IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社良品計画の特許一覧

<>
  • 特許-家具転倒防止治具 図1
  • 特許-家具転倒防止治具 図2
  • 特許-家具転倒防止治具 図3
  • 特許-家具転倒防止治具 図4
  • 特許-家具転倒防止治具 図5
  • 特許-家具転倒防止治具 図6
  • 特許-家具転倒防止治具 図7
  • 特許-家具転倒防止治具 図8
  • 特許-家具転倒防止治具 図9
  • 特許-家具転倒防止治具 図10
  • 特許-家具転倒防止治具 図11
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-15
(45)【発行日】2023-12-25
(54)【発明の名称】家具転倒防止治具
(51)【国際特許分類】
   A47B 97/00 20060101AFI20231218BHJP
【FI】
A47B97/00 A
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020075994
(22)【出願日】2020-04-22
(65)【公開番号】P2021016776
(43)【公開日】2021-02-15
【審査請求日】2022-12-26
(31)【優先権主張番号】P 2019134086
(32)【優先日】2019-07-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】596150301
【氏名又は名称】株式会社良品計画
(74)【代理人】
【識別番号】100128886
【弁理士】
【氏名又は名称】横田 裕弘
(74)【代理人】
【識別番号】100130878
【弁理士】
【氏名又は名称】鶴目 朋之
(72)【発明者】
【氏名】石井 良
(72)【発明者】
【氏名】春名 篤史
(72)【発明者】
【氏名】太田 泰道
【審査官】川村 大輔
(56)【参考文献】
【文献】実開昭55-057350(JP,U)
【文献】実開昭57-007350(JP,U)
【文献】実開昭57-065394(JP,U)
【文献】特開2006-061640(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2002/0104813(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A47B 91/00-97/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
家具等を壁面に固定する治具であって、壁面に固定可能に形成されるとともに家具等の一部に掛止可能に形成された固定金具を備え、該固定金具の家具等に掛止する部位の少なくとも一部には家具等が所定の方向へ移動する際に家具等の一部が当接し圧縮変形する緩衝部材を設け
前記固定金具は、その左右両端部に壁面に固定される一対の取付座部を備えるとともに、左右の該取付座部の間であって壁面との間に家具等の一部を挿通可能な空間を形成する凸状部を備え、
前記凸状部には、家具等の壁面方向への移動を制限する移動制限部材を設けた
家具転倒防止治具。
【請求項2】
前記固定金具は、その左右両端部に壁面に固定される一対の取付座部を備えるとともに、左右の該取付座部の間には壁面との間に家具等の一部を挿通可能な空間を形成する凸状部を備え、該凸状部の内側面であって、家具等が壁面より離れる方向へ移動する際に家具等の一部が当接する部位には前記緩衝部材を設けたことを特徴とする請求項1に記載の家具転倒防止治具。
【請求項3】
前記凸状部の内側面で、家具等が壁面に対して左右方向へ移動する際に家具等の一部が当接する部位に緩衝部材をさらに設けたことを特徴とする請求項1または2に記載の家具転倒防止治具。
【請求項4】
さらに、家具等が壁面方向へ移動する際に家具等の一部が当接する緩衝部材を設けたことを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の家具転倒防止治具。
【請求項5】
前記凸状部には、家具等が壁面方向へ移動する際に家具等の一部が当接する移動制限部材を設けたことを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の家具転倒防止治具。
【請求項6】
