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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-15
(45)【発行日】2023-12-25
(54)【発明の名称】積層造形用粉砕粉
(51)【国際特許分類】
   B22F 1/12 20220101AFI20231218BHJP
   B22F 1/00 20220101ALI20231218BHJP
   B22F 1/05 20220101ALI20231218BHJP
   B22F 9/04 20060101ALI20231218BHJP
   B22F 10/34 20210101ALI20231218BHJP
   C22C 1/10 20230101ALI20231218BHJP
   C22C 33/02 20060101ALI20231218BHJP
   B33Y 10/00 20150101ALI20231218BHJP
   B33Y 70/00 20200101ALI20231218BHJP
【FI】
B22F1/12
B22F1/00 V
B22F1/00 Z
B22F1/05
B22F9/04 C
B22F10/34
C22C1/10 J
C22C33/02 103G
C22C33/02 103B
B33Y10/00
B33Y70/00
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2023001300
(22)【出願日】2023-01-06
(62)【分割の表示】P 2019065777の分割
【原出願日】2019-03-29
(65)【公開番号】P2023037644
(43)【公開日】2023-03-15
【審査請求日】2023-01-06
(73)【特許権者】
【識別番号】391021765
【氏名又は名称】新日本電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100187702
【弁理士】
【氏名又は名称】福地 律生
(74)【代理人】
【識別番号】100162204
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 学
(74)【代理人】
【識別番号】100195213
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 健治
(72)【発明者】
【氏名】菊池 貴彦
(72)【発明者】
【氏名】小山 義教
【審査官】岡田 隆介
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-051688(JP,A)
【文献】特開2017-088972(JP,A)
【文献】特開平07-188874(JP,A)
【文献】国際公開第91/09980(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 1/00
B22F 1/12
B22F 3/105
B22F 9/02
B22F 10/00
B22F 10/34
C22C 33/02
C22C 1/05
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
TiB及びVCの一方又は両方とFeからなる複合粉末の粉砕粉であって、粒径が15μm以上、150μm以下であることを特徴とする積層造形用粉砕粉。
【請求項2】
前記粉砕粉と、粒度が15~53μmのSUS316Lアトマイズ粉を混合した混合粉を、前記混合粉中のセラミックスが10質量%になるように配合して得た際に、得られた前記混合粉の流動度が9秒/50g以上であることを特徴とする請求項1に記載の積層造形用粉砕粉。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はステンレス系粉末に添加することにより、3Dプリンターによる積層造形や肉盛加工において、造形品の硬度が上昇して耐摩耗性の大幅な向上が期待できる安価な造形用粉末を提供するとともに、この粉末の製造方法及びこの粉末を用いた造形品の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
3Dプリンターによる積層造形技術(Additive manufacturing)はここ数年で目覚ましい進歩を遂げ、欧米では航空機部品、自動車部品、人体の義肢等において実用化が進んでいる。使用される材料は樹脂、金属、セラミックス等多種類にわたるが、近年強度を必要とする部品の需要増に伴い、金属粉末の割合が次第に増加してきている。金属粉末にはステンレス系、チタン系、アルミ系、コバルトクロム系、ニッケル系、銅などがあり、3Dプリンターの機種や用途に応じて組成や粒度を調整している。
