(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-15
(45)【発行日】2023-12-25
(54)【発明の名称】トリプタン化合物のイオントフォレーシス経皮送達のための寒冷安定性組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 9/70 20060101AFI20231218BHJP
A61K 31/4045 20060101ALI20231218BHJP
A61K 31/4196 20060101ALI20231218BHJP
A61K 31/422 20060101ALI20231218BHJP
A61K 47/12 20060101ALI20231218BHJP
A61K 47/58 20170101ALI20231218BHJP
A61N 1/30 20060101ALI20231218BHJP
A61P 25/06 20060101ALI20231218BHJP
【FI】
A61K9/70 401
A61K31/4045
A61K31/4196
A61K31/422
A61K47/12
A61K47/58
A61N1/30
A61P25/06
(21)【出願番号】P 2020533842
(86)(22)【出願日】2018-12-13
(86)【国際出願番号】 EP2018084699
(87)【国際公開番号】W WO2019121293
(87)【国際公開日】2019-06-27
【審査請求日】2021-11-24
(32)【優先日】2017-12-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】300005035
【氏名又は名称】エルテーエス ローマン テラピー-ジステーメ アーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】100127926
【氏名又は名称】結田 純次
(74)【代理人】
【識別番号】100140132
【氏名又は名称】竹林 則幸
(72)【発明者】
【氏名】ミカエル・リン
(72)【発明者】
【氏名】クリストフ・シュミッツ
(72)【発明者】
【氏名】ハンスヘルマン・フランケ
【審査官】工藤 友紀
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-237675(JP,A)
【文献】特開2004-083523(JP,A)
【文献】特表2013-523660(JP,A)
【文献】国際公開第2001/054674(WO,A1)
【文献】国際公開第2011/046927(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 9/00- 9/72
A61K 31/00-31/80
A61K 47/00-47/69
A61P 25/06
A61N 1/00- 1/44
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トリプタン化合物の塩のイオントフォレーシス経皮送達のための組成物であって、
- 0.5から10重量%のトリプタン化合物の塩であって、塩がコハク酸塩である前記化合物の塩、
- 10から60重量%のポリアミン、
- 0.5から10.0重量%のコハク酸および/または0.5から10.0重量%のアジピン酸、および
- 少なくとも40重量%の水または水性溶媒混合物
を含み、モノカルボン酸を含まず、
ここで、ポリアミンは、2:1:1の比の3種の異なるメタクリレートモノマー:ジメチルアミノエチルメタクリレート、メタクリル酸ブチルおよびメタクリル酸メチルから作られるか、または
ポリアミンは、以下の化学構造:
【化1】
(式中、
m=5~8であり、
n=2~4である)
を有するか、または
ポリアミンは、2:1:1の比の3種の異なるメタクリレートモノマー:ジメチルアミノエチルメタクリレート、メタクリル酸ブチルおよびメタクリル酸メチルから作られるポリアミンと、以下の化学構造:
【化2】
(式中、
m=5~8であり、
n=2~4である)
を有するポリアミンとの組み合わせである、前記組成物。
【請求項2】
