(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-15
(45)【発行日】2023-12-25
(54)【発明の名称】家族性高コレステロール血症を有する患者を処置するための方法
(51)【国際特許分類】
A61K 39/395 20060101AFI20231218BHJP
A61K 31/22 20060101ALI20231218BHJP
A61K 31/366 20060101ALI20231218BHJP
A61K 31/47 20060101ALI20231218BHJP
A61K 31/505 20060101ALI20231218BHJP
A61K 31/404 20060101ALI20231218BHJP
A61K 31/397 20060101ALI20231218BHJP
A61K 31/4468 20060101ALI20231218BHJP
A61P 3/06 20060101ALI20231218BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20231218BHJP
A61K 31/40 20060101ALI20231218BHJP
A61K 31/711 20060101ALI20231218BHJP
A61K 31/7105 20060101ALI20231218BHJP
A61K 45/06 20060101ALI20231218BHJP
C07K 16/18 20060101ALN20231218BHJP
C12N 15/113 20100101ALN20231218BHJP
【FI】
A61K39/395 N
A61K39/395 D
A61K31/22
A61K31/366
A61K31/47
A61K31/505
A61K31/404
A61K31/397
A61K31/4468
A61P3/06 ZNA
A61P43/00 121
A61K31/40
A61K31/711
A61K31/7105
A61K45/06
C07K16/18
C12N15/113 Z
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022145714
(22)【出願日】2022-09-14
(62)【分割の表示】P 2018556273の分割
【原出願日】2017-04-27
【審査請求日】2022-10-12
(32)【優先日】2016-04-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2016-06-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2017-01-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】597160510
【氏名又は名称】リジェネロン・ファーマシューティカルズ・インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】REGENERON PHARMACEUTICALS, INC.
(74)【代理人】
【識別番号】100127926
【氏名又は名称】結田 純次
(74)【代理人】
【識別番号】100140132
【氏名又は名称】竹林 則幸
(72)【発明者】
【氏名】ロバート・シー・ポーディー
(72)【発明者】
【氏名】ウィリアム・ジェイ・サシーラ
(72)【発明者】
【氏名】ダニエル・エー・シュウェマー-ジャイプ
【審査官】石井 裕美子
(56)【参考文献】
【文献】特表2014-523739(JP,A)
【文献】特表2013-516489(JP,A)
【文献】国際公開第2015/100394(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/077154(WO,A1)
【文献】Journal of Lipid Research,2015年,Vol.56, pp.1308-1317
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 39/00-39/44
A61K 31/00-31/80
A61K 45/00-45/08
A61P 1/00-43/00
C07K 16/18
C12N 15/113
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
家族性高コレステロール血症に罹患している患者を処置する方法で使用するための医薬組成物であって、
(a)スタチンと;
(b)スタチン以外の1つの脂質低下剤と;
(c)アンジオポエチン様タンパク質3(ANGPTL3)の阻害剤と
の組合せの治療有効量を含み、該スタチンがピタバスタチン、ロバスタチン、シンバスタチン、プラバスタチン、およびフルバスタチンからなる群から選択され、該スタチン以外の1つの脂質低下剤がコレステロール吸収を阻害する薬剤であり、該ANGPTL3の阻害剤がANGPTL3に特異的に結合する抗体またはその抗原結合断片であり、該ANGPTL3に特異的に結合する抗体またはその抗原結合断片が、配列番号2のアミノ酸配列を有する重鎖CDR1(HCDR1)、配列番号3のアミノ酸配列を有するHCDR2、配列番号4のアミノ酸配列を有するHCDR3、配列番号6のアミノ酸配列を有する軽鎖CDR1(LCDR1)、配列番号7のアミノ酸配列を有するLCDR2、および配列番号8のアミノ酸配列を有するLCDR3を含み、該コレステロール吸収を阻害する薬剤がエゼチミブ(ZETIA(登録商標))である、前記医薬組成物。
【請求項2】
ミクロソームトリグリセリド輸送タンパク質(MTTP)を阻害する薬剤の治療有効量を投与することをさらに含む、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
家族性高コレステロール血症は、ヘテロ接合性家族性高コレステロール血症(HeFH)およびホモ接合性家族性高コレステロール血症(HoFH)からなる群から選択される、請求項1または2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
エゼチミブ(ZETIA(登録商標))は、約10mgの用量で1日1回経口投与される、請求項1~3のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項5】
MTTPを阻害する薬剤は、ロミタピド(JUXTAPID(登録商標))である、請
求項2に記載の医薬組成物。
【請求項6】
ロミタピド(JUXTAPID(登録商標))は、約5mg~約60mgの用量で1日1回経口投与される、請求項5に記載の医薬組成物。
【請求項7】
ロミタピド(JUXTAPID(登録商標))は、約20mgの用量で1日1回経口投与される、請求項6に記載の医薬組成物。
【請求項8】
前記組成物は、ロミタピドが存在する場合、ロミタピドでの処置の前、間または後に投与される、請求項2~7のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項9】
前記ANGPTL3に特異的に結合する抗体またはその抗原結合断片は、約1mg/kg体重~約20mg/kg体重の範囲に及ぶ用量で静脈内投与される、請求項1~8のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項10】
前記ANGPTL3に特異的に結合する抗体またはその抗原結合断片は、約15mg/kg体重の用量で静脈内投与される、請求項9に記載の医薬組成物。
【請求項11】
前記ANGPTL3に特異的に結合する抗体またはその抗原結合断片は、約50mg~約750mgの範囲に及ぶ用量で皮下投与される、請求項1~8のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項12】
前記ANGPTL3に特異的に結合する抗体またはその抗原結合断片は、約250mg~約450mgの範囲に及ぶ用量で皮下投与される、請求項11に記載の医薬組成物。
【請求項13】
前記ANGPTL3に特異的に結合する抗体またはその抗原結合断片は、週に1回、2週間に1回、3週間に1回、4週間に1回、2ヵ月に1回、3ヵ月に1回、または4ヵ月に1回投与される、請求項1~12のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項14】
家族性高コレステロール血症を有すると診断されている患者において1つまたはそれ以上の脂質パラメータを改善するための方法で使用するための医薬組成物であって、スタチン、コレステロール吸収を阻害する薬剤およびミクロソームトリグリセリド輸送タンパク質(MTTP)を阻害する薬剤からなる群から選択される脂質低下剤またはそれらの組合せの1またはそれ以上の治療有効用量と組み合わせて、アンジオポエチン様タンパク質3(ANGPTL3)阻害剤の1またはそれ以上の治療有効用量を含み、ここで、該ANGPTL3の阻害剤がANGPTL3に特異的に結合する抗体またはその抗原結合断片であり、該ANGPTL3に特異的に結合する抗体またはその抗原結合断片が、配列番号2のアミノ酸配列を有する重鎖CDR1(HCDR1)、配列番号3のアミノ酸配列を有するHCDR2、配列番号4のアミノ酸配列を有するHCDR3、配列番号6のアミノ酸配列を有する軽鎖CDR1(LCDR1)、配列番号7のアミノ酸配列を有するLCDR2、および配列番号8のアミノ酸配列を有するLCDR3を含み、該コレステロール吸収を阻害する薬剤がエゼチミブ(ZETIA(登録商標))であり、該スタチンがピタバスタチン、ロバスタチン、シンバスタチン、プラバスタチン、およびフルバスタチンからなる群から選択され、該MTTPを阻害する薬剤がロミタピド(JUXTAPID(登録商標))であり、1つまたはそれ以上の脂質パラメータの改善は、次のうちの1つまたはそれ以上:
(a)低密度リポタンパク質-C(LDL-C)のベースライン(第0週)からの減少;(b)アポリポタンパク質B(ApoB)のベースラインからの減少;
(c)非高密度リポタンパク質-C(非HDL-C)のベースラインからの減少;
(d)総コレステロール(総-C)のベースラインからの減少;
(e)リポタンパク質(a)(Lp(a))のベースラインからの減少;および/または(f)トリグリセリド(TG)のベースラインからの減少
である、前記医薬組成物。
【請求項15】
家族性高コレステロール血症は、ヘテロ接合性家族性高コレステロール血症(HeFH)およびホモ接合性家族性高コレステロール血症(HoFH)からなる群から選択される、請求項14に記載の医薬組成物。
【請求項16】
エゼチミブ(ZETIA(登録商標))は、約10mgの用量で1日1回経口投与される、請求項14または15に記載の医薬組成物。
【請求項17】
ロミタピド(JUXTAPID(登録商標))は、約5mg~約60mgの用量で1日1回経口投与される、請求項14~16のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項18】
ロミタピド(JUXTAPID(登録商標))は、約20mgの用量で1日1回経口投与される、請求項17に記載の医薬組成物。
【請求項19】
投与の結果、少なくとも1つの脂質パラメータのベースラインからの少なくとも40%の低減が生じる、請求項1~18のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項20】
投与の結果、少なくとも1つの脂質パラメータのベースラインからの少なくとも75%の低減が生じる、請求項1~18のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項21】
投与の結果、LDL-Cレベルのベースラインからの少なくとも40%の低減が生じる、請求項19または20に記載の医薬組成物。
【請求項22】
ANGPTL3に特異的に結合する抗体またはその抗原結合断片は、配列番号1のアミノ酸配列を有するHCVRおよび配列番号5のアミノ酸配列を有するLCVRを含む、請求項1~21のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項23】
家族性高コレステロール血症に罹患している患者を処置するための医薬の製造における、スタチンと、スタチン以外の1つの脂質低下剤と、アンジオポエチン様タンパク質3(ANGPTL3)の阻害剤との組合せの使用であって、該スタチンがピタバスタチン、ロバスタチン、シンバスタチン、プラバスタチン、およびフルバスタチンからなる群から選択され、該スタチン以外の1つの脂質低下剤がコレステロール吸収を阻害する薬剤であり、該ANGPTL3の阻害剤がANGPTL3に特異的に結合する抗体またはその抗原結合断片であり、該ANGPTL3に特異的に結合する抗体またはその抗原結合断片が、配列番号2のアミノ酸配列を有する重鎖CDR1(HCDR1)、配列番号3のアミノ酸配列を有するHCDR2、配列番号4のアミノ酸配列を有するHCDR3、配列番号6のアミノ酸配列を有する軽鎖CDR1(LCDR1)、配列番号7のアミノ酸配列を有するLCDR2、および配列番号8のアミノ酸配列を有するLCDR3を含み、該コレステロール吸収を阻害する薬剤がエゼチミブ(ZETIA(登録商標))である、前記使用。
【請求項24】
家族性高コレステロール血症を有すると診断されている患者において1つまたはそれ以上の脂質パラメータを改善するための医薬の製造における、スタチン、コレステロール吸収を阻害する薬剤およびミクロソームトリグリセリド輸送タンパク質(MTTP)を阻害する薬剤からなる群から選択される脂質低下剤またはそれらの組合せと組み合わせた、アンジオポエチン様タンパク質3(ANGPTL3)の阻害剤の使用であって、該ANGPTL3の阻害剤がANGPTL3に特異的に結合する抗体またはその抗原結合断片であり、該スタチンがピタバスタチン、ロバスタチン、シンバスタチン、プラバスタチン、およ
びフルバスタチンからなる群から選択され、該MTTPを阻害する薬剤がロミタピド(JUXTAPID(登録商標))であり、該ANGPTL3に特異的に結合する抗体またはその抗原結合断片が、配列番号2のアミノ酸配列を有する重鎖CDR1(HCDR1)、配列番号3のアミノ酸配列を有するHCDR2、配列番号4のアミノ酸配列を有するHCDR3、配列番号6のアミノ酸配列を有する軽鎖CDR1(LCDR1)、配列番号7のアミノ酸配列を有するLCDR2、および配列番号8のアミノ酸配列を有するLCDR3を含み、該コレステロール吸収を阻害する薬剤がエゼチミブ(ZETIA(登録商標))である、前記使用。
【請求項25】
家族性高コレステロール血症を有すると診断されている患者において1つまたはそれ以上の脂質パラメータを改善するための医薬組成物であって、スタチン、コレステロール吸収を阻害する薬剤およびミクロソームトリグリセリド輸送タンパク質(MTTP)を阻害する薬剤からなる群から選択される脂質低下剤またはそれらの組合せと組み合わせた、アンジオポエチン様タンパク質3(ANGPTL3)の阻害剤の治療有効量を含み、該ANGPTL3の阻害剤がANGPTL3に特異的に結合する抗体またはその抗原結合断片であり、該スタチンがピタバスタチン、ロバスタチン、シンバスタチン、プラバスタチン、およびフルバスタチンからなる群から選択され、該MTTPを阻害する薬剤がロミタピド(JUXTAPID(登録商標))であり、該ANGPTL3に特異的に結合する抗体またはその抗原結合断片が、配列番号2のアミノ酸配列を有する重鎖CDR1(HCDR1)、配列番号3のアミノ酸配列を有するHCDR2、配列番号4のアミノ酸配列を有するHCDR3、配列番号6のアミノ酸配列を有する軽鎖CDR1(LCDR1)、配列番号7のアミノ酸配列を有するLCDR2、および配列番号8のアミノ酸配列を有するLCDR3を含み、該コレステロール吸収を阻害する薬剤がエゼチミブ(ZETIA(登録商標))である、前記医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
