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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-15
(45)【発行日】2023-12-25
(54)【発明の名称】超電導コイル及び超電導コイル装置
(51)【国際特許分類】
   H01F 6/02 20060101AFI20231218BHJP
   H01F 6/06 20060101ALI20231218BHJP
【FI】
H01F6/02
H01F6/06 110
H01F6/06 140
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2020125079
(22)【出願日】2020-07-22
(65)【公開番号】P2022021490
(43)【公開日】2022-02-03
【審査請求日】2023-02-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145816
【弁理士】
【氏名又は名称】鹿股 俊雄
(74)【代理人】
【識別番号】100195718
【弁理士】
【氏名又は名称】市橋 俊規
(72)【発明者】
【氏名】宇都 達郎
(72)【発明者】
【氏名】岩井 貞憲
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 寛史
(72)【発明者】
【氏名】小柳 圭
【審査官】古河 雅輝
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-220417(JP,A)
【文献】特開2013-089817(JP,A)
【文献】特開2018-129519(JP,A)
【文献】特開2017-103352(JP,A)
【文献】特開2019-016685(JP,A)
【文献】特開2016-163026(JP,A)
【文献】特開2017-224654(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 12/00-12/16
H01B 13/00
H01F 6/00- 6/06
H01R 4/58- 4/72
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
超電導線材が巻回されてなる巻線部と、径方向に隣り合う前記超電導線材同士を電気的に接続する迂回路と、前記巻線部に電気的に接続される外側電極及び内側電極と、を備えた超電導コイルであって、
前記外側電極は前記巻線部の最外周ターンの巻回方向端部と反巻回方向端部との両方に跨って、及び/又は前記内側電極は前記巻線部の最内周ターンの巻回方向端部と反巻回方向端部との両方に跨って、電気的に接続されることを特徴とする超電導コイル。
【請求項2】
前記外側電極は、前記巻線部の最外周ターンの巻回方向端部と反巻回方向端部よりも径方向外側に設けられ、及び/又は前記内側電極は、前記巻線部の最内周ターンの巻回方向端部と反巻回方向端部よりも径方向内側に設けられていることを特徴とする請求項1記載の超電導コイル。
【請求項3】
前記超電導線材は少なくとも高温超電導層を含むテープ状の積層体で構成され、当該超電導線材は前記高温超電導層に近い近位面と、前記高温超電導層から遠い遠位面とを有し、
前記巻線部の最外周ターンの超電導線材は近位面がコイル径方向内側を向いており、当該最外周ターンの少なくとも一部において前記超電導線材の近位面同士が接続される接続部を有することを特徴とする請求項1又は2記載の超電導コイル。
【請求項4】
前記超電導線材は少なくとも高温超電導層を含むテープ状の積層体で構成され、当該超電導線材は前記高温超電導層に近い近位面と、前記高温超電導層から遠い遠位面とを有し、
前記巻線部の最内周ターンの超電導線材は近位面がコイル径方向外側を向いており、当該最内周ターンの少なくとも一部において前記超電導線材の近位面同士が接続される接続部を有することを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の超電導コイル。
【請求項5】
前記迂回路は、前記巻線部の少なくとも1つの側面部に形成されたシート状、板状又は状の導電性部材であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の超電導コイル。
【請求項6】
前記迂回路は、前記巻線部の巻回軸方向に垂直な側面に形成された導電性樹脂であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の超電導コイル。
【請求項7】
前記迂回路は、前記巻線部の少なくとも一部に含浸して形成された導電性樹脂であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の超電導コイル。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれかに記載の超電導コイルを巻回軸方向に複数積層した超電導コイル装置であって、
前記積層した超電導コイルのうち隣接する2つの超電導コイルに架設され、電極として機能する外側金属板及び内側金属板を有し、
前記外側金属板は1つの超電導コイルの巻線部の最外周ターンの巻回方向端部と反巻回方向端部の両方に跨って、及び/又は前記内側金属板は1つの超電導コイルの巻線部の最内周ターンの巻回方向端部と反巻回方向端部の両方に跨って、電気的に接続されることを特徴とする超電導コイル装置。
【請求項9】
前記外側金属板は、前記超電導コイルの巻線部の最外周ターンの巻回方向端部と反巻回方向端部よりも径方向外側に設けられ、及び/又は前記内側金属板は、前記超電導コイルの巻線部の最内周ターンの巻回方向端部と反巻回方向端部よりも径方向内側に設けられていることを特徴とする請求項8記載の超電導コイル装置。
【請求項10】
前記超電導コイルに用いられる超電導線材は少なくとも高温超電導層を含むテープ状の積層体で構成され、当該超電導線材は前記高温超電導層に近い近位面と、前記高温超電導層から遠い遠位面とを有し、
巻線部の最外周のターンの超電導線材は近位面がコイル径方向内側を向いており、当該最外周のターンの少なくとも一部において前記超電導線材の近位面同士が接続される接続部を有することを特徴とする請求項8又は9記載の超電導コイル装置。
【請求項11】
前記超電導コイルに用いられる超電導線材は少なくとも高温超電導層を含むテープ状の積層体で構成され、当該超電導線材は前記高温超電導層に近い近位面と、前記高温超電導層から遠い遠位面とを有し、