前記移動制限部材が、前記凸状部の左右側面を貫通して設けられたボルトであることを特徴とする請求項5に記載の家具転倒防止治具。
【請求項7】
前記移動制限部材が、前記固定金具の取付座部と、凸状部の途中までその内側面に沿って重ねて設置できるように形成され、壁面からの突出高さにおいて前記固定金具の凸状部の突出高さより低くなるように形成された移動制限金具であることを特徴とする請求項5に記載の家具転倒防止治具。
【請求項8】
前記緩衝部材において、家具等が壁面方向へ移動する際に家具等の一部が当接する側はその他の部分よりも肉厚に形成されているとともに、該肉厚部には移動制限部材を挿通するための貫通孔を設けたことを特徴とする請求項4ないし6のいずれか1項に記載の家具転倒防止治具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、壁面を背にして設置される家具類を壁面に対して固定し、地震により転倒することを防ぐための家具転倒防止治具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、家具の転倒を防止するための方法としては、固定具やチェーンなどで家具と壁面とを固定もしくは牽引し、あるいは、家具と天井の間に突っ張り機能を有する棒状体を設置するものがあった(特許文献1~3)。
【0003】
ところで、東日本大震災のような大地震を想定した場合、単なる転倒防止のみならず、大きな地震の揺れにも十分耐えうる強度および機能が求められる。
【0004】
そこで、特許文献4では、巨大な地震の際にも家具の振動を緩和することができる転倒防止装置が開示されている。このものは、家具に固定されたL字金具を壁面にボルト止めするものであるが、かかるボルトとL字金具との間に振動の衝撃を吸収する可塑部材を装着する点に特徴を有する。
【0005】
しかしながら、特許文献4に開示された転倒防止装置には以下のような問題があった。すなわち、このものは、あくまでも壁面に対して近接もしくは離間する方向の揺れのみを想定しており、壁面に対して平行方向(左右もしくは上下方向)の揺れについては、その衝撃は緩和されることなく直接ボルト等にかかる。そのため、L字金具を取り付けた壁面が破断し、あるいは、L字金具自体が破損するおそれがあった。
【0006】
また、一般的な家庭の場合、壁面の材質は石膏ボードの場合が多く、その場合、治具等の取り付け強度を考慮すると、下地のない部分ではアンカーの使用が好ましい。ところが、特許文献4の固定金具のように、壁面に取り付ける際に金具と壁面、あるいはボルトと金具の間に弾性変形する可塑部材を介在させると、可塑部材の適度な弾力性を維持しながらアンカーネジの締め込み量を調整することが困難であった。
【0007】
また、壁面の材質に関わらず、金具を固定するためには所定の強度でネジを締め込む必要があるが、その際、間に挟まれた可塑部材は常に圧縮された状態となるため、実際に地震等が起きたときに、その衝撃等を適切に吸収できないおそれがあった。
【0008】
さらに、ネジの締め込みにより常に圧縮された状態の可塑部材は、通常の経年劣化よりも早くその反発力も失われてしまうため、地震の衝撃等を適切に吸収できなくなるおそれがあり、また、金具を固定しているネジそのものが緩んでしまうおそれもあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】実用新案登録第3174297号
【文献】実用新案登録第3016706号
【文献】特開2004-194864
【文献】特開平8-299087
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
そこで本発明は、従来の家具転倒防止装置のかかる欠点を克服し、壁面に対して近接もしくは離間する方向の揺れのみならず、壁面に対して左右方向の揺れについても衝撃を効果的に緩和し、長年の使用によっても衝撃の吸収力が衰えず、壁面に確実に固定することができる家具転倒防止治具の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、上記課題を解決するものであり、家具等を壁面に固定する治具であって、壁面に固定可能に形成されるとともに家具等の一部に掛止可能に形成された固定金具を備え、該固定金具の家具等に掛止する部位の少なくとも一部には家具等が所定の方向へ移動する際に家具等の一部が当接し圧縮変形する緩衝部材を設けた家具転倒防止治具である。
