(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-15
(45)【発行日】2023-12-25
(54)【発明の名称】半導体レーザおよび電子機器
(51)【国際特許分類】
H01S 5/343 20060101AFI20231218BHJP
H01S 5/22 20060101ALI20231218BHJP
【FI】
H01S5/343
H01S5/22
(21)【出願番号】P 2020556015
(86)(22)【出願日】2019-10-31
(86)【国際出願番号】 JP2019042758
(87)【国際公開番号】W WO2020100608
(87)【国際公開日】2020-05-22
【審査請求日】2022-10-04
(31)【優先権主張番号】P 2018214956
(32)【優先日】2018-11-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】316005926
【氏名又は名称】ソニーセミコンダクタソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001357
【氏名又は名称】弁理士法人つばさ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】徳田 耕太
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 慎也
【審査官】高椋 健司
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/126164(WO,A1)
【文献】特開2005-175450(JP,A)
【文献】米国特許第06165811(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01S 5/00-5/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1導電型の第1半導体層と、前記第1半導体層上に積層され、帯状のリッジ部が設けられた第2導電型の第2半導体層と、活性層とを含む半導体積層部を備え、
前記半導体積層部は、前記リッジ部と非対向の領域の少なくとも一部であって、かつ少なくとも前記活性層よりも深い位置に、前記第2導電型の不純物濃度が前記第2半導体層のうち前記リッジ部と対向する領域における前記第2導電型の不純物濃度よりも高い第1不純物領域を有し、
前記活性層は、前記第2半導体層内に設けられている
半導体レーザ。
【請求項2】
第1導電型の第1半導体層と、前記第1半導体層上に積層され、帯状のリッジ部が設けられた第2導電型の第2半導体層と、活性層とを含む半導体積層部を備え、
前記半導体積層部は、前記リッジ部と非対向の領域の少なくとも一部であって、かつ少なくとも前記活性層よりも深い位置に、前記第2導電型の不純物濃度が前記第2半導体層のうち前記リッジ部と対向する領域における前記第2導電型の不純物濃度よりも高い第1不純物領域を有し、
前記第1導電型は、n型であり、
前記第2導電型は、p型であり、
前記第2半導体層のうち前記リッジ部と対向する領域に含まれる前記第2導電型の不純物は、Cであり、
前記第1不純物領域に含まれる前記第2導電型の不純物は、Znである
半導体レーザ。
【請求項3】
第1導電型の第1半導体層と、前記第1半導体層上に積層され、帯状のリッジ部が設けられた第2導電型の第2半導体層と、活性層とを含む半導体積層部を備え、
前記半導体積層部は、前記リッジ部と非対向の領域の少なくとも一部であって、かつ少なくとも前記活性層よりも深い位置に、前記第2導電型の不純物濃度が前記第2半導体層のうち前記リッジ部と対向する領域における前記第2導電型の不純物濃度よりも高い第1不純物領域を有し、
前記第1不純物領域の底面は、当該第1不純物領域と前記第1半導体層とによるpnジャンクションとなっており、
前記第1不純物領域の底面と、前記活性層との距離は、0.3μm以上となっている
半導体レーザ。
【請求項4】
第1導電型の第1半導体層と、前記第1半導体層上に積層され、帯状のリッジ部が設けられた第2導電型の第2半導体層と、活性層とを含む半導体積層部を備え、
前記半導体積層部は、前記リッジ部と非対向の領域の少なくとも一部であって、かつ少なくとも前記活性層よりも深い位置に、前記第2導電型の不純物濃度が前記第2半導体層のうち前記リッジ部と対向する領域における前記第2導電型の不純物濃度よりも高い第1不純物領域を有し、
前記第1不純物領域における前記第2導電型の不純物濃度は、6.0×10
17/cm
3以上となっている
半導体レーザ。
【請求項5】
前記半導体積層部は、前記リッジ部の両脇に、それぞれ、端面を有し、
前記第1不純物領域は、前記端面の少なくとも一部を含む
請求項1ないし請求項4のいずれか一項に記載の半導体レーザ。
【請求項6】
前記第1不純物領域は、前記第2半導体層の表面のうち前記リッジ部のすそ野に相当する箇所から前記活性層よりも深い位置に渡って設けられている
請求項1ないし請求項4のいずれか一項に記載の半導体レーザ。
【請求項7】
前記第2半導体層は、前記リッジ部と非対向の領域の少なくとも一部であって、かつ前記リッジ部と、前記第1不純物領域と積層方向において対向する箇所との間に、前記活性層にまで到達しない深さの帯状の溝部を有する
請求項1ないし請求項6のいずれか一項に記載の半導体レーザ。
【請求項8】
前記半導体積層部は、AlGaAs系の半導体材料を含んで形成されている
請求項1ないし請求項
7のいずれか一項に記載の半導体レーザ。
【請求項9】
前記半導体積層部は、前記リッジ部の両端に、それぞれ、共振器端面と、前記共振器端面を含む窓構造とを更に有し、
前記窓構造は、前記第2半導体層のうち前記リッジ部と対向する領域における前記第2導電型の不純物濃度よりも高い前記第2導電型の不純物濃度の第2不純物領域によって構成されている
請求項1ないし請求項
8のいずれか一項に記載の半導体レーザ。
【請求項10】
前記第2不純物領域に含まれる前記第2導電型の不純物は、Znである
請求項9に記載の半導体レーザ。
【請求項11】
半導体レーザを光源として備え、
前記半導体レーザは、第1導電型の第1半導体層と、前記第1半導体層上に積層され、帯状のリッジ部が設けられた第2導電型の第2半導体層と、活性層とを含む半導体積層部を有し、
前記半導体積層部は、前記リッジ部と非対向の領域の少なくとも一部であって、かつ少なくとも前記活性層よりも深い位置に、前記第2導電型の不純物濃度が前記第2半導体層のうち前記リッジ部と対向する領域における前記第2導電型の不純物濃度よりも高い不純物領域を有し、
前記活性層は、前記第2半導体層内に設けられている
電子機器。
【請求項12】
半導体レーザを光源として備え、
前記半導体レーザは、第1導電型の第1半導体層と、前記第1半導体層上に積層され、帯状のリッジ部が設けられた第2導電型の第2半導体層と、活性層とを含む半導体積層部を有し、
