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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-18
(45)【発行日】2023-12-26
(54)【発明の名称】涙液層安定化剤及びマイバム分泌促進剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/41 20060101AFI20231219BHJP
   A61K 31/137 20060101ALI20231219BHJP
   A61K 31/4174 20060101ALI20231219BHJP
   A61P 27/02 20060101ALI20231219BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20231219BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20231219BHJP
【FI】
A61K31/41
A61K31/137
A61K31/4174
A61P27/02
A61P43/00 105
A61K45/00
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019100552
(22)【出願日】2019-05-29
(65)【公開番号】P2019210282
(43)【公開日】2019-12-12
【審査請求日】2022-03-03
(31)【優先権主張番号】P 2018104767
(32)【優先日】2018-05-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006769
【氏名又は名称】ライオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002240
【氏名又は名称】弁理士法人英明国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】渡部 草太
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 圭祐
【審査官】渡邉 潤也
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-343893(JP,A)
【文献】特開2004-217596(JP,A)
【文献】国際公開第2017/043612(WO,A1)
【文献】井上 佐智子,他2名,ドライアイとは? 原因から最新の治療まで,ファルマシア,2014年,50(3),pp.201-206
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
オキシメタゾリン及びこれらの薬理学的に許容される塩からなる群より選択される1種以上を含有する涙液層安定化剤。
【請求項2】
ナファゾリン、テトラヒドロゾリン及びこれらの薬理学的に許容される塩からなる群より選択される1種以上を含有する涙液層安定化剤(但し、A)酸性ムコ多糖類、及びB)ヒドロキシエチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルピロリドン又はポリビニルアルコール、又はカルボキシメチルセルロース或いはその塩から選択される少なくとも1種以上を含有し、20℃での粘度が15mPa・s以上300mPa・s以下である点眼剤を除く。)
【請求項3】
フェニレフリン、ナファゾリン、テトラヒドロゾリン、オキシメタゾリン及びこれらの薬理学的に許容される塩からなる群より選択される1種以上を含有するマイバム分泌促進剤。
【請求項4】
フェニレフリン、ナファゾリン、テトラヒドロゾリン、オキシメタゾリン及びこれらの薬理学的に許容される塩からなる群より選択される1種以上を含有するBUT短縮型ドライアイ予防剤又は治療剤。
【請求項5】
マイバム分泌低下による、眼疲労、目のかわき、コンタクトレンズを装着しているときの不快感及び目のかすみ、異物感、目の痛み、目がまぶしい、目が重い、目の不快感、眼脂、流涙、麦粒腫、ならびに霰粒腫から選ばれる疾患又は症状に対する予防剤又は治療剤である請求項記載のマイバム分泌促進剤。
【請求項6】
点眼剤である請求項1~のいずれか1項記載の剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、涙液層安定化剤及びマイバム分泌促進剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ドライアイは有病率の高い疾患又は症状である。加えて日本を含むアジアでの有病率は欧米より高いことが報告されている。さらにドライアイのリスクファクターである「加齢」、「コンタクトレンズ装用」、「長時間のコンピュータ作業」に起因する有訴者数は、将来にわたって増え続けることが予想される。
