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特許7404266非晶質ポリオレフィンからなるオーバーモールドインサートを備える車体部品
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  • 特許-非晶質ポリオレフィンからなるオーバーモールドインサートを備える車体部品 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-15
(45)【発行日】2023-12-25
(54)【発明の名称】非晶質ポリオレフィンからなるオーバーモールドインサートを備える車体部品
(51)【国際特許分類】
   B60R 13/04 20060101AFI20231218BHJP
   B29C 45/14 20060101ALI20231218BHJP
【FI】
B60R13/04 Z
B60R13/04 A
B29C45/14
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020555521
(86)(22)【出願日】2019-04-10
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-08-26
(86)【国際出願番号】 EP2019059158
(87)【国際公開番号】W WO2019197498
(87)【国際公開日】2019-10-17
【審査請求日】2022-03-08
(31)【優先権主張番号】1853141
(32)【優先日】2018-04-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】504037391
【氏名又は名称】コンパニ・プラステイツク・オムニウム
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【弁理士】
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】プラート ジャン-フランソワ
(72)【発明者】
【氏名】モワザン ラウラ
【審査官】上谷 公治
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-099267(JP,A)
【文献】特開2002-357709(JP,A)
【文献】特開平10-279745(JP,A)
【文献】特開平06-345965(JP,A)
【文献】特開平10-111402(JP,A)
【文献】特開2011-176621(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60R 13/04
B29C 45/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
非晶質ポリオレフィンをベースとする少なくとも1つのオーバーモールドインサート(20)と、ポリプロピレンをベースとするプラスチック材料からなる本体(30)と、を備えることを特徴とする、自動車(40)の車体部品(10)であって、
前記インサート(20)は、前記本体(30)内で部分的にオーバーモールドされ、
前記車体部品(10)は、自動車(40)のフロントバンパー、又はリヤバンパーを形成する
車体部品(10)
【請求項2】
前記非晶質ポリオレフィンは実質的に50%超の透過率を有する、請求項1に記載の部品(10)。
【請求項3】
前記インサート(20)が、車両の外側から見えるように意図された表面と、反対側の表面と、を備え、両方の表面のうち少なくとも一方は前記本体(30)の前記プラスチック材料によって全体が覆われておらず、好ましくは両方の表面が前記本体(30)の前記プラスチック材料によって完全に覆われていない、請求項1又は2に記載の部品(10)。
【請求項4】
前記インサート(20)の前記両方の表面のうち少なくとも一方が粒状である、請求項に記載の部品(10)。
【請求項5】
前記インサート(20)が環状ポリオレフィンをベースとする材料からなる、請求項1~のいずれか一項に記載の部品(10)。
【請求項6】
前記インサート(20)が、シクロオレフィンコポリマー(COC)とシクロオレフィンポリマー(COP)のうち少なくとも1つの材料をベースとする材料からなる、請求項に記載の部品(10)。
【請求項7】
前記インサート(20)が、次の添加物:エラストマーフィラー、粉砕/短ガラス繊維、染料のうち少なくとも1つの添加物を含む、透明又は半透明の非晶質ポリオレフィンをベースとする材料からなる、請求項1~のいずれか一項に記載の部品(10)。
【請求項8】
請求項1~のいずれか一項に記載の少なくとも1つの車体部品(10)を備える、自動車(40)。
【請求項9】
透明又は半透明のインサート(20)が、可動楔で区切られた前記インサート(20)の成形キャビティを含む型内において、非晶質ポリオレフィン射出成形法によって製造され、次に、前記楔を動かした後に、