【0003】
3Dプリンター等の積層造形技術は、粉末の供給方法、粉末の平滑化方法、溶融の熱源(レーザービーム、電子ビーム)等の違い、更には造形後に研削して形状を整えるいわゆるハイブリッド方式のものまでありその種類は多いが、粉末の供給方法で大別するとPBF法(粉末床溶融法。Powder bed fusion)とDED(指向性エネルギー堆積法。Directed energy deposition)に分けられる。
【0004】
前者は粉末をテーブルに供給したした後、リコーターまたはローラーによって層厚を一定に調整後に溶融し、これを繰り返して積層するものである。
後者は粉末をAr等の気流によってノズルまで空送し、ベースプレートに落下させると同時にレーザーを照射して溶融、積層するものである。
このように粉末の供給方法が異なっても、共通して求められるのは粉末の流動性が良いことであり、そのためにアトマイズ法で製造した球状粉を用いるのが業界の常識となっている。
【0005】
例えば、特許文献1には、「Ni、Fe及びCoのうちの少なくとも1種を含む多数の球状粒子からなり、かつこのNi、Fe及びCoの合計含有率(T.C.)が、50質量%以上であり、累積10体積%粒子径D10が、1.0μm以上であり、下記数式によって算出される値Yが、7.5以上24.0以下である金属粉末。
Y=D50×ρ×S
(上記数式において、D50は上記粉末の累積50体積%粒子径であり、ρは上記粉末の真密度であり、Sは上記粉末の比表面積である。)」が提案されている。
そして、この粉末は、好ましくは、水アトマイズ法、ガスアトマイズ法及びディスクアトマイズ法等によって製造され、積層造形法、溶射法、肉盛り法、レーザーコーティング法等の粉末として用いられるが、この粉末から得られた造形物は、高強度であり、また、この粉末から得られた被覆層は、耐摩耗性に優れるとされている。
しかし、前記特許文献1には、アトマイズ法で作製した粉末を原料粉に使用することについて記載されているものの、原料粉の一部として、粉砕法で作製した粉末を用いること、セラミックスとFeの複合粉末等を用いることについての具体的な開示はない。
【0006】
また、特許文献2には、金属粉末あるいはセラミック粉末を含む粉末積層造形に用いる造形用材料であって、粉末において粒子径が45μmを超える粒子の積算質量が全体の0.5質量%以上(45質量%以下)であり、電子顕微鏡観察に基づく粒子径が20μm以下の粒子の数が全体の15個数%以下である造形用材料が提案されている。
そして、この粉末の具体例としては、ガスアトマイズ法で製造されたステンレス系粉末(SUS316L)が挙げられており、粒度制御により流動性が改善されるため、これまでよりも均質でムラのない材料の供給が可能とされ、その結果、粉末積層造形における造形精度を高めることが可能であり、また、造形精度を維持したままより高速での造形が可能となるとされている。
しかし、原料粉の一部として、粉砕法で作製したセラミックスとFeの複合粉末等を用いることについての教示はない。
【0007】
ステンレス系粉末の代表的なものはSUS316LとSUS630があり、前者は硬度や耐摩耗性はあまり高くないが主に耐食性を要求される用途に用いられるのに対して、後者は高い硬度が特徴であり、主に高強度を必要とされる部品に用いられる。この他にステンレス系ではないがSUS630以上に高硬度と強度を有するマルエージング鋼が航空機部品や宇宙産業方面において広く使われている。使用方法はSUS316Lは造形して終了であるが、SUS630とマルエージング鋼のいわゆる析出硬化系の材料は、造形しただけでは硬度がSUS316Lより少し高い程度にとどまり、高い硬度を得るには時効処理の工程を必要とする。すなわち造形品を400~500℃で数時間加熱する工程が不可欠である。これによってSUS6360はCuリッチ層を析出させ、マルエージング鋼はNi3Mo系の結晶を析出さることによって高硬度と高強度が得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2016-194143号公報
【文献】特開2018-172739号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述したように、積層造形技術における原料としてアトマイズ粉が広く使われているが、その製造工程を見ると粉末の回収は本体下、サイクロン、集塵機によって行われ、この本体下で回収されたものが製品となる。
