(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-18
(45)【発行日】2023-12-26
(54)【発明の名称】測定用カテーテル
(51)【国際特許分類】
A61B 5/1473 20060101AFI20231219BHJP
A61M 25/10 20130101ALI20231219BHJP
A61M 25/00 20060101ALI20231219BHJP
【FI】
A61B5/1473
A61M25/10
A61M25/00 560
(21)【出願番号】P 2018224588
(22)【出願日】2018-11-30
【審査請求日】2021-10-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000135036
【氏名又は名称】ニプロ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001966
【氏名又は名称】弁理士法人笠井中根国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100103252
【氏名又は名称】笠井 美孝
(74)【代理人】
【識別番号】100147717
【氏名又は名称】中根 美枝
(72)【発明者】
【氏名】比恵島 徳寛
(72)【発明者】
【氏名】梅垣 良太
(72)【発明者】
【氏名】内田 智之
(72)【発明者】
【氏名】吉澤 清文
(72)【発明者】
【氏名】松島 竜也
【審査官】北島 拓馬
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2014/0180273(US,A1)
【文献】実開平01-039707(JP,U)
【文献】特表2018-519862(JP,A)
【文献】特表2013-525016(JP,A)
【文献】実開平06-057321(JP,U)
【文献】特開平05-177001(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0184258(US,A1)
【文献】特開2004-201793(JP,A)
【文献】特開2012-106081(JP,A)
【文献】特開2001-149481(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/06 - 5/22
A61F 2/82 - 2/97
A61M 25/00 -29/04
A61M 35/00 -36/08
A61M 37/00
A61M 99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体内へ挿入されて生体内腔の物質を検出するセンサを備えた測定用カテーテルであって、
前記センサを前記生体内腔の壁面へ接近させる接近機構が設けられており、且つ、該接近機構が、該センサを該生体内腔の該壁面への接触状態に保持するものであ
り、
該センサが検知部位を覆うハウジングを有しており、該ハウジングには部分的に開口す
る窓部が設けられていると共に、
該窓部を通じて該検知部位が露出しており、且つ、
前記接近機構が、該窓部における開口周縁部を前記生体内腔の前記壁面への接触状態に
保持するものである測定用カテーテル。
【請求項2】
前記窓部の開口周縁部が、カテーテル本体の外周面よりも前記生体内腔の前記壁面側に
向かって外周面上に突出している請求項1に記載の測定用カテーテル。
【請求項5】
生体内へ挿入されて生体内腔の物質を検出するセンサを備えた測定用カテーテルであって、
前記センサを前記生体内腔の壁面へ接近させる接近機構が設けられており、且つ、該接近機構が、該センサを該生体内腔の該壁面への接触状態に保持するものであ
り、
該接近機構がカテーテル本体に挿入されて該カテーテル本体を曲げるガイド部材によっ
て構成されている測定用カテーテル。
【請求項6】
前記ガイド部材として、前記カテーテル本体に挿入されて先端が該カテーテル本体に固
着された操作ワイヤを有している請求項5に記載の測定用カテーテル。
【請求項7】
前記カテーテル本体は、前記操作ワイヤの固着部位よりも基端側において変形許容部を
有している請求項6に記載の測定用カテーテル。
【請求項8】
前記センサを有するセンサ体が挿通される第1ルーメンと、前記ガイド部材が挿通され
る第2ルーメンとを備えている請求項5~7の何れか1項に記載の測定用カテーテル。
【請求項9】
前記第2ルーメンの先端が塞がれていると共に、該第2ルーメンの塞がれた先端部分に
対して前記ガイド部材としての操作ワイヤの先端が固着されている請求項8に記載の測定
用カテーテル。
【請求項10】
前記ガイド部材として、屈曲部が設けられたスタイレットを有している請求項8に記載
の測定用カテーテル。
【請求項14】
生体内へ挿入されて生体内腔の物質を検出するセンサを備えた測定用カテーテルであって、
前記センサを前記生体内腔の壁面へ接近させる接近機構が設けられており、且つ、該接近機構が、該センサを該生体内腔の該壁面への接触状態に保持するものであり、
該接近機構が、カテーテル本体に挿通されるコアワイヤの先端側から長さ方向に延びる複数の線条部
の先端側が周方向で相互に離れ
た自由端とされて拡がるように展開可能な骨格構造体とされており、該線条部の外周面に前記センサが設けられている測定用カテーテル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体内へ挿入されて、生体内の物質を検出するセンサを備えたカテーテルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
生体内に存在する特定の物質を、体外に取り出すことなく、生体内で直接に測定したい場合がある。例えば体外に取り出すことで物質が変質や増減することが懸念される場合や、タイムロスなくダイレクトに生体内物質を把握したい場合などにおいて特に有意である。
【0003】
そこで、生体内腔へ挿入されて生体内腔の物質を直接に検出するセンサを備えたカテーテルが、提案されている。例えば、特許第3691036号公報(特許文献1)には、血液中の一酸化窒素の濃度を測定する化学検査装置が開示されている。また、特開昭63-40532号公報(特許文献2)には、血液中の酸素や炭酸ガス、水素、ナトリウム、カリウム、カルシウム、塩素、グルコース、尿素、尿酸、クレアチニンなどを測定することが、病態の監視などに重要であることが示唆されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第3691036号公報
【文献】特開昭63-40532号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、本発明者が確認したところ、従来の測定用カテーテルでは、得られた測定結果が不安定で信頼性に乏しいという新たな事実がわかった。