【0003】
従来、涙液の分泌量の減少がドライアイにおいて重要な要因とされてきたが、近年、その考え方は変わりつつある。実際に、2016年に改訂された日本のドライアイの診断基準においては、これまで採用されてきたシルマー試験による涙液分泌量に関する項目は削除された。これは、シルマーテストによる涙液分泌量が正常であっても、ドライアイ症例が存在することが認められたためである。すなわち、涙腺の腺分泌機能不全により涙液分泌量が減少するシェーグレン症候群のような重症例を除き、涙液分泌量の増加とドライアイの改善が結びつかない可能性が高いと考えられている(非特許文献1参照)。
【0004】
涙液層の破壊(不安定化)は、涙液油層の異常、液層の水分量の減少や分泌型ムチンの異常、あるいは上皮の水濡れ性の低下によって引き起こされる。現在、日本には、ドライアイを引き起こす涙液層の破壊の原因を眼表面の不足成分に求め、それを補うことでドライアイを治療するという、新しいドライアイの診断・治療のコンセプト(それぞれ、TFOD(tear film oriented diagnosis:眼表面の層別診断)及び、TFOT(tear film oriented therapy:眼表面の層別治療))が生まれ、ドライアイ診療にきわめて有用であるとされている。
【0005】
ドライアイの治療薬として、従来、医療用及び一般用医薬品における治療では、塩化ナトリウムや塩化カリウム等の無機塩類を含有した人工涙液が広く使用されてきたが、これらは涙液の補充を目的とした一時的な効果でしかなかった。近年では、ヒアルロン酸ナトリウム、ジクアホソルナトリウム、レバミピドのようにドライアイに対して有効な成分を配合した点眼薬も発売され始めている。これらの成分はムチンや水分の発現を促進し、涙液層を安定化する作用がある一方で、ジクアホソルナトリウムでは眼脂の発生や目の痛み、レバミピドでは味覚障害が成分特有の副作用として発生することが報告されている(特許文献1,2参照)。
上記の通り、ドライアイに対する有効成分の種類は少なく、副作用が問題になることもあるため、新たなドライアイ治療薬の開発が待ち望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第6267003号公報
【文献】特許第6060168号公報
【文献】「読めばわかる!わかれば変わる!ドライアイ診断」、2017年10月1日、p2-7
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記事情に鑑みなされたもので、涙液層安定化効果、マイバム分泌促進効果に優れ、ドライアイ予防剤又は治療剤として有用な涙液層安定化剤及びマイバム分泌促進剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討した結果、アドレナリンα1受容体作動薬が、涙液層安定化効果、マイバム分泌促進効果に優れ、ドライアイ予防剤又は治療剤として有用であることを知見し、本発明をなすに至ったものである。
【0009】
従って、本発明は下記剤を提供する。
1.アドレナリンα1受容体作動薬を含有する涙液層安定化剤。
2.アドレナリンα1受容体作動薬を含有するマイバム分泌促進剤。
3.ドライアイ予防剤又は治療剤である1又は2記載の剤。
4.BUT短縮型ドライアイ予防剤又は治療剤である3記載の剤。
5.涙液層不安定化による、眼疲労、目のかわき、コンタクトレンズを装着しているときの不快感及び目のかすみ、異物感、目の痛み、目がまぶしい、目が重い、目の不快感、眼脂ならびに流涙から選ばれる疾患又は症状に対する予防剤又は治療剤である1記載の剤。
6.マイバム分泌低下による、眼疲労、目のかわき、コンタクトレンズを装着しているときの不快感及び目のかすみ、異物感、目の痛み、目がまぶしい、目が重い、目の不快感、眼脂、流涙、麦粒腫、ならびに霰粒腫から選ばれる疾患又は症状に対する予防剤又は治療剤である2記載の剤。
7.点眼剤である1~6のいずれかに記載の剤。
8.アドレナリンα1受容体作動薬が、フェニレフリン、ナファゾリン、テトラヒドロゾリン、オキシメタゾリン、メトキサミン、フェニルプロパノラミン、エチレフリン、ミドドリン、トラマゾリン、シネフリン、シラゾリン、キシロメタゾリン及びこれらの薬理学的に許容される塩からなる群より選択される1種以上である1~7のいずれかに記載の剤。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、涙液層安定化効果、マイバム分泌促進効果に優れ、ドライアイ予防剤又は治療剤として有用な涙液層安定化剤及びマイバム分泌促進剤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】試験例1の結果を示すグラフである。
図2】試験例1の結果を示すグラフである。
図3】試験例1の結果を示すグラフである。