配列についての記述
本出願には配列表があり、これは、ASCIIフォーマットで電子的に提出され、その全体が、参照によって本明細書に組み入れられている。前記ASCIIのコピーは、2017年4月25日に作成され、SequenceList_26PCT.TXTと呼ばれ、そのサイズは7キロバイトである。
【0002】
本発明は、脂質およびリポタンパク質レベル上昇に関連する疾患および障害の治療的処置の分野に関する。より具体的には、本発明は、家族性高コレステロール血症を有する患者を、脂質およびリポタンパク質の最適な血清レベルを得るために処置するための、脂質低下治療と併せて用いるANGPTL3阻害剤の使用に関する。
【背景技術】
【0003】
高脂血症は、血中の脂質および/もしくはリポタンパク質のレベルの上昇を特徴とするまたは血中の脂質および/もしくはリポタンパク質のレベルの上昇に関連する疾患および障害を包含する総称である。高脂血症は、高コレステロール血症、高トリグリセリド血症、混合性高脂血症およびリポタンパク質a(Lp(a))の上昇を含む。多くの集団でよく見られる特定の型の高脂血症が、高コレステロール血症である。
【0004】
高コレステロール血症、詳細には低密度リポタンパク質(LDL)コレステロール(LDL-C)レベルの増加は、アテローム性動脈硬化症および冠動脈心疾患(CHD)発症の大きなリスクとなる(非特許文献1)。低密度リポタンパク質コレステロールは、コレステロール低下治療の主要標的とされており、妥当な代替治療エンドポイントとして受け入れられている。LDL-CレベルとCHD事象との強い直接的関係のため、LDL-Cレベルを低減させることがCHDリスクを低減させることは、非常に多くの研究によって立証されており;LDL-Cが1mmol/L(約40mg/dL)低減するごとに、心血管疾患(CVD)死亡率および罹病率は22%低下される。LDL-Cの低減が大きいほど事象の大きな低減が生じ、集中スタチン処置の標準スタチン処置に対する比較データは、心血管(CV)リスクが非常に高い患者ではLDL-Cレベルが低いほどその便益が大きいことを示唆している。
【0005】
家族性高コレステロール血症(FH)は、脂質代謝の遺伝性障害であり、この障害を有する人においては、早発性の重度心血管疾患(CVD)の素因になる(非特許文献2)。FHは、常染色体優性疾患または常染色体劣性疾患のいずれかであり得、低密度リポタンパク質受容体(LDLR)中またはLDL-Cの肝臓クリアランスに関与するタンパク質をコードする少なくとも3つの異なる遺伝子中の、FHを引き起こすことができる突然変異によりもたらされる。そのような欠陥の例として、血行からLDL-Cを除去するLDL受容体(LDLR)をコードする遺伝子中およびLDL粒子の主要なタンパク質であるアポリポタンパク質(Apo)Bの遺伝子中の突然変異が挙げられる。いずれの場合も、FHは、出生時からの血漿中のLDL-Cの蓄積、ならびにその後の、腱の黄色腫、黄色板腫、アテローム、およびCVDの発症を特徴とする。個体が遺伝子の欠陥を、関与する遺伝子の一方のコピーに有する(ヘテロ接合性)または両方のコピーに有する(ホモ接合性)のいずれであるかに依存して、FHは、ヘテロ接合性FH(heFH)またはホモ接合性FH(hoFH)のいずれかに分類することができる。
【0006】
現行のLDL-C低下薬としては、スタチン、コレステロール吸収阻害剤、フィブラート、ナイアシン、胆汁酸封鎖剤およびプロタンパク質転換酵素サブチリシン/ケキシン9
型(PCSK9)阻害剤が挙げられる。スタチンは、LDL-Cを低下させるために通常処方される処置である。しかし、そのような脂質低下治療を利用することが可能であるにもかかわらず、多くの高リスク患者において、そのような治療のガイドラインが標的とするLDL-Cレベルを達成することができない(非特許文献3)。利用可能な脂質修飾治療(LMT)にもかかわらず、LDL-Cについてガイドラインが標的とするレベルを得るのが依然として不可能である患者には、時には、LDL-Cを、リポタンパク質アフェレーシス(例えば、LDLアフェレーシス)により機械的に除去することが処方される。
【0007】
しかし、最適化されたLMTレジメンを受けているにもかかわらず、LDL-Cの目標値に至らない患者は、代替のLDL-C低下治療から、または本明細書に記載する薬剤およびレジメンなどの治療薬の組合せの使用により、大きな便益を得るであろう。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【文献】Sharrettら、2001、Circulation 104:1108~1113頁
【文献】Kolanskyら(2008)、Am J Cardiology、102(11):1438~1443頁
【文献】Gittら、2010年、Clin Res Cardiol、99(11):723~733頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、その最も広範な態様において、家族性高コレステロール血症に罹患している患者を、ANGPTL3阻害剤を他の脂質修飾治療と組み合わせて投与して、脂質およびリポタンパク質の最適な血清レベルを得ることによって処置する方法に関する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
1つの実施形態において、方法は、(a)スタチンと;(b)スタチン以外の1つの脂質低下剤と;(c)ANGPTL3の阻害剤との組合せの治療有効量を、家族性高コレステロール血症に罹患している患者に投与することを含む。
【0011】
1つの実施形態において、患者に、(a)スタチンと;(b)スタチン以外の1つの脂質低下剤と;(c)ANGPTL3の阻害剤と;(d)スタチン以外の第2の脂質低下剤とが投与される。
【0012】
1つの実施形態において、家族性高コレステロール血症は、ヘテロ接合性家族性高コレステロール血症(HeFH)およびホモ接合性家族性高コレステロール血症(HoFH)からなる群から選択される。
【0013】
1つの実施形態において、スタチンは、アトルバスタチン(LIPITOR(登録商標))、ピタバスタチン(LIVALO(登録商標))、ロバスタチン(MEVACOR(登録商標))、シンバスタチン(ZOCOR(登録商標))、プラバスタチン(PRAVACHOL(登録商標))、フルバスタチン(LESCOL(登録商標))およびロスバスタチン(Crestor(登録商標))からなる群から選択される。
【0014】
1つの実施形態において、スタチンは、約5mg~約40mgの用量で1日1回経口投与されるロスバスタチン(CRESTOR(登録商標))である。別の実施形態において、スタチンは、5~40mgの用量で1日1回経口投与されるロスバスタチン(CRESTOR(登録商標))である。
【0015】
1つの実施形態において、スタチンは、約10mg~約80mgの用量で1日1回経口投与されるアトルバスタチン(LIPITOR(登録商標))である。別の実施形態において、スタチンは、10~80mgの用量で1日1回経口投与されるアトルバスタチン(LIPITOR(登録商標))である。
【0016】
1つの実施形態において、スタチン以外の1つの脂質低下剤は、コレステロール吸収を阻害する薬剤である。
【0017】
1つの実施形態において、コレステロール吸収を阻害する薬剤は、エゼチミブ(ZETIA(登録商標))である。
【0018】
1つの実施形態において、エゼチミブ(ZETIA(登録商標))は、約10mgの用量で1日1回経口投与される。別の実施形態において、エゼチミブ(ZETIA(登録商標))は、10mgの用量で1日1回経口投与される。
【0019】
1つの実施形態において、スタチン以外の第2の脂質低下剤は、ミクロソームトリグリセリド輸送タンパク質(MTTP)を阻害する薬剤である。
【0020】
1つの実施形態において、ミクロソームトリグリセリド輸送タンパク質を阻害する薬剤は、ロミタピド(JUXTAPID(登録商標))である。
【0021】
1つの実施形態において、ロミタピド(JUXTAPID(登録商標))は、約5mg~約60mgの用量で1日1回経口投与される。別の実施形態において、ロミタピド(JUXTAPID(登録商標))は、5~60mgの用量で1日1回経口投与される。
【0022】
1つの実施形態において、ロミタピド(JUXTAPID(登録商標))は、約20mgの用量で1日1回経口投与される。別の実施形態において、ロミタピド(JUXTAPID(登録商標))は、20mgの用量で1日1回経口投与される。
【0023】
1つの実施形態において、スタチン以外の第2の脂質低下剤は、PCSK9を阻害する薬剤である。1つの実施形態において、PCSK9阻害剤は、アリロクマブ(PRALUENT(登録商標))である。
【0024】
1つの実施形態において、スタチン以外の第2の脂質低下剤は、apoB含有リポタンパク質の産生を低減させる薬剤である。1つの実施形態において、apoB含有リポタンパク質の産生を低減させる薬剤は、ミポメルセンである。
【0025】
また、本明細書に記載する少なくとも1つの脂質パラメータの正常化を得るために、脂質を低下させるように作用する追加の薬剤で、本明細書に記載する第1および第2の脂質低下剤を代用してもよく、または代わって、そうした追加の薬剤を、エビナクマブ(evinacumab)に加える第1および第2の脂質低下剤と組み合わせてもよいことが想定される。
【0026】
特定の実施形態において、本明細書に記載する脂質低下治療を組み合わせて、本明細書に記載する脂質パラメータのうちの1つまたはそれ以上のレベルが正常化されるように、アフェレーシスを受けている患者を処置する際に使用することができる。
【0027】
1つの実施形態において、ANGPTL3阻害剤は、小分子阻害剤、核酸(例えば、siRNA)、およびANGPTL3に特異的に結合する抗体からなる群から選択される。
【0028】
1つの実施形態において、ANGPTL3抗体は、エビナクマブである。
【0029】
1つの実施形態において、エビナクマブは、本明細書に記載する少なくとも1つの脂質パラメータの正常化を得るのに有用であることが確立されているスタチン、エゼチミブ、ロミタピド、ミポメルセン、PCSK9阻害剤または任意の他の脂質低下剤での処置の前、間または後に投与される。
【0030】
1つの実施形態において、エビナクマブは、約1mg/kg体重~約20mg/kg体重の範囲に及ぶ用量で静脈内投与される。
【0031】
1つの実施形態において、エビナクマブは、約15mg/kg体重の用量で静脈内投与される。別の実施形態において、エビナクマブは、15mg/kg体重の用量で静脈内投与される。
【0032】
1つの実施形態において、エビナクマブは、約50mg~約750mgの範囲に及ぶ用量で皮下投与される。
【0033】
1つの実施形態において、エビナクマブは、約250mg~約450mgの範囲に及ぶ用量で皮下投与される。
【0034】
1つの実施形態において、エビナクマブは、週に1回、2週間に1回、3週間に1回、4週間に1回、2ヵ月に1回、3ヵ月に1回、または4ヵ月に1回投与される。
【0035】
第2態様において、本発明は、家族性高コレステロール血症を有すると診断されている患者において1つまたはそれ以上の脂質パラメータを改善するための方法であって、スタチン、コレステロール吸収を阻害する薬剤、ミクロソームトリグリセリド輸送タンパク質(MTTP)を阻害する薬剤からなる群から選択される脂質低下剤またはそれらの組合せの1またはそれ以上の治療有効用量と組み合わせて、ANGPTL3阻害剤の1またはそれ以上の治療有効用量を投与することを含み、ここで、1つまたはそれ以上の脂質パラメータの改善は、次のうちの1つまたはそれ以上:
(a)低密度リポタンパク質-C(LDL-C)のベースライン(第0週)からの減少;(b)アポリポタンパク質B(ApoB)のベースラインからの減少;
(c)非高密度リポタンパク質-C(非HDL-C)のベースラインからの減少;
(d)総コレステロール(総-C)のベースラインからの減少;
(e)リポタンパク質(a)(Lp(a))のベースラインからの減少;および/または(f)トリグリセリド(TG)のベースラインからの減少
である前記方法を提供する。
【0036】
1つの実施形態において、家族性高コレステロール血症は、ヘテロ接合性家族性高コレステロール血症(HeFH)およびホモ接合性家族性高コレステロール血症(HoFH)からなる群から選択される。
【0037】
1つの実施形態において、ANGPTL3阻害剤は、小分子阻害剤、核酸(例えば、siRNA)、およびANGPTL3に特異的に結合する抗体からなる群から選択される。
【0038】
1つの実施形態において、ANGPTL3に特異的に結合する抗体は、エビナクマブである。
【0039】
1つの実施形態において、スタチンは、アトルバスタチン(LIPITOR(登録商標
))、ピタバスタチン(LIVALO(登録商標))、ロバスタチン(MEVACOR(登録商標))、シンバスタチン(ZOCOR(登録商標))、プラバスタチン(PRAVACHOL(登録商標))、フルバスタチン(LESCOL(登録商標))およびロスバスタチン(Crestor(登録商標))からなる群から選択される。
【0040】
1つの実施形態において、スタチンは、ロスバスタチン(CRESTOR(登録商標))であり、約5mg~約40mgの用量で1日1回経口投与される。別の実施形態において、スタチンは、ロスバスタチン(CRESTOR(登録商標))であり、5~40mgの用量で1日1回経口投与される。
【0041】
1つの実施形態において、スタチンは、アトルバスタチン(LIPITOR(登録商標))であり、約10mg~約80mgの用量で1日1回経口投与される。別の実施形態において、スタチンは、アトルバスタチン(LIPITOR(登録商標))であり、10~80mgの用量で1日1回経口投与される。
【0042】
1つの実施形態において、コレステロール吸収を阻害する薬剤は、エゼチミブ(ZETIA(登録商標))である。
【0043】
1つの実施形態において、エゼチミブ(ZETIA(登録商標))は、約10mgの用量で1日1回経口投与される。別の実施形態において、エゼチミブ(ZETIA(登録商標))は、10mgの用量で1日1回経口投与される。
【0044】
1つの実施形態において、ミクロソームトリグリセリド輸送タンパク質を阻害する薬剤は、ロミタピド(JUXTAPID(登録商標))である。
【0045】
1つの実施形態において、ロミタピド(JUXTAPID(登録商標))は、約5mg~約60mgの用量で1日1回経口投与される。別の実施形態において、ロミタピド(JUXTAPID(登録商標))は、5~60mgの用量で1日1回経口投与される。
【0046】
1つの実施形態において、ロミタピド(JUXTAPID(登録商標))は、約20mgの用量で1日1回経口投与される。別の実施形態において、ロミタピド(JUXTAPID(登録商標))は、20mgの用量で1日1回経口投与される。
【0047】