【0006】
本発明の解決課題は、生体内腔の物質の測定結果の信頼性を向上させることができる、新規な構造の測定用カテーテルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
以下、このような課題を解決するために為された本発明の態様を記載する。なお、以下に記載の各態様において採用される構成要素は、可能な限り任意の組み合わせで採用可能である。
【0008】
本発明の第1の態様は、生体内へ挿入されて生体内腔の物質を検出するセンサを備えた測定用カテーテルであって、前記センサを前記生体内腔の壁面へ接近させる接近機構が設けられており、且つ、該接近機構が、該センサを該生体内腔の該壁面への接触状態に保持するものであり、該センサが検知部位を覆うハウジングを有しており、該ハウジングには
部分的に開口する窓部が設けられていると共に、該窓部を通じて該検知部位が露出してお
り、且つ、前記接近機構が、該窓部における開口周縁部を前記生体内腔の前記壁面への接
触状態に保持するものである。
【0009】
本態様に従う構造とされた測定用カテーテルによれば、接近機構によってセンサを生体内腔の壁面に近付けることで、生体内腔におけるセンサの検出位置を安定させることができる。その結果、例えば生体内腔を定常的に流動する物質の他、例えば生体内腔の壁面から出る物質などについても、更には生体内腔における位置によって濃度等が異なる物質などについても、安定した位置でより精度よく検出することが可能になる。
【0011】
また、本態様の測定用カテーテルでは、センサと生体内腔の壁面が直接接触することで、生体内腔におけるセンサの測定位置の更なる安定化などが図られ得る。
【0015】
更にまた、本態様の測定用カテーテルでは、例えばハウジングの窓部の位置や大きさ等を適宜に設定することで、センサによる物質の検知方向や検知位置、検知レベルなどを、調節することも可能になる。具体的には、例えばハウジングの窓部を生体内腔の壁面に面する位置に開口させて、更に必要に応じて当該窓部を接近機構によって生体内腔の壁面に接近させることも可能であり、それによって、生体内腔の壁面に近い側に存在する物質を、生体内腔の壁面から遠い側に位置する物質の影響を低減して、精度よく検出することも可能になる。
本発明の第2の態様は、第1の態様に係る測定用カテーテルにおいて、前記窓部の開口
周縁部が、カテーテル本体の外周面よりも前記生体内腔の前記壁面側に向かって外周面上
に突出しているものである。
【0020】
本発明の第3の態様は、第1又は第2の態様に係る測定用カテーテルにおいて、前記接近機構が、収縮状態から拡張状態に拡径変化することで前記センサを前記生体内腔の前記壁面に接近させる拡張体とされているものである。
【0021】
本態様に従う構造とされた測定用カテーテルによれば、例えば、拡張体の外周面が拡張に際して生体内腔の壁面に接近位置することを利用して、拡張体に取り付けられたセンサを生体内腔の壁面に接近支持させるようにしてもよい。或いは、例えば、センサを備えるカテーテル本体を拡張体で押して生体内腔の壁面に近付けることにより、センサを生体内腔の壁面に接近支持させるようにしてもよい。拡張体のより具体的な態様は、以下の第8や第9の態様に例示される。
【0022】
本発明の第4の態様は、第3の態様に係る測定用カテーテルにおいて、前記拡張体がバルーンとされているものである。
【0024】
本発明の第5の態様は、生体内へ挿入されて生体内腔の物質を検出するセンサを備えた
測定用カテーテルであって、前記センサを前記生体内腔の壁面へ接近させる接近機構が設
けられており、且つ、該接近機構が、該センサを該生体内腔の該壁面への接触状態に保持
するものであり、該接近機構がカテーテル本体に挿入されて該カテーテル本体を曲げるガイド部材によって構成されているものである。
【0025】
本態様の測定用カテーテルにおけるガイド部材としては、例えばカテーテル本体に挿入されて基端側からの押し引き操作で先端側のセンサ装着部付近へ曲げ力を及ぼす操作ワイヤや、カテーテル本体に挿通されてカテーテル本体を導くガイドワイヤ、予め屈曲形状にクセ付けされた先端部分が設けられてカテーテル本体に挿入されるスタイレットなどが例示される。このようなガイド部材を用いることで、例えばバルーン等を用いる場合に比して簡単な設備で接近機構が実現可能になる。
本発明の第6の態様は、第5の態様に係る測定用カテーテルにおいて、前記ガイド部材として、前記カテーテル本体に挿入されて先端が該カテーテル本体に固着された操作ワイヤを有しているものである。
本発明の第7の態様は、第6の態様に係る測定用カテーテルにおいて、前記カテーテル本体は、前記操作ワイヤの固着部位よりも基端側において変形許容部を有しているものである。
本発明の第8の態様は、第5~7の何れか1つの態様に係る測定用カテーテルにおいて、前記センサを有するセンサ体が挿通される第1ルーメンと、前記ガイド部材が挿通される第2ルーメンとを備えているものである。
本発明の第9の態様は、第8の態様に係る測定用カテーテルにおいて、前記第2ルーメンの先端が塞がれていると共に、該第2ルーメンの塞がれた先端部分に対して前記ガイド部材としての操作ワイヤの先端が固着されているものである。
本発明の第10の態様は、第8の態様に係る測定用カテーテルにおいて、前記ガイド部材として、屈曲部が設けられたスタイレットを有しているものである。
本発明の第11の態様は、第1~10の何れか1つの態様に係る測定用カテーテルにおいて、前記センサと前記生体内腔の前記壁面との接触圧を測定する接触圧センサが設けられているものである。
本態様の測定用カテーテルでは、接触圧センサの測定値を利用することで、例えばセンサが生体内腔の壁面に接触しているか否かを検知したり、或いは、生体内腔の壁面に対するセンサの過度の押し付けを回避したりすることも可能になる。
本発明の第12の態様は、第1~第11の何れか1つの態様に係る測定用カテーテルにおいて、前記センサが、前記生体内腔の前記壁面で産生される壁産生物質を検出対象とするものである。
本態様の測定用カテーテルでは、例えば生体内腔の壁面に近い位置に存在する物質や、生体内腔の壁面から産生されて比較的短時間で消失してしまうような物質などを対象として、精度よく安定して測定することが可能になる。
本発明の第13の態様は、第1~第12の何れか1つの態様に係る測定用カテーテルにおいて、前記センサが一酸化窒素を検出するNOセンサとされていると共に、前記生体内腔の前記壁面が血管壁の内面とされて、前記接近機構が該血管壁の内面へ該センサを接近させるものである。
本態様の測定用カテーテルでは、例えば特許文献1に記載の従来構造の化学検査装置に比して、一酸化窒素を精度よく検出することができる。即ち、一酸化窒素は血管内皮細胞で産生されて血管中に存在するが、血液中では速やかに、亜硝酸イオンへ酸化されて、血液中に溶け込み輸送されるか、あるいはヘモグロビンと結合して輸送されるため、検出不能となる。本態様の測定用カテーテルでは、血管壁の内面から生まれた血管中の一酸化窒素を効率よく検出することが可能になる。
