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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-15
(45)【発行日】2023-12-25
(54)【発明の名称】タイヤ
(51)【国際特許分類】
   B60C 9/00 20060101AFI20231218BHJP
   B60C 9/20 20060101ALI20231218BHJP
   B60C 9/22 20060101ALI20231218BHJP
   B60C 9/18 20060101ALI20231218BHJP
   D01F 6/60 20060101ALI20231218BHJP
   C08G 69/26 20060101ALI20231218BHJP
【FI】
B60C9/00 C
B60C9/20 D
B60C9/00 G
B60C9/22 C
B60C9/22 D
B60C9/18 F
D01F6/60 311C
C08G69/26
【請求項の数】 29
(21)【出願番号】P 2020553269
(86)(22)【出願日】2019-10-16
(86)【国際出願番号】 JP2019040768
(87)【国際公開番号】W WO2020080447
(87)【国際公開日】2020-04-23
【審査請求日】2022-10-06
(31)【優先権主張番号】P 2018196214
(32)【優先日】2018-10-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005278
【氏名又は名称】株式会社ブリヂストン
(74)【代理人】
【識別番号】100096714
【弁理士】
【氏名又は名称】本多 一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100124121
【弁理士】
【氏名又は名称】杉本 由美子
(74)【代理人】
【識別番号】100176566
【弁理士】
【氏名又は名称】渡耒 巧
(74)【代理人】
【識別番号】100180253
【弁理士】
【氏名又は名称】大田黒 隆
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 陽祐
【審査官】岩本 昌大
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-088120(JP,A)
【文献】特開2017-141002(JP,A)
【文献】特開2017-141005(JP,A)
【文献】国際公開第2018/038050(WO,A1)
【文献】特開2000-185512(JP,A)
【文献】特開2001-080316(JP,A)
【文献】特開平07-157986(JP,A)
【文献】特開平09-013288(JP,A)
【文献】国際公開第1994/014625(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/051032(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 1/00-19/12
D02G 3/28
D02G 3/48
D07B 1/02
D07B 1/06
D01F 6/60
C08G 69/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対のビードコアと、該一対のビードコア間に跨る少なくとも1層のカーカスプライからなるカーカスと、該カーカスのタイヤ半径方向外側に配置された少なくとも1層のベルト層からなるベルトと、該ベルトのタイヤ半径方向外側に配置された少なくとも1層のベルト補強層と、を備えたタイヤにおいて、
前記カーカスプライおよび前記ベルト補強層のうち、少なくとも一方の補強コードが、芳香族ジカルボン酸を含むジカルボン酸とジアミンとの重縮合物からなるポリアミドマルチフィラメントを用いたコードを含み、
前記ジアミンが、脂肪族ジアミンおよび脂環族ジアミンのうち少なくとも一方であり、かつ、タイヤから取り出した前記補強コードの水分率が、0.1~2.0質量%であることを特徴とするタイヤ。
【請求項2】
タイヤから取り出した前記補強コードのガラス転移温度が、80~230℃である請求項記載のタイヤ。
【請求項3】
タイヤから取り出した前記補強コードの100℃における動的弾性率E’(100℃)と25℃における動的弾性率E’(25℃)との比、E’(100℃)/E’(25℃)の値が、0.7~1.0である請求項1または2項記載のタイヤ。
【請求項4】
タイヤから取り出した前記補強コードの25℃における損失正接tanδ(25℃)と100℃における損失正接tanδ(100℃)との比、tanδ(25℃)/tanδ(100℃)の値が、0.7~1.0である請求項1~3のうちいずれか一項記載のタイヤ。
【請求項5】
タイヤから取り出した前記補強コードの25℃における損失正接tanδ(25℃)が、0.01~0.06である請求項1~4のうちいずれか一項記載のタイヤ。
【請求項6】
前記補強コードの前記ジカルボン酸に対する前記芳香族ジカルボン酸の比率が、50mol%以上である請求項1~5のうちいずれか一項記載のタイヤ。
【請求項7】
前記芳香族ジカルボン酸に対する芳香環が1つであるジカルボン酸の比率が、20mol%以上である請求項1~6のうちいずれか一項記載のタイヤ。
【請求項8】
前記芳香族ジカルボン酸に対する芳香環が2つであるジカルボン酸の比率が、20mol%以上である請求項1~6のうちいずれか一項記載のタイヤ。
【請求項9】
前記芳香族ジカルボン酸に対する芳香環が3つであるジカルボン酸の比率が、20mol%以上である請求項1~6のうちいずれか一項記載のタイヤ。
【請求項10】
前記ジアミンに対する炭素原子数7~12のジアミンの比率が、20mol%以上である請求項1~9のうちいずれか一項記載のタイヤ。
【請求項11】
前記補強コードが、前記ポリアミドマルチフィラメントと、ポリエステル繊維、ナイロン繊維、アラミド繊維、ポリケトン繊維、ガラス繊維、炭素繊維、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維およびポリアリレート繊維からなる群から選ばれる少なくとも1種の繊維と、のハイブリッドコードである請求項1~10のうちいずれか一項記載のタ
イヤ。
【請求項12】
タイヤから取り出した前記補強コードが、下記式(1)、(2)
α1=N1×√(0.125×D1/ρ)×10-3 (1)
α2=N2×√(0.125×D2/ρ)×10-3 (2)
(N1は下撚り数[回/10cm]、D1は下撚り糸1本の繊度[dtex]、N2は上撚り数[回/10cm]、D2はコードの総繊度[dtex]、ρは前記補強コードの密度[g/cm])で表される下撚係数α1が0.1~0.9であり、上撚係数α2が0.1~1.2である請求項1~11のうちいずれか一項記載のタイヤ。
【請求項13】
前記α1が0.1~0.5、前記α2が0.1~0.7である請求項12記載のタイヤ。
【請求項14】
前記補強コードの総繊度が、1000~8000dtexである請求項1~13のうちいずれか一項記載のタイヤ。
【請求項15】
前記補強コードの下撚数N1が、10~30回/10cmである請求項12~14のうちいずれか一項記載のタイヤ。
【請求項16】
前記補強コードの上撚数N2が、10~30回/10cmである請求項12~15のうちいずれか一項記載のタイヤ。
【請求項17】
前記ベルト補強層が、前記ベルトの全幅以上にわたり配置されるキャップ層および前記ベルトの両端部を覆う一対のレイヤー層のうち少なくとも一方である請求項1~16のうちいずれか一項記載のタイヤ。
【請求項18】
前記ベルト層が、2~10本の金属フィラメントが撚り合わされずに一列に引き揃えられた束からなる金属コードが、エラストマーにより被覆されてなり、
前記金属コード中に、前記金属フィラメントの延在方向に対して垂直な方向における型付け量および型付けピッチの少なくとも一方が異なっている、隣り合う金属フィラメント同士の対が少なくとも1つ存在する請求項1~17のうちいずれか一項記載のタイヤ。
【請求項19】
前記金属コード中における型付けされた金属フィラメントの型付け方向が、前記金属コードの幅方向である請求項18記載のタイヤ。
【請求項20】
前記隣り合う金属フィラメントの、前記金属コードの幅方向側面におけるエラストマー被覆率が、50mm当たり10%以上である請求項18または19記載のタイヤ。
【請求項21】
前記金属コード中の金属フィラメントのうち少なくとも1本が、実質的に真直の金属フィラメントである請求項18~20のうちいずれか一項記載のタイヤ。
【請求項22】
前記真直の金属フィラメントと型付けされた金属フィラメントが交互に配置されている請求項21記載のタイヤ。
【請求項23】
前記金属コードの両端に配置された金属フィラメントが、前記真直の金属フィラメントである請求項21または22記載のタイヤ。
【請求項24】
前記金属フィラメントの型付け量が0.03~0.30mm、前記金属フィラメントの型付けピッチが2~30mmである請求項18~23のうちいずれか一項記載のタイヤ。
【請求項25】
前記ベルト層が、2~10本の金属フィラメントが撚り合わされずに一列に引き揃えられた束からなる金属コードが、エラストマーにより被覆されてなり、
