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特許7404644燃料電池用膜電極接合体及び固体高分子形燃料電池
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  • 特許-燃料電池用膜電極接合体及び固体高分子形燃料電池 図1
  • 特許-燃料電池用膜電極接合体及び固体高分子形燃料電池 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-18
(45)【発行日】2023-12-26
(54)【発明の名称】燃料電池用膜電極接合体及び固体高分子形燃料電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/86 20060101AFI20231219BHJP
   H01M 8/10 20160101ALI20231219BHJP
   H01M 8/1004 20160101ALI20231219BHJP
【FI】
H01M4/86 B
H01M8/10 101
H01M8/1004
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019074380
(22)【出願日】2019-04-09
(65)【公開番号】P2020173935
(43)【公開日】2020-10-22
【審査請求日】2022-03-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】TOPPANホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105854
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 一
(74)【代理人】
【識別番号】100116012
【弁理士】
【氏名又は名称】宮坂 徹
(72)【発明者】
【氏名】盛岡 弘幸
【審査官】山本 雄一
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-119208(JP,A)
【文献】特開2008-262715(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/86- 4/98
H01M 8/00- 8/0297
H01M 8/08- 8/2495
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子電解質膜と、上記高分子電解質膜を挟持する一対の電極触媒層と、を備え、
上記一対の上記電極触媒層の少なくとも一方の電極触媒層は、触媒担持粒子と、高分子電解質と、水を保持可能な保水繊維と、を含み、
上記保水繊維を含む上記電極触媒層は、カソード側に配置される電極触媒層であり、且つ単層であり、
上記保水繊維は、吸水性高分子であるポリアクリル酸で形成された繊維であり、
上記保水繊維の質量は、上記触媒担持粒子における担体の質量の0.05倍以上1.0倍以下であり、
上記保水繊維は、平均繊維径が0.1μm以上2.5μm以下であり、平均繊維長が3μm以上600μm以下であることを特徴とする燃料電池用膜電極接合体。
【請求項2】
上記保水繊維は、親水化カーボン、金属酸化物及び吸水性繊維の少なくとも1種をさらに含むことを特徴とする請求項1に記載した燃料電池用膜電極接合体。
【請求項3】
上記一対の上記電極触媒層の両方の電極触媒層は、上記触媒担持粒子と、上記高分子電解質と、上記保水繊維と、を含むことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載した燃料電池用膜電極接合体。
【請求項4】
上記触媒担持粒子を分散させるための分散剤をさらに含み、
上記分散剤は、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、両性界面活性剤、または非イオン界面活性剤であることを特徴とする請求項1からのいずれか一項に記載した燃料電池用膜電極接合体。
【請求項5】
上記電極触媒層のそれぞれは、単層であり、
上記電極触媒層に含まれる上記保水繊維は、上記電極触媒層中に均一に分散していることを特徴とする請求項1からのいずれか一項に記載した燃料電池用膜電極接合体。
【請求項6】
請求項1からのいずれか1項に記載の燃料電池用膜電極接合体と、
上記燃料電池用膜電極接合体を挟持する一対のガス拡散層と、
上記燃料電池用膜電極接合体及び上記一対のガス拡散層を挟んで対向する一対のセパレータと、
を備えることを特徴とする固体高分子形燃料電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池用膜電極接合体及び固体高分子形燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、水素を含有する燃料ガスと酸素を含む酸化剤ガスとを用いて、触媒を含む電極で水の電気分解の逆反応を起こさせ、熱と同時に電気を生み出す発電システムである。この発電システムは、従来の発電方式と比較して高効率で低環境負荷、低騒音などの特徴を有し、将来のクリーンなエネルギー源として注目されている。燃料電池は、用いるイオン伝導体の種類によってタイプがいくつかあり、プロトン伝導性高分子膜を用いた燃料電池は、固体高分子形燃料電池と呼ばれる。
【0003】
燃料電池のなかでも固体高分子形燃料電池は、室温付近で使用可能なことから、車載用電源や家庭据置用電源などへの使用が有望視されており、近年、様々な研究開発が行われている。固体高分子形燃料電池は、高分子電解質膜の両面に一対の電極触媒層を配置させた膜電極接合体(Membrane Electrode Assembly:以下、MEAと称すことがある)を、一対のセパレータで挟持した電池である。
一方のセパレータには、電極の一方に水素を含有する燃料ガスを供給するためのガス流路が形成されており、他方のセパレータには、電極の他方に酸素を含む酸化剤ガスを供給するためのガス流路が形成されている。
【0004】
