(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-18
(45)【発行日】2023-12-26
(54)【発明の名称】多層フィルム及び包装体
(51)【国際特許分類】
B32B 27/32 20060101AFI20231219BHJP
B32B 27/30 20060101ALI20231219BHJP
B32B 25/16 20060101ALI20231219BHJP
B65D 65/40 20060101ALI20231219BHJP
【FI】
B32B27/32 D
B32B27/30 B
B32B25/16
B65D65/40 D
(21)【出願番号】P 2019062545
(22)【出願日】2019-03-28
【審査請求日】2022-02-18
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002141
【氏名又は名称】住友ベークライト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100194250
【氏名又は名称】福原 直志
(74)【代理人】
【識別番号】100181722
【氏名又は名称】春田 洋孝
(74)【代理人】
【識別番号】100140718
【氏名又は名称】仁内 宏紀
(72)【発明者】
【氏名】大矢 善亨
【審査官】馳平 憲一
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-162073(JP,A)
【文献】特開平09-314772(JP,A)
【文献】特開2003-165566(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
B65D 65/00-65/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオレフィン樹脂、及びスチレン・ブタジエン共重合体の水素添加物を含む外層と、
芳香族環を有するポリアミド樹脂を含む酸素バリア層と、
ポリオレフィン樹脂を含むシーラント層と、
がこの順に積層され
た、レトルト食品の包装用の多層フィルムであって、
前記酸素バリア層中の芳香族環を有するポリアミド樹脂の含有量が、前記多層フィルムの総質量に対して、
45~60質量%であ
り、
前記多層フィルムは、レトルト処理前後における酸素透過度の低下が、1ml/m
2
以下である多層フィルム。
【請求項2】
前記シーラント層が、ホモポリマーまたはブロック共重合体のポリオレフィン樹脂を含む層と、ランダム共重合体のポリオレフィン樹脂を含む層とが積層されてなる、請求項
1に記載の多層フィルム。
【請求項3】
前記ホモポリマーまたはブロック共重合体のポリオレフィン樹脂を含む層が、スチレン・ブタジエン共重合体の水素添加物を含む、請求項
2に記載の多層フィルム。
【請求項4】
請求項1~
3のいずれか一項に記載の多層フィルムを備えた包装体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多層フィルム及び包装体に関する。
【背景技術】
【0002】
高齢化社会における生活の質の向上や、災害時のライフラインの確保の点から、常温でかつ長期に保存可能なレトルト食品が求められている。レトルト食品とは、レトルト(加圧加熱)殺菌処理された食品のことをいい、レトルト殺菌処理された商品は商業的な無菌状態にできることから、常温での流通が可能になる。
【0003】
レトルト食品包装用のフィルムとしては、例えば、接着剤層を介して2層以上のポリアミド層を含む多層ポリアミド層と、ガスバリア層と、接着剤層と、シーラント層とを含み、これらがこの順番で積層された複合フィルム等(例えば、特許文献1及び2)といった様々なフィルムが提案されている。
【0004】
レトルト食品等の包装に使用される包装材料は、食品の味・鮮度等といった品質の保持の点から、酸素の透過を防止する酸素バリア性が要求されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平3-136851号公報
【文献】特許平3-138149号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来のフィルムでは、レトルト処理時にガスバリア層の酸素バリア性が低下するという問題があった。また、フィルム全体の成形性に劣るといった問題もあった。
【0007】
