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特許7404144多孔質ガラス微粒子体の製造方法および光ファイバ母材の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-15
(45)【発行日】2023-12-25
(54)【発明の名称】多孔質ガラス微粒子体の製造方法および光ファイバ母材の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C03B 37/018 20060101AFI20231218BHJP
   C03B 8/04 20060101ALI20231218BHJP
【FI】
C03B37/018 C
C03B8/04 A
C03B8/04 C
C03B37/018 A
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020074696
(22)【出願日】2020-04-20
(65)【公開番号】P2021172531
(43)【公開日】2021-11-01
【審査請求日】2022-12-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000005186
【氏名又は名称】株式会社フジクラ
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100126882
【弁理士】
【氏名又は名称】五十嵐 光永
(74)【代理人】
【識別番号】100160093
【弁理士】
【氏名又は名称】小室 敏雄
(74)【代理人】
【識別番号】100169764
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 雄一郎
(72)【発明者】
【氏名】井村 公子
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 信敏
【審査官】酒井 英夫
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/240232(WO,A1)
【文献】特開2019-137602(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03B 8/04,37/018
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
可燃性を有する原料ガスおよび酸素を含む予混合ガスをバーナに供給し、前記予混合ガスを前記バーナの出口で燃焼させることで生成されたガラス微粒子を出発部材に堆積させてスートを形成する堆積工程と、
前記予混合ガスに含まれる原料ガスの流量を減少させることで、前記予混合ガスにおける前記原料ガスの前記酸素に対する混合比を低下させて燃焼不可領域内とし、前記出口におけるガラス微粒子の生成を停止する生成停止工程と、を有し、
前記生成停止工程において、前記混合比が前記燃焼不可領域に到達する時点で、前記出口における前記予混合ガスの噴出速度V1と前記予混合ガスの燃焼速度V2との速度差ΔV(=V1-V2)がゼロ以上であり、
前記生成停止工程において、前記混合比を前記堆積工程における値から減少させてゼロとなるまでの時間が10秒以内である、多孔質ガラス微粒子体の製造方法。
【請求項2】
前記予混合ガスには、不活性のキャリアガスが含まれる、請求項1に記載の多孔質ガラス微粒子体の製造方法。
【請求項3】
前記生成停止工程において、原料供給ラインに設けられた弁を閉じることで、前記混合比をゼロとする、請求項1または2に記載の多孔質ガラス微粒子体の製造方法。
【請求項4】
請求項1からのいずれか1項に記載の製造方法により得られた多孔質ガラス微粒子体を焼結させる工程を有する、光ファイバ母材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔質ガラス微粒子体の製造方法および光ファイバ母材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、原料ガスをバーナから噴出させて火炎中で反応させ、生成されたガラス微粒子を出発部材に堆積させて多孔質ガラス微粒子体を製造する方法が開示されている。多孔質ガラス微粒子体に焼結処理等を施すことで、光ファイバ母材が得られる。一般的に、原料ガスとしては、四塩化ケイ素(SiCl)が用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2013-249232号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
