(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-18
(45)【発行日】2023-12-26
(54)【発明の名称】インク吐出装置、インク乾燥方法、及び記録用水性インク
(51)【国際特許分類】
B41M 5/00 20060101AFI20231219BHJP
C09D 11/322 20140101ALI20231219BHJP
B41J 2/01 20060101ALI20231219BHJP
【FI】
B41M5/00 100
C09D11/322
B41J2/01 125
B41J2/01 401
B41J2/01 501
B41M5/00 120
(21)【出願番号】P 2019128277
(22)【出願日】2019-07-10
【審査請求日】2022-06-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000005267
【氏名又は名称】ブラザー工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100117101
【氏名又は名称】西木 信夫
(74)【代理人】
【識別番号】100120318
【氏名又は名称】松田 朋浩
(72)【発明者】
【氏名】田中 裕幸
【審査官】中山 千尋
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-159037(JP,A)
【文献】特開2019-059878(JP,A)
【文献】特開2018-035295(JP,A)
【文献】特開2012-201691(JP,A)
【文献】特開2015-120918(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41M 5/00
C09D 11/322
B41J 2/01
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
筐体と、
上記筐体内において、搬送方向に記録媒体を搬送する搬送機構と、
上記筐体内において、上記搬送機構により搬送される記録媒体に記録用水性インクを吐出するヘッドと、
上記筐体内において、上記ヘッドより上記搬送方向の下流に位置しており、上記記録媒体又は上記記録媒体に付着した上記記録用水性インクを加熱するヒータと、
コントローラと、を具備しており、
上記コントローラは、上記ヒータと対向する位置において、上記記録媒体の単位面積当たりに上記ヒータから受ける積算熱量が0.7J/cm
2以上2.9J/cm
2以下の範囲内となるように、上記搬送機構の搬送速度を制御し
、上記ヒータを通過した上記記録媒体を更に加熱することなく上記筐体内から排出するように上記搬送機構を制御しており、
上記記録用水性インクは、樹脂分散顔料と、樹脂微粒子と、水溶性有機溶剤と、水と、を含み、
上記水溶性有機溶剤は、
20℃における飽和蒸気圧が0.03hPa以上2.20hPa以下の範囲内の水溶性有機溶剤を、上記記録用水性インク全量に対して10質量%以上40質量%以下の範囲内で含み、
20℃における飽和蒸気圧が2.20hPaより大きな水溶性有機溶剤を、上記記録用水性インク全量に対して3質量%以上含まず、且つ、
20℃における飽和蒸気圧が0.03hPaより小さな水溶性有機溶剤を、上記記録用水性インク全量に対して10質量%以上含ま
ず、
上記積算熱量(J/cm
2
)は、上記ヒータにおける単位面積あたりの電力密度(W/cm
2
)と照射時間(秒)との積であるインク吐出装置。
【請求項2】
上記水溶性有機溶剤は、20℃における飽和蒸気圧が2.20hPaより大きな水溶性有機溶剤を含まず、且つ、20℃における飽和蒸気圧が0.03hPaより小さな水溶性有機溶剤を含まない請求項1に記載のインク吐出装置。
【請求項3】
上記コントローラは、上記積算熱量が1.1J/cm
2以上2.9J/cm
2以下の範囲内となるように、上記搬送機構の搬送速度を制御する請求項1又は2に記載のインク吐出装置。
【請求項4】
上記樹脂微粒子のガラス転移温度は、30℃以上80℃以下の範囲内である請求項1から3のいずれかに記載のインク吐出装置。
【請求項5】
上記記録用水性インクは、上記記録用水性インク全量に対して上記樹脂微粒子を4.0質量%以上10.0質量%以下含有する請求項1から4のいずれかに記載のインク吐出装置。
【請求項6】
上記記録用水性インクは、上記記録用水性インク全量に対して上記樹脂分散顔料を2.0質量%以上5.0質量%以下含有する請求項1から5のいずれかに記載のインク吐出装置。
【請求項7】
上記ヒータの消費電力が600W以下である請求項1から6のいずれかに記載のインク吐出装置。
【請求項8】
上記ヒータの、上記記録媒体の搬送方向と直交する幅方向に沿った照射長さが、21cm以下である請求項1から7のいずれかに記載のインク吐出装置。
【請求項9】
上記コントローラは、上記搬送機構の搬送速度を、15cm/秒以上100cm/秒以下の範囲内に制御する請求項1から8のいずれかに記載のインク吐出装置。
【請求項10】
記録媒体に付着した記録用水性インクを、当該記録媒体に定着させるためにヒータにより加熱
した後、さらに加熱することなく筐体から排出するインク加熱方法であって、
上記ヒータと対向する位置において、上記記録媒体の単位面積当たりに上記ヒータから受ける積算熱量が0.7J/cm
