(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-15
(45)【発行日】2023-12-25
(54)【発明の名称】保持装置
(51)【国際特許分類】
H01L 21/683 20060101AFI20231218BHJP
【FI】
H01L21/68 R
(21)【出願番号】P 2020141707
(22)【出願日】2020-08-25
【審査請求日】2022-07-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100160691
【氏名又は名称】田邊 淳也
(74)【代理人】
【識別番号】100167232
【氏名又は名称】川上 みな
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 敦
【審査官】三浦 みちる
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-052015(JP,A)
【文献】特開2019-133996(JP,A)
【文献】特開2020-023088(JP,A)
【文献】特開2020-068219(JP,A)
【文献】特開2005-163970(JP,A)
【文献】特開2019-021708(JP,A)
【文献】国際公開第2014/157571(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/683
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象物を保持する保持装置であって、
セラミックを主成分とし、板状に形成されるセラミック部と、
金属を含み、板状に形成される金属部と、
前記セラミック部と前記金属部との間に配置され、前記セラミック部と前記金属部とを接合する接合部と、
を備え、
前記金属部は、マグネシウムを主成分として含
み、
前記接合部は、150℃におけるヤング率が17MPa以下であることを特徴とする
保持装置。
【請求項2】
請求項
1に記載の保持装置であって、さらに、
マグネシウムとは異なる金属またはセラミックによって形成される層、化成処理皮膜、および陽極酸化皮膜のうちの少なくとも一つを含み、前記金属部の表面に設けられた第1コート層を備えることを特徴とする
保持装置。
【請求項3】
請求項1
または2に記載の保持装置であって、さらに、
前記金属部の表面のうちの前記接合部と接する面に設けられ、セラミックによって構成される第2コート層を備えることを特徴とする
保持装置。
【請求項4】
請求項1から
3までのいずれか一項に記載の保持装置であって、
前記金属部を構成する金属は、振動減衰係数が10%以上であることを特徴とする
保持装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、保持装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、対象物を保持する保持装置として、例えば、半導体を製造する際にウェハ等の対象物を保持する静電チャックが知られている。静電チャックは、対象物が載置されるセラミック部と、冷媒流路が形成される金属部と、セラミック部と金属部とを接合する接合部と、を備える。例えば、特許文献1には、アルミニウムによって金属部を形成し、アルミナ等によってセラミック部を形成する構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1に記載の技術では、比較的高温の温度条件下で保持装置を使用した場合に、セラミック部と金属部との間の熱膨張率差に起因して、対象物が載置されるセラミック部において、望ましくない程度の曲がりや反り等の変形が生じる可能性があった。また、セラミック部と金属部との間の熱膨張率差に起因する上記のような不都合を抑えるために、保持装置を使用する温度条件が制限される可能性があった。そのため、保持装置を高温条件で使用する際にセラミック部の変形等の不都合の発生を抑制可能にする技術が望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示は、以下の形態として実現することが可能である。
(1)本開示の一形態は、対象物を保持する保持装置であって、セラミックを主成分とし、板状に形成されるセラミック部と、金属を含み、板状に形成される金属部と、前記セラミック部と前記金属部との間に配置され、前記セラミック部と前記金属部とを接合する接合部と、を備え、前記金属部は、マグネシウムを主成分として含むことを特徴とする。
この形態の保持装置によれば、金属部は、ヤング率が比較的低い金属であるマグネシウムを主成分として含むため、保持装置を比較的高温の温度条件下で用いる場合であっても、セラミック部と金属部との間の熱膨張率差に起因して金属部で生じる熱応力を低減し、セラミック部の変形等の不都合を抑えることができる。また、保持装置を使用する温度条件が制限されることを抑えることができる。
(2)上記形態の保持装置において、前記接合部は、150℃におけるヤング率が17MPa以下であることとしてもよい。このような構成とすれば、例えば、アルミニウムを主成分とする金属部を備える従来知られる保持装置に比べて、接合部の構成材料の選択肢が広がる。そのため、例えば熱伝導率がより高い等、性能の優れた構成材料を用いて接合部を形成して保持装置の性能向上を図ることが可能になる。
(3)上記形態の保持装置において、さらに、マグネシウムとは異なる金属またはセラミックによって形成される層、化成処理皮膜、および陽極酸化皮膜のうちの少なくとも一つを含み、前記金属部の表面を覆うように設けられた第1コート層を備えることとしてもよい。このような構成とすれば、金属部の露出面を覆うように第1コート層が設けられているため、マグネシウムを主成分とする金属部の耐食性を高めることができる。
