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特許7404512分解能制御装置、自動運転システム、および、分解能制御方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-15
(45)【発行日】2023-12-25
(54)【発明の名称】分解能制御装置、自動運転システム、および、分解能制御方法
(51)【国際特許分類】
   G08G 1/16 20060101AFI20231218BHJP
【FI】
G08G1/16 C
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2022515213
(86)(22)【出願日】2021-02-02
(86)【国際出願番号】 JP2021003651
(87)【国際公開番号】W WO2021210245
(87)【国際公開日】2021-10-21
【審査請求日】2022-09-30
(31)【優先権主張番号】P 2020072659
(32)【優先日】2020-04-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】509186579
【氏名又は名称】日立Astemo株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】前濱 宏樹
(72)【発明者】
【氏名】瀬田 健志
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 浩朗
【審査官】上野 博史
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-004366(JP,A)
【文献】特開2005-092516(JP,A)
【文献】国際公開第2018/061740(WO,A1)
【文献】特開2010-267114(JP,A)
【文献】特開2017-062638(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G08G 1/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の周囲環境を認識する外界センサの出力データを処理して自動運転装置に出力する分解能制御装置であって、
カーナビゲーションシステムから入手した地図情報に基づいて、前記車両が走行中の道路の道路種別が高速道路か一般道路かを判断する走行状況判断部と、
前記道路種別が高速道路か一般道路かに基づいて、前記出力データの着目領域を抽出し、該着目領域以外の領域を低分解能化してから前記自動運転装置に出力する制御部と、
を備え
前記走行状況判断部は、
地図情報と測位情報を取得し、地図上の車両の現在位置を判断する現在位置判断部と、
前記地図情報と前記現在位置から、前記車両が走行中の道路の道路種別を判断する道路種別判断部と、
車両運動情報を取得し、車両速度に応じた停止距離と補正距離を計算する停止距離算出部と、
前記現在位置から前記停止距離と前記補正距離の和の範囲内に、特徴的な道路構造が含まれる場合、その特徴的な道路構造を走行状況として出力する道路構造判断部と、
を備え、
前記制御部は、前記走行状況判断部が出力した前記道路種別が高速道路であり、かつ、前記特徴的な道路構造が合流地点である場合に、前方の合流地点に相当する部分を着目領域として抽出することを特徴とする分解能制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の分解能制御装置において、
前記外界センサは、カメラであり、
前記低分解能化は、前記カメラの撮影データの解像度やフレームレートを粗くする処理、または、色情報の階調を粗くする処理であることを特徴とする分解能制御装置。
【請求項3】
請求項1に記載の分解能制御装置において、
前記外界センサは、LiDAR、レーダー、ソナーの何れかであり、
前記低分解能化は、前記LiDAR、前記レーダー、前記ソナーの計測点群データを、ダウンサンプリングまたはボクセル化により間引く処理、または、反射強度の階調を粗くする処理であることを特徴とする分解能制御装置。
【請求項4】
請求項1に記載の分解能制御装置において、
前記外界センサは、前記車両の、前方、側方、後方の何れかに設置されたものであることを特徴とする分解能制御装置。
【請求項5】