【0012】
また本発明は、前記固定金具は、その左右両端部に壁面に固定される一対の取付座部を備えるとともに、左右の該取付座部の間には壁面との間に家具等の一部を挿通可能な空間を形成する凸状部を備え、該凸状部の内側面であって、家具等が壁面より離れる方向へ移動する際に家具等の一部が当接する部位には前記緩衝部材を設けたことを特徴とする家具転倒防止治具である。
【0013】
また本発明は、前記凸状部の内側面で、家具等が壁面に対して左右方向へ移動する際に家具等の一部が当接する部位に緩衝部材をさらに設けたことを特徴とする家具転倒防止治具である。
【0014】
また本発明は、家具等が壁面方向へ移動する際に家具等の一部が当接する緩衝部材を設けたことを特徴とする家具転倒防止治具である。
【0015】
また本発明は、前記凸状部には、家具等が壁面方向へ移動する際に家具等の一部が当接する移動制限部材を設けたことを特徴とする家具転倒防止治具である。
【0016】
また本発明は、前記移動制限部材が、前記凸状部の左右側面を貫通して設けられたボルトであることを特徴とする家具転倒防止治具である。
【0017】
また本発明は、前記移動制限部材が、前記固定金具の取付座部と、凸状部の途中までその内側面に沿って重ねて設置できるように形成され、壁面からの突出高さにおいて前記固定金具の凸状部の突出高さより低くなるように形成された移動制限金具であることを特徴とする家具転倒防止治具である。
【0018】
さらに本発明は、前記緩衝部材において、家具等が壁面方向へ移動する際に家具等の一部が当接する側はその他の部分よりも肉厚に形成されているとともに、該肉厚部には移動制限部材を挿通するための貫通孔を設けたことを特徴とする家具転倒防止治具である。
【発明の効果】
【0019】
本発明にかかる家具転倒防止治具は、固定金具の内側面に設けた緩衝部材に家具の一部が当接し、緩衝部材が圧縮変形することにより家具転倒防止治具に加わる衝撃荷重を弱める働きをするので、石膏ボードの破断や固定金具の破損を防ぐことができる。
【0020】
また、本発明にかかる家具転倒防止治具は、取付座部と壁面の間に緩衝部材等を一切介在させることなくネジで固定するため、アンカーを使用する場合もアンカーネジの締め込み量の調整が容易である。また、経年によるネジの緩みのおそれもない。
【0021】
また、本発明にかかる家具転倒防止治具は、平常時においては緩衝部材に対して荷重がかかっていないため、経年劣化によりその弾性や反発力が失われる可能性を最小限に抑えることができる。
【0022】
また、本発明にかかる家具転倒防止治具で、家具等が壁面に対して左右方向へ移動する際に家具等の一部が当接し、圧縮変形する緩衝部材をさらに設けたものは、壁面に対して近接もしくは離間する方向の揺れのみならず、壁面に対して左右方向の揺れについてもその衝撃荷重を弱めることができる。
【0023】
また、本発明にかかる家具転倒防止治具で、家具等が壁面方向へ移動する際に家具等の一部が当接し、圧縮変形する緩衝部材をさらに設けたものは、壁面に対して近接する方向の揺れについてもその衝撃荷重を弱めることができる。
【0024】
また、本発明にかかる家具転倒防止治具で、家具等が壁面方向へ移動する際に家具等の一部が当接する移動制限部材を設けたものは、家具が振動する際の前後の移動距離が制限されるため、結果的に前面方向への衝撃荷重を減少させることができる。
【0025】
さらに、本発明にかかる家具転倒防止治具で、緩衝部材において、家具等が壁面方向へ移動する際に家具等の一部が当接する側はその他の部分よりも肉厚に形成されているとともに、該肉厚部には移動制限部材のボルトを挿通するための貫通孔を設けたものは、衝撃荷重を弱める効果に加え、緩衝部材を容易に交換することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】(a)本発明にかかる家具転倒防止治具を家具SUSに取り付けた状態を示す側面図、(b)同正面図。
図2】(a)第一実施態様の家具転倒防止治具をSUSに取り付けた状態を示す平面図、(b)同側面図、(c)同正面図。
図3】第一実施態様の家具転倒防止治具で異なる移動制限部材を設けたものの平面図。
図4】第二実施態様の家具転倒防止治具をSUSに取り付けた状態を示す平面図。
図5】(a)第三実施態様の家具転倒防止治具をSUSに取り付けた状態を示す平面図、(b)同断面図。
