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特許7404327二次電池の正極板の製造方法及び二次電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-15
(45)【発行日】2023-12-25
(54)【発明の名称】二次電池の正極板の製造方法及び二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/139 20100101AFI20231218BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20231218BHJP
   H01M 4/13 20100101ALI20231218BHJP
【FI】
H01M4/139
H01M4/62 Z
H01M4/13
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2021197138
(22)【出願日】2021-12-03
(65)【公開番号】P2023083041
(43)【公開日】2023-06-15
【審査請求日】2022-12-07
(73)【特許権者】
【識別番号】399107063
【氏名又は名称】プライムアースEVエナジー株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】520184767
【氏名又は名称】プライムプラネットエナジー&ソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】吉川 和孝
(72)【発明者】
【氏名】出口 祥太郎
(72)【発明者】
【氏名】坂井 遼太郎
(72)【発明者】
【氏名】工藤 尚範
【審査官】井原 純
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-026885(JP,A)
【文献】特開2021-044162(JP,A)
【文献】特開2020-173942(JP,A)
【文献】国際公開第2015/156213(WO,A1)
【文献】特開2021-044138(JP,A)
【文献】国際公開第2014/162437(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/136441(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00-4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極集電体上に正極合材層が形成されるとともに、当該正極合材層に隣接し、かつ前記正極集電体上の負極合材層の端部と対向する位置に絶縁保護層が形成された正極板と、負極集電体に負極合材層が形成された負極板と、セパレータとが積層される電極体を備えた二次電池の正極板の製造方法であって、
絶縁粒子、バインダ及び溶媒を含有し、前記絶縁粒子が凝集しないゼータ電位とするpHに調整された前記絶縁保護層を形成する絶縁保護ペーストを生成する工程と、
正極活物質、導電助材、バインダ及び溶媒を含有し、前記絶縁粒子が凝集するゼータ電位とするpHに調整するpH調整剤を添加した前記正極合材層を形成する正極合材ペーストを生成する工程と、
前記正極集電体に対して、前記正極合材ペーストと、当該正極合材ペーストの端部に隣接するように前記絶縁保護ペーストとを同時に塗工する塗工工程とを備えた
ことを特徴とする二次電池の正極板の製造方法。
【請求項2】
前記絶縁粒子がベーマイトからなり、前記絶縁保護ペーストのpHを10~12に調整することを特徴とする請求項1に記載の二次電池の正極板の製造方法。
【請求項3】
前記絶縁保護ペーストのベーマイトの平均粒子径を1~3μmとし、
前記絶縁保護ペーストには、分散剤を添加しないことを特徴とする請求項2に記載の二次電池の正極板の製造方法。
【請求項4】
前記絶縁保護ペースト中に含まれるNa量を50~500ppmとしたことを特徴とする請求項2又は3に記載の二次電池の正極板の製造方法。
【請求項5】
前記pH調整剤が酢酸からなることを特徴とする請求項1~4のいずれか一項に記載の二次電池の正極板の製造方法。
【請求項6】
前記正極合材ペーストのpHを7~9に調整したことを特徴とする請求項1~5のいずれか一項に記載の二次電池の正極板の製造方法。
【請求項7】
前記正極合材ペーストの酸濃度を300~800ppmとしたことを特徴とする請求項1~6のいずれか一項に記載の二次電池の正極板の製造方法。
【請求項8】
正極集電体上に正極合材層が形成されるとともに、当該正極合材層に隣接するように前記正極集電体上に絶縁粒子を含有する絶縁保護層が形成された正極板と、負極集電体に負極合材層が形成された負極板と、セパレータとが積層される電極体を備えた二次電池であって、
前記絶縁保護層の前記正極合材層と接触する境界部の前記絶縁粒子が、他の部分の前記絶縁粒子より凝集していることを特徴とする二次電池。
【請求項9】
前記絶縁粒子がベーマイトからなることを特徴とする請求項8に記載の二次電池。
【請求項10】
前記絶縁保護層中に含まれるNa量が150~1700ppmであることを特徴とする請求項8又は9に記載の二次電池。
【請求項11】
前記二次電池がリチウムイオン二次電池であることを特徴とする請求項8~10のいずれか一項に記載の二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二次電池の正極板の製造方法及び二次電池に係り、詳しくは、正極合材層と混ざりが生じにくい絶縁保護層を備えた二次電池の正極板の製造方法及び二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
二次電池、たとえばリチウムイオン二次電池などは、軽量で高いエネルギー密度が得られることから、車両搭載用の高出力電源等としても好ましく用いられている。このような二次電池では、一般に正極集電体上に正極合材層が形成された正極と負極集電体上に負極合材層が形成された負極とを有する。この正極と負極がセパレータ等で絶縁されて多数積層される。この積層された構成の蓄電要素が、円柱状または楕円柱状に捲回されて捲回電極体を構成する。この捲回電極体が電池ケースに収容される。このような二次電池の正極と負極では、一般的に負極容量が正極容量より大きくなるように、負極合材層の幅方向の寸法が正極合材層の幅方向の寸法よりも広くなるように設計されている。この場合、負極合材層が、セパレータを介して正極合材層のない金属が露出した正極集電体と対向することになる。このため、ここに金属微粉などが入り込んだり、負極に金属が析出したりしたような場合は、セパレータを貫通して正極集電体と微小短絡することで発熱することがある。
