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特許7404654養液栽培用部材、養液栽培方法及び養液栽培システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-18
(45)【発行日】2023-12-26
(54)【発明の名称】養液栽培用部材、養液栽培方法及び養液栽培システム
(51)【国際特許分類】
   A01G 31/00 20180101AFI20231219BHJP
【FI】
A01G31/00 601C
A01G31/00 601D
A01G31/00 617
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2019094607
(22)【出願日】2019-05-20
(65)【公開番号】P2019205426
(43)【公開日】2019-12-05
【審査請求日】2022-05-10
(31)【優先権主張番号】P 2018098869
(32)【優先日】2018-05-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】596136316
【氏名又は名称】三菱ケミカルアクア・ソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 剛
(72)【発明者】
【氏名】稲山 光男
【審査官】吉田 英一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/098776(WO,A1)
【文献】特開平09-205912(JP,A)
【文献】特許第7314616(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01G 31/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
底面に勾配をもたせた栽培ベッド槽と、
該栽培ベッド槽の上に配置された、複数の植え穴が穿設された定植パネル板とを有し、
該植え穴の下方の前記栽培ベッド槽の底面に苗架台が設けられており、該苗架台の下面側と該栽培ベッド槽の底面との間に通気空間が形成され、該苗架台上に植物が配置される養液栽培用部材において、
該苗架台上の植物の根又は苗架台の上面に養液が掛かるように散水する散水部材を備えたことを特徴とする養液栽培用部材。
【請求項2】
前記散水部材から散水された養液が該苗架台上の植物の根に掛かるように前記散水部材が配置されていることを特徴とする請求項1に記載の養液栽培用部材。
【請求項3】
前記散水部材は、散水チューブであり、前記苗架台の両側に配置されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の養液栽培用部材。
【請求項4】
前記苗架台の両側に、該栽培ベッド槽の長手方向における上流から下流にかけて流水路を有する薄膜水耕機構を有するとともに、前記苗架台の両側に、散水チューブが配置されていることを特徴とする請求項3に記載の養液栽培用部材。
【請求項5】
前記散水チューブは、前記苗架台と平行方向に延設されており、
該散水チューブは、その長手方向に間隔をおいて複数の散水孔が設けられており、該散水孔の配列ピッチが、前記定植パネル板に穿設された植え穴の配列ピッチよりも小さいことを特徴とする請求項3または4に記載の養液栽培用部材。
【請求項6】
前記散水チューブは、前記栽培ベッド槽の前記底面上に配置されており、
該栽培ベッド槽の底面に、該散水チューブの位置決め及び回転防止用の凸条が設けられていることを特徴とする請求項3~5のいずれか1項に記載の養液栽培用部材。
【請求項7】
前記散水チューブは、前記苗架台からの距離が50mm以下であることを特徴とする請求項3~6のいずれか1項に記載の養液栽培用部材。
【請求項8】
前記苗架台に開口が設けられていることを特徴とする請求項1から7のいずれか1項に記載の養液栽培用部材。
【請求項9】
前記開口は前記苗架台の長手方向に間隔をおいて設けられており、
該開口の配列ピッチが前記植え穴の配列ピッチよりも小さいことを特徴とする請求項8に記載の養液栽培用部材。
【請求項10】
前記栽培ベッド槽の底面に防水性シートが設けられ、前記苗架台は防水性シートの上側に配置されていることを特徴とする請求項1~9のいずれか1項に記載の養液栽培用部材。
【請求項11】
前記防水性シートは、前記通気空間の底面を形成するように、前記栽培ベッド槽の底面に敷設され、
前記栽培ベッド槽の長側壁を超えて折り返され、
前記定植パネル板を覆うように配置されていることを特徴とする請求項10に記載の養液栽培用部材。
【請求項12】
前記苗架台の天頂部が平面状となっていることを特徴とする請求項1~11のいずれか1項に記載の養液栽培用部材。
【請求項13】
請求項1~12のいずれか1項に記載の養液栽培用部材を用いた養液栽培方法であって、前記植え穴を通して前記苗架台に植物を配置し、前記散水部材から前記苗架台上の植物の根又は苗架台の上面に養液がかかるように養液を散水して植物を生育させることを特徴とする養液栽培方法。
【請求項14】
タンク、配管、及びポンプを有する養液循環機構と、請求項1~12のいずれか1項に記載の養液栽培用部材とを有することを特徴とする養液栽培システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物の養液栽培用部材と、これを用いた植物の養液栽培方法及び養液栽培システムに関し、特に根が密生する植物の栽培においても根への養液及び酸素の供給が良好となる養液栽培用部材、養液栽培方法及び養液栽培システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、養液などを使用する水耕栽培によって葉菜類や果菜類の栽培を行うことが試みられている。水耕栽培は、天候に左右されない安定した野菜の生産が可能であり、栽培場所が限定されない、肥料の流出が少ない栽培が可能であるなどのメリットを有している。
【0003】
