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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-15
(45)【発行日】2023-12-25
(54)【発明の名称】計測システム、及びその制御方法
(51)【国際特許分類】
   H04L 7/00 20060101AFI20231218BHJP
   G01R 13/20 20060101ALI20231218BHJP
   G01R 13/34 20060101ALI20231218BHJP
【FI】
H04L7/00 500
H04L7/00 080
G01R13/20 N
G01R13/34 B
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020059138
(22)【出願日】2020-03-27
(65)【公開番号】P2021158608
(43)【公開日】2021-10-07
【審査請求日】2022-12-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000006507
【氏名又は名称】横河電機株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】596157780
【氏名又は名称】横河計測株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100188307
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 昌宏
(74)【代理人】
【識別番号】100164471
【弁理士】
【氏名又は名称】岡野 大和
(72)【発明者】
【氏名】渋谷 学
【審査官】阿部 弘
(56)【参考文献】
【文献】特開昭61-093963(JP,A)
【文献】特開2016-061781(JP,A)
【文献】特開2003-254996(JP,A)
【文献】特開平04-143666(JP,A)
【文献】特開2013-072880(JP,A)
【文献】特開2020-027025(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0267036(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04L 7/00
G01R 13/20
G01R 13/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
並列接続された複数台のデジタルオシロスコープを含む計測システムであって、
マスター機は、基準クロックを遅延させるデジタルディレイ機能及びアナログディレイ機能を備えるタイムベース回路を有し、
前記タイムベース回路は、前記デジタルディレイ機能及び前記アナログディレイ機能の少なくとも一方に基づき、前記基準クロックを遅延させ、当該遅延された基準クロックをスレーブ機に供給し、
前記スレーブ機は、前記遅延された基準クロックの遅延時間に基づき、データ取込処理回路へのサンプルデータの取り込みを遅らせる計測システム。
【請求項2】
請求項1に記載の計測システムであって、
前記スレーブ機は、前記遅延時間に相当する長さのサンプル数分遅らせることにより、前記サンプルデータの取り込みを遅らせる計測システム。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の計測システムであって、
前記マスター機は前記基準クロックに同期した基準リセット信号を前記スレーブ機に供給し、
前記マスター機及び前記スレーブ機は、前記基準リセット信号に基づき前記サンプルデータを間引く計測システム。
【請求項4】
請求項1乃至のいずれか一項に記載の計測システムであって、
前記マスター機は、真のトリガ点の直後のサンプル点をサンプルトリガとし、前記真のトリガ点から前記サンプルトリガまでの第1経過時間、前記サンプルトリガからデジタルトリガ信号の立ち上がりまでの第2経過時間、及び前記デジタルトリガ信号の立ち上がりから同期トリガ信号の立ち上がりまでの第3経過時間を算出して真のトリガ点に係るトリガ位相情報を生成し、
前記マスター機は同期トリガ信号、及び前記トリガ位相情報を前記スレーブ機に供給する計測システム。
【請求項5】
並列接続された複数台のデジタルオシロスコープを含む計測システムの制御方法あって、
マスター機が、デジタルディレイ機能及びアナログディレイ機能の少なくとも一方に基づき、基準クロックを遅延させ、当該遅延された基準クロックをスレーブ機に供給するステップと、
前記スレーブ機が前記遅延された基準クロックに基づく遅延時間に応じて、データ取込処理回路へのサンプルデータの取り込みを遅らせるステップと、