2以上2.9J/cm
2以下の範囲内となるように上記記録媒体を搬送し、
上記記録用水性インクは、樹脂分散顔料と、樹脂微粒子と、水溶性有機溶剤と、水と、を含み、
上記水溶性有機溶剤は、
20℃における飽和蒸気圧が0.03hPa以上2.20hPa以下の範囲内の水溶性有機溶剤を、上記記録用水性インク全量に対して10質量%以上40質量%以下の範囲内で含み、
20℃における飽和蒸気圧が2.20hPaより大きな水溶性有機溶剤を、上記記録用水性インク全量に対して3質量%以上含まず、且つ、
20℃における飽和蒸気圧が0.03hPaより小さな水溶性有機溶剤を、上記記録用水性インク全量に対して10質量%以上含ま
ず、
上記積算熱量(J/cm
2
)は、上記ヒータにおける単位面積あたりの電力密度(W/cm
2
)と照射時間(秒)との積であるインク加熱方法。
【請求項11】
上記ヒータと対向する位置における上記記録媒体の搬送速度は、15cm/秒以上100cm/秒以下の範囲内である請求項10に記載のインク加熱方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、記録媒体に吐出されて付着したインクを定着させるために、ヒータにより加熱する機構を備えたインク吐出装置、記録媒体に吐出されて付着したインクを定着させるためのインク乾燥方法、及び記録媒体に吐出されて付着したインクが、ヒータにより加熱されて記録媒体に定着するに適した記録用水性インクに関する。
【背景技術】
【0002】
印刷ヘッドのノズルから吐出されたインクが付着した記録媒体が、ヒータにより加熱されることによって、インクが記録媒体に定着する印刷装置が知られている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
低吸水性又は非吸水性の記録媒体に、顔料を含む水性インクを用いた印刷を行う場合、印刷された記録媒体において、記録媒体の印刷面が擦られるなどしたときにインクが剥がれてしまうことは問題である。したがって、ヒータによる加熱等によって、インクが記録媒体に確実に定着されることが望ましい。
【0005】
また、ヒータによる記録媒体の加熱を迅速に行うためにヒータを大型化すると、ヒータ自体が占有する空間の他、排熱のための空間を確保するために、装置が大型化するという問題がある。また、乾燥しやすいインクは、印刷ヘッドのノズル近傍において乾燥により固化しやすい。そのように固化したインクは再分散し難いので、印刷ヘッドの吐出安定性を損ないやすい。これを改善するためには、湿潤作用を有する水溶性有機溶剤をインクに添加することが効果的であるが、水溶性有機溶剤の飽和蒸気圧が小さいと蒸発速度が遅く、記録媒体上でのインクが未乾燥状態となり、記録媒体上でのインクの定着が阻害され、耐擦性が不十分となることがある。他方、小型装置の場合、必要とされる機械強度が低いこと、本体軽量化の観点から金属ではなく樹脂部材を用いることが多いが、水性インクに含まれる水溶性有機溶剤の飽和蒸気圧が大きければ、装置の内部空間において気化した水溶性有機溶剤によって、ゴムや樹脂エラストマーを素材とする部品の劣化や強度の低下などが生じるおそれがある。また、排気により気化した水溶性有機溶剤濃度を低下させる場合、排気のための空間を確保する必要があり、装置が大型化するという問題がある。
【0006】
本発明は、前述された事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、装置の大型化を抑制しつつ、印刷後の記録媒体の耐擦性に優れ、インクの再分散性に優れ、且つ装置の耐久性に影響を与え難い手段を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るインク吐出装置は、搬送方向に記録媒体を搬送する搬送機構と、上記搬送機構により搬送される記録媒体に記録用水性インクを吐出するヘッドと、上記ヘッドより上記搬送方向の下流に位置しており、上記記録媒体又は上記記録媒体に付着した上記記録用水性インクを加熱するヒータと、コントローラと、を具備する。上記コントローラは、上記ヒータと対向する位置において、上記記録媒体の単位面積当たりに上記ヒータから受ける積算熱量が0.7J/cm2以上2.9J/cm2以下の範囲内となるように、上記搬送機構の搬送速度を制御する。上記記録用水性インクは、樹脂分散顔料と、樹脂微粒子と、水溶性有機溶剤と、水と、を含む。上記水溶性有機溶剤は、20℃における飽和蒸気圧が0.03hPa以上2.20hPa以下の範囲内の水溶性有機溶剤を、上記記録用水性インク全量に対して10質量%以上40質量%以下の範囲内で含み、20℃における飽和蒸気圧が2.20hPaより大きな水溶性有機溶剤を、上記記録用水性インク全量に対して3質量%以上含まず、且つ、20℃における飽和蒸気圧が0.03hPaより小さな水溶性有機溶剤を、上記記録用水性インク全量に対して10質量%以上含まない。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、装置の大型化が抑制されつつ、印刷後の記録媒体の耐擦性が優れ、インクの再分散性に優れ、且つ装置の耐久性に影響を与え難い。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図2】