養液栽培方法においては、根への養液及び酸素の供給を適切に行うことが重要である。特に、根の生長が早い植物や、栽培期間が長い植物においては、植物の根の生長によって根の生育スペースが密生状態となることがある。特許文献1には、植物の根へ酸素供給を適切に行う提案として、底面に勾配をもたせた栽培ベッド槽と、該栽培ベッド槽の上に配置された、複数の植え穴が穿設された定植パネル板とを有し、前記栽培ベッド槽の底面に排水溝が設けられている養液栽培用部材において、該排水溝に被さるように親水性シートが配置され、該親水性シートと該排水溝の底面との間に通気スペースが形成されていることを特徴とする養液栽培用部材が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-104023号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
各栽培ステージにおける植物の根圏環境は大きく異なる。例えば、播種・定植から間もない栽培初期における、根圏環境(根の長さ・発達領域・密生状況など)は、収穫期が近づく栽培後期における根圏環境とは異なる。従って、これを考慮した栽培用部材を設計する必要がある。
【0006】
本発明は、栽培初期の未発達な根の環境においても養液及び酸素の供給を適切に行うことができ、根の発達を向上させ、葉菜類や果菜類の収穫量を確保することが可能である養液栽培用部材及び養液栽培方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題に鑑み鋭意検討した結果、栽培ベッド槽と定植パネル板とで囲われた根の生育空間Sを有し、該根の生育空間Sの中にさらに苗架台が載置され、その内部に通気空間Tを有する養液栽培用部材において、植物の種または苗が置かれる苗架台の上に、養液(水)を直接散水することにより、栽培初期の植物の根へ養液供給を適切に行うことを可能とし、根への酸素供給と根への養液供給という相反する2つの機能を実現できることを見いだした。
【0008】
本発明の養液栽培用部材は、底面に勾配をもたせた栽培ベッド槽と、該栽培ベッド槽の上に配置された、複数の植え穴が穿設された定植パネル板とを有し、該植え穴の下方の前記栽培ベッド槽の底面に苗架台が設けられており、該苗架台の下面側と該栽培ベッド槽の底面との間に通気空間が形成され、該苗架台上に植物が配置される養液栽培用部材において、該苗架台上の植物の根又は苗架台の上面に養液が掛かるように散水する散水部材を備えたことを特徴とするものである。
【0009】
本発明の一態様では、前記散水部材から散水された養液が前記植物の根に掛かるように前記散水部材が配置されている。
【0010】
本発明の一態様では、前記散水部材は、散水チューブであり、前記苗架台の両側に配置されている。
【0011】
本発明の一態様では、前記散水チューブは、前記苗架台と平行方向に延設されており、該散水チューブは、その長手方向に間隔をおいて複数の散水孔が設けられている。
【0012】
本発明の一態様では、前記散水孔の配列ピッチが前記植え穴の配列ピッチよりも小さい。
【0013】
本発明の一態様では、前記散水チューブは、前記栽培ベッド槽の前記底面上に配置されており、該栽培ベッド槽の底面に、該散水チューブの位置決め及び回転防止用の凸条が設けられている。
【0014】
本発明の一態様では、前記散水チューブは、前記苗架台からの距離が50mm以下である。
【0015】
本発明の一態様では、前記苗架台に開口が設けられている。
【0016】
本発明の一態様では、前記開口は前記苗架台の長手方向に間隔をおいて設けられており、該開口の配列ピッチが前記植え穴の配列ピッチよりも小さい。
【0017】
本発明の一態様では、前記栽培ベッド槽の底面に防水性シートが設けられ、前記苗架台は防水性シートの上側に配置されている。
【0018】
本発明の一態様では、前記防水性シートは、前記通気空間の底面を形成するように、前記栽培ベッド槽の底面に敷設され、前記栽培ベッド槽の長側壁を超えて折り返され、前記定植パネル板を覆うように配置されている。
【0019】
本発明の一態様では、前記苗架台の天頂部が平面状となっている。
【0020】
本発明の養液栽培方法は、本発明の養液栽培用部材を用いた養液栽培方法であって、前記植え穴を通して前記苗架台に植物を配置し、前記散水部材から前記植物の根又は苗架台の上面に養液がかかるように養液を散水して植物を生育させることを特徴とする。
【0021】
本発明の養液栽培システムは、タンク、配管、及びポンプを有する養液循環機構と、養液栽培用部材とを有する養液栽培システムであって、前記養液栽培用部材は、底面に勾配をもたせた栽培ベッド槽と、該栽培ベッド槽の上に配置された、複数の植え穴が穿設された定植パネル板とを有し、該植え穴の下方の前記栽培ベッド槽の底面に苗架台が設けられており、該苗架台の下面側と該栽培ベッド槽の底面との間に通気空間が形成され、該苗架台上に植物が配置される養液栽培用部材において、該苗架台上の植物の根又は苗架台の上面に養液が掛かるように散水する散水部材を備えたものである。
【発明の効果】
【0022】
本発明の養液栽培用部材は、苗架台上の植物の根又は苗架台の上面に、養液が直接散水されることにより、栽培初期の根の発達領域においても、適切に養液供給を行い、根の発達を向上させ、葉菜類や果菜類の収穫量を確保することが可能である。
【0023】
また、本発明の養液栽培方法は、前記養液栽培用部材を用いることにより、栽培初期から栽培後期まで、植物に養液と酸素を適切に供給することができる。これにより、植物が生長し、根の形態をはじめとする植物の生育状況や根の生育空間内の環境が変わる場合においても、栽培初期の根の発達を向上させることができ、葉菜類や果菜類の収穫量の向上を確保することが可能である。
【0024】
さらに、本発明の一態様によると、散水部材から散水を行うことにより、根の生育空間内の湿度を適切に高めることができる。これにより、根の生育空間内の湿度が高く維持され、栽培される植物の湿気中根の発達を促し、根からの酸素取り込み量を多くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】実施の形態に係る養液栽培用部材の断面斜視図である。
図2】実施の形態に係る養液栽培用部材の断面図である。
図3】栽培ベッド槽の斜視図である。
図4】苗架台の斜視図である。
図5】苗架台の斜視図である。
図6】苗架台の斜視図である。
図7】苗架台の断面図である。
図8】実施の形態に係る養液栽培システムの平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明についてさらに詳細に説明するが、本発明は、下記実施形態に制限されるものではない。
【0027】
