(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-15
(45)【発行日】2023-12-25
(54)【発明の名称】被覆鋼基材
(51)【国際特許分類】
C23C 26/00 20060101AFI20231218BHJP
C23C 2/00 20060101ALI20231218BHJP
C22C 38/00 20060101ALI20231218BHJP
C22C 21/02 20060101ALN20231218BHJP
【FI】
C23C26/00 C
C23C2/00
C22C38/00 302Z
C22C21/02
(21)【出願番号】P 2022525321
(86)(22)【出願日】2020-10-29
(86)【国際出願番号】 IB2020060138
(87)【国際公開番号】W WO2021084458
(87)【国際公開日】2021-05-06
【審査請求日】2022-06-09
(31)【優先権主張番号】PCT/IB2019/059255
(32)【優先日】2019-10-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IB
(73)【特許権者】
【識別番号】515214729
【氏名又は名称】アルセロールミタル
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】弁理士法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ブー,ティ・タン
(72)【発明者】
【氏名】メギド・フェルナンデス,ラウラ
(72)【発明者】
【氏名】ドミンゲス・フェルナンデス,カルロータ
(72)【発明者】
【氏名】ロドリゲス・ガルシア,ホルヘ
(72)【発明者】
【氏名】ノリエガ・ペレス,ダビド
(72)【発明者】
【氏名】スアレス・サンチェス,ロベルト
(72)【発明者】
【氏名】ブランコ・ロルダン,クリスティーナ
【審査官】池ノ谷 秀行
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/123104(WO,A1)
【文献】特開平07-316539(JP,A)
【文献】特開平06-212379(JP,A)
【文献】特開平03-153855(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 24/00-30/00
C23C 2/00-2/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナノグラファイト及びケイ酸ナトリウムであるバインダーを含有する皮膜を含む被覆ステンレス鋼基材であって、該ステンレス鋼基材は重量パーセントで以下の組成、すなわち、
C≦1.2%、
Cr≧11.0%、
Ni≧8.0%
及び重量パーセントで、以下の任意の1種以上の元素
Nb≦6.0%、
B≦1.0%、
Ti≦3.0%、
Cu≦5.0%、
Co≦3.0%、
N≦1.0%、
V≦3.0%、
Si≦4.0%、
Mn≦5.0%、
P≦0.5%、
S≦0.5%、
Mo≦6.0%、
Ce≦1.0%
を含み、残余は鉄及び精錬から生じる不可避の不純物からなる、被覆ステンレス鋼基材。
【請求項2】
前記ナノグラファイトはナノプレートレットの形状を有し、当該ナノグラファイトの横方向のサイズは当該ナノプレートレットの最も長い長さであり、かつ、1~65μmの間である、請求項1に記載の被覆ステンレス鋼基材。
【請求項3】
前記ナノグラファイトはナノプレートレットの形状を有し、当該ナノグラファイトの幅サイズは、
当該ナノプレートレットの最も長い長さである横方向と直行する方向のサイズであり、かつ、2~15μmの間である、請求項1又は2に記載の被覆ステンレス鋼基材。
【請求項4】
前記ナノグラファイトはナノプレートレットの形状を有し、当該ナノグラファイトの厚さは、当該ナノプレートレットの高さであり、かつ、1~100nmの間である、請求項1~3のいずれか一項に記載の被覆ステンレス鋼基材。
【請求項5】