ここで、燃料ガスが供給される上述した一方の電極を燃料極、酸化剤ガスが供給される上述した他方の電極を空気極とする。これらの電極は、高分子電解質、白金系の貴金属などの触媒を担持したカーボン粒子(触媒担持粒子)を有する電極触媒層、及びガス通気性と電子伝導性とを兼ね備えたガス拡散層を備えている。これらの電極を構成するガス拡散層は、セパレータと対向するように、すなわち電極触媒層とセパレータとの間に配置される。
【0005】
電極触媒層に対しては、燃料電池の出力密度を向上させるため、ガス拡散性を高める取り組みがなされてきた。その一つが電極触媒層中の細孔に関するものである。電極触媒層中の細孔は、セパレータからガス拡散層を通じた先に位置し、複数の物質を輸送する通路の役割を果たす。細孔は、燃料極では、酸化還元の反応場である三相界面に燃料ガスを円滑に供給するだけでなく、生成したプロトンを高分子電解質膜内で円滑に伝導させるための水を供給する機能を果たす。細孔は、空気極では、酸化剤ガスの供給と共に、電極反応で生成した水を円滑に除去する機能を果たす。
【0006】
また、固体高分子形燃料電池の実用化に向けての課題としては、出力密度や耐久性の向上などが挙げられるが、最大の課題は低コスト化(コスト削減)である。
この低コスト化の手段の一つに、加湿器の削減が挙げられる。膜電極接合体の中心に位置する高分子電解質膜には、パーフルオロスルホン酸膜や炭化水素系膜が広く用いられている。そして、優れたプロトン伝導性を得るためには飽和水蒸気圧雰囲気に近い水分管理が必要とされており、現在、加湿器によって外部から水分供給を行っている。
これに対し、低消費電力やシステムの簡略化のために、加湿器を必要としないような、低加湿条件下であっても、十分なプロトン伝導性を示す高分子電解質膜の開発が進められている。
【0007】
例えば、特許文献1に記載のように、低加湿条件下における燃料電池の保水性を向上させるため、例えば、電極触媒層とガス拡散層の間に、湿度調整フィルムを挟み込む方法が提案されている。特許文献1には、導電性炭素質粉末とポリテトラフルオロエチレンから構成された湿度調整フィルムが、湿度調節機能を示してドライアップを防止する方法が記載されている。
また、特許文献2には、高分子電解質膜と接する触媒電極層の表面に溝を設ける方法が記載されている。この方法では、触媒電極層の表面に0.1~0.3mmの幅を有する溝を形成することで、低加湿条件下における発電性能の低下を抑制している。
【0008】
ここで、保水性を高めた電極触媒層では、多くの生成水が生じる高電流域においては、燃料極及び空気極における物質輸送の妨げにより発電反応が停止又は低下する、いわゆる「フラッディング」と呼ばれる現象が発生する問題がある。これを防止するため、これまで排水性を高める構成が検討されてきた(例えば、特許文献3、特許文献4、特許文献5、特許文献6参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2006-252948号公報
【文献】特開2007-141588号公報
【文献】特開2006-120506号公報
【文献】特開2006-332041号公報
【文献】特開2007-87651号公報
【文献】特開2007-80726号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、これらの方法で得られた電極触媒層を用いた燃料電池には、発電性能や耐久性の点で改善の余地がある。また、これらの方法は煩雑であり、電極触媒層の製造コストが高いという問題点もある。
特許文献5及び6に記載された方法によれば、電極触媒層の排水性を高める(電極反応で生成した水の除去を阻害しない)と同時に、電極触媒層の低加湿条件下での保水性を改善することが期待できる。
しかし、これらの方法で得られた電極触媒層を用いた燃料電池には、低加湿条件下での発電性能や耐久性の点で改善の余地がある。また、これらの方法は煩雑であり、電極触媒層の製造コストを削減することについても改善の余地がある。
本発明は、上記のような点に着目してなされたもので、電極反応で生成した水の除去を阻害せずに、低加湿条件下での保水性が改善され、また、低加湿条件下でも高い発電性能と耐久性を示し、電極触媒層の製造コストを削減する燃料電池用膜電極接合体及び固体高分子形燃料電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
課題を解決するために、本発明の膜電極接合体の一態様は、高分子電解質膜と、上記高分子電解質膜を挟持する一対の電極触媒層と、を備え、上記一対の上記電極触媒層の少なくとも一方は、触媒担持粒子と、高分子電解質と、平均繊維長が3μm以上600μm以下である保水繊維と、を含み、上記保水繊維の質量は、上記触媒担持粒子における担体の質量の0.05倍以上1.0倍以下であることを要旨とする。
また、本発明の固体高分子形燃料電池の一態様は、燃料電池用膜電極接合体と、上記燃料電池用膜電極接合体を挟持する一対のガス拡散層と、上記燃料電池用膜電極接合体及び上記一対のガス拡散層を挟んで対向する一対のセパレータと、を備えることを要旨とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明の膜電極接合体の一態様によれば、電極反応で生成した水の除去を阻害せずに、低加湿条件下での保水性が改善され、また、低加湿条件下でも高い発電性能と耐久性を示し、電極触媒層の製造コストを削減することができる。
また、本発明の固体高分子形燃料電池の一態様によれば、電極反応で生成した水の除去を阻害せずに、低加湿条件下での保水性が改善され、また、低加湿条件下でも高い発電性能と耐久性を示し、電極触媒層の製造コストを削減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の一実施形態に係る燃料電池用電極触媒層を有する膜電極接合体を模式的に示す分解斜視図である。
図2図1の膜電極接合体を備えた固体高分子形燃料電池の構造を模式的に示す分解斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明の実施形態について添付図面を参照して説明する。
