(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-15
(45)【発行日】2023-12-25
(54)【発明の名称】内面直線溝付押出素管及び内面螺旋溝付管と熱交換器の製造方法
(51)【国際特許分類】
C22C 21/00 20060101AFI20231218BHJP
F28F 1/40 20060101ALI20231218BHJP
F28F 21/08 20060101ALI20231218BHJP
C22F 1/05 20060101ALI20231218BHJP
B21H 3/00 20060101ALI20231218BHJP
B21D 53/06 20060101ALI20231218BHJP
C22C 21/02 20060101ALI20231218BHJP
C22C 21/06 20060101ALI20231218BHJP
C22F 1/00 20060101ALN20231218BHJP
【FI】
C22C21/00 J
F28F1/40 B
F28F21/08 A
C22F1/05
B21H3/00 B
B21D53/06 G
C22C21/02
C22C21/06
C22F1/00 602
C22F1/00 626
C22F1/00 651B
C22F1/00 682
C22F1/00 683
C22F1/00 685Z
C22F1/00 691B
C22F1/00 691C
C22F1/00 692A
(21)【出願番号】P 2021118096
(22)【出願日】2021-07-16
【審査請求日】2022-08-09
(73)【特許権者】
【識別番号】522160125
【氏名又は名称】MAアルミニウム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100142424
【氏名又は名称】細川 文広
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】福増 秀彰
(72)【発明者】
【氏名】中本 将之
(72)【発明者】
【氏名】坊山 央
(72)【発明者】
【氏名】坂上 武
【審査官】河口 展明
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-139490(JP,A)
【文献】特開2014-032751(JP,A)
【文献】国際公開第2017/175762(WO,A1)
【文献】特開2007-030647(JP,A)
【文献】特開2002-155333(JP,A)
【文献】特表2002-536551(JP,A)
【文献】特開2000-047413(JP,A)
【文献】特開平05-105980(JP,A)
【文献】特開平04-056744(JP,A)
【文献】特開2008-267788(JP,A)
【文献】特開平09-101093(JP,A)
【文献】特開2003-294387(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 21/00、21/02、21/06
F28F 1/40、21/08
C22F 1/00、1/05
B21H 3/00
B21D 53/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内面螺旋溝付管製造用の内面直線溝付押出素管であって、
前記内面直線溝付押出素管の外径をD(mm)、底肉厚をt(mm)、前記内面直線溝付押出素管の内面に形成されている内部フィンの幅をW(mm)、高さをh(mm)とすると、
h/Wが0.7以上、D/tが26以上であり、
Si:0.35質量%以上0.55質量%以下、
Cu:0.15質量%以下、
Mg:0.45質量%以上0.65質量%以下、
Mn:0.05質量%以下、
Mg
2Si:0.71質量%以上1.03質量%以下、
過剰Si:0.08質量%以上0.29質量%以下
を含有し、残部不可避不純物とアルミニウムからなるアルミニウム合金から構成されたことを特徴とする内面直線溝付押出素管。
【請求項2】
前記アルミニウム合金が、
Si:0.40質量%以上0.55質量%以下、
Cu:0.04質量%以下、
Mg:0.45質量%以上0.60質量%以下、
Mn:0.05質量%以下、
Mg
2Si:0.71質量%以上0.95質量%以下、
過剰Si:0.08質量%以上0.25質量%以下
を含有し、残部不可避不純物とアルミニウムからなることを特徴とする請求項
1に記載の内面直線溝付押出素管。
【請求項3】
Si:0.35 質量%以上0.55質量%以下、
Cu:0.15 質量%以下、
Mg:0.45 質量%以上0.65質量%以下、
Mn:0.05 質量%以下、
Mg
2Si:0.71質量%以上1.03質量%以下、
過剰Si:0.08質量%以上0.29質量%以下
を含有し、残部不可避不純物とアルミニウムからなる組成を有するアルミニウム合金からなる内面直線溝付押出素管であって、
外径をD(mm)、底肉厚をt(mm)、内面に形成されている内部フィンの幅をW(mm)、高さをh(mm)とすると、h/Wが0.7以上、D/tが26以上である内面直線溝付押出素管に対し、捻り引抜加工を施す内面螺旋溝付管の製造方法であり、
前記捻り引抜加工後に時効処理を施すことを特徴とする内面螺旋溝付管の製造方法。
【請求項4】
前記アルミニウム合金として、
Si:0.40質量%以上0.55質量%以下、
Cu:0.04質量%以下、
Mg:0.45質量%以上0.60質量%以下、
Mn:0.05質量%以下、
Mg
2Si:0.71質量%以上0.95質量%以下、
過剰Si:0.08質量%以上0.25質量%以下
を含有し、残部不可避不純物とアルミニウムからなるアルミニウム合金を用いることを特徴とする請求項
3に記載の内面螺旋溝付管の製造方法。
【請求項5】
S i:0.35質量%以上0.55質量%以下、
C u:0.15質量%以下、
M g:0.45質量%以上0.65質量%以下、
M n:0.05質量%以下、
M g
2Si:0.71質量% 以上1.03質量%以下、
過剰Si:0.08質量% 以上0.29質量%以下
を含有し、残部不可避不純物とアルミニウムからなる組成を有するアルミニウム合金からなる内面直線溝付押出素管であって、
外径をD(mm)、底肉厚をt(mm)、内面に形成されている内部フィンの幅をW (mm)、高さをh(mm)とすると、h/Wが0.7以上、D/tが26以上である内面直線溝付押出素管に対し、捻り引抜加工を施して内面螺旋溝付管を製造し、この内面螺旋溝付管を用いて熱交換器を製造するに際し、
前記捻り引抜加工後であって、前記熱交換器を完成させる以前に前記内面螺旋溝付管に対し時効処理を施すことを特徴とする熱交換器の製造方法。
【請求項6】
前記アルミニウム合金として、
Si:0.40 質量%以上0.55質量%以下、
Cu:0.04 質量%以下、
Mg:0.45 質量%以上0.60質量%以下、
Mn:0.05 質量%以下、
Mg
2Si:0.71質量%以上0.95質量%以下、
過剰Si:0.0 8 質量%以上0.25質量%以下
を含有し、残部不可避不純物とアルミニウムからなるアルミニウム合金を用いることを特徴とする請求項
5に記載の熱交換器の製造方法。
【請求項7】
前記内面螺旋溝付管と外部フィンを組み立てて熱交換器組立体を形成後、前記内面螺旋溝付管と前記外部フィンを接合して熱交換器を製造するに際し、
前記捻り引抜加工後であって前記外部フィンとの組み合わせ以前に前記内面螺旋溝付管に時効処理を施すか、前記内面螺旋溝付管と前記外部フィンを組み立てて接合後、時効処理を施すことを特徴とする請求項