本発明において、「養液」とは、植物の栽培に用いられる水であれば特に限定されないが、例えば、窒素、リン、カリウムなど何れかの肥料成分を含有する水であることが好ましい。また、本発明において、原水とは、例えば、水道水、雨水、井戸水などを意味する。本発明において、水は、養液と原水を包括的に意味する場合がある。
【0028】
図1は実施の形態に係る養液栽培用部材を示す断面斜視図、図2はその拡大断面図である。図3,4は、栽培ベッド槽及び苗架台の斜視図である。
【0029】
この養液栽培用部材1は、それぞれ発泡スチロール等の発泡プラスチック製の栽培ベッド槽2及び定植パネル板3と、苗架台4と、防水性シート5と、親水性シート6と、散水部材(散水チューブ7)とを有する。そして、苗架台4の上に植物(苗根鉢9)が載置される。なお、この養液栽培用部材1を構成する栽培ベッド槽、定植パネル板、苗架台等の素材は、特に限定されるものではなく、植物を載置することが可能な程度の強度を有する素材であれば、何れも使用できる。
【0030】
苗架台に配置される植物とは、植物の種または植物の苗である。本発明においては、前記苗架台上の植物の根又は苗架台の上面に養液が掛かるように散水する散水部材を備えることにより、発芽前の種や、植物の根の発達領域が小さい栽培初期の苗に対する直接散水を可能とし、植物への養液供給を確実に行うことができる。したがって、散水部材は、苗架台上の植物の根又は苗架台の上面に直接養液が掛かるよう散水を行うものであるが、好ましくは、苗架台上の植物の根に直接散水を行うものである。
【0031】
本発明において、散水部材は特に限定されないが、例えば、散水チューブである。また、本発明において、散水部材は、栽培ベッド槽と定植パネル板とで囲まれた根の生育空間内であれば特に限定されることなく、何処に備えることもできる。散水部材の設置場所は、例えば、苗架台上、栽培ベッド槽の底面、または定植パネル板の下面などが挙げられるが、根が苗架台上から栽培ベッド槽底面へと生長することを妨げづらいことから、苗架台に触れないように栽培ベッド槽の底面に載置されることが好ましい。
【0032】
前記植物の苗の形態は、特に限定されないが、例えば、苗根鉢である。苗根鉢とは、個別のポットやセルトレイで育苗される植物の根が、培地を抱え込むように網状に生長したものである。根が十分に生長し、しっかりと巻いた状態では、苗をポットやセルトレイから抜いても、根鉢に守られて培地が崩れにくい状態となることから、定植することが可能となる。
【0033】
なお、本発明において、植物の根とは、発芽・発根前の種の場合、種そのものを含み、苗根鉢の場合、根鉢全体の何処かを意味する。
【0034】
また、本発明において、直接散水とは、苗架台上に、好ましくは種や苗根鉢の何処かに、養液が直接かかることを意味し、その反対概念は、霧状散水や間接的散水である。
【0035】
図3に明示の通り、栽培ベッド槽2は、上面が開放した一方向に延在する長函状であり、1対の長側壁2a,2aと底板部2bとを有した上向きコ字形断面形状を有している。
【0036】
長側壁2a,2aの上端面と内側面との交差角縁部は切欠状の段部2dとなっており、この段部2dに定植パネル板3の側縁が係合する。
【0037】
底板部2bの上面(栽培ベッド槽2の底面)の幅方向中央部(長側壁2a,2a間の中央部)に苗架台4が配置されている。苗架台4と各長側壁2a,2aとの間の底板部2bの上面にそれぞれ複数条の凸条2tが栽培ベッド槽2の長手方向に延設されている。
【0038】
この実施の形態では、凸条2tは苗架台4の両側にそれぞれ3条ずつ計6条が設けられている。本発明において、凸条2tは必ずしも必要ではないが、凸条2tを形成する場合、凸条2tの本数は、例えば、苗架台4の少なくとも片側に1条以上設けることが好ましく、少なくとも片側に2条以上設けることがより好ましく、3条以上設けることが特に好ましい。また、凸条2tの本数は、苗架台4の両側にそれぞれ同数ずつ設けることがより好ましく、例えば、苗架台4の両側に1条ずつ計2条以上、2条ずつ計4条以上、3条ずつ計6条以上とすることができる。凸条2tの本数は、底板部2bの幅寸法に応じて適宜設定することができる。
【0039】
なお、図2及び図3において、凸条2tの側面は、凸条の下面に対して傾斜している。凸条2tの側面は、傾斜せず栽培ベッド槽底面に対して垂直であっても、傾斜しても良い。凸条2tの側面が傾斜する場合、凸条の側面は、凸条の上面が下面よりも小さくなるように傾斜することが好ましく、その傾斜角は20度以上であることが好ましく、30度以上であることがより好ましい。また、該傾斜角は、80度以下であることが好ましく、60度以下であることがより好ましい。凸条2tの側面が傾斜すること、また、その傾斜角を当該範囲とすることにより、凸条と親水性シートとの密着性を向上させ、凸条と親水性シートとの間に気泡が発生することを防ぐことができ好ましい。
【0040】
凸条2tは、散水チューブ7の位置決め及び転動防止の機能を有するほか、底板部2b上を流れる養液を案内する機能も有する。底板部2bからの凸条2tの高さは0mm以上、好ましくは1.0mm以上、より好ましくは3.0mm以上である。また、底板部2bからの凸条2tの高さは10mm以下が好ましく、10mm未満であることがより好ましく、8.0mm以下であることが特に好ましい。
【0041】
苗架台4の一側辺に複数の凸条2t(例えば、図3では3条ずつ)が設けられる場合、凸条2t同士の間隔は10mm以上が好ましく、20mm以上であることがより好ましい。また、該凸条2t同士の間隔は、50mm以下であることが好ましく、30mm以下であることがより好ましいなお、凸条2tの側面が、図2及び図3のように傾斜する場合、上述の凸条2t同士の間隔は、凸条2tの底部における間隔を意味する。
【0042】
苗架台4と最も苗架台4側の凸条2tとの隙間は小さい方が好ましく、苗架台の片側につき、10mm以下であることが好ましく、7mm以下であることがより好ましい。一方で、苗架台4と最も苗架台4側の凸条2tとの隙間の幅を、片側につき0mm超とすることが好ましく、1mm以上であることがより好ましい。このような範囲とすることにより、通気空間Tと根の生育空間Sとの養液及び空気の連通がスムーズとなり、また、苗架台4を栽培ベッド槽底面における適切な位置に設置することが容易となる。なお、通気空間Tは、空気が循環する空間である一方、養液を流下させる空間である。特に、根の生育空間Sにおいて、根が発達し水深が高くなるにつれ、通気空間Tへ流入する養液の量が多くなる。これにより、根の生育空間上部に空気の層(湿気空間)を確保することができ、植物における湿気中根の発達や酸素の吸収が行いやすくなる。
