(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-18
(45)【発行日】2023-12-26
(54)【発明の名称】熱溶着性フィルム、積層体、加飾成形体の製造方法、及び加飾成形体
(51)【国際特許分類】
C08J 5/12 20060101AFI20231219BHJP
B32B 27/00 20060101ALI20231219BHJP
B32B 5/00 20060101ALI20231219BHJP
B32B 7/12 20060101ALI20231219BHJP
B32B 27/32 20060101ALI20231219BHJP
B29C 70/06 20060101ALI20231219BHJP
B29C 65/40 20060101ALI20231219BHJP
C08L 23/26 20060101ALI20231219BHJP
C08J 5/18 20060101ALI20231219BHJP
【FI】
C08J5/12
B32B27/00 E
B32B5/00 A
B32B7/12
B32B27/32 Z
B29C70/06
B29C65/40
C08L23/26
C08J5/18 CES
(21)【出願番号】P 2019122942
(22)【出願日】2019-07-01
【審査請求日】2022-05-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000002897
【氏名又は名称】大日本印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124431
【氏名又は名称】田中 順也
(74)【代理人】
【識別番号】100174160
【氏名又は名称】水谷 馨也
(74)【代理人】
【識別番号】100175651
【氏名又は名称】迫田 恭子
(72)【発明者】
【氏名】高萩 敦子
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 美帆
【審査官】加賀 直人
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-344431(JP,A)
【文献】特開2016-169271(JP,A)
【文献】特開2013-202924(JP,A)
【文献】特開2001-150590(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 5/12
B32B 27/00
B32B 5/00
B32B 7/12
B32B 27/32
B29C 70/06
B29C 65/40
C08L 23/26
C08J 5/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
加飾フィルムで構成される第1部材と繊維強化プラスチックで構成される第2部材とを接合させるための熱溶着性フィルムであって、
一方側の表面及び他方側の表面が、いずれも、80重量%以上の酸変性ポリオレフィンを含有する熱溶着性樹脂層で構成され、
前記第1部材と前記繊維強化プラスチックのプリプレグで構成される第2部材前駆体とを、前記熱溶着性フィルムを介して積層した積層体を加熱して、熱溶着と前記プリプレグの熱硬化と成形とを同時に行い、前記第1部材と前記第2部材とが接合された加飾成形体を得るため、又は、
前記第1部材と前記第2部材とを、前記熱溶着性フィルムを介して積層した積層体を加熱して、熱溶着と熱成形とを同時に行い、前記第1部材と前記第2部材とが接合された加飾成形体を得るために用いられる、熱溶着性フィルム。
【請求項2】
前記酸変性ポリオレフィンの酸変性度が、0.05重量%以上である、請求項1に記載の熱溶着性フィルム。
【請求項3】
前記酸変性ポリオレフィンの酸変性度が、0.05~0.2重量%である、請求項1又は2に記載の熱溶着性フィルム。
【請求項4】
前記酸変性ポリオレフィンの変性されるポリオレフィンが、ポリエチレン及びポリプロピレンからなる群より選択される、請求項1~3のいずれかに記載の熱溶着性フィルム。
【請求項5】
前記熱溶着性樹脂層の厚さが20μm以上である、請求項1~4のいずれかに記載の熱溶着性フィルム。
【請求項6】
前記繊維強化プラスチックの、前記熱溶着性フィルムと接合する面の表面粗さが25μm以上である、請求項1~5のいずれかに記載の熱溶着性フィルム。
【請求項7】
前記繊維強化プラスチックにおける繊維が、平織クロス、綾織クロス、朱子織クロス、又は一方向クロスである、請求項1~6のいずれか記載の熱溶着性フィルム。
【請求項8】
前記加飾フィルムが基材層と加飾層とを備え、前記加飾層が前記熱溶着性フィルムと接合する側に設けられ、且つ、塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体樹脂、塩素化ポリプロピレン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリブチラール樹脂、ポリスチレン樹脂、ニトリセルロース樹脂、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、及びアクリルウレタン樹脂からなる群より選択されるバインダ樹脂を含む、請求項1~7のいずれかに記載の熱溶着性フィルム。
【請求項9】
前記基材層が、アクリル樹脂、ポリエステル、ポリオレフィン、ビニル系樹脂、アクリロニトリルブタジエンスチレン共重合体、ポリウレタン及びポリカーボネートからなる群より選択される、請求項8に記載の熱溶着性フィルム。
【請求項10】
前記熱溶着性樹脂層が単層フィルムである、請求項1~9のいずれかに記載の熱溶着性フィルム。
【請求項11】
少なくとも、第1熱溶着性樹脂層と、支持層と、第2熱溶着性樹脂層とをこの順に備え、前記第1熱溶着性樹脂層の表面が前記一方側の表面であり、前記第2熱溶着性樹脂層の表面が前記他方側の表面である、請求項1~9のいずれかに記載の熱溶着性フィルム。
【請求項12】
前記繊維強化プラスチックのマトリックス樹脂が熱硬化性樹脂である、請求項1~11のいずれかに記載の熱溶着性フィルム。
【請求項13】
前記繊維強化プラスチックのマトリックス樹脂が熱可塑性樹脂である、請求項1~11のいずれかに記載の熱溶着性フィルム。
【請求項14】
加飾フィルムで構成される第1部材と繊維強化プラスチックのプリプレグで構成される第2部材前駆体とを、請求項1~12のいずれかに記載の熱溶着性フィルムを介して積層した積層体を加熱して、熱溶着と前記プリプレグの熱硬化と成形とを同時に行い、前記第1部材と前記第2部材とが接合された加飾成形体を得る、加飾成形体の製造方法。
【請求項15】
加飾フィルムで構成される第1部材と繊維強化プラスチックで構成される第2部材とを、請求項1~11及び13のいずれかに記載の熱溶着性フィルムを介して積層した積層体を加熱して、熱溶着と熱成形とを同時に行い、前記第1部材と前記第2部材とが接合された加飾成形体を得る、加飾成形体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、熱溶着性フィルム、積層体、加飾成形体の製造方法及び加飾成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
多数本の連続繊維で構成される強化繊維によって樹脂を強化した繊維強化プラスチック(CFRP)は、軽量性と力学特性とが要求される構造体に頻繁に使用されている。例えば、繊維強化プラスチックは、航空機、自動車、二輪車、及び自転車等の輸送機器、テニス用品、ゴルフ用品、及び釣り竿等のスポーツ用品、耐震補強材等の建設構造物、電気・電子機器、並びに、工業用ロボットアーム等の部材に使用されている。
【0003】
近年では、繊維強化プラスチックは、その軽量性及び力学特性だけでなく、意匠性の観点からも用途が拡大している。そのような拡大された用途としては、民生用ロボット及び玩具等の製品に用いられる部材が挙げられる。繊維強化プラスチックが用いられたこれらの製品は、優れた軽量性及び力学特性に加えて意匠性を併せ持つことで、更に商品価値が高められたものとして提供される。
【0004】
繊維強化プラスチックに意匠性を付与する手段として、一般的には、繊維強化プラスチック成型品に直接塗装する方法が挙げられる。しかしながら、この方法は、強化繊維の凹凸が反映された非平滑の面に対して塗布を行う場合、塗布効率及び品質管理の面で問題を有する。一方、繊維強化プラスチックの凹凸表面を予め研磨処理によって平滑化しておく前処理も一般的に行われるが、この場合、工数が増加する問題が新たに生じる。また、いずれの場合においても、繊維強化プラスチック成型品に直接塗装する方法は、環境負荷の面で本質的な問題を有する。
【0005】
そこで、環境負荷に配慮しつつ繊維強化プラスチックに意匠性をより簡便に付与する手段として、加飾フィルムが提案されている。
【0006】
加飾フィルムの例として、特許文献1に、基材上に、軟化点が高いバインダ樹脂を含む着色層と熱接着性層とを積層した炭素繊維強化プラスチック用加飾シートが開示されている。この炭素繊維強化プラスチック用加飾シートでは、着色層に含まれるバインダ樹脂として軟化点が90℃以上の樹脂を用いることで、炭素繊維の織目の凹凸が加飾複合材料表面に反映される表面非平滑性を改善している。また、特許文献1では、表面非平滑性を改善する効果が、熱接着性層の有無にかかわらず奏されることが実証されている。なお、着色層上に積層される熱接着性層には、アクリル樹脂、アクリル変性ポリオレフィン樹脂、塩素化ポリオレフィン樹脂、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体、熱可塑性ウレタン樹脂、熱可塑性ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ゴム系樹脂等の熱可塑性樹脂、及び、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂が用いられることが開示されている。
【0007】
また、加飾フィルムの他の例として、特許文献2に、フィルムのガラス転移温度のうち最も高い温度をTg[℃]として、Tg~Tg+50[℃]以下の温度T[℃]での破断伸度が50%以上であり、かつ、特定の条件下で、特定の空間周波数特性を有するフィルムが開示されている。このフィルムを、表面に傷などの凹凸のある被着体に対して接着することによって、その凹凸を十分に低減させることができ、表面を平坦化できるため、外観品位が良好な加飾成形体を得ることができる。具体的には、特許文献2では、当該フィルムが基材層と接着層との多層構造を有し、接着層を構成する樹脂の組成が、芳香族ビニル化合物単位等を含有する熱可塑性エラストマー100質量部に対してポリプロピレン系樹脂1~30質量部となる範囲であれば、得られるフィルムが良好な接着性を有し、加飾成形時の成形性及び加飾成形後の表面の外観品位に優れることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2013-202922号公報
