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  • 特許-不燃シートの製造方法及び不燃シート 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-18
(45)【発行日】2023-12-26
(54)【発明の名称】不燃シートの製造方法及び不燃シート
(51)【国際特許分類】
   C08J 9/04 20060101AFI20231219BHJP
   B32B 5/18 20060101ALI20231219BHJP
   B32B 5/32 20060101ALI20231219BHJP
   B32B 27/18 20060101ALI20231219BHJP
   B32B 27/30 20060101ALI20231219BHJP
【FI】
C08J9/04
B32B5/18
B32B5/32
B32B27/18 Z
B32B27/30 101
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2019147648
(22)【出願日】2019-08-09
(65)【公開番号】P2021028361
(43)【公開日】2021-02-25
【審査請求日】2022-07-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】TOPPANホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105854
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 一
(74)【代理人】
【識別番号】100116012
【弁理士】
【氏名又は名称】宮坂 徹
(72)【発明者】
【氏名】大島 野乃花
【審査官】福井 弘子
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-135598(JP,A)
【文献】特開平11-255937(JP,A)
【文献】特開昭50-065572(JP,A)
【文献】特開2011-070019(JP,A)
【文献】特開平11-216830(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 9/00-9/42
B29C 44/00-44/60
B29C 67/20
B32B 1/00-43/00
B29C 55/00-55/30
B29C 61/00-61/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも無機質材料を含む基材層を有する不燃シートの製造方法であって、
前記無機質材料の含有量は、前記基材層の質量に対して、15質量%以上90質量%以下の範囲内であり、
前記無機質材料と樹脂と発泡剤とを含む混合物を1軸延伸又は2軸延伸すると共に前記発泡剤を発泡させて前記基材層を形成し、
記樹脂は、エポキシ系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリカーボネート樹脂、メラミン樹脂、及びフェノール樹脂からなる群の中から選択される少なくとも1種であることを特徴とする不燃シートの製造方法。
【請求項2】
前記基材層を複数積層する工程を備えることを特徴とする請求項1に記載の不燃シートの製造方法。
【請求項3】
前記無機質材料は、炭酸カルシウムを含有した粉末であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の不燃シートの製造方法。
【請求項4】
前記基材層は、カーボン繊維、メタル繊維、ガラス繊維、ポリアミド繊維及びそれらの混合物からなる群の中から選択される少なくとも1種を含むことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の不燃シートの製造方法。
【請求項5】
前記基材層の少なくとも一方の面に、塩酢ビを含むウレタン系樹脂又は塩酢ビを含むアクリル系樹脂を含むアンカー層を備えることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の不燃シートの製造方法。
【請求項6】
基材層を備え、