1つの実施形態において、上記で注目した薬剤と他の脂質低下剤とを組み合わせて、上記に記載した脂質パラメータのうちの少なくとも1つの許容されるレベルを得ることができる。他の薬剤として、PCSK9阻害剤が挙げられるが、これに限定されない。1つの実施形態において、PCSK9阻害剤は、PCSK9に特異的に結合する抗体である。1つの実施形態において、PCSK9に特異的に結合する抗体は、アリロクマブ(PRALUENT(登録商標))である。
【0048】
1つの実施形態において、上記に記載した治療と組み合わせることができる追加の脂質低下剤は、apoB含有リポタンパク質の産生を低減させる薬剤を含む。1つの実施形態において、apoB含有リポタンパク質の産生を低減させる薬剤は、ミポメルセンである。
【0049】
また、本明細書に記載する少なくとも1つの脂質パラメータの正常レベルを得るために、脂質を低下させるように作用する追加の薬剤で、本明細書に記載する第1および第2の脂質低下剤を代用してもよく、または代わって、そうした追加の薬剤を、エビナクマブに加える第1および第2の脂質低下剤と組み合わせてもよいことが想定される。
【0050】
特定の実施形態において、本明細書に記載する脂質低下治療を組み合わせて、アフェレーシスを受けている患者を処置する際に使用することができ、その目標は、上記に記載した脂質パラメータのうちの少なくとも1つまたはそれ以上のレベルを、許容される範囲まで低下させることである。関連の実施形態において、本明細書に記載する治療の組合せの使用は、アフェレーシスに対する必要性を消失させる場合があり、またはアフェレーシス手順間の時間間隔を延長させるのに役立つ場合がある。
【0051】
1つの実施形態において、処置の結果、少なくとも1つの脂質パラメータのベースラインからの少なくとも40%の低減が生じる。
【0052】
1つの実施形態において、処置の結果、少なくとも1つの脂質パラメータのベースラインからの少なくとも75%の低減が生じる。
【0053】
1つの実施形態において、処置の結果、LDL-Cレベルのベースラインからの少なくとも40%の低減が生じる。
【0054】
1つの実施形態において、ANGPTL3に特異的に結合する抗体またはその抗原結合断片は、配列番号1のアミノ酸配列を有する重鎖可変領域(HCVR)の相補性決定領域(CDR)および配列番号5のアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域(LCVR)のCDRを含む。
【0055】
1つの実施形態において、ANGTL3に特異的に結合する抗体またはその抗原結合断片は、配列番号2のアミノ酸配列を有する重鎖CDR1(HCDR1)、配列番号3のアミノ酸配列を有するHCDR2、配列番号4のアミノ酸配列を有するHCDR3、配列番号6のアミノ酸配列を有する軽鎖CDR1(LCDR1)、KASのアミノ酸配列を有するLCDR2、および配列番号8のアミノ酸配列を有するLCDR3を含む。
【0056】
1つの実施形態において、ANGPTL3に特異的に結合する抗体またはその抗原結合断片は、配列番号1のアミノ酸配列を有するHCVRおよび配列番号5のアミノ酸配列を有するLCVRを含む。
【0057】
さらなる態様において、本発明は、家族性高コレステロール血症に罹患している患者の処置における、スタチンと、スタチン以外の少なくとも1つの脂質低下剤と、アンジオポエチン様タンパク質3(ANGPTL3)の阻害剤との組合せを含む医薬組成物の使用、およびそうした組成物を提供する。その上さらなる態様において、本発明は、家族性高コレステロール血症を有すると診断されている患者の1つまたはそれ以上の脂質パラメータの改善における、スタチン、コレステロール吸収を阻害する薬剤およびミクロソームトリグリセリド輸送タンパク質(MTTP)を阻害する薬剤からなる群から選択される脂質低下剤またはそれらの組合せと組み合わせた、アンジオポエチン様タンパク質3(ANGPTL3)の阻害剤を含む医薬組成物の使用、およびそうした組成物を提供する。
【0058】
本発明の他の実施形態は、後に続く詳細な説明の再考から明らかになるであろう。
【発明を実施するための形態】
【0059】
本発明を説明する前に、本発明は説明する特定の方法および実験条件に限定されないことを理解すべきである。そのような方法および条件は変わることがあるからである。本明細書において用いる専門用語は、特定の実施形態の説明を目的にしたものに過ぎず、限定的することを意図したものでないことも理解すべきである。本発明の範囲は添付の特許請求の範囲によってのみ限定されるからである。
【0060】
別段の定義がない限り、本明細書において用いる全ての科学技術用語は、本発明が属する技術に関わる当業者によって一般に理解されているのと同じ意味を有する。本明細書において用いる場合、特定の列挙されている数値に関して用いる用語「約」は、その値が、列挙されている値から1%以下変動することがあることを意味する。例えば、本明細書において用いる場合、「約100」という表現は、99および101、ならびに間の全ての値(例えば、99.1、99.2、99.3、99.4など)を含む。
【0061】
本明細書に記載のものと同様または等価の任意の方法および材料を本発明の実施の際に使用することができるが、好ましい方法および材料を次に説明する。本明細書において言及する全ての出版物は、それら全体が説明のために参照によって本明細書に組み入れられている。
【0062】
高脂血症を処置するための方法
本発明は一般に、家族性高コレステロール血症に罹患している患者において、リポタンパク質レベルを、(a)スタチンと;(b)スタチン以外の第1の脂質低下治療と;(c)ANGPTL3の阻害剤との組合せを投与することによって低減させるための方法および組成物に関する。特定の実施形態において、組合せは、スタチン以外の第2の脂質低下剤を含む。特定の実施形態において、スタチンではない第1の脂質低下剤は、エゼチミブ(ZETIA(登録商標))などの、コレステロール吸収を阻害する薬剤である。特定の実施形態において、スタチンではない第2の脂質低下剤は、ロミタピド(JUSTAPID(登録商標))などの、ミクロソームトリグリセリド輸送タンパク質を阻害する薬剤である。1つの実施形態において、ANGPTL3阻害剤は、エビナクマブなどの、ANGPTL3に特異的に結合する抗体である。本発明の特定の実施形態において、ANGPTL3阻害剤(例えば、エビナクマブ)の、上記で注目した他の治療(スタチン、エゼチミブおよびロミタピド)との組合せを用いる処置は、該患者において、リポタンパク質レベルを許容される範囲まで低下させるのに役立ち、それによって、アテローム性動脈硬化症、脳卒中および他の心血管疾患を発症する該患者のリスクを低下させることができる。特定の実施形態において、記載の方法を使用して、ヘテロ接合性家族性高コレステロール血症(HeFH)および/またはホモ接合性家族性高コレステロール血症(HoFH)を含む、家族性高コレステロール血症に罹患している患者を処置することができる。特定の実施形態においてはまた、PCSK9阻害剤も、上記に記載の組み合わせた治療に追加して、本明細書に記載する少なくとも1つの脂質パラメータのレベルをさらに低下させることができる。関連の実施形態においてはまた、上記に記載した、治療の組合せを、アフェレーシスを受けている患者において使用して、記載する脂質パラメータのうちの少なくとも1つの正常化を得ることもできる。記載する治療の組合せは、アフェレーシスに対する必要性を消失させる場合があり、または必要なアフェレーシス手順間の時間間隔を延長させる場合がある。記載する治療の組合せは、単独でまたはアフェレーシスと組み合わせて使用した場合に、これらの患者において、アテローム性動脈硬化症および冠動脈心疾患(CHD)を発症するリスクを低下させるのに役立ち得る。
【0063】
本明細書において用いる場合、用語「リポタンパク質」は、タンパク質および脂質の両方を含有する生体分子の粒子を意味する。リポタンパク質の例として、例えば、低密度リポタンパク質(LDL)、高密度リポタンパク質(HDL)、超低密度リポタンパク質(VLDL)、中間密度リポタンパク質(IDL)およびリポタンパク質(a)(Lp(a))が挙げられる。
【0064】
本発明は、特定の実施形態によると、本明細書に記載され本明細書に記載する組合せ中に含まれるもの以外の脂質修飾治療に非応答性であるか、その治療による制御が不十分であるか、またはその治療に不耐性である患者を処置するための方法を含む。本明細書において用いる場合、「脂質修飾治療に非応答性であるか、脂質修飾治療による制御が不十分
であるか、または脂質修飾治療に不耐性である」特定の患者は、脂質修飾剤での処置後に患者の血清中で測定したまたは別の方法により検出した1つまたはそれ以上のリポタンパク質(例えば、LDL-Cおよび/または非HDL-C)のレベルに基づいて、医師、フィジシャンアシスタント(physician’s assistant)、診断医または他の医療専門家により判定される。医師、フィジシャンアシスタント、診断医または他の医療専門家はまた、これらに限定されないが、筋肉の痛み、圧痛もしくは衰弱(筋痛症)、頭痛、皮膚潮紅、睡眠困難、腹部筋痙攣、腹部膨満、下痢、便秘、発疹、悪心または嘔吐を含む、患者が経験し得る脂質修飾治療の副作用プロファイルに基づいて、患者が特定の脂質修飾治療に不耐性であるかどうかを判定することもできる。また、特定の脂質修飾治療に非応答性であるか、特定の脂質修飾治療による制御が不十分であるか、または特定の脂質修飾治療に不耐性である患者は、患者の家族歴、医学的背景、現行の治療処置状況、ならびに国の医学会および医師のグループにより採用されている一般に認められているまたは広く使われているリポタンパク質標的などの他の因子により判定することもでき、またはそうした因子の影響を受ける可能性もある。例えば、特定の状況では、患者が、特定の脂質修飾剤を用いて治療を受けており、約70mg/dL以上のLDL-Cレベルを示す場合には、このことから、患者は、「その脂質修飾治療に非応答性であるか、またはその脂質修飾治療による制御が不十分であるか、またはその脂質修飾治療に不耐性であり」、本明細書に記載する治療を使用する処置により便益を得ることができることが示される。他の状況では、患者が、特定の脂質修飾剤を用いて治療を受けており、約100mg/dL以上のLDL-Cレベルを示す場合には、このことから、患者は、「その脂質修飾治療に非応答性であるか、その脂質修飾治療による制御が不十分であるか、またはその脂質修飾治療に不耐性であり」、本明細書に記載する治療を使用する処置により便益を得ることができることが示される。特定の状況では、患者が、特定の脂質修飾剤を用いて治療を受けており、約150mg/dL、200mg/dL、250mg/dL、300mg/dL、400mg/dLまたはそれより大きな値以上のLDL-Cレベルを示す場合には、このことから、患者は、「特定の脂質修飾治療に非応答性であるか、特定の脂質修飾治療による制御が不十分であるか、または特定の脂質修飾治療に不耐性であり」、本明細書に記載する治療を使用する処置により便益を得ることができることが示される。さらなる他の状況では、特定の開始点における患者のLDL-Cまたは非HDL-Cのレベル(「ベースライン」)と比較して、LDL-Cまたは非HDL-Cのレベルの、百分率で示す特定の低減が満たされているか否かを使用して、患者が、脂質修飾治療に応答しているかどうか、またはその患者が、本発明の方法および薬剤を使用するさらなる処置を必要としているかどうかを判定することができる。例えば、ベースラインからの50%未満(例えば、40%未満、35%未満、30%未満、25%未満など)のLDL-Cまたは非HDL-Cの低減は、本発明の方法および薬剤を使用する治療の必要性を意味し得る。
【0065】
したがって、本発明は、処置方法であって、ANGPTL3阻害剤(例えば、エビナクマブ)の1用量またはそれ以上と、スタチン、エゼチミブ、PCSK9阻害剤、ミポメルセンおよび/またはロミタピドの組合せの1用量またはそれ以上とを、他のタイプの脂質修飾治療(例えば、胆汁酸封鎖剤、ナイアシン、フェノフィブレート)を受けているが、そのような治療に非応答性であるか、またはそのような治療に不耐性である患者に投与することを含み、ここで、本明細書に記載する併用治療の1用量またはそれ以上を受けた後に、該患者は、総コレステロール、LDL-Cまたは非HDL-Cの正常レベルを得ることが可能になる前記方法を含む。特定の事例では、標的とする特定のリポタンパク質レベルを得、かつ/または維持するために、患者は、他の脂質修飾治療を止めてもよく、または他の脂質修飾治療は、継続してもよいが、より低い用量で投与したり、ANGPTL3阻害剤と、エゼチミブおよびロミタピドならびに場合によりPCSK9阻害剤および/またはミポメルセンに加えたスタチンとを組み合わせて使用したりすることができる。あるいは、本明細書に記載する組合せと併せて他の脂質修飾治療を投与しようとする場合には、他の脂質修飾治療は、通常処方される用量で患者に投与してもよいが、他の脂質修飾治
療の投与頻度を低減させることができる。いくつかの事例では、本明細書に記載する併用治療の1用量またはそれ以上を投与した後には、標的とする特定のリポタンパク質レベルを得るおよび/または維持するための、他の脂質修飾治療での処置に対する患者の必要性を完全に消失させることができる。
【0066】
特定の実施形態によると、本発明は、特定の脂質修飾治療に対する必要性を低減または消失させるための方法であって、過去1カ月、過去2カ月、過去3カ月、過去4カ月、過去5カ月、過去6カ月またはより長い期間にわたり特定の脂質修飾治療で処置されている、高脂血症(例えば、高コレステロール血症)を有する患者を選択すること、および本明細書に記載する薬剤(エゼチミブ、ロミタピド、およびスタチン)と組み合わせたANGPTL3阻害剤の1用量またはそれ以上を患者に投与することを含む前記方法を含む。本発明のこの態様による方法は、患者の血清中の少なくとも1つの脂質またはリポタンパク質のレベルの低下をもたらし、その結果、患者が応答しなかったかまたは不耐性を示した他の脂質修飾治療(例えば、胆汁酸封鎖剤、ナイアシンまたはフェノフィブレート)での処置に対する必要性の低減または消失が可能になる。本明細書に記載する方法はまた、アフェレーシスを受けている患者において使用することもでき、この患者集団において脂質低下剤の組合せを使用することによって、アフェレーシスに対する必要性の消失がもたらされる場合があり、またはアフェレーシス手順間の時間間隔が延長する場合がある。例えば、本発明の特定の実施形態において、スタチン、エゼチミブおよび/またはロミタピドと組み合わせて、ANGPTL3阻害剤の1用量またはそれ以上を投与した後に、患者の血清LDL-Cレベルは、定義されたレベル未満(例えば、100mg/dL未満もしくは70mg/dL未満)まで低減する、または総コレステロールは、定義されたレベル(例えば、200mg/dL未満もしくは150mg/dL未満)まで低下する、またはLDL-Cの血清レベルは、本明細書に記載する組合せを用いる処置の前のベースラインレベルと比較して少なくとも40%の低減を示す。
【0067】
特定の実施形態によると、本発明の方法により処置可能である患者は、高コレステロール血症(例えば、70mg/dL以上の血清LDL-C濃度(例えば、患者が心血管系の病歴を有する場合)または100mg/dL以上の血清LDL-C濃度(例えば、患者に心血管系の病歴がない場合))を有する。特定の実施形態において、患者の高コレステロール血症は、胆汁酸封鎖剤、ナイアシンまたはフェノフィブレートなどの、特定の標準的な脂質修飾治療による制御が不十分である。本発明はまた、HeFHおよびHoFHを含む、家族性高コレステロール血症を有する患者において、総コレステロール、LDL-C、非HDL-C、トリグリセリド(TG)、ApoB、ApoCIIIおよびLp(a)を低減させるための方法も含む。