ここで、図面は模式的なものであり、厚みと平面寸法との関係、各層の厚みの比率等は現実のものとは異なる。また、以下に示す実施形態は、本発明の技術的思想を具体化するための構成を例示するものであって、本発明の技術的思想は、構成部品の材質、形状、構造等が下記のものに特定されるものではない。本発明の技術的思想は、特許請求の範囲に記載された請求項が規定する技術的範囲内において、種々の変更を加えることができる。
【0015】
〔膜電極接合体〕
本実施形態の膜電極接合体11は、図1に示すように、高分子電解質膜1と、高分子電解質膜1を上下から狭持する一対の電極触媒層2、3とを備える。
また、各電極触媒層2、3は、触媒担持粒子と高分子電解質とを備える。一対の電極触媒層2、3の少なくとも一方の電極触媒層層は、電解質繊維を有する。以下、電解質繊維を有する電極触媒層を「改良電極触媒層」ということがある。一対の電極触媒層2、3の両方が改良電極触媒層であることが好ましい。
【0016】
改良電極触媒層が含有する保水繊維の平均繊維長は、3μm以上600μm以下である。
改良電極触媒層が含有する保水繊維の平均繊維径は、0.1μm以上2.5μm以下であることが好ましい。
なお、疎水性高分子繊維の平均繊維径および平均繊維長は、走査型電子顕微鏡(SEM)で撮像した断面から、任意に選択した5点の疎水性高分子繊維から算出した。
また、改良電極触媒層が含有する保水繊維の質量は、触媒担持粒子における担体の質量の0.05倍以上1.0倍以下である。
本発明は、以下の構成からなる改良電極触媒層が排水性を有していることを確認しているが、その排水性を有する詳細なメカニズムは不明である。ただし、以下のように推測される。なお、本発明は下記メカニズムに何ら拘束されるものではない。
【0017】
上記構成の改良電極触媒層は、保水繊維の絡み合いによって、耐久性低下の起因となる電極触媒層のクラック発生を抑制するなど、高い耐久性と機械特性が得られる。また、触媒担持粒子と保水繊維との絡み合いで電極触媒層に細孔が形成される。この形成された細孔によって、保水性を高めた電極触媒層でも、高電流域では電極反応で生成した水を排出することができ、反応ガスの拡散性を高めることができると推定される。更に、負荷変動時に生じる過剰な生成水を、保水繊維で一時的に水を保持することで、反応ガスの拡散性を維持できる。一方、繊維状でない保水粒子を使用した場合、触媒担持粒子との絡み合いがないため、電極触媒層に細孔が形成されにくく、保水性を高めた電極触媒層では、電極反応で生成した水の排出が困難で、高電流域では反応ガスの拡散性を高めることができないと推定される。
【0018】
保水繊維の平均繊維長が3μmに満たない場合は、保水繊維の絡み合いが弱い影響で、機械特性が低下する場合があると推定される。また、保水繊維の平均繊維長が600μmを超える場合は、保水繊維の絡み合いが強い影響で、インクとして分散できない場合があると推定される。
保水繊維の質量が、触媒担持粒子における担体の質量の0.05倍未満の場合は、電極触媒層に形成される細孔が少ない影響で、高電流域では電極反応で生成した水を充分に排水することができず、反応ガスの拡散性を高めることができない場合があると推定される。また、保水繊維の質量が、触媒担持粒子における担体の質量の1.0倍を超える場合は、電極触媒層に形成される細孔が多い影響で、低加湿条件下では保水性を高めることが困難な場合があると推定される。
【0019】
保水繊維の平均繊維径が0.1μmに満たない場合は、保水繊維の屈曲性が強い影響で、電極触媒層に細孔が形成されにくい場合があると推定される。また、保水繊維の平均繊維径が2.5μmを超える場合は、保水繊維の直進性が強い影響で、インクとして分散できない場合がある推定される。
本実施形態の膜電極接合体11よれば、従来のような電極触媒層の構成変更によって排水性を高める場合とは異なり、界面抵抗の増大による発電特性の低下が見られない。これにより、膜電極接合体11を備える固体高分子形燃料電池によれば、従来の膜電極接合体を備えた固体高分子形燃料電池と比較して、多くの生成水が生じる高電流域での発電特性が高くなる。
【0020】
〔固体高分子形燃料電池〕
次に、図2を用いて、実施形態の膜電極接合体11を備えた固体高分子形燃料電池について説明する。
図2に示す固体高分子形燃料電池12は、膜電極接合体11の電極触媒層2と対向するように配置される空気極側のガス拡散層4と、電極触媒層3と対向するように配置される燃料極側のガス拡散層5とを備える。電極触媒層2とガス拡散層4とで、空気極(カソード)6が形成される。電極触媒層3とガス拡散層5とで、燃料極(アノード)7が形成される。
また、一組のセパレータ10a、10bが、ガス拡散層4及び5の外側にそれぞれ配置される。各セパレータ10a、10bは、ガス流通用のガス流路8a、8bと、冷却水流通用の冷却水流路9a、9bとを備えた、導電性及び不透過性を有する材料から構成される。
【0021】
燃料極7側のセパレータ10bのガス流路8bには、燃料ガスとして例えば水素ガスが供給される。一方、空気極6側のセパレータ10aのガス流路8aには、酸化剤ガスとして例えば酸素ガスが供給される。燃料ガスの水素と、酸化剤ガスの酸素とをそれぞれ触媒の存在下で電極反応させることにより、燃料極7と空気極6の間に起電力を生じさせることができる。
固体高分子形燃料電池12は、一対のセパレータ10a、10bが、高分子電解質膜1と、一対の電極触媒層2、3と、一対のガス拡散層4,5とを狭持する。図2に示す固体高分子形燃料電池12は、単セル構造の燃料電池の例であるが、セパレータ10a又はセパレータ10bを介して複数のセルを積層して構成される固体高分子形燃料電池であっても、本発明は適用することができる。
【0022】
〔電極触媒層の製造方法〕
次に、上記構成の改良電極触媒層の製造方法の一例を説明する。
改良電極触媒層は、下記の第一工程と第二工程を含む方法で製造される。
第一工程は、触媒担持粒子、保水繊維、高分子電解質、及び溶媒を含む触媒インクを製造する工程である。
第二工程は、第一工程で得られた触媒インクを基材上に塗布して溶媒を乾燥させることで、改良電極触媒層を形成する工程である。
