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特許7404340被測定物質の検出装置及び被測定物質の検出方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-15
(45)【発行日】2023-12-25
(54)【発明の名称】被測定物質の検出装置及び被測定物質の検出方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/17 20060101AFI20231218BHJP
   G01N 21/64 20060101ALI20231218BHJP
   G01N 15/00 20060101ALI20231218BHJP
   G01N 33/543 20060101ALI20231218BHJP
【FI】
G01N21/17 A
G01N21/64 F
G01N15/00 A
G01N33/543 541A
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2021507380
(86)(22)【出願日】2020-03-17
(86)【国際出願番号】 JP2020011825
(87)【国際公開番号】W WO2020189690
(87)【国際公開日】2020-09-24
【審査請求日】2023-01-06
(31)【優先権主張番号】P 2019053626
(32)【優先日】2019-03-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001960
【氏名又は名称】シチズン時計株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100114018
【弁理士】
【氏名又は名称】南山 知広
(74)【代理人】
【識別番号】100180806
【弁理士】
【氏名又は名称】三浦 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100151459
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 健一
(72)【発明者】
【氏名】和田 花奈
(72)【発明者】
【氏名】野崎 孝明
【審査官】嶋田 行志
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-121231(JP,A)
【文献】特表2007-503217(JP,A)
【文献】特表2016-529877(JP,A)
【文献】国際公開第2017/187023(WO,A1)
【文献】Detection of Nanometer Magnetic Labels' Concentration Via the Movement of Micrometer Superparamagnet,IEEE TRANSACTIONS ON MAGNETICS,IEEE,2012年10月19日,VOL. 48, NO. 11,pp. 2835-2837,doi: 10.1109/TMAG.2012.2202096
【文献】Gene Silencing Mediated by Magnetic Lipospheres Tagged with Small Interfering RNA,NANO LETTERS,米国,American Chemical Society,2010年09月13日,Vol. 10,pp. 3914-3921,doi: 10.1021/nl102435v
【文献】Paramagnetic capture mode magnetophoretic microseparator for blood cells,IEE Proceedings - Nanobiotechnology,米国,The Institution of Engineering and Technology,2006年08月,Vol. 153, No. 4,pp. 67-73,doi: 10.1049/ip-nbt:20050019
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/00-G01N 21/83
G01N 15/00-G01N 15/14
G01N 33/00-G01N 33/98
C12M 1/00-C12M 1/42
C12Q 1/00-C12Q 1/70
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
PubMed
Science Direct
IEEE Xplore
SPIE Digital Library
Oxford Journals
ACS PUBLICATIONS
Nature
Science
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被測定物質と、該被測定物質に特異的に結合する磁気標識物質及び蛍光標識物質とを含む溶液を保持する容器と、
前記溶液中に流れを発生させる流れ発生部と、
前記溶液中で磁場勾配を発生させる磁場発生部と、
前記溶液中の所定領域内における粒子に含まれる前記被測定物質、前記磁気標識物質及び前記蛍光標識物質が結合した複合粒子と他の物質との前記磁場勾配による動きの差に基づいて、前記複合粒子を検出する検出部と、
を有することを特徴とする検出装置。
【請求項2】
前記溶液中の所定領域は、前記容器の内壁面から離間している、請求項1に記載の検出装置。
【請求項3】
前記流れ発生部は、空間光を前記容器内に照射する光源である、請求項1または2に記載の検出装置。
【請求項4】
前記磁場発生部は、前記複合粒子を前記流れの方向とは異なる方向へ移動させる、請求項1乃至のいずれか一項に記載の検出装置。
【請求項5】
前記磁場発生部は、前記複合粒子を前記流れの方向と同じ方向へ移動させる、請求項1乃至のいずれか一項に記載の検出装置。
【請求項6】
前記検出部は、前記複合粒子の動きの方向及び前記他の物質の動きの方向に基づいて、前記複合粒子を検出する、請求項に記載の検出装置。
【請求項7】
前記検出部は、前記複合粒子の動きの速度及び前記他の物質の動きの速度に基づいて、前記複合粒子を検出する、請求項に記載の検出装置。
【請求項8】
前記流れ発生部は、前記溶液を加熱により対流させて前記溶液前記流れを発生させる、請求項1乃至のいずれか一項に記載の検出装置。
【請求項9】
前記流れ発生部は、前記容器を回転させることによって前記溶液前記流れを発生させる、請求項1乃至のいずれか一項に記載の検出装置。
【請求項10】
前記流れ発生部は、前記溶液を攪拌することによって前記溶液前記流れを発生させる、請求項1乃至のいずれか一項に記載の検出装置。
【請求項11】
前記検出部は、前記蛍光標識物質を検出することにより前記蛍光標識物質が結合した粒子を検出し、
検出した前記粒子の動きに基づいて、前記複合粒子を検出する、請求項1乃至10のいずれか一項に記載の検出装置。
【請求項12】
容器内に、被測定物質と、該被測定物質に特異的に結合する磁気標識物質及び蛍光標識物質とを含む溶液を保持し、
前記溶液中に流れを発生させ
前記溶液中で磁場勾配を発生させ、
前記溶液中の所定領域内における粒子に含まれる前記被測定物質、前記磁気標識物質及び前記蛍光標識物質が結合した複合粒子と他の物質との前記磁場勾配による動きの差に基づいて、前記複合粒子を検出する、
ステップを有することを特徴とする検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被測定物質の検出装置及び被測定物質の検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
これまでに、生体試料溶液中に存在するウイルスや細菌・真菌等の生体関連物質を検出する方法のニーズが高まっている。ウイルス等の数百nmの大きさの生体関連物質を検出する方法としては、近接場光を用いた光学的検出方法が知られている(例えば、特許文献1)。「近接場光」とは、高屈折率の媒質側から低屈折率の媒質側に入射した光が界面で全反射する際、低屈折率の媒質側の界面近傍のみに形成される光であって、界面から遠ざかるにつれて急激に減衰する性質を有する。
【0003】
しかしながら、細菌・真菌等の生体関連物質は数ミクロンの大きさを有しているため、近接場光を用いた光学的検出方法によっては、細菌・真菌等の生体関連物質を検出することは難しいという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2017/187744号
【発明の概要】
【0005】