前記半導体積層部は、前記リッジ部と非対向の領域の少なくとも一部であって、かつ少なくとも前記活性層よりも深い位置に、前記第2導電型の不純物濃度が前記第2半導体層のうち前記リッジ部と対向する領域における前記第2導電型の不純物濃度よりも高い不純物領域を有し、
前記第1導電型は、n型であり、
前記第2導電型は、p型であり、
前記第2半導体層のうち前記リッジ部と対向する領域に含まれる前記第2導電型の不純物は、Cであり、
前
記不純物領域に含まれる前記第2導電型の不純物は、Znである
電子機器。
【請求項13】
半導体レーザを光源として備え、
前記半導体レーザは、第1導電型の第1半導体層と、前記第1半導体層上に積層され、帯状のリッジ部が設けられた第2導電型の第2半導体層と、活性層とを含む半導体積層部を有し、
前記半導体積層部は、前記リッジ部と非対向の領域の少なくとも一部であって、かつ少なくとも前記活性層よりも深い位置に、前記第2導電型の不純物濃度が前記第2半導体層のうち前記リッジ部と対向する領域における前記第2導電型の不純物濃度よりも高い不純物領域を有し、
前
記不純物領域の底面は、当
該不純物領域と前記第1半導体層とによるpnジャンクションとなっており、
前
記不純物領域の底面と、前記活性層との距離は、0.3μm以上となっている
電子機器。
【請求項14】
半導体レーザを光源として備え、
前記半導体レーザは、第1導電型の第1半導体層と、前記第1半導体層上に積層され、帯状のリッジ部が設けられた第2導電型の第2半導体層と、活性層とを含む半導体積層部を有し、
前記半導体積層部は、前記リッジ部と非対向の領域の少なくとも一部であって、かつ少なくとも前記活性層よりも深い位置に、前記第2導電型の不純物濃度が前記第2半導体層のうち前記リッジ部と対向する領域における前記第2導電型の不純物濃度よりも高い不純物領域を有し、
前
記不純物領域における前記第2導電型の不純物濃度は、6.0×10
17/cm
3以上となっている
電子機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、半導体レーザおよびそれを備えた電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
端面出射型の半導体レーザについては、例えば、下記の特許文献1~3に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平4-303983号公報
【文献】特開2012-182375号公報
【文献】特開2012-182374号公報
【発明の概要】
【0004】
端面出射型の半導体レーザにおいてリッジ部を設けた場合、リッジ部の両脇への電流リークにより、電流の利用効率が低下し、良好な閾値電流が得られないことがあった。従って、リッジ部の両脇への電流リークを抑えることの可能な半導体レーザおよびそれを備えた電子機器を提供することが望ましい。
【0005】
本開示の一実施形態に係る半導体レーザは、半導体積層部を備えている。半導体積層部は、第1導電型の第1半導体層と、第1半導体層上に積層され、帯状のリッジ部が設けられた第2導電型の第2半導体層と、活性層とを含む。半導体積層部は、さらに、リッジ部と非対向の領域の少なくとも一部であって、かつ少なくとも活性層よりも深い位置に、第2導電型の不純物濃度が第2半導体層のうちリッジ部と対向する領域における第2導電型の不純物濃度よりも高い不純物領域を有する。
【0006】
本開示の一実施形態に係る電子機器は、半導体レーザを光源として備えている。電子機器に設けられる半導体レーザは、上記の半導体レーザと同様の構成を有している。
【0007】
本開示の一実施形態に係る半導体レーザおよび電子機器では、リッジ部と非対向の領域の少なくとも一部であって、かつ少なくとも活性層よりも深い位置に、第2導電型の不純物濃度が第2半導体層のうちリッジ部と対向する領域における第2導電型の不純物濃度よりも高い不純物領域が設けられている。これにより、リッジ部の両脇において、電子または正孔の、活性層への輸送が阻害される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本開示の第1の実施形態に係る半導体レーザの上面構成例を表す図である。
【
図2】
図1の半導体レーザのA-A線での断面構成例を表す図である。
【
図3】
図1の半導体レーザのB-B線での断面構成例を表す図である。
【
図4】
図2の半導体レーザにおける第2領域および第4領域の平面構成例を表す図である。
【
図5】第2領域のp型不純物濃度と閾値電流の低減量との関係の一例を表す図である。
【
図6】実施例に係る半導体レーザにおける電流経路の一例を表す図である。
【
図7】比較例に係る半導体レーザにおける電流経路の一例を表す図である。
【
図8】第2領域の底面と活性層との距離と、閾値電流の低減量との関係の一例を表す図である。
【
図9】比較例および実施例に係る半導体レーザの閾値電流の一例を表す図である。
【
図10A】
図1の半導体レーザの製造方法の一例を表す図である。
【
図11】
図2の半導体レーザの断面構成の一変形例を表す図である。
【
図12】
図3の半導体レーザの断面構成の一変形例を表す図である。
【
図13】
図2の半導体レーザの断面構成の一変形例を表す図である。
【
図14】
図11の半導体レーザの断面構成の一変形例を表す図である。
【
図15】
図2の半導体レーザの断面構成の一変形例を表す図である。
【
図16】
図11の半導体レーザの断面構成の一変形例を表す図である。
【
図17】
図2の半導体レーザの断面構成の一変形例を表す図である。
【
図18】
図11の半導体レーザの断面構成の一変形例を表す図である。
【
図19】
図2の半導体レーザの断面構成の一変形例を表す図である。
【
図20】
図11の半導体レーザの断面構成の一変形例を表す図である。
【
図21】本開示の第2の実施形態に係る距離測定装置の概略構成例を表す図である。
【
図22】本開示の第3の実施形態に係るプロジェクタの概略構成例を表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本開示を実施するための形態について、図面を参照して詳細に説明する。以下の説明は本開示の一具体例であって、本開示は以下の態様に限定されるものではない。また、本開示は、各図に示す各構成要素の配置や寸法、寸法比などについても、それらに限定されるものではない。なお、説明は、以下の順序で行う。
1.第1の実施の形態(半導体レーザ)
2.変形例(半導体レーザ)
3.第2の実施の形態(距離測定装置)
4.第3の実施の形態(プロジェクタ)
【0010】
<1.第1の実施の形態>
[構成]
本開示の第1の実施の形態に係る半導体レーザ1について説明する。
図1は、本実施の形態に係る半導体レーザ1の上面構成例を表したものである。半導体レーザ1は、後述の半導体積層部20を共振器方向から一対の共振器端面S1,S2によって挟み込んだ構造となっている。共振器端面S1は、レーザ光が外部に出射される前端面となっており、共振器端面S2は、共振器端面S1と対向配置された後端面となっている。従って、半導体レーザ1は、いわゆる端面発光型の半導体レーザの一種である。
