(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-18
(45)【発行日】2023-12-26
(54)【発明の名称】光透過型表示機材用人工皮革
(51)【国際特許分類】
D06N 3/00 20060101AFI20231219BHJP
【FI】
D06N3/00
(21)【出願番号】P 2019151712
(22)【出願日】2019-08-22
【審査請求日】2022-08-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】西田 貴哉
(72)【発明者】
【氏名】宿利 隆司
(72)【発明者】
【氏名】田辺 昭大
【審査官】長谷川 大輔
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-112905(JP,A)
【文献】特開2017-165100(JP,A)
【文献】特開平07-150478(JP,A)
【文献】特開昭61-275485(JP,A)
【文献】特開2007-231468(JP,A)
【文献】特開2019-083107(JP,A)
【文献】特開2014-189674(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D06N1/00-7/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
極細繊維からなる不織布と高分子弾性体とで構成される人工皮革であって、前記極細繊維は繊維束を形成しており、
前記繊維束はそれぞれ2本以上500本以下の極細繊維を含み、
前記高分子弾性体の空隙率が1%以下であ
り、
色差計で測定したL値が50以下であり、
全光線透過率が10%以上50%以下であり、
前記人工皮革の断面において、極細繊維の繊維束の断面の外周の35%以上100%以下に高分子弾性体が密着していて、
厚みが0.5mm以上1.2mm以下であり、
前記高分子弾性体内部に1価陽イオン含有無機塩が前記高分子弾性体質量対比で0.1重量%以上1質量%以下存在する、
光透過型表示機材用人工皮革。
【請求項2】
前記色差計で測定したL値が40以下である請求項1記載の光透過型表示機材用人工皮革。
【請求項3】
海成分と島成分とからなる海島型複合繊維である極細繊維発現型繊維が絡合されてなる不織布に、水溶性樹脂の水溶液を含浸し、乾燥して水溶性樹脂を付与し、
前記水溶性樹脂を付与した不織布に、親水性基を有する高分子弾性体と、1価陽イオン含有無機塩と、架橋剤と、を含有する水分散液を含浸せしめ、100℃以上180℃以下の温度で加熱処理し、前記親水性基を有する高分子弾性体を感熱凝固させ、
前記親水性基を有する高分子弾性体を感熱凝固させた不織布から前記水溶性樹脂を除去する、
光透過型表示機材用人工皮革の製造方法であって、
前記水溶性樹脂がケン化度が95%以上100%以下の高ケン化度PVAであって、
前記水分散液において、1価陽イオン含有無機塩は親水性基を有する高分子弾性体固形分対比で1質量%以上10質量%以下含有する、
請求項1または2に記載の光透過型表示機材用人工皮革の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光透過型表示機材用人工皮革に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車の運転席周りのオーディオやヒーターコントロールパネルなどを作動させるためのメカニカルスイッチが、意匠性の観点からタッチパネルへと置き換わっている。メカニカルスイッチは誤動作が少ないことや入力感があることが長所であったが、タッチパネルの採用により、スイッチをフラットで周辺内装と一体なデザインとすることができるため、不使用時には一見してスイッチが存在しないかのような印象を持たせることが可能となっている点で採用が増加している。運転席周りのスイッチ以外の車内表示機材についても、光透過性の樹脂などを表面に用いることで、使用時以外は周辺内装との境目のないデザインとすることができるため、このような光透過型表示機材の自動車内装材への採用が増加している。
【0003】
また、自動車の内装品には、商品の差別化や、ユーザーの嗜好の多様化に対応するために、より新しい表面加飾の技術が求められるようになってきている。そこで、上記のようなタッチパネルや、光透過型表示機材の表面に光透過性を有する、銀付調や、スエード調などの皮革調表皮材やそれを用いたタッチパネル、光透過型表示機材が提案されている。
【0004】
特許文献1には一領域に形成された透過部から発光部材の発光を透過させる光透過性皮革調シートが提案されている。非透光部に対して薄肉の領域をレーザーカッター等により部分的に形成することで、所望の意匠を発光表示する光透過性皮革調シートを得ている。また、この光透過性皮革調シートを用いたインモールド成形によって、光透過型表示機材が提案されている。
【0005】
特許文献2には防透性の高い表皮材を用いることで、スイッチを使用しないときは、表皮材にスイッチが隠れているためデザイン性が良好な光透過型導電成型体が提案されている。また、凹凸をつけることができるため、車載用タッチスイッチに用いれば、運転中でも前を向いた状態でスイッチの位置などを認識でき誤動作を防ぐことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2016-081817号公報
【文献】特開2017-165100号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、このような表皮材を用いた光透過型表示機材や光透過型タッチパネルは繰り返し、使用することで、表面に手垢や皮脂が付着したり、表面の立毛が摩耗したりすることで、外観品位が損なわれるという課題がある。
【0008】
特許文献1では透光部を形成するため、レーザーカッター等により部分的に薄肉の領域をつくっており、この領域では表皮材の厚みが薄いため、耐摩耗性に劣る。
【0009】
また、特許文献2の技術は、防透性が高いことで下層の色や意匠が十分に遮蔽されるため、デザイン性に優れるが、十分な光透過性を得るために、染色なし、もしくは淡色での染色が好ましく、手垢や皮脂などにより、外観品位が低下する。
【0010】
従って、本発明の目的は、十分な光透過性を有しつつ、繰り返し使用による外観品位の劣化を抑制することができる光透過型表示機材用人工皮革を得ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の光透過型表示機材用人工皮革は、極細繊維からなる不織布と高分子弾性体とで構成される人工皮革であって、前記極細繊維は繊維束を形成しており、前記繊維束はそれぞれ2本以上500本以下の極細繊維を含み、前記高分子弾性体の空隙率が1%以下である。
【0012】
本発明の好ましい態様によれば、色差計で測定したL値が50以下である。
【0013】
本発明の好ましい態様によれば、全光線透過率が10%以上50%以下である。
【0014】
本発明の好ましい態様によれば、人工皮革の断面において、極細繊維の繊維束の断面の外周の35%以上100%以下に高分子弾性体が密着している。
【0015】
本発明の好ましい態様によれば、厚みが0.5mm以上1.2mm以下である。
【発明の効果】
【0016】
本発明の光透過型表示機材用人工皮革は、十分な光透過性を有しつつ、繰り返し使用による外観品位の劣化を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】人工皮革を厚み方向に切断した断面における高分子弾性体の一例を示す顕微鏡写真である。
【
図2】
図1の断面の顕微鏡写真における領域A、領域Bを示した顕微鏡写真である。
【
図3】繊維束の断面の外周と密着する高分子弾性体を示す模式図である。
【
図4】繊維束の断面の外周に密着する高分子弾性体の一例を示す顕微鏡写真である。
【
図5】高分子弾性体の被覆率測定における高分子弾性体が密着している外周の一例を示す顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の光透過型表示機材用人工皮革は、極細繊維からなる不織布と高分子弾性体とで構成される人工皮革であって、前記極細繊維は繊維束を形成しており、前記繊維束はそれぞれ2本以上500本以下の極細繊維を含み、前記高分子弾性体の空隙率が1%以下である。なお、本明細書において、「光透過型表示機材用人工皮革」を単に「人工皮革」と記載する場合がある。
【0019】
本発明の人工皮革に用いられる極細繊維の種類としては、耐久性、特には機械的強度、耐熱性および耐光性の観点から、並びに、光透過性の観点から合成繊維が好ましく用いられる。