本開示の実施形態に係る被測定物質の検出装置及び被測定物質の検出方法は、細菌又は真菌等の生体関連物質を簡便に検出することを目的とする。
【0006】
本開示の実施形態に係る被測定物質の検出装置は、被測定物質、及び被測定物質に特異的に結合する磁気標識物質を含む溶液を保持する容器と、少なくとも溶液中に第1の方向の流れを発生させる流れ発生部と、溶液中で磁場勾配を発生させる磁場発生部と、溶液中の所定領域内における粒子の動きに基づいて、被測定物質に磁気標識物質が結合した複合粒子を検出する検出部と、を有することを特徴とする。
【0007】
溶液中の所定領域は、容器の内壁面から離間していることが好ましい。
【0008】
流れ発生部は、空間光を容器内に照射する光源であることが好ましい。
【0009】
溶液には、被測定物質及び磁気標識物質以外の他の物質が含まれ、検出部は、溶液中の所定領域内における複合粒子の動き及び他の物質の動きに基づいて、複合粒子を検出するようにしてもよい。
【0010】
また、磁場発生部は、複合粒子を第1の方向とは異なる第2の方向へ移動させることが好ましい。
【0011】
また、磁場発生部は、複合粒子を第1の方向と同じ第2の方向へ移動させるようにしてもよい。
【0012】
また、検出部は、複合粒子の動きの方向及び他の物質の動きの方向に基づいて、複合粒子を検出することが好ましい。
【0013】
また、検出部は、複合粒子の動きの速度及び他の物質の動きの速度に基づいて、複合粒子を検出することが好ましい。
【0014】
また、流れ発生部は、溶液を加熱により対流させて溶液の少なくとも一部に第1の方向の流れを発生させるようにしてもよい。
【0015】
また、流れ発生部は、容器を回転させることによって溶液の少なくとも一部に第1の方向の流れを発生させるようにしてもよい。
【0016】
また、流れ発生部は、溶液を攪拌することによって溶液の少なくとも一部に第1の方向の流れを発生させるようにしてもよい。
【0017】
また、複合粒子は、蛍光標識物質をさらに含み、検出部は、蛍光標識物質を光学的に検出することにより蛍光標識物質が結合した粒子を検出し、検出した粒子の動きに基づいて、複合粒子を検出することが好ましい。
【0018】
また、本開示の実施形態に係る被測定物質の検出方法は、容器内に、被測定物質、及び被測定物質に特異的に結合する磁気標識物質を含む溶液を保持し、少なくとも溶液中に第1の方向の流れを発生させ、溶液中で磁場勾配を発生させ、溶液中の所定領域内における粒子の動きに基づいて、被測定物質に磁気標識物質が結合した複合粒子を検出する、ステップを有することを特徴とする。
【0019】
本開示の実施形態に係る被測定物質の検出装置及び被測定物質の検出方法によれば、細菌又は真菌等の生体関連物質を簡便に検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本開示の実施形態1に係る被測定物質の検出装置の構成図である。
図2】本開示の実施形態1に係る被測定物質の検出装置によって検出した溶液中の検出領域における被測定物質及び他の物質の移動方向を示す図である。
図3】本開示の実施形態1に係る被測定物質の検出方法の手順を説明するためのフローチャートである。
図4】(a)は、本開示の実施形態1に係る被測定物質の検出装置における被測定物質の軌跡を説明するための検出装置の側面図であり、(b)は(a)において検出部側から見た検出領域の上面図である。
図5】(a)~(c)は、図4(a)に示した検出装置において複数の焦点深度において取得した画像の平面図であり、(d)~(f)は、それぞれ(a)~(c)に対応した検出装置の容器の側面図である。
図6】(a)は、本開示の実施形態1に係る被測定物質の検出装置を構成する検出部の撮像部が撮像した溶液中の検出領域における画像であり、(b)は、検出部の処理部による画像処理により得られた、(a)の画像における各粒子の検出光の輝度を示す図である。
図7】(a)は、本開示の実施形態1に係る被測定物質の検出装置を構成する検出部の撮像部が撮像した溶液中の検出領域における初期画像であり、(b)は初期画像に初期画像取得時から所定時間経過後に取得した画像を重ねた画像を示す図である。
図8】本開示の実施形態1の変形例1に係る被測定物質の検出装置の構成図である。
図9】本開示の実施形態1の変形例2に係る被測定物質の検出装置において使用する攪拌可能な容器の構成図であって、(a)は平面図、(b)は側面図、(c)は攪拌を行う場合の容器の回転の様子を示す図、(d)は被測定物質の検出時における容器の回転の様子を示す図である。
図10】(a)は、容器を回転させた場合について、ある時刻における粒子の位置と、その動きを矢印で表した図であり、(b)は、回転処理後の粒子の位置と、その動きを矢印で示した図である。
図11】本開示の実施形態1の変形例3に係る被測定物質の検出装置の構成図である。
図12】本開示の実施形態1の変形例3に係る被測定物質の検出装置によって検出した溶液中の検出領域における被測定物質及び他の物質の移動方向を示す図である。
図13】本開示の実施形態2に係る被測定物質の検出装置の構成図である。
図14】本開示の実施形態2に係る被測定物質の検出方法の手順を説明するためのフローチャートである。
図15】(a)は、本開示の実施形態2に係る被測定物質の検出装置における被測定物質の軌跡を説明するための検出装置の側面図であり、(b)は(a)において検出部側から見た検出領域の上面図である。
図16】本開示の実施形態2に係る被測定物質の検出装置によって検出した溶液中の検出領域における被測定物質及び他の物質の移動方向を示す図である。
図17】(a)は、本開示の実施形態2に係る被測定物質の検出装置によって取得した溶液中の検出領域における画像であり、(b)は、(a)の画像における各粒子の検出光の輝度を示す図である。
図18】(a)は、本開示の実施形態2に係る被測定物質の検出装置を構成する検出部の撮像部が撮像した溶液中の検出領域における初期画像であり、(b)は、初期画像取得時から所定時間経過後に取得した画像を示す。
図19】(a)は、移動量ベクトルの始点をXY座標の原点に配置した図であり、(b)は、第1の方向の力がゼロの場合において、移動量ベクトルの始点をXY座標の原点に配置した図である。
図20】(a)~(d)は、本開示の実施形態2に係る被測定物質の検出方法によって蛍光標識物質を使用する場合の測定手順を示す図である。
図21】(a)~(e)は、本開示の実施形態2に係る被測定物質の検出方法によって蛍光染色を行う場合の測定手順を示す図である。
図22】(a)は、本開示の実施形態3に係る被測定物質の検出装置の斜視図であり、(b)は検出部として携帯端末を用いた場合における携帯端末画面の表示例である。
図23】本開示の実施形態3に係る被測定物質の検出装置において測定筐体を開いた状態の斜視図である。
図24】本開示の実施形態1~3に係る被測定物質の検出装置において使用する容器の側面図であって、(a)は平底型、(b)は丸底型、(c)はテーパー型の容器の側面図を示す。
図25】本開示の実施形態1~3に係る被測定物質の検出装置において使用する容器及び磁場発生部の側面図であって、(a)は先尖形状の磁場発生部を有する例であり、(b)は(a)に加えて容器がヨークを有する例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照して、本開示の実施形態に係る被測定物質の検出装置及び被測定物質の検出方法について説明する。ただし、本発明の技術的範囲はそれらの実施の形態には限定されず、請求の範囲に記載された発明とその均等物に及ぶ点に留意されたい。
【0022】
[実施形態1]
まず、本開示の実施形態1に係る被測定物質の検出装置について説明する。図1に本開示の実施形態1に係る被測定物質の検出装置101の構成図を示す。実施形態1に係る被測定物質の検出装置101は、容器1と、流れ発生部2と、磁場発生部3と、検出部4と、を有する。
【0023】
容器1は、被測定物質11、被測定物質11に特異的に結合する磁気標識物質12を含む溶液14を保持する。ここで、溶液14中の被測定物質11の全てに磁気標識物質12が結合して複合粒子13が形成されることが好ましい。また、容器1に、被測定物質11及び磁気標識物質12を入れた時点では、これらの物質は結合していなくてもよい。即ち、容器1において発生した溶液14の流れなどによって、被測定物質11に磁気標識物質12が結合する反応が促進されて、複合粒子13が生成されてもよい。被測定物質11の例として、カンジダ菌、大腸菌、CRP(C反応性蛋白)が挙げられる。これらの検出手順の具体例については後述する。
【0024】