前記皮膜中のナノグラファイトの濃度が5重量%~70重量%の間である、請求項1~4のいずれか一項に記載の被覆ステンレス鋼基材。
【請求項6】
前記皮膜中のケイ酸ナトリウムの濃度が35重量%~75重量%の間である、請求項1~5のいずれか一項に記載の被覆ステンレス鋼基材。
【請求項7】
前記バインダーに対するナノグラファイトの重量比が0.05~0.9の間である、請求項1~6のいずれか一項に記載の被覆ステンレス鋼基材。
【請求項8】
前記皮膜の厚さが10~250μmの間である、請求項1~7のいずれか一項に記載の被覆ステンレス鋼基材。
【請求項9】
前記皮膜が、粘土、シリカ、石英、カオリン、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化ケイ素、酸化チタン、酸化イットリウム、酸化亜鉛、チタン酸アルミニウム、炭化物又はそれらの混合物をさらに含む、請求項1~8のいずれか一項に記載の被覆ステンレス鋼基材。
【請求項10】
被覆ステンレス鋼基材の製造方法であって、連続する以下のステップ
A. 重量パーセントで以下の組成、すなわち、
C≦1.2%、
Cr≧11.0%、
Ni≧8.0%
及び重量パーセントで、以下の任意の1種以上の元素
Nb≦6.0%、
B≦1.0%、
Ti≦3.0%、
Cu≦5.0%、
Co≦3.0%、
N≦1.0%、
V≦3.0%、
Si≦4.0%、
Mn≦5.0%、
P≦0.5%、
S≦0.5%、
Mo≦6.0%、
Ce≦1.0%
を含み、組成の残余は鉄及び精錬から生じる不可避の不純物であるステンレス鋼基材を提供するステップ、
B. ステンレス鋼基材の少なくとも一部へ、ナノグラファイト及びケイ酸ナトリウムであるバインダーを含む水性混合物を堆積させて、皮膜を形成するステップ、
C. 任意に、ステップB)で得られた皮膜を乾燥させるステップ
を含む、方法。
【請求項11】
ステップB)において、前記水性混合物は、40~110g/Lのナノグラファイト及び40~80g/Lのバインダーを含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
ステップC)において、乾燥を施す場合、乾燥は50~150℃の間の温度で行われる、請求項10又は11に記載の方法。
【請求項13】
鋼帯を溶融めっきする方法であって、浴中に少なくとも部分的に浸漬した設備の部分を含む溶融金属浴を通って鋼帯を移動させるステップを含み、前記設備の部分の少なくとも一部が請求項1~9のいずれか一項に記載の被覆ステンレス鋼基材で作られる、方法。
【請求項14】
浴中に少なくとも部分的に浸漬した設備の部分を含む溶融金属浴を備えた溶融めっき施設において、前記設備の部分の少なくとも一部が請求項1~9のいずれか一項に記載の被覆ステンレス基材で作られる、施設。
【請求項15】
前記設備の部分は、スナウト、オーバーフロー、シンクロール、安定化ロール、ロール支持アーム、ロールフランジ、パイプライン、及びポンプエレメントの中から選択される、請求項14に記載の溶融めっき施設。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼帯の溶融めっき処理において部品として使用される、ステンレス鋼の溶融金属腐食に対する保護を目的とした皮膜に関する。また、本発明は、その被覆ステンレス鋼の製造方法、及びその被覆ステンレス鋼を用いた溶融めっき方法に関する。
【背景技術】
【0002】
通常、鋼のルート生産では、鋼帯は溶融めっき、すなわち溶融亜鉛めっき又は溶融アルミニウムめっきによって堆積された金属皮膜で被覆される。この金属皮膜は、亜鉛、アルミニウム、ケイ素、マグネシウムの中から特に典型的に選択される元素を含む。これらの元素は、鋼帯が通る浴中で溶融される。そのために、いくつかの金属装置又は部品、例えば、スナウト、シンクロール、安定化ロール、パイプライン又はポンプエレメントは、溶融浴に直接接触している。
【0003】