【0011】
半導体レーザ1(半導体積層部20)は、共振器方向において互いに対向する共振器端面S1,S2と、共振器端面S1および共振器端面S2の間に挟まれた凸形状のリッジ部20Aとを備えている。リッジ部20Aは、共振器方向に延在する帯状の形状となっている。リッジ部20Aは、例えば、後述のコンタクト層26の表面から後述の上部クラッド層25の中途にかけてエッチング除去がなされることにより形成される。つまり、リッジ部20Aの両脇には、上部クラッド層25の一部が形成されている。
【0012】
リッジ部20Aの幅は、例えば、0.5μm以上5.0μm以下となっている。リッジ部20Aの一方の端面が、共振器端面S1に露出しており、リッジ部20Aの他方の端面が、共振器端面S2に露出している。共振器端面S1,S2は、へき開によって形成された面である。共振器端面S1,S2は、共振器ミラーとして機能し、リッジ部20Aは、光導波路として機能する。共振器端面S1には、例えば、共振器端面S1での反射率が15%程度となるように構成された反射防止膜が設けられている。共振器端面S2には、例えば、共振器端面S2での反射率が85%程度となるように構成された多層反射膜が設けられている。半導体レーザ1(半導体積層部20)は、さらに、共振器方向と交差する方向(以下、「幅方向」と称する。)において互いに対向する端面S3,S4を有している。つまり、リッジ部20Aの両脇には、端面S3,S4が形成されている。端面S3,S4は、ダイシングによる割断によって形成された面である。
【0013】
リッジ部20Aの両端部には、窓構造10A,10Bが設けられている。窓構造10Aは、共振器端面S1を含む領域に形成されており、窓構造10Bは、共振器端面S2を含む領域に形成されている。窓構造10A,10Bは、共振器端面S1,S2の近傍に電流が流れることによる発振の不安定化を抑制する。窓構造10Bには、後述のコンタクト層26や上部電極層31が設けられていない。そのため、窓構造10Bには、電流が上部電極層31から直接、注入されない。窓構造10A,10Bは、必要に応じて適宜、省略されてもよい。半導体レーザ1(半導体積層部20)の表面には、絶縁層32が形成されている。絶縁層32は、半導体積層部20を保護するとともに、半導体積層部20に電流を注入する領域(つまり、半導体積層部20と上部電極層31とが互いに接する領域)を規定する。
【0014】
図2は、半導体レーザ1のA-A線での断面構成例を表したものである。
図3は、半導体レーザ1のB-B線での断面構成例を表したものである。
図2には、半導体レーザ1の共振器方向(リッジ部20Aの延在方向)における中央部分の断面構成例が示されている。
図3には、半導体レーザ1の共振器端面S1,S2近傍(窓構造10A,10B)の断面構成例が示されている。
【0015】
半導体レーザ1は、基板10上に半導体積層部20を備えたものである。半導体積層部20は、例えば、下部クラッド層21、下部ガイド層22、活性層23、上部ガイド層24、上部クラッド層25およびコンタクト層26を基板10側からこの順に有している。下部クラッド層21および下部ガイド層22が、本開示の「第1半導体層」の一具体例に対応する。上部ガイド層24、上部クラッド層25およびコンタクト層26が、本開示の「第2半導体層」の一具体例に対応する。なお、半導体積層部20には、上記した層以外の層(例えばバッファ層など)が更に設けられていてもよい。
【0016】
基板10は、例えば、Siがドープされたn型GaAs基板である。半導体積層部20は、例えば、AlxGa1-xAs系(0≦x<1)の半導体材料を含んで形成されている。半導体積層部20は、n型の半導体層上にp型の半導体層が積層された構成となっている。n型が、本開示の「第1導電型」の一具体例に対応する。p型が、本開示の「第2導電型」の一具体例に対応する。半導体積層部20において、下部クラッド層21がn型の半導体層に対応しており、下部ガイド層22、活性層23、上部ガイド層24、上部クラッド層25およびコンタクト層26がp型の半導体層に対応している。つまり、活性層23は、p型の半導体層内に設けられている。
【0017】
下部クラッド層21は、例えば、Siがドープされたn型Alx1Ga1-x1Asからなる。下部ガイド層22は、例えば、Cがドープされたp型Alx2Ga1-x2Asからなる。活性層23は、例えば、多重量子井戸構造となっている。多重量子井戸構造は、例えば、障壁層および井戸層が交互に積層された構造となっている。障壁層は、例えば、Alx3Ga1-x3Asからなる。井戸層は、例えば、Alx4Ga1-x4As(x4>x3)からなる。活性層23では、活性層23の平均的な電気特性がp型となるように、活性層23を構成する多重量子井戸構造におけるドーパントおよびドーピング濃度が調整されている。上部ガイド層24は、例えば、Cがドープされたp型Alx5Ga1-x5Asからなる。上部クラッド層25は、例えば、Cがドープされたp型Alx6Ga1-x6Asからなる。コンタクト層26は、例えば、Cがドープされたp型GaAsからなる。
【0018】
半導体レーザ1は、さらに、半導体積層部20上に上部電極層31を備えており、半導体積層部20の裏面側に下部電極層33を備えている。
【0019】
上部電極層31は、リッジ部20A上に形成されており、リッジ部20Aの上部に形成されたコンタクト層26に接している。上部電極層31は、リッジ部20Aの上面のうち、窓構造10A,10Bを除いた箇所に接している。上部電極層31は、例えば、Ti層、Pt層、Au層がリッジ部20Aに近い側からこの順に積層された構成となっている。上部電極層31は、リッジ部20Aの上面と電気的に接続されていればよく、その層構成は上記の構成に限らない。
【0020】
下部電極層33は、例えば、基板10の裏面に接して形成されている。下部電極層33は、例えば、Ti層、Al層が基板10に近い側からこの順に積層された構成となっている。下部電極層33は、基板10と電気的に接続されていればよく、その層構成は上記の構成に限らない。また、下部電極層33は、基板10の裏面全体と接触していてもよいし、基板10の裏面の一部とだけ接していてもよい。
【0021】
次に、半導体積層部20内に設けられた不純物領域(第1領域R1,第2領域R2,第3領域R3,第4領域R4)について説明する。
【0022】
半導体積層部20は、リッジ部20Aと対向する領域に、第1領域R1を有している。第1領域R1は、半導体積層部20におけるp型の半導体層内に形成されており、例えば、半導体積層部20において、コンタクト層26から下部ガイド層22に到達する深さにまで形成されている。第1領域R1は、共振器方向に延在して形成されており、例えば、半導体積層部20において、窓構造10A,10B以外の領域に形成されている。第1領域R1は、p型の不純物を含む不純物領域である。第1領域R1に含まれるp型の不純物は、例えば、Cである。第1領域R1におけるp型の不純物濃度は、例えば、1.0×1016cm-3以上4.0×1018cm-3以下の範囲内の値となっている。