四塩化ケイ素を反応させると塩酸が生じるため、環境負荷や処理コストなどの面で課題がある。そこで近年では、原料ガスとして、有機シリコン化合物を用いる場合が多くなっている。
ここで、有機シリコン化合物などの可燃性を有する原料ガスを用いる場合は、消火する際にバーナ内に火炎が進行する現象(逆火)を防ぐことが必要となる。その一方で、特許文献1のように酸素ガスの流量を徐々に減少させて消火すると、原料ガスの不完全燃焼によりすすが発生し、光ファイバ母材の品質低下につながる場合がある。
【0005】
本発明はこのような事情を考慮してなされ、可燃性を有する原料ガスを用いる場合に、逆火を防ぎつつ、すすの発生を抑制することが可能な多孔質ガラス微粒子体の製造方法または光ファイバ母材の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明の一態様に係る多孔質ガラス微粒子体の製造方法は、可燃性を有する原料ガスおよび酸素を含む予混合ガスをバーナに供給し、前記予混合ガスを前記バーナの出口で燃焼させることで生成されたガラス微粒子を出発部材に堆積させてスートを形成する堆積工程と、前記予混合ガスに含まれる原料ガスの流量を減少させることで、前記予混合ガスにおける前記原料ガスの前記酸素に対する混合比を低下させて燃焼不可領域内とし、前記出口におけるガラス微粒子の生成を停止する生成停止工程と、を有し、前記生成停止工程において、前記混合比が前記燃焼不可領域に到達する時点で、前記出口における前記予混合ガスの噴出速度V1と前記予混合ガスの燃焼速度V2との速度差ΔV(=V1-V2)がゼロ以上であり、前記生成停止工程において、前記混合比を前記堆積工程における値から減少させてゼロとなるまでの時間が10秒以内である
【発明の効果】
【0007】
本発明の上記態様によれば、可燃性を有する原料ガスを用いる場合に、逆火を防ぎつつ、すすの発生を抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本実施形態に係る製造装置を示す概略図である。
図2図1の供給装置の構成を示す概略図である。
図3】本実施形態に係る予混合ガスの制御内容を示す図である。
図4】本実施系形態の変形例に係る予混合ガスの制御内容を示す図である。
図5】比較例に係る予混合ガスの制御内容を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本実施形態の多孔質ガラス微粒子体の製造方法について、図面に基づいて説明する。なお、本実施形態により得られる多孔質ガラス微粒子体は、例えば外付け法(OVD法:Outside Vapor Deposition Method)または気相軸付法(VAD法:Vapor phase Axial Deposition Method)などに適用することで、光ファイバ母材を得ることができる。
【0010】
OVD法とは、ガラスロッド等の出発部材の外表面にガラス微粒子を堆積させてガラススート層を形成した後、ガラススート層を加熱により焼結して透明ガラスを得る方法である。
VAD法は、ガラスロッド等の出発部材の先端部からガラス微粒子の堆積を開始して、円柱状のガラススートを形成した後、ガラススートを加熱により焼結させることで、透明ガラスを得る方法である。
【0011】
(多孔質ガラス微粒子体の製造装置)
図1に示すように、本実施形態の多孔質ガラス微粒子体の製造装置(以下、製造装置1という)は、反応容器2と、一対の回転チャック3と、バーナ4と、レール5と、供給装置10と、を備えている。図1ではバーナ4の数は1つであるが、複数のバーナ4を、出発部材Mの長手方向に所定の間隔を空けて配置してもよい。
一対の回転チャック3は、出発部材Mの両端部を支持している。回転チャック3により、出発部材Mは反応容器2内で回転させられる。
【0012】