【0003】
そこで、このような短絡を防止する目的で、特許文献1や特許文献2には、正極集電体の表面に、正極活物質層の端部に沿って正極集電体上に無機絶縁体を含む絶縁保護層を備えることが開示されている。このような絶縁保護層を設けることで、正極集電体を構成する金属板を絶縁体で被覆し、金属微粉のような異物が侵入した場合でも負極合材層と短絡することを有効に防止することができた。
【0004】
特許文献1や特許文献2には、絶縁保護層を形成する方法がそれぞれ記載されているが、それぞれにおいて以下のような問題があった。
特許文献1に記載された発明では、正極合材層を形成するペーストを絶縁保護層の形成よりも先に塗工し、乾燥して正極合材層を形成し、その後絶縁保護層のペーストを塗工して絶縁保護層を形成するようにしていた。
【0005】
特許文献1に記載された発明のような方法では、絶縁保護層を形成するペーストの塗工工程と、正極合材層を形成するペーストの塗工工程とが、別工程となり、工程が増加し、塗工設備も複数必要であり、工数が増加するという問題があった。また、絶縁保護層と正極合材層との間に間隙が生じないようにするため、一部が重なるように塗工されるが、その部分は、正極合材層と正極集電体との間の導通や、正極合材層と負極合材層との間のイオンの遣り取りがなくなる。そのため電池性能に寄与しない正極合材層の部分が生じ、正極合材に無駄が生じるという問題もあった。
【0006】
さらに、絶縁保護層と正極合材層との境界部分は厚みが加重され、特に特許文献2に記載された発明では、ベーマイトやアルミナなど硬度の高い無機絶縁体により、プレスロールに摩耗が生じることがあるという問題があった。
【0007】
そこで、特許文献2においては、所定速度で供給された電極基板に、電極材料と、電極基板の供給方向に対して直交する方向の電極材料の両側隣接部に第1の絶縁材料を塗工する。また、塗工された電極材料と第1の絶縁材料の表面に第2の絶縁材料を塗工する。その後、塗工された電極材料と第1、第2の絶縁材料を乾燥・固着させる。
【0008】
特許文献2に記載された発明では、絶縁保護層を形成するペーストと正極合材層を形成するペーストをほぼ同時に塗工し、同時に乾燥・固着させ、プレスする。このため、塗工に係る工程、設備は単一で、工数も短い。また、絶縁保護層と正極合材層との境界部分に重なりや段差も生じにくい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2015-222657号公報
【文献】国際公開第2015/156213号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献2に記載された発明では、塗工された絶縁保護層のペーストと正極合材層のペーストとの境界部で混ざりが生じてしまう。そのため、結局その正極合材層の部分は電池性能に寄与せず、正極合材に無駄が生じるという問題があった。
【0011】
本発明の二次電池の製造方法及び二次電池が解決しようとする課題は、正極合材層を形成するペーストと絶縁保護層を形成するペーストを同時に塗工した場合でも、正極合材層と絶縁保護層の境界部での混ざりを抑制することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するため、本発明の二次電池の正極板の製造方法では、正極集電体上に正極合材層が形成されるとともに、当該正極合材層に隣接し、かつ前記正極集電体上の負極合材層の端部と対向する位置に絶縁保護層が形成された正極板と、負極集電体に負極合材層が形成された負極板と、セパレータとが積層される電極体を備えた二次電池の正極板の製造方法であって、絶縁粒子、バインダ及び溶媒を含有し、前記絶縁粒子が凝集しないゼータ電位とするpHに調整された前記絶縁保護層を形成する絶縁保護ペーストを生成する工程と、正極活物質、導電助材、バインダ及び溶媒を含有し、前記絶縁粒子が凝集するゼータ電位とするpHに調整するpH調整剤を添加した前記正極合材層を形成する正極合材ペーストを生成する工程と、前記正極集電体に対して、前記正極合材ペーストと、当該正極合材ペーストの端部に隣接するように前記絶縁保護ペーストとを同時に塗工する塗工工程とを備えたことを特徴とする。
【0013】
前記二次電池の正極板の製造方法は、前記絶縁粒子がベーマイトからなり、前記絶縁保護ペーストのpHを10~12に調整することが好ましい。前記絶縁保護ペーストのベーマイトの平均粒子径を1~3μmとし、前記絶縁保護ペーストには、分散剤を添加しないことも好ましい。さらに、前記絶縁保護ペースト中に含まれるNa量を50~500ppmとすることも好ましい。
【0014】
また、前記pH調整剤が酢酸からなるものとすることも好ましい。前記正極合材ペーストのpHを7~9に調整することも好ましい。前記正極合材ペーストの酸濃度を300~800ppmとすることも好ましい。
【0015】
また、本発明の二次電池は、正極集電体上に正極合材層が形成されるとともに、当該正極合材層に隣接するように前記正極集電体上に絶縁粒子を含有する絶縁保護層が形成された正極板と、負極集電体に負極合材層が形成された負極板と、セパレータとが積層される電極体を備えた二次電池であって、前記絶縁保護層の前記正極合材層と接触する境界部の前記絶縁粒子が、他の部分の前記絶縁粒子より凝集していることを特徴とする。
【0016】
前記二次電池は、前記絶縁粒子がベーマイトからなることが好ましい。また、前記絶縁保護層中に含まれるNa量が150~1700ppmであることも好ましい。
前記二次電池は、リチウムイオン二次電池において好適に実施できる。
【発明の効果】
【0017】
本発明の二次電池の正極板の製造方法及び二次電池によれば、正極合材層を形成するペーストと絶縁保護層を形成するペーストを同時に塗工した場合でも、正極合材層と絶縁保護層の境界部での混ざりを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本実施形態のリチウムイオン二次電池1の構成の概略を示す斜視図である。
