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特許7404444乗客コンベアの踏段制動距離測定装置及びその方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-15
(45)【発行日】2023-12-25
(54)【発明の名称】乗客コンベアの踏段制動距離測定装置及びその方法
(51)【国際特許分類】
   B66B 29/00 20060101AFI20231218BHJP
   B66B 25/00 20060101ALI20231218BHJP
   B66B 31/00 20060101ALI20231218BHJP
【FI】
B66B29/00 C
B66B25/00 F
B66B31/00 D
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2022096350
(22)【出願日】2022-06-15
【審査請求日】2022-06-15
(73)【特許権者】
【識別番号】390025265
【氏名又は名称】東芝エレベータ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003395
【氏名又は名称】弁理士法人蔦田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】久下 敬輔
【審査官】加藤 三慶
(56)【参考文献】
【文献】中国実用新案第215207991(CN,U)
【文献】特開2017-206341(JP,A)
【文献】特開2005-180949(JP,A)
【文献】国際公開第2018/194047(WO,A1)
【文献】特表2019-507349(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66B 29/00
B66B 25/00
B66B 31/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
無端状に連結された踏段を有し、乗降板の先端のコムから前記踏段が進出する乗客コンベアに前記踏段の移動の停止を指示する停止信号を出力する指示部と、
前記踏段より高い位置にある基点に配され、前記停止信号が出力されたときの複数の前記踏段の一つである基準踏段の特定箇所が前記コムの先端から進出したときの位置である第1位置と前記基点を結ぶ第1線と、前記基点からの垂線とのなす第1角度を測定し、停止した前記基準踏段の前記特定箇所の第2位置と前記基点を結ぶ第2線と、前記垂線とのなす第2角度を測定する計測部と、
前記第1角度と前記第2角度と、前記基点から前記基準踏段が存在する高さまでの前記垂線の長さとから前記基準踏段の制動距離を算出する算出部と、
を有し、
前記第1位置と前記第2位置とが同一の水平面内にある、
ことを特徴とする乗客コンベアの踏段制動距離測定装置。
【請求項2】
無端状に連結された踏段を有する乗客コンベアに前記踏段の移動の停止を指示する停止信号を出力する指示部と、
前記踏段より高い位置にある基点に配され、前記停止信号が出力されたときの複数の前記踏段の一つである基準踏段の特定箇所の第1位置と前記基点を結ぶ第1線と、前記基点からの垂線とのなす第1角度を測定する計測部と、
前記基準踏段の制動距離を算出する算出部と、
を有し、
前記基準踏段が、前記第1位置から水平区間を移動した後に下降又は上昇して傾斜区間で停止し、前記基準踏段から数えてN番目(N=>1)の前記踏段が水平区間で停止した場合には、
前記計測部は、前記水平区間で停止した前記踏段の前記特定箇所の第3位置と前記基点を結ぶ第3線と、前記垂線とのなす第3角度を測定し、
前記算出部は、前記第1角度と前記第3角度と、前記垂線の長さとから停止した前記踏段の仮の制動距離を算出し、前記踏段の前後方向の寸法をMとして、前記仮の制動距離にNとMを乗算したものを加えて前記基準踏段の前記制動距離を算出する、
ことを特徴とする乗客コンベアの踏段制動距離測定装置。
【請求項3】
前記計測部は、前記基準踏段の前記特定箇所の移動に合わせて、前記基点を中心に回転するセンサを有する、
請求項1又は2に記載の乗客コンベアの踏段制動距離測定装置。
【請求項4】
前記踏段の前記特定箇所には、目印が取り付けられ、
前記センサはカメラであり、
前記計測部は、前記カメラが撮影した動画像から前記目印を解析し、前記目印の移動と共に前記基点を中心に前記カメラを回転させて前記目印を追随して撮影する、
請求項3に記載の乗客コンベアの踏段制動距離測定装置。
【請求項5】
無端状に連結された複数の踏段を移動させるモータと、
先端に設けられたコムから前記踏段が進出する乗降板と、
前記モータを停止させるブレーキ装置と、
を有する乗客コンベアの踏段制動距離測定方法であって、
前記モータの停止を指示する停止信号を出力し、