を含む制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、複数のデジタルオシロスコープを含む計測システム、及びその制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、複数のデジタルオシロスコープを並列駆動させるシステムが提案されている。例えば特許文献1では、基準クロックを外部から全てのオシロスコープへ、またはマスターのデジタルオシロスコープ(以下、マスター機ともいう)からスレーブのデジタルオシロスコープ(以下、スレーブ機ともいう)へ供給する方法が記載されている。また特許文献2及び3では、基準クロックをマスター機からスレーブ機へと供給する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第2655433号公報
【文献】米国特許出願公開第2011/0267036号明細書
【文献】特開2016-61781号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
基準クロックを外部から全台数へ供給する方法は、基準クロックを外部から全台数へ等長(等遅延)で供給することができれば、並列駆動の同時性が確保できる。しかしながらこの場合、複数のデジタルオシロスコープとは別に、基準クロック源を別途用意する必要がある。また、基準クロックをマスター機からスレーブ機へ供給する方法は、基準クロック源を別途用意する必要がないものの、マスター機からスレーブ機へ供給される基準クロックに遅延が生じる。そのためスレーブ機のサンプルタイミングが、マスター機のサンプルタイミングから基準クロックの遅延分ずれてしまう。特許文献1乃至3に記載の技術では当該基準クロックの遅延について考慮されておらず、並列駆動の同時性が確保できていなかった。すなわち複数台のデジタルオシロスコープを並列駆動させる技術には改善の余地があった。
【0005】
そこで本開示は、複数台のデジタルオシロスコープの並列駆動に係る技術を改善することができる計測システム、及びその制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
幾つかの実施形態に係る計測システムは、
並列接続された複数台のデジタルオシロスコープを含む計測システムであって、
マスター機は、基準クロックをスレーブ機に供給し、
前記スレーブ機は、前記基準クロックの遅延時間に基づき、データ取込処理回路へのサンプルデータの取り込みを遅らせる。
【0007】
このように、幾つかの実施形態に係る計測システムは、マスター機から供給された基準クロックの遅延時間に基づき、スレーブ機がデータ取込処理回路へのサンプルデータの取り込みを遅らせる。そのため並列駆動するデジタルオシロスコープ間の同時性を確保することができる。すなわち複数台のデジタルオシロスコープの並列駆動に係る技術を改善することができる。
【0008】
一実施形態において、前記スレーブ機は、前記遅延時間に相当する長さのサンプル数分遅らせることにより、前記サンプルデータの取り込みを遅らせてもよい。
【0009】
このように、スレーブ機が遅延時間に相当する長さのサンプル数分、サンプルデータの取り込みを遅らせることで、簡素な構成で並列駆動するデジタルオシロスコープ間の同時性を確保することができる。
【0010】
一実施形態において、前記マスター機は、前記基準クロックを遅延させるデジタルディレイ機能及びアナログディレイ機能を備えるタイムベース回路を有し、
前記デジタルディレイ機能及び前記アナログディレイ機能の少なくとも一方に基づき、前記サンプルデータの取り込みを遅らせてもよい。
【0011】
このように、デジタルディレイ機能及びアナログディレイ機能を備えるマスター機のタイムベース回路に基づき基準クロックを遅延させることで、マスター機及びスレーブ機間の遅延時間を調整して、並列駆動するデジタルオシロスコープ間の同時性を確保することができる。
【0012】
一実施形態において、前記マスター機は前記基準クロックに同期した基準リセット信号を前記スレーブ機に供給し、
前記マスター機及び前記スレーブ機は、前記基準リセット信号に基づき前記サンプルデータを間引いてもよい。
【0013】
このように、マスター機及びスレーブ機が基準クロックに同期した基準リセット信号に基づきサンプルデータを間引くことで、サンプリングの同時性を確保することができる。
【0014】
一実施形態において、前記マスター機は、真のトリガ点の直後のサンプル点をサンプルトリガとし、前記真のトリガ点から前記サンプルトリガまでの第1経過時間、前記サンプルトリガからデジタルトリガ信号の立ち上がりまでの第2経過時間、及び前記デジタルトリガ信号の立ち上がりから同期トリガ信号の立ち上がりまでの第3経過時間を算出して真のトリガ点に係るトリガ位相情報を生成し、
前記マスター機は同期トリガ信号、及び前記トリガ位相情報を前記スレーブ機に供給してもよい。