図4】試験例1の結果を示すグラフである。
図5】試験例2の結果を示すグラフである。
図6】試験例3の結果を示すグラフである。
図7】試験例3の結果を示すグラフである。
図8】試験例3の結果を示すグラフである。
図9】試験例3の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明について詳細に説明する。
[アドレナリンα1受容体作動薬]
アドレナリン受容体作動薬としては、アドレナリンα1受容体作動薬、アドレナリンα2受容体作動薬、アドレナリンβ1受容体作動薬、アドレナリンβ2受容体作動薬、アドレナリンβ3受容体作動薬が挙げられる。これらの中で、血管収縮剤として機能するものもある。本発明はアドレナリンα1受容体作動薬を用いるものである。アドレナリンα1受容体作動薬としては、フェニレフリン、ナファゾリン、テトラヒドロゾリン、オキシメタゾリン、メトキサミン、フェニルプロパノラミン、エチレフリン、ミドドリン、トラマゾリン、シネフリン、シラゾリン、キシロメタゾリン及びこれらの薬学的に許容される塩等の選択的α1受容体作動薬;エピネフリン、メチルノルエピネフリン、ノルエピネフリン及びこれらの薬学的に許容される塩等のα1及びβ1受容体作動薬;エフェドリン、メチルエフェドリン、シュードエフェドリン及びこれらの薬学的に許容される塩等のα1、β2及びβ3受容体作動薬等が挙げられる。中でも、選択的α1受容体作動薬が好ましく、フェニレフリン、ナファゾリン、テトラヒドロゾリン、オキシメタゾリン及びこれらの薬学的に許容される塩がより好ましい。
【0013】
アドレナリンα1受容体作動薬が、涙液層安定化効果、マイバム分泌促進効果を有する理由は不明であるが、例えば、以下のように推測することができる。アドレナリンα1受容体作動薬は一般的に平滑筋に作用し血管を収縮させる。具体的な例として、フェニレフリンは涙液量を増加させずに涙液層を安定化させる作用がある。このことからは、マイボーム腺からのマイバム分泌作用があることが予測される。マイボーム腺は皮脂腺の一種だが、一般的な皮脂腺と異なり平滑筋を有さないため、血管収縮剤の作用は直接受けないと考えられるが、マイボーム腺周辺のミューラー筋に作用する等、間接的に関与していることが推測される。
【0014】
本発明の剤における、アドレナリンα1受容体作動薬のアドレナリンα1受容体作動薬の投与量としては、眼科用組成物中の量として、0.00005~20w/v%(質量/体積%,g/100mL、以下同様)が好ましく、0.00015~10w/v%がより好ましい。このような投与量としては、例えば、1回につき、上記眼科用組成物10~100μLを1~3滴、1日につき1~6回用いるとよい。
【0015】
具体的には下記範囲が好ましい。なお、これらの薬学的に許容される塩中の成分量も下記量となる。
フェニレフリン、メトキサミン、エチレフリン、ミドドリンは、0.0025~20w/v%が好ましく、0.003~10w/v%がより好ましく、0.005~10w/v%がさらに好ましく、0.01~0.2w/v%が特に好ましく、0.05~0.2w/v%が最も好ましい。
エピネフリン、メチルノルエピネフリン、ノルエピネフリンは、0.00005~1w/v%が好ましく、0.00015~0.012w/v%がより好ましく、0.0003~0.006w/v%がさらに好ましい。
エフェドリン、メチルエフェドリン、シュードエフェドリンは、0.0025~1w/v%が好ましく、0.005~0.4w/v%がより好ましく、0.01~0.2w/v%がさらに好ましい。
テトラヒドロゾリン、オキシメタゾリンは、0.001~1w/v%が好ましく、0.0025~0.2w/v%がより好ましく、0.003~0.1w/v%がさらに好ましく、0.005~0.1w/v%が特に好ましい。
ナファゾリン、シネフリン、シラゾリン、キシロメタゾリン、フェニルプロパノラミン、トラマゾリンは、0.00005~1w/v%が好ましく、0.00015~0.1w/v%がより好ましく、0.0003~0.006w/v%がさらに好ましく、0.001~0.005w/v%が特に好ましい。
【0016】
〈涙液層安定化剤〉
本発明はアドレナリンα1受容体作動薬を含有する涙液層安定化剤であり、アドレナリンα1受容体作動薬を有効成分として含有する涙液層安定化剤であることが好ましい。
本発明において、涙液層安定化効果の測定は、NI(Non-invasive)BUT(非侵襲的涙液層破壊時間)で測定する。具体的には後述の実施例の方法である。
【0017】
涙液層安定化効果が得られると、ドライアイ予防剤又は治療剤として好適に用いることができる。ドライアイは、「さまざまな要因により、涙液層の安定性が低下する疾患又は症状であり、眼不快感や視機能異常を生じ、眼表面の障害を伴うことがある」と定義され、その診断基準は、自覚症状とフルオレセインBUT(涙液層破壊時間)が5秒以下の2項目である。BUTの測定は、フルオレセインを用いるのが一般的ではあるが、眼内に染色試薬を投与する必要があり、若干ではあるが涙液量が変化すること、染色試薬が顔や衣服に付く可能性があり、非侵襲的に涙液層の破壊までの時間(non-invasive breakup time:NIBUT)を調べる方法も広く知られている。フルオレセインBUTに比べて、一般にNIBUTは長いとされている。