巻線部の最内周のターンの超電導線材は近位面がコイル径方向外側を向いており、当該最内周のターンの少なくとも一部において前記超電導線材の近位面同士が接続される接続部を有することを特徴とする請求項8又は9記載の超電導コイル装置。
【請求項12】
前記外側金属板及び内側金属板は、前記超電導コイルの薄膜線材に直接接合されるか、又は当該薄膜線材に貼着された導電性テープに接合されることを特徴とする請求項8乃至11のいずれかに記載の超電導コイル装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、熱暴走またはクエンチを防止する機能を備えた超電導コイル及び超電導コイル装置に関する。
【背景技術】
【0002】
超電導線材には、超電導状態を維持できる電流、温度、磁場の範囲、いわゆる臨界電流、臨界温度、臨界磁場が存在する。したがって電気抵抗がほぼゼロといえども無限に電流が流せるわけではなく、いずれかの臨界値を超えると、常電導状態への転移現象、すなわちクエンチが発生する。このようなクエンチによる常電導転移領域のジュール発熱は、瞬時に超電導コイルを熱暴走させ、最悪の場合、焼損に至る危険性があるため、クエンチに対する保護技術が不可欠である。
【0003】
クエンチ保護に関する従来技術としては、例えば超電導コイルと並列に保護抵抗をつなぐ方法がある。この本方法は、常電導状態に転移することで発生するコイル電圧や温度上昇を検出し、これをトリガーとして励磁電源を遮断するものである。遮断後は超電導コイルと保護抵抗の閉回路となるため、室温部に配置した保護抵抗のジュール発熱で超電導コイルの蓄積エネルギーが消費され、コイルに流れる電流を減衰させることができる。
【0004】
このような超電導コイルに使用する超電導線材としては、例えばBiSrCaCu10線材やRE線材といった高温超電導線材がある。高温超電導線材を用いた超電導コイルでは、従来のNbTi等の低温超電導線材に比べ、20K~50Kといった高い温度でも高い臨界電流密度を有するため、高温での高電流密度運転が可能となる。
【0005】
しかしながら、高電流密度運転時にクエンチが生じた場合、20K~50Kの温度範囲では、低温超電導線材を使ったマグネットの運転温度よりも比熱が大きいために常電導転移領域の拡大が遅く、また高電流密度運転をすると発熱密度も高くなるため、上述した従来技術のクエンチ保護方法では、検知する前に局所的に熱暴走が発生し焼損してしまう可能性がある。
【0006】
そこで、超電導コイル内部の異なるターンの超電導線材同士がターン間で短絡されていれば、常電導転移した部分に流れる電流を異なるターンの超電導線材に迂回させることができる。電流が常電導部分を迂回することで、常電導転移領域での局所的な発熱、および熱暴走を抑制することが可能である。
【0007】
具体的には、例えば超電導コイルのコイル径方向に沿った巻線部の側面に超電導線材と電気的に接続された迂回路を設けることにより、迂回路を介して異なるターンの超電導線材同士を短絡する手段が開示されている(特許文献1)。
【0008】
また、電極部については最外周のターンの超電導線材と、巻線部の最外周よりも1ターン内の超電導線材との間に電極が配置される超電導コイルが開示されている(特許文献2)。
【0009】
さらに、電極と超電導線材の接合部の構造として、超電導線材の上に設けられた電極の少なくとも一部を覆うようにカバー用超電導テープを設け、これらを互いに電気的に接続する構造が開示されている(特許文献3)。その際、超電導線材とカバー用超電導テープを電気的に接続する具体的な方法としては、はんだ付けが用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特許6486817号公報
【文献】特許5858723号公報
【文献】特許5568361号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、最も外周側(最外周)のターンもしくは最も内周側(最内周)のターンにおいて常電導転移が生じた場合、他のターンで常電導転移が生じた場合と比較して、隣り合う超電導線材間の迂回路の面積が小さくなるため、相対的に迂回路の抵抗値が大きくなり、電流が十分に迂回できずに、超電導コイルの温度を上昇させてクエンチを引き起こす恐れがあった。
【0012】
また、巻線部の最外周よりも1ターン内の超電導線材は、電極に絶縁材からなる接着剤で接合されているために、電極とは電気的に接続されておらず、超電導コイルを流れる電流は超電導コイルの最外周のターンの超電導線材のみを介して電極へ流出する。したがって、最外周ターンの超電導線材で常電導転移が生じた際は、電流が常電導転移部分を避けて電極へ流れる経路が存在せず、焼損してしまう恐れがあった。
【0013】
さらに、従来の電極と超電導線材の接合手段では、電極付近の発熱量を低減する効果が期待できるが、超電導コイルの最外周において常電導転移が生じた際に超電導コイルが焼損してしまう課題がある。仮に、カバー用超電導線材の架設箇所を電極付近に限定してしまうと、超電導コイルの最外周の内、カバー用超電導線材が架設されていない箇所において常電導転移が生じた際に、電流が常電導転移部分を避けて電極へ流れる経路が存在せず、焼損してしまう恐れがある。
【0014】
一方、カバー用超電導線材の架設箇所を電極付近に限定せずに超電導コイルの最外周全周を覆う場合を考えると、超電導線材全周にわたりはんだ付けをする必要が生じるため、電極付近のみをはんだ付けする場合に比べて、はんだごての熱により超電導線材が劣化してしまうリスクが増えてしまう課題がある。また、冷却時の熱収縮によりカバー用超電導線材と電極の角部で局所応力が生じてカバー用超電導線材が劣化してしまう恐れがあった。
【0015】
本発明の実施形態は上記課題を解決するためになされたもので、熱暴走またはクエンチの発生を抑制することが可能な超電導コイル及び超電導コイル装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記課題を解決するための、本実施形態に係る超電導コイルは、超電導線材が巻回されてなる巻線部と、径方向に隣り合う前記超電導線材同士を電気的に接続する迂回路と、前記巻線部に電気的に接続される外側電極及び内側電極と、を備えた超電導コイルであって、前記外側電極は前記巻線部の最外周ターンの巻回方向端部と反巻回方向端部との両方に跨って、及び/又は前記内側電極は前記巻線部の最内周ターンの巻回方向端部と反巻回方向端部との両方に跨って、電気的に接続されることを特徴とする。
【0017】