このような接触の間、溶融金属と浸漬した部品との間で反応が起こる。特に、Zn及び/又はAlは金属装置の鉄と共に金属間化合物を形成し、これが浸漬部品の脆化をもたらす。溶融金属により誘発されるこの腐食を制限するために、溶融金属と接触して使用される金属装置又は部品は、通常、ステンレス鋼で作られている。溶融金属腐食に対する耐性の向上にもかかわらず、溶融金属と接触するステンレス鋼は腐食され続け、変形、脆化及び破壊につながる。例えば、ステンレス鋼で作られたスナウトの下部は、数カ月間溶融浴に浸漬される可能性がある。この浸漬の間、溶融金属はスナウトを浸食し、これはより薄いスナウト壁厚をもたらし、高温条件と共に工具の亀裂を引き起こす。溶融金属による腐食のため、スナウトはしばしば点検、保守、交換をしなければならない。これらの定期点検、保守、交換はライン停止という犠牲を払って行われるため、溶融めっき鋼帯の製造に重大な損害を与える。
【0004】
特許出願CN201172680号は、上フレーム及び下フレームを含む冷間圧延鋼帯亜鉛めっき浴用のスナウトを開示しており、上フレームは溶接されたステンレス鋼板で作られ、下フレームは酸化アルミニウムセラミックで作られる。
【0005】
それにもかかわらず、2つの材料、すなわちステンレス鋼及び酸化アルミニウムセラミックで作られた2つの部品を含むこのスナウトを製造することは困難である。実際、酸化アルミニウムセラミックは鋳造され、スナウトの下部を形成する。酸化アルミニウムの融点は非常に高く、2000℃付近である。このように、そのような部品を製造するためには新しい設備が必要であり、そのことはそのようなスナウトのコストに重大な影響を与える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】中国特許出願公開第201172680号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、本発明の目的は、溶融金属腐食に対して十分に保護されたステンレス鋼基材を提供することであり、その結果、検査、保守及び交換が制限され、脆化、変形及び故障がさらに防止される。また、本発明の目的は、溶融亜鉛めっきライン及び溶融アルミニウムめっきラインにおいて現行の設備を取り替えることなく、このステンレス鋼基材を製造するための実施が容易な方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この目的のために、本発明の第1の主題は、ナノグラファイト及びケイ酸ナトリウムであるバインダーを含有する皮膜を含む被覆ステンレス鋼基材であって、該ステンレス鋼基材は重量パーセントで以下の組成、すなわち、
C≦1.2%、
Cr≧11.0%、
Ni≧8.0%
及び純粋に任意の基準で、以下のような1種以上の元素
Nb≦6.0%、
B≦1.0%、
Ti≦3.0%、
Cu≦5.0%、
Co≦3.0%、
N≦1.0%、
V≦3.0%、
Si≦4.0%、
Mn≦5.0%、
P≦0.5%、
S≦0.5%、
Mo≦6.0%、
Ce≦1.0%
を含み、残余は鉄及び精錬から生じる不可避の不純物からなる、被覆ステンレス鋼基材からなる。
【0009】
本発明による被覆ステンレス鋼基材はまた、個別に又は組み合わせて考えられる、以下に列挙される任意の特徴を有し得る。
- ナノグラファイトの横方向サイズは1~65μmの間であり、
- ナノグラファイトの幅サイズは2~15μmの間であり、
- ナノグラファイトの厚さは1~100nmの間であり、
- 皮膜中のナノグラファイトの濃度は5重量%~70重量%の間であり、
- 皮膜中のケイ酸ナトリウム濃度は35重量%~75重量%の間であり、
- バインダーに対するナノグラファイトの重量比は0.05~0.9の間であり、
- 皮膜の厚さは10~250μmの間であり、
- 皮膜はさらに粘土、シリカ、石英、カオリン、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化ケイ素、酸化チタン、酸化イットリウム、酸化亜鉛、チタン酸アルミニウム、炭化物又はそれらの混合物を含む。
【0010】
本発明の第2の主題は、連続する以下のステップを含む被覆ステンレス鋼基材の製造方法からなる。