前記踏段より高い位置にある基点に配され、前記停止信号が出力されたときの複数の前記踏段の一つである基準踏段の特定箇所が前記コムの先端から進出したときの位置である第1位置と前記基点を結ぶ第1線と、前記基点からの垂線とのなす第1角度を測定し、停止した前記基準踏段の前記特定箇所であって前記第1位置と同一の水平面内にある第2位置と前記基点を結ぶ第2線と、前記垂線とのなす第2角度を測定し、
前記第1角度と前記第2角度と、前記基点から前記基準踏段が存在する高さまでの前記垂線の長さとから前記基準踏段の制動距離を算出する、
ことを特徴とする乗客コンベアの踏段制動距離測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、乗客コンベアの踏段制動距離測定装置及びその方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
エスカレータや動く歩道など乗客コンベアの安全点検において、踏段の停止を行うディスク式ブレーキやドラム式ブレーキなどのブレーキパッドの摩耗状況を点検している。この点検方法は、踏段を通常速度で走行させて停止させ、そのときの踏段の制動距離を測定し、その制動距離が基準距離内か否かで判断している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2000-7268号公報
【文献】特開2004-10323号公報
【文献】特開2008-019023号公報
【文献】特許第6146157号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のように踏段の制動距離を測定する場合に、安全点検を行う作業員が目視で行うとその技術力の差によって誤差が発生する。また、踏段を駆動させるモータなどにパルスジェネレータなどの測定装置を予め組み込んで制動距離を測定する手段もあるが、乗客コンベア毎に測定装置を追加するのはコストが高くなる上、既設の乗客コンベアでは大きな追加改造が必要になるという問題点があった。
【0005】
そこで本発明の実施形態は、踏段の制動距離を正確かつ簡単に測定できる乗客コンベアの踏段制動距離測定装置及びその方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の実施形態は、無端状に連結された踏段を有し、乗降板の先端のコムから前記踏段が進出する乗客コンベアに前記踏段の移動の停止を指示する停止信号を出力する指示部と、前記踏段より高い位置にある基点に配され、前記停止信号が出力されたときの複数の前記踏段の一つである基準踏段の特定箇所が前記コムの先端から進出したときの位置である第1位置と前記基点を結ぶ第1線と、前記基点からの垂線とのなす第1角度を測定し、停止した前記基準踏段の前記特定箇所の第2位置と前記基点を結ぶ第2線と、前記垂線とのなす第2角度を測定する計測部と、前記第1角度と前記第2角度と、前記基点から前記基準踏段が存在する高さまでの前記垂線の長さとから前記基準踏段の制動距離を算出する算出部と、を有し、前記第1位置と前記第2位置とが同一の水平面内にある、ことを特徴とする乗客コンベアの踏段制動距離測定装置である。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】本発明の実施形態1のエスカレータの左側から見た側面説明図であり、左側の部材を省略した状態である。
図2】測定装置を載置した状態のエスカレータの、上階側における左から見た縦断面簡略説明図である。
図3】踏段の反射板の第1角度を測定している状態の、上階側における左から見た縦断面簡略説明図である。
図4】踏段が停止している状態の反射板の第2角度を測定している状態の、上階側における左から見た縦断面簡略説明図である。
図5】測定装置で踏段の反射板を測定している状態の平面図である。
図6】エスカレータのブロック図である。
図7】踏段の制動距離測定方法のフローチャートである。
図8】実施形態2のエスカレータの踏段の制動距離を測定している状態の、上階側における左から見た縦断面簡略説明図である。
図9】実施形態2のエスカレータの踏段の制動距離測定方法のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の一実施形態の乗客コンベアの一つであるエスカレータ10の踏段制動距離測定装置(以下、単に「測定装置」という)100について図面を参照して説明する。
【実施形態1】
【0009】
実施形態1のエスカレータ10の測定装置100について図1図7を参照して説明する。なお、エスカレータ10の前後方向を説明するときは、上階から下階を見下ろし、上階が後側、下階が前側とする。そして、図1は、エスカレータ10を左側面から見た縦断面簡略説明図であり、図2図4は、エスカレータ10の内部構造をわかりやすくするために、エスカレータ10の上階側における左側の部材の図示を省略している左から見た縦断面簡略説明図である。
