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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-15
(45)【発行日】2023-12-25
(54)【発明の名称】車両用シート
(51)【国際特許分類】
   B60N 2/427 20060101AFI20231218BHJP
【FI】
B60N2/427
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2020070121
(22)【出願日】2020-04-09
(65)【公開番号】P2021167117
(43)【公開日】2021-10-21
【審査請求日】2022-12-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000133098
【氏名又は名称】株式会社タチエス
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】新道 隆
(72)【発明者】
【氏名】田口 雅之
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 孝行
【審査官】松江 雅人
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-026161(JP,A)
【文献】特開2008-120146(JP,A)
【文献】独国特許出願公開第10219522(DE,A1)
【文献】米国特許出願公開第2006/0290110(US,A1)
【文献】特開2015-209087(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60N 2/42-2/433
B60R 21/207
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シートクッションとシートバックとを備えた車両用シートであって、
前記シートバックは、搭乗者の背中を支持する背もたれ部と、前記背もたれ部の両側に配置されたサイドサポートを有し、
前記背もたれ部の両側に配置された前記サイドサポートの少なくとも一方の側には、サイドエアバッグが内部に設置され、
前記サイドサポートの表面を覆う表皮部のうち前記サイドエアバッグが設置された部分を覆う部分には、前記サイドエアバッグが作動したときに前記表皮部を開裂させる開裂用孔列部が形成されており、
前記開裂用孔列部は、ピッチが狭い第1の孔列部と前記ピッチが狭い第1の孔列部の両側に配置されてピッチが広い第2の孔列部、又は断面積が大きい第1の孔列部と前記断面積が大きい第1の孔列部の両側に配置されて断面積が小さい第2の孔列部、又は長さが長い第1の孔列部と前記長さが長い第1の孔列部の両側に配置されて長さが短い第2の孔列部の何れかが形成されている
ことを特徴とする車両用シート。
【請求項2】
請求項1記載の車両用シートであって、
前記サイドサポートはウレタンパッドと前記ウレタンパッドを覆う前記表皮部とを有し、前記サイドエアバッグは前記サイドサポートの内部で前記ウレタンパッドに覆われて設置され、前記ウレタンパッドの前記サイドエアバッグを覆う部分の一部には切欠部が形成されており、前記ウレタンパッドを覆う前記表皮部の前記切欠部に対応する位置に前記開裂用孔列部が形成されていることを特徴とする車両用シート。
【請求項3】
請求項2に記載の車両用シートであって、
前記ピッチが狭い第1の孔列部が前記切欠部に対向する位置に配置されていることを特徴とする車両用シート。
【請求項4】
請求項2記載の車両用シートであって、前記サイドサポートの前記ウレタンパッドと前記表皮部との間に、前記表皮部よりも強い強度を有する力布を配置し、前記力布の前記表皮部に形成された前記開裂用孔列部に対応する箇所には前記力布を切欠いた切欠窓部が形成され、前記力布は前記切欠窓部の周囲で前記表皮部に接着されていることを特徴とする車両用シート。
【請求項5】
シートクッションとシートバックとを備えた車両用シートであって、
前記シートバックは、搭乗者の背中を支持する背もたれ部と、前記背もたれ部の両側に配置されたサイドサポートを有し、
前記背もたれ部の両側に配置された前記サイドサポートの少なくとも一方の側には、サイドエアバッグが内部に設置され、
前記サイドサポートの表面を覆う表皮部のうち前記サイドエアバッグが設置された部分を覆う部分には、前記サイドエアバッグが作動したときに前記表皮部を開裂させる開裂用孔列部が形成されており、
