で固定され)、入れ替え前の第2オフセット値がa2+b2であり、入れ替え後の第2オフセット値が-a2+b2であるように構成してもよい。すなわち、第2オフセット値のみが、入れ替えの前後で、所定の基準値に対して対称な値であってもよい。
【0115】
また、上記実施形態では、入れ替えの前後で、バイアス成分の残渣が最も小さくなるように入れ替え前後の仮の第1オフセット値a1および仮の第2オフセット値a2が決定される例を示したが、本発明はこれに限られない。たとえば、入れ替えの前後で、バイアス成分の残渣が最も小さくなる値の近傍の値になるように入れ替え前後の第1オフセット値および第2オフセット値を決定してもよい。
【0116】
また、上記実施形態では、オフセット値a+b、および、オフセット値-a+bを出力するために、加減算量調整回路4aおよび4b、および、加減算量調整回路5aおよび5b(4つの個別の回路)が設けられている例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、オフセット値a+b、および、オフセット値-a+bに相当する信号を出力する回路が設けられていればよい。
【0117】
また、上記実施形態では、互いに直交するX軸、Y軸およびZ軸の3軸の軸線回りの角速度を検出する複数の角速度センサを設ける構成の例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、互いに異なる方向の2軸の軸線回りの角速度を検出する複数の角速度センサを設けてもよく、さらには、互いに異なる方向の3以上の軸線回りの角速度を検出する複数の角速度センサを設けてもよい。また、複数の角速度センサが検出する角速度の軸線は、互いに直交ではない異なる方向であってもよい。
【0118】
また、上記実施形態では、平行な軸線回りの角速度を検出する角速度センサを2つずつ設ける構成の例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、平行な軸線回りの角速度を検出する角速度センサを3つ以上設けてもよいし、一部の軸線回りについて、角速度センサを複数設け、他の軸線回りについて、角速度センサを1つ設けてもよい。
【0119】
また、上記実施形態では、制御部が、第2状態において、所定期間において第1角速度センサの1次側制御回路と2次側制御回路との機能を入れ替えずに角速度を検出するとともに、第2角速度センサの1次側制御回路と2次側制御回路との機能を入れ替えて角速度を検出し、第1角速度センサによる角速度の検出結果と、第2角速度センサによる角速度の検出結果と、に基づいて、第1角速度センサのバイアス成分を取得する制御を行うように構成されている例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、制御部が、第1状態において、所定期間において第1角速度センサの1次側制御回路と2次側制御回路との機能を入れ替えて角速度を検出するとともに、第2角速度センサの1次側制御回路と2次側制御回路との機能を入れ替えずに角速度を検出し、第1角速度センサによる角速度の検出結果と、第2角速度センサによる角速度の検出結果と、に基づいて、第2角速度センサのバイアス成分を取得する制御を行うように構成されていてもよい。このように構成すれば、1次側制御回路と2次側制御回路との機能を入れ替えないために、機能の入れ替えによるバイアス成分のキャンセル効果が得られない第2角速度センサにおいても、第1角速度センサを利用して、バイアス成分を取得してキャンセルすることができる。その結果、運動状態での角速度をより正確に検出することができる。また、この場合、第2角速度センサは、1次側制御回路と2次側制御回路との機能を入れ替える機能を有していなくてもよい。
【符号の説明】
【0120】
11 振動子
12 1次側制御回路
13 2次側制御回路
36 駆動回路
36a 増幅回路(第1増幅回路)
37 増幅回路(第2増幅回路)
41~44 スイッチ素子
100 方位角姿勢角計測装置
101 制御部
102 電源部
103a 角速度センサ(第1角速度センサ)
103b 角速度センサ(第2角速度センサ)
104a 角速度センサ(第3角速度センサ)
105a 角速度センサ(第3角速度センサ)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12