レール5は、出発部材Mの長手方向と同じ方向に延びている。バーナ4は、レール5に沿って移動可能となっている。すなわち、バーナ4は、出発部材Mの長手方向に沿って移動可能である。供給装置10の全部または一部も、レール5に沿って、バーナ4とともに移動してもよい。
なお、バーナ4は、レール5を長手方向に往復するように移動してもよい。あるいは、例えばレール5を環状に形成して、このレール5上を一方向に向けて循環するように複数のバーナ4を移動させてもよい。
図示は省略するが、製造装置1は、バーナ4ではなく、出発部材Mを長手方向に沿って往復移動させるように構成されてもよい。
【0013】
バーナ4の出口4aでは、後述の予混合ガスGmが燃焼すること、あるいはバーナ4に供給される可燃性ガスGfが燃焼することで、火炎が生じる。本明細書では、可燃性ガスGfの燃焼により生じる火炎を「可燃性ガス燃焼火炎F1」といい、予混合ガスGmの燃焼により生じる火炎を「原料燃焼火炎F2」という。予混合ガスGmに含まれる原料ガスが原料燃焼火炎F2内で反応することでガラス微粒子が生成される。ガラス微粒子が出発部材Mの表面に堆積することで、ガラス微粒子の堆積層(スートL)が形成される。これにより、多孔質ガラス微粒子体が得られる。図1において、スートLは有効部Eおよび端部Pを有している。有効部Eとは、スートLの厚さなどが安定しており、光ファイバ母材を線引きした際に光ファイバを製品として利用できる部位である。
【0014】
本実施形態では、原料ガスとして、有機シリコン化合物を用いる。有機シリコン化合物としてはアルキルシクロシロキサンが挙げられ、特にオクタメチルシクロテトラシロキサン(OMCTS:Octamethylcyclotetrasiloxane)が好適である。OMCTSは「D4」とも呼ばれるが、「D」は(CH3)2-Si-O-のユニットであり、D4とはDユニットが4つ環状に繋がった構造を意味する。D4(C8H24O4Si4)は工業的に広く用いられており入手しやすいが、D3(C6H18O3Si3)、D5(C10H30O5Si5)などを用いてもよい。また、D3、D4、D5を単独で用いてもよいし、これらを混合して用いてもよい。有機シリコン化合物は、酸化反応させても塩酸を発生させないため、環境負荷の低減や、塩酸の処理設備が不要となることによる製造コスト低減などに寄与する。
【0015】
しかしながら、有機シリコン化合物は可燃性を有するため、逆火が生じやすくなる。逆火とは、バーナ4内あるいはバーナ4に接続された配管(後述のバーナライン12等)内に残った原料に引火することで、原料燃焼火炎F2がバーナ4または配管の内部で発生する現象である。本実施形態では、逆火の発生を防ぎつつ、原料ガスの不完全燃焼によるすすの発生を抑えるため、原料ガスのバーナ4への供給を停止する際の流量制御を工夫している。以下、供給装置10および流量制御の詳細について説明する。
【0016】
(供給装置)
図2に示すように、供給装置10は、原料供給ライン11と、バーナライン12と、ベントライン13と、パージガス供給ライン14と、制御部15と、を備えている。原料供給ライン11には、第1弁11aと、流量調整部11bと、気化ユニット11dと、が設けられている。また、原料供給ライン11には、キャリアガス供給ライン11cと、酸素供給ライン11eと、が接続されている。
【0017】
原料供給ライン11の上流側は、液体原料の供給源(不図示)に接続されている。液体原料の供給源は、液体原料を原料供給ライン11に供給する。供給源は、例えば、液体原料を収容し、原料供給ライン11に接続された容器と、液体原料への溶解度が低い加圧ガスを容器に供給する加圧ガス管と、を備えてもよい。この場合、加圧ガス管から加圧ガスを容器に供給することで、容器内の圧力を高めて、液体原料を容器から原料供給ライン11に供給することができる。密閉容器と流量調整部11bとの間に、液体原料から溶存ガスを脱気する脱気装置を設けてもよい。
【0018】
原料供給ライン11の下流側端部は、バーナライン12およびベントライン13に向けて分岐している。第1弁11aは、流量調整部11bおよび気化ユニット11dよりも上流側に位置しており、原料供給ライン11内に液体原料を流動させるか否かを切り替える。流量調整部11bは、第1弁11aと気化ユニット11dとの間に位置しており、気化ユニット11dに向けて流れる液体原料の流量を調整する。流量調整部11bは、MFC(Mass Flow Controller)などである。