前記金属フィラメントが、同一型付け量および同一ピッチで型付けされており、前記金属コード中に、隣り合う金属フィラメント同士の位相が異なる金属フィラメントの対が少なくとも1つ存在する請求項1~17のうちいずれか一項記載のタイヤ。
【請求項26】
前記隣り合う金属フィラメント同士の位相差が、π/4~7π/4である請求項25記載のタイヤ。
【請求項27】
前記隣り合う金属フィラメントの、前記金属コードの幅方向側面におけるエラストマー被覆率が、単位長さ当たり10%以上である請求項25または26記載のタイヤ。
【請求項28】
前記金属フィラメントの型付け量が0.03~0.30mm、前記金属フィラメントの型付けピッチが2~10mmである請求項25~27のうちいずれか一項記載のタイヤ。
【請求項29】
乗用車用である請求項1~28のうちいずれか一項記載のタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤに関し、詳しくは、高速走行時における耐久性、操縦安定性および低転がり抵抗を改善しつつ、タイヤの生産性にも優れたタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、CO排出量の増加に伴う地球温暖化等の環境問題や、資源枯渇問題が深刻化してきている。このため、タイヤにおいては、軽量・低燃費であることが要求されてきている。従来からタイヤに関しては、形状、構造、トレッド等のゴム特性等の改良・開発が盛んに行われており、ゴムの使用量を低減させること、タイヤの転がり抵抗を低減すること等により、軽量化、低燃費化が図られてきている。転がり抵抗については、ゴム部材が大きく関与していることから、例えば、トレッドゴム、ビードフィラーゴム、ベルトコーティングゴム、ビードフィラーゴム等のゴム部材自体の低ロス化、ゴム部材の形状、構造等の低歪み化等が検討され、最適化されてきた。
【0003】
そして、近時では、ゴム部材自体の低ロス化の進展に伴い、ゴム部材以外の部材の動的繰返し歪みに起因するロスの転がり抵抗への関与が無視できなくなってきている。ゴム部材以外の部材としては、カーカスプライ層、ベルト層、ベルト補強層等があるが、これらの中でもベルト補強層は、転動接地時の歪み変動が大きいことから、ベルト補強層の低ロス化の技術が望まれている。このような状況の中、特許文献1では、タイヤにおけるキャッププライ層(ベルト補強層)として好適に使用可能であり、剛性等の機械的特性、熱特性等に優れ、ロスのみを低減させた補強コード材が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2002-103913号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
現在、タイヤの補強部材には、ポリエステル、レーヨン、ナイロン等の有機繊維が用いられている。この中でも、ポリアミド繊維であるナイロン繊維は、他の繊維種と比較してゴムのと接着性が優れており、また、耐疲労性にも優れているという利点を有している。したがって、ポリアミド繊維の高温時における剛性を高めることができれば、このような利点を生かしつつ、高速走行時における耐久性や操縦安定性を改善することも可能であり、今後、さらなる改善が求められているのが現状である。
【0006】
そこで、本発明の目的は、高速走行時における耐久性、操縦安定性および低転がり抵抗を改善しつつ、タイヤの生産性にも優れたタイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、所定の構造を有するポリアミドマルチフィラメントを用いたコードを、カーカスプライやベルト補強層の補強コードとして用いることで、上記課題を解消することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明のタイヤは、一対のビードコアと、該一対のビードコア間に跨る少なくとも1層のカーカスプライからなるカーカスと、該カーカスのタイヤ半径方向外側に配置された少なくとも1層のベルト層からなるベルトと、該ベルトのタイヤ半径方向外側に配置された少なくとも1層のベルト補強層と、を備えたタイヤにおいて、
前記カーカスプライおよび前記ベルト補強層のうち、少なくとも一方の補強コードが、芳香族ジカルボン酸を含むジカルボン酸とジアミンとの重縮合物からなるポリアミドマルチフィラメントを用いたコードを含み、
前記ジアミンが、脂肪族ジアミンおよび脂環族ジアミンのうち少なくとも一方であり、かつ、タイヤから取り出した前記補強コードの水分率が、0.1~2.0質量%であることを特徴とするものである。
【0009】
本発明のタイヤにおいては、タイヤから取り出した前記補強コードのガラス転移温度が、80~230℃であることが好ましい。また、本発明のタイヤにおいては、タイヤから取り出した前記補強コードの100℃における動的弾性率E’(100℃)と25℃における動的弾性率E’(25℃)との比、E’(100℃)/E’(25℃)の値が、0.7~1.0であることが好ましい。
【0010】
また、本発明のタイヤにおいては、タイヤから取り出した前記補強コードの25℃における損失正接tanδ(25℃)と100℃における損失正接tanδ(100℃)との比、tanδ(25℃)/tanδ(100℃)の値が、0.7~1.0であることが好ましい。さらに、本発明のタイヤにおいては、タイヤから取り出した前記補強コードの25℃における損失正接tanδ(25℃)が、0.01~0.06であることが好ましい。さらにまた、本発明のタイヤにおいては、前記補強コードの前記ジカルボン酸に対する前記芳香族ジカルボン酸の比率が、50mol%以上であることが好ましい。また、本発明のタイヤにおいては、前記芳香族ジカルボン酸に対する芳香環が1つであるジカルボン酸の比率が、20mol%以上であるもの、前記芳香族ジカルボン酸に対する芳香環が2つであるジカルボン酸の比率が、20mol%以上であるもの、前記芳香族ジカルボン酸に対する芳香環が3つであるジカルボン酸の比率が、20mol%以上であるものを好適に用いることができる。さらに、本発明のタイヤにおいては、前記ジアミンに対する炭素原子数7~12のジアミンの比率が、20mol%以上であることが好ましい。さらにまた、本発明のタイヤにおいては、前記補強コードが、前記ポリアミドマルチフィラメントと、ポリエステル繊維、ナイロン繊維、アラミド繊維、ポリケトン繊維、ガラス繊維、炭素繊維、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維およびポリアリレート繊維からなる群から選ばれる少なくとも1種の繊維と、のハイブリッドコードであることが好ましい。
【0011】
また、本発明のタイヤにおいては、タイヤから取り出した前記補強コードが、下記式(1)、(2)
α1=N1×√(0.125×D1/ρ)×10-3 (1)
α2=N2×√(0.125×D2/ρ)×10-3 (2)
(N1は下撚り数[回/10cm]、D1は下撚り糸1本の繊度[dtex]、N2は上撚り数[回/10cm]、D2はコードの総繊度[dtex]、ρは前記補強コードの密度[g/cm])で表される下撚係数α1が0.1~0.9であり、上撚係数α2が0.1~1.2であることが好ましい。さらに、本発明のタイヤにおいては、前記α1が0.1~0.5、前記α2が0.1~0.7であることが好ましい。さらにまた、本発明のタイヤにおいては、前記補強コードの総繊度が、1000~8000dtexであることが好ましい。また、本発明のタイヤにおいては、前記補強コードの下撚数が、10~30回/10cmであることが好ましい。さらに、本発明のタイヤにおいては、前記補強コードの上撚数が、10~30回/10cmであることが好ましい。さらにまた、本発明のタイヤにおいては、前記ベルト補強層が、前記ベルトの全幅以上にわたり配置されるキャップ層および前記ベルトの両端部を覆う一対のレイヤー層のうち少なくとも一方であることが好ましい。
【0012】
また、本発明のタイヤとしては、前記ベルト層が、2~10本の金属フィラメントが撚り合わされずに一列に引き揃えられた束からなる金属コードが、エラストマーにより被覆されてなり、
前記金属コード中に、前記金属フィラメントの延在方向に対して垂直な方向における型付け量および型付けピッチの少なくとも一方が異なっている、隣り合う金属フィラメント同士の対が少なくとも1つ存在するものが好適である。本発明のタイヤにおいては、前記金属コード中における型付けされた金属フィラメントの型付け方向が、前記金属コードの幅方向であることが好ましい。本発明のタイヤにおいては、前記隣り合う金属フィラメントの、前記金属コードの幅方向側面におけるエラストマー被覆率が、50mm当たり10%以上であることが好ましい。本発明のタイヤにおいては、前記金属コード中の金属フィラメントのうち少なくとも1本が、実質的に真直の金属フィラメントであることが好ましい。本発明のタイヤにおいては、前記真直の金属フィラメントと型付けされた金属フィラメントが交互に配置されていることが好ましい。本発明のタイヤにおいては、前記金属コードの両端に配置された金属フィラメントが、前記真直の金属フィラメントであることが好ましい。本発明のタイヤにおいては、前記金属フィラメントの型付け量が0.03~0.30mm、前記金属フィラメントの型付けピッチが2~30mmであることが好ましい。
【0013】
本発明のタイヤとしては、前記ベルト層が、2~10本の金属フィラメントが撚り合わされずに一列に引き揃えられた束からなる金属コードが、エラストマーにより被覆されてなり、
