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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-15
(45)【発行日】2023-12-25
(54)【発明の名称】回転電機の回転子
(51)【国際特許分類】
   H02K 1/276 20220101AFI20231218BHJP
【FI】
H02K1/276
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2022559302
(86)(22)【出願日】2021-11-05
(86)【国際出願番号】 JP2021040763
(87)【国際公開番号】W WO2023079679
(87)【国際公開日】2023-05-11
【審査請求日】2022-09-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】598076591
【氏名又は名称】東芝インフラシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001737
【氏名又は名称】弁理士法人スズエ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】久田 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】内田 秀範
(72)【発明者】
【氏名】牧野 宏明
【審査官】島倉 理
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-099048(JP,A)
【文献】特開2004-104962(JP,A)
【文献】特開2014-155357(JP,A)
【文献】特開2021-027724(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0103771(US,A1)
【文献】中国実用新案第208386270(CN,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 1/276
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
中心軸線を中心とする円周方向に並ぶ複数の磁極を有し、前記磁極の各々は、前記円周方向に間隔を置いて配置され、それぞれ当該回転子鉄心の外周に軸方向の全長に亘って開口した開口端と閉塞した閉塞端と磁石装填領域と前記磁石装填領域の内周側端と前記閉塞端との間に位置する内周側空隙と前記磁石装填領域の外周側端から延出し前記開口端に繋がる外周側空隙とを有する複数の磁石保持スロットと、前記円周方向において前記複数の磁石保持スロットの相互間に位置する第1鉄心部と、前記複数の磁石保持スロットと前記中心軸線との間に位置する第2鉄心部と、前記第1鉄心部と前記第2鉄心部とを繋いだブリッジと、を有している回転子鉄心と、
それぞれ前記磁石保持スロットの前記磁石装填領域に配置された複数の永久磁石と、
前記磁石保持スロットにおいて前記永久磁石と前記開口端との間の前記外周側空隙および前記永久磁石と前記磁石装填領域の内壁との間の第1隙間に充填され、前記永久磁石および前記磁石保持スロットの内壁に接合された非磁性の充填材と、
を備え、
前記第1隙間は、前記開口端の側に位置し前記外周側空隙に繋がる一端と、前記内周側空隙の側に位置する他端と、を有し、前記回転子鉄心は、前記磁石装填領域の側縁から前記磁石保持スロットに突出し前記第1隙間の前記他端を封止する第1凸部を有している、回転電機の回転子。
【請求項2】
前記磁石保持スロットは、外側縁と、前記外側縁に間隔を置いて対向する内側縁との間に形成され、前記円周方向の前記開口端の幅は、前記間隔よりも小さい、
請求項1に記載の回転電機の回転子。
【請求項3】
前記永久磁石の幅は、前記間隔よりも小さく、かつ、前記開口端の幅よりも大きく形成され、前記永久磁石と前記外側縁との間に前記第1隙間が形成され、前記第1隙間に充填された前記充填材は前記永久磁石および前記外側縁に接合している、