なお、改良電極触媒層ではない電極触媒層も同様な工程で製造すればよい。
そして、作製した一対の電極触媒層2、3を高分子電解質膜1の上下各面に貼り付けることで、膜電極接合体11が得られる。
【0023】
〔詳細〕
以下、膜電極接合体11及び固体高分子形燃料電池12について更に詳細に説明する。
高分子電解質膜1としては、プロトン伝導性を有するものであれば良く、例えば、フッ素系高分子電解質膜、炭化水素系高分子電解質膜を用いることができる。フッ素系高分子電解質膜の例として、デュポン社製Nafion(登録商標)、旭硝子(株)製Flemion(登録商標)、旭化成(株)製Aciplex(登録商標)、ゴア社製Gore Select(登録商標)等を用いることができる。
また、炭化水素系高分子電解質膜としては、例えば、スルホン化ポリエーテルケトン、スルホン化ポリエーテルスルホン、スルホン化ポリエーテルエーテルスルホン、スルホン化ポリスルフィド、スルホン化ポリフェニレン等の電解質膜を用いることができる。特に、高分子電解質膜1として、デュポン社製Nafion(登録商標)系材料を好適に用いることができる。
【0024】
電極触媒層2,3は、触媒インクを用いて高分子電解質膜1の両面に形成される。電極触媒層2,3用の触媒インクは、触媒担持粒子と高分子電解質と溶媒を含む。また、改良電極触媒層用の触媒インクは、撥水性被膜を備えた触媒担持粒子、電解質繊維、高分子電解質、及び溶媒を含む。
触媒インクに含まれる高分子電解質としては、プロトン伝導性を有するものであれば良く、高分子電解質膜1と同様の材料を用いることができ、例えば、フッ素系高分子電解質、炭化水素系高分子電解質を用いることができる。フッ素系高分子電解質の例として、デュポン社製Nafion(登録商標)系材料等を用いることができる。また、炭化水素系高分子電解質としては、例えば、スルホン化ポリエーテルケトン、スルホン化ポリエーテルスルホン、スルホン化ポリエーテルエーテルスルホン、スルホン化ポリスルフィド、スルホン化ポリフェニレン等の電解質を用いることができる。特に、フッ素系高分子電解質として、デュポン社製Nafion(登録商標)系材料を好適に用いることができる。
【0025】
本実施形態で用いる触媒(以下、触媒粒子あるいは触媒と称すことがある)としては、例えば、金属又はこれらの合金、酸化物もしくは複酸化物等を用いることができる。金属としては、白金、パラジウム、ルテニウム、イリジウム、ロジウム、オスミウムの白金族元素の他、金、鉄、鉛、銅、クロム、コバルト、ニッケル、マンガン、バナジウム、モリブデン、ガリウムもしくはアルミニウム等が例示できる。なお、ここでいう複酸化物とは2種類の金属からなる酸化物のことをいう。
触媒粒子が、白金、金、パラジウム、ロジウム、ルテニウム、及び、イリジウムから選ばれた1種又は2種以上の金属である場合、電極反応性に優れ、電極反応を効率良く安定して行うことができる。触媒粒子が、白金、金、パラジウム、ロジウム、ルテニウム、及び、イリジウムから選ばれた1種又は2種以上の金属である場合、電極触媒層2,3を備えた固体高分子形燃料電池12が高い発電特性を示すので好ましい。
【0026】
また、上述した触媒粒子の平均粒子径は、0.5nm以上20nm以下が好ましく、1nm以上5nm以下がより好ましい。ここで、平均粒子径とは、カーボン粒子などの担体に担持された触媒での測定であれば、X線回折法から求めた平均粒子径である。また、担体に担持されていない触媒での測定であれば、粒度測定から求めた算術平均粒子径である。触媒粒子の平均粒子径が0.5nm以上20nm以下の範囲にある場合、触媒の活性及び安定性が向上するため好ましい。
【0027】
上述の触媒を担持する電子伝導性の粉末(担体)としては、一般的にカーボン粒子が使用される。カーボン粒子の種類は、微粒子状で導電性を有し、触媒におかされないものであれば限定されるものではない。カーボン粒子としては、例えば、カーボンブラックやグラファイト、黒鉛、活性炭、カーボンファイバー、カーボンナノチューブ、フラーレンを用いることができる。
カーボン粒子の平均粒子径は、10nm以上1000nm以下が好ましく、10nm以上100nm以下がより好ましい。ここで、平均粒子径とは、SEM像から求めた平均粒子径である。カーボン粒子の平均粒子径が10nm以上1000nm以下の範囲にある場合、触媒の活性及び安定性が向上するため好ましい。電子伝導パスが形成されやすくなり、また、2つの電極触媒層2,3のガス拡散性や触媒の利用率が向上するため好ましい。
【0028】
上述の触媒担持粒子は、疎水性被膜を備えたものでも良く、この場合、十分に反応ガスを透過する膜厚であることが好ましい。疎水性被膜の膜厚は、具体的には40nm以下であることが好ましい。これよりも厚くなると活性点への反応ガスの供給が阻害される場合がある。一方、疎水性被膜が40nm以下であれば十分に反応ガスが透過するため、触媒担持粒子に疎水性を付与することができる。
また、触媒担持粒子に備えた疎水性被膜の膜厚は、十分に生成水を撥水する膜厚であることが好ましい。疎水性被膜の膜厚は、具体的には2nm以上であることが好ましい。これよりも薄くなると生成水が滞留し、活性点への反応ガスの供給が阻害される場合がある。
【0029】
触媒担持粒子に備えた疎水性被膜は、少なくとも一つの極性基を有するフッ素系化合物から構成される。極性基は、例えば、ヒドロキシル基、アルコキシ基、カルボキシル基、エステル基、エーテル基、カーボネート基、アミド基などが挙げられる。極性基の存在により、触媒層最表面にフッ素系化合物を固定化することができる。フッ素系化合物における極性基以外の部分は、疎水性及び化学的安定性の高さからフッ素及びカーボンからなる構造であることが好ましい。しかし、十分な疎水性及び化学的安定性を有するならばこのような構造に限られるものではない。
【0030】
保水繊維としては、単独物質として保水性をもつ、親水化カーボン、吸水性高分子、金属酸化物、吸水性繊維等の繊維を用いることができる。また、上述のように、保水性を有する単独物質を少なくとも一つ含む複合体も保水繊維として用いることができる。保水繊維として、これらの高い保水性のある物質を用いることにより、高い保水効果を得ることができる。親水化カーボンとしては、表面に親水基を導入したカーボンファイバー等を挙げることができる。吸水性高分子としては、シリカゲル、ポリアクリル酸等を用いることができる。また、金属酸化物としては、TiO2、SiO2等を用いることができる。