【文献】国際公開第2018/021460号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1及び特許文献2に開示される技術では、加飾フィルム自体が、加飾対象の表面凹凸が加飾成形体表面に反映されることによる非平滑性の問題を解決するように構成されている。そのため、これらの加飾フィルムを構成する材料の制約が大きい。加飾フィルムが加飾層と接着層との一体化構造を基本としていることに鑑みると、このように構成材料が制約される加飾フィルムでは、要請される意匠性がますます多様化する昨今において市場要請に対応できないケースが増大する。
【0010】
また、特許文献1に開示される加飾フィルムは、加飾成形体表面の平滑性を得るための解決手段が検討されている。しかしながら、特許文献1では、加飾対象との接着性については何ら検討されていない。一方、特許文献2に開示される加飾フィルムでは、加飾成形体表面の平滑性と共に加飾対象との接着性も備えるための接着層の樹脂組成が開示されている。しかしながら、特許文献2に記載された接着層では、平滑性を備えるための熱可塑性エラストマーを支配的な量で配合することが重視されるため、得られる接着性は十分とは言えない。
【0011】
そこで、本発明は、加飾フィルムを用いた繊維強化プラスチックの加飾において、優れた接着性と加飾成形体表面の凹凸抑制とを両立できる新たな技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、物理的に独立させた熱溶着性フィルムを用い、加飾フィルムと繊維強化樹脂プラスチック又はそのプリプレグとの間に介在させて熱溶着することにより繊維強化プラスチックの加飾を行うという斬新な発想に至った。そして、熱溶着性フィルムを用いて繊維強化プラスチックの加飾を試みたところ、驚くべきことに、接着層が予め設けられた加飾フィルムを用いた場合に比べて加飾成形体表面の凹凸抑制効果がより一層向上することを見出した。さらに、加飾フィルムと繊維強化プラスチックとの接着性を検討したところ、一方側の表面及び他方側の表面がいずれも80重量%以上の酸変性ポリオレフィンを含有する特定の熱溶着性樹脂層で構成された熱溶着性フィルムを用いることで、飛躍的に向上した接着強度が得られるとともに、上記の凹凸抑制効果が一層向上することを見出した。本発明は、これらの知見に基づいて更に検討を重ねることにより完成したものである。
【0013】
即ち、本発明は、下記に掲げる態様の発明を提供する。
項1. 加飾フィルムで構成される第1部材と繊維強化プラスチックで構成される第2部材とを接合させるための熱溶着性フィルムであって、
一方側の表面及び他方側の表面が、いずれも、80重量%以上の酸変性ポリオレフィンを含有する熱溶着性樹脂層で構成されている、熱溶着性フィルム。
項2. 前記酸変性ポリオレフィンの酸変性度が、0.05重量%以上である、項1に記載の熱溶着性フィルム。
項3. 前記酸変性ポリオレフィンの酸変性度が、0.05~0.2重量%である、項1又は2に記載の熱溶着性フィルム。
項4. 前記酸変性ポリオレフィンの変性されるポリオレフィンが、ポリエチレン及びポリプロピレンからなる群より選択される、項1~3のいずれかに記載の熱溶着性フィルム。
項5. 前記熱溶着性樹脂層の厚さが20μm以上である、項1~4のいずれかに記載の熱溶着性フィルム。
項6. 前記繊維強化プラスチックの、前記熱溶着性フィルムと接合する面の表面粗さが25μm以上である、項1~5のいずれかに記載の熱溶着性フィルム。
項7. 前記繊維強化プラスチックにおける繊維が、平織クロス、綾織クロス、朱子織クロス、又は一方向クロスである、項1~6のいずれか記載の熱溶着性フィルム。
項8. 前記加飾フィルムが基材層と加飾層とを備え、前記加飾層が前記熱溶着性フィルムと接合する側に設けられ、且つ、塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体樹脂、塩素化ポリプロピレン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリブチラール樹脂、ポリスチレン樹脂、ニトリセルロース樹脂、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、及びアクリルウレタン樹脂からなる群より選択されるバインダ樹脂を含む、項1~7のいずれかに記載の熱溶着性フィルム。
項9. 前記基材層が、アクリル樹脂、ポリエステル、ポリオレフィン、ビニル系樹脂、アクリロニトリルブタジエンスチレン共重合体、ポリウレタン及びポリカーボネートからなる群より選択される、項8に記載の熱溶着性フィルム。
項10.前記熱溶着性樹脂層が単層フィルムである、項1~9のいずれかに記載の熱溶着性フィルム。
項11. 少なくとも、第1熱溶着性樹脂層と、支持層と、第2熱溶着性樹脂層とをこの順に備え、前記第1熱溶着性樹脂層の表面が前記一方側の表面であり、前記第2熱溶着性樹脂層の表面が前記他方側の表面である、項1~9のいずれかに記載の熱溶着性フィルム。
項12. 前記繊維強化プラスチックのマトリックス樹脂が熱硬化性樹脂である、項1~11のいずれかに記載の熱溶着性フィルム。
項13. 前記繊維強化プラスチックのマトリックス樹脂が熱可塑性樹脂である、項1~11のいずれかに記載の熱溶着性フィルム。
項14. 加飾フィルムで構成される第1部材と繊維強化プラスチックで構成される第2部材又は繊維強化プラスチックのプリプレグで構成される第2部材前駆体とが、項1~13のいずれかに記載の熱溶着性フィルムを介して積層した積層体。
項15. 加飾フィルムで構成される第1部材と繊維強化プラスチックのプリプレグで構成される第2部材前駆体とを、請求項1~12のいずれかに記載の熱溶着性フィルムを介して積層した積層体を加熱して、熱溶着と前記プリプレグの熱硬化と成形とを同時に行い、前記第1部材と前記第2部材とが接合された加飾成形体を得る、加飾成形体の製造方法。
項16. 加飾フィルムで構成される第1部材と繊維強化プラスチックで構成される第2部材とを、項1~11及び13のいずれかに記載の熱溶着性フィルムを介して積層した積層体を加熱して、熱溶着と熱成形とを同時に行い、前記第1部材と前記第2部材とが接合された加飾成形体を得る、加飾成形体の製造方法。
項17. 加飾フィルムで構成される第1部材と、繊維強化プラスチックで構成される第2部材とが、項1~13のいずれかに記載の熱溶着性フィルムを介して接合されている、加飾成形体。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、加飾フィルムを用いた繊維強化プラスチックの加飾において、優れた接着性と加飾成形体表面の凹凸抑制とを両立できる新たな技術が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本開示の熱溶着性フィルムの一例の略図的断面図である。
【
図2】本開示の熱溶着性フィルムの一例の略図的断面図である。
【
図3】本開示の熱溶着性フィルムの一例の略図的断面図である。
【
図4】本開示の熱溶着性フィルムの一例の略図的断面図である。
【
図5】本開示の熱溶着性フィルムの一例の略図的断面図である。
【
図6】本開示の加飾成形体の一例の略図的断面図である。
【
図7】シール強度の測定方法を説明するための模式図である。
【
図8】本開示の加飾成形体の製造方法の一例を説明するための模式図である。
【
図9】本開示の加飾成形体の製造方法の一例を説明するための模式図である。
【
図10】本開示の加飾成形体の製造方法によって製造された加飾成形体の一例の略図的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本開示の熱溶着性フィルムは、加飾フィルムで構成される第1部材と繊維強化プラスチックで構成される第2部材とを接合させるための熱溶着性フィルムであり、当該熱溶着性フィルムは、一方側の表面及び他方側の表面が、いずれも、80重量%以上の酸変性ポリオレフィンを含有する熱溶着性樹脂層で構成されていることを特徴としている。以下、本開示の熱溶着性フィルム、並びに、当該熱溶着性フィルムを用いた加飾成形体の製造方法及び加飾成形体について詳述する。
【0017】
なお、本明細書において、「~」で示される数値範囲は「以上」、「以下」を意味する。例えば、2~15mmとの表記は、2mm以上15mm以下を意味する。
【0018】
1.熱溶着性フィルム
本開示の熱溶着性フィルムは、加飾フィルムで構成される第1部材と繊維強化プラスチックで構成される第2部材とを接合させるための熱溶着性フィルムである。第1部材と第2部材との熱溶着による接合に用いる接着手段として、第1部材及び第2部材とは物理的に独立した熱溶着性フィルムを用いることにより、第1部材又は第2部材に予め設けられている熱溶着性層を用いるよりも、得られる加飾成形体表面の凹凸抑制効果を向上させることができる。このような凹凸抑制向上効果が得られるメカニズムとしては定かではないが、第1部材及び第2部材とは物理的に独立した本開示の熱溶着性フィルムが、第1部材又は第2部材に予め設けられている熱溶着性層と比べて製造方法の違い等により樹脂の結晶性等の構造が異なっており、この差が熱プレス時の溶融状態の差、ひいては凹凸抑制効果の差を生じさせていると考えられる。
【0019】
より具体的には、本開示の熱溶着性フィルムは、熱溶着性フィルムを、加飾フィルムで構成される第1部材と繊維強化プラスチックで構成される第2部材との間に配置し、熱溶着性フィルムを介して第1部材と第2部材とを熱溶着することによって、第1部材と第2部材とを接合する用途に使用される。なお、第1部材及び第2部材に加えて、さらに他の部材を、本開示の熱溶着性フィルムを用いて接合してもよい。すなわち、本開示の熱溶着性フィルムは、少なくとも加飾フィルムで構成される第1部材と繊維強化プラスチックで構成される第2部材とを熱溶着によって接合するための熱溶着性フィルムである。
【0020】
例えば、
図1の模式図に示されるように、本開示の熱溶着性フィルム10は、少なくとも、特定量の酸変性ポリオレフィンを含有する熱溶着性樹脂層1を備えるように構成されている。
図1で示される熱溶着性フィルム10は熱溶着性樹脂層1の単層フィルムとして構成されている。つまり、特定量の酸変性ポリオレフィンを含有する熱溶着性樹脂層1が、熱溶着性フィルム10の一方側の表面及び他方側の表面の両方を構成している。
【0021】