【0043】
なお、本実施形態の栽培ベッド槽2は、底板部2bの上面(栽培ベッド槽2の底面)には、勾配を設けておらず、栽培ベッド槽2を勾配をもたせて設置する形態としているが、底板部2bの上面(栽培ベッド槽2の底面)に勾配をもたせ、栽培ベッド槽2を水平に設置する形態としてもよい。
【0044】
栽培ベッド槽2及び定植パネル板3の長手方向の長さは限定されないが、例えば、5.0m以上が好ましく、10m以上がより好ましい。また、該長さは、50m以下が好ましく、30m以下がより好ましい。さらに、栽培ベッド槽2及び定植パネル板3の幅は、0.1m以上が好ましく、0.3m以上がより好ましい。また、該幅は、2.0m以下が好ましく、1.0m以下がより好ましい。
【0045】
定植パネル板3には、長手方向に間隔をおいて複数の植え穴3aが一列に設けられている。植え穴3a同士の間隔は、栽培される植物の種類などにより適宜設計することができ限定されないが、例えば200mm以上800mm以下であり、特には、400mm以上600mm以下が好ましい。植え穴3aは苗架台4の上方に位置している。図示の実施の形態では、苗架台4が1本だけ設けられ、植え穴3aの列も1列となっているが、苗架台4を平行に複数本設け、また植え穴3aも複数列設けてもよい。
【0046】
また、植え穴3aの形状は、図示するような、円筒形状のほか、角柱形状や、その他のいかなる形状であってもよい。本発明において、使用する苗根鉢が円筒形状の場合、植え穴も円筒形状であることが好ましく、苗根鉢が角柱形状である場合は、植え穴も角柱形状であることが好ましい。このように、苗根鉢の平面形状と、植え穴の平面形状を同様とすることで、植え穴における苗根鉢との隙間を小さくすることができ、散水された養液の飛び出しを抑制することができる。さらに、これにより、飛び出した養液が栽培される植物に当たったり、定植パネル板上に落液して、藻を発生させることを抑制することができる。また、植え穴3aの形状は、苗根鉢の形状より若干(例えば、1mm~2mm程度)大きくするにすることが好ましい。これにより、苗架台の凹部の中央に苗を定植し易くすることができる。
【0047】
防水性シート5は、栽培ベッド槽2の長側壁2a,2aの上端面及び内側面、及び底板部2b上面を覆うように設けられている。
【0048】
なお、本発明において、防水性シート5は、さらに、栽培ベッド槽の長側壁の上端面を超えて折り返され、前記定植パネル板3を覆うように配置されてもよい。このように防水性シート5で定植パネル板3を覆うことにより、根の生育空間Sへの光の射しこみを低減し、藻の発生を防止することができる。この場合、防水シートは遮光機能を有するものであることが好ましい。さらに、防水性シート5が光反射性を有する素材の場合、防水性シートで定植パネル板を覆うことによる防虫効果も奏される。
【0049】
長側壁2a,2a間の中央に、栽培ベッド槽2の長手方向に延在するように苗架台4が設けられている。図1の実施の形態では、苗架台4は略半円筒形であり、その天頂部4cは平板状となっている。
【0050】
苗架台は、半円筒形であっても、天頂部4cを平面状とする略半円筒形であってもよいが、根の生育空間における通気空間を構成するために、内部に空間を有する形状であって、栽培ベッド槽底面に設けられる際、その断面形状が、下向きの略コの字形状(曲線部を含んでもよい)となるものであることが好ましい。さらに、苗架台は、天頂部4cを平面状とすることにより、その上に苗根鉢9を安定して載せることができるため好ましい。天頂部4cの幅は、例えば、苗根鉢9の下部の直径の0.8倍以上3.5倍以下、特に0.9以上2.0倍以下であることが好ましいが、これに限定されない。また、本発明の苗架台を形成する一例としての半円筒形は、必ずしも真円の円周を直径で二等分された形状である必要はなく、楕円形状が分割された形状や、略二等分された形状であってもよく、栽培ベッド槽底面に設けられる際、その内部に空間が形成されるものであればよい。
【0051】
苗架台の天頂部4cの両側は、円弧形に湾曲した脚部4dとなっている。各脚部4dに開口4bが長手方向に間隔をあけて複数個設けられている。
【0052】
苗架台4は、開口が設けられていることが好ましい。これによれば、根の生育空間Sと通気空間Tにおける養液及び酸素の透過が行われやすい。したがって、苗架台の素材は特に限定されないが、例えば、図4図7に図示されるような、多数の開口が設けられたプラスチックなどの硬質部材か、硬質の網状(ネット状)部材であることが好ましい。
【0053】
図4図7に図示されるような、苗架台に形成された開口4b同士の間隔(配列ピッチ)は、限定されるものではないが、植え穴3aの配列ピッチよりも小さいことが好ましい。具体的には、苗架台の開口の配列ピッチは、200mm以下であることが好ましく、特に100mm以下であることが好ましい。これにより、植物1体あたりに対する苗架台の開口4b数を確保でき、根の生育空間Sと通気空間Tにおける養液及び酸素の通過が行われやすく、より確実に植物の根へ養分及び酸素を供給することが可能となる。したがって、植物1体あたりに対する苗架台の開口数は、4以上であることが好ましく、より好ましくは8以上である。あるいは、苗架台の開口の配列ピッチは、植え穴の配列間隔の50%以下であることが好ましく、30%以下であることがより好ましい。なお、この実施の形態では、開口4bは1つの脚部4dにおいて、苗架台4の長手方向にジグザク状に設けられているが、図5に示す苗架台4Aのように一直線上に配列されてもよい。また、開口4bは、苗架台の両側の脚部にそれぞれ形成されることが好ましく、開口4b同士の間隔とは、苗架台の片側の脚部に形成された開口同士の間隔を意味する。ただし、植物1体あたりに対する苗架台の開口数は、苗架台の両側の脚部に形成された開口数である。また、本発明の養液栽培部材及び養液栽培方法は、苗架台が浸水しないように、苗架台の開口の配列ピッチを設定することが好ましい。これにより、植物の根が発達し水深が高くなる栽培後期においても、根の生育空間内に湿気空間(酸素供給領域)を確保し、植物における湿気中根の発達と酸素の吸収を行うことができる。
【0054】
