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特許7404710窒化物半導体装置及び窒化物半導体装置の製造方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-18
(45)【発行日】2023-12-26
(54)【発明の名称】窒化物半導体装置及び窒化物半導体装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 29/78 20060101AFI20231219BHJP
   H01L 21/336 20060101ALI20231219BHJP
   H01L 29/12 20060101ALI20231219BHJP
   H01L 21/265 20060101ALI20231219BHJP
   H01L 21/266 20060101ALI20231219BHJP
【FI】
H01L29/78 652C
H01L29/78 658A
H01L29/78 652J
H01L29/78 658F
H01L29/78 652T
H01L21/265 601H
H01L21/265 M
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2019152332
(22)【出願日】2019-08-22
(65)【公開番号】P2021034524
(43)【公開日】2021-03-01
【審査請求日】2022-07-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000005234
【氏名又は名称】富士電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105854
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 一
(74)【代理人】
【識別番号】100103850
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 秀▲てつ▼
(72)【発明者】
【氏名】福島 悠太
(72)【発明者】
【氏名】田中 亮
(72)【発明者】
【氏名】上野 勝典
(72)【発明者】
【氏名】高島 信也
【審査官】杉山 芳弘
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-235001(JP,A)
【文献】特開2018-181892(JP,A)
【文献】特開2017-092355(JP,A)
【文献】特開2004-319964(JP,A)
【文献】特開2014-170886(JP,A)
【文献】特開2001-127285(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 29/78
H01L 21/336
H01L 29/12
H01L 21/265
H01L 21/266
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒化物半導体層と、
前記窒化物半導体層に設けられた第1導電型のウェル領域と、
前記ウェル領域の表面側に設けられた第2導電型のソース領域と、
前記ウェル領域上に設けられたゲート絶縁膜と、
前記ゲート絶縁膜上に設けられたゲート電極と、を備え、
前記ウェル領域は、
前記ソース領域側に位置する第1端部と、
前記ウェル領域の表面方向において前記第1端部の反対側に位置する第2端部と、を有し、
前記ウェル領域の表面における第1導電型の不純物濃度は、
前記第1端部から前記第2端部に向かって変化し、かつ前記第1端部と前記第2端部との間に第1最大値が存在し、前記第1最大値と前記第2端部との間に前記第1最大値よりも前記第1導電型の不純物濃度が低い領域が存在する第1分布を有し、
前記ウェル領域の深さ方向における前記第1導電型の不純物濃度は、
前記ウェル領域の表面から前記ウェル領域の底部に向かって変化し、かつ前記ウェル領域の表面と前記底部との間に第2最大値が存在する第2分布を有する、窒化物半導体装置。
【請求項2】
前記第2分布には、