当該基材層は、樹脂と無機質材料とを含有し、前記無機質材料の周辺に形成される空隙と前記無機質材料とは関係なく形成される空隙とを全体に散在して複数備え、
前記無機質材料の含有量は、前記基材層の質量に対して、15質量%以上90質量%以下の範囲内であり、
記樹脂は、エポキシ系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリカーボネート樹脂、メラミン樹脂、及びフェノール樹脂からなる群の中から選択される少なくとも1種であることを特徴とする不燃シート。
【請求項7】
前記基材層が複数積層されていることを特徴とする請求項6に記載の不燃シート。
【請求項8】
前記基材層の、少なくとも一方の面にアンカー層を備えることを特徴とする請求項6又は請求項7に記載の不燃シート。
【請求項9】
前記アンカー層は、塩酢ビを含むウレタン系樹脂又は塩酢ビを含むアクリル系樹脂からなることを特徴とする請求項8に記載の不燃シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、不燃シートの製造方法及び不燃シートに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、炭素繊維は、すぐれた強度及び弾性率を有することから、繊維強化プラスチックに用いられている。また、炭素繊維強化プラスチックは耐火性が低いことから例えば、非中空の繊維強化プラスチック成形部材本体の表面に発泡型耐火塗料を塗布して耐火塗膜を形成した、耐火性の繊維強化プラスチック成形部材も提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平9-53374号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、繊維強化プラスチック成形部材本体の表面に耐火塗膜を形成した繊維強化プラスチック成形部材は、耐火性の観点から不十分であり、より耐火性に優れ、さらに断熱性にも優れた部材が望まれていた。
そこで、本発明は、建築部材等として適用することの可能な耐火性及び断熱性に優れた不燃シートの製造方法及び不燃シートを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するべく、本発明の一態様に係る不燃シートの製造方法は、少なくとも無機質材料を含む基材層を有する不燃シートの製造方法であって、前記無機質材料の含有量は、前記基材層の質量に対して、15質量%以上90質量%以下の範囲内であり、前記無機質材料と樹脂と発泡剤とを含む混合物を1軸延伸又は2軸延伸すると共に前記発泡剤を発泡させて前記基材層を形成し、前記樹脂は、エポキシ系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリカーボネート樹脂、メラミン樹脂、及びフェノール樹脂からなる群の中から選択される少なくとも1種であることを特徴としている。
【0006】
また、本発明の他の態様に係る不燃シートは、基材層を備え、当該基材層は、樹脂と無機質材料とを含有し、前記無機質材料の周辺に形成される空隙と前記無機質材料とは関係なく形成される空隙とを全体に散在して複数備え、前記無機質材料の含有量は、前記基材層の質量に対して、15質量%以上90質量%以下の範囲内であり、前記樹脂は、エポキシ系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリカーボネート樹脂、メラミン樹脂、及びフェノール樹脂からなる群の中から選択される少なくとも1種であることを特徴としている。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、より優れた耐火性及び断熱性を有する不燃シートを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の一実施形態に係る不燃シートの一例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
次に、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