本発明の第14の態様は、生体内へ挿入されて生体内腔の物質を検出するセンサを備えた測定用カテーテルであって、前記センサを前記生体内腔の壁面へ接近させる接近機構が設けられており、且つ、該接近機構が、該センサを該生体内腔の該壁面への接触状態に保持するものであり、該接近機構が、カテーテル本体に挿通されるコアワイヤの先端側から長さ方向に延びる複数の線条部の先端側が周方向で相互に離れた自由端とされて拡がるように展開可能な骨格構造体とされており、該線条部の外周面に前記センサが設けられているものである。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、生体内腔の物質の測定結果の信頼性を向上させることができる、新規な構造の測定用カテーテルが提供可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】本発明の第1の実施形態としての測定用カテーテルの側面図。
【
図2】本発明の第2の実施形態としての測定用カテーテルの斜視図。
【
図3】本発明の別の実施形態としての測定用カテーテルの斜視図。
【
図4】本発明のまた別の実施形態としての測定用カテーテルの斜視図。
【
図5】本発明の第3の実施形態としての測定用カテーテルの断面図であって、(a)がバルーンの収縮状態を、(b)がバルーンの膨張状態を、それぞれ示す。
【
図6】本発明の別の実施形態としての測定用カテーテルの断面図。
【
図7】本発明の第4の実施形態としての測定用カテーテルの断面図であって、(a)が骨格構造体を展開させる前の状態を、(b)が骨格構造体を展開させた状態を、それぞれ示す。
【
図8】本発明の別の実施形態としての測定用カテーテルの断面図。
【
図9】本発明の第5の実施形態としての測定用カテーテルに用いられる展開構造体の側面図。
【
図10】本発明の第6の実施形態としての測定用カテーテルの断面図であって、
図11のX-X断面に相当する図。
【
図12】本発明の第7の実施形態としての測定用カテーテルの断面図。
【
図13】本発明の第8の実施形態としての測定用カテーテルの断面図であって、(a)がスタイレットを挿入する前の状態を、(b)がスタイレットを挿入した状態を、それぞれ示す。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0029】
図1には、本発明の第1の実施形態としての測定用カテーテル10の一部が、血管12への挿入状態で示されている。測定用カテーテル10は、中空のカテーテル本体14と、カテーテル本体14の先端側に設けられたセンサ16とを備えている。
【0030】
カテーテル本体14は、図示しない内腔を有するチューブ状とされており、生体内腔である血管12の内腔17へ経皮的に挿入されている。カテーテル本体14は、適度な可撓性を有する材料、例えばエチレン-テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、ポリウレタン、ポリエーテルポリアミドなどの各種合成樹脂や、ステンレス鋼などの金属によって形成されており、血管12の湾曲に対応して湾曲変形可能とされている。なお、カテーテル本体14は、合成樹脂製のチューブを金属製のメッシュなどによって補強した構造を採用することもできる。
【0031】
センサ16は、ハウジング18が検知部位としての検出部20を覆うように設けられた構造を有している。ハウジング18は、全体として中空の円筒状とされており、内部空間がカテーテル本体14の内腔に連通されている。ハウジング18は、周壁部の一部を貫通して側方へ開口する窓部22を備えている。また、ハウジング18の先端側には、先細の先端チップ24が設けられている。なお、窓部22は、ハウジング18の周壁部に設けられる態様に限定されず、例えば、ハウジング18の先端面に開口するように設けることもできる。
【0032】
検出部20は、接触する一酸化窒素(以下、NO)を電極法(電気化学式)などの各種公知の検出原理によって検出するものであって、ハウジング18に収容されている。なお、検出部20の特定の面が接触するNOを検出可能な検出面とされる場合には、当該検出面がハウジング18の窓部22に向けて位置決めされていることが望ましい。なお、センサ16の検出部20としては、例えば、特許第3691036号公報にも記載されたInnovative Instruments社製のNOセンサなど、各種公知のNOセンサが採用され得る。検出部20は、血管12の内腔17内のNOを検出対象とするが、特に血管12の壁内(内皮細胞)において産生される壁産生物質としてのNOを、主たる検出対象とする。そこで、センサ16は、検出部20の血管壁28に近い側面が、ハウジング18の窓部22を通じて露出している。また、センサ16は、検出部20の血管壁28から遠い側面が、ハウジング18によって覆われている。これらにより、血管壁28の壁内面29に近い位置のNOが、血管壁28の壁内面29から遠い位置のNOよりも検出され易くなっている。本実施形態では、血管12の内腔17が生体内腔とされており、血管壁28の壁内面29が生体内腔の壁面とされている。
【0033】
検出部20に接続された図示しないセンサ配線が、検出部20から基端側へ延びており、カテーテル本体14に挿通されている。センサ配線は、例えば、導電体の芯線の周囲が絶縁体で覆われたリード線とされる。そして、カテーテル本体14の基端側へ取り出されたセンサ配線が、図示しない測定用機器などに接続されることにより、センサ16の検出信号に基づいたNOの測定が可能とされている。
【0034】
ハウジング18の周壁部における窓部22と反対側(
図1中の下側)には、接近機構としてのバルーン26が設けられている。このバルーン26は、ハウジング18の外周側に設けられており、外部からの操作によって膨らませることが可能とされた拡張体とされている。バルーン26は、膨らませた状態から再度窄ませることも可能とされていることが望ましい。
【0035】
そして、測定用カテーテル10の先端部分が、バルーン26を窄ませて畳んだ状態で血管12内へ経皮的に挿入された後、バルーン26に液体又は気体を送り込んで、
図1に示すようにバルーン26を膨らませる。これにより、バルーン26がハウジング18の側方へ膨らんで、バルーン26が血管壁28の壁内面29に押し付けられる。そして、バルーン26の血管壁28への当接に対する反力がハウジング18に及ぼされて、ハウジング18が窓部22の開口する側方へ向けて付勢される。その結果、ハウジング18を含むセンサ16が窓部22の開口する方向で血管壁28の壁内面29に近付いて、ハウジング18に収容された検出部20が
図1中における上側の血管壁28の壁内面29に接近する。
【0036】