請求項2に記載の回転電機の回転子。
【請求項4】
前記第1凸部は、前記外側縁から前記磁石保持スロットに突出し前記第1隙間の前記他端を封止している、請求項3に記載の回転電機の回転子。
【請求項5】
前記永久磁石と前記内側縁との間に第2隙間が形成され、前記第2隙間に前記充填材が充填され前記永久磁石および前記内側縁に接合している、請求項3に記載の回転電機の回転子。
【請求項6】
前記第2隙間は、前記開口端の側に位置し前記外周側空隙に繋がる一端と、前記内周側空隙の側に位置する他端と、を有し、
前記回転子鉄心は、前記内側縁から前記磁石保持スロットに突出し前記第2隙間の前記他端を封止する第2凸部を有している、請求項5に記載の回転電機の回転子。
【請求項7】
前記回転子鉄心は、前記開口端の開口に突出し前記開口の一部を塞ぐように前記円周方向に延びる凸形状部を有している、請求項1からのいずれか1項に記載の回転電機の回転子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明の実施形態は、永久磁石を有する回転電機の回転子に関する。
【背景技術】
【0002】
永久磁石型の回転電機は、円筒状の固定子と、この固定子の内側に回転自在に支持された円柱形状の回転子と、を備えている。回転子は、回転子鉄心と、この回転子鉄心内に埋め込まれた複数の永久磁石と、を備えている。
このような永久磁石型の回転電機として、1磁極当たり2枚の磁石をV字状に配置し、かつ、磁石を収容している磁石スロットを回転子鉄心の表面に開放した構成の回転電機が提案されている。上記構成の回転電機では、回転子鉄心のブリッジにおける磁石の磁束漏れを低減し、磁石重量当たりに発生する磁石トルクを増加することが可能となる。あるいは、回転電機のトルクを維持したまま磁石重量を低減することが可能となる。
【0003】
しかしながら、この構成では、大トルクを発生する状況下で、V字状に配置された磁石の内側に位置する鉄心部に加わる円周方向の電磁力により、磁極中央付近に位置するブリッジに強い曲げ応力が加わる。そのため、ブリッジの強度不足が生じる可能性がある。あるいは、耐応力のためにブリッジを太くした場合、磁束漏れが増加するため、磁石重量の低減が困難となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2014-50208号公報
【文献】特開2018-85819号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
この発明の実施形態の課題は、強度を維持しつつ、小型、軽量化を図ることが可能な永久磁石型の回転電機の回転子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明の実施形態によれば、回転電機の回転子は、中心軸線を中心とする円周方向に並ぶ複数の磁極を有し、前記磁極の各々は、前記円周方向に間隔を置いて配置され、それぞれ当該回転子鉄心の外周に軸方向の全長に亘って開口した開口端と閉塞した閉塞端と矩形状の磁石装填領域と前記磁石装填領域の内周側端と前記閉塞端との間に位置する内周側空隙と前記磁石装填領域の外周側端から延出し前記開口端に繋がる外周側空隙とを有する複数の磁石保持スロットと、前記円周方向において前記複数の磁石保持スロットの相互間に位置する第1鉄心部と、前記複数の磁石保持スロットと前記中心軸線との間に位置する第2鉄心部と、前記第1鉄心部と前記第2鉄心部とを繋いだブリッジと、を有している回転子鉄心と、それぞれ前記磁石保持スロットの前記磁石装填領域に配置された複数の永久磁石と、前記磁石保持スロットにおいて前記永久磁石と前記開口端との間の前記外周側空隙および前記永久磁石と前記磁石装填領域の内壁との間の第1隙間に充填され、前記永久磁石および前記磁石保持スロットの内壁に接合された非磁性の充填材と、を備えている。前記第1隙間は、前記開口端の側に位置し前記外周側空隙に繋がる一端と、前記内周側空隙の側に位置する他端と、を有し、前記回転子鉄心は、前記磁石装填領域の側縁から前記磁石保持スロットに突出し前記第1隙間の前記他端を封止する第1凸部を有している。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1図1は、第1実施形態に係る永久磁石型の回転電機の横断面図。