本開示は上記事情を鑑みてなされたもので、レトルト処理時の酸素バリア性の低下を抑制することができ且つ成形性が改善された多層フィルムと、これを用いた包装体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明は、以下の構成を採用する。
[1].ポリオレフィン樹脂、及びスチレン・ブタジエン共重合体の水素添加物を含む外層と、芳香族環を有するポリアミド樹脂を含む酸素バリア層と、ポリオレフィン樹脂を含むシーラント層と、がこの順に積層されている多層フィルム。
[2].前記多層フィルムがレトルト食品の包装用である、[1]に記載の多層フィルム。
[3].前記酸素バリア層中の芳香族環を有するポリアミド樹脂の含有量が、前記多層フィルムの総質量に対して、40~60質量%である、[1]または[2]に記載の多層フィルム。
[4].前記シーラント層が、ホモポリマーまたはブロック共重合体のポリオレフィン樹脂を含む層と、ランダム共重合体のポリオレフィン樹脂を含む層とが積層されてなる、[1]~[3]のいずれか1つに記載の多層フィルム。
[5].前記ホモポリマーまたはブロック共重合体のポリオレフィン樹脂を含む層が、スチレン・ブタジエン共重合体の水素添加物を含む、[4]に記載の多層フィルム。
[6].[1]~[5]のいずれか1つに記載の多層フィルムを備えた包装体。
【発明の効果】
【0009】
本発明の多層フィルムは、ポリオレフィン樹脂、及びスチレン・ブタジエン共重合体の水素添加物を含む外層と、芳香族環を有するポリアミド樹脂を含む酸素バリア層と、ポリオレフィン樹脂を含むシーラント層と、がこの順に積層された構成であるため、レトルト処理時の酸素バリア性の低下を抑制することができ且つ成形性に優れる。
【0010】
また、本発明の包装体は、上記多層フィルムを備えるため、レトルト処理時の酸素バリア性の低下を抑制することができ且つ成形性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本実施形態の多層フィルムの断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を適用した一実施形態である多層フィルム及び包装体について詳細に説明する。なお、以下の説明で用いる図面は、特徴をわかりやすくするために、便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などが実際と同じであるとは限らない。
【0013】
<多層フィルム>
本実施形態の多層フィルムの構成について説明する。
図1は、本実施形態の多層フィルム1の断面模式図である。
図1に示すように、本実施形態の多層フィルム1は、外層2と、第一接着層3と、酸素バリア層4と、第二接着層5と、シーラント層6とを備え、これらがこの順に積層されて概略構成されている。
【0014】
多層フィルム1は、レトルト処理等の加圧加熱殺菌処理を行う包装用途として用いることができる。多層フィルム1は、肉類、生麺、加工食品、及び漬物等の食品を包装するために使用でき、特にレトルト食品の包装用として用いることができる。
【0015】
本実施形態において「レトルト処理」とは、食品を長期保存させるために、例えば、圧力1.3~3.0(kgf/cm2)、温度100~130℃において、3~60分間、加圧加熱することをいう。
【0016】
多層フィルム1は、レトルト処理前における酸素透過度が、0.5~5.0ml/m2であることが好ましく、0.5~3.0ml/m2であることがより好ましく、0.5~1.0ml/m2であることがさらに好ましい。
多層フィルム1は、レトルト処理後における酸素透過度が、0.5~10.0ml/m2であることが好ましく、0.5~6.0ml/m2であることがより好ましく、0.5~2.0ml/m2であることがさらに好ましい。
多層フィルム1は、レトルト処理前後における酸素透過度の低下が、1ml/m2以下であることが好ましく、0.5ml/m2以下であることがより好ましく、0.3ml/m2以下であることがさらに好ましい。
なお、レトルト処理前後における多層フィルム1の酸素透過度は、JIS K7126B法(等圧法)により測定できる。
【0017】
多層フィルム1の成形性は、多層フィルム1を用いて深絞り包装体を成形した場合に、絞り深さ10mm成形できることが好ましく、絞り深さ50mm成形できることがより好ましい。
多層フィルム1の成形性が上記範囲内であれば、多層フィルム1は成形性に優れる。
【0018】
多層フィルム1の曇度は、3~30%であることが好ましく、3~20%であることがより好ましく、3~10%であることがさらに好ましい。
多層フィルム1の曇度が上記範囲内であれば、多層フィルム1は透明性に優れる。