【0019】
キャリアガス供給ライン11cは、キャリアガスを原料供給ライン11に供給する。キャリアガスとしては、アルゴン(Ar)、ヘリウム(He)、窒素(N)などの不活性のガス、または酸素(O)を用いることができる。キャリアガスに、複数種類のガスが含まれてもよい。
酸素供給ライン11eは、気化ユニット11dの下流側に接続されており、酸素(O)を原料供給ライン11に供給する。これにより予混合ガスGmが得られる。酸素は、原料ガスを燃焼可能な状態とするために必要となる。
【0020】
バーナライン12は、原料供給ライン11の下流側端部に接続されている。バーナライン12の下流側端部は、バーナ4に接続されている。バーナライン12は、予混合ガスGmをバーナ4に供給する。バーナライン12には、第2弁12aが設けられている。第2弁12aは、バーナライン12を開閉するように構成されている。第2弁12aが開いている場合、予混合ガスGmがバーナ4に向けて流動可能となる。バーナライン12のうち、第2弁12aとバーナ4との間の部分に、パージガス供給ライン14が接続されている。
【0021】
ベントライン13には、第3弁13aが設けられている。第3弁13aは、ベントライン13を開閉するように構成されている。ベントライン13の下流側には不図示の処理装置が設けられている。第3弁13aが開き、第2弁12aが閉じている場合、原料供給ライン11から流れてきた予混合ガスGmはベントライン13を通して処理装置に向かう。
【0022】
パージガス供給ライン14は、パージガスをバーナ4に供給する。パージガスとしては、窒素などの不活性ガスを用いることができる。パージガス供給ライン14には第4弁14aが設けられている。第4弁14aはパージガス供給ライン14を開閉するように構成されている。第4弁14aが開いている場合、パージガスがバーナ4に向けて流動可能となる。
【0023】
制御部15は、第1弁11a、第2弁12a、第3弁13a、第4弁14a、および流量調整部11bに電気的に接続されている。制御部15は、各弁11a~14aの開閉を切り替える信号や、流量調整部11bによる流量の設定値を指示する信号を出力する。なお、制御部15は流量調整部11bの一部であってもよい。あるいは、制御部15は供給装置10だけでなく製造装置1全体を制御するように構成されていてもよい。制御部15としては、例えばマイクロコントローラ、IC(Integrated Circuit)、LSI(Large-scale Integrated Circuit)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)などの集積回路を用いることができる。
【0024】
液体原料は、制御部15および流量調整部11bによって流量が制御された状態で、キャリアガスとともに気化ユニット11dに導入されて気化された後、酸素と混合されて予混合ガスGmとなる。予混合ガスGmは、バーナライン12からバーナ4に供給される。原料としてD3、D4、またはD5を用いる場合、予混合ガスGmに含まれるDユニットの数をn1とし、酸素の物質量をn2とするとき、予混合ガスGmにおけるDユニットの数と酸素との混合比R(モル比)は、R=n1/n2により表される。
【0025】
混合比Rは、0.68≦R≦1.00であることが好ましい。混合比Rが1.00を超えると、原料の燃焼に必要な酸素が不足して不完全燃焼となり、すすが発生する場合がある。混合比Rが0.68を下回ると、燃焼反応が不安定となり、原料燃焼火炎F2が乱れてガラス微粒子の堆積効率が低下したり、バーナ4にガラス微粒子が付着したりする。なお、キャリアガスに酸素が含まれる場合、混合比Rにおける酸素の物質量n2は、キャリアガス供給ライン11cおよび酸素供給ライン11eから供給される酸素の物質量の合算値である。
【0026】
なお、例えば原料がD4の場合、原料1モルにDユニットが4つ含まれるので、原料の物質量をmとすると、n1=m×4となる点に留意する。D4の物質量mによって予混合ガスGmの混合比R’を表すと、R’=m/n2となる。したがって、0.68≦R≦1.00とするためには、0.17≦R’≦0.25とする。同様に、原料がD3の場合はn1=m×3となり、原料がD5の場合はn1=m×5となる点に留意する。また、D3、D4、D5等のDユニットの数が異なる原料を混合して用いる場合、各原料の物質量に対するDユニットの数を考慮して、n1の値を算出する。