トリプタン化合物は、2-(1H-インドール-3-イル)-N,N-ジメチルエタンアミン部分を含有する化合物である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
トリプタン化合物は、アルモトリプタン、フロバトリプタン、エレトリプタン、ゾルミトリプタン、リザトリプタン、スマトリプタンまたはナラトリプタンである、請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
ポリアミンは、N,N-ジエチルアミノエチルメタクリレート-メタクリル酸メチルコポリマーである、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
1種またはそれ以上の添加剤をさらに含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項6】
請求項1に記載の組成物を一体構成要素として使用するイオントフォレーシスパッチ。
【請求項7】
請求項1に記載の組成物をアノードリザーバーとして使用するイオントフォレーシスパッチ。
【請求項8】
トリプタン化合物の経皮投与のためのイオントフォレーシス方法に使用するための請求項1に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トリプタン化合物、好ましくはスマトリプタンのイオントフォレーシス経皮送達に好適な寒冷安定性組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
経皮的な非経口投与経路は、他の投与経路に比べて多くの利点を提供する。皮膚を通して薬物を投与するための方法およびデバイスは、医薬品の分野で周知である。典型的には、経皮投与は、拡散プロセスによって規定の速度で皮膚を通して原薬を送達する受動的経皮システム(例えば、経皮治療システム、TTS)を使用することによって行われる。したがって、経皮薬物送達は、ある特定のタイプの原薬には非常に非効率的である。特に、イオン化された薬物は、多くの場合、治療上有効な速度で皮膚を受動的に透過することができない。
【0003】
イオントフォレーシスのプロセスは、最初は1908年にLeDucによって記載され、さらに以前に特許文献1(1879年)および特許文献2(1892年)に記載された。それ以来、イオントフォレーシスは、イオン的に荷電した治療薬分子、例えばピロカルピン、リドカイン、デキサメタゾンおよびフェンタニルの送達において商業的に使用されている。
【0004】
一般に、イオントフォレーシスは、電流の印加により、外部エネルギーを提供して、おそらくは皮膚の膜を通した薬物透過性を増加させることによって、皮膚を越えた薬物イオンの通過を可能にするまたは増強することができるという基本原理に依拠する送達方法である。正電荷を有するイオン(例えば、カチオン性活性薬剤)がイオントフォレーシスシステムのアノード中またはその下に配置されたとき、これらのイオンは、-電流を印加すると-アノードから離れ、電場の方向に従って、隣接する皮膚領域に配置されているカソードに向かって強制的に移動させられる。このプロセス中に、皮膚を通したカチオン性薬物の輸送が増強または促進される。イオントフォレーシスは、異なる形態の医薬品有効成分とともに、最も好都合には、電荷を保持し、したがって、電場内でバリア(例えば、皮膚)を越えて直接移動させられるものとともに使用することができる。
【0005】
イオントフォレーシスでは、上記の拡散制御式経皮送達とは異なり、デバイスの皮膚接触面積およびデバイス内の有効成分濃度は、有効成分の皮膚フラックスのレベルに関してあまり重要でない。皮膚を通した有効成分の送達は、有効成分を強制的に皮膚内に入れることができる印加された電流に大きく依存する。
【0006】
典型的なイオントフォレーシス薬物送達システムは、患者の異なる-好ましくは隣接する-皮膚領域に粘着予定のアノードおよびカソードを含む電解電気システムを含み、各電極は、遠隔電源、一般にはマイクロプロセッサ制御式電気機器に導線によって接続されている。そのようなタイプのデバイス例えば、貧弱な(lean)構成を有するシステム(例えば、特許文献3または特許文献4)およびより高度なシステムは公開されており、これらのシステムは、当業者に基本的に公知である。リドカインおよびフェンタニルのためのイオントフォレーシス経皮システムは、米国市場に導入されている。