本開示の熱溶着性フィルム10は、特定量の酸変性ポリオレフィンを含有する熱溶着性樹脂層1が熱溶着性フィルム10の一方側の表面及び他方側の表面の両方を構成している限り、他の層が内在した複層構造を有してもよい。本開示の熱溶着性フィルム10が複層構造を有している場合、本開示の熱溶着性フィルム10の特定量の酸変性ポリオレフィンを含有する熱溶着性樹脂層1は、
図2から
図5の模式図に示されるように、少なくとも支持層3を介して、熱溶着性フィルム10の一方側の表面を構成する第1熱溶着性樹脂層1aと、熱溶着性フィルム10の他方側の表面を構成する第2熱溶着性樹脂層1bと、に分かれていてもよい。つまり、本開示の熱溶着性フィルム10は、少なくとも、特定量の酸変性ポリオレフィンを含有する第1熱溶着性樹脂層1aと、支持層3と、特定量の酸変性ポリオレフィンを含有する第2熱溶着性樹脂層1bとをこの順に備えた熱溶着性フィルムとして構成されていてもよい。
【0022】
本開示の熱溶着性フィルム10が複層構造を有する場合の積層構成の具体例としては、
図2に示されるような第1熱溶着性樹脂層1a/支持層3/第2熱溶着性樹脂層1bをこの順に備える積層構成;
図3に示されるような第1熱溶着性樹脂層1a/支持層3/熱可塑性樹脂層4/第2熱溶着性樹脂層1bをこの順に備える積層構成;
図4に示されるような第1熱溶着性樹脂層1a/熱可塑性樹脂層4/支持層3/第2熱溶着性樹脂層1bをこの順に備える積層構成;
図5に示されるような第1熱溶着性樹脂層1a/熱可塑性樹脂層4/支持層3/熱可塑性樹脂層4/第2熱溶着性樹脂層1bをこの順に備える積層構成などが挙げられる。なお、後述の通り、第1熱溶着性樹脂層1a及び第2熱溶着性樹脂層1bは、それぞれ、粘着成分を含んで粘着性を有していてもよい。また、熱可塑性樹脂層4は、第1熱溶着性樹脂層1a及び第2熱溶着性樹脂層1bと同様、熱溶着性を有していてもよい。本開示の熱溶着性フィルムには、これらの層とは異なる他の層がさらに積層されていてもよい。例えば、図示は省略するが、支持層3の片面または両面に、後述の接着促進剤層を設けてもよい。
【0023】
低コスト、製造工程の簡略化の観点から、本開示の熱溶着性フィルムは、
図1に示されるような単一の樹脂で構成される単層構造であることが好ましい。単層構造であることは、複層構造である場合に比べて特定量の酸変性ポリオレフィンを含有する熱溶着性樹脂層を相対的に厚く設けることが容易であり、これによって接着性及び加飾成形体表面の凹凸抑制効果をより向上させる点でも好ましい。一方で、複層構造の場合は、低コスト、製造工程の簡略化の観点から、熱溶着性フィルムを薄くすることが好ましく、本開示の熱溶着性フィルムは、
図2に示されるような第1熱溶着性樹脂層1a/支持層3/第2熱溶着性樹脂層1bをこの順に備える3層の積層構成を備えていることが好ましい。また、凹凸抑制効果を向上させる観点からは熱溶着性フィルムを厚くすることが好ましく、本開示の熱溶着性フィルムは、第1熱溶着性樹脂層1a、支持層3、及び第2熱溶着性樹脂層1bの各層間に熱可塑性樹脂層を備えていることが好ましい。具体的には、
図3に示されるような第1熱溶着性樹脂層1a/支持層3/熱可塑性樹脂層4/第2熱溶着性樹脂層1bをこの順に備える4層の積層構成;
図4に示されるような第1熱溶着性樹脂層1a/熱可塑性樹脂層4/支持層3/第2熱溶着性樹脂層1bをこの順に備える4層の積層構成;
図5に示されるような第1熱溶着性樹脂層1a/熱可塑性樹脂層4/支持層3/熱可塑性樹脂層4/第2熱溶着性樹脂層1bをこの順に備える5層の積層構成を備えていることが好ましい。また、接合後の加飾成形体において、第1熱溶着性樹脂層1aに粘着成分が含まれている場合、本開示の熱溶着性フィルムは、両面に粘着成分が含まれている5層の積層構成(具体的には、粘着成分を含む第1熱溶着性樹脂層1a/熱可塑性樹脂層4/支持層3/熱可塑性樹脂層4/粘着成分を含む第2熱溶着性樹脂層1bをこの順に備える積層構成)や、片面に粘着成分が含まれている4層の積層構成(具体的には、粘着成分を含む第1熱溶着性樹脂層1a/熱可塑性樹脂層4/支持層3/熱可塑性樹脂層4/粘着成分を含まない第2熱溶着性樹脂層1bをこの順に備える積層構成)を備えていてもよい。
【0024】
低コスト、層間剥離の可能性を抑える観点からは、本開示の熱溶着性フィルムの層数は少ない方が好ましく、好ましい下限としては1以上、好ましい上限としては5以下が挙げられる。
【0025】
また、本開示の熱溶着性フィルムの表面積としては、熱溶着させる部材のサイズに応じて適宜設定することができる。
【0026】
<シール強度>
本開示の熱溶着性フィルム10による、第1部材と第2部との接着性は、熱溶着性フィルム10と第1部材、第2部材それぞれとのシール強度によって評価される。具体的には、本開示の熱溶着性フィルム10は、第1部材、第2部材それぞれと熱溶着された際の、熱溶着性フィルムと部材との間のシール強度が、約10N/15mm以上であることが好ましく、約15N/15mm以上であることがより好ましく、約17N/15mm以上であることがさらに好ましく、約18N/15mm以上であることが一層好ましく、約20N/15mm以上であることが特に好ましい。さらに、熱溶着性フィルムとの間のシール強度は、第1部材及び第2部材のいずれの間においても約15N/15mm以上であることが好ましく、約17N/15mm以上であることがより好ましく、約18N/15mm以上であることがさらに好ましく、約20N/15mm以上であることが一層好ましい。なお、当該シール強度の好ましい上限は特にないが、通常、約100N/15mm以下である。すなわち、当該シール強度の範囲としては、好ましくは10~100N/15mm程度、より好ましくは15~100N/15mm程度、さらに好ましくは17~100N/15mm程度、一層好ましくは18~100N/15mm、特に好ましくは20~100N/15mm程度が挙げられる。
【0027】
第1部材と第2部材を熱溶着させる本開示の熱溶着性フィルム10において、これらの部材と熱溶着された際のシール強度が上記の値を有している場合、得られる加飾成形体において、本開示の熱溶着性フィルム10が第1部材と第2部材との間でより優れた接着性を発揮して好適な接合状態をもたらしているといえる。なお、繊維強化プラスチックである第2部材について、熱溶着によって接合される際の態様が未硬化樹脂を含む繊維強化プラスチックのプリプレグ(第2部材前駆体)である場合、シール強度は、当該未硬化樹脂が熱硬化された後の繊維強化プラスチック(第2部材)との間のシール強度を意味する。シール強度の測定方法の具体的な方法としては、以下の通りである。なお、本開示の熱溶着性フィルム10と、第1部材、第2部材とが熱溶着された際のシール強度は、この範囲に限定されるものではない。
【0028】
シール強度の測定においては、まず、熱溶着性フィルムを長さ方向(y方向)50mm×幅方向(x方向)25mmのサイズに切り出す。次に、熱溶着性フィルム10と、各部材50とを、7mmの奥行(y方向)でヒートシール(ヒートシール条件:温度190℃、面圧1MPa、加圧時間5秒)して試験サンプルを得る。
図7の模式図において、破線で囲まれた領域Sが、ヒートシールされた領域を示している。なお、試験サンプルの調製においては、まず、熱溶着性フィルム10と部材50(第1部材又は第2部材)との間に、ヒートシールすべき奥行7mmの領域以外の部分に離型シートを挟み、奥行7mmの領域のみでヒートシールされるようにする。次に、幅方向(x方向)15mmでのシール強度(N/15mm)が測定できるように、試験サンプルを
図7(a)に示されるように15mm幅に裁断する。引き続いて、引張試験機を用い、
図7(b)に示されるように、固定された部材50から、長さ方向(y方向)に熱溶着性フィルム10を剥離する。このとき、剥離速度は300mm/分とし、剥離されるまでの最大荷重をシール強度(N/15mm)とする。なお、試験サンプルの作製における部材50としては、繊維強化プラスチックの場合は厚さ4mm、加飾フィルムの場合は厚さ130μmのものを用いる。各シール強度は、それぞれ、同様にして3つの試験サンプルを作製して測定された平均値(n=3)とする。
【0029】
<表面粗さ>
加飾成形体表面の凹凸抑制性は、加飾成形体における加飾された表面の表面粗さによって評価される。加飾成形体表面の表面粗さは、JIS B0601:2013に準拠して、接触式粗さ計を用いて、カットオフ値1.6mm、測定長さ10mmにて測定される算術平均粗さRaである。接触式粗さ計としては、東京精密社製サーフコムNEXを用いることができる。
【0030】
(熱溶着性樹脂層1)
本開示において、熱溶着性樹脂層1は、本開示の熱溶着性フィルム10の一方側の表面及び他方側の表面の両方を構成している層である。つまり、本開示の熱溶着性フィルム10が熱溶着性樹脂層1の単層構造である場合は、単層である熱溶着性樹脂層1の一方側の表面及び他方側の表面がそれぞれ熱溶着性フィルム10の一方側の表面及び他方側の表面に該当する。
【0031】
熱溶着性樹脂層1には、80重量%以上の酸変性ポリオレフィンが含まれる。これによって、互いに異種部材である第1部材及び第2部材の両方に対して優れたシール強度を発揮し、第1部材と第2部材との優れた接着性が得られる。これに加えて、第1部材と第2部材とを熱溶着により接合して得られる加飾成形体表面の凹凸抑制効果も良好に得られる。熱溶着性樹脂層1を構成している樹脂が80重量%以上の酸変性ポリオレフィンを含むことは、例えば、赤外分光法、ガスクロマトグラフィー質量分析法などにより分析可能であり、分析方法は特に問わない。例えば、赤外分光法にて無水マレイン酸変性ポリオレフィンを測定すると、波数1760cm-1付近と波数1780cm-1付近に無水マレイン酸由来のピークが検出される。さらに、ピークの積分値に基づいて定量分析を行うことができる。
【0032】
また、酸変性ポリオレフィンとしては、具体的には、不飽和カルボン酸またはその無水物で変性されたポリオレフィンが挙げられる。酸変性に使用される不飽和カルボン酸またはその無水物としては、例えば、マレイン酸、アクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、無水マレイン酸、無水イタコン酸などが挙げられ、好ましくは無水マレイン酸が挙げられる。
【0033】
変性されるポリオレフィンとしては、特に制限されないが、加飾成形体における接着性及び/又は加飾成形体表面の凹凸抑制効果をより向上させる観点から、好ましくは、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレンなどのポリエチレン;ホモポリプロピレン、ポリプロピレンのブロックコポリマー(例えば、プロピレンとエチレンのブロックコポリマー)、ポリプロピレンのランダムコポリマー(例えば、プロピレンとエチレンのランダムコポリマー)などの結晶性または非晶性のポリプロピレン;エチレン-ブテン-プロピレンのターポリマーが挙げられる。これらのなかでも、変性されるポリオレフィンとしては、ポリエチレン及びポリプロピレンが好ましい。