【0018】
特に、アドレナリンα1受容体作動薬は、BUT短縮型ドライアイに対して顕著な効果を示す。BUT短縮型ドライアイとは、涙液分泌や角結膜上皮はほぼ正常だが、BUTの短縮が検出され、これが原因となり、眼疲労、目のかわき、コンタクトレンズを装着しているときの不快感及び目のかすみ、異物感、目の痛み、目がまぶしい、目が重い、目の不快感、眼脂ならびに流涙等の症状を生じるドライアイのことである。本発明の涙液層安定化剤は、涙液分泌量の増加を伴っても伴わなくてもよく、涙液分泌量の増加がなくても、顕著なドライアイ予防又は治療効果を示すことができる。
【0019】
涙液層が不安定化することによって発生する疾患又は症状としては以下のような症状が挙げられ、本発明の涙液層安定化剤は、下記疾患又は症状の予防剤又は治療剤として好適に用いることができる。
涙液減少症、加齢乾性眼、乏涙症、眼乾燥症、シェーグレン症候群、乾性角結膜炎、スティーブンズ-ジョンソン症候群、眼類天疱胞、眼瞼縁炎、閉眼不全、知覚神経麻痺、アレルギー性結膜炎に関連したドライアイ、ウイルス性結膜炎後のドライアイ、白内障手術後のドライアイ、VDT作業に関連したドライアイ及びコンタクトレンズ装用に関連したドライアイから選ばれる疾患又は症状、
ドライアイを原因とする、眼疲労、目のかわき、目の疲れ、コンタクトレンズを装着しているときの不快感、目のかすみ、リッドワイパーエピテリオパシー、角結膜上皮障害、角膜上皮剥離、角膜上皮糜爛、角膜潰瘍及び眼感染症から選ばれる疾患又は症状。
【0020】
さらに、涙液層が不安定化することによって発生する疾患又は症状としては以下のような症状が挙げられ、本発明の涙液層安定化剤は下記症状の予防剤又は治療剤として好適に用いることができる。
眼疲労、目のかわき、コンタクトレンズを装着しているときの不快感及び目のかすみ、異物感、目の痛み、目がまぶしい、目が重い、目の不快感、眼脂ならびに流涙。
【0021】
〈マイバム分泌促進剤〉
本発明はアドレナリンα1受容体作動薬を含有するマイバム分泌促進剤であり、アドレナリンα1受容体作動薬を有効成分として含有するマイバム分泌促進剤であることが好ましい。
マイバムはマイボーム腺から分泌される成分であり、マイバム分泌促進により涙液油層が増加する。マイバム分泌促進効果は涙液油層の厚さを測定する。具体的には後述の実施例の方法である。
【0022】
眼瞼内に存在するマイボーム腺は、脂質を分泌し、涙液油層の供給源として重要である。この涙液油層は、涙液の表面張力の低下、涙液の蒸発防止等、涙液が膜として安定であるために重要である。しかしながら、マイボーム腺の分泌メカニズムに関する報告は少なく、十分に解明されていない。
【0023】
マイボーム腺からのマイバム分泌が阻害されることによって、発生する疾患又は症状として、上記ドライアイの他に、マイボーム腺機能不全、ものもらい(麦粒腫、霰粒腫)等がある。
マイボーム腺機能不全(meibomian gland dysfunction; MGD)は、マイボーム腺の分泌障害により引き起こされる涙液及び眼表面の異常と定義される。自覚症状とマイボーム腺開口部周囲異常所見、マイボーム腺閉塞所見の三つによって診断される。MGD患者の自覚症状は多彩で異物感、乾燥感、眼疲労感、灼熱感等を訴える。治療は、マイボーム腺の閉塞を改善するために、温熱療法や物理的な力を加えることによる圧出、海外ではマイボーム腺に細い針金様の器具で直接閉塞を解除する方法等が行われている。また、近年、涙液油層を干渉像で評価し、眼瞼を内側から温熱とマッサージ効果で治療するシステム、Lipiview/Lipiflowシステムも開発されており、今後の治療効果が注目されている。ただし、これらの方法は全て医療機関内での処置となるため、簡便な治療法が待ち望まれていた。
【0024】
一般的にものもらいと呼ばれている麦粒腫と霰粒腫は、マイボーム腺に発生する疾患又は症状である。麦粒腫は細菌感染による急性化膿性炎症である。治療は、薬物療法と手術療法がある。薬物療法は、膿点の自壊・排膿がみられた場合に抗菌剤を投与する。手術療法は、膿点が浅層になく自壊・排膿とならない場合は、注射針等を用いて穿刺・切開を行い、排膿を促す。すなわち、治療にはマイボーム腺からの排膿が必要であるが、これまでは、自然に排膿されるまで待つか、侵襲性のある強制的な排膿しか選択肢がなかった。霰粒腫は、脂質に対する異物反応といわれており、感染症ではない。治療は手術が基本である。すなわち、麦粒腫と霰粒腫は、マイボーム腺からの膿や脂質の排出が必要であるにもかかわらず、手術以外の方法がこれまでなかった。