図2図2は、前記回転電機の回転子の一部を拡大して示す横断面図。
図3図3は、第2実施形態に係る回転電機の回転子の一部を拡大して示す横断面図。
図4図4は、第3実施形態に係る回転電機の回転子の一部を拡大して示す横断面図。
図5図5は、第4実施形態に係る回転電機の回転子の一部を拡大して示す横断面図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下に、図面を参照しながら、この発明の実施形態について説明する。なお、実施形態を通して共通の構成には同一の符号を付すものとし、重複する説明は省略する。また、各図は実施形態とその理解を促すための模式図であり、その形状や寸法、比などは実際の装置と異なる個所があるが、これらは以下の説明と公知の技術を参酌して適宜、設計変更することができる。
【0009】
(第1実施形態)
図1は、第1実施形態に係る永久磁石型の回転電機の横断面図、図2は、回転子の1磁極部分を拡大して示す断面図である。
図1に示すように、回転電機10は、例えば、インナーロータ型の回転電機として構成されている。回転電機10は、図示しない固定枠に支持された環状あるいは円筒状の固定子12と、固定子の内側に中心軸線Cの回りで回転自在に、かつ固定子12と同軸的に支持された回転子14と、を備えている。回転電機10は、例えば、ハイブリッド自動車(HEV)や電気自動車(EV)において、駆動モータあるいは発電機に好適に適用される。
【0010】
固定子12は、円筒状の固定子鉄心16と固定子鉄心16に巻き付けられた電機子巻線(コイル)18とを備えている。固定子鉄心16は、磁性材、例えば、ケイ素鋼などの円環状の電磁鋼板(鉄心片)を多数枚、同芯状に積層して構成されている。固定子鉄心16の内周部には、複数のスロット20が形成されている。複数のスロット20は、円周方向に等間隔を置いて並んでいる。各スロット20は、固定子鉄心16の内周面に開口し、この内周面から放射方向に延出している。また、各スロット20は、固定子鉄心16の軸方向の全長に亘って延在している。複数のスロット20を形成することにより、固定子鉄心16の外周部は円環状のヨーク部16aを構成し、固定子鉄心16の内周部は、回転子14に面する複数(例えば、本実施形態では48個)の固定子ティース21を構成している。複数の固定子ティース21は、ヨーク部16aから中心軸線Cに向かって放射方向に延出している。電機子巻線18は複数のスロット20に挿通され、各固定子ティース21に巻き付けられている。電機子巻線18に電流を流すことにより、固定子12(固定子ティース21)に所定の鎖交磁束が形成される。
【0011】
回転子14は、両端が図示しない軸受により回転自在に支持された円柱形状のシャフト(回転軸)22と、このシャフト22の軸方向ほぼ中央部に固定された円筒形状の回転子鉄心24と、回転子鉄心24に埋め込まれた複数の永久磁石Mと、を有している。回転子14は、固定子12の内側に僅かな隙間(エアギャップ)を置いて同軸的に配置されている。すなわち、回転子14の外周面は、僅かな隙間をおいて、固定子12の内周面に対向している。回転子鉄心24は中心軸線Cと同軸的に形成された内孔25を有している。シャフト22は内孔25に挿通および嵌合され、回転子鉄心24と同軸的に延在している。回転子鉄心24は、磁性体板、例えば、ケイ素鋼などの円環状の電磁鋼板(鉄心片)を多数枚、同芯状に積層した積層体として構成されている。回転子鉄心24は、鉄心片の積層方向に延びる前記中心軸線Cと、中心軸線Cと同軸の外周面と、を有している。
【0012】
本実施形態において、回転子14は、中心軸線Cを中心とする円周方向に並んだ複数の磁極、例えば、8磁極を有している。回転子鉄心24において、中心軸線Cおよび円周方向に隣合う磁極間の境界を通り回転子鉄心24の径方向に延びる軸をq軸、およびq軸に対して円周方向に電気的に90°離間した軸、つまり、磁極の中心と中心軸線Cとを通る軸、をd軸と称する。固定子12によって形成される鎖交磁束の流れ易い方向がq軸となる。d軸およびq軸は、回転子鉄心24の円周方向に交互に、かつ、所定の位相で設けられている。回転子鉄心24の1磁極分とは、円周方向に隣合う2本のq軸間の領域(1/8周の周角度領域)をいう。これにより、回転子鉄心24は、8極(磁極)に構成されている。1磁極のうちの円周方向中央がd軸となる。