【0007】
イオントフォレーシスによる経皮薬物輸送は、多様なパラメーター、例えば電解質の濃度、イオン強度、電極材料のタイプ、組成および粘度、イオントフォレーシスの持続時間、皮膚抵抗、または電極の面積サイズによって影響される複雑なプロセスである。一般に、これらのパラメーターがイオントフォレーシスプロセスに及ぼす様々な影響については、ほとんど知られていない。
【0008】
さらに、厳しい製剤学的要件(galenic requirement)を満たすために、経皮イオントフォレーシスデバイスは、活性物質が所望かつ一定の速度で皮膚中に輸送されることを確実にし、また経皮投与された用量が安全かつ治療上有効であることを確実にするために、規定のイオン強度を有する規定の電解質濃度を含有しなければならない。
【0009】
特許文献5は、上記製剤学的要件を構成するポリアミンまたはポリアミン塩、例えば、Eudragit(登録商標)E 100を含む経皮イオントフォレーシスデバイスのための組成物を記載している。
【0010】
片頭痛の急性処置のためのスマトリプタンイオントフォレーシス経皮システムである「Zecuity(登録商標)パッチ」(TEVA Pharmaceuticals Industries,Ltd.は、上記製剤学的要件を充足するようである。しかしながら、このスマトリプタン組成物は、低温で不安定である。これは、15℃以上の保存および出荷条件を必要とする。スマトリプタン組成物を15℃未満の温度に曝露すると、組成物の不可逆的な液化(粘度の減少、「漏出する」パッチ)およびラウリン酸の沈殿が生じる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】US222,276
【文献】US486,902
【文献】US5,685,837
【文献】US6,745,071
【文献】EP-A2285362
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
したがって、上記を考慮して、本発明の1つの主な目的は、低温で、具体的には15℃以下の温度で安定である(寒冷安定性)トリプタン組成物、好ましくはスマトリプタン組成物を提供することである。具体的には、1つの目的は、結晶の沈殿を回避し、元のZecuity製剤と比較して、トリプタン組成物の粘度を維持するまたはさらに増加させることである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を考慮して、本発明は、トリプタン化合物、好ましくはスマトリプタンのイオントフォレーシス経皮送達のための改善された組成物を提供する。
【0014】
上記の欠点を抱えるUS-A8,366,600によるスマトリプタンイオントフォレーシス経皮組成物は、
概ね3.0%から約5.0%のスマトリプタンコハク酸塩;
概ね84%から約88%の水;
概ね4.0%から約7.0%のアルキル化メタクリレートコポリマー;
概ね1.0%から約6.0%の脂肪酸(例えば、約1.0%から約5.0%のラウリン酸および概ね約0.05%から約0.75%のアジピン酸);ならびに
概ね0.05%から約0.75%のパラ-ヒドロキシ安息香酸メチル
を含む。
【0015】
US-A8,366,600による組成物は、組成物のpH値を中和するように、ポリアミン(アルキル化メタクリレートコポリマー)の塩基性基とラウリン酸およびアジピン酸の酸性官能基との間の等モル比を示す(価数1で計算)。
【0016】
本発明では、この製剤からラウリン酸を除去し、ポリアミン、好ましくはEudragit(登録商標)E 100の必要な中和を、(増加させた量の)アジピン酸および/またはコハク酸によって実施する。TTSにおける使用に必要な粘度は、溶液の固形分を増加させることによって達成することができる。
【0017】