【0015】
このように、マスター機からスレーブ機に同期トリガ信号及びトリガ位相情報を供給することで、並列駆動するデジタルオシロスコープ間のトリガの同時性を確保することができる。
【0016】
幾つかの実施形態に係る計測システムの制御方法は、
並列接続された複数台のデジタルオシロスコープを含む計測システムの制御方法あって、
マスター機が基準クロックをスレーブ機に供給するステップと、
前記スレーブ機が前記基準クロックに基づく遅延時間に応じて、データ取込処理回路へのサンプルデータの取り込みを遅らせるステップと、
を含む。
【0017】
このように、幾つかの実施形態に係る計測システムの制御方法は、マスター機から供給された基準クロックの遅延時間に基づき、スレーブ機がデータ取込処理回路へのサンプルデータの取り込みを遅らせる。そのため並列駆動するデジタルオシロスコープ間の同時性を確保することができる。すなわち複数台のデジタルオシロスコープの並列駆動に係る技術を改善することができる。
【発明の効果】
【0018】
本開示によれば、複数台のデジタルオシロスコープの並列駆動に係る技術を改善する計測システム、及びその制御方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本開示の一実施形態に係る計測システムの概要を示す図である。
図2】本開示の一実施形態に係る計測システムの制御方法の概要を示すフローチャートである。
図3】サンプルデータの取り込みに係る遅延処理の一例を示す図である。
図4】サンプルデータの取り込みに係る遅延処理の別の一例を示す図である。
図5】サンプルデータの取り込みに係る遅延処理のさらに別の一例を示す図である。
図6】デジタルディレイ、アナログディレイ、FIFO23による遅延、および合計遅延調整量を示すテーブルである。
図7】真のトリガ点とサンプルトリガとの関係を示す図である。
図8】サンプルトリガとデジタルトリガ信号との関係を示す図である。
図9】デジタルトリガ信号と同期トリガ信号との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本開示の一実施形態に係る計測システム及びその制御方法について、図面を参照して説明する。
【0021】
各図中、同一又は相当する部分には、同一符号を付している。本実施形態の説明において、同一又は相当する部分については、説明を適宜省略又は簡略化する。
【0022】
図1を参照して、本開示の一実施形態に係る計測システムの概要を説明する。本開示の一実施形態に係る計測システムは、並列接続された複数台のデジタルオシロスコープを含む。図1に示す計測システム1では、マスター機10、スレーブ機20の2台が並列接続されている。なお計測システム1において並列接続されるデジタルオシロスコープの台数は2台に限られず、3台以上であってもよい。
【0023】
マスター機10及びスレーブ機20は、少なくともランダムサンプリング方式で等価サンプルを行うか、又は、時間軸の表示分解能がサンプリング分解能よりも細かくなるように拡大表示するデジタルオシロスコープである。
【0024】
マスター機10は、アナログフロントエンド回路11と、ADコンバータ(ADC)12と、FIFO13と、データ取込処理回路14と、1次メモリ15と、デジタルトリガ回路16と、タイムベース回路17と、CPU(central processing unit)18と、通信インタフェース19とを備える。
【0025】
アナログフロントエンド回路11は、減衰回路及びプリアンプなどを含む。アナログフロントエンド回路11は、アナログ入力信号の振幅がADコンバータ12の入力仕様に対し適切な範囲になるように正規化(調整)して、正規化後のアナログ入力信号をADコンバータ12に出力する。
【0026】
ADコンバータ12は、アナログフロントエンド回路11から受け取った正規化後のアナログ入力信号をデジタルデータに変換して、FIFO13を介してデータ取込処理回路14及びデジタルトリガ回路16に出力する。FIFO13は、入力されたデジタル値を1サンプルデータ単位で遅延させる機能を有する。ここで、サンプルデータとは、ADコンバータ12が、アナログ入力信号を所定のサンプリングクロックでデジタルデータに変換したものを意味する。
【0027】
データ取込処理回路14は、ADコンバータ12からFIFO13を介して受け取ったサンプルデータを、所定のサンプルレートで1次メモリ15に書き込む。所定のサンプルレートは、ユーザが設定したレコード長(データ点数)及び時間軸設定に適合するサンプルレートである。
【0028】
データ取込処理回路14は、サンプルデータの取り込みを開始した後、プリトリガ分のサンプルデータの1次メモリ15への書き込みを終了すると、デジタルトリガ回路16にトリガイネーブル信号を出力する。トリガイネーブル信号を受け取ると、デジタルトリガ回路16はトリガ信号を出力することができるようになる。