車両の周囲環境を認識する外界センサと、
該外界センサの出力データを処理する分解能制御装置と、
前記外界センサの出力データに基づいて前記車両を自動運転する自動運転装置と、
を備えた自動運転システムであって、
前記分解能制御装置は、
カーナビゲーションシステムから入手した地図情報に基づいて、前記車両が走行中の道路の道路種別が高速道路か一般道路かを判断する走行状況判断部と、
前記道路種別が高速道路か一般道路かに基づいて、前記出力データの着目領域を抽出し、該着目領域の情報を外部に出力する制御部と、
を備え
前記走行状況判断部は、
地図情報と測位情報を取得し、地図上の車両の現在位置を判断する現在位置判断部と、
前記地図情報と前記現在位置から、前記車両が走行中の道路の道路種別を判断する道路種別判断部と、
車両運動情報を取得し、車両速度に応じた停止距離と補正距離を計算する停止距離算出部と、
前記現在位置から前記停止距離と前記補正距離の和の範囲内に、特徴的な道路構造が含まれる場合、その特徴的な道路構造を走行状況として出力する道路構造判断部と、
を備え、
前記制御部は、前記走行状況判断部が出力した前記道路種別が高速道路であり、かつ、前記特徴的な道路構造が合流地点である場合に、前方の合流地点に相当する部分を着目領域として抽出することを特徴とする自動運転システム。
【請求項6】
請求項に記載の自動運転システムにおいて、
前記着目領域の情報を受信した前記外界センサは、前記着目領域については高分解能でデータを採取し、前記着目領域以外については前記着目領域よりも低分解能でデータを採取することを特徴とする自動運転システム。
【請求項7】
請求項に記載の自動運転システムにおいて、
前記着目領域の情報を受信した前記自動運転装置は、前記出力データの前記着目領域については高精度に解析し、前記出力データの前記着目領域以外については前記着目領域よりも低精度に解析することを特徴とする自動運転システム。
【請求項8】
車両の周囲環境を認識する外界センサの出力データを処理して自動運転装置に出力する分解能制御方法であって、
カーナビゲーションシステムから入手した地図情報に基づいて、前記車両が走行中の道路の道路種別が高速道路か一般道路かを判断する第1ステップと、
前記道路種別が高速道路か一般道路かに基づいて、前記出力データの着目領域を抽出する第2ステップと、
該着目領域以外の領域を低分解能化してから前記自動運転装置に出力する第3ステップと、
を演算装置がプログラムを実行して実現する分解能制御方法であって、
前記第1ステップは、さらに、
地図情報と測位情報を取得し、地図上の車両の現在位置を判断する現在位置判断ステップと、
前記地図情報と前記現在位置から、前記車両が走行中の道路の道路種別を判断する道路種別判断ステップと、
車両運動情報を取得し、車両速度に応じた停止距離と補正距離を計算する停止距離算出ステップと、
前記現在位置から前記停止距離と前記補正距離の和の範囲内に、特徴的な道路構造が含まれる場合、その特徴的な道路構造を走行状況として出力する道路構造判断ステップと、
を備え、
前記第2ステップでは、前記道路種別が高速道路であり、かつ、前記特徴的な道路構造が合流地点である場合に、前方の合流地点に相当する部分を着目領域として抽出することを特徴とする分解能制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に搭載した外界センサの出力データの分解能を動的に制御する分解能制御装置、自動運転システム、および、分解能制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
車両に搭載した外界センサ(カメラ、LiDAR等)の出力データの処理負荷を抑制する技術として、特許文献1や特許文献2に記載の技術が知られている。
【0003】
例えば、特許文献1の要約書には、「車両の運転状況に応じて出力映像を生成する際の映像処理を制御することにより、処理負荷の増大を招くことなく、必要な情報を運転者に的確に把握させることができるようにする」手段として、「映像処理装置10の制御部17が、外部から入力される各種の情報に基づいて現在の車両の運転状況を判定し、その判定結果に応じて、出力映像生成部15により出力映像として生成される車両周囲俯瞰映像のうちの少なくとも一部の領域の解像度又はフレームレートを動的に可変制御する。」という記載がある。
【0004】