図2は、印刷装置10の内部構成を示す模式図である。
【
図3】
図3は、ヒータ35を上方から視た模式図である。
【
図4】
図4は、コントローラ74を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態に係る印刷装置10について説明する。なお、以下に説明される実施形態は本発明の一例にすぎず、本発明の要旨を変更しない範囲で、実施形態を適宜変更できることは言うまでもない。また、以下の説明では、矢印の起点から終点に向かう進みが向きと表現され、矢印の起点と終点とを結ぶ線上の往来が方向と表現される。また、以下の説明においては、印刷装置10が使用可能に設置された状態(
図1の状態)を基準として上下方向7が定義され、排出口13が設けられている側を手前側(前面)として前後方向8が定義され、印刷装置10を手前側(前面)から視て左右方向9が定義される。
【0011】
[印刷装置10の外観構成]
図1に示されるように、プリンタ10は、筐体20と、筐体20に保持されるパネルユニット21、カバー22、給紙トレイ23、及び排紙トレイ24と、を備える。プリンタ10は、シート6(
図2参照)に画像を記録する。
【0012】
シート6は、記録媒体の一例である。シート6は、所定の寸法にカットされた記録媒体であってもよいし、シートが円筒形状に巻かれたロールから引き出されたものであってもよいし、ファンフォールドタイプのものであってもよい。また、シート6は、普通紙であってもよいし、コート紙であってもよい。「コート紙」とは、例えば、上級印刷紙、中級印刷紙等のパルプを構成要素とした普通紙に、平滑性、白色度、光沢度等の向上を目的として、コート剤を塗布したものをいい、具体的には、上質コート紙、中質コート紙等があげられる。印刷装置10は、コート紙へのインクジェット記録に好適に利用可能であるが、これに限定されるものではなく、例えば、普通紙、光沢紙、マット紙、合成紙、板紙、ダンボール、フィルム等のコート紙以外の記録媒体へのインクジェット記録にも利用可能である。また、シート6は、粘着剤と剥離紙とが組み合わされたタック紙であってもよい。
【0013】
パネルユニット21は、タッチパネル及び複数の操作スイッチを備える。パネルユニット21は、ユーザの操作を受け付ける。
【0014】
図2に示されるように、給紙トレイ23は、筐体20の下部に位置する。排紙トレイ24は、筐体20の下部であって、給紙トレイ23の上に位置する。カバー22は、筐体20の前面の右部に位置する。カバー22は、筐体20に対して回動可能である。カバー22が開かれると、インクを貯留するタンク70にアクセス可能である。
【0015】
なお、本実施形態では、1つのタンク70のみが示されているが、タンク70は、ブラックなどの1色のインクを貯留するものに限定されず、例えば、ブラック、イエロー、シアン、マゼンタの4色のインクをそれぞれ貯留する4つの貯留室を有するものであってもよい。
【0016】
図2に示されるように、筐体20は、印刷エンジン50を内部に保持する。印刷エンジン50は、給紙ローラ25、搬送ローラ26、排出ローラ27、プラテン28、及び記録ユニット29を主に備える。給紙ローラ25は、給紙トレイ23に載置されたシート6に当接可能に、筐体20内に設けられた不図示のフレームに保持されている。給紙ローラ25は、不図示のモータによって回転される。回転する給紙ローラ25は、シート6を搬送路37に送り出す。搬送路37は、不図示のガイド部材によって区画された空間である。図示例では、搬送路37は、給紙トレイ23の後端から給紙トレイ23の上方となる位置まで湾曲して延びており、次いで、前方に向かって延びている。給紙ローラ25、搬送ローラ26、及び排出ローラ27は、搬送機構の一例である。
【0017】
搬送ローラ26は、シート6の搬送向きにおける給紙トレイ23の下流に位置している。搬送ローラ26は、搬送ローラ26は、従動ローラ35とともに、ローラ対を構成している。搬送ローラ26は、不図示のモータによって回転される。回転する搬送ローラ26及び従動ローラ35は、給紙ローラ25によって搬送路37に送り出されたシート6を挟持しつつ搬送する。排出ローラ27は、シート6の搬送向きにおける搬送ローラ26の下流に位置している。排出ローラ27は、従動ローラ36とともに、ローラ対を構成している。排出ローラ27は、不図示のモータによって回転される。回転する排出ローラ27及び従動ローラ36は、シート6を挟持しつつ搬送し、排紙トレイ24に排出する。プラテン28は、前後方向8における搬送ローラ26と排出ローラ27との間であって、シート6の搬送向きにおける搬送ローラ26の下流、かつ排出ローラ27の上流に位置している。
【0018】
搬送ローラ26には、ロータリーエンコーダ96が設けられている。ロータリーエンコーダ96は、速度センサの一例である。ロータリーエンコーダ96は、エンコーダディスク97と、光センサ98とを有する。エンコーダディスク97は、搬送ローラ26と同軸に設けられており、搬送ローラ26と共に回転する。エンコーダディスク97には、透過率が異なる2種のインデックスが周方向の全周に交互に複数が並んでいる。光センサ98は、エンコーダディスク97の2種のインデックスを光学的に読み取り可能である。回転するエンコーダディスク97の2種のインデックスを光センサが読み取ることによって、光センサ98から2種の信号がパルス形状に出力される。光センサ98の出力信号は、後述するコントローラが受信して、搬送ローラ26の回転速度が判定される。