【0023】
半導体積層部20は、リッジ部20Aの両脇に、それぞれ、第2領域R2を有している。第2領域R2は、本開示の「第1不純物領域」の一具体例に対応する。各第2領域R2は、半導体積層部20において、リッジ部20Aの両脇であって、かつ少なくとも活性層23よりも深い位置に形成されている。各第2領域R2は、半導体積層部20におけるp型の半導体層内だけでなく、n型の半導体層内にまで形成されている。各第2領域R2は、半導体積層部20において、リッジ部20Aのすそ野に相当する箇所(上部クラッド層25の上面)から活性層23よりも深い位置に渡って設けられている。各第2領域R2は、例えば、半導体積層部20において、リッジ部20Aのすそ野に相当する箇所(上部クラッド層25の上面)から、下部クラッド層21に到達する深さにまで形成されている。
【0024】
各第2領域R2は、例えば、
図4に示したように、共振器方向に延在して形成されており、例えば、半導体積層部20において、窓構造10A,10B以外の領域に形成されている。一方の第2領域R2は、さらに、例えば、
図4に示したように、端面S3を含む領域に形成されている。他方の第2領域R2は、さらに、例えば、
図4に示したように、端面S4を含む領域に形成されている。各第2領域R2は、p型の不純物を含む不純物領域である。各第2領域R2に含まれるp型の不純物は、例えば、Znである。各第2領域R2におけるp型の不純物濃度は、第1領域R1におけるp型の不純物濃度よりも高く、例えば、1.0×10
17cm
-3以上2.0×10
19cm
-3以下の範囲内の値となっている。各第2領域R2におけるp型の不純物濃度は、例えば、
図5に示したように、6.0×10
17/cm
3以上となっていることが好ましい。なお、
図5の横軸は、第2領域R2のp型の不純物濃度であり、
図5の縦軸は、閾値電流の低減量である。
図5には、第2領域R2の底面(つまり、上述のpnジャンクション)と、活性層23との距離dが0.05μmのときと、1.05μmのときのシミュレーション結果が例示されている。
図5から、距離dが非常に狭いとき(d=0.05μm)の閾値電流の低減量が、閾値電流の低減量が最も大きくなるとき(距離d(=1.05μm))の閾値電流の低減量(=1.4mA)に対して50%以上となるのは、各第2領域R2におけるp型の不純物濃度が6.0×10
17/cm
3以上となっている場合であることがわかる。
【0025】
第1領域R1において、p型の不純物濃度や構成材料の組成比が均一となっている必要はない。第1領域R1において、p型の不純物濃度や構成材料の組成比が位置に応じてなだらかに変化していてもよい。また、第1領域R1が、p型の不純物濃度や構成材料の組成比が互いに異なる複数の層によって構成されていてもよい。第2領域R2において、p型の不純物濃度や構成材料の組成比が均一となっている必要はない。第2領域R2において、p型の不純物濃度や構成材料の組成比が位置に応じてなだらかに変化していてもよい。また、第2領域R2が、p型の不純物濃度や構成材料の組成比が互いに異なる複数の層によって構成されていてもよい。いずれにしても、共通の深さにおいて、第2領域R2におけるp型の不純物濃度が、第1領域R1におけるp型の不純物濃度よりも高くなっていることが好ましい。
【0026】
半導体積層部20は、リッジ部20Aの両脇に、それぞれ、第3領域R3を有している。各第3領域R3は、リッジ部20Aと第2領域R2との間に位置しており、窓構造10A,10B以外の領域に位置している。各第3領域R3は、p型の不純物を含む不純物領域である。各第3領域R3に含まれるp型の不純物は、例えば、Cである。各第3領域R3におけるp型の不純物濃度は、第1領域R1におけるp型の不純物濃度よりも高く、例えば、1.0×1016cm-3以上4.0×1018cm-3以下の範囲内の値となっている。
【0027】
ところで、上述したように、各第2領域R2は、半導体積層部20において、コンタクト層26から下部クラッド層21に到達する深さにまで形成されている。このとき、各第2領域R2の底面と下部クラッド層21との界面は、活性層23から、基板10側に離れた位置に形成されており、pnジャンクションとなっている。各第2領域R2の底面は、第2領域R2と下部クラッド層21とによるpnジャンクションとなっている。つまり、半導体積層部20は、リッジ部20Aの両脇において、活性層23から、基板10側に離れた位置に、pnジャンクションを有している。このpnジャンクションは、下部電極層33から活性層23への電子の注入を妨げる。
【0028】
ここで、レーザダイオードでは、電子と正孔の再結合により電流が流れ、発光が生じる。半導体レーザ1では、リッジ部20Aの両脇にも、低抵抗の上部クラッド層25が設けられている。上部電極層31から注入された正孔は、上部クラッド層25を通じて、端面S3,S4の近傍にまで到達し得る。しかし、半導体積層部20において、リッジ部20Aの両脇には、それぞれ、第2領域R2が形成されており、活性層23から、基板10側に離れた位置に、pnジャンクションが形成される。そのため、例えば、
図6に示したように、下部電極層33から注入された電子は、このpnジャンクションによって、上部電極層31から注入された正孔と再結合することが妨げられる。その結果、例えば、
図7に示したような、第2領域R2が設けられていない一般的な半導体レーザ200と比べると、リッジ部20Aの両脇に流れる電流量(電流リーク量)が大幅に減少する。リッジ部20Aの両脇に流れる電流量(電流リーク量)は、第2領域R2の底面(つまり、上述のpnジャンクション)と、活性層23との距離が大きくなるほど、小さくなる。第2領域R2の底面(つまり、上述のpnジャンクション)と、活性層23との距離dは、例えば、
図8に示したように、0.3μm以上となっていることが好ましい。なお、
図8の横軸は、第2領域R2の底面(つまり、上述のpnジャンクション)と、活性層23との距離dであり、
図8の縦軸は、閾値電流の低減量である。
図8には、第2領域R2のp型の不純物濃度が1.5×10
18cm
-3のときと、1.0×10
17cm
-3のときのシミュレーション結果が例示されている。
図8から、第2領域R2のp型の不純物濃度が1.0×10
17cm
-3となっているときの閾値電流の低減量が、閾値電流の低減量が最も大きくなるとき(第2領域R2のp型の不純物濃度が1.5×10
18cm
-3となっているとき)の閾値電流の低減量に対して50%以上となるのは、距離dが0.3μm以上となっている場合であることがわかる。
【0029】
以上のことから、各第2領域R2は、半導体積層部20において高抵抗領域として機能することがわかる。各第2領域R2が高抵抗領域として機能する結果、半導体レーザ1の電流経路は、半導体レーザ200の電流経路と比べて、各第2領域R2が設けられている分だけ狭くなる。その結果、例えば、