また、特許文献2の要約書には、「映像中の重要な領域が移動した場合であっても、映像中の重要な領域を他の領域より高解像度にすることができる表示制御装置を提供する」手段として、「DSP10は、カメラ2によって撮影された映像の領域を複数のブロックに分割し、車両に設けられた操舵角センサ20によって検出された車両の操舵車輪の操舵角をCANネットワーク15を介して取得し、取得した操舵角に基づいて、各ブロックの間引き率を決定し、決定した各間引き率で、各ブロックに該当する映像データを間引きする。」という記載がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2007-214769号公報
【文献】特開2007-266703号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
外界センサが出力する高分解能データを処理するには、高い演算性能が求められる。
【0007】
特許文献1では、複数のカメラから生成した俯瞰画像に対して、車両情報及び現在位置情報に基づいて、全体あるいは一部領域(俯瞰画像を構成するカメラ画像の内、あるカメラの出力画像)の解像度又はフレームレートを動的に制御し、処理負荷の増大を抑制する。しかし、特許文献1は、単一の外界センサからの入力において、車両が走行している道路種別及び道路構造を考慮して解像度を制御することは想定しておらず、処理負荷を更に抑制する余地が残されている。
【0008】
また、特許文献2では、単一のカメラの入力に対して、操舵角に基づいて車両の進行方向を推定し、進行方向に基づいて前記カメラ画像内で解像度を低下させる領域を定める。しかし、進行方向情報のみでは、例えば交差点における信号及び高速道路の合流地点等、道路種別及び道路構造毎に特有の高分解能が必要な領域の抽出ができない。このため、特許文献2でも、処理負荷を更に抑制する余地が残されている。
そこで、本発明では、道路種別や道路構造等の走行状況に基づいて、外界センサの出力データを処理する際の分解能の動的に制御することで、出力データの処理負荷を更に抑制する分解能制御装置、および、分解能制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明の分解能制御装置は、車両の周囲環境を認識する外界センサの出力データを処理して自動運転装置に出力するものであって、カーナビゲーションシステムから入手した地図情報に基づいて、前記車両が走行中の道路の道路種別が高速道路か一般道路かを判断する走行状況判断部と、前記道路種別が高速道路か一般道路かに基づいて、前記出力データの着目領域を抽出し、該着目領域以外の領域を低分解能化してから前記自動運転装置に出力する制御部と、を備え、前記走行状況判断部は、地図情報と測位情報を取得し、地図上の車両の現在位置を判断する現在位置判断部と、前記地図情報と前記現在位置から、前記車両が走行中の道路の道路種別を判断する道路種別判断部と、車両運動情報を取得し、車両速度に応じた停止距離と補正距離を計算する停止距離算出部と、前記現在位置から前記停止距離と前記補正距離の和の範囲内に、特徴的な道路構造が含まれる場合、その特徴的な道路構造を走行状況として出力する道路構造判断部と、を備え、前記制御部は、前記走行状況判断部が出力した前記道路種別が高速道路であり、かつ、前記特徴的な道路構造が合流地点である場合に、前方の合流地点に相当する部分を着目領域として抽出するものとした。
【発明の効果】
【0010】
本発明の分解能制御装置、または、分解能制御方法によれば、道路種別や道路構造等の走行状況に基づいて、外界センサの出力データを処理する際の分解能を動的に制御することで、出力データの処理負荷を更に抑制することが可能である。上記した以外の課題、構成及び効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施例1における自動運転システム100の機能ブロック図。
図2】実施例1における分解能制御装置1の機能ブロック図。
図3】実施例1における走行状況判断部1Aの機能ブロック図。
図4】実施例1の走行状況判断部1Aによる処理を示すフローチャート。
図5】実施例1の制御部1Bによる処理を示すフローチャート。
図6図5のステップS16における、初期着目領域の抽出例。
図7図5のステップS18における、着目領域の拡大例。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の分解能制御装置と分解能制御方法の実施例を、図面を用いて説明する。