【0013】
図1および図2に示すように、回転子鉄心24には、1磁極ごとに、複数の永久磁石、例えば、2つの永久磁石Mが埋設されている。回転子鉄心24の円周方向において、各d軸の両側に、永久磁石Mを装填するための磁石保持スロット(磁石保持空洞部あるいは磁石埋め込み孔と称する場合もある。)34が形成されている。2つの永久磁石Mは、それぞれ磁石保持スロット34内に装填および配置され、例えば、接着剤等により回転子鉄心24に固定されている。
【0014】
図2に示すように、各磁石保持スロット34は、回転子鉄心24を軸方向に貫通して形成されている。回転子鉄心24の中心軸線Cと直交する横断面でみた場合、2つの磁石保持スロット34は、d軸に対して線対称に形成および配置され、例えば、ほぼV字状に並んで配置されている。各磁石保持スロット34は、回転子鉄心24の外周に開口あるいは開放する開口端と、d軸の近傍に位置し閉塞した閉塞端(他端)とを有している。
フラックスバリアとして機能する各磁石保持スロット34は、永久磁石Mの断面形状に対応した矩形状の磁石装填領域34aと、磁石装填領域34aの内周側端から延出した内周側空隙34bと、磁石装填領域34aの外周側端から延出し回転子鉄心24の外周に開放した外周側空隙34cと、を有している。外周側空隙34cは、磁石装填領域34aからスロットの開口端(開口40)まで延在している。回転子鉄心24は、磁石装填領域34aの外周側の端において磁石保持スロット34の内側縁35bから磁石保持スロット34内に突出した保持突起(段差)36aを有している。
【0015】
磁石装填領域34aは、平坦な内側縁(内周側長辺)35bと、この内側縁35bと間隔を置いて平行に対向する平坦な外側縁(外周側長辺)35aとの間に形成されている。内側縁35bおよび外側縁35aは、d軸に対して、90度よりも小さい角度θで傾斜して延在している。すなわち、磁石装填領域34aは、内周側端から外周側端に向かうに従って、d軸からの距離が徐々に広がるように、かつ、内周側端から外周側端に向かうに従って、回転子鉄心24の外周面からの距離が徐々に短くなるように、傾斜して設けられている。角度θは、図示の例に限定されることなく、任意に変更可能である。
内周側空隙34bは、磁石装填領域34aの内周側端(d軸側の端)からd軸に向かって延出している。内周側空隙34dは、磁石装填領域34aの外側縁35aと面一に繋がる外側縁と、磁石装填領域34aの内側縁35bと面一に繋がる内側縁と、d軸とほぼ平行に延び外側縁と内側縁とに繋がる端縁35cと、で規定されている。端縁35cは、スロットの閉塞端を構成している。端縁35cは、d軸と間隔を置いてほぼ平行に対向している。
【0016】
外周側空隙34cは、磁石装填領域34aの外周側端(回転子鉄心の外周面側の端)から回転子鉄心24の外周面に向かって延出し、回転子鉄心24の外周に開放あるいは開口している。外周側空隙34cは、磁石装填領域34aの外側縁35aの一端から回転子鉄心24の外周まで外側縁35aと面一に延びる外側縁35dと、磁石装填領域34aの内側縁35bの一端、ここでは、保持突起36aの突出端から回転子鉄心24の外周まで外側縁35aとほぼ平行に延びる内側縁35eと、の間に規定されている。内側縁35eは、保持突起36aの高さ分だけ、内側縁35bよりも一段高く、すなわち、外側縁35dの側に近く、保持突起36aの突出端から外側縁35dとほぼ平行に延びている。また、内側縁35eは、途中で、外側縁35dの側に屈曲した後、回転子鉄心24の外周まで延びている。これにより、外周側空隙34cにおいて、磁石装填領域34aの側の領域の幅(外側縁35dと内側縁35eとの間の間隔)W1に対して、開口40の周方向の幅W2の方が狭くなっている。なお、開口40は、上記幅で、回転子鉄心24の軸方向の全長に亘って開口している。
なお、磁石保持スロット34の外側縁35a、35dおよび内側縁35b、35eは、磁石保持スロット34の内壁に相当している。
【0017】