ここで、図面は模式的なものであり、厚みと平面寸法との関係、各層の厚みの比率等は現実のものとは異なる。また、以下に示す実施形態は、本発明の技術的思想を具体化するための構成を例示するものであって、本発明の技術的思想は、構成部品の材質、形状、構造等が下記のものに特定するものでない。本発明の技術的思想は、特許請求の範囲に記載された請求項が規定する技術的範囲内において、種々の変更を加えることができる。
【0010】
〔不燃シートの構成〕
不燃シート10は、図1に示すように、アンカー層2と、基材層1とが積層されている。
以下、不燃シート10を構成する各層について説明する。
なお、後述する各種材料の含有量は、乾燥状態における対応する層全体の質量に対する含有比率(質量%)を意味する。例えば、後述する本実施形態の無機質材料の含有量は、乾燥状態における基材層1全体の質量に対する含有比率(質量%)を意味する。また、後述するアンカー層2における、塩酢ビを含むウレタン系樹脂、又は塩酢ビを含むアクリル系樹脂の含有量は、乾燥状態におけるアンカー層2全体の質量に対する含有比率(質量%)を意味する。
【0011】
(基材層)
基材層1は、1種以上の熱可塑性樹脂と、1種以上の無機質材料とを含んだ発泡性組成物を含む層である。
本実施形態の無機質材料の含有量は、基材層1の質量に対して、15質量%以上90質量%以下の範囲内であればよく、20質量%以上80質量%以下の範囲内であればより好ましく、60質量%以上80質量%以下の範囲内であればさらに好ましい。無機質材料の含有量が基材層1の質量に対して、15質量%未満であると、相対的に熱可塑性樹脂の割合が多くなるため、不燃性又は難燃性を得にくい傾向がある。また、基材層1の表面を、ホフマンスクラッチテスターを用いて引っ掻いた際に、視認できる程度の傷が付く、即ち十分な表面硬度が得られないことがある。
【0012】
一方、無機質材料の含有量が基材層1の質量に対して、90質量%を超えると、相対的に熱可塑性樹脂の割合が少なくなる。このため、基材層1表面にアンカー層塗工もしくは印刷等を行った際に基材層1表面に所謂「粉吹き」が発生することがある。ここで、「粉吹き」とは、基材層1に含まれた無機質材料が基材層1の表面に浮き出ることをいう。また、アンカー層2を形成したシートをロール状又は枚葉で木質系基材及び石系基材にラミネートする際にラミネートしにくくなる、即ちラミネート適性が低下する傾向がある。また、アンカー層2を形成したシートを折り曲げて再び開いた際に、折り曲げた部分から割れが発生したり、無機質材料が落ちたりすることがある。
【0013】
このように、本実施形態の無機質材料の含有量が基材層1の質量に対して、15質量%以上90質量%以下、好ましくは20質量%以上80質量%以下、さらに好ましくは60質量%以上80質量%以下の範囲内であれば、不燃性又は難燃性を得つつ、粉吹きの発生を低減し、ラミネート適性を向上させ、且つシートの折り曲げ部における割れの発生を低減することができ、さらに十分な表面硬度を得ることができる。
【0014】
また、本実施形態の無機質材料は、粉末形状(粉体形状)であることが好ましく、その平均粒子径が1μm以上3μm以下の範囲内であり、且つ最大粒子径が50μm以下であることが好ましい。無機質材料の平均粒子径及び最大粒子径が上記数値範囲内であれば、熱可塑性樹脂に対する無機質材料の分散性を向上させつつ、基材層1表面の平坦性を維持することができる。無機質材料の平均粒子径が1μm未満であると、無機質材料同士の凝集力が高まり、後述する熱可塑性樹脂への分散性が低下することがある。また、無機質材料の平均粒子径が3μmを超えると、基材層1表面の平坦性が低下し、後述するアンカー層2の厚みが不均一となったり、ムラや欠けが発生したりすることがある。また、無機質材料の最大粒子径が50μmを超えると、基材層1表面の平坦性が低下し、後述するアンカー層2の厚みが不均一となったり、ムラや欠けが発生したりすることがある。なお、本実施形態において、「平均粒子径」とは、モード径を意味する。
【0015】
無機質材料は、炭酸カルシウム及び炭酸カルシウム塩の少なくとも一方を含有した粉末である。無機質材料は、炭酸カルシウムを50質量%以上100質量%以下の範囲内で含むものが好ましい。炭酸カルシウム等の含有量が50質量%以上である無機質材料であれば、基材層1に、十分な不燃性又は十分な難燃性を付与することができると共に、十分な機械強度を付与することができる。
【0016】