流れ発生部2は、少なくとも溶液14中に第1の方向21の流れを発生させる。例えば、図1に示すように、流れ発生部2は、複合粒子13を検出するための溶液14中の所定の検出領域(以下、単に「所定領域」ともいう。)16に第1の方向21の流れを発生させることが好ましい。ここで、所定領域16は、容器1の内壁面から離間していることが好ましい。容器1の内壁面から離間した領域を対象にして複合粒子13を検出するため、複合粒子13が容器1の内壁面と接触して動きにくくなることがない。また、内壁面に付着した複合粒子を検出処理の対象外とすることにより、検出精度を向上させることができる。さらに、容器1の内壁面から離間した領域を対象に複合粒子を検出するため、従来技術のように容器の底面を平板状にする必要がなく、容器の形状の自由度が高くなり、検出装置の設計の自由度を高めることができる。例えば、所定領域16は、容器1の内壁面から、数μm以上、数cm以下の範囲で離間していることが好ましい。特に、数十μm以上、数mm以下の範囲で離間していることが好ましい。さらに、所定領域16は、容器1の底面を含まないことが好ましい。そこで、所定領域16を容器1の底面から離間した領域とすることが好ましい。容器1の底面では複合粒子13の移動が阻害され、また底面に沈殿した複合粒子以外の物質がノイズとなり検出が難しくなる場合があるためである。
【0025】
図1に示した例では、照明装置5が流れ発生部2を兼ねている。即ち、照明装置5から照射された光により溶液14が加熱される。その結果、流れ発生部2(照明装置5)は、溶液14を加熱により対流させて、溶液14の少なくとも一部に第1の方向21の流れを発生させることができる。
【0026】
磁場発生部3は、溶液14中で、複合粒子13を第1の方向21とは異なる第2の方向31へ移動させるための磁場勾配を発生させる。複合粒子13は、第1の方向21に向かう力と磁場勾配による力の合成力により第2の方向31に移動する。磁場発生部3として、例えば、磁石、または電磁石等を用いることができる。
【0027】
検出部4は、撮像部44と、処理部45と、を有する。撮像部44は、撮像して画像を取得する機能を有する。撮像部44として、例えば、静止画または動画を撮像するカメラやビデオカメラ等の撮像装置を用いることができる。処理部45は、撮像した画像から複合粒子を検出する機能を有する。処理部45として、例えば、CPU及びメモリを備えたコンピュータ等を用いることができる。処理部45が、撮像部44により撮像された画像から複合粒子を検出する機能は、処理部45内のメモリに予め記憶されたプログラムに従って、処理部45内のCPUにより実行される。検出部4は、溶液14中の所定の検出領域16内における粒子の動きに基づいて、被測定物質11に磁気標識物質12が結合した複合粒子13を検出する。照明装置5から照射された照明光51は、ミラー43で反射されて溶液14に照射される。照明光51には空間光を用いることができる。即ち、照明装置5は、空間光を容器1内に照射する光源である。空間光(「伝搬光」ともいう。)は、近接場光のように局在する光ではなく、空間を伝搬する一般的な光である。具体的には、空間光とは、一般に発生源から数百nm~数μm以内の距離だけ離れた位置で急激な減衰を示す近接場光を含まない光とされるが、本明細書においても、近接場光を含まないことを意味し、容器と溶液との界面から数百nm~数μm以内の距離だけ離れた位置で急激な減衰を示すことのない光を意味する。本明細書において、所定領域16は容器1の内壁面から数μm以上離間した領域であるので、所定領域16において近接場光は利用していない。溶液14中の複合粒子13で反射された検出光41は、検出部4の撮像部44に入射する。
【0028】
図2に、本開示の実施形態1に係る被測定物質の検出装置によって検出した溶液中の検出領域における被測定物質及び他の物質の移動方向を示す図(画像例)を示す。
【0029】
磁気標識物質12は、被測定物質11に特異的に結合する。溶液14には、被測定物質11及び磁気標識物質12以外の他の物質17が含まれていてもよい。ここで、「他の物質」とは、被測定物質以外の物質であり、夾雑物を含む。磁気標識物質12は、他の物質17には結合しない。図2に示すように、検出部4の撮像部44が撮像した画像において、複合粒子13は、被測定物質11に磁気標識物質12が結合したものであるため、磁場発生部3により発生した磁場勾配の影響を受け、第1の方向21とは異なる第2の方向31に向かって移動する。一方、他の物質17は、磁気標識物質12を含んでいないため、磁場勾配に従って移動せず、第1の方向21の流れに従って移動する。従って、磁場発生部3に向かう方向である第2の方向31に向かって移動する粒子が複合粒子13であり、第2の方向31に向かって移動する粒子の数を検出することにより、複合粒子13の数、即ち、被測定物質の数を検出することができる。なお、図2において、複合粒子13及び他の物質17から延びる矢印は、それぞれの粒子の動きの方向を模式的に示しており、それぞれの矢印の長さは粒子の動きの速さを表すものではない。検出部4は、測定対象とする特徴的な粒子の動きに基づいて、被測定物質11に磁気標識物質12が結合した複合粒子13を検出することができる。検出部4は、溶液14中の所定の検出領域16内における測定対象とする特徴的な粒子の動き、及びそのような特徴的な動きとは異なる他の物質17の動きに基づいて、複合粒子13を検出するようにしてもよい。被測定物質の検出方法の詳細は、後に図4~7を参照して説明する。
【0030】
ここで、複合粒子13には、第1の方向21へ向かう力だけでなく、磁場勾配により、第1の方向21とは異なる方向へ向かう力も同時に作用している。磁場勾配により複合粒子13に第1の方向21とは異なる方向へ向かう力のみを作用させると、複合粒子13に引きずられて測定対象ではない他の物質17も同時に移動してしまうため、粒子の数を誤検出するおそれがある。そこで、本開示の実施形態に係る被測定物質の検出装置においては、複合粒子13に第1の方向21及び第1の方向21とは異なる方向の2つの異なる方向に向かう力を作用させることで、複合粒子13から他の物質17を引き離すことができる。
【0031】
磁場発生部3は、複合粒子13を第1の方向21と同じ第2の方向31へ移動させるようにしてもよい。この場合、検出部4は、複合粒子13の動きの速度及び他の物質17の動きの速度に基づいて、複合粒子13を検出することができる。磁場勾配によって生じた粒子の動きの方向である第2の方向31と、流れ発生部2により発生した粒子の動きの方向である第1の方向21が同じ場合であっても、磁場勾配により、磁気標識物質12を含む複合粒子13は、磁気標識物質12を含まない他の物質17より速い速度で動くため、両者の速度が互いに異なることに基づいて、取得した画像から複合粒子13の検出が可能である。また、磁場勾配によって生じた粒子の動きの方向である第2の方向31と、流れ発生部2により発生した粒子の動きの方向である第1の方向21が逆向きの場合は、磁場勾配により、磁気標識物質12を含む複合粒子13の動きの速さ及び方向が、磁気標識物質12を含まない他の物質17の動きの速さ及び方向と異なるため、取得した画像から複合粒子13の検出が可能になる。
【0032】
次に、本開示の実施形態1に係る被測定物質の検出方法について説明する。図3に、本開示の実施形態1に係る被測定物質の検出方法の手順を説明するためのフローチャートを示す。まず、ステップS101において、容器1に、被測定物質11、及び被測定物質11に特異的に結合する磁気標識物質12を含む溶液14を保持させる。容器1に、被測定物質11及び磁気標識物質12を入れた時点では、磁気標識物質12は、被測定物質11に結合していなくてもよい。
【0033】
次に、ステップS102において、流れ発生部2が、少なくとも溶液14中に第1の方向21の流れを発生させる。上述したように、図1に示した例では、照明装置5が流れ発生部2を兼ねている。容器1において発生した溶液14の流れなどによって、被測定物質11に磁気標識物質12が結合する反応が促進されて、複合粒子13が生成される。
【0034】
次に、ステップS103において、磁場発生部3が、複合粒子13を第1の方向21とは異なる第2の方向31へ移動させるために磁場勾配を発生させる。
【0035】
次に、ステップS104において、検出部4が、第2の方向31に移動する粒子を検出する。具体的には、検出部4の撮像部44が、溶液14中の検出領域16の画像を撮像し、処理部45により、この撮像画像を使って複合粒子13及び他の物質17を検出するための処理(後述)が行われる。以下、「複合粒子13を検出する方法」について、「画像の焦点を合わせる方法」、「検出部が取得した画像から複合粒子を検出するための画像処理の方法」、及び「取得した画像中を移動する粒子を認識する方法」に分けて説明する。
【0036】