【0019】
多層フィルム1の厚さは、50~300μmであることが好ましく、80~250μmであることがより好ましく100~200μmであることがさらに好ましい。
多層フィルム1の厚さが前記下限値以上であることで、多層フィルム1の強度を向上させることができる。一方、多層フィルム1の厚さが前記上限値以下であることで、多層フィルム1が過剰な厚さとなることが抑制される。
【0020】
[外層]
外層2は、多層フィルム1の一方側の最表層である。外層2は、ポリオレフィン樹脂を含む。
外層2がポリオレフィン樹脂を含むことにより、多層フィルム1の他方側の最表層であるシーラント層6に含まれるポリオレフィン樹脂と熱膨張率が揃うため、レトルト処理後のカールを抑制することができる。
外層2は、ポリオレフィン樹脂を1種類含むものであってもよいし、2種類以上を含むものであってもよい。
【0021】
外層2に含まれるポリオレフィン樹脂としては、具体的には、例えば、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、エチレン/酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレン/アクリル酸共重合体(EAA)、エチレン/メタクリル酸共重合体(EMAA)、エチレン/アクリル酸メチル共重合体(EMA)、エチレン/メタクリル酸メチル共重合体(EMMA)、エチレン/アクリル酸エチル共重合体(EEA)、及びアイオノマー樹脂等が挙げられる。ポリエチレン(PE)としては、低密度ポリエチレン(LDPE)、及び直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)等が挙げられる。
【0022】
ポリオレフィン樹脂の中では、ポリプロピレンが好ましい。ポリプロピレンは、ポリオレフィン樹脂の中でも汎用樹脂であるため、低コスト化が可能である。
【0023】
外層2中のポリオレフィン樹脂の含有量は、外層2の総質量に対して、70~99質量%であることが好ましく、80~97質量%であることがより好ましく、85~95質量%であることがさらに好ましい。
外層2中のポリオレフィン樹脂の含有量が上記範囲内であれば、レトルト処理後のカールを抑制することができる。
【0024】
外層2は、スチレン・ブタジエン共重合体の水素添加物を含む。
外層2がスチレン・ブタジエン共重合体の水素添加物を含むことにより、多層フィルム1に対して高い耐衝撃性を付与することができる。スチレン・ブタジエン共重合体の水素添加物は高い耐衝撃性を有するため、多層フィルム1において、酸素バリア層4に含まれる芳香族環を有するポリアミド樹脂の硬くて脆い性質を補完することができる。
【0025】
外層2中のスチレン・ブタジエン共重合体の水素添加物の含有量は、外層2の総質量に対して、1~30質量%であることが好ましく、3~20質量%であることがより好ましく、5~15質量%であることがさらに好ましい。
外層2中のスチレン・ブタジエン共重合体の水素添加物の含有量が上記範囲内であれば、多層フィルム1に対して高い耐衝撃性を付与することができる。
【0026】
外層2の厚さは、5~90μmであることが好ましく、8~60μmであることがより好ましく、10~40μmであることがさらに好ましい。
【0027】
外層2の厚さは、多層フィルム1の総厚の5%以上30%以下であることが好ましく、8%以上25%以下であることがより好ましく、10%以上20%以下であることがさらに好ましい。
【0028】
外層2の厚さまたはその比率が上記下限値以上であることにより、製膜過程において外観不良の発生を抑制することができる。
【0029】
[第一接着層]
第一接着層3は、外層2と酸素バリア層4との間に、これらに隣接するようにして積層されている。
第一接着層3により、外層2と酸素バリア層4との層間の接着力が高まり、この層間での剥離を防止することができる。
【0030】
第一接着層3は接着性樹脂を含む樹脂層である。第一接着層3に含まれる接着性樹脂としては、特に制限されないが、酸変性されたポリオレフィン樹脂、イソシアネート化合物、ポリエステル系化合物、及びポリウレタン化合物等が挙げられる。また、ポリオレフィン樹脂としては、具体的には、例えば、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、及び環状オレフィン系樹脂等が挙げられる。
第一接着層3は、接着性樹脂を1種類含むものでもよいし、2種類以上を含むものでもよい。
【0031】