【0034】
加飾成形体における接着性及び/又は加飾成形体表面の凹凸抑制効果をより向上させる観点から、熱溶着性樹脂層1に含まれる熱溶着性樹脂の中でも、特に、無水マレイン酸変性ポリプロピレン、無水マレイン酸変性ポリエチレンが好ましい。
【0035】
熱溶着性樹脂層1に含まれる酸変性ポリオレフィンは、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0036】
熱溶着性樹脂層1に含まれる酸変性ポリオレフィンの割合としては、80重量%以上である限り特に制限されない。加飾成形体における接着性をより向上させる観点から、酸変性ポリオレフィンの割合の下限としては、好ましくは約90質量%以上、より好ましくは約95質量%以上が挙げられ、上限としては、好ましくは約100質量%以下が挙げられる。すなわち酸変性ポリオレフィンの割合の具体的な範囲としては、80~100質量%程度であり、好ましくは、90~100質量%程度、95~100質量%程度が挙げられる。
【0037】
酸変性ポリオレフィンの酸変性度としては、下限として、例えば約0.05重量%以上が挙げられる。加飾成形体においてより優れた接着性を得る観点から、下限として、約0.07重量%以上であることが好ましく、約0.09重量%以上であることがより好ましく、約0.15重量%以上であることがさらに好ましい。なお、酸変性度の好ましい上限は特にないが、通常、約0.5重量%以下である。すなわち、酸変性度の具体的な範囲としては、例えば0.05~0.5重量%程度、好ましくは0.07~0.5重量%程度、より好ましくは0.09~0.5重量%程度、さらに好ましくは0.15~0.5重量%程度が挙げられる。
【0038】
本開示の熱溶着性フィルム10は、加飾成形体において優れた接着性を発揮するため、酸変性ポリオレフィンの酸変性度の上限が上述より低くても、加飾成形体における優れた接着性を効果的に得ることができる。このような観点から、酸変性ポリオレフィンの酸変性度の上限の好適な例として、約0.2重量%以下が挙げられる。これによって、加飾成形体製造時の成形性を向上させることができる。成形時によるゲル発生の抑制及び/又は厚みの均一化等による成形性をより向上させる観点から、0.18重量%以下であってもよい。すなわち、酸変性度の具体的な範囲としては、例えば0.05~0.2重量%程度、0.07~0.2重量%程度、0.09~0.2重量%程度、0.15~0.2重量%程度、0.05~0.18重量%程度、0.07~0.18重量%程度、0.09~0.18重量%程度、0.15~0.18重量%程度も挙げられる。
【0039】
酸変性度は、酸変性ポリオレフィン中で酸変性基が占める重量比率である。例えばマレイン酸変性ポリオレフィンの場合は、酸変性ポリオレフィン中でマレイン酸変性基が占める重量比率である。酸変性度は、1H-NMRの酸由来ピーク面積から定量される値から求める。具体的には、まず、ODCB-d4/C6D6(体積比4/1)溶媒で酸変性ポリオレフィンの1H-NMRと当該酸変性ポリオレフィンのメチルエステル化物の1H-NMRとを測定する。両1H-NMRの比較で、酸が誘導体化されたメチルエステル化物のピークを特定する。さらに、酸変性ポリオレフィン(メチルエステル化前)の1H-NMRから、メチルエステル化物の1H-NMRにおいてメチルエステル化物のピーク位置で重複している不純物由来ピークの面積を特定する。メチルエステル化物のピーク位置におけるピーク面積から不純物由来ピーク面積を差し引くことで、メチルエステル化物のピーク面積を求め、これに基づいて導出される酸変性基の質量とメチルエステル化前の酸変性ポリオレフィンの質量との比率から酸変性度を算出する。
【0040】
また、熱溶着性樹脂層1において、酸変性ポリオレフィンの酸変性度をa、酸変性ポリオレフィンの含有割合をb重量%とすると、それらの積(a×b/100)としては、例えば約0.04以上が挙げられる。加飾成形体においてより優れた接着性を得る観点から、上記の積の下限の好適な例として、好ましくは約0.08以上、より好ましくは約0.09以上、さらに好ましくは約0.15以上が挙げられる。上記の積の上限の例としては、例えば約0.5以下が挙げられ、より好ましい加工性を得る観点から、好ましくは約0.2以下、より好ましくは約0.18以下が挙げられる。すなわち、上記の積の具体的な範囲としては、0.04~0.5程度、0.08~0.5程度、0.09~0.5程度、0.15~0.5程度、0.04~0.2程度、0.08~0.2程度、0.09~0.2程度、0.15~0.2程度、0.04~0.18程度、0.08~0.18程度、0.09~0.18程度、0.15~0.18程度が挙げられる。
【0041】
熱溶着性樹脂層1は、粘着成分をさらに含有していてもよい。より具体的には、熱溶着性樹脂層1は、粘着成分を含有する熱溶着性樹脂組成物により構成されていてもよい。熱溶着性樹脂層1が粘着成分を含むことにより、熱溶着性フィルム10の熱溶着性樹脂層1を第1部材及び第2部材の表面に好適に仮着させることができ、熱溶着時の位置ずれなどを抑制して、より好適に加飾成形することが可能となる。なお、本開示において、仮着とは、仮に接着させることを意味し、一旦、仮に接着した後も剥がせる状態である。
【0042】
熱溶着性樹脂層1の厚さは、特に制限されないが、加飾成形体における接着性及び/又は加飾成形体表面の凹凸抑制効果をより向上させる観点から、下限としては、好ましくは約20μm以上、より好ましくは約40μm以上、さらに好ましくは約50μm以上、一層好ましくは約90μm以上、特に好ましくは約100μm以上が挙げられる。また、熱溶着性樹脂層1の厚さの上限としては特に限定されず、例えば約700μm以下が挙げられる。本開示の熱溶着性フィルム10は、加飾成形体表面の凹凸抑制効果に優れているため、熱溶着性樹脂層1が比較的薄くても加飾成形体表面の凹凸を効果的に抑制することができる。このような観点から、熱溶着性樹脂層1の厚さの上限の好適な例としては、好ましくは約500μm以下、より好ましくは300μm以下が挙げられる。すなわち、熱溶着性樹脂層1の厚さの具体的な範囲としては、好ましくは、20~700μm程度、40~700μm程度、50~700μm程度、90~700μm程度、100~700μm程度、20~500μm程度、40~500μm程度、50~500μm程度、90~500μm程度、100~500μm程度、20~300μm程度、40~300μm程度、50~300μm程度、90~300μm程度、100~300μm程度が挙げられる。
【0043】
(第1熱溶着性樹脂層1a及び第2熱溶着性樹脂1b)
本開示の熱溶着性フィルム10が複層構造を有する場合、熱溶着性樹脂層は、支持層3を介して第1熱溶着性樹脂層1aと第2熱溶着性樹脂層1bとに分かれている。第1熱溶着性樹脂層1aは熱溶着性フィルム10の一方側の表面を構成している層であり、第2熱溶着性樹脂層1bは熱溶着性フィルム10の他方側の表面を構成している層である。すなわちこの場合、第1熱溶着性樹脂層1aが本開示の熱溶着性フィルム10の一方側の最外層を構成し、第2熱溶着性樹脂層1bが本開示の熱溶着性フィルム10の他方側の最外層を構成している。
【0044】
第1熱溶着性樹脂層1aと第2熱溶着性樹脂層1bは、支持層3を介していることを除いて、上述の熱溶着性樹脂層1と同様である。また、第1熱溶着性樹脂層1a及び第2熱溶着性樹脂層1bにおける、酸変性ポリオレフィンの含有量、酸変性ポリオレフィンの種類、及び厚さなどは、互いに同一であってもよいし、異なっていてもよい
【0045】
第1熱溶着性樹脂層1a及び第2熱溶着性樹脂層1bそれぞれの厚さは、特に制限されないが、加飾成形体における接着性及び/又は加飾成形体表面の凹凸抑制効果をより向上させる観点から、下限としては、好ましくは約10μm以上、より好ましくは約15μm以上が挙げられる。また、熱溶着性樹脂層1の厚さの上限としては特に限定されず、例えば約300μm以下が挙げられる。本開示の熱溶着性フィルム10は、加飾成形体表面の凹凸抑制効果に優れているため、熱溶着性樹脂層1が比較的薄くても加飾成形体表面の凹凸を効果的に抑制することができる。このような観点から、熱溶着性樹脂層1の厚さの上限の好適な例としては、好ましくは約150μm以下、より好ましくは100μm以下、さらに好ましくは50μm以下が挙げられる。すなわち、熱溶着性樹脂層1の厚さの具体的な範囲としては、好ましくは、10~300μm程度、10~150μm程度、10~100μm程度、10~50μm程度、15~300μm程度、15~150μm程度、15~100μm程度、15~50μm程度が挙げられる。
【0046】
(支持層3)
本開示の熱溶着性フィルム10が支持層3を有する場合、支持層3は、第1熱溶着性樹脂層1aと第2熱溶着性樹脂層1bとの間に位置しており、熱溶着性フィルム10に優れた高引張弾性率を備えさせることができる。
【0047】
支持層3を構成する素材としては、高引張弾性率であれば、特に制限されず、例えば、ポリエステル、ポリイミド、ポリアミド、エポキシ樹脂、ポリビニルアルコール、ポリフェニレンサルファイド、ポリアリレート、ポリカーボネート、アクリル樹脂、フッ素樹脂、シリコーン樹脂、フェノール樹脂、ポリエーテルイミド、及びこれらの混合物や共重合物などが挙げられる。
【0048】
ポリエステルとしては、具体的には、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリエチレンイソフタレート、エチレンテレフタレートを繰り返し単位の主体とした共重合ポリエステル、ブチレンテレフタレートを繰り返し単位の主体とした共重合ポリエステルなどが挙げられる。また、エチレンテレフタレートを繰り返し単位の主体とした共重合ポリエステルとしては、具体的には、エチレンテレフタレートを繰り返し単位の主体としてエチレンイソフタレートと重合する共重合体ポリエステル(以下、ポリエチレン(テレフタレート/イソフタレート)にならって略す)、ポリエチレン(テレフタレート/イソフタレート)、ポリエチレン(テレフタレート/アジペート)、ポリエチレン(テレフタレート/ナトリウムスルホイソフタレート)、ポリエチレン(テレフタレート/ナトリウムイソフタレート)、ポリエチレン(テレフタレート/フェニル-ジカルボキシレート)、ポリエチレン(テレフタレート/デカンジカルボキシレート)などが挙げられる。また、ブチレンテレフタレートを繰り返し単位の主体とした共重合ポリエステルとしては、具体的には、ブチレンテレフタレートを繰り返し単位の主体としてブチレンイソフタレートと重合する共重合体ポリエステル(以下、ポリブチレン(テレフタレート/イソフタレート)にならって略す)、ポリブチレン(テレフタレート/アジペート)、ポリブチレン(テレフタレート/セバケート)、ポリブチレン(テレフタレート/デカンジカルボキシレート)、ポリブチレンナフタレートなどが挙げられる。
