(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-15
(45)【発行日】2023-12-25
(54)【発明の名称】液体吐出ヘッド用基板の製造方法および液体吐出ヘッドの製造方法
(51)【国際特許分類】
B41J 2/16 20060101AFI20231218BHJP
B41J 2/14 20060101ALI20231218BHJP
【FI】
B41J2/16 101
B41J2/16 509
B41J2/14 611
(21)【出願番号】P 2021131994
(22)【出願日】2021-08-13
【審査請求日】2022-07-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001243
【氏名又は名称】弁理士法人谷・阿部特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】南 聖子
(72)【発明者】
【氏名】和 秀憲
(72)【発明者】
【氏名】山口 孝明
(72)【発明者】
【氏名】平山 信之
(72)【発明者】
【氏名】窪田 恭平
(72)【発明者】
【氏名】西村 優
【審査官】亀田 宏之
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-145769(JP,A)
【文献】特開2006-198884(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0219928(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01-2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板にマスクパターンを介して分割して露光することで分割パターンを形成する分割露光工程と、
基板にマスクパターンを介して一括して露光することで一括パターンを形成する一括露光工程と、を有した液体吐出ヘッド用基板の製造方法であって、
前記基板に、第1部分よりも加工精度が求められる第2部分と、前記第2部分よりも位置精度が求められる前記第1部分と、を設定する設定工程と、
前記基板に吐出機能膜を形成する吐出機能膜形成工程と、
前記基板に液体流路を形成する液体流路形成工程と、
を更に有し、
前記吐出機能膜形成工程では、液体を吐出する際のエネルギとなる熱を発生する発熱抵抗素子を形成し、
前記液体流路形成工程では、液体供給路と、発泡室と、吐出口とを形成し、
前記第1部分は、前記一括露光工程によって前記一括パターンを形成し、
前記第2部分は、前記分割露光工程によって前記分割パターンを形成
し、
前記発熱抵抗素子の形成において、前記発熱抵抗素子は前記第1部分に設定され、前記一括露光工程によって発熱抵抗素子用パターンが形成され、
前記吐出口の形成において、前記吐出口は前記第1部分に設定され、前記一括露光工程によって吐出口用パターンが形成されることを特徴とする液体吐出ヘッド用基板の製造方法。
【請求項2】
前記基板にロジック回路を形成するロジック回路形成工程を更に有し、
前記ロジック回路形成工程では、トランジスタ層と、ロジック配線と、前記トランジスタ層と前記ロジック配線とを繋ぐコンタクトと、を形成する請求項1に記載の液体吐出ヘッド用基板の製造方法。
【請求項3】
前記ロジック配線の形成において、前記ロジック配線は前記第2部分に設定され、前記分割露光工程によってロジック配線用パターンが形成される請求項2に記載の液体吐出ヘッド用基板の製造方法。
【請求項4】
前記コンタクトの形成において、前記コンタクトは前記第2部分に設定され、前記分割露光工程によってコンタクト用パターンが形成される請求項2または3に記載の液体吐出ヘッド用基板の製造方法。
【請求項5】
前記基板に電源配線を形成する電源配線形成工程を更に有し、
前記電源配線形成工程では、前記電源配線は、前記第2部分に設定され、前記分割露光工程によって電源配線用マスクパターンが形成される請求項1ないし4のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッド用基板の製造方法。