【0020】
極細繊維として合成繊維を用いる場合には、極細繊維を構成するポリマーとしては、例えば、ポリエステル、ポリアミド、ポリオレフィン、アクリル、ポリフェニレンスルフィド等を挙げることができる。ポリエステルとしては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポチトリメチレンテレフタレート、ポリ乳酸等を挙げることができる。また、ポリアミドとしては、ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド610、ポリアミド12等を挙げることができる。さらに、ポリオレフィンとしては、ポリエチレンやポリプロピレン等を挙げることができる。好ましくは、ポリエステルを極細繊維に用いることにより、耐久性と光透過性を両立しやすくすることができる。
【0021】
本発明において、ポリエステルで用いられるジカルボン酸および/またはそのエステル形成性誘導体としては、テレフタル酸、イソフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、ジフェニル-4,4’-ジカルボン酸およびそのエステル形成性誘導体などが挙げられる。本発明でいうエステル形成性誘導体とは、これらジカルボン酸の低級アルキルエステル、酸無水物、アシル塩化物などであり、具体的にメチルエステル、エチルエステル、ヒドロキシエチルエステルなどが好ましく用いられる。本発明で用いられるジカルボン酸および/またはそのエステル形成性誘導体としてより好ましい態様は、テレフタル酸および/またはそのジメチルエステルである。
【0022】
本発明において、ポリエステルで用いられるジオールとしては、エチレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、シクロヘキサンジメタノールなどが挙げられ、中でもエチレングリコールが好ましく用いられる。
【0023】
極細繊維として合成繊維を用いる場合には、極細繊維を形成するポリマーには種々の目的に応じて、酸化チタン粒子などの無機粒子、潤滑剤、顔料、熱安定剤、紫外線吸収剤、導電剤、蓄熱剤、抗菌剤等を含有することができる。
【0024】
極細繊維の平均単繊維直径は、0.1μm以上10μm以下とすることが好ましい。平均単繊維直径を、10μm以下、好ましくは6μm以下とすることにより、緻密でタッチの柔らかい表面品位に優れた人工皮革が得られやすくなる。一方、平均単繊維直径を0.1μm以上、好ましくは1μm以上とすることにより、染色後の発色性や堅牢度に優れた効果を奏しやすくなる。
【0025】
ここでいう平均単繊維直径は、人工皮革を厚み方向に切断した断面を走査型電子顕微鏡(SEM)により観察し、任意の50本の極細繊維の単繊維直径を3ヶ所で測定して、合計150本の単繊維直径の平均値を算出して求められるものである。単繊維直径の算出は、まず単繊維の断面積を測定し、当該断面積となる円の直径を以下の式で算出する。
・単繊維直径(μm)=(4×(単繊維の断面積(μm2))/π)1/2
なお、本明細書において、人工皮革の断面とは、別途の記載がない限り、人工皮革を厚み方向に切断した断面を指す。
【0026】
極細繊維は、人工皮革において不織布の形態をなしている。不織布とすることにより、表面を起毛した際に均一で優美な外観や風合いを得ることができる。
【0027】
不織布の形態としては、長繊維不織布および短繊維不織布のいずれも用いられるが、製品面の立毛本数が多く優美な外観を得やすいことから、短繊維不織布であることが好ましい態様である。
【0028】
短繊維を用いて、ニードルパンチにより不織布を製造する際の極細繊維の繊維長は、好ましくは25mm以上90mm以下である。繊維長を90mm以下、好ましくは80mm以下、より好ましくは70mm以下とすることにより、良好な品位と風合いが得られやすくなる。また、繊維長を25mm以上、好ましくは35mm以上、より好ましくは40mm以上とすることにより、耐摩耗性に優れた人工皮革になりやすくすることができる。
【0029】
極細繊維からなる不織布は、極細繊維の束(繊維束)が絡合してなる構造を有する。極細繊維が束の状態で絡合していることによって、人工皮革の強度が向上する。このような態様の不織布は、例えば、極細繊維発生型繊維同士をあらかじめ絡合した後に、極細繊維を発現させることによって得ることができる。
【0030】
本発明において、人工皮革は、前記極細繊維が2本以上500本以下の繊維束であって、高分子弾性体がその繊維束の周囲を実質的に拘束していることが好ましい。繊維束を構成する極細繊維が2本以上、好ましくは5本以上、さらに好ましくは10本以上であることで、十分な人工皮革の強度を得ることができる。また、繊維束を構成する極細繊維が500本以下、好ましくは100本以下、さらに好ましくは50本以下であることで、極細繊維発生型繊維を絡合に適した繊維径とすることができる。
【0031】
本発明の人工皮革を構成する高分子弾性体は、常温でゴム弾性を有する高分子化合物のことを示す。高分子弾性体のバインダー効果により、極細繊維が人工皮革から抜け落ちることを防止することができるだけでなく、適度なクッション性を付与することが可能となる。
【0032】
本発明の光透過型表示機材用人工皮革は、高分子弾性体の空隙率が1%以下であることが重要である。高分子弾性体の空隙率が低い、つまり、高分子弾性体が無孔状であることで、人工皮革内部での光の乱反射を抑制し、人工皮革の光透過性を向上できる。また、人工皮革断面における、極細繊維および高分子弾性体間の空間が拡大することで、光の直進性が向上し、光透過性の向上につながる。高分子弾性体の空隙率が、好ましくは0.5%以下、さらに好ましくは0.1%以下であることで、さらに光透過性が向上する。
【0033】
ここで、高分子弾性体の空隙率とは、「人工皮革を厚み方向に切断した断面において、極細繊維の繊維束以外の部分に存在する高分子弾性体のうち、前記断面上に存在する高分子弾性体」(以下、領域Aという場合がある)の面積を100%としたときの、前記領域Aの内側に存在する空隙の面積(以下、領域Bという場合がある)の割合を百分率で表した数値である。なお、領域Aには、領域Bの空隙も含まれる。
【0034】
高分子弾性体の空隙率測定の具体例を
図1、
図2に示す。
図1は人工皮革を厚み方向に切断した断面における高分子弾性体の一例を示す顕微鏡写真である。また、
図1の断面の顕微鏡写真における領域A、領域Bを示したものが
図2である。
図1、2に示したとおり、領域Aは、極細繊維の繊維束以外の部分に存在する高分子弾性体のうち、断面上に存在する高分子弾性体である。すなわち、断面の顕微鏡写真において、奥行方向に存在する高分子弾性体は領域Aには含まれず、断面の面上に存在する高分子弾性体のみが領域Aに含まれる。そして、領域Bは、領域A中に存在する空隙である。
【0035】
高分子弾性体の空隙率を1%以下とするための手段としては、例えば、高分子弾性体を極細繊維からなる不織布に付与する際に、高分子弾性体を含む溶液を不織布に含浸させ、溶媒を蒸発させることで高分子弾性体を凝固させる方法を採用することが挙げられる。一方で、高分子弾性体を含む溶液を含浸させた不織布を、高分子弾性体の非溶媒などの凝固液に浸漬させて高分子弾性体を凝固させる方法は、高分子弾性体内部で溶媒と凝固液が置換された際に空隙が発生するため好ましくない。
【0036】
高分子弾性体としては、ポリウレタン、ポリウレア、エチレン・酢酸ビニルエラストマー、ポリアクリル酸やアクリロニトリル・ブタジエンエラストマー等のアクリル系弾性体、スチレン・ブタジエンエラストマー、ポリビニルアルコール、ポリ塩化ビニル、ポリエチレングリコール等が挙げられ、耐久性と圧縮特性の観点からは、ポリウレタン、アクリル系弾性体、ポリ塩化ビニルが好ましく用いられる。高分子弾性体には、複数の高分子弾性体を含有せしめることができる。
【0037】
本発明で特に好ましく用いられる高分子弾性体としては、ポリウレタンが挙げられる。特に水分散型ポリウレタンは、極細繊維からなる不織布に付与する際に、水を蒸発させる、乾熱凝固法により付与することができる。そのため、高分子弾性体の内部に空隙を発生させにくい。
【0038】
水分散型ポリウレタン樹脂としては、数平均分子量が好ましくは500以上5000以下の高分子ポリオールと、有機ポリイソシアネートと、鎖伸長剤との反応により得られる樹脂が好ましく用いられる。また、水分散型ポリウレタン分散液の安定性を高めるために、親水性基を有する活性水素成分含有化合物を併用することが好ましい。高分子ポリオールの数平均分子量を500以上、より好ましくは1500以上とすることにより、風合いが硬くなるのを防ぎやすくすることができる。また、数平均分子量を5000以下、より好ましくは4000以下とすることにより、バインダーとしてのポリウレタンの強度を維持しやすくすることができる。以下に高分子弾性体として、水分散型ポリウレタン樹脂を用いた場合について説明する。