【0068】
処置に好適な患者
本発明は、高コレステロール血症状態、例えば、低密度リポタンパク質受容体(LDLR)中の突然変異によりもたらされるヘテロ接合性家族性高コレステロール血症(HeFH)もしくはホモ接合性家族性高コレステロール血症(HoFH)、常染色体優性高コレステロール血症(ADH、例えば、PCSK9遺伝子中の1つもしくはそれ以上の機能獲得型突然変異に関連するADH)、常染色体劣性高コレステロール血症(ARH、例えば、LDLRAP1中の突然変異に関連するARH)などを発症していると診断されている、もしくは高コレステロール血症状態を発症するリスクを有すると識別されている患者、および家族性高コレステロール血症とは異なる高コレステロール血症(非FH)を発症していると診断されている、もしくは非FHを発症するリスクを有すると識別されている患者、またはApoB遺伝子中のホモ接合性もしくは複合ヘテロ接合性の突然変異の存在が記録されている患者を処置するのに有用な方法および組成物を含む。また、本発明の方法を使用する処置に好適な患者は、次のクラスのうちのいずれかに属するLDLR突然変異を示す患者も含むことができる:クラスI:受容体のヌル突然変異、すなわち、それによ
って、LDLRが、全く合成されない;クラスII:輸送に欠陥のある対立遺伝子、すなわち、それによって、LDLRが、小胞体からゴルジ体へ適切には輸送されず、細胞表面上での発現が生じない(クラスIIA(受容体の輸送がない場合)およびクラスIIB(受容体の輸送が低減する場合));クラスIII:結合に欠陥のある対立遺伝子、すなわち、それによって、アポリポタンパク質B100(R3500Q)またはLDL-Rのいずれかにおける欠陥に起因して、LDLRが、細胞表面上のLDLに適切には結合しない;クラスIV:内部移行に欠陥のある対立遺伝子、すなわち、それによって、LDLに結合しているLDLRが、クラスリンで被覆されている窪み中に適切にはクラスター化せず、受容体媒介エンドサイトーシが生じない;クラスV:再利用に欠陥のある対立遺伝子、すなわち、それによって、LDLRが、再利用されず、細胞表面に戻らない。
【0069】
家族性高コレステロール血症(例えば、heFHまたはhoFH)の診断は、遺伝子型判定および/または臨床基準により行うことができる。遺伝子型判定を受けない患者については、臨床診断は、FHを確定する基準であるサイモン・ブルーム基準、または>8点のスコアを用いるWHO/Dutch Lipid Network基準のいずれかに基づくことができる。
【0070】
特定の実施形態によると、冠動脈心疾患(CHD)歴を有することに基づいて患者は処置に好適であってよい。本明細書において用いる場合、「CHD歴」(または「記録されたCHD歴」)は、(i)急性心筋梗塞(MI);(ii)無症候性MI;(iii)不安定狭心症;(iv)冠動脈血行再建術(例えば、経皮的冠動脈形成術[PCI]もしくは冠動脈バイパス移植術[CABG]);および/または(v)侵襲的もしくは非侵襲的検査(例えば、冠動脈造影法、トレッドミルを使用する負荷テスト、負荷心エコー検査または核イメージング)によって診断された臨床的に有意なCHDのうちの1つまたはそれ以上を含む。
【0071】
特定の実施形態によると、非冠動脈心疾患性心血管疾患(「非CHD CVD」)を有することに基づいて、患者は処置に好適であってよい。本明細書において用いる場合、「非CHD CVD」は、(i)局所的な虚血性神経学的欠損を有し、24時間超持続したことが記録されている過去の虚血性脳卒中であって、アテローム血栓を起源とするとみなされる該虚血性脳卒中;(ii)末梢動脈疾患;(iii)腹部大動脈瘤;(iv)アテローム硬化性腎動脈狭窄;および/または(v)頚動脈疾患(一過性虚血性発作、もしくは頚動脈の>50%の閉塞)のうちの1つまたはそれ以上を含む。
【0072】
特定の実施形態によると、例えば、(i)3カ月以上にわたる、30mL/分/1.73m2≦eGFR<60mL/分/1.73m2のeGFRにより定義される中等度の慢性腎臓疾患(CKD)が記録されていること;(ii)標的臓器障害(例えば、網膜症、腎障害、微量アルブミン尿症)の有無にかかわらず、1型または2型の糖尿病;(iii)≧5%の算定10年致死性CVDリスクSCOREなどの、1つまたはそれ以上の追加のリスク因子を有することに基づいて、患者は処置に好適であってよい(ESC/EAS
Guidelines for the management of dyslipidemias、Conroyら、2003年、Eur.Heart J.、24:987~1003頁)。
【0073】
特定の実施形態によると、年齢(例えば、40、45、50、55、60、65、70、75または80歳より高齢)、人種、出身国、性別(男性または女性)、運動習慣(例えば、運動する習慣のある人、運動しない人)、他の既存の病状(例えば、II型糖尿病、高血圧など)および現在の投薬状態(例えば、現在摂取しているβ遮断薬、ナイアシン、エゼチミブ、フィブラート、オメガ3脂肪酸、胆汁酸樹脂など)からなる群から選択される1つまたはそれ以上の追加のリスク因子を有することに基づいて患者は処置に好適で
あってよい。
【0074】
本発明の特定の実施形態によると、本発明の方法により処置可能である被験者は、1つまたはそれ以上の炎症マーカーのレベルの上昇を示す可能性がある。本発明では、全身性炎症の任意のマーカーを利用することができる。好適な炎症マーカーとして、非限定的に、C反応性タンパク質、サイトカイン(例えば、IL-6、IL-8および/またはIL-17)、ならびに細胞接着分子(例えば、ICAM-1、ICAM-3、BL-CAM、LFA-2、VCAM-1、NCAMおよびPECAM)が挙げられる。
【0075】
本発明によると、上述の基準または治療特性のうちの1つまたはそれ以上の組合せに基づいて、患者は処置に好適であってよい。例えば、特定の実施形態によると、HeFHまたは非FHを、(i)CHDの病歴が記録されていること、(ii)非CHD CVD、および/または(iii)標的臓器障害を有する糖尿病と組み合わせて有することに基づいて、本発明の方法での処置に好適な患者をさらに選択することができる;そのような患者は、70mg/dL以上の血清LDL-C濃度を有することに基づいて選択することもできる。
【0076】
特定のその他の実施形態によると、本発明の方法での処置に好適な患者は、毎日の中等度の用量の治療スタチンレジメンによる制御が十分ではない高コレステロール血症を有することに加えて、CHDのないHeFHもしくは非FH、または非CHD CVDのないheFHもしくは非FHを有するが、(i)≧5%の算定10年致死性CVDリスクSCORE;または(ii)標的臓器障害を有しない糖尿病のいずれかを有することに基づいてさらに選択することができる;そのような患者は、100mg/dL以上の血清LDL-C濃度を有することに基づいて選択することもできる。
【0077】
本発明の特定の実施形態によると、本発明の方法により処置可能である被験者は、家族性カイロミクロン血症症候群(FCS;リポタンパク質リパーゼ欠損症としても公知である)を有する被験者である。
【0078】
本発明の特定の実施形態によると、本発明の方法により処置可能である被験者は、リポタンパク質アフェレーシスを受けているまたは最近(例えば、過去6カ月以内、過去12週以内、過去8週以内、過去6週以内、過去4週以内、過去2週以内などに)受けたことがある被験者である。
【0079】
ANGPTL3阻害剤のアドオン治療としての投与
本発明は、処置方法であって、標準的な脂質修飾治療(例えば、スタチン)を受けているまたは最近受けたことがある患者にANGPTL3阻害剤を、特定の投薬量および頻度に従って投与し、該ANGPTL3阻害剤を、(該当する場合には)該患者の既存の毎日の治療スタチンレジメンまたは例えばナイアシンなど他のレジメンへのアドオンなどの該患者の既存の脂質修飾治療へのアドオンとして投与する前記方法を含む。方法はまた、最大の脂質低下効果を得るために、スタチンに追加して、エゼチミブおよびロミタピドを使用することを含む脂質修飾治療と共に、ANGPTL3阻害剤(例えば、エビナクマブ)をアドオン治療として使用することも含む。本発明の方法において使用しようとする追加の脂質低下剤は、PCSK9阻害剤またはミポメルセンを含む。また、薬剤の組合せを、アフェレーシスを受けている患者において使用して、許容される脂質レベルを得ることもできる。
【0080】
例えば、本発明の方法は、アドオン治療レジメンを含み、ここで、ANGPTL3の阻害剤を与えるまで患者に投与していたのと同じ安定した毎日の治療スタチンレジメン(すなわち、同じ投薬量のスタチン)へのアドオン治療として、ANGPTL3阻害剤を投与
する。組合せを投与する場合には、ANGPTL3抗体治療に加えたスタチンに追加して、エゼチミブ単独またはロミタピドと組み合わせたエゼチミブのいずれかを追加することによって、組合せが投与されるときに、脂質またはリポタンパク質の顕著により低い血清レベルがもたらされる。その他の実施形態において、ANGPTL3の阻害剤または本明細書に記載する併用治療を与えるまで患者に投与していたスタチンの用量を上回る量、またはANGPTL3の阻害剤または本明細書に記載する併用治療を与えるまで患者に投与していたスタチンの用量を下回る量のスタチンを含む治療スタチンレジメンへのアドオン治療として、ANGPTL3の阻害剤を投与する。例えば、特定の投薬頻度および量で投与するANGPTL3阻害剤を含む治療レジメンの開始後、エゼチミブおよびロミタピドに加え、患者の治療必要性に依存して、患者に投与または処方するスタチンの1日用量は、ANGPTL3の阻害剤、エゼチミブおよび/またはロミタピドによる治療レジメンを開始する前に患者が服用していた毎日のスタチンの用量と比較して、(a)同じに留めても、(b)増加させても、または(c)減少させてもよい(例えば、アップタイトレーションしても、またはダウンタイトレーションしてもよい)。
【0081】
治療効能
本発明の方法は、総コレステロール、LDL-C、IDL、非HDL-C、アポB100、アポB48、アポA-1、アポCIII、VLDL-C、トリグリセリド、Lp(a)、カイロミクロン、カイロミクロンレムナントおよびレムナントコレステロールからなる群から選択される1つまたはそれ以上の脂質成分の血清レベルの低減をもたらすことができる。例えば、本発明の特定の実施形態によると、好適な被験者への、スタチン、エゼチミブおよび/またはロミタピドと組み合わせたANGPTL3阻害剤の投与は、ベースラインからの少なくとも約25%、30%、40%、50%、60%もしくはそれ以上の血清低密度リポタンパク質コレステロール(LDL-C)の平均低減率;ベースラインからの少なくとも約25%、30%、40%、50%、60%もしくはそれ以上のアポB100の平均低減率;ベースラインからの少なくとも約25%、30%、40%、50%、60%もしくはそれ以上の非HDL-Cの平均低減率;ベースラインからの少なくとも約10%、15%、20%、25%、30%、35%もしくはそれ以上の総コレステロールの平均低減率;ベースラインからの少なくとも約5%、10%、15%、20%、25%、30%もしくはそれ以上のVLDL-Cの平均低減率;ベースラインからの少なくとも約5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%もしくはそれ以上のトリグリセリドの平均低減率;および/またはベースラインからの少なくとも約5%、10%、15%、20%、25%もしくはそれ以上のLp(a)の平均低減率をもたらすことになる。
【0082】
ANGPTL3阻害剤
本発明の方法は、スタチン、コレステロール吸収の阻害剤(例えば、エゼチミブ)およびミクロソームトリグリセリド輸送タンパク質を阻害する薬剤(例えば、ロミタピド)と組み合わせたANGPTL3阻害剤(例えば、エビナクマブなどのANGPTL3抗体)を含む治療用組成物を患者に投与することを含む。
【0083】
本明細書において用いる場合、「ANGPTL3阻害剤」は、ヒトANGPTL3と結合し、またはヒトANGPTL3と相互作用し、かつインビトロまたはインビボでANGPTL3の正常な生物学的機能を阻害する任意の薬剤である。ANGPTL3阻害剤のカテゴリーの非限定的な例として、小分子ANGPTL3アンタゴニスト、ANGPTL3の発現または活性の核酸ベースの阻害剤(例えば、siRNAまたはアンチセンス)、ANGPTL3と特異的に相互作用するペプチドベースの分子(例えば、ペプチボディ)、ANGPTL3と特異的に相互作用する受容体分子、ANGPTL3に結合する足場分子、(例えば、DARPin、HEATリピートタンパク質、ARMリピートタンパク質、テトラトリコペプチドリピートタンパク質、フィブロネクチンベースの足場構築物、なら
びに足場に基づく天然に存在する他のリピートタンパク質など[例えば、BoersmaおよびPluckthun、2011年、Curr.Opin.Biotechnol.、22:849~857頁、およびそこに引用されている参考文献を参照されたい])、ならびに抗ANGPTL3アプタマーまたはそれらの部分が挙げられる。特定の実施形態によると、本発明に関連して使用することができるANGPTL3阻害剤は、ヒトANGPTL3に特異的に結合する抗ANGPTL3抗体または抗体の抗原結合断片である。
【0084】
用語「ヒトアンジオポエチン様タンパク質-3」または「ヒトANGPTL3」または「hANGPTL3」は、本明細書において用いる場合、配列番号9のアミノ酸配列を有するANGPTL3(NCBI受託NP_055310も参照されたい)またはその生物活性断片を指す。
【0085】
用語「抗体」は、本明細書において用いる場合、4本のポリペプチド鎖、すなわちジスルフィド結合によって相互に連結されている2本の重(H)鎖と2本の軽(L)鎖、を含む免疫グロブリン分子、およびその多量体(例えば、IgM)を指すことを意図したものである。各重鎖は、重鎖可変領域(本明細書ではHCVRまたはVHと略記する)および重鎖定常領域を含む。重鎖定常領域は、3つのドメイン、CH1、CH2およびCH3、を含む。各軽鎖は、軽鎖可変領域(本明細書ではLCVRまたはVLと略記する)および軽鎖定常領域を含む。軽鎖定常領域は、1つのドメイン(CL1)を含む。VHおよびVL領域は、フレームワーク領域(FR)と称する、より保存される領域が散在する、相補性決定領域(CDR)と称する超可変性の領域にさらに細分することができる。各VHおよびVLは、3つのCDRおよび4つのFRからなり、これらは、アミノ末端からカルボキシ末端へ次の順序で配置されている:FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、FR4。本発明の種々の実施形態において、抗ANGPTL3抗体(またはその抗原結合部分)のFRは、ヒト生殖系列配列と同一であることもあり、または天然にもしくは人工的に修飾されていることもある。アミノ酸コンセンサス配列は、2つまたはそれ以上のCDRの並行分析に基づいて定義することができる。
【0086】