図6】(a)第三実施態様の家具転倒防止治具の緩衝部材と緩衝部保持部材の平面図、(b)同側面図。
図7】(a)第三実施態様の家具転倒防止治具をSUSに取り付ける一連の作業の過程を示す平面図。(b)同平面図、(c)同平面図、(d)同平面図、(e)同平面図、(f)同平面図。
図8】第三実施態様の家具転倒防止治具をSUSに取り付けた状態の斜視図。
図9】(a)第四実施態様の家具転倒防止治具をSUSに取り付けた状態を示す平面図、(b)同断面図。
図10】(a)第四実施態様の家具転倒防止治具の緩衝部材と緩衝部保持部材の正面図、(b)同平面図、(c)同背面図。
図11】(a)第四実施態様の家具転倒防止治具をSUSに取り付ける一連の作業の過程を示す平面図。(b)同平面図、(c)同平面図、(d)同平面図、(e)同平面図。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の家具転倒防止治具の実施態様を、図面に基づいて具体的に説明する。なお、本発明はこれら実施態様に何ら制約されるものではない。
【0028】
図1は、第一実施態様に係る家具転倒防止治具についての説明図であり、ここでは、無印良品(「無印良品」は登録商標)のスチールユニットシェルフ特大(以降「SUS」と記す)20のフレーム21の支柱211に取り付ける例を示している。ここで、SUS20の構造について説明すると、フレーム21はスチール製の支柱211が2本並列に並び、かかる支柱211のペアが左右に離れて対向して立設されている。対向して配置された支柱211には、スチール製の横桟212が12本架け渡され、支柱211と横桟212が交差する箇所で溶接され固定される。かかる構成により、フレーム21は横から見ると梯子状の形状をなしている。フレーム21の下端にはさらに、樹脂製のアジャスター213が接続されている。なお、横桟212については後述の説明のため、一番下の横桟から一番上の横桟までを、1間目の横桟ないし12間目の横桟として区別する。
【0029】
図1に示すように、本実施形態に係る家具転倒防止治具11は、2対のフレーム21の5間目の横桟212と9間目の横桟212の上面に正接するように、かつ壁側の支柱211を囲うように取り付けられている。なお図1では家具転倒防止治具11が2対のフレーム21の5間目の横桟212と9間目の横桟212に正接するように配置されているが、これに限るものではなく、他の高さの横桟212に正接してもよく、さらには横桟212に接していなくてもよい。
【0030】
第一実施態様に係る家具転倒防止治具11の詳細な構成とSUS20への詳細な取り付け方法について、図2を用いて説明する。家具転倒防止治具11は、家具の一部を囲うように形成され、壁面に固定可能に形成された固定金具15と、家具の一部との間に介在させる発泡ウレタン製の緩衝部材161と、移動制限部材のボルト191およびナット192とを有する。
【0031】
固定金具15は、板厚2mmのスチール製の帯状板材から折り曲げ形成されている。具体的には、その左右両端部に取り付ける壁面に対して密着可能に形成された取付座部152が設けられている。かかる取付座部152には、壁面に固定する際に用いるアンカーネジ32を挿通するためのアンカー用貫通孔(図示せず)が約50mmピッチの間隔で穿設されている。
【0032】
左右の取付座部152の間には、取付座部152の内側端部から立ち上がり、壁面との間に所定の空間を形成するように凸状部151が突出形成されている。なお、本実施態様では、凸状部151は壁面に対してほぼ垂直となるように形成された両側面壁と壁面に対して平行となる正面壁とにより全体が平面視で略コの字に形成されているが、形状はこれに限定されず、例えば、両側面壁の間を曲面で繋ぐような略U字状としても良い。
【0033】
凸状部151の壁面からの突出高さは任意に形成することができるが、少なくとも、壁面を背に家具を配置したときに、その家具の一部を挿入することができるだけの空間を壁面との間に形成する高さである必要がある。なお、ここで「家具の一部」とは、家具そのものの一部に加え、家具に後から取り付けられた固定用の金具等も含む。
【0034】