【0039】
(1)水分散型ポリウレタン樹脂の各反応成分
まず、水分散型ポリウレタン樹脂の各反応成分について説明する。
【0040】
(1-1)高分子ポリオール
本発明の人工皮革において用いることができる高分子ポリオールとして、ポリエーテル系ポリオール、ポリエステル系ポリオール、ポリカーボネート系ポリオール等を挙げることができる。
【0041】
ポリエーテル系ポリオールとしては、多価アルコールやポリアミンを開始剤として、エチレンオキシド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイド、スチレンオキサイド、テトラヒドロフラン、エピクロルヒドリン、シクロヘキシレン等のモノマーを付加・重合して得られるポリオール、および、前記モノマーをプロトン酸、ルイス酸およびカチオン触媒等を触媒として開環重合して得られるポリオールが挙げられる。具体的には、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等およびそれらを組み合わせた共重合ポリオールを挙げることができる。
【0042】
ポリエステル系ポリオールとしては、各種低分子量ポリオールと多塩基酸とを縮合させて得られるポリエステルポリオールやラクトンを開重合することによって得られるポリオール等を挙げることができる。
【0043】
低分子量ポリオールとしては、例えば、エチレングリコール、1,3-プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,7-ヘプタンジオール、1.8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール、1,10-デカンジオール等の直鎖アルキレングリコールや、ネオペンチルグリコール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、2,4-ジエチル-1,5-ペンタンジオール、2-メチル-1,8-オクタンジオール等の分岐アルキレングリコール、1,4-シクロヘキサンジオールなどの脂環式ジオール、1,4-ビス(β-ヒドロキシエトキシ)ベンゼン等の芳香族2価アルコール等から選ばれる1種または2種以上が挙げられる。また、ビスフェノールAに各種アルキレンオキサイドを付加させて得られる付加物も、低分子量ポリオールとして使用可能である。
【0044】
また、多塩基酸としては、例えば、コハク酸、マレイン酸、アジピン酸、グルタル酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジカルボン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、ヘキサヒドロイソフタル酸等からなる群から選ばれる1種または2種以上が挙げられる。
【0045】
ポリカーボネート系ポリオールとしては、ポリオールとジアルキルカーボネート、ジアリールカーボネート等のカーボネート化合物との反応によって得られる化合物を挙げることができる。
【0046】
ポリカーボネートポリオールの製造原料のポリオールとしては、ポリエステルポリオールの製造原料で挙げたポリオールを用いることができる。ジアルキルカーボネートとしては、ジメチルカーボネートやジエチルカーボネート等を用いることができる。ジアリールカーボネートとしてはジフェニルカーボネート等を用いることができる。
【0047】
本発明の人工皮革において、前記高分子弾性体がポリエーテルポリオールを構成成分として含有することが好ましい。なお、本明細書において、「構成成分として含有する」とは、高分子弾性体を構成するモノマー成分、オリゴマー成分として含有することをいう。ポリエーテルポリオールは、そのエーテル結合の自由度が高いことでガラス転移温度が低く、且つ凝集力も弱い為に柔軟性に優れるポリウレタンが得られやすくなる。
【0048】
本発明の人工皮革において、前記高分子弾性体が、2種類以上の高分子弾性体からなることも好ましい態様である。例えば、構成成分としてポリエーテルポリオールを含む、親水性基を有する高分子弾性体Aと、構成成分としてポリカーボネートジオールを含む、親水性基を有する高分子弾性体Bとすることができる。柔軟性に優れる構成成分としてポリエーテルポリオールを含む、親水性基を有する高分子弾性体Aと、光や熱などの外的刺激に対する耐久性に優れる構成成分としてポリカーボネートジオールを含む、親水性基を有する高分子弾性体Bの両者を人工皮革内部に含むことで、柔軟かつ耐久性に優れる人工皮革が得られやすくなる。
【0049】
(1-2)有機ジイソシアネート
本発明で用いられる有機ジイソシアネートとしては、炭素数(NCO基中の炭素を除く、以下同様。)が6以上20以下の芳香族ジイソシアネート、炭素数が2以上18以下の脂肪族ジイソシアネート、炭素数が4以上15以下の脂環式ジイソシアネート、炭素数が8以上15以下の芳香脂肪族ジイソシアネート、これらのジイソシアネートの変性体(カーボジイミド変性体、ウレタン変性体、ウレトジオン変性体など。)およびこれらの2種以上の混合物等が含まれる。
【0050】
前記炭素数が6以上20以下の芳香族ジイソシアネートの具体例としては、1,3-および/または1,4-フェニレンジイソシアネート、2,4-および/2,6-トリレンジイソシアネート、2,4’-および/または4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート(以下MDIと略記)、4,4’-ジイソシアナトビフェニル、3,3’-ジメチル-4,4’-ジイソシアナトビフェニル、3,3’-ジメチル-4,4’-ジイソシアナトジフェニルメタン、および1,5-ナフチレンジイソシアネートなどが挙げられる。
【0051】
前記炭素数が2以上18以下の脂肪族ジイソシアネートの具体例としては、エチレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、ドデカメチレンジイソシアネート、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、2,6-ジイソシアナトメチルカプロエート、ビス(2-イソシアナトエチル)カーボネート、および2-イソシアナトエチル-2,6-ジイソシアナトヘキサエートなどが挙げられる。
【0052】
前記炭素数が4以上15以下の脂環式ジイソシアネートの具体例としては、イソホロンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタン-4,4’-ジイソシアネート、シクロヘキシレンジイソシアネート、メチルシクロヘキシレンジイソシアネート、ビス(2-イソシアナトエチル)-4-シクロヘキシレン-1,2-ジカルボキシレート、および2,5-および/または2,6-ノルボルナンジイソシアネートなどが挙げられる。
【0053】
前記炭素数が8以上15以下の芳香脂肪族ジイソシアネートの具体例としては、m-および/またはp-キシリレンジイソシアネートや、α、α、α’、α’-テトラメチルキシリレンジイソシアネートなどが挙げられる。
【0054】
これらのうち、好ましい有機ジイソシアネートは、脂環式ジイソシアネートである。また、特に好ましい有機ジイソシアネートは、ジシクロヘキシルメタン-4,4’-ジイソシアネートである。
【0055】
(1-3)鎖伸長剤
本発明に用いられる鎖伸長剤としては、水、「エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ジエチレングリコールおよびネオペンチルグリコールなど」の低分子ジオール、「1,4-ビス(ヒドロキシメチル)シクロヘキサンなど」の脂環式ジオール、「1,4-ビス(ヒドロキシエチル)ベンゼンなど」の芳香族ジオール、「エチレンジアミンなど」の脂肪族ジアミン、「イソホロンジアミンなど」の脂環式ジアミン、「4,4-ジアミノジフェニルメタンなど」の芳香族ジアミン、「キシレンジアミンなど」の芳香脂肪族ジアミン、「エタノールアミンなど」のアルカノールアミン、ヒドラジン、「アジピン酸ジヒドラジドなど」のジヒドラジド、および、これらの2種以上の混合物が挙げられる。
【0056】
これらのうち好ましい鎖伸長剤は、水、低分子ジオール、芳香族ジアミンであり、更に好ましくは水、エチレングリコール、1,4-ブタンジオール、4,4’-ジアミノジフェニルメタンおよびこれらの2種以上の混合物が挙げられる。
【0057】
(2)水分散型ポリウレタン樹脂の添加剤