【0010】
(1)エスカレータ10
エスカレータ10の全体の構造について図1図2を参照して説明する。
【0011】
図1に示すように、エスカレータ10の枠組みであるトラス12が、建屋1の上階と下階に跨がって支持アングル2,3を用いて前後方向に沿って支持されている。トラス12は、上階側にあって水平な上水平部12aと、下階側にあって水平な下水平部12bと、上水平部12aと下水平部12bを連結し、水平方向に対して傾斜している傾斜部12cとからなる。エスカレータ10を走行する無端状に連結されたそれぞれの踏段30は、上水平部12aの水平区間で水平に走行し、傾斜部12cの傾斜区間で斜めに走行し、その後に下水平部12bの水平区間で水平に走行する。
【0012】
トラス12の上水平部12aにある上階側の機械室14内部には、踏段30を走行させる駆動装置18、左右一対の踏段スプロケット24,24、左右一対のベルトスプロケット27,27が設けられている。この駆動装置18は、モータ20と、減速機21と、この減速機21の出力軸に取り付けられた駆動小スプロケット19と、モータ20の回転を停止させ、かつ、停止状態を保持するディスク式又はドラム式の電磁ブレーキ23とを有している。左右一対の踏段スプロケット24,24には、同軸に駆動大スプロケット17が取り付けられ、駆動小スプロケット19との間に無端状の駆動チェーン22が架け渡されている。左右一対の踏段スプロケット24,24と左右一対のベルトスプロケット27,27とは、不図示の連結ベルトにより連結され同期して回転する。また、上階側の機械室14内部には、モータ20や電磁ブレーキ23などを制御する制御装置50が設けられている(図6参照)。
【0013】
トラス12の下水平部12bにある下階側の機械室16内部には、左右一対の従動スプロケット26,26が設けられている。上階側の左右一対の踏段スプロケット24,24と下階側の左右一対の従動スプロケット26,26との間には、左右一対の無端状の踏段チェーン28,28が架け渡されている。左右一対の踏段チェーン28,28の間には、複数の踏段30の左右一対の第1輪301,301が一定間隔毎に連結されている。モータ20が回転すると踏段30の第1輪301は、トラス12に固定された第1輪専用の案内レール31(図2参照)を走行し、踏段30の第2輪302は、トラス12に固定された第2輪専用の案内レール25を走行する。
【0014】
トラス12の上部の左右両側には、左右一対の欄干36,36が立設されている。この欄干36の上部には手摺りレール39が設けられ、この手摺りレール39に沿って無端状の手摺りベルト38が移動する。
【0015】
左右一対の欄干36の上階側の正面下部には上階側の正面スカートガード40が設けられ、下階側の正面下部には下階側の正面スカートガード42が設けられている。正面スカートガード40,42から手摺りベルト38の出入口であるインレット部46,48がそれぞれ突出している。左右一対の欄干36の側面下部には、スカートガード44がそれぞれ設けられ、左右一対のスカートガード44,44の間を踏段30が走行する。
【0016】
手摺りベルト38は、ベルトスプロケット27が踏段スプロケット24と共に回転することにより踏段30と同期して移動する。例えば、図1に示すように、踏段30が下降しているときは、手摺りベルト38は、欄干36の上端部にある手摺りレール39に沿って下階側に向かって走行し、下階側のインレット部48から正面スカートガード42内に進入し、欄干36の側面下部にあるスカートガード44内を上へ移動し、複数の案内ローラ66を経てベルトスプロケット27に架け渡されて駆動力が与えられ、その後、複数の案内ローラ64を経て上階側のインレット部46から正面スカートガード40の外に現れる。また、回転するベルトスプロケット27に、走行する手摺りベルト38を押圧するための押圧部材68が、ベルトスプロケット27の下方に設けられている。
【0017】
上階側の左右一対のスカートガード44,44の間の乗降口である、機械室14の天井面には、上階側の乗降板32が水平に設けられている。下階側の左右一対のスカートガード44,44の間の乗降口である、機械室16の天井面には、下階側の乗降板34が水平に設けられている。上階側の乗降板32の先端には櫛歯状のコム60が設けられ、このコム60に踏段30が進出したり、進入したりする。また、下階側の乗降板34の先端にも櫛歯状のコム62が設けられている。
【0018】
(2)測定装置100
次に、測定装置100について図2図5図6を参照して説明する。
【0019】
測定装置100は、踏段30が停止信号を受けて完全に停止するまでの制動距離Lを測定するための装置である。
【0020】