また、本実施形態に係る超電導コイル装置は、本実施形態に係る超電導コイルを巻回軸方向に複数積層した超電導コイル装置であって、前記複数積層した超電導コイルのうち隣接する2つの超電導コイルに架設され、電極として機能する外側金属板及び内側金属板を有し、前記外側金属板は1つの超電導コイルの巻線部の最外周ターンの巻回方向端部と反巻回方向端部の両方に跨って、及び/又は前記内側金属板は1つの超電導コイルの巻線部の最内周ターンの巻回方向端部と反巻回方向端部の両方に跨って、電気的に接続されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明の実施形態によれば、超電導コイル及び超電導コイル装置の熱暴走又はクエンチの発生を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】一般的な高温超電導線材の構成図。
図2】超電導コイルの概観図。
図3】(a)、(b)は巻回方向の説明図。
図4図2のA-A線断面図。
図5図4の領域R1の拡大断面図。
図6】導電性樹脂からなる迂回路の断面図。
図7】(a)は電極が取付けられた従来の超電導コイルの概観図、(b)は従来の電極取付け構成図。
図8】従来の超電導コイル装置の概観図。
図9】第1の実施形態に係る外側電極取付け構成図。
図10】(a)、(b)は従来の電極取付け構成における迂回電流の流れを示す図、(c)は第1の実施形態に係る電極取付け構成における迂回電流の流れを示す図。
図11】第2の実施形態に係る電極取付け構成図。
図12】第2の実施形態に係る電極取付け構成における迂回電流の流れを示す図。
図13】(a)は第3の実施形態に係る巻線部の最外周部分の部分断面図、(b)は最内周部分の断面図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
まず、一般的な超電導コイル及び超電導コイル装置の構成、作用を、図1図8を用いて説明する。
なお、超電導コイル及び超電導コイル装置には高温超電導線材又は低温超電導線材が用いられるが、以下の説明では、特に高い効果を発揮する高温超電導線材を用いた場合を例にして説明する。
【0021】
(高温超電導線材)
一般的な高温超電導線材20は、図1に示されるように、一般に薄膜状の層が積層されたテープ形状の薄膜線材から構成され、高温超電導層25として例えばレアメタル酸化物(RE酸化物)を含むREBCO線材等が用いられる。
【0022】
高温超電導線材(以下、「薄膜線材」ともいう。)20は、例えば、ニッケル基合金、ステンレス又は銅等からなる高強度の金属材質である基板22と、基板22の上に形成される中間層24と、中間層24を基板22の表面に配向させるマグネシウム等からなる配向層23と、中間層24の上に形成されるレアメタル酸化物等からなる高温超電導層25と、銀、金又は白金等で組成される保護層26と、銅又はアルミニウムなどの良伝導性金属からなる安定化層21と、から構成される。
【0023】
中間層24は、基板22と超電導層25の熱収縮の際に起因する熱歪みを防止する。保護層26は、超電導層25に含まれる酸素が超電導層25から拡散することを防止して、超電導層25を保護している。安定化層21は、超電導層25への過剰通電電流の迂回経路となって熱暴走を防止する。なお、薄膜線材20を構成する各層の種類及び数はこれに限定されるものではなく、必要に応じて種類及び数を適宜増減してもよい。
【0024】
(超電導コイル)
上述した高温超電導線材20が巻回されてなる超電導コイル10について、図2図8を用いて説明する。ここで、図2は超電導コイル10の概観図、図3(a)、(b)は巻線部12の巻回方向の説明図、図4図2のA-A線断面図、図5図4の領域R1の拡大断面図、図6は導電性樹脂からなる迂回路19の断面図、図7(a)は電極40(外側電極40a、内側電極40b)が取付けられた従来の超電導コイル10の概観図、図7(b)は電極の取付け構造の説明図、図8は従来の超電導コイル装置100の概観図である。
【0025】
図2は薄膜線材20を同心状に巻回した巻線部12からなるパンケーキ状の超電導コイル10の概観図で、パンケーキコイルとも呼ばれる。図2に示すとおり、超電導コイル10の巻回軸と平行な方向を巻回軸方向C、薄膜線材20を巻き回す方向をコイル周方向、巻回により薄膜線材20が積層される方向をコイル径方向と呼ぶ。
【0026】
さらに、コイル周方向は図3(a)、(b)に示すような向きが定められる。すなわち、コイル周方向のうち、薄膜線材20が巻線部12のコイル径方向内側から外側に向かう向きを巻回方向、コイル径方向外側から内側へ向かう向きを反巻回方向とする。巻線部12は、図2に示すように、薄膜線材20が巻回によって積層されることで形成される一対の巻線側面部18を有する。
【0027】
図4図2のA-A線断面図で、超電導コイル10の部分断面図である。ここでは、薄膜線材20が巻枠14へ巻回されることにより、巻回軸方向Cを貫通する空間を有するパンケーキ状の巻線部12が形成されている。
【0028】
また、超電導コイル10において隣接する別のターンの薄膜線材20同士の間隙のことを単にコイルターン間と呼ぶ。図5図4の領域R1の拡大断面図であるが、薄膜線材20の間には、隣接するターン間の絶縁のために、絶縁性部材33が配置される。絶縁性部材33としては、例えばポリイミド等により形成された絶縁性のテープが好適に用いられる。テープ状の絶縁性部材33は、薄膜線材20と共巻することによりコイルターン間に挿入される。
【0029】
また、超電導コイル10は、エポキシ樹脂などの粘着性を有する絶縁材料で含浸されることもある。粘着性のある樹脂で含浸されることにより、超電導コイル10内の隣接する薄膜線材20に絶縁性部材33が固着され、超電導コイル10の熱伝導度及び機械的強度が向上する。
【0030】
なお、エポキシ樹脂などの粘着性を有する絶縁材料もターン間に挿入されることで絶縁性部材33として機能するが、コイルターン間を確実に絶縁するために、ポリイミド等からなる絶縁性のテープを用いることが好ましい。
【0031】
(迂回路)
超電導コイル10は、図4図5に示されるように、一対の巻線側面部18(図2参照)の少なくとも一つの面に、超電導コイル10内の異なる位置の薄膜線材20同士を電気的に接続する迂回路19を備える。なお、一対の巻線側面部18の両面に迂回路19を設けてもよい。
【0032】
迂回路19の材料は、通常運転時においての超電導コイル10の抵抗より大きく、かつこの超電導コイル10の常電導転移時の抵抗よりも小さい抵抗の材料が選択される。例えば、銅、ステンレス、アルミ、インジウム、等の常電導金属、半導体、導電性プラスチック、セラミックス材、導電性樹脂、超電導材料、等が用いられる。
【0033】