凸状部151には、その内側面の一部に沿うようにして緩衝部材161が設けられている。本実施態様では、凸状部151の正面壁から両側面壁の略半分にかけて図示しない接着テープによって固着されている。かかる緩衝部材161には、厚み5.0mm、密度320kg/m、引張強度1.44MPa、25%圧縮荷重0.14MPa、圧縮残留歪3.1%の発泡ウレタン((株)ロジャースイノアック、商品名:PORON H-32)を用いたが、これに限るものではなく、荷重が掛かったときに急激に圧縮しないある程度の硬さを持ち、荷重が掛からなくなったとき速やかに復元する素材であればよく、天然ゴムやシリコーンを素材とするものでも適宜用いることができる。
【0035】
また、凸状部151の両側面壁で、緩衝部材161が固着されていない任意の部分には、図示されないボルト用貫通孔が穿設され、かかる貫通孔にネジ径M4のボルト191が挿通され、ナット192により固定されている。なお、本実施態様では、移動制限部材としてボルト191を使用しているが、これに限るものではなく、凸状部151の両側面壁の貫通孔に挿通して固定できる部材であれば、適宜用いることができる。
【0036】
家具転倒防止治具11は、ネジにより壁面に取付可能に形成されているが、本実施態様では、厚み9.5mmの石膏ボード31の木下地のない位置にアンカーネジ32、最大引張荷重0.21kNの樹脂製のアンカープラグ(fischer DUOPOWER 6x30)33で固定される。アンカープラグ33には最大引張荷重0.21kNの樹脂製のアンカープラグを用いたが、これに限るものではなく、同程度以上の最大引張荷重を有すればよく、スチール製のアンカープラグでも適宜用いることができる。
【0037】
次に、家具転倒防止治具11の設置及び固定方法について説明する。まず、石膏ボード31の固定金具15を取り付ける位置にアンカープラグ33用の孔を開け、アンカープラグ33を埋め込む。一方、凸状部151の内側面の適当な位置に緩衝部材161を接着テープで固着する。続いて凸状部151の下端をSUS20の横桟212の上面に正接させ、背面の支柱211を凸状部151で囲い、緩衝部材161が支柱211に接触するように設置する。そして、アンカーネジ32を取付座部152のアンカー用貫通孔を介してアンカープラグ33にねじ込むことにより石膏ボード31に固定する。最後に、ボルト191を凸状部151のボルト用貫通孔を通してナット192で締め付け固定する。
【0038】
かかる状態で、緩衝部材161はその前面接触部171が支柱211の正面の一部と接触している。また、緩衝部材161の側面接触部172は、支柱211の側面の一部と接触している。なお、本実施態様ではボルト191と支柱211との間には一定の間隔が設けられているが、この間隔を設けることなく、ボルト191と支柱211が接していても良い。
【0039】
このように家具転倒防止治具11を取り付けたSUS20本体に地震等で前面方向への加速度が加わってSUS20が壁面から離れる方向へ移動すると、家具転倒防止治具11にはアンカーネジ32およびアンカープラグ33を壁面から引き抜く方向、すわなち、石膏ボード31を破断する方向に衝撃荷重が加わることになる。このとき、緩衝部材161は衝撃荷重を受けて前面接触部171が圧縮変形することにより家具転倒防止治具11に加わる衝撃荷重を吸収して弱める働きをするので、石膏ボード31の破断を効果的に防ぐことができる。
【0040】
続いてSUS20本体に背面方向への加速度が加わってSUS20が壁面に近づく方向へ移動するときには、圧縮されていた緩衝部材161は速やかに復元する。SUS20がさらに壁面方向へ移動すると、支柱211が移動制限部材のボルト191に衝突する。このときの衝撃荷重は家具転倒防止治具11を石膏ボード31へ押し付ける方向に働くため、その衝撃荷重がアンカーネジ32およびアンカープラグ33を壁面から引き抜く方向へ働くことはない。一方、支柱211は凸状部151とボルト191とで囲まれた限られた範囲内で振動することになり、結果として移動距離が制限され、前面方向への衝撃荷重を減少させることができる。
【0041】
SUS20が壁面に対して左右方向へ振動するときも同様に、左側面方向への加速度が加わって左側面方向へ移動するときは、左側面接触部172が圧縮変形することにより家具転倒防止治具11に加わる衝撃荷重を弱める働きをする。右側面についても同様である。
【0042】