測定装置100は、図2に示すように、直方体の本体102を有し、図2図5に示すように、この本体102の左右両側面の前部と後部に車輪104が回転自在にそれぞれ設けられ、本体102を移動自在に水平に支持している。図2に示すように、本体102の上面からは、支持柱106が垂直に立設されている。また、この支持柱106を垂直方向に支持するために補助柱108が本体102の上面から斜めに立設され、支持柱106を後方から支持している。
【0021】
支持柱106の上端部にはセンサが設けられている。以下の実施形態の例では、センサとしてカメラ110が設けられている。このカメラ110は、支持柱106の上端に、左右方向でかつ水平に設けられた回転軸116に対し、回転自在に設けられている。そしてこのカメラ110の前部からレンズを備えた円筒型の撮影部112が突出している。図6に示すように、カメラ110は姿勢制御モータ114と一体となっており、回転軸116を中心にカメラ110を上下方向に回転させ、撮影部112を所定の目標に向かって位置させることができる。撮影部112の回転角度は、姿勢制御モータ114の回転制御角度と対応し、カメラ110の撮影部112の回転角度は、姿勢制御モータ114で測定できる。そして、撮影部112を有するカメラ110と姿勢制御モータ114によって計測部120を構成している。
【0022】
本体102の内部には、演算部118が設けられている。図6に示すように、この演算部118には、カメラ110、姿勢制御モータ114とそれぞれ接続され、カメラ110で撮影した画像と、カメラ110の撮影部112の回転角度が入力される。演算部118は、制御装置50に対し踏段30の停止を指示する停止信号を出力する指示部の機能と、カメラ110で撮影した動画像とカメラ110の撮影部112の回転角度とから踏段30の制動距離Lを算出する算出部の機能を有する。また、演算部118は、エスカレータ10の制御装置50とタブレット端末200との間でデータを短距離無線で通信することができる。
【0023】
(3)踏段30の制動距離Lの測定方法
次に、踏段30の制動距離Lを、測定装置100を用いて測定する方法について説明する。測定対象となる踏段30は下降し、上水平部12aの水平区間で停止するものとする。なお、傾斜部12cの傾斜区間まで至って停止する場合は、実施形態2で説明する。
【0024】
まず、図5に示すように、複数ある踏段30の中で1個の踏段30の上面(クリート面)303の前端部中央に光を反射する円形の反射板304を取り付ける。この反射板304を取り付けた踏段(図3図4でハッチングが施された踏段)30を以下では、「基準踏段」30という。
【0025】
また、測定装置100の本体102を図3に示すように上階側の乗降板32の上に設置する。乗降板32は水平な状態であり、支持柱106は垂直に伸びている。そして支持柱106の上端部の基点Oにある回転軸116から乗降板32の下面までの垂線Rの長さをhとし、垂線Rと乗降板32の下面とが交差する位置を点P0とする。なお、乗降板32の下面に点P0があるのは、踏段30が進出する位置と同じ高さであって、その踏段30の上面と水平になるようにするためである。さらに、カメラ110の撮影部112が、上階側のコム60の前端部付近を撮影できるように位置決めする。
【0026】
以上の準備を行い、制動距離Lの測定方法を図7のフローチャートを参照して説明する。
【0027】
ステップS1において、制御装置50が、踏段30を通常速度で通常運転し、カメラ110で動画の撮影を開始する。演算部118は、カメラ110が撮影した動画像を解析して反射板304の有無を常に監視し、ステップS2に進む。反射板304としたのは、動画像の一コマに写る静止画像中において、反射板304が光り、その位置を解析しやすいからである。
【0028】
ステップS2において、反射板304が取り付けられた基準踏段30が、図3に示すように、上階側のコム60から進出し、演算部118が反射板304を検出するとステップS3に進む。
【0029】
ステップS3において、演算部118は、制御装置50に対し踏段30の移動を停止するように停止信号を出力し、ステップS4に進む。制御装置50は、停止信号が入力すると、駆動回路70でモータ20への駆動電流の供給を停止し、また、電磁ブレーキ23でモータ20の回転を強制的に停止させる。この位置から基準踏段30の制動が開始される。そして、基準踏段30は、制動を開始した位置から所定の制動距離だけ移動して停止する。
【0030】
ステップS4において、コム60の先端から進出したときの基準踏段30の前端部にある反射板304がある点P1と回転軸116の基点Oとを結ぶ第1線S1と、垂線Rとが成す第1角度θ1を姿勢制御モータ114の制御回転角度から算出し、ステップS5に進む。
【0031】
ステップS5において、第1角度θ1と垂線Rの長さhは下記の(1)式の関係があるため、演算部118は、点P0から点P1までの第1距離L1を(1)式を変形した下記の(2)式から算出し、ステップS6に進む。以下、「*」は乗算である。