前記第2最大値と前記底部との間に前記第2最大値よりも前記第1導電型の不純物濃度が低い領域が存在する、請求項1に記載の窒化物半導体装置。
【請求項3】
前記第1端部と前記第2端部との間で前記第1導電型の不純物濃度が極大となる第1ピーク位置と、前記ウェル領域の表面と前記底部との間で前記第1導電型の不純物濃度が極大となる第2ピーク位置と、が互いに同じ数だけ存在する、請求項1又は2に記載の窒化物半導体装置。
【請求項4】
前記第1導電型の不純物はマグネシウムであり、
前記ウェル領域の表面におけるマグネシウム濃度と、前記ウェル領域の深さ方向におけるマグネシウム濃度は、それぞれ、1×1016cm-3以上1×1020cm-3以下である、請求項1から3のいずれか1項に記載の窒化物半導体装置。
【請求項5】
前記第1導電型の不純物はマグネシウムであり、
前記ウェル領域の表面におけるマグネシウム濃度と、前記ウェル領域の深さ方向におけるマグネシウム濃度は、それぞれ、1×1017cm-3以上1×1018cm-3以下である、請求項1から3のいずれか1項に記載の窒化物半導体装置。
【請求項6】
前記窒化物半導体層は、
第2導電型の第1窒化物半導体層と、
前記第1窒化物半導体層上に設けられた第2導電型の第2窒化物半導体層と、を有し、
前記第1窒化物半導体層よりも前記第2窒化物半導体層の方が第2導電型の不純物濃度が低く、
前記ウェル領域と前記ソース領域は前記第2窒化物半導体層に設けられている、請求項1からのいずれか1項に記載の窒化物半導体装置。
【請求項7】
前記第2窒化物半導体層に設けられ、前記第2端部に隣接する第2導電型の不純物領域、をさらに備え、
前記第2導電型の不純物濃度は、前記第1窒化物半導体層よりも前記不純物領域の方が低く、前記不純物領域よりも前記第2窒化物半導体層の方が低い、請求項に記載の窒化物半導体装置。
【請求項8】
窒化物半導体層に第1導電型のウェル領域を形成する工程と、
前記ウェル領域の表面側に2導電型のソース領域を形成する工程と、
前記ウェル領域上にゲート絶縁膜を形成する工程と、
前記ゲート絶縁膜上にゲート電極を形成する工程と、を備え、
前記ウェル領域を形成する工程は、
前記ウェル領域の表面方向に対して傾斜した傾斜面を有するマスクを前記窒化物半導体層上に形成する工程と、
前記マスクが形成された前記窒化物半導体層に、前記マスク側から第1導電型の不純物をイオン注入する工程と、を有し、
前記マスクを形成する工程では、
前記窒化物半導体層において前記ウェル領域が形成される予定領域上に前記傾斜面を配置し、
前記ウェル領域の端部であって、前記ソース領域側に位置する端部を第1端部とし、前記ウェル領域の表面方向において前記第1端部の反対側に位置する端部を第2端部とすると、
前記第1導電型の不純物をイオン注入する工程では、
前記ウェル領域の表面における第1導電型の不純物濃度について、
前記第1端部から前記第2端部に向かって変化し、かつ前記第1端部と前記第2端部との間に第1最大値が存在し、前記第1最大値と前記第2端部との間に前記第1最大値よりも前記第1導電型の不純物濃度が低い領域が存在する第1分布を形成する窒化物半導体装置の製造方法。
【請求項9】
前記第1導電型の不純物をイオン注入する工程では、
前記第1導電型の不純物を第1の注入エネルギーでイオン注入する工程と、
前記第1導電型の不純物を前記第1の注入エネルギーとは異なる第2の注入エネルギーでイオン注入する工程と、を含む、請求項に記載の窒化物半導体装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒化物半導体装置及び窒化物半導体装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体層における不純物濃度分布として、例えば表面側の濃度が低く、深い領域の濃度が高いレトログレードプロファイルが知られている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1には、半導体層にレトログレードプロファイルの不純物濃度分布を形成した後、不純物の活性化率を算出し、算出した活性化率に基づいて半導体層の表面を除去することによって、電気的特性(しきい値電圧及びそれに伴うチャネル移動度、オン抵抗など)のばらつきを抑制することが開示されている。特許文献1には、半導体層の表面を除去する方法として、犠牲酸化処理とドライエッチングが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2015-60841号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示された技術では、電気的特性のばらつきを抑制するために、不純物の活性化率の算出工程、犠牲酸化処理工程、ドライエッチング工程など、多数の工程が必要である。