本実施態様では、壁面側への移動を制限する部材としてボルト191を用いたが、これに限るものではなく、例えば図3に示すように、移動制限金具51を固定金具15と重ね合わせて、移動制限金具51と固定金具15で支柱211を挟み込むようにしてもよい。かかる移動制限金具51は、基本的な形状は固定金具15と同様であり、左右の両端部は取り付ける壁面に対して密着可能に形成された取付座部512が設けられ、かかる取付座部512にはアンカーネジ32を挿通するためのアンカー用貫通孔(図示せず)が穿設されている。左右の取付座部512の間には、取付座部512の内側端部から立ち上がり、壁面との間に所定の空間を形成するように平面視で略コの字に突出する凸状部511が形成されている。
【0043】
移動制限金具51は、固定金具15の取付座部152および凸状部151の途中までその内側面に沿って重ねて設置できるように形成されているが、凸状部511の壁面からの突出高さにおいて凸状部151の突出高さよりも低くなるように形成されている。すなわち、移動制限金具51は固定金具15の内側面に重ねて設置したときに、凸状部151の正面壁と凸状部511の正面壁の間には家具の一部を挿通可能な空間が形成されている。これにより、SUS20が壁面方向へ移動すると、支柱211が凸状部511の正面壁に衝突してその移動が制限される。
【0044】
第二実施態様に係る家具転倒防止治具12の詳細な構成とSUS20への詳細な取り付け方法について、図4を用いて説明する。第2実施態様に係る家具転倒防止治具12においては、緩衝部材162の形状が第1実施態様と異なる。具体的には、緩衝部材162は、前面接触部171、側面接触部172に加えて背面接触部173を有する。すなわち、緩衝部材162が家具の一部である支柱211の周りを取り囲むように形成されている。かかる緩衝部材162は、その前面接触部171と側面接触部172の略半分の領域が固定金具15の凸状部151に接着テープ(図示せず)によって固着され、一方、背面接触部173は固定されていない。
【0045】
家具転倒防止治具12の取り付け方法については第一実施態様とほぼ同様であるが、家具転倒防止治具12を石膏ボード31に固定した後、ボルト191を凸状部151のボルト用貫通孔を通してナット192で締め付け固定する際に、支柱211の周囲を緩衝部材162で巻き込むようにして支柱211とボルト191の間に背面接触部173を介在させるようにする点が異なる。
【0046】
このように支柱211とボルト191の間に背面接触部173を介在させることにより、SUS20本体に背面方向への加速度が加わってSUS20が壁面方向へ移動するとき、緩衝部材162は、圧縮されていた前面接触部171が速やかに復元し、かつ背面方向への衝撃荷重を受けて背面接触部173が圧縮変形することにより、ボルト191に加わる衝撃荷重を吸収し、弱める働きをすることになる。結果として再度前面方向へSUS20が移動する際の加速度を小さくすることができ、前面方向への衝撃荷重をより弱めることができる。
【0047】
第三実施態様に係る家具転倒防止治具13の詳細な構成とSUS20への詳細な取り付け方法について、図5を用いて説明する。第3実施態様に係る家具転倒防止治具13においては、緩衝部材163の一部に肉厚部165を設けた点が第2実施態様と異なる。
【0048】
図6に示すように、緩衝部材163は、あらかじめ家具への取り付け時の形状、すなわち、支柱211の周りを取り囲むように平面視で略環状に形成され、支柱211を挿入可能な孔部167が形成されている。そして、緩衝部材163のうち、家具等が壁面方向へ移動する際に家具等の一部が当接する背面接触部173側には、他の部分よりも肉厚に形成された肉厚部165が設けられている。
【0049】
肉厚部165には、家具への取り付け時に、左右いずれかからでもボルト191を挿通できるように、直径5mmの貫通孔166が形成されている。緩衝部材163と肉厚部165の材質はともに弾性部材であれば特に制限されないが、本実施態様では、シリコーンにより一体的に射出成形されている。
【0050】
第三実施態様にかかる家具転倒防止治具13の取り付け方法について、図7を用いて説明する。まず、緩衝部材163を弾性変形させて左右の肉厚部165を離間させ、支柱211が通過する隙間が形成されるまで肉厚部165同士の間隔を広げる。左右の肉厚部165の間隔が十分広がったら、緩衝部材163の内側に支柱211を配置させる(図7b)。次に、左右の肉厚部165を互いに近接させ、緩衝部材163を弾性変形から元の形状に復元させて緩衝部材163で支柱211を囲うようにする(図7c)。かかる状態で、固定金具15で緩衝部材163と肉厚部165を覆うようにして装着し、固定金具15のボルト用貫通孔と肉厚部165の貫通孔166の位置を一致させる(図7d~e)。最後に、ボルト191を固定金具15のボルト貫通用孔から肉厚部165の貫通孔166を通してナット192で締め付け固定する(図7f、図8)。