【0025】
本発明のマイバム分泌促進剤は上記涙液層安定化剤と同様の症状の予防剤又は治療剤として好適に用いることができる。
さらに、本発明のマイバム分泌促進剤により、マイバム分泌が向上することによって、MGDやドライアイ、麦粒腫と霰粒腫(ものもらい)を予防又は治療することができる。
【0026】
[その他の成分]
本発明の剤(組成物)には、本発明の効果を損なわない範囲で、その他の成分を適量配合することができる。その他の成分としては、水、油性成分、界面活性剤、防腐剤、糖類、緩衝剤、pH調整剤、等張化剤、安定化剤、清涼化剤、多価アルコール、粘稠剤、アドレナリンα1受容体作動薬以外の薬物等が挙げられる。これらの成分は、1種単独で又は2種以上を適宜組み合わせて配合することができる。下記に示す成分の配合量は、配合する場合の好ましい範囲である。なお、水の配合量は組成物の残部とすることができる。
【0027】
油性成分として、例えば、流動パラフィン、ヒマシ油、大豆油、オリーブ油、ゴマ油、コーン油、ヤシ油、アーモンド油、中鎖脂肪酸トリグリセリド、白色ワセリン、ミックストコフェロール、ラノリン等が挙げられる。油成分を配合する場合、その配合量は組成物中0.001~1.0w/v%が好ましく、0.001~0.5w/v%がより好ましく、0.001~0.25w/v%がさらに好ましい。
【0028】
界面活性剤としては、例えば、下記非イオン界面活性剤が挙げられる。
ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油(POE硬化ヒマシ油)は、水添したヒマシ油に酸化エチレンを付加重合することによって得られる化合物であり、酸化エチレンの平均付加モル数が異なるいくつかの種類が知られている。ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油における酸化エチレンの平均付加モル数については、特に限定はないが、5~100モルが例示される。具体的にはポリオキシエチレン硬化ヒマシ油5(EO平均付加モル数5)、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油10(EO平均付加モル数10)、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油20(EO平均付加モル数20)、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油30(EO平均付加モル数30)、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油40(EO平均付加モル数40)、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油50(EO平均付加モル数50)、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60(EO平均付加モル数60)、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油80(EO平均付加モル数80)、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油100(EO平均付加モル数100)等が挙げられる。
【0029】
ポリオキシエチレンヒマシ油(POEヒマシ油)は、ヒマシ油に酸化エチレンを付加重合することによって得られる化合物であり、酸化エチレンの平均付加モル数が異なるいくつかの種類が知られている。ポリオキシエチレンヒマシ油における酸化エチレンの平均付加モル数については、特に限定はないが、3~60モルが例示される。具体的にはポリオキシエチレンヒマシ油3(数値は酸化エチレンの平均付加モル数、以下同様)、ポリオキシエチレンヒマシ油10、ポリオキシエチレンヒマシ油20、ポリオキシエチレンヒマシ油35、ポリオキシエチレンヒマシ油40、ポリオキシエチレンヒマシ油50、ポリオキシエチレンヒマシ油60等が挙げられる。
【0030】
ポリソルベート80(ポリオキシエチレン(20)ソルビタンオレイン酸エステル)(()内数値は酸化エチレンの平均付加モル数、以下同様)に代表されるポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル(POEソルビタン脂肪酸エステル)、ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレンブロックコポリマー(POEPOPグリコール)に代表されるポロクサマー、モノステアリン酸ポリエチレングリコール(10)に代表されるモノステアリン酸ポリエチレングリコール等が挙げられる。
【0031】
界面活性剤を配合する場合、その配合量は組成物中0.01~2.0w/v%が好ましく、0.05~1.5w/v%がより好ましく、0.1~1.2w/v%がさらに好ましい。