5または請求項
6に記載の熱交換器の製造方法。
【請求項8】
前記内面直線溝付押出素管の外面に亜鉛溶射層を形成することを特徴とする請求項
5~請求項
7のいずれか一項に記載の熱交換器の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内面直線溝付押出素管及び内面螺旋溝付管と熱交換器の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
内面螺旋溝付管の製造方法として、以下の特許文献1、2に記載の製造方法が知られている。
これらの製造方法は、アルミニウム製内面螺旋溝付管の製造方法として好適であり、押出加工により製造されたアルミニウム製内面直線溝付管を素管として用い、この素管を引抜ダイスにて縮径すると同時に捻りを付与することにより、内面螺旋溝付管を製造することができる。これらの製造方法では、引抜ダイスによる縮径工程が含まれるため、素管である直線溝付管は、加工後に得られる製品である内面螺旋溝付管よりも外径を大きくする必要がある。
【0003】
ところで、内面螺旋溝付管は伝熱管として使用されるため、内部を流れる冷媒に生じる圧力損失を低減させるために、管内径をできるだけ大きくすることが望まれる。管内径を大きくするために、同一外径であれば、底肉厚を薄くすることが望まれる。
ところで、管外径をD(mm)、底肉厚をt(mm)とした場合のD/tが大きい素管を押出加工により製造する場合、押出素管の外周面にアルミカスが付着し易くなる問題がある。
また、内面螺旋溝付管の底肉厚tを薄くした場合であっても内部を流れる冷媒により生じる圧力を保持する必要があるため、素管に用いるアルミニウム合金を高強度化する必要がある。
【0004】
特許文献1、2に記載の製造方法によって内面螺旋溝付管を製造する場合、素管を押出加工により得るため、素管に用いるアルミニウム合金においては、押出加工の段階では柔らかく押出性に優れ、かつ最終製品である内面螺旋溝付管においては高強度であることが好ましい。このような特性を得る上で時効硬化型合金であるJISA6000系アルミニウム合金が適用可能と考えられる。
【0005】
JISA6000系アルミニウム合金を伝熱管に用いる技術として、特許文献3に記載の技術が知られており、特許文献3には、JISA6005CやJISA6063などの合金を伝熱管に用いることが推奨される、と記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第6169538号公報
【文献】特許第6439222号公報
【文献】特開2008-267788号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1、2に記載の製造方法で内面螺旋溝付管を製造する場合、前述のとおり、引抜ダイスによる縮径工程が含まれるため、素管である直線溝付管は、加工後に得られる製品である内面螺旋溝付管よりも外径を大きくする必要がある。
そのため、管外径をD(mm)、底肉厚をt(mm)とした場合のD/tが著しく大きい条件で素管を押出す必要がある。このため、JISA6005CやJISA6063などの成分範囲であっても、素管の押出加工においてアルミカスが生じ易くなり、アルミカスの発生を避けるために押出速度を低下させる必要性が生じる場合があった。
【0008】
また、内面螺旋溝付管を転造加工(内面溝付加工)によって製造する場合には、押出素管の内面に溝は必要ないため、素管の押出加工は容易である。
しかしながら、特許文献1、2に記載の製造方法で内面螺旋溝付管を製造する場合、押出加工により素管を製造する工程において、押出素管の内面に溝を形成する必要がある。
押出素管の内面の溝と溝の間に形成される内部フィンは、幅W(mm)が狭く高さh(mm)が高いほど、伝熱面積が大きくなるため、伝熱管の熱交換性能を高めることができる。
したがって、高性能な伝熱管に供する内面螺旋溝付管を特許文献1、2に記載の方法で製造する場合、素管の押出工程の段階で、素管の内面に、幅が狭く高さが高い内部フィンを形成する必要がある。
【0009】
そのため、素管内面に形成する内部フィンの幅をW(mm)、高さをh(mm)とした場合のh/Wが一定以上となる条件において、JISA6005CやJISA6063の成分範囲であっても、素管の押出加工におけるアルミニウム合金の柔らかさが不足する問題がある。この場合、押出加工においてフィンへのアルミニウム合金の流入が不十分となり、押出後に得られる素管内面のフィン形状において、所望の寸法精度が得られない問題があった。
【0010】
本発明は、管外径をD(mm)、底肉厚をt(mm)とした場合のD/tが著しく大きい条件で素管を押出す場合であっても、押出加工中のアルミカスの発生を抑制でき、かつ、素管内面に形成する内部フィンの幅をW(mm)、高さをh(mm)とした場合のh/Wが一定以上となる条件においても、押出加工においてフィン部へのアルミニウム合金の流入が十分となり、押出後に得られる素管内面のフィン形状において、所望の寸法が得られる、内面直線溝付押出素管を提供することを目的とする。
本発明の目的は、底肉厚を薄くして伝熱性能を良好としても押出製造性に優れた内面直線溝付押出素管の提供を目的とする。
本発明の目的は、底肉厚を薄くして伝熱性能を良好としても製造性に優れた内面螺旋溝付管と熱交換器の製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
(1)本形態の内面直線溝付押出素管は、内面螺旋溝付管製造用の内面直線溝付押出素管であって、前記内面直線溝付押出素管の外径をD(mm)、底肉厚をt(mm)、前記内面直線溝付押出素管の内面に形成されている内部フィンの幅をW(mm)、高さをh(mm)とすると、h/Wが0.7以上、D/tが26以上であり、Si:0.35質量%以上0.55質量%以下、Cu:0.15質量%以下、Mg:0.45質量%以上0.65質量%以下、Mn:0.05質量%以下、Mg2Si:0.71質量% 以上1.03質量%以下、過剰Si:0.08質量%以上0.29質量%以下を含有し、残部不可避不純物とアルミニウムからなるアルミニウム合金から構成されたことを特徴とする。
【0014】
(2)本形態の内面直線溝付押出素管において、前記アルミニウム合金が、Si:0.40質量%以上0.55質量%以下、Cu:0.04質量%以下、Mg:0.45質量%以上0.60質量%以下、Mn:0.05質量%以下、Mg2Si:0.71質量%以上0.95質量%以下、過剰Si:0.08質量%以上0.25質量%以下を含有し、残部不可避不純物とアルミニウムからなることが好ましい。
【0015】
(3)本形態に係る内面螺旋溝付管の製造方法は、Si:0.35質量%以上0.55質量%以下、Cu:0.15質量%以下、Mg:0.45質量%以上0.65質量%以下、Mn:0.05質量%以下、Mg2Si:0.71質量%以上1.03質量%以下、過剰Si:0.08質量%以上0.29質量%以下を含有し、残部不可避不純物とアルミニウムからなる組成を有するアルミニウム合金からなる内面直線溝付押出素管であって、外径をD(mm)、底肉厚をt(mm)、内面に形成されている内部フィンの幅をW(mm)、高さをh(mm)とすると、h/Wが0.7以上、D/tが26以上である内面直線溝付押出素管に対し、捻り引抜加工を施す内面螺旋溝付管の製造方法であり、前記捻り引抜加工後に時効処理を施すことを特徴とする。
【0016】