前記表皮部は表皮部材と前記表皮部材の裏側にワディングを張り付けた構成を有し、前記開裂用孔列部は、前記表皮部に前記ワディングの側からレーザを照射して前記表皮部材に形成した貫通孔により構成されていることを特徴とする車両用シート。
【請求項6】
シートクッションとシートバックとを備えた車両用シートであって、
前記シートバックは、搭乗者の背中を支持する背もたれ部と、前記背もたれ部の両側に配置されたサイドサポートを有し、
前記背もたれ部の両側に配置された前記サイドサポートの少なくとも一方の側には、サイドエアバッグが内部に設置され、
前記サイドサポートの表面を覆う表皮部のうち前記サイドエアバッグが設置された部分を覆う部分には、前記サイドエアバッグが作動したときに前記表皮部を開裂させる開裂用孔列部が形成されており、
前記開裂用孔列部は、前記表皮部に形成された前記表皮部の他の部分よりも薄い帯状の溝部に形成されていることを特徴とする車両用シート。
【請求項7】
請求項又はに記載の車両用シートであって、
前記サイドサポートはウレタンパッドと前記ウレタンパッドを覆う前記表皮部とを有し、前記サイドエアバッグは前記サイドサポートの内部で前記ウレタンパッドに覆われて設置され、前記ウレタンパッドの前記サイドエアバッグを覆う部分の一部には切欠部が形成されており、前記ウレタンパッドを覆う前記表皮部の前記切欠部に対応する位置に前記開裂用孔列部が形成されていることを特徴とする車両用シート。
【請求項8】
シートクッションとシートバックとを備えた車両用シートであって、
前記シートバックは、搭乗者の背中を支持する背もたれ部と、前記背もたれ部の両側に配置されたサイドサポートを有し、
前記背もたれ部の両側に配置された前記サイドサポートの少なくとも一方の側には、サイドエアバッグが内部に設置され、
前記サイドサポートの表面を覆う表皮部のうち前記サイドエアバッグが設置された部分を覆う表皮部には、前記表皮部を引っ張ったときに応力が集中するように形成された第1の孔列部と前記第1の孔列部に連なって配置されて前記第1の孔列部が開裂したときに応力が集中するように形成された第2の孔列部が形成されていることを特徴とする車両用シート。
【請求項9】
請求項8記載の車両用シートであって、前記第1の孔列部と前記第2の孔列部は、前記第1の孔列部がピッチが狭く形成されて前記第2の孔列部は前記第1の孔列部の両側に配置されてピッチが広く形成され、又は前記第1の孔列部は断面積が大きく前記第2の孔列部は前記第1の孔列部の両側に配置されて断面積が小さく、又は前記第1の孔列部は長さが長く前記第2の孔列部は前記第1の孔列部の両側に配置されて長さが短く形成されており、前記第1の孔列部と前記第1の孔列部の両側に配置された前記第2の孔列部とは、略コの字形状に形成されていることを特徴とする車両用シート。
【請求項10】
請求項8または9に記載の車両用シートであって、前記サイドサポートはウレタンパッドと前記ウレタンパッドを覆う前記表皮部とを有し、前記サイドエアバッグは前記サイドサポートの内部で前記ウレタンパッドに覆われて設置され、前記サイドサポートの前記ウレタンパッドと前記表皮部との間に、前記表皮部よりも強い強度を有する力布を配置し、前記力布の前記表皮部に形成された前記第1の孔列部と前記第2の孔列部に対応する箇所には前記力布を切欠いた切欠窓部が形成され、前記力布は前記切欠窓部の周囲で前記表皮部に接着されていることを特徴とする車両用シート。
【請求項11】
請求項8または9に記載の車両用シートであって、前記表皮部は表皮部材と前記表皮部材の裏側にワディングを張り付けた構成を有し、前記第1の孔列部と前記第2の孔列部は、前記表皮部に前記ワディングの側からレーザを照射して前記表皮部材に形成した貫通孔により構成されていることを特徴とする車両用シート。
【請求項12】
請求項8又は9に記載の車両用シートであって、前記第1の孔列部と前記第2の孔列部は、ミシン目で形成されていることを特徴とする車両用シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エアバッグを内蔵したシートバックを備えた車両用シートに関する。
【背景技術】
【0002】
車両用シートのシートバックのアウタ側部にエアバッグを内蔵し、衝突等の発生時に、トリムカバーの所定箇所の開裂を伴ってエアバッグをシートバックに搭乗している搭乗者の側部に膨出させることにより、乗員をドア等の壁面から保護するサイドエアバッグ内蔵シートのシートパッドの構成が、自動車等のシートにおいて知られている。
【0003】