なお、無機質材料としては、上記炭酸カルシウム及び炭酸カルシウム塩の他に、例えば、シリカ(特に中空シリカ)、アルミナ、三酸化アンチモン、アンチモンソーダ、珪酸ジルコン、酸化ジルコンなどのジルコニウム化合物、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、塩基性炭酸マグネシウム、硼砂、ホウ酸亜鉛、三酸化モリブデンあるいはジモリブデン酸アンチモンと水酸化アルミニウムの錯体など、三酸化アンチモンとシリカの錯体、三酸化アンチモンと亜鉛華の錯体、ジルコニウムのケイ酸、ジルコニウム化合物と三酸化アンチモンの錯体、並びにそれらの塩などの少なくとも一種が挙げられる。特に、炭酸カルシウム及び炭酸カルシウム塩は製造手法による粒径のコントロールや熱可塑性樹脂との相溶性の制御が容易であり、また、材料コストとしても安価であるため不燃シートの低廉化の観点からも好適である。
【0017】
また、無機質材料は、結晶性を有する粉末材料、所謂結晶粉末であってもよいし、結晶性を有さない粉末材料、所謂アモルファスタイプの粉末材料であってもよい。無機質材料が結晶性を有する粉末材料であれば、粉末自体が均質で等方性を備えるため、粉末自体の機械強度が向上し、不燃シートの耐傷性や耐久性が向上する傾向がある。また、無機質材料がアモルファスタイプの粉末材料であれば、粉末自体の電気伝導性や熱伝導性、あるいは光透過率や光吸収率を適宜調整することが可能となるため、触感や艶等のバリエーションが豊富な意匠性を付与することが可能となる。
【0018】
本実施形態の熱可塑性樹脂は、エポキシ系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリカーボネート樹脂、メラミン樹脂、フェノール樹脂等の難燃性の樹脂を含む群の中から選択される少なくとも1種を含む。
熱可塑性樹脂と無機質材料との合計含有量は、基材層1の質量に対して、90質量%以上100質量%以下の範囲内であることが好ましい。熱可塑性樹脂と無機質材料との合計含有量が上記数値範囲内であれば、十分な不燃性又は十分な難燃性を得つつ、ラミネート適性を向上させることができる。熱可塑性樹脂と無機質材料との合計含有量が基材層1の質量に対して、90質量%未満であると、十分な不燃性又は十分な難燃性が得られないことがある。また、ラミネート適性が低下したり、シートの折り曲げ部に割れが発生したりすることがある。
【0019】
なお、熱可塑性樹脂と無機質材料との合計含有量は、基材層1の質量に対して、100質量%である場合には、熱可塑性樹脂の含有量を10質量%以上85質量%以下の範囲内とし、無機質材料の含有量を15質量%以上90質量%以下の範囲内とすることが好ましい。また、熱可塑性樹脂の含有量を20質量%以上80質量%以下の範囲内とし、無機質材料の含有量を20質量%以上80質量%以下の範囲内とすることがより好ましい。また、熱可塑性樹脂の含有量を20質量%以上40質量%以下の範囲内とし、無機質材料の含有量を60質量%以上80質量%以下の範囲内とすることがさらに好ましい。熱可塑性樹脂と無機質材料との合計含有量が上記数値範囲内であれば、十分な不燃性又は十分な難燃性を確実に得つつ、ラミネート適性を確実に向上させ、且つシートの折り曲げ部に発生する割れを確実に低減することができる。
【0020】
本実施形態の発泡剤は、分解ガス発生性発泡剤、膨張性カプセル発泡剤等のうちの少なくとも1種を用いることができる。分解ガス発生性発泡剤の好ましい例としては、アゾジカルボンアミド、ジニトロソペンタメチレンテトラミン、パラトルエンスルホニルヒドラジド、ベンゼンスルホニルヒドラジド、重炭酸ナトリウム及び炭酸アンモニウム、アゾビスイソブチロニトリル、4,4-オキシビス(ベンゼンスルホン酸ヒドラジド)、ジフェニルスルホン-3,3’-ジスルホヒドラジド、ベンゼン-1,3-ジスルホヒドラジド、p-トルエンスルホニルセミカルバジド、及び発泡性中空マイクロスフェアのうちの少なくとも1種が挙げられる。また、膨張性カプセル発泡剤としては、アクリル酸エステル、塩化ビニリデン、アクリロニトリル、ウレタン等の熱可塑性樹脂を被膜とする微小粒子中に、エタン、ブタン、ペンタン、ネオペンタン、ヘキサン、ヘプタン等の炭化水素系の揮発性膨張成分が内包されたものが挙げられる。
【0021】