苗架台が、多数の開口が設けられた硬質部材である場合、開口4bの形状は、養液と空気を通過させることができる形状であれば特に限定することは無く、たとえば、円形状、楕円形状またはスリット形状であっても良い。また、開口4bの位置(高さ)は、特に限定されないが、脚部4dの下縁から高さ5~50mm、特に5~40mm、とりわけ5~30mmの間に設置することが好ましい。また、苗架台が硬質の網状(ネット状)部材である場合、繊維状の硬質素材を編んで略半円筒形に立体成形したもの、ネット状の材を略半円筒形筒状に加工・成形したものや、略半円筒形の硬質素材に網目状の穴を設けたものなど、苗架台としての強度と通気機能を有するものであれば限定なく使用できる。具体的には、メッシュ状のプラスチックパイプなどが挙げられる。硬質の網状部材からなる苗架台は、開口をより多く形成することができ、通気機能に優れるため、好ましい。
【0055】
苗架台4は略半円筒形に限らず、図6,7の苗架台4Cのように脚部4d,4dが平板状となった台形などの断面形状のものであってもよい。
【0056】
苗架台4は、防水性シート5を敷設した後、該防水性シート5の上側に配置される。脚部4dの下縁と、その下側の防水性シート5との間には、苗架台4の撓みや防水性シート5の皺などにより、養液及び空気が通過する連通部が形成される。なお、連通部を大きくするために、図6の苗架台4Bのように、脚部4dの下端縁に切り欠き部よりなる連通部4kを設けてもよい。また、スペーサを配置したり、脚部4dから下方に突起を設けたりしてもよい。この苗架台4で囲まれる内部のスペースが通気空間Tとなっている。
【0057】
苗架台4の高さは、特に限定されることはなく、栽培ベッド槽2の底板部2bと定植パネル板3との間の空間の高さHと、栽培する植物とによって適宜設定することができるが、苗架台4の天頂部から定植パネル板3の下面までの高さHは20~100mm、特に20~80mm程度が好ましい。
【0058】
また、苗架台4の幅は、特に限定されないが、例えば、栽培ベッド槽の幅の10%以上であることが好ましく、15%以上であることがより好ましい。また、該幅は、栽培ベッド槽の幅の50%以下であることが好ましく、40%以下であることがより好ましい。これによれば、根の生育空間Sと通気空間Tいずれの領域も、適切に確保することができる。したがって、苗架台4の幅は、例えば、30mm以上であることが好ましく50mm以上であることがより好ましい。また、該幅の値は、500mm以下であることが好ましく、300mm以下であることがより好ましい。なお、ここでいう「苗架台の幅」は、苗架台の底面における幅を意味する。
【0059】
また、栽培ベッド槽2の底板部2bと定植パネル板3との間の高さHは、栽培する植物の種類や、栽培する期間によって適宜設定することができるが、生産性や材料のコストを考慮すると、50mm~150mm程度とすることが好ましい。
【0060】
この栽培ベッド槽2の長側壁2a,2aの上端面及び内側面、底板部2b上面、並びに苗架台4の上面を覆うように親水性シート6が設けられることが好ましい。このように、本発明において、苗架台の上面を覆うように親水性シートを設けることにより、苗架台の上面に直接散水された養液が親水性シートの含水率を上げ、植物の根への養液供給を促進することができる。親水性シート6は、含水機能を有し、毛管作用によって液を汲み上げることができる素材であれば特に限定されず、いずれも使用できる。また、空気を透過させる機能や、根を通過させない素材であればより好ましい。親水性シートとしては、例えば、不織布、織布、紙などが挙げられ、特に、親水性不織布が好ましい。
【0061】
この親水性シート6に、幅方向の中央位置を示す識別部を設けてもよい。親水性シート6を栽培ベッド槽2上に敷くときに、識別部を長側壁2a,2a間に中央に配置させるようにすることにより、親水性シート6の敷設作業効率が向上する。
【0062】
苗架台4の両側において、親水性シート6の上側に散水チューブ7が設置されている。散水チューブ7は斜め上方に養液を放出する散水孔7a,7aを有している。散水孔7aは、図2において右斜め上方に養液を放出させるように設けられ、散水孔7bは、図2において左斜め上方に養液を放出させるように設けられている。散水孔7a,7bをこのように互いに反対方向に養液を放出させるように設けたことにより、散水孔7a,7bからの放出水の反力によって散水チューブ7が回転することが防止される。
【0063】
この実施の形態では、前述の通り、底板部2bの上面に複数条の凸条2tが設けられており、散水チューブ7は、凸条2t同士の間の溝状部分に嵌った状態で配置されている。これにより、散水チューブ7は苗架台4と平行に位置決めされた状態にて設置されており、放出水圧や外部からの振動によって位置ずれすることが防止される。
【0064】
図2の左側の散水チューブ7の散水孔7a及び右側の散水チューブ7の散水孔7bからの放出水が苗根鉢9又は天頂部4cの上面に掛かるように散水孔7a,7bの指向方向が設定されると共に、散水孔7a,7bの内径及び散水チューブ7への養液供給圧が設定されている。
【0065】
なお、散水チューブ7に散水孔7a,7bを設けているので、散水チューブ7を苗架台4の左側及び右側のいずれに配置した場合でも、散水孔7a,7bのいずれか一方から苗架台4上の苗根鉢9又は天頂部4aに養液を掛けることができる。
【0066】
本発明では、散水孔7a,7bの配列ピッチ(散水チューブ7の長手方向における散水孔7a,7a間及び散水孔7b,7b間の間隔)を植え穴3aの配列ピッチ(すなわち苗根鉢9の配列ピッチ)よりも小さくすることが好ましい。散水孔7a,7bの配列間隔は、限定されないが、植え穴3aの配列間隔の30%以下であることが好ましく、20%以下であることがより好ましく、特には、10%以下であることが好ましい。これにより、散水が植物の根に掛かり易くなり、植物の(特には苗の)根の発達を向上させることができる。同様に、散水孔7a,7bの配列間隔は、40mm以下であることが好ましく、30mm以下であることがより好ましい。
【0067】
散水チューブ7としては、特に限定されないが、例えば、筒状体の内部が仕切壁により分割され、2つの流路を形成するものや、散水チューブの筒状体における一部が、不織布にて構成されるものを使用することが好ましい。
【0068】