A. 重量パーセントで、最大1.2%のC、少なくとも11.0%のCr及び少なくとも8.0%のNiを含み、組成の残余は鉄及び精錬から生じる不可避の不純物であるステンレス鋼基材を提供するステップ、
B. ステンレス鋼基材の少なくとも一部へ、ナノグラファイト及びケイ酸ナトリウムであるバインダーを含む水性混合物を堆積させて、皮膜を形成するステップ、
C. 任意に、ステップB)で得られた皮膜を乾燥させるステップ。
【0011】
本発明による被覆ステンレス鋼基材の製造方法はまた、個別に又は組み合わせて考えられる、以下に列挙される任意の特徴を有し得る。
- ステップB)において、皮膜の堆積は、スピンコーティング、スプレーコーティング、浸漬コーティング、又はブラシコーティングにより実施され、
- ステップB)において、水性混合物は、40~110g/Lのナノグラファイト及び40~80g/Lのバインダーを含み、
- ステップC)において、乾燥を施す場合は、乾燥は50~150℃の間の温度で実施され、
- ステップC)において、乾燥を施す場合は、乾燥は5~60分間実施される。
【0012】
本発明の第3の主題は、少なくとも部分的に浴中に浸漬された設備の部分を含む溶融金属浴を通って鋼帯を移動させるステップを含む鋼帯を溶融めっきする方法からなり、該設備の部分の少なくとも一部は本発明による被覆ステンレス鋼基材で作られる。
【0013】
本発明の第4の主題は、少なくとも部分的に浴中に浸漬された設備の部分を含む溶融金属浴を含む溶融めっき施設からなり、該設備の部分の少なくとも一部は、本発明による被覆ステンレス鋼基材で作られる。
【0014】
溶融めっき施設の設備の部分は、スナウト、オーバーフロー、シンクロール、安定化ロール、ロール支持アーム、ロールフランジ、パイプライン及びポンプエレメントの中から任意に選択される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明によるナノグラファイトの通常の形状を例示する。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明を例示するために、様々な実施形態及び非限定的な実施例の試験を、特に本発明によるナノグラファイトの通常の形状を例示する
図1を参照して説明する。
【0017】
本発明の他の特徴及び利点は、本発明の以下の詳細な記述から明らかになる。
【0018】
以下の用語が定義される。
【0019】
- ナノグラファイトとは、グラフェンナノプレートレットから作られた炭素をベースとするナノ材料、すなわち、
図1に示すプレートレット形状を有する数枚のグラフェンシートの積層体を指す。この図において、横方向のサイズはX軸を通るナノプレートレットの最も長い長さを意味し、厚さはZ軸を通るナノプレートレットの高さを意味する。ナノプレートレットの幅は、Y軸を通って図示される。
【0020】
好ましくは、ナノグラファイトの横方向サイズは1~65μmの間、有利には2~15μmの間、より好ましくは2~10μmの間である。
【0021】
好ましくは、ナノグラファイトの幅サイズは2~15μmの間である。
【0022】
有利には、ナノグラファイトの厚さは1nm~100nmの間、より好ましくは1~50nmの間、より好ましくは1~10nmの間である。
【0023】
グラファイトナノプレートレットはナノグラファイトの同義語である。
【0024】
- 基材とは、その上に何かを堆積させる表面を提供する材料を指す。この材料は、サイズ、寸法、形状の点で制限されない。それは特にストリップ、シート、小片、部分、要素、装置、設備の形態であり得る。それは平らでも任意の手段によって成形されていてもよい。
【0025】
- 「被覆される」とは、基材が少なくとも局所的に皮膜で被覆されていることを意味する。被覆は、例えば、溶融金属浴に浸漬される基材の領域に限定することができる。「被覆される」には、包括的に「その上に直接的に」(その間に配置される中間的な材料、要素又は空間を含まない)及び「その上に間接的に」(その間に配置される中間的な材料、要素又は空間)が含まれる。例えば、基材を被覆することは、中間的な材料/要素がその間になく、基材上に直接皮膜を施すこと、及び1つ以上の中間的な材料/要素がその間にあって、基材上に間接的に皮膜を施すことを含む。