tanθ1=L1/h ・・・(1)

L1=h*tanθ1 ・・・(2)

ステップS6において、電磁ブレーキ23を用いてモータ20の回転を強制的に停止させてから、基準踏段30が所定の制動距離だけ移動して停止するまでの間、演算部118は、移動する基準踏段30の反射板304に追随して、撮影部112を、回転軸116を中心に姿勢制御モータ114で回転させる。この追随は、演算部118が、動画像から移動する反射板304を解析し、動画像の1コマの静止画像中の同じ位置に反射板304が存在するように姿勢制御モータ114の回転を制御してカメラ110を回転させることによりなされる。そして、演算部118は、動画像から踏段30の反射板304が停止したと判断すると、図4に示すように、その位置の点P2を検出し、ステップS7に進む。
【0032】
ステップS7において、演算部118は点P2と回転軸116の基点Oとを結ぶ第2線S2と、垂線Rとが成す第2角度θ2を算出し、ステップS8に進む。
【0033】
ステップS8において、点P0から点P2までの距離L2は、下記の(3)式の関係があるので、演算部118は、(3)式を変形した下記の(4)式から第2距離L2を算出し、ステップS9に進む。

tanθ2=L2/h ・・・(3)

L2=h*tanθ2 ・・・(4)

ステップS9において、演算部118は、第1距離L1と第2距離L2から下記の(5)式を用いて踏段30の制動距離Lを求め、ステップS10に進む。

L=L2-L1 ・・・(5)