【0029】
データ取込処理回路14は、デジタルトリガ回路16からトリガ信号を受け取ると、ポストトリガ分のサンプルデータを1次メモリ15に書き込み、その回のデータ取り込み処理を終了する。
【0030】
1次メモリ15には、少なくとも1つの半導体メモリ、少なくとも1つの磁気メモリ、少なくとも1つの光メモリ、又はこれらのうち少なくとも2種類の組み合わせが含まれる。半導体メモリは、例えば、RAM(random access memory)である。RAMは、例えば、SRAM(static random access memory)又はDRAM(dynamic random access memory)である。1次メモリ15は、例えば、バッファメモリとして機能する。
【0031】
デジタルトリガ回路16は、ADコンバータ12から、FIFO13を介してサンプルデータを取得する。デジタルトリガ回路16は、取得したサンプルデータをデジタルコンパレータで2値化した信号に基づきデジタルトリガ信号を生成する。具体的にはデジタルコンパレータは、例えば、サンプルデータがトリガ閾値より大きい場合に「1」を出力し、サンプルデータがトリガ閾値以下である場合に「0」を出力する。デジタルトリガ回路16は、例えば、デジタルコンパレータから受け取る信号が「0」から「1」に変わる立ち上がりエッジで、デジタルトリガ信号を出力する。ここでデジタルトリガ回路16は、データ取込処理回路14からのトリガイネーブルが入力されている間の最初のトリガ条件成立でトリガをかけ、デジタルトリガ信号をデータ取込処理回路14に出力する。
【0032】
タイムベース回路17は、内部基準クロックで動作し、基準クロック入力に対して同期して動作する機能を有し、ADコンバータ12、FIFO13、データ取込処理回路14、及びデジタルトリガ回路16などに必要なクロックを出力する。マスター機10の場合は基準クロック入力はなく、自ら生成した内部基準クロックのみで動作する。またタイムベース回路17は、スレーブ機20に対して基準クロックを出力する。タイムベース回路17は、スレーブ機20に対する基準クロックの出力を、デジタルディレイ機能及びアナログディレイ機能の少なくともいずれか一方により遅延させることができる。
【0033】
CPU18は、汎用プロセッサ、又は特定の処理に特化した専用プロセッサである。CPU18は、マスター機10の各部を制御しながら、マスター機10の動作に関わる処理を実行する。
【0034】
通信インタフェース19は例えば、GP-IB(General Purpose Interface Bus)、LAN(Local Area Network)インタフェース、USB(Universal Serial Bus)である。マスター機10とスレーブ機20とは、通信インタフェース19を介して通信ケーブルにより接続される。通信インタフェース19は、マスター機10の動作に用いられるデータを受信し、またマスター機10の動作によって得られるデータを送信する。例えば時間軸設定がマスター機10において変更された場合、かかる情報がマスター機10からスレーブ機20に通信インタフェース19を介して送信される。他方で時間軸設定が、スレーブ機20において変更した場合、かかる情報がスレーブ機20からマスター機10に通信インタフェース19を介して送信される。ここで時間軸設定が変更された場合に間引き率が変わることから、間引きのタイミング合わせが必要になる。この場合、双方の間引き率の設定が終わった後で、マスター機10のCPU18はデータ取込処理回路14に間引きタイミングのリセット用の基準リセット信号を発生させる。かかる基準リセット信号は、基準クロックまたはそれに同期した十分遅いクロックに同期した信号で、マスター/スレーブ間で同一のタイミングでリセットがかかることを可能にする。このとき、基準クロックはマスター/スレーブ間のケーブルによる遅延が発生するが、基準リセット信号も基準クロックとほぼ同等の遅延が発生するため、同タイミングでのリセットが可能になる。これによってマスター機10とスレーブ機20との間引きタイミングを合わせることができる。
【0035】
スレーブ機20は、アナログフロントエンド回路21と、ADコンバータ22と、FIFO23と、データ取込処理回路24と、1次メモリ25と、デジタルトリガ回路26と、タイムベース回路27と、CPU28と、通信インタフェース29とを備える。アナログフロントエンド回路21と、ADコンバータ22と、FIFO23と、データ取込処理回路24と、1次メモリ25と、CPU28と、通信インタフェース29は、それぞれマスター機10のアナログフロントエンド回路11と、ADコンバータ12と、FIFO13と、データ取込処理回路14と、1次メモリ15と、CPU18と、通信インタフェース19と同一の機能を備えるため、説明は省略する。
【0036】
