(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-18
(45)【発行日】2023-12-26
(54)【発明の名称】インクジェット記録装置及び記録制御方法
(51)【国際特許分類】
B41J 2/19 20060101AFI20231219BHJP
B41J 2/01 20060101ALI20231219BHJP
B41J 2/175 20060101ALI20231219BHJP
【FI】
B41J2/19
B41J2/01 401
B41J2/175 121
B41J2/175 501
(21)【出願番号】P 2019130330
(22)【出願日】2019-07-12
【審査請求日】2022-06-21
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000001270
【氏名又は名称】コニカミノルタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001254
【氏名又は名称】弁理士法人光陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤野 彰
【審査官】小宮山 文男
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-180828(JP,A)
【文献】特開2005-199444(JP,A)
【文献】特開2008-194966(JP,A)
【文献】特開2015-168257(JP,A)
【文献】特開2019-055530(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01-2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
供給されるインク中の空気を除去する脱気部と、
脱気されたインクを吐出して記録動作を行う記録動作部と、
脱気済みかつ吐出前のインク量を検出する検出部と、
制御部と、
を備え、
前記制御部は、前記検出部が検出するインク量に基づいて前記記録動作部によるインク吐出動作を制御し、前記脱気部からのインクの供給量よりも前記記録動作部によるインクの消費量の方が大きい場合に、前記記録動作部による記録動作速度を低下させながら
中断せずに記録動作を継続させる
ことを特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項2】
前記脱気部による脱気済みのインクを貯留する貯留部を備えることを特徴とする請求項1記載のインクジェット記録装置。
【請求項3】
所定の報知動作を行う報知部を備え、
前記制御部は、前記記録動作部の動作に応じて前記記録動作速度を一時的に低下させた場合に、前記報知部に前記報知動作を行わせる
ことを特徴とする請求項1又は2記載のインクジェット記録装置。
【請求項4】
前記脱気部へのインクの送液動作を行う送液部と、
前記脱気部の使用期間に応じた当該脱気部の最大脱気速度を算出する算出部と、
を備え、
前記制御部は、前記算出部により算出された前記最大脱気速度以下で前記送液部による送液速度を調整する
ことを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載のインクジェット記録装置。
【請求項5】
前記脱気部を加熱する加熱部を備え、
前記算出部は、前記加熱部による前記脱気部の加熱継続時間に基づいて前記最大脱気速度を算出する
ことを特徴とする請求項4記載のインクジェット記録装置。
【請求項6】
前記脱気部は、一方の面側がインクに接する脱気膜を有し、前記脱気膜のインクに接する側とは反対側を減圧して、インクに溶存する空気が前記脱気膜を透過することで脱気させ、
前記算出部は、前記脱気部における前記減圧の動作継続時間に基づいて前記最大脱気速度を算出する
ことを特徴とする請求項4記載のインクジェット記録装置。
【請求項7】
前記算出部は、前記送液部による送液合計量に基づいて前記最大脱気速度を算出することを特徴とする請求項4記載のインクジェット記録装置。
【請求項8】
前記使用期間の長さに対する前記最大脱気速度の算出に係る算出テーブルを記憶する記憶部を備えることを特徴とする請求項5~7のいずれか一項に記載のインクジェット記録装置。
【請求項9】
前記制御部は、前記制御により記録動作時に前記インク吐出動作に対して加えられた制限の度合が基準以上の場合に、前記脱気部の交換を促す情報を出力することを特徴とする請求項4~8のいずれか一項に記載のインクジェット記録装置。
【請求項10】
供給されるインク中の空気を除去する脱気部と、脱気されたインクを吐出して記録動作を行う記録動作部と、脱気済みかつ吐出前のインク量を検出する検出部と、を備えるインクジェット記録装置の記録制御方法であって、
前記検出部が検出するインク量に基づいて前記記録動作部によるインク吐出動作を制御するインク量対応ステップ
を含み、
前記インク量対応ステップでは、
前記脱気部からのインクの供給量よりも前記記録動作部によるインクの消費量の方が大きい場合に、前記記録動作部による記録動作速度を低下させながら
中断せずに記録動作を継続させる
ことを特徴とする記録制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、インクジェット記録装置及び記録制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インクに圧力変動を付与して吐出させ、画像などを記録するインクジェット記録装置がある。インクジェット記録装置では、インクは、インクタンクから供給される。このインクに空気が溶存していると、インクに圧力変動が適正に付与されなくなり、吐出不良が生じる。そこで、インク流路中にインク中の空気を除去する脱気装置を設ける技術が知られている。
【0003】
脱気処理には、ある程度の時間を要し、溶存している空気の量に応じて所定量以下の混入量まで脱気するのに要する時間が変化する。また、脱気装置は、経時的に劣化する。これに対し、脱気装置の下流側に溶存気体センサーを設け、検出量に応じて脱気装置の流量(脱気速度)を調整する技術がある(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、劣化時にも十分な脱気量を得ることを想定して脱気装置を設けると、コスト及び装置のサイズの増大につながり、一方で、劣化が生じた途端に脱気装置を交換するのでは、交換の手間やコストの増大につながり、いずれにせよ記録動作の効率がよくないという課題がある。
