(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-18
(45)【発行日】2023-12-26
(54)【発明の名称】電力変換装置
(51)【国際特許分類】
H02M 7/48 20070101AFI20231219BHJP
H02M 3/00 20060101ALI20231219BHJP
H01L 23/36 20060101ALI20231219BHJP
【FI】
H02M7/48 Z
H02M3/00 Y
H01L23/36 C
(21)【出願番号】P 2019092813
(22)【出願日】2019-05-16
【審査請求日】2022-04-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000005234
【氏名又は名称】富士電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 以久也
(72)【発明者】
【氏名】田中 孝明
【審査官】佐藤 匡
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-015274(JP,A)
【文献】特開2010-267733(JP,A)
【文献】特開2018-093664(JP,A)
【文献】特開2011-233562(JP,A)
【文献】特開2012-156322(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 7/48
H02M 3/00
H01L 23/36
H05K 7/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに離れて設けられ互いが対向する領域に風の流路が形成される複数のフィンと、
複数の前記フィンが設けられる第1端面及び前記第1端面側とは反対側の第2端面を有するフィンベースと、
前記第2端面に設けられる第1半導体モジュールと、
前記第2端面に設けられ、
前記風が流れる方向と垂直な方向に対して前記第1半導体モジュールよりも前記第2端面の周縁部寄りの領域に設けられる第2半導体モジュールと、
前記第2端面に設けられ、前記第1半導体モジュールよりも前記第2端面の風下側の領域に設けられる第3半導体モジュールと、
前記第2端面に設けられ、前記風が流れる方向と垂直な方向に対して前記第1半導体モジュールよりも前記第2端面の前記第2半導体モジュールと反対の側の周縁部寄りの領域に設けられる第4半導体モジュールと、
前記第2端面に設けられ、前記風が流れる方向と垂直な方向に対して前記第3半導体モジュールよりも前記第2端面の周縁部寄りの領域に設けられる第5半導体モジュールと、
前記第2端面に設けられ、前記風が流れる方向と垂直な方向に対して前記第3半導体モジュールよりも前記第2端面の前記第5半導体モジュールと反対の側の周縁部寄りの領域に設けられる第6半導体モジュールと、
前記第2端面と
、前記第1半導体モジュール
、前記第5半導体モジュール及び前記第6半導体モジュールのそれぞれとの間に設けられ第1熱伝導率を有する第1熱伝導部材と、
前記第2端面と
、前記第2半導体モジュール
及び前記第4半導体モジュールのそれぞれとの間に設けられ前記第1熱伝導率より低い第2熱伝導率を有する第2熱伝導部材と、
前記第2端面と前記第3半導体モジュールとの間に設けられ、前記第1熱伝導率より高い第3熱伝導率を有する第3熱伝導部材と、
を備える電力変換装置。
【請求項2】
前記第1半導体モジュール及び前記第2半導体モジュールは、上下アームを構成する2つのスイッチング素子を含む2in1モジュールである請求項
1に記載の電力変換装置。
【請求項3】
前記第1半導体モジュール及び前記第2半導体モジュールは、上下アームの一方を構成する1つのスイッチング素子を含む1in1モジュール又はディスクリート半導体素子である請求項
1に記載の電力変換装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、交流電力を直流電力に変換して負荷に供給し又は直流電力を交流電力に変換して負荷に供給する電力変換装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電力変換装置の主回路を構成する複数の半導体モジュールは、内蔵される半導体スイッチング素子がスイッチング動作することで損失が発生し、高温になる。このように高温になる半導体モジュールを冷却するために放熱器が利用される。放熱器に液体、空気などの冷媒が流れることによって、放熱器と冷媒の間で熱交換が促進され、放熱器と熱的に接続される半導体モジュールで発生する熱が放熱器を介し移動する。