保水繊維には、上述した繊維のうちの1種のみが用いられてもよいし、2種以上が用いられてもよい。
【0031】
触媒インクの分散媒として使用される溶媒は、触媒物質担持粒子や高分子電解質を浸食することがなく、高分子電解質を流動性の高い状態で溶解又は微細ゲルとして分散できるものあれば特に限定されるものではない。しかしながら、溶媒には、揮発性の有機溶媒が少なくとも含まれていることが望ましい。触媒インクの分散媒として使用される溶媒の例として、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、イソブチルアルコール、tert-ブチルアルコール、ペンタノール等のアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン、ペンタノン、メチルイソブチルケトン、へプタノン、シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサノン、アセトニルアセトン、ジイソブチルケトン等のケトン系溶剤、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、アニソール、メトキシトルエン、ジブチルエーテル等のエーテル系溶剤、その他ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ジアセトンアルコール、1-メトキシ-2-プロパノール等の極性溶剤等を用いることができる。また、溶媒は、上述の材料のうち2種以上を混合させた混合溶媒を用いても良い。
【0032】
また、触媒インクの分散媒として使用される溶媒として、低級アルコールを用いたものは発火の危険性が高いため、低級アルコールを用いる場合は、水との混合溶媒にするのが好ましい。更に、高分子電解質となじみが良い水(親和性が高い水)が含まれていても良い。水の添加量は、高分子電解質が分離して白濁を生じたり、ゲル化したりしない程度であれば特に制限されるものではない。
触媒物質担持粒子を分散させるために、触媒インクに分散剤が含まれていても良い。分散剤としては、例えば、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、両性界面活性剤、非イオン界面活性剤等を挙げることができる。
【0033】
アニオン界面活性剤の例として、アルキルエーテルカルボン酸塩、エーテルカルボン酸塩、アルカノイルザルコシン、アルカノイルグルタミン酸塩、アシルグルタメート、オレイン酸・N-メチルタウリン、オレイン酸カリウム・ジエタノールアミン塩、アルキルエーテルサルフェート・トリエタノールアミン塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルサルフェート・トリエタノールアミン塩、特殊変成ポリエーテルエステル酸のアミン塩、高級脂肪酸誘導体のアミン塩、特殊変成ポリエステル酸のアミン塩、高分子量ポリエーテルエステル酸のアミン塩、特殊変成リン酸エステルのアミン塩、高分子量ポリエステル酸アミドアミン塩、特殊脂肪酸誘導体のアミドアミン塩、高級脂肪酸のアルキルアミン塩、高分子量ポリカルボン酸のアミドアミン塩、ラウリン酸ナトリウム、ステアリン酸ナトリウム、オレイン酸ナトリウム等のカルボン酸型界面活性剤、ジアルキルスルホサクシネート、スルホコハク酸ジアルキル塩、1,2-ビス(アルコキシカルボニル)-1-エタンスルホン酸塩、アルキルスルホネート、アルキルスルホン酸塩、パラフィンスルホン酸塩、α-オレフィンスルホネート、直鎖アルキルベンゼンスルホネート、アルキルベンゼンスルホネート、ポリナフチルメタンスルホネート、ポリナフチルメタンスルホン酸塩、ナフタレンスルホネート-ホルマリン縮合物、アルキルナフタレンスルホネート、アルカノイルメチルタウリド、ラウリル硫酸エステルナトリウム塩、セチル硫酸エステルナトリウム塩、ステアリル硫酸エステルナトリウム塩、オレイル硫酸エステルナトリウム塩、ラウリルエーテル硫酸エステル塩、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム、油溶性アルキルベンゼンスルホン酸塩、α-オレフィンスルホン酸塩等のスルホン酸型界面活性剤、アルキル硫酸エステル塩、硫酸アルキル塩、アルキルサルフェート、アルキルエーテルサルフェート、ポリオキシエチレンアルキルエーテルサルフェート、アルキルポリエトキシ硫酸塩、ポリグリコールエーテルサルフェート、アルキルポリオキシエチレン硫酸塩、硫酸化油、高度硫酸化油等の硫酸エステル型界面活性剤、リン酸(モノ又はジ)アルキル塩、(モノ又はジ)アルキルホスフェート、(モノ又はジ)アルキルリン酸エステル塩、リン酸アルキルポリオキシエチレン塩、アルキルエーテルホスフェート、アルキルポリエトキシ・リン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、リン酸アルキルフェニル・ポリオキシエチレン塩、アルキルフェニルエーテル・ホスフェート、アルキルフェニル・ポリエトキシ・リン酸塩、ポリオキシエチレン・アルキルフェニル・エーテルホスフェート、高級アルコールリン酸モノエステルジナトリウム塩、高級アルコールリン酸ジエステルジナトリウム塩、ジアルキルジチオリン酸亜鉛等のリン酸エステル型界面活性剤等が挙げられる。
【0034】