【0049】
また、ポリエステルとしては、上述の他、芳香族ジオール、芳香族ジカルボン酸、芳香族ヒドロキシカルボン酸からなる群より選ばれるモノマーを任意の組成比で含む重縮合物である芳香族ポリエステルも挙げられる。芳香族ポリエステルの中でも、主鎖中に脂肪族炭化水素を有しない全芳香族ポリエステルが好ましい。全芳香族ポリエステルの具体例として、p-ヒドロキシ安息香酸と6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸の共重合体、p-ヒドロキシ安息香酸とテレフタール酸と4,4‘-ジヒドロキシビスフェニルの共重合体等のポリアリレートが挙げられる。
【0050】
これらのポリエステルは、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0051】
熱溶着時の高温環境における熱収縮率を低減し、熱溶着性フィルム10をより高引張弾性率とする観点からは、これらの中でも支持層3の素材としては、好ましくは、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、全芳香族ポリエステル、ポリイミド、ポリフェニレンサルファイド、アラミド、及びビニロン(ポリビニルアルコール)が挙げられる。これらの樹脂は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0052】
支持層3の形状としては、特に制限されず、フィルム、繊維質シートなどが挙げられる。繊維質シートの具体的な形状としては、織布及び不織布が挙げられ、好ましくは不織布が挙げられる。熱溶着性フィルム10の引張弾性率をより高いものとして得る観点から、支持層3の形状としては、フィルムであることが好ましい。
【0053】
支持層3の形状がフィルムの場合、支持層3は、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリエチレンナフタレートフィルム、ポリイミドフィルムにより構成されていることが好ましく、ポリエチレンナフタレートフィルムにより構成されていることがより好ましい。
【0054】
支持層3の形状が繊維質シートの場合、当該繊維質シートの構成繊維としては、ポリフェニレンサルファイド繊維、アラミド繊維、ビニロン(ポリビニルアルコール)繊維、及び全芳香族ポリエステル繊維等が挙げられる。これらの繊維は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0055】
これらの繊維の中でも、全芳香族ポリエステル繊維は、全芳香族ポリエステルが、溶融状態で分子配向(溶融異方性)が見られ、これを紡糸してなる繊維(溶融異方性全芳香族ポリエステル繊維)がさらに分子配向が進むため、繊維同士が交絡しやすくなり機械的強度の強く低吸湿性であるだけでなく、分割、細分化されてできた隙間に樹脂が浸透しやすく樹脂含浸性に優れる不織布となるため、熱溶着性フィルム10の層間強度が極めて高い点で好ましい。
【0056】
支持層3の厚さは、特に制限されないが、熱溶着時の高温環境における熱収縮率を低減し、接合後の加飾成形体を、接合面に平行な剪断応力に対する強度に優れたものとして得る観点からは、下限としては、好ましくは約5μm以上、より好ましくは約10μm以上が挙げられる。支持層の厚さの上限としては特に限定されず、例えば約500μm以下が挙げられる。相対的に第1熱溶着性樹脂層1a、第2熱溶着性樹脂層1bの厚みを確保して、加飾成形体における接着性をより向上させる観点から、上限の好適な例として、好ましくは約200μm以下、より好ましくは約100μm以下、さらに好ましくは約50μm以下、一層好ましくは40μm以下、より一層好ましくは30μm以下、特に好ましくは20μm以下が挙げられる。すなわち、支持層3の厚さの具体的な範囲としては、5~200μm程度、10~200μm程度、5~100μm程度、10~100μm程度、5~50μm程度、10~50μm程度、5~40μm程度、10~40μm程度、5~30μm程度、10~30μm程度、5~20μm程度、10~20μm程度が挙げられる。
【0057】
(熱可塑性樹脂層4)
本開示において、熱可塑性樹脂層4は、必要に応じて、熱溶着性フィルム10に積層される層である。熱可塑性樹脂層4は、第1熱溶着性樹脂層1aと支持層3との間、支持層3と第2熱溶着性樹脂層1bとの間に積層されていることが好ましい。熱溶着性フィルム10には、熱可塑性樹脂層4が1層積層されていてもよいし、2層以上積層されていてもよい。熱溶着性フィルム10における熱可塑性樹脂層4の積層数としては、好ましくは0~2程度、より好ましくは0~1程度が挙げられる。
【0058】
熱可塑性樹脂層4を構成する熱可塑性樹脂としては、隣接する熱溶着性樹脂層1a、1bの構成樹脂と、樹脂の種類及び/又は樹脂組成が異なり且つ熱可塑性を備えていれば、特に制限されない。熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリオレフィン、ポリエステル、ポリアミド、アクリル樹脂、フッ素樹脂、シリコーン樹脂などが挙げられる。ポリオレフィンとしては、酸変性されていないポリオレフィン、及び酸変性ポリオレフィンのいずれであってもよい。これらの熱可塑性樹脂は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0059】
なお、本開示の熱溶着性フィルム10は、加飾成形体表面の凹凸抑制効果に優れているため、熱可塑性樹脂層4を含まなくても加飾成形体表面の凹凸を効果的に抑制することができる。このような観点から、本開示の熱溶着性フィルム10の好適な例として、熱可塑性樹脂層4を含まない構造のものが挙げられる。
【0060】
(他の層)
本開示の熱溶着性フィルム10が複層構造を有する場合、第1熱溶着性樹脂層1a、第2熱溶着性樹脂層1b、支持層3、及び熱可塑性樹脂層4とは異なる他の層がさらに積層されていてもよい。
【0061】
(添加剤)
本開示の熱溶着性フィルム10は、必要に応じて、滑剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤などの各種添加剤を含んでいてもよい。なお、添加剤としては、熱溶着性フィルム10が変色しない種類及び含有量などが当業者によって適宜選択される。
【0062】
(熱溶着性フィルムの製造方法)
本開示の熱溶着性フィルム10は、少なくとも熱溶着性樹脂層1を溶融押出法及び必要に応じ延伸法を用いて製造することができる。本開示の熱溶着性フィルム10が複層構造を有する場合は、少なくとも、第1熱溶着性樹脂層1aと、支持層3と、第2熱溶着性樹脂層1bと、必要に応じて設けられる熱可塑性樹脂層4とを積層することにより製造することができる。これらの層の積層方法としては、特に制限されず、例えば、サーマルラミネート法、サンドイッチラミネート法、押出しラミネート法などを用いて行うことができる。
【0063】
また、本開示の熱溶着性フィルム10が複層構造を有する場合において、支持層3が樹脂フィルムにより構成されている場合、支持層3の両面に接着促進剤を塗布する(すなわち、接着促進剤層を設ける)ことにより、隣接する層(例えば、第1熱溶着性樹脂層1a、第2熱溶着性樹脂層1b、熱可塑性樹脂層4など)との密着強度を向上させ積層構造を安定させることができる。また、支持層3の表面には、必要に応じて、コロナ放電処理、オゾン処理、プラズマ処理等の周知の易接着手段を講じることができる。
【0064】
接着促進剤層を形成する接着促進剤としては、イソシアネート系、ポリエチレンイミン系、ポリエステル系、ポリウレタン系、ポリブタジエン系等の周知の接着促進剤を用いることができる。また、接着促進剤層は、2液硬化型接着剤や1液硬化型接着剤などの公知の接着剤を用いて形成することもできる。
【0065】
接着促進剤層は、支持層3の片面または両面に設けることができる。接着促進剤層は、バーコート法、ロールコート法、グラビアコート法等の公知の塗布法で塗布・乾燥することにより形成することができる。
【0066】
(部材)
熱溶着性フィルム10によって接合される第1部材は加飾フィルムで構成され、第2部材は繊維強化プラスチックで構成される。
【0067】
[加飾フィルム]
第1部材を構成する加飾フィルムは、物品に意匠性を付与するために用いられるフィルムである。第1部材を構成する加飾フィルムとしては、基材層と加飾層とを含む限り特に限定されない。後述
図6に、第1部材30と第2部材40とが熱溶着性フィルム10の熱溶着により接合された加飾成形体20を示す通り、第1部材30である加飾フィルムは、基材層31と加飾層32とを含み、加飾フィルムにおいて、加飾層32は、熱溶着性フィルム10と接合する側に設けられる。つまり、第1部材30である加飾フィルムは、加飾層32側で、熱溶着性フィルム10を介して第2部材40に接合される。また、加飾フィルムには、基材層と加飾層との間に、離型層が設けられていてもよい。さらに、加飾フィルムには、加飾層上に接着層が設けられていてもよい。つまり、加飾フィルムの具体的な積層構造の例として、基材層/加飾層、基材層/加飾層/接着層、基材層/離型層/加飾層、基材層/離型層/加飾層/接着層が挙げられる。さらに、加飾フィルムには、上記以外の任意の層が更に積層されていてもよい。
【0068】
基材層は、加飾層を支持でき、成形性や耐熱性等を備えていることを限度として、その素材については特に制限されないが、好ましくは樹脂が挙げられる。
【0069】
基材層に使用される樹脂の種類については、特に制限されず、成形性や耐熱性等を勘案して適宜選択することができる。具体的には、基材層に使用される樹脂として、ポリ(メタ)アクリル酸メチル、ポリ(メタ)アクリル酸エチル等のアクリル樹脂;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル;ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン;ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルアルコール、エチレン・酢酸ビニル共重合体、エチレン・ビニルアルコール共重合体等のビニル系樹脂;アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体;ポリウレタン;ポリカーボネート等が挙げられる。これらの樹脂は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。これらの樹脂の中でも、好ましくはアクリル樹脂が挙げられる。また、基材層として、これらの樹脂のフィルムを使用することが好ましい。