図2】本実施形態の電極体の構成を示す模式図である。
図3】本実施形態の電極体の構成の一部を示す部分断面図である。
図4】本実施形態の正極板の製造方法を示すフローチャートである。
図5】本実施形態の塗工工程における正極合材層と絶縁保護層の境界部を示す模式図である。
図6】本実施形態の塗工工程後における正極合材層と絶縁保護層の境界部を示す模式図である。
図7】塗工機の構造を示す斜視図である。
図8】第1のノズルと第2のノズルを示す模式的な斜視図である。
図9】従来技術の塗工工程における正極合材層と絶縁保護層の境界部を示す模式図である。
図10】従来技術の塗工工程後における正極合材層と絶縁保護層の境界部を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
(本実施形態の概略)
以下、本発明の非水電解液二次電池の製造方法及び非水電解液二次電池を、リチウムイオン二次電池およびその製造方法の実施形態により、図1~8を参照して説明する。
【0020】
<本実施形態の原理>
<従来の問題点>
図9は、従来技術の塗工工程における正極合材層32と絶縁保護層34の境界部Bを示す模式図である。図10は、従来技術の塗工工程後における正極合材層32と絶縁保護層34の境界部Bを示す模式図である。
【0021】
従来技術で述べたように、特許文献2に記載された発明では、図9に示すように、塗工工程において、正極合材ペースト32aと、絶縁保護ペースト34aとを同時塗工して、正極合材層32と絶縁保護層34を同時に形成する。しかしながら、特許文献2に記載された発明では、図10に示すように、塗工された絶縁保護ペースト34aと正極合材ペースト32aとの境界部Bで混ざり部分Mが生じてしまう。そのため、混ざり部分Mの正極合材層32の部分は電池性能に寄与せず、正極合材に無駄が生じ本来の電池性能の低下を招くという問題があった。
【0022】
<従来の問題点の原因>
その原因として、塗工直後の正極合材ペースト32aと絶縁保護ペースト34aは、いずれも流動性が高く、その境界部Bで容易に混じり合うことが挙げられる。特に、絶縁保護ペースト34aの絶縁粒子34bを構成するベーマイトなどは、平均粒子径が1~3[μm]と、正極活物質粒子32bの平均粒子径の3~6[μm]に対して粒径が小さい。そのため、絶縁粒子34bが正極活物質粒子32bの間に入り込んで、より混じり合いやすい。また、従来技術では絶縁粒子34bが凝集しないように分散剤を配合していたため、なおさら混じり合いやすい。
【0023】
<本実施形態の原理>
そこで、本実施形態では、同時塗工において正極合材ペースト32aと絶縁保護ペースト34aが境界部Bで接液した際、絶縁保護ペースト34aに含まれるベーマイトからなる絶縁粒子34bを凝集させることで見かけの粒子径を大きくする。そのことで、絶縁粒子34bの隙間及び正極活物質粒子32b及び導電助材32cの隙間に双方が入り込みにくくなり、混ざりを抑制したことを特徴とする。
【0024】
そのため、境界部Bで正極合材ペースト32aと絶縁保護ペースト34aが接液した際、ベーマイトが凝集して見かけ粒子が大きくなるよう、正極合材ペースト32aにpH調整剤である酢酸32fを添加した。正極合材ペースト32aは酢酸の影響によりpHが低いため、境界部Bに接液することにより絶縁保護ペースト34aのpHが等電点に近づくので、ベーマイトの凝集が発生、混ざりを抑制させる。
【0025】
<本実施形態の成立条件>
このような作用を実現するには、2つの条件が必要である。
まず、第1の条件は、同時塗工において正極合材ペースト32aと絶縁保護ペースト34aが境界部Bで接液するまでは、絶縁保護ペースト34aに含まれるベーマイトからなる絶縁粒子34bが凝集せず、均等に分散していることである。
【0026】
次に、第2の条件は、同時塗工において正極合材ペースト32aと絶縁保護ペースト34aが境界部Bで接液した際、絶縁保護ペースト34aに含まれるベーマイトからなる絶縁粒子34bが凝集することである。
【0027】
<第1条件:ベーマイトの「分散」>
前提としてゼータ電位によって、絶縁粒子34bの凝集・分散が決定づけられることがわかっている。
【0028】
<ゼータ電位>
粒子から充分に離れて電気的に中性である領域の電位をゼロと定義する。このとき「ゼータ電位(zeta-potential)」は、このゼロ点を基準として測った場合の、滑り面の電位と定義される。微粒子の場合、ゼータ電位の絶対値が増加すれば、粒子間の反発力が強くなり粒子の安定性は高くなり分散しやすい。逆に、ゼータ電位がゼロに近くなると、粒子は凝集しやすくなる。そこで、本実施形態においても、分散された粒子の分散安定性の指標としてゼータ電位を調整するようにしている。
【0029】
<ベーマイトの等電点について>
本実施形態の絶縁粒子34bであるベーマイトは、境界部Bにおいて凝集させる必要があるが、それ以外の部分では、凝集させてはならない。無機酸化物粒子は溶液のpHが変わるとゼータ電位が変化する。ベーマイトではpH=7.7~9.4で表面電位がゼロとなる等電点を持つことがわかっている。等電点に近づくと静電反発力が消失、粒子が凝集しやすくなる。そこで、分散状態を安定させるには、pHを等電点から遠ざけることが必要である。つまり、塗工前の絶縁保護ペースト34aにおいては、等電点に近づくpH=7.7~9.4から離れたpHとすることが必要である。
【0030】
特に、本実施形態の絶縁保護ペースト34aでは、分散剤を配合しないため、重要な条件である。
<第1条件を満たす設定>
絶縁保護ペースト34aの状態では分散安定性に優れ、境界部Bで接液した際にはベーマイトが凝集するよう、本実施形態では、ベーマイトの平均粒子径が小さすぎないように1~3μmとして絶縁保護ペースト34a中の分散剤を不使用としている。そして、分散安定性の観点から、絶縁保護ペースト34aの状態におけるpHは10~12に調整している。
【0031】
<絶縁保護ペースト34aのpH調整>