また、本実施形態では。基材層1を、無機質材料と熱可塑性樹脂と発泡剤とを含む混合物から形成することで、図1に示すように、発泡剤により形成される空隙1aが全体に複数散在する基材層1を得ることができる。
発泡剤の含有量は、建築部材としての断熱性を得ることができ、かつ樹脂組成物の層間強度、また建築部材としての強度を有する量であればよく、必要に応じて調整すればよい。例えば、発泡剤の量は、基材層1が加熱された際に、少なくとも10%、25%、50%、100%、150%、200%又はそれ以上の容積のうちのいずれかの容積で発泡するようにすればよい。発泡剤の含有量は、例えば、基材層1の質量に対して、5質量%以上10質量%以下の範囲内である。
【0022】
また、基材層1は、カーボン繊維、メタル繊維(例えば、アルミニウム)、ガラス繊維、ポリアミド繊維、及びそれらの混合物からなる群から選択される繊維を含んでいてもよい。
基材層1の厚みは、50μm以上12500μm以下の範囲内であることが好ましく、70μm以上10000μm以下の範囲内であることがより好ましい。基材層1の厚みが上記数値範囲内であれば、ラミネート適性を向上させることができる。基材層1の厚みが50μm未満であると、ラミネート適性が低下する傾向がある。また、基材層1の厚みが12500μmを超えると、加工性及び施工性において取り扱いが困難となる。
【0023】
また、基材層1は、1軸延伸又は2軸延伸の基材層である。基材層1が1軸延伸又は2軸延伸の基材層であれば、不燃シート10の汎用性を高めることができる。また、基材層1が1軸延伸又は2軸延伸の基材層であれば、図1に示すように、無機質材料1bを含むことにより無機質材料1bと熱可塑性樹脂との間に、基材層1の表裏面に平行な方向に延びるような平面的(横方向)な形状を有する空隙1cが、全体に複数散在する基材層1を得ることができる。
【0024】
つまり、基材層1は、発泡剤を含む混合物を1軸延伸又は2軸延伸することにより形成されるため、図1に示すように、発泡剤により図1において厚さ方向に延びるような形状の空隙1aを無機質材料1bの位置に関係なく有し、かつ無機質材料1bの周辺に図1において横方向に延びるような形状の空隙1cを有し、結果的に、図1において横方向に延びるような形状の空隙1cと厚み方向に延びるような形状の空隙1aとが全体に複数散在する基材層1を得ることができる。
なお、不燃シート10は、基材層1を複数積層し、複数の基材層1が積層された積層体を不燃シート10として用いてもよい。
【0025】
また、基材層1の少なくとも表面に、後述するアンカー層2を形成する前に、コロナ処理やプラズマ処理等の表面処理を施すことが好ましい。基材層1の少なくとも表面に、コロナ処理やプラズマ処理等の表面処理を施すことで、表面処理が行われた面に形成されるアンカー層2と、基材層1との接着性(密着性)が向上する。基材層1のアンカー層2が形成された面とは逆側である裏面にもアンカー層を形成する場合には、基材層1の裏面にもアンカー層を形成する前に、コロナ処理やプラズマ処理等の表面処理を施すことが好ましい。
また、アンカー層2を形成する前に、基材層1の、アンカー層2を形成する面、また両面にアンカー層を形成する場合には両面を、ブラッシングして、粉吹きした無機質材料を事前に落とすようにしてもよい。
なお、アンカー層2は、使用用途によっては、設けなくともよい。
【0026】
(アンカー層)
アンカー層2は、基材層1の一方の面全体を覆うように形成された層であって、基材層1に含まれる無機質材料の粉落ちを防止するための層である。また、アンカー層2は、基材層1との密着性を向上させるための機能も備えている。
アンカー層2は、塩酢ビを含むウレタン系樹脂、又は塩酢ビを含むアクリル系樹脂を含有していることが好ましい。ここで、「塩酢ビ」とは、塩化ビニルと酢酸ビニルとの共重合体を意味する。また、「塩酢ビを含むウレタン系樹脂」とは、塩酢ビとウレタン系樹脂とを含んだ組成物であり、塩酢ビの含有量とウレタン系樹脂の含有量との比(塩酢ビの含有量(質量)/ウレタン系樹脂の含有量(質量))は80/20以上1/99以下の範囲内であればよく、50/50以上5/95以下の範囲内であれば好ましく、20/80以上10/90以下の範囲内であればさらに好ましい。
【0027】