(4)本形態に係る内面螺旋溝付管の製造方法は、(3)に記載のアルミニウム合金として、Si:0.40質量%以上0.55質量%以下、Cu:0.04質量%以下、Mg:0.45質量%以上0.60質量%以下、Mn:0.05質量%以下、Mg2Si:0.71質量%以上0.95質量%以下、過剰Si:0.08質量%以上0.25質量%以下を含有し、残部不可避不純物とアルミニウムからなるアルミニウム合金を用いることを特徴とする。
【0017】
(5)本形態に係る熱交換器の製造方法は、Si:0.35質量%以上0.55質量%以下、Cu:0.15質量%以下、Mg:0.45質量%以上0.65質量%以下、Mn:0.05質量%以下、Mg2Si:0.71質量%以上1.03質量%以下、過剰Si:0.08質量%以上0.29質量%以下を含有し、残部不可避不純物とアルミニウムからなる組成を有するアルミニウム合金からなる内面直線溝付押出素管であって、外径をD(mm)、底肉厚をt(mm)、内面に形成されている内部フィンの幅をW(mm)、高さをh(mm)とすると、h/Wが0.7以上、D/tが26以上である内面直線溝付押出素管に対し、捻り引抜加工を施して内面螺旋溝付管を製造し、この内面螺旋溝付管を用いて熱交換器を製造するに際し、前記捻り引抜加工後であって、前記熱交換器を完成させる以前に前記内面螺旋溝付管に対し時効処理を施すことを特徴とする。
【0018】
(6)本形態に係る熱交換器の製造方法において、前記アルミニウム合金として、Si:0.40質量%以上0.55質量%以下、Cu:0.04質量%以下、Mg:0.45質量%以上0.60質量%以下、Mn:0.05質量%以下、Mg2Si:0.71質量%以上0.95質量%以下、過剰Si:0.08質量%以上0.25質量%以下を含有し、残部不可避不純物とアルミニウムからなるアルミニウム合金を用いることが好ましい。
【0019】
(7)本形態に係る熱交換器の製造方法において、(5)または(6)に記載の内面螺旋溝付管と外部フィンを組み立てて熱交換器組立体を形成後、前記内面螺旋溝付管と前記外部フィンを接合して熱交換器を製造するに際し、前記捻り引抜加工後であって前記外部フィンとの組み合わせ以前に前記内面螺旋溝付管に時効処理を施すか、前記内面螺旋溝付管と前記外部フィンを組み立てて接合後、時効処理を施すことを特徴とする。
(8)本形態に係る熱交換器の製造方法において、前記内面直線溝付押出素管の外面に亜鉛溶射層を形成することが好ましい。
【発明の効果】
【0020】
本形態によれば、内面直線溝付素管の外径をD(mm)、底肉厚をt(mm)とした場合のD/tが著しく大きい条件で素管を押出す場合であっても、押出加工中のアルミカスの発生を抑制でき、かつ、素管内面に形成する内部フィンの幅をW、高さをhとした場合のh/Wが一定以上となる条件においても、押出加工においてフィン部へのアルミニウム合金の流入が十分となり、押出後に得られる押出素管内面の内部フィン形状において、所望の寸法精度が得られる内面直線溝付押出素管を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】内面に直線溝を備えた第1実施形態の内面直線溝付押出素管を示す図であり、
図1(a)が正面図、
図1(b)が縦断面図。
【
図4】同内面螺旋溝付管を備えた熱交換器の一例を示す図であり、
図4(a)が正面図、
図4(b)が斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。
なお、以下の説明で用いる図面は、便宜上特徴となる部分を拡大して強調表示している場合がある。また、同様の目的で、特徴とならない部分を省略して図示している場合がある。
【0023】
図1(a)、(b)および
図2は、本発明に係る第1実施形態の内面直線溝付押出素管を示すもので、この内面直線溝付押出素管1の内面には、管の長さ方向に沿う直線溝2が内周方向に所定の間隔をおいて複数形成され、管の内周方向に隣接する直線溝2、2間に内部フィン3が形成されている。
【0024】
内面直線溝付押出素管1は、Si:0.35質量%以上0.55質量%以下、Cu:0.15質量%以下、Mg:0.45質量%以上0.65質量%以下、Mn:0.05質量%以下、Mg2Si:0.71質量%以上1.03質量%以下、過剰Si:0.08質量%以上0.29質量%以下を含有し、残部不可避不純物とアルミニウムからなる組成を有するアルミニウム合金から形成されている。
内面直線溝付押出素管1は、Si:0.40質量%以上0.55質量%以下、Cu:0.04質量%以下、Mg:0.45質量%以上0.60質量%以下、Mn:0.05質量%以下、Mg2Si:0.71質量%以上0.95質量%以下、過剰Si:0.08質量%以上0.25質量%以下を含有し、残部不可避不純物とアルミニウムからなる組成を有するアルミニウム合金から形成されていても良い。
また、内面直線溝付押出素管1は、前述の組成に加え、Feを0.14~0.20%、Tiを0.01~0.05%(質量%)の範囲で含有させた組成を有していても良い。
【0025】
図1、
図2に示す内面直線溝付押出素管1は、横断面の外形状が円形の管本体5からなる。なお、
図2は内面直線溝付押出素管1の内部形状を見やすくするために内面直線溝付押出素管1の周壁を切り開いて平板状に展開した状態を表示している。
管本体5の外径(管本体5の外周面5aが描く円の直径)は、例えば、3mm以上15mm以下である。管本体5の内周面5bには、管本体5の長さ方向に沿って直線状に形成された内部フィン3が管本体5の内周方向に所定の間隔をあけて20~60個(20~60条)程度形成されている。また、管本体5の内周方向に隣接する直線状の内部フィン3、3の間には、所定幅、例えば一定幅の直線溝2が形成されている。
【0026】
図2に管本体5の内部を展開視して示すように、内部フィン3は、管本体5の内部側に位置する先端部(フィン頂部)3aと、外周側に位置する底部3bと、先端部3aと底部3bの間に位置する一対の側壁部3cとからなる横断面等脚台形状に形成されている。
内部フィン3の底部3bは、管本体5の内周部に位置し、内周面5b、換言すると直線溝2の底面と連続されている。側壁部3cは、
図2に示す管本体5の横断面において、管本体5の概ね中心方向に向かうように直線的に延在されている。管本体5の横断面において、直線溝2の底面から管本体5の外周面5aまでの肉厚は底肉厚tと表記することができる。
【0027】
内面直線溝付押出素管1は、その外径をD(mm)、底肉厚をt(mm)、前記内面直線溝付押出素管の内面に形成されている内部フィン3の幅をW(mm)、高さをh(mm)とすると、h/Wが0.7以上、D/tが26以上であることが好ましい。D/tは30以上であることがより好ましい。
なお、内部フィン3の幅Wは、先端側と底部側において異なるため、内部フィン幅(W)は、先端幅(内部フィン頂幅:a)と底部幅(b)の平均をとり、W=(a+b)/2と定義する。
図2に示す内面直線溝付押出素管1において、内部フィン3を構成する側壁部3c、3cのなす角をフィン頂角(θ)と表記することができ、直線溝2の底部の幅を溝底部幅cと表記することができる。
【0028】
なお、
図2に示す構造において、内部フィン3の先端部3aの幅と底部3bの幅が等しいか、略等しい構成でも良い。この場合、管本体5の周方向に隣接する内部フィン3、3間に形成されている直線溝2の溝幅は、溝底部側と溝開口部側において等しいか、略等しい。
なお、本実施形態において内部フィン3の横断面形状は