【実施例1】
【0013】
図1は、本発明の実施例1に係る分解能制御装置1を適用した自動運転システム100の機能ブロック図である。図示するように、この自動運転システム100は、分解能制御装置1、外界センサ2、自動運転装置3、駆動系4を備えている。
【0014】
外界センサ2は、車両の周囲環境(他車両、歩行者、道路形状、白線、交通標識、交通信号機など)を認識するためのセンサであり、例えば、カメラ(単眼、ステレオ、魚眼、赤外線)、LiDAR、レーダー、ソナー等である。カメラは、周囲環境を撮影した撮影データを出力し、LiDAR、レーダー、ソナーは、周囲環境で反射したレーザー光、電波、音波による計測点群の反射強度データを出力する。
【0015】
自動運転装置3は、車両の自動運転を実現する装置であり、認識処理部3a、認知部3b、判断部3c、制御部3d等を備えている。この自動運転装置3は、具体的には、CPU等の演算装置、半導体メモリ等の主記憶装置、補助記憶装置、および、通信装置等のハードウェアを備えた、ECU(Electronic Control Unit)等の制御ユニットである。そして、補助記憶装置に記録されたデータベースを参照しながら、主記憶装置にロードされたプログラムを演算装置が実行することで、上記の認識処理部3a等の各機能を実現するが、以下では、このような計算機分野での周知技術を適宜省略しながら説明する。
【0016】
駆動系4は、車両の進行方向を制御する操舵装置4a、車両を加速する加速装置4b、車両を減速する制動装置4c等を備えた機構群であり、自動運転装置3からの指令に応じて制御されることで、車両の自動運転が実現される。なお、本実施例の自動運転装置3と駆動系4は、従来同等で良いので詳細説明を省略する。
【0017】
一般的な自動運転システムでは、外界センサ2が出力した高分解能の出力データをそのまま自動運転装置3に入力していたが、その場合、自動運転装置3には高い演算性能が求められていた。
【0018】
本実施例では、外界センサ2と自動運転装置3の間に分解能制御装置1を配置し、外界センサ2の出力データの一部を分解能制御装置1で低分解能化してから自動運転装置3に入力する。これにより、外界センサ2の出力データをそのまま処理する場合に比べ、自動運転装置3での演算処理負荷を抑制することができる。以下、本実施例の分解能制御装置1を詳細に説明する。
【0019】
<分解能制御装置1の構成>
分解能制御装置1は、演算装置、主記憶装置、補助記憶装置、通信装置等のハードウェアを備え、プログラムの実行により後述の各種機能を実現する制御ユニットである。なお、図1では、分解能制御装置1と自動運転装置3を別の制御ユニットとして表示しているが、両者の機能を一つの制御ユニットで実現しても良い。
【0020】
図2は、本実施例の分解能制御装置1の機能ブロック図である。ここに示すように、分解能制御装置1は、走行状況判断部1Aと、制御部1Bを備える。
【0021】
走行状況判断部1Aは、車両運動情報5aと、地図情報5bと、測位情報5cに基づいて、車両の走行状況を判断する。なお、車両運動情報5aは、自動運転装置3の制御部3d等から入手できる車両の速度、加速度等の情報であり、地図情報5bは、カーナビゲーションシステム等から入手できる道路種別や道路形状等が登録された情報であり、測位情報5cは、GNSS(Global Navigation Satellite System)の測位センサ等から入手できる現在位置情報である。
【0022】
図3は、走行状況判断部1Aの詳細を示す機能ブロック図である。ここに示すように、走行状況判断部1Aは、停止可能距離算出部1Aa、現在位置判断部1Ab、道路種別判断部1Ac、道路構造判断部1Adを備える。停止可能距離算出部1Aaは、車両運動情報5aから、車両速度を判断し、車両速度に応じた停止可能距離を判断する。現在位置判断部1Abは、地図情報5bと測位情報5cから、地図上での車両の現在位置を判断する。道路種別判断部1Acは、地図上での車両の現在位置から、車両が走行中の道路の道路種別(例えば、高速道路か一般道路か、または、直線道路か曲線道路か、等)を判断する。道路構造判断部1Adは、車両の停止可能距離と現在位置から、地図上での車両の前方の道路構造(例えば、分岐、合流、交差点、横断歩道、踏切、料金所等)を判断する。従って、走行状況判断部1Aで判断する「走行状況」とは、車両速度、停止可能距離、現在位置、道路種別、道路構造の各情報である。