【0070】
基材層は、単層であってもよいし、2層以上により構成されていてもよい。基材層が2層以上により構成されている場合、基材層は、樹脂フィルムを接着剤などで積層させた積層体であってもよいし、樹脂を共押出しして2層以上とした樹脂フィルムの積層体であってもよい。また、樹脂を共押出しして2層以上とした樹脂フィルムの積層体を、未延伸のまま基材層としてもよいし、一軸延伸または二軸延伸して基材層としてもよい。
【0071】
基材層は、本発明の効果を損なわない範囲で、必要に応じ、片面又は両面に酸化処理や凹凸化処理等の物理的又は化学的表面処理を施しておいてもよい。酸化処理としては、例えば、コロナ放電処理、クロム酸化処理、火炎処理、熱風処理、オゾン・紫外線処理法等が挙げられる。また、凹凸化処理としては、例えば、サンドブラスト法、溶剤処理法等が挙げられる。
【0072】
基材層の厚さとしては特に限定されないが、操作性、加工性、コスト等の観点から、例えば10~500μm程度、好ましくは30~300μm程度、より好ましくは50~200μm程度、さらに好ましくは70~150μm程度、一層好ましくは90~130μm程度が挙げられる。
【0073】
加飾層は、加飾シートに意匠性を付与する。加飾層は、絵柄層及び/又は隠蔽層により構成される。ここで、絵柄層は、模様や文字等とパターン状の絵柄を表現するために設けられる層であり、隠蔽層は、通常全面ベタ層であり成形樹脂等の着色等を隠蔽するために設けられる層である。隠蔽層は、絵柄層の絵柄を引き立てるために絵柄層の内側に設けてもよく、また隠蔽層単独で加飾層を形成してもよい。絵柄層の絵柄については、特に制限されないが、例えば、木目模様、大理石模様(例えばトラバーチン大理石模様)などの岩石の表面を模した石目模様、布目や布状の模様を模した布地模様、タイル貼模様、煉瓦積模様、これらを複合した寄木又はパッチワークなどの模様、記号、文字、及びこれらの組み合わせが挙げられる。
【0074】
加飾層は、インキ組成物で構成される層であり、着色剤及びバインダ樹脂を含む。
【0075】
着色剤としては、特に限定されないが、例えば、アルミニウム、クロム、ニッケル、錫、チタン、リン化鉄、銅、金、銀、真鍮等の金属、合金、又は金属化合物の鱗片状箔粉からなるメタリック顔料;マイカ状酸化鉄、二酸化チタン被覆雲母、二酸化チタン被覆オキシ塩化ビスマス、オキシ塩化ビスマス、二酸化チタン被覆タルク、魚鱗箔、着色二酸化チタン被覆雲母、塩基性炭酸鉛等の箔粉からなる真珠光沢(パール)顔料;アルミン酸ストロンチウム、アルミン酸カルシウム、アルミン酸バリウム、硫化亜鉛、硫化カルシウム等の蛍光顔料;二酸化チタン、亜鉛華、三酸化アンチモン等の白色無機顔料;亜鉛華、弁柄、朱、群青、コバルトブルー、チタン黄、黄鉛、カーボンブラック等の有色無機顔料;イソインドリノンイエロー、ハンザイエローA、キナクリドンレッド、パーマネントレッド4R、フタロシアニンブルー、インダスレンブルーRS、アニリンブラック等の有機顔料(染料も含む)等が挙げられる。これらの着色剤は、1種単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0076】
バインダ樹脂としては、特に限定されないが、軟化点が約90℃未満である樹脂が挙げられる。第1部材である加飾フィルムの加飾層が直接熱溶着性フィルム10と接するように第2部材と接合される場合においては、加飾成形体における接着性をより向上させる観点から、バインダ樹脂の好適な例として、好ましくは軟化点が約87℃以下の樹脂が挙げられる。バインダ樹脂の軟化点の下限としては特に限定されないが、加飾フィルム製造時における加飾層の塗工安定性の観点から、例えば約50℃以上、好ましくは約60℃以上が挙げられる。すなわち、バインダ樹脂の軟化点の具体的な範囲としては、約50℃以上約90℃未満、50℃~87℃程度、約60℃以上約90℃未満、60~87℃程度が挙げられる。ここで、上記軟化点はJIS K5601-2-2塗料成分試験方法-第2部の塗料成分の軟化点試験方法である環球法を用いて測定される。
【0077】
バインダ樹脂として使用される樹脂としては、特に限定されないが、例えば、塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体樹脂、塩素化ポリプロピレン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリブチラール樹脂、ポリスチレン樹脂、ニトリセルロース樹脂、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、アクリルウレタン樹脂等が挙げられる。これらのバインダ樹脂は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。これらのバインダ樹脂の中でも、好ましい軟化点の樹脂を選択することで加飾成形体における接着性と加飾フィルム製造時における加飾層の塗工安定性とをより一層良好に得る観点から、アクリルウレタン樹脂が好ましい。なお、本開示においてアクリルウレタン樹脂とは、アクリルポリオールを主剤としてイソシアネートを重合して得られるウレタン樹脂を指す。本開示においては、バインダ樹脂に使用される樹脂として例示されるウレタン樹脂及びアクリル樹脂には、アクリルウレタン樹脂を含まない。
【0078】
加飾層の厚みとしては特に限定されないが、例えば1~40μm程度、好ましくは3~30μm程度、より好ましくは3~20μm程度が挙げられる。
【0079】
加飾フィルムに接着層が積層されている場合、接着層を構成する樹脂としては特に限定されないが、例えば、アクリル樹脂、アクリル変性ポリオレフィン樹脂、塩素化ポリオレフィン樹脂、ポリ塩化ビニル、塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体、熱可塑性ウレタン樹脂、熱可塑性ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ゴム系樹脂、硬化性ウレタン樹脂、エポキシ樹脂等が挙げられる。これらの樹脂は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0080】
本開示の熱溶着性フィルム10は、加飾成形体表面の凹凸抑制効果に優れているため、加飾フィルムに接着層が積層されている場合、接着層が凹凸低減効果を向上させる多量のエラストマーを含んでいなくとも、加飾成形体表面の凹凸を効果的に抑制することができる。このような観点から、接着層が積層されている場合の加飾フィルムの好適な例として、接着層が、エラストマーの含有量が約50重量%未満、好ましくは約30重量%未満、より好ましくは約10重量%未満であるものが挙げられ、さらに好ましくは、エラストマーを含まないものが挙げられる。
【0081】
接着層の厚さについては特に限定されないが、例えば、1~100μm程度、好ましくは5~50μm程度が挙げられる。
【0082】
本開示の熱溶着性フィルム10は、加飾成形体における接着性と加飾成形体表面の凹凸抑制効果とに優れているため、加飾フィルムに接着層が積層されていなくても、加飾成形体における優れた接着性を効果的に得ることができ、加飾成形体表面の凹凸を効果的に抑制することができる。このような観点から、加飾フィルムの好適な例として、接着層を含まないものが挙げられる。
【0083】
なお、加飾フィルムが離型層を有する場合、離型層は、熱溶着性フィルムにより第2部材と一体成型された後に、加飾層との界面を引き剥がすことで加飾成形体から基材層(及び離型層)が剥離除去する目的で設けられる。
【0084】
[繊維強化プラスチック]
第2部材を構成する繊維強化プラスチックとしては、繊維をマトリックス樹脂に含ませることで強度を向上させた複合材料であればよい。繊維強化プラスチックのマトリックス樹脂としては、熱硬化性樹脂(熱硬化性樹脂の硬化体)及び熱可塑性樹脂が挙げられ、好ましくは熱硬化性樹脂(熱硬化性樹脂の硬化体)が挙げられる。
【0085】
繊維強化プラスチックのマトリックス樹脂として用いられる熱硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、シリコーン樹脂、ウレタン樹脂、ポリイミド樹脂等が挙げられ、好ましくは、エポキシ樹脂が挙げられる。これらの熱硬化性樹脂は、一種又は二種以上を組み合わせて用いることができる。繊維強化プラスチックのマトリックス樹脂として用いられる熱可塑性樹脂としては、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルイミド、ポリイミド、各種熱可塑性エラストマー等が挙げられる。これらの熱可塑性樹脂は、一種又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0086】
繊維強化プラスチックの繊維の形状としては特に限定されず、好ましくは繊維質シートが挙げられる。繊維質シートの具体的な形状としては、チョップドストランド、不織布及び織布が挙げられる。繊維としては、カーボン繊維及びガラス繊維などの無機繊維、及びアラミド繊維などの有機繊維が挙げられる。これらの中でも、接合後の加飾成形体を、接合面に平行な剪断応力に対する強度により優れたものとして得る観点から、カーボン繊維及びガラス繊維が好ましく挙げられ、カーボン繊維がより好ましく挙げられる。カーボン繊維としては特に限定されず、ポリアクリロニトリル(PAN)系、ピッチ系等のいずれを用いてもよく、またそれらが混合されているものを用いてもよい。
【0087】
本開示の熱溶着性フィルム10は、加飾成形体表面の凹凸抑制効果に優れているため、第2部材である繊維強化プラスチックの表面が比較的粗くても、加飾成形体表面の凹凸を効果的に抑制することができる。このような観点から、繊維の好適な形態の例としては、平織クロス、綾織クロス、朱子織クロス、及び一方向クロス等の、表面が粗い布帛が挙げられる。これらの繊維の形態の中でも、好ましくは平織クロスが挙げられる。
【0088】
繊維強化プラスチックの表面粗さRaとしては、例えば約25μm以上が挙げられる。本開示の熱溶着性フィルム10は、加飾成形体表面の凹凸抑制効果に優れているため、第2部材である繊維強化プラスチックの表面粗さRaが比較的大きくても、加飾成形体表面の凹凸を効果的に抑制することができる。このような観点から、繊維強化プラスチックの表面粗さRaの好適な例としては、好ましくは約28μm以上、より好ましくは約30μm以上、さらに好ましくは約33μm以上、一層好ましくは約35μm以上が挙げられる。当該表面粗さRaの上限は特にないが、凹凸抑制の観点から、例えば約100μm以下、好ましくは約60μm以下が挙げられる。すなわち、当該表面粗さRaの具体的な範囲としては、25~100μm程度、28~100μm程度、30~100μm程度、33~100μm程度、35~100μm程度、25~60μm程度、28~60μm程度、30~60μm程度、33~60μm程度、35~60μm程度が挙げられる。表面粗さRaは、JIS B0601:2013に準拠して、接触式粗さ計を用い、カットオフ値1.6mm、測定長さ10mmにて測定される算術平均粗さである。接触式粗さ計としては、東京精密社製サーフコムNEXを用いることができる。