まず、検出部4が、画像の焦点(画像撮影時の焦点深度)を合わせる方法について詳細に説明する。図4(a)に、本開示の実施形態1に係る被測定物質の検出装置における被測定物質の軌跡を説明するための検出装置101の側面図を示す。図4(b)に、図4(a)において検出部4側から見た検出領域16の上面図を示す。
【0037】
撮像部44は、焦点を調節する機能を備えており、撮像部44は検出領域16内で所定の焦点深度を持つように設定することができる。図4(a)に示すように、複合粒子13は第2の方向31に向かって、容器1の底面へ(1)、(2)、(3)の順で移動する。ここで、複合粒子13が(2)の位置にある場合に撮像部44の焦点が最も合うものとする。また、(2)より溶液14の表面側の(1)の位置から、容器1の底面側の(3)の位置までは、焦点は完全には合わないものの複合粒子13を認識できるものとする。このように撮像部44を設定することにより、複合粒子13が、(1)の位置に到達してから磁場勾配に従って(3)の位置に到達するまで1つの複合粒子13を追跡することができ、検出領域16内での移動の様子を観察することができる。従って、図4(b)に示すように、検出部4が、検出領域16内で第2の方向31へ向かって移動する複合粒子13を検出することができる。さらに、まず、図4(a)の(0)の位置に示すように、不図示の磁場発生部等により、検出領域16より容器1の上部に複合粒子13を集めた場合、複合粒子13は、磁場発生部による磁力、及び重力により時間が経過すると検出領域16を通って、図4(a)の(4)の位置に示すように、検出領域16の下側へ落ちていく。そのため、検出領域16を所定時間観察することにより、ほぼ全ての複合粒子13の数をカウントがすることができる。
【0038】
図5(a)~(c)に、図4(a)に示した検出装置101において複数の焦点深度において取得した画像の平面図を示す。図5(a)~(c)では、複合粒子13及び他の物質17を格子状に配置した例を模式的に示している。しかしながら、実際には、複合粒子13及び他の物質17は格子状に配置されるとは限らない。図5(d)~(f)に、それぞれ図5(a)~(c)に対応した検出装置の容器1の側面図を示す。図5(d)に示すように、検出領域16を容器1の底面付近の所定の領域16aとし、容器1の底面付近の位置f1で撮像部44の焦点が合うものとすると、図5(a)に示すように複合粒子13だけでなく、測定対象外の他の物質17にも焦点が合ってしまい複合粒子13の識別が難しくなる。
【0039】
そこで、図5(e)または(f)に示すように、検出領域16を容器1の底面から所定の距離離れた領域16bまたは16cに位置するように設定し、撮像部44の焦点f2またはf3をそれぞれの領域の中央付近に設定することが好ましい。このように撮像部44を設定することにより、図5(b)または(c)に示すように、領域16bまたは16cのそれぞれの領域に存在する複合粒子13のみに焦点が合い、容器1の底面に存在する測定対象外の他の物質17には焦点が合わなくなるため、検出部4が、複合粒子13の検出を容易に行うことができる。
【0040】
次に、検出部が取得した画像から複合粒子を検出するための画像処理の方法について説明する。図6(a)に、本開示の実施形態1に係る被測定物質の検出装置を構成する検出部4の撮像部44が撮像した溶液14中の検出領域16における画像を示し、図6(b)に、検出部4の処理部45による画像処理により得られた、図6(a)の画像における各粒子の検出光の輝度を示す。図6(b)に示すように、検出部4の撮像部44が取得した画像において、検出部4の処理部45が、画面の平均輝度と最大輝度の中間点を閾値として、閾値を超える部分を粒子と判定することができる。ただし、このような例には限られず、粒子を判定するための閾値は任意に設定することができる。また、撮像部44が継続的に溶液14中の検出領域16の撮像を行い、処理部45は、撮像部44によって撮像された画像に基づいて、複合粒子13を検出する処理を継続的に行うこともできる。
【0041】
次に、検出部4が、取得した画像中を移動する粒子を認識する方法について説明する。図7(a)に、本開示の実施形態1に係る被測定物質の検出装置を構成する検出部4の撮像部44が撮像した溶液14中の検出領域16における初期画像を示す。図7(b)に、初期画像に初期画像取得時から所定時間経過後に取得した画像を重ねた画像を示す。ここでは、撮像部44が複数のフレームで構成される動画を撮像し、撮像した動画を構成する個々の静止画像であるフレームを用いて、処理部45が画像処理を行う例について説明する。粒子の最大移動速度を仮定し、初期画像及び初期画像取得時から所定時間経過後に取得した画像である2つの連続するフレームで同一の粒子が移動するであろう移動距離130を設定する。次に、図7(a)に示す最初のフレームの目的の粒子の座標に対し、図7(b)に示す次のフレームで、移動距離130の範囲内にあり、最も近い座標を有する粒子が同一の粒子の可能性が高いと判定する。同様の処理を次のフレームでも適用して、例えば、5フレーム以上連続して同一の粒子と判定できたものを1つの粒子としてデータベースに登録することが好ましい。このような移動認識処理は複数のフレームの複数の粒子に対して行い、粒子の座標データベースを作成するようにしてもよい。検出部4は、検出した粒子の動きに基づいて、検出した粒子の中から複合粒子13を検出する。
【0042】
蛍光を用いない場合、試料溶液で光を散乱する物質は全て画像に記録されるため、複合粒子13以外で磁場勾配による力を受ける粒子が存在すれば、それらの粒子も画像に記録される。そのため、画像に記録された粒子の分別を行う必要がある。
【0043】
具体的には、単体の磁気標識物質12、及び夾雑物等のその他の物質に磁気標識物質12が非特異的に結合した粒子を移動量ベクトルの速度及び方向を用いて除外する処理が必要になる。この処理については後述する。
【0044】
最初に、単体の磁気標識物質12について考える。単体の磁気標識物質12は、複合粒子を形成した場合に比べて余計な荷物(複合粒子の相手)が無いので、複合粒子に比べて同一の磁場勾配に対して、移動速度が速くなる。予め知られている複合粒子の移動速度の最大速度を閾値に設定し、閾値より大きい速度の対象粒子を除外することで分別が可能である。なお、移動速度は、磁場勾配の大きさにより、つまり検出領域の場所によって異なるため、場所ごとの閾値を予め計算あるいは、測定により設定し、処理部45に記憶させておく必要がある。
【0045】
一方、夾雑物に非特異的に結合した磁気標識物質12は、既知の複合粒子13の速度の最小速度を閾値に設定し、閾値より小さい速度の対象粒子を除外することができる。しかし、原理的には、被測定物質11と類似した性質(サイズ、分子量、表面状態)を持つ場合は、磁気標識物質12が被測定物質11と結合する際の特異性を必要に応じて、十分高く設定しておく必要がある。
【0046】
ここで、本開示の実施形態1に係る被測定物質の検出装置において、検出部は、容器の所定領域内を移動する物体の移動速度に基づいて、複合粒子を検出するようにしてもよい。上記のようにして作成した粒子座標のデータベースから、粒子の移動方向と速度を求める。即ち、図2に示すように、画面中心に磁場発生部3を配置した場合に、第2の方向31へ画面中心に向かう粒子を複合粒子13と認識して粒子数をカウントすることができる。複合粒子13の速度は中心に近づくほど速くなるので、中心からの距離に対して速さが増加することを判定基準に追加することもできる。また、第1の方向21へ向かう流れによる力は複合粒子13にも働くので、複合粒子13が描く軌道は直線でない場合もあるが、その場合は、流れの影響を補正して軌道を求めることが好ましい。例えば、外力として容器1の回転を用いた場合、他の物質17が描く軌道は円軌道となり、複合粒子13が描く軌跡は、らせん状となる。このように、粒子が描く軌道の形状の差に基づいて、検出対称の複合粒子13と他の物質17を識別するようにしてもよい。複合粒子13の速度は中心に近づくほど速くなるので、中心からの距離に対して速さが増加することを判定基準に追加することもできる。
【0047】
次に、本開示の実施形態1の変形例1に係る被測定物質の検出装置について説明する。上記の実施形態において、流れ発生部2は、溶液14を加熱により対流させて溶液14の少なくとも一部に第1の方向21の流れを発生させる例を示したが、このような例には限られない。即ち、流れ発生部2は、容器1を回転させることによって溶液14の少なくとも一部に第1の方向21の流れを発生させるようにしてもよい。
【0048】
図8に本開示の実施形態1の変形例1に係る被測定物質の検出装置102の構成図を示す。図8に示した例では、試料容器回転機構61が流れ発生部として機能する。容器1は試料容器回転機構61の上に載置され、試料容器回転機構61により回転し、溶液14の中に遠心力による第1の方向の流れを発生させる。なお、磁場発生部3は試料容器回転機構61に組み込まれるようにしてもよい。なお、詳細な判定方法については後述する。