また、「塩酢ビを含むウレタン系樹脂」は、前述の塩酢ビ及びウレタン系樹脂以外に硬化剤を含んでいてもよい。この硬化剤は、塩酢ビを含むウレタン系樹脂を確実に硬化させるために添加されるものであり、その含有量については特に限定されない。例えば、塩酢ビを含むウレタン系樹脂の含有量と、硬化剤の含有量との比(塩酢ビを含むウレタン系樹脂の含有量(質量)/硬化剤の含有量(質量))は99/1以上1/99以下の範囲内であればよく、99/1以上50/50以下の範囲内であれば好ましく、95/5以上90/10以下の範囲内であればさらに好ましい。
【0028】
アンカー層2における、塩酢ビを含むウレタン系樹脂、又は塩酢ビを含むアクリル系樹脂の含有量は、アンカー層2の質量に対し、15質量%以上100質量%以下の範囲内が好ましく、80質量%以上100質量%以下の範囲内がより好ましく、85質量%以上95質量%以下の範囲内がさらに好ましい。アンカー層2における、塩酢ビを含むウレタン系樹脂、又は塩酢ビを含むアクリル系樹脂の含有量が上記数値範囲内であれば、均一でムラや欠けのないアンカー層2を形成することができる。アンカー層2における、塩酢ビを含むウレタン系樹脂、又は塩酢ビを含むアクリル系樹脂の含有量がアンカー層2の質量に対し、乾燥状態で80質量%未満であると、使用上何ら問題はないが、アンカー層2の基材層1への食い込み比率が低下し、アンカー層2と基材層1との層間強度が低下することが僅かながらある。なお、アンカー層2における、塩酢ビを含むウレタン系樹脂、又は塩酢ビを含むアクリル系樹脂の含有量がアンカー層2の質量に対し、100質量%以下であれば使用上何ら問題はないが、95質量%、より正確には98質量%を超えると、硬化不足でアンカー層2に欠けが生じたり、アンカー層2と基材層1との層間強度が低下したりすることがある。
【0029】
また、基材層1の両面にアンカー層を形成した場合、アンカー層2における塩酢ビを含むウレタン系樹脂、又は塩酢ビを含むアクリル系樹脂の含有量は、他方の面に形成するアンカー層における塩酢ビを含むウレタン系樹脂、又は塩酢ビを含むアクリル系樹脂の含有量と同じであってもよい。即ち、アンカー層2における塩酢ビを含むウレタン系樹脂、又は塩酢ビを含むアクリル系樹脂の含有量は、他方の面に形成するアンカー層における塩酢ビを含むウレタン系樹脂、又は塩酢ビを含むアクリル系樹脂の含有量の1.0倍(0.95倍以上1.04倍以下の範囲内)であってもよい。アンカー層2における塩酢ビを含むウレタン系樹脂、又は塩酢ビを含むアクリル系樹脂の含有量が、他方の面に形成されるアンカー層における塩酢ビを含むウレタン系樹脂、又は塩酢ビを含むアクリル系樹脂の含有量と同じである場合には、基材層1の両面に形成されるアンカー層どうしの物性がほぼ同じになるため、基材層1がその両面にアンカー層2を備えた状態において、歪みや反り等の発生を低減することができる。そのため、不燃シート全体の歪みや反り等の発生を低減することができる。また、基材層1の両面それぞれに形成するアンカー層のための塗工液を共通化することができるため、製造コストを低減するとともに、作業効率を向上させることができる。
【0030】
また、アンカー層2における塩酢ビを含むウレタン系樹脂、又は塩酢ビを含むアクリル系樹脂の含有量は、他方の面に形成したアンカー層における塩酢ビを含むウレタン系樹脂、又は塩酢ビを含むアクリル系樹脂の含有量よりも多くてもよいし、少なくてもよい。アンカー層2における塩酢ビを含むウレタン系樹脂、又は塩酢ビを含むアクリル系樹脂の含有量が、他方の面に形成したアンカー層における塩酢ビを含むウレタン系樹脂、又は塩酢ビを含むアクリル系樹脂の含有量よりも多い、又は少ない場合には、基材層1の両面に形成されたアンカー層それぞれの物性が異なるため、両面にアンカー層を備えた基材層1に、歪みや反り等を付与することができる。このように、基材層1に歪みや反り等を付与することで、その基材層1を湾曲した表面を備える基材等に隙間なく貼り合せることができる。例えば、アンカー層2における塩酢ビを含むウレタン系樹脂、又は塩酢ビを含むアクリル系樹脂の含有量は、他方の面に形成したアンカー層における塩酢ビを含むウレタン系樹脂、又は塩酢ビを含むアクリル系樹脂の含有量の1.1倍以上10倍以下であってもよく、0.1倍以上0.9倍以下であってもよい。
【0031】