ベーマイトの製造方法は種々提供されているが、一般的には原料のボーキサイト由来の水酸化アルミニウムを水熱処理することにより行われている。この製造方法は、水酸化アルミニウムと反応促進剤(金属化合物)に水を加えたスラリーの撹拌混合工程、圧力容器により水蒸気雰囲気下で加熱しながら湿式養生する水熱処理工程、反応生成物の脱水工程、水洗工程、濾過工程、乾燥工程の各工程から成り立っている(例えば、特開平6-263437号公報、特開2000-86235号公報参照)。従来の水熱処理によるベーマイトの製造方法によれば、水酸化アルミニウムに反応促進剤としてアルカリ土類金属やアルカリ金属の水酸化物、酸化物、塩化物、硫酸塩等を加える。このため、水洗工程が不可欠で、この水洗工程を経ても反応促進剤に由来するNaやCa等の不純物が残存し易い。
【0032】
そこで、本実施形態では、絶縁保護ペースト34aの状態におけるpHは10~12に調整するため、絶縁保護ペースト34aのNa量を50~500ppm、より好ましくは、260~355ppmに調整している。例えば、絶縁保護ペースト34a中のベーマイトが25[wt%]であれば、ベーマイト中に含まれるNa量を200~2000ppmに調整する。その結果、完成した二次電池では絶縁保護層34のNa量が150~1700ppmとなっている。
【0033】
<第2の条件:ベーマイトの「凝集」>
第2の条件は、塗工時に絶縁保護ペースト34aにおいて、分散させた絶縁粒子34bを境界部Bにおいて、凝集させることである。前述のとおり、ベーマイトの等電点に近づくpHは、pH=7.7~9.4である。そのため、絶縁保護ペースト34aに接液する正極合材ペースト32aのpHを大きく酸性にする必要がある。
【0034】
<pH調整剤>
ここで、正極合材ペースト32aのpHを大きく酸性にするpH調整剤としては、酸性の物質が好ましく、例えば、「無水酢酸、蟻酸、プロピオン酸、琥珀酸」などが例示できる。
【0035】
本実施形態では、ベーマイトを凝集させる方法として、正極合材ペースト32a中に酢酸32fを添加することで、絶縁保護ペースト34aと接液した際にベーマイトの静電的反発力の低下により凝集させる。ここで、「酢酸32f」には、無水酢酸、氷酢酸などの態様が含まれる。本実施形態において「酢酸」を選択した理由は、以下のとおりである。
【0036】
特開2019-075273号公報によれば、以下の趣旨の記載がある。すなわち、非水電解液二次電池について、非水電解液の分解によってその特性が劣化することが知られている。そこで、正極活物質の比表面積(m/g)と正極合材層32中の正極活物質の質量割合(%)との積が一定範囲内にあるようにする。これと同時に、正極合材層32中の無水酢酸の含有量が一定範囲内にあるようにする。これらにより、正極板作製時の正極合材ペースト32aの粘度低減効果が発揮されて良好なペースト安定性および塗工性が得られ、非水電解液二次電池の生産性が向上する。また、正極活物質表面での被膜形成成分(特にLiPO)の分解が促進されることにより正極の抵抗が減少し、その結果、非水電解液二次電池の低温での出力が高くなる。正極合材ペースト32aに酢酸32fを一定量添加することは、pHの調整のみならず、低温での出力に優れる非水電解液二次電池を高い生産性で製造することができるという効果もある。一方、酢酸32fを添加することによる問題もない。
【0037】
<正極合材ペースト32aのpH及び酸濃度の調整>
以上のようにpH調整剤(本実施形態では酢酸32f)により正極合材ペースト32a中におけるpHを調整してpH=7~9とする。また、酸濃度を300~800ppmとする。このようにpH及び酸濃度を調整した。その結果、境界部Bで正極合材ペースト32aと絶縁保護ペースト34aが接液した際、ベーマイトが凝集して見かけの粒子径が大きくなる。ベーマイトの見かけの粒子径を大きくすることで、正極合材ペースト32aと絶縁保護ペースト34aとの混ざりを抑制させる。
【0038】
<リチウムイオン二次電池1の構成>
図1は、本実施形態のリチウムイオン二次電池の構成の概略を示す斜視図である。次に本実施形態のリチウムイオン二次電池についてその構成を説明する。
【0039】
図1に示すようにリチウムイオン二次電池1は、セル電池として構成される。リチウムイオン二次電池1は、上側に開口部を有する直方体形状の電池ケース11を備える。電池ケース11の内部には電極体12が収容される。電池ケース11内には注液孔から電解液13が充填されている。電池ケース11はアルミニウム合金等の金属で構成され、密閉された電槽が構成される。またリチウムイオン二次電池1は、電力の充放電に用いられる正極外部端子14、負極外部端子15を備えている。なお、正極外部端子14、負極外部端子15の形状は、図1に示されるものに限定されない。
【0040】
<電極体12>
図2は、捲回される電極体12の構成を示す模式図である。電極体12は、負極板2と正極板3とそれらの間に配置されたセパレータ4とが扁平に捲回されて形成されている。負極板2は、基材となる負極集電体21上に負極合材層22が形成される。捲回される方向(捲回方向L)に直交する幅方向W(捲回軸方向)の一端側に負極合材層22が形成されておらず負極集電体21が露出した負極接続部23が設けられている。
【0041】
正極板3は、基材となる正極集電体31上に正極合材層32が形成される。正極集電体31が捲回される方向(捲回方向L)に直交する幅方向W(捲回軸方向)の他端側(負極接続部23と反対側)に正極接続部33が設けられている。正極接続部33には、正極合材層32が形成されておらず正極集電体31の金属が露出したものとなっている。
【0042】
また、本実施形態では、正極合材層32の端部と隣接し、負極合材層22と対向した位置に絶縁保護層34を備える。絶縁保護層34は、露出した正極集電体31を被覆するように設けられている。
【0043】
<電極体12の積層体>
図3は、リチウムイオン二次電池1の電極体12の積層体の構成を示す模式的な部分断面図である。図3に示すように、リチウムイオン二次電池1の電極体12の基本構成は、負極板2と正極板3とセパレータ4を備える。
【0044】
負極板2は、負極基材となる負極集電体21の両面に負極合材層22を備える。負極集電体21の一端部は、金属が露出する負極接続部23となっている。
正極板3は、正極基材となる正極集電体31の両面に正極合材層32を備える。正極集電体31の他端部は、金属が露出する正極接続部33となっている。
【0045】
負極板2と、正極板3は、セパレータ4を介して重ねて積層体が構成される。この積層体が捲回軸を中心に長手方向に捲回され、扁平に整形されてなる捲回型の電極体12を構成する。