【0026】
- 溶融めっき方法とは、皮膜が亜鉛をベースとする場合は溶融亜鉛めっき方法、皮膜がアルミニウムをベースとする場合は溶融アルミニウムめっき方法を指す。
【0027】
いかなる理論にも拘束されるつもりはないが、ナノグラファイト及びケイ酸ナトリウムであるバインダーを含むステンレス鋼の基材上の皮膜は、溶融金属の浸食に対するバリアのように作用し、Zn-Fe及び/又はAl-Fe金属間化合物の生成を防止するようである。実際、本発明による皮膜は、そのグラファイト含有量のため、溶融金属浴の元素に関して濡れない。特に、ナノグラファイトは液体亜鉛及び/又はアルミニウムによって濡れないようである。このように、ナノグラファイトは非湿潤剤として作用し、ケイ酸ナトリウムはバインダー及びステンレス鋼表面への接着促進剤として作用する。ステンレス鋼表面への溶融金属元素の非接着は、耐食性の向上、基材の変形リスクの減少及び基材のより長い寿命につながる。また、ケイ酸ナトリウムを含む皮膜は、ステンレス鋼基材がさらに保護されるように、ステンレス鋼基材上に十分に接着する。それは、さらに、溶融金属の侵食及び変形にステンレス鋼基材をさらすであろう皮膜の亀裂及び皮膜の剥離のリスクを防止する。
【0028】
本発明による皮膜のこれらの利点は、溶融めっきライン上で使用される全ての種類の溶融浴組成物において提供される。溶融金属浴組成は亜鉛をベースとしていてもよい。亜鉛をベースとする浴及び皮膜の例は、0.2%のAl及び0.02%のFeを含む亜鉛(HDG皮膜)、5重量%のアルミニウムを含む亜鉛合金(Galfan(R)皮膜)、55重量%のアルミニウム、約1.5重量%のケイ素を含み、残余が亜鉛及び加工による不可避の不純物からなる亜鉛合金(Aluzinc(R)皮膜、Galvalume(R)皮膜)、0.5~20%のアルミニウム、0.5~10%のマグネシウムを含み、残余が亜鉛及び加工による不可避の不純物からなる亜鉛合金、アルミニウム、マグネシウム及びケイ素を含み、残余が亜鉛及び加工による不可避の不純物からなる亜鉛合金である。
【0029】
溶融金属浴組成はアルミニウムをベースとしていてもよい。アルミニウムをベースとする浴及び皮膜の例は、8~11重量%のケイ素及び2~4重量%の鉄を含み、残余がアルミニウム及び加工による不可避の不純物からなるアルミニウム合金(Alusi(R)皮膜)、アルミニウム(Alupur(R)皮膜)、亜鉛、マグネシウム及びケイ素を含み、残余がアルミニウム及び加工による不可避の不純物からなるアルミニウム合金である。
【0030】
ステンレス鋼基材はオーステナイトステンレス鋼である。したがって、それは、少なくとも1.2重量%のC、少なくとも11.0重量%のCr及び少なくとも8.0重量%のNiを含む。
【0031】
好ましくは、Cの量は0.5重量%以下であり、有利には0.3重量%以下である。
【0032】
好ましくは、Crの量は30重量%以下であり、より好ましくは25重量%以下である。
【0033】
好ましくは、Niの量は30重量%以下であり、より好ましくは25重量%以下である。
【0034】
任意に、Nbの量は3.0重量%以下であり、より好ましくは2.0重量%以下である。
【0035】
任意に、Bの量は0.3重量%以下である。
【0036】
任意に、Tiの量は1.0重量%以下である。
【0037】
任意に、Cuの量は3.0重量%以下であり、より好ましくは1.0重量%以下である。
【0038】
任意に、Coの量は1.0重量%以下である。
【0039】
任意に、Nの量は0.5重量%以下である。
【0040】
任意に、Vの量は1.0重量%以下である。
【0041】
任意に、Siの量は0.5~2.5重量%の間である。
【0042】
任意に、Mnの量は3.0重量%以下であり、より好ましくは2.5重量%以下である。
【0043】
任意に、Pの量は0.1重量%以下である。
【0044】
任意に、Sの量は0.1重量%以下である。
【0045】
任意に、Moの量は0.5~2.5重量%の間である。
【0046】
任意に、Ceの量は0.1重量%以下である。