また、グラファイト、炭素繊維または炭素繊維複合材などのカーボン材料なども迂回路19として好適に用いることができる。これらの材料は、シート状の板材又は箔等にして圧着又ははんだ接続等によって巻線側面部18に形成される。
【0034】
なお、巻線側面部18の一つの面にメッキ又は塗布して、迂回路19を形成してもよい。特に、メッキによって迂回路19を形成する場合は、迂回路19を薄くすることができ、超電導コイル10の自由な変形を阻害することがない。さらに、迂回路19をメッキや塗布で形成することで、迂回路19の巻回軸方向の厚みを調整し、迂回路19の抵抗値を調整することができる。
【0035】
図6は、巻線側面部18の一つの面に導電性樹脂36を塗布して迂回路19を形成した例である。この導電性樹脂36は、例えば導電性を持たない樹脂に導電性粉末35を混入させたものを用いることができる。その際、導電性樹脂36に配合される導電性粉末35の割合や種類を変更することにより、導電性樹脂36の体積抵抗率を容易に調整することが可能となる。
【0036】
導電性粉末35としては、例えばカーボンブラック、炭素繊維、グラファイト、等のカーボン系の粉末が用いられる。また、導電性粉末35には、金属微粒子、金属酸化物、金属繊維、ウィスカー、等の金属系の粉末を用いてもよい。さらに、微粒子または合成繊維を金属コートすることで導電性粉末35にしてもよく、巻線側面部18の位置ごとに異なる組成の導電性樹脂36を塗布して迂回路19を形成してもよい。
【0037】
また、導電性樹脂36はコイル径方向に隣接する薄膜線材20同士の間を含めた巻線部12の一部又は全部を含浸して形成してもよい。これにより、導電性樹脂36と薄膜線材20の接触面積を大きくし、導電性樹脂36と薄膜線材20との間の接触抵抗を低減することができる。
【0038】
なお、コイル径方向に隣接する薄膜線材20の間に絶縁性部材33を設けずに、隣接する薄膜線材20同士を直接接触させてもよい。この場合、隣接する薄膜線材20の外表面を覆う安定化層21がコイル径方向に接触することで電気的に接続され、迂回路19として機能する。
【0039】
(迂回路の作用効果)
ここで、迂回路19を設けることで熱暴走等の発生を抑制できる作用効果について説明する。
【0040】
薄膜線材20は、通電電流の限界である臨界電流に近づくにつれ、徐々に外部磁場が侵入し、局所的に超電導状態が破壊された部分が常電導転移する。この局所的な常電導転移に伴うフラックスフロー抵抗は、ジュール損失による発熱を発生するため、コイル温度の上昇などで増大すると熱暴走またはクエンチ(以下、まとめて「熱暴走等」という)を誘引する。
【0041】
そのため、迂回路19を設けることで、薄膜線材20の一部で常電導転移による局所的なフラックスフロー抵抗が発生したときに、コイル周方向に流れていた通電電流Iの一部の電流Ia(以下、「迂回電流」という。)が、迂回路19を介して隣接する他のターンの薄膜線材20へ迂回することができる。
【0042】
ここで、コイル周方向に流れる通電電流はIからI-Iaに減少する。このとき、迂回路19の抵抗をRa、フラックスフロー抵抗をRとすると、コイル径方向に迂回する迂回電流Iaは、R/(R+Ra)に比例する。
【0043】
したがって、フラックスフロー抵抗Rが増大するにつれて、より多くの迂回電流Iaがコイル径方向に迂回することになる。これにより、局所的に常電導状態に転移した常電導箇所に多量の通電電流Iが流れるのを未然に防止することができるため、熱暴走等の発生を抑制することができる。
【0044】
なお、コイルターン間を、迂回路19を介して電気的に接続すると、フラックスフロー抵抗Rが発生したときだけでなく、超電導コイル10を非通電状態から定格電流値まで励磁する際にも、誘導電圧により電源から供給される通電電流Iの一部の迂回電流Iaが、迂回路19を介して他のターンの薄膜線材20に、コイル径方向へ迂回してしまう。また、励磁完了後は誘導電圧が発生しないため、迂回路19に流れた迂回電流Iaは徐々にコイル周方向に流れ込むこととなり、設計した磁場の値に到達するまでの時間を要する。したがって、コイルターン間の抵抗を低くすればするほど、より多くの電流が励磁中に迂回してしまい、不要に励磁時間が長くなってしまう恐れがある。
【0045】
そのため、迂回路19の抵抗Raはフラックスフロー抵抗Rの発生時に十分な量の電流が迂回路19へ転流できる程度に小さな抵抗で、かつ、超電導コイル10を非通電状態から定格電流値まで励磁する際に不要に励磁時間が長くならないほどに大きな抵抗となるように設定することが好ましい。
【0046】
(絶縁板)
図4に示すように、超電導コイル10の側面には絶縁板16が設けられており、迂回路19や巻線部12を隣り合う他の超電導コイル10等から絶縁する。絶縁板16としてはエポキシ樹脂や繊維強化プラスチックが好適に用いられる。
【0047】
(電極)
一般的に、上述した超電導コイル10に通電を行うために、図7(a)に示すように、巻線部12の最外周ターンの薄膜線材20に外側電極40a、最内周ターンの薄膜線材20に内側電極40bが設けられる。外側電極40a、内側電極40bは薄膜線材20にはんだ付けなどにより電気的に接続されて、超電導コイル10を通流する通電電流Iを流入又は流出させる。外側電極40a、内側電極40bは、例えば銅、銀、金、インジウムやこれらの合金で構成される。
【0048】
図7(a)は外側電極40a、内側電極40bが取付けられた従来の超電導コイル10の概観図、図7(b)は超電導コイル10を巻回軸方向Cから見たときの模式図で、従来の電極取付け構成図である。
【0049】
ここで、巻線部12と外側電極40a、内側電極40bの位置関係を説明すると、巻線部12の最外周ターンの薄膜線材20に外側電極40aを取付ける際は、図7(b)に示すように巻回方向へ向かって、巻線部12の外周側の末端部51Aまでの非通電領域52Aができる限り小さくなるように決定する。
【0050】
同様に、巻線部12の最内周ターンの薄膜線材20に内側電極40bを取付ける際は、図7(b)に示すように電極取付け位置から反巻回方向へ向かって、薄膜線材20の内周側の末端部51Bまでの非通電領域52Bができる限り小さくなるように決定する。
【0051】
巻線部12の内周側から外周側に電流を流す場合、通電電流Iが流れることができる通電領域53は、最内周ターンの内側電極取付け位置から最外周ターンの外側電極取付け位置までの区間である。すなわち、最内周側の末端部51Bから内側電極取付け位置までの区間である非通電領域52Bと、最外周側の末端部51Aから外側電極取付け位置までの区間である非通電領域52Aには通電電流Iは流れず、超電導コイル10の磁場形成に寄与しない。