アンカー層2の厚みは、例えば、0.5μm以上20μm以下の範囲内であり、好ましくは、0.5μm以上10μm以下の範囲内である。また、基材層1の両面にアンカー層が形成された場合、両面に形成されたアンカー層の厚みは、同じであってもよい。基材層1の両面に形成されたアンカー層それぞれの厚みが同一である場合には、両面に形成されたアンカー層の物性がほぼ同じになるため、基材層1が両面にアンカー層を備えた状態において、歪みや反り等の発生を低減することができる。
また、アンカー層2の厚みは、他方の面に形成したアンカー層の厚みよりも厚くてもよいし、薄くてもよい。基材層1の両面に形成されたアンカー層2の厚みを異なるものとすることで、光沢差が生じるため、基材層1の表面側と裏面側とを容易に視認することができる。
【0032】
〔不燃シートの製造方法〕
不燃シート10の製造方法の一例について、簡単に説明する。
まず、基材層1を形成する。
すなわち、無機質材料、熱可塑性樹脂、及び発泡剤を配合する。これら成分を、例えば、スーパーミキサー、ヘンシェルミキサー、タンブラーミキサー、リボンブレンダー等の公知の混合機を用いて混合する。
基材層1に含有される各成分を混合した後、一軸あるいは二軸押出機で加熱混錬し、基材層1に含有される各成分を混合した混合物からなるペレットを作成し、Tダイ押出等の公知の成形機を用いて、溶融、製膜する。その後、一軸又は二軸に延伸して均一な微孔径を有する基材層1を形成する。次に、基材層1を加熱し、発泡剤を加熱発泡させる。
【0033】
次に、基材層1の一方の面にアンカー層2を積層する。なお、基材層1の両面にアンカー層を設ける場合には、アンカー層2の作製工程において両者を同時に形成してもよい。
ここで、このようにして形成される不燃シート10に対し、ASTM E 1354「建築材料の燃焼性試験方法」に準拠した燃焼試験を行った。具体的には、コーンカロリーメータによって試験片(100mm×100mm×3mm厚)に50kW/mの熱線を輻射し、試験片を燃焼させた。加熱開始後から試験片に着荷するまでの時間を測定して、最大発熱速度を求めた。その結果、最大発熱速度が350kW/m以下であることを確認した。
【0034】
〔効果〕
上記実施形態における不燃シート10は、無機質材料を高配合量で添加した基材層1を備える。そのため、不燃シート10の耐火性及び断熱性を向上させることができる。また、熱可塑性樹脂として、難燃性を有するエポキシ系樹脂、フェノール樹脂等を用いることによって、耐火性を向上させることができると共に、基材層1を形成するための延伸を行う際に空隙をできやすくすることができる。そのため、延伸した際、また、発泡剤を発泡させた際に、基材層1に、多くの、またより大きな空隙を形成しやすくすることができる。より多くの空隙を有するため、断熱性をより向上させることができ、且つ遮蔽性や強度を持たせることができる。また、基材層1を1軸又は2軸延伸することで、基材層1の表裏面と平行な方向に延びるような形状を有する平面的な空隙が全体に複数散在して形成されるだけでなく、基材層1に樹脂組成物の層間強度を阻害しない範囲で発泡剤を配合しているため、基材層1の厚さ方向に延びるような形状の空隙が形成される。そのため、基材層1に立体的な空隙が形成されることになり、より一層断熱効果を高めることができる。さらに、発泡剤により形成される空隙は、空隙同士がつながり、単独で形成される空隙よりも大きな空隙となる。そのため、このような空隙を基材層1内に含有する不燃シート10を形成することでより一層断熱性を持たせることができる。そして、基材層1の耐火性及び断熱性を向上させることができるため、耐火性及び断熱性が向上した不燃シート10を実現することができ、ASTM E 1354「建築材料の燃焼性試験方法」に準拠した燃焼試験に合格する耐火性及び断熱性に優れた不燃シート10を実現することができる。
【0035】
また、空隙を形成することで断熱性の向上を図っているため、重量の大幅な増加を伴うことなく、耐火性及び断熱性に優れた不燃シート10を実現することができ、すなわち耐火性及び断熱性に優れた軽量な不燃シート10を提供することができる。
なお、上述した実施形態は、本発明の一例であり、本発明は、上述した実施形態に限定されることはなく、この実施形態以外の形態であっても、本発明に係る技術的思想を逸脱しない範囲であれば、設計等に応じて種々の偏光が可能である。
【0036】
〔実施例〕
実施例における不燃シート10は、含有した発泡剤を発泡させて基材層1を形成したものである。