このように、センサ16がバルーン26によって血管壁28の壁内面29に近付けられることにより、血管12内においてセンサ16の検出位置を安定させることができる。それ故、血液とともに流動するNOや、血管壁28の内皮細胞において算出されるNOなどを、安定した位置でより精度よく検出することが可能になる。
【0037】
特に、センサ16の測定対象であるNOは、血管壁28の内皮細胞で産生されて血管12中に存在するが、半減期が短く、血液中では速やかに、亜硝酸イオンへ酸化されて血液中に溶け込み輸送されるか、あるいはヘモグロビンと結合して輸送されるため、検出不能となる。測定用カテーテル10では、センサ16が血管壁28に近付けられることから、血管12の壁内面29において産生された壁産生物質としてのNOを、効率よく検出することが可能になる。さらに、測定用カテーテル10では、センサ16が血管壁28に近付けられることから、NOをリアルタイムで検出することが可能であり、例えば、NOの濃度変化を測定することなどもできる。
【0038】
また、センサ16の検出部20が血管壁28に近付けられることにより、血管壁28の内皮細胞において産生されたNOが、ヘモグロビンと結合する前に検出部20において検出され易くなる。それ故、血管壁28の内皮細胞において産生されるNOの量を、センサ16によって正確に測定することができる。
【0039】
例えば、血管12の壁内面29を構成する内皮細胞において産生されるNOは、血管12を弛緩させる役割がある。このように人体に何らかの作用を及ぼしたり、或いは人体の何らかの変化で量が変動するような生体内腔の物質を、生体内腔において直接に測定してダイレクトに把握すれば、例えば動脈硬化などの疾患を未然に発見したり、早期に対処したりすることも可能になる他、手術中の急変への対応にも指標を与えることができるなど、本発明による新たな効果が発揮される。
【0040】
本実施形態のセンサ16は、NOを検出する検出部20がハウジング18に収容されており、ハウジング18の窓部22を通じて検出部20に触れたNOが検出されるようになっている。それ故、例えばハウジング18の窓部22の位置や大きさ等を適宜に設定することで、センサ16による物質の検知方向や検知位置、検知レベルなどを、調節することも可能になる。本実施形態では、ハウジング18の窓部22が血管壁28に面する位置に開口して形成されており、窓部22がバルーン26によって血管壁28に接近させられるようになっている。それ故、血管壁28に近い側に存在するNOを、血管壁28から遠い側に存在するNOの影響を低減して、精度よく検出することが可能であり、血管壁28のNO産生能を把握することができる。
【0041】
本実施形態の測定用カテーテル10は、センサ16の検出対象が血管壁28で産生される壁産生物質としてのNOとされている。そして、上述のように、センサ16が血管壁28に近い位置に接近させられると共に、センサ16の検出部20がハウジング18に収容されて、ハウジング18の窓部22が血管壁28に接近させられる。それ故、血管壁28において産生されたNOを、酸化やヘモグロビンとの結合を生じる前に、精度よく安定して測定することができる。
【0042】
また、検出部20がハウジング18に収容されており、ハウジング18がバルーン26の血管壁28への当接反力によって押圧されることから、バルーン26の当接反力が検出部20に直接及ぼされるのを防ぐことができる。
【0043】
なお、ハウジング18における窓部22の開口周縁部を、バルーン26によって血管壁28の壁内面29に対する接触状態に保持することもできる。これによれば、センサ16と血管壁28が直接接触することで、血管12内におけるセンサ16の測定位置の更なる安定化などが図られ得る。さらに、血管壁28の内皮細胞において産生されたNOが、血流に触れ難い状態でハウジング18内に回収されることから、血管壁28の内皮細胞におけるNOの産生能をより高精度に測定することが可能になる。
【0044】
さらに、ハウジング18における窓部22の開口周縁部を血管壁28に接触させる場合には、血液のハウジング18内への浸入を低減乃至は回避しつつ、ハウジング18の血管壁28への接触圧を小さくすることが望ましい。ハウジング18の血管壁28への接触圧は、例えば、接触圧を測定する接触圧センサをハウジング18に設けるなどして確認することもできる。
【0045】
また、ハウジング18の窓部22を覆うように検出すべき物質を透過する選択膜を設けることもできる。すなわち、本実施形態では、血液中の赤血球の通過を制限乃至は阻止するとともにNOの通過を許容するガス透過膜が、ハウジング18の窓部22を覆うように設けられることにより、ハウジング18内への赤血球(ヘモグロビン)の浸入を低減乃至は回避することができる。NOの通過を許容し得るガス透過膜としては、例えば、高分子材料で形成されており、特に無定形高分子によって形成されることで優れた気体透過性が実現され得る。すなわち、2~10nm程度の比較的に大きな分子間隙を有するポリマーで形成することにより、NOの通過を十分に許容すると共に、直径7~8μm且つ厚さ2μmほどの大きさである赤血球が、ガス透過膜の分子間隙を通過するのを制限できる。
【0046】
さらに、ハウジング18の窓部22を選択膜(例えばガス透過膜)で覆う場合には、ハウジング18内が検出液で満たされていてもよい。本実施形態では、生理食塩液などのNO可溶性且つ人体への影響が問題にならない液体が、検出液として採用される。もっとも、検出液には、検出すべき物質を溶かしにくい溶媒を採用してもよく、どちらの溶媒を用いた場合にも、血液と検出液の圧力や電位、濃度などの勾配によって、血管12内のNOが選択膜を透過するようにできる。そして、選択膜を透過したNOが、ハウジング18内の検出液に溶けて、検出液中のNOが、検出液中に配された検出部20によって検出される。
【0047】
図2には、本発明の第2の実施形態としての測定用カテーテル30が部分的に示されている。測定用カテーテル30は、カテーテル本体32に拡張体としてのバルーン34が装着された構造を有している。バルーン34は、カテーテル本体32の外周を囲むように設けられて、先端と基端がカテーテル本体32の外周面に固着されている。そして、カテーテル本体32の内腔を通じてバルーン34内に液体又は気体が送り込まれることにより、バルーン34を膨らませることが可能とされている。
【0048】
バルーン34には、センサ36が固着されている。本実施形態のセンサ36は、シート状のNOセンサであって、バルーン34の外周面に固着されている。なお、センサ36の検出信号を図示しない測定用機器へ伝達する手段としては、センサ36からカテーテル本体32の基端側へ延びて測定用機器に接続されるセンサ配線を設けてもよいし、センサ36の検出信号を無線信号として測定用機器に送信する無線送信装置を設けてもよい。
【0049】
このような構造とされた測定用カテーテル30は、バルーン34を窄めた状態で図示しない血管内へ経皮的に挿入された後、バルーン34を膨らませる。なお、図中では省略したが、カテーテル本体32およびバルーン34は、図示しないデリバリーカテーテルに挿入された状態で血管内へ挿入され、バルーン34をデリバリーカテーテルよりも先端側へ突出させた状態で、バルーン34を膨らませるようにしてもよい。