本発明においては、なかでも、2つの流路(A)と(B)が形成され、流路(A)の外気と接する筒状体の部位及び仕切壁をフィルムにて構成し、流路(B)の外気と接する筒状体の部位を不織布にて構成し且つ仕切壁には通水孔を設け、入口継手の配管を介して流路(A)に通水され、その際、仕切壁が流路(B)の不織布に接触しない様に形成されている散水チューブを使用することが好ましい。これによれば、散水チューブの長手方向において、より均一に散水することができる。また、散水チューブは、一般散水型、霧状潅水型、根元潅水型、点滴潅水型など、いずれも使用することができるが、植物の根又は苗架台の上面に直接潅水を行うとともに、根の生育空間の湿度を向上させる観点から、一般散水型の散水チューブを使用することが好ましい。
【0069】
本発明において、散水チューブが栽培ベッド槽の底面に載置される場合、散水チューブは、前記苗架台からの距離(M:散水チューブと苗架台との隙間距離)が50mm以下であることが好ましく、30mm以下であることがより好ましい。これによれば、苗架台上の植物の根又は苗架台の上面に、直接散水される養液量が確保され、栽培初期の根の発達領域において、確実に養液供給を行い、根の発達を向上させることができる。
【0070】
このように構成された養液栽培用部材1は、複数個繋ぎ合わされ、長さ10~100mの栽培ベッド槽列10(図8)とされる。防水性シート5は各栽培ベッド槽2に跨って連続して敷設される。これにより、栽培ベッド槽2同士の繋ぎ合わせ面からの漏水が防止される。
【0071】
本発明の一つの実施形態においては、各栽培ベッド槽2に被せられた定植パネル板3の植え穴3aを通して苗根鉢9を苗架台4の上に載せ、栽培ベッド槽2の底面2bに養液を流して流水路を形成する(流水機構を有する)と共に、散水チューブ7から養液を苗根鉢9及び天頂部4c上面に掛ける散水機構により植物を生育させる。すなわち、本発明の一つの実施形態は、流水機構と散水機構の2つの養液給水システムを有するものである。これにより、栽培初期には、散水機構により、苗根鉢9へ効果的に給液することができる。また、栽培中期から栽培後期には、流水機構により、大きく広がった根域全体に効果的に給液することができる。
【0072】
本発明の養液栽培部材においては、流水機構とは、栽培ベッド槽の長手方向における上流から下流にかけて形成される流水路を意味する。さらに、流水機構は好ましくは、薄膜水耕栽培機構である。
【0073】
本発明においては、薄膜水耕栽培機構及び散水部材はいずれも、苗架台の両側に有することが好ましい。これによれば、湿気空間を適切に形成し、維持することが可能となる。より具体的には、苗架台の両側に薄膜水耕栽培機構を有することにより、根の生育空間養液領域に対する湿気空間領域を確保することが可能である。また、苗架台の両側に散水部材を有することにより、湿気空間における湿気度を高め、根の発達を向上させることができる。薄膜水耕の反対概念として、湛液水耕(DFT)がある。湛液水耕は養液に根を浸す方式である。湛液水耕における根への酸素の供給は、湿気空間からでなく、養液中の溶存酸素を吸収する。
【0074】
生育当初は、根9rが短く、植物は散水チューブ7から注ぎかけられる養液から養液を吸収する。また、この実施の形態では、苗架台4に平たい天頂部4cを設けており、散水チューブ7から注ぎ掛けられた液の一部が天頂部4cに滞留しやすく、この滞留液も植物の根に吸収される。
【0075】
植物の根が次第に伸びて底板部2b上の水膜にまで達すると、この水膜からも養液を吸収する。
【0076】
苗架台4を使用することで、栽培ベッド槽2と定植パネル板3との間の根の生育空間S内に通気空間Tを形成することができ、特に、栽培後期における、植物の根への酸素の供給を効果的に行うことができる。また、苗架台4を使用することで、苗根鉢9が養液の流れに洗われないので、苗根鉢9の培地が崩れたり、培地が流出することが抑制される。
【0077】
苗架台4及び親水性シート6を配置すると共に、凸条2tを設けたことで、栽培ベッド槽2の底板部2bを流れる養液の流れが、栽培する植物の根の生長によって阻害されたり、養液が滞留したりすることを抑制することができる。
【0078】
また、苗架台4と親水性シート6との間の連通部を介して、苗架台4の両側の親水性シート6上の液が苗架台4内に流入し、苗架台4内の通気空間Tを通って流下する。このようにして、養液の滞留を抑制することができ、栽培する植物の根が養液に水没して酸素不足になることを抑制し、かつ、植物の根に適度な量の養液を供給することが可能となる。
【0079】
また、通気空間Tから連通部及び開口4b並びに親水性シート6を通して、通気空間T内の酸素(空気)を、根の生育空間Sで生長して密集した根の根群発達層に対しても、効率よく供給することが可能となる。
【0080】
本発明の養液栽培方法によると、水中で生育させる水中根と、湿気中に維持し多数の根毛を有する湿気中根の2つの異なった形態・機能を持った根を生長させることができる。水中根は主に養液中の肥料と水を吸収し、湿気中根は主に湿気中から直接酸素を吸収する。
【0081】
また、散水チューブによると、長手方向に均一な養液、具体的には、養分濃度及び水温が均一である養液を植物に供給できるため、植物の植生箇所による栽培環境のムラが防止され、生長速度を統一しやすく、葉菜類や果菜類の収穫量を安定化させることができる。さらに、本発明の養液栽培方法において、養液の水温を適温に制御して24時間散水を行うことが好ましい。これによれば、栽培装置周囲の温度が大きく変化しても、根圏温度(根の生育空間の温度)を適切な範囲に維持することができる。散水チューブによる養液の供給は、栽培初期にとどめ、根が栽培ベッド底面に到達した時点で止めることも可能である。ただし、上述のように、長手方向に均一な養液を供給できることや、周囲の温度変化による根圏温度への影響を抑えることができる点から、植物の根が発達し、栽培ベッド底面に到達した後も、散水チューブによる養液の供給は続けることが好ましい。
【0082】
この実施の形態で採用した薄膜水耕方式は、湿気空間を保持しつつ、水中根の生育空間を確実に確保し、水中根からの養分や水分の取り込みを確実に行うことができる。さらに養液の供給が流動式であるため、水質の汚染(微生物の繁殖など)が起こりづらく、安定した栽培を実現することができる。なお、本発明の養液栽培部材は、養液温度の制御装置を有することが好ましい。具体的には、給水の配管周囲やタンク内に、温度調整機構を付加することなどが挙げられる。また、本発明の養液栽培方法は、養液の供給温度を制御することが好ましい。これによれば、根の生育空間に適温に供給される養液の温度が制御されることにより、根圏温度が適切に維持され、根の生育が促進される。養液の供給温度は、天候や季節、植物の種類により適宜設定され、限定されるものではないが、例えば、10度以上30度以下が好ましく、15度以上25度以下がより好ましく、特には18度以上23度以下である。