【0046】
また、本実施形態では、正極合材層32の正極接続部33側に隣接して、正極集電体31上に、絶縁保護層34が設けられる。従来のように絶縁保護層34が無い場合は、正極合材層32の正極接続部33側の端部aから正極側は、正極集電体31が露出していた。この場合、端部aから負極合材層22の正極側の端部bまでは、正極集電体31と、負極合材層22とが、セパレータ4を介して対向している。このとき、金属微粉がこの位置に混入したり、負極合材層22で金属Liのデンドライトが成長したりすることがある。これらが、セパレータ4を貫通すると、負極合材層22と正極集電体31とで微小短絡を生じ、発熱したり、自己放電が生じてしまったりすることがある。そこで、本実施形態では、端部aから、端部bを超えた端部cまで、絶縁保護層34を設けている。この絶縁保護層34により、このような微小短絡を抑制することができる。
【0047】
<電解液13>
リチウムイオン二次電池の電解液13は、非水電解液であって、リチウム塩を有機溶媒に溶解した組成物である。リチウム塩としては、LiClO、LiPF、LiAsF、LiBF、LiSOCF等を用いることができる。有機溶媒としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、トリフルオロプロピレンカーボネート等の環状カーボネート、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジプロピルカーボネート等の鎖状カーボネート、テトラヒドロフラン、2‐メチルテトラヒドロフラン、ジメトキシエタン等のエーテル化合物、エチルメチルスルホン、ブタンスルトン等の硫黄化合物、又はリン酸トリエチル、リン酸トリオクチル等のリン化合物等が挙げられる。電解液として、これらを1ないし複数種類混合して用いることができる。電解液13の組成はこれに限られるものではない。
【0048】
<電極体12の構成要素>
次に、電極体12を構成する構成要素である負極板2、正極板3、セパレータ4について説明する。
【0049】
なお、本実施形態では、「平均径」は、特に断りがない限り体積基準の粒度分布における累積50%に相当するメジアン径(D50:50%体積平均粒径)を意味する。平均粒径がおおよそ1μm以上の範囲については、レーザ回折・光散乱法により求めることができる。また、平均粒径がおおよそ1μm以下の範囲については、動的光散乱(Dynamic Light Scattering:DLS)法により求めることができる。DLS法に基づく平均粒径は、JISZ8828:2013に準じて測定することができる。
【0050】
<負極板2>
負極基材である負極集電体21の両面に負極合材層22が形成されて負極板2が構成されている。負極集電体21は、実施形態ではCu箔から構成されている。負極集電体21は、負極合材層22の骨材としてのベースとなるとともに、負極合材層22から電気を集電する集電部材の機能を有している。本実施形態では負極活物質は、リチウムイオンを吸蔵・放出可能な材料であり、黒鉛(グラファイト)等からなる粉末状の炭素材料を用いる。
【0051】
負極板2は、例えば、負極活物質と、溶媒と、結着剤(バインダー)とを混練し、混練後の負極合材ペーストを負極集電体21に塗工して乾燥することで作製される。
<正極板3>
正極板3は、正極集電体31と、ここに塗工された正極合材層32、絶縁保護層34とから構成される。
【0052】
<正極集電体31>
正極基材である正極集電体31の両面に正極合材層32が形成されて正極板3が構成されている。正極集電体31は、実施形態ではAl箔から構成されている。正極集電体31は、正極合材層32の骨材としてのベースとなるとともに、正極合材層32から電気を集電する集電部材の機能を有している。
【0053】
まず、正極集電体31を構成する正極基材は、Al箔を例示したが、例えば、導電性の良好な金属からなる導電性材料により構成される。導電性材料としては、例えば、アルミニウムを含む材料、アルミニウム合金を含む材料を用いることができる。正極集電体31の構成はこれに限られるものではない。
【0054】
<正極合材層32>
図5は、本実施形態の塗工工程(S3)における正極合材層32と絶縁保護層34の境界部Bを示す、図3において部分Aで示す部分を拡大した模式図である。図5を参照して正極合材層32を説明する。正極合材層32は、正極合材ペースト32aを正極集電体31に塗工、乾燥して形成される。正極合材層32は、正極活物質粒子32bのほか、導電助材32c、バインダ32d、及び分散剤等の添加剤を含む。
【0055】
<正極合材ペースト32a>
正極合材ペースト32aは、正極活物質粒子32bのほか、導電助材32c、バインダ32d及び分散剤等の添加剤に、溶媒32e及び酢酸32fを添加してペースト状にしたものである。正極合材層32は、図4に示す塗工工程(S3)で、正極合材ペースト32aが正極集電体31に塗工される。その後乾燥工程(S4)で、乾燥固着される。図5に示す正極合材ペースト32aの段階では、酢酸32f及び溶媒32eが配合されている。しかし、乾燥工程(S4)後の正極合材層32では、酢酸32f及び溶媒32eは揮発して消失している。
【0056】
<正極活物質粒子32bの組成>
正極活物質粒子32bの一次粒子は、層状の結晶構造を有するリチウム遷移金属酸化物を含有する。リチウム遷移金属酸化物は、Li(リチウム)以外に、1乃至複数の所定の遷移金属元素を含む。リチウム遷移金属酸化物に含有される遷移金属元素は、Ni、Co、Mnの少なくとも一つであることが好ましい。リチウム遷移金属酸化物の好適な一例として、Ni、CoおよびMnの全てを含むリチウム遷移金属酸化物が挙げられる。
【0057】
正極活物質粒子32bは、遷移金属元素(すなわち、Ni、CoおよびMnの少なくとも1種)の他に、付加的に、1種又は複数種の元素を含有し得る。付加的な元素としては、周期表の1族(ナトリウム等のアルカリ金属)、2族(マグネシウム、カルシウム等のアルカリ土類金属)、4族(チタン、ジルコニウム等の遷移金属)、6族(クロム、タングステン等の遷移金属)、8族(鉄等の遷移金属)、13族(半金属元素であるホウ素、もしくはアルミニウムのような金属)および17族(フッ素のようなハロゲン)に属するいずれかの元素を含むことができる。
【0058】