【0050】
そして、バルーン34の外周面に固着されたセンサ36が、バルーン34の膨張に伴って血管壁に接近することで、血管壁の内皮細胞において産生されるNOをセンサ36によって精度よく検出して測定することができる。なお、バルーン34の膨張状態において、センサ36は、血管壁の内面に接触していてもよいし、血管壁の内面から離れていてもよい。センサ36がバルーン34の内圧によって血管壁に接触していれば、NOの検出において血流の影響を低減できると共に、柔軟なバルーン34および薄膜状のセンサ36の接触であることから、血管内皮の損傷も起こり難い。センサ36が血管壁から離れていれば、センサ36やバルーン34の接触による血管壁の内皮細胞の損傷を、より確実に防ぐことができると共に、バルーン34の血流への影響も軽減される。
【0051】
図2では、バルーン34の径方向両側において一対のセンサ36,36がバルーンの外周面に固着された例を示したが、バルーン34に固着されるセンサ36の数や配置は特に限定されない。具体的には、
図3に示す測定用カテーテル40のように、長手方向の複数箇所において、一対のセンサ36,36がそれぞれ固着されていてもよい。また、
図3の測定用カテーテル40では、バルーン34の表面に、バルーン34と血管壁28との接触圧を測定する接触圧センサ42が設けられている。接触圧センサ42は、例えば圧電センサとされて、血管壁28とバルーン34の間で挟まれることによって、作用圧力に応じた電圧が生じるようになっている。そして、接触圧センサ42で生じた電圧が、図示しない測定用機器において処理されることにより、接触圧センサ42に作用した圧力が測定される。このように、接触圧センサ42が設けられていることにより、バルーン34に設けられたセンサ36が血管壁28に接しているか否か、更にはセンサ36が血管壁28に対してどの程度の強さで接しているかを、接触圧センサ42の検出結果に基づいて把握することができる。従って、バルーン34の内圧を接触圧センサ42の検出結果に基づいて調節するなどして、血管壁28に対するセンサ36の過度な押し付けを防ぐことができる。
【0052】
なお、
図4に示す測定用カテーテル50のように、2つのバルーン34,34をカテーテル本体32の長手方向で並べて設けることもできる。
図4では、2つのバルーン34,34が設けられているが、例えば、3つ以上のバルーンを設けることもできる。また、血管内で血流の上流側に位置するバルーン34を、血流を一時的に遮断乃至は低減するためのオクルージョンバルーンとして利用して、下流側のバルーン34によって血流の影響が少ない状態でNOを測定することも可能である。この場合には、
図4のように各バルーン34にセンサ36が固着されている必要はなく、下流側のバルーン34だけにセンサ36が設けられ得る。
【0053】
図5には、本発明の第3の実施形態としての測定用カテーテル60が部分的に示されている。測定用カテーテル60は、デリバリーカテーテル62に対して、バルーンカテーテル64とセンサ体66が挿入された構造を有している。
【0054】
デリバリーカテーテル62は、シングルルーメン構造の柔軟なチューブ状とされている。そして、
図5(a)に示すように、デリバリーカテーテル62の1つのルーメン68に対して、バルーンカテーテル64とセンサ74の両方が挿入されている。
【0055】
バルーンカテーテル64は、中空のシャフト70に対して拡張体としてのバルーン72が外挿状態で取り付けられて、バルーン72の先端側と基端側の各端部がシャフト70に固着された構造を有している。そして、シャフト70の内腔を通じてバルーン72に液体又は気体を送入することで、バルーン72を膨らませて拡径変化させることが可能とされている。
【0056】
センサ体66は、NOを測定するセンサ74と、センサ74に接続されて基端側へ延びるセンサ配線76とを、備えている。センサ配線76は、例えば、導電体の周囲に絶縁皮膜を備えるリード線であって、基端側が図示しない測定用機器に接続されている。そして、センサ74の検出信号が、センサ配線76によって測定用機器に伝達されている。
【0057】
そして、測定用カテーテル60を経皮的に血管12の内腔17へ挿入した状態で、例えば、デリバリーカテーテル62をバルーンカテーテル64およびセンサ体66に対して基端側へ移動させることにより、バルーンカテーテル64およびセンサ体66をデリバリーカテーテル62よりも先端側へ突出させる。
図5(b)に示すように、デリバリーカテーテル62から突出したバルーンカテーテル64のバルーン72を、センサ体66と
図5(b)における血管壁28の下側部分との間で膨らませることにより、センサ74を
図5(b)における血管壁28の上側部分に接近させる。このように、本実施形態の接近機構は、バルーンカテーテル64のバルーン72で構成されている。センサ体66のセンサ配線76は、膨らんだバルーン72の接触によって曲がる程度の柔軟性を有していることが望ましい。なお、センサ体66は、必ずしもバルーン72の上側に位置しなくてもよく、バルーン72に対する相対的な位置を限定されるものではない。
【0058】
図5の測定用カテーテル60では、デリバリーカテーテル62がシングルルーメン構造とされており、バルーンカテーテル64とセンサ体66が同じルーメン68に挿入されている。しかしながら、例えば、
図6に示す測定用カテーテル80のように、ダブルルーメン構造のデリバリーカテーテル82を採用することもできる。デリバリーカテーテル82は、バルーンカテーテル64が挿入される第1ルーメン84と、センサ体66が挿入される第2ルーメン86とが、互いに独立して設けられている。これによれば、バルーンカテーテル64とセンサ体66がデリバリーカテーテル82内で相互に干渉するのを防ぐことができる。また、バルーンカテーテル64とセンサ体66の相対的な位置関係を設定しやすくなって、センサ74の血管壁28に対する接近量を精度よく設定することなども可能になる。
【0059】
図7には、本発明の第4の実施形態としての測定用カテーテル90が部分的に示されている。測定用カテーテル90は、シングルルーメン構造のデリバリーカテーテル62に対して、センサ体94が挿入された構造を有している。
【0060】
センサ体94は、コアワイヤ96に拡張体としての骨格構造体98が取り付けられた構造を有している。骨格構造体98は、NiTi合金やステンレス鋼などで形成された線条部100を複数備えている。骨格構造体98は、展開状態に拡径変化可能とされており、例えば、骨格構造体98自体の弾性や形状記憶効果によって、展開状態に拡径変化するようになっている。本実施形態の骨格構造体98は、線条部100がNiTi合金で形成されており、形状記憶効果によって展開状態に拡径変化するようになっている。そして、骨格構造体98は、デリバリーカテーテル62に挿入された状態において、