【0003】
特許文献1に開示される従来技術では、半導体スイッチング素子が、冷却器に形成された複数の通路に対して、千鳥状に配列される。通路は、冷却器に形成される冷媒を通すための溝、空洞などである。これにより、冷媒が流れる方向に対して上流側と下流側のそれぞれ配置される複数の半導体スイッチング素子が、均等に冷却され、複数の半導体スイッチング素子間の温度差(温度むら)を小さくすることができると共に、放熱器の設計上の制約が解消される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示される従来技術では、複数の半導体スイッチング素子を千鳥配列させるために、半導体スイッチング素子の位置が異なる専用の半導体モジュールを利用する必要がある。従って、主回路の製造コストが増大する可能性がある。また、専用の半導体モジュールを基板へ組み付ける際に基板に組み付ける端子からスイッチング素子までの距離が均一にならずスイッチング特性がばらつき、損失の増加、サージ電圧による故障などの悪影響が生じる。また汎用の半導体モジュールの放熱器上での配置を工夫すれば、特許文献1に開示される従来技術と同様の効果を期待できるが、放熱器の形状に制約がある条件下では当該従来技術を適用できないという問題がある。
【0006】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、簡易な構成で複数の半導体素子間の温度むらの上昇を抑制できる電力変換装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決し、目的を達成するため、本発明に係る電力変換装置は、互いに離れて設けられ互いが対向する領域に風の流路が形成される複数のフィンと、複数の前記フィンが設けられる第1端面及び前記第1端面側とは反対側の第2端面を有するフィンベースとを備える。電力変換装置は、前記第2端面に設けられる第1半導体モジュールと、前記第2端面に設けられ、前記第1半導体モジュールよりも前記第2端面の風上側の領域に設けられる第2半導体モジュールとを備える。電力変換装置は、前記第2端面と前記第1半導体モジュールとの間に設けられ第1熱伝導率を有する第1熱伝導部材と、前記第2端面と前記第2半導体モジュールとの間に設けられ前記第1熱伝導率より低い第2熱伝導率を有する第2熱伝導部材とを備える。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、簡易な構成で複数の半導体素子間の温度むらの上昇を抑制できる、という効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の実施の形態に係る電力変換装置100が備える放熱器10などの構成例を示す第1図
【
図2】本発明の実施の形態に係る電力変換装置100が備える放熱器などの構成例を示す第2図
【
図3】半導体モジュール31の内部構造のイメージを表す図
【
図8】電力変換装置100に温度センサ60などを取り付けた状態を示す図
【
図9A】
図8に示されるA-A線を含むYZ平面における電力変換装置100の断面図
【
図9B】
図8に示されるB-B線を含むYZ平面における電力変換装置100の断面図
【
図9C】
図8に示されるC-C線を含むYZ平面における電力変換装置100の断面図
【
図10】電力変換装置100の解析モデルにおいて、ヒータ80で発生する熱を放熱器10に与えて、ファン20で強制風冷したときのフィンの温度分布を測定した結果を示す図
【
図11】変形例に係る電力変換装置100Aの構成例を示す第1図
【
図12】変形例に係る電力変換装置100Aの構成例を示す第2図
【
図13】
図11に示す半導体モジュール31Aの内部構造のイメージを表す図
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、本発明の実施の形態に係る電力変換装置を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。なお本実施の形態において、X軸方向、Y軸方向、Z軸方向は、それぞれ、X軸に平行な方向、Y軸に平行な方向、Z軸に平行な方向を表す。X軸方向とY軸方向とZ軸方向は、互いに直交する。XY平面、YZ平面、ZX平面は、それぞれ、X軸方向及びY軸方向に平行な仮想平面、Y軸方向及びZ軸方向に平行な仮想平面、Z軸方向及びX軸方向に平行な仮想平面を表す。