光が通過するように意図された前記インサート(20)の2つの表面を保護しつつ、前記インサート(20)をオーバーモールドするために、前記部品(10)の本体(30)の成形キャビティを備える型に、ポリプロピレン系プラスチックを射出する、
請求項1~のいずれか一項に記載の部品(10)の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車産業の分野に関し、より詳細には、透明又は半透明の要素を含む自動車車体部品に関する。
【0002】
可視領域で光が通過できる場合、要素は透明と記載される。透過率が約90%の要素は透明であると考えられる。可視領域で光を通過させるが、物を明確に区別できない場合、要素は半透明として認定される。透過率が約60%の要素は半透明であると考えられる。
【0003】
材料の透過率は、材料を通過する光束の割合である。したがって、透過率は、材料によって透過される光強度と入射光強度との比を表す。
【0004】
メーカーが車両モデルに関連付けたいイメージを強化するために、線を強調したり、形状を強調したりする特定の目的を持つ車体部品に取り付けられる要素が知られている。
【0005】
例えば、車両の側面に沿って走るクロムストリップ、ロッカーパネル、ブランドロゴ、ドアハンドルトリム、ミラーキャップはこれらのスタイル要素であり、そのデザインは車両のデザイナーによって特別な配慮を受ける。
【0006】
これらの車体要素によって生じる効果を高めるために、透明材料から形成された車体要素の表面の背後に光源を配置することが提案されている。
【0007】
開口部、バンパー、グリルなど、車両の外側から見えるすべての車体部品も、本発明の範囲内に入る車体要素であると考えることができる。
【0008】
プラスチック材料を成形することによって得られ、透明要素がこの目的のために設けられたハウジング内に取り付けられる車体部品が知られている。
【0009】
これらの透明要素は、車体部品内に存在するハウジングに完全に適合させなければならないという欠点がある。また、車体部品上のこのような光学要素の組付けは、組付けクリアランス及び顕著な突起を明らかにするという欠点があり、これは、自動車に要求される視覚品質と両立しない。最後に、このような取り付け要素は、シールの管理を複雑にする。
【0010】
部品に取り付けられた要素のこれらの問題を回避するために、プラスチック材料の成形、1つ又は複数のインサートのオーバーモールディングから得られる車体部品も知られている。これらのインサートは、一般的に成形部品を補強する、及び/又は機械的要素の後の固定のための、成形部品に組み込まれた、及び/又は一体化された予備成形部品である。
【0011】
さらに、透明要素を製造するために使用される透明材料は、衝撃に耐えるかなり大きな容量を有しつつ、それを通過する光の最適な拡散を可能にしなければならない。自動車に使用される透明材料はPMMA(ヘッドライトインサート、衝突ゾーンを除く)とポリカーボネート(PC)である。
【0012】
しかしながら、これらの材料はポリプロピレン(PP)と相性が悪い。それにもかかわらず、成形によって得られる車体部品は、主にポリプロピレン(PP)をベースとする材料で製造される。その結果、ポリプロピレン(PP)製の外側部分に、この材料で固定手段が取り付けられていないインサートを形成するのに十分な接着力がない。
【0013】
各種ポリプロピレン系プラスチックは不透明であるため、透明要素の製造には使用できない。
【0014】
透明性を向上させるために添加物を添加することは可能であるが、特に耐衝撃性や膨張係数等の耐熱性については、規格を満足することができない。逆に、エラストマー、フィラー、繊維、染料などを添加して改質すると、光学特性が変化して透過率が低下する。
【0015】
さらに、未充填ポリプロピレン要素は、車体部品に使用されるポリプロピレンとは異なる熱特性を有する。これは、設計エラー、接点における応力を引き起こし、特に、変化しやすい形状及び分離を引き起こす。
【0016】
本発明の目的は、COC又はCOPのような非晶質ポリオレフィンから作られた透明又は半透明の要素を使用することによって、これらの欠点に対処することである。
【0017】
したがって、本発明の目的は、非晶質ポリオレフィンから製造された少なくとも1つのオーバーモールドインサートを備える自動車の車体部品に関する。
【0018】
非晶質ポリオレフィンを使用することにより、ポリプロピレン製の車体部品に対して非常に良好な化学的接着性を得ることができ、したがって、オーバーモールディングによって透明又は半透明の要素を挿入することができる。さらに、このような接着は、オーバーモールドされた透明要素からポリプロピレン部品の本体への力の伝達を可能にする。
【0019】
確かに、インサート単体では十分な耐衝撃性が得られず、部品に取り付けられたインサートも衝撃時に破損しやすい。オーバーモールドインサートを使用することの利点は、驚くべきことに、オーバーモールディングによってインサートへの衝撃のエネルギーをポリプロピレン部品の本体に伝達できることである。オーバーモールディング、及び、ポリオレフィンインサートとポリプロピレン部品の台との間の接点における良好な接着性によって、このような機械的効果を得ることができる。