【0006】
この発明の目的は、より効率よく記録動作を継続可能なインクジェット記録装置及び記録制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、請求項1記載の発明は、
供給されるインク中の空気を除去する脱気部と、
脱気されたインクを吐出して記録動作を行う記録動作部と、
脱気済みかつ吐出前のインク量を検出する検出部と、
制御部と、
を備え、
前記制御部は、前記検出部が検出するインク量に基づいて前記記録動作部によるインク吐出動作を制御し、前記脱気部からのインクの供給量よりも前記記録動作部によるインクの消費量の方が大きい場合に、前記記録動作部による記録動作速度を低下させながら中断せずに記録動作を継続させる
ことを特徴とするインクジェット記録装置である。
【0011】
請求項2記載の発明は、請求項1記載のインクジェット記録装置において、
前記脱気部による脱気済みのインクを貯留する貯留部を備えることを特徴とする。
【0012】
請求項3記載の発明は、請求項1又は2記載のインクジェット記録装置において、
所定の報知動作を行う報知部を備え、
前記制御部は、前記記録動作部の動作に応じて前記記録動作速度を一時的に低下させた場合に、前記報知部に前記報知動作を行わせる
ことを特徴とする。
【0013】
請求項4記載の発明は、請求項1~3のいずれか一項に記載のインクジェット記録装置において、
前記脱気部へのインクの送液動作を行う送液部と、
前記脱気部の使用期間に応じた当該脱気部の最大脱気速度を算出する算出部と、
を備え、
前記制御部は、前記算出部により算出された前記最大脱気速度以下で前記送液部による送液速度を調整する
ことを特徴とする。
【0014】
請求項5記載の発明は、請求項4記載のインクジェット記録装置において、
前記脱気部を加熱する加熱部を備え、
前記算出部は、前記加熱部による前記脱気部の加熱継続時間に基づいて前記最大脱気速度を算出する
ことを特徴とする。
【0015】
請求項6記載の発明は、請求項4記載のインクジェット記録装置において、
前記脱気部は、一方の面側がインクに接する脱気膜を有し、前記脱気膜のインクに接する側とは反対側を減圧して、インクに溶存する空気が前記脱気膜を透過することで脱気させ、
前記算出部は、前記脱気部における前記減圧の動作継続時間に基づいて前記最大脱気速度を算出する
ことを特徴とする。
【0016】
請求項7記載の発明は、請求項4記載のインクジェット記録装置において、
前記算出部は、前記送液部による送液合計量に基づいて前記最大脱気速度を算出することを特徴とする。
【0017】
請求項8記載の発明は、請求項5~7のいずれか一項に記載のインクジェット記録装置において、
前記使用期間の長さに対する前記最大脱気速度の算出に係る算出テーブルを記憶する記憶部を備えることを特徴とする。
【0018】
請求項9記載の発明は、請求項4~8のいずれか一項に記載のインクジェット記録
装置において、
前記制御部は、前記制御により記録動作時に前記インク吐出動作に対して加えられた制限の度合が基準以上の場合に、前記脱気部の交換を促す情報を出力することを特徴とする。
【0019】
請求項10記載の発明は、
供給されるインク中の空気を除去する脱気部と、脱気されたインクを吐出して記録動作を行う記録動作部と、脱気済みかつ吐出前のインク量を検出する検出部と、を備えるインクジェット記録装置の記録制御方法であって、
前記検出部が検出するインク量に基づいて前記記録動作部によるインク吐出動作を制御するインク量対応ステップ
を含み、
前記インク量対応ステップでは、
前記脱気部からのインクの供給量よりも前記記録動作部によるインクの消費量の方が大きい場合に、前記記録動作部による記録動作速度を低下させながら中断せずに記録動作を継続させる
ことを特徴とする記録制御方法である。
【発明の効果】
【0020】
本発明に従うと、より効率よく記録動作を継続させることができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】インクジェット記録装置の機能構成を示すブロック図である。
【
図2】本発明の実施形態のインクジェット記録装置におけるインク流路を示す図である。
【
図3】脱気モジュールの動作について説明する図表である。
【
図4】流量設定処理の制御手順を示すフローチャートである。
【
図5】流量設定処理の他の例を示すフローチャートである。
【
図6】流量設定処理の他の例を示すフローチャートである。
【
図7】画像記録制御処理の制御手順を示すフローチャートである。
【
図8】画像記録制御処理の制御手順の他の例を示すフローチャートである。
【
図9】画像記録制御処理の制御手順の他の例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0023】
図1は、本実施形態のインクジェット記録装置1の機能構成を示すブロック図である。
インクジェット記録装置1は、制御部40(検出部、算出部)と、記録ヘッド22(記録動作部)と、搬送駆動部41と、インク加熱部23(加熱部)と、インク供給部24と、通信部44と、操作受付部45と、報知部46などを備える。
【0024】
制御部40は、インクジェット記録装置1の動作を統括制御するプロセッサーである。制御部40は、CPU401と、記憶部402などを備える。CPU401は、各種演算処理を行う。制御部40は、後述のように、脱気動作及び画像記録動作(インク吐出動作)の制御を行う。記憶部402は、一時データを記憶するRAMと、設定データ及びプログラムなどを記憶する不揮発性メモリーなどを含む。設定データには、脱気装置情報4021及び脱気劣化情報4022(算出テーブル)が含まれる。また、記憶部402には、記録対象の画像データが記憶される。
【0025】
記録ヘッド22は、ノズルNからインクを吐出して記録媒体に対して画像などを記録する記録動作を行う。記録ヘッド22は、ノズルNに加えてヘッド駆動部42と圧電素子221などを備える。
【0026】