【0032】
防腐剤としては、アルキル鎖やベンゼン環等の疎水部を有する防腐剤として、チメロサール、フェニルエチルアルコール、アルキルアミノエチルグリシン、クロルヘキシジングルコン酸、パラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸エチル、塩化ベンザルコニウム等の4級アンモニウム塩等が挙げられる。防腐剤を配合する場合、その配合量は0.0001~0.5w/v%が好ましい。ただし、配合する場合は、組成物中に0.1w/v%以下が好ましく、0.01w/v%以下がさらに好ましい。
【0033】
糖類としては、例えば、グルコース、シクロデキストリン、キシリトール、ソルビトール、マンニトール等が挙げられる。なお、これらは、d体、l体又はdl体のいずれでもよい。糖類を配合する場合、その配合量は組成物中0.001~5.0w/v%が好ましく、0.001~1w/v%がより好ましく、0.001~0.1w/v%がさらに好ましい。
【0034】
緩衝剤としては、例えば、クエン酸、クエン酸ナトリウム、ホウ酸、ホウ砂、リン酸、リン酸水素ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、氷酢酸、トロメタモール、炭酸水素ナトリウム等が挙げられる。緩衝剤を配合する場合、その配合量は組成物中0.001~5.0w/v%が好ましく、0.001~2w/v%がより好ましく、0.001~1w/v%がさらに好ましい。
【0035】
pH調整剤としては、無機酸又は無機アルカリ剤が挙げられる。例えば、無機酸としては(希)塩酸が挙げられる。無機アルカリ剤としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム等が挙げられる。組成物のpHは3.5~8.0が好ましく、5.5~8.0がより好ましい。なお、pHの測定は、25℃でpHメータ(HM-25R、東亜ディーケーケー(株))を用いて行う。
【0036】
等張化剤としては、例えば、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、乾燥炭酸ナトリウム、硫酸マグネシウム、リン酸水素ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素カリウム等が挙げられる。涙液油層不安定化が引き起こす諸症状をより改善する点から、塩化ナトリウム又は塩化カリウムを配合し、等張化されていることが好ましい。組成物の対生理食塩水浸透圧比は、0.60~2.00が好ましく、0.60~1.55がより好ましく、0.83~1.20が最も好ましい。なお、浸透圧の測定は、25℃で自動浸透圧計(A2O、アドバンスドインストルメンツ社)を用いて行う。
【0037】
安定化剤としては、例えば、エデト酸ナトリウム、エデト酸ナトリウム水和物、シクロデキストリン、亜硫酸塩、ジブチルヒドロキシトルエン等が挙げられる。安定化剤を配合する場合、その配合量は組成物中0.001~5.0w/v%が好ましく、0.001~1w/v%がより好ましく、0.001~0.1w/v%がさらに好ましい。
【0038】
清涼化剤としては、例えば、メントール、カンフル、ボルネオール、ゲラニオール、シネオール、リナロール等が挙げられる。d体、l体、またはdl体のいずれでも使用することができる。清涼化剤を配合する場合、その配合量は組成物中0.0001~0.2w/v%が好ましい。
【0039】
多価アルコールとしては、例えば、グリセリン、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ポリエチレングリコール等が挙げられる。多価アルコールを配合する場合、その配合量は組成物中0.001~5.0w/v%が好ましく、0.001~1w/v%がより好ましく、0.001~0.1w/v%がさらに好ましい。
【0040】
粘稠剤としては、例えば、ポリビニルピロリドン、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロース、ポリビニルアルコール、ヒアルロン酸ナトリウム、コンドロイチン硫酸ナトリウム、ポリアクリル酸、カルボキシビニルポリマー等が挙げられる。粘稠剤を配合する場合、その配合量は組成物中0.001~5.0w/v%が好ましく、0.001~1w/v%がより好ましく、0.001~0.1w/v%がさらに好ましい。
【0041】