エアバッグは、インフレータから噴出したガスによる膨張により、トリムカバーの開裂部位、一般的にはトリムカバーの一部を他の部分と比べて開裂しやすいように縫合して形成した縫合部を開裂させて、シートバック前方外部に膨出し展開される。
【0004】
例えば、特許文献1には、サイドエアバッグが内蔵された部分の表面を覆う表皮の一部に破断用縫製部を形成し、サイドエアバッグが作動して膨張展開するときに、表皮をこの破断用縫製部で開裂させることによりシートバックに着座している搭乗者の側へ向けて膨張展開させる構成について記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2016-88154号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載されているように、サイドエアバッグの表面を覆うトリムカバーに、他の部分と比べて開裂しやすい破断用縫製部を形成することにより、サイドエアバッグが作動して膨張展開したときに、破断用縫製部で確実に表皮部(トリムカバー)を開裂させて、エアバッグを搭乗者の側部に膨出させることができる。
【0007】
しかし、シートバックには、表側の面を覆う表皮部(トリムカバー)と側面を覆う表皮部(トリムカバー)とを縫合する縫製部に加えて、破断用縫製部を、それ以外の縫製部よりも開裂しやすいような特殊な縫合の仕方で形成しなければならず、その分加工工程数や材料費が増えて、シートバックのコスト低減のネックになっていた。
【0008】
本発明は、上記した従来技術の課題を解決して、加工工程数や材料費の増加につながらない構成でトリムカバーを所定の個所で確実に開裂させことを可能にする構成を有する車両用シートを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記した課題を解決するために、本発明では、シートクッションとシートバックとを備えた車両用シートにおいて、シートバックは、搭乗者の背中を支持する背もたれ部と、この背もたれ部の両側に配置されたサイドサポートを有し、背もたれ部の両側に配置されたサイドサポートの少なくとも一方の側には、サイドエアバッグが内部に設置され、サイドサポートの表面を覆う表皮部のうちサイドエアバッグが設置された部分を覆う部分には、サイドエアバッグが作動したときに表皮部を開裂させる開裂用孔列部を形成した。
【0010】
また、上記した課題を解決するために、本発明では、シートクッションとシートバックとを備えた車両用シートにおいて、シートバックは、搭乗者の背中を支持する背もたれ部と、この背もたれ部の両側に配置されたサイドサポートを有し、背もたれ部の両側に配置されたサイドサポートの少なくとも一方の側には、サイドエアバッグが内部に設置され、サイドサポートの表面を覆う表皮部のうちサイドエアバッグが設置された部分を覆う表皮部には、表皮部を引っ張ったときに応力が集中するように形成された第1の孔列部とこの第1の孔列部に連なって配置されて第1の孔列部が開裂したときに応力が集中するように形成された第2の孔列部とを形成した。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、サイドエアバッグが作動し膨張展開してウレタンパッドが切欠部で破断したときに、表皮部材を、孔列部が形成された領域に応力を集中させることで孔列部が形成された領域で確実に開裂させることができ、特許文献1に記載された従来技術のように、特殊な縫製方法を必要とする破断用縫製部を形成する必要がなくなり、サイドサポートを形成するための加工組立の工程数を減らすことができるとともに、材料費を減らすことも可能になった。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の実施例1に係る車両用シートの外観を示す斜視図である。
図2】本発明の実施例1に係る車両用シートの図1におけるA-A断面矢視図である。
図3】本発明の実施例1に係る車両用シートの図2において円Bで囲んだ部分の拡大図である。
図4】本発明の実施例1に係る車両用シートのシートバックのサイドサポートを図2におけるC-C方向から見た正面図である。
図5】本発明の実施例1に係る車両用シートの表皮部の部分断面図である。
図6】本発明の実施例1に係る車両用シートの表皮部にレーザを照射した状態を示すトリムカバーの部分断面図である。
図7】本発明の実施例1に係る車両用シートの表皮部にレーザを照射してワディング部材に孔を形成した状態を示す表皮部の部分断面図である。
図8】本発明の実施例1に係る車両用シートの表皮部にレーザを照射して表皮部材にも孔を形成した状態を示す表皮部の部分断面図である。