【0019】
記録ユニット29は、印刷ヘッド34及びヒータ35を有する。印刷ヘッド34は、搬送ローラ26と排出ローラ27との間に位置する。印刷ヘッド34は、いわゆるシリアルヘッドであってもよいし、いわゆるラインヘッドであってもよい。印刷ヘッド34は、インクが流通する流路を内部に有する。当該流路は、チューブ31によって、タンク70と連通されている。すなわち、チューブ31を通じて、タンク70が貯留するインクが印刷ヘッド34に供給される。
【0020】
印刷ヘッド24の下方に、プラテン28が位置する。プラテン28は、その上面がシート6の支持面である。各図には現れていないが、プラテン28の上面には、吸引圧が生ずる開口が形成されている。プラテン28の上面に生じた吸引圧によって、シート6がプラテン28の上面に密接する。
【0021】
図2及び
図3に示されるように、搬送路37の上方において、印刷ヘッド24の下流であって、且つ排出ローラ27の上流に、ヒータ35が位置する。ヒータ35は、所謂ハロゲンヒータである。
【0022】
図2に示されるように、ヒータ35は、印刷ヘッド24より搬送向きの下流、すなわち前方に位置する。ヒータ35は、赤外線を放射する発熱体であるハロゲンランプ40、反射板41、及び筐体42を有する。筐体42は、概ね直方体形状であり、下向きに開口する。筐体42の下壁に、開口43が位置する。開口43を通じて、ハロゲンランプ40や反射板41からの熱が外部へ放射されたり、遮断されたりする。
【0023】
筐体42の内部空間に、ハロゲンランプ40が位置する。ハロゲンランプ40は、細長な円筒形状であり、左右方向9が長手方向である。筐体42の内部空間において、ハロゲンランプ40の上方に、反射板41が位置する。反射板41は、セラミック膜などがコーティングされた金属板であり、開口43付近を中心軸とする円弧形状に湾曲している。なお、反射板41に代えて、セラミック膜などがコーティングされたハロゲンランプ40が用いられてもよい。
【0024】
ヒータ35は、開口43の下方を通過するシート6、またはシート6に付着したインクの少なくとも一方を加熱する。本実施形態では、ヒータ35は、シート6及びインクの双方を加熱する。インクが加熱されることによって、樹脂微粒子がガラス転移し、ヒータ35の下方を通過したシート6が冷えることによって、ガラス転移した樹脂が硬化する。これにより、シート6にインクが定着される。
【0025】
ヒータ35の消費電力は、小型化の要請からは、600W以下であることが好ましく、更に好ましくは400W以下であり、特に好ましくは200W以下である。ヒータ35の消費電力は、ヒータ35からシートの単位面積当たりに照射されるエネルギー(照射エネルギー(β))に関係する。照射エネルギー(β)は、消費電力に応じてヒータ35が駆動され、ヒータ35の下方を移動するシートが一定の搬送速度で移動するときに、シートの単位面積(cm2)に付与される熱量(J)である。
【0026】
図3に示されるように、ヒータ35の左右方向9(幅方向の一例)に沿った照射長さL、すなわちハロゲンランプ40と開口43とが重複する範囲であって、かつ左右方向9に沿った長さLは、小型化の要請からは、25cm以下であることが好ましくは、更に好ましくは21cm以下であり、特に好ましくは15cm以下である。
【0027】
なお、ヒータ35は、シート又はインクを加熱可能なものであれば、ハロゲンヒータに限らない。例えば、ヒータ35は、カーボンヒータ、ドライヤー、オーブン、ベルトコンベアオーブン等であってもよい。
【0028】
図4に示されるように、筐体14の内部空間には、コントローラ74及び電源回路(不図示)が配置されている。コントローラ74は、CPU131、ROM132、RAM133、EEPROM134、ASIC135などがバス137によってデータ通信可能に接続されたものである。CPU131がROM132に記憶されたプログラムを実行し、ASIC135が設定された特定の機能を果たすことによって、印刷装置10の動作が制御される。
【0029】
なお、コントローラ74は、CPU131のみによって各種処理が実行されるものであってもよいし、ASIC135のみによって各種処理が実行されるものであってもよい。また、コントローラ74に複数のCPU131が実装されており、コントローラ74は、複数のCPU131が各処理を分担して実行するものであってもよい。また、コントローラ74に複数のASIC135が実装されており、コントローラ74は、複数のASIC135が各処理を分担して実行するものであってもよい。
【0030】
電源回路は、大容量コンデンサなどによって構成された回路である。本実施形態において、電源回路は、紙フェノールなどで構成された基板に実装されている。電源回路は、印刷装置10が備える各構成要素への給電のための電力の変換などを行う回路である。
【0031】
例えば、電源回路から給送用モータ102及び搬送用モータ101へ電力が供給され、各モータの回転が、給送ローラ25、搬送ローラ26、排出ローラ27へ伝達される。また、電源回路から、ヒータ35へ電力が供給される。
【0032】