【請求項6】
前記吐出機能膜形成工程では
、前記発熱抵抗素子に電流を流すためのスルーホー
ルをさらに形成する請求項1ないし5のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッド用基板の製造方法。
【請求項7】
前記スルーホールは、前記第2部分に設定され、前記分割露光工程によってスルーホール用パターンが形成される請求項6に記載の液体吐出ヘッド用基板の製造方法。
【請求項8】
前記液体供給路の形成において、前記液体供給路は前記第1部分に設定され、前記一括露光工程によって液体供給路用パターンが形成される請求項
1ないし6のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッド用基板の製造方法。
【請求項9】
前記発泡室の形成において、前記発泡室は前記第1部分に設定され、前記一括露光工程によって発泡室用パターンが形成される請求項
1ないし7のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッド用基板の製造方法。
【請求項10】
基板にマスクパターンを介して分割して露光することで分割パターンを形成する分割露光工程と、
基板にマスクパターンを介して一括して露光することで一括パターンを形成する一括露光工程と、を有した液体吐出ヘッドの製造方法であって、
前記基板に、第1部分よりも加工精度が求められる第2部分と、前記第2部分よりも位置精度が求められる前記第1部分と、を設定する設定工程と、
前記基板に吐出機能膜を形成する吐出機能膜形成工程と、
前記基板に液体流路を形成する液体流路形成工程と、
を更に有し、
前記吐出機能膜形成工程では、液体を吐出する際のエネルギとなる熱を発生する発熱抵抗素子を形成し、
前記液体流路形成工程では、液体供給路と、発泡室と、吐出口とを形成し、
前記第1部分は、前記一括露光工程によって前記一括パターンを形成し、
前記第2部分は、前記分割露光工程によって前記分割パターンを形成し、
前記発熱抵抗素子の形成において、前記発熱抵抗素子は前記第1部分に設定され、前記一括露光工程によって発熱抵抗素子用パターンが形成され、
前記吐出口の形成において、前記吐出口は前記第1部分に設定され、前記一括露光工程によって吐出口用パターンが形成される液体吐出ヘッドの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体吐出ヘッド用基板の製造方法および液体吐出ヘッドの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の液体吐出ヘッドによる高速印刷に伴い、ノズルが長尺となり、発熱抵抗素子、ロジック回路、電源配線のそれぞれの数が増加して液体吐出ヘッド用チップが大型化している。また、大型化する液体吐出ヘッド用チップをできる限り小型化するべく、発熱抵抗素子、ロジック回路、電源配線等は微細化している。このような微細化した素子や配線を液体吐出ヘッド用チップに設けるには、半導体露光装置を用いて、微細な電子回路のパターンが描かれたフォトマスクをレンズで縮小して、素子基板に焼き付ける。これらの観点から微細加工ができる高解像半導体露光装置が必要である。しかしながら、高解像度と大画角を両立した半導体露光装置がない。そのため、チップサイズが半導体露光装置の画角に入りきらない場合、チップ内のパターンを分割して、つなぎ合わせて高解像度の半導体露光装置を用いて露光する分割露光技術が用いられている。
【0003】
特許文献1には、複数のパターンをつなぎ合わせて露光するつなぎ露光技術について記載されている。詳しくは、パターンのつなぎ位置を跨がない配線は、微細加工対応の縮小投影装置によって分割露光を行い、つなぎ位置を跨ぐ配線については、露光面積の大きな縮小投影装置によって一括露光することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の方法を用いる場合、複数の発熱抵抗素子部を含む吐出機能膜及び液体流路がつなぎ位置を跨がずに形成されている液体吐出ヘッド用基板では、吐出機能膜及び液体流路は、高解像度の半導体露光装置を用いて分割露光されることで形成される。分割露光では、高解像度に形成はできるものの、分割露光境界で発熱抵抗素子の発熱抵抗素子部を含む吐出機能膜および液体流路の中心位置の相対関係が変わるため、吐出方向のヨレを引き起こし、記録する画像の品位が低下する虞があった。