図9】本発明の実施例1に係る車両用シートの表皮部にレーザを照射してワディング部材に溝を形成し、表皮部材に孔を形成した状態における表皮部を裏面から見た正面図である。
図10】本発明の実施例1の変形例1に係る車両用シートの表皮部にレーザを照射してワディング部材に溝を形成し、表皮部材にピッチの異なる孔を形成した状態におけるトリムカバーを裏面から見た正面図である。
図11】本発明の実施例1の変形例1に係る車両用シートの表皮部にレーザを照射してワディング部材に溝を形成し、表皮部材に長さの異なる孔(スリット)を形成した状態におけるトリムカバーを裏面から見た正面図である。
図12】本発明の実施例1の変形例2に係る車両用シートの表皮部にレーザを照射してワディング部材に溝を形成し、更にレーザを照射して露出した表皮部材に厚さの薄い部分を帯状に形成し、この帯状に形成した厚さの薄い部分にレーザを照射して長さL1の範囲にわたって孔列を形成した状態を、トリムカバーを裏面から見た正面図である。
図13】本発明の実施例1の変形例2に係る車両用シートにおいて、図12に示した表皮部のD-D断面矢視図である。
図14】本発明の実施例2に係る車両用シートの表皮部にミシン目を形成する工程を説明する図で、表皮部に向けてミシンの針が下降している状態を示す表皮部の断面図である。
図15】本発明の実施例2に係る車両用シートの表皮部にミシン目を形成する工程を説明する図で、ミシンの針が表皮部に突き刺さった状態を示す表皮部の断面図である。
図16】本発明の実施例2に係る車両用シートの表皮部にミシン目を形成する工程を説明する図で、ミシンの針が表皮部に突き刺さったのちに上昇して表皮部から抜けて、表皮部にミシン目(孔)が形成された状態を示す表皮部の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、サイドエアバッグの表面を覆う表皮部(トリムカバー)に、特許文献1に記載されているような、他の部分と比べて開裂しやすい破断用縫製部を形成する代わりに、表皮部(トリムカバー)に多数の微細な孔を線状に加工して孔列を形成し、サイドエアバッグが作動して膨張展開したときに、この表皮部(トリムカバー)に線状に加工した孔列の部分に応力を集中させて、この孔列の部分で表皮部(トリムカバー)を確実に開裂させてサイドエアバッグをスムーズに膨張展開させることができるような構成にしたものである。
【0014】
以下に、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。本実施の形態を説明するための全図において同一機能を有するものは同一の符号を付すようにし、その繰り返しの説明は原則として省略する。
【0015】
ただし、本発明は以下に示す実施の形態の記載内容に限定して解釈されるものではない。本発明の思想ないし趣旨から逸脱しない範囲で、その具体的構成を変更し得ることは当業者であれば容易に理解される。
【実施例1】
【0016】
以下に、本発明の実施例を、図を用いて説明する。
図1は、本実施例に係る車両用シート1の外観を示す斜視図である。本実施例に係る車両用シート1は、搭乗者が着座するシートクッション2.シートクッション2に着座した搭乗者の背中をささえるシートバック3、搭乗者の頭部を支持するヘッドレスト4を備えている。
【0017】
シートクッション2は、搭乗者が着座する座部21と、境界部23を挟んで座部21の両側にサイドサポート22を備えている。シートバック3は、着座した搭乗者が背をもたれかける背もたれ部31と、境界部7を挟んで背もたれ部31の両側にサイドサポート32を備えている。
【0018】
また、シートバック3のサイドサポート32の内部には、サイドエアバッグ5が装着されており、このサイドエアバッグ5を覆うサイドサポート32の表面には、サイドエアバッグ5が作動したときにサイドサポート32の表面が開裂しやすいように、多数の孔を列上に配置した孔列からなる開裂用孔列部6が形成されている。
【0019】
図1におけるシートバック3のサイドサポート32の部分のA-A断面矢視図を図2に示す。図2において、81は、シートバック3のフレームを構成するフレームパイプ、82は、フレームパイプ81に溶接などにより接続されている金属製のプレート、5はサイドエアバッグで金属製のプレート82にねじなどで固定されている。321はウレタンパッドで、背もたれ部31からサイドサポート32にかけて、一体で形成されている。
【0020】
331は、背もたれ部31の側でウレタンパッド321の表面を覆う表皮部(トリムカバー)、332は、サイドサポート32の側でウレタンパッド321の表面を覆う表皮部(トリムカバー)、333は、シートバック3の裏面を覆う表皮部(トリムカバー)である。