【0023】
一方、制御部1Bは、外界センサ2の出力データの一部を低分解能化した圧縮データとして自動運転装置3に出力するものであり、図2に示すように、着目領域抽出部1Ba、着目領域シフト部1Bb、分解能制御部1Bcを備える。
【0024】
着目領域抽出部1Baは、走行状況判断部1Aが出力した道路種別と道路構造、外界センサ設置情報5d、及び、標識・信号機設置情報5eに基づいて、外界センサ2の出力データにおいて高分解能とする着目領域を抽出する。なお、外界センサ設置情報5dは、車両に搭載した外界センサ2の設置位置や設置方向に関する情報であり、標識・信号機設置情報5eは、制限速度標識や交通信号機の設置位置や設置高さに関する情報である。
【0025】
着目領域シフト部1Bbは、ジャイロセンサが出力するジャイロ情報5fと、舵角センサが出力する舵角情報5gと、方向指示器が出力する方向指示器情報5hに基づいて、着目領域をより適切な位置及び大きさにシフトまたは拡大する。
【0026】
分解能制御部1Bcは、外界センサ2の出力データの分解能を動的に制御することで、データ量を圧縮した圧縮データを生成する。例えば、出力データの着目領域の分解能を高分解能に維持したまま、着目領域以外の領域の低分解能化を行う。または、着目領域のみを抜粋した抜粋データを生成するとともに、出力データ全体の低分解能化を行う。なお、低分解能化とは、外界センサ2がカメラであれば、撮影データの解像度やフレームレートを粗くする処理である。また、外界センサ2がLiDAR、レーダー、ソナーであれば、計測点群データを、ダウンサンプリングやボクセル化により間引く処理である。
【0027】
上記した分解能制御装置1による、外界センサ2の出力データに対する処理を、図4図5を用いて説明する。なお、以下では、外界センサ2が車両前方に向けた単眼カメラであり、出力データが車両前方を撮影した撮影データであるものとする。
【0028】
<走行状況判断部1Aによる処理>
図4は、走行状況判断部1Aによる処理の一例を示すフローチャートである。以下、各ステップを逐次説明する。
【0029】
ステップS1:現在位置判断部1Abが、地図情報5bを受信する。
【0030】
ステップS2:現在位置判断部1Abが、測位情報5cを受信し、地図上での車両の現在位置を判断する。
【0031】
ステップS3:道路種別判断部1Acが、ステップS2で求めた地図上での現在位置に基づいて、現在位置が一般道路上か高速道路上かを判断する。そして、一般道路上であれば、ステップS4に進み、高速道路上であれば、ステップS5に進む。
【0032】
ステップS4、S5:道路種別判断部1Acが、ステップS3の判断結果に応じて、現在の道路種別を「一般道路」あるいは「高速道路」に設定する。
【0033】
ステップS6:道路種別判断部1Acが、ステップS2で求めた地図上での現在位置に基づいて、現在位置が直線道路上か曲線道路上かを判断する。そして、直線道路上であれば、ステップS7に進み、曲線道路上であれば、ステップS8に進む。
【0034】
ステップS7、S8:道路種別判断部1Acが、ステップS6の判断結果に応じて、現在の道路種別に「直線道路」あるいは「曲線道路」の属性を付与する。
【0035】
ステップS9:停止可能距離算出部1Aaが、車両運動情報5aから車両速度を取得する。
【0036】
ステップS10:停止可能距離算出部1Aaが、停止距離を計算する。停止距離は、空走距離と制動距離の和であり、100km/時で走行する車両であれば、例えば、112mである。
【0037】
ステップS11:停止可能距離算出部1Aaが、補正距離αを計算する。補正距離αは、自動運転中の車両が安全に停止する余裕を確保するための距離であり、補正距離αの走行中に、自動運転装置3が少なくとも2回の判断を実施できる程度の距離であることが望ましい。例えば、車両速度が100km/時(27.8m/秒)であり、自動運転装置3の判断周期が100m秒であれば、補正距離αは、27.8m/秒 × 100m秒 × 2回 で計算される、5.56m以上の距離(例えば、6m)である。
【0038】
ステップS12:道路構造判断部1Adが、地図上の現在地から、停止距離と補正距離αの和の範囲内に、特徴的な道路構造(例えば、カーブ、分岐、合流、交差点、横断歩道、踏切、料金所、等)があるか否かを判断する。そして、ある場合は、ステップS13に進み、ない場合は、処理を終える。