【0047】
精錬により生じる不可避の不純物として考えられるのは、主に上記の量のP、S及びNである。
【0048】
ステンレス鋼基材の例は、316及び253MAである。
【0049】
ステンレス鋼基材は、特に、少なくとも部分的に溶融金属浴に浸漬される任意の部分又は部品であってもよい。好ましくは、ステンレス鋼基材は、スナウト、オーバーフロー、シンクロール、安定化ロール、ロール支持アーム、ロールフランジ、パイプライン又はポンプエレメント又はこれらの要素の一部である。
【0050】
ステンレス鋼基材は、ナノグラファイト及びケイ酸ナトリウムであるバインダーを含む皮膜で少なくとも部分的に被覆される。
【0051】
皮膜中のナノグラファイトの濃度は、好ましくは乾燥皮膜の1重量%~70重量%の間、より好ましくは5~70重量%の間、さらにより好ましくは10~65重量%の間である。このような濃度は、皮膜上の溶融金属元素の非接着性と、基材への皮膜の接着性との間の良好なバランスを提供する。
【0052】
好ましくは、ナノグラファイトは95重量%を超え、有利には99%を超えるCを含む。
【0053】
バインダーはケイ酸ナトリウムである。換言すれば、バインダーはケイ酸ナトリウムから得られる。このケイ酸ナトリウムは乾燥段階中に反応して硬いシロキサン鎖を形成する。このシロキサン鎖は、ステンレス鋼基材の表面に存在する水酸基に付着すると考えられる。また、基材上に塗布された水性混合物中に溶解したケイ酸ナトリウムは、基材表面から全ての隙間に浸透し、乾燥後、強靭でガラス質になり、このため皮膜を基材に固着させると考えられる。
【0054】
ケイ酸ナトリウムとは、Na2xSiyO2y+x又は(Na2O)x・(SiO2)y)という式をもつあらゆる化合物を指す。それは特にメタケイ酸ナトリウムNa2SiO3、オルトケイ酸ナトリウムNa4SiO4、ピロケイ酸ナトリウムNa6Si2O7、Na2Si3O7であり得る。
【0055】
皮膜中のケイ酸ナトリウムの濃度は、好ましくは乾燥皮膜の35重量%~95重量%の間、より好ましくは35重量%~75重量%の間である。このような濃度は、皮膜上の溶融金属元素の非接着性と、基材への皮膜の接着性との間の良好なバランスを提供する。
【0056】
本発明の1つの変形例によると、皮膜はさらに、特にその熱安定性及び/又はその摩耗抵抗を改善するために添加剤を含む。このような添加剤は、粘土、シリカ、石英、カオリン、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化ケイ素、酸化チタン、酸化イットリウム、酸化亜鉛、チタン酸アルミニウム、炭化物及びそれらの混合物から選択することができる。粘土の例としては、グリーンモンモリロナイト粘土及びホワイトカオリン粘土がある。炭化物の例は炭化珪素及び炭化タングステンである。
【0057】
添加剤を加える場合、乾燥皮膜中のそれらの濃度は40重量%まで可能であり、好ましくは10~40重量%の間、より好ましくは15~35重量%の間に含まれる。グリーンモンモリロナイトを添加する場合、グラフェン重量含量とグリーンモンモリロナイト重量含量との間の比は、0.2~0.8の間に含まれることが好ましい。
【0058】
本発明の1つの変形例によれば、皮膜は、ナノグラファイト、ケイ酸ナトリウムをベースとするバインダー、粘土、シリカ、石英、カオリン、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化ケイ素、酸化チタン、酸化イットリウム、酸化亜鉛、酸化亜鉛、チタン酸アルミニウム、炭化物及びそれらの混合物の中で選択される任意の添加剤からなる。
【0059】
好ましくは、皮膜の乾燥厚さは10~250μmの間である。より好ましくは、皮膜の乾燥厚さは110~150μmの間である。例えば、皮膜の厚さは10~100μmの間又は100~250μmの間である。
【0060】
好ましくは、皮膜は、界面活性剤、アルコール、ケイ酸アルミニウム、硫酸アルミニウム、水酸化アルミニウム、フッ化アルミニウム、硫酸銅、塩化リチウム及び硫酸マグネシウムから選択される少なくとも1つの要素を含まない。