図1以降において、X軸方向のうち、矢印で示す方向はプラスX軸方向とし、当該方向とは逆の方向はマイナスX軸方向とする。Y軸方向のうち、矢印で示す方向はプラスY軸方向とし、当該方向とは逆の方向はマイナスY軸方向とする。Z軸方向のうち、矢印で示す方向はプラスZ軸方向とし、当該方向とは逆の方向はマイナスZ軸方向とする。
【0011】
実施の形態
図1は本発明の実施の形態に係る電力変換装置100が備える放熱器10などの構成例を示す第1図である。
図1には、電力変換装置100が備える放熱器10などをXY平面において平面視した状態が示される。
図2は本発明の実施の形態に係る電力変換装置100が備える放熱器などの構成例を示す第2図である。
図2には、
図1の放熱器10などをYZ平面において平面視した状態が示される。
【0012】
電力変換装置100は、例えば電動自動車(電気自動車、ハイブリッド車、プラグインハイブリッド車など)に搭載される主電動機を駆動するインバータである。なお電力変換装置100は、スイッチング素子が形成される2以上の半導体モジュールを備えた主回路(電力変換部)を備えたものであれば電動自動車用のインバータに限定されず、例えば列車に搭載される主電動機を駆動するインバータでもよいし、所定値の直流電圧を異なる値の直流電圧に変換するコンバータでもよい。
【0013】
電力変換装置100は、複数の半導体モジュール31~36で発生した熱を吸収して大気へ放射する放熱器10と、放熱器10を強制風冷するための送風機であるファン20とを備える。
【0014】
放熱器10は、複数の放熱用のフィン12と、複数のフィン12及び複数の半導体モジュール31~36が設けられるフィンベース11とを備える。放熱器10の材料には、アルミニウム、オーステナイト系ステンレス合金、銅合金、鋳鉄、鋼、鉄合金などの金属を例示できる。
【0015】
フィンベース11は、例えば4つの内角のそれぞれの大きさが直角に等しい正方形状又は長方形状の板状部材である。フィンベース11は、複数のフィン12が設けられる第1端面11aと、第1端面11a側とは反対側の端面であって複数の半導体モジュール31~36が設けられる第2端面11bとを有する。なおフィンベース11の形状はこれらに限定されず、複数の半導体モジュール31~36を第2端面11b側に設けることができる形状であればよく、楕円形などでもよい。
【0016】
以下では、複数の半導体モジュール31~36のそれぞれを区別しない場合、単に「半導体モジュール」と称する場合がある。半導体モジュールは、半田付け、接着剤、ねじ止めなどにより、放熱器10のフィンベース11と熱的及び機械的に固定される。なお、放熱器10のフィンベース11への半導体モジュールの固定方法はこれらに限定されるものではない。また、半導体モジュール31~36のそれぞれは、熱伝導率が異なる種類の複数の熱伝導部材40を介してフィンベース11と熱的に固定される。
【0017】
このような熱伝導部材40を用いる理由は、
図1に示されるように配置されるファン20を用いて強制風冷が行われると、放熱器10において、半導体モジュールが冷えやすい箇所と冷えにくい箇所が発生し、複数の半導体スイッチング素子(以下、スイッチング素子)間で温度むらが発生すること防止するためである。
【0018】
すなわち、
図1に示されるように放熱器10上に3列2行に半導体モジュール31~36が配列された場合、半導体モジュール31~36のそれぞれは均等に発熱した場合でも、放熱器10の周囲の空気と放熱器10の表面との熱交換量が放熱器10の位置によって異なるため、半導体モジュールが冷えやすい箇所と冷えにくい箇所が発生する。この場合、全ての半導体モジュール31~36を均等に冷却するよりも、熱が逃げ難い箇所には、放熱器10に早く熱が伝わるようにするため熱伝導率が比較的高い熱伝導部材40を採用し、熱が逃げ易い箇所には、放熱器10に早く熱を伝えるよりも製造コストの上昇を抑制することを優先して熱伝導率が比較的低い熱伝導部材40を採用することが望ましい。熱が逃げ難い箇所は、放熱器10のプラスX軸方向の端面寄りの領域(風下側領域)と、放熱器10のY軸方向の中央寄りの領域である。熱が逃げ易い箇所は、放熱器10の-X軸方向の端面寄りの領域(風上側領域)と、放熱器10のプラスY軸方向の端面寄りの領域と、放熱器10のマイナスY軸方向の端面寄りの領域である。風上側は、放熱器10のマイナスX軸方向側の領域(空間)である。風下側は、放熱器10のプラスX軸方向側の領域である。