代替的な実施形態では、好ましいポリアミンEudragit E 100は、Eudragit E 100と比較して、異なるモノマー組成を有するポリアミンで置き換えられている。Eudragit E 100は、約2:1:1の比の3種の異なるメタクリレートモノマー:ジメチルアミノエチルメタクリレート、メタクリル酸ブチルおよびメタクリル酸メチルから作られる。置き換えポリアミンは、好ましくは約2~4個のジエチルアミノエチルメタクリレート単位対5~8個のメタクリル酸メチル単位の比の、より好ましくは4:6または3:7の比の、2種のみのアクリレートモノマー:ジエチルアミノエチルメタクリレートおよびメタクリル酸メチルで作られる。そのようなポリアミンは、BASF(Ludwigshafen、ドイツ)から「Kollicoat(登録商標)Smartseal」として市販されている。Kollicoat Smartsealは、Eudragit E 100と同様に、塩基性官能基を有する。これらの塩基性官能基は、現在のpHでプロトン化されていると思われ(ポリカチオン性)、組成物のイオントフォレーシス経皮適用に十分な組成物の導電率を提供する。本組成物は、US-A8,366,600による組成物よりも高い導電率を有し、このことは利点であり、その理由は、所望の電流の流れを達成するためにより低い電圧を使用できるからである。
【0018】
物質(mass)の粘度は、溶液の固形分を調整することによって任意に調整することができる。こうして、投薬し、パッド中に移送するための物質を最適化することができる。このようにして、市販のパッチの起こり得る漏出(粘度低減に起因する)を最小限に抑えることができる。
【0019】
したがって、一実施形態では、本発明は、トリプタン化合物の塩のイオントフォレーシス経皮送達のための組成物であって、
- トリプタン化合物の塩、好ましくはコハク酸塩
- ポリアミン
- ジカルボン酸
- 水または水性溶媒混合物;および
- 場合により、1種またはそれ以上の添加剤
を含み、モノカルボン酸を含まない前記組成物に関する。
【0020】
さらなる実施形態では、本組成物は、10.0から60.0重量%の間の1種またはそれ以上のアルキル化メタクリレートポリアミンコポリマー、0.5から10重量%の間のトリプタン化合物、好ましくはスマトリプタンの塩、0.5から10.0重量%の間のコハク酸および/または0.5から10.0重量%の間のアジピン酸、場合により1種またはそれ以上の添加剤、ならびに水を含む。
【0021】
本発明はさらに、イオントフォレーシス経皮パッチのための構成要素としての前記組成物の使用を包含する。
【0022】
本発明はさらに、トリプタン化合物による処置を必要とする対象へのトリプタン化合物、好ましくはスマトリプタンのイオントフォレーシス経皮投与のための方法における前記組成物の使用を包含する。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明による組成物は、水または水性溶媒混合物を含む。好ましくは、水または溶媒混合物の割合は、組成物の総重量に対して、少なくとも30重量%、より好ましくは40重量%である。さらなる実施形態によれば、含水量または前記溶媒混合物の割合は、40から75重量%の範囲内である。
【0024】
「水性溶媒混合物」という用語は、一般に、水と、例として、アルコール(例えば、エタノール、イソプロパノール、グリセリン)のような極性の水混和性溶媒から一般に選択される少なくとも1種のさらなる溶媒とを含有する液体混合物を含む。
【0025】
本発明の一実施形態によれば、ポリアミンは、Eudragit E 100であり、これは、約2:1:1の比の3種の異なるメタクリレートモノマー:ジメチルアミノエチルメタクリレート、メタクリル酸ブチルおよびメタクリル酸メチルから作られる。
【0026】
本発明の別の実施形態によれば、Eudragit E 100は、メタクリル酸メチルと、ジ-C1~C3アルキルアミノ基を含有する少なくとも1種のC1~C4アルキル化メタクリレートモノマーとから好ましくは作られるポリアミンで少なくとも部分的に置き換えられている。ジアルキルアミノ基は、好ましくは、ジメチルアミノ基またはジエチルアミノ基である。
【0027】
好ましい置き換えポリアミンは、5~8個のメタクリル酸メチルのモノマー単位および2~4個のN,N-ジエチルアミノエチルメタクリレートのモノマー単位から作られるコポリマーである。より好ましいのは、6または7個のメタクリル酸メチルのモノマー単位および3または4個のN,N-ジエチルアミノエチルメタクリレートのモノマー単位である。したがって、好ましい置き換えポリアミンは、以下の化学構造:
【化1】
(式中、
m=5~8、好ましくは6または7であり、
n=2~4、好ましくは3または4である)
を有する。
【0028】
特に好ましいモノマーアミンは、N,N-ジエチルアミノエチルメタクリレートである。置き換えポリアミンの平均分子量は、100,000から300,000の間、好ましくは150,000から250,000の間、より好ましいのは200,000前後である(SECによって測定)。
【0029】
そのようなポリアミンは、BASF(Ludwigshafen、ドイツ)から「Kollicoat(登録商標)Smartseal」として市販されている。
【0030】
さらなる実施形態では、本発明の組成物は、Eudragit E 100と、上で規定した置き換えポリアミンとの組み合わせを含むことができる。Eudragit E 100対置き換えポリアミンの重量比は重大でない。しかしながら、好ましい実施形態では、Eudragit E 100または置き換えポリアミンのいずれか単独が使用される。
【0031】
好ましくは、全ポリアミンの割合は、(組成物の総重量を基準として)10.0から60.0重量%の間である。Eudragit E 100が単独で使用される場合、その割合は、(組成物の総重量を基準として)10.0から30.0重量%の間、好ましくは18.0から26.0重量%の間である。Kollicoat Smartsealが単独で使用される場合、その割合は、(組成物の総重量を基準として)30.0から70.0重量%の間、好ましくは45.0から55.0重量%の間である。Kollicoat Smartsealのこの割合は、30.0重量%のポリアミン(残部:水および少量の添加剤)を含む分散体を基準とする。
【0032】
本発明のさらなる実施形態では、本組成物は、少なくとも1種のジカルボン酸をさらに含む。モノカルボン酸、具体的には脂肪酸、例えばラウリン酸は、イオントフォレーシスデバイスのためのトリプタン組成物にはあまり有利でないことが見出されており、その理由は、沈殿に起因して組成物の寒冷安定性を損なうおそれがあるからである。
【0033】
上で論じたポリアミンを1種またはそれ以上のジカルボン酸と組み合わせることによって、対応するポリアミン塩が得られる。これらのポリアミン塩は、一般に水溶性であり、水に溶解すると、高分子電解質を形成する。前記ポリアミン塩を含む本発明の組成物は、イオントフォレーシスデバイスにおけるトリプタン、好ましくはスマトリプタンのための担体またはリザーバーとして特に好適である。
【0034】
「ジカルボン酸」という用語は、一般に、2つのカルボン酸官能基で置換されている有機化合物を含み、これらの化合物は、直鎖状、分枝鎖状および環状の化合物を含み、これらの化合物は、飽和または不飽和であってよい。例として、ジカルボン酸は、C4~C10ジカルボン酸から選択することができる。ジカルボン酸の例は、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸およびピメリン酸を含む;コハク酸およびアジピン酸が好ましい。
【0035】
さらなる実施形態では、本組成物は、少なくとも2種のジカルボン酸を含む組み合わせを含有することができる。
【0036】
一般に、ジカルボン酸の量は、所望の特性、特に半固体の稠度および皮膚粘着特性を有するヒドロゲル組成物を得るために、ポリアミン、および/または前記組成物中に存在する他の構成要素を可溶化するのに少なくとも十分であるように調整される。
【0037】
好ましくは、組成物中のジカルボン酸の総量は、(組成物の総重量を基準として)0.5から10.0重量%の間、好ましくは2.0から8.0重量%の間である。
【0038】
「トリプタン化合物」という用語は、トリプタン化合物、誘導体および塩を含む。この用語はまた、2-(1H-インドール-3-イル)-N,N-ジメチルエタンアミン部分を含有する化合物を含む。トリプタン化合物の例は、アルモトリプタン、フロバトリプタン、エレトリプタン、ゾルミトリプタン、リザトリプタン、スマトリプタン、ナラトリプタン、および薬学的に許容されるその塩を含むが、これらに限定されない。好ましいトリプタンは、スマトリプタンであり、好ましい塩は、コハク酸塩である。