しかし、本体下の粉末は粒度分布の幅が広く、粒径が数μm程度の微細なものから150μmを越える粗粉まで含まれている。これだけの粒度幅があると均一速度での溶融ができないばかりでなく、微粉の摩擦抵抗によって粉末全体の流動性が損なわれるので、装置に供給できないという致命的な問題を生じる。
これを防ぐために振動篩や気流分級等の方法で上カット、下カットして粒度分布の幅を適正な範囲に狭めることが行われるが、それによって製品の収率が大きく低下して2~3割程度しか製品とならないため、原価が大幅に高くなるという問題がある。
【0010】
積層造形技術用の金属粉末の中で最も高硬度、高強度を示すのはマルエージング鋼であるが、その特性を出すために単価の高いNi、Co、MoがFeに添加されており、この3成分の合計は全組成の1/3程度にも達するため必然的に高価な粉末となる。またそれに加えて施工面では時効処理工程が不可欠であるため、これも造形品のコスト上げる要因となる。
【0011】
本発明は上記問題点に鑑みてなされたもので、粉末単価が安価でかつ時効処理しなくてもマルエージング鋼並みの高硬度を有する積層造形技術の金属粉末を提供することを目的とする。
また、本発明は、粉末単価が安価でかつ時効処理しなくても高硬度が得られる造形用粉末の製造方法を提供することを目的とし、さらに、この粉末を用いた耐摩耗性の大幅な向上が期待できる造形品の製造方法を提供することを目的とする。
【0012】
なお、本発明でいう積層造形技術とは、前述したPBF法(粉末床溶融法。Powder bed fusion)とDED(指向性エネルギー堆積法。Directed energy deposition)を含む付加製造方式(Additive manufacturing)による造形技術をいい、そして、造形用粉末とは、前記積層造形技術に用いられる粉末、代表的には、3Dプリンターによる積層造形に用いられる粉末、肉盛加工に用いられる粉末をいう。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、セラミックスとFeの複合粉末、例えば、TiB2とFeの複合粉末(以下、「TiB2/Fe複合粉末」と記す場合がある。)の粉砕粉、VCとFeの複合粉末(以下、「VC/Fe複合粉末」と記す場合がある。)の粉砕粉、FeV等の粉砕粉を、粒度調整した積層造形用粉砕粉(以下、単に「粉砕粉」ということもある。)とした後にステンレス系粉末と混合した造形用粉末を使用することにより、時効処理することなく容易に造形品の硬度を高められることを見出し本発明に至った。
【0014】
すなわち本発明は以下を要旨とするものである。
【0015】
すなわち本発明は以下を要旨とするものである。
(1)セラミックスとFeからなる複合粉末の粉砕粉と、ステンレス系粉末との混合粉末からなることを特徴とする造形用粉末。
【0016】
(2)FeとVの合金であるFeVの粉砕粉と、ステンレス系粉末との混合粉末からなることを特徴とする造形用粉末。
【0017】
(3)(1)において、セラミックスがTiB2またはVCであり、前記複合粉末の粉砕粉は、TiB2とFeからなる塊状の複合生成物、または、VCとFeからなる塊状の複合生成物が粉砕された粉砕粉であることを特徴とする(1)に記載の造形用粉末。
【0018】
(4)造形用粉末に占めるセラミックスの含有割合は、30質量%以下である(1)または(3)に記載の造形用粉末。
【0019】
(5)造形用粉末に占めるVの含有割合は、30質量%以下である(2)に記載の造形用粉末。
【0020】
(6)ステンレス系粉末が、SUS304、SUS316、SUS316Lの一種または二種以上の粉末であることを特徴とする(1)乃至(5)に記載の造形用粉末。
【0021】
(7)前記粉砕粉を、予め分級して15~150μmの粒度範囲に調整した後、ステンレス系粉末と混合することを特徴とする(1)乃至(6)のいずれかに記載の造形用粉末の製造方法。
【0022】
(8)(1)乃至(6)のいずれかに記載の造形用粉末を加熱溶融し、積層造形や肉盛加工を行うことにより、造形品の最大ビッカース硬度を250Hv以上とすることを特徴とする造形品の製造方法。
また、本発明には、以下の積層造形用粉砕粉が含まれる。
[1]TiB 及びVCの一方又は両方とFeからなる複合粉末の粉砕粉であって、粒径が15μm以上、150μm以下であることを特徴とする積層造形用粉砕粉。
[2]前記粉砕粉と、粒度が15~53μmのSUS316Lアトマイズ粉を混合した混合粉を、前記混合粉中のセラミックスが10質量%になるように配合して得た際に、得られた前記混合粉の流動度が9秒/50g以上であることを特徴とする前記[1]の積層造形用粉砕粉。
【発明の効果】
【0023】