【0005】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、良好なチャネル特性と良好な耐圧とを両立可能な窒化物半導体装置と、この窒化物半導体装置を工程数の増加を抑制しつつ製造可能な窒化物半導体装置の製造方法とを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明の一態様に係る窒化物半導体装置は、窒化物半導体層と、窒化物半導体層に設けられた第1導電型のウェル領域と、ウェル領域の表面側に設けられた第2導電型のソース領域と、ウェル領域上に設けられたゲート絶縁膜と、ゲート絶縁膜上に設けられたゲート電極と、を備える。ウェル領域は、ソース領域側に位置する第1端部と、ウェル領域の表面方向において第1端部の反対側に位置する第2端部と、を有する。ウェル領域の表面における第1導電型の不純物濃度は、第1端部から第2端部に向かって変化し、かつ第1端部と第2端部との間に最大値が存在する分布を有する。ウェル領域の深さ方向における第1導電型の不純物濃度は、ウェル領域の表面からウェル領域の底部に向かって変化し、かつウェル領域の表面と底部との間に最大値が存在する分布を有する。
【0007】
本発明の一態様に係る窒化物半導体装置の製造方法は、窒化物半導体層に第1導電型のウェル領域を形成する工程と、ウェル領域の表面側に2導電型のソース領域を形成する工程と、ウェル領域上にゲート絶縁膜を形成する工程と、ゲート絶縁膜上にゲート電極を形成する工程と、を備える。ウェル領域を形成する工程は、ウェル領域の表面方向に対して傾斜した傾斜面を有するマスクを窒化物半導体層上に形成する工程と、マスクが形成された窒化物半導体層に、マスク側から第1導電型の不純物をイオン注入する工程と、を有する。マスクを形成する工程では、窒化物半導体層においてウェル領域が形成される予定領域上に傾斜面を配置する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、しきい値電圧のばらつきを容易に抑制することが可能な窒化物半導体装置及び窒化物半導体装置の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、本発明の実施形態1に係るGaN半導体装置の構成例を示す断面図である。
図2図2は、本発明の実施形態1に係るGaN半導体装置において、ウェル領域の深さ方向におけるMg濃度の分布の一例を示すグラフである。
図3図3は、本発明の実施形態1に係るGaN半導体装置において、ウェル領域の表面Mg濃度の分布の一例を示すグラフである。
図4図4は、本発明の実施形態1に係るGaN半導体装置の製造方法を工程順に示す断面図である。
図5図5は、本発明の実施形態1に係るGaN半導体装置の製造方法を工程順に示す断面図である。
図6図6は、本発明の実施形態1に係るGaN半導体装置の製造方法を工程順に示す断面図である。
図7図7は、本発明の実施形態1に係るGaN半導体装置の製造方法を工程順に示す断面図である。
図8図8は、本発明の実施形態1に係るGaN半導体装置の製造方法を工程順に示す断面図である。
図9図9は、本発明の実施形態1に係るGaN半導体装置の製造方法を工程順に示す断面図である。
図10図10は、本発明の実施形態1に係るGaN半導体装置の製造方法を工程順に示す断面図である。
図11図11は、本発明の実施形態1に係るGaN半導体装置の製造方法を工程順に示す断面図である。
図12図12は、本発明の実施形態1に係るGaN半導体装置の製造方法を工程順に示す断面図である。
図13図13は、本発明の実施形態2に係るウェル領域の深さ方向におけるMg濃度の分布の一例を示すグラフである。
図14図14は、本発明の実施形態2に係るウェル領域の表面Mg濃度の分布の一例を示すグラフである。