前記金属フィラメントが、同一型付け量および同一ピッチで型付けされており、前記金属コード中に、隣り合う金属フィラメント同士の位相が異なる金属フィラメントの対が少なくとも1つ存在するものも好適である。本発明のタイヤにおいては、前記隣り合う金属フィラメント同士の位相差が、π/4~7π/4であることが好ましい。また、本発明のタイヤにおいては、前記隣り合う金属フィラメントの、前記金属コードの幅方向側面におけるエラストマー被覆率が、単位長さ当たり10%以上であることが好ましい。さらに、本発明のタイヤにおいては、前記金属フィラメントの型付け量が0.03~0.30mm、前記金属フィラメントの型付けピッチが2~10mmであることが好ましい。
【0014】
本発明のタイヤは、乗用車用タイヤに好適である。
【0015】
ここで、補強コードのtanδは、補強コードを5cmの長さとし、所定の温度、測定周波数10Hz、静的張力100g、動的繰返し歪み1000μmの条件下で、レオログラフソリッド、レオバイブロン、スペクトロメーター等を用いて測定した値である。また、ガラス転移温度(Tg)は、示差走査熱量測定(Differential scanning calorimetry:DSC)で測定した値である。さらに、補強コードの動的弾性率E’は、補強コードのtanδの測定と同じ条件で測定することができる。さらにまた、「芳香族ジカルボン酸に対する芳香環が1つであるジカルボン酸の比率が、20mol%以上」とは、「原料モノマー成分由来の構造単位に対する芳香族ジカルボン酸由来の構造単位の比率が10mol%以上」を意味する。「芳香族ジカルボン酸に対する芳香環が2つであるジカルボン酸の比率が、20mol%以上」、「芳香族ジカルボン酸に対する芳香環が3つであるジカルボン酸の比率が、20mol%以上」および「ジアミンに対する炭素原子数7~12のジアミンの比率が、20mol%以上である」も同様である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、高速走行時における耐久性、操縦安定性および低転がり抵抗を改善しつつ、タイヤの生産性にも優れたタイヤを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の一好適な実施の形態に係るタイヤのタイヤ幅方向における概略断面図である。
図2】本発明の一好適な実施の形態に係るタイヤのベルト層の幅方向における部分断面図である。
図3】本発明のタイヤにおけるベルトの一好適な実施の形態に係るベルト層の金属コードの概略平面図である。
図4】本発明の一好適な実施の形態に係るタイヤのベルト層の金属コードの幅方向概略断面図である。
図5】本発明の一好適な実施の形態に係るタイヤにおける、金属フィラメントの型付け量hおよび型付けピッチpの定義を示す金属フィラメントの説明図である。
図6】本発明の一好適な実施の形態に係るタイヤのベルト層の金属コードの幅方向概略断面図の他の例である。
図7】本発明の他の好適な実施の形態に係るタイヤのベルト層の幅方向における部分断面図である。
図8】本発明の他の好適な実施の形態に係るタイヤのベルト層の金属コードの概略平面図である。
図9】本発明の他の好適な実施の形態に係るタイヤのベルト層の金属コードの幅方向概略断面図である。
図10】本発明の他の好適な実施の形態に係るタイヤにおける、金属フィラメントの型付け量hおよび型付けピッチpの定義を示す金属フィラメントの説明図である。
図11】本発明の他の好適な実施の形態に係るタイヤのベルト層の金属コードの幅方向概略断面図の他の例である。
図12】本発明の他の好適な実施の形態に係るタイヤのベルト層の金属コードの幅方向概略断面図のさらなる他の例である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明のタイヤについて、図面を用いて詳細に説明する。
図1は、本発明の一好適な実施の形態に係るタイヤのタイヤ幅方向における概略断面図である。本発明のタイヤ10は、一対のビードコア11間に跨る少なくとも1層、図示例においては1層のカーカスプライ12からなるカーカスと、カーカスのタイヤ半径方向外側に配置された少なくとも1層、図示例においては2層のベルト層13a、13bからなるベルト13と、ベルト13のタイヤ半径方向外側に配置された少なくとも1層のベルト補強層14と、を備えたタイヤである。
【0019】
図示する例においては、ビードコア11のタイヤ半径方向外側にビードフィラー15が配置されており、また、ベルト補強層14は、ベルト13の全体を覆うように配置されたキャップ層14aと、キャップ層14aの両端部のみを覆うように配置された一対のレイヤー層14bからなる。キャップ層14aは一方のタイヤ半部から他方のタイヤ半部にかけてタイヤ赤道面と交差して連続するよう配置されているのに対し、レイヤー層はタイヤ赤道面と交差することなく、それぞれのタイヤ半部においてキャップ層14aの端部のみを覆うように配置された一対のレイヤー層14bからなる。ここで、ベルト13は、通常、タイヤ赤道面に対して傾斜して延びるコードのゴム引き層、好ましくは、スチールコードのゴム引き層からなり、図示例の2枚のベルト層13a、13bは、ベルト層13a、13bを構成するコードが互いに赤道面を挟んで交差するように積層されてベルト13を構成する。ベルト13を構成するコード(例えばスチールコード)は、タイヤ周方向に対して例えば20度以上40度以下の角度で傾斜するものとすることができる。また、ベルト補強層14は、キャップ層14aおよびレイヤー層14bの両方を備えていてもよく、キャップ層14aまたはレイヤー層14bのみであってもよい。さらに、2層以上のキャップ層14aおよび/または2層以上のレイヤー層14bの組み合わせであってもよい。なお、ベルト補強層14は、通常、タイヤ周方向に対し実質的に平行に配列したコードのゴム引き層からなる。
【0020】
本発明のタイヤ10においては、カーカスプライ12およびベルト補強層14のうち、少なくとも一方の補強コードが、芳香族ジカルボン酸を含むジカルボン酸とジアミンとの重縮合物からなるポリアミドマルチフィラメントを用いたコードを含む。特に、ジアミンとして、脂肪族ジアミンおよび脂環族ジアミンのうち少なくとも一方を用いたポリアミド(以下、「半芳香族ポリアミド」とも称す)からなるマルチフィラメント(半芳香族ポリアミドマルチフィラメント)を用いたコード(半芳香族ポリアミドコード)であることが好ましい。カーカスプライ12やベルト補強層14の補強コードとして、ナイロン66が汎用的に用いられているが、このような補強コードは、ガラス転移温度Tgが低いため(50℃)、高温時剛性が低く操縦安定性に優れない。一方、アラミド繊維を用いた補強コードは、高温時剛性の確保は可能だが、剛性が高すぎてタイヤ製造性が著しく悪いという問題を有している。
【0021】
これに対して、芳香族ジカルボン酸を含むジカルボン酸とジアミンとの重縮合物からなるポリアミド、特に半芳香族ポリアミドは、分子間相互作用によりTgが高く、さらに剛性も適度なため、カーカスプライ12やベルト補強層14の補強コードとして用いることで、タイヤの生産性を損なうことなく、高速走行時における耐久性、操縦安定性を向上させることができる。また、タイヤ使用域での損失正接tanδが小さく、タイヤの低転がり化に有利である。さらに、脂環族ジカルボン酸と脂肪族ジアミンとからなるポリアミド繊維は吸水性が高く、物性安定性が低い。これに対して、半芳香族ポリアミド繊維は、このポリマー吸水性も低いため、物性の安定性も確保可能である。
【0022】
なお、本発明のタイヤ10において、カーカスプライ12およびベルト補強層14のうち、一方にしか上記補強コードを適用しない場合は、他方には、通常用いられている既知の補強コードを用いることができる。例えば、ベルト補強層14を構成するコードに上記補強コード(例えば、半芳香族ポリアミドコード)を用いつつ、カーカスプライ12を構成するコードには上記補強コード以外の有機繊維コード(例えば、ナイロンやポリエチレンテレフタレート(PET)コード)を使用することもできる。また、例えば、カーカスプライ12を構成するコードに上記補強コード(例えば、半芳香族ポリアミドコード)を用いつつ、ベルト補強層14を構成するコードには上記補強コード以外の有機繊維コード(例えば、ナイロンやPETコード)を使用することもできる。ベルト補強層14がキャップ層14aとレイヤー層14bを有する場合には、キャップ層14aとレイヤー層14bのうち片方のみを上記補強コードとすることもできる。例えば、レイヤー層14bを構成するコードには上記補強コード(例えば、半芳香族ポリアミドコード)を用いつつ、キャップ層14aを構成するコードには上記補強コード以外の有機繊維コード(例えば、ナイロンやPETコード)を使用することもできる。
【0023】
本発明のタイヤ10においては、タイヤ10から取り出した補強コードのTgは80~230℃であることが好ましい。このように、Tgが高いコードをカーカスプライ12およびベルト補強層14の少なくとも一方の補強コードとして用いることで、タイヤ使用域における損失正接tanδを小さくすることができ、タイヤの転がり抵抗を向上させることができる。また、高温時においても剛性を確保できるため、高速時の操縦安定性を向上させることができる。好適には、Tgは、100~160℃である。
【0024】