【0061】
本発明はまた、連続する以下のステップを含む、本発明による被覆ステンレス鋼基材の製造方法に関する。
A. 本発明によるステンレス鋼基材を提供するステップ、
B. ステンレス鋼基材の少なくとも一部へナノグラファイト及びケイ酸ナトリウムであるバインダーを含む水性混合物を堆積させて、本発明による皮膜を形成するステップ、
C. 任意に、ステップB)で得られた被覆ステンレス鋼基材を乾燥させるステップ。
【0062】
ステップA)では、ステンレス鋼基材は、任意のサイズ、寸法及び形状で提供することができる。それは特にストリップ、シート、部分、部品、要素、装置、設備の形態であり得る。それは平でも、任意の手段で成形されていてもよい。
【0063】
好ましくは、ステップB)において、皮膜の堆積は、スピンコーティング、スプレーコーティング、浸漬コーティング、又はブラシコーティングによって実施される。
【0064】
有利には、ステップB)において、水性混合物は、40~110g/Lのナノグラファイトを含む。より好ましくは、水性混合物は、40~60g/Lのナノグラファイトを含む。
【0065】
有利には、ステップB)において、水性混合物は、40~80g/Lのバインダーを含む。好ましくは、水性混合物は、50~70g/Lのバインダーを含む。
【0066】
ケイ酸ナトリウムは水溶液の形態で水性混合物に加えることができる。ケイ酸ナトリウムは、一般式(Na2O)x(SiO2)y・zH2O、例えば、Na2SiO3・5H2O又はNa2Si3O7・3H2Oという水和形態であることができる。
【0067】
有利には、ステップB)において、バインダーに対するナノグラファイトの重量比は0.05~0.9の間、好ましくは0.1~0.5の間である。
【0068】
本発明の1つの変形例によれば、ステップB)の水性混合物はさらに添加剤、特に皮膜の熱安定性及び/又は磨耗抵抗を改善するための添加剤を含む。このような添加剤は、粘土、シリカ、石英、カオリン、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化ケイ素、酸化チタン、酸化イットリウム、酸化亜鉛、チタン酸アルミニウム、炭化物及びそれらの混合物から選択することができる。粘土の例としては、グリーンモンモリロナイト粘土及びホワイトカオリン粘土である。炭化物の例は、炭化ケイ素及び炭化タングステンである。粘土はさらに、その塗布をさらに容易にするために、水性混合物の粘度を適応させるのに役立つ。この点で、グリーンモンモリロナイトを添加する場合、グラフェン重量含量とグリーンモンモリロナイト重量含量の間の比は、0.2~0.8の間に含まれることが好ましい。
【0069】
好ましい実施形態において、皮膜は乾燥される、すなわち、ステップC)において、空気中の自然乾燥とは対照的に積極的に乾燥される。乾燥ステップは、水の除去がより良好に制御されるため、皮膜の接着の改善を可能にすると考えられる。好ましい実施形態では、ステップC)において、乾燥は、50~150℃の間、好ましくは80~120℃の間の温度で実施される。乾燥は強制空気で実施することができる。
【0070】
有利には、ステップC)において、乾燥を施す場合、5~60分間、例えば、15~45分間の間乾燥を行う。
【0071】
別の実施形態では、乾燥ステップは実施されない。皮膜は空気中で乾燥させる。
【0072】
本発明はまた、スナウト、オーバーフロー、シンクロール、安定化ロール、ロール支持アーム、パイプライン又はポンプエレメントの製造のための本発明による被覆ステンレス鋼の使用に関する。
【0073】
本発明はまた、少なくとも部分的に浴中に浸漬された設備の部分を含む溶融金属浴を通って鋼帯を移動させるステップを含む鋼帯を熱溶融めっきする方法であって、該設備の部分の少なくとも一部が本発明による被覆ステンレス鋼基材で作られる方法に関する。
【0074】
本発明はまた、少なくとも部分的に浴中に浸漬された装置片を含む溶融金属浴を含み、装置片の少なくとも一部が本発明によるコーティングされたステンレス鋼基材で作られる熱浸漬コーティング施設に関する。
【0075】