以上のように、本発明の積層造形用粉砕粉を用いれば、3Dプリンター用金属粉末、肉盛加工用金属粉末等の造形用粉末を安価に提供することができ、例えばSUS316Lへ添加して使用することにより、時効処理することなしに高い硬度の造形品、肉盛加工品を得ることができるため、SUS316Lを使用した部品の新規用途が開拓されるという顕著な効果が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】粉末の電子顕微鏡写真であって、(a)は、TiB2/Fe複合粉末を粉砕後、分級して25~75μmに粒度調整した複合粉末の粉砕粉を示したものであり、(b)は、上記複合粉末の粉砕粉と粒度20~53μmのSUS316Lアトマイズ粉を、混合粉中のTiB2含有量が10質量%になるように配合した混合粉末を示した図である。
図2】粉末の電子顕微鏡写真であって、(a)は、FeVを粉砕後、分級して25~75μmに粒度調整した粉砕粉を示したものであり、(b)は、上記粉砕粉と粒度20~53μmのSUS316Lアトマイズ粉を、混合粉中のVが10質量%になるように配合した混合粉末を示した図である。
図3】単層ビード断面元素分布の電子顕微鏡写真であって、TiB2/Fe複合粉末粉砕粉と粒度20~53μmのSUS316Lアトマイズ粉を、混合粉中のTiB2が10質量%になるように配合した混合粉を用いて、DED法で単層ビードを造形後、その断面の元素分布を電子顕微鏡で観察した写真を示す。図中、網目状に見える箇所がTiB2、それ以外の箇所はFeである。
図4】本発明の造形用粉末を用い、PBF法により作製された造形品の外観図の一例を示す図である。ここで、使用した造形用粉末はそれぞれ下記の通り。左側の図:SUS316Lアトマイズ粉,中央の図:FeV粉砕粉+SUS316Lアトマイズ粉,右側の図:TiB2/Fe粉砕粉+SUS316Lアトマイズ粉
図5】本発明の造形用粉末を用い、PBF法により作製された造形品の外観図の他の例を示す図である。ここで、使用した造形用粉末は、FeV粉砕粉+SUS316Lアトマイズ粉である。
図6】本発明の造形用粉末を用い、DED法により作製された単層ビードの外観図の一例を示す。ここで、使用した造形用粉末は、TiB2/Fe粉砕粉とSUS316Lアトマイズ粉である。
図7図6の単相ビード断面の上部から底部へ向かう硬度測定箇所を示す図である。
図8】本発明の造形用粉末を用い、DED法により作製された単層ビード断面の厚さ方向のビッカース硬度測定値の変化の一例を示す図である。ここで、使用した造形用粉末は、TiB2/Fe複合粉末の粉砕粉と粒度20~53μmのSUS316Lアトマイズ粉であり、混合粉中のTiB2が10質量%になるように配合した造形用粉末である。
図9】本発明の造形用粉末を用い、DED法により作製された単層ビード断面の厚さ方向のビッカース硬度測定値変化を示す他の例の図である。ここで、使用した造形用粉末はFeV粉砕粉と粒度20~53μmのSUS316Lアトマイズ粉であり、混合粉中のVが10質量%になるように配合した造形用粉末である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下に、本発明を詳細に説明する。
【0026】
本発明は安価でかつ時効処理をしなくても高い硬度が得られる3Dプリンター用あるいは肉盛加工用等の造形用の金属粉末を提供するとともに、この粉末の製造方法及びこの粉末を用いた造形品の製造方法に関する。
【0027】
TiB2/Fe複合粉末の製造方法は特許6450670に記載されているが、その要旨は原料のFeBとFeTiの混合粉を粉砕後真空炉で加熱し、得られた鋳塊をボールミル、振動ミル等を使用して粉砕するというものである。これらより微細なTiB2粒子がマトリックスであるFe中に均一に分散した粉末が得られる。しかしこのようにして得られた粉末は微粉を多く含んでいること及び形状が不規則でかつ表面に凹凸があるため流動性が悪く、3Dプリンターあるいは肉盛加工等の造形用の原料粉末としてはほとんど使用実績がない。
【0028】
しかし本発明者はTiB2/Fe複合粉末はセラミックスであるTiB2と金属であるFeとの複合粉末ではあるが、主要成分はFeであり密度が大きいので、微粉をカットすれば流動性が改善されるのではないかと考え、75μmアンダーの粉末を25μmカットして25~75μmとし流動性を測定したところ、アトマイズ粉よりは若干劣るとはいえ、ほぼ問題のない流動性の粉末が得られることを確認した。
【0029】
VC/Fe複合粉末の粉砕粉はFeVとCとの混合粉を真空中で加熱して得た鋳塊を粉砕することにより得られるが、これについても微粉カットするとTiB2/Fe複合粉末と同様にほぼ良好な流動性を示した。