第一接着層3の厚さは、1~60μmであることが好ましく、2~40μmであることがより好ましく、3~20μmであることがさらに好ましい。
【0032】
第一接着層3の厚さの比率は、多層フィルム1の総厚の1%以上20%以下であることが好ましく、2%以上15%以下であることがより好ましく、3%以上10%以下であることがさらに好ましい。
【0033】
第一接着層3の厚さまたはその比率が上記下限値以上であることにより、層間の接着強度が向上し、成形時の層間剥がれを抑制することができる。
【0034】
[酸素バリア層]
酸素バリア層4は、第一接着層3と第二接着層5との間に、これらに隣接するようにして積層されている。
酸素バリア層4により、多層フィルム1に優れた酸素バリア性が付与される。そのため、多層フィルム1を用いて包装体を形成した場合、外層2側からの包装体内部への酸素の侵入を抑制することができる。
【0035】
酸素バリア層4は、芳香族環を有するポリアミド樹脂を含む。
酸素バリア層4が芳香族環を有するポリアミド樹脂を含むことにより、多層フィルム1に対して優れた酸素バリア性、成形性、及び透明性を付与することができる。
酸素バリア層4は、芳香族環を有するポリアミド樹脂を1種類含むものであってもよいし、2種類以上を含むものであってもよい。
【0036】
酸素バリア層4が含む、芳香族環を有するポリアミド樹脂は、芳香族環を主鎖中のみに有していてもよいし、側鎖中のみに有していてもよいし、主鎖中及び側鎖中の両方に有していてもよい。なかでも、前記ポリアミド樹脂は、芳香族環を少なくとも主鎖中に有していることが好ましい。
なお、本明細書において、「主鎖」とは、モノマー(単量体)の重合により形成された鎖状構造を意味し、その例としては、重合体の鎖状構造のうち鎖長が最も長いものが挙げられる。
【0037】
酸素バリア層4に含まれる芳香族環を有するポリアミド樹脂としては、具体的には、例えば、3員環以上のラクタム、アミノ酸、又はジアミンとジカルボン酸とからなるナイロン塩を、単独重合又は共重合することによって得られる芳香族環を有するポリアミド樹脂等が挙げられる。
【0038】
3員環以上のラクタムとしては、具体的には、例えば、ε-カプロラクタム、ω-エナントラクタム、ω-ラウロラクタム、α-ピロリドン、及びα-ピペリドン等が挙げられる。
【0039】
アミノ酸としては、具体的には、例えば、6-アミノカプロン酸、7-アミノヘプタン酸、9-アミノノナン酸、11-アミノウンデカン酸、及び12-アミノドデカン酸等が挙げられる。
【0040】
ナイロン塩を構成するジアミンとしては、具体的には、例えば、脂肪族アミン、脂環族ジアミン、及び芳香族ジアミン等が挙げられる。脂肪族アミンとしては、テトラメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ヘプタメチレンジアミン、オクタメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、デカメチレンジアミン、ウンデカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジアミン、及び2,4,4-トリメチルヘキサメチレンジアミン等が挙げられる。脂環族ジアミンとしては、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,4-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、イソホロンジアミン、ピペラジン、ビス(4-アミノシクロヘキシル)メタン、及び2,2-ビス-(4-アミノシクロヘキシル)プロパン等が挙げられる。芳香族ジアミンとしては、メタキシリレンジアミン、及びパラキシリレンジアミン等が挙げられる。
【0041】
ナイロン塩を構成するジカルボン酸としては、具体的には、例えば、脂肪族ジカルボン酸、脂環族カルボン酸、及び芳香族ジカルボン酸等が挙げられる。脂肪族ジカルボン酸としては、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セパチン酸、ウンデカンジオン酸、及びドデカンジオン酸等が挙げられる。脂環族カルボン酸としては、ヘキサヒドロテレフタル酸、及びヘキサヒドロイソフタル酸等が挙げられる。芳香族ジカルボン酸としては、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸(1,2-体、1,3-体、1,4-体、1,5-体、1,6-体、1,7-体、1,8-体、2,3-体、2,6-体、又は2,7-体)等が挙げられる。
【0042】