コントローラは、ヒータ35と対向する位置において、シート6の単位面積当たりにヒータ35から受ける積算熱量が0.7J/cm2以上2.9J/cm2以下の範囲内となるように、更に好ましくは、1.1J/cm2以上2.9J/cm2以下の範囲内となるように、特に好ましくは、1.4J/cm2以上2.9J/cm2以下の範囲内となるように、第1搬送ローラ60及び第2搬送ローラ62の回転速度を制御する。すなわちヒータ35の下方におけるシート6の搬送速度を制御する。
【0033】
シート6の単位面積当たりの積算熱量は、例えば、つぎのようにして測定できる。ヒータ35に付与される電力と、ヒータ35が赤外線を輻射する領域(前後方向8及び左右方向9に沿った平面における領域)の面積(例えば、開口43の投影面積)とから、ヒータ35の単位面積当たりの電力である電力密度(W/m2)を算出する。例えば、ヒータ35の消費電力が600Wであり、ヒータ35が赤外線を輻射する領域が50cm2であれば、電力密度は、12W/cm2である。また、シート6の搬送速度から、シート6における定点が、ヒータ35が赤外線を輻射する領域を通過するために要する時間(秒)を算出する。そして、当該時間に電力密度を乗じることにより、積算熱量(J/cm2)が算出される。
【0034】
[インクの組成]
以下、タンク70に貯留されるインク(記録用水性インクの一例)の詳細が説明される。インクは、樹脂分散顔料と、樹脂微粒子と、水溶性有機溶剤と、水と、を含む。
【0035】
樹脂分散顔料は、例えば、顔料分散用樹脂(樹脂分散剤)によって、水に分散可能なものである。樹脂分散顔料は、特に限定されず、例えば、カーボンブラック、無機顔料及び有機顔料等があげられる。カーボンブラックとしては、例えば、ファーネスブラック、ランプブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラック等があげられる。無機顔料としては、例えば、酸化チタン、酸化鉄系無機顔料及びカーボンブラック系無機顔料等があげられる。有機顔料としては、例えば、アゾレーキ、不溶性アゾ顔料、縮合アゾ顔料、キレートアゾ顔料等のアゾ顔料;フタロシアニン顔料、ペリレン及びペリノン顔料、アントラキノン顔料、キナクリドン顔料、ジオキサジン顔料、チオインジゴ顔料、イソインドリノン顔料、キノフタロン顔料等の多環式顔料;塩基性染料型レーキ顔料、酸性染料型レーキ顔料等の染料レーキ顔料;ニトロ顔料;ニトロソ顔料;アニリンブラック昼光蛍光顔料;等があげられる。これら以外の樹脂分散顔料としては、例えば、C.I.ピグメントブラック1、6及び7;C.I.ピグメントイエロー1、2、3、12、13、14、15、16、17、55、73、74、75、78、83、93、94、95、97、98、114、128、129、138、150、151、154、180、185及び194;C.I.ピグメントオレンジ31及び43;C.I.ピグメントレッド2、3、5、6、7、12、15、16、48、48:1、48:3、53:1、57、57:1、112、122、123、139、144、146、149、150、166、168、175、176、177、178、184、185、190、202、209、221、222、224、238及び254;C.I.ピグメントバイオレット19及び196;C.I.ピグメントブルー1、2、3、15、15:1、15:2、15:3、15:4、16、22及び60;C.I.ピグメントグリーン7及び36;並びにこれらの顔料の固溶体等があげられる。なお、インクは、樹脂分散顔料に加え、さらに、他の顔料及び染料等を含んでもよい。
【0036】
水性インク全量における樹脂分散顔料の顔料固形分含有量(顔料固形分量(P))は、特に限定されず、例えば、所望の光学濃度又は彩度等により、適宜決定できる。顔料固形分量(P)は、例えば、0.1質量%以上20.0質量%以下の範囲内が好ましく、更に好ましくは1.0質量%以上15.0質量%以下の範囲内であり、特に好ましくは2.0質量%以上5.0質量%以下の範囲内である。顔料固形分量(P)は、顔料のみの質量であり、樹脂微粒子の質量は含まない。樹脂分散顔料は、1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。
【0037】
樹脂微粒子としては、例えば、メタクリル酸及びアクリル酸の少なくとも一方をモノマーとして含むものを用いることができ、例えば、市販品を用いてもよい。樹脂微粒子は、例えば、モノマーとして、さらに、スチレン、塩化ビニル等を含んでもよい。樹脂微粒子は、例えば、樹脂エマルジョンに含まれるものであってもよい。樹脂エマルジョンは、例えば、樹脂微粒子と、分散媒(例えば、水等)とで構成されるものである。樹脂微粒子は、分散媒に対して溶解状態ではなく、特定の粒子径の範囲で分散している。樹脂エマルジョンに含まれる樹脂微粒子としては、例えば、アクリル酸系樹脂、マレイン酸系エステル樹脂、酢酸ビニル系樹脂、カーボネート型樹脂、ポリカーボネート型樹脂、スチレン系樹脂、エチレン系樹脂、ポリエチレン系樹脂、プロピレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ウレタン系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリエステル系樹脂及びこれらの共重合体樹脂等があげられる。
【0038】