また、本発明のタイヤ10においては、タイヤ10から取り出した補強コードの25℃における損失正接tanδ(25℃)と100℃における損失正接tanδ(100℃)との比、tanδ(25℃)/tanδ(100℃)の値が0.7~1.0であることが好ましい。特に、タイヤから取り出した補強コードの25℃における損失正接tanδ(25℃)が、0.01~0.06のものが好ましい。このような補強コードは高温時のtanδが低いため、熱の発生を抑制することができ、高速時におけるタイヤの耐久性を向上させることができる。好適には、tanδ(25℃)/tanδ(100℃)の値は、0.85~1.0である。
【0025】
さらに、本発明のタイヤ10においては、タイヤ10から取り出した補強コードの25℃における動的弾性率E’(25℃)と100℃における動的弾性率E’(100℃)との比、E’(100℃)/E’(25℃)の値が0.7~1.0であることが好ましい。E’(100℃)/E’(25℃)の値を、上記範囲とすることで、高温時における操縦安定性を、より良好なものとすることができる。特に、タイヤから取り出した補強コードの25℃における動的弾性率E’(25℃)が、0.7~0.8のものが好ましい。
【0026】
さらにまた、本発明のタイヤ10においては、タイヤ10から取り出した補強コードの水分率が、0.1~2.0質量%であることが好ましい。上述のとおり、本発明のタイヤ10に係る補強コード、特に半芳香族ポリアミド繊維は、吸水性が低いため、コード物性の安定性も確保できる。特に、水分率が0.1~2.0質量%のものは、本発明の効果を良好に得ることができる。
【0027】
なお、補強コードのtanδ(25℃)/tanδ(100℃)の値、およびE’(100℃)/E’(25℃)の値は、補強コードの種類、撚り数、補強コードの表面に塗布する接着剤に浸漬する際の浸漬条件、接着剤の種類、接着剤処理後の熱処理の条件を適宜選択することにより、調整することができる。また、本発明のタイヤ10においては、カーカスプライ12およびベルト補強層14における補強コードの打ち込み本数については、補強コードの強力に応じて適宜設定することができ、例えば、20~100本/50mmとすることができる。
【0028】
本発明のタイヤ10においては、タイヤから取り出した補強コードが、下記式(1)、(2)
α1=N1×√(0.125×D1/ρ)×10-3 (1)
α2=N2×√(0.125×D2/ρ)×10-3 (2)
で表される下撚係数α1が0.1~0.9であり、上撚係数α2が0.1~1.2であることが好ましい。ここで、N1は下撚り数[回/10cm]、D1は下撚り糸1本の繊度[dtex]、N2は上撚り数[回/10cm]、D2はコードの総繊度[dtex]、ρは補強コードの密度[g/cm]である。本発明に係るポリアミドマルチフィラメント、特には半芳香族ポリアミドマルチフィラメントに撚りを掛けることで、強力利用率が平均化し、その疲労性が向上する。特に、上記条件を満足することで、補強コードの剛性と疲労性とを両立させることができる。なお、撚糸時の張力は0.01~0.2cN/dtexが好ましい。
【0029】
さらに、本発明のタイヤ10においては、α1が0.1~0.5、α2が0.1~0.7であることが好ましい。かかる条件を満足することで、補強コードの剛性と疲労性とを高度に両立させることができる。特に、補強コードの下撚数N1は、10~30回/10cm、上撚数N2は、10~30回/10cmであることが好ましい。
【0030】
本発明のタイヤ10に係る補強コードにおいては、総繊度は、1000~8000dtexであることが好ましい。総繊度を1000dtex以上とすることで、強力を十分に確保することができる。一方、紡糸性や後加工の観点から8000dtex以下が好ましい。より好ましくは、5000dtex以下である。
【0031】
本発明のタイヤ10においては、カーカスプライ12およびベルト補強層14の補強コードは、上述のポリアミドマルチフィラメント、特には半芳香族ポリアミドマルチフィラメントのみからなるコードを用いてもよいが、他の繊維を併用した、いわゆるハイブリッドコードを用いてもよい。他の繊維としては、例えば、ポリエステル繊維、ナイロン繊維、アラミド繊維、ポリケトン繊維、ガラス繊維、炭素繊維、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維およびポリアリレート繊維からなる群から選ばれる少なくとも1種の繊維を挙げることができる。
【0032】
次に、本発明のタイヤ10に係る芳香族ジカルボン酸を含むジカルボン酸とジアミンとの重縮合物からなるポリアミドマルチフィラメントを用いたコードの材料、製造方法について詳細に説明する。
【0033】
<ジカルボン酸>
本発明のタイヤ10に係る補強コードに用いるポリアミドマルチフィラメントは、芳香族ジカルボン酸を含むジカルボン酸とジアミンとの重縮合物からなるポリアミドマルチフィラメント、特には半芳香族ポリアミドマルチフィラメントであって、ジカルボン酸に対する芳香族ジカルボン酸の比率が少なくとも50mol%以上が好ましく、より好ましくは60mol%以上であり、さらに好ましくは70mol%以上である。これにより、高Tg、繊維強度、紡糸性に優れるポリアミドマルチフィラメントを得ることができる。
【0034】
芳香族ジカルボン酸としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、2-クロロテレフタル酸、2-メチルテレフタル酸、5-メチルイソフタル酸、5-ナトリウムスルホイソフタル酸等の無置換または種々の置換基で置換された炭素数8~20の芳香族ジカルボン酸等を挙げることができる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0035】
本発明のタイヤ10に係る補強コードに用いるポリアミドマルチフィラメントは、芳香族ジカルボン酸以外のジカルボン酸としては、例えば、脂環構造の炭素原子数が3~10である脂環族ジカルボン酸や炭素原子数3~20の直鎖または分岐状脂肪族ジカルボン酸等を用いることができる。
【0036】
脂環構造の炭素原子数が3~10である脂環族ジカルボン酸としては、具体的には、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、1,3-シクロヘキサンジカルボン酸、1,3-シクロペンタンジカルボン酸等を挙げることができる。本発明のタイヤ10に用いる補強コードにおいては、脂環族ジカルボン酸は、無置換でも置換基を有していてもよい。置換基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基等の炭素原子数1~4のアルキル基等を挙げることができるが、これに限られるものではない。これらの中でも、補強コードの耐熱性、寸法安定性、強度等の観点から、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸が好ましい。なお、脂環族ジカルボン酸は、1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。
【0037】
なお、環族ジカルボン酸には、トランス体とシス体の幾何異性体が存在する。例えば、原料モノマーとしての1,4-シクロヘキサンジカルボン酸は、トランス体とシス体のどちらか一方を用いてもよく、トランス体とシス体の種々の比率の混合物として用いてもよい。
【0038】
炭素原子数3~20の直鎖または分岐状脂肪族ジカルボン酸としては、例えば、マロン酸、ジメチルマロン酸、コハク酸、2,2-ジメチルコハク酸、2,3-ジメチルグルタル酸、2,2-ジエチルコハク酸、2,3-ジエチルグルタル酸、グルタル酸、2,2-ジメチルグルタル酸、アジピン酸、2-メチルアジピン酸、トリメチルアジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、テトラデカン二酸、ヘキサデカン二酸、オクタデカン二酸、エイコサン二酸、ジグリコール酸等を挙げることができるが、これに限られるものではない。
【0039】
一般的に、ポリアミドマルチフィラメントを構成するジカルボン酸に含まれる芳香環の数が多くなると、分子間の芳香環同士の相互作用による結合力が高まり、Tgが上昇する。したがって、求められる高速走行時における耐久性、操縦安定性に応じて、ジカルボン酸中に含まれる芳香環を調整すればよい。例えば、芳香族ジカルボン酸に対する芳香環が1つであるジカルボン酸の比率が、20mol%以上であるもの、芳香族ジカルボン酸に対する芳香環が2つであるジカルボン酸の比率が、20mol%以上であるもの、芳香族ジカルボン酸に対する芳香環が3つであるジカルボン酸の比率が、20mol%以上であるもの、を適宜用いることができる。なお、ジカルボン酸中に含まれる芳香環が多くなると、同時に融点(Tm)も上昇するため、繊維の紡糸作業性が低下するが、ジアミン成分の炭素原子数を増加させることでTmを下げることが可能である。
【0040】
<ジアミン>
本発明のタイヤ10に係る補強コードに用いるポリアミドマルチフィラメントは、紡糸安定性、耐熱性、低吸水性の観点から、ジアミンに対する炭素原子数7~12のジアミンの比率が、20mol%以上であることが好ましい。より好ましくは30mol%以上80mol%以下、さらに好ましくは40mol%以上75mol%以下、特に好ましくは45mol%以上70mol%以下である。
【0041】