用語「抗体」は、本明細書において用いる場合、完全抗体分子の抗原結合断片も含む。抗体の「抗原結合部分」、抗体の「抗原結合断片」などの用語は、本明細書において用いる場合、抗原に特異的に結合して複合体を形成する任意の天然に存在する、酵素的に得ることができる、合成の、または遺伝子改変ポリペプチドまたは糖タンパク質を含む。抗体の抗原結合断片は、例えば、タンパク質消化、または抗体可変および場合により定常ドメインをコードするDNAの操作および発現を含む組換え遺伝子改変法などの、任意の好適な標準的技法を用いて完全抗体分子から得ることができる。そのようなDNAは、公知でありおよび/または例えば商業的供給源、DNAライブラリー(例えばファージ-抗体ライブラリーを含む)から容易に調達することができ、または合成することができる。DNAをシークエンシングし、化学的にまたは分子生物学技法の使用によって操作して、例えば、1つもしくはそれ以上の可変および/もしくは定常領域を好適な高次構造に配置すること、またはコドンを導入すること、システイン残基を生成すること、アミノ酸を修飾する、付加させるまたは欠失させることなどができる。
【0087】
抗原結合断片の非限定的な例としては、(i)Fab断片;(ii)F(ab’)2断片;(iii)Fd断片;(iv)Fv断片;(v)一本鎖Fv(scFv)分子;(vi)dAb断片;および(vii)抗体の超可変領域(例えば、単離された相補性決定領域(CDR)、例えばCDR3ペプチド)を模倣するアミノ酸残基からなる最小認識単位、または拘束FR3-CDR3-FR4ペプチドが挙げられる。他の改変分子、例えば、ドメイン特異的抗体、シングルドメイン抗体、ドメイン欠失抗体、キメラ抗体、CDRグラフト抗体、ダイアボディ、トリアボディ、テトラボディ、ミニボディ、ナノボディ(例えば、一価ナノボディ、二価ナノボディなど)、小モジュラー免疫薬(SMIP)、サメ
可変IgNARドメインも、本明細書において用いる場合の「抗原結合断片」という表現に包含される。
【0088】
抗体の抗原結合断片は、少なくとも1つの可変ドメインを概して含むことになる。可変ドメインは、いずれのサイズまたはアミノ酸組成のものであり、一般的には、少なくとも1つのCDRを含むことになり、それは1つもしくはそれ以上のフレームワーク配列に隣接しているまたは1つもしくはそれ以上のフレームワーク配列とインフレームである。VLドメインと会合しているVHドメインを有する抗原結合断片の場合、VHおよびVLドメインは、互いに対してあらゆる好適な配置で位置することができる。例えば、可変領域は、二量体であり、VH-VH、VH-VLまたはVL-VL二量体を含有することがある。あるいは、抗体の抗原結合断片は、単量体VHまたはVLドメインを含有することもある。
【0089】
特定の実施形態において、抗体の抗原結合断片は、少なくとも1つの定常ドメインに共有結合で連結されている少なくとも1つの可変ドメインを含有することがある。本発明の抗体の抗原結合断片内で見つけることができる可変および定常ドメインの非限定的、例示的高次構造としては、(i)VH-CH1;(ii)VH-CH2;(iii)VH-CH3;(iv)VH-CH1-CH2;(v)VH-CH1-CH2-CH3;(vi)VH-CH2-CH3;(vii)VH-CL;(viii)VL-CH1;(ix)VL-CH2;(x)VL-CH3;(xi)VL-CH1-CH2;(xii)VL-CH1-CH2-CH3;(xiii)VL-CH2-CH3;および(xiv)VL-CLが挙げられる。上に列挙した例示的高次構造のいずれかを含む、可変および定常ドメインのいずれの高次構造においても、可変および定常ドメインは、互いに直接連結されていることもあり、または完全もしくは部分ヒンジもしくはリンカー領域によって連結されていることもある。ヒンジ領域は、少なくとも2つ(例えば、5、10、15、20、40、60またはそれ以上)のアミノ酸からなることがあり、その結果、単一ポリペプチド分子内の隣接した可変および/または定常ドメイン間の柔軟なまたはやや柔軟な連鎖となる。さらに、本発明の抗体の抗原結合断片は、互いにおよび/または1つもしくはそれ以上の単量体VHもしくはVLドメインと非共有結合で(例えば、ジスルフィド結合によって)会合している、上に列挙したいずれかの可変および定常ドメイン高次構造のホモ二量体またはヘテロ二量体(または他の多量体)を含むことがある。
【0090】
完全抗体分子と同様に、抗原結合断片は、単一特異性であることもあり、または多重特異性(例えば、二重特異性)であることもある。抗体の多重特異性抗原結合断片は、各可変ドメインが別個の抗原にまたは同じ抗原上の異なるエピトープと特異的に結合できる、少なくとも2つの異なる可変ドメインを概して含むことになる。本明細書において開示する例示的二重特異性抗体形式を含む、いずれの多重特異性抗体形式も、当技術分野において利用可能な常例的技法を用いる本発明の抗体の抗原結合断片との関連での使用に適応させることができる。
【0091】
抗体の定常領域は、補体を固定し、細胞依存性細胞傷害を媒介する抗体の能力に重要である。したがって、抗体が細胞傷害を媒介することが望ましいかどうかに基づいて抗体のアイソタイプを選択することができる。
【0092】
用語「ヒト抗体」は、本明細書において用いる場合、ヒト生殖細胞系免疫グロブリン配列に由来する可変および定常領域を有する抗体を含むことを意図したものである。とはいえ、本発明のヒト抗体は、ヒト生殖細胞系免疫グロブリン配列によってコードされないアミノ酸残基(例えば、インビトロでのランダムもしくは部位特異的突然変異誘発によってまたはインビボでの体細胞突然変異によって誘導された突然変異)を、例えば、CDR、特にCDR3に含むことがある。しかし、用語「ヒト抗体」は、本明細書において用いる
場合、マウスなどの別の哺乳動物種の生殖細胞系に由来するCDR配列がヒトフレームワーク配列にグラフトされた抗体を含むことを意図したものではない。この用語は、非ヒト哺乳動物または非ヒト哺乳動物細胞において組換えにより生産された抗体を含む。この用語は、ヒト被験者から単離された抗体、およびヒト被験者において産生された抗体を含むことを意図したものではない。
【0093】
用語「組換えヒト抗体」は、本明細書において用いる場合、組換え手段によって製造、発現、生成または単離される全てのヒト抗体、例えば、宿主細胞にトランスフェクトされた組換え発現ベクターを使用して発現される抗体(さらに下で説明する)、組換え体から単離された抗体、コンビナトリアルヒト抗体ライブラリー(下でさらに説明する)、ヒト免疫グロブリン遺伝子が遺伝子導入されている動物(例えばマウス)から単離された抗体(例えば、Taylorら(1992)Nucl.Acids Res.20:6287~6295を参照されたい)、またはヒト免疫グロブリン遺伝子配列の他のDNA配列へのスプライシングを含む任意の他の手段によって製造、発現、生成もしくは単離された抗体を含むことを意図したものである。そのような組換えヒト抗体は、ヒト生殖細胞系免疫グロブリン配列に由来する可変および定常領域を有する。しかし、特定の実施形態において、そのような組換えヒト抗体は、インビトロ突然変異誘発(または、ヒトIg配列が遺伝子導入された動物を使用する場合にはインビボ体細胞突然変異)に付されるので、該組換え抗体のVHおよびVL領域のアミノ酸配列は、ヒト生殖細胞系VHおよびVL配列に由来し、ヒト生殖細胞系VHおよびVL配列と類縁の配列だが、インビボでヒト抗体生殖細胞系レパートリー内に天然に存在できない配列である。
【0094】
ヒト抗体は、2つの形態で存在することができ、これらの形態がヒンジ異質性に関連する。一方の形態の場合、免疫グロブリン分子は、二量体が鎖間重鎖ジスルフィド結合によって一緒に保持されている、おおよそ150~160kDaの安定した4鎖構築物を含む。第2の形態の場合、二量体は鎖間ジスルフィド結合によって連結されておらず、約75~80kDaの分子が、共有結合でカップリングされた軽鎖と重鎖で形成され、構成される(ハーフ抗体(half-antibody))。これらの形態は、アフィニティー精製後でさえ分
離することが極めて難しかった。
【0095】
様々なインタクトIgGアイソタイプにおける第2の形態の出現頻度は、抗体のヒンジ領域アイソタイプに関連する構造の違いに、これに限定されるものではないが、起因する。ヒトIgG4ヒンジのヒンジ領域における単一アミノ酸置換は、第2の形態の出現を、ヒトIgG1ヒンジを使用して概して観察されるレベルに、有意に低減させることができる(Angalら(1993)Molecular Immunology 30:105)。本発明は、例えば生産の際、所望の抗体形態の収率を向上させるために望ましいことがある、ヒンジ、CH2またはCH3領域に1つまたはそれ以上の突然変異を有する抗体を包含する。
【0096】
「単離された抗体」は、本明細書において用いる場合、その天然環境の少なくとも1つの成分から同定および分離および/または回収された抗体を意味する。例えば、生物の少なくとも1つの成分から分離もしくは除去された抗体、またはその抗体が天然に存在するもしくは天然に生産される組織もしくは細胞から分離もしくは除去された抗体は、本発明では「単離された抗体」である。単離された抗体は、組換え細胞内の生体内原位置の抗体も含む。単離された抗体は、少なくとも1工程の精製または単離工程に付された抗体である。特定の実施形態によると、単離された抗体には、他の細胞物質および/または化学物質が実質的にないこともある。
【0097】
用語「特異的に結合する」またはこれに類する用語は、抗体またはその抗原結合断片が、生理条件下で比較的安定している抗原との複合体を形成することを意味する。抗体が抗
原と特異的に結合するかどうかを判定する方法は、当技術分野において周知であり、例えば、平衡透析、表面プラズモン共鳴などを含む。例えば、ANGPTL3「に特異的に結合する」抗体は、本発明に関連して用いる場合、表面プラズモン共鳴アッセイで測定して、約1000nM未満、約500nM未満、約300nM未満、約200nM未満、約100nM未満、約90nM未満、約80nM未満、約70nM未満、約60nM未満、約50nM未満、約40nM未満、約30nM未満、約20nM未満、約10nM未満、約5nM未満、約4nM未満、約3nM未満、約2nM未満、約1nM未満、または約0.5nM未満のKDで、ANGPTL3、またはその一部に結合する抗体を含む。しかし、ヒトANGPTL3に特異的に結合する単離された抗体は、他の(非ヒト)種からのANGPTL3分子などの、他の抗原への交差反応性を有する。
【0098】
本発明の方法に有用な抗ANGPTL3抗体は、該抗体が由来する対応する生殖細胞系配列と比較して、重鎖および軽鎖可変ドメインのフレームワークおよび/またはCDR領域に1つまたはそれ以上のアミノ酸置換、挿入および/または欠失を含むことがある。そのような突然変異は、本明細書において開示するアミノ酸配列を例えば公開抗体配列データベースから入手できる生殖細胞系配列と比較することによって、容易に突き止めることができる。本発明は、本明細書において開示するアミノ酸配列のいずれかに由来する抗体およびそれらの抗原結合断片の使用を含む方法であって、1つまたはそれ以上のフレームワークおよび/またはCDR領域内の1つまたはそれ以上のアミノ酸が、該抗体が由来する生殖細胞系配列の対応する残基に、または別のヒト生殖細胞系配列の対応する残基に、または対応する生殖細胞系残基の保存的アミノ酸置換に突然変異される(このような配列交換を本明細書ではまとめて「生殖細胞系突然変異」と呼ぶ)前記方法を含む。当業者は、本明細書において開示する重鎖および軽鎖可変領域配列で出発して、1つもしくはそれ以上の個々の生殖細胞系突然変異またはそれらの組合せを含む多数の抗体および抗原結合断片を容易に生産することができる。特定の実施形態では、VHおよび/またVLドメイン内のフレームワークおよび/またはCDR残基の全てが、抗体が由来する元の生殖細胞系配列中で見つけられる残基に復帰突然変異される。他の実施形態では、特定の残基のみ、例えば、FR1の最初の8アミノ酸中もしくはFR4の最後の8アミノ酸中で見つけられる突然変異残基のみ、またはCDR1、CDR2もしくはCDR3内で見つけられる突然変異残基のみが、元の生殖細胞系配列に復帰突然変異される。他の実施形態では、フレームワークおよび/またはCDR残基の1つまたはそれ以上が、異なる生殖細胞系配列(すなわち、抗体が当初由来した生殖細胞系配列とは異なる生殖細胞系配列)の対応する残基に突然変異される。さらに、本発明の抗体は、フレームワークおよび/またはCDR領域内に、2つまたはそれ以上の生殖細胞系突然変異の何らかの組合せ、例えば、特定の個々の残基は特定の生殖細胞系配列の対応する残基に突然変異されるが、元の生殖細胞系配列とは異なる特定の他の残基は維持されるか、または異なる生殖細胞系配列の対応する残基に突然変異される組合せを含有することもある。1つまたはそれ以上の生殖細胞系突然変異を含有する抗体および抗原結合断片は、ひとたび得てしまえば、1つまたはそれ以上の所望の特性、例えば、結合特異性改善、結合親和性増加、(場合によって)アンタゴニストまたはアゴニストとしての生物学的特性改善または向上、免疫原性低減などについて容易に試験することができる。この一般的手法で得られる抗体および抗原結合断片の使用は、本発明に包含される。
【0099】
本発明は、1つまたはそれ以上の保存的置換を有する本明細書において開示するHCVR、LCVRおよび/またはCDRアミノ酸配列のいずれかについての変異体を含む抗ANGPTL3抗体の使用を含む方法も含む。例えば、本発明は、例えば、本明細書において開示するHCVR、LCVRおよび/またはCDRアミノ酸配列のいずれかと比較して10またはそれ以下、8またはそれ以下、6またはそれ以下、4またはそれ以下などの保存的アミノ酸置換を有する、HCVR、LCVRおよび/またはCDRアミノ酸配列を有する抗ANGPTL3抗体の使用を含む。
【0100】
用語「表面プラズモン共鳴」は、本明細書において用いる場合、例えばBIAcore(商標)システム(Biacore Life Sciences devision of GE Healthcare、Piscataway、NJ)を使用してバイオセンサーマトリックス内のタンパク質濃度変化の検出によりリアルタイム相互作用を分析することができる光学現象を指す。
【0101】
用語「KD」は、本明細書において用いる場合、特定の抗体-抗原相互作用の平衡解離定数を指すことを意図したものである。
【0102】
用語「エピトープ」は、パラトープとして公知の抗体分子の可変領域内の特異的抗原結合部位と相互作用する抗原決定基を指す。単一の抗原が1つより多くのエピトープを有することもある。それ故、抗体によって、結合する抗原領域が異なることもあり、有する生物学的効果が異なることもある。エピトープは、高次構造であることもあり、または線状であることもある。高次構造エピトープは、直鎖状ペプチド鎖の異なるセグメントからの空間的に隣り合って並ぶアミノ酸によって生成される。線状エピトープは、ポリペプチド鎖内の隣接したアミノ酸残基によって生成されるものである。特定の状況では、エピトープは、抗原上の糖類、ホスホリル基またはスルホニル基部分を含むことがある。
【0103】
特定の実施形態によると、本発明の方法において使用される抗ANGPTL3抗体は、pH依存性結合特性を有する抗体である。本明細書において用いる場合、「pH依存性結合」という表現は、抗体もしくはその抗原結合断片が、「中性pHと比較して酸性pHでANGPTL3との結合低減」を示す(本開示では、両方の表現を同義で用いることがある)ことを意味する。例えば、「pH依存性結合特性を有する」抗体は、酸性pHでより中性pHでのほうが高い親和性でANGPTL3に結合する抗体およびそれらの抗原結合断片を含む。特定の実施形態において、本発明の抗体およびそれらの抗原結合断片は、酸性pHでより中性pHでのほうが少なくとも3、5、10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、100倍またはそれ以上高い親和性でANGPTL3に結合する。
【0104】