樹脂微粒子のガラス転移温度(Tg)は、例えば、0℃以上120℃以下、15℃以上120℃以下、30℃以上80℃以下であってもよい。Tgが上記範囲内の樹脂微粒子を用いれば、記録媒体において耐擦性に優れたインクを得ることができる。
【0039】
樹脂微粒子のガラス転移温度αは、例えば、つぎのようにして測定できる。示差走査熱量計「EXSTAR6000」(セイコーインスツル株式会社製)を用いて、試料5mgを入れたアルミニウム製の容器を装置にセットして、窒素雰囲気化で昇温速度10℃/分て20℃から200℃まで昇温する。その後、200℃にて1分間保持した後に、-20℃まで-10℃/分にて冷却する。さらに-20℃にて1分間保持した後に、200℃まで10℃/分で昇温することによって、DSC(Differntial Scanning Calorimetry)曲線を得る。得られたDSC曲線に基づいて、2回目の昇温過程における変曲点をガラス転移温度とする。
【0040】
樹脂エマルジョンとしては、例えば、市販品を用いてもよい。市販品としては、例えば、第一工業製薬(株)製の「スーパーフレックス(登録商標)870」(Tg:71℃)、「スーパーフレックス(登録商標)150」(Tg:40℃)、ジャパンコーティングレジン(株)製の「モビニール(登録商標)6969D」(Tg:77℃)、「モビニール(登録商標)DM774」(Tg:33℃)、昭和電工(株)製の「ポリゾール(登録商標)AP-3270N」(Tg:27℃)、星光PMC(株)製の「ハイロース-X(登録商標)KE-1062」(Tg:112℃)、「ハイロース-X(登録商標)QE-1042」(Tg:69℃)等があげられる。
【0041】
樹脂微粒子の平均粒子径は、例えば、30nm以上200nm以下の範囲内である。平均粒子径は、例えば、(株)堀場製作所製の動的光散乱式粒径分布測定装置「LB-550」を用いて、算術平均径として測定可能である。
【0042】
水性インク全量における樹脂微粒子の含有量(R)は、例えば、0.1質量%以上30質量%以下の範囲内であることが好ましく、更に好ましくは0.5質量%以上20質量%以下の範囲内であり、特に好ましくは4.0質量%以上10.0質量%以下の範囲内である。樹脂微粒子は、1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。また、水性インク全量における樹脂分散顔料の顔料固形分量(P)と樹脂微粒子の含有量(R)の比P:Rは、例えば、1:4~4:1、1:2~2:1、1:1~1:2である。
【0043】
水溶性有機溶剤は、有機溶剤と水とを1:1で混合した際に、均一に混ざり合う有機溶剤である。水溶性有機溶剤は、例えば、乾燥したインクの再分散性を高める一方、印刷装置10の筐体14の内部空間において、ゴム部材や樹脂部材である給送ローラ20,21、プラテン25、搬送ローラ26、及び排出ローラ27等を膨潤させて強度低下を引き起こすと想定される。特に、筐体14の内部空間の温度が、ヒータ35の熱により上昇すると、ゴム部材や樹脂部材が強度低下しやすい。
【0044】
したがって、水溶性有機溶剤は、20℃における飽和蒸気圧が0.03hPaから2.20hPaの範囲内の水溶性有機溶剤(以下、「特定水溶性有機溶剤」と言う。)を所定含有量の範囲で含み、20℃における飽和蒸気圧が2.20hPaより大きな水溶性有機溶剤(以下、「除外水溶性有機溶剤1」と言う。)を所定含有量以上で含まず、且つ、20℃における飽和蒸気圧が0.03hPaより小さな水溶性有機溶剤(以下、「除外水溶性有機溶剤2」と言う。)を所定含有量以上で含まない。
【0045】
特定水溶性有機溶剤としては、例えば、プロピレングリコール(20℃における蒸気圧:0.11hPa)、エチレングリコール(20℃における蒸気圧:0.07hPa)、1,2-ブタンジオール(20℃における蒸気圧:0.03hPa)、プロピレングリコールプロピルエーテル(20℃における蒸気圧:2.20hPa)、ジプロピレングリコールプロピルエーテル(20℃における蒸気圧:0.1hPa)、ジエチレングリコールモノブチルエーテル(20℃における蒸気圧:0.1hPa)、1,6-ヘキサンジオール(20℃における蒸気圧:0.7hPa)等があげられ、プロピレングリコール又は1,2-ブタンジオールが好ましい。特定水溶性有機溶剤がプロピレングリコール又は1,2-ブタンジオールであれば、記録媒体の耐擦性に優れ、且つ印刷装置10の内部に位置するゴム部材や樹脂部材に対する装置耐久性に優れたインクを得ることができる。
【0046】
インク全量における特定水溶性有機溶剤の含有量は、例えば、10質量%以上40質量%以下の範囲内であることが好ましく、更に好ましくは20質量%以上40質量%以下の範囲内である。
【0047】
除外水溶性有機溶剤1としては、例えば、イソプロピルアルコール(20℃における蒸気圧:60.0hPa)等があげられる。除外水溶性有機溶剤2としては、例えば、86%グリセリン(20℃における蒸気圧:0.001hPa以下)等があげられる。
【0048】
インク全量における除外水溶性有機溶剤1の含有量は、例えば、3質量%未満であり、好ましくはゼロである。インク全量における除外水溶性有機溶剤2の含有量は、例えば、10質量%未満であり、好ましくはゼロである。
【0049】
水は、イオン交換水又は純水であることが好ましい。インク全量における水の含有量(W)は、例えば、10質量%以上90質量%以下の範囲内であることが好ましく、更に好ましくは20質量%以上80質量%以下の範囲内である。水の含有量(W)は、例えば、他の成分の残部としてもよい。