アドレナリンα1受容体作動薬以外の薬物(薬学的有効成分)としては、例えば、消炎・収斂剤(例えば、ネオスチグミンメチル硫酸塩、イプシロン-アミノカプロン酸、アラントイン、ベルベリン塩化物水和物、ベルベリン硫酸塩水和物、アズレンスルホン酸ナトリウム、グリチルリチン酸二カリウム、硫酸亜鉛、乳酸亜鉛、リゾチーム塩酸塩等)、抗ヒスタミン剤(例えば、ジフェンヒドラミン塩酸塩、クロルフェニラミンマレイン酸塩等)、水溶性ビタミン類(フラビンアデニンジヌクレオチドナトリウム、シアノコバラミン、ピリドキシン塩酸塩、パンテノール、パントテン酸カルシウム、パントテン酸ナトリウム等)、脂溶性ビタミン類(酢酸レチノール、パルミチン酸レチノール、酢酸トコフェロール等)、アミノ酸類(例えば、L-アスパラギン酸カリウム、L-アスパラギン酸マグネシウム、L-アスパラギン酸カリウム・マグネシウム(等量混合物)、アミノエチルスルホン酸、コンドロイチン硫酸ナトリウム等)、サルファ剤等が挙げられる。薬物を配合する場合、薬物の配合量は、各薬物の有効な適性量を選択することができるが組成物中0.001~5w/v%が好ましく、0.001~1w/v%がより好ましく、0.001~0.1w/v%がさらに好ましい。
【0042】
[製造方法]
本発明の剤の製造方法は特に限定されないが、例えば、水性成分を精製水に溶解し、pH調整後、総体積を精製水により調整することにより得ることができる。混合方法は、一般的な方法でよく、パルセーター、プロペラ羽根、パドル羽根、タービン羽根等を用いて適宜行われるが、回転数は特に限定されず、激しく泡立たない程度に設定することが好ましい。各液体の混合温度は特に限定しないが、具体的には20~95℃の範囲から適宜選定される。
【0043】
本発明の剤は目への適応を容易にする点から液体が好ましく、20℃における粘度は、涙液との混合を容易にする点から、20mPa・s以下が好ましく、10mPa・s以下がより好ましく、5mPa・s以下がさらに好ましく、2mPa・s以下が特に好ましい。なお、粘度の測定方法はコーンプレート型粘度計(DV2T、英弘精機(株))を用いて行う。下限は特に限定されないが、1mPa・sとすることもできる。
【0044】
本発明の剤は、点眼剤、コンタクトレンズ用点眼剤、洗眼剤等として好適に使用できるが、ドライアイ予防又は治療効果の点から、点眼剤、コンタクトレンズ用点眼剤(コンタクトレンズ装着者用点眼剤)等の点眼剤として好適に使用できる。コンタクトレンズとしては、ハードコンタクトレンズ、ソフトコンタクトレンズ、シリコンハイドロゲルソフトコンタクトレンズ、O2ハードコンタクトレンズ、カラーコンタクトレンズ等特に限定されない。コンタクトレンズはマイボーム腺の形態変化に影響を与え、ドライアイの一因となることが報告されており、特にコンタクトレンズ用点眼剤が好適である。
【0045】
点眼剤又はコンタクトレンズ用点眼剤として使用する場合、1回につき10~100μLを1~3滴1日につき1~6回点眼することが好ましく、1回につき10~50μLを1~3滴1日につき1~6回がより好ましく、1回につき10~30μLを1~3滴1日につき1~6回がさらに好ましい。洗眼剤として使用する場合、1回につき3~6mL、1日につき3~6回洗眼することが好ましい。
【0046】
また、得られた剤(組成物)を樹脂製容器に充填後、さらに包装体により密封し、上記容器と上記包装体との間に形成された空間に窒素等の不活性ガスを封入してもよく、組成物を樹脂製容器に充填後、脱酸素剤と共に包装体により密封してもよい。
【実施例
【0047】
以下、試験例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
【0048】
[試験例1]
〈涙液層安定性:NI(Non-invasive)BUT(非侵襲的涙液層破壊時間)〉
下記表1に示す組成のフェニレフリン製剤(実施例1)、オキシメタゾリン製剤1(実施例2)及びプラセボ製剤(比較例1)を試験した。
【表1】
【0049】
上記サンプルを各1週間ずつ点眼し、点眼前後のNIBUT変化について比較した。点眼は3~5名(3~10眼)で実施し、1回1滴(50μL)、1日6回実施した。
NIBUTの評価には、DR-1(興和製)を用いた。最後に点眼して5分以上経過後15分以内に測定した。
DR-1を用いて、涙液干渉像を観察し、開瞼後、涙液層が破壊(均一な灰色又は白色の干渉像が消失する)されるまでの時間(秒)を計測し、その平均値を求めた。
群間比較は、Wilcoxon検定を実施した。
結果を表2及び平均値を図1~3に示す。
【0050】
【表2】
【0051】
フェニレフリン製剤1点眼群(実施例1)及びオキシメタゾリン製剤1点眼群(実施例2)は、点眼前と比較して、点眼後に有意なNIBUTの延長が認められた。プラセボ製剤点眼群(比較例1)は点眼前と比較して、点眼後に有意なNIBUTの延長が認められなかった。
フェニレフリン塩酸塩、オキシメタゾリン塩酸塩はNIBUTを延長させる効果があり、涙液層安定化効果が確認された。
【0052】
下記表3のサンプルを上記と同様に評価した。点眼は3名(3眼)で実施した。得られたNIBUT平均値から、点眼前に対する点眼後のNIBUT平均変化量を下記式より求めた。
(式)
NIBUT平均変化量(秒)=点眼後のNIBUT平均値(秒)-点眼前のNIBUT平均値(秒)
プラセボ製剤に対する各製剤の比較はDunnet検定を実施した。