(4)上記形態の保持装置において、さらに、前記金属部の表面のうちの前記接合部と接する面に設けられ、セラミックによって構成される第2コート層を備えることとしてもよい。このような構成とすれば、金属部の表面における接合部と接する領域に第2コート層を設けるため、接合部を構成する接着剤としてマグネシウムとの接着性が比較的低い接着材を用いる場合であっても、接合部による金属部とセラミック部との間の接着性を高めることができる。
(5)上記形態の保持装置において、前記金属部を構成する金属は、振動減衰係数が10%以上であることとしてもよい。このような構成とすれば、保持装置に載置される対象物に対して加工を施す際に、保持装置の移動によって保持装置に生じた振動が速やかに収まるため、対象物に対する加工の精度を高めることができる。また、保持装置に生じた振動が収まるまで待機する時間が削減されるため、生産性を高めることができる。
本開示は、上記以外の種々の形態で実現可能であり、例えば、保持装置を含む半導体製造装置、保持装置の製造方法などの形態で実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図2】静電チャックの断面の様子を模式的に表す断面図。
【
図3】マグネシウムとアルミニウムに関する種々の物性値を示す説明図。
【
図6A】ウェハWの表面をエッチング加工する様子を模式的に表す説明図。
【
図6B】ウェハWの表面をエッチング加工する様子を模式的に表す説明図。
【
図7】静電チャックの断面の様子を模式的に表す断面図。
【
図8】静電チャックの断面の様子を模式的に表す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0007】
A.第1実施形態:
図1は、第1実施形態における静電チャック10の外観の概略を表す斜視図である。
図2は、静電チャック10の断面の様子を模式的に表す断面図である。
図1では、静電チャック10の一部を破断して示している。また、
図1、
図2、および後述する
図7および
図8には、方向を特定するために、互いに直交するXYZ軸を示している。各図に示されるX軸、Y軸、Z軸は、それぞれ同じ向きを表す。本願明細書においては、Z軸は鉛直方向を示し、X軸およびY軸は水平方向を示している。なお、
図1および
図2は、各部の配置を模式的に表しており、各部の寸法の比率を正確に表すものではない。
【0008】
静電チャック10は、対象物を静電引力により吸着して保持する装置であり、例えば半導体製造装置の真空チャンバ内で、対象物であるウェハWを固定するために使用される。静電チャック10は、セラミック部20と、金属部30と、接合部40と、を備える。これらは、-Z軸方向(鉛直下方)に向かって、セラミック部20,接合部40、金属部30の順に積層されている。本実施形態における静電チャック10を、「保持装置」とも呼ぶ。
【0009】
セラミック部20は、略円形の板状部材であり、セラミック(例えば、酸化アルミニウムや窒化アルミニウム等)を主成分として形成されている。本願明細書において、特定成分が「主成分である」とは、当該特定成分の含有率が、50体積%以上であることを意味する。セラミック部20の直径は、例えば、50mm~500mm程度とすればよく、通常は200mm~350mm程度である。セラミック部20の厚さは、例えば1mm~10mm程度とすればよい。
【0010】
図2に示すように、セラミック部20の内部には、チャック電極22が配置されている。チャック電極22は、例えば、タングステンやモリブデンなどの導電性材料により形成されている。チャック電極22に対して図示しない電源から電圧が印加されると、静電引力が発生し、この静電引力によってウェハWがセラミック部20の載置面S1に吸着固定される。チャック電極22は、双極型であってもよく、単極型であってもよい。また、セラミック部20の内部には、導電性材料(例えば、タングステンやモリブデン等)により形成された抵抗発熱体で構成されて、載置面S1に吸着固定されたウェハWを加熱するための、図示しないヒータ電極を設けてもよい。
【0011】
金属部30は、略円形の板状部材であり、マグネシウムを主成分として含む。金属部30がマグネシウムを主成分として含むとは、金属部30が、マグネシウムを50体積%以上含むことをいう。具体的には、金属部30は、例えば、マグネシウムにより形成したり、50体積%以上の割合でマグネシウムを含有するマグネシウム合金により形成することができる。金属部30におけるマグネシウムの含有率は、50体積%以上であればよいが、80体積%以上であることがより望ましく、90体積%以上であることがさらに望ましい。金属部30を、マグネシウム合金を用いて形成する場合には、マグネシウム合金は、マグネシウム以外の元素として、アルミニウム、亜鉛、ジルコニウム、銅、希土類元素、イットリウム、ケイ素等、種々の元素を含む合金とすることができる。マグネシウム合金において、マグネシウム以外の元素の種類およびその含有率は、静電チャック10を使用する半導体製造装置の真空チャンバ内部の環境に対する影響(例えば、半導体素子製造の工程において汚染の原因になるか否かなど)や、真空チャンバ内で発生させるプラズマに対する影響が、許容範囲となるように設定されていればよい。金属部30の直径は、例えば、220mm~550mm程度とすればよく、通常は220mm~350mmである。金属部30の厚さは、例えば、20mm~40mm程度とすればよい。
【0012】