【0027】
バーナ4には、バーナライン12に加えて、可燃性ガス配管および酸素配管が接続されている。可燃性ガス配管は、水素(H)やメタン(CH)などの可燃性ガスGfをバーナ4に供給する。酸素配管は酸素をバーナ4に供給する。
【0028】
バーナ4は、予混合ガスGmが噴出する予混合ガスポートと、可燃性ガスGfおよび酸素が混合されて噴出するポートと、を有している。バーナ4の出口4aでは、可燃性ガスGfおよび酸素が混合されて燃焼することで可燃性ガス燃焼火炎F1が生じる。可燃性ガス燃焼火炎F1に予混合ガスGmが引火し、原料燃焼火炎F2中で原料が反応することでガラス微粒子が生成される。可燃性ガス燃焼火炎F1は、原料燃焼火炎F2を取り囲んでいてもよい。この場合、生成されたガラス微粒子が外側に拡散することを抑制したり、原料燃焼火炎F2の温度を安定させたりすることができる。可燃性ガス燃焼火炎F1が原料燃焼火炎F2を取り囲むように構成するために、例えば、バーナ4の中央部に予混合ガスポートを配置し、予混合ガスポートの周囲に可燃性ガスGfおよび酸素が噴出するポートを配置してもよい。
【0029】
(多孔質ガラス微粒子体の製造方法)
次に、本実施形態に係る多孔質ガラス微粒子体の製造方法について説明する。
【0030】
まず、出発部材Mを回転チャック3に取り付ける。
次に、回転チャック3によって出発部材Mが回転する状態で、バーナ4と出発部材Mとを長手方向に相対的に往復移動させながら、ガラス微粒子を出発部材Mに堆積させる(堆積工程)。より詳しくは、制御部15は、第1弁11aおよび第2弁12aを開き、第3弁13aおよび第4弁14aを閉じた状態とする。また、流量調整部11bは、バーナ4に供給される予混合ガスGmの混合比Rが適切な範囲となるように、気化ユニット11dに向けて流動する液体原料の流量を調整する。これにより、バーナ4の出口4aにおいて予混合ガスGmが燃焼することでガラス微粒子が生成される。このガラス微粒子を、回転チャック3によって回転する出発部材Mに堆積させることで、スートLが形成される。
【0031】
バーナ4は、ガラス微粒子の生成を継続したまま、2つの端部Pの間で出発部材Mに対して往復移動してもよい。あるいは、有効部Eの範囲内から範囲外に出る際に、一度ガラス微粒子の生成を停止し、再び有効部Eの範囲内に入る際に、ガラス微粒子の生成を再開してもよい。ガラス微粒子の生成を停止するには、バーナ4に供給される予混合ガスGmの混合比Rを低下させて燃焼可能な範囲外とする(生成停止工程)。生成停止工程は、スートLの形成が完了した際、あるいは上記の通りバーナ4が有効部Eの範囲外に移動する際に行われる。生成停止工程では、バーナ4に供給される可燃性ガスGfの燃焼も停止し、可燃性ガス燃焼火炎F1および原料燃焼火炎F2の双方を消火してもよいし、可燃性ガス燃焼火炎F1が生じたままガラス微粒子の生成だけを停止してもよい。より詳しくは、スートLの形成が完了した際には、生成停止工程において、可燃性ガス燃焼火炎F1および原料燃焼火炎F2の双方を消火する。スートLの形成が完了しておらず、バーナ4が有効部Eの範囲外に一時的に移動する際には、生成停止工程において、可燃性ガス燃焼火炎F1が生じたままガラス微粒子の生成だけを停止する。
生成停止工程の後、第2弁12aを閉じるとともに第4弁14aを開き、パージガスをバーナ4に供給してもよい。これにより、バーナ4やバーナライン12に残留した予混合ガスGmをバーナ4外に排出できる。
【0032】
堆積工程によってスートLの形成を完了させることで、多孔質ガラス微粒子体が得られる。また、多孔質ガラス微粒子体に焼結処理を施すことで、光ファイバ母材が得られる。焼結処理に加えて、必要に応じて光ファイバ母材に脱水処理やドープ処理を施してもよい。
また、光ファイバ母材を線引きすることで、光ファイバを得ることができる。
【0033】