【0030】
FeV粉末の粉砕粉はテルミット反応によって得られた塊状品を粉砕することにより容易に得られるが、これについても微粉カットするとほぼ良好な流動性の粉末が得られた。
一般に粉末は微粉になるほど流動性が悪化するので、カット粒径は少なくとも15μm、好ましくは20μm、より好ましくは25μmである。流動性のみを考慮するとカット粒径を更に大きくする方が良いが、あまり大きくすると収率か低下してコスト高となるので、微粉カット粒径は25μmに留めるのが好ましい。なお粗粉については150μm以上の粒径では粗すぎて溶融に時間がかかり微粉との溶融時間に差が生じて均一溶融ができなくなり、良好な造形品を得ることができなくなる。よって粒径の上限は150μmとする。
したがって上述したTiB2/Fe複合粉末、VC/Fe複合粉末、FeV粉末の粉砕粉の粒径は、15~150μm、好ましくは、20~90μm、より好ましくは、25~75μmとする。またこのように微粉をカットすることにより、粒子径が45μmを超える粒子の積算質量は50質量%以上となり平均粒径が粗くなるため、粉末の流動性改善にも効果的である。
【0031】
このようにして粗粉カット、微粉カットしたTiB2/Fe複合粉末、VC/Fe複合粉末、FeV粉末を、造形用の原料粉末とするが、流動性を更に良くするためには粒度分布幅はより狭い方が好ましい。これは原料粉末の収率を考慮しつつ、使用する造形装置の機種に適した粒度幅とする必要がある。
【0032】
一般にPBF法のレーザータイプでは15~45μm、電子ビームタイプでは45~105μm、DED法では45~150μmが使いやすい粒度と言われているのでそれらに合わせる必要があるが、粉砕粉の場合はもともと粒径が粗いので粉砕、分級工程において容易に粒度調整することが可能であり収率も高い。
【0033】
TiB2/Fe複合粉末、VC/Fe複合粉末のSUS316Lに対する添加量は、多すぎるとSUS316Lの本来の性状を損なう恐れがあるため、添加後の混合粉末においてTiB2、VC等のセラミックスの割合を30質量%以下とする必要がある。これにより造形用粉末に占めるステンレス系粉末の含有割合は70質量%以上となり、好ましい含有割合を維持することができる。
一方、少なくするほどSUS316Lの本来の性状は保たれるが、少なすぎると造形品の硬度の上昇がわずかで効果が不十分となるため、適正な添加割合が存在する。
その割合は、好ましくは5~20質量%、より好ましくは5~10質量%の範囲であり、この範囲であれば造形品の硬度はマルエージング鋼並みの高水準となり、それに伴い耐摩耗性の大幅な向上が期待できる。
【0034】
FeVの添加についても同様の理由で添加後の混合粉末においてVの割合を30質量%以下とする必要がある。
【0035】
VC/Fe複合粉末中のVCの形態はVC,V87,V43等、種々のものがあるが、どの形態のものでも硬度が高いため、形態に制限されることなくいずれのものでも使用することができる。
【0036】
これらの粉末の溶融方法にはレーザービーム溶融、電子ビーム溶融、プラズマ溶融等の方法があり、それによって使用する粉末の適正粒度範囲や出力、走査速度、走査ピッチ、積層厚さ等の造形条件は異なるが、いずれの方法も粉末を高温にして溶融させるものであり、適正条件さえ把握すればどの原理の設備にも適用可能である。
【0037】
本発明のTiBとFeの複合粉末の粉砕粉、VCとFeの複合粉末の粉砕粉あるいはFeVの粉砕粉を、SUS316L等のステンレス系粉末へ添加混合して造形用粉末とすることによる造形品の硬度の増加は、次のように考えられる。
【0038】
TiB2やVCはビッカース硬度がそれぞれ3,400Hv、2,800Hvと非常に高いセラミックスであるが、造形時の加熱、溶融、凝固の過程を経ることによって、これらの微細な結晶がマトリックスであるステンレスの結晶粒界にリング状あるいは網目状に均一に分布するようになるため、全体的に硬度が上昇し、耐摩耗性が大幅に向上すると考えられる。
具体的には、例えば、図3にも示されるように、TiB2がステンレス(主体はFe)の結晶粒界に分布している組織が観察される。
一方、FeV添加の場合は溶融時に硬度が高いVが材料中に均一に分散し、全体的に硬度の高いV合金となって造形品の硬度が増加すると考えられる。
【実施例
【0039】
以下に、実施例を用いて本発明を詳細に説明する。
【0040】
(実施例1)
TiB/Fe複合粉末の粉砕粉を分級して粒度を25~75μmとした積層造形用粉砕粉とし、混合粉末に占めるTiB2の含有割合が10質量%になるように市販されているSUS316Lアトマイズ粉と混合し造形用粉末を作製した。
【0041】