ここでは、まず比較例として、発泡剤を含有させずに形成した基材層を含む不燃シートについて説明した後、実施例における不燃シート10について説明する。
比較例における不燃シートは、以下の手順で作成した。
まず、炭酸カルシウムを含む無機質材料と、熱可塑性樹脂であるフェノール樹脂とで構成される基材層を形成した。基材層の組成比は、無機質材料60質量%とし、フェノール樹脂40質量%とした。基材層の厚みは、200μmとした。なお、無機質材料の純度は、炭酸カルシウムが90質量%のものを使用した。また、無機質材料として、平均粒子径(モード径)が2μmであり、最大粒子径が50μm以下であるものを使用した。
【0037】
次に、基材層の表面及び裏面をコロナ処理した。
次に、コロナ処理した基材層の表面上に、塩酢ビを含むウレタン系アンカー層形成用インキを塗膜厚みが1μm以上2μm以下の範囲内となるように塗工し、乾燥温度40℃、乾燥時間30秒間の条件で乾燥させた。こうして、基材層の表面上にアンカー層を形成した。これを比較例4としての発泡剤を含有せずに形成した不燃シートのサンプルとした。
【0038】
発泡剤を含有し、熱可塑性樹脂としてフェノール樹脂を含む不燃シートは、比較例4において、炭酸カルシウムを含む無機質材料と、熱可塑性樹脂であるフェノール樹脂と、発泡剤としてのアゾビスイソブチロニトリルとの混合物を一次延伸し、発泡剤を発泡させて基材層を形成したこと以外は、比較例4における不燃シートと同一条件で作成した。無機質材料及び熱可塑性樹脂であるフェノール樹脂と、発泡剤としてのアゾビスイソブチロニトリルとの組成比は、発泡剤(アゾビスイソブチロニトリル)10質量%とし、フェノール樹脂と無機質材料との質量比を表1に示すように異ならせて、実施例1~3及び比較例1~3としてのサンプルを作成した。なお、比較例3は、熱可塑性樹脂として、ポリプロピレン樹脂を用いた。
【0039】
これらサンプルに対する評価項目は以下のとおりである。
【0040】
【表1】
【0041】
<燃焼試験>
ASTM E 1354に規定される燃焼試験において、50kW/mの輻射加熱条件下で30分間加熱し燃焼したときの最大発熱速度を測定した。最大発熱速度が350kW/m以下である場合を○、最大発熱速度が350kW/mより大きい場合を×とした。
【0042】
<断熱性効果>
実施例の不燃シートと比較例の不燃シートとについて、100人の試験員による官能試験にて評価した。試験炉は、開口1000mmの小型試験炉を用いた。熱源としてプロパンガスバーナを用い基材層側から加熱した。断熱性効果を感じると判定した人数が70人以上の場合を○、50人以上70人未満の場合を△、50人未満の場合を×とした。
【0043】
<評価結果>
実施例の不燃シート及び比較例の不燃シートにおける評価結果は、表1に示す通りである。発泡剤を含有せずに形成した不燃シート(比較例4)は、燃焼試験に合格せずまた断熱性効果も得られないことが確認された。また、基材層が発泡剤を含有していたとしても、熱可塑性樹脂が難燃性を有するフェノール樹脂でない場合には断熱性効果が得られないこと、また、熱可塑性樹脂が難燃性を有するフェノール樹脂であったとしても、無機質材料の含有量が基材層の質量に対して、15質量%以上90質量%以下の範囲内でなければ、燃焼試験に合格せずまた十分な断熱性効果も得ることができないことがわかる。つまり、基材層を、発泡剤を含み、且つ熱可塑性樹脂として難燃性のフェノール樹脂を含む混合物を用いて形成し、無機質材料の含有量が基材層の質量に対して、15質量%以上90質量%以下の範囲内であれば、耐火性及び断熱性が向上することが確認された。
【0044】
以上のように、基材層1を、熱可塑性樹脂と無機質材料と発泡剤とを含む混合物から発泡剤を発泡させて形成し、無機質材料の含有量を、基材層1の質量に対して、15質量%以上90質量%以下の範囲内とし、熱可塑性樹脂として、エポキシ系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリカーボネート樹脂、メラミン樹脂、及びフェノール樹脂からなる群の中から選択される少なくとも1種を用いたため、耐火性及び断熱性に優れた不燃シートを実現することができる。
【符号の説明】
【0045】
1 基材層
1a 空隙
1c 空隙
2 アンカー層
10 不燃シート
図1