【0049】
次に、本開示の実施形態1の変形例2に係る被測定物質の検出装置について説明する。変形例2に係る被測定物質の検出装置は、流れ発生部が、溶液を攪拌することによって溶液の少なくとも一部に第1の方向の流れを発生させることを特徴とする。
【0050】
図9(a)~(d)に、本開示の実施形態1の変形例2に係る被測定物質の検出装置において使用する攪拌可能な容器の構成図を示す。図9(a)は、攪拌可能な容器の平面図を示し、図9(b)~(d)は、図9(a)のA-A´線での断面図を示し、図9(c)は攪拌を行う場合の容器の回転の様子を示し、図9(d)は被測定物質の検出時における容器の回転の様子を示す。
【0051】
図9(a)及び(b)に示すように回転可能な容器1の内壁に、攪拌用のフィン18を設置することが好ましい。また、図9(c)に示すように、攪拌を行う場合、R1で示すように容器1の回転と反転を複数回繰り返すことが好ましい。攪拌により溶液14に乱流22を発生させて、溶液14中に分散している粒子間の反応を促進することができる。さらに、図9(d)に示すように、画像処理による検出時は、R2で示すように容器1を一定速度で回転させることで、溶液14の粒子に遠心力を外力として加えることが出来る。
【0052】
図10(a)は容器を回転させた場合において、ある時刻における粒子位置と、その動きを矢印で表した図である。黒丸、及び白丸は、それぞれ、複合粒子13、及び他の物質17を表す。破線は容器1の外周部を表す。白抜き矢印のように容器1が右回転している場合、磁場発生部3は容器1の中心部に配置されている(図8参照)ため、複合粒子13は磁場勾配が最も強い容器1の中心に向かって回転しながら引き寄せられ、点線のような螺旋軌道を描く。一方、他の物質17は、容器1の回転中心から外周方向に向かう遠心力が働くため、点線のように外周に向かって螺旋軌道を描く。容器1を回転させる場合、容器1内の試料溶液のある領域において、常に磁力が遠心力を上回るように磁場及び回転数を設定することで、容器1内に含まれる複合粒子13を容器1の中心に引き寄せることができる。なお、図10(a)において、軌道を表す点線は、代表的な一部の粒子のみ記載した。
【0053】
次に、粒子の移動量ベクトルを用いて、複合粒子と他の物質とを分別する判定方法について説明する。最初に、容器1の回転に伴う粒子の動きを取り除く「回転処理」を行う。容器1の回転数が既知であれば、取得した画像を容器1の回転方向とは逆方向に回転させればよい。図10(b)は、回転処理後の粒子(複合粒子13及び他の物質17)の位置と、その動きを示したものである。回転による粒子の動きを打ち消した結果、粒子の動きは容器1の径方向の動きだけになっている。複合粒子13は遠心力とそれよりも強い磁力を受けて、容器1の中心に向かって移動している。一方、他の物質17は遠心力のみを受けて、容器1の中心から外周側に向かって移動している。したがって、粒子の移動方向によって、複合粒子13を検出することができる。即ち、容器1の中心方向に向かって移動する粒子を検出することにより、複合粒子13を検出することができ、被測定物質を検出することができる。
【0054】
より簡便な判定方法として、図10(a)において、各粒子のXY座標原点からの距離の変化を用いることもできる。一定時間経過後の原点からの距離が減少していれば、対象粒子は複合粒子13であり、増加していれば他の物質17と判定することができる。この場合、回転処理を行っても各粒子の原点からの距離は変化しないため、あえて回転処理を行う必要はない。
【0055】
次に、本開示の実施形態1の変形例3に係る被測定物質の検出装置について説明する。上述した実施形態においては、容器1の上方に設置した検出部4を用いて複合粒子の検出を行う例を示したが、このような例には限られず、複合粒子の検出を容器の水平方向と平行な側面から検出するようにしてもよい。図11に本開示の実施形態1の変形例3に係る被測定物質の検出装置103の構成図を示す。図11は、照明光51及び検出光41とは直交する方向から見た検出装置103の構成図を示している。照明装置5からの照明光51により検出領域16に第1の方向21の流れが生じる。従って、照明装置5は流れ発生部2を兼ねている。また、複合粒子は磁場発生部3により生じた磁場勾配に従って、第2の方向31へ移動する。図11において、検出部4と照明装置5とを対向するように配置した例を示したが、検出部4と照明装置5とを同じ側に配置するようにしてもよい。
【0056】
図12に本開示の実施形態1の変形例3に係る被測定物質の検出装置によって検出した溶液中の検出領域における被測定物質及び他の物質の移動方向を示す図を示す。複合粒子13は磁場発生部3により生じた磁場勾配に従って第2の方向31へ向かって移動する。これに対して、検出対象ではない他の物質17には磁気標識物質が結合していないため、流れ発生部2により生じた流れに従って、第2の方向31とは異なる第1の方向21へ移動する。第2の方向31に移動する粒子を検出することにより、複合粒子13を検出することができる。
【0057】
本開示の実施形態1の変形例3に係る被測定物質の検出装置によれば、検出領域16内において磁場勾配が生じる方向と略直交する方向から移動する複合粒子13を検出することができるため、磁場勾配が生じる方向と略同一の方向から観察する場合に比べて長時間に渡って同一の複合粒子を検出することができる。
【0058】
以上のように、実施形態1に係る被測定物質の検出装置及び被測定物質の検出方法によれば、被測定物質に磁気標識物質が結合した複合粒子を検出することにより、被測定物質を容易に検出することができる。
【0059】
[実施形態2]
次に、本開示の実施形態2に係る被測定物質の検出装置について説明する。図13に本開示の実施形態2に係る被測定物質の検出装置104の構成図を示す。実施形態2に係る被測定物質の検出装置104が実施形態1に係る被測定物質の検出装置101と異なっている点は、複合粒子13eは、蛍光標識物質15をさらに含み、検出部4は、蛍光標識物質15が結合した粒子を検出する点である。実施形態2に係る被測定物質の検出装置104におけるその他の構成は、実施形態1に係る被測定物質の検出装置101における構成と同様であるので、詳細な説明は省略する。
【0060】
容器1は、被測定物質11、被測定物質11に特異的に結合する磁気標識物質12及び蛍光標識物質15を含む溶液14を保持する。ここで、溶液14中の被測定物質11の全てに磁気標識物質12及び蛍光標識物質15が結合して複合粒子13eが形成されることが好ましい。
【0061】
容器1に、被測定物質11、磁気標識物質12及び蛍光標識物質15を入れた時点では、被測定物質11に磁気標識物質12及び蛍光標識物質15が結合していなくてもよい。即ち、容器1において発生した溶液14の流れなどによって、被測定物質11に磁気標識物質12及び蛍光標識物質15が結合する反応が促進されて、複合粒子13eが生成されてもよい。
【0062】
照明装置5から照射された照明光51は照明側光学フィルター52を通り、ミラー43で反射されて溶液14に照射される。照明光51には空間光を用いることができる。溶液14中の複合粒子13e及び被測定物質以外の他の物質17で反射された検出光41は、検出側光学フィルター42を通して検出部4に入射する。照明側光学フィルター52は、蛍光標識物質15に照射されることで蛍光標識物質15が蛍光を励起する波長の光を通すが、その他の波長の光を通さない。検出側光学フィルター42は、蛍光標識物質15から励起された蛍光を通すが、その他の波長の光を通さない。
【0063】
図14に、本開示の実施形態2に係る被測定物質の検出方法の手順を説明するためのフローチャートを示す。実施形態2に係る被測定物質の検出方法が実施形態1に係る被測定物質の検出方法と異なっている点は、複合粒子13eは、蛍光標識物質15をさらに含み、蛍光標識物質15が結合した粒子を検出する点である。
【0064】
蛍光標識物質15には、被測定物質11と特異的に結合するものと、被測定物質11と特異的に結合しないものが存在する。本実施形態においては、被測定物質11と特異的に結合する蛍光標識物質15を使用する場合について説明する。
【0065】
まず、ステップS201において、容器1に、被測定物質11、並びに被測定物質11に特異的に結合する磁気標識物質12及び蛍光標識物質15を含む溶液14を保持させる。
【0066】