図2に示す形状に限らず、先端部3aの幅より底部3bの幅が若干小さい逆台形状であっても良く、先端部3aの幅と底部3bの幅が等しい長方形状であっても良い。
【0029】
次に、内面直線溝付押出素管1を構成するアルミニウム合金に含まれている成分元素について説明する。なお、このアルミニウム合金は、後述する捻り引抜加工管である内面螺旋溝付管10を構成するアルミニウム合金でもある。
「Si:0.35質量%以上0.55質量%以下」
Si含有量は、内面直線溝付押出素管1の押出加工性と内面螺旋溝付管の耐圧強度に影響があり、Si含有量が0.35質量%未満の場合、内面螺旋溝付管の耐圧強度が不足し、Si含有量が0.55質量%を超える場合、素管の押出加工性が悪化する。このため、Si含有量は、0.35質量%以上0.55質量%以下が好ましい。Si含有量については、0.40質量%以上0.55質量%以下がより好ましい。
【0030】
「Cu:0.15質量%以下」
Cu含有量は、内面直線溝付押出素管1の押出加工性に影響があり、0.15質量%を超えるCu含有量である場合、素管の押出加工性が悪化する。Cu含有量については、0.04質量%以下がより好ましい。
「Mg:0.45質量%以上0.65質量%以下」
Mg含有量は、内面直線溝付押出素管1の耐圧強度と押出加工性に影響があり、Mg含有量が0.45質量%未満の場合、内面螺旋溝付管の耐圧強度が不足し、Mg含有量が0.65質量%を超える場合、素管の押出加工性が悪化する。このため、Mg含有量は、0.45質量%以上0.65質量%以下が好ましい。Mg含有量については、0.45質量%以上0.60質量%以下がより好ましい。
【0031】
「Mn:0.05質量%以下」
Mn含有量は、内面直線溝付押出素管1の押出加工性に影響があり、Mn含有量が0.05質量%を超える場合、内面直線溝付押出素管1の押出加工性が悪化する。
「Mg2Si:0.71質量%以上1.03質量%以下」
Mg2Si含有量は、内面直線溝付押出素管1の耐圧強度と押出加工性に影響があり、Mg2Si含有量が0.71質量%未満の場合、内面螺旋溝付管の耐圧強度が不足し、Mg2Si含有量が1.03質量%を超える場合、内面直線溝付押出素管1の押出加工性が悪化する。このため、Mg2Si含有量は、0.71質量%以上1.03質量%以下が好ましい。Mg2Si含有量については、0.71質量%以上0.95質量%以下がより好ましい。
「Fe、Ti」
内面直線溝付押出素管1は、前述の成分元素に加え、Feを0.14~0.20%、Tiを0.01~0.05%(質量%)の範囲で含有しても良い。
【0032】
「過剰Si:0.08質量%以上0.29質量%以下」
過剰Si含有量は、内面直線溝付押出素管1の耐圧強度と表面状態の荒れに影響があり、過剰Si含有量が0.08質量%未満の場合、内面直線溝付押出素管1の耐圧強度が不足し、過剰Si含有量が0.29質量%を超える場合、内面直線溝付押出素管1の表面状態の荒れが顕著となり、外見を損ねる問題がある。このため、過剰Si含有量は、0.08質量%以上0.29質量%以下が好ましい。過剰Si含有量については、0.08質量%以上0.25質量%以下がより好ましい。
【0033】
前述のアルミニウム合金に含まれている過剰Si量(質量%)は以下に示す(1)式に従い求めることができる。
過剰Si量=Si-(Mg/1.73) …(1)式
(1)式中のSi、Mgはアルミニウム合金における各元素の含有量(質量%)である。ただし、(1)式の右辺が負の値となる場合、過剰Si量はゼロと見なす。
【0034】
「Mg2Si量(質量%)の定義」
Mg2Si量は、(1)式の右辺に応じて、以下の(2)式および(3)式を用いて求めることができる。
(1)式の右辺がゼロまたは正の値となる場合
Mg2Si量=Mg+(Mg/1.73) …(2)式
(1)式の右辺が負の値となる場合
Mg2Si量=Si+1.73×Si …(3)式
(2)式および(3)式中のSi、Mgはアルミニウム合金における各元素の添加量(質量%)である。
【0035】
図3は、
図1、
図2に示す構成の内面直線溝付押出素管1を捻り引抜加工することにより製造した捻り引抜管である内面螺旋溝付管10を示す。
図3に示す内面螺旋溝付管10は、横断面の外形状が円形の管本体11からなり、管本体11の外径(管本体11の外周面が描く円の直径)は、例えば、3mm以上15mm以下である。管本体11の内周面には、管本体11の長さ方向に沿って螺旋状に形成された内部フィン12が管本体11の内周方向に所定の間隔をあけて20~60個(20~60条)程度設けられている。また、管本体11の内周方向に隣接する螺旋状の内部フィン12、12の間には、所定幅、例えば一定幅の螺旋溝13が形成されている。
【0036】
図3に示すように内面螺旋溝付管10において、螺旋状の内部フィン12と螺旋溝13は管本体11の長さ方向に一定の捻れ角θ1を有し延在されている。
個々の内部フィン12あるいは螺旋溝13の捻り角θ1は、
図3に示すように内面螺旋溝付管10の縦断面を描いた場合、管の内側中心部に表示される螺旋溝13あるいは螺旋状の内部フィン12の直線状に描かれる部分の延長線と管本体11の中心軸線(あるいは中心軸線の平行線)とのなす角度を示す。なお、捻り角θ1は一定である必然性はなく、内面螺旋溝付管10の長さ方向に周期的に異なる捻り角を有する構成でも良い。
【0037】
内面螺旋溝付管10は、先に説明した特許文献1(特許第6169538号公報)あるいは特許文献2(特許第6439222号公報)に記載されている如く、内面直線溝付押出素管1に対し引抜加工と捻り加工を同時に施す捻り引抜加工を施すことで製造されている。
従って、内面螺旋溝付管10に形成されている内部フィン12と螺旋溝13の横断面形状は内面直線溝付押出素管1に形成されていた内部フィン3と直線溝2の横断面形状と類似の形状である。ただし、内部フィン12と螺旋溝13が管の長手方向に螺旋状に形成されている点が異なる。
【0038】
特許文献1(特許第6169538号公報)の
図1に記載されている内面螺旋溝付管の製造装置あるいは特許文献2(特許第6439222号公報)の
図1に記載されている内面螺旋溝付管の製造装置を用い、本願明細書に添付の
図1、
図2に示す内面直線溝付押出素管1に捻り引抜加工を施すことで、
図3に示す内面螺旋溝付管10を得ることができる。
【0039】
内面螺旋溝付管10は、上述の組成を有するアルミニウム合金から形成されている。上述のアルミニウム合金からなる内面螺旋溝付管10は、時効処理することで耐圧強度が向上し、時効処理前は時効処理後よりも強度が低いので上述の特許文献1、2に記載されている内面螺旋溝付管の製造装置による捻り引抜加工に適用する場合に好適である。
時効処理は、150℃以上250℃以下の温度範囲で1時間以上24時間以内保持する条件を選択できる。より好ましくは、180℃以上220℃以下の温度範囲で、1時間以上8時間以内保持する条件を選択できる。時効処理など、製造条件の詳細は後述する。
【0040】
「熱交換器」
図4は、内面螺旋溝付管10を備えた熱交換器15の一例を示す概略図であり、冷媒を通過させるチューブとして内面螺旋溝付管10を蛇行させて設け、この内面螺旋溝付管10の周囲に複数のアルミニウム合金製の板状の外部フィン16を平行に配設した構造である。内面螺旋溝付管10は、
図4に示すように平行に配設した外部フィン16に設けた複数の透孔を通過するように設けられている。
図4に示す熱交換器15において内面螺旋溝付管10は、外部フィン16を直線状に貫通する複数のU字状の主管10Aと、隣接する主管10Aの隣り合う端部開口どうしをU字形のエルボ管10Bで