【0052】
以下の説明では、巻線部12の最内周とは、巻線部12の最内周側の末端部51Bを基準に巻回方向に1ターン分の区間、すなわち反巻回方向端部57Bから巻回方向端部58Bまでの区間を指す。一方、通電領域53の最内周とは、最内周側の電極取付け位置を基準に巻回方向に1ターン分の区間を指す。単に最内周と表記した場合は巻線部12の最内周を指す。
【0053】
同様に、巻線部12の最外周とは、巻線部12の最外周側の末端部51Aを基準に反巻回方向に1ターン分の区間、すなわち巻回方向端部58Aから反巻回方向端部57Aまでの区間を指す。一方、通電領域53の最外周とは、最外周側の電極取付け位置を基準に反巻回方向に1ターン分の区間を指す。単に最外周と表記した場合は巻線部12の最外周を指す。
【0054】
(超電導コイル装置)
超電導コイル装置100は、図8に示すように、超電導コイル10を巻回軸方向に同心円状に複数積層して構成される。超電導コイル装置100は、そのように積み重ねられた複数の超電導コイル10のうち、隣接する2つの超電導コイル10に架設され、電極として機能する金属板41(外側金属板41a、内側金属板41b)を有する。
【0055】
外側金属板41aは薄膜線材20にはんだ付け等により電気的に接続されて、架設される2つの超電導コイル10の内、一方の超電導コイル10から流出した通電電流Iを他方の超電導コイル10に流入させる。金属板41は例えば銅、銀、金、インジウムやこれらの合金で好適に構成される。
【0056】
なお、外側金属板41aは薄膜線材20にはんだ71などで直接接合することができるが、図8に示すように、薄膜線材20に補強用の導電性テープ27を貼着し、導電性テープ27に外側金属板41aを接合してもよい。導電性テープ27としては、インジウム、金、銀、銅などの低抵抗金属や超電導線材を用いることができる。内側金属板41bについても同様である。
【0057】
巻線部12の最外周ターンの薄膜線材20に外側金属板41aを取付ける際の取付け位置は、超電導コイル10に外側電極40a、内側電極40bを取付けるときと同様に、図7(b)に示すように金属板取付け位置から巻回方向へ向かって、巻線部12の外周側の末端部51Aまでの非通電領域52Aができる限り小さくなるように決定する。
【0058】
同様に、巻線部12の最内周ターンの薄膜線材20に内側金属板41bを取付ける際の金属板取付け位置は、図7(b)に示すように金属板取付け位置から反巻回方向へ向かって、薄膜線材20の内周側の末端部51Bまでの非通電領域52Bができる限り小さくなるように決定する。これにより、磁場形成に寄与しない非通電領域52A、52Bを短くし、磁場形成に寄与する通電領域53を長くする。
【0059】
(薄膜線材の主面)
ここで、薄膜線材20と外側電極40a、内側電極40b又は外側金属板41a、内側金属板41bを接合する際の、薄膜線材20の二つの主面60の向きについて説明する。
図1に示すように、薄膜線材20には二つの主面60があり、より超電導層25に近い主面60を近位面60a、遠い主面60を遠位面60bと呼ぶ。
【0060】
薄膜線材20と外側電極40a、内側電極40b又は外側金属板41a、内側金属板41bを接合する際は、近位面60aが外側電極40a、内側電極40b又は外側金属板41a、内側金属板41bと対向するように配置することが好ましい。すなわち、超電導層25と外側電極40a、内側電極40b又は外側金属板41a、内側金属板41bとの距離を短くすることにより、接合部での電気抵抗を小さくすることができる。
【0061】
特に、図1に示すように、遠位面60Bと超電導層25の間にニッケル基合金やステンレス等の高抵抗金属からなる基板22が設けられている場合、遠位面60bと外側電極40a、内側電極40b又は外側金属板41a、内側金属板41bを対向させて接合すると、接合部の抵抗が大きくなってしまう恐れがある。
【0062】
したがって、通電領域53の最外周では薄膜線材20の近位面60aがコイル径方向外側を向くように巻線部12を形成し、通電領域53の最内周では薄膜線材20の近位面60aがコイル径方向内側を向くように超電導コイル10を構成することが好ましい。
【0063】
[第1の実施形態]
以下、第1の実施形態に係る超電導コイルを図9図10(a)~(c)を用いて説明する。
【0064】
(構成)
図9は第1の実施形態に係る超電導コイル10を巻回軸方向Cから見た外側電極取付け構成図で、巻線部12と外側電極40aの位置関係を示したものである。
【0065】
外側電極40aは、巻線部12の最外周ターンの巻回方向端部58Aと、同じく最外周ターンの反巻回方向端部57Aとの両方に跨って電気的に接続されるとともに、当該巻回方向端部58Aと反巻回方向端部57Aの径方向外側に配置される。
【0066】
これにより、第1の実施形態では、図7(a)で示した従来の超電導コイル10と比較して、約1ターン分内周側の薄膜線材20に外側電極40aが電気的に接続されることになる。
このように外側電極40aを巻線部12の最外周ターンの反巻回方向端部57Aに電気的に接続することで、非通電領域52Aが1ターン以上確保される。
【0067】
外側電極40aは薄膜線材20にはんだ71等で直接接合することができるが、図8に示すように薄膜線材20に補強用の導電性テープ27を貼着し、導電性テープ27に外側電極40aを接合してもよい。導電性テープ27としては、インジウム、金、銀、銅などの低抵抗金属や超電導線材を用いることができる。
【0068】
(作用)
上記のように構成された超電導コイル10の作用について、図10(a)~(c)を用いて説明する。
ここで、図10(a)、(b)は図7(a)、(b)に示す従来の電極取付け構成において、常電導箇所15が発生した場合の迂回電流Iaの流れを示す図で、図7(b)の領域R2の拡大図である。
【0069】
また。図10(c)は第1の実施形態に係る超電導コイル10において、常電導箇所15が発生した場合の迂回電流Iaの流れを示す図で、図9に示す領域R3の拡大図である。
【0070】
(従来の電極取付け構成の作用)
まず、図10(a)に示すように、通電領域53の最外周と最内周以外のターンの薄膜線材20で常電導箇所15が生じた場合を考える。
【0071】
ここで、通電電流Iは超電導コイル10の内周側から外周側に流れるものとするが、電流の向きが逆であったとしても同様の作用効果を得られる。通常の超電導コイル10では、通電領域53の最外周、最内周と巻線部12の最外周、最内周は概ね一致している。
【0072】