一般的にTgが高いポリマーは、Tmも高くなる傾向がある。Tmが高過ぎる場合、溶融時にポリアミドが熱分解し、分子量や強度の低下、着色、分解ガスの混入が生じて紡糸性が悪化する。しかしながら、炭素原子数7~12のジアミンを20mol%以上含むことにより、高いTgを維持しながらも溶融紡糸に適したTmに抑えることができる。また、炭素原子数7~12のジアミンを含むポリアミドは溶融時の熱安定性が高いため、紡糸安定性に優れ、均一性のよいマルチフィラメントを得ることができる。さらに、ポリアミド中のアミド基濃度が低下することにより、吸水時の寸法安定性に優れるマルチフィラメントを得ることができる。特に、1,10-デカメチレンジアミンは、バイオマス由来の原料であるという観点からも好ましい。
【0042】
1,10-デカメチレンジアミン以外のジアミンとしては、特に制限はなく、無置換の直鎖脂肪族ジアミンでも、炭素原子数1~4のアルキル基等の置換基を有する分岐状脂肪族ジアミンでも、脂環族ジアミンでもよい。ここで、置換基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基等が挙げられる。1,10-デカメチレンジアミン以外のジアミンとしては、例えば、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ヘプタメチレンジアミン、オクタメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、デカメチレンジアミン、ウンデカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、トリデカメチレンジアミン等の直鎖脂肪族ジアミン、2-メチルペンタメチレンジアミン、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジアミン、2-メチルオクタメチレンジアミン、2,4-ジメチルオクタメチレンジアミン、1,4-シクロヘキサンジアミン、1,3-シクロヘキサンジアミン、および1,3-シクロペンタンジアミン等を挙げることができる。
【0043】
また、本発明のタイヤ10に係る補強コードにおいては、ポリアミドの流動性を阻害しない範囲で、ジアミンに芳香族ジアミンを加えてもよい。芳香族ジアミンとは、芳香族を含有するジアミンであり、例えば、メタキシリレンジアミン、オルトキシリレンジアミン、パラキシリレンジアミン等が挙げられるが、これに限られるものではない。
【0044】
1,10-デカメチレンジアミン以外のジアミンとして、炭素原子数5~6のジアミンを含み、炭素原子数5~6のジアミンの比率が20mol%以上であるものがより好ましい。1,10-デカメチレンジアミン以外に炭素原子数5~6のジアミンを共重合させることで、紡糸に適した適度な融点を維持しつつも、結晶性の高いポリマーを得ることができる。炭素原子数5~6のジアミンとしては、ペンタメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、2-メチルペンタメチレンジアミン、2,5-ジメチルヘキサンジアミン、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジアミン等を挙げることができる。
【0045】
炭素原子数5~6のジアミンの中でも紡糸性や流動性、強度の観点からは、2-メチルペンタメチレンジアミンが好ましい。2-メチルペンタメチレンジアミンの比率が高すぎると、2-メチルペンタメチレンジアミンが自己環化して、溶融時に分解し、分子量低下を引き起こすため、紡糸性や強度が悪化する。ジアミン中の2-メチルペンタメチレンジアミンの比率としては、流動性を確保しつつも溶融時の分解が起こらない範囲に設定する必要があり、好ましくは20mol%以上70mol%以下、より好ましくは20mol%以上60mol%以下、さらに好ましくは20mol%以上55mol%以下である。
【0046】
また、炭素原子数5~6のジアミンの中でも、本発明のタイヤ10に係る補強コードの耐熱性の観点からは、ヘキサメチレンジアミンが好ましい。ヘキサメチレンジアミンの比率が高すぎると、融点が高くなりすぎて、紡糸が困難になるため、ジアミン中のヘキサメチレンジアミンの比率として、好ましくは20mol%以上60mol%以下、より好ましくは20mol%以上50mol%以下、さらに好ましくは20mol%以上45mol%以下である。
【0047】
ジカルボン酸の添加量とジアミンの添加量は、高分子量化のため、同mol量付近であることが好ましい。重合反応中のジアミンの反応系外への逃散分もmol比においては考慮して、ジカルボン酸全体のmol量1.00に対して、ジアミン全体のmol量は、0.90~1.20であることが好ましく、より好ましくは0.95~1.10であり、さらに好ましくは0.98~1.05である。
【0048】
ジカルボン酸とジアミンからポリアミドを重合する際には、分子量調節のために公知の末端封止剤をさらに添加することができる。末端封止剤としては、例えば、モノカルボン酸、モノアミン、無水フタル酸等の酸無水物、モノイソシアネート、モノ酸ハロゲン化物、モノエステル類、モノアルコール類等が挙げられ、熱安定性の観点で、モノカルボン酸、モノアミンが好ましい。末端封止剤は、1種類で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。
【0049】
本発明のタイヤ10に係る補強コードのポリアミドマルチフィラメント、特には半芳香族ポリアミドマルチフィラメントにおいては、クロス比は1.7以下が好ましい。クロス比とは、マルチフィラメントの中の最大直径を最小直径で除した値であり、単糸間の均一性の尺度となる。マルチフィラメントの強度は、単糸の強度分布の中でも低い物性に引っ張られるため、単糸間のバラつきが大きいと強度が発現しない。そこで、本発明のタイヤ10に係る補強コードのポリアミドマルチフィラメント、特には半芳香族ポリアミドマルチフィラメントにおいては、クロス比は1.7以下が好ましく、より好ましくは1.6以下であり、さらに好ましくは1.5以下である。クロス比が1.7以下であることで、単糸レベルでの延伸が均一に行われ、単糸強度のバラつきが少なく、ポリアミドマルチフィラメントとして優れた強度が発現する。クロス比の下限は1.0である。
【0050】
<ポリアミドの製造方法>
ポリアミドの製造方法としては、例えば、(1)ジカルボン酸・ジアミン塩またはその混合物の水溶液または水の懸濁液を加熱し、溶融状態を維持したまま重合させる方法(熱溶融重合法)、(2)熱溶融重合法で得られたポリアミドを融点以下の温度で固体状態を維持したまま重合度を上昇させる方法(熱溶融重合・固相重合法)、(3)ジアミン・ジカルボン酸塩またはその混合物の、水溶液または水の懸濁液を加熱し、析出したプレポリマーをさらにニーダー等の押出機で再び溶融して重合度を上昇させる方法(プレポリマー・押出重合法)、(4)ジアミン・ジカルボン酸塩またはその混合物の、水溶液または水の懸濁液を加熱、析出したプレポリマーをさらにポリアミドの融点以下の温度で固体状態を維持したまま重合度を上昇させる方法(プレポリマー・固相重合法)、(5)ジアミン・ジカルボン酸塩またはその混合物を、固体状態を維持したまま重合させる方法(固相重合法)、(6)ジカルボン酸と等価なジカルボン酸ハライド成分とジアミン成分を用いて重合させる方法(溶液法)等を挙げることができる。
【0051】
ポリアミドを製造する方法としては、トランス異性体比率を85%以下に維持することが容易であるため、また、得られるポリアミドの色調に優れるため、(1)熱溶融重合法、または(2)熱溶融重合・固相重合法によりポリアミドを製造することが好ましい。重合形態としては、バッチ式でも連続式でもよい。重合装置としては、特に限定されるものではなく、公知の装置、例えば、オートクレーブ型反応器、タンブラー型反応器、ニーダー等の押出機型反応器等が挙げられる。
【0052】
<ポリアミドマルチフィラメント>
本発明のタイヤ10に係る補強コードのポリアミドマルチフィラメント、特には半芳香族ポリアミドマルチフィラメントは、上述したポリアミドを繊維化したものである。ポリアミドマルチフィラメントの製造方法としては、様々な方法を用いることができるが、通常は溶融紡糸が用いられ、スクリュー型の溶融押出機を用いて行うことが好ましい。ポリアミドの紡糸温度(溶融温度)は300℃以上360℃以下であることが好ましい。300℃以上あれば、熱量不足による未溶解物の混入を抑制することができる。360℃以下であると、ポリマーの熱分解や分解ガスの発生を大幅に低減し、紡糸性が向上する。
【0053】
本発明のタイヤ10に係る補強コードに用いるポリアミドマルチフィラメントコードには、タイヤを構成するゴムとポリアミドコードとの接着のために、接着剤を用いることが好ましく、この接着剤としては、レゾルシン-ホルマリン-ラテックス液(RFL液)が好ましい。
【0054】
RFL液を付着させた後、RFL液の乾燥、固着およびリラックス処理を行う。RFL液の乾燥温度は、好ましくは120~250℃、より好ましくは140~200℃、乾燥時間は、好ましくは10秒以上、より好ましくは20~120秒間である。乾燥後の撚糸物は、引き続きヒートセットゾーンおよびノルマライジングゾーンにおいて熱処理を受ける。ヒートセットゾーンおよびノルマライジングゾーンにおける温度と時間は、それぞれ、150~250℃と10~300秒とすることが好ましい。この際、2%~10%の延伸が施され、好ましくは3%~9%の延伸が施されることが好ましい。
【0055】
次に、本発明のタイヤ10のベルト構造の好適な形態について説明する。