デジタルトリガ回路26は、デジタルトリガ回路16と同一の機能を有し、またマスター機10からの同期トリガ信号でトリガがかかる。同期トリガ信号は、サンプリングクロックの整数倍で且つ内部基準クロックに同期した十分遅いクロックで同期化されたトリガ信号である。これにより、マスター機10からスレーブ機20への受け渡しでタイミングマージンが十分に取れ、スレーブ機20に適切に信号を受け渡すことができる。また、トリガの位相情報、すなわちトリガ発生ポイントがサンプリングクロックに対してどの程度ずれているかもマスター機10からスレーブ機20に送られる。ここでマスター機10及びスレーブ機20は共通のトリガがかかる。そのためマスター機10及びスレーブ機20は、トリガイネーブル信号を相互に送信し、マスター機10及びスレーブ機20がいずれもトリガイネーブルになった状態でトリガがかかるようにする。ここでは、例えばマスター機10がトリガを発生してスレーブに信号を渡す。そのためマスター機10は自身のトリガイネーブル及びスレーブ機20のトリガイネーブルのANDを取ったものをトリガイネーブルとして、以降のトリガ条件成立でトリガを発生させる。
【0037】
タイムベース回路27は、マスター機10からの基準クロック入力に対して同期して動作する機能を有し、ADコンバータ22、FIFO23、データ取込処理回路24、及びデジタルトリガ回路26などに必要なクロックを出力する。
【0038】
図2乃至図5を参照して、本実施形態に係る計測システム1の動作を説明する。図2は、本開示の一実施形態に係る計測システム1の制御方法の概要を示すフローチャートである。
【0039】
はじめに、マスター機10がスレーブ機20に基準クロックを供給する(ステップS10)。具体的には、マスター機10のタイムベース回路17が、スレーブ機20に対して基準クロックを出力する。スレーブ機20は当該基準クロックに基づき動作する。具体的にはスレーブ機20のタイムベース回路27は、マスター機10からの基準クロック入力に対して同期して動作し、ADコンバータ22、FIFO23、データ取込処理回路24、及びデジタルトリガ回路26などに必要なクロックを出力する。
【0040】
続いてスレーブ機20は、データ取込処理回路24へのサンプルデータの取り込みを遅延させる(ステップS20)。具体的にはFIFO23が、基準クロックの遅延時間に基づき、入力されたデジタル値を1サンプルデータ単位で遅延させることで、データ取込処理回路24へのサンプルデータの取り込みを遅延させ、マスター機10との同期をとる。これにより、並列駆動するマスター機10とスレーブ機20との動作の同時性を確保することができる。以下、当該サンプルデータの取り込みの遅延処理の具体例を説明する。
【0041】
図3乃至図5に、マスター機10及びスレーブ機20においてそれぞれ入力されるサンプルデータ及び遅延処理の具体例を示す。ここではマスター機10及びスレーブ機20に同一の信号が入力されているとする。マスター機10は、内部基準クロック(以下、Master基準クロックともいう)で動作してサンプリングクロックを生成する。ここでは、サンプリングクロックが2.5GHz(サンプリング周期400ps)であるとする。かかるサンプリングクロックでサンプリングされたデータがADコンバータ12から出力される。ここでは、ADコンバータ12による入出力の最小遅延は0としている。ADコンバータ12からの出力が、FIFO13を介してデータ取込処理回路14に入力される。ここではFIFO13による入出力の最小遅延は0としている。
【0042】
図3は、サンプルデータの取り込みに係る遅延処理の一例を示す図であり、マスター機10とスレーブ機20との間の遅延が10nsの場合を示す。当該遅延は、マスター機10とスレーブ機20との間の通信ケーブル長に基づく。ここで当該遅延時間(10ns)は、図3におけるサンプリング周期(400ps)の整数倍(25倍)である。マスター機10では、Master基準クロックの立ち上がりのタイミングで、サンプリングしたデータ31(マスター機10におけるNo.0のデータ)が、ADコンバータ12、FIFO13を介してデータ取込処理回路14に入力される。
【0043】
スレーブ機20は、マスター機10から供給された基準クロック(以下、Slave基準クロックともいう)で動作してサンプリングクロックを生成する。ここではサンプリングクロックが2.5GHz(サンプリング周期400ps)であるとする。かかるサンプリングクロックでサンプリングされたデータがADコンバータ22から出力される。ここでは、ADコンバータ22による入出力の最小遅延は0としている。ADコンバータ22からの出力が、FIFO23を介してデータ取込処理回路24に入力される。ここではFIFO23による入出力の最小遅延は0としている。ここで仮にスレーブ機20が、Slave基準クロックの立ち上がりのタイミングでサンプリングしたデータ32を取り込んでしまうと、遅延時間分、すなわち10ns遅いタイミングでサンプリングしてしまう。そこで、FIFO23が、データ取込処理回路24への出力を10ns、すなわち25サンプル数分遅らせる。そうするとマスター機10がサンプリングしたのと同一のタイミングのデータ33(スレーブ機20におけるNo.-25のデータ)をサンプルすることができる。つまりここでは、FIFO23が、入力されたデジタル値を25サンプルデータ分遅延させ、データ取込処理回路24へのサンプルデータの取り込みを遅延させる。換言すると、FIFO23が遅延時間に相当する長さのサンプル数分、サンプルデータの取り込みを遅らせる。このようにして並列駆動するマスター機10とスレーブ機20との動作の同時性を確保することができる。