金属部30の内部には、複数の冷媒流路32がXY平面に沿うように形成されている。冷媒流路32に、例えばフッ素系不活性液体や水等の冷媒を流すことにより、金属部30が冷却される。そして、接合部40を介した金属部30とセラミック部20との間の伝熱によりセラミック部20が冷却され、セラミック部20の載置面S1に保持されたウェハWが冷却される。これにより、ウェハWの温度制御が実現される。金属部30の内部に冷媒流路32を有する形態の他、金属部30の外部から金属部30を冷却することにより、金属部30に冷却機能を持たせてもよい。
【0013】
接合部40は、セラミック部20と金属部30との間に配置されて、セラミック部20と金属部30とを接合する。接合部40は、例えばシリコーン系樹脂やアクリル系樹脂、エポキシ系樹脂等の接着剤により構成される。接合部40は、例えばセラミック粉末等の無機フィラーを含んでいてもよい。具体的には、シリカ、アルミナ、アルミ、酸化イットリウム、フッ化イットリウム、窒化アルミニウム、炭化珪素、窒化珪素、酸化鉄、硫酸バリウム、炭酸カルシウム等のフィラーを含んでいてもよい。接合部40の厚さは、例えば0.1mm~1mm程度とすることができる。
【0014】
静電チャック10には、さらに、複数のガス供給路50が形成されている。ガス供給路50は、セラミック部20、接合部40,および金属部30をZ方向に貫通して設けられており、載置面S1において、ガス吐出口52として開口している。ガス供給路50は、図示しないガス供給装置から、例えばヘリウムガス等の不活性ガスを供給されて、載置面S1とウェハWとの間の空間に対して、ガス吐出口52から不活性ガスを供給する。これにより、セラミック部20とウェハWとの間の伝熱性を高めて、ウェハWの温度分布の制御性がさらに高められる。なお、ガス供給路50は必須ではなく、静電チャック10にガス供給路50を設けないこととしてもよい。
【0015】
以上のように構成された本実施形態の静電チャック10によれば、金属部30は、マグネシウムを主成分として含むため、比較的高温の温度条件下で静電チャック10を用いる場合であっても、セラミック部20と金属部30との間の熱膨張率差に起因して金属部30で生じる熱応力を低減することができる。そのため、静電チャック10を比較的高温の温度条件下で用いる場合であっても、金属部30で生じる熱応力に起因するセラミック部20の変形、具体的には、セラミック部20の曲がりや反りを抑えることができる。セラミック部20が変形すると、セラミック部20の載置面S1と、載置面S1上に保持されるウェハWとの間の平行度が低下するため、載置面S1上にウェハWを吸着する程度が損なわれる可能性がある。また、載置面S1とウェハWとの間の空間に供給されるヘリウムガス等がリークする可能性がある。ヘリウムガス等がリークすると、セラミック部20とウェハWとの間の伝熱状態が損なわれ、ウェハWの温度が変化したり、ウェハWの温度にばらつきが生じる可能性がある。本実施形態によれば、セラミック部20と金属部30との間の熱膨張率差に起因するセラミック部20の変形が抑制されることにより、上記した不都合を抑えることができる。
【0016】
以下では、セラミック部20と金属部30との間の熱膨張率差に起因して金属部30で生じる熱応力を低減することについてさらに説明する。応力σと弾性率(ヤング率)Eと歪みεとは、以下の(1)式の関係を満たすことが知られている。
【0017】
σ(MPa)=ε × E(MPa) …(1)
【0018】
図3は、マグネシウムとアルミニウムに関する種々の物性値を示す説明図である。
図3に示すように、マグネシウムと、静電チャックの金属部の構成材料として広く用いられているアルミニウムと、の間で熱膨張率(線膨張率)を比較すると、マグネシウムの方が若干大きいものの、両者の熱膨張率はほぼ同程度である。これに対して、マグネシウムとアルミニウムのヤング率を比較すると、マグネシウムのヤング率が44.3GPaであるのに対してアルミニウムのヤング率は75.7GPaであり、マグネシウムのヤング率はアルミニウムに比べて極めて小さい。そのため、例えば、各部の形状や、セラミック部および接合部の材質が共通する静電チャックであって、金属部30をマグネシウムで構成した本実施形態の静電チャック10と、金属部をアルミニウムで構成した比較例の静電チャックとを同様の高温条件下に配置して、両者の金属部が同程度に膨張したとき(同程度の歪みが生じるとき)には、本実施形態の静電チャックの金属部30で生じる熱応力は、比較例の静電チャックの金属部で生じる熱応力に比べて遙かに小さくなる。金属部30で生じる熱応力が小さいことにより、金属部30で生じる熱応力に起因してセラミック部20に加えられる力が小さくなり、本実施形態の静電チャックでは、比較例の静電チャックに比べて、セラミック部の変形を抑えることができる。
【0019】
例えば、アルミニウムを主成分とする金属部を備える従来知られる静電チャックでは、150℃以上の高温の温度条件下で使用する場合には、金属部とセラミック部との間の熱膨張率差に起因して金属部で生じる熱応力が大きいために、セラミック部において許容できない程度の変形が生じる可能性があった。これに対して本実施形態の静電チャック10によれば、金属部30で生じる熱応力を抑えることができるため、例えば150℃を超える高温の温度条件下であっても、セラミック部20の変形を抑え、セラミック部20の変形に起因する不都合を抑えることができる。
【0020】
このように、本実施形態の静電チャック10によれば、マグネシウムを主成分とする金属部30を備えて、比較的高温の温度条件下であっても金属部30で生じる熱応力を低減してセラミック部20の変形を抑えることができるため、より高い温度条件下において静電チャック10を用いることが可能になる。そのため、金属部30とセラミック部20との間の熱膨張率差に起因して静電チャック10の使用可能な温度条件が制限されることを抑えることができる。