【0006】
よって本発明は、記録画像の品位低下を抑制することができる液体吐出ヘッド用基板の製造方法および液体吐出ヘッドの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
そのため本発明の液体吐出ヘッド用基板の製造方法は、基板にマスクパターンを介して分割して露光することで分割パターンを形成する分割露光工程と、基板にマスクパターンを介して一括して露光することで一括パターンを形成する一括露光工程と、を有した液体吐出ヘッド用基板の製造方法であって、前記基板に、第1部分よりも加工精度が求められる第2部分と、前記第2部分よりも位置精度が求められる前記第1部分と、を設定する設定工程と、を更に有し、前記第1部分は、前記一括露光工程によって前記一括パターンを形成し、前記第2部分は、前記分割露光工程によって前記分割パターンを形成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
そのため本発明の液体吐出ヘッド用基板の製造方法は、基板にマスクパターンを介して分割して露光することで分割パターンを形成する分割露光工程と、基板にマスクパターンを介して一括して露光することで一括パターンを形成する一括露光工程と、を有した液体吐出ヘッド用基板の製造方法であって、前記基板に、第1部分よりも加工精度が求められる第2部分と、前記第2部分よりも位置精度が求められる前記第1部分と、を設定する設定工程と、前記基板に吐出機能膜を形成する吐出機能膜形成工程と、前記基板に液体流路を形成する液体流路形成工程と、を更に有し、前記吐出機能膜形成工程では、液体を吐出する際のエネルギとなる熱を発生する発熱抵抗素子を形成し、前記液体流路形成工程では、液体供給路と、発泡室と、吐出口とを形成し、前記第1部分は、前記一括露光工程によって前記一括パターンを形成し、前記第2部分は、前記分割露光工程によって前記分割パターンを形成し、前記発熱抵抗素子の形成において、前記発熱抵抗素子は前記第1部分に設定され、前記一括露光工程によって発熱抵抗素子用パターンが形成され、前記吐出口の形成において、前記吐出口は前記第1部分に設定され、前記一括露光工程によって吐出口用パターンが形成されることを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】液体吐出ヘッド用基板を示した斜視図である。
【
図3】液体吐出ヘッド用基板の形成処理を示したフローチャートである。
【
図4】(a)は分割露光を説明する図であり(b)は一括露光を説明する図である。
【
図5】チップにおける電源配線と分割露光境界エリアを示した拡大図である。
【
図6】チップ内の電気的に分離した電源配線を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して本発明の第1の実施形態について説明する。
【0011】
図1は、本実施形態における液体吐出ヘッド用基板8を示した斜視図である。液体吐出ヘッド用基板8は、吐出口3が形成された液体流路部6と、発熱抵抗素子2や液体供給路5やパッド7が形成された素子基板1とが、積層されて形成されている。また、液体流路部6と素子基板1とが積層されることで、発泡室4が形成されている。吐出口3は、発熱抵抗素子2と対向する位置に設けられており、液体供給路5から発泡室4に供給された液体は、発熱抵抗素子2の熱によって生じる膜沸騰のエネルギによって吐出口3から吐出される。
【0012】