図7(a)に示すように、デリバリーカテーテル62によって小径の収縮状態に保持される。また、骨格構造体98は、デリバリーカテーテル62から先端側へ出されることで、
図7(b)に示すように、超弾性によって自動的に拡径変化するようになっている。もっとも、骨格構造体98を拡径変化させる機構は、特に限定されるものではなく、例えば、骨格構造体98の内周側に位置するコアワイヤ96の外周面にバルーンを設けて、当該バルーンを膨らませることで、骨格構造体98をバルーンで押し広げて拡径変化させることも可能である。また、例えば、骨格構造体98をヒーターで加温することで、骨格構造体98の形状記憶効果を発現させて、骨格構造体98を拡径変化させることもできる。
【0061】
骨格構造体98の各線条部100には、NOを測定するセンサ36が取り付けられている。センサ36は、全ての線条部100に取り付けられていてもよいし、選択された線条部100にのみ取り付けられていてもよい。なお、センサ36は、展開状態の骨格構造体98において、外周面に位置するように配されていることが好ましい。
【0062】
そして、デリバリーカテーテル62が経皮的に図示しない血管へ挿入されると共に、デリバリーカテーテル62をセンサ体94に対して基端側へ相対変位させることにより、センサ体94の骨格構造体98がデリバリーカテーテル62に対して先端側へ突出する。これにより、デリバリーカテーテル62による骨格構造体98の拘束が解除されて、骨格構造体98が展開状態に自動的に拡径変化する。これにより、
図7(b)に示すように、骨格構造体98の線条部100に固着されたセンサ36が、図示しない血管壁に接近する。
【0063】
なお、
図7に示す骨格構造体98はあくまでも例示であって、骨格構造体の具体的な構造は特に限定されるものではない。具体的には、例えば、
図8に示す測定用カテーテル110の骨格構造体112のように、複数の線条部114が基端側でコアワイヤ116につながっていると共に、それら複数の線条部114が先端側で相互に離れている構造なども採用され得る。この骨格構造体112は、デリバリーカテーテル62から先端側へ出されることで、先端側が拡がるように展開して、線条部114に設けられたセンサ36を図示しない血管壁に接近させる。
【0064】
図9には、本発明の第5の実施形態としての測定用カテーテル120が示されている。測定用カテーテル120は、シングルルーメン構造のデリバリーカテーテル62と、デリバリーカテーテル62に収容される骨格構造体としてのステント122とを、備えている。なお、
図9には、ステント122がデリバリーカテーテル62から先端側へ出されて、血管12内で拡張した状態が示されている。
【0065】
ステント122は、複数の線条部124が先端側と基端側の両端部においてリング部材126で固定された構造を有している。本実施形態の線条部124は、中間部分で二股に分岐した構造とされているが、ストラットの構造は特に限定されない。また、線条部124とリング部材126,126は、一体であってもよく、例えば、金属製の筒材を切削加工して、複数の線条部124とリング部材126,126とを一体的に切り出した構造なども採用され得る。
【0066】
ステント122の線条部124には、NOを測定するセンサ36が取り付けられている。さらに、線条部124には、血管壁28に対する接触圧を測定する接触圧センサ42が取り付けられている。本実施形態では、線条部124の長さ方向の中央部分にセンサ36が配置されていると共に、線条部124におけるセンサ36の両側に接触圧センサ42が配置されている。
【0067】
このステント122がデリバリーカテーテル62に収縮状態で挿入されることにより、本実施形態の測定用カテーテルが構成される。そして、デリバリーカテーテル62が血管12内へ経皮的に挿入されると共に、ステント122がデリバリーカテーテル62の先端側へ押し出されることにより、ステント122が展開状態に拡径変化する。そして、拡張したステント122の線条部124が血管壁28に押し付けられることで、ステント122が血管12内に留置される。これにより、線条部124に取り付けられたセンサ36は、ステント122の拡張によって血管壁28に接近せしめられて、血管壁28の壁内面29に対する接触状態に保持される。従って、本実施形態の接近機構は、ステント122の自己拡張によって構成される。
【0068】
ステント122が血管12の内腔17に留置された状態において、各線条部124の血管壁28への接触圧が接触圧センサ42によって測定される。それ故、各線条部124が血管壁28に接しているか否か、更には血管壁28にどの程度の強さで接しているかを、接触圧センサ42の測定結果に基づいて把握することが可能とされている。
【0069】
また、血管壁28に接する線条部124に設けられたセンサ36によって、血管壁28の内皮細胞におけるNOの産生量が測定される。本実施形態では、センサ36が血管壁28に接していることから、NOの測定において血液の影響を受け難く、血管壁28の内皮細胞におけるNO産生量をより高い信頼性で測定することができる。
【0070】
本実施形態における接触圧センサ42およびセンサ36は、ステント122が血管12の内腔17に留置された状態において、例えば、検出信号を無線通信によって血管12内から体外の測定用機器へ送信するようにもできる。これによれば、検出信号を取り出すためのセンサ配線が不要になることから、例えば、長い期間に亘って継続的に検出を行う場合に、センサ配線を血管12へ経皮的に挿入した状態を維持する必要がなくなる。
【0071】
また、センサ36を血管壁28に接近させる接近機構が、ステント122によって構成されていることから、センサ36を血管壁28の壁内面29に接触させた状態で保持しても、血流を大きく阻害することがない。
【0072】
図10には、本発明の第6の実施形態としての測定用カテーテル130が部分的に示されている。測定用カテーテル130は、中空のカテーテル本体132を備えている。カテーテル本体132は、略チューブ状とされており、周壁の一部が金属線材を螺旋状に密に巻回してなるコイル状の変形許容部134とされている。カテーテル本体132における変形許容部134の先端側の開口は、先端面を半球状に丸められた先端チップ136によって塞がれている。
【0073】
カテーテル本体132には、コアワイヤ138が挿入されている。コアワイヤ138は、長手状とされて、先端に向けて次第に小径となる先細テーパ形状を有している。コアワイヤ138は、先端部分が先端チップ136に固着されている。このコアワイヤ138によって、測定用カテーテル130の形状安定性が調節されており、例えば、カテーテル本体132の変形許容部134における不要な屈曲が防止されている。
【0074】