【0039】
上記のように、本発明の組成物は、水性組成物として、特にヒドロゲル組成物として製剤化される。さらなる実施形態では、前記水性組成物は、3から8、好ましくは4.0から6.0、または最も好ましくは4.5から5.5のpHを有する。
【0040】
一般に、前記水含有組成物中のpHを、組成物が(例えば、経皮またはイオントフォレーシス投与中に)皮膚に適用されたときに、皮膚のpHに実質的に影響しないように調整し、維持することが好ましい。
【0041】
本発明による組成物は、1種またはそれ以上のさらなる添加剤を場合により含有することができる。前記添加剤は、溶解性増強剤、皮膚透過増強剤、保存剤および抗菌剤を含む群から選択される添加剤を含むが、これらに限定されない。
【0042】
これに関連して、「溶解性増強剤」という用語は、一般に、組成物内のカチオン性活性薬剤の溶解性を増加させることが可能な化合物に関する。これは、前記カチオン性活性薬剤と組成物中に存在する他の構成要素との間の生じ得る相互作用を調節することによって、または好適な賦形剤を追加で組み入れることによって達成することができる。
【0043】
あるいは、活性薬剤の溶解性は、その結晶変態を変化させることによって達成することができる。溶解性増強剤の例は、限定はしないが、水;ジオール、例えばプロピレングリコールおよびグリセリン;モノアルコール、例えばエタノール、プロパノールおよび高級アルコール;ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-置換アルキル-アザシクロアルキル-2-オンを含む。既に上記したように、ジカルボン酸の群から選択される化合物は、ポリアミンの溶解性を増強するのに特に有効である。
【0044】
さらに、「皮膚透過増強剤」という用語は、特に、組成物中に含有される活性薬剤の、特にカチオン性活性薬剤の皮膚透過性を増加させることが可能な化合物を含む。この皮膚透過性の増加に起因して、活性薬剤が皮膚を透過し、血液循環に入る速度もまた増加する。前記皮膚透過増強剤の使用によってもたらされる透過の増強は、当技術分野で一般に公知である拡散セル装置を使用して動物またはヒトの皮膚を通した活性薬剤拡散の速度を測定することによってアッセイし、確認することができる。
【0045】
透過増強剤の例は、ジメチルスルホキシド(DMSO)、N,N-ジメチルアセトアミド(DMA)、デシルメチルスルホキシド(C10 MSO)、モノラウリン酸ポリエチレングリコール(PEGML)、プロピレングリコール(PG)、モノラウリン酸プロピレングリコール(PGML)、モノラウリン酸グリセリン(GML)、レシチン、1-置換アルキル-アザシクロアルキル-2-オン、特に1-n-ドデシルアザシクロヘプタン-2-オン、アルコールなどを含むが、これらに限定されない。透過増強剤はまた、植物油、例えば、サフラワー油、綿実油、またはトウモロコシ油から選択することができる。2種またはそれ以上の異なる透過増強剤を含む組み合わせもまた使用することができる。
【0046】
さらに、「抗菌剤」という用語は、一般に、医薬調製物中の、特に本発明による組成物中の微生物の増殖を防止することが可能な薬剤を含む。好適な抗菌薬の例は、クロルヘキシジンの塩、例えばブチルカルバミン酸ヨードプロピニル、ジアゾリジニル尿素、ジグルコン酸クロルヘキシジン、酢酸クロルヘキシジン、イセチオン酸クロルヘキシジン、塩酸クロルヘキシジンを含むが、これらに限定されない。他のカチオン性抗菌剤もまた使用することができ、例えば塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、トリクロカルバン、ポリヘキサメチレンビグアニド、塩化セチルピリジニウム、塩化メチルベンゼトニウムである。
【0047】
他の抗菌剤は、ハロゲン化フェノール化合物、例えば2,4,4’-トリクロロ-2-ヒドロキシジフェニルエーテル(トリクロサン)、パラクロロメタキシレノール(PCMX);パラ-ヒドロキシ安息香酸メチル;および短鎖アルコール、例えばエタノール、プロパノールなどを含むが、これらに限定されない。好ましくは、前記抗菌剤の総濃度は、これが含まれる組成物の総重量に対して、0.01から2重量%の範囲内である。