【0083】
本発明の養液栽培方法で生育させた植物の根群は、水中根が多く占める領域と、湿気中根が多く占める領域と、水中根と湿気中根が混在する領域の3つの領域を有する根群とすることができる。更に、水中根と湿気中根が混在する領域と、水中根が多く占める領域に効率よく酸素を供給することで、根が密生した状態においても溶存酸素が不足することを抑制することができ、葉菜類や果菜類の収穫量を増加さることが可能となる。
【0084】
本発明の養液栽培用部材は、根の生育空間に湿気空間を形成し、根への酸素供給が容易である薄膜水耕栽培(以後「NFT」ともいう。)に特に適している。
【0085】
また、本発明は、根が多く発達する果菜類の栽培に好ましく、より好ましくはウリ科の植物の栽培に使用することができ、更に好ましくはキュウリの栽培に好適に使用することができる。
【0086】
上記実施の形態では散水チューブを栽培ベッド槽2上に配置しているが、これに限定されない。例えば、散水チューブは定植パネル板に吊支されてもよい。
【0087】
上記実施の形態では、苗架台4が半割パイプ又はそれに類似した形状となっているが、通気性と通液性を有していればよく、筒形ネット状のものなども用いることができる。
【0088】
上記実施の形態では凸条2tを設けているが、凸条以外の凸部を設けてもよい。
【0089】
本発明の養液栽培部材に、タンク、配管、ポンプなどを有する養液循環機構を配置することにより、養液栽培システムとすることができる。図8は、本発明の実施の形態に係る養液栽培システムの一例を示す平面図である。
【0090】
図8では、ハウス内に複数の栽培ベッド槽2を複数個直列に接続して栽培ベッド槽列10とし、この栽培ベッド槽列10を複数列(図示では4列)配列して栽培ベッド槽群20としている。なお、1つの栽培ベッド槽列10にあっては、複数個の栽培ベッド槽2を直列に配列し、各栽培ベッド槽2に跨って防水性シート5を敷いている。これにより、栽培ベッド槽2同士の繋ぎ合わせ面からの漏水を防止している。1つの栽培ベッド槽列10を構成する栽培ベッド槽2の数は5~100個程度であるが、これに限定されない。
【0091】
各々の栽培ベッド槽列10は、長手方向の一端部から他端部に向けて流水勾配を有するように約1/80~1/200程度の勾配で設置されている。これにより、本発明の養液栽培部材は、該栽培ベッド槽の長手方向における上流から下流にかけて流水路を有する薄膜水耕機構を有するものとなる。なお、本発明の養液栽培システムにおいては、前記薄膜水耕栽培機構を有する養液栽培部材に、タンク、配管、及びポンプを有する養液循環機構を配置することが好ましい。このように、本発明の養液栽培部材及び養液栽培システムは、養液の供給及び循環において、薄膜水耕栽培方式とすることにより、根の生育空間における酸素供給領域を確保しやすく、植物の根による酸素吸収が行われやすいため好ましい。すなわち、本発明の養液栽培方法は、苗架台が浸水しないように、栽培ベッド槽における長手方向の一端部から他端部に向けての勾配を設定することが好ましい。これにより、植物の根が発達し水深が高くなる栽培後期においても、根の生育空間内に湿気空間(酸素供給領域)を確保し、植物における湿気中根の発達と酸素の吸収を行うことができる。
【0092】
1つの栽培ベッド槽群20に1個のタンク33が付随して設置されている。この養液栽培システムには、循環する養液を貯留するタンク33があり、タンク33内の養液は、ポンプ34、配管35及び弁36を介して各栽培ベッド槽列10に供給される。植物が吸水した養液量に相当する水量を補給する水を供給する系統が配されている。そして、水を供給する系統は、該水を供給するための原水タンク(図省略)、供給制御弁25a、及び配管25を有し、水が常時補給されるものであることが好ましく、タンク33に貯留される養液量が常に一定となるように、フロートバルブであるボールタップ31にて、タンク33への水の流水量が制御されるものであることがより好ましい。
【0093】
本発明の養液栽培システムは、液肥を供給する系統が配置されることが好ましい。液肥を供給する系統は、濃厚液肥を貯留するタンク(図省略)や、該液肥を供給するための供給制御弁24aや配管24を有する。循環養液の総肥料濃度(EC)は、常時供給される水によって小さくなる。そのため、本発明の養液栽培システムには、例えばタンクに、EC値を計測するセンサー部が装備されることが好ましく、本発明の養液栽培方法は、一定範囲のECとなるように養液の総肥料濃度を常時制御することが好ましい。タンク内の養液のECが一定値以下に下回った場合には、濃厚液肥が補給される。なお、本発明の養液栽培システムの液肥を供給する系統は、2種以上の濃厚液肥を貯留する2つのタンクから液肥が補給されることが好ましい。
【0094】
本発明においては、植物に供給される水(養液)のpHを一定の範囲に保持することが好ましい。例えば、pHが特定値以上に上昇した場合には酸などを補給し、pHが一定値以下に下降した場合にはアルカリなどを補給することでpH値を好適に維持することができる。なお、本発明においては、循環水(養液)のpHを計測するセンサーを装備すればなお良い。これによれば、一定範囲に養液pHを制御することも可能である。
【0095】
この水(養液)を貯留するタンクから、ポンプ、配管及び弁を介して各栽培ベッド槽列に水(養液)が供給され、各栽培ベッド槽列の末端部から吸収されなかった水(養液)がタンクに戻るように配管されている。
【実施例
【0096】
[実施例1]
図1~3に示す栽培ベッド槽1(ただし、栽培ベッド槽の底面形状は、図2のように凸条を有する)と図5に示す苗架台を5個直列に配列して、長さ10mの栽培ベッド槽列10を構成した。栽培ベッド槽列10は、給水機構として、栽培ベッド槽の長手方向における上流から下流にかけて流水路を有する薄膜水耕機構とともに、苗架台の両側に、散水チューブを配置し、定植パネル板を載置して根の生育空間とした。このとき、散水チューブと苗架台との距離Mは、図2のとおり、20mmとした。この栽培ベッド槽列10を4列並設して、栽培ベッド槽群20を1群設置し、図8に示す養液栽培システムを構成した。このシステムを用い、下記条件にてキュウリを栽培した。養液としては、養液濃度をEC2.0dS/m、養液温度を20℃に設定したものを用いた。養液は、散水(散水チューブによる養液の供給)及び流水(薄膜水耕による養液の供給)による二つの給液機構による供給を栽培期間中、継続した。いずれの給液も24時間連続して行った。