磁石保持スロット34の内周側空隙34bおよび外周側空隙34cは、永久磁石Mの長手方向両端部から回転子鉄心24への磁束漏れを抑制する磁気空隙(フラックスバリア)として機能するとともに、回転子鉄心24の軽量化にも寄与する。
【0018】
永久磁石Mは、例えば、横断面が矩形状の細長い平板状に形成され、回転子鉄心24の軸方向長さとほぼ等しい長さを有している。各永久磁石Mは回転子鉄心24の軸方向のほぼ全長に亘って埋め込まれている。永久磁石Mは、軸方向(長手方向)に複数に分割された磁石を組み合わせて構成されてもよく、この場合、複数の磁石の合計の長さが回転子鉄心24の軸方向長さとほぼ等しくなるように形成される。
図2に示したように、各永久磁石Mは、矩形状の断面形状を有し、この断面は、互いに平行に対向する一対の長辺および互いに対向する一対の短辺を有している。永久磁石Mの断面形状は、矩形状(長方形)に限らず、平行四辺形としてもよい。
【0019】
永久磁石Mは、磁石保持スロット34の磁石装填領域34aに装填され、一方の長辺が外側縁35aに隣接対向し、あるいは、当接し、他方の長辺が内側縁35bに隣接対向し、あるいは、当接している。永久磁石Mの一方の短辺、すなわち、外周側の短辺の一端部は、保持突起36aに当接している。これにより、永久磁石Mは、長手方向の位置が位置決めされた状態で磁石装填領域34a内に保持されている。永久磁石Mは接着剤等により回転子鉄心24に固定されてもよい。d軸の両側に位置する2つの永久磁石Mは、ほぼV字状に並んで配置されている。すなわち、2つの永久磁石Mは、内周側端から外周側端に向かうに従って、d軸からの距離が徐々に広がるように、かつ、内周側端から外周側端に向かうに従って、回転子鉄心24の外周面からの距離が徐々に短くなるように、傾斜して配置されている。
【0020】
各永久磁石Mは、長辺に垂直な方向に磁化されている。d軸の円周方向の両側に位置する2つの永久磁石M、すなわち、1磁極を構成する2つの永久磁石Mは、磁化方向が同一となるように配置されている。また、各q軸の円周方向の両側に位置する2つの永久磁石Mは、磁化方向が逆向きとなるように配置されている。本実施形態では、回転電機10は、隣接する1磁極毎に永久磁石MのN極とS極の表裏を交互に配置した8磁極(4極対)の永久磁石埋め込み型の回転電機を構成している。
【0021】
図2に示すように、回転子鉄心24は、各磁極において、2つの磁石保持スロット34の相互間に位置する扇状の外周領域(第1鉄心部)24aと、回転子鉄心24の内周領域(磁石保持スロット34と内孔25(シャフト22)との間の領域(第2鉄心部))24bと、第1鉄心部24aと第2鉄心部24bとを連結した柱状のブリッジ50と、を備えている。ブリッジ50は、2つの磁石保持スロット34の2つの内周側空隙34bの間に形成され、d軸に沿って延在している。なお、ブリッジ50は、1本に限らず、複数本設ける構成としても良い。
【0022】
各磁石保持スロット34の外周側空隙34cに、非磁性の充填材SRが充填され外周側空隙34cを満たしている。充填材SRは、永久磁石Mの短辺、外周側空隙34cの外側縁35dおよび内側縁35eに接合しているとともに、開口40を閉塞している。開口40内において、充填材SRは、固定鉄心24の外周面のほぼ面一に位置し、外周面の一部を形成している。
外周側空隙34cに充填される充填材SRは、回転子鉄心24を形成する磁性体板よりも透磁率が低い低透磁率材料であり、例えば樹脂を用いることができる。充填材SRは、樹脂の他、アルミニウム、ステンレス等の金属や、炭素繊維強化プラスチックなどであってもよい。
図2では、外周側空隙34cの全てが充填材SRによって満たされている形態を例示しているが、これに限らず、少なくとも永久磁石Mの短辺、外周側空隙34cの外側縁35dの一部および内側縁35eの一部に接合する量だけ充填されていればよい。また、内周側空隙34bにも充填材SRを充填してもよい。
【0023】