本発明のこの態様によると、pH依存性結合特性を有する抗ANGPTL3抗体は、親抗ANGPTL3抗体と比較して1つまたはそれ以上のアミノ酸変異を有することがある。例えば、pH依存性結合特性を有する抗ANGPTL3抗体は、例えば、親抗ANGPTL3抗体の1つまたはそれ以上のCDR内に、1つまたはそれ以上のヒスチジン置換または挿入を有することがある。それ故、本発明の特定の実施形態に従って、親抗体の1つまたはそれ以上のCDRの1つまたはそれ以上のアミノ酸のヒスチジン残基での置換を除いて親ANGPTL3抗体のCDRアミノ酸配列と同一であるCDRアミノ酸配列(例えば、重鎖および軽鎖CDR)を含む抗ANGPTL3抗体を投与することを含む方法を提供する。pH依存性結合を有する抗ANGPTL3抗体は、親抗体の単一のCDR内に、または親抗ANGPTL3抗体の複数(例えば、2、3、4、5もしくは6)のCDR全体にわたって分布している、例えば1、2、3、4、5、6、7、8、9またはそれ以上のヒスチジン置換を有することがある。例えば、本発明は、親抗ANGPTL3抗体のHCDR1に1つもしくはそれ以上のヒスチジン置換、HCDR2に1つもしくはそれ以上のヒスチジン置換、HCDR3に1つもしくはそれ以上のヒスチジン置換、LCDR1に1つもしくはそれ以上のヒスチジン置換、LCDR2に1つもしくはそれ以上のヒスチジン置換、および/またはLCDR3に1つもしくはそれ以上のヒスチジン置換を含む、pH依存性結合を有する抗ANGPTL3抗体の使用を含む。
【0105】
本明細書において用いる場合、「酸性pH」という表現は、6.0またはそれ以下(例えば、約6.0未満、約5.5未満、約5.0未満など)のpHを意味する。「酸性pH
」という表現は、約6.0、5.95、5.90、5.85、5.8、5.75、5.7、5.65、5.6、5.55、5.5、5.45、5.4、5.35、5.3、5.25、5.2、5.15、5.1、5.05、5.0またはそれ以下のpH値を含む。本明細書において用いる場合、「中性pH」という表現は、約7.0~約7.4のpHを意味する。「中性pH」という表現は、約7.0、7.05、7.1、7.15、7.2、7.25、7.3、7.35および7.4のpH値を含む。
【0106】
本発明に関連して使用することができる抗ANGPTL3抗体の非限定的な例としては、エビナクマブが挙げられる。
【0107】
ヒト抗体の製造
当技術分野で公知の抗体産生/単離の任意の方法に従って、抗ANGPTL3抗体を作製することができる。例えば、本発明の方法において使用するための抗体は、ハイブリドーマ技術、ファージディスプレイ、酵母ディスプレイなどにより作製することができる。本発明の方法において使用するための抗体は、例えば、キメラ抗体、ヒト化抗体または完全ヒト抗体であり得る。
【0108】
トランスジェニックマウスでヒト抗体を産生する方法は当技術分野において公知である。任意のそのような公知の方法を本発明に関連して使用して、ANGPTL3と特異的に結合するヒト抗体を作製することができる。
【0109】
例えば、VELOCIMMUNE(商標)技術(例えば米国特許第6,596,541号、Regeneron Pharmaceuticalsを参照されたい)、またはモノクローナル抗体の任意の他の公知産生方法を用いて、ヒト可変領域およびマウス定常領域を有する、ANGPTL3に対する高親和性キメラ抗体を、最初に単離する。VELOCIMMUNE(登録商標)技術は、マウスが抗原刺激に応答してヒト可変領域およびマウス定常領域を含む抗体を生産するように、内在性マウス定常領域遺伝子座に作動可能に連結されたヒト重鎖および軽鎖可変領域を含むゲノムを有するトランスジェニックマウスの産生を含む。抗体の重鎖および軽鎖の可変領域をコードするDNAを単離し、ヒト重鎖および軽鎖定常領域をコードするDNAに作動可能に連結させる。その後、完全ヒト抗体を発現することができる細胞においてそのDNAを発現させる。
【0110】
一般には、VELOCIMMUNE(登録商標)マウスに、対象とする抗原を感作させ、抗体を発現しているマウスからリンパ細胞(例えば、B細胞)を回収する。リンパ細胞を骨髄腫細胞株と融合させて不死ハイブリドーマ細胞株を製造することができ、そのようなハイブリドーマ細胞株をスクリーニングし、選択して、対象とする抗原に特異的な抗体を生産するハイブリドーマ細胞株を同定する。重鎖および軽鎖の可変領域をコードするDNAを単離し、重鎖および軽鎖の望ましいアイソタイプ定常領域に連結させることができる。そのような抗体タンパク質を、CHO細胞などの細胞において生産することができる。あるいは、抗原特異的キメラ抗体をコードするDNA、または重鎖および軽鎖の可変ドメインを、抗原特異的リンパ球から直接単離することができる。
【0111】
ヒト可変領域およびマウス定常領域を有する高親和性キメラ抗体を最初に単離する。当業者に公知の標準的手順を用いて、抗体を特性評価し、親和性、選択性、エピトープなどをはじめとする所望の特定について選択する。マウス定常領域を所望のヒト定常領域で置換して、本発明の完全ヒト抗体、例えば野生型または修飾IgG1またはIgG4、を産生させる。選択される定常領域は具体的な用途によって変わることがあるが、高親和性抗原結合特性および標的特異性が可変領域にある。
【0112】
一般に、本発明の方法で使用することができる抗体は、固相に固定された抗原または溶
液相中の抗原と結合させることによって測定したとき、上で説明したような高い親和性を有する。マウス定常領域を所望のヒト定常領域で置換して、本発明の完全ヒト抗体を産生させる。選択される定常領域は具体的な用途によって変わることがあるが、高親和性抗原結合特性および標的特異性が可変領域にある。
【0113】
本発明の方法に関連して使用することができる、ANGPTL3に特異的に結合するヒト抗体または抗体の抗原結合断片の具体的な例としては、配列番号1/5を含む重鎖可変領域および軽鎖可変領域(HCVR/LCVR)のアミノ酸配列の対に由来する6つのCDR(HCDR1、HCDR2、HCDR3、LCDR1、LCDR2およびLCDR3)を含む抗体または抗原結合タンパク質が挙げられる。
【0114】
本発明の特定の実施形態において、本発明の方法で使用することができる抗ANGPTL3抗体またはその抗原結合断片は、KAS、配列番号2、3、4、6および8のアミノ酸配列を含む重鎖相補性決定領域および軽鎖相補性決定領域(HCDR1-HCDR2-HCDR3/LCDR1-LCDR2-LCDR3)を含む。
【0115】
本発明の特定の実施形態において、本発明の方法で使用することができる抗ANGPTL3抗体またはその抗原結合断片は、配列番号1のアミノ酸配列を有するHCVRおよび配列番号5のアミノ酸配列を有するLCVRを含む。
【0116】
医薬組成物および投与方法
本発明は、スタチン、コレステロール吸収の阻害剤およびミクロソームトリグリセリド輸送タンパク質の阻害剤と組み合わせて、ANGPTL3阻害剤を患者に投与することを含む方法を含み、ここで、ANGPTL3阻害剤と追加の薬剤とは、同じ医薬組成物または異なる医薬組成物に含有されている。本発明の医薬組成物は、好適な担体、賦形剤、および好適な転移、送達、耐性などをもたらす他の薬剤を用いて製剤化される。多くの適切な製剤を全ての薬剤師に公知の処方集:Remington’s Pharmaceutical Sciences、Mack Publishing Company、Easton、PAにおいて見つけることができる。これらの製剤としては、例えば、粉末、ペースト、軟膏、ゼリー、ワックス、油、脂質、(カチオン性またはアニオン性)脂質含有ビヒクル(例えば、LIPOFECTIN(商標))、DNAコンジュゲート、無水吸収ペースト、水中油型および油中水型エマルジョン、エマルジョンカルボワックス(様々な分子量のポリエチレングリコール)、半固体ゲル、ならびにカルボワックスを含有する半固体混合物が挙げられる。Powellら、「Compendium of excipients for parenteral formulations」、PDA(1998)J Pharm Sci Technol 52:238~311も参照されたい。
【0117】
本発明に関連して使用することができる、抗ANGPTL3抗体を含む例示的な医薬製剤としては、US8,795,669(とりわけ、アリロクマブを含む例示的な製剤についての記載)、またはWO2013/166448もしくはWO2012/168491に記載の製剤のうちのいずれかが挙げられる。
【0118】
様々な送達システム、例えば、リポソーム、微粒子、マイクロカプセルへの封入、突然変異型ウイルスを発現することができる組換え細胞、受容体媒介エンドサイトーシス(例えば、Wuら、1987、J.Biol.Chem.262:4429~4432を参照されたい)は公知であり、本発明の医薬組成物を投与するためにそれらを使用することができる。投与方法としては、皮内、筋肉内、腹腔内、静脈内、皮下、鼻腔内、硬膜外および経口経路が挙げられるが、これらに限定されない。組成物を任意の適便な経路によって、例えば、注入またはボーラス注射によって、上皮内層または粘膜皮膚内層(例えば、経
口粘膜、直腸および腸粘膜など)による吸収によって投与することができ、他の生物活性薬剤と一緒に投与することができる。
【0119】
本発明の医薬組成物は、標準的な針および注射器で皮下または静脈内送達することができる。加えて、皮下送達に関しては、ペン型送達デバイスを本発明の医薬組成物の送達に容易に利用される。そのようなペン型送達デバイスは、再使用可能であることもあり、または使い捨てであることもある。再使用可能なペン型送達デバイスには、医薬組成物を収容している交換可能カートリッジが一般に利用される。カートリッジ内の医薬組成物の全てを投与してしまい、カートリッジが空になったら、空のカートリッジを容易に廃棄することができ、医薬組成物を収容している新たなカートリッジと容易に交換することができる。その後、そのペン型送達デバイスを再使用することができる。使い捨てペン型送達デバイスには、交換可能カートリッジがない。もっと正確に言えば、使い捨てペン型送達デバイスには医薬組成物が予め充填されており、該医薬組成物は該デバイスの貯液部に保持されている。貯蔵部の医薬組成物が空になったら、デバイス全体を廃棄する。
【0120】
非常に多くの再使用可能ペン型および自己注射器送達デバイスが本発明の医薬組成物の皮下送達に利用される。例としては、ほんの数例を挙げると、AUTOPEN(商標)(Owen Mumford,Inc.、Woodstock、UK)、DISETRONIC(商標)ペン(Disetronic Medical Systems、Bergdorf、Switzerland)、HUMALOG MIX 75/25(商標)ペン、HUMALOG(商標)ペン、HUMALIN 70/30(商標)ペン(Eli Lilly and Co.、Indianapolis、IN)、NOVOPEN(商標)I、IIおよびIII(Novo Nordisk、Copenhagen、Denmark)、NOVOPEN JUNIOR(商標)(Novo Nordisk、Copenhagen、Denmark)、BD(商標)ペン(Becton Dickinson、Franklin Lakes、NJ)、OPTIPEN(商標)、OPTIPEN PRO(商標)、OPTIPEN STARLET(商標)、ならびにOPTICLIK(商標)(Sanofi-Aventis、Frankfurt、Germany)が挙げられるが、これらに限定されない。本発明の医薬組成物の皮下送達に利用される使い捨てペン型送達デバイスの例としては、ほんの数例を挙げると、SOLOSTAR(商標)ペン(Sanofi-Aventis)、FLEXPEN(商標)(Novo Nordisk)およびKWIKPEN(商標)(Eli Lilly)、SURECLICK(商標)オートインジェクター(Amgen、Thousand Oaks、CA)、PENLET(商標)(Haselmeier、Stuttgart、Germany)、EPIPEN(Dey,L.P.)およびHUMIRA(商標)ペン(Abbott
Labs、Abbott Park IL)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0121】
特定の状況では、医薬組成物を制御放出システムで送達することができる。1つの実施形態では、ポンプを使用することがある(Langer、上掲;Sefton、1987、CRC Crit.Ref.Biomed.Eng.14:201を参照されたい)。別の実施形態では、高分子材料を使用することができる;Medical Applications of Controlled Release、LangerおよびWise(編集)、1974、CRC Pres.、Boca Raton、Floridaを参照されたい。さらに別の実施形態では、制御放出システムを組成物の標的のすぐそばに配置することができ、したがって全身用量のほんの一部のみ要する(例えば、Goodson、1984、Medical Applications of Controlled Release、上掲、第2巻、115~138頁を参照されたい)。他の制御放出システムは、Langer、1990、Science 249:1527~1533による総説で論じされている。
【0122】
注射用製剤としては、静脈内、皮下、皮内および筋肉内注射、点滴注入などのための剤形を挙げることができる。これらの注射用製剤を公知の方法によって製造することができる。例えば、注射用製剤は、例えば、注射剤に従来使用されている滅菌水性媒体または油性媒体に上で説明した抗体またはその塩を溶解する、懸濁させるまたは乳化させることによって、製造することができる。注射剤のための水性媒体としては、例えば、生理食塩水、グルコースおよび他の補助剤を含有する等張溶液などがあり、これらは、適切な可溶化剤、例えばアルコール(例えば、エタノール)、多価アルコール(例えば、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール)、非イオン性界面活性剤[例えば、ポリソルベート80、HCO-50(硬化ヒマシ油のポリオキシエチレン(50mol)付加体)]などと併用されることもある。油性媒体としては、例えば、ゴマ油、ダイズ油が利用され、これらは、可溶化剤、例えば安息香酸ベンジル、ベンジルアルコールなどと併用されることもある。好ましくは、このようにして製造された注射剤は、適切なアンプルに充填される。
【0123】
有利には、上で説明した経口または非経口使用用の医薬組成物は、活性成分の用量を合わせることに適している単位用量での剤形に製造される。単位用量でのそのような剤形としては、例えば、錠剤、ピル、カプセル、注射剤(アンプル)、坐剤などが挙げられる。
【0124】
投薬量
本発明の方法に従って被験者に投与されるANGPTL3阻害剤(例えば、抗ANGPTL3抗体)の量は、一般に治療有効量である。本明細書において用いる場合、「ANGPTL3阻害剤の治療有効量」という句は、スタチン、エゼチミブ、およびロミタピドと組み合わせて投与する場合に、総コレステロール、LDL-C、アポB、アポA-1、アポCIII、非HDL-C、VLDL-C、トリグリセリドおよびLp(a)からなる群から選択される1つもしくはそれ以上のパラメータの(ベースラインから少なくとも約5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%もしくはそれ以上の)検出可能な低減をもたらすANGPTL3阻害剤の用量、または例えばリポタンパク質アフェレーシスなどの他の治療薬剤または介入に対する患者の必要性を低減もしくは消失させる量を意味する。