酸素バリア層4に含まれる芳香族環を有するポリアミド樹脂としては、具体的には、例えば、一般式(I)で示される化合物(以下、この化合物をメタキシリレンアジパミドと呼ぶことがある。)、一般式(II)で示される化合物等が挙げられる。
【化1】
(式(I)中、nは2以上の整数である。)
【化2】
(式(II)中、nは2以上の整数であり、X、Yは、置換基である。)
【0043】
芳香族環を有するポリアミド樹脂の中では、上記のメタキシリレンアジパミドが好ましい。メタキシリレンアジパミドは、メタキシリレンジアミンとアジピン酸とを共重合することにより製造することができる。
【0044】
酸素バリア層4中の芳香族環を有するポリアミド樹脂の含有量は、多層フィルム1の総質量に対して、40~60質量%であることが好ましく、42~58質量%であることがより好ましく、45~55質量%であることがさらに好ましい。
酸素バリア層4中の芳香族環を有するポリアミド樹脂の含有量が上記範囲内であれば、多層フィルム1に対して優れた酸素バリア性、成形性、及び透明性を付与することができる。
【0045】
酸素バリア層4は、酸素バリア性を有する公知の樹脂、例えば、エチレン-ビニルアルコール共重合樹脂(EVOH)等を含んでいてもよい。
【0046】
酸素バリア層4は、透明性改良剤を含んでいてもよい。酸素バリア層4に含まれる透明性改良剤としては、公知のものを使用することができる。
酸素バリア層4が透明性改良剤を含むことにより、レトルト処理後の白化を防止することができる。
【0047】
酸素バリア層4の厚さは、20~130μmであることが好ましく、30~120μmであることがより好ましく、40~110μmであることがさらに好ましい。
【0048】
酸素バリア層4の厚さまたはその比率が上記下限値以上であることにより、多層フィルム1に要求される酸素透過率の性能が得られる。一方、酸素バリア層4の厚さまたはその比率が上記上限値以下であることにより、生産性(特にコスト)を向上することができる。
【0049】
[第二接着層]
第二接着層5は、酸素バリア層4とシーラント層6との間に、これらに隣接するようにして積層されている。第二接着層5により、酸素バリア層4とシーラント層6との層間の接着力が高まり、この層間での剥離を防止することができる。
【0050】
第二接着層5は接着性樹脂を含む樹脂層である。第二接着層5に含まれる接着性樹脂としては、具体的には、例えば、第一接着層3と同様のものを用いることができる。
【0051】
第二接着層5の厚さまたはその比率は、第一接着層3と同様のものを用いることができる。
【0052】
[シーラント層]
シーラント層6は、多層フィルム1の外層2の反対側の最表層である。シーラント層6は、シーラント層6同士、又は他の部材と接着することができる。接着方法としては、特に限定されないが、具体的には、例えば、ヒートシール、超音波シール、高周波シール、インパルスシール等が挙げられる。このように、シーラント層6を備える多層フィルム1同士、又は他の部材と接着することにより、包装体を形成することができる。
【0053】
シーラント層6は、ポリオレフィン樹脂を含む。
シーラント層6がポリオレフィン樹脂を含むことにより、シーラント層6同士を、又は他の部材と容易に接着することができる。
シーラント層6は、ポリオレフィン樹脂を1種類含むものであってもよいし、2種類以上を含むものであってもよい。
【0054】
シーラント層6に含まれるポリオレフィン樹脂は、ホモポリマー及び共重合体のいずれであってもよく、前記共重合体はブロック共重合体及びランダム共重合体のいずれであってもよい。
【0055】
シーラント層6に含まれるポリオレフィン樹脂としては、具体的には、例えば、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、エチレン/酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレン/アクリル酸共重合体(EAA)、エチレン/メタクリル酸共重合体(EMAA)、エチレン/アクリル酸メチル共重合体(EMA)、エチレン/メタクリル酸メチル共重合体(EMMA)、エチレン/アクリル酸エチル共重合体(EEA)、及びアイオノマー樹脂等が挙げられる。ポリエチレン(PE)としては、低密度ポリエチレン(LDPE)、及び直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)等が挙げられる。
【0056】
ポリオレフィン樹脂の中では、ポリプロピレンが好ましい。ポリプロピレンは、ポリオレフィン樹脂の中でも汎用樹脂であるため、低コスト化が可能である。