本発明では後述する理由により、水分散型ポリウレタンを含む溶液中に、1価陽イオン含有無機塩を含有することが好ましい。またその他にも、必要により酸化チタンなどの着色剤、紫外線吸収剤(ベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系など)や酸化防止剤[4,4-ブチリデンービス(3-メチル-6-1-ブチルフェノール)などのヒンダードフェノール;トリフェニルホスファイト、トリクロルエチルホスファイトなどの有機ホスファイトなど]などの各種安定剤、無機充填剤(炭酸カルシウムなど)などを含有させることができる。
【0058】
(3)水分散型ポリウレタン樹脂の構成
本発明で用いられる水分散型ポリウレタンにおいて、ポリウレタンに親水性基を含有させる成分として、例えば、親水性基含有活性水素成分が挙げられる。親水性基含有活性水素成分としては、ノニオン性基および/またはアニオン性基および/またはカチオン性基と活性水素とを含有する化合物等が挙げられる。
【0059】
ノニオン性基と活性水素を有する化合物としては、2つ以上の活性水素成分または2つ以上のイソシアネート基を含み、側鎖に分子量250~9000のポリオキシエチレングリコール基等を有している化合物、および、トリメチロールプロパンやトリメチロールブタン等のトリオール等が挙げられる。
【0060】
アニオン性基と活性水素を有する化合物としては、2,2-ジメチロールプロピオン酸、2,2-ジメチロールブタン酸、2,2-ジメチロール吉草酸等のカルボキシル基含有化合物およびそれらの誘導体や、1,3-フェニレンジアミン-4,6-ジスルホン酸、3-(2,3-ジヒドロキシプロポキシ)-1-プロパンスルホン酸等のスルホン酸基を含有する化合物およびそれらの誘導体、並びにこれらの化合物を中和剤で中和した塩が挙げられる。
【0061】
カチオン性基と活性水素を含有する化合物としては、3-ジメチルアミノプロパノール、N-メチルジエタノールアミン、N-プロピルジエタノールアミン等の3級アミノ基含有化合物およびそれらの誘導体が挙げられる。
【0062】
前記親水性基含有活性水素成分は、中和剤で中和した塩の状態でも用いることができる。
【0063】
ポリウレタン分子内に用いられる親水性基含有活性水素成分は、水分散型ポリウレタン樹脂の機械的強度および分散安定性の観点から、2,2-ジメチロールプロピオン酸、2,2-ジメチロールブタン酸およびこれらの中和塩を用いることが好ましい。
【0064】
本発明において、親水性基を有する高分子弾性体における親水性基とは、活性水素を有する基である。親水性基の具体例としては、水酸基やカルボキシル基、スルホン酸基、アミノ基等が挙げられる。
【0065】
また、親水性基を有する高分子弾性体に、N-アシルウレア結合および/またはイソウレア結合を有する高分子弾性体を用いることができる。親水性基を有する高分子弾性体として、水分散型ポリウレタン樹脂を用いる場合、N-アシルウレア結合および/またはイソウレア結合は、例えば、前述の親水性基含有活性水素成分として存在する水酸基および/またはカルボキシル基とカルボジイミド系架橋剤とを反応させて形成することができる。これにより親水性基を有する高分子弾性体の分子内に、耐光性や耐熱性、耐摩耗性等の物性、および柔軟性に優れるN-アシルウレア結合および/またはイソウレア結合による3次元架橋構造を付与し、人工皮革の柔軟性を保持しながら、耐摩耗性等の物性を飛躍的に向上させることが出来る。なお、高分子弾性体内部に上記N-アシルウレア基やイソウレア基が存在することは、人工皮革の断面に対して、例えば飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF-SIMS)分析等のマッピング処理を行えば分析可能である。
【0066】
本発明に用いられる親水性基を有する高分子弾性体の数平均分子量は、樹脂強度の観点から20000以上であることが好ましく、また、粘度安定性と作業性の観点から500000以下であることが好ましい。数平均分子量は、更に好ましくは30000以上150000以下である。
【0067】
前記親水性基を有する高分子弾性体の数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより求めることができ、例えば次の条件で測定される。
・機器:東ソー(株)社製HLC-8220
・カラム:東ソーTSKgel α-M
・溶媒:N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)
・温度:40℃
・校正:ポリスチレン
本発明で用いられる親水性基を有する高分子弾性体は、人工皮革中で繊維同士を適度に把持しており、好ましくは人工皮革の少なくとも片面に立毛を有する観点から、不織布の内部に存在していることが好ましい態様である。
【0068】
本発明の人工皮革において、前記高分子弾性体内部に1価陽イオン含有無機塩が前記高分子弾性体質量対比で0.1質量%以上1質量%以下存在することも好ましい態様である。0.1質量%以上であることにより、無機塩により高分子弾性体同士の融着が阻害され、空隙のない高分子弾性体でありながら柔軟な人工皮革が得られやすくなる。一方、1質量%以下であることにより、高分子弾性体内部の空隙発生を抑制しやすくなる。なお、高分子弾性体内部に上記無機塩が存在することは、人工皮革の断面に対して、例えばTOF-SIMS分析等のマッピング処理を行えば分析可能である。
【0069】
本発明の人工皮革において、前記1価陽イオン含有無機塩が塩化ナトリウムおよび/または硫酸ナトリウムであることが好ましい。これら1価陽イオン含有無機塩を用いることの意義は、後述の通りである。
【0070】
本発明の人工皮革はJIS-L1913:2010「一般不織布試験方法」6.2「単位面積当たりの質量(ISO法)」により測定される目付が、100g/m2以上500g/m2以下の範囲であることが好ましい。目付を好ましくは100g/m2以上、より好ましくは150g/m2以上とすることにより、人工皮革に十分な形態安定性と寸法安定性が得られやすくなる。一方、目付を好ましくは500g/m2以下、より好ましくは300g/m2以下とすることにより、人工皮革に十分な柔軟性が得られやすくなる。
【0071】
本発明の好ましい態様によれば、人工皮革はJIS-L1913:2010「一般不織布試験方法」6.1「厚さ(ISO法)」A法で測定される厚さが、0.5mm以上12mm以下の範囲であることが好ましい。厚さを好ましくは0.5mm以上、好ましくは0.7mm以上とすることにより、人工皮革表面の立毛の耐摩耗性が向上し、光透過型表示機材の表皮に用いた場合、繰り返し手が触れることによる立毛の摩耗が抑制しやすくできる。一方、厚さを好ましくは12mm以下、より好ましくは10mm以下とすることにより十分な柔軟性が得られ、成形加工性に富んだ人工皮革となりやすい。
【0072】
本発明の人工皮革は、少なくとも片面に立毛処理が施されていることが好ましい態様である。立毛処理により、スエード調人工皮革としたときに、緻密なタッチが得られる。
【0073】
本発明の人工皮革は、どちらか片面または両面に、樹脂からなる樹脂層を形成して、銀付人工皮革としても用いることができる。
【0074】
銀付人工皮革とする場合、樹脂層を形成する樹脂としては、例えば、ポリウレタン、アクリル系弾性体、シリコーン系弾性体、ジエン系弾性体、ニトリル系弾性体、フッ素系弾性体、ポリスチレン系弾性体、ポリオレフィン系弾性体、ポリアミド系弾性体等のエラストマーのエマルジョン、サスペンジョン、ディスパーションおよび溶液等の樹脂液が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いることもできる。これらの中では、ポリウレタンが耐摩耗性や機械的特性に優れるため好ましく用いられる。また、前記の樹脂には、必要に応じて、着色剤、紫外線吸収剤、界面活性剤、難燃剤、および酸化防止剤などを含有させることができる。
【0075】
本発明の人工皮革は、全光線透過率が10%以上50%以下であることが好ましい。ここで、全光線透過率は、JIS-K7361:1997「プラスチック-透明材料の全光線透過率の試験方法-第1部:シングルビーム法」に基づいて測定される。全光線透過率が10%以上、好ましくは15%以上、より好ましくは20%以上であることで、意匠性を有する光源もしくは液晶ディスプレイの表面等に配した際に、文字や記号を視認しやすくなる。また、50%以下、好ましくは45%以下、より好ましくは40%以下であることで、人工皮革を透過した光の滲みが少なく、文字や記号の明瞭性がより向上しやすくなる。
【0076】
全光線透過率を10%以上50%以下とするための手段としては、例えば、前述の高分子弾性体の空隙率を1%以下とすることが挙げられる。また、さらに人工皮革の厚み、L値、後述する高分子弾性体が密着している極細繊維の繊維束の外周の割合を調整することにより、全光線透過率をさらに向上させることができる。