次に、ステップS202において、流れ発生部2が、少なくとも溶液14中に第1の方向21の流れを発生させる。図13に示した例では、照明装置5が流れ発生部2を兼ねている。溶液14中に流れが生じることにより、被測定物質11に磁気標識物質12及び蛍光標識物質15が結合した複合粒子13eが得られる。
【0067】
次に、ステップS203において、磁場発生部3が、複合粒子13eを第1の方向21とは異なる第2の方向31へ移動させるために磁場勾配を発生させる。
【0068】
次に、ステップS204において、検出部4が、蛍光標識物質15を検出することにより、第2の方向31に移動する蛍光標識物質15が結合した粒子を検出する。
【0069】
図18(a)に、本開示の実施形態2に係る被測定物質の検出装置を構成する検出部4の撮像部44が撮像した溶液14中の検出領域16における初期画像を示す。図18(b)に、初期画像取得時から所定時間経過後に取得した画像を示す。図18(a)及び(b)の黒丸、及び白丸は、それぞれ複合粒子13、及び他の物質17を表している。図18(b)において、線分は、ある時刻(例えば、初期画像取得時)から所定時間経過後までにおける粒子の軌跡を表しており、粒子の移動の速度と方向を示している。これを移動量ベクトルと表記することにする。
【0070】
ここで定義した移動量ベクトルを用いて、具体的に、複合粒子と、他の物質とを分別する方法について説明する。なお、以下の説明では、蛍光を用いた場合について説明するが、蛍光を用いない場合についても同様に適用できる。
【0071】
蛍光を用いた場合において、分離すべき他の物質とは、複合粒子13以外で、かつ磁場勾配による第2の方向31の力を受けない粒子である。分離すべき他の物質は、例えば、いずれの粒子とも結合していない単体の蛍光標識物質15、及び、夾雑物等の被測定物質以外の粒子と蛍光標識物質15とが結合した物質である。
【0072】
図19(a)及び図19(b)は、移動量ベクトルの始点をXY座標の原点に配置し、ベクトルを線分で表現し、ベクトルの終点に粒子の丸印を配置したもので、移動量ベクトルを様々な視点でプロットしたものである。
【0073】
図19(a)で、白丸で示した他の物質17は、流れに相当する力(第1の方向21の力(図13参照))を受けるため、XY平面上において原点の右側に移動量ベクトルが集中する。つまり、他の物質17の移動速度及び方向は、他の物質17のXY平面上の位置に関わらず、ほぼ同一であることを示している。矢印Aは、他の物質17の移動量ベクトルを代表して示したものである。
【0074】
一方、複合粒子13は、磁場勾配により生じる第2の方向31(図13参照)の力を受けるが、複合粒子13の位置によって、磁場勾配の大きさと方向が異なる。そのため、図19(a)の線分で示す移動量ベクトルBのように、XY座標の原点から様々な方向にベクトルが向いている。しかし、その終点は、図の点線で示すようにおおよそ一定の半径を持つ円周上に分布することになる。より具体的には、複合粒子13の終点は、所定の範囲の半径を持つ円周上に分布する。これは、複合粒子13がどの位置にあっても、磁場勾配が一番大きい磁石の中心付近に向かって、複合粒子13が移動するためである。
【0075】
ここで、円周の中心が原点からズレているのは、複合粒子13には、第1の方向21及び第2の方向31の両方の力が働いているためである。つまり、移動量ベクトルAと磁場勾配による力による移動量ベクトルとの合成が移動量ベクトルBである。
【0076】
もし第1の方向21の力がゼロの場合、図19(b)に示すように、移動量ベクトルB´の円周の中心は原点に一致する。一方、他の物質17は静止するため、移動量ベクトルAはゼロとなる。
【0077】
以上のような手法により、粒子の移動速度及び方向を用いて、複合粒子と他の物質とを分別することが可能である。改めてその手順を書くと、以下のようになる。
【0078】
1)図18(b)に示すように、ある時刻と、一定時間経過後の粒子の移動ベクトルを連続的に求めて、移動量ベクトルデータベースを作成する。
2)移動量ベクトルデータベースを用いて、図19(a)に示すように、移動量ベクトルが中心付近に集中して、かつ時間経過に対して変動が少ない粒子を、複合粒子13ではないと判断して除外する。
3)移動量ベクトルデータベースを用いて、図19(a)に示すように、移動量ベクトルAの終点を円の中心とする移動量ベクトルを有する粒子を複合粒子の候補と判断する。
4)複合粒子の候補の中から、時間経過後とともに、移動量ベクトルの長さが変化し、かつ、ベクトルの方向が一定しているものを、複合粒子13と判定して、その粒子数をカウントする。
【0079】
以上の処理を、処理部45で行うことで、連続して取得した画像から、複合粒子の数をカウントすることが可能である。
【0080】
移動量ベクトルを求める際の時間間隔は、粒子の移動速度や、カメラ等の画像取得のフレームレートに応じて調整することができる。
【0081】
本開示の実施形態2に係る被測定物質の検出装置及び被測定物質の検出方法によれば、蛍光標識物質15を結合させた粒子を検出することにより、実施形態1における複合粒子13に比べて小さいサイズの粒子を検出することができる。
【0082】
被測定物質11と特異的に結合しない蛍光標識物質15を使用する場合、蛍光標識物質15が他の物質17と結合する可能性がある。蛍光標識物質15が他の物質17と結合した場合であっても、動きの違いから、蛍光標識物質15が結合した他の物質17と複合粒子とを区別して、複合粒子を検出することができる。また、被測定物質11等の粒子と結合しない蛍光標識物質15が容器1の中に存在する可能性がある。被測定物質11等の粒子と結合しない蛍光標識物質15が存在する場合であっても、動きの違いから、検出部4は、被測定物質11等の粒子と結合しない蛍光標識物質15と複合粒子とを区別して、複合粒子を検出することができる。
【0083】
ここで、実施形態2に係る被測定物質の検出装置及び被測定物質の検出方法においては、検出領域16において、照明装置5によって照明光51を照射する領域を、磁場発生部3が存在する領域を避けるように設定することが好ましい。
【0084】
図15(a)に、本開示の実施形態2に係る被測定物質の検出装置104における被測定物質の軌跡を説明するための検出装置104の側面図を示す。図15(b)に、図15(a)において検出部側から見た検出領域の上面図を示す。図16に本開示の実施形態2に係る被測定物質の検出装置によって検出した溶液中の検出領域における被測定物質及び他の物質の移動方向を示す図を示す。蛍光標識物質15が結合した複合粒子13eは、磁場発生部3による磁場勾配により磁場発生部3の周辺に引き寄せられる。複合粒子13eは照明光51により蛍光を発するため、凝集した複合粒子13eからは強い光が発せられ、検出領域16の他の領域における複合粒子13eの検出に影響を与える場合も考えられる。そこで、照明光51を照射する領域を磁場発生部3の周辺を除いた照明領域53とすることが好ましい。
【0085】
次に、検出部が取得した画像から複合粒子を検出するための画像処理の方法について説明する。図17(a)に、本開示の実施形態2に係る被測定物質の検出装置を構成する検出部の撮像部が撮像した溶液中の検出領域における画像を示し、図17(b)に、検出部の処理部による画像処理により得られた、図17(a)の画像における各粒子の検出光の輝度を示す。「他の物質17」は、実際は画像に写らないが、図17(a)では、説明の便宜のために表示している。「他の物質17」は、蛍光標識物質15が結合していない粒子を表す。図17(b)に示すように、検出部4の撮像部44撮像した画像において、検出部4の処理部45が、画像処理により複合粒子13e等の蛍光標識物質15が結合した粒子、及び、いずれの物質とも結合していない蛍光標識物質15を検出する。具体的には、画面の平均輝度と最大輝度の中間点を閾値として、閾値を超える輝度を示す粒子を、蛍光標識物質15又は蛍光標識物質15が結合した粒子と判定することができる。ただし、このような例には限られず、蛍光標識物質15又は蛍光標識物質15が結合した粒子を判定するための閾値は任意に設定することができる。
【0086】
次に、本開示の実施形態2に係る被測定物質の検出装置による検出方法の2つの具体例について説明する。第1の例は、蛍光標識物質を使用する検出方法である。図20(a)~(d)は、本開示の実施形態2に係る被測定物質の検出方法によって蛍光標識物質を使用する場合の測定手順を示す図である。
【0087】
まず、図20(a)に示すように、唾液(6)0.5[ml]を採取容器7に採取する。次に、図20(b)に示すように、シリンジ8で唾液6を濾過し、蛍光標識物質15と磁気標識物質12を含む溶液を入れた容器1に濾過した唾液6を添加して溶液14aを作製する。シリンジ8には、細菌及び真菌等と比較して大きな異物(ゴミ)を除去するためのフィルターを設けるようにしてもよい。