好ましい一態様において、正極活物質粒子32bは、下記一般式(1)で表される組成(平均組成)を有し得る。
Li+xNiyCozMn(1-y-z)MAαMBβO…(1)
上記式(1)において、xは、0≦x≦0.2を満たす実数であり得る。yは、0.1<y<0.6を満たす実数であり得る。zは、0.1<z<0.6を満たす実数であり得る。MAは、W、CrおよびMoから選択される少なくとも1種の金属元素であり、αは0<α≦0.01(典型的には0.0005≦α≦0.01、例えば0.001≦α≦0.01)を満たす実数である。MBは、Zr、Mg、Ca、Na、Fe、Zn、Si、Sn、Al、BおよびFからなる群から選択される1種又は2種以上の元素であり、βは0≦β≦0.01を満たす実数であり得る。βが実質的に0(すなわち、MBを実質的に含有しない酸化物)であってもよい。なお、層状構造のリチウム遷移金属酸化物を示す化学式では、便宜上、O(酸素)の組成比を2として示している。しかし、この数値は厳密に解釈されるべきではなく、多少の組成の変動(典型的には1.95以上2.05以下の範囲に包含される)を許容し得るものである。
【0059】
<導電助材32c>
導電助材32cは、正極合材層32中に導電パスを形成するための材料である。正極合材層32に適量の導電助材を混合することにより、正極内部の導電性を高めて、電池の充放電効率及び出力特性を向上させることができる。導電助材としては、例えば、アセチレンブラック(AB)等のカーボンブラックやその他(グラファイト等)、カーボンナノチューブなどの炭素材料を用いることができる。導電助材の平均粒径は、例えば、0.1~0.15μmである。
【0060】
<バインダ32d>
バインダ32dには、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリアクリル酸、ポリアクリレート等を用いることができる。
【0061】
<分散剤>
分散剤としては、例えば、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルブチラール(PVB)、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリアクリレート、ポリメタクリレート、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリアルキレンポリアミン、ベンゾイミダゾール等が挙げられる。
【0062】
<絶縁保護層34の構成>
図2に示すように、正極板3は、正極集電体31上に正極合材層32が形成されるとともに、当該正極合材層32に隣接し、かつ前記正極集電体31上の負極合材層22の端部と対向する位置に絶縁保護層34が形成されている。絶縁保護層34は、絶縁粒子34bがバインダ(結着剤)32dにより分散された状態で固定されている。絶縁保護層34は、絶縁保護ペースト34aを正極集電体31の表面に、正極合材層32の端部に沿って塗工、乾燥されることで形成される。この絶縁保護層34は、150~1700ppmのNaを含有している。
【0063】
<絶縁保護ペースト34a>
絶縁保護ペースト34aは、バインダ34cに溶媒34dを添加して液状にし、絶縁粒子34bを分散させたペーストである。また、従来は、絶縁粒子34bがペースト内で均等に分散させるために分散剤を添加しているが、本実施形態では、分散剤を配合していない点が特徴である。
【0064】
絶縁保護層34は、図4に示す塗工工程(S3)で、絶縁保護ペースト34aが正極集電体31に塗工され、乾燥工程(S4)で、乾燥固着される。図5に示す絶縁保護ペースト34aの段階では、溶媒32eが配合されている。しかし、乾燥工程(S4)後の絶縁保護層34では、溶媒32eは、揮発して消失している。
【0065】
<絶縁粒子34b>
絶縁粒子34bは、負極合材層22と正極集電体31との間に配置して電気的な絶縁を図るものである。例えば、ベーマイトやアルミナなどの絶縁体からなる粒子が用いられる。本実施形態では、ベーマイトを用いている。
【0066】
<ベーマイト>
ベーマイトまたはベーマイトは、水酸化アルミニウム(γ-AlO(OH))鉱物であり、アルミニウム鉱石ボーキサイトの成分である。ガラス質から真珠のような光沢を示し、モース硬度3~3.5、比重3.00~3.07である。絶縁性、耐熱性、硬度が高く、工業的には、耐火性ポリマー用の安価な難燃性添加剤として使用することができる。
【0067】
ベーマイトは、AlO(OH)又はAl・HOの化学組成で示され、一般的にアルミナ3水和物を空気中で加熱処理又は水熱処理することにより製造される化学的に安定なアルミナ1水和物である。ベーマイトは、脱水温度が450~530℃と高く、製造条件を調整することにより板状ベーマイト、針状ベーマイト、六角板状ベーマイトなど種々の形状に制御できる。また、製造条件を調整することにより、アスペクト比や粒径の制御ができる。
【0068】
従来より、ベーマイトの製造方法は種々提供されているが、一般的にはボーキサイト由来の原料の水酸化アルミニウムを水熱処理することにより行われている。この製造方法は、水酸化アルミニウムと反応促進剤(金属化合物)に水を加えたスラリーの撹拌混合工程を含む。また、圧力容器により水蒸気雰囲気下で加熱しながら湿式養生する水熱処理工程を含む。さらに、反応生成物の脱水工程、水洗工程、濾過工程、乾燥工程の各工程から成り立っている。例えば、特開平6-263437号公報、特開2000-86235号公報が参照できる。
【0069】
従来の水熱処理によるベーマイトの製造方法によれば、水酸化アルミニウムに反応促進剤としてアルカリ土類金属やアルカリ金属の水酸化物、酸化物、塩化物、硫酸塩等を加える。このため、水洗工程が不可欠で、この水洗工程を経ても反応促進剤に由来するNaやCa等の不純物が残存し易い。
【0070】
ベーマイトは、このような原料由来のNa成分を管理することで、pHの管理をすることができる。
<絶縁粒子34bの粒径>
以上のように、平均粒子径[μm(D50)]が、大きすぎると分散性が悪くなる。一方、小さすぎると凝集を生じてしまう。特に本実施形態では、分散剤を用いないので、凝集を生じないように、平均粒子径[μm(D50)]を、1~3μmとしている。
【0071】
<絶縁保護ペースト34aのpH調整>