【0021】
表皮部332の裏面でウレタンパッド321との間には、サイドエアバッグ5が作動したときに、開裂用孔列部6以外の部分の表皮部332が破れないように、表皮部332よりも強い強度(引張り強度)を有して表皮部332よりも破れにくい力布34が取り付けられている。
【0022】
境界部7において、ウレタンパッド321に形成された溝部71の内部において、背もたれ部31の側の表皮部331と、サイドサポート32の側の表皮部332及び力布34が柔軟な樹脂部材で形成されたつり込み部72を挟んで縫合された状態で、つり込み部72が溝部71の底面に接着剤で接着され、固定されている。
【0023】
境界部70においても、境界部7と同様に、ウレタンパッド321に形成された溝部701の内部において、サイドサポート32の側の表皮部332と力布34とがシートバック3の裏面を覆う表皮部333と一緒に、柔軟な樹脂部材で形成されたつり込み部702を挟んで縫合された状態で、つり込み部702が溝部701の底面に接着剤で接着され、固定されている。
【0024】
図3には、図2における円Bで囲んだ部分を拡大した図を示す。
ウレタンパッド321のサイドエアバッグ5の端部に対向する位置には、切欠部322が形成されている。サイドエアバッグ5が作動して膨張展開したときに、この切欠部322に応力が集中して切欠部322でウレタンパッド321が破断しやすい構造になっている。ウレタンパッド321の切欠部322の位置に対応する表皮部332には、開裂用孔列部6が形成されている。
【0025】
力布34は、境界部7から境界部70にかけて、表皮部332とウレタンパッド321との間に挟まれている。力布34の表皮部332の開裂用孔列部6が形成された領域に対応する部分には、図2におけるC-C矢視図として図4に示すように、開裂用孔列部6が形成された領域を囲むようにして除去されて、切欠窓部341が形成されている。力布34は、境界部7の溝部71の内部と境界部70の溝部701の内部において、それぞれ表皮部332と一緒につり込み部72又は702に縫合されている。
【0026】
力布34は、切欠窓部341の周囲で、接着剤で表皮部332に接着されている。これにより、サイドエアバッグ5が作動して膨張展開したときに表皮部332に係る力のうち、ウレタンパッド321との間に力布34を挟んでいる部分においては力布34がこの力を受けるので、この部分において表皮部332は破れにくい。
【0027】
一方、切欠窓部341の内部の力布34で覆われていない部分においては、サイドエアバッグ5が作動して膨張展開したときの力が表皮部332に直接かかる。表皮部332のこの部分には、開裂用孔列部6が形成されているので、表皮部332に係った力により、この開裂用孔列部6に応力の集中が発生する。
【0028】
図4に示すように、表皮部332の開裂用孔列部6は、サイドサポート32の側面の側を正面から見たときに、サイドエアバッグ5が収納された領域を囲むようにして3つの辺を有する略コの字形状に形成されている。開裂用孔列部6は、長さL1の範囲で狭いピッチの孔61が形成された領域(狭ピッチ領域)と、この狭いピッチの孔61が形成された領域の両側に、それぞれ長さL2の範囲で広いピッチの孔62が(狭いピッチの孔61における孔のピッチの2-5倍)で形成された領域(広ピッチ領域)とで形成されている。
【0029】
そして、狭いピッチの孔61が、図3に示すようにウレタンパッド321の切欠部322に対向する位置に配置するように表皮部332をサイドサポート32に組み付ける。
【0030】
このように、表皮部332をサイドサポート32に組付けることにより、サイドエアバッグ5が作動し膨張展開してウレタンパッド321が切欠部322で破断したときに、開裂用孔列部6の狭いピッチの孔61に応力を集中させるようにした。
【0031】
このような構成とすることにより、サイドエアバッグ5が作動したときに、表皮部332の狭いピッチの孔61が形成された部分に応力が集中し,まず、この狭いピッチの孔61が形成された部分が断裂する。次に、この狭いピッチの孔61が形成された領域の両側に、それぞれ長さL2の範囲で形成された広いピッチの孔62が形成された部分が断裂する。
【0032】
このように、表皮部332を、応力が集中する狭いピッチの孔61から先に開裂させ、次に狭いピッチの孔61の両脇に形成された広いピッチの孔62が開裂させるようにして、表皮部332の同じ位置から確実に開裂が始まるようにした。これにより、膨張展開したサイドエアバッグ5を、確実に開裂用孔列部6を突き破って瞬時に外部へ飛出して展開させることで、シート1に着座している搭乗者とドアの間に介在することが可能になり、搭乗者を衝撃から保護することができる。