以上のように構成された第1実施形態に係る回転電機10の回転子14によれば、磁石保持スロットの一端が回転子鉄心24の外周に開放している構成とすることにより、永久磁石の漏れ磁束を低減し、磁石重量当たりに発生する磁石トルクを増加させることが可能となる。同時に、磁石保持スロットの外周側空隙34cに樹脂などの充填材SRを充填した構成とすることにより、充填材SRにより、回転子鉄心24を構成する磁性板の変形、ブリッジ50の変形を抑制し、回転子鉄心24およびブリッジ50の強度を向上することが可能となる。そのため、大きなトルクが発生する状況下で、回転子鉄心24の外周領域24aに円周方向の電磁力が加わった場合でも、磁性体板およびブリッジの変形を抑制し、回転子鉄心24の外周領域24aを安定して支持することができる。また、ブリッジ50を細くすることが可能となる。
以上により、第1実施形態によれば、同体格の回転電機でのトルクおよび出力が向上し、あるいは、同出力を維持したまま、回転電機の小型、軽量化を図ることが可能となる。更に、使用磁石重量の低減により回転子の低コスト化を図ることができる。
【0024】
次に、この発明の他の実施形態に係る回転電機の回転子について説明する。なお、以下に説明する他の実施形態において、前述した第1実施形態と同一の部分には、同一の参照符号を付してその詳細な説明を省略あるいは簡略化し、第1実施形態と異なる部分を中心に詳しく説明する。
(第2実施形態)
図3は、第2実施形態に係る回転電機の回転子の一部を示す横断面図である。
図示のように、第2実施形態によれば、回転子鉄心24において、磁石保持スロット34の磁石装填領域34aの幅(外側縁35aと内側縁35bとの間隔)は、永久磁石Mの幅(厚さ)よりも大きく形成している。これにより、外側縁35aと永久磁石Mの外側の長辺との間に数mm程度の隙間(第1隙間)G1が形成されている。隙間G1は、外周側空隙34cに連通した一端と内周側空隙34bに隣接した他端とを有している。
回転子鉄心24は、外側縁35aの内周側の端から内周側空隙34b内に突出する保持突起(第1凸部)36bを有している。保持突起36bは、永久磁石Mの短辺の端部に当接し永久磁石Mを位置決めするとともに、隙間G1の内周側の他端を封止した漏れ止めとしても機能する。
非磁性の充填材SRは、外周側空隙34cに充填され、更に、隙間G1に充填されている。隙間G1に充填された充填材SRは、永久磁石Mの長辺部および磁石装填領域34aの外側縁35aに接合している。充填材SRは、保持突起36bにより内周側空隙34bの側への漏れが規制されている。
第2実施形態において、回転子の他の構成は、前述した第1実施形態における回転子と同様である。
【0025】
上記構成の第2実施形態によれば、永久磁石Mの幅(厚さ)を磁石保持スロット34の幅よりも小さくすることにより、回転子の組立時、永久磁石Mを磁石保持スロット34に容易に挿入、組付けすることができる。永久磁石Mと磁石保持スロット34との間の隙間G1にも充填材SRを充填することにより、永久磁石Mをガタつきなく保持することができる。回転子鉄心24を構成する電磁鋼板の加工精度のバラつきを充填材SRにより吸収し、永久磁石Mへの悪影響を抑制することができる。更に、漏れ止め用の凸部36bを設けることにより、充填材SRの漏れを防止し、充填材SRを所望の部位に充填および保持することが可能となる。その他、第2実施形態においても、前述した第1実施形態と同様の作用効果を得ることができる。
【0026】
(第3実施形態)
図4は、第3実施形態に係る回転電機の回転子の一部を示す横断面図である。
図示のように、第3実施形態によれば、回転子鉄心24において、永久磁石Mの幅(厚さ)は、磁石装填領域34aの幅(外側縁35aと内側縁35bとの間隔)よりも一層、小さく形成している。これにより、外側縁35aと永久磁石Mの外側の長辺との間に数mm程度の隙間G1が形成され、反対側の外側縁35aと永久磁石Mの内側の長辺との間に数mm程度の隙間(第2隙間)G2が形成されている。隙間G2は、外周側空隙34cに連通した一端と内周側空隙34bに隣接した他端とを有している。
回転子鉄心24は、外側縁35aの内周側の端から内周側空隙34b内に突出する保持突起(第1凸部)36bに加えて、内側縁35bの内周側の端から内周側空隙34b内に突出する保持突起(第2凸部)36cを有している。保持突起36b、36cは、永久磁石Mの短辺の端部にそれぞれ当接し永久磁石Mを位置決めするとともに、隙間G1、G2の内周側の他端を封止する漏れ止めとしても機能する。隙間G1、G2の一端、すなわち、外周側の端はそれぞれ外周側空隙34cに連通している。