図9のシミュレーション結果に示したように、半導体レーザ1の閾値電流は、半導体レーザ200の閾値電流よりも低くなる。なお、
図9のシミュレーションには、マクスウエル方程式、ポアソン方程式、レート方程式等を用いたシミュレータを用いることができる。
【0030】
半導体積層部20は、さらに、共振器端面S1を含む領域と、共振器端面S2を含む領域とに、それぞれ、第4領域R4を有している。各第4領域R4は、半導体積層部20において、共振器端面S1,S2を含む領域であって、かつ少なくとも活性層23を含む位置に形成されている。各第4領域R4は、例えば、半導体積層部20におけるp型の半導体層内だけでなく、n型の半導体層内にまで形成されており、例えば、半導体積層部20において、コンタクト層26から下部クラッド層21に到達する深さにまで形成されている。
【0031】
各第4領域R4は、p型の不純物を含む不純物領域である。各第4領域R4に含まれるp型の不純物は、例えば、Znである。各第4領域R4におけるp型の不純物濃度は、第1領域R1におけるp型の不純物濃度よりも高く、例えば、1.0×10
17cm
-3以上2.0×10
19cm
-3以下の範囲内の値となっている。各第4領域R4は、例えば、
図4に示したように、各第2領域R2の端部と接していてもよい。
【0032】
ここで、共振器端面S1,S2は結晶が不連続に途切れた面である。そのため、共振器端面S1,S2には多数のダングリングボンドが形成される。ダングリングボンドは非発光再結合中心として作用する。そのため、上部電極層31および下部電極層33から注入されたキャリア(電子正孔対)は、これら非発光再結合中心で再結合し、このとき発生したエネルギーは熱に変換される。また、非発光再結合中心では、実効的なエネルギー・バンドギャップが共振器端面S1,S2間の中心部分と比べて小さい。そのため、共振器端面S1,S2間を往復した光(再結合光)は非発光再結合中心で吸収されやすい。吸収された光のエネルギーはキャリアを生じさせ、非発光再結合中心において再結合による熱が発生する。このように、非発光再結合中心では、光吸収と局所的な発熱とが促進され、やがて、破壊的光学損傷(Catastrophic Optical Damage:COD)が生じ得る。
【0033】
CODを回避するためには、共振器端面S1,S2におけるエネルギー・バンドギャップを、共振器端面S1,S2間の中心部分よりも大きくすることが有効である。共振器端面S1,S2における、このようなバンドギャップ構造を窓構造と称する。半導体レーザ1では、共振器端面S1,S2近傍に第4領域R4を設けることで、窓構造10A,10Bが形成されている。つまり、第4領域R4は、共振器端面S1,S2近傍に窓構造を形成するために設けられた不純物領域である。従って、第4領域R4は、上述の第2領域R2と共通する構成を有しているものの、形成目的においては上述の第2領域R2とは異なっている。
【0034】
[製造方法]
次に、
図10A~
図10Jを参考にして、半導体レーザ1の製造方法について説明する。
図10Aは、半導体レーザ1の製造過程におけるウェハの断面構成例を表したものである。
図10Bは、
図10Aに続く製造過程におけるウェハの断面構成例を表したものである。
図10Cは、
図10Bに続く製造過程におけるウェハの断面構成例を表したものである。
図10Dは、
図10Cに続く製造過程におけるウェハの断面構成例を表したものである。
図10Eは、
図10Dに続く製造過程におけるウェハの断面構成例を表したものである。
図10Fは、
図10Eに続く製造過程におけるウェハの断面構成例を表したものである。
図10Gは、
図10Fに続く製造過程におけるウェハの断面構成例を表したものである。
図10Hは、
図10Gに続く製造過程におけるウェハの断面構成例を表したものである。
図10Iは、
図10Hに続く製造過程におけるウェハの断面構成例を表したものである。
図10Jは、
図10Iに続く製造過程におけるウェハの断面構成例を表したものである。なお、
図10A~
図10Iにおいて、両側面は、ウェハに対してへき開をすることになる箇所に対応している。
【0035】
半導体レーザ1を製造するためには、例えばSiがドープされたn型GaAsからなる基板10上に、化合物半導体を、例えばMOCVD(Metal Organic Chemical Vapor Deposition :有機金属気相成長)法などのエピタキシャル結晶成長法により一括に形成する。この際、化合物半導体の原料としては、例えば、トリメチルアルミニウム(TMAl)、トリメチルガリウム(TMGa)、トリメチルインジウム(TMIn)、アルシン(AsH3)などのメチル系有機金属ガスを用いる。
【0036】
まず、基板10(ウェハ)をMOCVD炉に入れる。次に、基板10上に、下部クラッド層21、下部ガイド層22、活性層23、上部ガイド層24、上部クラッド層25およびコンタクト層26をこの順に形成する(
図10A)。次に、基板10(ウェハ)をMOCVD炉から取り出す。次に、コンタクト層26の表面に、所定の箇所に開口部110Aを有するレジスト層110を形成する(
図10B)。続いて、開口部110Aを介して、コンタクト層26から下部ガイド層22にまで達する深さに、Znを拡散する。これにより、第1領域R1が形成される(
図10C)。その後、レジスト層110を除去する。
【0037】
次に、コンタクト層26の表面に、所定の箇所に開口部120Aを有するレジスト層120を形成する(
図10D)。続いて、開口部120Aを介して、コンタクト層26から下部クラッド層21にまで達する深さに、Znを拡散する。これにより、第2領域R2が形成される(
図10E)。このとき、併せて、第4領域R4を形成してもよい。その後、レジスト層120を除去する(
図10F)。
【0038】
ところで、上述のZnの拡散には、ZnO膜を用いた固相拡散法、または、気相拡散法などを用いることができる。例えば、コンタクト層26の表面のうち、開口部110Aまたは開口部120A内に露出する箇所にZnO膜を形成して固相拡散を行ったのち、ZnO膜を剥離し、SiN等で、コンタクト層26の表面全体を覆う。その後、基板10(ウェハ)をアニールすることにより、コンタクト層26の表層から深部にZnが拡散し、Zn濃度を所望の濃度に制御することができる。
【0039】
次に、例えばCVD法などを用いて、コンタクト層26の表面に、所定のパターンのハードマスク130を形成する(
図10G)。ハードマスク130は、例えば、SiO
2膜である。次に、例えばドライエッチング法を用いて、ハードマスク130をマスクとして、コンタクト層26および上部クラッド層25を選択的にエッチングする。その結果、ハードマスク130の直下にリッジ部20Aが形成されるとともに、リッジ部20Aを含む半導体積層部20が形成される(
図10H)。その後、ハードマスク130を除去する(
図10I)。
【0040】
次に、例えばCVD法やスパッタ法などを用いて、リッジ部20Aの上面に開口部32Aを有する絶縁層32を形成する(