【0088】
次に、図20(c)に示すように、試料容器回転機構61で溶液14aを攪拌して、複合体形成反応を進める。次に、図20(d)に示すように、試料容器回転機構61で溶液14aを一定速度で回転させながら、容器1の底面に磁場発生部3である小さな磁石を近づけ、容器1の底の1点に向かって複合粒子を濃縮する。このとき、複合粒子は、攪拌により渦巻状の経路を描きながら、容器1の中心に向かって移動する。この様子を検出部4で撮像し、図5~7のように画像認識により複合粒子を検出する。
【0089】
第2の例は、蛍光染色を行う検出方法である。図21(a)~(e)は、本開示の実施形態2に係る被測定物質の検出方法によって蛍光染色を行う場合の測定手順を示す図である。
【0090】
まず、図21(a)に示すように、唾液(6)0.5[ml]を採取容器7に採取する。次に、図21(b)に示すように、シリンジ8で唾液6を濾過し、蛍光染色液(0.5[ml])を含む溶液を入れた容器1に濾過した唾液6を添加して溶液14bを作製する。
【0091】
次に、図21(c)に示すように、試料容器回転機構61で溶液14bを攪拌して、染色を進める。次に、図21(d)に示すように、溶液14bに磁気標識物質を含む溶液14cを添加して溶液14dを作製し、試料容器回転機構61で溶液14dを攪拌により複合粒子の形成を進める。次に、図21(e)に示すように、試料容器回転機構61で溶液14dを一定速度で回転させながら、容器1の底面に磁場発生部3である小さな磁石を近づけ、容器1の底の1点に向かって複合粒子を濃縮する。このとき、複合粒子は、攪拌により渦巻状の経路を描きながら、容器1の中心に向かって移動する。この様子を検出部4で撮像し、図5~7のように画像認識により複合粒子を検出する。
【0092】
上記で示した数値例は一例であって、このような例には限定されない。
【0093】
[実施形態3]
次に、本開示の実施形態3に係る被測定物質の検出装置について説明する。図22(a)に、本開示の実施形態3に係る被測定物質の検出装置105の斜視図を示す。図22(b)に、本開示の実施形態3に係る被測定物質の検出装置として、携帯端末を用いた場合における携帯端末画面の表示例を示す。図23に、本開示の実施形態3に係る被測定物質の検出装置105において測定筐体を開いた状態の斜視図を示す。
【0094】
本開示の実施形態3に係る被測定物質の検出装置105はスマートフォン等の携帯端末200を用いて被検出物質の検出を行う点を特徴としている。容器1、磁場発生部3及び照明装置5は測定筐体100に格納される。測定筐体100は、上部筐体100a及び下部筐体100bからなる。照明装置5は下部筐体100bに格納されている。容器1は下部筐体100bの上面に載置されている。容器1の側面には磁場発生部3が配置されている。上部筐体100aの上面には携帯端末200が載置され、携帯端末200のカメラ等の検出部4に検出光41が入射するように開口部201が設けられている。照明装置5からの照明光51は容器1を下から照射し、検出光41は携帯端末200の検出部4に入射する。容器1は照明光51により加熱されるため、照明装置5が流れ発生部2を兼ねている。
【0095】
本開示の実施形態3に係る被測定物質の検出装置105の測定原理は実施形態1に係る検出装置101と同様である。携帯端末200の検出部4で撮像した画像は、携帯端末200の表示部200a内の画像表示領域200bに表示することができる。また取得した画像から解析された被測定物質の数や移動速度等のデータは、表示部200a内のデータ表示領域200cに表示することができる。本開示の実施形態のように、携帯端末を利用して画像を検出し、画像処理を行うことにより簡便に被測定物質の検出を行うことができる。
【0096】
次に、実施形態1~3に係る被測定物質の検出装置において使用する容器の例について説明する。上記の実施形態において使用する容器の形状の例として主として平底型の容器について説明したが、このような例には限られない。即ち、図8のように、容器1の形状は、底面が曲面でもよく、特定の形状に限定されない。図24(a)~(c)に本開示の実施形態1~3に係る被測定物質の検出装置において使用する容器の例の側面図を示す。図24(a)は平底型、図24(b)は丸底型、図24(c)はテーパー型の容器の側面図を示す。
【0097】
図24(a)~(c)に示した形状は一例であって、このような例には限られない。即ち、平底、丸底、テーパーに限られず、それらの中間的な形状でもよい。また、テーパーに沿って磁力が働くようにテーパー形状や磁石形状を設定することで、検出領域を通過する粒子の割合を増やすことができる。
【0098】
図25に本開示の実施形態1~3に係る被測定物質の検出装置において使用する容器及び磁場発生部の側面図の例を示す。図25(a)は先尖形状の磁場発生部を有する例であり、図25(b)は図25(a)に加えて容器がヨークを有する例を示す。
【0099】
図25(a)に示すように、容器1の先端を尖らせることで、容器1の底の1点に被測定物質を濃縮することができ、濃縮効率を向上させることができる。さらに、図25(b)に示すようにヨーク10を設置することで、磁場発生部3による磁界強度を上げることができる。さらに、容器1の底の形状と磁力線32の形状とを一致させることにより、検出領域16内に磁気濃縮経路を集めて、検出効率を上げることができる。また、図25(b)において、検出領域16が容器1の底面の一部を含む例を示したが、このような例には限られず、検出領域を16aで示すように、容器1の底面から離間した領域に設けてもよい。
【0100】
次に、被測定物質11の例として、カンジダ菌、大腸菌、CRP(C反応性蛋白)について、これらの検出手順の具体例について説明する。
【0101】
[実施例1]
蛍光標識物質を用いずにカンジダ菌を検出する場合の例について説明する。真菌類であるカンジダ菌の大きさは、約5~10[μm]である。カンジダ菌は、ヒトの唾液、体表や消化管等に生息する常在菌である。図1に示すように、溶液14として、被測定物質11であるカンジダ菌を含む試料溶液4[μL]と、カンジダアルビカンス抗体が結合した磁気標識物質12のPBS溶液4[μL]とを容器1内で混合して、複合粒子を作製する。被測定物質11であるカンジダ菌に、予めビオチン標識したカンジダアルビカンス抗体を結合させ(混合+反応)、その後、アビジン標識した磁気標識物質12を結合させてもよい。
【0102】
ビオチン標識したカンジダアルビカンス抗体は、GeneTex社製 Anti-Candida albicans, Mouse(B341M)_IgGと、Thermo Fisher社製のEZ-Link NHS-LC-Biotinの合成によって得られる。また、アビジン標識した磁気標識物質12として、Invitrogen社製のDynabeads M-280 Streptavidinを用いた。
【0103】
混合した溶液14は、対流が起こる容器1内で反応が進み、カンジダ菌-カンジダアルビカンス抗体-磁気標識物質12の複合粒子13が形成される。対流を発生させる手段は、溶液14に第1の方向21に流れを発生させる流れ発生部2(対流、容器移動、容器回転、フローセル、重力等)であればよい。例えば、照明装置5からの照明光51により対流が生じ、第1の方向21に流れが生じる。
【0104】
この容器1に、外部磁場をかけると磁気標識物質12が特徴的な動きをする。つまり、被測定物質11であるカンジダ菌及び磁気標識物質12を含む複合粒子13が特徴的な動きをする。外部磁場を発生させる手段として、検出領域16に磁場勾配を発生させる磁場発生部3(例えば、磁石、電磁石、磁性膜等)を用いることができる。
【0105】
これに、照明装置5により照明光51として空間光(透過光及び落射光のどちらでもよい)を照射し、複合粒子13から反射した検出光41を検出部4で50~1000倍の倍率で観察すると、複合粒子13、磁気標識物質12、他の物質のそれぞれの形状及び挙動を確認することができる。カンジダ菌を含む複合粒子13は、カンジダ菌特有の形状(酵母状、菌糸状)、複合粒子13の形状、外部磁場により第1の方向21とは異なる第2の方向31へ向かって移動する特徴的な動きで判別することができる。これを、検出部4として光学検出手段(例えば、イメージセンサ等)を用いて2次元画像を取得し、さらに画像解析を加えることで、被測定物質11であるカンジダ菌の定量的な検出ができた。
【0106】
本開示の実施例に係る被測定物質の検出装置及び被測定物質の検出方法において使用する磁気標識物質について説明する。磁気標識物質12は、バイオメディカル応用に用いられる磁気ビーズの構造を備え、磁性体としてはスピネルフェライトが多く用いられる。磁気標識物質12のサイズはナノメートル単位からミクロン単位まで様々であるが、ナノサイズの方が、表面積が広く、溶液中でのブラウン運動による平均拡散が長いので、被測定物質との反応性が良い。一方、粒子サイズが小さいので磁力が弱くなる。磁気標識物質12には、10[nm]から10[μm]のサイズのものを用いることができる。