圧電素子221は、所定の電圧変化が印加されることで変形し、ノズルNからインクを吐出させるためにインクに対して圧力変動を付与するアクチュエーターである。ヘッド駆動部42は、画像データに応じて圧電素子221を変形させる電圧信号を出力する。
【0027】
搬送駆動部41は、記録ヘッド22によって画像が記録される対象の記録媒体を当該記録ヘッド22のノズルNに対して相対移動させる。ここでは、例えば、搬送駆動部41は、記録媒体が載置された搬送ドラム又は搬送ベルトを移動させるためのローラーを回転動作させる。
【0028】
インク供給部24は、外部のインクタンクから供給されたインクを適量ずつ記録ヘッド22に供給する。インク供給部24は、送液ポンプ242と、供給ポンプと246と、フロートセンサー2451と、大気開放弁2442と、真空動作弁2443と、真空吸引部2445などを有する。インク供給部24におけるインクの流れ及び動作については後述する。
【0029】
インク加熱部23は、記録ヘッド22に供給するインクを適切な温度範囲内となるように調整制御する。インク加熱部23は、ここでは、インクが流れる配管、タンク及び脱気モジュール243(
図2参照)などを加熱することで間接的にインクを加熱する。適切な温度範囲は、インクによって異なるが、例えば、紫外線(UV)硬化型のゾルゲル間で層変化するインクである場合、送液時の温度は、インクが送液中及びノズルNから吐出されて記録媒体に着弾するまでの間にゲル化しない温度であって記録媒体に着弾後に速やかにゲル化する温度である。設定温度は、インクの種別によって切替可能であってもよく、また、インクと関係なくユーザーの入力操作に基づいて、直接設定されてもよい。
【0030】
通信部44は、外部機器と所定の通信規格に従って行うデータ送受信などの通信を制御する。通信部44は、例えば、ネットワークカードを有し、LANを介しての通信、例えば、TCP/IPによる通信などの制御が可能となっている。また、通信部44は、CD-ROM、DVD、USBメモリースティックなどの可搬型記憶媒体から/にデータを読み書き可能な接続端子及びドライバーなどを備えていてもよい。
【0031】
操作受付部45は、ユーザーなどの外部からの操作を受け付けて、入力信号として制御部40に出力する。操作受付部45は、例えば、表示部461の表示画面に重なって位置するタッチパネル、及び押しボタンスイッチなどを有する。
【0032】
表示部461は、制御部40の制御に従って各種表示を行う。表示部461は、例えば、液晶画面といった表示画面と、LEDランプなどを有する。表示画面には、画像記録動作のメニュー、ステータス及び警告などが表示されてよい。また、LEDランプは、例えば、インクジェット記録装置1の主電源装置への電力供給の有無を示したり、警告の有無などを示したりしてよい。
【0033】
報知出力部462は、ユーザーなどに対して所定の報知動作を行う。報知動作としては、例えば、ビープ音の発生などが挙げられる。ユーザーに対する報知内容としては、トラブル発生及びインクジェット記録装置1の動作に係る警告などが挙げられる。
表示部461の表示及び報知出力部462の報知動作は組み合わされてもよく、これらがまとめて、所定の報知動作を行う本実施形態の報知部46を構成する。
【0034】
図2は、本発明の実施形態のインクジェット記録装置1におけるインク流路を示す図である。
このインクジェット記録装置1では、図示略のメインタンクから供給されたインクは、第1タンク241と、送液ポンプ242(送液部)と、脱気モジュール243と、第2タンク245(貯留部)と、供給ポンプ246と、背圧タンク247とを順に通って記録ヘッド22に流入する。なお、メンテナンスなどで記録ヘッド22からインクを排出して第1タンク241に回収可能であってもよく、これによりインクを循環、再利用させてもよい。
【0035】
第1タンク241は、インクを貯留する。第1タンク241は、密封されていなくてもよく、すなわち、大気開放されてインクに空気が溶け込む場合がある。
【0036】
送液ポンプ242は、第1タンク241のインクを脱気モジュール243へ送る送液動作を行う。送液ポンプ242の送液速度は、制御部40により制御可能である。検出部としての制御部40は、送液速度とその継続時間の積などに応じて送液合計量、すなわち、脱気済みインクの供給量を計測する。送液ポンプ242は、特には限られないが、例えば、ダイヤフラムポンプである。
【0037】
脱気モジュール243は、通過するインク中に溶存している空気を除去する。脱気モジュール243は、例えば、多数の中空糸膜(脱気膜)を有し、当該中空糸膜の内側(インクに接する側とは反対側)を真空に吸引(減圧)して、中空糸膜の外側(インクに接する側)に接触するようにインクを流すことで、インク中の空気が中空糸膜を透過して脱気される。中空糸膜の内側は、フィルター2441及び廃液タンク2444を介して真空吸引部2445につながっている。真空吸引部2445は、ここでは、吸引ポンプであって、空気を吸引して中空糸膜内を真空状態(厳密な高真空である必要はない)とする。廃液タンク2444には、中空糸膜を通過した微量の液体成分の他、中空糸膜が破損した場合に流入するインクが貯まる。中空糸膜が破損した場合には、大気開放弁2442を開放することで、速やかに真空状態を解消する。また、真空動作弁2443を閉止することで、真空吸引部2445の動作による中空糸膜内の真空吸引動作を停止させ、かつ廃液タンク2444があふれるのを防止する。
これらにより本実施形態の脱気部24cが構成される。
【0038】
脱気モジュール243の脱気能力、すなわち、脱気インクの最大流出量(上限脱気速度)の初期値は、モジュールにより定まっており、長期間利用すると徐々に劣化する。脱気モジュール243の脱気能力については、後に詳述する。
【0039】
第2タンク245は、脱気モジュール243により脱気済みのインクを貯留する。第2タンク245は、流出入経路を除いて密閉されており、脱気モジュール243による脱気状態が維持される。第2タンク245のインクは、供給ポンプ246により背圧タンク247に送られ、記録ヘッド22からのインク吐出量(消費量)に応じた量のインクが流出する。
【0040】
第2タンク245は、フロートセンサー2451を有する。フロートセンサー2451は、例えば、第2タンク245内のインク(すなわち、脱気済みかつ吐出前のインク量に応じた量)が満量であるか、所定の第1基準量以下であるか、及び第1基準量より小さい第2基準量以下であるかをそれぞれ検出可能であり、検出結果を制御部40に出力する。