図15図15は、本発明の実施形態2に係るウェル領域の深さ方向におけるMg濃度の分布の一例(変形例1)を示すグラフである。
図16図16は、本発明の実施形態2に係るウェル領域の表面Mg濃度の分布の一例(変形例1)を示すグラフである。
図17図17は、本発明の実施形態2に係るウェル領域の深さ方向におけるMg濃度の分布の一例(変形例2)を示すグラフである。
図18図18は、本発明の実施形態2に係るウェル領域の表面Mg濃度の分布の一例(変形例2)を示すグラフである。
図19図19は、本発明の実施形態2に係るウェル領域の深さ方向におけるMg濃度の分布の一例(変形例3)を示すグラフである。
図20図20は、本発明の実施形態2に係るウェル領域の表面Mg濃度の分布の一例(変形例3)を示すグラフである。
図21図21は、本発明の実施形態2に係るウェル領域の深さ方向におけるMg濃度の分布の一例(変形例4)を示すグラフである。
図22図22は、本発明の実施形態2に係るウェル領域の表面Mg濃度の分布の一例(変形例4)を示すグラフである。
図23図23は、本発明の実施形態2に係るウェル領域の深さ方向におけるMg濃度の分布の一例(変形例5)を示すグラフである。
図24図24は、本発明の実施形態2に係るウェル領域の表面Mg濃度の分布の一例(変形例5)を示すグラフである。
図25図25は、本発明の実施形態3に係るGaN半導体装置の構成例を示す断面図である。
図26図26は、本発明の比較例に係るGaN半導体装置の製造工程の一部を示す断面図である。
図27図27は、本発明の比較例に係るウェル領域の深さ方向におけるMg濃度の分布を示すグラフである。
図28図28は、本発明の比較例に係るウェル領域の表面Mg濃度の分布を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に本発明の実施形態を説明する。以下の図面の記載において、同一又は類似の部分には同一又は類似の符号を付している。但し、図面は模式的なものであり、厚みと平面寸法との関係、各装置や各部材の厚みの比率等は現実のものとは異なることに留意すべきである。したがって、具体的な厚みや寸法は以下の説明を参酌して判定すべきものである。また、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれていることは勿論である。
【0011】
また、以下の説明では、X軸方向、Y軸方向及びZ軸方向の文言を用いて、方向を説明する場合がある。例えば、X軸方向又はY軸方向は、後述するウェル領域3の表面方向である。Z軸方向は、後述するウェル領域3の深さ方向である。X軸方向、Y軸方向及びZ軸方向は、互いに直交する。
【0012】
また、以下の説明では、Z軸の矢印方向を「上」と称し、Z軸の矢印の反対方向を「下」と称する場合がある。「上」及び「下」は、必ずしも地面に対する鉛直方向を意味しない。つまり、「上」及び「下」の方向は、重力方向に限定されない。「上」及び「下」は、領域、層、膜及び基板等における相対的な位置関係を特定する便宜的な表現に過ぎず、本発明の技術的思想を限定するものではない。例えば、紙面を180度回転すれば「上」が「下」に、「下」が「上」になることは勿論である。
【0013】
また以下の説明では、第1導電型がp型、第2導電型がn型の場合について例示的に説明する。しかし、導電型を逆の関係に選択して、第1導電型をn型、第2導電型をp型としても構わない。またpやnに付す+や-は、+及び-が付記されていない半導体領域に比して、それぞれ相対的に不純物濃度が高い又は低い半導体領域であることを意味する。但し、同じpとpとが付された半導体領域であっても、それぞれの半導体領域の不純物濃度が厳密に同じであることを意味するものではない。
【0014】
<実施形態1>
(構造)
図1は、本発明の実施形態1に係る窒化ガリウム半導体装置(以下、GaN半導体装置)100の構成例を示す断面図である。GaN半導体装置100は、本発明の窒化物半導体装置の一例であり、プレーナゲート型縦型MOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)である。図1に示すように、GaN半導体装置100は、窒化ガリウム基板(本発明の「第1窒化物半導体層」の一例;以下、GaN基板)1と、GaN層2(本発明の「第2窒化物半導体層」の一例)と、ゲート絶縁膜5と、ゲート電極6と、ソース電極7及びドレイン電極8を有する。