【0039】
ステップS13:道路構造判断部1Adは、道路構造上の特徴とその特徴までの距離を道路構造として設定する。ここで設定される道路構造は、例えば、「100m先、合流地点」や「70m先、信号有交差点」である。
【0040】
以上で説明したように、走行状況判断部1Aでは、車両の前方に特徴的な道路構造があれば、それを道路構造として設定してから図4の処理を終了し、特徴的な道路構造が無ければ、道路構造を設定せずに、図4の処理を終了する。
【0041】
<制御部1Bによる処理>
図5は、制御部1Bによる処理の一例を示すフローチャートである。以下、各ステップを逐次説明する。なお、図5の処理に先立ち、図4の処理が終了しているものとする。
【0042】
ステップS14:制御部1Bが、走行状況判断部1Aから、車両速度、道路種別、道路構造等の走行状況を取得する。
【0043】
ステップS15:着目領域抽出部1Baが、外界センサ設置情報5d、及び、標識・信号機設置情報5eを取得する。
【0044】
ステップS16:着目領域抽出部1Baが、走行状況判断部1Aからの走行状況と、外界センサ設置情報5dと、標識・信号機設置情報5eに基づいて、初期の着目領域を抽出する。例えば、次のように初期の着目領域を抽出する。
(1)走行状況が「時速100km、高速道路、直線道路、道路構造特徴無し」である場合は、先行車がいる可能性の高い、道路上の前方70mに相当する部分を着目領域として抽出する(図6参照)。
(2)走行状況が「時速70km、高速道路、直線道路、90m先、合流地点」である場合は、前方の合流地点に相当する部分を着目領域として抽出する。
(3)走行状況が「時速0km(停車中)、一般道路、0m先、信号有交差点」である場合は、前方の車両用信号の位置に相当する部分を着目領域として抽出する。
【0045】
ステップS17:着目領域シフト部1Bbが、ジャイロ情報5fから車両の前後方向の傾きを取得する。
【0046】
ステップS18:着目領域シフト部1Bbが、車両の傾きに基づいて、上下方向シフト量を求め、上下方向シフト量に基づいて着目領域を上方向あるいは下方向に拡大する。なお、図7は、図6の初期着目領域を、上方向に拡大した後の着目領域の一例である。これにより、車両が前のめりになった場合でも、直線道路を走行する先行車を着目領域に含めることができる。
【0047】
ステップS19:着目領域シフト部1Bbが、方向指示器情報5hを取得する。
【0048】
ステップS20、S21:着目領域シフト部1Bbが、左右の方向指示器情報5hから、方向指示器がONかを判断する。
【0049】
ステップS22、S23:着目領域シフト部1Bbが、方向指示器がONとなった方向に応じて、着目領域を右方向あるいは左方向に拡大する。
【0050】
ステップS24:着目領域シフト部1Bbが、舵角情報5gを取得する。
【0051】
ステップS25、S26:着目領域シフト部1Bbが、舵角情報5gから、操舵方向及び操舵量を求める。
【0052】
ステップS27、S28:着目領域シフト部1Bbが、操舵方向及び操舵量に応じて、着目領域を右方向あるいは左方向に拡大する。
【0053】
ステップS29:最後に、分解能制御部1Bcが、着目領域以外の領域の分解能を低下させる。
【0054】
図4図5の手順により、分解能制御装置1は、外界センサ2の出力データを低分解能化した圧縮データを生成する。この結果、自動運転装置3には、外界センサ2の出力データに比べてデータ量が圧縮された圧縮データが入力されるため、一次的な利点として、自動運転装置3内でのデータの送受信等に要する基礎的な演算負荷を軽減できる。
【0055】
また、分解能制御装置1が生成した圧縮データは、自動運転実現のための必須情報(例えば、先行車、歩行者、分岐、合流、横断歩道等の情報)を含む可能性の高い着目領域を、高分解能のまま保持しているため、自動運転装置3の認識処理部3aでは、注目領域を詳細に解析することができ、外界センサ2の出力データをそのまま利用する自動運転システムと同程度の高精度な自動運転を、演算負荷を抑制しつつ実現することができる。
【0056】
なお、本実施例では、自動運転システム100に、本発明の分解能制御装置1を適用する構成を例示したが、運転支援システムに、本発明の分解能制御装置1を適用しても良い。このような運転支援システムでは、運転支援装置の演算負荷を軽減しつつ、従来同等の高品質の運転支援情報(警告など)を運転者に提供することができる。