【0097】
栽培面積:60m
株数:80株(0.75m/株)
畝間1.5m、株間50cm
栽培ベッド槽の大きさ
H1:50mm
H2:100mm
W2:400mm
栽培ベッド槽の勾配:1/100
栽培ベッド槽底面の凸条の数:6本(苗架台の両側に3本ずつ)
苗架台と最も苗架台4側の凸条2tとの隙間:5mm
定植パネル板の植え穴の配列ピッチ:500mm
苗架台の大きさ:横幅11cm、高さ5cm
苗架台に形成された開口サイズ:20mmの円形
苗架台に形成された開口4b同士の間隔(開口ピッチ):100mm
植物1体あたりに対する苗架台の開口数は、苗根鉢の両側合わせて9個
苗架台の開口の配列ピッチ(片側100mmずつ)は、植え穴の配列間隔(500mm)の20.0%
流水路(薄膜水耕)による養液の供給量:3~5リットル/min
【0098】
散水チューブは、2つの流路(A)と(B)が形成され、流路(A)の外気と接する筒状体の部位及び仕切壁をフィルムにて構成し、流路(B)の外気と接する筒状体の部位を不織布にて構成し且つ仕切壁には通水孔を設け、入口継手の配管を介して流路(A)に通水され、その際、仕切壁が流路(B)の不織布に接触しない様に形成されている散水チューブ(三菱ケミカルアグリドリーム社の「エバーフローA」)を使用した。
孔列:2
散水孔の配列間隔(散水孔の配列ピッチ):25mm
散水孔7a,7bの配列間隔は、植え穴の配列間隔の5%
孔径:0.2mm
散水量:0.3l/m・分
苗架台とチューブとの距離M:20mm
【0099】
キュウリの苗(播種後20日間経過した苗)を有する苗根鉢を、上記の、本発明の養液栽培部材及び養液栽培方法を用いて定植し、その翌日に各苗の発達状態を目視で確認した。80株の全株が良好に発達し、栽培初期の養液供給が確実に行われていることが分かった。さらに、その後30日間栽培した。
【0100】
[比較例1]
散水チューブを用いない以外は、実施例1と同じ方法で栽培した比較例1では、定植後翌日に20%の苗について、根が良好に発達していたが、残る80%は根の発達が不十分であり、萎凋株であった。
【0101】
比較例1は、定植翌日の各苗の観察以後、苗が活着するまでの10日間、定植パネルの植え穴から手灌水を継続することにより、その後30日間栽培を続けた。これにより、80%の萎凋株も枯死することを避けられた。しかしながら、定植直後の萎凋の影響が大きく、生育の遅れが見られた。生育への影響は、定植後30日間の時点でも確認された。
【0102】
また、定植翌日から定植10日目まで間、手灌水を行うことにより、10a(1000m)当り2~3時間の手間がかかる点で栽培管理上、大きな負担となることが確認された。
【0103】
このように、本発明の養液栽培部材及び養液栽培方法を用いて栽培を行った実施例1は、比較例1に対し5.0倍である全株において、栽培初期の根の発達が良好であることが確認できた。なお、定植後翌日の根の生育空間における、流水路の水深は3~5mm程度であった。また、定植後30日栽培経過時に、実施例1及び比較例1の各苗の状態を確認した。実施例1の株は、順調に生長し、どの株も同様の大きさに生長していた。一方、比較例1は、栽培初期の根の発達不良が見られた株は、生育の遅れが確認され、株によって大きさのバラつきが見られた。このことから、本発明の養液栽培部材及び養液栽培方法を用いて栽培を行った実施例1は、多くの株を一定の早い速度で生育させることができ、収量の安定確保が可能であることが分かった。なお、定植後30日栽培経過後の実施例1及び比較例1の根の生育空間を確認したところ、根が伸びて密集することによりマット状になって、養液供給領域である流水路を埋め尽くすほどであった。一方で、根の生育空間上部の酸素供給領域には、多くの湿気中根が発達・生長していた。これにより、本発明は、生育ステージが進み、経時的に根圏環境が大きく異なる植物の栽培においても、養液供給領域及び酸素供給領域を確保し続けることが可能であることを確認した。すなわち、本発明の養液栽培部材及び養液栽培方法によれば、生育ステージが進み根圏環境が大きく変わっても、植物の根に酸素及び養液を適切に供給し続けることを確認した。
【0104】
[参考例1]
苗架台に散水チューブからの散水される養液がかからないよう、距離Mを6cmとして、散水チューブを苗架台の片側1本を配置する以外は、実施例1と同じ方法で栽培した参考例1を実施した。参考例1では、定植後翌日に30%程度の苗について、根が良好に発達していたが、残る70%は根の発達が不十分であり、萎凋株であった。
【0105】
参考例1と比較例1との比較から、散水部材から散水を行うことにより、根の生育空間内の湿度が高く維持され、湿気中根がより発達することが示された。また、湿気中根からの酸素取り込みを促進し、地上部の生育が促進することが示された。
【0106】
参考例1についても、定植翌日の各苗の観察以後、苗が活着するまでの10日間、定植パネルの植え穴から手灌水を継続することにより、その後30日間栽培を続けた。これにより、70%の萎凋株も枯死することを避けられた。しかしながら、根の生育空間のうち、散水チューブを配置した、苗架台の一方側のみに根が密集したため、実施例1より根量が明らかに少なかった。また、地上部の生育や収穫量も、実施例1には及ばなかった。
【0107】
以上、本発明を特定の態様を用いて詳細に説明したが、本発明の意図と範囲を離れることなく様々な変更が可能であることは当業者に明らかである。
本出願は、2018年5月23日付で出願された日本特許出願2018-098869に基づいており、その全体が引用により援用される。また、本出願における「苗架台」の語は、特許出願2018-098869における、「植物載置台」の語を意味し、置き換え可能である。
【符号の説明】
【0108】
S 根の生育空間
T 通気空間
M 散水部材(散水チューブ)と苗架台との距離
1 養液栽培用部材
2 栽培ベッド槽
2b 底板部
2t 凸条
3 定植パネル板
3a 植え穴
4,4A~4C 苗架台
4b 開口
4c 天頂部
4d 脚部
4k 連通部
5 防水性シート
6 親水性シート
7 散水チューブ
7a,7b 散水孔
9 苗根鉢
10 栽培ベッド槽列
20 栽培ベッド槽群
31 ボールタップ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8