カチオン界面活性剤の例として、ベンジルジメチル{2-[2-(P-1,1,3,3-テトラメチルブチルフェノオキシ)エトキシ]エチル}アンモニウムクロライド、オクタデシルアミン酢酸塩、テトラデシルアミン酢酸塩、オクタデシルトリメチルアンモニウムクロライド、牛脂トリメチルアンモニウムクロライド、ドデシルトリメチルアンモニウムクロライド、ヤシトリメチルアンモニウムクロライド、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムクロライド、ベヘニルトリメチルアンモニウムクロライド、ヤシジメチルベンジルアンモニウムクロライド、テトラデシルジメチルベンジルアンモニウムクロライド、オクタデシルジメチルベンジルアンモニウムクロライド、ジオレイルジメチルアンモニウムクロライド、1-ヒドロキシエチル-2-牛脂イミダゾリン4級塩、2-ヘプタデセニルーヒドロキシエチルイミダゾリン、ステアラミドエチルジエチルアミン酢酸塩、ステアラミドエチルジエチルアミン塩酸塩、トリエタノールアミンモノステアレートギ酸塩、アルキルピリジウム塩、高級アルキルアミンエチレンオキサイド付加物、ポリアクリルアミドアミン塩、変成ポリアクリルアミドアミン塩、パーフルオロアルキル第4級アンモニウムヨウ化物等が挙げられる。
【0035】
両性界面活性剤の例として、ジメチルヤシベタイン、ジメチルラウリルベタイン、ラウリルアミノエチルグリシンナトリウム、ラウリルアミノプロピオン酸ナトリウム、ステアリルジメチルベタイン、ラウリルジヒドロキシエチルベタイン、アミドベタイン、イミダゾリニウムベタイン、レシチン、3-[ω-フルオロアルカノイル-N-エチルアミノ]-1-プロパンスルホン酸ナトリウム、N-[3-(パーフルオロオクタンスルホンアミド)プロピル]-N,N-ジメチル-N-カルボキシメチレンアンモニウムベタイン等が挙げられる。
【0036】
非イオン界面活性剤の例として、ヤシ脂肪酸ジエタノールアミド(1:2型)、ヤシ脂肪酸ジエタノールアミド(1:1型)、牛脂肪酸ジエタノールアミド(1:2型)、牛脂肪酸ジエタノールアミド(1:1型)、オレイン酸ジエタノールアミド(1:1型)、ヒドロキシエチルラウリルアミン、ポリエチレングリコールラウリルアミン、ポリエチレングリコールヤシアミン、ポリエチレングリコールステアリルアミン、ポリエチレングリコール牛脂アミン、ポリエチレングリコール牛脂プロピレンジアミン、ポリエチレングリコールジオレイルアミン、ジメチルラウリルアミンオキサイド、ジメチルステアリルアミンオキサイド、ジヒドロキシエチルラウリルアミンオキサイド、パーフルオロアルキルアミンオキサイド、ポリビニルピロリドン、高級アルコールエチレンオキサイド付加物、アルキルフェノールエチレンオキサイド付加物、脂肪酸エチレンオキサイド付加物、ポリプロピレングリコールエチレンオキサイド付加物、グリセリンの脂肪酸エステル、ペンタエリスリットの脂肪酸エステル、ソルビットの脂肪酸エステル、ソルビタンの脂肪酸エステル、砂糖の脂肪酸エステル等が挙げられる。
【0037】
上述した界面活性剤の中でも、アルキルベンゼンスルホン酸、油溶性アルキルベンゼンスルホン酸、α-オレフィンスルホン酸、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム、油溶性アルキルベンゼンスルホン酸塩、α-オレフィンスルホン酸塩等のスルホン酸型の界面活性剤は、カーボンの分散効果、分散剤の残存による触媒性能の変化等を考慮すると、分散剤として、好適に用いることができる。
触媒インク中の高分子電解質の量を多くすると細孔容積は一般に小さくなる。一方、触媒インク中のカーボン粒子の量を多くすると、細孔容積は大きくなる。また、分散剤を使用すると、細孔容積は小さくなる。
【0038】
また、触媒インクは必要に応じて分散処理が行われる。触媒インクの粘度と、触媒インクに含まれる粒子のサイズとを、触媒インクの分散処理の条件によって制御することができる。分散処理は、様々な装置を採用して行うことができる。特に、分散処理の方法は限定されるものではない。例えば、分散処理としては、ボールミルやロールミルによる処理、せん断ミルによる処理、湿式ミルによる処理、超音波分散処理等が挙げられる。また、遠心力で攪拌を行うホモジナイザー等を採用しても良い。細孔容積は、分散時間が長くなるのに伴い、触媒担持粒子の凝集体が破壊されて小さくなる。
触媒インク中の固形分含有量が多すぎる場合、触媒インクの粘度が高くなるため、電極触媒層2及び3の表面にクラックが入りやすくなる。一方、触媒インク中の固形分含有量が少なすぎる場合、成膜レートが非常に遅く、生産性が低下してしまう。したがって、触媒インク中の固形分含有量は、1質量%(wt%)以上50質量%以下であることが好ましい。
【0039】
固形分は、触媒物質担持粒子と高分子電解質からなる。固形分のうち、触媒物質担持粒子の含有量を多くすると、同じ固形分含有量でも粘度は高くなる。一方、固形分のうち、触媒物質担持粒子の含有量を少なくすると、同じ固形分含有量でも粘度は低くなる。したがって、固形分に占める触媒物質担持粒子の割合は、10質量%以上80質量%以下が好ましい。また、触媒インクの粘度は、0.1cP以上500cP以下(0.0001Pa・s以上0.5Pa・s以下)程度が好ましく、5cP以上100cP以下(0.005Pa・s以上0.1Pa・s以下)がより好ましい。また触媒インクの分散時に分散剤を添加することで、粘度の制御をすることもできる。
また、触媒インクに造孔剤が含まれていても良い。造孔剤は、電極触媒層の形成後に除去することで、細孔を形成することができる。酸やアルカリ、水に溶ける物質や、ショウノウ等の昇華する物質、熱分解する物質等を挙げることができる。造孔剤が、温水で溶ける物質であれば、発電時に発生する水で取り除いても良い。
【0040】
酸やアルカリ、水に溶ける造孔剤としては、例えば、酸可溶性無機塩類、アルカリ水溶液に可溶性の無機塩類、酸又はアルカリに可溶性の金属類、水溶性無機塩類、水溶性有機化合物類等が挙げられる。酸可溶性無機塩類としては、炭酸カルシウム、炭酸バリウム、炭酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、酸化マグネシウム等が例示できる。アルカリ水溶液に可溶性の無機塩類としては、アルミナ、シリカゲル、シリカゾル等が例示できる。酸又はアルカリに可溶性の金属類としては、アルミニウム、亜鉛、スズ、ニッケル、鉄等が例示できる。水溶性無機塩類としては、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化アンモニウム、炭酸ナトリウム、硫酸ナトリウム、リン酸一ナトリウム等が例示できる。水溶性有機化合物類としては、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール等が例示できる。