【0041】
供給ポンプ246は、第2タンク245内の脱気済みインクを背圧タンク247に送出する。供給ポンプ246の送液速度は、制御部40の制御により調整可能である。検出部としての制御部40は、送出速度とその継続時間の積などに応じて送出合計量、すなわち、脱気済みインクの消費量を計測する。上述の脱気済みのインクの供給量とこの消費量との差分が脱気済みインクの残量変化の大きさとして検出される。なお、計測された供給量及び消費量によりインクの残量自体も算出可能であるが、送液量の積分値では、算出誤差が累積して徐々に拡大する。したがって、第2タンク245の脱気済みインクが満量になった場合など、フロートセンサー2451が検出可能なインク量により、算出されているインク残量を補正することができる。フロートセンサー2451も本実施形態のインクジェット記録装置1における検出部に含まれてもよい。
【0042】
背圧タンク247は、記録ヘッド22のノズル開口におけるインク圧を負圧に保つことで、吐出動作以外にインクがノズル開口から漏出しないようにするためのタンクである。
【0043】
記録ヘッド22は、ノズルNとヘッド駆動部42などを有し、背圧タンク247から供給されたインクをヘッド駆動部42の動作に応じてノズルNから吐出させる。ヘッド駆動部42は、制御部40の制御に基づいて動作する。
【0044】
上述のように、脱気モジュール243を含むインク流路は、インク加熱部23により加熱されて、内部のインクが適宜な温度範囲に維持される。脱気モジュール243と各部の配管とは、配管の数、太さや周囲の構成との接触状況などに応じて伝わる熱量が異なる場合があるので、温度制御は、各部位に応じて別個になされてよい。
【0045】
次に、本実施形態の脱気モジュール243における脱気動作と記録動作との対応について説明する。
【0046】
図3は、脱気モジュール243の動作について説明する図表である。
脱気モジュール243は、上述のように、インクが内部を通過する間に空気が除去されるので、空気の除去が可能なインクの通過時間の下限、すなわち、流速(脱気速度)に上限(上限脱気速度)がある。この上限脱気速度は、インクジェット記録装置1に要求される最速の画像記録速度(記録動作速度)、ノズルNの数及び記録対象の画像に要求されるインク量などに応じて定められる。上限の高い脱気モジュールであるほどコスト及びサイズなども上昇するので、インクジェット記録装置1では、ユーザーの使用量や用途などに応じて脱気モジュール243が設けられることとしてよい。
【0047】
図3(a)には、脱気装置情報4021の内容を示す。インクジェット記録装置1には、異なる上限脱気速度(脱気能力)の複数の脱気モジュールのうちいずれかが取り付け可能であり、脱気装置情報4021には、これらの脱気能力情報が予め記憶保持されている。インクジェット記録装置1では、異なる脱気能力の脱気モジュール間での交換も可能であってもよい。
【0048】
脱気モジュール243は、長期間の利用によって性能が劣化する。劣化の度合に対応する利用時間を示すパラメーターとしては、例えば、脱気モジュール243の加熱時間がある。
図3(b)、(c)には、当初の最大脱気速度(上限脱気速度)で脱気を行った場合における出力インクの脱気度合の加熱時間に応じた変化を示している。加熱時間がある程度に達するまでは、上限脱気速度で100%程度の脱気が維持されるが、ある加熱時間TLを超えると100%程度の脱気度が得られなくなり、徐々に溶存空気の量が増える傾向が見られる。すなわち、100%程度の脱気度を得るには、上限脱気速度よりも脱気速度を低下させていく必要がある。ここでは、劣化の度合に係る情報、ここでは、(100-脱気度)が脱気劣化情報4022として予め記憶保持されている。なお、計算上、脱気度がそのまま保持されていてもよい。時間経過(使用期間)に応じた劣化度合が取得され、初期値に対して脱気度((100-劣化度)/100)を乗じることで、現時点で100%程度の脱気度を得ることが可能な脱気速度(最大脱気速度)が得られる。すなわち、脱気劣化情報4022の内容は、使用期間の長さに対する最大脱気速度の算出に係るテーブルデータ(算出テーブル)となる。加熱時間に対応する脱気度は、脱気劣化情報4022で設定されている加熱時間のデータから線形補間などで算出されてよい。脱気速度(すなわち、送液ポンプ242の送液速度)は、この最大脱気速度以下(ここでは最大脱気速度と等しい)に調整されればよい。
【0049】
このインクジェット記録装置1では、例えば、通常、フロートセンサー2451の検出する脱気済みインク量に基づいて間欠的に脱気済みインクの供給を行う。具体的には、例えば、脱気済みインク量が第1基準量以下となった場合に、上記最大脱気速度で脱気が行われるように送液ポンプ242を動作させ、脱気済みインク量が満量となった場合に、送液ポンプ242を停止させる。
【0050】
画像記録動作によるインク消費量の方がインク供給量よりも大きい場合、一度脱気済みインク量が第1基準量以下となると、送液ポンプ242及び脱気モジュール243の動作が連続的になる。また、この状況が続くと、やがて脱気済みのインクが枯渇(不足)するので、インクジェット記録装置1では、脱気済みのインク量に基づいて、当該脱気済みインクがなくならないように画像記録動作(インク吐出動作)の制御を行う。
なお、後述のように、この制御によって画像記録動作が断続的に行われる場合、画像記録動作の中断中に一時的に第2タンク245が脱気済みのインクで満量となった場合でも、送液ポンプ242の動作を停止させなくてもよい。また、脱気能力が低下していくと、画像記録動作の中断又は低速化の時間が長くなっていくので、その状況に応じて脱気モジュールの交換が推奨されてよい。
【0051】
図4は、インクジェット記録装置1で実行される流量設定処理の制御部40による制御手順を示すフローチャートである。この流量設定処理は、例えば、所定の頻度で定期的に行われる。あるいは、画像記録命令(ジョブ)が取得された場合に画像記録動作の開始前に実行されてもよい。
【0052】
流量設定処理が開始されると、制御部40(CPU401)は、直近の所定期間内の画像記録動作時に、記録動作速度を減速又は中断させた(インク吐出動作に対して制限を加えた)時間の割合又は回数(度合、