図4に示すように接続してなる。また、外部フィン16を貫通している内面螺旋溝付管10の一方の端部側に冷媒の入口部17が形成され、内面螺旋溝付管10の他方の端部側に冷媒の出口部18が形成されることで
図4に示す熱交換器15が構成されている。
【0041】
内面螺旋溝付管10の内面に、複数の内部フィン12と螺旋溝13が形成されているので、
図2に示す内面直線溝付押出素管1と同様に、フィン高さ(h’)、フィン頂幅(a’)、フィン底部幅(b’)、溝底部幅(c’)、フィン頂角(θ’)、底肉厚(t’)を策定できる。
内面螺旋溝付管10の底肉厚(t’)は、薄すぎると耐圧強度が不足となり、厚すぎると内部を流れる冷媒に生じる圧力損失が大きくなる。内面螺旋溝付管10の底肉厚(t’)は、0.15mm以上0.30mm以下が好ましい。
内面螺旋溝付管10のフィン頂角(θ’)は、小さすぎると、外部フィン16との接合のための拡管加工において、内部フィン12が倒れやすくなり、また隣り合うフィン頂部3aの間隔が狭くなり冷媒の螺旋溝内部への流れを阻害し伝熱性能が低下する場合がある。逆にフィン頂角θが大きすぎると、内部フィン12と内部フィン12の間に形成される螺旋溝13が狭くなって伝熱性能が低下し、また冷媒の流路となる管内部の断面積が小さくなり管内部を流れる冷媒に生じる圧力損失が大きくなる。内面螺旋溝付管10のフィン頂角(θ’)は、-5°以上30°以下が好ましく、-5°以上22°以下がより好ましく、-5°以上10°以下がさらに好ましい。
【0042】
内面螺旋溝付管10のフィン頂幅(a’)は、小さすぎると押出時にフィン部へアルミが流入し難くなり、内部フィン12の形状が不安定となり、大きすぎると、内部フィン12と内部フィン12の間に形成される螺旋溝13が狭くなって伝熱性能が低下し、また冷媒の流路となる管内部の断面積が小さくなり、管内部を流れる冷媒に生じる圧力損失が大きくなる。内面螺旋溝付管10のフィン頂幅a’は、0.05mm以上0.20mm以下が好ましい。
【0043】
内面螺旋溝付管10の内部フィン12の高さ(h’)は、低すぎると管内面の表面積が小さくなって伝熱性能が低下し、高すぎると冷媒の流路となる管内部の断面積が小さくなり管内部を流れる冷媒に生じる圧力損失が大きくなる。内面螺旋溝付管10のフィン高さ(h’)は、0.15mm以上0.40mm以下が好ましく、0.20mm以上0.40mm以下がより好ましい。
内面螺旋溝付管10の溝底部幅(c’)は、小さすぎると螺旋溝13に保持できる冷媒の量が低下し、伝熱性能が低下し、大きすぎると管内面の表面積が小さくなって伝熱性能が低下する。内面螺旋溝付管10の溝底部幅(c’)は、0.10mm以上0.30mm以下が好ましく、0.25mm以上0.30mm以下がより好ましい。
【0044】
内面螺旋溝付管10の捻り角(θ’)は、小さすぎると冷媒の流れを乱す効果が低下し、伝熱性能が低下し、大きすぎると冷媒の流れに対する抵抗が大きくなり、管内部を流れる冷媒に生じる圧力損失が大きくなる。内面螺旋溝付管10の捻り角(θ’)は、10°以上45°以下が好ましく、10°以上24°以下がより好ましい。
内面螺旋溝付管10のフィン高さを(h’)、フィン幅を(W’)とした場合のh’/W’は、小さすぎると伝熱性能が低下し、大きすぎると外部フィンとの接合のための拡管加工において、内部フィンが倒れやすくなり、管内部を流れる冷媒に生じる圧力損失が大きくなる。内面螺旋溝付管10のフィン高さを(h’)、フィン幅を(W’)とした場合のh’/W’は、0.8以上2.5以下が好ましく、1.54以上2以下がより好ましい。
【0045】
「熱交換器の製造方法」
熱交換器15を製造するには、まず、内面螺旋溝付管をヘアピン加工して主管10Aを形成する。また、内面螺旋溝付管と同等材料からなるアルミニウム合金管を曲げ加工したエルボ管10Bを用意しておく。あるいは、内面螺旋溝付管を曲げ加工してエルボ管10Bを形成しても良い。
次に、並列させた複数の外部フィン16に形成した透孔を貫通するように主管10Aを設け、主管10Aの内部に拡管プラグを挿入して主管10Aを拡管し、外部フィン16と主管10Aとの機械的接合力を確保し、この後に主管10Aの端部同士をエルボ管10Bで接合することにより構成されている。
なお、熱交換器15を製造する場合、主管10Aと外部フィン16との接合に関し、拡管法を用いた機械的接合法に限らず、ろう付け法などの他の接合法による接合を採用しても良い。
【0046】
本願実施形態の内面直線溝付押出素管1は、上述の如く特定量のSi、Cu、Mg、Mn、Mg2Si、過剰Siを有するため、以下に説明する特別な手順で製造し、捻り引抜加工を施し、捻り引抜加工を施した後、時効処理を施す必要がある。
以下に、内面直線溝付押出素管1と内面螺旋溝付管10を用いて熱交換器を製造する方法に関し、内面直線溝付押出素管1の製造から、時効処理を施す工程を含め、製造方法の全体について説明する。
【0047】
「熱交換器製造方法の詳細」
上述した所定の組成となるようにアルミニウム合金の溶湯から半連続鋳造法によりビレットを造塊する。得られたビレットに均質化処理を施す。
均質化処理温度は500℃以上590℃以下が望ましく、より好ましくは540℃以上590℃以下に設定する。均質化処理時間は2時間以上20時間以下が望ましい。
均質化処理後のビレットは、ファン等を用いて100℃以下まで強制冷却する。
【0048】
次いで、押出に先立って押出装置に収容するビレットを加熱するが、その加熱温度は460℃以上560℃以下が望ましい。より好ましくは480℃以上540℃以下にする。ビレットの加熱は大気炉または誘導加熱炉を使用できる。
所定の温度に加熱したビレットを用い、内面直線溝付押出素管1の熱間押出を実施する。
押出後の内面直線溝付押出素管1は室温まで冷却し、必要に応じて亜鉛溶射を施した上で、ドラムにコイル状に巻き取る。
コイル状にドラムに巻き取られた内面直線溝付押出素管1は、特許文献1(特許第6169538号公報)、あるいは、特許文献2(特許第6439222号公報)に記載の方法による内面螺旋溝付管の製造に供することができる。
【0049】
次に、内面螺旋溝付管10として必要な強度を得るための、溶体化処理および時効処理について説明する。
溶体化熱処理の温度は、480℃以上560℃以下が望ましく、より好ましくは510℃以上560℃以下とする。溶体化処理温度における保持時間は、1分以上8時間以下、より好ましくは1分以上1時間以下とする。
溶体化処理時間保持後は、必ず焼入れが必要である。焼入れは、冷却速度が1℃/s以上となるように、ファンによる強制空冷を、必要に応じてウォーターミストの吹き付けと組み合わせて行うか、もしくは冷却水をかけ流す、もしくは冷却水に浸漬する等によって行うことができる。
【0050】
なお、押出時のビレット加熱と溶体化処理を兼ねて行ってもよい。その場合、ビレット加熱兼溶体化処理の温度は、480℃以上540℃以下とし、ビレット加熱兼溶体化処理温度における保持時間は、1分以上であれば、短いほど好ましい。生産性を考慮すると、このましくは1分以上10分以下、さらに好ましくは1分以上5分以下とする。
また、押出時のビレット加熱と溶体化処理を兼ねる場合は、押出直後のプレス出口において、ファンによる強制空冷等の方法で、冷却速度が1℃/s以上となるように、焼入れを行う。
時効処理は、150℃以上250℃以下の温度範囲で1時間以上24時間以内保持する条件とする。より好ましくは、180℃以上220℃以下の温度範囲で、1時間以上8時間以内保持する条件とする。
【0051】