【0125】
本発明の方法に従って被験者に投与されるANGPTL3阻害剤(例えば、抗ANGPTL3抗体)の量は、一般に治療有効量である。本明細書において用いる場合、「ANGPTL3阻害剤の治療有効量」という句は、本明細書に記載する治療薬剤と組み合わせる場合に、総コレステロール、LDL-C、アポB、アポA-1、アポCIII、非HDL-C、VLDL-C、トリグリセリドおよびLp(a)からなる群から選択される1つもしくはそれ以上のパラメータの(ベースラインから少なくとも約5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%もしくはそれ以上の)検出可能な低減をもたらすANGPTL3阻害剤の用量、を意味する。
【0126】
抗ANGPTL3抗体の場合、治療有効量は、抗ANGPTL3抗体約0.05mg~約600mg、例えば、約0.05mg、約0.1mg、約1.0mg、約1.5mg、約2.0mg、約10mg、約20mg、約30mg、約40mg、約50mg、約60mg、約70mg、約80mg、約90mg、約100mg、約110mg、約120mg、約130mg、約140mg、約160mg、約170mg、約180mg、約190mg、約200mg、約210mg、約220mg、約230mg、約240mg、約250mg、約260mg、約270mg、約280mg、約290mg、約300mg、約310mg、約320mg、約330mg、約340mg、約350mg、約360mg、約370mg、約380mg、約390mg、約400mg、約410mg、約420mg、約430mg、約440mg、約450mg、約460mg、約470mg、
約480mg、約490mg、約500mg、約510mg、約520mg、約530mg、約540mg、約550mg、約560mg、約570mg、約580mg、約590mgまたは約600mgであることができる。ANGPTL3阻害剤の他の投薬量は当業者には明らかであり、それらの量は本発明の範囲に属することが企図される。
【0127】
個々の用量に含有される抗ANGPTL3抗体の量を患者体重1キログラム当たりの抗体のミリグラム(すなわち、mg/kg)によって表すことができる。例えば、抗ANGPTL3抗体を患者に約0.0001~約20mg/(患者体重のkg)の用量で投与することができる。
【0128】
併用治療
本発明の方法はまた、ANGPTL3阻害剤を、スタチン、エゼチミブおよびロミタピドと組み合わせて、他の標準的な脂質低下治療に非応答性であるか、他の標準的な脂質低下治療による制御が不十分であるか、または他の標準的な脂質低下治療に不耐性である患者に投与することを含むことができる。特定の実施形態においては、標準的な脂質低下治療のさらなる投与に対する必要性を完全に消失させることができる。特定の実施形態においては、ANGPTL3阻害剤を本明細書に記載する他の薬剤と組み合わせた使用は、患者の以前から処方されている脂質低下治療に組み合わせて(「足して」)使用することができる。例えば、高脂血症(例えば、高コレステロール血症)に罹患している患者であって、標準的な脂質低下治療に非応答性であるか、標準的な脂質低下治療による制御が不十分であるか、または標準的な脂質低下治療に不耐性である該患者における脂質/リポタンパク質の少なくとも1つのパラメータの低下に関連して、安定した毎日の治療スタチンレジメンと組み合わせて、ANGPTL3阻害剤のエゼチミブおよびロミタピドとの組合せを患者に投与することができる。本発明に関連して使用することができる例示的な毎日の治療スタチンレジメンとして、例えば、アトルバスタチン(1日当たり10、20、40または80mg)、(アトルバスタチン/エゼチミブ、1日当たり10/10または40/10mg)、ロスバスタチン(1日当たり5、10または20mg)、セリバスタチン(1日当たり0.4または0.8mg)、ピタバスタチン(1日当たり1、2または4mg)、フルバスタチン(1日当たり20、40または80mg)、シンバスタチン(1日当たり5、10、20、40または80mg)、シンバスタチン/エゼチミブ(1日当たり10/10、20/10、40/10または80/10mg)、ロバスタチン(1日当たり10、20、40または80mg)、プラバスタチン(1日当たり10、20、40または80mg)、およびそれらの組合せが挙げられる。本発明に関連してANGPTL3阻害剤と組み合わせて投与することができる他の脂質修飾治療として、例えば、(1)リポタンパク質の異化作用を増加させる薬剤(ナイアシンなど);および/または(2)22-ヒドロキシコレステロールなどのコレステロールの排出に関与するLXR転写因子の活性化剤が挙げられる。
【0129】
本発明に関連して使用すべきであるANGPTL3抗体の非限定的な例として、エビナクマブが挙げられる。
【0130】
投与レジメン
本発明の特定の実施形態によると、ANGPTL3阻害剤(すなわち、ANGPTL3阻害剤を含む医薬組成物)の複数の用量を、エゼチミブおよびロミタピドの投与に加え、被定義時間にわたって(例えば、毎日の治療スタチンレジメンまたは他のバックグラウンド脂質修飾治療に足して)被験者に投与することができる。本発明のこの態様による方法は、ANGPTL3阻害剤の複数の用量を患者に逐次的に投与することを含む。本明細書において用いる場合、「逐次的に投与すること」は、ANGPTL3阻害剤の各用量を被験者に異なる時点で、例えば、所定の間隔(例えば、数時間、数日、数週間または数カ月)隔てた異なる日に投与することを意味する。本発明は、患者のANGPTL3阻害剤の
単一初回用量、その後、ANGPTL3阻害剤の1用量またはそれ以上の第2の用量、場合によりその後、ANGPTL3阻害剤の1用量またはそれ以上の第3の用量を逐次的に投与することを含む方法を含む。
【0131】
用語「初回用量」、「第2の用量」および「第3の用量」は、ANGPTL3阻害剤を含む医薬組成物の個々の用量の投与についての時系列を指す。したがって、「初回用量」は、処置レジメンの開始時に投与される用量(「ベースライン用量」とも呼ばれ)であり;「第2の用量」は、初回用量後に投与される用量であり、「第3の用量」は、第2の用量後に投与される用量である。初回、第2および第3の用量は、全て同じ量のANGPTL3阻害剤を含有することもあるが、一般には投与頻度の点から互いに異なることがある。しかし、特定の実施形態において、初回、第2および/または第3の用量に含有されるANGPTL3阻害剤の量は、処置の過程で互いに変動する(例えば、必要に応じて上方または下方調整される)。特定の実施形態では、2用量またはそれ以上の(例えば、2、3、4または5)用量が「負荷用量」として処置レジメンの開始時に投与され、その後、より低頻度で投与される後続の用量(例えば、「維持用量」)が投与される。
【0132】
本発明の例示的実施形態によると、各第2および/または第3の用量は、直前の用量の1~26週間(例えば、1、1.5、2、2.5、3、3.5、4、4.5、5、5.5、6、6.5、7、7.5、8、8.5、9、9.5、10、10.5、11、11.5、12、12.5、13、13.5、14、14.5、15、15.5、16、16.5、17、17.5、18、18.5、19、19.5、20、20.5、21、21.5、22、22.5、23、23.5、24、24.5、25、25.5、26、26.5週間またはそれ以上)後に投与される。「直前の用量」という句は、本明細書において用いる場合、複数の投与の順序に関して、抗原結合分子の用量を意味し、介在する用量のない順序的にまさにその次の用量の投与の前に患者に投与される。
【0133】
本発明のこの態様による方法は、ANGPTL3阻害剤の任意の数の第2および/または第3の用量を患者に投与することを含む。例えば、特定の実施形態では、単一の第2の用量のみ患者に投与される。他の実施形態では、2またはそれ以上の(例えば、2、3、4、5、6、7、8またはそれ以上の)第2の用量が患者に投与される。同様に、特定の実施形態では、単一の第3の用量のみ患者に投与される。他の実施形態では、2またはそれ以上の(例えば、2、3、4、5、6、7、8またはそれ以上の)第3の用量が患者に投与される。
【0134】
複数の第2の用量を含む実施形態において、各々の第2の用量は、他の第2の用量と同じ頻度で投与されることがある。例えば、各々の第2の用量は、直前の用量の1~2、4、6、8週間またはそれ以上後に患者に投与されることがある。同様に、複数の第3の用量を含む実施形態において、各々の第3の用量は、他の第3の用量と同じ頻度で投与されることがある。例えば、各々の第3の用量は、直前の用量の1~2、4、6、8週間またはそれ以上後に患者に投与されることがある。あるいは、第2および/または第3の用量が患者に投与される頻度は、処置レジメンの過程を通して様々であることができる。投与頻度は、臨床検査に従って個々の患者の必要に応じて医師によって処置の過程で調整されることもある。同様に、処置の過程で併せて用いる治療、例えば、スタチン、エゼチミブおよびロミタピドの用量も、医師が、処置の過程で観察される、脂質レベルの正常化に従って調整することができる。
【実施例】
【0135】
以下の実施例は、本発明の方法および組成物の作製および使用方法の完全な開示および説明を当業者に与えるために提示するものであり、本発明者らが自分達の発明と考える範囲を限定することを意図したものではない。用いる数値(例えば、量、温度など)に関し
て正確を期すように努めたが、多少の実験的誤差および偏差を考慮すべきである。別段の指示がない限り、部は重量部であり、分子量は平均分子量であり、温度は摂氏度であり、圧力は大気圧またはほぼ大気圧である。
【実施例1】
【0136】
ヒトANGPTL3に対するヒト抗体の産生
以下の実施例で使用する例示的なANGPTL3抗体は、「エビナクマブ」として公知のヒト抗ANGPTL3抗体である。エビナクマブは、次のアミノ酸配列特性を有する:配列番号1を含む重鎖可変領域(HCVR)および配列番号5を含む軽鎖可変領域(LCVR);配列番号2を含む重鎖相補性決定領域1(HCDR1)、配列番号3を含むHCDR2、配列番号4を含むHCDR3、配列番号6を含む軽鎖相補性決定領域1(LCDR1)、KASを含むLCDR2、および配列番号8を含むLCDR3。
【実施例2】
【0137】
脂質低下治療を併せて受けている、ホモ接合性家族性高コレステロール血症を有する患者における、ANGPTL3に対するモノクローナル抗体であるエビナクマブの安全性および効能
ホモ接合性家族性高コレステロール血症(HoFH)には、低密度リポタンパク質(LDL)受容体経路における遺伝子の深刻な欠損が関与し、LDL-コレステロール(LDL-C)の破滅的な上昇および重度の早発性アテローム性動脈硬化症をもたらす;スタチンおよびPCSK9抗体に対する応答は限定的である。前臨床研究およびヒトの遺伝子解析から、アンジオポエチン様タンパク質(ANGPTL3)の阻害は、LDL受容体には依存せずに、LDL-Cを低下させ、心血管に対する便益をもたらすことが示唆されている。ヒトANGPTL3抗体であるエビナクマブを、最大限耐容される従来治療をすでに受けているHoFH成人9人(ヌルホモ接合性の者3人)に投与した。第4週に、LDL-Cは、49%(範囲-25%~-90%)減少した(主要エンドポイント)。LDL-Cのピーク時の低減の全体平均は、第4週と第12週との間の-58±18%(-90%~-33%)であり、このことは、HoFH患者において、エビナクマブによるANGPTL3の阻害は、LDL-Cを実質的に低下させることを示した。
【0138】
低密度リポタンパク質(LDL)は、アテローム性動脈硬化症の開始および進行ならびに心血管疾患のリスクにおいて主要な役割を果たす。家族性高コレステロール血症(FH)は典型的には、LDLのクリアランスを調節するタンパク質をコードする遺伝子中の突然変異により発症する障害である。これらには、低密度リポタンパク質受容体(LDLR)、アポリポタンパク質B(APOB)、プロタンパク質転換酵素サブチリシン/ケキシン9型(PCSK9)および低密度リポタンパク質受容体アダプタータンパク質1(LDLRAP1)の遺伝子が含まれる(Cuchelら、2014年、Eur Heart J、35:2146~57頁)。ヘテロ接合性FHを有する患者は、通常、未処置の場合、1デシリットル当たり350~550mgの範囲に及ぶ血漿LDL-コレステロール(LDL-C)レベルを有し、一般に、高い効力のスタチンであるエゼチミブの中等度の~高い用量およびPCSK9抗体を含む、脂質低下治療に応答する(Goldbergら、2011年、J Clin Lipidol、2011;5:S1~8頁;Kasteleinら、2014年、Cardiovasc Drugs Ther、28:281~9頁)。ホモ接合性FH(hoFH)は希少疾患であり、160,000~300,000人に1人が冒される。HoFHを有する患者は、FHを引き起こす2つの突然変異(ホモ接合性または複合ヘテロ接合性)を担持し、一般に、未処置の場合、1デシリットル当たり500~1000mgの範囲に及ぶ、さらにより高いLDL-Cレベルを示し(Kolanskyら、2008年、The American journal of cardiology、102:1438~43頁)、標準的な脂質低下治療に対して、応答性が顕著により低いかまたは無応答性である。HoFHを有するほとんどの個体は、低年
齢で、重度の黄色腫症、冠動脈心疾患および末梢性アテローム性動脈硬化症を発症し、未処置で放置するならば、30歳になる前に死亡する恐れがある(Nordestgaardら、2013年、Eur Heart J、34:3478~90a頁)。
【0139】
HoFHにおける遺伝子および表現型の不均一性は、心血管疾患の所見および脂質低下治療に対する応答の広範な変動に換わり得る。FHを引き起こす突然変異の中には、残余活性を示す、欠陥のあるLDL受容体をもたらすものもあれば、一方、活性を示さず、したがって、スタチンおよびPCSK9抗体などの、LDLの受容体の発現のプロセスを主として標的にする従来の脂質低下薬には応答しないものもある(Santos PC、Pereira AC、2015年、Pharmacogenomics、16:1743~50頁;Rader DJ、Kastelein JJ、2014年、Circulation、129:1022~32頁)。最近、ロミタピドおよびミポメルセンなどの、LDL受容体とは無関係な作用機構を有する薬物が、HoFHを処置するために承認されるに至ったが、耐容性および安全性の問題が、それらの使用を妨げる恐れがある。
【0140】