【0019】
このように、半導体モジュールから放熱器10へ伝わった熱が逃げ易い箇所と逃げ難い箇所で、熱伝導率が異なる熱伝導部材40を用いること、すなわち適材適所にすることによって、全ての熱伝導部材40に対して熱伝導率が高く、かつ、材料コストが高い材料を適用しなくても、複数のスイッチング素子間の温度むらの上昇を抑制しながら、装置全体での製造コストの低減が可能になる。
【0020】
フィン12は、フィンベース11の第1端面11aにおいて、フィンベース11のプラスX軸方向の端面からマイナスX軸方向の端面に向かって伸びる板状部材である。複数のフィン12は、Y軸方向に互いに離れて設けられる。これにより、隣接するフィン12の間に隙間が形成され、この隙間は、ファン20が備える不図示の羽根車が回転することで生じる風の流路(風路12a)として機能する。フィン12は、ねじを用いてフィンベース11に固定してもよいし、フィンベース11への接触部に溶接を施すことによって、フィンベース11に固定してもよいし、ダイカスト成形で放熱器10を製造する際、フィンベース11と一体に製造されたものでもよい。
【0021】
ファン20は、例えば放熱器10を含むXY平面上において、羽根車がフィンベース11及びフィン12と向き合うように、放熱器10のプラスX軸側に設けられている。ファン20は、Z軸方向の位置は、複数の半導体モジュール31~36とフィン12の風路12aとに空気が流れるような位置に設定される。なお、ファン20は、風上側に設けてもよい。
【0022】
ファン20の羽根車が回転することで放熱器10の風路12aに負圧が生じて、この負圧によって、
図1に示される複数の矢印の方向に空気の流れ(風)が生じる。空気が流れる方向はプラスX軸方向に等しい。
【0023】
次に
図3を用いて半導体モジュールの内部構造を説明する。
図3は半導体モジュール31の内部構造のイメージを表す図である。半導体モジュール31は、例えば主回路の上下アームの一方を構成する1つのスイッチング素子31aを含む1in1モジュール又はディスクリート半導体素子である。半導体モジュール31以外の半導体モジュール32~36のそれぞれには、
図3に示すスイッチング素子31aと同様のスイッチング素子が設けられているものとする。
【0024】
スイッチング素子31aがスイッチング動作することによって、スイッチング損失が生じるため、スイッチング素子31aのジャンクション温度が上昇して、半導体モジュールの表面温度が上昇する。半導体モジュールで発生した熱は、フィンベース11を介してフィン12に伝わり、フィン12の表面温度が上昇する。
【0025】
ファン20が回転して風路12aに空気の流れ(風)が生じると、温度が上昇したフィン12の表面と、風路12aに流れる空気との間で熱交換が行われる。これにより、フィン12に蓄積された熱がフィン12の周囲に放射され、半導体モジュールからフィン12への熱の伝達が促されることで、半導体モジュールの温度上昇が抑制される。
【0026】
次に
図4などを用いて熱伝導部材40について説明する。
図1に示すように半導体モジュール31~36が配列された場合、半導体モジュール31、32、33付近の熱が伝達されるフィン12の風下側領域の温度は、半導体モジュール34、35、36付近の熱が伝達されるフィン12の風上側領域の温度よりも高くなる傾向がある。これは、フィン12の風上側領域に伝達された熱が、風路12aに存在する空気へ放射されて、その空気がフィン12の風下側領域に移動することによって、風下側のフィン12の周囲に存在する空気の温度が上昇して、当該空気の温度とフィン12の風下側領域の温度との温度差が小さくなり、熱交換量が低下するためである。
【0027】
この場合、風下側に配置される半導体モジュール31、32、33の温度は、風上側に配置される半導体モジュール34、35、36の温度よりも上昇するため、例えば、風下側の半導体モジュール31に形成されるスイッチング素子と、風上側の半導体モジュール34に形成されるスイッチング素子との間の温度差(温度むら)が大きくなる。温度むらはジャンクション温度のばらつきに等しい。このようにスイッチング素子間の温度むらが大きくなることによって、スイッチング素子間でスイッチング特性のばらつきが生じて、出力電圧のひずみ、トルクリプルなど負荷の駆動特性が低下するおそれがある。