【0048】
さらなる実施形態では、本組成物は、0.01から1.0重量%の間、または0.05から0.5重量%の間、または0.07から0.4重量%の間、または0.08から0.3重量%の間、または0.09から0.2重量%の間、または約0.10重量%のパラヒドロキシ安息香酸メチル(ニパギン)を含むことができる。
【0049】
さらなる実施形態によれば、本発明の組成物は、経皮薬物投与の全期間中、組成物が適用部位で皮膚と直接かつ完全に接触した状態で維持されることを確実にするために、粘着特性を有する。粘着性は、1種またはそれ以上の粘着性ポリマーを前記組成物に組み入れることによって得ることができる。この目的に好適な粘着性ポリマーは、当業者に一般に公知である。好ましくは、粘着特性を有するポリアミンまたはポリアミン塩が、前記粘着性ポリマーとして使用される。
【0050】
好ましくは、本発明の組成物は、自己粘着性である。組成物を自己粘着性にするために、組成物は、粘着付与剤の群から選択される1種またはそれ以上の添加剤をさらに含有することができ、この群は、炭化水素樹脂、ロジン誘導体、グリコール(例えばグリセリン、1,3-ブタンジオール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール)を含むが、これらに限定されない。
【0051】
本発明はさらに、上記の実施形態の2つもしくはそれ以上を組み合わせることにより、または上記説明全体に記述された1つもしくはそれ以上の個々の構成を本発明の上記の実施形態のいずれか1つと組み合わせることにより得られる本発明の任意の実施形態に関する。
【0052】
一般に、本発明の組成物は、従来の方法によって製造することができる。概して、本発明の組成物は、様々な成分(すなわち、トリプタン、ポリアミン、添加剤)を水または水性溶媒混合物に溶解または分散させることによって得ることが可能である。次いで、得られた混合物を平坦面上に広げ、または金型に注ぎ入れ、または押し出し、次いで、固化させて、所望の形状を有するヒドロゲル組成物を得ることができる。
【0053】
本発明はさらに、イオントフォレーシスパッチの一体構成要素としての、好ましくはパッチのアノードリザーバーとしての、上記の組成物の使用を包含する。好ましくは、そのような組成物を、製造中に前記イオントフォレーシスパッチに組み入れて、パッチのアノードリザーバーを形成する。上述の投与形態は、当技術分野で一般に公知の製造方法によって得ることが可能である。特許文献5は、上記組成物をイオントフォレーシスデバイスに含めることができる方法を示している。
【0054】
本方法は、経皮投与のためのイオントフォレーシス方法をさらに含む。一般に、上述の方法は、本発明による組成物を前記対象の皮膚に適用して、組成物中に含有される活性薬剤、例えば、スマトリプタンが組成物から放出され、皮膚を透過し、前記対象の血液循環に入ることを可能にする工程を含む。このプロセスは、イオントフォレーシスによって増強される。
【実施例】
【0055】
以下では、本発明およびその有効性を、添付の図面とともに、実施例を用いて説明する。
【0056】
図1は、4℃および15℃でのUS-A8,366,600による組成物の経時的な粘度低下を示す。
【0057】
方法
導電率測定は、VWR EC 300導電率計によって実施した。
【0058】
pHは、Seven Compact pH/イオンメーターS220によって測定した。
【0059】
粘度測定は、Thermo Scientific Haake RheoStress 6000レオメーターによって実施した。
【0060】
実験手順
組成物は、標準的な実験器具(撹拌機、水浴、ガラス器具)を用いて製造した。Eudragit E 100を含む組成物は、以下のように製造した:
1.反応容器に水を充填した
2.パラ-ヒドロキシ安息香酸メチル(ニパギン)を連続撹拌下で添加した
3.Eudragit E100、ラウリン酸およびアジピン酸のプレミックスを容器中に添加した
4.溶液を連続撹拌しながら80℃に2時間加熱した
5.溶液を25℃まで冷却した。
【0061】