図2は、本実施形態における液体吐出ヘッド用基板8の部分断面図である。素子基板1には、発熱抵抗素子2と液体供給路5とが設けられており、素子基板1の上に吐出口3を形成した流路形成部6が設けられている。また、素子基板1は、Siにより形成される基材を有し、基材の上に、ロジック回路21、電源配線15、発熱抵抗素子2を含む吐出機能膜が層を成して形成されている。このような液体吐出ヘッド用基板8は、ロジック回路形成工程、電源配線形成工程、吐出機能膜形成工程、液体流路部を形成する工程を経て製造される。
【0013】
図3(a)は、本実施形態における液体吐出ヘッド用基板8の形成処理を示したフローチャートである。また、
図3(b)は、液体吐出ヘッド用基板8の形成処理における各処理のサブルーチン処理を示したフローチャートである。液体吐出ヘッド用基板8の形成処理での各処理におけるサブルーチン処理は同様の処理となっている。
図3(b)では、ロジック回路形成処理のサブルーチン処理を例として示している。また、
図4(a)は、半導体露光装置における分割露光を説明する図であり、
図4(b)は、半導体露光装置における一括露光を説明する図である。また、
図5(a)は、チップ表層を示した図であり、
図5(b)は、チップ内における電気的に連続な電源配線を示した図である。
図5(c)、(d)は、チップ中央部における分割露光境界を含む分割露光境界エリアを示した拡大図である。
【0014】
半導体の製造工程では、半導体露光装置を用いて光を露光することで、電子回路のパターンが描かれたフォトマスクをレンズで縮小して、電子回路のパターンを素子基板に焼き付ける。本実施形態では、比較的サイズの大きい大チップを採用している。
【0015】
半導体露光装置による露光方法には、一括露光方法と分割露光方法とがある。一括露光方法は、チップを一括で露光する方法であり、解像度が低くなるが、大画角でありパターンに繋ぎ部が無いことから、パターンの回路において相対関係が変わることはない。また、分割露光方法は、チップに対して分割で露光する方法であり、高解像度が得られるが、パターンにつなぎ部が生じるため、つなぎ部の配線幅、配線間にスペースを余分設ける必要がある。また、つなぎ部ではパターンの中心位置にずれが生じることがあるため、パターンの相対関係が変わることがある。このように、一括露光方法と分割露光方法とには、一長一短があり、露光個所によって使い分けることが望ましい。
【0016】
そこで、本実施形態では、チップに焼き付けるパターンにおいて、パターンの各部分を、相対的な位置関係に、より精度が求められる部分または加工に高い精度を要さない部分と、加工に、より精度が求められる部分とに分ける。そして、相対的な位置関係に、より精度(位置精度)が求められる部分または加工に高い精度を要さない部分を第1部分として、第1部分には一括露光方法を採用する。また、加工により高い精度が求められる部分を第2部分として、第2部分には分割露光方法を採用する。液体吐出ヘッド用基板8において、相対的な位置関係に、より精度が求められる部分(第1部分)とは、例えば、発熱抵抗素子部等であり、大画角の半導体露光装置を用いて一括露光される。また、加工に、より精度が求められる部分(第2部分)とは、ロジック回路やスルーホール部等であり画角の小さな高解像度露光装置を用いて分割露光される。このように、基板を形成するに当たり、基板に第1部分と第2部分とを設定し、一括露光と分割露光とを使い分けてパターンの形成を行う。以下、液体吐出ヘッド用基板8の製造工程を工程順に説明する。
【0017】
第1の工程であるロジック回路形成工程(
図3(a)におけるロジック回路形成処理S001)について説明する。ロジック回路形成工程には、トランジスタ層形成工程と、トランジスタ層とロジック配線と両者を繋ぐコンタクト形成工程と、ロジック配線形成工程とを含む。そして、トランジスタ層形成工程は、ウエル形成工程、素子分離形成工程、ゲート電極形成工程、ソース・ドレイン形成工程、相関絶縁膜形成工程を含む。これらの各工程で形成されるロジック回路用パターンを形成するに当たり、各部を、第1部分と、第2部分とに分けて、大画角の半導体露光装置と高解像度露光装置とを使い分けて露光を行う。
【0018】