【0028】
また、スイッチング素子間の温度むらによって、半導体モジュールが接続される不図示の制御基板に熱応力が生じて、半田割れ、パターン配線の割れなどが発生するおそれもある。
【0029】
このようなことに鑑みて、本実施の形態に係る電力変換装置100では、
図4などに示すように熱伝導率が異なる複数種類の熱伝導部材が利用される。
図4は熱伝導部材の第1構成例を示す図である。
図5は熱伝導部材の第2構成例を示す図である。
図6は熱伝導部材の第3構成例を示す図である。
図7は熱伝導部材の材料の一例を示す図である。
【0030】
図4のフィンベース11の風下側領域には、複数の第1熱伝導部材41が設けられている。これらの第1熱伝導部材41には、半導体モジュール31~33が熱的に接続される。第1熱伝導部材41は、第1熱伝導率を有する板状部材である。第1熱伝導部材41の材料に例については後述する。
【0031】
フィンベース11の風上側領域には、複数の第2熱伝導部材42が設けられている。これらの第2熱伝導部材42には、半導体モジュール34~36が熱的に接続される。第2熱伝導部材42は、第1熱伝導率より低い第2熱伝導率を有する板状部材である。第2熱伝導部材42の材料に例については後述する。
【0032】
このように、放熱器10の風上側に第2熱伝導部材42を配置することによって、半導体モジュール34などで発生した熱が、熱伝導率が低い第2熱伝導部材42によって、放熱器10の風上側領域に伝わり難くなる。これにより、放熱器10の風上側領域の温度上昇が緩やかになり、放熱器10の風下側領域へ熱が伝わり難くなる。
【0033】
放熱器10の風下側に第1熱伝導部材41を配置することによって、半導体モジュール31などで発生した熱が、熱伝導率が高い第1熱伝導部材41によって、放熱器10の風下側領域に早く伝わり、半導体モジュール31などの冷却が促される。
【0034】
従って、2種類の第1熱伝導部材41及び第2熱伝導部材42を用いることで、風下側の半導体モジュールに形成されるスイッチング素子と、風上側の半導体モジュールに形成されるスイッチング素子との間の温度差を小さくすることができ、負荷の安定した制御が可能になる。
【0035】
また、比較的安価な材料を第2熱伝導部材42に適用することで、全ての熱伝導部材に高価な第1熱伝導部材41が利用される場合に比べて、主回路の製造コストを低減することができる。
【0036】
図5には
図4に示す構成の第1変形例が示される。
図5では、フィンベース11の風上側に設けられ3つの熱伝導部材の内、Y軸方向の中央寄りに設けられる熱伝導部材が、第1熱伝導部材41に変更されている。
【0037】
前述したように、放熱器10のY軸方向の中央寄りの領域は、熱が逃げ難い箇所の一つである。そのため、第1熱伝導率を有する第1熱伝導部材41を当該領域に設けることによって、
図1に示す半導体モジュール35の冷却が促されて、半導体モジュール35に形成されるスイッチング素子と、例えば半導体モジュール34に形成されるスイッチング素子との間の温度差を小さくすることができるため、より一層、負荷の安定した制御が可能になる。
【0038】
図6には
図4に示す構成の第2変形例が示される。
図6では、フィンベース11の風下側に設けられ3つの熱伝導部材の内、Y軸方向の中央寄りに設けられる熱伝導部材が、第3熱伝導部材43に変更されている。第3熱伝導部材43は、第1熱伝導部材41の第1熱伝導率よりも高い第3熱伝導率を有する板状部材である。第3熱伝導部材43の材料に例については後述する。
【0039】
放熱器10の風下側領域の内、放熱器10のY軸方向の中央寄りの領域は、最も熱が逃げ難い箇所である。そのため、第3熱伝導率を有する第3熱伝導部材43を当該領域に設けることによって、
図1に示す半導体モジュール32の冷却が促されて、半導体モジュール32に形成されるスイッチング素子と、例えば半導体モジュール31に形成されるスイッチング素子との間の温度差を小さくすることができ、より一層、負荷の安定した制御が可能になる。
【0040】
なお、
図5の構成例に