【0020】
また、非晶質ポリオレフィン要素は非常に強度が高く、部品の外観や形状を損なうことなく曲げる(自然変形可能)ことができる。この性質はポリオレフィンの非晶質性に由来する。
【0021】
最後に、非晶質ポリオレフィン要素の熱特性(熱収縮、熱膨張)は、ポリプロピレン、特に自動車分野で使用される充填ポリプロピレンの熱特性と両立し、例えば、塗装ラインの焼成工程中の寸法問題を回避することが可能である。
【0022】
よって、塗料成分との化学的適合性が同等であることから、非晶質ポリオレフィン要素はポリプロピレン部品と同様に塗装することができる。透明インサートがポリカーボネート(PC)又はPMMAから作られている場合、ポリプロピレン(PP)部品とPC又はPMMA部品との接着性が同じではないため、ポリプロピレン(PP)と同じ製品でワニスを塗ったり塗装することはできない。
【0023】
車体部品は、以下の特徴の1つ以上を単独又は組み合わせて含んでもよい。
・非晶質ポリオレフィンは実質的に50%超の透過率を有する。
・プラスチック材料からなる本体を備え、インサートは、本体内で部分的にオーバーモールドされている、部品。
・インサートは、車両の外側から見えるように意図された表面と反対側の表面とを備え、両方の表面のうち少なくとも一方は本体のプラスチック材料によって覆われておらず、好ましくは、両方の表面が本体のプラスチック材料によって完全に覆われていない。
・本体はポリプロピレンをベースとするプラスチック材料からなる。
・インサートの両方の表面のうち少なくとも一方が粒状である。
・インサートは環状ポリオレフィンをベースとする材料からなる。
・インサートは、シクロオレフィンコポリマーとシクロオレフィンポリマーのうち少なくとも1つの材料をベースとする材料からなる。
・インサートは、次の添加物:エラストマーフィラー、粉砕/短ガラス繊維、染料のうち少なくとも1つの添加物を含む、透明又は半透明の非晶質ポリオレフィンをベースとする材料からなる。
・部品は、自動車のフロントバンパー、リヤバンパー、テールゲート、ルーフ、ドア、又はフェンダーを形成する。
【0024】
本発明はまた、本発明に係る少なくとも1つの車体部品を備える自動車に関する。
【0025】
本発明はまた、本発明に係る部品を製造する以下の第1の方法に関する。
・透明又は半透明のインサートが、第1の型内において非晶質ポリオレフィン成形法により製造される。
・インサートが第2の型内に配置される。
・光が通過するように意図されたインサートの2つの表面を保護しつつ、インサートをオーバーモールドするために、ポリプロピレン系プラスチック材料を第2の型に射出する。
【0026】
また、本発明は、本発明に係る部品を製造する以下の第2の方法に関する。
・透明又は半透明のインサートは、可動楔で区切られたインサートの成形キャビティを含む型内において、非晶質ポリオレフィン射出成形法によって製造される。次に、楔を動かした後に、
・光が通過するように意図されたインサートの2つの表面を保護しつつ、インサートをオーバーモールドするために、部品の本体の成形キャビティを備える型に、ポリプロピレン系プラスチックを射出する。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1図1は、本発明に係る自動車の一例を示している。
【0028】
本発明は、例示として提供され、決して限定するものではない添付の図1を読むことによって、よりよく理解されるであろう。図1は、本発明に係る自動車の一例を示しており、本発明に係る車体部品のセットを含み、透明又は半透明のインサートを備えている。
【0029】
図1の例によれば、車体部品10は、フロントバンパー若しくはリヤバンパー(図では見えていない)、テールゲート、ルーフ、ドア、又は自動車40のフェンダーであってもよい。
【0030】
車体部品10は、ゾーンの背後に配置された光源からの光を少なくとも部分的に通過させることを意図したゾーンを備える。
【0031】
そのために、部品10は、このゾーンにおいて透明又は半透明の要素を備える。
【0032】
透明又は半透明の要素が部品10内にオーバーモールドされることで、オーバーモールドインサート20を構成する。
【0033】
このオーバーモールドインサート20は、透明又は半透明であり、非晶質ポリオレフィンをベースとするプラスチック材料からなる。
【0034】
非晶質ポリオレフィンは、結晶性化合物とは区別され、原子が中・長距離の秩序を持たない化合物である。非晶質特性は、ポリオレフィンに透明性の性質を与える。
【0035】
好ましくは、所望の用途に基づいて選択された透過率を有する非晶質ポリオレフィンが使用される。したがって、以下のような透過率を有する非晶質ポリオレフィンを用いることができる。
・車両の内側を見ることができないようにしつつ、車両の外側に向かって光を拡散させるためには、実質的に50%超である。
・車両の外側に向かう光の拡散をより少なくするためには、実質的に60%超である。