図2は、本発明の一好適な実施の形態に係るタイヤのベルト層の幅方向における部分断面図であり、図3は、本発明の一好適な実施の形態に係るタイヤのベルト層の金属コードの概略平面図であり、図4は、本発明の一好適な実施の形態に係るタイヤのベルト層の金属コードの幅方向概略断面図である。本発明の一好適な実施の形態に係るタイヤ10のベルト層は、2~10本の金属フィラメント21が、エラストマー23により被覆されたものである。金属フィラメント21は、好適には2本以上、より好適には5本以上であって、好適には20本以下、より好適には12本以下、さらに好適には10本以下、特に好適には9本以下の束で金属コード22を構成する。図示例においては、5本の金属フィラメント21が、撚り合わされずに引き揃えられ、金属コード22を形成している。
【0056】
本発明の一好適な実施の形態に係るタイヤのベルト層に係る金属コード22は、金属コード22中に、金属フィラメント21の延在方向に対して垂直な方向における型付け量および型付けピッチの少なくとも一方が異なっている、隣り合う金属フィラメント21同士の対が少なくとも1つ存在する。好ましくは対の50%以上において、隣り合う金属フィラメント21同士の、金属フィラメント21の延在方向に対して垂直な方向における型付け量および型付けピッチの少なくとも一方が異なっている。図示例においては、型付けされた金属フィラメント21aと型付けされていないフィラメント21b(型付け量0mm、型付けピッチ∞mm)とが交互に配置されているが、異なる型付け量の金属フィラメントを交互に配置してもよいし、異なる型付けピッチの金属フィラメントを交互に配置してもよい。好適には、束を構成する金属フィラメントの配置は、両側部は型付けがされていない真直な金属フィラメントであることが好ましい。このように、本発明の一好適な実施の形態に係るタイヤ10のベルト層では、型付け量または型付けピッチが異なる金属フィラメント21を隣接させることで、両者の位相が合致することを避けている。このような構成とすることで、隣り合う金属フィラメント21間にエラストマーを十分に浸透させることが可能となり、その結果、圧縮入力時に、スチールコードが面外変形でき、スチールコード折れ性を抑止することができる。なお、図5は、本発明の一好適な実施の形態に係るタイヤ10における、金属フィラメントの型付け量hおよび型付けピッチpの定義を示す金属フィラメントの説明図であり、型付け量hとは金属フィラメント21の線径を含まない変動の幅をいう。
【0057】
また、前述のとおり、金属フィラメントの束は、隣接するフィラメント間ではエラストマーは浸透し難く、エラストマーによって被覆されていない非エラストマー被覆領域が発生する。したがって、金属フィラメントを撚り合わせずに束ねた金属コードをベルト用コードとして用いた場合、この非エラストマー被覆領域において、タイヤ転動時に金属フィラメントが相互にずれてしまい、その結果、ベルトの面内剛性が低下し、操縦安定性が損なわれる結果となることがある。しかしながら、本発明の一好適な実施の形態に係るタイヤ10のベルト層は、隣り合う金属フィラメント21間にエラストマー23が十分に浸透するため上記の不具合が解消でき、ベルトの面内剛性を向上させ、操縦安定性を改善することができる。かかる効果を良好に得るためには、隣り合う金属フィラメント21の、金属コード22の幅方向側面におけるエラストマー被覆率は、単位長さ当たり10%以上であることが好ましく、より好ましくは20%以上である。より好ましくは50%以上被覆されており、80%以上被覆されていることが更に好ましい。もっとも好ましくは90%以上被覆されている状態である。
【0058】
ここで、本発明において、エラストマー被覆率とは、例えば、エラストマーとしてゴムを用い、金属コードとしてスチールコードを用いた場合、スチールコードをゴム被覆し、加硫した後、得られたゴム-スチールコード複合体からスチールコードを引き抜き、スチールコードを構成するスチールフィラメント同士の間隙に浸透したゴムにより被覆されている、スチールフィラメントの金属コード幅方向側面の長さを測定し、下記算出式に基づいて算出した値の平均をいう。
エラストマー被覆率=(ゴム被覆長/試料長)×100(%)
なお、エラストマーとして、ゴム以外のエラストマーを用いた場合、および、金属コードとして、スチールコード以外の金属コードを用いた場合も、同様に算出することができる。
【0059】
本発明の一好適な実施の形態に係るタイヤ10のベルト層においては、金属フィラメント21の型付け量が大きすぎると、ベルト層中の金属コード22間の距離wが短くなり、ベルトの強度低下の原因となる。そのため、金属フィラメント21の型付け量は、0.03~0.30mm程度が好ましい。型付け量を0.30mm以下とすることで、ベルト層の強力を確保でき、本発明の効果を十分に得られるものとなる。特に、金属コード22間の距離wおよび、金属フィラメント21の強力の観点から、金属フィラメント21に型付けを施すにあたっては、型付け量は0.03~0.30mmが好適であり、より好ましくは、0.03~0.25mmであり、もっとも好ましくは0.03~0.20mmである。また、金属フィラメント21の型付けピッチは2~30mmであることが好ましく、より好ましくは、2~20mmであり、もっとも好ましくは3~15mmである。
【0060】
なお、図3、4に示す金属コード22においては、型付けされている金属フィラメント21aは、金属コード22の幅方向に型付けされているが、本発明の一好適な実施の形態に係るタイヤのベルト層においては、金属フィラメント21の型付け方向は金属コード22の幅方向に対して傾いていてもよい。図6は、本発明の一好適な実施の形態に係るタイヤのベルト層の金属コードの幅方向概略断面図の他の例である。このような構造であっても、隣り合う金属フィラメント21間にゴムを十分に浸透させることが可能であり、本発明の効果を得ることができる。しかしながら、本発明の一好適な実施の形態に係るタイヤ10のベルト層においては、軽量性の観点からは、隣り合う金属フィラメント21同士の型付け方向が金属コード22の幅方向であるほうが、ベルト層を薄くできるため好ましい。
【0061】
また、本発明の一好適な実施の形態に係るタイヤ10のベルト層においては、金属コード22中の金属フィラメント21のうち少なくとも1本が、実質的に真直の金属フィラメントであることが好ましい。図3、4に示すように、型付けされていない真直な金属フィラメント21bと型付けされた金属フィラメント21aとが隣接する場合、両金属フィラメント21間に浸入するエラストマーの量が多くなるため、隣り合う金属フィラメント21の、金属コード22の幅方向側面におけるエラストマー被覆率が高くなり、本発明の効果を良好に得ることができる。さらに、金属コード22の両端に配置された金属フィラメント21を、真直の金属フィラメントとすることで、エラストマー中で隣り合う金属コード22間の距離wを広くすることができるため、耐久性を向上させることができる。より好ましくは、図3に示すように、型付けされていない真直の金属フィラメント21bと型付け金属フィラメント21aが交互に配置されている。
【0062】
また、本発明の一好適な実施の形態に係るタイヤ10のベルト層において、金属フィラメント21の表面状態については特に制限されないが、例えば、下記の形態をとることができる。すなわち、金属フィラメント21としては、表面のN原子が2原子%以上60原子%以下であって、かつ、表面のCu/Zn比が1以上4以下であることが挙げられる。また、金属フィラメント21としては、金属フィラメント表面からフィラメント半径方向内方に5nmまでの金属フィラメント最表層に酸化物として含まれるリンの量が、C量を除いた全体量の割合で、7.0原子%以下である場合が挙げられる。
【0063】
また、本発明の一好適な実施の形態に係るタイヤ10のベルト層において、金属フィラメント21の表面には、めっきが施されていてもよい。めっきの種類としては、特に制限されず、例えば、亜鉛(Zn)めっき、銅(Cu)めっき、スズ(Sn)めっき、ブラス(銅-亜鉛(Cu-Zn))めっき、ブロンズ(銅-スズ(Cu-Sn))めっき等の他、銅-亜鉛-スズ(Cu-Zn-Sn)めっきや銅-亜鉛-コバルト(Cu-Zn-Co)めっき等の三元めっき等が挙げられる。これらの中でもブラスめっきや銅-亜鉛-コバルトめっきが好ましい。ブラスめっきを有する金属フィラメントは、ゴムとの接着性が優れているからである。なお、ブラスめっきは、通常、銅と亜鉛との割合(銅:亜鉛)が、質量基準で60~70:30~40、銅-亜鉛-コバルトめっきは、通常銅が60~75重量%、コバルトが0.5~10重量%である。また、めっき層の層厚は、一般に100nm以上300nm以下である。
【0064】
さらに、本発明の一好適な実施の形態に係るタイヤ10のベルト層においては、金属フィラメント21の線径、抗張力、断面形状については特に制限はない。例えば、金属フィラメント21の線径は0.15mm~0.40mmとすることができる。また、金属フィラメント21として、抗張力が2500MPa以上のものを用いることができる。さらに、金属フィラメント21の幅方向の断面形状も特に制限されず、楕円状、矩形状、三角形状、多角形状等であってもよいが、円状が好ましい。なお、本発明の一好適な実施の形態に係るタイヤ10のベルト層においては、金属コード22を構成する金属フィラメント21を拘束する必要がある場合には、ラッピングフィラメントを使用してもよい。
【0065】