【0021】
また、
図3では、25℃におけるモル熱容量、および、これを換算して求められる比熱を示している。
図3に示すように、マグネシウムは、金属部の構成材料として広く用いられているアルミニウム等と比較して、比熱が小さい。そのため、金属部30の大きさが同じであれば、金属部30を特定の目標温度に昇温させるために要する熱量がより小さくなり、金属部30を目標温度に昇温させるために要する時間をより短くすることができる。また、マグネシウムの比熱が小さいことにより、金属部30を特定の目標温度に冷却するために要する時間を短くすることもできる。そのため、本実施形態の静電チャック10によれば、例えば150℃を超える様な高温の温度条件を含んで温度変化が大きな工程でウェハW等を製造する際に、温度制御に要する時間を削減することができ、生産効率を高めることができる。このように、金属部30全体の比熱が小さいことによる効果を得るためには、マグネシウムを主成分として金属部30を構成する金属の比熱は、2.3J/(K・cm
3)以下であることが好ましく、2.2J/(K・cm
3)以下であることがより好ましく、2.0J/(K・cm
3)以下であることがさらに好ましい。
【0022】
また、
図3に示すように、マグネシウムは、金属部の構成材料として広く用いられているアルミニウム等と比較して、密度が低い。そのため、静電チャック10全体を軽量化することが可能になり、その結果、例えば半導体製造装置の真空チャンバ内等で静電チャック10を支える構造体を小型化することができる。例えば、マグネシウム製の金属部30とアルミニウム製の金属部とを比較すると、0.64倍に軽量化することができる(0.64は、Mgの密度1.74をAlの密度2.70で除した値である)。このように、金属部30を軽量化する効果を得るためには、マグネシウムを主成分として金属部30を構成する金属の密度は、2.3g/cm
3以下であることが好ましく、2.2g/cm
3以下であることがより好ましく、2.0g/cm
3以下であることがさらに好ましい。
【0023】
また、アルミニウムは、展伸や切削などの加工の際に、内部応力がかかっており、長時間にわたって使用する際、この内部応力が徐々に解放されるため、徐々に寸法や形状が変化してしまうことがある。これに対しマグネシウムは、金属の結晶構造として、六方最密充填構造を有している。六方最密充填構造は、滑り面が少なく塑性変形し難い性質を有している。そのため、マグネシウムを主成分とする金属部30を備える本実施形態の静電チャック10は、例えば150℃以上などの比較的高温の温度条件下で長時間使用する場合であっても、金属部30の寸法や形状の変化を抑えることができる。このような効果を得るためには、金属部30におけるマグネシウムの含有率合は、50体積%以上であればよく、80体積%以上とすることが望ましく、90体積%以上とすることがさらに望ましい。
【0024】
また、本実施形態の金属部30の主成分であるマグネシウムは、アルミニウム等と比較して高い振動減衰係数を示すが、金属部30の構成材料の振動減数係数は、静電チャック10の減衰性能を確保するために、10%以上であることが望ましく、20%以上であることがより望ましく、40%以上であることがさらに望ましい。以下では、金属部30の構成材料の振動減数係数について説明する。
【0025】
図4は、種々の金属の振動減衰係数を示す説明図である。
図4では、対数目盛を用いて、各種金属の振動減数係数を示している。振動減数係数は、材料の減衰性能(振動吸収性)を表し、値が大きいほど減衰性能が優れていることを示す。本実施形態では、振動減数係数は、ねじり振動法により測定している。具体的には、以下のようにして測定する。まず、測定対象となる材料の0.2%永久ひずみに相当する引張り応力の大きさをσTとし、σT/10となるせん断応力振幅を、当該材料によって構成されるサンプルに与えて振動させ、振動が減衰する際の振幅を測定する。より具体的には、サンプル形状は、例えば、直径25mm、長さ250mmとし、片端35mmで固定し、突出し長さ215mmとして、他の片端に所定のせん断応力を与えることで振動させて、振幅の変化を測定する。
【0026】
図5は、振動の振幅の変化の様子を表す説明図である。n番目の振動波1波長に対する振動減数係数は、n番目の振幅の大きさであるA
nと、(n+1)番目の振幅の大きさであるA
n+1とから、以下の(2)式に従い算出する。
【0027】
【0028】
このようなn番目の振動波1波長に対する振動減数係数の算出の動作を、n=2,3,4,5,6の5波長について行い、算出した5波長についての振動減数係数の平均値を、当該材料の振動減数係数としている。
【0029】
図4に示すように、マグネシウムおよびマグネシウム合金は、従来知られる静電チャックの金属部に用いられていたアルミニウム合金に比べて、振動減数係数が大きい。そのため、ウェハWを保持する静電チャック10を移動させてウェハWを加工する際、例えば、静電チャック10が保持するウェハWに対してエッチング加工を施す際に、移動によって静電チャック10に生じた振動が速やかに収まる。したがって、速やかにウェハWに対する加工を行うことができ、ウェハWの生産効率を高めることができる。また、アスペクト比の高い高精度のエッチングが可能になる。エッチングの精度について以下に説明する。
【0030】
図6Aおよび
図6Bは、ウェハWの表面をエッチング加工する様子を模式的に表す説明図である。
図6Aは、ウェハWを保持する静電チャック10が振動していない様子を表し、
図6Bは、ウェハWを保持する静電チャック10が振動する様子を表す。
図6Aに示すように、エッチング加工において、静電チャック10が振動しない場合には、直進するプラズマ中のイオンがウェハWの表面に対して垂直に衝突し、ウェハW表面のエッチングレジストRによって覆われていない箇所をエッチングする。これに対して、