【0050】
インクは、必要に応じて、さらに、従来公知の添加剤を含んでもよい。添加剤としては、例えば、界面活性剤、pH調整剤、粘度調整剤、表面張力調整剤、防黴剤等があげられる。粘度調整剤は、例えば、ポリビニルアルコール、セルロース、水溶性樹脂等があげられる。
【0051】
インクは、例えば、樹脂分散顔料と、樹脂微粒子と、特定水溶性有機溶剤と、水と、必要に応じて他の添加成分とを、従来公知の方法で均一に混合し、フィルタ等で不溶解物を除去することにより調製できる。
【0052】
[印刷装置10の動作]
以下に、
図4が参照されつつ、印刷装置10による画像記録動作が説明される。
【0053】
印刷データを受信したコントローラは、給紙ローラ25、搬送ローラ26、排出ローラ27を回転(正転)させて、シート6を、印刷ヘッド24の下方へ送り出す。
【0054】
コントローラは、ヒータ35と対向する位置において、搬送ローラ26及び排出ローラ27により搬送方向(前後方向8の前向き)に搬送されるシート6の搬送速度が、15cm/秒以上100cm/秒以下の範囲内となることが好ましく、更に好ましくは20cm/秒以上70cm/秒以下の範囲内となることであり、特に好ましくは20cm/秒以上40cm/秒以下の範囲内となるように、搬送ローラ26及び排出ローラ27を回転する。このような搬送速度の制御は、例えば、搬送ローラ26に設けられたロータリーエンコーダ96の信号に基づいて、搬送ローラ26の回転が制御されることにより実現される。
【0055】
また、コントローラは、ヒータ35のハロゲンランプ40に通電する。ヒータ35からシート6の単位面積当たりに与えられる積算熱量は、例えば0.7J/cm2以上2.9J/cm2以下の範囲内であることが好ましく、更に好ましくは1.1J/cm2以上2.9J/cm2以下の範囲内であり、特に好ましくは1.4J/cm2以上2.9J/cm2以下の範囲内である。このようなヒータ35の単位面積当たりの照射エネルギーの制御は、ヒータ35に通電される電力(W)と、搬送ローラ26及び排出ローラ27の回転速度が、コントローラによって制御されることによって実現される。そして、コントローラは、給送ローラ25、搬送ローラ26、及び排出ローラ27を回転(正転)させつつ、印刷データに基づいて、印刷ヘッド24からシート6へ向けてインクを吐出する。
【0056】
プラテン28上を排紙トレイ24へ向かって搬送されるシート6は、搬送ローラ26と排出ローラ27との間において、プラテン28の上面に吸着されつつ排紙トレイ24へ向かって移動する。印刷ヘッド24から吐出されたインク滴は、プラテン28の上面に支持されているシート6に付着する。インク滴が付着したシート6がヒータ35の下方へ到達すると、シート6はヒータ35により加熱される。ヒータ35の加熱によってインク滴がシート6に定着する。
【0057】
コントローラは、印刷データに基づく印刷が終了したと判定したことに応じて、シート6が排紙トレイ24に排出されるまでシート6を搬送してから、給送ローラ25、搬送ローラ26、及び排出ローラ27を停止する。また、コントローラは、ヒータ35のハロゲンランプ40への通電を停止する。
【0058】
インクに含まれる水溶性有機溶剤が、特定水溶性有機溶剤を10質量%以上40質量%以下の範囲で含み、除外水溶性有機溶剤1を3質量%以上含まず、且つ除外水溶性有機溶剤2を10質量%以上含まないことにより、乾燥したインクの再分散性を高めるとともに、印刷装置10の筐体14の内部空間にあるゴム部材や樹脂部材の強度低下を引き起こすことが抑制される。
【0059】
また、ヒータ35から受けるシートの単位面積当たりの積算熱量が、0.7J/cm2以上2.9J/cm2以下の範囲内であることにより、小型のヒータ35からシート6に付与される単位面積当たりの電力密度(W/m2)が大きくなくても、樹脂微粒子が溶融して、インクに含まれる樹脂分散顔料を覆う適度な厚みの膜が形成される。この膜の強度が高くなることにより、インクの耐擦性が向上すると推定される。
【実施例】
【0060】
以下、本発明の実施例について比較例と併せて説明する。なお、本発明は、下記の実
施例及び比較例により限定及び制限されない。
【0061】
[顔料分散液A]
顔料(カーボンブラック)20質量%、スチレン-アクリル酸共重合体の水酸化ナトリウム中和物7質量%(酸価175mgKOH/g、分子量10000)に、純粋を加えて全体を100質量%とし、攪拌混合して混合物を得た。この混合物を、0.3mm径ジルコニアビーズを充填した湿式サンドミルに入れて、6時間分散処理を行った。その後、ジルコニアビーズをセパレータにより取り除き、孔径3.0μmセルロースアセテートフィルタでろ過することにより、顔料分散液Aを得た。なお、スチレン-アクリル酸共重合体は、一般に顔料の分散剤として用いられる水溶性のポリマーである。
【0062】
[顔料分散液B]
顔料をピグメントブルー15:3に変更した以外は、顔料分散液Aと同じ手順で作成した。
【0063】
[記録用水性インクの調製]
表1及び表2に示す組成における樹脂微粒子及び樹脂分散顔料分散液を除いた成分を均一に混合してインク溶媒を得た。つぎに、樹脂微粒子を加え、均一に混合した後、樹脂分散顔料分散液を加えて全体を100質量%として混合物を得た。得られた混合物を、東洋濾紙(株)製のセルロースアセテートタイプメンブレンフィルタ(孔径3.00μm)でろ過することで、実施例1~16及び比較例1~6の記録用水性インクを得た。