本発明は、以後、情報のためにのみ実施された試験に基づいて説明される。それらは限定的ではない。
【実施例】
【0076】
実施例では、重量%で以下の組成を有する鋼基材を用いた。
【0077】
【0078】
鋼1は316ステンレス鋼に対応し、鋼2は253MA(R)ステンレス鋼に対応する。
【0079】
[実施例1:皮膜接着試験]
試験例1及び2については、横方向サイズが2~10μmの間、幅が2~15μmの間、厚さが1~100nmの間の50g/Lのナノグラファイト及びバインダーとして25.6~27.6重量%のSiO2及び7.5~8.5重量%のNa2Oを含む水溶液の形態の60g/Lのケイ酸ナトリウムを含む水性混合物をブラッシングすることにより、ステンレス鋼1及び2を被覆した。その後、75℃で60分間、熱気を含む炉内で皮膜を乾燥させた。皮膜は厚さ130μmで、45重量%のナノグラファイト及び55重量%のバインダーを含んでいた。
【0080】
試験例3及び4については、横方向サイズが2~10μmの間、幅が2~15μmの間、厚さが1~100nmの間の50g/Lのナノグラファイト、100g/Lのグリーンモンモリロナイト粘土及びバインダーとして25.6~27.6重量%のSiO2及び7.5~8.5重量%のNa2Oを含む水溶液の形態の60g/Lのケイ酸ナトリウムを含む水性混合物をブラッシングすることにより、ステンレス鋼1及び2を被覆した。その後、75℃で60分間、熱気を含む炉内で皮膜を乾燥させた。皮膜は厚さ130μmで、11重量%のナノグラファイト、69重量%のバインダー及び20重量%のグリーンモンモリロナイト粘土を含んでいた。
【0081】
試験例5及び6については、横方向サイズが2~10μmの間、幅が2~15μmの間、厚さが1~100nmの間の90g/Lのナノグラファイト及びバインダーとして25.6~27.6重量%のSiO2及び7.5~8.5重量%のNa2Oを含む水溶液の形態の60g/Lのケイ酸ナトリウムを含む水性混合物をブラッシングすることにより、ステンレス鋼1及び2を被覆した。その後、75℃で60分間、熱気を含む炉内で皮膜を乾燥させた。皮膜は130μmの厚さで、60重量%のナノグラファイト、40重量%のバインダーを含んでいた。
【0082】
試験例7及び8については、横方向サイズが5~30μmの間、幅が5~30μmの間、厚さが1~10nmの間の50g/Lの還元された酸化グラフェン及びバインダーとして25.6~27.6重量%のSiO2及び7.5~8.5重量%のNa2Oを含む水溶液の形態の60g/Lのケイ酸ナトリウムを含む水性混合物をブラッシングすることにより、ステンレス鋼1及び2を被覆した。その後、75℃で60分間、熱気を含む炉内で皮膜を乾燥させた。皮膜は130μmの厚さで、45重量%の還元された酸化グラフェン及び55重量%のバインダーを含んでいた。
【0083】
皮膜の接着性を評価するため、試験例に粘着テープを貼付した後、取り除いた。皮膜の接着性は、試験例についての目視検査により評価した。0は全ての皮膜がステンレス鋼上に残っていることを意味し、1は皮膜の一部が除去されたことを意味し、2はほとんど全ての皮膜が除去されたことを意味する。
【0084】
その結果は次の表1のとおりである。
【0085】
【0086】
本発明による試験例は、皮膜の優れた接着性を示す。
【0087】
[実施例2:浴浸漬]
試験例1~6を、0.2%のAl及び0.02%のFeを含む亜鉛をベースとする浴に2週間浸漬した。2週間後、非接着性の亜鉛薄膜が試験例上に存在した。亜鉛の膜は試験例から容易に剥離できた。本発明の皮膜は、全ての試験例上に依然として存在していた。亜鉛の浸食は出現しなかった。
【0088】
本発明の試験例は、亜鉛の浸食から十分に保護された。
【0089】
試験例7及び8も、10%のSi及び2.5%のFeを含むアルミニウムをベースとする浴に8日間浸漬した。8日後、非接着性金属薄膜が試験例上に存在した。金属膜は試験例から容易に剥離できた。本発明の皮膜は、両試験例上に依然として存在していた。アルミニウムの浸食は出現しなかった。
【0090】
本発明の試験例は、アルミニウムの浸食から十分に保護された。