【0033】
次に、図5乃至8を用いて、表皮部332に開裂用孔列部6を形成する手順を説明する。
【0034】
図5は、表皮部332の断面構造を示す。表皮部(トリムカバー)332は、表側に表皮部材301を配置し、その裏側(ウレタンパッド321に接する側)にワディング302を積層して構成されている。表皮部材301は、比較的硬い合皮材料で形成されている。
【0035】
図6は、ワディング302に、レーザ光源90からレーザ91を照射している状態を示している。ここで、レーザ光源90としては、パルスレーザを発射するパルスレーザ光源を用いる。この時のレーザ光源90から発射されるレーザのパワーは、ワディング302のある領域に所定の時間(所定のパルス数)照射した時にワディング302を溶融させるのに十分なパワーであり、且つ、表皮部材301に同じ条件で所定の時間(所定のパルス数)照射しても表皮部材301を溶融するのには不十分なパワーに調整されている。以下、これを第1の照射条件と記す。
【0036】
図7は、レーザ光源90からレーザ91を第1の照射条件で所定の時間(所定のパルス数)走査しながら照射してワディング302を溶融して一部を気化させることにより、ワディング302の一部に溝部311を形成した状態を示している。レーザ91をワディング302に溝部311の幅に相当する範囲で図7における上下方向に走査して照射しながら図7の紙面に垂直な方向に移動(走査)させることにより、溝部311が図7の紙面に垂直な方向に沿って連続的に形成される。
【0037】
この時、レーザ91は第1の照射条件に設定され、一定の走査速度で表皮部材301に同じ所定の時間(所定のパルス数)照射しても合皮で形成された表皮部材301を溶融するのには不十分なパワーに調整されている。従って、第1の照射条件に設定されたレーザ91を照射することにより、ワディング302の一部が溶融・気化して溝部311が形成されるが、この溝部311において露出した表皮部材301は、そのままの状態で残っている。
【0038】
次に、図8に示すように、ワディング302に形成した溝部311の内部で表皮部材301が露出した領域の一部に、レーザ91をワディング302を溶融させたときよりも遅い走査速度で狭い範囲に走査しながら照射して表皮部材301を溶融させて、表皮部材301に微小な開裂用孔列部6を形成する(以下、これを第2の照射条件と記す)。
【0039】
この第2の照射条件でレーザ91を狭い範囲に走査しながら照射することを、レーザを溝部311に沿ってピッチ送りして、溝部311の表皮部材301が露出した領域に離散的に順次行う。これにより、レーザ91が照射された領域の表皮部材301が溶融除去されて、表皮部材301には、微小な開裂用孔列部6が離散的に複数形成される。
【0040】
ここで、第2の照射条件に設定したレーザ91をワディング302に形成された溝部311に沿ってピッチ送りする距離を変えることにより、表皮部材301に離散的に形成される開裂用孔列部6の間隔を変えることができる。表皮部332を裏面のワディング302が形成された側から見た図9の平面図に示すように、ワディング302に形成された溝部311に沿って、表皮部材301に複数の微小な開裂用孔列部6として、ピッチP1で形成された狭いピッチの孔61と、ピッチP2で形成された広いピッチの孔62とを線状に形成することができる。
【0041】
このようにして形成したピッチP1で形成された狭いピッチの孔61が、図2及び図3に示すように、ウレタンパッド321に形成した切欠部322の先端部分に対向する部分に位置するように、表皮部332をサイドサポート32に組み付ける。
【0042】
これにより、サイドエアバッグ5が作動し膨張展開してウレタンパッド321が切欠部322で破断したときに、表皮部332では、開裂用孔列部6の狭いピッチの孔61が形成された領域に応力が集中して狭いピッチの孔61が形成された領域から先に開裂させ、次に狭いピッチの孔61が形成された領域の両脇に形成した広いピッチの孔62が形成された領域を開裂する。その結果、サイドエアバッグ5をスムーズに膨張展開させることができる。
【0043】
なお、上記に説明した実施例では、サイドエアバッグ5を背もたれ部31の両側に配置されたサイドサポート32の内の一方のサイドサポート32に設けた例を示すたが、本発明はこれに限られず、背もたれ部31の両側のサイドサポート32それぞれにサイドエアバッグ5を配置し、それぞれの表皮部332に開裂用孔列部6を形成するようにしてもよい。