【0015】
GaN基板1は、GaN単結晶基板である。GaN基板1は、第1導電型(n型)の基板であり、例えばn型の基板である。GaN基板1に含まれるn型不純物は、Si(シリコン)、O(酸素)及びGe(ゲルマニウム)のうちの一種類以上の元素である。一例を挙げると、GaN基板1に含まれるn型不純物はSi又はOである。GaN基板1におけるSi又はOの不純物濃度は2×1018cm-3以上である。
【0016】
なお、GaN基板1は、転位密度が1×10cm-2未満の低転位自立基板であってもよい。GaN基板1が低転位自立基板であることにより、GaN基板1上に形成されるGaN層2の転位密度も低くなる。また、低転位自立基板をGaN基板1に用いることで、GaN基板1に大面積のパワーデバイスが形成される場合でも、パワーデバイスにおけるリーク電流を少なくすることができる。これにより、製造装置は、パワーデバイスを高い良品率で製造することができる。また、熱処理において、イオン注入された不純物が転位に沿って深く拡散することを防止することができる。
【0017】
GaN層2は、GaN基板1の表面1a上に設けられている。GaN層2は、n型のGaN単結晶層であり、GaN基板1の表面1a上にエピタキシャル形成された層である。GaN層2には、p型のウェル領域3と、n型のソース領域4とが設けられている。GaN層2において、ウェル領域3とソース領域4とが設けられていない領域は、ドリフト領域と呼んでもよい。ドリフト領域は、GaN基板1とウェル領域3との間の電流経路として機能する領域である。
【0018】
ウェル領域3は、GaN層2の表面2a側からp型不純物がイオン注入され、熱処理されることにより形成される。p型不純物は、例えばマグネシウムである。ウェル領域3の表面D1は、図1に示したGaN層2の表面2aと同じ面である。また、ウェル領域3は、ソース領域4側に位置する第1端部P1と、ウェル領域3の表面方向においてソース領域4の反対側に位置する第2端部P2と、を有する。ウェル領域3において、ゲート絶縁膜5と接する表面D1とその近傍が、縦型MOSFETのチャネル領域10である。
【0019】
なお、図1では、p型のウェル領域3に含まれるマグネシウム(Mg)の濃度を正円で模式的に示している。正円が大きいほど正円とその付近におけるMg濃度が大きく、正円が小さいほど正円とその付近におけるMg濃度が小さいことを示している。
【0020】
ソース領域4は、GaN層2の表面2a側からn型不純物がイオン注入され、熱処理されることにより形成される。n型不純物は、例えばSi、O及びGeのうちの一種類以上の元素である。ソース領域4は、GaN層2の表面2a側に設けられており、ウェル領域3の内側に位置する。ソース領域4の側部と底部は、ウェル領域3に接している。X軸方向、Y軸方向及びZ軸方向において、ソース領域4とウェル領域3は互いに接している。
【0021】
ゲート絶縁膜5は、ウェル領域3上に設けられている。ゲート絶縁膜5は、例えばシリコン酸化膜(SiO膜)又は酸化アルミニウム(Al)膜である。ゲート絶縁膜5の厚さは、例えば50nm以上100nm以下である。ゲート電極6は、ゲート絶縁膜5上に設けられている。ゲート電極6は、平坦なゲート絶縁膜5上に設けられたプレーナ型の電極である。ゲート電極6は、例えば不純物をドープしたポリシリコンで形成されている。
【0022】
ソース電極7は、ソース領域4上に設けられており、ソース領域4と電気的に接続している。図示しないが、ソース電極7は、層間絶縁膜を介してゲート電極6を覆うように設けられてもよい。ソース電極7は、例えばAl又はAl-Siの合金からなる。また、ソース電極7は、GaN層2の表面2aとの間にバリアメタル層を有してもよい。バリアメタル層の材料としてチタン(Ti)を使用してもよい。ドレイン電極8は、GaN基板1の裏面1b側に設けられており、GaN基板1と電気的に接続している。ドレイン電極8は、例えばAl又はAl-Siの合金からなる。
【0023】