【0077】
また、本発明の人工皮革はJIS-L1096:2010「織物及び編物の生地試験方法」8.19「摩耗強さおよび摩耗変色性」 E法(マーチンデール法)で規定されるマーチンデール摩耗試験2万回における摩耗減量が25mg以下であることが好ましい。マーチンデール摩耗試験2万回における摩耗減量が摩耗減量を25mg以下とすることで、実使用における毛羽落ちや、繰り返し使用することによる外観の劣化等を抑制しやすくなる。前記摩耗減量は、好ましくは10mg以下であり、より好ましくは8mg以下であり、さらに好ましくは5mg以下である。
【0078】
次に本発明の人工皮革を製造する方法について、一例を挙げて説明する。
【0079】
本発明において、人工皮革を構成する極細繊維を得る手段としては、極細繊維発現型繊維を用いることが好ましい態様である。極細繊維発現型繊維をあらかじめ絡合し不織布とした後に、繊維の極細化を行うことによって、極細繊維束が絡合してなる不織布を得ることができる。
【0080】
極細繊維発現型繊維としては、溶剤溶解性の異なる2成分の熱可塑性樹脂を海成分と島成分とし、前記の海成分を、溶剤などを用いて溶解除去することによって島成分を極細繊維とする海島型複合繊維や、2成分の熱可塑性樹脂を、繊維断面を放射状または多層状に交互に配置し、各成分を剥離分割することによって極細繊維に割繊する剥離型複合繊維などを採用することができる。
【0081】
中でも、海島型複合繊維は、海成分を除去することによって、島成分間、すなわち繊維束内部の極細繊維間に適度な空隙を付与することができるため、人工皮革の風合いや表面品位の観点からも好ましく用いられる。
【0082】
海島型複合繊維には、海島型複合用口金を用い、海成分と島成分の2成分を相互配列して紡糸する高分子相互配列体を用いる方式と、海成分と島成分の2成分を混合して紡糸する混合紡糸方式などを用いることができるが、均一な単繊維繊度の極細繊維が得られるという観点から、高分子相互配列体を用いる方式による海島型複合繊維が好ましく用いられる。
【0083】
本発明における極細繊維からなる不織布としては、短繊維不織布でも長繊維不織布でも用いることができる。短繊維不織布であると、人工皮革の厚さ方向を向く繊維が長繊維不織布に比べて多くなり、起毛した際の人工皮革の表面に高い緻密感を得ることができる。
【0084】
不織布として短繊維を用いてニードルパンチにより不織布とする場合には、得られた極細繊維発現型繊維に、好ましくは捲縮加工を施し、所定長にカットして原綿を得る。捲縮加工やカット加工は、公知の方法を用いることができる。
【0085】
次に、得られた原綿を、クロスラッパー等により繊維ウェブとし、絡合させることにより不織布を得る。繊維ウェブを絡合させ不織布を得る方法としては、ニードルパンチやウォータージェットパンチ等を用いることができる。
【0086】
ニードルパンチ処理に用いられるニードルにおいては、ニードルバーブ(切りかき。以下、単にバーブという場合がある)の数は好ましくは1~9本である。ニードルバーブを好ましくは1本以上とすることにより、効率的な繊維の絡合が可能となる。一方、ニードルバーブを好ましくは9本以下とすることにより、繊維損傷を抑えることができる。
【0087】
バーブに引っかかる極細繊維発現型繊維等の複合繊維の本数は、バーブの形状と複合繊維の直径によって決定される。そのため、ニードルパンチ工程で用いられる針のバーブ形状は、キックアップが0~50μmであり、アンダーカットアングルが0~40°であり、スロートデプスが40~80μmであり、そしてスロートレングスが0.5~1.0mmのバーブが好ましく用いられる。
【0088】
また、パンチング本数は、1000本/cm2以上8,000本/cm2以下であることが好ましい。パンチング本数を好ましくは1,000本/cm2以上とすることにより、緻密性が得られ高精度の仕上げを得ることができる。一方、パンチング本数を好ましくは8000本/cm2以下とすることにより、加工性の悪化、繊維損傷および強度低下を防ぐことができる。
【0089】
また、ウォータージェットパンチ処理を行う場合には、水は柱状流の状態で行うことが好ましい。具体的には、直径0.05mm以上1.0mm以下のノズルから圧力1MPa以上60MPa以下で水を噴出させることが好ましい態様である。
【0090】
ニードルパンチ処理あるいはウォータージェットパンチ処理後の複合繊維(極細繊維発現型繊維)からなる不織布の、目付を厚みで除して計算される見掛け密度は、0.15g/cm3以上0.45g/cm3以下であることが好ましい。見掛け密度を好ましくは0.15g/cm3以上とすることにより、人工皮革基材が十分な形態安定性と寸法安定性が得られる。一方、見掛け密度を好ましくは0.45g/cm3以下とすることにより、弾性重合体を付与するための十分な空間を維持することができる。
【0091】
前記の不織布には、繊維の緻密感向上のために、温水やスチーム処理による熱収縮処理を施すことも好ましい態様である。
【0092】
次に、前記の不織布に水溶性樹脂の水溶液を含浸し、乾燥することにより水溶性樹脂を付与することもできる。不織布に水溶性樹脂を付与することにより、繊維が固定されて寸法安定性が向上しやすくなる。
【0093】
前記水溶性樹脂としては、不織布の補強効果が高く、水に溶出にしにくいことから、PVAが好ましく用いられる。PVAの中でも、親水性基を有する高分子弾性体を含む水分散液付与時に水溶性樹脂を溶出しにくくできるという観点から、より水難性である高ケン化度PVAを適用することが、より好ましい態様である。
【0094】
高ケン化度PVAは、ケン化度が95%以上100%以下であることが好ましく、より好ましくは98%以上100%以下である。ケン化度を95%以上にすることにより、親水性基を有する高分子弾性体分散液付与時の溶出を抑制することができる。
【0095】
PVAの重合度は、500以上3500以下であることが好ましく、さらに好ましくは500以上2000以下である。PVAの重合度を500以上にすることにより、高分子弾性体分散液付与時の高ケン化度PVAの溶出を抑制することができる。また、PVAの重合度を3500以下にすることにより、高ケン化度PVA液の粘度が高くなりすぎず、安定して不織布に高ケン化度PVAを付与することができる。
【0096】
不織布へのPVAの付与量は、不織布の繊維質量に対し、0.1質量%以上50質量%以下であり、好ましくは1質量%以上45質量%以下である。PVAの付与量を0.1質量%以上とすることにより、柔軟性と風合いの良好な人工皮革が得られやすくなる。また、PVAの付与量を50質量%以下とすることにより、加工性が良く、耐摩耗性等の物理特性が良好な人工皮革が得られやすくなる。
【0097】
本発明の人工皮革を製造する方法の一態様では、不織布に親水性基を有する高分子弾性体樹脂を付与する。親水性基を有する高分子弾性体樹脂の付与は、複合繊維からなる不織布でも、極細繊維化された不織布でもどちらに対しても行うことができる。
【0098】
本発明の人工皮革を製造する方法の一態様では、不織布の繊維重量に対して、親水性基を有する高分子弾性体と、1価陽イオン含有無機塩と、架橋剤と、を含有する水分散液を含浸せしめ、100℃以上180℃以下の温度で加熱処理し、前記高分子弾性体を乾熱凝固させることが好ましい。
【0099】
他の凝固方法、例えば熱水中で親水性基を有する高分子弾性体を凝固させる熱水凝固法では、高分子弾性体が熱水中に拡散し、一部脱落するため、加工性に懸念がある。また、酸により親水性基を有する高分子弾性体を凝固させる酸凝固法では、シート内に残存する酸性溶液を中和する必要があり、加工操業性において好ましくない。一方で、乾熱凝固法は、親水性基を有する高分子弾性体を含浸したシートを熱風乾燥機等で加熱処理するという非常に簡易な手法であり、高分子弾性体の脱落の懸念もなく、加工性に優れる手法である。
【0100】
本発明の人工皮革を製造する方法の一態様では、親水性基を有する高分子弾性体の水分散液中に1価陽イオン含有無機塩を含有する。1価陽イオン含有無機塩を含有することで、親水性基を有する高分子弾性体の水分散液に感熱凝固性を付与することが出来る。本発明において、感熱凝固性とは、親水性基を有する高分子弾性体の水分散液を加熱した際に、ある温度(感熱凝固温度)に達すると親水性基を有する高分子弾性体の水分散液の流動性が減少し、凝固する性質のことを言う。
【0101】
親水性基を有する高分子弾性体が感熱凝固性を有していない場合、親水性基を有する高分子弾性体が水分の蒸発とともにシート表面に移行する、マイグレーションが発生しやすくなる。マイグレーションによって、人工皮革の表面にのみ高分子弾性体が偏在することで、人工皮革の風合いは著しく硬化する。