【0089】
なお、第2部材である繊維強化プラスチックは、熱溶着性フィルム10との溶着時に、繊維強化プラスチックのプリプレグの態様である場合がある。繊維強化プラスチックと繊維強化プラスチックのプリプレグとはマトリックス樹脂が硬化されているか否かの違いはあるが、表面粗さRaは同じである。従って、熱溶着性フィルムを所定の表面粗さRaの繊維強化プラスチックとの溶着に用いる場合であって、且つ溶着時に、繊維強化プラスチックのプリプレグを用いる場合においては、繊維強化プラスチックのプリプレグとしては、当該所定の表面粗さRaを有するものを用いればよい。
【0090】
繊維強化プラスチックの表面には、繊維が露出していなくてもよいし、繊維が露出していてもよい。繊維を露出させる処理は、繊維強化プラスチックの表面粗さRaを調整する目的で行われることがある。具体的には、繊維を露出させる処理は、繊維が露出していない繊維強化プラスチックの表面のマトリックス樹脂を削去することにより行われる。本開示の熱溶着性フィルム10は、加飾成形体表面の凹凸抑制効果に優れているため、第2部材である繊維強化プラスチックの表面の繊維露出度が小さくても、加飾成形体表面の凹凸を効果的に抑制することができる。このような観点から、繊維強化プラスチックの表面に対する露出繊維が占める面積の比率としては、好ましくは約50%以下、より好ましくは約30%以下が挙げられる。さらに、加飾成形体におけるより優れた接着性を得る観点から、繊維強化プラスチックの表面に対する露出繊維が占める面積の比率としては、さらに好ましくは約10%以下が挙げられ、一層好ましくは約5%以下が挙げられ、最も好ましくは0%、つまり繊維強化プラスチックの表面において繊維が露出していないことが挙げられる。
【0091】
繊維強化プラスチックには、必要に応じて、滑剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、着色剤(顔料、染料など)などの各種添加剤を含んでいてもよい。
【0092】
部材の形状及び大きさとしては、特に制限されず、部材を接合することで製造すべき加飾成形体に応じた形状及び大きさとすればよい。本開示において、部材を接合して製造される加飾成形体は、例えば、自動車の内装部材や外装部材などの用途に好適に使用することができる。よって、部材の形状及び大きさとしては、これら用途に適したものを選択することができる。
【0093】
2.積層体、加飾成形体、及び加飾成形体の製造方法
本開示の積層体は、第1部材30と第2部材40又は第2部材40の前駆体とが、本開示の熱溶着性フィルム10を介して積層されてなることを特徴としている。本開示の熱溶着性フィルム10、第1部材30、及び第2部材40の詳細については、前述の通りである。また、第2部材40の前駆体は、後述
図8で第2部材前駆体40aとして説明する通り、第2部材40の熱硬化性樹脂が硬化する前の状態である繊維強化プラスチックのプリプレグをいう。
【0094】
本開示の積層体は、熱溶着性フィルム10を介して第1部材30と第2部材40又は第2部材40の前駆体が積層されていればよく、例えば積層される部材が2つの場合であれば、第1部材/熱溶着性フィルム/第2部材又は第2部材の前駆体が順に積層された態様であり、積層される部材が3つの場合であれば、第1部材/熱溶着性フィルム/第2部材又は第2部材の前駆体/熱溶着性フィルム/他の部材が順に積層された態様や、熱溶着性フィルムの一方の面に第1部材及び他の部材を並べて配置し、この熱溶着性フィルムの他方の面に第2部材又は第2部材の前駆体を配置することで、1枚の熱溶着性フィルムを介して3つの部材が積層された態様などが挙げられる。他の部材としては特に限定されず、当業者が必要な部材を適宜選択することができるが、例えば、制振及び/又は防音のためのウレタンフォーム、ポリ塩化ビニル、ポリ酢酸ビニルなどが挙げられる。また、熱溶着性フィルムが、第1部材と第2部材又は第2部材の前駆体との間の全領域に存在する態様で、これらの部材が積層されていてもよいし、熱溶着性フィルムが、第1部材と第2部材又は第2部材の前駆体との間の一部の領域に存在する態様で、これらの部材が積層されていてもよい。
【0095】
本開示の加飾成形体20は、例えば
図6の模式図に示されるように、第1部材30及び第2部材40が、本開示の熱溶着性フィルム10によって熱溶着され且つ成形された成形体であることを特徴としている。すなわち、本開示の加飾成形体20は、第1部材30及び第2部材40が本開示の熱溶着性フィルム10を介して接合状態且つ成形状態とされている。本開示の熱溶着性フィルム10、第1部材30、及び第2部材40の詳細については、前述の通りである。
【0096】
本開示の加飾成形体20は任意の形状に成形されている。例えば、
図6には、本開示の加飾成形体20が板状である態様を示している。また、
図10には、本開示の加飾成形体20が金型によって成形された態様を示している。
【0097】
本開示の加飾成形体20は、上述の積層体において、第1部材30及び第2部材40又は第2部材40の前駆体を、熱溶着性フィルム10を介して熱溶着させることにより製造することができる。この場合、具体的には、第1部材30及び第2部材40又は第2部材40の前駆体の間に熱溶着性フィルム10を配置した状態で、加熱・加圧して、熱溶着性フィルム10の表面部分又は全体を熱溶融させ、又はさらに第2部材40の前駆体を熱硬化する。その後、熱溶着性フィルム10を冷却固化することで、熱溶着性フィルム10を介して第1部材30及び第2部材40が接合された成形体20が得られる。
【0098】
第2部材40を構成する繊維強化プラスチックのマトリックス樹脂が熱硬化性樹脂である場合、熱溶着の際の部材の状態の一例としては、熱硬化性樹脂が硬化した状態が挙げられる。この場合、所定の形状に成形された加飾フィルムの第1部材と、所定の形状に成形された繊維強化プラスチック(熱硬化性樹脂が硬化した状態のもの)との間に熱溶着性フィルム10を挟み、加圧及び加熱によって熱溶着を行い、第1部材と第2部材とが接合された加飾成形体を得ることができる。
【0099】
第2部材40を構成する繊維強化プラスチックのマトリックス樹脂が熱硬化性樹脂である場合、熱溶着の際の部材の状態の他の例としては、熱硬化性樹脂が硬化する前の状態、つまり第2部材前駆体が挙げられる。この場合、加飾フィルムで構成される第1部材と繊維強化プラスチックのプリプレグで構成される第2部材前駆体とを、熱溶着性フィルム10を介して積層した積層体を加熱して、熱溶着とプリプレグの熱硬化と成形とを、同時に、つまり1つの工程で行うことができ、これによって、第1部材と第2部材とが接合された加飾成形体を得ることができる。より具体的には、例えば
図8~
図10の一連の模式図に示されるように、加飾フィルム(第1部材30)と繊維強化プラスチックのプリプレグ(第2部材前駆体40a)に、熱溶着性フィルム10を介して積層させた積層体とし(
図8)、金型60などでプレス又は加熱プレスして積層体を変形させるとともに、積層体を加熱することで繊維強化プラスチックのプリプレグ(第2部材前駆体40a)の熱硬化と熱溶着性フィルム10溶融による熱溶着とを行う(
図9)。金型60を冷却した後、
図10に示されるように、第1部材30と第2部材40(熱硬化性樹脂が硬化した状態のもの)とが熱溶着性フィルム10で接合された加飾成形体20が得られる。
【0100】
第2部材40を構成する繊維強化プラスチックのマトリックス樹脂が熱可塑性樹脂である場合は、加飾フィルムで構成される第1部材と繊維強化プラスチックで構成される第2部材とを熱溶着性フィルム10を介して積層した積層体を加熱して、熱溶着と熱成形とを、同時に、つまり1つの工程で行い、第1部材と第2部材とが接合された加飾成形体を得ることができる。より具体的には、繊維強化プラスチックのプリプレグ(第2部材前駆体40a)を繊維強化プラスチック(第2部材40)に変化させることを除いて、
図8~
図10の一連の模式図に示される工程と同様の工程を行うことができる。つまり、加飾フィルム(第1部材30)と繊維強化プラスチック(第2部材40)とを熱溶着性フィルム10を介して積層させた積層体を、金型などで加熱プレスして積層体を塑性変形させるとともに、積層体を加熱することで熱溶着性フィルム10溶融による熱溶着を行う。金型を冷却した後、第1部材30と第2部材40とが熱溶着性フィルム10で接合された加飾成形体20が得られる。
【0101】
熱溶着性フィルム10を介して、第1部材30及び第2部材40又は第2部材前駆体40aを熱溶着させる際の温度としては、熱溶着性フィルム10の表面部分又は全体が熱溶融する温度であれば特に制限されないが、好ましくは130~280℃程度、より好ましくは130~250℃程度が挙げられる。当該温度においては、さらに、繊維強化プラスチックにおけるマトリックス樹脂の硬化温度(熱硬化性樹脂の場合)又は軟化点(熱可塑性樹脂の場合)等が適宜考慮される。また、熱溶着させる際の圧力(面圧)としては、特に制限されないが、好ましくは0.1~5MPa程度、より好ましくは0.2~3MPa程度が挙げられる。なお、熱溶着させる際の加熱・加圧時間としては、通常、1~30秒程度である。
【0102】
なお、加飾フィルムとして離型層を有するものを用いる場合は、熱溶着性フィルムにより第2部材と一体成型された後に、離型層と加飾層との界面を引き剥がすことで加飾成形体から基材層(及び離型層)を剥離除去することができる。
【実施例】
【0103】
以下に実施例及び比較例を示して本発明を詳細に説明する。但し、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0104】
<熱溶着性フィルムの材料及び接合対象部材、並びにそれらの物性の測定>
表1~3に示す、熱溶着性フィルムを構成する酸変性ポリオレフィン(酸変性PO)の酸変性度、第1部材である加飾フィルムの加飾層に用いられるバインダ樹脂の軟化点、並びに、第2部材である繊維強化プラスチックの表面粗さ及び繊維露出度は、以下の方法により測定した値である。
【0105】
(酸変性度の測定)