図2は、本発明の実施形態1に係るGaN半導体装置100において、ウェル領域3の深さ方向におけるMg濃度の分布の一例を示すグラフである。図2において、横軸はウェル領域3の深さ方向における位置を示し、縦軸はMg濃度を示す。図2は、Mg濃度の分布の一例として、図1に示す仮想線VLの位置におけるMg濃度の分布を示している。仮想線VLは、ウェル領域3の深さ方向に平行である。
【0024】
図2に示すように、ウェル領域3のMg濃度は、ウェル領域3の深さ方向にレトログレードプロファイルを有する。レトログレードプロファイルとは、一方向に向かって位置が変わるにしたがって濃度が変化する濃度分布のことである。例えば、ウェル領域3の深さ方向におけるMg濃度は、ウェル領域3の表面D1からウェル領域3の底部D2に向かって連続的に変化している。ウェル領域3の表面D1と底部D2との間に、Mg濃度が最大値C2となるピーク位置D3(本発明の「第2ピーク位置」の一例)が存在する。
【0025】
ウェル領域3の表面D1からピーク位置D3に近づくにしたがってMg濃度は高くなる。ピーク位置D3から底部D2に近づくにしたがってMg濃度は低くなる。ピーク位置D3で、Mg濃度は極大かつ最大となる。図2に示すように、ウェル領域3の深さ方向において、ピーク位置D3は、表面D1と底部D2との間に1つだけ存在する。
【0026】
図3は、本発明の実施形態1に係るGaN半導体装置100において、ウェル領域3の表面D1におけるMg濃度(以下、表面Mg濃度)の分布の一例を示すグラフである。図3において、横軸はウェル領域3の表面方向における位置を示し、縦軸は表面Mg濃度を示す。
【0027】
図3に示すように、ウェル領域3の表面Mg濃度は、ウェル領域3の表面方向にレトログレードプロファイルを有する。例えば、ウェル領域3の表面Mg濃度は、ウェル領域3の第1端部P1から第2端部P2に向かって連続的に変化している。ウェル領域3の第1端部P1と第2端部P2との間に、Mg濃度が最大値C2となるピーク位置P3(本発明の「第1ピーク位置」の一例)が存在する。
【0028】
ウェル領域3の第1端部P1からピーク位置P3に近づくにしたがってMg濃度は高くなる。ピーク位置P3から第2端部P2に近づくにしたがってMg濃度は低くなる。ピーク位置P3で、Mg濃度は極大かつ最大となる。図3に示すように、ウェル領域3の表面方向において、ピーク位置P3は、第1端部P1と第2端部P2との間に1つだけ存在する。
【0029】
なお、ウェル領域3の表面Mg濃度と、ウェル領域3の深さ方向におけるMg濃度は、それぞれ、1×1016cm-3以上1×1020cm-3以下であることが好ましい。これにより、耐圧とオン特性を両立可能となる。また、ウェル領域3の表面Mg濃度と、ウェル領域3の深さ方向におけるMg濃度は、1×1017cm-3以上1×1018cm-3以下であることがより好ましい。これにより、より良好に耐圧とオン特性を制御可能となる。
【0030】
(製造方法)
次に、本発明の実施形態1に係るGaN半導体装置100の製造方法を説明する。図4から図12は、本発明の実施形態1に係るGaN半導体装置100の製造方法を工程順に示す断面図である。GaN半導体装置100は、成膜装置、露光装置、エッチング装置、イオン注入装置など、各種の製造装置によって製造される。
【0031】
図4に示すように、製造装置は、GaN基板1の表面1a上にGaN層2を形成する。例えば、製造装置は、有機金属成長法(MOCVD)又はハライド気相成長法(HVPE)等により、n型のGaN基板1上にn型のGaN層2をエピタキシャル形成する。なお、GaN層2は、後の工程でウェル領域が形成される予定領域3’と、後の工程でソース領域が形成される予定領域4’とを含む。
【0032】
次に、製造装置は、GaN層2の表面2a上に絶縁膜21を形成する。絶縁膜21は、例えばシリコン酸化膜(SiO膜)である。次に、図5に示すように、製造装置は、絶縁膜21上にレジストマスク22を形成する。レジストマスク22は、ソースが形成される予定領域4’の上方を開口し、それ以外の領域を覆う形状を有する。また、レジストマスク22の開口側の端部は、GaN層2の表面2aに対して傾斜した傾斜面22aを有する。傾斜面22aは、レジストマスク22の膜厚が開口側に近づくにしたがって徐々に小さくなるように傾斜している。製造装置は、ウェル領域が形成される予定領域3’上に傾斜面22aが配置されるようにレジストマスク22を形成する。なお、傾斜面22aの傾斜角度は、レジストの種類、フォトマスクの種類、レジストの感光条件等を任意に選択することによって、所望の値に合わせ込むことが可能である。