図10(a)において、隣り合う薄膜線材20は迂回路19により電気的に接続されているため、通電電流Iの一部の迂回電流Iaが常電導箇所15を避けるように迂回路19へ流れ込む。迂回電流Iaが迂回路19をコイル径方向に流れる際の抵抗及び迂回電流Iaが迂回路19へ転流する際の接触抵抗は迂回電流Iaが流れる方向に垂直な方向の断面積に比例する。
【0073】
迂回路19の厚みが一定であるとすると、その断面積は常電導転移が生じたターンにおける円周長に比例する。常電導転移が生じたターンのコイル径方向位置により円周長の大きさは多少変わるものの、少なくとも円周長分の断面積を通って迂回電流Iaが流れることができる。
【0074】
次に、図10(b)のように常電導箇所15が通電領域53の最外周の薄膜線材20に生じた場合を考える。
通電電流I及び迂回電流Iaは薄膜線材20の末端部51A付近に取付けられた外側電極40aに流出するように流れるが、通電領域53の最外周のさらに外側には薄膜線材20が存在しないため、迂回電流Iaが流れることができる断面積が図10(a)の場合と比較して小さくなり、これにより、迂回電流Iaが迂回路19を通流する際の抵抗が大きくなってしまう。
したがって、迂回電流Iaが十分でないために、多量の電流が常電導箇所15に流れ込み、クエンチを引き起こす恐れがある。
【0075】
(第1の実施例形態の電極取付け構成の作用)
一方、図10(c)のように外側電極40aが巻回方向端部58Aと反巻回方向端部57Aの両方に跨って電気的に接続されている場合、通電領域53の最外周のさらに外側に、非通電領域52Aとして巻線部12の最外周のターンの薄膜線材20が巻回されている。
これにより、迂回電流Iaが円周長分の断面積56を通って迂回することができる。
【0076】
このように、図10(c)において迂回電流Iaが迂回路19を通流する際の電気抵抗は、常電導箇所15がコイル中央部に生じた場合に迂回電流Iaが迂回路19を通流する際の電気抵抗と同程度まで低減することができるため、外側電極40aが巻線部12の最外周の薄膜線材20の末端部51A付近に取付けられている場合に比して(図10(a)、(b)参照)大きな抵抗値とはならない。
【0077】
さらに、図10(c)の電極取付け構成では、薄膜線材20の巻回方向端部58Aが外側電極40aに電気的に接続されているので、巻線部12の最外周の薄膜線材20に迂回した迂回電流Iaが最外周の1ターン内の薄膜線材20を経由して外側電極40aへ流入する経路に加えて、最外周の1ターン内の薄膜線材20へ戻ることなく外側電極40aに直接流出する経路が形成されるため、迂回電流Iaが外側電極40aへ流れる経路が増えることとなり、迂回電流Iaによる発熱量が低減される。
【0078】
以上のように、第1の実施形態では、コイル径方向に隣接する薄膜線材20同士を迂回路19で電気的に接続した超電導コイル10において、外側電極40aを巻回方向端部58Aと反巻回方向端部57Aの両方に跨って電気的に接続することで、通電領域53の最外周のターンに常電導箇所15が生じたとしても、通電領域53の最外周のさらに外側を覆う非通電領域52Aに通電電流Iの一部の迂回電流Iaを迂回させることができる。
【0079】
なお、超電導線材20の上に設けられた電極の少なくとも一部を覆うようにカバー用超電導テープを設け、これらを互いに電気的に接続した従来の電極取付け構成の場合、すなわち、外側電極40aを巻回方向端部58Aと反巻回方向端部57Aの間に設けた電極取付け構成の場合は(特許文献3参照)、薄膜線材20が外側電極40aの径方向外側を覆う領域において、超電導コイル10の冷却時の熱収縮による集中応力が生じ、外側電極40aのエッジと薄膜線材20が接する部分で薄膜線材20の劣化が生じる恐れがある。
【0080】
しかしながら、本第1の実施形態の電極取付け構成では、外側電極40aは巻回方向端部58Aと反巻回方向端部57Aの径方向外側に設けられるため、冷却時の熱収縮による劣化の恐れがない。
【0081】
なお、巻線部12の最外周ターンを設ける代わりに、カバー用超電導テープを巻線部12の全周に亘って取付ける構造も考えられるが、この場合は、巻線部12の全周に亘ってはんだ付けを行う必要があり、はんだごての熱で薄膜線材20を劣化させるリスクが増大してしまう。
【0082】
さらに、外側電極40aを巻回方向端部58Aと反巻回方向端部57Aの間に設ける場合は、巻回方向端部58A付近の薄膜線材20を外側電極40aにはんだ等を介して径方向外側から電気的に接続する必要がさらに生じる。
【0083】
しかしながら、本第1の実施形態の電極取付け構成では、巻線部12の最外周ターンの薄膜線材20は最外周1ターン前の薄膜線材20と迂回路19を介して径方向に電気的に接続されているため、薄膜線材20同士をはんだ付けする必要がない。すなわち、外側電極40aを巻回方向端部58Aと反巻回方向端部57Aの両方に跨って取付ければよく、はんだ付け作業を行う回数と領域は、従来の超電導コイル10に外側電極40aを取付ける際と同様である。
【0084】
(効果)
以上説明したように、本第1の実施形態によれば、十分な量の迂回電流Iaを、常電導箇所15が生じていない他の薄膜線材20へ転流させることができるため、超電導コイル10の熱暴走またはクエンチの発生を抑制することが可能である。
なお、上述した作用効果は内側電極40bの取付け構成でも同様である。
【0085】
[第2の実施形態]
第2の実施形態に係る超電導コイルを図11図12を用いて説明する。なお、第1の実施形態と同一の構成には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0086】
(構成)
第2の実施形態に係る超電導コイル10では、内側電極40bは、巻線部12の最内周のターンの反巻回方向端部57Bと、同じく最外周のターンの巻回方向端部58Bの両方に跨って電気的に接続されるとともに、当該巻回方向端部58Bと反巻回方向端部57Bの径方向内側に配置される。
【0087】
図11に示した第2の実施形態に係る超電導コイル10は、図7(b)で示した従来の超電導コイル10と比較して、約1ターン分外周側の薄膜線材20に内側電極40bが取付けられることとなる。このように、内側電極40bを巻線部12の最内周の巻回方向端部58Bに電気的に接続することで、非通電領域52Bが1ターン以上確保される。
【0088】
(作用)
図12を用いて第2の実施形態の作用を説明する。
図12図11に示した超電導コイル10の領域R4の拡大断面図で、迂回電流の流れを示す図である。
【0089】
本第2の実施形態においても、第1の実施形態と同様に、通電領域53の最内周のさらに内側に、非通電領域52Bとして巻線部12の最内周ターンの薄膜線材20が巻き回されているため、図12に示すように、仮に常電導箇所15が通電領域53の最内周の薄膜線材20に生じた場合でも、迂回電流Iaが迂回路19を通流する際の電気抵抗を低減することができる。