【0044】
図4は、サンプルデータの取り込みに係る遅延処理の別の一例を示す図であり、マスター機10とスレーブ機20との間の遅延が10.2nsの場合を示す。当該遅延は、マスター機10とスレーブ機20との間の通信ケーブル長に基づく。ここで当該遅延時間(10.2ns)は、図4におけるサンプリング周期(400ps)の25.5倍である。またここで、マスター機10のタイムベース回路17のデジタルディレイ機能が0.5クロックの遅延に対応しているとする。まず、マスター機10のタイムベース回路17が、デジタルディレイ機能により、スレーブ機20に供給する基準クロックを0.5クロック(200ps)遅延させる。これにより、スレーブ機20のサンプリングの遅延は10.4ns、すなわち26サンプル数分の遅延となる。そしてFIFO23が、データ取込処理回路24への出力を10.4ns、すなわち26サンプル数分遅らせる。そうすると、マスター機10がサンプリングしたのと同一のタイミングのデータ34(スレーブ機20におけるNo.-26のデータ)をサンプルすることができる。つまりここでは、タイムベース回路17により基準クロックを遅延させ、かつFIFO23が、入力されたデジタル値を26サンプルデータ分遅延させて、データ取込処理回路24へのサンプルデータの取り込みを遅延させる。換言すると、タイムベース回路17がデジタルディレイ機能によりサンプルデータの取り込みを遅らせ、かつFIFO23が遅延時間に相当する長さのサンプル数分、サンプルデータの取り込みを遅らせる。このようにして、並列駆動するマスター機10とスレーブ機20との動作の同時性を確保することができる。
【0045】
図5は、サンプルデータの取り込みに係る遅延処理のさらに別の一例を示す図であり、マスター機10とスレーブ機20との間の遅延が10.15nsの場合を示す。当該遅延は、マスター機10とスレーブ機20との間の通信ケーブル長に基づく。ここで当該遅延時間(10.15ns)は、図5におけるサンプリング周期(400ps)の25.375倍である。またここで、マスター機10のタイムベース回路17のデジタルディレイ機能が0.5クロックの遅延に対応しているとする。また、タイムベース回路17のアナログディレイ機能が150ps分解能であるとする。まず、マスター機10のタイムベース回路17が、デジタルディレイ機能により、スレーブ機20に供給する基準クロックを0.5クロック(200ps)遅延させ、かつ、アナログディレイ機能により、当該基準クロックを450ps(150ps×3)遅延させる。つまりタイムベース回路17が、スレーブ機20に供給する基準クロックを合計で650ps遅延させる。これにより、スレーブ機20のサンプリングの遅延は10.8ns、すなわち27サンプル数分の遅延となる。そしてFIFO23が、データ取込処理回路24への出力を10.8ns、すなわち27サンプル数分遅らせる。そうすると、マスター機10がサンプリングしたのと同一のタイミングのデータ35(スレーブ機20におけるNo.-27のデータ)をサンプルすることができる。つまりここでは、タイムベース回路17により基準クロックを遅延させ、かつFIFO23が、入力されたデジタル値を27サンプルデータ分遅延させて、データ取込処理回路24へのサンプルデータの取り込みを遅延させる。換言するとタイムベース回路17がデジタルディレイ機能及びアナログディレイ機能によりサンプルデータの取り込みを遅らせ、かつFIFO23が遅延時間に相当する長さのサンプル数分、サンプルデータの取り込みを遅らせる。このようにして、並列駆動するマスター機10とスレーブ機20との動作の同時性を確保することができる。
【0046】
このように、デジタルディレイとアナログディレイとの組み合わせによれば、50ps分解能でマスター機10とスレーブ機20とのタイミングを合わせることができる。なお基準リセット信号等の他の信号の取り込みへの影響を最小限に抑えるため、デジタルディレイ及びアナログディレイによる遅延処理は小さくすることが望ましい。
【0047】