次に、この造形用粉末の流動度測定を行った。粉末の流動度はJIS Z-2502 に規定された金属粉の流動度測定方法に準じた方法で測定した。すなわち、乾燥した金属粉末50gを出口が塞がれた所定の形状の漏斗に供給し、出口を開放して粉末が落下し始めてから全量が落下するまでの時間を測定した。
表1にその結果を示すが、この造形用粉末では測定値は9秒となったが、これはSUS316Lアトマイズ粉単独(後記比較例1参照)の場合の流動度8秒とほぼ同等の時間であり、3Dプリンター用あるいは肉盛加工用粉末としては全く問題のない良好な流動性である。
【0042】
ついで、この造形用粉末を用いてPBF法で立方体の積層造形を行ったところ、粉末の供給とリコーターによる層厚の調整は問題なく、連続運転も可能で、図4中の右側の図に示すように、所定の形状の造形品を得ることができた。
【0043】
また、DED法による単層ビード造形試験でも粉末の供給は全く問題なく、図6に示すように、所定の形状の単層ビード造形品を得ることができた。
【0044】
この単層ビードの断面試験片を採取して樹脂埋めし、表面を研磨後に、図7に示すように、上部から底部へ0.2mmごとにビッカース硬度を測定したところ、500~560Hvという高い数値を示した(表1、図8参照)。これは高硬度で知られるマルエージング鋼の造形品のビッカース硬度とほぼ同水準である。
すなわち、TiB2/Fe複合粉末の粉砕粉をSUS316Lへ添加して造形することにより、時効処理することなしにマルエージング鋼並みの硬度を有するSUS316Lとすることができた。
【0045】
このビッカース硬度測定サンプル断面の元素分布を、電子顕微鏡を用いて調査したところ、図3に示すように、Feのマトリックス中にリング状または網目状のTiB2が均一に分布しているのが観察された。
TiB/Fe複合粉末の粉砕粉をSUS316Lへ添加した造形用粉末を用いて造形することによる大幅な硬度上昇の原理は必ずしも解明されていないが、Feマトリックス中におけるこのようなTiB結晶の分布が寄与しているものと考えられる。
【0046】
(実施例2)
FeV粉砕粉を分級して粒度を25~75μmとした積層造形用粉砕粉とし、混合粉末に占めるV含有割合が10質量%になるように市販されているSUS316Lアトマイズ粉と混合し、造形用粉末を作製した後、流動度を測定したところ、表1に示すように、10秒となり、SUS316Lアトマイズ粉単独の場合の流動度8秒とほぼ同等の流動性となった。
【0047】
この粉末を用いてPBF法で立方体の積層造形を行ったところ、粉末の供給とリコーターによる層厚の調整は問題なく、連続運転も可能で、図4中の中央の図に示すように、所定の形状の造形品を得ることができた。
【0048】
DED法による単層ビード造形試験でも粉末の供給は全く問題なく、所定の形状の単層ビード造形品を得ることができた。
この単層ビードの断面試験片を採取して樹脂埋めし、表面を研磨後に上部から底部へ0.2mmごとにビッカース硬度を測定したところ300~310Hvとなり、比較例に示すSUS316L単独の場合の硬度の約2倍となった(表1参照)。
【0049】
(実施例3)
VC粉砕粉を分級して粒度を25~75μmとした積層造形用粉砕粉とし、混合粉末に占めるVC含有割合が10質量%になるように市販されているSUS316Lアトマイズ粉と混合した造形用粉末について、実施例1、実施例2と同様の方法でDED法による単層ビードを造形してその断面硬度を測定したところ、300~320Hvとなり、比較例に示すSUS316L単独の場合の硬度の約2倍となった(表1参照)。
【0050】
(比較例1)
粒度が15~53μmのSUS316Lアトマイズ粉を、実施例1~実施例3と同様の方法で、流動度を測定するとともに、DED法による単層ビードを造形してその断面硬度を測定したところ、表1に示すように、流動度は8秒であったが、断面硬度は、160~170Hvであった。
【0051】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明による積層造形用粉砕粉を、例えば、SUS316L等のステンレス系粉末と混合して3Dプリンターあるいは肉盛加工の造形用原料粉末とすることにより、造形品の硬度が大幅に向上しそれに伴い耐摩耗性の大幅な向上も期待できるため、ステンレス系粉末の新規用途への道が開かれる。
また粉砕粉はアトマイズ粉と比べて安価なため、混合粉の原価も低下して価格が安くなるため、これまで3Dプリンターの普及を妨げていた原因の一つである粉末価格の問題が緩和されるため、大幅な需要増も期待できる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9