【0102】
親水性基を有する高分子弾性体の水分散液の感熱凝固温度は、80℃以上95℃以下であることが好ましい様態である。感熱凝固温度を80℃以上とすることにより、高分子弾性体が繊維束に密着した構造とすることができ、また、操業時のマシンへの高分子弾性体の付着等も抑制することができる。また、感熱凝固温度を95℃以下とすることにより、不織布の表層への高分子弾性体のマイグレーション現象を抑制することができ、優れた耐摩耗性と良好な品位を両立することが可能である。
【0103】
本発明の人工皮革を製造する方法の一態様では、感熱凝固剤として用いる無機塩において、1価陽イオン含有無機塩を用いることが好ましい。前記1価陽イオン含有無機塩は、好ましくは塩化ナトリウムおよび/または、硫酸ナトリウムである。従来手法においては、感熱凝固剤としては硫酸マグネシウムや塩化カルシウムといった2価陽イオンを有する無機塩が好適に用いられてきたが、これらの無機塩は少量の添加によっても親水性基を有する高分子弾性体の水分散液の安定性に大きく影響するため、高分子弾性体種によっては、その含有量調整による感熱ゲル化温度の厳密な制御が困難であり、また、親水性基を有する高分子弾性体の水分散液の調整時や貯蔵時におけるゲル化の懸念など課題があった。一方で、イオン価数が小さい1価陽イオン含有無機塩は、水分散液の安定性への影響が小さく、含有量を調整することで水分散液の安定性を担保しながらにして、感熱凝固温度を厳密に制御しやすくすることが出来る。
【0104】
さらに本発明の人工皮革を製造する方法の一態様では、1価陽イオン含有無機塩を、親水性基を有する高分子弾性体固形分対比で1質量%以上10質量%以下含有することが好ましい。含有量を1質量%以上とすることで、親水性基を有する高分子弾性体の水分散液が乾熱凝固性を発現し、高分子弾性体のマイグレーションを抑制することができる。一方で、含有量を10質量%以下とすることで、良好な光透過性と優れた耐摩耗性が得られやすくなる。また親水性基を有する高分子弾性体の水分散液の安定性も保持しやすくすることが出来る。
【0105】
本発明の人工皮革を製造する方法の一態様では、乾熱凝固における加熱温度は100℃以上180℃以下である。より好ましくは、120℃以上160℃以下である。加熱温度を100℃以上とすることで、親水性基を有する高分子弾性体を速やかに凝固させ、自重によるシート下面への高分子弾性体の偏在を抑えることが出来る。さらに、本発明では架橋剤との併用が必要であるが、上記温度とすることで、架橋反応を十分に促進させ、物性を向上させることが出来る。また、加熱温度を180℃以下とすることで、高分子弾性体の熱劣化を抑制することが出来る。
【0106】
親水性基を有する高分子弾性体の水分散液の濃度(親水性基を有する高分子弾性体の水分散液に対する高分子弾性体の含有量)は、親水性基を有する高分子弾性体の水分散液の貯蔵安定性の観点から、10質量%以上50質量%以下が好ましく、より好ましくは15質量%以上40質量%以下である。
【0107】
また、親水性基を有する高分子弾性体の水分散液は、貯蔵安定性や製膜性向上のために、水溶性有機溶剤を、親水性基を有する高分子弾性体の水分散液に対して40質量%以下含有していてもよいが、製膜環境の保全等の点から、有機溶剤の含有量は1質量%以下とすることが好ましい。
【0108】
本発明の人工皮革を製造する方法の一態様では、親水性基を有する高分子弾性体の水分散液に架橋剤を含有することが好ましい。架橋剤によって高分子弾性体に3次元網目構造を導入することで、耐摩耗性等の物性を向上させることが出来る。さらに前述の1価陽イオン含有無機塩と併用することで、高分子弾性体と繊維の接着構造制御によって人工皮革を柔軟化すると同時に、人工皮革の高物性化も達成可能となる。
【0109】
反応後に得られる高分子弾性体が耐光性や耐熱性、耐摩耗性に優れ、かつ柔軟性も良好であることから、前記架橋剤がカルボジイミド系架橋剤であることが好ましい。
【0110】
本発明の人工皮革を製造する方法の一態様では、前記高分子弾性体がポリエーテルポリオールを構成成分として含有することが好ましい様態である。理由は前述の(1-1)高分子ポリオールの項目にて述べたとおりである。
【0111】
また、本発明の人工皮革を製造する方法の一態様では、互いに異なる組成を有する、親水性基を有する高分子弾性体Xと、親水性基を有する高分子弾性体Yとを前記水分散液中に含有させ、親水性基を有する高分子弾性体Xを凝固させた後に親水性基を有する高分子弾性体Yを凝固させることもできる。1価陽イオンを有する無機塩の含有量を調整することで、親水性基を有する高分子弾性体Aが凝固した後に親水性基を有する高分子弾性体Bが凝固するように各々の感熱凝固温度を調整し、人工皮革中での2種類の高分子弾性体の分布を制御することが可能である。これにより例えば、親水性基を有する高分子弾性体Xをポリエーテル系高分子弾性体のような柔軟性に優れる高分子弾性体とし、親水性基を有する高分子弾性体Yを耐久性等の物性に優れるポリカーボネート系高分子弾性体とすることで、柔軟かつ物性に優れる人工皮革が得られやすくなる。
【0112】
次に、得られた不織布を溶剤で処理して極細繊維を発現させる。極細繊維の発現処理は、溶剤中に海島型複合繊維からなる不織布を浸漬させて海成分を溶解除去することにより行うことができる。尚、極細繊維の発現処理は不織布に高分子弾性体を付与する前に行ってもよい。
【0113】
極細繊維発現型繊維が海島型複合繊維の場合、海成分を溶解除去する溶剤としては、海成分がポリエチレン、ポリプロピレンおよびポリスチレンの場合には、トルエンやトリクロロエチレンなどの有機溶剤を用いることができる。また、海成分が共重合ポリエステルやポリ乳酸の場合には、水酸化ナトリウムなどのアルカリ水溶液を用いることができる。また、海成分が水溶性熱可塑性ポリビニルアルコール系樹脂の場合には、熱水を用いることができる。
【0114】
親水性基を有する高分子弾性体を付与した不織布から必要に応じてPVAを除去する工程を含んでも良い。親水性基を有する高分子弾性体付与後の不織布から、PVAを除去することにより、柔軟な人工皮革を得るものであるが、PVAを除去する方法は特に限定されず、例えば、60℃以上100℃以下の熱水にシートを浸漬し、必要に応じてマングル等で搾液することにより、溶解除去することが好ましい態様である。
【0115】
本発明の人工皮革の断面において、極細繊維の繊維束の断面の外周の35%以上100%以下に高分子弾性体が密着していることが好ましい。極細繊維の繊維束の断面の外周が、好ましくは35%以上、さらに好ましくは45%以上高分子弾性体に密着されていることで、極細繊維、もしくは高分子弾性体と空気の界面での光の反射および屈折が抑制されるため、人工皮革が厚くても十分な光透過性を有しやすくなる。また、高分子弾性体が密着している極細繊維の繊維束の外周の割合が好ましくは100%以下、さらに好ましくは80%以下であることで、高分子弾性体が極細繊維束を拘束する面積を抑え、人工皮革の風合いが硬くなることを防ぐことができる。
【0116】
図3に本発明における高分子弾性体が密着している極細繊維の繊維束の断面の外周の一例の模式図を示す。
図3において、極細繊維1が繊維束を形成している。そして、極細繊維の繊維束の断面の外周2の一部には、高分子弾性体3が密着している部分4が存在する。
【0117】
本発明において、極細繊維の繊維束の断面の外周の35%以上100%以下に高分子弾性体が密着しているとは、極細繊維の繊維束の断面の外周の長さ全体100%に対して、高分子弾性体が密着している部分の外周の長さが35%以上100%以下であることを表す。
【0118】
図4に極細繊維の繊維束の断面の外周に密着している高分子弾性体の顕微鏡写真の一例を示す。
図5は、
図4の極細繊維の繊維束の断面の外周のうち、高分子弾性体が密着している部分を実線で、密着していない部分を点線で表したものである。
【0119】
高分子弾性体が密着している繊維束外周の割合を35%以上100%以下とするための手段としては、例えば、上述のように、親水性基を有する高分子弾性体の水分散液を用いて人工皮革を作成する場合に、1価陽イオン含有無機塩の含有量を、親水性基を有する高分子弾性体固形分対比で10質量%以下とすることが挙げられる。
【0120】
高分子弾性体が付与された人工皮革は、製造効率の観点から、厚み方向に半裁してもよい。
【0121】
高分子弾性体が付与された人工皮革あるいは半裁された人工皮革の表面に、起毛処理を施すことができる。起毛処理は、例えば、サンドペーパーやロールサンダーなどを用いて、研削する方法などにより施すことができる。
【0122】