図10J)。次に、例えば蒸着法などを用いて、開口部32A内に上部電極層31を形成する。また、例えば蒸着法などを用いて、基板10(ウェハ)の裏面に下部電極層33を形成する。次に、基板10(ウェハ)をへき開することにより、共振器端面S1,S2を形成する。さらに、基板10(ウェハ)をダイシングによって割断することにより、端面S3,S4を形成する。最後に、共振器端面S1に反射防止膜を形成するとともに、共振器端面S2に多層反射膜を形成する。このようにして、半導体レーザ1が製造される。
【0041】
[動作]
このような構成の半導体レーザ1では、上部電極層31と下部電極層33との間に所定の電圧が印加されると、リッジ部20Aを通して活性層23に電流が注入され、これにより電子と正孔の再結合による発光が生じる。この光は、一対の共振器端面S1,S2により反射されるとともに、下部クラッド層21および上部クラッド層25によって閉じ込められることにより、所定の発振波長でレーザ発振が生じる。このとき、半導体積層部20内には、発振したレーザ光が導波する光導波領域が形成される。そして、一方の共振器端面から発振波長のレーザ光が外部に出射される。光導波領域は、活性層23を中心としたリッジ部20Aの直下の領域に生成される。
【0042】
[効果]
次に、半導体レーザ1の効果について、比較例と対比して説明する。
【0043】
端面出射型の半導体レーザにおいてリッジ部を設けた場合、リッジ部の両脇への電流リークにより、電流の利用効率が低下し、良好な閾値電流が得られないことがあった。一方、本実施の形態では、リッジ部20Aの両脇であって、かつ少なくとも活性層23よりも深い位置に、それぞれ、p型不純物濃度がリッジ部20Aと対向する領域(第1領域R1)におけるp型不純物濃度よりも高い第2領域R2が設けられている。これにより、半導体積層部20において、リッジ部20Aの両脇には、活性層23から、基板10側に離れた位置に、pnジャンクションが形成される。そのため、例えば、
図6に示したように、下部電極層33から注入された電子は、このpnジャンクションによって、上部電極層31から注入された正孔と再結合することが妨げられる。その結果、例えば、
図7に示したような、第2領域R2が設けられていない一般的な半導体レーザ200と比べると、リッジ部20Aの両脇に流れる電流量(電流リーク量)が大幅に減少する。このように、各第2領域R2は、半導体積層部20において高抵抗領域として機能する。各第2領域R2が高抵抗領域として機能する結果、半導体レーザ1の電流経路は、半導体レーザ200の電流経路と比べて、各第2領域R2が設けられている分だけ狭くなる。その結果、例えば、
図9に示したように、半導体レーザ1の閾値電流を、半導体レーザ200の閾値電流よりも低くすることができる。また、リッジ部20Aの両脇に流れる電流量(電流リーク量)が大幅に減少することから、効率が改善することで無駄な発熱が抑制されるため活性層23内の欠陥増殖速度が低下し、良好な信頼性が得られる。
【0044】
また、本実施の形態では、各第2領域R2が端面S3,S4を含んで形成されている。これにより、各第2領域R2によって、端面S3,S4での暗電流も低減することができる。その結果、半導体レーザ1の閾値電流をより一層低くすることができる。
【0045】
また、本実施の形態では、各第2領域R2がリッジ部20Aのすそ野に相当する箇所(上部クラッド層25の表面)から活性層23よりも深い位置に渡って設けられている。この場合、各第2領域R2を、例えば、Zn拡散によって形成することができるので、各第2領域R2を形成することによる、半導体積層部20へのダメージを小さくすることができる。その結果、半導体積層部20に形成されたダメージに起因する電流リーク量を低減することができる。
【0046】
また、本実施の形態では、活性層23は、p型の半導体層内に設けられている。これにより、例えば、活性層23を、p型の半導体層とn型の半導体層との間に設けた場合と比べて、各第2領域R2と下部クラッド層21との界面に形成されるpnジャンクションと、活性層23との距離を大きくすることができる。この距離が大きくなればなる程、リッジ部20Aの両脇における再結合の可能性を低くすることができ、リッジ部20Aの両脇に流れる電流量(電流リーク量)を大幅に小さくすることができる。
【0047】
また、本実施の形態では、リッジ部20Aと対向する領域(第1領域R1)におけるp型不純物濃度よりも高いp型不純物濃度の不純物領域(第3領域R3)によって、窓構造10A,10Bが形成されている。これにより、リッジ部20Aの両脇に流れる電流量(電流リーク量)だけでなく、共振器端面S1,S2に流れる電流量(電流リーク量)を低減することができる。その結果、半導体レーザ1の閾値電流を低くすることができる。さらに、窓構造10A,10Bによって、CODの発生も防止することができ、また、素子の信頼性を向上させることができる。
【0048】
また、本実施の形態において、各第2領域R2のp型不純物をZnとし、各第3領域R3のp型不純物もZnとすることにより、各第2領域R2と、各第3領域R3とを、Zn拡散によって一括して形成することが可能となる。このようにした場合には、タクトタイムや製造コストの増大を抑えることができる。
【0049】
<2.変形例>
次に、上記実施の形態に係る半導体レーザ1の変形例ついて説明する。
【0050】
[変形例A]
図11は、
図2の半導体レーザ1の断面構成の一変形例を表したものである。
図12は、
図3の半導体レーザ1の断面構成の一変形例を表したものである。上記実施の形態において、半導体積層部20は、リッジ部20Aの両脇であって、かつリッジ部20Aと、第2領域R2と積層方向において対向する箇所との間(つまり、第3領域R3)に、ぞれぞれ、活性層23にまで到達しない深さの帯状の溝部35を有していてもよい。
【0051】
この場合、半導体積層部20は、溝部35と端面S3,S4との間に、それぞれ、土台部34を有している。土台部34は、製造過程においてエッチングを用いて、互いに平行な2本の溝部35を形成することによりリッジ部20Aを形成したときに、エッチングされずに残った箇所に相当する。従って、土台部34には、上部クラッド層25の他に、上部クラッド層25よりも更に導電性の高いコンタクト層26も含まれている。土台部34の高さは、リッジ部20Aの高さと概ね等しくなっている。そのため、土台部34を設けることにより、リッジ部20Aに外力や応力が集中するのを回避することができる。従って、半導体レーザ1の耐久性を高めることができる。
【0052】
上述したように、土台部34には、上部クラッド層25の他に、上部クラッド層25よりも更に導電性の高いコンタクト層26も含まれている。そのため、コンタクト層26や上部クラッド層25を通じてリッジ部20Aの両脇に流れる電流量(電流リーク量)が増大するおそれがある。しかし、本変形例では、上記実施の形態と同様、リッジ部20Aの両脇(つまり、土台部34と対向する領域)には、それぞれ、第2領域R2が形成されている。そのため、土台部34が設けられているにもかかわらず、リッジ部20Aの両脇での電流リークは、第2領域R2によって抑制される。その結果、半導体レーザ1の閾値電流を低くすることができる。また、リッジ部20Aの両脇に流れる電流量(電流リーク量)が大幅に減少することから、効率が改善することで無駄な発熱が抑制されるため活性層23内の欠陥増殖速度が低下し、良好な信頼性が得られる。