図7以降の画像記録制御処理を参照)が所定の基準以上であるか否かを判別する(ステップS201)。すなわち、制御部40は、設定されている脱気速度の上限脱気速度からの低下により、通常の画像記録動作に対して許容できないレベルの悪影響が生じているか否かを判別する。基準以上であると判別された場合には(ステップS201で“YES”)、制御部40は、脱気モジュール243の交換を推奨する出力(交換を促す情報の出力)を行う(ステップS202)。出力は、例えば、表示部461にその旨を表示することで行われる。それから、制御部40の処理は、ステップS203に移行する。基準以上ではないと判別された場合には(ステップS201で“NO”)、制御部40の処理は、ステップS203に移行する。
【0053】
ステップS203の処理に移行すると、制御部40は、脱気モジュール243の加熱合計時間のデータを取得する(ステップS203)。制御部40は、脱気モジュール243の種別(脱気能力)の情報を取得する(ステップS204)。制御部40は、これらの情報に応じて最大脱気速度を取得する(ステップS205)。すなわち、制御部40は、脱気劣化情報4022から加熱時間(加熱継続時間、脱気部の使用期間)に応じた劣化の度合を取得し、脱気装置情報4021から取得される上限脱気速度の値と組み合わせる(上限脱気速度に当該上限脱気速度での脱気度を乗じる)ことで、現在の最大脱気速度を算出取得する。
【0054】
制御部40は、算出取得された最大脱気速度を送液ポンプ242の送液速度として設定する(ステップS206)。そして、制御部40は、流量設定処理を終了する。
【0055】
図5、
図6は、流量設定処理の他の例を示すフローチャートである。
流量設定は、脱気モジュール243の加熱時間以外を基準として行われてもよい。
【0056】
図5の例では、ステップS203の代わりにステップS203aの処理が行われる。ステップS201、S202の処理からステップS203aの処理に移行すると、制御部40は、真空吸引部2445の合計動作時間を取得する(ステップS203a)。ステップS205の処理では、制御部40は、この真空吸引部2445の合計動作時間(すなわち、減圧の動作継続時間)に応じた劣化度合を脱気劣化情報4022から取得し、上限脱気速度の値と組み合わせる(上限脱気速度を当該上限脱気速度での脱気度に乗じる)ことで、現在の最大脱気速度を算出取得する。
【0057】
また、
図6の例では、ステップS203の代わりにステップS203bの処理が行われる。ステップS201、S202の処理からステップS203bの処理に移行すると、制御部40は、送液ポンプ242の送液合計量を取得する(ステップS203b)。ステップS205の処理では、制御部40は、この送液合計量に応じた脱気度の値を脱気劣化情報4022から取得し、上限脱気速度の値と組み合わせて現在の最大脱気速度を算出取得する。
【0058】
上記のように、最大脱気速度を上限脱気速度から低下させていくと、インクの消費量によっては、従来どおりの画像記録動作では、脱気済みのインクが不足することになる。そこで、本実施形態のインクジェット記録装置1では、インクが不足する場合にのみ画像記録速度に制限をかける。
【0059】
図7は、インクジェット記録装置1で実行される画像記録制御処理の制御部40による制御手順を示すフローチャートである。本実施形態の記録制御方法であるこの処理は、画像記録動作の実行中に定期的に行われる。
【0060】
画像記録制御処理が開始されると、制御部40は、送液ポンプ242の送液量、すなわち、脱気済みインクの供給量を取得する(ステップS101)。制御部40は、供給ポンプ246の送液量、すなわち、脱気済みインクの消費量を取得する(ステップS102)。ここでいう送液量は、瞬間的な値ではなく、所定時間内の値、例えば、前回の画像記録制御処理からの合計量であってよい。制御部40は、設定している送液速度に送液継続時間を乗じて送液量を算出してよい。
【0061】
制御部40は、流出量(消費量)が流入量(供給量)を上回っているか否かを判別する(ステップS103)。流出量が流入量以下である(上回っていない)と判別された場合には(ステップS103で“NO”)、制御部40は、画像記録制御処理を終了する。
【0062】
脱気済みインクの流出量が流入量を上回っていると判別された場合には(ステップS103で“YES”)、制御部40は、現在の画像記録動作について、既にステップS107で画像記録速度(記録動作速度)の低下禁止指示を受けているか否かを判別する(ステップS104)。受けていると判別された場合には(ステップS104で“YES”)、制御部40の処理は、ステップS108に移行する。
【0063】
速度低下指示を受けていないと判別された場合には(ステップS104で“NO”),制御部40は、脱気済みインクの流出量が流入量以下となるように画像記録速度を低下させる(ステップS105)。すなわち、制御部40は、現在のインク使用速度と画像記録速度との対応関係に基づいて、設定されている送液ポンプ242の送液量以下のインク使用量(例えば、送液ポンプ242の送液量の90-100%など)となるように画像記録速度を低下させる設定をする。制御部40は、画像記録速度を低下させたことを示す報知動作を報知部46により行わせる(ステップS106)。制御部40は、所定時間待機し、画像記録速度の低下禁止指示が操作受付部45により受け付けられたか否かを判別する(ステップS107)。
【0064】
低下禁止指示を受け付けていないと判別された場合には(ステップS107で“NO”)、制御部40は、画像記録制御処理を終了する。低下禁止指示を受けたと判別された場合には(ステップS107で“YES”)、制御部40の動作は、ステップS108に移行する。
【0065】
ステップS108の処理に移行すると、制御部40は、第2タンク245のインク量(脱気済みインク量)が第2基準量以下であるか否かを判別する(ステップS108)。第2基準量以下ではないと判別された場合には(ステップS107で“NO”)、制御部40は、画像記録速度を戻し(ステップS110)、画像記録制御処理を終了する。第2基準量以下であると判別された場合には(ステップS108で“YES”)、制御部40は、第2タンク245のインク量が満量に戻るまで画像記録動作を一時中断させる(ステップS109)。なお、制御部40は、即座に画像記録動作を中断させる必要はなく、第2基準量以下となった時点で記録途中の画像の記録が完了するまで待機して、完了した後に中断させてよい。インク量が満量に戻った後は、元の低下させていない画像記録速度で画像記録動作を再開する。また、この場合、制御部40は、インク量が満量に戻っても送液ポンプ242の送液動作を停止させなくてもよい。そして、制御部40は、画像記録制御処理を終了する。