【0044】
本実施例によれば、サイドエアバッグ5が作動し膨張展開してウレタンパッド321が切欠部322で破断したときに、表皮部材301を、狭いピッチの孔61が形成された領域でまず開裂させ、次に狭いピッチの孔61の両脇に形成した広いピッチの孔62が形成された領域を開裂させる。これにより、特許文献1に記載された従来技術のように、破断用縫製部を形成する必要がなくなり、サイドサポート32を形成するための加工組立の工程数を減らすことができるとともに、材料費を減らすことも可能になった。
【0045】
[変形例1]
上記した実施例においては、同じ大きさの孔を孔間のピッチを変えて形成することにより、開裂しやすい領域を形成した。これに対して、本変形例1においては、孔の断面積を変えて形成した。
【0046】
すなわち、本変形例1においては、図10に示すように、孔610として、長さL1の範囲には断面積が比較的大きい孔611を形成し、長さL2の範囲には断面積が比較的小さい孔612を形成した。断面積が比較的大きい孔611の断面積は、断面積が比較的小さい孔612の断面積の2-5倍程度である。
【0047】
ここで、長さL1の範囲に形成する断面積が比較的大きい孔611のピッチと、長さL2の範囲に形成する断面積が比較的小さい孔612のピッチとは、同じであってもよく、また、長さL1の範囲に形成する断面積が比較的大きい孔611のピッチが長さL2の範囲に形成する断面積が比較的小さい孔612のピッチよりも狭くなるように形成してもよい。
【0048】
長さL1の範囲に形成する断面積が比較的大きい孔611のピッチを長さL2の範囲に形成する断面積が比較的小さい孔612のピッチよりも狭くなるように形成することにより、長さL1の範囲に形成する断面積が比較的大きい孔611の近辺に応力をより集中させることができ、サイドエアバッグ5が作動し膨張展開してウレタンパッド321が切欠部322で破断したときに、断面積が比較的大きい孔611が形成された長さL1の領域における開裂の発生を、より確実にすることができる。
【0049】
上記した説明では、断面積が比較的大きい孔611及び断面積が比較的小さい孔612として説明したが、図11に示すように、孔620として、長さL1の範囲に、孔620の並びの方向(L1の方向)に比較的長い孔(スリット)621を形成し、長さL2の範囲に、孔620の並びの方向(L2の方向)に比較的短い孔(スリット)622を形成するようにしてもよい。孔(スリット)621の長さは、孔(スリット)622の長さの2-5倍程度である。
【0050】
ここで、隣接する孔(スリット)621の間の寸法を、隣接する孔(スリット)622の間の寸法と同じかまたは小さくなるように設定することにより、長さL1の範囲に形成する孔(スリット)621の近辺に応力をより集中させることができ、サイドエアバッグ5が作動し膨張展開してウレタンパッド321が切欠部322で破断したときに、孔(スリット)621が形成された長さL1の領域からその両側の孔(スリット)622が形成された長さL2の領域にかけての開裂の発生を、より確実にすることができる。
[変形例2]
実施例1及び変形例1においては、L1の範囲とL2の範囲それぞれに穴を形成したが、本変形例では、L2の範囲には穴を形成せずに、L1の範囲だけに実施例1で説明した孔61、又は変形例1で説明した孔611または621を形成した例を説明する。
【0051】
本変形例2においては、実施例1で図5乃至図7を用いて説明したのと同様に、ワディング302にレーザ光源90からレーザ91を第1の照射条件で所定の時間(所定のパルス数)走査しながら照射してワディング302を溶融して一部を気化させることにより、ワディング302の一部に溝部311を形成する。
【0052】
次に、L1の範囲からL2の範囲にかけてレーザ91を第3の照射条件で連続的に照射して表皮部材301を穴が開かない程度に溶融させることにより、表皮部材301のレーザ91を第3の照射条件で照射した部分の厚さが、レーザ91を照射していない部分に厚さと比べて薄くなるようにする。
【0053】
次に、レーザ91が照射されて薄くなった表皮部材301に対して、実施例1におけるL1に相当する範囲にレーザを照射して、実施例1における孔61、又は変形例1における孔611,621に相当する穴631を形成する。
【0054】
本変形例2における表皮部332を裏面のワディング302が形成された側から見た平面図を図12に、D-D断面矢視図を図13に示す。ワディング302に形成された溝部311に沿って、表皮部材301にレーザ91を第3の照射条件で照射することにより表皮部材301に厚さの薄い領域312が帯状に形成されており、ピッチP1で形成された孔631が、実施例1で説明したL1の範囲に亘って形成されている。