図6Bに示すように、ウェハWを保持する静電チャック10が振動している場合には、エッチングされた加工穴の側面にもイオンが当たり、非所望の箇所がエッチングされて、エッチングによる加工の精度が低下する可能性がある。本実施形態によれば、静電チャック10の振動が速やかに収まるため、生産効率を低下させることなく、所望の箇所を精度よくエッチングすることができる。
【0031】
金属部30を構成する材料の振動減数係数は、マグネシウムの割合が高いほど大きくなり、金属部30がマグネシウム合金で構成される場合には、マグネシウムに混合される元素の種類および割合によって定まる。そのため、十分な振動減数係数を実現するためには、金属部30におけるマグネシウムの含有率と、マグネシウムに混合される元素の種類を適宜設定すればよい。金属部30の構成材料の振動減数係数を、既述した望ましい範囲である10%以上にするためには、金属部30におけるマグネシウムの含有率は、例えば、90体積%以上とすることが望ましく、95体積%以上とすることがより望ましい。
【0032】
振動減数係数の望ましい範囲について、さらに説明する。振動エネルギーは、振幅の2乗に比例する。そのため、振動減数係数が10%以上の場合には、以下の(3)式が成り立つ。
【0033】
(An+1/An)2 <0.9 …(3)
【0034】
そのため、振動減数係数が10%以上の場合には、振動エネルギーは、10振幅後には約3分の1以下にまで減衰するといえる(0.9の10乗が、約0.35となるため)。このように、金属部30の構成材料の振動減数係数を10%以下にすることにより、短時間で金属部30の振動を減衰させて、ウェハWの生産効率を高めることができる。
【0035】
また、本実施形態の金属部30の主成分であるマグネシウムは、アルミニウム等と比較して、加工硬化率(ひずみ硬化指数)が高く、高い耐くぼみ性を有するため、金属部30全体において高い耐くぼみ性を実現することが容易になる。このように、金属部30における変形抵抗が大きいことにより、静電チャック10の搬送中に静電チャック10が構造体に触れる等により静電チャック10に外力が加わる場合であっても、外力に起因する金属部30の損傷や変形を抑えることができる。
【0036】
以下では、金属部30の構成材料の耐くぼみ性についてさらに説明する。本実施形態において、耐くぼみ性は、2kgの球状の鋼鉄を1.4mの高さから落下させて、板厚1mmのサンプルに衝突させ、生じるくぼみの深さにより評価している。上記のように測定した耐くぼみ性は、例えば、公知のマグネシウム合金であるAZ31Bでは3mm程度になり、公知のマグネシウムを含有するアルミニウム合金である5052では5mm程度になる(データ示さず)。このような耐くぼみ性の数値は、金属部30を構成する金属におけるマグネシウムの含有率が高いほど小さくなり、金属部30がマグネシウム合金で構成される場合には、マグネシウムに混合される元素の種類および割合によって定まる。金属部30を構成する金属の耐くぼみ性の値は、4mm以下にすることが望ましい。そのためには、金属部30におけるマグネシウムの含有率は、例えば、90体積%以上とすることが望ましく、95体積%以上とすることがより望ましい。
【0037】
なお、金属部30で生じる熱応力を低減する方策としては、本実施形態のようにヤング率が比較的小さいマグネシウムを用いて金属部30を形成する方策の他、(1)式より、熱膨張率が比較的小さい材料を用いて金属部30を形成して、歪みεを小さくする方策も考えられる。熱膨張率(線膨張率)が比較的小さい金属としては、例えば、チタン(20℃の線膨張率が8.6ppm/K、ヤング率が116GPa、熱伝導率が22W/mK)や、ニッケル(20℃の線膨張率が13.4ppm/K、ヤング率が200GPa、熱伝導率が91W/mK)を挙げることができる。しかしながら、チタンは、マグネシウム(
図3参照)に比べて熱伝導率が小さいため、金属部によるセラミック部およびウェハWの冷却効率が抑えられ、静電チャックとしての性能が不十分になる可能性がある。また、ニッケルは、熱膨張率(線膨張率)は比較的小さいものの、ヤング率が比較的大きいために、上記熱応力を低減する効果を得難い。さらに、ニッケルは、熱伝導率が比較的小さいため、金属部によるセラミック部およびウェハWの冷却効率が抑えられる。また、アルミニウム、マグネシウムはいずれも非磁性体であるのに対し、ニッケルは、強磁性体であるので、チャンバ内のプラズマに影響を与えるおそれがある。本実施形態のように、マグネシウムを主成分として含む金属部30を備えることにより、金属部30で生じる熱応力を低減しつつ、金属部による冷却効率を高めて、静電チャック10の性能を向上させることができる。
【0038】
また、本実施形態の静電チャック10では、金属部30全体を、金属により形成しており、具体的には、マグネシウム、または、50体積%以上の割合でマグネシウムを含有するマグネシウム合金により、形成している。このように、金属部30全体を金属により形成することにより、例えば金属部がセラミック等の他の成分を含有する場合に比べて、金属部30の熱伝導性を高めると共に比熱を低減することができる。そのため、金属部30によるセラミック部20およびウェハWの冷却効率を高めることができる。
【0039】
B.第2実施形態:
第2実施形態の静電チャック10は、
図2に示す第1実施形態の静電チャック10と同様の構造を有しているが、接合部40として、比較的ヤング率が高い接着材を用いている。以下では、接合部40のヤング率について説明する。
【0040】