アンジオポエチン様タンパク質3(ANGPTL3)は、肝臓で発現する分泌タンパク質である。ANGPTL3は、トリグリセリド、LDL-Cおよび高密度リポタンパク質コレステロール(HDL-C)の血漿レベルを、リポタンパク質リパーゼおよび内皮リパーゼの活性を阻害することによってか、またはLDL産生の上流で、トリグリセリドに富むリポタンパク質のクリアランスを調節することによって増加させるように作用する(Wangら、2015年、J Lipid Res、56:1296~307頁;Musunuruら、2010年、N Engl J Med、363:2220~7頁)。前臨床研究から、アテローム性動脈硬化症のモデルにおいて、ANGPTL3のノックアウトまたは抗体による遮断は、LDL-Rには依存せずに、トリグリセリドおよびLDL-Cを低下させ、便益をもたらすことができることが示されている(Andoら、2003年、J Lipid Res、44:1216~23頁;Deweyら、2017年、New Engl J Med;印刷中)。このことと一貫して、ヒトにおける大規模な遺伝子研究から、ANGPTL3における機能欠失型突然変異が、トリグリセリド、LDL-CおよびHDL-Cの血漿レベルの低減をもたらすことが示されており(Robciucら、2013年、Arteriosclerosis,thrombosis,and vascular biology、33:1706~13頁;Pisciottaら、2012年、Circ Cardiovasc Genet、5:42~50頁;Minicocciら、2013年、J Lipid Res、54:3481~90頁;Wangら、2015年、Proc Natl Acad Sci USA、112:11630~5頁;Notoら、2012年、Arteriosclerosis,thrombosis,and vascular biology、32:805~9頁;Martin-Camposら、2012年、Clinica chimica acta;international journal of clinical chemistry、413:552~5頁)、さらにより重要なことには、ANGPTL3突然変異に関連するこれらの脂質変化はまた、心血管疾患からの保護にも関連することが示されている(Stitzielら、2017年、Journal of the American College of Cardiology)。概して、前臨床研究およびヒトの遺伝子解析から、ANGPTL3阻害治療であれば、深刻なホモ接合性疾患に罹患している患者を含む、FHを有する患者において、LDL-Cを低減させ、便益をもたらすことができるであろうことが示唆される。エビナクマブは、ANGPTL3を特異的に遮断する完全ヒトモノクローナル抗体である(Gusarovaら、2015年、J Lipid Res、56:1308~17頁)。正常な健常ボランティアにおいて、エビナクマブは、良好な耐容性を示し、3つの主要な脂質画分を低減させた。ヌル突然変異についてホモ接合性であり、LDLR活性を完全に欠く患者を含む、HoFHであることが遺伝子および表現型の点で確認された9人の患者において、第二相研究を実施して、エビナクマ
ブがLDL-Cレベルを低減させるかどうかを判定した。
【0141】
方法
患者:患者の遺伝子型および表現型に基づいて、9人の患者(男性5人、女性4人)を選択した。全ての患者に、門脈大静脈シャント術後の、1デシリットル当たり>500mgまたは1デシリットル当たり>400mgのLDL-C、早発性アテローム性動脈硬化症(心血管事象の病歴を過去に有する9人のうち8人)および重度の黄色腫症の病歴が存在し、これらの患者は、FHを引き起こす公知のLDLR突然変異についてホモ接合性または複合ヘテロ接合性であった(Hobbsら、1992年、Hum Mutat、1:445~66頁)。3人の患者は、ヌルホモ接合性であった。全ての患者は、最大限耐容される脂質低下治療を受けていた。
【0142】
研究処置:研究中、患者は、バックグラウンド脂質低下治療ならびに食餌および運動の患者の通常のレジメンを維持する必要があった。全ての患者に、ベースラインの来診の間に、腹部領域に250mgのエビナクマブを非盲検にて単回皮下投与し、2週間後に、1キログラム当たり15mgのエビナクマブを単回静脈内投与した。エビナクマブの無菌凍結乾燥薬物製品は、5mlの単回使用のガラス製バイアル中に供給され、これらを、皮下投与のためには、1ミリリットル当たり100mgの濃度に、および静脈内投与のためには、1ミリリットル当たり50mgの濃度に再構成した。静脈内投与後最長24週間にわたって患者を追跡して、エビナクマブの休薬を可能にし、後続試験への登録を患者に依頼した。
【0143】
薬力学的評価:絶食時の血液サンプルを、治験薬を投与する前、ベースライン時に収集し、非盲検処置期間および安全性追跡期間の間は定期的な間隔で収集して、LDL-C、非HDL-C、総コレステロール、HDL-C、アポリポタンパク質B、リポタンパク質(a)、トリグリセリド、アポリポタンパク質A-1および他のパラメータを測定した。主要エンドポイントは、ベースラインから第4週までのLDL-Cにおける平均±標準偏差(SD)のパーセント変化であった。
【0144】
結果
ほとんどの患者が、最大限耐容される治療を受けていたにもかかわらず、ベースラインのLDL-Cの平均±SDは、1デシリットル当たり376.0±240.9ミリグラム(mg/dL)であった;スタチン治療に失敗しており、週1回のアフェレーシスから除外された1人の患者は、756mg/dLのベースラインのLDL-Cを示した。9人の患者全てが、少なくとも1つの有害事象の発生を報告したが、処置の中断に至った患者はいなかった。1つの事象(基礎疾患に起因する冠状動脈疾患)は、重大であったが、研究医薬品に関連するとは考えられなかった。6つの事象が、研究医薬品に関連すると考えられ、これらのうち、2つは、軽度の重症度の注射部位の反応であり、1つは、中等度の重症度の筋痛症であり、1つは、重度の重症度の鼻血であった。
【0145】
薬物応答:ベースラインからエビナクマブ投与後の第4週(予め特定した主要エンドポイント)までのLDL-Cの平均±SDのパーセント変化は、-49±23%(範囲-90%~-25%)であり、ベースラインからの絶対的な変化は、1デシリットル当たり-157±90(範囲-323~-71)mgであった(下の表1)。第4週に得られたLDL-C値の平均±SDは、1デシリットル当たり219±191mgであった。同じ期間にわたって、パーセント変化として、アポリポタンパク質Bは、46±18%減少し(下の表2)、非HDL-Cは、49±22%減少し(下の表3)、トリグリセリドは、47%(中央値)(四分位範囲-57%~-38%)減少し、HDL-Cは、36±16%減少した。第4週と第12週との間に生じた、LDL-Cのピーク時の低減の(全体平均±SD)は、-58±18%(範囲-90%~-33%)であり、LDL-Cのピーク時
の絶対的な低減は、202mg/dLであった。第4週(静脈内投与の2週間後)に、1人の患者において、80%超のLDL-Cの低減が得られた。3人のヌルホモ接合性患者において、第12週までの、LDL-Cのピーク時の低減の平均±SDは、-48±13%(範囲-60%~-33%)であった。
【0146】
【0147】
【0148】
【0149】
ヌルホモ接合性の3人を含む、HoFHを有する9人の成人における、完全ヒトモノクローナルANGPTL3遮断抗体であるエビナクマブの投与により、LDL-Cの意味のある低減を得た。重要なことに、これらの低減は、ロミタピド、PCSK9モノクローナル抗体または門脈大静脈シャント術が伴う場合でもまたは伴わない場合でも、安定した、最大限耐容される脂質低下治療の投与によりすでに得られていたベースラインレベルに足されたものであった。これらの結果は、HoFHの処置における、標準治療の上に足されるエビナクマブによる、LDL-Cの実質的な追加の低減の概念実証を提供しており、極めて高いLDL-Cレベルを呈する一部の患者において、LDL-Cの正常化をもたらす可能性がある。ベースライン時に250mgの皮下注射として投与し、第2週に1キログラム当たり15mgの静脈内注入として投与したエビナクマブは、良好な耐容性を示した。最近報告された、健常ヒトボランティアのファーストインヒューマン研究でも、より多数の患者において、エビナクマブはLDL-Cを低減させることが示され、また、良好な耐容性も示した(Deweyら、2017年、New Engl J Med;印刷中)。LDLR活性を欠く3人のヌルホモ接合性患者を含む、9人の患者全てが、LDL-Cのベースラインからの臨床的に意味のある低減を示した。最近の前臨床研究とヒトの遺伝子解析とを一緒にすると、これらの結果から、Angptl3阻害は、LDL-Cおよびトリグリセリドを低下させることのみならず、また心血管疾患からの保護も提供することができることが示唆される。これらの研究は、深刻な家族性高コレステロール血症に罹患している患者に、良好な耐容性を示し、影響力の強い処置に対する希望を本当に与える。Cholesterol Treatment Trialists’ Collaboration(CTTC)の解析(Cholesterol Treatment Trialists(CTT)Collaboration、2010年、Lancet、376:1670~81頁)に基づくと、LDL-Cの39mg/dLの絶対的な減少は、4~5年間にわたるスタチン処置に比して、22%の、リスクの相対的な低減に相当する;PCSK9抗体を用いた転帰の最近のデータは、処置のより短い持続期間を考慮すると、1単位のLDL-C低減当たりのリスクの類似の低減を支持している(Sabatineら、2017年、N Engl J Med、2017年3月17日電子出版;印刷中)。HoFH患者においてエビナクマブを用いて得られた150~200mg/dLの絶対的な低減は、心血管リスクに対するANGPTL3突然変異の保護効果についての遺伝子データ(Stitzielら、2017年、Journal of the American College of Cardiology、69(16):2054~2063頁)と照らし合わせると、リスクが非常に高いこれらの患者に今までに例のない便
益をもたらすことができるであろう。
【0150】
LDL-Cのそのような大きな低減をもたらした機構は現在調査中である。エビナクマブは、リポタンパク質リパーゼ(トリグリセリドの主要な調節因子)および内皮リパーゼ(HDL-Cの調節因子)の両方のANGPTL3による正常な阻害を緩和し(Shimamuraら、2007年、Arteriosclerosis,thrombosis,and vascular biology、27:366~72頁);したがって、トリグリセリドおよびHDL-Cの両方のエビナクマブによる低下がもたらされる。本結果を、最近のインビボでの研究の結果と組み合わせると(Wangら、2015年、J Lipid Res、56:1296~307頁)、LDL-Cに対するエビナクマブの効果には、正準機構とLDL粒子形成の上流で作用する非正準機構との組合せが関与することが示唆される。マウスモデルにおいて、ANGPTL3を、エビナクマブを用いて不活性化すると、肝臓が分泌するVLDLの数には影響が及ばなかったが、生成されるVLDL粒子は定性的に変化した。リポタンパク質リパーゼのエビナクマブが誘発する上方調節に起因して、VLDLは、分泌されると、迅速に加水分解されて、トリグリセリドが減っているVLDL残余物を形成し、このことにより、LDL受容体以外の受容体によるそれらのクリアランスを増加させることができた。HDL-Cに関して認められる中程度の低減に関しては、内皮リパーゼに関する広範な以前の遺伝子解析(Voightら、2012年、Lancet、380:572~80頁)、およびANGPTL3保護に関する遺伝子の最近の知見(Dewey、2017年、Stitziel、2017年)と、HDL-Cのレベルは、心血管リスクに直接影響を及ぼすことはないという新たな観察結果とには一貫性がある(Koら、2016年、Journal of the American College of Cardiology、68:2073~83頁)。
【0151】
研究の間、患者CおよびGには、ミクロソームトリグリセリド輸送タンパク質阻害剤であるロミタピドを併せて投与した。エビナクマブの静脈内投与の2週間後に、これらの患者はそれぞれ、LDL-Cの90%および44%の低減を示し、このことから、(VLDL産生に影響を及ぼす)ロミタピドと(分泌されるVLDLの特性に影響を及ぼす)エビナクマブとの間に増倍相乗作用があるという仮説が浮かび上がった。しかし、患者Dは、ロミタピドを投与されておらず、第4週に、LDL-Cの77%の低減を示した。
【0152】
本明細書で報告する結果は、ヌル/ヌル突然変異を有する患者を含む、安定した脂質低下治療を受けているHoFHを有する患者において、エビナクマブを用いるAngptl3阻害は、LDL-Cの実質的な追加の低減をもたらすという概念実証を提供している。この研究では、エビナクマブのアドオン治療により、4人のHoFH参加者において、LDL-C濃度の正常化が可能であった。例えば、患者Cは、年齢47歳の女性であり、26歳で、1デシリットル当たり800mgを上回るLDL-C値を示した。高い用量のスタチン、エゼチミブおよびロミタピドを順次に導入すると、この患者の脂質プロファイルは、漸進的に改善した(1デシリットル当たり150~170mgを達成した)。エビナクマブの静脈内投与の2週間後の第4週には、1デシリットル当たり15mgのLDL-Cが達成された。
【実施例3】
【0153】
TGおよび/またはLDL-Cの中程度の上昇を呈する被験者において、エビナクマブによるANGPTL3の阻害は、トリグリセリド(TG)およびLDL-Cを低減させた
LDL-CおよびTGの上昇は、CHDのリスクの増加と関連付けられている。最近の発見により、脂質代謝におけるアンジオポエチン様-3(ANGPTL3)の中心的役割が実証されるに至った。ヒトにおけるANGPTL3の機能の欠失(LoF)と、TG、LDL-CおよびHDL-Cの低減との関連が報告されている。エビナクマブは、高トリグリセリド血症および高コレステロール血症を含む、脂質異常症の処置のために開発が進
められている、ANGPTL3に特異的なヒトモノクローナル抗体である。
【0154】
方法:本研究を、TG(150≦TG≦450mg/dL)および/またはLDL C(≧100mg/dL)の上昇を示す被験者における、第一相ファーストインヒューマン漸増単回投与プラセボ(PBO)対照二重盲検研究として構成し、エビナクマブを皮下(SC)または静脈内(IV)投与した。83人の被験者を、研究(PBO、SCの9人;PBO、IVの12人;75mg、SCの11人;150mg、SCの12人;250mg、SCの9人;5mg/kg、IVの10人;10mg/kg、IVの9人;および20mg/kg、IVの11人)に無作為化した。
【0155】
結果:この治験では、エビナクマブは、良好な耐容性を示すことが示された。41人(41)の被験者が、少なくとも1つの処置下発現有害事象(TEAE)を報告した:エビナクマブ群における32人[±51.6%]対PBO群における9人[±42.9%]。重大な有害事象はなく、TEAEに起因して中断した被験者はいなかった。最も頻繁なTEAEは、頭痛(7人[11.3%]対0人[0%])、およびALT/ASTの増加[>2×のULN](5人の処置被験者対1人のPBO被験者)であった。用量に関連する安全性の傾向はなかった。TGの最大の低減が、第4日に観察され、ベースラインからの%変化の中央値は、エビナクマブの全ての用量を通じて-1.0%~-75.0%であり、PBOについては+25.3%であった。第11日におけるLDL-Cのベースラインからの平均%変化は、エビナクマブの全ての用量を通じて-3.4%~-25.5%であり、PBOについては+10.2であった。TGおよびLDLの低減の持続期間は、用量依存性であり、それぞれ、20mg/kgのエビナクマブをIV投与した後には、64日間および43日間まで延びた。また、HDL-C、VLDL-C、総コレステロール、非HDL-C、ApoA1およびApoBの用量依存性の低減も観察されたが、Lp(a)に対する明らかな効果はなかった。
【0156】
TGおよび/またはLDL-Cの中等度の上昇を示す健常被験者におけるエビナクマブの投与は一般に、良好な耐容性を示した。さらに、エビナクマブは、TGの迅速かつ実質的な低減、ならびにLDL-CおよびHDL-Cの低減も誘発し、ANGPTL3のLOF突然変異についてホモ接合性の個体において観察された低リポタンパク質血症を再現した。
【配列表】