まず、ODCB-d4/C6D6(体積比4/1)溶媒で、測定対象(酸変性ポリオレフィン)の1H-NMRと当該酸変性ポリオレフィンのメチルエステル化物の1H-NMRとを測定した。得られた両1H-NMRの比較で、酸が誘導体化されたメチルエステル化物のピークを特定した。さらに、酸変性ポリオレフィン(メチルエステル化前)の1H-NMRから、メチルエステル化物の1H-NMRにおいてメチルエステル化物のピーク位置で重複している不純物由来ピークの面積を特定した。メチルエステル化物のピーク位置におけるピーク面積から不純物由来ピーク面積を差し引くことで、メチルエステル化物のピーク面積を求め、これに基づいて導出される酸由来ピーク面積から酸変性度を算出した。なお、酸変性されていないポリオレフィンについては、酸変性度は0重量%とした。
【0106】
(軟化点の測定)
軟化点は、JIS K5601-2-2塗料成分試験方法-第2部の塗料成分の軟化点試験方法に規定される環球法を用いて測定した。
【0107】
(表面粗さの測定)
表面粗さRaは、JIS B0601:2013に準拠して、接触式粗さ計である東京精密社製サーフコムNEXを用い、カットオフ値1.6mm、測定長さ10mmにて、算術平均粗さとして測定した。
【0108】
(繊維露出度の測定)
繊繊維露出度は、表面の顕微鏡観察によって、繊維の露出部分が占める面積比率を算出することによって測定した。
【0109】
<熱溶着性フィルム>
(実施例1~3、6~15)
表1及び表2に示す無水マレイン酸変性ポリプロピレン樹脂(PPa)又は無水マレイン酸変性ポリエチレン樹脂(PEa)を表中の含有量で含む熱溶着性樹脂層からなり、且つ表中の厚みを有する単層フィルムを、熱溶着性フィルムとして用意した。なお、実施例1~11、13~15の熱溶着性フィルムにおける熱溶着性樹脂層は、100重量%の無水マレイン酸変性ポリプロピレン樹脂(PPa)又は無水マレイン酸変性ポリエチレン樹脂(PEa)で構成されており、実施例12の熱溶着性フィルムにおける熱溶着性樹脂層は、80重量%の無水マレイン酸変性ポリプロピレン樹脂(PPa)及び20重量%のポリプロピレン樹脂(PP)を含む樹脂組成物で構成されている。また、表1及び表2に示す熱溶着性フィルムを構成する各層の層厚は、熱溶着性フィルムにおける層厚を示す。
【0110】
(実施例4)
支持層として用意した全芳香族ポリエステル(ポリアリレート(PAR))不織布の一方の面に、熱溶着性樹脂として表1に示す無水マレイン酸変性ポリプロピレン樹脂(PPa)を、Tダイ押出機により表1に示す厚さで押出し塗布し、第1熱溶着性樹脂層を形成した。次に、支持層の他方の面に、同じ無水マレイン酸変性ポリプロピレン樹脂(PPa)を、Tダイ押出機により表1に示す厚さで押出し塗布し、第2熱溶着性樹脂層を形成し、第1熱溶着性樹脂層(PPa、厚さ20μm)/支持層(PAR、厚さ40μm)/第2熱溶着性樹脂層(PPa、厚さ20μm)がこの順に積層された積層フィルムを熱溶着性フィルムとして得た。
【0111】
(実施例5)
支持層として、ポリエチレンナフタレート(PEN)フィルムを用いたこと以外は、実施例4と同様にして、第1熱溶着性樹脂層(PPa、厚さ44μm)/支持層(PEN、厚さ12μm)/第2熱溶着性樹脂層(PPa、厚さ44μm)がこの順に積層された積層フィルムを熱溶着性フィルムとして得た。
【0112】
(比較例1、2)
比較例1、2では、熱溶着性樹脂を用いなかった。
【0113】
(比較例3、4)
表3に示すアクリロニトリルブタジエンスチレン樹脂(ABS)又は未延伸ポリプロピレンフィルム(CPP)を表中の含有量で含む熱溶着性樹脂層からなり、且つ表中の厚みを有する単層フィルムを、熱溶着性フィルムとして用意した。
【0114】
(比較例5)
表3に示す無水マレイン酸変性ポリプロピレン樹脂(PPa)を表中の含有量で含む熱溶着性樹脂層からなり、且つ表中の厚みを有する単層フィルムを、熱溶着性フィルムとして用意した。具体的には、比較例5の熱溶着性フィルムにおける熱溶着性樹脂層は、20重量%の無水マレイン酸変性ポリプロピレン樹脂(PPa)及び80重量%のポリプロピレン樹脂(PP)を含む樹脂組成物で構成されている。
【0115】
<加飾フィルム>
第1部材である加飾フィルムとしては、アクリル樹脂系フィルム(膜厚125μm)からなる基材層の一方の面に、表1~3に示す軟化点を有するバインダ樹脂を含むインキ組成物を塗工して加飾層(絵柄、層厚5μm)を形成した。具体的には、実施例13以外の実施例及び比較例で用いられた加飾フィルムの加飾層におけるバインダ樹脂は、軟化点85℃のアクリルウレタン樹脂であり、実施例13で用いられた加飾フィルムの加飾層におけるバインダ樹脂は、軟化点65℃の塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体樹脂である。
【0116】
また、実施例1~14及び比較例3~5では、基材層及び加飾層のみからなる加飾フィルムを用いた。実施例15及び比較例1、2では、加飾層上に、さらに表中の層厚で接着層を設けた加飾フィルムを用いた。具体的には、実施例15及び比較例2で用いられた加飾フィルムにおける接着層は、アクリロニトリルブタジエンスチレン樹脂(ABS)で構成されており、比較例1で用いた加飾フィルムにおける接着層は、エチレン-酢酸ビニル共重合樹脂(EVA)である。なお、実施例15及び比較例1、2で用いた加飾フィルムにおける接着層には、いずれも、エラストマーを含んでいない。
【0117】
<繊維強化プラスチック>
第2部材である繊維強化プラスチックとしては、表1~3に示す樹脂材料が繊維材料(平織クロス)に含浸されているものを用いた。なお、実施例13以外の実施例及び比較例で用いた繊維強化プラスチックとしては、炭素繊維に含浸されたエポキシ樹脂が既に完全硬化されているものを用いた。
【0118】
<加飾成形体の各物性の測定>
以下に記載する条件で試験サンプル及び加飾成形体を作成し、シール強度及び表面粗さを測定した。
【0119】
(シール強度の測定)
実施例及び比較例の熱溶着性フィルムのそれぞれの面と、表1~3に記載の加飾フィルム及び繊維強化プラスチックとのシール強度(N/15mm)を測定した。より具体的には、まず、各熱溶着性フィルムを長さ方向(y方向)50mm×幅方向(x方向)25mmのサイズに切り出した。次に、たとえば熱溶着性フィルムとして実施例の熱溶着性フィルムのシール強度を測定する場合、
図7に示されるように、実施例の各熱溶着性フィルム10と、各部材50とを、7mmの奥行(y方向)でヒートシール(ヒートシール条件:温度190℃、面圧1MPa、加圧時間5秒)して試験サンプルを得た。
図7の模式図において、破線で囲まれた領域Sが、ヒートシールされた領域を示している。なお、試験サンプルの調製においては、まず、熱溶着性フィルム10と部材50(第1部材である加飾フィルム又は第2部材である繊維強化プラスチック)との間に、ヒートシールすべき奥行7mmの領域以外の部分に離型シートを挟み、奥行7mmの領域のみでヒートシールされるようにした。次に、幅方向(x方向)15mmでのシール強度(N/15mm)が測定できるように、試験サンプルを
図7(a)に示されるように15mm幅に裁断した。引き続いて、引張試験機を用い、
図7(b)に示されるように、固定された部材50から、長さ方向(y方向)に熱溶着性フィルム10を剥離した。このとき、剥離速度は300mm/分とし、剥離されるまでの最大荷重をシール強度(N/15mm)とした。なお、試験サンプルの作製における部材50としては、繊維強化プラスチック部材の場合は厚さ4mm、加飾フィルムの場合は厚さ130μmのものを用いた。各シール強度は、それぞれ、同様にして3つの試験サンプルを作製して測定された平均値(n=3)である。結果を表1~3に示す。
【0120】
(表面粗さの測定)
表1~3に記載の加飾フィルム、熱溶着性フィルム、及び繊維強化プラスチックを、いずれも70mm×140mmの大きさに裁断し、加飾フィルム/熱溶着性フィルム/繊維強化プラスチックをこの順に重ね、温度130℃、面圧0.25MPa、加圧時間2時間の条件で熱プレスし、その後室温に冷却することで、加飾成形体を作製した。得られた積層体の加飾された表面について、接触式粗さ計(東京精密社製サーフコムNEX)を用い、JIS B0601:2013に準拠して、カットオフ値1.6mm、測定長さ10mmにて算術平均粗さRaを測定した。結果を表1~3に示す。
【0121】
【0122】
【0123】
【0124】
加飾フィルムに100μmのABS接着層を設け、熱溶着性フィルムを用いずに繊維強化プラスチックとの接合を行った比較例2と、加飾フィルムのABS接着層に代えて、物理的に独立したABSからなる100μmの熱溶着性フィルムを用いて加飾フィルムと繊維強化プラスチックとの接合を行った比較例3との対比から、加飾フィルム及び繊維強化プラスチックから物理的に独立した熱溶着性フィルムを用いることが、加飾成形体表面の凹凸抑制効果を向上させることが分かった。
【0125】
また、熱溶着性フィルムの材料としてABSを用いた比較例3と、熱溶着性フィルムの材料にポリオレフィン系樹脂を用いた比較例4、5及び実施例1~15との対比から、熱溶着性フィルムの材料としてポリオレフィン系樹脂を用いることが、加飾成形体表面の凹凸抑制効果をさらに向上させることが分かった。さらに、熱溶着性フィルムの材料として酸変性ポリオレフィンを含まないポリオレフィン系樹脂を用いた比較例4と、酸変性ポリオレフィンを含むポリオレフィン系樹脂を用いた比較例5及び実施例1~15との対比から、酸変性ポリオレフィンを含むポリオレフィン系樹脂を用いることが、加飾成形体表面の凹凸抑制効果をさらに向上させることが分かった。
【0126】
さらに、酸変性ポリオレフィンを80重量%未満の含有量で含むポリオレフィン系樹脂を用いた比較例5と、酸変性ポリオレフィンを80重量%以上の含有量で含むポリオレフィン系樹脂を用いた実施例1~15との対比から、酸変性ポリオレフィンを80重量%以上の含有量で含むポリオレフィン系樹脂を用いることで、加飾成形体表面の凹凸抑制効果の向上に加えて、得られる加飾成形体における優れた接着性が得られることが示された。
【0127】
つまり、一方側の表面及び他方側の表面がいずれも80重量%以上の酸変性ポリオレフィンを含有する熱溶着性樹脂層で構成されている熱溶着性フィルム(実施例1~15)は、加飾フィルムと繊維強化プラスチックとを接合させるための熱溶着性フィルムとして用いることで、接着性及び加飾成形体表面の凹凸抑制性に優れた加飾成形体が得られることが示された。
【符号の説明】
【0128】
1 熱溶着性樹脂層
1a 第1熱溶着性樹脂層
1b 第2熱溶着性樹脂層
3 支持層
4 熱可塑性樹脂層
10 熱溶着性フィルム
20 加飾成形体
30 第1部材(加飾フィルム)
31 基材層
32 加飾層
40 第2部材(繊維強化プラスチック)
40a 第2部材前駆体(繊維強化プラスチックプリプレグ)
50 部材(第1部材又は第2部材)
60 金型
S ヒートシールされた領域