まず、トランジスタ層形成工程でトランジスタ層を形成する。始めに、基板素子1にウエル20を形成する。ここでは、高解像度の半導体露光装置を用いてもよいが、大チップにおいては、チップを分割露光する必要があり工数を要する。そこで、ウエル20を形成する工程では大画角の半導体露光装置を使用して一括露光することでパターン(一括パターン)を形成する。使用する大画角の半導体露光装置の画角は52mm×56mmであり、大チップを一括露光することが可能である。また、光源には紫外域の波長365nmのi線を使用しており、解像力≦500nmであるため、ウエル形成に十分な解像度である。
【0019】
次に、素子分離形成工程で素子分離18を形成する(
図2参照)。素子分離形成工程では、小スペースで個々のトランジスタが独立して動作するように、隣り合う他のトランジスタとの領域を分離する必要があり、狭い分離幅を高精度に加工できるフォトリソプロセスが必要である。そのため、素子分離形成工程では高い解像力で露光する必要があるため、素子分離部分を第2部分とみなし(
図3(b)におけるS011でN判定)、高解像度の半導体露光装置を使用して分割露光によりパターン(分割パターン)の形成を行う。使用する高解像度の半導体露光装置は、光源には紫外域の波長365nmのi線を使用しており、解像力≦350nmであり、素子分離18の形成には十分な解像度である。画角は26mm×33mmであるため、大チップにおいてはチップを分割して露光する必要がある。
【0020】
次にゲート電極形成工程でゲート電極23を形成する(
図2、
図5(d)参照)。ゲート電極23の線幅がトランジスタ特性のバラつきに大きく影響する。そのため加工精度が必要な工程であり、素子分離工程と同様に、ゲート電極23を第2部分とみなし(
図3(b)におけるS011でN判定)、高解像度の半導体露光装置を用いてチップを分割露光してパターンを形成する。
【0021】
次にソース・ドレイン形成工程でソース・ドレイン19を形成する(
図2参照)。高解像度の半導体露光装置を用いてもよいが、高い加工精度を要する工程ではない。そのため、ソース・ドレイン19を第1部分とみなし(
図3(b)におけるS011でY判定)、解像度と画角から大画角の半導体露光装置を用いて、大チップを一括露光してソース・ドレイン用パターンの形成を行う。
【0022】
次に層間絶縁膜形成工程で層間絶縁膜を成膜する。層間絶縁膜は、化学蒸着法のプラズマCVDで形成する。反応性ガスをプラズマ状態にし、活性なラジカルやイオンを生成して、対象となる基板上で化学反応を起こし、堆積させて薄膜である層間絶縁膜を形成する
上記のような工程により、トランジスタ層を形成することができる。
【0023】
その後、コンタクト形成工程でコンタクト17を形成する(
図2、
図5(d)参照))。コンタクト17を用いて、形成したトランジスタ層と後工程で形成するロジック配線16とが接続される。背景技術で述べたように、ロジック配線は微細化することが求められている。そのため、ロジック配線16と接続するコンタクト17も微細化する必要がある。そこでコンタクト用パターンは、高い加工精度が必要であり高い解像力で露光することが必要であるため、コンタクト17を第2部分とみなし(
図3(b)におけるS011でN判定)、高解像度の半導体露光装置を使用して分割露光によりパターンを形成する。例えば、KrFエキシマレーザーを光源とした高解像度の半導体露光装置を使用することができる。KrFエキシマレーザーの発振波長は248nmであり、解像力≦90nmであることから、コンタクト形成に十分な解像度である。しかし、画角は26mm×33mmであるため、大チップにおいてはチップを分割露光する。このようにして形成したコンタクト用マスクパターンを使用して、層間絶縁膜をエッチングし、開口部にコンタクト部材を埋め込むことでコンタクト17を形成することができる。
【0024】
その後、ロジック配線形成工程で、ロジック配線16を形成する(
図2、
図5(d)参照))。ロジック配線16にはトランジスタに信号を送るための信号用配線、信号用配線と電源用配線を接続するスルーホール14を含む。背景で述べたように、ロジック配線を微細化することが求められている。そのため信号用配線用パターン及びスルーホール用パターンは高い加工精度が必要であり高い解像力で露光する必要である。よって、信号用配線およびスルーホールを第2部分とみなし(