【0027】
非磁性の充填材SRは、外周側空隙34cに充填され、更に、隙間G1および隙間G2に充填されている。隙間G1に充填された充填材SRは、永久磁石Mの長辺部および磁石装填領域34aの外側縁35aに接合している。隙間G2に充填された充填材SRは、永久磁石Mの長辺部および磁石装填領域34aの内側縁35bに接合している。充填材SRは、保持突起36b、36cにより内周側空隙34bの側への漏れが規制されている。
第3実施形態において、回転子の他の構成は、前述した第1実施形態における回転子と同様である。
上記構成の第3実施形態においても、前述した第2実施形態と同様の作用効果、および前述した第1実施形態と同様の作用効果を得ることができる。
【0028】
(第4実施形態)
図5は、第4実施形態に係る回転電機の回転子の一部を示す横断面図である。
図示のように、第4実施形態によれば、回転子鉄心24は、磁石保持スロット34の開口40に突出した少なくとも1つの凸形状部を有している。本実施形態では、固定子鉄心24は、開口40の周方向の両側から開口40内に突出した一対の凸形状部40a、40bを有している。一対の凸形状部40a、40bにより開口40の一部を塞ぐことにより、凸形状部40a、40bの間に形成された開口40の幅は、外周側空隙34cの幅、および磁石装填領域34aの幅に比較して充分に小さく、例えば、1/3程度の幅となっている。
【0029】
外周側空隙34aの外側縁35dは、磁石装填領域34aの外側縁35aから外側縁35aと面一に延出した後、回転子鉄心24の外周の近傍で開口40の側に屈曲し、凸形状部40aに沿って周方向に延び、更に、外周面に側に直角に屈曲し外周面まで延びている。外周側空隙34cの内側縁35eは、保持突起36aの突出端から外側縁35dとほぼ平行に延び、途中で、外側縁35dの側に屈曲した後、回転子鉄心24の外周の近傍で開口40の側に屈曲し、凸形状部40bに沿って周方向に延び、更に、外周面に側に直角に屈曲し外周面まで延びている。
このように、一対の凸形状部40a、40bは、開口40の幅を小さくするとともに、開口40の近傍で周方向に延びた一対の肩部、あるいは、係止部を形成している。非磁性の充填材RSは、外周側空隙34cおよび隙間G1、G2に充填されている。外周側空隙34cにおいて、充填材RSは、永久磁石Mの短辺、肩部(凸形状部40a)を含む外側縁35d、肩部(凸形状部40b)を含む内側縁35eに接合している。
第4実施形態において、回転子の他の構成は、前述した第3実施形態に係る回転子と同様である。
【0030】
上記構成の第4実施形態によれば、開口40の近傍に凸形状部(肩部)40a、40bを設けることにより、充填材RSの抜け、飛び出しを規制し、充填材RSを外周側空隙34c内に確実に保持しておくことが可能となる。
通常、充填材(樹脂)と回転子鉄心24との線膨張係数の差異に温度変化が繰り返し加わる事によって、充填材と回転子鉄心との界面に剥離が生じ、繰り返し加わる遠心力によって、樹脂が割れ、外周側に飛び出し、回転を阻害する可能性がある。
これに対して、本実施形態によれば、凸形状部40a、40bあるいは肩部により、充填材の飛び出しを確実に防止し、信頼性の向上を図ることができる。その他、第4実施形態においても、前述した第2実施形態と同様の作用効果、および前述した第1実施形態と同様の作用効果を得ることができる。
【0031】
なお、この発明は上述した実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化可能である。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。
例えば、回転子の磁極数、寸法、形状等は、前述した実施形態に限定されることなく、設計に応じて種々変更可能である。回転子の各磁極における永久磁石の設置数は、2つに限らず、必要に応じて、増加可能である。充填材の材料は、実施形態で挙げたものに限定されることなく、その他、種々の充填材を選択可能である。
図1
図2
図3
図4
図5