【0057】
シーラント層6中のポリオレフィン樹脂の含有量は、シーラント層6の総質量に対して、70~99質量%であることが好ましく、80~97質量%であることがより好ましく、85~95質量%であることがさらに好ましい。
シーラント層6中のポリオレフィン樹脂の含有量が上記範囲内であれば、シーラント層6同士を、又は他の部材と容易に接着することができる。
【0058】
シーラント層6は、イージーピール機能、すなわち開封時の剥離性に優れた機能を有することができる。イージーピール機能を有するとは、例えば、ヒートシールされた部分のヒートシール強さをJIS Z 0238に従って測定した場合に、1N/15mm以上10N/15mm未満であることを表す。
【0059】
シーラント層6には、スチレン・ブタジエン共重合体の水素添加物が含まれていてもよい。
シーラント層6がスチレン・ブタジエン共重合体の水素添加物を含むことにより、多層フィルム1に対して高い耐衝撃性を付与することができる。スチレン・ブタジエン共重合体の水素添加物は高い耐衝撃性を有するため、多層フィルム1において、酸素バリア層4に含まれる芳香族環を有するポリアミド樹脂の硬くて脆い性質を補完することができる。
【0060】
シーラント層6中のスチレン・ブタジエン共重合体の水素添加物の含有量は、シーラント層6の総質量に対して、1~30質量%であることが好ましく、3~20質量%であることがより好ましく、5~15質量%であることがさらに好ましい。
シーラント層6中のスチレン・ブタジエン共重合体の水素添加物の含有量が上記範囲内であれば、多層フィルム1に対して高い耐衝撃性を付与することができる。
【0061】
シーラント層6の厚さは、5~100μmであることが好ましく、10~80μmであることがより好ましく、15~50μmであることがさらに好ましい。
【0062】
シーラント層6の厚さは、多層フィルム1の総厚の10%以上35%以下であることが好ましく、13%以上30%以下であることがより好ましく、15%以上25%以下であることがさらに好ましい。
【0063】
シーラント層6の厚さまたはその比率が上記範囲内であれば、シール性能を充分発揮することができるとともに、イージーピール機能を有する場合であっても剥離不良が発生することがない。
【0064】
シーラント層6は、1層であってもよいし、2層以上の多層構造であってもよい。シーラント層6が2層以上の多層構造である場合、シーラント層6は、ホモポリマーまたはブロック共重合体のポリオレフィン樹脂を含む層と、ランダム共重合体のポリオレフィン樹脂を含む層とが積層されていてもよい。
シーラント層6として、ランダム共重合体のポリオレフィン樹脂を含む層を備えることにより、多層フィルム1のシール性をさらに向上させることができる。
【0065】
シーラント層6中、ランダム共重合体のポリオレフィン樹脂を含む層と、ホモポリマーまたはブロック共重合体のポリオレフィン樹脂を含む層とは、シーラント層6側から外層2側へ向けてこの順に積層されていてもよいし、外層2側からシーラント層6側へ向けてこの順に積層されていてもよいが、シーラント層6側から外層2側へ向けてこの順に積層されていることが好ましい。
【0066】
シーラント層6中、ランダム共重合体のポリオレフィン樹脂を含む層と、ホモポリマーまたはブロック共重合体のポリオレフィン樹脂を含む層とが、シーラント層6側から外層2側へ向けてこの順に積層されていると、シーラント層6側にランダム共重合体のポリオレフィン樹脂を含む層が位置するため、多層フィルム1のシール性をさらに向上させることができると同時に、外層2側のホモポリマーまたはブロック共重合体のポリオレフィン樹脂を含む層によって多層フィルム1に高い耐衝撃性を付与することができる。
【0067】
シーラント層6中、ホモポリマーまたはブロック共重合体のポリオレフィン樹脂を含む層と、ランダム共重合体のポリオレフィン樹脂を含む層とは、合計で2層であってもよいし、交互に1回以上繰り返して積層した構成であってもよい。
【0068】
ホモポリマーまたはブロック共重合体のポリオレフィン樹脂を含む層の厚さは、シーラント層6の総厚の55%以上85%以下であることが好ましく、60%以上80%以下であることがより好ましく、65%以上75%以下であることがさらに好ましい。
ランダム共重合体のポリオレフィン樹脂を含む層の厚さは、シーラント層6の総厚の15%以上45%以下であることが好ましく、20%以上40%以下であることがより好ましく、25%以上35%以下であることがさらに好ましい。
【0069】