カテーテル本体132には、ガイド部材としての操作ワイヤ140が挿入されている。操作ワイヤ140は、先端が変形許容部134乃至は先端チップ136に固着されている。そして、操作ワイヤ140をカテーテル本体132に対して先端側へ押し込むあるいは基端側へ引くことにより、カテーテル本体132を変形許容部134において曲げることができる。
【0075】
カテーテル本体132には、センサ配線142が挿入されている。センサ配線142は、絶縁皮膜を備えたリード線であって、先端部が先端チップ136に固着されていると共に、先端部がセンサ144に接続されている。センサ144は、NOセンサであって、先端チップ136に埋め込まれた状態で固着されて、先端チップ136の外周面に露出している。センサ配線142は、例えば、センサ144の検出信号を測定用カテーテル130の基端側へ伝達する。なお、本実施形態のセンサ配線142は、
図11に示すように、3つの芯線を有しており、センサ144における図示しない作用電極と対極と参照電極とに接続されている。
【0076】
測定用カテーテル130は、図示しない血管に対して経皮的に挿入される。血管に挿入された測定用カテーテル130は、操作ワイヤ140をカテーテル本体132に対して先端側へ押し込むことにより、変形許容部134において曲げられる。これにより、測定用カテーテル130の先端部分に設けられたセンサ144が、
図10中の上側へ移動して、図示しない血管壁に接近する。その結果、血管内においてセンサ144の位置が安定すると共に、検出結果に対する血液の影響が低減される。なお、本実施形態では、操作ワイヤ140を先端側へ押し込むことによってセンサ144が血管壁に接近するが、操作ワイヤ140を基端側へ引くことによってセンサ144が血管壁に接近するようにもできる。
【0077】
本実施形態の構造によれば、接近機構がカテーテル本体132に挿入された操作ワイヤ140で構成されることから、接近機構としてバルーンを用いる場合に比して、バルーンを膨らませる装置などが不要となって、接近機構をより簡単に実現することができる。
【0078】
図12には、本発明の第7の実施形態としての測定用カテーテル150が部分的に示されている。測定用カテーテル150は、カテーテル本体152にセンサ体66が挿入された構造を有している。
【0079】
カテーテル本体152は、チューブ状とされて、ルーメン154が長さ方向に貫通して設けられている。カテーテル本体152は、周壁部の一部が2重構造とされて、ワイヤ挿入領域156が形成されている。カテーテル本体152のワイヤ挿入領域156には、ガイド部材としての操作ワイヤ158が挿入されており、操作ワイヤ158の先端部分が、ワイヤ挿入領域156の壁部に接着剤159によって接着されて、カテーテル本体152に固着されている。
【0080】
カテーテル本体152のルーメン154には、センサ体66が挿入されている。センサ体66は、センサ74と、センサ74から基端側へ延びて図示しない測定用機器に接続されるセンサ配線76とを、備えている。
【0081】
そして、測定用カテーテル150は、図示しない血管内において、操作ワイヤ158をカテーテル本体152に対して先端側へ押し込むあるいは基端側へ引くことにより、カテーテル本体152の先端部分を曲げることが可能とされている。すなわち、
図12において、操作ワイヤ158を押し込むと、カテーテル本体152の先端部分が先端に向けて下傾するように曲がる。
図12において、操作ワイヤ158を引くと、カテーテル本体152の先端部分が先端に向けて上傾するように曲がる。これにより、カテーテル本体152に挿入されたセンサ体66が曲げられて、センサ74が血管壁に接近する。その結果、センサ74の血管内での位置が安定すると共に、センサ74によるNOの検出結果に対する血液の影響が低減されることから、測定の精度や信頼性などの向上が図られる。
【0082】
本実施形態の構造によれば、接近機構がカテーテル本体152に挿入された操作ワイヤ158で構成されることから、接近機構をより簡単に実現することができる。
【0083】
図13には、本発明の第8の実施形態としての測定用カテーテル160を示す。測定用カテーテル160は、カテーテル本体162を備えている。カテーテル本体162は、第1ルーメン164と第2ルーメン166を有するダブルルーメン構造とされており、第1ルーメン164にセンサ体66が挿入されている。
【0084】
そして、カテーテル本体162が図示しない血管へ経皮的に挿入された状態において、カテーテル本体162の第2ルーメン166にガイド部材としてのスタイレット168が挿入される。スタイレット168は、カテーテル本体162よりも硬い部材であって、棒状とされている。スタイレット168には屈曲部170が設けられており、スタイレット168は、屈曲部170よりも先端側が基端側に対して相対的に傾斜している。
【0085】
これにより、スタイレット168がカテーテル本体162の第2ルーメン166に挿入されると、スタイレット168の屈曲部170よりも先端側によってカテーテル本体162が押圧されて、カテーテル本体162がスタイレット168に沿って部分的に曲げられる。これにより、カテーテル本体162の先端部分が血管壁28に接近して、センサ74が血管壁28に接近する。その結果、センサ74の血管内での位置が安定すると共に、センサ74によるNOの検出結果に対する血液の影響が低減されることから、測定の精度や信頼性などの向上が図られる。本実施形態では、センサ74を血管壁28に接近させる接近機構が、カテーテル本体162に挿入されるスタイレット168によって構成されている。
【0086】
本実施形態の構造によれば、接近機構がカテーテル本体162の第2ルーメン166にスタイレット168を挿入することで構成されることから、接近機構をより簡単に実現することができる。
【0087】
以上、本発明の実施形態について詳述してきたが、本発明はその具体的な記載によって限定されない。例えば、ガイド部材としてのガイドワイヤを予め血管内で血管壁に近い位置へ挿入しておいて、センサを備えるカテーテル本体を当該ガイドワイヤに外挿状態で沿わせながら血管へ挿入することにより、センサを血管壁に接近するように導くこともできる。
【0088】
前記実施形態では、血管壁で産生されるNOを測定する測定用カテーテルを例示したが、本発明に係る測定用カテーテルで測定される物質は、NOに限定されない。例えば、酸素や炭酸ガスなどのガス状物質、滲出性タンパク質、オータコイドやホルモンなどの生理活性物質、サイトカイン、酸化ストレスマーカー、血管内皮増殖因子(VEGF)、神経伝達物質、その他、水素、ナトリウム、カリウム、カルシウム、塩素、グルコース、尿素、尿酸、クレアチニンなど、各種物質が測定対象となり得る。また、測定用カテーテルは、血管内以外の生体内腔の物質を測定するために用いることもできる。なお、生体内腔とは、体内に存在する領域であればよく、胸腔、心腔、腹腔などの体腔内部や、消化器、呼吸器などの管腔臓器、耳や鼻などの感覚器官の内部を含む。また、測定用カテーテルによって測定される物質は、必ずしも生体内腔の壁内で産生される物質に限定されない。