上記のうち、ステップS103、S105、S109などが本実施形態の記録制御方法におけるインク量対応ステップを構成する。
【0066】
図8は、画像記録制御処理の制御手順の他の例を示すフローチャートである。
この例では、画像記録速度の低下前に予告報知を行う。この場合には、ステップS104、S110の処理が削除され、また、一部の処理順が入れ替えられている。同一の処理内容については同一の符号を用いて示す。
【0067】
ステップS103の判別処理で、脱気済みインクの流出量が流入量を上回っていると判別された場合には(ステップS103で“YES”)、制御部40は、画像記録速度を低下させる予告報知動作を報知部46により行わせる(ステップS106)。制御部40は、所定時間待機し、画像記録速度の低下禁止指示が操作受付部45により受け付けられたか否かを判別する(ステップS107)。同一のジョブに係る前回までの画像記録制御処理で速度低下禁止指示が既に取得されている場合には、制御部40の処理は、即座に“YES”に分岐してもよい。
【0068】
低下禁止指示が受け付けられていないと判別された場合には(ステップS107で“NO”)、制御部40は、脱気済みインクの流出量が流入量以下となるように画像記録速度を低下させる(ステップS105)。そして、制御部40は、画像記録制御処理を終了する。
【0069】
低下禁止指示が受け付けられたと判別された場合には(ステップS107で“YES”)、制御部40は、第2タンク245のインク量(脱気済みインク量)が第2基準量以下であるか否かを判別する(ステップS108)。第2基準量以下ではないと判別された場合には(ステップS108で“NO”)、制御部40は、画像記録制御処理を終了する。第2基準量以下であると判別された場合には(ステップS108で“YES”)、制御部40は、第2タンク245のインク量が満量に戻るまで画像記録動作を一時中断させる(ステップS109)。この場合も、制御部40は、インク量が満量に戻っても送液ポンプ242の送液動作を停止させなくてもよい。そして、制御部40は、画像記録制御処理を終了する。
【0070】
図9は、画像記録制御処理の制御部40による制御手順の他の例を示すフローチャートである。この処理は、画像記録命令が取得された場合に起動され、当該命令に係る画像記録動作が終了するまで継続される。ここでは、画像記録動作が開始される前に各設定がなされる。
【0071】
画像記録制御処理が開始されると、制御部40は、記録画像データを取得する(ステップS111a)。制御部40は、取得された記録画像データに基づいて、現在設定されている画像記録速度におけるインクの消費量を推測する(ステップS111b)。
【0072】
制御部40は、脱気モジュール243の設定送液速度を取得する(ステップS112)。制御部40は、推測されたインクの消費量が脱気モジュール243による供給設定量より多いか否かを判別する(ステップS113)。消費量が供給設定量より多くないと判別された場合には(ステップS113で“NO”)、制御部40の処理は、ステップS121に移行する。
【0073】
消費量が供給設定量より多いと判別された場合には(ステップS113で“YES”)、制御部40は、消費量が供給設定量以下となる画像記録速度に低下設定する(ステップS114)。制御部40は、速度低下を示す表示を表示部461に行わせる(ステップS115)。制御部40は、所定時間待機し、速度変更を不可とする指示の入力があったか否かを判別する(ステップS116)。速度変更不可の指示がないと判別された場合には(ステップS116で“NO”)、制御部40の処理は、ステップS121に移行する。
【0074】
ステップS113、S116の処理からステップS121に移行すると、制御部40は、設定されている画像記録速度で記録動作を開始する(ステップS121)。制御部40は、画像記録動作が終了したか否かを判別する(ステップS122)。終了していないと判別された場合には(ステップS122で“NO”)、制御部40は、ステップS122の処理を繰り返す。画像記録動作が終了したと判別された場合には(ステップS122で“YES”)、制御部40は、画像記録速度を元の設定値(初期値)に戻す(ステップS123)。そして、制御部40は、画像記録制御処理を終了する。
【0075】
ステップS116の判別処理で、画像記録速度の低下不可の指示があったと判別された場合には(ステップS116で“YES”)、制御部40は、画像記録速度を元の設定値(初期値)に戻す(ステップS117)。制御部40は、画像記録動作を開始する(ステップS131)。
【0076】
制御部40は、画像記録動作が終了したか否かを判別する(ステップS132)。終了したと判別された場合には(ステップS132で“YES”)、制御部40は、画像記録制御処理を終了する。終了していないと判別された場合には(ステップS132で“NO”)、制御部40は、第2タンク245の脱気済みインク量が第2基準量以下であるか否かを判別する(ステップS133)。第2基準量以下ではないと判別された場合には(ステップS133で“NO”)、制御部40の処理は、ステップS132に戻る。
【0077】
第2タンク245の脱気済みインク量が第2基準量以下であると判別された場合には(ステップS133で“YES”)、制御部40は、記録ヘッド22による画像記録動作を中断させる(ステップS134)。なお、制御部40は、即座に画像記録動作を中断させる必要はなく、第2基準量以下となった時点で記録途中の画像の記録が完了するまで待機してよい。制御部40は、第2タンク245が満量になったか否かを判別する(ステップS135)。満量になっていないと判別された場合には(ステップS135で“NO”)、制御部40は、ステップS135の処理を繰り返す。
【0078】
第2タンク245が満量になったと判別された場合には(ステップS135で“YES”)、制御部40は、記録ヘッド22による画像記録動作を再開させる(ステップS136)。このとき、制御部40は、送液ポンプ242の動作を停止させなくてよい。それから、制御部40の処理は、ステップS132に戻る。