【0090】
さらに、薄膜線材20の末端部51Bが内側電極40bに電気的に接続されているので、巻線部12の最内周の薄膜線材20に迂回した迂回電流Iaが最内周の1ターン外の薄膜線材20を経由して内側電極40bへ流入する経路に加えて、最内周の1ターン前の薄膜線材20へ戻ることなく内側電極40bに直接流出する経路が形成されるため、迂回電流Iaが内側電極40bへ流れる経路が増えることとなり、迂回電流Iaによる発熱量が低減されることも実施例1と同様である。
【0091】
(効果)
以上説明したように、第2の実施形態によれば、十分な量の迂回電流Iaが迂回路19に転流することができるため、超電導コイル10の熱暴走またはクエンチの発生を抑制することが可能である。
【0092】
[第3の実施形態]
第3の実施形態に係る超電導コイルを図13(a)、(b)を用いて説明する。ここで、図13(a)は巻線部12の最外周部分の部分断面図で、図9の領域R3の拡大断面図であり、図13(b)は巻線部12の最内周部分の部分断面図で、図11の領域R4の拡大断面図である。
なお、上記実施形態と同一の構成には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0093】
(構成)
第3の実施形態に係る超電導コイル10では、巻線部12の最外周のターンの少なくとも一部において、薄膜線材20同士を接続する接続部70を有する構成としている。
【0094】
上述したとおり、薄膜線材20の通電領域53の最外周のターンでは薄膜線材20の近位面60aがコイル径方向内側を向いているため、図13(a)に示すように、巻線部12の最外周のターンにて薄膜線材20の近位面60a同士を対向させて接続する(図1参照)。
【0095】
これにより、通電領域53のさらに外側の非通電領域52Aでは薄膜線材20の近位面60aがコイル径方向内側を向いて配置される。ここで、薄膜線材20と接続される線材として、ビスマス系の超電導線材を用いてもよい。
【0096】
なお、上述した薄膜線材20の近位面60a同士の接続部70は、その巻回周方向の一部が巻線部12の最外周ターンに含まれていればよく、特に、図13(a)のように電極取付け位置50Aと巻回周方向に関して共通の領域を含んでもよい。この場合、接続部70と外側電極40aの間の空隙ははんだ71などで埋めることで、機械的に固着させるとともに、電気的に接続することができる。
【0097】
同様に、第3実施形態に係る超電導コイル10では、巻線部12の最内周の少なくとも一部において、薄膜線材20同士の接続部70を有する構成としている。
【0098】
上述したとおり、薄膜線材20の通電領域53の最内周では薄膜線材20の近位面60aがコイル径方向外側を向いており、図13(b)に示すように、巻線部12の最内周にて薄膜線材20の近位面60a同士を対向させて接続する。これにより、通電領域53のさらに内側の非通電領域52Bでは薄膜線材20の近位面60aがコイル径方向外側を向いて配置される。
【0099】
なお、上述した薄膜線材20の近位面60a同士の接続部70は、少なくともその一部が巻線部12の最内周のターンに含まれていればよく、特に、図13(b)のように電極取付け位置50Bと巻回周方向に関して共通の領域を含んでもよい。
【0100】
(作用)
本第3の実施形態においては、上記第1及び第2の実施形態の作用に加え、巻線部12の最内周ターンもしくは最外周ターンにて隣り合う薄膜線材20近位面60a同士が対向するため、これらの薄膜線材20同士の間の電気抵抗が低減される。
【0101】
したがって、図13(a)、(b)に示すように、仮に常電導箇所15が通電領域53の最内周や最外周に位置する薄膜線材20に生じた場合でも、迂回電流Iaが迂回路19を通流する際の電気抵抗をさらに低減することができる。
【0102】
(効果)
以上説明したように、第3の実施形態によれば、十分な量の迂回電流Iaが迂回路19に転流することができるため、超電導コイル10の熱暴走またはクエンチの発生を抑制することが可能である。
【0103】
[第4の実施形態]
第4の実施形態に係る超電導コイル装置を説明する。なお、上記実施形態と同一の構成には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0104】
(構成)
図8に示すように超電導コイル装置100は、超電導コイル10を巻回軸方向に同心円状に複数積層して構成される。超電導コイル装置100は、そのように積層された複数の超電導コイル10のうち、隣接する2つの超電導コイル10に架設され、電極として機能する金属板41(外側金属板41a、内側金属板41b)を有する。
【0105】
外側金属板41aは薄膜線材20にはんだ付け等により電気的に接続されて、架設される2つの超電導コイル10の内、一方の超電導コイル10から流出した通電電流Iを他方の超電導コイル10に流入させる。金属板41は例えば銅、銀、金、インジウムやこれらの合金で好適に構成される。
【0106】
なお、外側金属板41aは薄膜線材20にはんだ71等で直接接合することができるが、薄膜線材20に補強用の導電性テープ27を貼着し、導電性テープ27に外側金属板41aを接合してもよい。導電性テープ27としては、インジウム、金、銀、銅などの低抵抗金属や超電導線材を用いることができる。内側金属板41bについても同様である。
【0107】
外側金属板41aは、第1の実施形態の電極取付け構成と同様に(図10(c)参照)、1つの超電導コイル10の巻線部12の最外周のターンの巻回方向端部58Aの径方向外側に配置されて巻回方向端部58Aと反巻回方向端部57Aの両方に跨って電気的に接続される。
【0108】
これにより、通電領域53の最外周のさらに外側に非通電領域52Aを約1ターン分確保することができる。外側金属板41aは薄膜線材20にはんだ71等で直接接合することができる。
【0109】
(作用)
本第4の実施形態においても、第1の実施形態と同様に、通電領域53の最外周のさらに外側に、非通電領域52Aとして巻線部12の最外周ターンの薄膜線材20が巻回されているため、仮に常電導箇所15が通電領域53の最外周の薄膜線材20に生じた場合でも、迂回電流Iaが迂回路19を通流する際の電気抵抗を低減することができる。
【0110】