溶体化処理および時効処理は、時効処理が溶体化処理よりも下流側の工程となる条件を満たす範囲で、ビレット加熱~
図4に示す構成の熱交換器が完成するまでの間の任意のタイミングで実施することができる。
以下に、溶体化処理および時効処理のタイミングが異なる第1~第4の製造工程について説明する。
【0052】
図5に、第1の製造工程を例示する。
図5に示す第1の製造工程では、ビレット鋳造、均質化処理後、押出時のビレット加熱と溶体化処理を兼ねて行い、押出直後のプレス出口においてファンによる強制空冷による焼入れを行い、捻り引抜加工後に時効処理を行う工程として実施できる。時効処理した内面螺旋溝付管は必要な長さに切断し、ヘアピン加工により
図4に示したような主管とエルボ管に加工する。これらの主管とエルボ管と外部フィンを用い、必要枚数の外部フィンの透孔に主管を挿通して熱交換器の形状となるように組み立て、主管に拡管プラグを挿入して主管と外部フィンを機械的に接合し、隣接する主管の端部同士をエルボ管で接合することで熱交換器を形成することができる。
【0053】
第1の製造工程の場合、外部フィン組付け後の熱処理が不要であり、外部フィン表面に親水性や耐臭気性等に優れる機能性被膜を有する場合、加熱によりそれらの機能が劣化する恐れが無いという点で好ましい。一方、時効処理によって硬化した内面螺旋溝付管に対し、ヘアピン加工および拡管加工を行う必要があり、それらの加工における管割れや内部フィン倒れ等の問題を生じやすいという点に注意が必要となる。
【0054】
図6に、第2の製造工程を例示する。
図6に示す第2の製造工程では、ビレット鋳造、均質化処理後、押出時のビレット加熱と溶体化処理を兼ねて行い、押出直後のプレス出口においてファンによる強制空冷による焼入れを行う。この後、捻り引抜加工を行い、捻り引抜加工後に切断・ヘアピン加工を行い、引き続いて内面螺旋溝付管を外部フィンの透孔に挿通後拡管する熱交換器組立工程の後に時効処理を実施できる。熱交換器組立工程の詳細は、上述の如く主管とエルボ管と外部フィンを用い、拡管による組立と同様である。
【0055】
第2の製造工程の場合、時効処理によって内面螺旋溝付管が硬化する前にヘアピン加工および拡管加工を行うため、それらの成形において管割れや内部フィン倒れ等の問題を比較的生じにくいという点で好ましい。
一方、この手順においては、外部フィン組付け後に時効処理を行う。このため、時効処理において外部フィンも同時に加熱され、外部フィン表面に親水性や耐臭気性等に優れる機能性被膜を有する場合、加熱によりそれらの機能が劣化する場合がある点に注意が必要となる。
【0056】
図7に、第3の製造工程を例示する。
図7に示す第3の製造工程では、ビレット鋳造、均質化処理後、押出時のビレット加熱を行い、押出直後において大気中で常温まで放冷することが好ましい。なお、押出出口においてファンによる強制空冷による焼入れを行っても良い。
この後、捻り引抜加工を行い、捻り引抜加工後に焼きなまし処理を行い、次いで切断・ヘアピン加工を行い、引き続いて内面螺旋溝付管を外部フィンの透孔に挿通後拡管する熱交換器組立工程の後に時効処理を行うことができる。熱交換器組立工程の詳細は、上述の如く主管とエルボ管と外部フィンを用い、拡管による組立と同様である。
【0057】
第3の製造工程では、内面直線溝付押出素管に対し捻り引抜加工を行った後、焼きなましを行って内面螺旋溝付管をO調質とする。その後、切断・ヘアピン加工を行い、引き続いて内面螺旋溝付管を外部フィンの透孔に挿通後、拡管する熱交換器組立工程を行い、その後に溶体化処理および時効処理を行う。
ここで、焼きなまし条件は内面螺旋溝付管がO調質となる範囲で任意の条件で行うことができるが、バッチ処理の場合、大気炉を用い、330~380℃で1~8時間保持する条件を選択することができる。この場合、焼きなましたO調質の状態でヘアピン加工・拡管加工を行うため、それらの成形において割れや内部フィン倒れ等の問題を生じにくいという点で好ましい。
【0058】
また、溶体化処理と時効処理の間に長時間を要しないため、時効処理後の強度が安定しやすいという点も、この第3の製造工程の好ましい点として挙げることができる。
一方、第3の製造工程においては、外部フィン組付け後に溶体化処理および時効処理を行うため、溶体化処理および時効処理において外部フィンも同時に加熱され、外部フィン表面に親水性や耐臭気性等に優れる機能性被膜を有する場合、加熱によりそれらの機能が劣化する場合がある点に注意が必要となる。
【0059】
図8に、第4の製造工程を例示する。
図8に示す第4の製造工程では、ビレット鋳造、均質化処理後、押出時のビレット加熱を行い、押出直後において大気中で常温まで放冷することが好ましい。なお、押出出口においてファンによる強制空冷による焼入れを行っても良い。
この後、押出後の内面直線溝付押出素管の表面に亜鉛溶射を施した上で、捻り引抜加工を行う。その後、溶体化処理を兼ねた亜鉛拡散熱処理を行い、溶体化処理を兼ねた亜鉛拡散熱処理の後にファンによる強制空冷等の方法で焼入れを行う。
【0060】
この後、引き続き時効処理を行うことができる。ここで、溶体化処理を兼ねた亜鉛拡散熱処理は、480℃以上560℃以下で30分以上8時間以下、より好ましくは480℃以上520℃以下で30分以上8時間以下の条件で、内面螺旋溝付管の厚さ方向に必要な亜鉛拡散深さが得られるように選択することができる。
時効処理後、内面螺旋溝付管を外部フィンの透孔に挿通後拡管する熱交換器組立工程を行うことができる。熱交換器組立工程の詳細は、上述の如く主管とエルボ管と外部フィンを用い、拡管による組立と同様である。
【0061】
この場合、内面螺旋溝付管の外表面に亜鉛溶射層が形成されるため、熱交換器に組付けた後に熱交換器として長期間使用する場合の耐食性に優れるという点で好ましい。更に、外部フィン組付け後の熱処理が不要である。また、外部フィン表面に親水性や耐臭気性等に優れる機能性被膜を有する場合、加熱によりそれらの機能が劣化する恐れが無いという点も第4の製造工程の好ましい点として挙げることができる。
一方、時効処理によって硬化した内面螺旋溝付管に対し、ヘアピン加工および拡管加工を行う必要があり、それらの加工における管割れや内部フィン倒れ等の問題を生じやすいという点に注意が必要である。
【0062】
図9に、第5の製造工程を例示する。
図9に示す第5の製造工程では、ビレット鋳造、均質化処理後、押出時のビレット加熱を行い、押出後に押出素管表面に亜鉛溶射を施した上で、捻り引抜加工を行う。
その後、溶体化処理を兼ねた亜鉛拡散熱処理を行い、溶体化処理を兼ねた亜鉛拡散熱処理の後にファンによる強制空冷等の方法で焼入れを行う。
その後、切断・ヘアピン加工を行い、引き続いて内面螺旋溝付管を外部フィンの透孔に挿通後拡管する熱交換器組立工程を行い、その後に時効処理を行うことができる。熱交換器組立工程の詳細は、上述の如く主管とエルボ管と外部フィンを用い、拡管による組立と同様である。
【0063】
第5の製造工程の場合、内面螺旋溝付管の外表面に亜鉛溶射層が形成されるため、熱交換器に組付けた後に熱交換器として長期間使用する場合の耐食性に優れるという点で好ましい。また、時効処理によって内面螺旋溝付管が硬化する前にヘアピン加工および拡管加工を行うため、それらの成形において管割れや外部フィン倒れ等の問題を比較的生じにくいという点も好ましい点として挙げることができる。
一方、第5の製造工程においては、外部フィン組付け後に時効処理を行うため、時効処理においてフィンも同時に加熱され、外部フィン表面に親水性や耐臭気性等に優れる機能性被膜を有する場合、加熱によりそれらの機能が劣化する場合がある点に注意が必要である。