【実施例2】
【0057】
本発明の実施例2を説明する。なお、実施例1との共通点は重複説明を省略する。
【0058】
実施例1では、車両前方に外界センサ2を設けた構成を前提としたが、外界センサ2は車両前方に設けたものに限られず、例えば、側方や後方に設けたものであってもよい。
【0059】
側方に向けた外界センサ2や、後方に向けた外界センサ2を用いる場合であっても、実施例1と同様に、走行状況等に応じて任意の位置に着目領域を設定したり、着目領域を上下左右にシフトしたりすることで、データ量を圧縮しつつ、出力データをそのまま利用する場合と同程度の精度で、車線変更や後進駐車を実現することができる。
【実施例3】
【0060】
本発明の実施例3を説明する。なお、上記実施例との共通点は重複説明を省略する。
【0061】
実施例1の図6図7では、撮像データから一つの着目領域を抽出したが、複数の着目領域を抽出してもよい。例えば、走行状況が「時速40km、一般道路、直線道路、70m先、横断歩道」の場合、外界センサ2の出力データにおいて、制限速度標識を含む領域と、横断歩道を含む領域の二つを、着目領域として抽出してもよい。
【0062】
これにより、詳細解析の必要な領域が複数存在する場合でも、演算負荷を抑制しつつ、自動運転の品質を維持することができる。
【実施例4】
【0063】
本発明の実施例4を説明する。なお、上記実施例との共通点は重複説明を省略する。
【0064】
実施例1では、分解能制御装置1で外界センサ2の出力データの低分解能化を行っていたが、本実施例の分解能制御装置1では低分解能化を行わず、着目領域の抽出だけを行う。この分解能制御装置1を用いる場合、外界センサ2または自動運転装置3にて、演算負荷低減のための処理を実施する。
【0065】
すなわち、本実施例の外界センサ2は、分解能制御装置1から受信した着目領域情報に基づいて、着目領域については従来通り高分解能でデータを採取し、着目領域以外については低分解能でデータを採取する。これにより、実施例1の分解能制御装置1で生成した圧縮データに相当する出力データを、外界センサ2で直接生成することができる。
【0066】
また、本実施例の自動運転装置3では、分解能制御装置1から受信した着目領域情報に基づいて、着目領域については出力データを従来通り高精度に解析し、着目領域以外については出力データを低精度に解析する。これにより、実施例1と同様に、自動運転装置3での演算負荷を抑制しつつ、自動運転の品質を維持することができる。
【実施例5】
【0067】
本発明の実施例5を説明する。なお、上記実施例との共通点は重複説明を省略する。
【0068】
実施例1では、外界センサ2がカメラであり、出力データが撮影データである場合に、撮影データの解像度やフレームレートを粗くすることで低分解能化を実現する構成を説明したが、低分解能化の方法はこの例に限らず、例えば、撮影データの三原色の色情報の階調を256階調から16階調にしたり、あるいは、LiDAR、レーダー、ソナーであれば、計測点群データの反射強度の階調を粗くしたりしてもよい。
【0069】
なお、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。また、上記の各構成、機能、処理部、処理手段等は、それらの一部又は全部を、例えば集積回路で設計する等によりハードウェアで実現してもよい。また、上記の各構成、機能等は、プロセッサがそれぞれの機能を実現するプログラムを解釈し、実行することによりソフトウェアで実現してもよい。各機能を実現するプログラム、テーブル、ファイル等の情報は、メモリや、ハードディスク、SSD(Solid State Drive)等の記録装置、または、ICカード、SDカード、DVD等の記録媒体に置くことができる。
【符号の説明】
【0070】
100 自動運転システム
1 分解能制御装置
1A 走行状況判断部
1Aa 停止可能距離算出部
1Ab 現在位置判断部
1Ac 道路種別判断部
1Ad 道路構造判断部
1B 制御部
1Ba 着目領域抽出部
1Bb 着目領域シフト部
1Bc 分解能制御部
2 外界センサ
3 自動運転装置
3a 認識処理部
3b 認知部
3c 判断部
3d 制御部
4 駆動系
4a 操舵装置
4b 加速装置
4c 減速装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7