樹脂微粒子:第一工業製薬(株)製の「スーパーフレックス(登録商標)870」(Tg:71℃)、ジャパンコーティングレジン(株)製の「モビニール(登録商標)6969D」(Tg:77℃)、「モビニール(登録商標)DM774」(Tg:33℃)、昭和電工(株)製「ポリゾール(登録商標)AP-3270N」(Tg:27℃)
水溶性有機溶剤:プロピレングリコール(20℃における蒸気圧:0.11hPa)、1,2-ブタンジオール(20℃における蒸気圧:0.03hPa)、プロピレングリコールプロピルエーテル(20℃における蒸気圧:2.20hPa)、86%グリセリン(20℃における蒸気圧:0.001hPa以下)、イソプロピルアルコール(20℃における蒸気圧:60hPa)
界面活性剤:日信化学工業(株)製「オルフィン(登録商標)E1010」
【0064】
実施例1~16及び比較例1~6の記録用水性インクを用いて、耐擦性、再分散性、及び装置耐久性の評価を、下記方法により実施した。
【0065】
[耐擦性]
実施例1~16及び比較例1~6の記録用水性インクを用いて、コート紙(王子製紙(株)製のOKトップコート+)に対して、膜厚が3μmとなるようにドローダウンを行って評価サンプルを得た。コート紙の単位面積当たりの積算熱量が、0.7J/cm2以上2.9J/cm2以下の範囲内となる搬送速度で、IRヒーター(株)トーコー製のプロモハンディミニSIR-760(加熱長6.2cm、出力600W)の直下を通過させ、評価サンプルの乾燥を行った。その後、ジョンソン・アンド・ジョンソン社製の綿棒に荷重500gを加え、3箇所について1回ずつ擦過し、評価サンプルの擦過試験を行った。擦過した評価サンプルについて、インク塗布部に隣接した白紙部について、目視により以下の評価基準により評価した。なお、評価サンプルに焦げが発生したものを判定不能(NG)とした。
擦れ、汚れのないものを○、擦れはあるが、汚れのないものを△、擦れ、汚れともにあるものを×とした。なお、擦れはインク塗布部で視認される擦過痕、汚れは白紙部で視認される擦過痕(綿棒に付着したインクが移った痕)である。3箇所の評価結果に基づいて、下記に分類し、B以上を合格とした。
AA:3箇所全て○
A:3箇所のうち、○が2つ、且つ×がない。
B:3箇所のうち、○が1つ、且つ×がない。
C:3箇所のいずれかに×がある。
【0066】
[再分散性]
実施例1~16及び比較例1~6の記録用水性インクを、スライドガラス上に一定量の液滴と滴下し、25℃、1時間放置して評価サンプルを得た。評価サンプルの記録用水性インクに水滴を滴下して、再分散する様子を観察し、以下の評価基準により評価した。
◎:肉眼で分かる大きさの塊はない。
○:肉眼で分かる大きさの塊があるが、固まっている部分の面積は、インクの全面積の半分以下である。
×:肉眼で分かる大きさの塊があるが、固まっている部分の面積は、インクの全面積の半分より大きい。
【0067】
[装置耐久性]
20℃における飽和蒸気圧が、2.2hPa以下であると、印刷装置の筐体の内部空間が50℃において、水溶性有機溶剤の蒸気濃度が3%以下になると推測して、20℃における飽和蒸気圧が2.2hPa以下の水溶性有機溶剤を含有するものを○とし、20℃における飽和蒸気圧が2.2hPaより大きい水溶性有機溶剤を含有するものを×とした。なお、推測は化学工学便覧(改訂五版)第18ページ以降に記載があるアントワン式の定数から計算される各種物質の飽和蒸気圧曲線を基として検討した。50℃は、本願記載の装置構成で到達が予想される最高温度であり、蒸気濃度3%は、ゴム・樹脂部材で顕著な強度低下がみられない範囲の膨潤濃度が3%であることに由来する。
【0068】
実施例1~16及び比較例1~6の記録水性インク組成及び評価結果を、表1及び表2に示す。
【0069】
【0070】
【0071】
表1に示すとおり、実施例1~16では、耐擦性、再分散性、装置耐久性ともに、C又は×の評価がなく、評価結果が良好であった。また、コート紙の単位面積当たりの積算熱量が、1.1J/cm2以上2.9J/cm2以下の範囲内となる実施例1~3,5~12では、耐擦性がAAであり、他の実施例と比べて評価結果がより優れていた。
【0072】
他方、コート紙の単位面積当たりの積算熱量が4.3J/cm2である比較例1は、コート紙に焦げが発生した。また、コート紙の単位面積当たりの積算熱量が0.6J/cm2である比較例2は、耐擦性がCであった。
【0073】
また、プロピレングリコールを5質量%含有する比較例例3、及び50質量%含有する比較例4は、耐擦性がともにCであった。また、20℃における蒸気圧:0.001hPa以下である86%グリセリンを水溶性有機溶剤として含有する比較例5は、再分散性が×、耐擦性がCであった。また、20℃における蒸気圧:60hPaであるイソプロピルアルコールを水溶性有機溶剤として含有する比較例6は、装置耐久性が×、再分散性が×であった。
【符号の説明】
【0074】
10・・・印刷装置(インク吐出装置)
20・・・給送ローラ(搬送機構)
24・・・印刷ヘッド(ヘッド)
26・・・搬送ローラ(搬送機構)
27・・・排出ローラ(搬送機構)
35・・・ヒータ
74・・・コントローラ