【0053】
[変形例B]
図13は、
図2の半導体レーザ1の断面構成の一変形例を表したものである。
図14は、
図11の半導体レーザ1の断面構成の一変形例を表したものである。上記実施の形態およびその変形例Aにおいて、各第2領域R2は、活性層23と基板10との間にだけ設けられていてもよい。このとき、各第2領域R2は、活性層23に接して設けられていることが好ましい。各第2領域R2は、例えば、イオン注入法を用いて、Znを半導体積層部20の所望の深さに注入することにより形成することが可能である。各第2領域R2を、活性層23と基板10との間にだけ設けた場合であっても、上記実施の形態およびその変形例Aと同様の効果を得ることができる。
【0054】
[変形例C]
図15は、
図2の半導体レーザ1の断面構成の一変形例を表したものである。
図16は、
図11の半導体レーザ1の断面構成の一変形例を表したものである。上記実施の形態およびその変形例Aにおいて、第1領域R1は、p型の半導体層内にだけ設けられていてもよい。例えば、上記実施の形態およびその変形例Aにおいて、第1領域R1は、上部クラッド層25およびコンタクト層26のうち、リッジ部20Aと対向する部分にだけ形成されていてもよい。このようにした場合であっても、上記実施の形態およびその変形例Aと同様の効果を得ることができる。
【0055】
[変形例D]
図17は、
図2の半導体レーザ1の断面構成の一変形例を表したものである。
図18は、
図11の半導体レーザ1の断面構成の一変形例を表したものである。上記実施の形態およびその変形例Aにおいて、各第2領域R2は、半導体積層部20におけるp型の半導体層内だけに形成されていてもよい。例えば、上記実施の形態およびその変形例Aにおいて、各第2領域R2は、半導体積層部20において、コンタクト層26もしくは上部クラッド層25から下部ガイド層22に到達する深さにまで形成されていてもよい。このようにした場合であっても、上記実施の形態およびその変形例Aと同様の効果を得ることができる。
【0056】
[変形例E]
図19は、
図2の半導体レーザ1の断面構成の一変形例を表したものである。
図20は、
図11の半導体レーザ1の断面構成の一変形例を表したものである。上記実施の形態およびその変形例A~Dにおいて、第1領域R1が省略されていてもよい。このようにした場合であっても、上記実施の形態およびその変形例Aと同様の効果を得ることができる。
【0057】
[変形例F]
上記実施の形態およびその変形例A~Eにおいて、導電型が逆になっていてもよい。例えば、上記実施の形態およびその変形例A~Eにおいて、p型がn型になるとともに、n型がp型になってもよい。このようにした場合であっても、上記実施の形態およびその変形例A~Eと同様の効果を得ることができる。
【0058】
[変形例G]
上記実施の形態およびその変形例A~Fにおいて、半導体積層部20を構成する半導体材料は、例えば、窒素(N)、ホウ素(B)、アンチモン(Sb)、リン(P)を含む、III-V族半導体であってもよい。
【0059】
[変形例H]
上記実施の形態およびその変形例A~Gにおいて、絶縁層32の代わりに、リッジ部20Aを埋め込む樹脂層が設けられていてもよい。また、上記実施の形態およびその変形例A~Gにおいて、絶縁層32が省略されていてもよい。
【0060】
[変形例I]
上記実施の形態およびその変形例A~Hにおいて、第2領域R2は、リッジ部20Aと非対向の領域の少なくとも一部に設けられていてもよい。また、上記実施の形態およびその変形例A~Hにおいて、第2領域R2は、端面S3,S4の少なくとも一部を含んでいてもよい。このようにした場合であっても、第2領域R2が設けられていない一般的な半導体レーザ200と比べると、リッジ部20Aの両脇に流れる電流量(電流リーク量)が減少する。その結果、半導体レーザ1の閾値電流を、半導体レーザ200の閾値電流よりも低くすることができる。また、リッジ部20Aの両脇に流れる電流量(電流リーク量)が減少することから、効率が改善することで無駄な発熱が抑制されるため活性層23内の欠陥増殖速度が低下し、良好な信頼性が得られる。
【0061】
<3.第2の実施の形態>
次に、本開示の第2の実施の形態に係る距離測定装置2について説明する。図21は、距離測定装置2の概略構成の一例を表したものである。距離測定装置2は、TOF(Time Of Flight)方式により被検体300までの距離を測定するものである。距離測定装置2は、光源として半導体レーザ1を備えたものである。距離測定装置2は、例えば、半導体レーザ1、受光部41、レンズ42,43、レーザドライバ44、増幅部45、計測部46、制御部47および演算部48を備えている。
【0062】
受光部41は、被検体300で反射された光を検出する。受光部41は、例えば、フォトディテクタによって構成されている。受光部41は、アバランシェフォトダイオード(APD)、シングルフォトンアバランシェダイオード(SPAD)、または、マルチピクセルシングルフォトンアバランシェダイオード(MP-SPAD)などによって構成されていてもよい。レンズ42は、半導体レーザ1から出射された光を平行光化するためのレンズであり、コリメートレンズである。レンズ43は、被検体300で反射された光を集光し、受光部41に導くためのレンズであり、集光レンズである。
【0063】
レーザドライバ44は、例えば、半導体レーザ1を駆動するためのドライバ回路である。増幅部45は、例えば、受光部41から出力された検出信号を増幅するためのアンプ回路である。計測部46は、例えば、増幅部45から入力された信号と、参照信号との差分に対応する信号を生成するための回路である。計測部46は、例えば、Time to Digital Converter (TDC)によって構成されている。参照信号は、制御部47から入力される信号であってもよいし、半導体レーザ1の出力を直接検出する検出部の出力信号であってもよい。制御部47は、例えば、受光部41、レーザドライバ44、増幅部45および計測部46を制御するプロセッサである。演算部48は、計測部46で生成された信号に基づいて、距離情報を導出する回路である。
【0064】
本実施の形態では、距離測定装置2において、光源として半導体レーザ1が用いられる。これにより、高出力のレーザ光を出射させることができるので、検出精度を向上させることができる。
【0065】
<4.第3の実施の形態>
次に、本開示の第3の実施の形態に係るプロジェクタ3について説明する。図22は、プロジェクタ3の概略構成の一例を表したものである。プロジェクタ3は、外部から入力された映像信号Dinに基づく映像をスクリーンなどに投影する装置である。プロジェクタ3は、ビデオ信号処理回路51、レーザ駆動回路52、光源部53、スキャナ部54およびスキャナ駆動回路55を備えている。