ステップS10において、演算部118は制動距離Lをタブレット端末200に短距離無線で出力し終了する。作業員は、タブレット端末200に表示されている制動距離Lと基準制動距離とを比較し、制動距離Lが基準制動距離以上であれば電磁ブレーキ23のブレーキパッドが摩耗していると判断できる。
【0034】
(4)効果
本実施形態によれば、測定装置100を、エスカレータ10の上階側の乗降板32に設置して、基準踏段30の移動を撮影するだけで制動距離Lを算出できる。作業員はこの制動距離Lから電磁ブレーキ23のブレーキパッドが摩耗しているか否かを判断できる。
【0035】
また、エスカレータ10のモータ20にパルスジェネレータを取り付けたり、踏段30の位置検出装置を付加したりすることなく、制動距離Lを算出できるため、既設のエスカレータ10にも適応できる。
【0036】
(5)変更例
エスカレータ10の点検に関してロボットによる点検システムを導入し、測定装置100をそのロボットに組み込んでもよい。この場合には、エスカレータ10側の改造は、演算部118からの停止信号受信装置の追加と、駆動回路の修正のみでよいため、コストを安く抑えることができる。
【実施形態2】
【0037】
次に、実施形態2のエスカレータ10の測定装置100について、図8図9を参照して説明する。
【0038】
実施形態1では、上階側のコム60から進出した基準踏段30がトラス12の上水平部12aの水平区間で停止する場合について説明した。
【0039】
しかし、図8に示すように、基準踏段30の反射板304の停止する位置(点P4)が、トラス12の傾斜部12cの傾斜区間の場合には、その傾斜角を考慮する必要があり、第1角度θ1と第2角度θ2から制動距離Lを正確に求めることができない。
【0040】
そこで本実施形態では、反射板304を有する基準踏段30の停止する位置(点P4)が、トラス12の傾斜部12cの傾斜区間の場合の制動距離Lの測定方法について図8図9のフローチャートを参照して説明する。
【0041】
本実施形態の測定方法の前半の処理であるステップS1~S8は、実施形態1の測定方法と同様であるので説明は省略し、ステップS8で第2距離L2を算出し、ステップS11に進んだ後半の処理から説明する。
【0042】
ステップS11において、反射板304を有する基準踏段(図8でハッチングが施された踏段)30が、上水平部12aの水平区間か傾斜部12cの傾斜区間かのどちらで停止しているかを判断する。判断方法は、ステップS8で算出した第2距離L2が、閾値(点P0から上水平部12aと傾斜部12cの境目の位置までの距離)Lmax以上であれば、基準踏段30が上水平部12aを超えて傾斜部12cの傾斜区間で停止したと判断し、ステップS12に進み(yの場合)、閾値Lmax未満であれば、基準踏段30は、上水平部12aの水平区間にあるとしてステップS18に進み、実施形態1の測定方法と同様に(5)式を用いて制動距離Lを計算して終了する。
【0043】
ステップS12において、N=1として、ステップS13に進む。すなわち、基準踏段30に続いて上階側のコム60から次に進出した踏段(以下、「測定踏段」といい、図8でダブルハッチングが施された踏段)30をN=1の測定踏段30といい、そのN=1の測定踏段30の次に進出した踏段30は、N=2の測定踏段30となる。
【0044】
ステップS13において、基準踏段30が、傾斜部12cの傾斜区間で停止しているので、基準踏段30に続いて進出したN=1の測定踏段30の前端部の点P3を検出し、ステップS14に進む。N=1の測定踏段30の前端部の点P3については、反射板304が取り付けられていないため、踏段30の前部と左右両側部にそれぞれ設けられた黄色のデマケーションライン305(図5参照)を点P3として検出する。
【0045】
ステップS14において、演算部118は、N=1の測定踏段30の点P3と回転軸116の基点Oとを結ぶ第3線S3と、垂線Rとが成す第3角度θ3を算出し、ステップS15に進む。
【0046】
ステップS15において、点P0から点P3までの第3距離L3を、下記の(7)式から算出し、ステップS16に進む。

L3=h*tanθ3 ・・・(7)

ステップS16において、N=1の測定踏段30の第3距離L3が、閾値Lmax以上であれば、N=1の測定踏段30も傾斜部12cの傾斜区間に存在するためステップS17に進み(yの場合)、閾値Lmax未満であれば、N=1の測定踏段30は上水平部12aの水平区間に存在するためステップS18に進む(nの場合)。
【0047】
ステップS17において、N=N+1とする。すなわち、N=1の測定踏段30も傾斜部12cの傾斜区間に存在するため、さらに次のN=2の踏段30(基準踏段30から数えて2番目の踏段30)を測定踏段30としてステップS13に戻る。このようにして、上水平部12aの水平区間に停止する測定踏段30が出てくるまでNの数を1ずつ増やして、点P(N+2)を検出し、次に(N+2)番目の測定踏段30の第(N+2)角度θ(N+2)を算出し、次に第(N+2)距離L(N+2)を算出し、そして第(N+2)距離L(N+2)が閾値Lmax未満になるまで続ける。
【0048】
ステップS18において、N番目(例えば、N=1)の測定踏段30は上水平部12aの水平区間に存在するため、演算部118は、第1距離L1と第3距離L3から下記の(8)式を用いてN番目の測定踏段30の仮の制動距離L’を求める。

L’=L3-L1

=h(tanθ3-tanθ1) ・・・(8)