さらにまた、本発明の一好適な実施の形態に係るタイヤ10のベルト層においては、金属コード22を被覆するエラストマー23に関しても特に制限はなく、従来、金属コードを被覆するために用いていたゴム等を用いることができる。これ以外にも、例えば、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、エポキシ化天然ゴム、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ブタジエンゴム(BR、高シスBRおよび低シスBR)、ニトリルゴム(NBR)、水素化NBR、水素化SBR等のジエン系ゴムおよびその水添物、エチレンプロピレンゴム(EPDM、EPM)、マレイン酸変性エチレンプロピレンゴム(M-EPM)、ブチルゴム(IIR)、イソブチレンと芳香族ビニルまたはジエン系モノマー共重合体、アクリルゴム(ACM)、アイオノマー等のオレフィン系ゴム、Br-IIR、CI-IIR、イソブチレンパラメチルスチレン共重合体の臭素化物(Br-IPMS)、クロロプレンゴム(CR)、ヒドリンゴム(CHR)、クロロスルホン化ポリエチレンゴム(CSM)、塩素化ポリエチレンゴム(CM)、マレイン酸変性塩素化ポリエチレンゴム(M-CM)等の含ハロゲンゴム、メチルビニルシリコンゴム、ジメチルシリコンゴム、メチルフェニルビニルシリコンゴム等のシリコンゴム、ポリスルフィドゴム等の含イオウゴム、ビニリデンフルオライド系ゴム、含フッ素ビニルエーテル系ゴム、テトラフルオロエチレン-プロピレン系ゴム、含フッ素シリコン系ゴム、含フッ素ホスファゼン系ゴム等のフッ素ゴム、スチレン系エラストマー、オレフィン系エラストマー、エステル系エラストマー、ウレタン系エラストマー、ポリアミド系エラストマー等の熱可塑性エラストマーを好ましく使用することができる。これらのエラストマーは1種単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。また、エラストマーには、硫黄、加硫促進剤、カーボンブラックの他に、タイヤやコンベアベルト等のゴム製品で通常使用される老化防止剤、酸化亜鉛、ステアリン酸等を適宜配合することができる。
【0066】
本発明の一好適な実施の形態に係るタイヤ10のベルト層は、既知の方法にて製造することができる。例えば、本発明の一好適な実施の形態に係るタイヤ10のベルト層の金属コードを所定の間隔で平行に並べ、この金属コードを上下両側から、エラストマーからなる厚さ0.5mm程度のシートでコーティングして製造することができる。また、金属フィラメントの型付けについても、通常の型付け機を用いて、従来の手法で行うことができる。
【0067】
次に、本発明のタイヤ10のベルト構造の他の好適な形態について説明する。
図7は、本発明の他の好適な実施の形態に係るタイヤのベルト層の幅方向における部分断面図であり、図8は、本発明の他の好適な実施の形態に係るタイヤのベルト層の金属コードの概略平面図であり、図9は、本発明の他の好適な実施の形態に係るタイヤのベルト層の金属コードの幅方向概略断面図である。本発明の他の好適な実施の形態に係るタイヤのベルト層は、2~10本の金属フィラメント31が撚り合わされずに一列に引き揃えられた束からなる金属コード32が、エラストマー33により被覆されたものである。図示例においては、5本の金属フィラメント31が、撚り合わされずに引き揃えられ、金属コード32を形成している。
【0068】
本発明の他の好適な実施の形態に係るタイヤ10のベルト層の金属コード32は、全ての金属フィラメント31が、同一型付け量および同一ピッチで型付けされており、金属コード32中に、隣り合う金属フィラメントと位相が異なるように配置された、金属フィラメントの対が少なくとも1つ存在する。このように、本発明の他の好適な実施の形態に係るタイヤ10のベルト層では、型付け量および型付けピッチが同一の金属フィラメント31の位相を異ならせることで、両者の位相が合致することを避けている。このような構成とすることで、隣り合う金属フィラメント31間にエラストマーを十分に浸透させることが可能となり、その結果、圧縮入力時にスチールコードが面内への変形することができ、スチールコードの疲労性の悪化を防ぐことができる。なお、図10は、本発明の他の好適な実施の形態に係るタイヤにおける、金属フィラメントの型付け量hおよび型付けピッチpの定義を示す金属フィラメントの説明図であり、型付け量hとは金属フィラメント31の線径を含まない変動の幅をいう。
【0069】
また、金属フィラメントの束は、隣接するフィラメント間ではエラストマーは浸透し難く、エラストマーによって被覆されていない非エラストマー被覆領域が発生する。したがって、金属フィラメントを撚り合わせずに束ねた金属コードをベルト用コードとして用いた場合、この非エラストマー被覆領域において、タイヤ転動時に金属フィラメントが相互にずれてしまい、その結果、ベルトの面内剛性が低下し、操縦安定性が損なわれる結果となることがある。しかしながら、本発明の他の好適な実施の形態に係るタイヤのベルト層は、隣り合う金属フィラメント31間にエラストマー33が十分に浸透するため上記の不具合が解消でき、ベルトの面内剛性を向上させ、操縦安定性を改善することができる。かかる効果を良好に得るためには、隣り合う金属フィラメント31の、金属コード32の幅方向側面におけるエラストマー被覆率は、単位長さ当たり10%以上であることが好ましく、より好ましくは20%以上である。より好ましくは50%以上被覆されており、80%以上被覆されていることが更に好ましい。もっとも好ましくは90%以上被覆されている状態である。
【0070】
本発明の他の好適な実施の形態に係るタイヤのベルト層は、金属コード32中の少なくとも一か所において、隣り合う金属フィラメント同士の位相が異なっているが、位相差はπ/4~7π/4が好ましい。位相差をかかる範囲とすることで、本発明の効果を良好に得ることができる。より好ましくはπ/2~3π/2、特に好ましくは、位相差がπの場合である。
【0071】
本発明の他の好適な実施の形態に係るタイヤ10のベルト層においては、金属フィラメント31の型付け量が大きすぎると、ベルト層中の金属コード32間の距離wが短くなり、ベルトの強度低下の原因となる。そのため、金属フィラメント31の型付け量は、0.03~0.30mm程度が好ましい。型付け量を0.30mm以下とすることで、ベルト層の強力を確保でき、本発明の効果を十分に得られるものとなる。特に、金属コード32間の距離wおよび、金属フィラメント31の強力の観点から、金属フィラメント31に型付けを施すにあたっては、型付け量は0.03~0.30mmが好適であり、より好ましくは、0.03~0.25mmであり、もっとも好ましくは0.03~0.20mmである。また、金属フィラメント31の型付けピッチは2~30mmであることが好ましく、より好ましくは、2~20mmであり、もっとも好ましくは3~15mmである。
【0072】
なお、図8、9に示す金属コード2においては、型付けされている金属フィラメント31は、金属コード32の幅方向に型付けされているが、本発明の他の好適な実施の形態に係るタイヤ10のベルト層においても、金属フィラメント31の型付け方向は金属コード32の幅方向に対して傾いていてもよい。図11は、本発明の他の好適な実施の形態に係るタイヤのベルト層の金属コードの幅方向概略断面図の他の例である。このような構造であっても、隣り合う金属フィラメント31間にゴムを十分に浸透させることが可能であり、本発明の効果を得ることができる。しかしながら、本発明の他の好適な実施の形態に係るタイヤ10のベルト層においても、軽量性の観点からは、隣り合う金属フィラメント31同士の型付け方向が金属コード32の幅方向であるほうが、ベルト層を薄くできるため好ましい。
【0073】
また、本発明の他の好適な実施の形態に係るタイヤ10のベルト層においては、型付けは2次元型付けのみに限らず、3次元型付けであってもよい。図12は、本発明の他の好適な実施の形態に係るタイヤのベルト層の金属コードの幅方向概略断面図のさらなる他の例である。図示例においては、金属フィラメント31は螺旋型付けが施されており、螺旋型付けが施された5本の金属フィラメント31が撚り合わされずに一列に引き揃えられて金属コード32を形成している。金属フィラメント31が、3次元型付けの場合、金属フィラメント31の型付け量は、0.10mm以上0.50mm以下が好ましく、より好ましくは0.20mm以上0.30mm以下である。型付け量を0.50mm以下とすることで、ベルト層13a、13bの強力の低下を抑制して、本発明の効果を十分に得ることができる。3次元型付けの場合、金属フィラメント31の型付けピッチは5mm以上であることが好ましく、より好ましくは8mm以上20mm以下である。
【0074】
本発明の他の好適な実施の形態に係るタイヤ10のベルト層においても、金属フィラメント31は、一般に、鋼、すなわち、鉄を主成分(金属フィラメントの全質量に対する鉄の質量が50質量%を超える)とする線状の金属をいい、鉄のみで構成されていてもよいし、鉄以外の、例えば、亜鉛、銅、アルミニウム、スズ等の金属を含んでいてもよい。
【0075】
また、本発明の他の好適な実施の形態に係るタイヤ10のベルト層においても、金属フィラメント31の表面には、メッキが施されていてもよい。メッキの種類としては、特に制限されず、例えば、亜鉛メッキ、銅メッキ、ブラスメッキ、ブロンズメッキ等が挙げられる。これらの中でもブラスメッキが好ましい。ブラスメッキを有する金属フィラメントは、ゴムとの接着性が優れているからである。なお、ブラスメッキは、通常、銅と亜鉛との割合(銅:亜鉛)が、質量基準で60~70:30~40である。また、メッキ層の層厚は、一般に100nm~300nmである。