【0064】
図10に、第6の製造工程を例示する。
図10に示す第6の製造工程では、ビレット鋳造、均質化処理後、押出時のビレット加熱を行い、押出後に押出素管表面に亜鉛溶射を施す。この後、捻り引抜加工を行った後に亜鉛拡散熱処理を行い、その後切断・ヘアピン加工を行う。
引き続いて内面螺旋溝付管を外部フィンの透孔に挿通後拡管する熱交換器組立工程を行い、その後に溶体化処理および時効処理を行うことができる。熱交換器組立工程の詳細は、上述の如く主管とエルボ管と外部フィンを用い、拡管による組立と同様である。
【0065】
第6の製造工程の場合、内面螺旋溝付管の外表面に亜鉛溶射層が形成されるため、熱交換器に組付けた後に熱交換器として長期間使用する場合の耐食性に優れるという点で好ましい。また、亜鉛拡散熱処理によって螺旋溝付管がO調質になるため、O調質の状態でヘアピン加工・拡管加工を行うことができ、それらの成形において管割れや外部フィン倒れ等の問題を生じにくいという点で好ましい。
更に、溶体化処理と時効処理の間に長時間を要しないため、時効処理後の強度が安定しやすいという点も、第6の製造工程の好ましい点として挙げることができる。
一方、第6の製造工程においては、外部フィン組付け後に溶体化処理および時効処理を行うため、溶体化処理および時効処理において外部フィンも同時に加熱され、外部フィン表面に親水性や耐臭気性等に優れる機能性被膜を有する場合、加熱によりそれらの機能が劣化する場合がある点に注意が必要である。
【0066】
なお、溶体化処理および時効処理は、前述のとおり、第1~第6の製造工程に示した以外であっても、時効処理が溶体化処理よりも下流側の工程となる条件を満たす範囲で、ビレット加熱~熱交換器完成までの間の任意のタイミングで実施することができる。
溶体化処理および焼入れのタイミングよっては、内面直線溝付押出素管もしくは内面螺旋溝付管をドラムにコイル状に巻きつけた状態で熱処理を行う場合も選択できる。
この場合、コイル状に巻き付けた内面直線溝付押出素管もしくは内面螺旋溝付管において、昇温速度や冷却速度に分布が生じやすいことに留意する必要がある。特に、溶体化処理に引き続く焼入れの場合、コイル状の内部の冷却速度が外部よりも遅くなる点に留意が必要であるが、コイル状に巻いた内面直線溝付押出素管もしくは内面螺旋溝付管の全体において、冷却速度が1℃/s以上となるように冷却すればよい。
【0067】
内面直線溝付押出素管1の場合、D/tが大きい場合、またアルミニウム合金に含まれる過剰Si量が多い場合、押出時に押出金型出口にアルミ堆積物を生成しやすくなる。
このため、押出中に金型からアルミ堆積物が剥離して押出製品外表面に付着する、いわゆる「アルミカス」が生じやすくなる。
以上説明の製造工程においては、上述の如くSi、Cu、Mg、Mn、Mg2Si、過剰Siを特定した組成のアルミニウム合金から内面直線溝付押出素管1を形成したので、h/Wが0.7以上、D/tが26以上である内面直線溝付押出素管1であっても、アルミカスを生じることなく押出ができ、外観不良とならない内面直線溝付押出素管1を製造できる。
また、捻り引抜加工後に時効処理を施して内面螺旋溝付管10を製造するので、捻り引抜加工時に管の破断や折損を引き起こすことなく内面螺旋溝付管10を製造できる。
【0068】
更に、上述の如くSi、Cu、Mg、Mn、Mg2Si、過剰Siを特定した組成のアルミニウム合金から内面螺旋溝付管10を形成しているので、熱交換器を構成した場合、耐圧性能に優れ、冷媒による圧力を受けても冷媒漏れなどの心配のない熱交換器を提供できる。
内面螺旋溝付管10は上述の如くSi、Cu、Mg、Mn、Mg2Si、過剰Siを特定した組成のアルミニウム合金から構成されているので、表面状態に優れ、外観不良とならない熱交換器を提供できる。
【実施例】
【0069】
表1に示す合金成分となるよう、直径およそ200mmの押出用ビレットを半連続鋳造により作製した。表1に示す合金成分以外の成分として、いずれの合金においてもFeを0.14~0.20%、Tiを0.01~0.05%(質量%)の範囲で含有させた。
【0070】
【0071】
作製した押出用ビレットに対し、560℃で6時間の均質化処理を実施し、その後、100℃以下までファン空冷した。
均質化処理後の押出用ビレットに対し、熱間押出に供するためのビレット加熱として、溶体化処理を兼ねて、誘導加熱炉により510℃に加熱した。
510℃に到達した押出用ビレットを熱間押出機に搬送し、熱間押出を行い、表2に示すフィンの条数(内部フィン数)、外径、底肉厚、フィン頂角、フィン頂幅、フィン高さ、D/t、h/Wを有する内面直線溝付押出素管を作製した。
【0072】
【0073】
押出用ビレットが510℃に到達してからの保持時間は約2分であった。ダイスから得られた表2に示す形状の内面直線溝付押出素管に対し押出直後に水冷を行い、冷却速度が1℃/s以上となる条件で、100℃以下まで冷却した。
得られた内面直線溝付押出素管に対し、特許第6439222号に記載の捻り引抜装置を用いる方法で2回の捻り引抜加工を付与し、表2に示す内部フィン形状(外径、底肉厚、フィン頂角、フィン頂幅、フィン高さ)の内面螺旋溝付管に加工した。なお、特許第6439222号に記載の捻り引抜装置は、捻り引抜加工を施す第1の引抜ダイスと第2の引抜ダイスを備えているので、実質的に内面直線溝付押出素管1を捻り引抜装置に1回通すことにより内面螺旋溝付管を作製している。
捻り引抜加工後、内面螺旋溝付管に対し195℃で2時間半の時効処理を施した。
表2に示す内面螺旋溝付管の形状について伝熱性能を比較したところ、φ5-0.20tおよびφ4-0.18tの内面螺旋溝付管の伝熱特性が特に優れていた。次いで、φ7-0.25tおよびφ5-0.25tの内面螺旋溝付管の伝熱性能が優れていたが、φ7‐0.30tの内面螺旋溝付管も一定の伝熱性能を満足した。
【0074】
「外観(アルミカス)評価方法および評価基準」
(アルミカスの詳細説明)
内面直線溝付押出素管において、外径をD(mm)、底肉厚をt(mm)とすると、D/tが大きい場合、またアルミニウム合金に含まれる過剰Si量が多い場合、押出時に押出金型出口にアルミ堆積物を生成しやすくなる。このため、押出中に金型からアルミ堆積物が剥離して押出製品外表面に付着する、いわゆる「アルミカス」が生じやすくなる。
押出製品外表面に付着した「アルミカス」の個々のサイズは直径で凡そ0.1mm前後であるが、押出製品表面とアルミカス表面とでは光沢が異なるため、アルミカスが外観上目立つことによって、外観不良として問題になる場合がある。
【0075】
また、アルミカスが生成された場合、押出工程に引き続く捻り引抜加工において、アルミカスが内面直線溝付押出素管の外表面から管断面の半径方向内側に向けて押し込まれることにより、捻り引抜加工において素管の縮径により生じる素管周方向の圧縮応力による素管の座屈を引き起こす場合がある。
さらに、捻り引抜加工における素管の座屈が生じない場合においても、得られた捻り引抜製品において、アルミカスが押し込まれた部位が応力集中の起点となり、耐圧強度の低下をもたらす場合がある。
以上のような事情から、アルミカスの発生は抑制する必要があり、アルミカスの発生を避けるために押出速度を低下させる必要性が生じる。
【0076】
(アルミカス付着調査)
押出速度45m/minで熱間押出加工を行い、得られた押出素管の外表面へのアルミカスの付着状況を調査した。