【0079】
以上のように、本実施形態のインクジェット記録装置1は、供給されるインク中の空気を除去する脱気部24cと、脱気されたインクを吐出して記録動作を行う記録ヘッド22と、制御部40と、を備える。制御部40は、検出部として、脱気済みかつ吐出前のインク量を検出し、検出したインク量に基づいて、脱気済みのインクが不足しないように記録ヘッド22によるインク吐出動作を制御する。
このように、脱気済みのインク量に基づいて記録動作の側を制御することで、脱気モジュール243の劣化が多少進んでも、インク使用量が特に多い画像記録動作を行う場合にのみ画像記録速度や記録動作継続時間を調整すればよいので、このインクジェット記録装置1では、脱気モジュール243を大型化せず、即座に交換を必要とせず、画質も低下させず、多くの場合には画像記録動作の速度にも影響せずに効率よく安定して画像の記録動作を継続させることができる。特に、画一的な判断でなく、インク消費量が少ない画像の記録動作時には通常の画像記録速度を維持することができるので、柔軟に効率よく画像の記録動作が行われる。
【0080】
また、制御部40は、脱気部24cからのインクの供給量よりも記録ヘッド22によるインクの消費量の方が大きい場合に、記録ヘッド22による記録動作速度を低下させる。すなわち、脱気部24cの脱気能力が若干劣化しても、劣化した脱気能力では必要なインクを供給できないほど多くのインクを消費(吐出)する場合にのみ、インク供給量に応じた速度まで記録動作速度を低下させることで、安定して画像の記録動作を継続させることができる。
【0081】
また、記録動作速度の低下には、記録ヘッド22による記録動作の一時的な中断が含まれる。同一画像を異なる記録動作速度で記録すると、相対的に、質感などを含む画質が変化する場合がある。このような場合には、脱気済みインクが不足した場合に一時的に記録動作を中断させて、通常速度での記録動作を維持することで、画質に影響させないようにしてもよい。このような制御でも、インクの消費量が特に多い場合に平均的な画像記録速度が若干低下するだけであるので、安定して効率的に画像の記録動作を継続させることができる。
【0082】
また、一時的な中断は、記録動作中の画像の記録が完了した後に行われる。すなわち、一の画像を記録中に中断しないので、記録画像の雰囲気が途中で変化するような記録動作を避けることができる。このような制御は、一時的な中断を行う基準となる脱気済みインク量を適切に定めておくことで、中断をすべきと判断したタイミングから実際に中断をするまでの時差が生じても、実際に脱気済みインクが枯渇して画質が低下するような状況にはならないようにすることができる。
【0083】
また、インクジェット記録装置1は、脱気部24cによる脱気済みのインクを貯留する第2タンク245を備える。インクの流出路以外を密閉した第2タンク245を備えることで、脱気された状態を維持したインクをまとまった量保持しておくことができ、これにより、短時間で画像記録動作の中断と再開とを繰り返すことなく、より安定して画像の記録動作を継続させることができる。
【0084】
また、インクジェット記録装置1は、所定の報知動作を行う報知部46を備える。制御部40は、記録ヘッド22の動作に応じて記録動作速度を一時的に低下させた場合に、報知部46に報知動作を行わせる。
これにより、記録動作速度の変化後の画像をユーザーが確認することができ、変化前後で画質が変化しているなどの問題が生じていないか確認して断続記録動作(一時的な中断)に切り替えるなどのより適切な処理を行うことができる。
【0085】
また、インクジェット記録装置1は、脱気部24cへのインクの送液動作を行う送液ポンプ242を備え、制御部40は、算出部として、脱気部24cの使用期間に応じた当該脱気部24cの最大脱気速度を算出し、算出された最大脱気速度以下で送液ポンプ242による送液速度を調整する。このように、脱気部24cの脱気可能な速度に応じて送液ポンプ242の送液速度を調整することで、脱気度を適切に100%程度に保ちつつ、可能な脱気インク量を安定して供給することができる。
【0086】
また、インクジェット記録装置1は、脱気部24c(脱気モジュール243)を加熱するインク加熱部23を備える。制御部40は、算出部として、インク加熱部23による脱気部24cの加熱継続時間に基づいて最大脱気速度を算出する。脱気モジュール243の特に中空糸膜の材料は、熱により劣化しやすいので、使用期間の長さを示すパラメーターとして、インク加熱部23の加熱時間が精度よく用いられ得る。この加熱時間に応じて精度よく劣化度合が特定され、これに応じて最大脱気速度が算出されることで、実際には脱気度が不足していたり、脱気済みインクの供給量が本来可能な量よりも小さくなりすぎたりして、画像記録動作に悪影響を及ぼす可能性を低減させることができる。
【0087】
また、脱気部24cは、一方の面側(外側)がインクに接する中空糸膜を有し、当該中空糸膜のインクに接する側とは反対側(内側)を減圧して、インクに溶存する空気がこの中空糸膜を透過することで脱気させる。制御部40は、算出部として、脱気部24cにおける減圧の動作継続時間に基づいて最大脱気速度を算出する。
中空糸膜など脱気モジュール243の劣化は、上記の加熱時間に加えて、減圧による内外両面間の圧力差によっても進み得る。したがって、劣化の度合の算出に減圧動作の時間を考慮することでも、適切に最大脱気速度を算出することができる。
【0088】
また、制御部40は、算出部として、送液ポンプ242による送液合計量に基づいて最大脱気速度を算出する。インクの通過自体の影響、及び送液合計量と上記加熱時間又は減圧時間などとの関係性などに基づいて、送液合計量と脱気モジュール243の劣化にも対応関係が現れる。したがって、送液合計量に基づいて最大脱気速度を算出しても大きなずれなく適切に脱気させた脱気済みインクを可能な範囲で供給することができる。
【0089】
また、インクジェット記録装置1は、脱気部24cの使用期間の長さに対する最大脱気速度の算出に係るデータとして、例えば、加熱継続時間と脱気度合の劣化度との対応関係の変化を示す脱気劣化情報4022を記憶する記憶部402を備える。これを参照することで、容易な演算で精度よく劣化の度合に応じた現時点の最大脱気速度を算出することができる。