【0066】
ビデオ信号処理回路51は、映像信号Dinに基づいて色ごとに投影映像信号を生成する。レーザ駆動回路52は、色ごとの投影映像信号に基づいて、後述の光源53R,53G,53Bに印加する電流パルスの波高値を制御する。
【0067】
光源部53は、複数の光源、例えば3つの光源53R,53G,53Bを有する。3つの光源53R,53G,53Bは、例えば、赤色(R)、緑色(G)、青色(B)の波長のレーザ光を出射するレーザ光源として用いられる。光源53B,53Gのうち、少なくとも一方が、上記第1の実施の形態およびその変形例に係る半導体レーザ1を含んで構成されている。3つの光源53R,53G,53Bから出射された各レーザ光は、例えば、コリメートレンズによってほぼ平行光にされた後、ビームスプリッタ53sR,53sG,53sBなどによって1本のレーザ光に束ねられる。ビームスプリッタ53sRは、例えば、赤色光を反射する。ビームスプリッタ53sGは、例えば、緑色光を反射するとともに、赤色光を透過する。ビームスプリッタ53sBは、例えば、青色光を反射するとともに、赤色光および緑色光を透過する。
【0068】
ビームスプリッタ53sR,53sG,53sBで透過・反射されたレーザ光は、スキャナ部54に入射する。スキャナ部54は、例えば、1つの2軸スキャナを用いて構成されている。入射したレーザ光は、2軸スキャナによって水平及び垂直方向に照射角度に変調が加えられてからスクリーンに投影される。なお、スキャナ部54は、1軸スキャナを2つ用いて水平方向及び垂直方向に走査する構成となっていてもよい。
【0069】
通常、スキャナ部54は、2軸スキャナなどの照射角度を検出するセンサを有しており、当該センサは、水平・垂直それぞれの角度信号を出力する。これらの角度信号は、スキャナ駆動回路55に入力される。スキャナ駆動回路55は、例えば、スキャナ部54から入力される水平角度信号および垂直角度信号に基づいて、所望の照射角度になるようにスキャナ部54を駆動する。
【0070】
本実施の形態では、光源53B,53Gのうち、少なくとも一方において、上記第1の実施の形態およびその変形例に係る半導体レーザ1が用いられる。これにより、低消費電力で、高い発光強度を得ることができる。
【0071】
以上、複数の実施の形態を挙げて本開示を説明したが、本開示は上記各実施の形態に限定されるものではなく、種々変形が可能である。なお、本明細書中に記載された効果は、あくまで例示である。本開示の効果は、本明細書中に記載された効果に限定されるものではない。本開示が、本明細書中に記載された効果以外の効果を持っていてもよい。
【0072】
また、例えば、本開示は以下のような構成を取ることができる。
(1)
第1導電型の第1半導体層と、前記第1半導体層上に積層され、帯状のリッジ部が設けられた第2導電型の第2半導体層と、活性層とを含む半導体積層部を備え、
前記半導体積層部は、前記リッジ部と非対向の領域の少なくとも一部であって、かつ少なくとも前記活性層よりも深い位置に、前記第2導電型の不純物濃度が前記第2半導体層のうち前記リッジ部と対向する領域における前記第2導電型の不純物濃度よりも高い第1不純物領域を有する
半導体レーザ。
(2)
前記半導体積層部は、前記リッジ部の両脇に、それぞれ、端面を有し、
前記第1不純物領域は、前記端面の少なくとも一部を含む
(1)に記載の半導体レーザ。
(3)
前記第1不純物領域は、前記第2半導体層の表面のうち前記リッジ部のすそ野に相当する箇所から前記活性層よりも深い位置に渡って設けられている
(1)または(2)に記載の半導体レーザ。
(4)
前記第2半導体層は、前記リッジ部と非対向の領域の少なくとも一部であって、かつ前記リッジ部と、前記第1不純物領域と積層方向において対向する箇所との間に、前記活性層にまで到達しない深さの帯状の溝部を有する
(1)ないし(3)のいずれか1つに記載の半導体レーザ。
(5)
前記活性層は、前記第2半導体層内に設けられている
(1)ないし(4)のいずれか1つに記載の半導体レーザ。
(6)
前記第1導電型は、n型であり、
前記第2導電型は、p型であり、
前記第2半導体層のうち前記リッジ部と対向する領域に含まれる前記第2導電型の不純物は、Cであり、
前記第1不純物領域に含まれる前記第2導電型の不純物は、Znである
(1)ないし(5)のいずれか1つに記載の半導体レーザ。
(7)
前記半導体積層部は、AlGaAs系の半導体材料を含んで形成されている
(1)ないし(6)のいずれか1つに記載の半導体レーザ。
(8)
前記第1不純物領域の底面は、当該第1不純物領域と前記第1半導体層とによるpnジャンクションとなっており、
前記第1不純物領域の底面と、前記活性層との距離は、0.3μm以上となっている
(1)ないし(7)のいずれか1つに記載の半導体レーザ。
(9)
前記第1不純物領域における前記第2導電型の不純物濃度は、6.0×1017/cm3以上となっている
(1)ないし(8)のいずれか1つに記載の半導体レーザ。
(10)
前記半導体積層部は、前記リッジ部の両端に、それぞれ、共振器端面と、前記共振器端面を含む窓構造とを更に有し、
前記窓構造は、前記第2半導体層のうち前記リッジ部と対向する領域における前記第2導電型の不純物濃度よりも高い前記第2導電型の不純物濃度の第2不純物領域によって構成されている
(1)ないし(9)のいずれか1つに記載の半導体レーザ。
(11)
前記第2不純物領域に含まれる前記第2導電型の不純物は、Znである
(10)に記載の半導体レーザ。
(12)
半導体レーザを光源として備え、
前記半導体レーザは、第1導電型の第1半導体層と、前記第1半導体層上に積層され、帯状のリッジ部が設けられた第2導電型の第2半導体層と、活性層とを含む半導体積層部を有し、
前記半導体積層部は、前記リッジ部と非対向の領域の少なくとも一部であって、かつ少なくとも前記活性層よりも深い位置に、前記第2導電型の不純物濃度が前記第2半導体層のうち前記リッジ部と対向する領域における前記第2導電型の不純物濃度よりも高い不純物領域を有する
電子機器。
【0073】
本開示の一実施形態に係る半導体レーザおよび電子機器によれば、リッジ部と非対向の領域の少なくとも一部において、電子または正孔の、活性層への輸送が阻害されるようにしたので、リッジ部の両脇への電流リークを抑制することができる。その結果、良好な閾値電流を得ることができる。なお、本開示の効果は、ここに記載された効果に必ずしも限定されず、本明細書中に記載されたいずれの効果であってもよい。
【0074】
本出願は、日本国特許庁において2018年11月15日に出願された日本特許出願番号第2018-214956号を基礎として優先権を主張するものであり、この出願のすべての内容を参照によって本出願に援用する。
【0075】
当業者であれば、設計上の要件や他の要因に応じて、種々の修正、コンビネーション、サブコンビネーション、および変更を想到し得るが、それらは添付の請求の範囲やその均等物の範囲に含まれるものであることが理解される。