【0051】
かかる第三実施態様では、第2実施態様と同様、支柱211とボルト191の間に背面接触部173を介在することになるので、SUS20本体に背面方向への加速度が加わってSUS20が壁面方向へ移動するとき、緩衝部材162は、圧縮されていた前面接触部171が速やかに復元し、かつ背面方向への衝撃荷重を受けて背面接触部173が圧縮変形することにより、ボルト191に加わる衝撃荷重を吸収し、弱める働きをすることになる。結果として再度前面方向へSUS20が移動する際の加速度を小さくすることができ、前面方向への衝撃荷重をより弱めることができる。
【0052】
さらに、第三実施態様において、緩衝部材163は、肉厚部165の貫通孔にボルト191を通すことによって、その位置を規定することができるため、接着テープ等で固定金具15や支柱211に固着する必要がない。これにより、例えば緩衝部材163が経年劣化等で本来の特性を有しなくなった場合に、ボルト191を一旦抜くことにより、緩衝部材163を容易に交換することができるという利点を有する。
【0053】
次に、第四実施態様に係る家具転倒防止治具14の詳細な構成とSUS20への詳細な取り付け方法について、図9、10を用いて説明する。第4実施態様に係る家具転倒防止治具14は、第3実施態様における肉厚部165を緩衝部保持部材18として別途形成した点と、家具への取り付け前の形状において異なる。
【0054】
図10を用いて、第四実施態様の緩衝部材164と緩衝部保持部材18の構造を説明する。緩衝部材164(PORON H-32)は、シート状の両端を緩衝部材内側の曲率半径が支柱211の半径3.5mmに略一致するように折り曲げ形成され、その形状を緩衝部保持部材18(硬度ショア90のウレタン樹脂)で固定化している。図に示すように、家具への取り付け前は、緩衝部保持部材18は左右に離間した状態となっている。そして、緩衝部保持部材18の中央部には、家具への取り付け時にボルト191を一方の貫通孔から他方の貫通孔へと連続して挿通できるように、それぞれ直径5mmの貫通孔181を開けている。
【0055】
第四実施態様にかかる家具転倒防止治具14の取り付け方法について、図11を用いて説明する。まず、緩衝部材164を支柱211に巻き付け、左右の緩衝部保持部材18が互いに対向するまで緩衝部材164を弾性変形させる(図11a~b)。かかる状態で、固定金具15を緩衝部材164と緩衝部保持部材18を覆うようにして装着し、固定金具15のボルト用貫通孔と緩衝部保持部材18の貫通孔181の位置を一致させる(図11c~d)。最後に、ボルト191を固定金具15のボルト貫通用孔から緩衝部保持部材18の貫通孔181を通してナット192で締め付け固定する(図11d~e)。かかる第四実施態様の家具転倒防止治具14も、先に説明した第三実施態様の家具転倒防止治具13と同様の効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0056】
11 … … 家具転倒防止治具
12 … … 家具転倒防止治具
13 … … 家具転倒防止治具
14 … … 家具転倒防止治具
15 … … 固定金具
18 … … 緩衝部保持部材
20 … … スチールユニットシェルフ(SUS)
21 … … フレーム
22 … … 棚板
23 … … クロスバー
31 … … 石膏ボード
32 … … アンカーネジ
33 … … アンカープラグ
41 … … 家具転倒防止治具
51 … … 移動制限金具
151 … … 凸状部
152 … … 取付座部
161 … … 緩衝部材
162 … … 緩衝部材
163 … … 緩衝部材
164 … … 緩衝部材
165 … … 肉厚部
166 … … 貫通孔
167 … … 孔部
171 … … 前面接触部
172 … … 側面接触部
173 … … 背面接触部
181 … … 貫通孔
191 … … ボルト
192 … … ナット
211 … … 支柱
212 … … 横桟
213 … … アジャスター
221 … … アタッチメント
222 … … 棚板取付用ボルト
511 … … 凸状部
512 … … 取付座部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11