ホモポリマーまたはブロック共重合体のポリオレフィン樹脂を含む層は、スチレン・ブタジエン共重合体の水素添加物を含んでいてもよい。
ホモポリマーまたはブロック共重合体のポリオレフィン樹脂を含む層が、スチレン・ブタジエン共重合体の水素添加物を含むことにより、多層フィルム1に対して高い耐衝撃性を付与することができる。スチレン・ブタジエン共重合体の水素添加物は高い耐衝撃性を有するため、多層フィルム1において、酸素バリア層4に含まれる芳香族環を有するポリアミド樹脂の硬くて脆い性質を補完することができる。
【0070】
ホモポリマーまたはブロック共重合体のポリオレフィン樹脂を含む層中のスチレン・ブタジエン共重合体の水素添加物の含有量は、ホモポリマーまたはブロック共重合体のポリオレフィン樹脂を含む層の総質量に対して、1~30質量%であることが好ましく、3~20質量%であることがより好ましく、5~15質量%であることがさらに好ましい。
ホモポリマーまたはブロック共重合体のポリオレフィン樹脂を含む層中のスチレン・ブタジエン共重合体の水素添加物の含有量が上記範囲内であれば、多層フィルム1に対して高い耐衝撃性を付与することができる。
【0071】
<多層フィルムの製造方法>
次に、上述した多層フィルム1の製造方法の一例について説明する。
上述した多層フィルム1の製造方法は、特に限定されるものではないが、数台の押出機により、原料となる樹脂等を溶融押出するフィードブロック法やマルチマニホールド法等の共押出Tダイ法、空冷式又は水冷式共押出インフレーション法、及びラミネート法が挙げられる、この中でも、共押出Tダイ法で製膜する方法が各層の厚さ制御に優れる点で特に好ましい。
【0072】
その後の工程として、各層を形成する単層のシート又はフィルムを適当な接着剤を用いて貼り合せるドライラミネート法、押出ラミネート法、ホットメルトラミネート法、ウエットラミネート法、サーマル(熱)ラミネート法等、及びそれらの方法を組み合わせて用いられる。また、コーティングによる方法で積層してもよい。
【0073】
<包装体>
次に、本発明を適用した一実施形態である包装体の構成の一例について説明する。本実施形態の包装体は、上述した多層フィルム1を軟化させ、これを真空成形又は圧空成形することにより成型された包装体である。本実施形態の包装体は、具体的には、深絞り包装体等が挙げられる。
【0074】
深絞り包装とは、包装容器に用いる一対のフィルムのうち一方のフィルムを深絞り包装機の容器形成部で製品に適した形に凹み成形して底材とし、成形した底材の中に製品を収容した後、蓋材となる他方のフィルムをかけて脱気すると共に、一対の上記フィルムの当接部分をヒートシールしてなる包装形態である。
【0075】
<包装体の使用方法>
次に、上述した包装体の使用方法について説明する。上述した包装体の使用方法としては、特に限定されるものではないが、具体的には、先ず、包装体の中に食品を封入する。次に、95~121℃、1~60分の条件で加熱処理をする(レトルト処理)。その後、常温に戻すことにより、長期に保存可能なレトルト食品ができあがる。
【0076】
以上、この発明の実施形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計等も含まれる。例えば、上述した多層フィルム1では、外層2と、第一接着層3と、酸素バリア層4と、第二接着層5と、シーラント層6とを備えて構成される例について説明したが、各層の間や最表層に、別の機能を有する層を新たに設けてもよい。
【実施例】
【0077】
以下、本発明の効果を実施例及び比較例を用いて詳細に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【0078】
<多層フィルムの作製>
以下に示すようにして、実施例1並びに比較例1及び2の多層フィルムを作製した。
【0079】
(実施例1)
実施例1の多層フィルムとして、上述した
図1に示す構成の多層フィルムを作製した。
外層に含まれる樹脂として、ポリプロピレン樹脂(住友化学(株)製、品番:FS2011DG3)及び水添スチレンブタジエンラバー(JSR(株)製、品番:2324P)を用意した。
外層では、ポリプロピレン樹脂が92質量%、水添スチレンブタジエンラバーが8質量%となるように混合比を調製した。
【0080】
第一接着層に含まれる樹脂として、ポリオレフィン樹脂(三井化学(株)製、品番:QB550)を用意した。
第二接着層に含まれる樹脂として、ポリオレフィン樹脂(三井化学(株)製、品番:QB550)を用意した。
【0081】