結果を表4及び図4に示す。
【0053】
【表3】
【0054】
【表4】
【0055】
フェニレフリン製剤2点眼群(実施例3)及びオキシメタゾリン製剤2点眼群(実施例6)は、プラセボ製剤点眼群に対して有意なNIBUTの延長が認められた。また、ナファゾリン製剤点眼群(実施例4)、テトラヒドロゾリン製剤点眼群(実施例5)でも、プラセボ製剤点眼群に対して有意なNIBUTの延長が認められ、涙液層安定化効果が確認された。
【0056】
以上の結果より、アドレナリンα1受容体作動薬は、涙液層安定化効果を有することが明らかになった。
【0057】
[試験例2]
〈涙液分泌量)
上記と同様にフェニレフリン製剤1(実施例1)及びプラセボ製剤(比較例1)を各1週間ずつ点眼し、点眼前後の涙液分泌量変化について比較した。点眼は5名(10眼)で実施し、1回1滴(50μL)、1日6回実施した。最後に点眼して5分以上経過後15分以内に以下の手順で測定した。
下眼瞼を押し下げて、角膜と下眼瞼結膜の間に貯留する涙の全量を、予め重量を測定したろ紙を角膜に触れないように下眼瞼結膜に押し当てて採取した。その後、そのろ紙の重量を測定して涙液量(mg)とした。角膜に触れると刺激性分泌が発生するため、上記の採取法を用いた。
涙液分泌量の点眼前後の変化量を算出し、群間比較を行った。
[変化量の計算式]
涙液分泌量の点眼前後の変化量(mg)=((点眼後における涙液採取後のろ紙重量(mg)-涙液採取前のろ紙重量(mg))の平均値(mg))-((点眼前の涙液採取後のろ紙重量(mg)-涙液採取前のろ紙重量(mg))の平均値(mg))
群間比較は、対応のあるt検定を実施した。
結果を表5及び図5に示す。
【0058】
【表5】
【0059】
フェニレフリン製剤1点眼群とプラセボ製剤点眼群間の有意差は認められなかった。
【0060】
試験例1及び試験例2の結果から、フェニレフリンは涙液分泌量の変化に影響を与えることなく、涙液層を安定化することが明らかとなった。なお、点眼した5名のパネラーは、プラセボ製剤点眼に比べ、フェニレフリン製剤1点眼において、ドライアイの改善を実感した。従って、フェニレフリンは、涙液分泌量に関係なく、ドライアイを予防又は治療することが可能であることが確認された。
【0061】
[試験例3]
〈マイバム分泌促進:涙液油層厚さ〉
上記と同様に上記フェニレフリン製剤1(実施例1)、オキシメタゾリン製剤1(実施例2)、及びプラセボ製剤(比較例1)を各1週間ずつ点眼し、点眼前後の涙液油層厚さ変化について比較した。点眼は3~9名(3~18眼)で実施し、1回1滴(50μL)、1日6回実施した。
涙液油層の厚さの評価には、Lipiview(Tearscience社製)を用いた。最後に点眼して5分以上経過後15分以内に以下の手順で測定した。
Lipiviewを用いて、涙液油層厚さを計測し、その平均値を求めた。
群間比較は、Wilcoxon検定を実施した。
結果を表6及び平均値を図6~8に示す。
【0062】
【表6】
【0063】
フェニレフリン製剤1点眼群(実施例1)及びオキシメタゾリン製剤1点眼群(実施例2)は、点眼前と比較して、点眼後の涙液油層の厚さに有意な差が認められた。プラセボ製剤点眼群は、点眼前と比較して、点眼後の涙液油層の厚さに有意な差が認められなかった。
フェニレフリン塩酸塩、オキシメタゾリン塩酸塩は、涙液油層を厚くする効果があり、マイバム分泌促進効果が確認された。
【0064】
また、フェニレフリン製剤2(実施例3)、ナファゾリン製剤(実施例4)、テトラヒドロゾリン製剤(実施例5)、オキシメタゾリン製剤2(実施例6)ついて、上記と同様に評価した。点眼は3名(3眼)で実施した。得られた涙液油層厚さ平均値から、点眼前に対する点眼後の涙液油層厚さ平均変化量を下記式より求めた。
涙液油層厚さ平均変化量(nm)=点眼後の涙液油層厚さ平均値(nm)-点眼前の涙液油層厚さ平均値(nm)
プラセボ製剤に対する各製剤の比較はDunnet検定を実施した。
結果を表7及び図9示す。
【0065】
【表7】
【0066】
フェニレフリン製剤2点眼群(実施例3)及びオキシメタゾリン製剤2点眼群(実施例6)は、プラセボ製剤点眼群(比較例1)に対して点眼後の涙液油層厚さに有意な差が認められた。また、ナファゾリン製剤点眼群(実施例4)及びテトラヒドロゾリン製剤点眼群(実施例5)でも、プラセボ製剤に対して有意な差が認められた。
よって、上記、アドレナリンα1受容体作動薬には、涙液油層を厚くする効果があり、マイバム分泌促進効果が確認された。
【0067】
以上の結果より、アドレナリンα1受容体作動薬には、マイバム分泌を促進させる効果を有することが明らかとなった。従って、アドレナリンα1受容体作動薬は、MGDやドライアイ、麦粒腫及び霰粒腫(ものもらい)を、予防又は治療することが可能であることが確認された。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9