さらに、図10(c)に示すように、薄膜線材20の巻回方向端部58Aが外側金属板41aに電気的に接続されているので、巻線部12の最外周の薄膜線材20に迂回した迂回電流Iaが最外周の1ターン内の薄膜線材20を経由して外側金属板41aへ流入する経路に加えて、最外周の1ターン内の薄膜線材20へ戻ることなく外側金属板41aに直接流出する経路が形成されるため、迂回電流Iaが外側金属板41aへ流れる経路が増えることとなり、迂回電流Iaによる発熱量が低減される。
【0111】
このように、コイル径方向に隣接する薄膜線材20同士を迂回路19で電気的に接続した超電導コイル装置100において、外側金属板41aを巻線部12の最外周ターンよりも1ターン内の薄膜線材20の表面54Aに配置することで、通電領域53の最外周ターンに常電導箇所15が生じたとしても、通電領域53の最外周のさらに外側を覆う非通電領域52Aに通電電流Iの一部の迂回電流Iaを迂回させることができる。
【0112】
(効果)
以上説明したように、第4の実施形態によれば、十分な量の迂回電流Iaが迂回路19に転流することができるため、超電導コイル装置100の熱暴走またはクエンチの発生を抑制することが可能である。
【0113】
[第5の実施形態]
第5の実施形態に係る超電導コイル装置を説明する。なお、上記実施形態と同一の構成には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0114】
(構成)
第5実施形態に係る超電導コイル装置100では、図12に示す内側電極40bを薄膜線材20に接続する場合と同様に、電極として機能する内側金属板41bが巻線部12の最内周のターンの反巻回方向端部57Bの径方向内側に配置されて巻回方向端部58Bと反巻回方向端部57Bの両方に跨って電気的に接続される。これにより、通電領域53の最内周のさらに内側に非通電領域52Bを約1ターン分確保することができる。
なお、超電導コイル装置100には外部から通電電流Iを流入又は流出させるための外側電極40a、内側電極40bを取付けることもできる。
【0115】
好適な例としては、超電導コイル装置100の巻回軸方向Cの端部の超電導コイル10として、第1~第3の実施形態に基づき電極40a、40bを取付けた超電導コイル10を組込み、さらに隣接する超電導コイル10同士は、第4又は第5の実施形態に基づき外側金属板41a、内側金属板41bを架設して電気的に接続することで、通電電流Iが超電導コイル装置100を構成する複数の超電導コイル10を順に流れる直列回路を形成することができる。
【0116】
(作用)
本第5の実施形態においても、第2の実施形態と同様に、各超電導コイル10では、通電領域53の最内周のさらに内側に、非通電領域52Bとして巻線部12の最内周ターンの薄膜線材20が巻回されているため、仮に常電導箇所15が通電領域53の最内周の薄膜線材20に生じた場合でも、迂回電流Iaが迂回路19を通流する際の電気抵抗を低減することができる。
なお、最内周の薄膜線材20と金属板41を電気的に接続してあるので、巻線部12の最内周の薄膜線材20に迂回電流Iaが金属板41から直接流入することができる。
【0117】
(効果)
以上説明したように、第5の実施形態によれば、十分な量の迂回電流Iaが迂回路19に転流することができるため、超電導コイル装置100の熱暴走またはクエンチの発生を抑制することが可能である。
【0118】
[第6の実施形態]
第6の実施形態に係る超電導コイル装置を説明する。なお、上記実施形態と同一の構成には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0119】
(構成)
第6の実施形態に係る超電導コイル装置100は、第3の実施形態に係る超電導コイル10と同様に、巻線部12の最外周の少なくとも一部において、薄膜線材20同士の接続部70を有する。具体的には、第3実施形態に係る図13(a)に示したのと同様に、巻線部12の最外周にて薄膜線材20の近位面60a同士を対向させて接続することで、通電領域53のさらに外側の非通電領域52Aでは薄膜線材20の近位面60aがコイル径方向内側を向いて配置される。
【0120】
薄膜線材20と接続される線材として、ビスマス系の超電導線材を用いてもよい。図13(b)のように電極取付け位置50Aと巻回周方向に関して共通の領域を含んでもよい。
【0121】
同様に、第6の実施形態に係る超電導コイル装置100で、第3実施形態に係る超電導コイル10と同様に、巻線部12の最内周の少なくとも一部において、薄膜線材20同士の接続部70を有する。
【0122】
薄膜線材20の近位面60a同士を対向させて接続する点、及び図13(b)のように電極取付け位置50Bと巻回周方向に関して共通の領域を含んでもよい点は、上記第3の実施形態と同様である。
【0123】
(作用)
本第6の実施形態においても、第4及び第5の実施形態の作用に加え、第3の実施形態と同様に、巻線部12の最内周ターン又は最外周ターンにて隣り合う薄膜線材20近位面60a同士が対向するため、これらの薄膜線材20同士の間の電気抵抗が低減される。
【0124】
(効果)
以上説明したように、第6の実施形態によれば、十分な量の迂回電流Iaが迂回路19に転流することができるため、超電導コイル装置100の熱暴走またはクエンチの発生を抑制することが可能である。
【0125】
以上、本発明の実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更、組み合わせを行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【0126】
例えば、迂回路、導電性部材及び絶縁材が設けられた巻線部の形状として、いわゆるパンケーキ形状の超電導コイルを例示した。しかし、適用できる巻線部は、パンケーキ形状のものに限定されない。また、レーストラック型、鞍型、楕円型などの非円形形状コイルなどにも適用することができる。
【符号の説明】
【0127】
10…超電導コイル、12…巻線部、14…巻枠、15…常電導箇所、16…絶縁板、18…巻線側面部、19…迂回路、20…超電導線材(薄膜線材)、21…安定化層、22…基板、23…配向層、24…中間層、25…高温超電導層、26…保護層、27…導電性テープ、33…絶縁性部材、35…導電性粉末、36…導電性樹脂、40…電極、40a…外側電極、40b…内側電極、41…金属板、41a…外側金属板、41b…内側金属板、51A、51B…末端部、52A、52B…非通電領域、53…通電領域、57A、57B…反巻回方向端部、58A、58B…巻回方向端部、60…主面、60a…近位面、60b…遠位面、70…接続部、71…はんだ、100…超電導コイル装置
図1
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