本実施形態では、絶縁保護ペースト34aの状態におけるpHは10~12に調整するため、絶縁保護ペースト34aのNa量を50~500ppmとする。より好ましくは、260~355ppmに調整している。例えば、絶縁保護ペースト34a中のベーマイトが25[wt%]であれば、ベーマイト中に含まれるNa量を200~2000ppmとする。より好ましくは1040~1420ppmに調整する。その結果、完成した二次電池では絶縁保護層34のNa量は、150~1700ppmとなっている。よりこの好ましくは、800~1200ppmである。
【0072】
<バインダ34c>
バインダ34cには、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリアクリル酸、ポリアクリレート等を用いることができる。
【0073】
<セパレータ4>
セパレータ4は、正極板3及び負極板2の間に電解液13を保持するためのポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)等の樹脂からなる多孔性樹脂シートを用いることができる。このような多孔性樹脂シートは、各種材料を単独で用いた単層構造であってもよく、各種材料を組み合わせた多層構造であってもよい。
【0074】
<正極板3の製造方法>
図4は、本実施形態の正極板3の製造方法を示すフローチャートである。図4を参照して本実施形態の正極板3の製造方法を説明する。
【0075】
<正極合材ペースト製造工程(S1)>
まず、正極合材ペースト32aを製造する。詳細は既に説明したとおりである。
<絶縁保護ペースト製造工程(S2)>
また、絶縁保護ペースト34aを製造する。これも詳細は既に説明したとおりである。
【0076】
<塗工工程(S3)>
次に、塗工工程(S3)について説明する。塗工工程(S3)は、正極合材ペースト製造工程(S1)で製造した正極合材ペースト32aと、絶縁保護ペースト製造工程(S2)で製造した絶縁保護ペースト34aを正極集電体31の所定位置に同時塗工する工程である。
【0077】
<塗工機5の構成>
図7は、塗工機5の構造を示す斜視図である。図8は、塗工機5のC-C部分から見た断面を含む第1のノズル53と第2のノズル55を示す模式的な斜視図である。図7及び図8を参照して塗工機5を説明する。
【0078】
図7に示すように、塗工機5は、基台となるステージ57を備えている。ステージ57には、長尺帯状に形成されたAl箔からなる切断前の正極集電体31を搬送するための位置決めのガイド58を備える。正極集電体31は、図示を省略した供給リールから引き出され、搬送手段により、ステージ57上で搬送される。ステージ57の正極集電体31の搬送方向上流側の端部には、搬送方向と直交する向きで、正極集電体31を跨ぐような門型のダイノズル51が設けられる。ダイノズル51は、正極合材ペースト32aを貯留する第1のダイ52を備える。第1のダイ52は、正極合材層32が形成される位置に対応した位置に設けられる空間である。第1のダイ52には、正極合材ペースト32aが図示を省略した供給手段から供給されて貯留される。また、第2のダイ54は、絶縁保護層34が形成される位置に対応した位置に設けられる空間である。第2のダイ54には、絶縁保護ペースト34aが図示を省略した供給手段から供給されて貯留される。第1のダイ52と第2のダイ54は、隣接した形で、同一直線状に並べられる。
【0079】
第1のノズル53は、第1のダイ52の下部からステージ57上の正極集電体31の正極合材層32が形成される位置まで連通するノズルである。図示しない加圧手段で第1のダイ52の内圧が高められると、正極合材ペースト32aは、第1のノズル53から正極集電体31の正極合材層32が形成される位置に正極合材ペースト32aを所定量吐出する。
【0080】
第2のノズル55は、第2のダイ54の下部からステージ57上の正極集電体31の絶縁保護層34が形成される位置まで連通するノズルである。図示しない加圧手段で第2のダイ54の内圧が高められると、絶縁保護ペースト34aは、第2のノズル55から正極集電体31の絶縁保護層34が形成される位置に絶縁保護ペースト34aを所定量吐出する。
【0081】
図8に示すように、第1のノズル53と第2のノズル55は、相互に隔離されている。そして、第1のノズル53から吐出された正極合材ペースト32aと、第2のノズル55から吐出された絶縁保護ペースト34aは、吐出直後に相互に密着するように接液する。そして、接液した状態で、正極合材ペースト32aは正極集電体31の正極合材層32が形成される位置で塗工される。また、接液した状態で、絶縁保護ペースト34aは正極集電体31の絶縁保護層34が形成される位置で塗工される。その後、ローラ56により、塗工されて形成された正極合材層32と絶縁保護層34は、それらの表面が整形される。なお、絶縁保護層34が、正極合材層32より薄い場合は、正極合材層32のみが整形される。
【0082】
図5に示す本実施形態の塗工工程(S3)における正極合材層32と絶縁保護層34の境界部Bは、このような状態で、接液している。接液すると、図6に示すように正極合材ペースト32aと絶縁保護ペースト34aは、混じり合う混ざり部分Mを生じる。このとき正極合材ペースト32aの酢酸32fが、絶縁保護ペースト34aの絶縁粒子34bの周囲のpH値をpH10~12から下降させる。このことで、絶縁粒子34bの周囲のpHが、ベーマイトの等電点に近づくpH=7.7~9.4となる。pH=7.7~9.4となるとベーマイトの凝縮がはじまり、ベーマイトの見かけの粒子径が大きくなる。そうすると、混ざり部分Mは、これ以上拡大することがない。
【0083】
<乾燥工程(S4)>
上述のとおり塗工工程(S3)直後における正極合材ペースト32aと絶縁保護ペースト34aの混じりが抑制されると、この状態で乾燥工程(S4)を行う。乾燥工程(S4)により、正極合材層32の溶媒32eと酢酸32fは揮発し、ペースト状だった正極合材層32は、固体となりもう絶縁保護層34と混じり合うことはない。また、絶縁保護層34の溶媒34dも揮発し、ペースト状だった絶縁保護層34は、固体となり、こちらももう正極合材層32と混じり合うことはない。この状態で安定する。
【0084】
<整形プレス工程(S5)>