ここで、生成停止工程において、例えば第2弁12aを閉じて第3弁13aを開くことで、混合比Rを変えずにバーナ4への予混合ガスGmの供給を停止すると、バーナ4からの予混合ガスGmの噴出速度が低下し、最終的にはゼロになる。このように予混合ガスGmの流量が低下しても、混合比Rが燃焼可能な範囲内であれば、予混合ガスGmの燃焼が継続する。そして、予混合ガスGmの燃焼速度V2が予混合ガスGmのバーナ4からの噴出速度V1を上回ると、原料燃焼火炎F2がバーナ4内に進行する現象(逆火)が発生する。逆火が発生すると、バーナ4の内部やバーナライン12の内部に汚れや損傷が生じる場合がある。
【0034】
そこで本実施形態では、生成停止工程の際に、予混合ガスGmに含まれる酸素およびキャリアガスの少なくとも一方の流量を変えずに、原料の流量を短時間でゼロへと変化させる。すなわち、予混合ガスGmの混合比Rを短時間で低下させて燃焼可能な範囲外とする。混合比Rを低下させる方法としては、流量調整部11bの設定流量をゼロにしてもよいし、第1弁11aを閉じてもよい。酸素およびキャリアガスの少なくとも一方の流量を変えないことで、予混合ガスGmのバーナ4の出口4aからの噴出速度V1の低下を抑制し、逆火の発生を防ぐことができる。混合比Rが燃焼可能な範囲外となった後で、第2弁12aを閉じて第3弁13aを開くことで、予混合ガスGmの流路をバーナライン12からベントライン13に切り替える。
【0035】
上記制御内容を、図3(a)、(b)を用いてより詳細に説明する。以下では、バーナ4からの予混合ガスGmの噴出速度をV1と表し、予混合ガスGmの燃焼速度をV2と表す。図3(a)、(b)において、横軸は時間である。図3(a)の縦軸は予混合ガスGmの混合比Rであり、図3(b)の縦軸は予混合ガスGmの噴出速度V1と燃焼速度V2との差ΔV(=V1-V2)である。
【0036】
図3(a)に示すように、混合比Rには、安定領域A1と、不完全燃焼領域A2と、燃焼不安定領域A3と、燃焼不可領域A4と、が存在する。安定領域A1は、酸素と原料とが適切な比率で混合されており、燃焼が安定する領域である。原料がD3、D4、D5等の場合、0.68≦R≦1.00の範囲が安定領域A1である。安定領域A1ではガラス微粒子がムラなく生成されるとともに、不完全燃焼によるすすの発生が無視できる程度に少ない。不完全燃焼領域A2は、混合比Rの値が安定領域A1を上回り、原料に対して酸素が過少であるため、不完全燃焼により無視できない量のすすが発生する領域である。すすがスートLに付着すると、光ファイバ母材の品質が低下する。
【0037】
燃焼不安定領域A3は、混合比Rの値が安定領域A1を下回り、原料ガスのバーナ4からの放出量が少なすぎて、ガラス微粒子の生成が不安定となる領域である。ガラス微粒子の生成が不安定になると、例えば生成されたガラス微粒子がバーナ4に付着してしまう要因となる。燃焼不可領域A4は、酸素が少なすぎること、あるいは原料ガスが少なすぎることで、予混合ガスGmが燃焼しない領域である。
【0038】
図3(a)、(b)において、時間t≦T1の間は、堆積工程が行われている。堆積工程の間は、流量調整部11bによって原料の流量が適切に調整されており、混合比Rは安定領域A1の範囲内にある。堆積工程の間におけるΔVの大きさを、Vaと表す。Vaは予混合ガスGmに含まれる原料ガス、キャリアガス、および酸素の流量により定まる噴出速度V1から燃焼速度V2を引いた差分である。Vaが正の値となるように、堆積工程における噴出速度V1が設定される。
【0039】
時間t=T1において、堆積工程が終了すると、流量調整部11bは原料の流量を減少させるが、予混合ガスGmに含まれる酸素およびキャリアガスの流量は維持されるため、混合比Rが徐々に低下する。このため混合比Rは、安定領域A1から、燃焼不安定領域A3を通って、燃焼不可領域A4に到達する。混合比Rが燃焼不安定領域A3から燃焼不可領域A4に到達する時点をT2と表し、混合比Rが0となる時点をT3と表す。また、時点T3における速度差ΔVの大きさをVbと表す。Vbは、予混合ガスGmに含まれるキャリアガスおよび酸素の流量により定まる噴出速度V1から燃焼速度V2を引いた差分である。Vbは、Vaと比較して原料ガスの流量が減少した分、小さな値となる。本実施形態では、Vbの値がゼロ以上となるように、予混合ガスGmに含まれる酸素およびキャリアガスの流量を設定する。
【0040】