既述したように、静電チャック10では、マグネシウムを主成分として含む金属部30を設けることにより、金属部30で発生する熱応力を低減して、セラミック部20の変形を抑えている。すなわち、金属部30で発生する熱応力を低減することによって、金属部30で発生する熱応力の影響が接合部40を介してセラミック部20に伝えられることを抑えている。これに対して、金属部を、弾性率(ヤング率)が比較例大きい金属で構成して、金属部で発生する熱応力が比較的大きくなる場合には、セラミック部20に対する影響を抑えるために、接合部40を構成する材料として、ヤング率がより小さい接着材を選択する方策が考えられる。本願発明者らは、アルミニウムを主成分とする金属部を備える従来知られる静電チャックにおいて、静電チャックの使用温度範囲として一般的な広い温度範囲にわたって、接合部40を構成する接着材のヤング率を10MPa以下とすることによって、セラミック部20の変形の抑制が容易になることを見いだした。すなわち、金属部の主成分をアルミニウムとする場合であっても、接合部40のヤング率を10MPa以下とすることによって、接合部で発生する応力を、一般的な使用条件下において許容範囲内とすることができることを見いだした。
【0041】
本実施形態の静電チャック10では、マグネシウムを主成分として含む金属部30を備えることにより、金属部30で発生する熱応力を抑えるため、アルミニウムを主成分とする金属部を採用する場合に比べて、接合部40の構成材料として、よりヤング率が大きい接着材を選択可能となる。
【0042】
接合部40の構成材料のヤング率についてさらに説明する。既述したように、アルミニウムを主成分とする金属部を備える従来知られる静電チャックでは、接合部40のヤング率の上限値を10MPaとすることが望まれる。
図3に示すように、マグネシウムとアルミニウムとは、熱膨張率がほぼ同程度である。静電チャックを高温の温度条件下に配置したときに静電チャック内で生じる歪みの大きさは、金属部30とセラミック部20との間の熱膨張率差によって定まるため、本実施形態の静電チャック10と、アルミニウムを主成分とする金属部を備える従来知られる静電チャックとを、同様の高温の温度条件下に配置するならば、セラミック部の構成が共通であれば、双方の静電チャックにおいて、同程度の歪みが生じると考えられる。
【0043】
このように、金属部30とセラミック部20との間の熱膨張率差によって定まる歪みの大きさが同程度で金属部30をマグネシウムとした場合に、接合部40を介してセラミック部20に伝えられる熱応力の影響が、上記した従来知られる静電チャックの接合部のヤング率が上限値10MPaで、かつ金属部がアルミニウムであるときと同程度許容する場合を考える。
図3に示すように、アルミニウムのヤング率が75.7GPaであるのに対し、マグネシウムのヤング率は44.3GPaである。そのため、静電チャック10における接合部40のヤング率は、(1)式に基づいて、約17MPaを上限値とすればよいことが理解される(10MPa÷(44.3GPa÷75.7GPa))。したがって、本実施形態の静電チャック10の接合部40は、例えば150℃におけるヤング率を17MPa以下とすることで、150℃という高温の温度条件下であっても、接合部40で発生する応力を許容範囲内にして、セラミック部20の変形を抑えることができる。
【0044】
接合部40の構成材料のヤング率の測定方法について、以下に説明する。接合部40を構成する接着材のヤング率は、公知の引張試験機(例えば、島津製作所製のオートグラフAG-1kNX)と公知の引張試験機用恒温槽(例えば、島津製作所製の雰囲気試験装置である恒温槽TCR2W)を使用し、引張試験(例えば、引張速度:50mm/分、温度150℃で実施)により測定される。具体的には、測定のための試験片は、接着剤組成物を所定の厚さに塗り広げた後、所定の硬化条件により硬化させ、例えば幅10mm×長さ70mmの短冊状に切り出すことにより作製する。接着剤組成物の厚さは、例えば0.35mmとする。当該試験片の両端から長さ20mmの各部分を治具で保持し、中間の長さ30mmの部分でヤング率を測定する。当該試験片(接着剤組成物)が破断するまで引っ張りながら、サンプル長と荷重の変化を経時的に測定する。測定した荷重を試験片の引張試験前の断面積(幅10mm×厚さ0.35mm)で除すことにより引張応力が算出される。ヤング率は、以下の(4)式により算出される歪みを横軸とし、上記引張応力を縦軸とするグラフにおいて、上記引張応力が0.2~0.5MPaとなる範囲の傾きを計算することにより算出する。
【0045】
歪み(%)=[引っ張り中のサンプル長(mm)-元のサンプル長(mm)]/元のサンプル長(mm) …(4)
【0046】
すでに静電チャック10に組み込まれて接合部40を構成している構成材料のヤング率を測定する場合には、例えば、静電チャック10のセラミック部20を平面研削盤等で削り取り、接合部40を露出させた後に接合部40を、ナイフ等を用いて剥ぎ取ればよい。そして、例えば上記と同じ幅10mm×長さ70mmに切り出して試験片を作製し、上記と同様の方法でヤング率を算出することができる。
【0047】
上記のように、本実施形態の静電チャック10では、接合部40の構成材料として、よりヤング率が大きい接着材を選択可能となるため、接合部40の構成材料の選択肢が広がる。例えば、より熱伝導率の高い接着材を用いて、静電チャック10の温度制御の精度を高め、静電チャック10の性能を向上させることが可能になる。より熱伝導率の高い材料によって接合部40を構成するならば、静電チャック10の昇温速度および降温速度を速めることができ、ウェハW等の生産効率を高めることができる。
【0048】