上述した造孔剤は1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いても良いが、2種以上を組み合わせて用いることが好ましい。
触媒インクを基材上に塗布する塗布方法としては、例えば、ドクターブレード法、ディッピング法、スクリーン印刷法、ロールコーティング法等を採用することができる。
【0041】
電極触媒層2,3の製造に用いる基材としては、転写シートを用いることができる。
基材として用いられる転写シートとしては、転写性が良い材質であれば良く、例えば、エチレンテトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロパーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等のフッ素系樹脂を用いることができる。また、ポリイミド、ポリエチレンテレフタラート、ポリアミド(ナイロン(商標登録))、ポリサルホン、ポリエーテルサルホン、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテル・エーテルケトン、ポリエーテルイミド、ポリアリレート、ポリエチレンナフタレート等の高分子シート、高分子フィルムを転写シートとして用いることができる。また、基材として転写シートを用いた場合には、高分子電解質膜1に溶媒除去後の塗膜である電極膜を接合した後に転写シートを剥離し、高分子電解質膜1の両面に電極触媒層2,3を備える膜電極接合体11とすることができる。
【0042】
ガス拡散層4,5としては、ガス拡散性と導電性とを有する材質を用いることができる。例えば、ガス拡散層4,5として、カーボンクロス、カーボンペーパー、不織布等のポーラスカーボン材を用いることができる。
セパレータ10(10a,10b)としては、カーボンタイプあるいは金属タイプのもの等を用いることができる。なお、ガス拡散層4,5とセパレータ10(10a,10b)はそれぞれ一体構造となっていても良い。また、セパレータ10(10a,10b)もしくは電極触媒層2,3が、ガス拡散層4,5の機能を果たす場合は、ガス拡散層4,5は省略しても良い。固体高分子形燃料電池12は、ガス供給装置、冷却装置等、その他付随する装置を組み立てることにより製造することができる。
【0043】
<作用その他>
本実施形態では、高加湿条件下で高い発電特性を示す膜電極接合体11と、その製造方法、その膜電極接合体11を備えてなる固体高分子形燃料電池12について説明している。本実施形態の膜電極接合体11の電極触媒層2,3において、保水繊維の絡み合いによって、耐久性低下の起因となる電極触媒層のクラック発生を抑制するなど、高い耐久性と機械特性が得られる。また、触媒担持粒子と保水繊維との絡み合いで電極触媒層に細孔が形成される。この形成された細孔によって、保水性を高めた電極触媒層でも、高電流域では電極反応で生成した水を排出することができ、反応ガスの拡散性を高めることができる。更に、負荷変動時に生じる過剰な生成水を、保水繊維で一時的に水を保持することで、反応ガスの拡散性を維持できる。
本実施形態に係る電極触媒層の製造方法で製造された膜電極接合体は、低加湿条件下での保水性を阻害せずに、多くの生成水が生じる高電流域における排水性が改善され、また、高加湿条件下でも高い発電性能と耐久性を示す。また、本実施形態に係る電極触媒層の製造方法は、上述したような膜電極接合体を効率良く経済的に容易に製造することができる。
【0044】
つまり、白金担持カーボン触媒(触媒担持粒子)と、高分子電解質と、保水繊維とを溶媒に分散させた触媒インクを用いて電極触媒層を形成するだけで、上述の膜電極接合体を製造することができる。
したがって、複雑な製造工程を伴うことなく製造することができると共に、上述の手順で作製した電極触媒層を用いることで保水性及び反応ガスの拡散性を共に向上させることができるため、例えば加湿器等の特別な手段を設けることなく運用することができ、コスト削減を図ることができる。
【0045】
なお、高分子電解質膜1の両面に形成される電極触媒層2,3のうち一方のみを、改良電極触媒層としてもよい。その場合、改良電極触媒層は、電極反応により水が発生する空気極(カソード)側に配置することが好ましい。ただし、高電流域における排水性の点から、高分子電解質膜1の両面に形成されることがより好ましい。
以上、本発明の実施形態を詳述してきたが、実際には、上記の実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の変更があっても本発明に含まれる。
【実施例
【0046】
以下に、本実施形態における固体高分子形燃料電池用電極触媒層用の改良電極触媒層及び膜電極接合体の製造方法について、具体的な実施例及び比較例を挙げて説明する。ただし、本実施形態は下記の実施例及び比較例によって制限されるものではない。
以下の各実施例では、一対の電極触媒層をともに改良電極触媒層とした場合を例示している。一対の電極触媒層のうち一方のみを、改良電極触媒層としてもよい。
【0047】
<実施例1>
〔触媒インクの調製〕
担持密度50質量%である白金担持カーボン触媒(触媒担持粒子)と、25質量%高分子電解質溶液と、平均繊維長が200μmで、平均繊維径が1μmであるポリアクリル酸繊維(保水繊維)と、を溶媒中で混合し、遊星型ボールミルで分散処理を行った。このとき、分散時間を30分間とし、触媒インクを調製した。調製した触媒インクの出発原料の組成比は、ポリアクリル酸繊維:カーボン担体:高分子電解質を質量比で0.2:1:0.6とした。触媒インクの溶媒は、超純水と1-プロパノールを体積比で1:1とした。また、触媒インクにおける固形分含有量は15質量%となるように調整した。
【0048】
〔基材〕
転写シートを構成する基材として、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)シートを用いた。
〔基材上への電極触媒層の形成方法〕