ここで、速度差ΔVが正の値であれば、混合比Rが安定領域A1または燃焼不安定領域A3の範囲内(すなわち、予混合ガスGmが燃焼可能な範囲内)にあっても、予混合ガスGmの燃焼がバーナ4内に向けて進行しない。そして、混合比Rが燃焼不可領域A4に到達すると、予混合ガスGmの燃焼は自然に停止する。したがって、図3(a)、(b)に示すように、混合比Rが燃焼不可領域A4に到達した時点(T2)において、速度差ΔVがゼロ以上の値となるようにすることで、生成停止工程において逆火の発生を防ぐことが可能となる。
【0041】
図3(a)に示すように、T1<t≦T2の間の一部の時間では、混合比Rが燃焼不安定領域A3の範囲内となる。先述の通り、燃焼不安定領域A3では原料ガスの反応が不安定になり、バーナ4にガラス微粒子が付着する現象などが生じる。この現象が光ファイバ母材の品質に与える影響は小さいが、バーナ4の清掃をより高頻度で行う必要が生じる等の要因となる。そこで、混合比Rの減少を開始させてから混合比Rが燃焼不可領域A4に到達するまでの時間の間隔(T1からT2まで)は、可能な限り短いとよい。
【0042】
t=T3において混合比Rをゼロとした後は、第2弁12aを閉じて第3弁13aを開き、予混合ガスGmをベントライン13に向けて流動させる。図3(b)では、第2弁12aを閉じて第3弁13aを開く時点をT4としている。t=T4では、V1=0であるため、ΔV=-V1となる。
【0043】
なお、図3(a)、(b)ではVbがゼロ以上となっていたが、Vbは負の値であってもよい。この場合も、図4(a)、(b)に示すように、時点T2における速度差ΔVの値がゼロ以上であれば、逆火の発生を防ぐことが可能である。
【0044】
以上説明したように、本実施形態の多孔質ガラス微粒子体の製造方法は、可燃性を有する原料ガスおよび酸素を含む予混合ガスGmをバーナ4に供給し、予混合ガスGmをバーナ4の出口4aで燃焼させることで生成されたガラス微粒子を出発部材Mに堆積させてスートLを形成する堆積工程と、予混合ガスGmに含まれる原料ガスの流量を減少させることで、予混合ガスGmにおける原料ガスの酸素に対する混合比Rを低下させて燃焼不可領域A4内とし、バーナ4の出口4aにおけるガラス微粒子の生成を停止する生成停止工程と、を有する。そして生成停止工程において、混合比Rが燃焼不可領域A4に到達する時点T2で、出口4aにおける予混合ガスGmの噴出速度V1と予混合ガスGmの燃焼速度V2との差ΔV(=V1-V2)をゼロ以上とする。
【0045】
このように、生成停止工程において混合比Rを低下させることで、混合比Rが不完全燃焼領域A2を通ることによるすすの発生を防ぎ、光ファイバ母材の品質を安定させることができる。さらに、混合比Rが燃焼不可領域A4に到達する時点T2において速度差ΔVがゼロ以上であることで、逆火の発生を防ぐことができる。
【0046】
また、生成停止工程において、混合比Rを堆積工程における値から減少させてゼロとなるまでの時間(T1からT3まで)が10秒以内であってもよい。この場合、混合比Rが燃焼不安定領域A3の範囲内となる時間が短くなる。したがって、バーナ4にガラス微粒子が多量に付着してしまうことを抑制できる。
【0047】
また、予混合ガスGmには、不活性のキャリアガスが含まれてもよい。この場合、予混合ガスGmに占める酸素の割合が小さくなり、燃焼不安定領域A3の範囲を狭めることができる。したがって、生成停止工程において、より速やかに予混合ガスGmの燃焼を停止させることができる。
【0048】
また、生成停止工程において、原料供給ライン11に設けられた第1弁11aを閉じることで、混合比Rをゼロとしてもよい。この場合、T1からT3までの時間をより短くして、混合比Rが燃焼不安定領域A3の範囲内となる時間を短くできる。
【0049】
また、上記のようにして得られた多孔質ガラス微粒子体に焼結処理等を施して光ファイバ母材を製造することで、すすなどの付着を抑制した高品質な光ファイバ母材を提供できる。
【0050】
以下、具体的な実施例を用いて、上記実施形態を説明する。なお、本発明は以下の実施例に限定されない。
【0051】
(実施例1)