例えば、接合部40を構成する接着材に、セラミック粉末等の無機フィラーを含有させる構成が知られている。接着材に無機フィラーを含有させることにより、接合部40全体の熱伝導率を高めることができるが、無機フィラーの含有率を増やすほど接合部40のヤング率が高まる。そのため、接合部40における無機フィラーの含有率は、接合部40に許容されるヤング率の上限値によって制限され得る。例えば、接着材としてシリコーン系樹脂を用い、無機フィラーとしてシリカフィラーを用いる場合には、シリカフィラーの含有率を60体積%にすると、接合部40のヤング率は10MPaとなり、接合部40の熱伝導率は2.0W/mKとなる。また、シリカフィラーの含有率を75体積%にすると、接合部40のヤング率は17MPaとなり、接合部40の熱伝導率は2.5W/mKとなる。このように、マグネシウムを主成分とする金属部30を備えることで接合部40に許容されるヤング率の上限値が高まることにより、接合部40の熱伝導率を高めることが可能になる。
【0049】
なお、本実施形態の静電チャック10は、マグネシウムを主成分として含む金属部30を備えることにより、高温の温度条件下での使用時に発生する熱応力を低減できるため、より高温の温度条件下で静電チャック10を用いることが可能になる。そのため、接合部40の構成材料としては、より耐熱性の高い材料を用いることが望ましい。例えば、150℃以上の高温の温度条件下に耐える耐熱性を接合部40が有することの指標として、加熱時の重量減少率ΔWr(%)が1%以下であることが挙げられる。重量減少率ΔWrは、14~16mgのサンプルを、大気中において室温から220℃まで昇温速度10℃/分にて昇温させ、1秒間隔でサンプル重量を測定して熱重量分析を行うことにより求められる。静電チャック10が備える接合部40の重量減少率ΔWrを測定するには、例えば、静電チャック10のセラミック部20を平面研削盤等で削り取り、接合部40を露出させた後に接合部40を剥ぎ取ればよい。
【0050】
C.第3実施形態:
図7は、第3実施形態の静電チャック110の断面の様子を、
図2と同様にして示す説明図である。第3実施形態の静電チャック110は、金属部30の表面に第1コート層34を備えること以外は第1実施形態と同様の構成を有している。第3実施形態の静電チャック110において、第1実施形態の静電チャック10と共通する部分には同じ参照番号を付す。
【0051】
第1コート層34は、マグネシウムとは異なる金属によって形成される層、セラミックによって形成される層、化成処理皮膜、および陽極酸化皮膜のうちの少なくとも一つを含み、金属部30の表面のうちの外部に露出する露出面を覆うように設けられている。第1コート層34は、例えば、化成処理皮膜または陽極酸化皮膜の上に、さらに、金属層やセラミック層を重ねて設けることにより形成してもよい。
【0052】
第1コート層34がマグネシウムとは異なる金属またはセラミックによって形成される層である場合には、この金属層またはセラミック層を構成する材料は、静電チャック10の使用環境において許容される材料として予め選択されたものであることが望ましい。静電チャック10の使用環境において許容される材料とは、当該材料を用いて第1コート層34を形成したときに、静電チャック10が使用される装置(例えば、半導体製造装置の真空チャンバ)内部の環境に与える影響や、当該装置で実行される処理に対する影響(例えば、半導体素子製造の工程において汚染の原因になるか否か、あるいは真空チャンバ内のプラズマに望ましくない影響を与えるか否か等)が、許容範囲内となる材料を指す。なお、第1コート層34が金属層を備える場合には、この金属層を構成する金属は、マグネシウムよりも貴な金属とすればよい。
【0053】
第1コート層34が金属層を備える場合には、この金属層を構成する金属は、例えば、セラミック部20を構成する金属元素から成る金属とすることができる。また、第1コート層34がセラミック層を備える場合には、このセラミック層を構成するセラミックは、例えば、セラミック部20を構成するセラミックと同種のセラミックとすることができる。セラミック部20を構成するセラミックは、静電チャック10の使用環境において許容される材料として予め選択されているためである。例えば、セラミック部20が酸化アルミニウムにより形成される場合には、上記金属層はアルミニウム層とすることができる。また、セラミック部20が酸化アルミニウムにより形成される場合には、上記セラミック層は酸化アルミニウムの層とすることができる。ただし、静電チャック10の使用環境において許容される材料であれば、セラミック部20に含まれない成分からなる金属層やセラミック層を設けてもよい。例えば、静電チャック10の使用環境において酸化イットリウムが許容される材料であれば、上記セラミック層は、酸化イットリウムの層とすることができる。このような金属層あるいはセラミック層は、例えば溶射により形成することができる。また、金属層は、電解めっき、あるいは無電解めっきにより形成してもよい。
【0054】
化成処理皮膜は、金属部30から溶け出すマグネシウムイオン等の金属イオンと化成処理薬剤との化学反応によって、金属部30を構成するマグネシウムを主成分とする金属の表面に、不溶性の析出物の皮膜として形成される化学的に安定な膜である。陽極酸化皮膜は、金属部30となる部材を陽極(+極)として用いて電解浴中で直流電気を流すことにより、金属部30の表面に形成される酸化皮膜である。
【0055】
第3実施形態の静電チャック110によれば、金属部30の表面のうちの外部に露出する露出面を覆うように第1コート層34が設けられている。そのため、金属部30が耐食性の比較的低いマグネシウムを主成分としていても、金属部30の耐食性を高めることができる。そのため、例えば150℃以上の高温の温度条件下で静電チャック110を用いる場合であっても、金属部30における腐食の進行を抑えることができる。
【0056】