図3(b)におけるS011でN判定)、高解像度の半導体露光装置を使用して分割露光を行い、パターン(ロジック配線用パターン)を形成する。ここでは、例えばKrFエキシマレーザーを光源とした高解像度の半導体露光装置を使用することができる。
【0025】
信号用配線用パターンを使用してエッチングし、信号用配線を形成する。信号用配線の上に層間絶縁層を成膜する。層間絶縁膜はプラズマCVDにて形成することができる。次に、スルーホール用マスクパターンを使用して、層間絶縁膜をエッチングし、開口部にスルーホール部材を埋め込むことでスルーホール14を形成する(
図2、
図5(c)参照)。同様の工程を繰り返すことで、信号配線層を多層構成にすることが可能である。
【0026】
このように第1の工程であるロジック回路形成工程で、トランジスタ層、コンタクト、ロジック配線を形成する。
【0027】
第2の工程である電源配線形成工程(
図3(a)における電源配線形成処理S002)について説明する。背景で述べたように、近年では電源配線15を微細化することが求められている。また、電源配線15は、発熱抵抗素子を含む吐出機能膜および液体流路部の中心位置に対して相対関係が変わっても影響が少ない。そのため電源配線15の形成には、高い加工精度が必要であり高い解像力で露光することが必要であることから、電源配線15を第2部分とみなし(
図3(b)におけるS011でN判定)、高解像度の半導体露光装置を用いて分割露光を行う。例えば、KrFエキシマレーザーを光源とした高解像度の半導体露光装置を使用することができる。このようにして形成された電源配線用マスクパターンを使用して、エッチングし電源配線を形成する(
図5(b)参照)。
【0028】
第3の工程である吐出機能膜形成工程(
図3(a)における吐出機能膜形成処理S003)について説明する。吐出機能膜形成工程は、発熱抵抗素子形成工程、密着層形成工程、保護膜形成工程を含む。
【0029】
まず、蓄熱層13を成膜する。蓄熱層13にはSiO膜を用いる。次に発熱抵抗素子2のスルーホール部を形成する。吐出機能膜である発熱抵抗素子2は、電源用配線15からスルーホール14を経由し発熱抵抗素子2に電流を流す。発熱抵抗素子2の電流方向の発泡に寄与する実効寸法は、スルーホール間の距離により決まる。そのため、スルーホール径がばらつくと、発熱抵抗素子2の発泡に寄与する実効寸法が変わり、発泡ばらつきを引き起こしてしまう。つまり、発熱抵抗素子2のスルーホール部形成においては、スルーホール14を第2部分とみなし(
図3(b)におけるS011でN判定)、高解像度の半導体露光装置を用いて分割露光を行う。このように、発熱抵抗素子2のスルーホール用マスクパターンは、高解像度の半導体露光装置を使用し、チップを分割露光して形成する。形成したスルーホール用パターンを使用して、蓄熱層13をエッチングし、開口部にスルーホール部材を埋め込むことで発熱抵抗素子2のスルーホール14を形成する。
【0030】
吐出機能膜および後述する第4の工程で述べる液体流路部の形成においては、高解像度、かつ発熱抵抗素子2と液体流路部との中心位置の相対関係が必要である。ここで、発熱抵抗素子部用マスクパターンを分割露光した場合、分割露光境界で吐出機能膜および液体流路部の中心位置の相対関係が変わってしまう。その結果、吐出方向のヨレを引き起こす虞がある。そのため本実施では、発熱抵抗素子2を第1部分とみなし(
図3(b)におけるS011でY判定)、吐出機能膜を形成する工程では、チップを一括露光することで発熱抵抗素子用パターンを形成する。そこで、大画角の半導体露光装置を使用することが好ましい。使用する大画角の半導体露光装置の画角は52mm×56mmであり、大チップを一括露光することが可能である。また、光源には紫外域の波長365nmのi線を使用しており、解像力≦500nmであるため、発熱抵抗素子部および他の吐出機能膜形成用マスクパターンに十分な解像度である。
【0031】