【0107】
[実施例2]
蛍光標識物質を用いずに大腸菌を検出する場合の例について説明する。細菌類である大腸菌の大きさは、短軸が0.4~0.7[μm]、長軸が2.0~4.0[μm]である。環境中に存在する細菌(バクテリア)の主要な種の一つである。図1に示すように、溶液14として、被測定物質11である大腸菌を含む試料溶液5[μL]、磁気標識物質12としてThermo Fisher社製Dynabeads anti-E.coli O157のPBS溶液5[μL]を容器1内で混合する。
【0108】
混合した溶液14は対流が起こる容器1内で反応が進み、大腸菌-抗大腸菌抗体-磁気標識物質12の複合粒子13が形成される。対流を発生させる手段は、溶液14に第1の方向21に流れを発生させる流れ発生部2(対流、容器移動、容器回転、フローセル、重力等)であればよい。例えば、照明装置5からの照明光51により対流が生じ、第1の方向21に流れが生じる。その後、磁場発生部3により磁場をかけて複合粒子13を第2の方向31へ移動させ、空間光である照明光51により複合粒子13を検出する工程は、上述したカンジダ菌の場合と同様であるため省略する。
【0109】
[実施例3]
蛍光標識物質を用いてカンジダ菌を検出する場合の例について説明する。図13に示すように、溶液14として、被測定物質11であるカンジダ菌を含む試料溶液4[μL]、蛍光標識物質15を含む蛍光染色液2[μL]、磁気標識物質12のPBS溶液2[μL]を容器1内で混合する。蛍光標識物質15を含む蛍光染色液である蛍光標識試薬には、トラストメディカル株式会社製の真菌用蛍光染色液 ファンギフローラYを用いた。
【0110】
ビオチン標識したカンジダアルビカンス抗体は、GeneTex社製 Anti-Candida albicans, Mouse(B341M)_IgG と、Thermo Fisher社製のEZ-Link NHS-LC-Biotinの合成によって得られる。また、アビジン標識した磁気標識物質12として、Invitrogen社製のDynabeads M-280 Streptavidinを用いた。この他、蛍光標識手段として、蛍光標識物質を用いる方法や蛍光共鳴エネルギー移動を応用した方法などを用いても良い。
【0111】
また、抗体はカンジダアルビカンス抗体のほか、β1,3-グルカン抗体など、真菌と特異的な反応をするものであれば良い。
【0112】
混合した溶液14は、対流が起こる容器1内で反応が進み、蛍光標識されたカンジダ菌-カンジダアルビカンス抗体-磁気標識物質12の複合粒子13eが形成される。対流を発生させる手段は、溶液14に第1の方向21に流れを発生させる流れ発生部2(対流、容器移動、容器回転、フローセル、重力等)であればよい。例えば、照明装置5からの照明光51により対流が生じ、第1の方向21に流れが生じる。
【0113】
この容器1に、外部磁場をかけると磁気標識物質12が特徴的な動きをする。つまり、被測定物質11であるカンジダ菌、磁気標識物質12及び蛍光標識物質15を含む複合粒子13eが第1の方向21とは異なる第2の方向31へ向かって移動する特徴的な動きをする。外部磁場を発生させる手段としては、検出領域16に磁場勾配を発生させる磁場発生部3(例えば、磁石、電磁石、磁性膜等)を用いることができる。
【0114】
これに、照明装置5により照明光51として蛍光標識物質の励起波長を有する空間光(透過光及び落射光のどちらでもよい)を照射し、複合粒子13eから反射した検出光41を検出部4で50~1000倍の倍率で蛍光観察すると、蛍光標識物質15を含む複合粒子13e及び未反応の蛍光標識物質15が光の点として観察できる。さらに、磁気標識物質12を含む複合粒子13eは外部磁場により第1の方向21とは異なる第2の方向31へ向かって移動する特徴的な動きをし、判別ができる。これを、検出部4として光学検出手段(例えば、イメージセンサ等)を用いて2次元画像を取得し、さらに画像解析を加えることで、被測定物質11であるカンジダ菌の定量的な検出ができた。また、蛍光波長光源に加えて白色光など他の波長を組み合わせると、蛍光と動きの情報に加えて細胞の形状やバックグラウンドの情報も取得できるようになり、複雑な試料溶液の検出に有効である。
【0115】
次に、本開示の実施例に係る被測定物質の検出装置及び被測定物質の検出方法において使用する蛍光標識物質について説明する。蛍光標識物質には、10[nm]から10[μm]のサイズのものを用いることができる。フルオレセイン(FITC)など蛍光色素で標識された蛍光標識物質15は、磁気標識物質12よりサイズが小さいので、反応性が高いと考えられる。そのため、溶液14中に蛍光標識物質15と磁気標識物質12とを同時に加えて複合体反応を開始すると、蛍光標識物質15の反応が速く進むため、被測定物質11の表面に結合する磁気標識物質12が減ってしまう可能性がある。
【0116】
これを防ぐには、磁気標識物質12を先に加えて反応を進めた後、蛍光標識物質15を加えるのが望ましいと考えられる。つまり、被測定物質11に結合した磁気標識物質12同士のすき間に、サイズの小さい蛍光標識物質15が入り込むことができると考えられる。磁気標識物質12がサイズの大きい粒子に対しては立体障壁になっている。つまり、粒子サイズの大きさにより反応させる順序を変えることで、反応の偏りを防ぐことができる。
【0117】
[実施例4]
蛍光標識物質を用いて大腸菌を検出する場合の例について説明する。図13に示すように、溶液14として、被測定物質11である大腸菌を含む試料溶液、蛍光標識物質15により蛍光標識した抗大腸菌抗体、磁気標識物質12により磁気標識した抗大腸菌抗体Thermo Fisher社製Dynabeads anti-E.coli O157を容器1内で混合する。蛍光標識した抗大腸菌抗体は、アブカム社製Anti-E. coli antibody (Biotin)とポリサイエンス社製Streptavidin Microspheres 1.0[μm]の合成から得られる。
【0118】
混合した溶液14は、対流が起こる容器1内で反応が進み、蛍光標識物質15-大腸菌-磁気標識物質12の複合粒子13eが形成される。対流を発生させる手段は、溶液14に第1の方向21に流れを発生させる流れ発生部2(対流、容器移動、容器回転、フローセル、重力等)であればよい。例えば、照明装置5からの照明光51により対流が生じ、第1の方向21に流れが生じる。その後、磁場発生部3により磁場をかけて複合粒子13eを第2の方向31へ移動させ、空間光である照明光51により蛍光標識物質15が結合した粒子を検出し、検出した粒子の動きに基づいて、複合粒子13eを検出する工程は、上述したカンジダ菌の場合と同様であるため省略する。
【0119】
[実施例5]
蛍光標識物質を用いてCRPを検出する場合の例について説明する。図13に示すように、溶液14として、被測定物質11であるCRPを含む試料溶液に、磁気標識物質12により磁気標識された抗CRP抗体と、蛍光標識物質15により蛍光標識された抗CRP抗体を添加し、複合粒子13eを形成する。蛍光標識した抗CRP抗体として、FITC蛍光体で標識した抗CRP抗体を用いたり、蛍光標識CRP抗体として、ビオチン標識抗CRP抗体と、アビジン標識蛍光ビーズを予め反応させて用いたりすることにより、複合体を形成することができる。これらの例のほか、蛍光色素にはFITC、PE、ローダミン、Cy色素、AlexaRなど各種あり、励起波長と蛍光波長が異なるものを用いることも出来る。その後、磁場発生部3により磁場をかけて複合粒子13eを第2の方向31へ移動させ、空間光である照明光51により蛍光標識物質15が結合した粒子を検出し、検出した粒子の動きに基づいて、複合粒子13eを検出する工程はカンジダ菌の場合と同様であるため省略する。
【0120】
以上説明した本開示の実施例に係る被測定物質の検出装置及び被測定物質の検出方法によれば、溶液中の数ミクロンのサイズの細菌・真菌等を検出することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
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図8
図9
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図11
図12
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