起毛処理を施す場合には、起毛処理の前にシリコーンエマルジョンなどの滑剤を付与することができる。また、起毛処理の前に帯電防止剤を付与することは、研削によって人工皮革から発生した研削粉がサンドペーパー上に堆積しにくくなるので、好ましい態様である。このようにして、起毛された人工皮革が形成される。
【0123】
本発明の人工皮革の密度は0.2~0.7g/cm3であることが好ましい。密度が0.2g/cm3以上、より好ましくは0.3g/cm3以上とすることにより、表面外観が緻密となり高級な品位を発現させやすくなる。一方、密度を0.7g/cm3以下、より好ましくは0.6g/cm3以下とすることにより、人工皮革の風合いが硬くなるのを防ぐことができる。
【0124】
本発明の人工皮革は、色差計で測定したL値が50以下であることが好ましい。ここで、L値は、JIS-Z8781-4:2013「測色-第4 部:CIE 1976 L*a*b*色空間」で規定されるL*値を表す。L値は、より好ましくは40以下、さらに好ましくは30以下である。L値がかかる範囲であることにより、光透過型タッチパネルの人工皮革として用いた際に、繰り返し使用することで付着する皮脂などの汚れによる外観の変化が抑制されやすくなる。また、L値が好ましくは10以上さらに好ましくは20以上であることで、光透過型タッチパネルの人工皮革として用いた際に、良好な視認性が得られやすくなる。
【0125】
L値を50以下とするための手段としては、例えば、極細繊維に顔料を含有させる方法や、高分子弾性体に顔料を含有させる方法、染色によって極細繊維を着色させる方法等の人工皮革を着色する方法が挙げられる。極細繊維および/または高分子弾性体に顔料を含有させる方法では、顔料によって透過光が吸収、散乱される場合があるため、染色によって極細繊維を着色する方法がより好ましい。
【0126】
人工皮革の染色方法としては、人工皮革を染色すると同時に揉み効果を与えて人工皮革を柔軟化することができることから、液流染色機を用いることが好ましい。人工皮革の染色温度は、高すぎると弾性体樹脂が劣化する場合があり、逆に低すぎると繊維への染着が不十分となるため、繊維の種類により設定することが好ましい。染色温度は、一般に80℃以上150℃以下であることが好ましく、より好ましくは110℃以上130℃以下である。
【0127】
染料は、人工皮革を構成する繊維の種類にあわせて、選択することができる。例えば、ポリエステル系繊維であれば分散染料を用い、ポリアミド系繊維であれば酸性染料や含金染料を用い、更にそれらの組み合わせを用いることができる。
【0128】
また、人工皮革の染色時に染色助剤を使用することも好ましい態様である。染色助剤を用いることにより、染色の均一性や再現性を向上させることができる。また、染色と同浴または染色後に、シリコーン等の柔軟剤、帯電防止剤、撥水剤、難燃剤、耐光剤および抗菌剤等を用いた仕上げ剤処理を施すことができる。
【実施例】
【0129】
以下、実施例を用いて本発明を更に具体的に説明するが、本発明は以下の実施例のみに限定されるものではない。
[評価方法]
(1)高分子弾性体の空隙率
走査型電子顕微鏡(SEM)で500倍の倍率でランダムに撮影した人工皮革断面画像10枚をA4サイズに印刷し、高分子弾性体の切断面の周囲(領域A)と、高分子弾性体の内部に存在する空隙の周囲(領域B)を黒線で囲んだ。撮影時に、SEMの焦点を前後させることで、高分子弾性体の切断面の境界を確認した。黒線に沿って高分子弾性体の切断面を切り抜き、電子天秤で重量を測定した(重量A)。次に領域Bを囲んだ黒線に沿って高分子弾性体の空隙を切り抜き、領域Bの重量を電子天秤で測定した(重量B)。測定した重量から下記式にて、各人工皮革断面画像における高分子弾性体の空隙率を算出し、10枚の算術平均値を空隙率とした。
【0130】
(式1) (高分子弾性体の空隙率(%))={(重量B)/(重量A)}×100
(2)人工皮革の全光線透過率
JIS-K7361:1997「プラスチック-透明材料の全光線透過率の試験方法-第1部:シングルビーム法」に基づき、濁度計(日本電色工業(株)製「NDH4000」)を用いて人工皮革について半裁面から入射するように測定した。
(3)色差測定
色彩色差計(コニカミノルタ製、CR-410)を用い、JIS-Z8781-4:2013「測色-第 4 部:CIE 1976 L*a*b*色空間」で規定されるL*a*b*値(ここでは単に「L値」「a値」「b値」とする)を測定した。光透過型表示機材との接着面と反対側の面、または、半裁面と反対側の面に対して、面内方向にランダムに測定箇所を10点選び、L値、a値、b値それぞれの平均を算出した。ただし、測定箇所を10選ぶために十分な大きさの人工皮革が得られない場合は、測定箇所1点において10回測定を実施した平均を算出し、L値、a値、b値とした。
(4)繊維束の断面の外周に密着している高分子弾性体の割合(高分子弾性体被覆率)
走査型電子顕微鏡(SEM)で500倍の倍率でランダムに撮影した人工皮革断面の10枚において、極細繊維の長さ方向と人工皮革断面とのなす角が、45°から90°である極細繊維の繊維束のうち、高分子弾性体が密着している極細繊維束から、繊維の長さ方向と人工皮革断面とのなす角がより90°に近いもの5本をランダムに選び、極細繊維束断面の外周長(外周長A)と高分子弾性体が密着している部分の極細繊維束の外周長(外周長B)をアメリカ国立衛生研究所により開発された画像解析ソフトのImageJ(バージョン:1.44p)によって測定した。測定した外周長から下記式にて極細繊維束それぞれの高分子弾性体被覆率を算出し、計50本の繊維束の算術平均を高分子弾性体被覆率とした。
【0131】
(式2) (高分子弾性体被覆率(%))=(外周長B)/(外周長A)×100
(5)人工皮革の摩耗評価
JIS-L1096:2010「織物及び編物の生地試験方法」8.19「摩耗強さおよび摩耗変色性」 E法(マーチンデール法)に基づき、摩耗評価を実施した。マーチンデール摩耗試験機として、James H.Heal&Co.製のModel406を用い、標準摩擦布として同社のABRASTIVECLOTHSM25を用いた。人工皮革に12kPaの荷重をかけ、摩耗回数20,000回行った後、人工皮革の外観を目視で観察し、毛玉(ピリング)の評価を行った。評価基準は、人工皮革の外観が摩耗前と全く変化が無かったものを5級とし、毛玉が多数発生したものを1級とし、その間を0.5級ずつに区切った。
【0132】
また、摩耗前後の人工皮革の質量を用いて、下記の式により、摩耗減量を算出した。
摩耗減量(mg)= 摩耗前の質量(mg) - 摩耗後の質量(mg)
(6)親水性基を有する高分子弾性体の水分散液の凝固温度
各実施例、比較例で調製される、親水性基を有する高分子弾性体を含む水分散液20gを内径12mmの試験管に入れ、温度計を先端が液面よりも下になるように差し込んだ後、試験管を封止し、95℃の温度の温水浴に親水性基を有する高分子弾性体の水分散液の液面が温水浴の液面よりも下になるように浸漬した。温度計により試験管内の温度の上昇を確認しつつ、適宜1回あたり5秒以内の時間、試験管を引き上げて親水性基を有する高分子弾性体の水分散液の液面の流動性の有無を確認できる程度に揺すり、親水性基を有する高分子弾性体の水分散液の液面が流動性を失った温度を凝固温度とした。この測定を親水性基を有する高分子弾性体の水分散液1種につき3回ずつ行い、平均値を算出した。
(7)人工皮革に含まれる無機塩種および含有量の測定
人工皮革10gを室温にてジメチルホルムアミド100mLに一晩浸漬し、高分子弾性体および無機塩を溶出させた溶液を140℃での加熱乾燥により濃縮し、固形化させた。得られた固形物に対し、蒸留水100mLを加え、無機塩のみを溶出させた。この無機塩を含む水溶液を加熱乾燥した上で、人工皮革中に含まれる無機塩の量を測定した。また、固形化した高分子弾性体についても加熱乾燥の上、重量を測定し、高分子弾性体質量対比での無機塩重量を算出した。
【0133】
無機塩の種類については、上記無機塩を含む水溶液に対して、ダイオネクス社製ICS-3000型のイオンクロマトグラフ装置を用いて同定した。
[実施例1]
(不織布)
海成分としてSSIA(5-スルホイソフタル酸ナトリウム)8モル%共重合ポリエステルを用い、島成分としてポリエチレンテレフタレートを用いて、海成分が20質量%、島成分が80質量%の複合比率で、島数が16島/1フィラメント、平均単繊維繊度が20μmの海島型複合繊維を得た。得られた海島型複合繊維を、繊維長51mmにカットしてステープルとし、カードおよびクロスラッパーを通して繊維ウェブを形成し、ニードルパンチ処理により、目付が700g/m2で、厚みが3.1mmの不織布を製造した。このようにして得られた不織布を、98℃の温度の湯中に2分間浸漬させて収縮させ、100℃の温度で5分間乾燥させた。
【0134】