【0055】
本変形例によれば、表皮部材301に帯状に形成された厚さの薄い領域312に応力が集中し、その中でも、ピッチP1で形成された孔631の部分に応力が集中しやすくなる。これにより、サイドエアバッグ5が作動し膨張展開してウレタンパッド321が切欠部322で破断したときに、まず孔631の部分から破断し、次に表皮部材301に帯状に形成された厚さの薄い領域312が破断することにより、孔631が形成された長さL1の領域からその両側の表皮部材301が帯状に形成された厚さの薄い領域312が形成された長さL2の領域にかけての開裂の発生を、より確実にすることができる。
【実施例2】
【0056】
実施例1においては、レーザを照射して表皮部材301に開裂用孔列部6を形成したが、本実施例においては、ミシンの針を用いて孔(ミシン目)を形成する例について説明する。実施例1で説明した図1乃至図4に示した構成は本実施例であっても同じであるので、その説明を省略する。
【0057】
本実施例においては、実施例1において図4を用いて説明したような開裂用孔列部6に相当する開裂用孔列部630を、ミシンの針を用いて、ミシン目として形成する。
【0058】
本実施例により表皮部材301に開裂用孔列部630を形成する方法について、図14乃至図16を用いて説明する。図14乃至図16に示した表皮部332の断面構造は、実施例1において図5を用いて説明した表皮部332の断面構造と同じであり、表側(上側)に表皮部材301を配置し、その裏側(ウレタンパッド321に接する側)にワディング302を積層して構成されている。表皮部材301は、比較的硬い合皮材料で形成されている。
【0059】
このような構成の表皮部332に対して図示していないミシンを用いて、図14に示すように、その針210を糸が装着されていない状態で下降させる。
【0060】
図15は、針210が下降して表皮部332に突き刺され、表皮部材301を貫通してワディング302に達した状態を示している。
【0061】
さらに図示していないミシンを駆動させると、図16に示すように、針210は上昇して表皮部332から離れる。この状態において、比較的柔らかい材料で形成されたワディング302の部分においては針210が突き刺された跡は見えなくなっているが、比較的硬い合皮材料で形成されている表皮部材301には、針210が貫通したことにより開裂用孔列部630が形成される。
【0062】
ここで、図示していないミシンによる表皮部332の送りピッチを調整することにより、ミシン目による開裂用孔列部630として、図4に示したように、長さL1の範囲で狭いピッチの孔61を形成し、この狭いピッチの孔61が形成された領域の両側に、それぞれ長さL2の範囲で広いピッチの孔62(狭いピッチの孔61における孔のピッチの2-5倍)を形成することができる。
【0063】
本実施例によれば、サイドエアバッグ5が作動し膨張展開してウレタンパッド321が切欠部322で破断したときに、表皮部材301を、狭いピッチの孔61が形成された領域でまず開裂させ、次に狭いピッチの孔61の両脇に形成した広いピッチの孔62が形成された領域を開裂させる。これにより、特許文献1に記載された従来技術のように、破断用縫製部を形成する必要がなくなり、サイドサポート32を形成するための加工組立の工程数を減らすことができるとともに、材料費を減らすことも可能になった。
【0064】
以上、本発明者によってなされた発明を実施例に基づき具体的に説明したが、本発明は前記実施例に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることは言うまでもない。例えば、上記した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【符号の説明】
【0065】
1 車両用シート
2 シートクッション
3 シートバック
31 背もたれ部
311 溝部
312 厚さの薄い領域
32 サイドサポート
321 ウレタンパッド
322 切欠部
331,332,333 表皮部
34 力布
341 切欠窓部
5 サイドエアバッグ
6 開裂用孔列部
61 狭いピッチの孔
62 広いピッチの孔
611 断面積が比較的大きい孔
612 断面積が比較的小さい孔
621 比較的長い孔(スリット)
622 比較的短い孔(スリット)
631 孔
630 開裂用孔列部
90 レーザ光源
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16