図6の構成例を組み合わせてもよい。この構成により、半導体モジュール32に形成されるスイッチング素子と、半導体モジュール35に形成されるスイッチング素子との間の温度差も小さくすることができ、より一層、負荷の安定した制御が可能になる。
【0041】
図7には、第1熱伝導部材41、第2熱伝導部材42、第3熱伝導部材43などの材料の一例が示される。
【0042】
熱伝導率が6w/mkの材料は、例えば、ポリマー成分に熱伝導性フィラーが添加された高熱伝導性樹脂コンパウンドを例示できる。ポリマー成分は、ポリシロキサン(シリコーンポリマー),ポリアクリル、ポリオレフィンなどである。なお、高熱伝導性樹脂コンパウンドの製造方法については、例えば特許5089908号公報、特許5085050号公報などに公開される通り公知であるため、説明を省略する。高熱伝導性樹脂コンパウンドは、例えば比較的熱伝導率が低いものの安価に製造できるため、第2熱伝導部材42(第1熱伝導率より低い第2熱伝導率を有する部材)に好適である。
【0043】
熱伝導率が30w/mkの材料は、例えば、炭素繊維、あるいは、炭素繊維と炭素との複合材料等によって形成されたシート状のカーボンシートを例示できる。カーボンシートは、近年、炭素繊維を利用した製品が多く生産される傾向にあることを背景として。短時間で大量に生産する技術が確立されつつあるため、比較的熱伝導率が低く、かつ、安価な材料の一つとして分類することもできる。またカーボンシートは、はんだ、Ag-Cu焼結などに比べて、半導体モジュールのフィンベース11への取り付けの際に溶融する必要がないため、材料単価がはんだなどに比べて高い場合でも、専用のリフロー炉を準備する必要がなく、加熱から冷却までの工程が不要になるなど、主回路の製造に要する時間を大幅に短縮できるという効果を奏する。また、コンパウンドと比較して熱伝導率を高めることもできる。従って、カーボンシートは、例えば第1熱伝導部材41(第1熱伝導率を有する部材)に適用してもよいし、第2熱伝導部材42(第1熱伝導率より低い第2熱伝導率を有する部材)に適用した場合でも主回路の製造コストを低減しうる。
【0044】
熱伝導率が50w/mkの材料は、例えば、はんだ(鉛フリーはんだなど)を例示できる。はんだは、前述したようにリフロー炉などを利用する必要があるものの、材料コストが安いため、主回路を大量生産する場合には主回路の単体の製造コストの上昇を抑制しながら、カーボンシートよりも熱伝導率を高めることができる。従って、はんだは、例えば第1熱伝導部材41又は第3熱伝導部材43に好適である。
【0045】
熱伝導率が200w/mkの材料は、例えば、Ag-Cu焼結体(Cuを含有するAg-Cu合金)を例示できる。Ag-Cu焼結体は、Agを含むため高価な材料であるが熱伝導率が高く、半導体モジュールの放熱に好適であるため、第1熱伝導部材41及び第3熱伝導部材43に適している。
【0046】
なお、第1熱伝導部材41、第2熱伝導部材42の材料はこれらに限定されるものではない。
【0047】
次に
図8などを用いて、異なる種類の熱伝導部材を利用することによる効果について説明する。
図8は電力変換装置100に温度センサ60などを取り付けた状態を示す図である。
図9Aは
図8に示されるA-A線を含むYZ平面における電力変換装置100の断面図、
図9Bは
図8に示されるB-B線を含むYZ平面における電力変換装置100の断面図、
図9Cは
図8に示されるC-C線を含むYZ平面における電力変換装置100の断面図である。
【0048】
電力変換装置100には、筐体50の内部にファン20、放熱器10、半導体モジュール31~36などが設けられ、さらに各部の温度を計測するための複数の温度センサ60(熱電対など)が設けられる。温度センサ60は、フィンベース11上、フィン12などに複数設けられ、さらに断熱板70にも設けられる。
【0049】
断熱板70は、ヒータ80で発生した熱の放射を抑制するためにヒータ80のプラスZ軸方向の端面に設置される板状の断熱材である。ヒータ80は、半導体モジュールで発生する熱を模擬するための熱発生源であり、半導体モジュール31~36のそれぞれに対応する数だけ設けており、熱伝導部材の効果を確認するためそれぞれ同じ損失が発生するように電源装置の電流制御により実現した。ヒータ80とフィンベース11との間には、熱伝導部材が設けられる。
図8及び
図9では、
図4に示される2種類の熱伝導部材(第1熱伝導部材41、第2熱伝導部材42)が用いられる。
【0050】