図6に、デジタルディレイ、アナログディレイ、FIFO23による遅延、および合計遅延調整量を示すテーブルを示す。合計遅延調整量が400psの倍数の場合、FIFO23による遅延のみで実現可能であり、FIFO23による遅延のみで実現した場合には基準リセット信号等の他の信号の取り込みへの影響を最小限に抑えることができる。他方で、合計遅延調整量が400psの倍数でない場合、デジタルディレイ及びアナログディレイの少なくとも一方により遅延調整を実現することができる。このため、マスター機10からスレーブ機20へ転送する信号は、基準クロックの遅延が0~650psの範囲で変化しても転送可能なタイミングの関係になっていればよい。
【0048】
ここでデータ取込処理回路14及びデータ取込処理回路24が、それぞれADコンバータ12及びADコンバータ22が出力したサンプルデータを間引くことによって遅いサンプルデータでデータを取り込む場合、間引きのタイミングを合わせる必要がある。本実施形態では、マスター機10からスレーブ機20に、基準クロックに同期した基準リセット信号を通信インタフェース19、通信インタフェース29を介して受け渡す。そしてスレーブ機20は、前記基準リセット信号に基づき前記サンプルデータを間引く。つまりマスター機10及びスレーブ機20は、いずれもマスター機10の基準クロックの立ち上がりで間引きタイミングをリセットする。
【0049】
例えば1/10間引き(250MS/s)を行う場合で、マスター機10とスレーブ機20との遅延が10nsである場合、マスター機10は、ADコンバータ12が出力したデータのうち、No.0、10、20・・・のデータを間引く。他方でスレーブ機20は、ADコンバータ22が出力したデータのうち、No.-25、-15、-5・・・のデータを間引く。同様に、1/10間引き(250MS/s)を行う場合で、マスター機10とスレーブ機20との遅延が10.2nsである場合、マスター機10は、ADコンバータ12が出力したデータのうち、No.0、10、20・・・のデータを間引く。他方でスレーブ機20は、ADコンバータ22が出力したデータのうち、No.-26、-16、-6・・・のデータを間引く。同様に、1/10間引き(250MS/s)を行う場合で、マスター機10とスレーブ機20との遅延が10.15nsである場合、マスター機10は、ADコンバータ12が出力したデータのうち、No.0、10、20・・・のデータを間引く。他方でスレーブ機20は、ADコンバータ22が出力したデータのうち、No.-27、-17、-7・・・のデータを間引く。このようにすることで、マスター機10とスレーブ機20との間引きのタイミングを合わせることができる。
【0050】
また、マスター機10とスレーブ機20とのトリガの同時性は、以下の方法で確保することができる。図7は、真のトリガ点とサンプルトリガとの関係を示す図である。2値化信号は、サンプルデータを使用して2値化をしているため、真のトリガ点の直後のサンプル点がサンプルクロック単位でのトリガ点(以下、サンプルトリガともいう。)となる。図7においてTsampleはサンプリングクロックの間隔を示し、Ttは真のトリガ点からサンプルトリガまでの経過時間(以下、第1経過時間ともいう)を示す。真のトリガ点は、サンプルN-1とサンプルNの間にある。そのためTtは0<Tt<Tsampleの範囲の値となる。マスター機10は、例えばサンプルN-1、サンプルNを含む複数のサンプルを通る曲線の近似式とトリガ閾値との交点を算出することにより当該Ttを特定する。
【0051】
図8は、サンプルトリガとデジタルトリガ信号との関係を示す図である。デジタルトリガ回路16はサンプルクロックよりもクロックレートが低く、基準クロックに同期したクロック(以下、デジタルトリガクロックという)で動作する。またデジタルトリガ回路16から出力されるデジタルトリガ信号は、当該デジタルトリガクロックに同期する。図8の例では、サンプルクロックが2.5GHzであり、デジタルトリガクロックが、サンプルクロックの1/16の156.25MHzである場合を示している。デジタルトリガ信号は、図7におけるサンプルトリガの立ち上がり直後のデジタルトリガクロックの立ち上がりのタイミングで立ち上がる。図8においてTdは、サンプルトリガからデジタルトリガ信号の立ち上がりまでの経過時間(以下、第2経過時間ともいう)を示す。マスター機10は、当該Tdを特定する。ここでサンプルトリガ及びデジタルトリガ信号はいずれもサンプルクロックに同期しているため、マスター機10は第2経過時間に相当するサンプル数を計測する。
【0052】