(繊維補強)
上記の不織布にケン化度99%、重合度1400のPVA(日本合成化学株式会社製NM-14)の10質量%水溶液を含浸させ、140℃の温度で10分間加熱乾燥を行い、不織布の繊維質量に対するPVAの付着量が30質量%のPVA付与シートを得た。
【0135】
(高分子弾性体樹脂の付与)
ポリオールとして数平均分子量(Mn)が2,000のポリテトラメチレンエーテルグリコール、イソシアネートとしてMDI、親水性基を含有させる成分として2,2-ジメチロールプロピオン酸を用い、トルエン溶媒中でプレポリマーを作成した。鎖伸長剤としてエチレングリコールとエチレンジアミン、外部乳化剤としてポリオキシエチレンノニルフェニルエーテルと水を添加して、攪拌した。減圧下でトルエンを除去して親水性基を有する高分子弾性体aの水分散液Waを得た。なお、高分子弾性体aは、高分子弾性体Aに該当する高分子弾性体である。親水性基を有する高分子弾性体aの固形分100質量%に対して、感熱凝固剤として硫酸ナトリウムを5質量%添加し、カルボジイミド系架橋剤3質量%加え、水によって全体を固形分12質量%に調製し、親水性基を有する高分子弾性体aを含む水分散液を得た。前記水分散液の感熱凝固温度を測定した結果、90℃であった。得られたPVA付与極細繊維不織布を、前記水分散液に浸漬し、次いで150℃の熱風で15分間加熱した。これによって繊維重量に対して高分子弾性体Aが25質量%付与された、厚みが1.9mmの高分子弾性体樹脂付与シートを得た。
【0136】
(繊維極細化)
得られた高分子弾性体樹脂付与シートを、95℃の温度に加熱した濃度8g/Lの水酸化ナトリウム水溶液に浸漬して30分間処理を行い、海島型複合繊維の海成分を除去した極細繊維と高分子弾性体からなるシートを得た。
【0137】
(補強樹脂の除去)
得られた高分子弾性体樹脂付与シートを、95℃に加熱した水中に浸漬して10分処理を行い、付与したPVAを除去することで、人工皮革を得た。
【0138】
(半裁と起毛)
得られたPVA除去後の高分子弾性体樹脂付与シートを厚さ方向に垂直に半裁し、半裁面の反対側をサンドペーパー番手240番のエンドレスサンドペーパーで研削することにより、厚みが0.7mmの立毛を有する人工皮革を得た。
【0139】
(染色と仕上げ)
得られた立毛を有する人工皮革を、液流染色機を用いて120℃の温度条件下で分散染料A(アントラキノン系)を用いて染色を行い、次いで乾燥機で乾燥を行い、極細繊維の平均単繊維繊度が4.4μmの人工皮革を得た。得られた人工皮革は、L値が49、a値が9、b値が52であり、全光線透過率は37%と良好であった。高分子弾性体の空隙率は0%であり、優れた耐摩耗性を有していた。
[実施例2]
(染色と仕上げ)
実施例1と同様に半裁と起毛まで実施し、得られた立毛を有する人工皮革を、液流染色機を用いて120℃の温度条件下で、実施例1の分散染料Aと異なる分散染料B(アゾ系とアントラキノン系の混合物)に変えて染色を行った。次いで乾燥機で乾燥を行い、極細繊維の平均単繊維繊度が4.4μmの人工皮革を得た。得られた人工皮革はL値が37、a値が-10、b値が-11であり、全光線透過率は23%と良好であった。高分子弾性体の空隙率は0%であり、優れた耐摩耗性を有していた。
[実施例3]
(染色と仕上げ)
実施例1と同様に半裁と起毛まで実施し、得られた立毛を有する人工皮革を、液流染色機を用いて120℃の温度条件下で、実施例1の分散染料A、Bと異なる分散染料C(アゾ系とアントラキノン系の混合物)に変えて染色を行った。次いで乾燥機で乾燥を行い、極細繊維の平均単繊維繊度が4.4μmの人工皮革を得た。得られた人工皮革はL値が28、a値が50、b値が2であり、全光線透過率は21%と良好であった。高分子弾性体の空隙率は0%であり、優れた耐摩耗性を有していた。
[実施例4]
半裁と起毛を実施する際に厚みを0.9mmとした以外は実施例3と同様にして人工皮革を得た。得られた人工皮革の全光線透過率は17%と良好であり、高分子弾性体の空隙率は0%であり、と優れた耐摩耗性を有していた。
[実施例5]
起毛を実施する際に半裁せず、厚みを1.2mmとした以外は実施例3と同様にして人工皮革を得た。得られた人工皮革の全光線透過率は12%と良好であり、高分子弾性体の空隙率は0%であり、優れた耐摩耗性を有していた。
[実施例6]
高分子弾性体を付与する工程において、ポリオールとしてMnが2,000のポリヘキサメチレンカーボネート、イソシアネートとして水添MDI、親水性基を含有させる成分として、側鎖にポリエチレングリコールを有するジオール化合物および2,2-ジメチロールプロピオン酸を用い、アセトン溶媒中でプレポリマーを作成した。鎖伸長剤としてエチレングリコールとエチレンジアミンと水を添加して、攪拌した。減圧下でアセトンを除去して親水性基を有する高分子弾性体bの水分散液Wbを得た。水分散液Waと水分散液Wbを混合し、各々の高分子弾性体固形分が20質量%、合計の高分子弾性体固形分が40質量%の親水性基を有する高分子弾性体aとbとを含む水分散液Wcを得た。感熱凝固剤として塩化ナトリウムを5質量%添加し、親水性基を有する高分子弾性体aの感熱凝固温度が85℃、親水性基を有する高分子弾性体bの感熱凝固温度が90℃となるように調製した。この高分子弾性体水分散液を用いた以外は実施例3と同様に実施し、人工皮革を得た。得られた人工皮革の全光線透過率は20%と良好であり、高分子弾性体の空隙率は0%であり、優れた耐摩耗性を有していた。
[比較例4]
半裁と起毛を実施する際に、厚みを0.4mmとした以外は実施例1と同様にして人工皮革を得た。高分子弾性体の空隙率は0%であり、得られた人工皮革の全光線透過率は52%と高く、良好な耐摩耗性を有していた。
[比較例1]
高分子弾性体を付与する際に、固形分濃度12質量%に調整したポリカーボネート系ポリウレタンのDMF(N,N-ジメチルホルムアミド)溶液を含浸し、DMF濃度30質量%の水溶液中でポリウレタンを凝固させた。その後、ポリビニルアルコールおよびDMFを熱水で除去し、150℃の温度で15分間熱風乾燥した。上記以外は実施例1と同様にして人工皮革を得た。得られた人工皮革は高分子弾性体の空隙率が2.1%であった。L値は49、a値が9、b値が52であり、また全光線透過率は9%であった。
[比較例2]
(不織布)
海成分としてポリスチレンを用い、島成分としてポリエチレンテレフタレートを用いて、海成分が20質量%、島成分が80質量%の複合比率で、島数が16島/1フィラメント、平均単繊維繊度が20μmの海島型複合繊維を得た。得られた海島型複合繊維を、繊維長51mmにカットしてステープルとし、カードおよびクロスラッパーを通して繊維ウェブを形成し、ニードルパンチ処理により、目付が700g/m2で、厚みが3.1mmの不織布を製造した。
【0140】
(繊維補強)
上記の不織布を95℃に加温した、ケン化度88%、重合度500のPVAの12質量%水溶液に浸漬し、PVAの含浸と同時に2分間収縮処理を行い、100℃にて温度で10分間加熱乾燥を行った。不織布の繊維質量に対するPVAの付着量が25質量%のPVA付与シートを得た。
【0141】
(繊維極細化)
得られたPVA付与シートを30℃のトリクレンによってポリスチレンが完全に除去されるまで処理し、海島型複合繊維の海成分を除去した極細繊維からなる不織布を得た。
【0142】
(高分子弾性体樹脂の付与)
得られた極細繊維からなる不織布に固形分濃度12質量%に調整したポリカーボネート系ポリウレタンのDMF(N,N-ジメチルホルムアミド)溶液を含浸し、DMF濃度30質量%の水溶液中でポリウレタンを凝固させた。その後、ポリビニルアルコールおよびDMFを熱水で除去し、120℃の温度で10分間熱風乾燥した。上記により極細繊維からなる不織布に高分子弾性体が30質量%付与された人工皮革を得た。この高分子弾性体樹脂付与シートを実施例1と同様に半裁と起毛、染色と仕上げを実施し、起毛を有する人工皮革を得た。得られた起毛を有する人工皮革の空隙率は1.8%と高く、得られた人工皮革の全光線透過率は7%と不足していた。
[比較例3]
実施例1において、高分子弾性体の水分散液に硫酸ナトリウムを20質量%添加した以外は実施例1と同様にして人工皮革を得た。高分子弾性体の空隙率が1.5%と高く、得られた人工皮革の全光線透過率は8%と不足していた。
【産業上の利用可能性】
【0143】
本発明の人工皮革は、十分な光透過性を有しつつ、繰り返し使用による外観品位の劣化を抑制することができるため、意匠性を有する光源もしくは液晶ディスプレイの表面に配することで、家電や車載、建材向けにおいてデザイン性が向上する、良好な光透過型表示機材として使用することができる。
【0144】
【符号の説明】
【0145】
1 極細繊維
2 極細繊維の繊維束の断面の外周
3 高分子弾性体
4 密着している部分