このN番目の測定踏段30の仮の制動距離L’は、基準踏段30の制動距離LよりもN*Mだけ短くなっているため、下記の(9)式で真の制動距離Lを算出し、ステップS19に進む。なお、Mとは、踏段30の前後方向の寸法であり、例えば、400mmである。

L=L’+N*M ・・・(9)

ステップS19において、演算部118は制動距離Lをタブレット端末200に短距離無線で出力し終了する。
【0049】
以上により、反射板304を有する基準踏段30の停止する位置(点P4)が、トラス12の傾斜部12cの傾斜区間であっても、制動距離Lの測定ができる。
【変更例】
【0050】
上記実施形態では、反射板304を踏段30の上面(クリート面)の前端部に取り付けたが、これに限らず踏段30の前後方向の中央部に設けてもよい。
【0051】
また、上記実施形態では、踏段30に反射板304を取り付けたが、これ以外の目印を取り付けてもよく、また、黄色のデマケーションライン305を目印として判断してもよい。
【0052】
また、上記実施形態では、姿勢制御モータ114でカメラ110を回転させて反射板304を自動で追尾したが、これに代えて、作業員が踏段30の反射板304を見ながらカメラ110を回転させ、第1角度θ1と第2角度θ2を測定してもよい。
【0053】
また、上記実施形態では、コム60から反射板304が進出した時点で、第1角度θ1から第1距離L1を算出しているが、基準踏段30が停止した後に第1角度θ1と第2角度θ2を動画像から算出し、(2)式と(4)式から求めた下記の(6)式から制動距離Lの算出をしてもよい。

L=h*tanθ2-h*tanθ1
=h(tanθ2-tanθ1) ・・・(6)

また、上記実施形態では、測定装置100とタブレット端末200と制御装置50との通信は短距離無線を想定しているが、コードでそれぞれ接続する有線式であってもよい。
【0054】
また、上記実施形態では、測定装置100の演算部118が停止信号を出力してから踏段30が直ちに停止する場合について説明したが、演算部118が停止信号を出力してから制御装置50が停止操作を行うまでに遅延時間がある場合には、その遅延時間を補正する処理を行うことにより、さらに正確な測定が可能となる。
【0055】
また、上記実施形態では、測定装置100から停止信号を発信する構成にしているが、これに代えて作業員がエスカレータ10の運転停止操作を行い、制御装置50側から測定装置100に対し停止信号が出力されたことを通知して制動距離Lの測定を行ってもよい。
【0056】
また、上記実施形態では、測定装置100を上階側の乗降板32の上に設置したが、これに代えて下階側の乗降板34の上に設置してもよい。但し、このときは、踏段30を上昇させて制動距離Lを測定する。
【0057】
また、上記実施形態では、エスカレータ10に適用して説明したが、これに代えて動く歩道に適用してもよい。
【0058】
上記では本発明の一実施形態を説明したが、この実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の主旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると共に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0059】
10・・・エスカレータ、12・・・トラス、18・・・駆動装置、20・・・モータ、23・・・電磁ブレーキ、30・・・踏段、50・・・制御装置、100・・・測定装置、110・・・カメラ、112・・・撮影部、116・・・回転軸、118・・・演算部、120・・・計測部、200・・・タブレット端末、304・・・反射板
【要約】
【課題】踏段の制動距離を簡単に測定できる乗客コンベアの踏段制動距離測定装置及びその方法を提供する。
【解決手段】踏段制動距離測定装置100は、踏段30より高い位置にある基点Oに配され、停止信号が出力されたときの基準踏段30の反射板304の第1位置P1と基点Oを結ぶ第1線S1と、基点Oからの垂線Rとのなす第1角度θ1を測定し、停止した基準踏段30の反射板304の第2位置P2と基点Oを結ぶ第2線S2と、垂線Rとのなす第2角度θ2を測定する計測部120と、第1角度θ1と第2角度θ2と、基点Oから基準踏段30が存在する高さまでの垂線Rの長さhとから基準踏段30の制動距離Lを算出する演算部118とを有する。
【選択図】 図3
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図9