図9は、デジタルトリガ信号と、マスター機10がスレーブ機20に渡す同期トリガ信号との関係を示す図である。同期トリガ信号は、デジタルトリガクロックよりも遅く、基準クロックに同期したクロック(以下、同期クロックという。)で同期をとるようにしている。これにより、マスター機10及びスレーブ機20間を通信ケーブルで接続した場合の遅延による影響を受けないようにすることができる。図9の例では、同期クロックの周波数が、デジタルトリガクロック(156.25MHz)の1/4、すなわち39.0625MHzである場合を示している。なお同期クロックは、基準クロックと同一の周波数であってもよい。同期クロックの周期は、スレーブ機20におけるセットアップタイム及びホールドアップタイムが十分にとれる程度であればよい。同期トリガ信号は、図8におけるデジタルトリガの立ち上がり直後の同期クロックの立ち上がりのタイミングで立ち上がる。図9においてTsyncは、デジタルトリガから同期トリガ信号の立ち上がりまでの経過時間(以下、第3経過時間ともいう)を示す。マスター機10は、当該Tsyncを特定する。ここでデジタルトリガ及び同期トリガ信号はいずれもデジタルトリガクロックに同期しているため、マスター機10は第3経過時間に相当するクロック数を計測する。
【0053】
以上のTt、Td、及びTsyncを加算した時間が、真のトリガ点から同期トリガまでの時間となる。かかる時間は真のトリガ点の同期クロックに対する位相に相当し、真のトリガ点に係る情報(以下、トリガ位相情報という)である。マスター機10は、算出したTt(第1経過時間)、Td(第2経過時間)及びTsync(第3経過時間)に基づき、トリガ位相情報を生成する。そしてマスター機10がスレーブ機20にトリガ位相情報を渡す。マスター機10からスレーブ機20に、このように比較的遅い同期クロックに同期した同期トリガ信号、及び真のトリガ点と同期トリガとの時間情報(トリガ位相情報)を渡すことで、マスター機10からスレーブ機20にトリガ位置を伝達することができる。これによりマスター機10とスレーブ機20のトリガの同時性を確保することができる。
【0054】
このように、本実施形態に係る計測システム1によれば、複数台のデジタルオシロスコープの並列駆動に係る技術を改善することができる。具体的には例えば、マスター機10から供給された基準クロックの遅延時間に基づき、スレーブ機20がデータ取込処理回路24へのサンプルデータの取り込みを遅らせる。そのため並列駆動するデジタルオシロスコープ間の同時性を確保することができる。つまり本実施形態に係る計測システム1によれば、並列駆動するデジタルオシロスコープ間のデータサンプリングのスキューを最小化することができる。
【0055】
また、本実施形態に係る計測システム1によれば、マスター機10が基準クロックに同期した基準リセット信号をスレーブ機20に供給する。マスター機10及びスレーブ機20において遅いサンプルレートでデータを取り込む場合、マスター機10及びスレーブ機20は基準リセット信号に基づきサンプルデータを間引く。そのため、マスター機10とスレーブ機20との間引きのタイミングを合わせることができる。
【0056】
また、本実施形態に係る計測システム1によれば、マスター機10が同期トリガ信号、及び真のトリガ点に係るトリガ位相情報をスレーブ機20に供給する。そのため、マスター機10とスレーブ機20のトリガの同時性を確保することができる。
【0057】
本開示を諸図面及び実施例に基づき説明してきたが、当業者であれば本開示に基づき種々の変形及び修正を行うことが容易であることに注意されたい。したがって、これらの変形及び修正は本開示の範囲に含まれることに留意されたい。例えば、各構成又は各ステップ等に含まれる機能等は論理的に矛盾しないように再配置可能であり、複数の構成又はステップ等を1つに組み合わせたり、或いは分割したりすることが可能である。
【0058】
例えば、マスター機10からスレーブ機20へのトリガ位相情報の伝達方法は、パラレルデータとして伝送してもよく、またはシリアルデータとして伝送してもよい。例えばシリアルデータとして伝送する場合、信号線の本数を減らすことができる。またシリアルデータとして伝送する場合、同期トリガ信号とシリアルデータとを混ぜて伝送することも可能である。1回の取り込みにつき、トリガは1回しか発生せず、またシリアルデータは当該トリガ発生後に確定するためである。例えば、トリガ発生を立ち上がりエッジで知らせる場合、その立ち上がりから特定のクロック数経過後にMSBファーストで特定ビットだけ位相情報を送るなどの伝送仕様が予め定められてもよい。このようにすることで、同期トリガと位相情報とを1本(差動信号の場合は1組)の信号線で伝達することが可能となる。
【符号の説明】
【0059】
1 計測システム
10 マスター機
11 アナログフロントエンド回路
12 ADコンバータ
13 FIFO
14 データ取込処理回路
15 1次メモリ
16 デジタルトリガ回路
17 タイムベース回路
18 CPU
19 通信インタフェース
20 スレーブ機
21 アナログフロントエンド回路
22 ADコンバータ
23 FIFO
24 データ取込処理回路
25 1次メモリ
26 デジタルトリガ回路
27 タイムベース回路
28 CPU
29 通信インタフェース
31~35 データ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9