原料としてD4を用い、キャリアガスとしてArを用いた。堆積工程では、バーナ4に供給される予混合ガスGmの混合比が、R=0.76(R’=0.19)となるように、流量調整部11bによって、液体のD4の流量を調整した。流量調整部11bとしてはMFCを用いた。堆積工程の終了時に、バーナ4を端部Pの位置に移動させてから、流量調整部11bの流量の設定値をゼロとし、これにより混合比Rを低下させた。混合比Rが0.76からゼロとなるまでの時間は10秒であった。このとき、予混合ガスGmにおけるキャリアガスおよび酸素の流量は変化させなかった。バーナ4の出口4aにおける原料燃焼火炎F2の状態が一時的に不安定となったが、間もなく安定した状態に変化した。そこで、第2弁12aを閉じて第3弁13aを開き、可燃性ガス燃焼火炎F1も消火したが、逆火は生じず、スートLへのすすの付着もなかった。また、バーナ4へのガラス微粒子の付着も微量であり、問題無い範囲であった。
【0052】
(実施例2)
混合比Rを低下させるために、流量調整部11bの設定値を変更せず、第1弁11aを閉じた。混合比Rが0.76からゼロとなるまでの時間は、1秒以下であった。その他の点は実施例1と同様である。実施例2においても、逆火は生じず、スートLへのすすの付着もなかった。また、バーナ4へのガラス微粒子の付着はほとんどなかった。
【0053】
(実施例3)
流量調整部11bの設定値を、混合比Rが0.76からゼロとなるまで、15秒かけて変化させた。その他の点は実施例1と同様である。実施例3においても、逆火は生じず、スートLへのすすの付着もなかった。ただし、バーナ4の出口4aにガラス微粒子が付着しており、清掃が必要となった。
【0054】
(比較例1)
堆積工程の終了時に、流量調整部11bの設定値を変更せず、第1弁11aを開いたまま、第2弁12aを閉じて第3弁13aを開いた。その他の点は実施例1と同様である。消火後に観察すると、バーナライン12の内部にガラス微粒子が付着しており、逆火が発生したことが判った。
【0055】
(比較例2)
堆積工程の終了時に、混合比Rの値を変えないように、バーナ4に供給する予混合ガスGmの流量をゼロとした。その他の点は実施例1と同様である。消火後に観察すると、バーナライン12の内部にガラス微粒子が付着しており、逆火が発生したことが判った。
【0056】
以上の結果を考察する。比較例1、2では、図5(a)、(b)に示すように、混合比Rが一定値のまま、速度差ΔVが負の値(-V2)まで低下する。これは、予混合ガスGmが燃焼可能な状態で、バーナ4の出口4aから噴出されずにバーナ4内およびバーナライン12内に留まっていることを意味する。これにより、堆積工程ではバーナ4の出口4aの外にあった原料燃焼火炎F2が、バーナ4内およびバーナライン12内まで伝播し(すなわち逆火が生じ)、ガラス微粒子がバーナ4内およびバーナライン12内で生成された。
【0057】
これに対して、実施例1~3は、速度差ΔVがゼロ以上の値を維持した状態で混合比Rを低下させ、燃焼不可領域A4に到達させることで消火している。これにより、逆火の発生を防ぐことができた。また、混合比Rの推移が不完全燃焼領域A2を通らないため、スートLにすすが付着することを抑制できた。
【0058】
なお、本発明の技術的範囲は前記実施形態に限定されず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
【0059】
例えば、前記実施形態では、ガラス微粒子の原料として有機シリコン化合物を用いる場合を説明した。しかしながら、その他の可燃性の原料を用いる場合も、前記実施形態を好適に適用することができる。
【0060】
また、供給装置10の構成を適宜変更してもよい。例えば、酸素供給ライン11eは気化ユニット11dの上流側に接続されていてもよい。あるいは、キャリアガス供給ライン11cから、キャリアガスとともに酸素が原料供給ライン11に供給されてもよい。
【0061】
その他、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、上記した実施形態における構成要素を周知の構成要素に置き換えることは適宜可能であり、また、上記した実施形態や変形例を適宜組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0062】
4…バーナ 4a…出口 11…原料供給ライン 11a…第1弁(弁) A4…燃焼不可領域 Gm…予混合ガス L…スート M…出発部材
図1
図2
図3
図4
図5