ドクターブレード法により、上記調製した触媒インクを基材上に塗布し、大気雰囲気中80℃で乾燥させた。触媒インクの塗布量は、燃料極(アノード)となる電極触媒層では白金担持量0.05mg/cmとし、空気極(カソード)となる電極触媒層では白金担持量0.2mg/cmとなるようにそれぞれ調整した。
【0049】
〔膜電極接合体の作製〕
アノードとなる電極触媒層を形成した基材及びカソードとなる電極触媒層を形成した基材を、5cm×5cmにそれぞれ打ち抜き、高分子電解質膜の両面に転写温度120℃、転写圧力5.0×10Paの条件で転写して、実施例の膜電極接合体を作製した。
【0050】
<比較例1>
〔触媒インクの調製〕
実施例1におけるポリアクリル酸繊維(保水繊維)を、平均粒径が0.3μmであるポリアクリル酸粒子に代えた以外は、実施例1と同様にして比較例1の触媒インクを調製した。調製した触媒インクの出発原料の組成比は、ポリアクリル酸粒子:カーボン担体:高分子電解質を質量比で0.2:1:0.6とした。触媒インクの溶媒は、超純水と1-プロパノールを体積比で1:1とした。また、触媒インクにおける固形分含有量は15質量%となるように調整した。
【0051】
〔基材〕
転写シートを構成する基材として、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)シートを用いた。
〔基材上への電極触媒層の形成方法〕
ドクターブレード法により、上記調製した触媒インクを基材上に塗布し、大気雰囲気中80℃で乾燥させた。触媒インクの塗布量は、燃料極(アノード)となる電極触媒層では白金担持量0.05mg/cmとし、空気極(カソード)となる電極触媒層では白金担持量0.2mg/cmとなるようにそれぞれ調整した。
【0052】
〔膜電極接合体の作製〕
アノードとなる電極触媒層を形成した基材及びカソードとなる電極触媒層を形成した基材を、5cm×5cmにそれぞれ打ち抜き、高分子電解質膜の両面に転写温度120℃、転写圧力5.0×10Paの条件で転写して、比較例1の膜電極接合体を作製した。
【0053】
<比較例2>
〔触媒インクの調製〕
ポリアクリル酸繊維(保水繊維)を含まない以外は、実施例1と同様にして比較例2の触媒インクを調製した。調製した触媒インクの出発原料の組成比は、カーボン担体:高分子電解質を質量比で1:0.6とした。触媒インクの溶媒は、超純水と1-プロパノールを体積比で1:1とした。また、触媒インクにおける固形分含有量は15質量%となるように調整した。
【0054】
〔基材〕
転写シートを構成する基材として、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)シートを用いた。
〔基材上への電極触媒層の形成方法〕
ドクターブレード法により、上述したようにして調製した触媒インクを基材上に塗布し、大気雰囲気中80℃で乾燥させた。触媒インクの塗布量は、燃料極(アノード)となる電極触媒層では白金担持量0.05mg/cmとし、空気極(カソード)となる電極触媒層では白金担持量0.2mg/cmとなるようにそれぞれ調整した。
【0055】
〔膜電極接合体の作製〕
アノードとなる電極触媒層を形成した基材及びカソードとなる電極触媒層を形成した基材を、5cm×5cmにそれぞれ打ち抜き、高分子電解質膜の両面に転写温度130℃、転写圧力5.0×10Paの条件で転写して、比較例2の膜電極接合体を作製した。
【0056】
<評価>
〔発電特性〕
実施例及び比較例1、2で得られた各膜電極接合体を挟持するように、ガス拡散層としてカーボンペーパーを貼りあわせてサンプルを作製した。そして各サンプルを、発電評価セル内に設置し、燃料電池測定装置を用いて電流電圧測定を行った。測定時のセル温度は65℃とし、運転条件は以下に示す高加湿と低加湿を採用した。また、燃料ガスとして水素を水素利用率が90%となる流量で流し、酸化剤ガスとして空気を用い酸素利用率が40%となる流量で流した。なお、背圧は50kPaとした。
【0057】
〔運転条件〕
条件1(高加湿):相対湿度 アノード90%RH、カソード80%RH
条件2(低加湿):相対湿度 アノード90%RH、カソード30%RH
【0058】
〔測定結果〕
実施例1で作製した膜電極接合体は、比較例1、2で作製した膜電極接合体よりも、高加湿の運転条件下で優れた発電性能を示した。また、実施例1で作製した膜電極接合体は、高加湿の運転条件下においても、低加湿の運転条件下と同等レベルの発電性能であった。特に、電流密度1.5A/cm付近の発電性能が向上した。実施例1で作製した膜電極接合体の電流密度1.5A/cmにおけるセル電圧は、比較例1で作製した膜電極接合体の電流密度1.5A/cmにおけるセル電圧と比べて0.25V高かった。また、実施例1で作製した膜電極接合体は、比較例2で作製した膜電極接合体の電流密度1.5A/cmにおけるセル電圧と比べて0.27V高い発電特性を示した。
【0059】
実施例1で作製した膜電極接合体と比較例1、2で作製した膜電極接合体との発電特性の結果から、実施例1の膜電極接合体は排水性が高まり、高加湿の運転条件下における発電特性が、低加湿の運転条件下と同等の発電特性を示すことが確認された。
また、低加湿の運転条件下では、実施例1で作製した膜電極接合体の電流密度1.5A/cmにおけるセル電圧は、比較例1で作製した膜電極接合体の電流密度1.5A/cmにおけるセル電圧と比べて0.28V高かった。また、実施例1で作製した膜電極接合体は、比較例2で作製した膜電極接合体の電流密度1.5A/cmにおけるセル電圧と比べて0.29V高い発電特性を示した。
実施例1で作製した膜電極接合体と比較例1、2で作製した膜電極接合体との発電特性の結果から、実施例1で作製した膜電極接合体では、電極反応で生成した水の排水性が高く、低加湿条件下での保水性を阻害していないことが確認された。
【符号の説明】
【0060】
1…高分子電解質膜
2…電極触媒層
3…電極触媒層
4…ガス拡散層
5…ガス拡散層
6…空気極(カソード)
7…燃料極(アノード)
8a,8b…ガス流路
9a,9b…冷却水流路
10a,10b…セパレータ
11…膜電極接合体
12…固体高分子形燃料電池
図1
図2