・車両の内側が見えることが望まれるオーバーモールドインサートを製造するためには、実質的に90%超であることが望ましい。
【0036】
インサート20は、車両の外側から見えるように意図された表面(車両の外側に面する表面)と、反対側の表面(車両の内側に面する表面)とを備える。インサート20は、光の少なくとも一部を通過させるために、2つの表面のうち少なくとも一方(好ましくは、見えるように意図された表面)がオーバーモールディング材料(本体30のポリプロピレン)によって全体が覆われないように、部分的にオーバーモールドされる。
【0037】
しかし、反対側の表面(車両の内側に面する表面)は、本体30の材料によって直接又は間接的に覆われていてもよい。
【0038】
実際、例えば、この表面と本体30の材料との間に光ガイドを介在させることによって、インサート20をオーバーモールドすることが可能である。よって、ガイドによってインサート20に伝わった光は、インサート20を通過して車両外部へ向かうことができる。また、光ガイドをその端部に配置することによって、インサート20をオーバーモールドすることも可能である。すなわち、光は、その表面が車両の内側に面していることによってではなく、一方の側(インサート20の2つの表面に対して実質的に垂直である)によってインサート20に伝わる。したがって、ガイドによってインサート20に伝わった光は、インサート20を通過して車両の外側に向かうことができ、反対側の表面(車両の内側に面する表面)はオーバーモールディング材料(本体30のポリプロピレン)と直接接触することができる。
【0039】
一実施形態によれば、これらの両方の表面(車両の内側に面する表面及び/又は車両の外側に面する表面)のうち少なくとも一方は、インサート(非晶質ポリオレフィンではない)の透明性又は半透明性の改質のために、グレイニングなどの処理を受ける。実際、90%超の透過率を有する非晶質ポリオレフィンを使用し、次に、光源又はホットスポットを車両の外部から隠すためにインサート20の表面をエンボス加工することも可能である。
【0040】
このように、部品10は、本体30を備え、インサート20は、本体30内にオーバーモールドされている。
【0041】
特定の実施形態によれば、本体30は、ポリプロピレン(PP)をベースとするプラスチック材料からなる。一例によれば、この材料は不透明及び/又は黒色である。
【0042】
非晶質ポリオレフィン系プラスチック材料は、光源からの光を少なくとも部分的に通過させるための透明性又は半透明性の必要性、及び本体30と実質的に同等の機械的強度の必要性を満たすことができる。
【0043】
一実施形態によれば、インサート20は、環状ポリオレフィンをベースとする材料からなる。
【0044】
好ましくは、インサート20は、シクロオレフィンコポリマー(COC)とシクロオレフィンポリマー(COP)のうち少なくとも1つの材料をベースとする材料からなる。
【0045】
インサート20の材料に添加物を添加することも可能である。例えば、以下の添加物のうち少なくとも1つを添加することができる。
・インサート20の可塑性を増大させることでインサートをより容易に変形させ、衝撃に対する機械的特性及び熱的特性を改善するための、エラストマーフィラー。
・インサート20の機械的強度を増加させるための、粉砕又は短ガラス繊維。
・部品10の美観を改善するための、染料。
【0046】
図1に示すように、本発明はまた、本発明に係る少なくとも1つの車体部品10を備える自動車40に関する。
【0047】
本発明はまた、本発明に係る部品10を製造する第1の方法に関する。
【0048】
第1の方法は、以下の工程を含む成形法である。
・インサート20が、第1の型内において非晶質ポリオレフィン成形法により製造される。
・インサート20が、例えばロボットによって第2の型内に配置される。
・光が通過するように意図された2つの表面を保護しつつ(これらの表面がポリプロピレン系プラスチック材料で覆われることを防ぐため)、インサート20をオーバーモールドするために、ポリプロピレン系プラスチック材料を第2の型に射出する。
【0049】
本発明はまた、本発明に係る部品10を製造する以下の第2の方法に関する。
【0050】
第2の方法は、1つの型内におけるバイインジェクション成形法であり、以下の工程を含む。
・インサート20は、可動楔で区切られたインサート20用の成形キャビティを含む型内において、非晶質ポリオレフィン射出成形法によって製造される。次に、楔を動かした後に、
・光が通過するように意図された2つの表面を保護しつつ(これらの表面がポリプロピレン系プラスチックで覆われることを防ぐため)、インサート20をオーバーモールドするために、本体30の成形キャビティを備える同じ型に、ポリプロピレン系プラスチック材料を射出する。
【0051】
この第2の方法の代わりに、回転型を使用して可動楔を交換することができる。
【符号の説明】
【0052】
10:自動車40の車体部品
20:部品10の透明なオーバーモールドインサート
30:インサート20を含む部品10の本体
40:自動車
図1