【0089】
前記実施形態において示したセンサの具体的な形状や検出原理などは、あくまでも例示であって、特に限定されるものではない。すなわち、センサの具体的な形状は、センサを支持する部材の形状や大きさ、或いは生体内腔におけるセンサ挿入箇所の大きさなどによって、適宜に変更される。センサの検出原理は、要求される検出精度や、検出対象物質の種類などに応じて適宜に変更される。
【0090】
さらに、生体内腔の物質を検出するセンサと、基本的な生体の機能(バイタルサイン)を測定するセンサなどの別のセンサとを、組み合わせて採用することも可能である。これによれば、生体内腔における物質の産生量と、基本的な生体機能の状態などとを、相互に関連付けることが可能となる。なお、基本的な生体の機能を測定するセンサとしては、例えば、温度センサ、血圧センサ、血流速センサ、pHセンサなどがある。
【0091】
本発明に係る測定用カテーテルは、治療用カテーテルとしての側面を持ち得る。例えば、バルーンの表面にセンサを設ける態様の測定用カテーテルは、バルーン拡張式血管形成術において治療用カテーテルとして使用することも可能であり、この場合には、血管治療に使用すると同時に生体内腔の物質を測定できる。
また、本発明は、もともと以下(i)~(x)に記載の各発明を何れも含むものであり、その構成および作用効果に関して、付記しておく。
本発明は、
(i) 生体内へ挿入されて生体内腔の物質を検出するセンサを備えた測定用カテーテルであって、前記センサを前記生体内腔の壁面へ接近させる接近機構が設けられている測定用カテーテル、
(ii) 前記接近機構が、前記センサを前記生体内腔の前記壁面への接触状態に保持するものである(i)に記載の測定用カテーテル、
(iii) 前記センサと前記生体内腔の前記壁面との接触圧を測定する接触圧センサが設けられている(i)又は(ii)に記載の測定用カテーテル、
(iv) 前記センサが検知部位を覆うハウジングを有していると共に、該ハウジングには部分的に開口する窓部が設けられている(i)~(iii)の何れか1項に記載の測定用カテーテル、
(v) 前記センサが、前記生体内腔の前記壁面で産生される壁産生物質を検出対象とするものである(i)~(iv)の何れか1項に記載の測定用カテーテル、
(vi) 前記センサが一酸化窒素を検出するNOセンサとされていると共に、前記生体内腔の前記壁面が血管壁の内面とされて、前記接近機構が該血管壁の内面へ該センサを接近させる(i)~(v)の何れか1項に記載の測定用カテーテル、
(vii) 前記接近機構が、収縮状態から拡張状態に拡径変化することで前記センサを前記生体内腔の前記壁面に接近させる拡張体とされている(i)~(vi)の何れか1項に記載の測定用カテーテル、
(viii) 前記拡張体がバルーンとされている(vii)に記載の測定用カテーテル、
(ix) 前記拡張体が複数の線条部を備えて展開可能な骨格構造体とされている(vii)に記載の測定用カテーテル、
(x) 前記接近機構がカテーテル本体に挿入されて該カテーテル本体を曲げるガイド部材によって構成されている(i)~(vi)の何れか1項に記載の測定用カテーテル、
に関する発明を含む。
上記(i)に記載の発明では、接近機構によってセンサを生体内腔の壁面に近付けることで、生体内腔におけるセンサの検出位置を安定させることができる。その結果、例えば生体内腔を定常的に流動する物質の他、例えば生体内腔の壁面から出る物質などについても、更には生体内腔における位置によって濃度等が異なる物質などについても、安定した位置でより精度よく検出することが可能になる。
上記(ii)に記載の発明では、センサと生体内腔の壁面が直接接触することで、生体内腔におけるセンサの測定位置の更なる安定化などが図られ得る。
上記(iii)に記載の発明では、接触圧センサの測定値を利用することで、例えばセンサが生体内腔の壁面に接触しているか否かを検知したり、或いは、生体内腔の壁面に対するセンサの過度の押し付けを回避したりすることも可能になる。
上記(iv)に記載の発明では、例えばハウジングの窓部の位置や大きさ等を適宜に設定することで、センサによる物質の検知方向や検知位置、検知レベルなどを、調節することも可能になる。具体的には、例えばハウジングの窓部を生体内腔の壁面に面する位置に開口させて、更に必要に応じて当該窓部を接近機構によって生体内腔の壁面に接近させることも可能であり、それによって、生体内腔の壁面に近い側に存在する物質を、生体内腔の壁面から遠い側に位置する物質の影響を低減して、精度よく検出することも可能になる。
上記(v)に記載の発明では、例えば生体内腔の壁面に近い位置に存在する物質や、生体内腔の壁面から産生されて比較的短時間で消失してしまうような物質などを対象として、精度よく安定して測定することが可能になる。
上記(vi)に記載の発明では、例えば特許文献1に記載の従来構造の化学検査装置に比して、一酸化窒素を精度よく検出することができる。即ち、一酸化窒素は血管内皮細胞で産生されて血管中に存在するが、血液中では速やかに、亜硝酸イオンへ酸化されて、血液中に溶け込み輸送されるか、あるいはヘモグロビンと結合して輸送されるため、検出不能となる。本態様の測定用カテーテルでは、血管壁の内面から生まれた血管中の一酸化窒素を効率よく検出することが可能になる。
上記(vii)に記載の発明では、例えば、拡張体の外周面が拡張に際して生体内腔の壁面に接近位置することを利用して、拡張体に取り付けられたセンサを生体内腔の壁面に接近支持させるようにしてもよい。或いは、例えば、センサを備えるカテーテル本体を拡張体で押して生体内腔の壁面に近付けることにより、センサを生体内腔の壁面に接近支持させるようにしてもよい。拡張体のより具体的な態様は、上記(viii)や(ix)の態様に例示される。
上記(x)に記載の発明におけるガイド部材としては、例えばカテーテル本体に挿入されて基端側からの押し引き操作で先端側のセンサ装着部付近へ曲げ力を及ぼす操作ワイヤや、カテーテル本体に挿通されてカテーテル本体を導くガイドワイヤ、予め屈曲形状にクセ付けされた先端部分が設けられてカテーテル本体に挿入されるスタイレットなどが例示される。このようなガイド部材を用いることで、例えばバルーン等を用いる場合に比して簡単な設備で接近機構が実現可能になる。
【符号の説明】
【0092】
10,30,40,50,60,80,90,110,120,130,150,160:測定用カテーテル、12:血管、16,36,74,144:センサ、17:内腔(生体内腔)、18:ハウジング、20:検出部(検知部位)、22:窓部、26,34,72:バルーン(接近機構、拡張体)、28:血管壁、29:壁内面(生体内腔の壁面)、42:接触圧センサ、98,112:骨格構造体(接近機構、拡張体)、100,114,124:線条部、122:ステント(接近機構、拡張体)、132,152,162:カテーテル本体、140,158:操作ワイヤ(接近機構、ガイド部材)、168:スタイレット(接近機構、ガイド部材)