また、特に、第1コート層34が金属層やセラミック層を備える場合には、静電チャック10が使用される装置(例えば、半導体製造装置の真空チャンバ)内部の環境や、当該装置で実行される処理に対して、マグネシウムが与える影響を、抑えることができる。
【0057】
第1コート層34によって金属部30の耐食性を高める効果を得る観点からは、第1コート層34の厚みは、5μm以上とすることが望ましく、10μm以上とすることがより望ましく、30μm以上とすることがさらに望ましい。また、静電チャック110の生産性を高める観点からは、第1コート層34の厚みは、300μm以下とすることが望ましく、250μm以下とすることがより望ましく、200μm以下とすることがさらに望ましい。
【0058】
D.第4実施形態:
図8は、第4実施形態の静電チャック210の断面の様子を、
図2と同様にして示す説明図である。第4実施形態の静電チャック110は、金属部30の表面に第2コート層36を備えること以外は第1実施形態と同様の構成を有している。第4実施形態の静電チャック110において、第1実施形態の静電チャック10と共通する部分には同じ参照番号を付す。
【0059】
第2コート層36は、金属部30の表面のうちの接合部40と接する面に設けられ、セラミックによって構成される。第2コート層36は、金属部30の表面において、接合部40と接する領域の一部に形成してもよいが、接合部40と接する領域全体にわたって形成することが望ましい。第2コート層36を構成するセラミックとしては、例えば、酸化アルミニウムや酸化イットリウムを挙げることができる。第2コート層36は、例えば、溶射により形成することができる。金属部30の表面において、接合部40と接する領域のみ第2コート層36を設ける場合には、第2コート層36を設けない領域をマスキングして第2コート層36を形成すればよい。また、第2コート層36と共に、第3実施形態の第1コート層34としてのセラミック層を設けることとしてもよい。このとき、第2コート層36と上記セラミック層とを同種のセラミックにより形成する場合には、第2コート層36と第1コート層34とを一体で形成してもよい。
【0060】
第4実施形態の静電チャック210によれば、金属部30の表面における接合部40と接する領域に第2コート層36を設けている。そのため、接合部40を構成する接着剤として、マグネシウムとの接着性が比較的低い接着剤を用いる場合であっても、接合部40による金属部30とセラミック部20との間の接着性を高めることができる。これは、接着剤により実現される接着力の少なくとも一部は、分子間力(ファンデルワールス力)等の物理的相互作用によると考えられ、極性が高い部位を有するセラミックによって第2コート層36を構成することにより、接着性が高まるためである。例えば、静電チャック210の使用温度範囲や、静電チャック210の使用環境において許容されるか否か等に基づいて望ましい接着剤を選択したときに、当該接着材とマグネシウムとの接着性が不十分になる場合であっても、第2コート層36を設けることにより、安定した接着が可能になる。
【0061】
第3実施形態の第1コート層34および第4実施形態の第2コート層36(以下では、単に「コート層」とも呼ぶ)の組織、組成、厚みなどは、以下の方法により測定することができる。コート層の組織は、走査型電子顕微鏡(SEM: Scanning Electron Microscope)による観察で評価できる。コート層の組成は、金属部30の断面におけるコート層の部分、あるいは、コート層の表面について、例えば走査型電子顕微鏡に備え付けることができるエネルギー分散型X線分析(EDX)装置による分析、あるいはX線光電子分光法(XPS: X-ray Photoelectron Spectroscopy)による分析を行って、構成する元素を特定することにより測定できる。コート層の厚みは、例えば、金属部30の断面におけるコート層の部分の走査型電子顕微鏡による観察、あるいはX線光電子分光法による測定により求めることができる。また、コート層の厚みは、コート層の表面からコート層を厚み方向にエッチングしながら、組成をX線光電子分光法により測定していくことでも求めることができる。より具体的には、コート層の表面から深さ方向へのエッチングは、例えばアルゴンイオン(Ar+)をコート層の表面に当てて、イオンスパッタリング効果を利用することで可能になる。エッチングとX線光電子分光の測定とを交互に繰り返して行うことにより、厚み方向の組成の変化を測定することができるため、コート層の厚みを測定できる。
【0062】
E.他の実施形態:
本開示は、静電引力を利用してウェハWを保持する静電チャックに限らず、セラミック部と、金属部と、セラミックス部と金属部とを接合する接合部と、を備え、セラミック部の表面上に対象物を保持する他の保持装置、例えば、CVD、PVD、PLD等の真空装置用ヒータ装置や、真空チャック等にも同様に適用可能である。
【0063】
本開示は、上述の実施形態等に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の構成で実現することができる。例えば、発明の概要の欄に記載した各形態中の技術的特徴は、上述の課題の一部又は全部を解決するために、あるいは、上述の効果の一部又は全部を達成するために、適宜、差し替えや、組み合わせを行うことが可能である。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することが可能である。
【符号の説明】
【0064】
10,110,210…静電チャック
20…セラミック部
22…チャック電極
30…金属部
32…冷媒流路
34…第1コート層
36…第2コート層
40…接合部
50…ガス供給路
52…ガス吐出口
R…エッチングレジスト
S1…載置面
W…ウェハ