Kollicoat Smartsealを含む組成物は、最初にコハク酸を水に懸濁させる(完全には溶解させない)によって調製した。その後、所要の量のKollicoat Smartseal 30Dおよび水を、視覚的に許容される粘度に達するまで交互に添加した。アジピン酸を含む組成物については、より高い温度でのアジピン酸の溶解性の増加に起因して、組成物を45℃に加熱した。実際の(verum)組成物を作るために、各組成物57.6gをスマトリプタンコハク酸塩2.4gに添加して、4%の濃度のスマトリプタンコハク酸塩を得た。
【0062】
最終組成および測定された主要なパラメーターを、表1(US-A8,366,600による組成物)、表2(置き換えポリアミンを含む組成物)および表3(Eudragit E 100を含む組成物)にまとめる。
【0063】
【0064】
【0065】
実施例1および2の組成物の導電率は、US-A8,366,600による製剤(比較例)中よりも高い。一般に、より高い導電率は、より低い導電率よりも重大でなく、その理由は、オームの法則に従って、必要とされる電流のための所要の電圧がより低いからである。
【0066】
実施例1および2のpHは、US-A8,366,600による組成物のpHより低い。
【0067】
両方の組成物(実施例1および2)の粘度は、US-A8,366,600による組成物(比較例)についてよりも有意に高かった;
図2(実施例2)を参照されたい。このことは利点と考えることができ、その理由は、より高い粘度は、パッチが適用中に漏出することを防止できるからである。
【0068】
両方の組成物(実施例1および2)は、4℃で保存され、少なくとも2か月にわたって寒冷不安定性を示さなかった。
【0069】
Eudragit E 100を含む寒冷安定性組成物(実施例3)
Kollicoat Smartsealでの結果(実施例1および2)に基づいて、Eudragit E 100を含む寒冷安定性組成物(実施例3)は、アジピン酸を使用し、固形分をそれに応じて増加させるように改変した。得られた製剤およびその主要なパラメーターを表3に示す。
【0070】
【0071】
初期組成物の粘度(23990mPas)は、イオントフォレーシス適用には高すぎると思われたことから、Kollicoat Smartsealを含む組成物と類似の粘度に達するために、組成物を水で希釈した(実施例3希釈物1~5)。表3に示すように、希釈は、希釈済み組成物の導電率およびpHに小さな影響しか与えなかった。
【0072】
実施例3(希釈物5)の組成物は、4℃で少なくとも2か月にわたって物理的に安定であった。これは
図3に示されている。
【0073】
前臨床研究
製剤ごとに3匹の雌のゲッチンゲンSPFミニブタにおいて前臨床研究を実施した。表4による3種の組成物を前臨床研究において使用した。同じ製剤を含有する2つのイオントフォレーシス経皮パッチ(活性化されたものおよび不活性化されたもの)を、各動物の皮膚に4時間の期間配置した。パッチ中の全ての薬物パッドは、スマトリプタンコハク酸塩104mgを含有していた。曝露期間は、4時間であった。採血を以下の時点:処置前、ならびに処置後15分、30分、60分、90分、2、3、4、4.5、5、6、8、10、12および16時間で実施した。サンプル調製のための固相抽出に続いて、LC-MS/MSを使用して、血漿サンプル中のスマトリプタンの濃度を決定した。研究の結果を
図4および5に示す。
図4は、比較例による組成物および実施例3(希釈物5)による組成物を使用したスマトリプタンの時間依存的血漿濃度を示す。
図5は、比較例による組成物および実施例2aによる組成物を使用したスマトリプタンの時間依存的血漿濃度を示す。
【0074】
【0075】
図面
図4:比較例および実施例3(希釈物5)の時間依存的血漿濃度
図5:比較例および実施例2aの時間依存的血漿濃度
【図面の簡単な説明】
【0076】
【
図1】4℃および15℃でのUS-A8,366,600による組成物の経時的な粘度低下を示す。
【
図2】4℃および15℃での本発明実施例2による組成物の経時的な粘度低下を示す。
【
図3】4℃および15℃での本発明実施例3による組成物の経時的な粘度低下を示す。
【
図4】比較例および実施例3(希釈物5)の時間依存的血漿濃度を示す。
【
図5】比較例および実施例2aの時間依存的血漿濃度を示す。