アルミカスとは、押出金型出口近傍に付着したアルミの堆積物が金型から剥離し、押出製品外面に付着したものである。個々の付着物のサイズは直径で凡そ0.1mm前後と微細であるが、押出製品表面とは光沢が異なるため、目視で十分に検出可能である。
長さ1mの押出素管を採取し、外表面全体のアルミカス付着状況を目視で確認した。
アルミカス付着状態の評価基準は、押出素管1mあたりのアルミカス付着数が3個以上を×、1個以上3個未満を△、0個を〇と評価した。
【0077】
「押出性評価方法および評価基準」
押出速度45m/minで押出加工を行い、得られた押出素管内面に形成された内部フィンの形状を測定し、押出性を評価した。
内部フィンの形状測定方法について説明する。押出素管を、押出方向長さ20mm程度となるように、押出方向に垂直な断面において切断し、内部フィン形状測定用の押出素管小片を得た。前記小片の管内面側および外面側全体を、常温硬化エポキシ樹脂に包埋し、常温放置により硬化させた。硬化したエポキシ樹脂に包埋された小片の押出方向に垂直な断面をエポキシ樹脂ともに、エメリー研磨紙を用いて研磨した。研磨の仕上げは、エメリー研磨紙#1000により行った。
【0078】
仕上げ研磨後の押出素管の押出方向に垂直な断面をキーエンス社製のデジタルマイクロスコープにより撮像し、押出素管内面に形成された内部フィンの先端幅を測定した。アルミニウム合金が押出性に劣る場合、素管の押出加工におけるフィン部へのアルミの流入が不十分となり、内部フィンの幅が細くなる不具合が生じやすくなる。測定された内部フィン先端幅が、設計値に対して70%以下となっている場合を押出性×、70%を超えて85%以下となっている場合を押出性△、85%を超える場合を押出性〇として評価した。
【0079】
「捩じり加工性評価方法および評価基準」
得られた押出素管に対し、特許第6439222号に記載の捻り引抜装置を用いる方法で2回の引抜・捩じり加工を付与し、表2に示す形状の内面螺旋溝付管に加工した。
その際、2回目の引抜を行う第2の引抜ダイスの後段に備えられている第2のガイドキャプスタンに押出素管を巻き掛けた段階において、押出素管が加工負荷に耐えられず破断する場合があった。
第2のガイドキャプスタンに管材を巻き掛けることは、安定した捩じり引抜成形を行うための張力を負荷するために必要であるため、第2のガイドキャプスタンに押出素管を巻き掛けた段階において押出素管が破断する場合は、捻り加工性×として評価した。
これに対し、押出素管の破断を生じることなく第2のガイドキャプスタンに押出素管を巻き付けることが可能であった場合は、捩じり加工性〇として評価した。
【0080】
「耐圧性能」
時効処理を施した後の内面螺旋溝付管を耐圧試験に供した。
内面螺旋溝付管の軸方向の長さがおよそ150mmとなるように内面螺旋溝付管を切断し、両端にソケットを取り付けた。一端のソケットを圧力計を介し水圧ポンプに接続した。水圧ポンプから内面螺旋溝付管内に水を送り、内面螺旋溝付管の逆側の末端までを管内部に水で満たした状態で、他方のソケットをプラグにより封止した。
その後、水圧ポンプを稼働させ、およそ0.5MPa/sの昇圧速度で内面螺旋溝付管内の水圧を増加させた。その際、内面螺旋溝付管が管内部の水圧に耐え切れず破裂した際の限界の水圧を、内面螺旋溝付管の「耐圧値」として測定した。耐圧値が15MPa以上の場合を〇、15MPa未満の場合を×として、内面螺旋溝付管の耐圧性能を評価した。
以上の評価結果をまとめて表3に記載する。
【0081】
【0082】
先の表1に示すように、実施例1~16のアルミニウム合金は、Si:0.35質量%以上0.55質量%以下、Cu:0.15質量%以下、Mg:0.45質量%以上0.65質量%以下、Mn:0.05質量%以下、Mg2Si:0.71質量%以上1.03質量%以下、過剰Si:0.08質量%以上0.29質量%以下を含有し、残部不可避不純物とアルミニウムからなるアルミニウム合金である。
実施例1~16に記載のアルミニウム合金を用い、表2に示す形状の内面直線溝付押出素管を押出成形し、特許第6439222号に記載の捻り引抜装置を用いる方法で2回の捻り引抜加工を付与することで表2に示す形状の内面螺旋溝付管を製造することができた。
実施例1~16に記載のアルミニウム合金を用いて内面直線溝付押出素管を作製し、この内面直線溝付押出素管を用いて内面螺旋溝付管を製造すると、押出性が良好であり、捻り加工性に優れ、底肉厚tを0.3mm以下とした場合の耐圧試験の評価が良好で表面状態も良好な内面螺旋溝付管を製造することができた。
【0083】
表1に示すように比較例1は、SiとMgとMg2Siの含有量を上述の範囲から外した試料(外径7mm)、比較例2、3はSiとMg2Siの含有量を上述の範囲より低くした試料(外径7mm)であるが、いずれも表3に示すように耐圧性能が低下した。
比較例4、5は、SiとMg2Siの含有量を上述の範囲より多くした試料(外径7mm)であるが、いずれも表面状態が悪化した。
比較例6、7は、CuとMgとMnとMg2Siの含有量を上述の範囲より多くした試料(外径7mm)であるが、押出加工時に内部フィンの幅が細くなる不具合を生じ、捻り引抜加工する場合に破断した。
【0084】
比較例8は、SiとMgとMg2Siの含有量を上述の範囲から外した試料(外径5mm)、比較例9はSiと過剰Siの含有量を上述の範囲より低くした試料(外径5mm)であるが、いずれも耐圧性能が低下した。
比較例10は、Siと過剰Siの含有量を上述の範囲より多くした試料(外径5mm)であるが、表面状態が悪化した。
比較例11は、SiとCuとMgとMnとMg2Siの含有量を上述の範囲より多くした試料(外径5mm)であるが、押出加工時に内部フィンの幅が細くなる不具合を生じ、捻り引抜加工する場合に破断した。
【0085】
比較例12は、SiとMgとMg2Siと過剰Siの含有量を上述の範囲より少なくした試料(外径5mm)であるが、耐圧性能が低下した。
比較例13は、SiとMgとMg2Siの含有量を上述の範囲より少なくした試料(外径4mm)、比較例14はSiと過剰Siの含有量を上述の範囲より少なくした試料(外径4mm)であるが、いずれも耐圧性能が低下した。
比較例15は、SiとCuとMgとMnとMg2Siの含有量を上述の範囲より多くした試料(外径4mm)であるが、押出加工時に内部フィンの幅が細くなる不具合を生じ、捻り引抜加工する場合に破断した。
【0086】
実施例1、3は上述のSi含有量の範囲内の試料であるが、Si含有量を低く抑えた試料であり、底肉厚0.3mmの場合は耐圧性能を確保できるが、底肉厚を0.25mmとすると表3に示すように耐圧性が低下した。このことから、Si含有量について0.40質量%以上0.55質量%以下であることがより好ましいと分かる。
【0087】
実施例9は上述のCu含有量範囲、Mg含有量範囲、Mg2Si含有量範囲であるが、押出性が若干低下した。また、実施例2、8では押出性は低下していない。
また、実施例11、12、15、16でも同様な傾向が見られる。更に、実施例2、8、9、11、12、15、16の比較から、Cu含有量0.04質量%以下、Mg含有量0.45質量%以上0.60質量%以下、Mg2Si含有量0.71質量%以上0.95質量%以下のアルミニウム合金であることがより好ましいと考えられる。
【符号の説明】
【0088】
1…内面直線溝付押出素管、2…直線溝、3…内部フィン、5…管本体、5a…外周面、5b…内周面、10…内面螺旋溝付管、10A…主管、10B…エルボ管、11…管本体、12…内部フィン、13…螺旋溝、15…熱交換器、16…外部フィン。