酸素バリア層に含まれる樹脂として、メタキシリレンアジパミド(三菱ガス化学(株)製、品番:S6121)を用意した。
【0082】
第一シーラント層に含まれる樹脂として、ポリプロピレン樹脂(住友化学(株)製、品番:FS2011DG3)及び水添スチレンブタジエンラバー(JSR(株)製、品番:2324P)を用意した。
第一シーラント層では、ポリプロピレン樹脂が92質量%、水添スチレンブタジエンラバーが8質量%となるように混合比を調製した。
第二シーラント層に含まれる樹脂として、ポリプロピレン樹脂(住友化学(株)製、品番:S131)を用意した。
【0083】
次に、外層と、第一接着層と、酸素バリア層と、第二接着層と、第一シーラント層と、第二シーラント層とを、この順番で共押出成形して多層フィルムを作製した。共押出成形において、溶融樹脂を固化させるロールの温度は40℃とした。
【0084】
なお、多層フィルムの総厚は150μmであった。多層フィルムの総厚に対する、各層の厚さの比率は、外層が15%、第一接着層が5%、酸素バリア層が50%、第二接着層が5%、第一シーラント層が18%、第二シーラント層が7%であった。下記表1に多層フィルムの構成を示す。
また、酸素バリア層中のメタキシリレンアジパミドの含有量は、多層フィルムの総質量に対して、57質量%であった。
【0085】
(比較例1)
共押出成形において、各層の比率を変更した以外は、実施例1と同様にして多層フィルムを作製した。下記表1に多層フィルムの構成を示す。
【0086】
(比較例2)
共押出成形において、水添スチレンブタジエンラバーを無添加(混合なし)とした以外は、実施例1と同様にして多層フィルムを作製した。下記表1に多層フィルムの構成を示す。
【0087】
<レトルト処理>
レトルト処理は、実施例1並びに比較例1及び2で作製した多層フィルムで作られた横300mm×縦300mmの袋に水を充填したパック品を楠ボイラ株式会社製加圧式熱水調理殺菌装置(TOC-1)により、120℃で30分間行った。結果を表1に示す。
【0088】
<酸素バリア性の評価>
実施例1並びに比較例1及び2で作製した多層フィルムについて、レトルト処理前後における酸素バリア性の評価を行った。酸素バリア性の評価は、25℃、60%RHの雰囲気下における、酸素透過量を測定することにより行った。
酸素透過量の測定は、酸素透過率測定装置(例えば、MOCON社製、「OX-TRAN MODEL 2/21」等)を用いて、JIS K 7126B法に記載の方法に準拠して行った。結果を表1に示す。
【0089】
<成形性の評価>
成形性の評価は、連続深絞り包装機(MULTIVAC R535)により行った。具体的には、実施例1並びに比較例1及び2の多層フィルムを用いて深絞り包装体を成形した場合に、絞り深さ10mm成形できれば成形性があり、絞り深さ50mm成形できれば成形性が良好であると評価した。結果を下記の表1に示す。
【0090】
<曇度の評価>
曇度は、JISK7136に基づき評価した。具体的には、実施例1並びに比較例1及び2の多層フィルムについて、日本電色工業株式会社製ヘーズメーター(NDH2000)により測定した。結果を下記の表1に示す。
【0091】
<耐衝撃性の評価>
耐衝撃性の評価は、落錘試験により行った。実施例1並びに比較例1及び2の多層フィルムを水平面上に固定し、多層フィルムの上面に対して、高さ30cmから錘(先端R5、重さ800g)を落下させて衝撃を与え、割れが発生したかどうかを観測することによって、耐衝撃性を評価した。結果を下記の表1に示す。
【0092】
【表1】
*各層の数値は、総厚における各層の厚さの比率を表す。
【0093】
表1に示すように、実施例1並びに比較例1及び2の多層フィルムは、いずれも成形性が良好であることが確認された。
一方、実施例1の多層フィルムは、比較例1の多層フィルムよりもレトルト処理時の酸素バリア性の低下が抑制されていることが確認された。
また、実施例1の多層フィルムは、比較例2の多層フィルムよりも透明性が改善されていることが確認された。
さらに、実施例1の多層フィルムは、比較例2の多層フィルムよりも耐衝撃性が改善されていることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0094】
本発明の多層フィルムは、包装体、特に加熱殺菌処理が必要な食品用の包装体の材料として利用可能性がある。また、本発明の包装体は、食品、特に加熱殺菌処理が必要な食品等を包装するための包装袋、包装容器などへの利用可能性がある。
【符号の説明】
【0095】
1…多層フィルム
2…外層
3…第一接着層
4…酸素バリア層
5…第二接着層
6…シーラント層