図10は、電力変換装置100の解析モデルにおいて、ヒータ80で発生する熱を放熱器10に与えて、ファン20で強制風冷したときのフィンの温度分布を測定した結果を示す図である。
図10では、上から順に、A-A線、B-B線、C-C線のそれぞれを含むYZ平面上に設けられる温度センサ60で計測される温度が示される。
図10では、ヒータ80の温度を90℃程度に設定したときに計測される各部の温度が示される。
【0051】
図10の測定結果によれば、放熱器10のフィンベース11の上面において、風上側領域と風下側領域の温度差が1℃程度あることが分かる。このように、異なる種類の熱伝導部材を用いることによって、風上側と風下側の温度差を小さくすることができる。
【0052】
なお本実施の形態に係る電力変換装置100は以下のように構成してもよい。
図11は変形例に係る電力変換装置100Aの構成例を示す第1図である。
図12は変形例に係る電力変換装置100Aの構成例を示す第2図である。
図13は
図11に示す半導体モジュール31Aの内部構造のイメージを表す図である。
【0053】
電力変換装置100Aでは、3つの半導体モジュール31A~33Aが用いられ、半導体モジュール31Aは、
図13に示すように、上下アームを構成する2つのスイッチング素子31a、31bを含む2in1モジュールである。半導体モジュール32A、33Aも同様である。
【0054】
半導体モジュール31A(第2半導体モジュール)は、前述した風上側の領域に代えて、風が流れる方向と垂直な方向に対して半導体モジュール32A(第1半導体モジュール)よりも、第2端面11bの周縁部寄りの領域に設けられる。
【0055】
また半導体モジュール33A(第2半導体モジュール)は、前述した風上側の領域に代えて、風が流れる方向と垂直な方向に対して半導体モジュール32A(第1半導体モジュール)よりも、第2端面11bの周縁部寄りの領域に設けられる。
【0056】
そして、フィンベース11の中央領域には、熱がこもりやすいため、熱伝導率が高い第1熱伝導部材41が設けられる。第1熱伝導部材41には、半導体モジュール32Aが接続される。
【0057】
また、風が流れる方向と垂直な方向における、フィンベース11の周縁部寄りの領域には、中央領域に比べて熱がこもり難いため、コスト低減などのために、第2熱伝導部材42が設けられる。一方の第2熱伝導部材42には半導体モジュール31Aが接続され、他方の第2熱伝導部材42には半導体モジュール33Aが接続される。
【0058】
以上に説明したように、変形例に係る電力変換装置100Aでは、熱が逃げ難い箇所に、第1熱伝導率を有する第1熱伝導部材41が設けられる。これにより、半導体モジュール32Aで発生した熱を効率的に放射でき、半導体モジュール32Aに形成されるスイッチング素子と、半導体モジュール31A及び半導体モジュール33Aのそれぞれに形成されるスイッチング素子との間の温度差を小さくすることができ、負荷の安定した制御が可能になる。
【0059】
また、変形例に係る電力変換装置100Aでは、風が流れる方向と垂直な方向における、熱が逃げ易い箇所に、第1熱伝導率より低い第2熱伝導率を有する第2熱伝導部材42が設けられる。これにより、全ての熱伝導部材に対して熱伝導率が高く、かつ、材料コストが高い材料が利用される場合に比べて、複数のスイッチング素子間の温度むらの上昇を抑制しながら、装置全体での製造コストの低減が可能になる。
【0060】
以上の実施の形態に示した構成は、本発明の内容の一例を示すものであり、別の公知の技術と組み合わせることも可能であるし、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、構成の一部を省略、変更することも可能である。
【符号の説明】
【0061】
10 :放熱器
11 :フィンベース
11a :第1端面
11b :第2端面
12 :フィン
12a :風路
20 :ファン
31 :半導体モジュール
31A :半導体モジュール
31a :スイッチング素子
31b :スイッチング素子
32 :半導体モジュール
32A :半導体モジュール
33 :半導体モジュール
33A :半導体モジュール
34 :半導体モジュール
35 :半導体モジュール
36 :半導体モジュール
40 :熱伝導部材
41 :第1熱伝導部材
42 :第2熱伝導部材
43 :第3熱伝導部材
50 :筐体
60 :温度センサ
70 :断熱板
80 :ヒータ
100 :電力変換装置
100A :電力変換装置