乾燥工程が終了すると、正極合材層32と絶縁保護層34は、既に一定の硬さとなっているが、整形プレス工程(S6)により、図示しないプレス機で均一な厚さの平面に整形する。なお、本実施形態では、絶縁保護ペースト34aの固形分率NVは、正極合材ペースト32aの固形分率NVよりも小さいため、乾燥工程(S4)における揮発成分の揮発による体積縮小率が大きい。すなわち、乾燥工程(S4)後は、絶縁保護層34の厚みは、正極合材層32の厚みより薄い。その結果、整形プレス工程(S5)では、正極合材層32のみがプレス機により整形される。
【0085】
<切断工程(S6)>
整形プレス工程(S5)で、厚みが均一な平坦面に整形されたら、切断工程(S6)で、電極体12に合わせた長さに切断される。
【0086】
これで、正極板3の完成である。
<車両用電池パックの製造方法>
このような正極板3の製造方法により正極板3が完成したら、セパレータ4を介して、負極板2と複数段積層し、捲回し電極体12を製造する。その後、電極体12は、電池ケース11の蓋体を介して正極外部端子14、負極外部端子15が装着される。そして、電極体12は、電池ケース11に収容され、蓋体がレーザ溶接などで気密に接合される。乾燥工程を経て、注液工程で、電解液13が充填され密封される。その後初充電などのコンディショニング、OCV検査、内部抵抗検査、エージングを経てセル電池が完成する。セル電池は、複数個スタックされて、組電池が構成される。さらに、複数の組電池が電池パックに収容され、充放電などを監視し、制御する制御装置などが装着されて、車載用のリチウムイオン二次電池として完成する。
【0087】
(本実施形態の作用)
本実施形態のリチウムイオン二次電池では、塗工工程(S3)において、同時塗工を行う。このとき正極合材ペースト32aと絶縁保護ペースト34aが境界部Bで接液した際、絶縁保護ペースト34aに含まれるベーマイトからなる絶縁粒子34bを凝集させることで見かけの粒子径を大きくする。そのことで、絶縁粒子34bの隙間及び正極活物質粒子32b及び導電助材32cの隙間に双方が入り込みにくくなり、混ざり部分Mの発生を抑制する。
【0088】
そのため、境界部Bで正極合材ペースト32aと絶縁保護ペースト34aが接液した際、ベーマイトが凝集して見かけ粒子が大きくなるよう、正極合材ペースト32aにpH調整剤である酢酸32fを添加した。正極合材ペースト32aの酢酸32fの影響により境界部Bの絶縁保護ペースト34aのpHが等電点に近づくことで、ベーマイトの凝集が発生、混ざりを抑制させる。
【0089】
(本実施形態の効果)
(1)本実施形態では、正極合材ペースト32aと絶縁保護ペースト34aを同時に塗工した場合でも、正極合材層32と絶縁保護層34の境界部Bでの混ざりが抑制された正極板3を製造することができる。
【0090】
(2)絶縁粒子34bが凝集しないゼータ電位とするpHに調整された絶縁保護層34を形成する絶縁保護ペースト34aを生成する。このため、塗工工程(S3)において、絶縁粒子34bが均等に分散された状態で塗工することができる。
【0091】
(3)絶縁粒子34bがベーマイトからなり、絶縁保護ペーストのpHを10~12に調整したため、ベーマイトが凝集する等電位を確実に回避することができる。
(4)絶縁保護ペースト34aのベーマイトの平均粒子径を1~3μmとし、絶縁保護ペースト34aには、分散剤を添加しない。そのため、凝集が生じにくい粒径とすることで塗工工程(S3)までは、確実に凝集を抑制できる。その一方で、塗工工程(S3)後は、分散剤により凝集を妨げることがない。
【0092】
(5)絶縁保護ペースト34a中に含まれるNa量を50~500ppmとした。このため、pHを適切に調整し、塗工工程(S3)以前の凝集を適切に抑制することができる。
【0093】
(6)正極合材ペースト32aのpH調整剤が酢酸32fからなる。このため、絶縁保護ペースト34aと接液した場合に、絶縁粒子34bを確実に凝集させることができる。また、酢酸32fは、正極合材ペースト32aにおいて低温での出力に優れる非水電解液二次電池を高い生産性で製造することができるという効果もある。
【0094】
(7)正極合材ペースト32aのpHを7~9に調整した。このため、絶縁保護ペースト34aと接液した場合に、絶縁粒子34bを確実に凝集させることができる。
(8)正極合材ペースト32aの酸濃度を300~800ppmとした。このため、絶縁保護ペースト34aと接液した場合に、絶縁粒子34bを確実に凝集させることができる。
【0095】
(9)リチウムイオン二次電池1である場合に、好適に適用できる。
(変形例)
○図面は、発明を説明するためのものであり、実際の大きさや厚み、粒子の数量などを正確に示すものではない。
【0096】
図4に示すフローチャートは、正極板3の製造方法の一例であり、その工程の順序を変えたり、工程を削除し、付加し、置換して実施することができることは言うまでもない。
【0097】
○正極活物質粒子32b、導電助材32c、バインダ32d、酢酸32f(pH調整剤)、絶縁粒子34b、バインダ34c等は例示であり、実施形態に限定されるものではない。
【0098】
○二次電池は、リチウムイオン二次電池1を例示したが、同様な電極体を用いることができれば、他の二次電池であっても本発明を実施することができる。
○本実施形態のリチウムイオン二次電池は本発明の一実施形態であり、特許請求の範囲を逸脱しない限り、実施形態に限定されず当業者によりその構成を付加し、削除し、若しくは変更して実施できることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0099】
1…リチウムイオン二次電池(二次電池)
11…電池ケース
12…電極体
13…電解液
14…正極外部端子
15…負極外部端子
2…負極板
21…負極集電体
22…負極合材層
23…負極接続部
3…正極板
31…正極集電体
32…正極合材層
32a…正極合材ペースト
32b…正極活物質粒子
32c…導電助材
32d…バインダ
32e…溶媒
32f…酢酸(pH調整剤)
33…正極接続部
34…絶縁保護層
34a…絶縁保護ペースト
34b…絶縁粒子(ベーマイト)
34c…バインダ
34d…溶媒
4…セパレータ
5…塗工機
51…ダイノズル
52…第1のダイ
53…第1のノズル
54…第2のダイ
55…第2のノズル
56…ローラ
57…ステージ
58…ガイド
M…混ざり部分
B…境界部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10