【0090】
また、制御部40は、記録動作時にインク吐出動作に対して加えられた制限、すなわち、記録動作速度の低下や一時中断などの度合(発生頻度など)が所定の基準以上の場合に、脱気部24c、特に脱気モジュール243の交換を促す情報を出力する。このように、脱気モジュール243の劣化が徐々に進んで、実際の画像記録への影響が無視できなくなってきた場合には、脱気モジュール243を交換するのがよいので、ユーザーに促すのがよい。このような状態でも脱気モジュール243をさらに使い続けてよいか否かはユーザー次第でもあるので、あえて画像記録動作自体を中止する必要はなく、ユーザーに報知する程度とするのがよい。
【0091】
また、本実施形態の記録制御方法は、供給量及び消費量に基づいて得られる脱気済みのインク残量に基づいて記録ヘッド22によるインク吐出動作を制御するインク量対応ステップを含む。このように、この記録制御方法では、脱気済みインク量、特にその減少に基づいて、脱気済みインクを不足させないようにインク吐出動作の速度や頻度を調整することで、多くの場合に余剰能力が大きすぎる脱気モジュールを用いることで大型化したりコスト増が生じたりすることなく、一方で、脱気モジュール243の劣化が生じた途端その交換が必要になるほど余裕のない動作として手間や交換コストの増大が生じることもなく、記録画像の内容や記録回数などに応じて必要な場合のみ若干制限をかける程度で留め、安定して継続的に効率よく画像記録動作を行うことができる。
【0092】
なお、本発明は、上記実施の形態に限られるものではなく、様々な変更が可能である。
例えば、上記実施の形態では、第2タンク245へのインクの供給量(送液ポンプ242の送液量)及び消費量(供給ポンプ246の送液量)の差分によって脱気済みインク量の計測を行うこととしたが、計測方法はこれに限られない。例えば、第2タンク245の重量に応じて脱気済みインク量が直接計測されてもよいし、第2タンク245内のインクに対し、上下方向に所定の光を照射して透過光強度などに基づいて脱気済みインク量が計測されてもよい。また、ポンプの動作量ではなく、インク供給部24のインク減少量及び記録ヘッド22のインク吐出量の差分によってインク残量が求められてもよい。あるいは、脱気モジュール243の流出(入)量及び第2タンク245の流出量を計測する流量計を備えて、当該流量計の計測結果に基づいてインク残量が求められてもよい。
【0093】
また、上記実施の形態では、直接インクの使用量に基づいてインク吐出動作の制御を行うだけでなく、インクの供給及び消費の見込み量に基づいてインク量を推定し、インク吐出動作の制御を行ってもよいこととしたが、この場合、消費量として単純な吐出量だけでなく、ノズル開口での蒸発量などに応じたファクターを乗じた値を用いてもよい。
【0094】
また、上記実施の形態では、送液ポンプ242により、各時点で100%程度の脱気量が得られる最大脱気速度でインクを間欠的又は必要に応じて連続的にインクを送液させることとしたが、供給量が消費量より多い場合には、最大脱気速度よりも低い速度で継続的にインクを送液させてもよい。
【0095】
また、上記実施の形態では、劣化度合の算出に、加熱継続時間、減圧継続時間又は合計送液量を用いることとしたが、これらのうち複数が併用されてもよい。あるいは、これら以外のパラメーターが代用又は併用されてもよい。例えば、インクによって加熱温度が変化する場合には、加熱継続時間に加熱設定温度のファクターを乗じることとしてもよい。
【0096】
また、上記実施の形態では、脱気劣化情報4022により脱気度の劣化度合の情報を取得したが、所定の算出プログラム中に計算式などの形で容易に算出可能に保持されていてもよい。
【0097】
また、上記実施の形態では、インクが加熱されることを前提として説明したが、加熱が必要なインクでなくてもよく、この場合には、インクの加熱時間を劣化度合に考慮しなくてよい。
【0098】
また、脱気モジュール243を含む脱気部24cの構成は、上記実施の形態に限られず、その他のものであってもよい。
【0099】
また、上記実施の形態では、記録動作速度の低下時に報知動作などを行って、低下を禁止した場合に断続的な画像記録動作に切り替えるものとして説明したが、これに限られない。始めから断続的な画像記録動作を行うように定められていてもよいし、いずれかに選択設定可能とされてもよく、これらの場合には報知動作を行わないこととしてもよい。また、記録動作速度の低下禁止指示は、速度低下の前又は後の所定時間内だけではなく、例えば、速度低下後の任意のタイミングで行うことが可能であってよい。速度低下の解消後になされた指示であっても、次回の脱気済みインク減少時の処理に反映されてよい。
【0100】
また、インクジェット記録装置1が備える記録ヘッド22は、一つであるものに限られず、複数あってもよい。複数の記録ヘッド22に応じて脱気部24cを含むインク供給に係る構成が複数が並列に設けられてもよく、この場合には、複数の脱気部24cのうちいずれかが原因で画像記録速度の低下が設定される場合には、全体で画像記録速度が低下することになる。
【0101】
また、上記実施の形態では、送液ポンプ242は、脱気モジュール243の上流側に位置し、脱気モジュール243へインクを送り込むように動作したが、脱気モジュール243の下流側に位置して、脱気モジュール243へインクを引き込むように動作してもよい。
その他、上記実施の形態で示した構成、構造、位置関係、処理内容及び手順などの具体的な細部は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0102】
1 インクジェット記録装置
22 記録ヘッド
221 圧電素子
23 インク加熱部
24 インク供給部
24c 脱気部
241 第1タンク
242 送液ポンプ
243 脱気モジュール
2441 フィルター
2442 大気開放弁
2443 真空動作弁
2444 廃液タンク
2445 真空吸引部
245 第2タンク
2451 フロートセンサー
246 供給ポンプ
247 背圧タンク
40 制御部
401 CPU
402 記憶部
4021 脱気装置情報
4022 脱気劣化情報
41 搬送駆動部
42 ヘッド駆動部
44 通信部
45 操作受付部
46 報知部
461 表示部
462 報知出力部
N ノズル