さらに、製品によってはウェハ面内を一括露光により、発熱抵抗素子部、その他の吐出機能膜用マスクパターンを形成することができる。ウェハ面内の歪みを考慮して、露光データを準備することで、ウェハ面内の歪みを補正することができる。発熱抵抗素子2の下部には保温性、絶縁性の効果がある蓄熱層13が設けられる。また、発熱抵抗素子2の上部にはパッシベーション性、絶縁性、耐インク性の効果がある保護膜11が設けられる。これらの各膜は、スパッタまたはプラズマCVDにて成膜することができる。このようにして液体吐出用ヘッド用基板を製造することができる。
【0032】
このようにして形成した液体吐出用ヘッド基板8における発熱抵抗素子2のスルーホール部のパターンは、分割露光されているためスルーホール径のバラつきが少なくなる。さらに、
図5(c)に示すように、同一発熱抵抗素子内のスルーホールは分割露光境界を挟まないため、同一発熱抵抗素子部内のスルーホールの距離は一定である。つまり、発熱抵抗素子2の発泡に寄与する実効寸法ばらつきが低減できるため、発泡ばらつきを抑制することができる。
【0033】
また、発熱抵抗素子部はチップ内を一括露光しているため、5(c)に示すように、分割露光境界を挟んでも発熱抵抗素子2を含む吐出機能膜および液体流路部の中心位置との相対関係を変えることなく形成することができる。
【0034】
第4の工程である液体流路形成工程(
図3(a)における液体流路形成処理S004)について説明する。液体流路形成工程は、第1から第3の工程を経て製造した液体吐出ヘッド用基板8に液体流路を形成する工程である。液体流路形成工程は、液体供給路形成工程、発泡室形成工程、吐出口形成工程を含む。
【0035】
液体流路形成工程における各工程で形成するパターンは、発熱抵抗素子との相対位置が重要となる。例えば、吐出口の形成においては、高解像度、かつ発熱抵抗素子と吐出口との中心位置の相対関係が必要である。ここで、吐出口の形成に当たり、分割露光した場合、分割露光境界で発熱抵抗素子を含む吐出機能膜および吐出口の中心位置の相対関係がかわってしまう。その結果、吐出方向のヨレを引き起こす虞がある。そのため、吐出口を第1部分とみなし(
図3(b)におけるS011でY判定)、液体供給路を形成する工程では、液体供給路用パターンとして、チップを一括露光することで吐出口用パターンを形成することが好ましい。発泡室についても同様であり、一括露光で発泡室用パターンを形成する。また、液体供給路と発熱抵抗素子2と相対位置ズレは、液体供給量に影響を与える。そこで、大画角の半導体露光装置を使用することが好ましい。使用する大画角の半導体露光装置の画角は52mm×56mmであり、大チップを一括露光することが可能である。また、光源には紫外域の波長365nmのi線を使用しており、解像力≦500nmであるため、発熱抵抗素子部および他の吐出機能膜形成用マスクパターンに十分な解像度である。製品によってはウェハ面内を一括露光により、液体流路部用マスクパターンを形成することができる。
【0036】
このように形成したマスクパターンによって液体流路を形成する。具体的には、基板表面から吐出口ごとに液体を送るための液体供給路を形成する。次に基板の上に流路および発泡室となる層をテンティングする。テンティング材料にはフォトレジストを用いる。さらに、液体流路部として残る層をテンティングする。下層、上層の順にパターニングし、流路、発泡室、吐出口を形成する。このようにして液体吐出ヘッドを製造することができる。
【0037】
このように一括露光して、液体流路の位置ズレを低減することで、基板回路部と液体流路の開口部が干渉しないように設けているクリアランスを減らすことができる。そのため、チップサイズを小さくすることができるうえ、液体供給スピードを高めることができる。また、ウェハ面内の歪みを考慮して、露光データを準備することで、ウェハ面内の歪みを補正することができる。
【0038】
このような方法で形成した液体吐出用ヘッドの液体流路は、
図5(c)に示すように、発熱抵抗素子を含む吐出機能膜の中心位との相対関係が変わることなく形成される。よって、吐出方向のヨレが起きにくい液体吐出ヘッドを提供することができる。
【0039】