【0076】
さらに、本発明の他の好適な実施の形態に係るタイヤ10のベルト層においても、金属フィラメント31の線径、抗張力、断面形状については特に制限はない。例えば、金属フィラメント31の線径は0.15mm~0.40mmとすることができる。また、金属フィラメント31として、抗張力が2500MPa以上のものを用いることができる。さらに、金属フィラメント31の幅方向の断面形状も特に制限されず、楕円状、矩形状、三角形状、多角形状等であってもよいが、円状が好ましい。なお、本発明の他の好適な実施の形態に係るタイヤ10のベルト層においても、金属コード32を構成する金属フィラメント31を拘束する必要がある場合には、ラッピングフィラメントを使用してもよい。
【0077】
また、本発明の他の好適な実施の形態に係るタイヤ10のベルト層においても、金属コード32を被覆するエラストマー33に関しても特に制限はなく、従来、金属コードを被覆するために用いていたゴム等を用いることができる。これ以外にも、例えば、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、エポキシ化天然ゴム、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ブタジエンゴム(BR、高シスBRおよび低シスBR)、ニトリルゴム(NBR)、水素化NBR、水素化SBR等のジエン系ゴムおよびその水添物、エチレンプロピレンゴム(EPDM、EPM)、マレイン酸変性エチレンプロピレンゴム(M-EPM)、ブチルゴム(IIR)、イソブチレンと芳香族ビニルまたはジエン系モノマー共重合体、アクリルゴム(ACM)、アイオノマー等のオレフィン系ゴム、Br-IIR、CI-IIR、イソブチレンパラメチルスチレン共重合体の臭素化物(Br-IPMS)、クロロプレンゴム(CR)、ヒドリンゴム(CHR)、クロロスルホン化ポリエチレンゴム(CSM)、塩素化ポリエチレンゴム(CM)、マレイン酸変性塩素化ポリエチレンゴム(M-CM)等の含ハロゲンゴム、メチルビニルシリコンゴム、ジメチルシリコンゴム、メチルフェニルビニルシリコンゴム等のシリコンゴム、ポリスルフィドゴム等の含イオウゴム、ビニリデンフルオライド系ゴム、含フッ素ビニルエーテル系ゴム、テトラフルオロエチレン-プロピレン系ゴム、含フッ素シリコン系ゴム、含フッ素ホスファゼン系ゴム等のフッ素ゴム、スチレン系エラストマー、オレフィン系エラストマー、エステル系エラストマー、ウレタン系エラストマー、ポリアミド系エラストマー等の熱可塑性エラストマーを好ましく使用することができる。これらのエラストマーは1種単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。また、エラストマーには、硫黄、加硫促進剤、カーボンブラックの他に、タイヤやコンベアベルト等のゴム製品で通常使用される老化防止剤、酸化亜鉛、ステアリン酸等を適宜配合することができる。
【0078】
本発明の他の好適な実施の形態に係るタイヤ10のベルト層も、既知の方法にて製造することができる。例えば、本発明の一好適な実施の形態に係るタイヤ10のベルト層に係る金属コードを所定の間隔で平行に並べ、この金属コードを上下両側から、エラストマーからなる厚さ0.5mm程度のシートでコーティングして製造することができる。また、金属フィラメントの型付けについても、通常の型付け機を用いて、従来の手法で行うことができる。
【0079】
本発明のタイヤ10は、カーカスプライ12およびベルト補強層14の少なくとも一方に、補強コードとして、所定のポリアミドマルチフィラメントからなるコードを用いることのみが重要であり、それ以外の構成については特に制限はなく、既知の構造を採用することができる。図1に示す例では、カーカスは、1層のカーカスプライ12からなっているが、本発明のタイヤ10においては、カーカスプライの層数はこれに限られるものではなく、2層以上であってもよい。また、ビード部におけるカーカスプライ12の係止構造についても、図示するようにビードコア11の周りに巻き上げられて係止した構造に限られず、カーカスプライの端部を2層のビードコアで挟み込んだ構造でもよい(図示せず)。
【0080】
さらに、図示するタイヤ10においては、ベルト13は、2層のベルト層13a、13bからなるが、本発明のタイヤ10においては、ベルト層は3層以上であってもよい。ベルト層は、タイヤ周方向に対し、例えば、±15~40°で傾斜して延びるコードのゴム引き層、好ましくは、スチールコードのゴム引き層とすることができる。例えば、図示する2層のベルト層13a、13bを、各ベルト層を構成するコード同士がタイヤ赤道面を挟んで互いに交差するように積層された交錯層としてもよい。
【0081】
さらにまた、図示はしないが、本発明のタイヤ10においては、最内層にはインナーライナーを配置してもよい。本発明のタイヤ10において、タイヤ内に充填する気体としては、通常のあるいは酸素分圧を変えた空気、または、窒素等の不活性ガスを用いることができる。本発明のタイヤは乗用車用タイヤに好適である。
【実施例
【0082】
以下、本発明のタイヤを、実施例を用いてより詳細に説明する。
<実施例および比較例>
図1に示すタイプの比較例1、実施例3のタイヤを、タイヤサイズ:205/55R16、実施例4のタイヤを、タイヤサイズ:155/65R14にて作製した。カーカスプライ、ベルト補強層の補強コードとして用いたコードのコード種、コード構造および物性は、表1、2に示すとおりである。得られたタイヤにつき、高速耐久性、高速操縦安定性および転がり抵抗につき、下記の手順で評価を行った。なお、ポリアミドマルチフィラメントからなるコードのTg、tanδ(25℃)/tanδ(100℃)の値、およびE’(100℃)/E’(25℃)の値は、ジカルボン酸に対する芳香族ジカルボン酸の比率、撚り数、接着剤に浸漬する際の浸漬条件、接着剤処理後の熱処理の条件を変更して調整した。また、カーカスプライおよびベルト補強層の打ち込み本数は、50本/50mmとし、カーカスプライは実質的にタイヤ周方向の直交する方向、ベルト補強層は実質的にタイヤ周方向となるように配置した。
【0083】
ベルト構造は、図3に示すタイプの金属コード(A)と、図8に示すタイプの金属コード(B)であり、金属フィラメントの線径は0.25mmである。金属コード(A)の型付け量は0.15mmであり、型付けピッチは4mmであり、金属コード(B)の型付け量は0.15mmであり、型付けピッチは4mmである。また、表中のPA9Tは、ポリアミドマルチフィラメントを用いたコードであり、主にテレフタル酸と1,9―ジアミンノナンからなるポリアミドからなるものである。芳香族ジカルボン酸の比率は、同表に示すとおりである。
【0084】
<高速耐久性>
比較例1、実施例3のタイヤをJATMAで規定する正規リムに組み、適正内圧を充填し、適正荷重を負荷して、ドラム試験機で、速度120km/hからスタートし、20分毎に速度を10km/hずつステップアップさせながら走行させて、故障発生時の速度を測定することにより、高速耐久性を評価した。その後、比較例1、実施例3以外のタイヤについて、比較例1、実施例3の結果に基づいて予測を行った。結果は、比較例1を100とする指数として表示した。指数が小さいほど、結果は良好である。得られた結果を、表1、2に併記する。
【0085】
<高速操縦安定性>
比較例1、実施例3のタイヤをJATMAで規定する正規リムに組み、適正内圧を充填し、排気量2000ccの乗用車に4輪とも装着して、2名が乗車してドライアスファルト路面のテストコースを高速走行し、その時のハンドル応答性、剛性感、グリップ等に関する特性をドライバーの官能評価により評価した。その後、比較例1、実施例3以外のタイヤについて、比較例1、実施例3の結果に基づいて予測を行った。結果は、比較例1を100とする指数で表示した。指数が大きいほど、結果は良好である。結果を、表1、2に併記する。
【0086】
<転がり抵抗>
比較例1、実施例3、4のタイヤをJATMAで規定する正規リムに組み、適正内圧を充填し、適正荷重を負荷して、速度80km/hのドラムテストにて、各タイヤの抵抗力を直接測定することにより評価した。その後、比較例1、実施例3、4以外のタイヤについて、比較例1、実施例3の結果に基づいて予測を行った。結果は、比較例1の抵抗力を100として指数表示した。指数値が大なるほど、転がり抵抗が小さく、優れていることを示す。得られた結果を、表1、2に併記する。
【0087】
【表1】
※1:ジカルボン酸に対する芳香族ジカルボン酸の比率
※2:ナイロン66
【0088】
【表2】
【0089】
表1、2より、本発明のタイヤは、高速走行時における耐久性、操縦安定性および低転がり抵抗が向上していることがわかる。なお、比較例2のタイヤは、キャップ層の補強コードがアラミド繊維からなるコードであり、剛性が高すぎて製造することは困難と考えられるため、評価は行わなかった。
【符号の説明】
【0090】
10 乗用車用タイヤ(タイヤ)
11 ビードコア
12 カーカスプライ
13 ベルト
13a、13b ベルト層
14 ベルト補強層
14a キャップ層
14b レイヤー層
15 ビードフィラー
21、31 金属フィラメント
22、32 金属コード
23、33 エラストマー
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12