このように、液体吐出ヘッド用基板8の形成において、相対的な位置関係に、より精度が求められる部分または加工に高い精度を要さない部分を第1部分として、第1部分には一括露光方法を採用する。また、加工により高い精度が求められる部分を第2部分として、第2部分には分割露光方法を採用する。これによって、記録画像の品位低下を抑制することができる液体吐出ヘッド用基板の製造方法および液体吐出ヘッドの製造方法を提供する。
【0040】
(第2の実施形態)
以下、図面を参照して本発明の第2の実施形態を説明する。なお、本実施形態の基本的な構成は第1の実施形態と同様であるため、以下では特徴的な構成について説明する。
【0041】
図6は、本実施形態におけるチップ内の電気的に分離した電源配線15を示した図であり、
図7は、本実施形態における液体吐出ヘッド用基板8の部分断面図である。本実施形態では、第2の工程である電源配線形成工程(
図3(a)における電源配線形成処理S002)において、電源配線を電気的に分離した。具体的にはチップ中央部にて分離することで、回路における負荷を均一にする。さらに、分離された電源配線を線対称にすることで、設計を簡易化することができる。
【0042】
また、第3の工程である吐出機能膜形成工程(
図3(a)における吐出機能膜形成処理S003)において、保護膜形成後に耐キャビテーション膜10を形成する。耐キャビテーション膜の材料にはTaを用いる。耐キャビテーション膜10の形成に用いるマスク用パターンは、大画角の半導体露光装置を使用して一括露光することで形成する。そして、形成したマスク用パターンを用いてエッチングし、耐キャビテーション膜10を形成する。
【0043】
このような製法により製造した液体吐出ヘッドは、吐出機能膜および液体流路部の相対位置ズレの分布が連続的になるため、吐出方向のヨレが起きにくい液体吐出ヘッドを提供することができた。また、電源配線15を分離することにより大電力を使用することが可能となった。耐キャビテーション膜10により、発熱抵抗素子2へのキャビテーションの衝撃やインクからのダメージを低減することができる。さらには密着層により、基板と液体流路部の剥がれを低減することができる。これにより、より長期にわたり信頼性の高い液体吐出ヘッドを提供することができる。
【0044】
(第3の実施形態)
以下、図面を参照して本発明の第3の実施形態を説明する。なお、本実施形態の基本的な構成は第1の実施形態と同様であるため、以下では特徴的な構成について説明する。
【0045】
図8は、本実施形態における液体吐出ヘッド用基板8の部分断面図である。本実施形態では、第3の工程である吐出機能膜形成工程(
図3(a)における吐出機能膜形成処理S003)において、発熱抵抗素子2の下層に吐出検知センサ膜12を設けた。製造工程は、第1の実施形態で説明した発熱抵抗素子2の工程と同様である。吐出検知センサ膜12を成膜し、吐出検知センサ膜部用マスクパターンを形成し、エッチングを行い、吐出検知センサ膜12を形成する。吐出検知センサ膜12の材料にはTaSiNを用いる。
【0046】
このような製法により製造した液体吐出ヘッドは、吐出機能膜および液体流路部の相対位置ズレの分布が連続的になるため、吐出方向のヨレが起きにくい液体吐出ヘッドを提供することができる。また、吐出検知センサ膜12により吐出検知膜上の液体の位置や量などの吐出状態を検知することができる。これにより、記録品位において信頼性の高い液体吐出ヘッドを提供することができる。
【0047】
(比較例)
比較例として、発熱抵抗素子部を含む吐出機能膜および吐出口を含む液体流路部に用いるマスクパターンを分割露光により形成した。このような製法により製造した液体吐出ヘッドは、発熱抵抗素子2の発熱抵抗素子部を含む吐出機能膜と液体流路部との相対位置ズレの分布が分割露光境界で非連続的になった。その結果、液体吐出ヘッドから吐出する液体の吐出方向にヨレが発生した。
【符号の説明】
【0048】
1 素子基板
2 発熱抵抗素子
3 吐出口
4 発泡室
5 液体供給路
6 液体流路部
7 パッド
8 液体吐出ヘッド用基板
9 密着層
10 耐キャビテーション膜
11 保護膜
12 吐出検知センサ膜
13 蓄熱層
14 スルーホール
15 電源配線
16 ロジック配線
17 コンタクト
18 素子分離