【0033】
次に、図6に示すように、製造装置は、レジストマスク22及び絶縁膜21にドライエッチング処理を施す。これにより、絶縁膜21からマスク21Mが形成される。絶縁膜21はレジストマスク22で覆われた状態でドライエッチングされるため、レジストマスク22の形状がマスク21Mに反映される。マスク21Mは、ウェル領域が形成される予定領域3’上に傾斜面21aを有する形状に形成される。
【0034】
次に、図7に示すように、製造装置は、マスク21M上から、残存するレジストマスク22を除去する。次に、製造装置は、マスク21Mで覆われたGaN層2に、マスク21M側からマグネシウム(Mg)をイオン注入する。これにより、図8に示すように、GaN層2にp型のウェル領域3が形成される。このイオン注入工程では、マスク21Mの傾斜面21aが予定領域3’上に位置するため、Mgの注入ピーク位置は傾斜面21aに沿う形となる。ウェル領域3の深さ方向におけるMg濃度の分布は図2に示したような形となり、ウェル領域3の表面方向におけるMg濃度の分布は図3に示したような形となる。
【0035】
次に、図9に示すように、製造装置は、GaN層2上からマスク21Mを除去する。次に、図10に示すように、製造装置は、GaN層上にレジストマスク23を形成する。レジストマスク23は、ソースが形成される予定領域4’の上方を開口し、それ以外の領域を覆う形状を有する。次に、製造装置は、レジストマスク23で覆われたGaN層2に、レジストマスク23側からSi又はOなどのn型不純物をイオン注入する。これにより、予定領域4’にソース領域4が形成される。次に、製造装置は、GaN層2上からレジストマスク23を除去する。
【0036】
次に、製造装置は、GaN層2上に保護膜(図示せず)を形成する。保護膜は、耐熱性が高く、保護膜からGaN層2側へ不純物が拡散せず、かつ、GaN層2に対して選択的に除去可能な膜である。耐熱性が高いとは、例えば、1000℃以上1200℃以下の温度で熱処理された場合においても保護膜にピット(貫通開口)が形成されない程度に、保護膜が実質的に分解しないことを意味する。
【0037】
次に、製造装置は、GaN層2に、最大温度が1000℃以上1200℃以下の熱処理を施す。この熱処理は、例えば急速加熱処理である。この熱処理により、GaN層2に導入されたMg等のp型不純物と、Si、O等のn型不純物とが活性化される。次に、製造装置は、GaN層上から保護膜を除去する。
【0038】
次に、図11に示すように、製造装置は、GaN層2上にゲート絶縁膜5を形成する。次に、図12に示すように、製造装置は、ゲート絶縁膜5上にゲート電極6を形成する。次に、製造装置は、ソース領域4上にソース電極7(図1参照)を形成する。以上の工程を経て、図1に示したGaN半導体装置100が完成する。
【0039】
以上説明したように、本発明の実施形態1に係るGaN半導体装置100は、GaN層2と、GaN層2に設けられたp型のウェル領域3と、ウェル領域3の表面D1側に設けられたn型のソース領域4と、ウェル領域3上に設けられたゲート絶縁膜5と、ゲート絶縁膜5上に設けられたゲート電極6と、を備える。ウェル領域3は、ソース領域4側に位置する第1端部P1と、ウェル領域3の表面方向において第1端部P1の反対側に位置する第2端部P2と、を有する。ウェル領域3の表面Mg濃度は、第1端部P1から第2端部P2に向かって変化し、かつ第1端部P1と第2端部P2との間に最大値C2が存在する分布を有する。ウェル領域3の深さ方向におけるMg濃度は、ウェル領域3の表面D1から底部D2に向かって変化し、かつ表面D1と底部D2との間で最大値C2が存在する分布を有する。
【0040】
ウェル領域3において、第1端部P1と第2端部P2との間に位置する部位の表面D1とその近傍がチャネル領域10となる。チャネル領域10の表面Mg濃度は表面方向にレトログレードプロファイルを有し、表面Mg濃度が最大値C2となるピーク位置P3がチャネル領域10に存在する。GaN半導体装置100のチャネル特性(しきい値電圧、移動度)は、チャネル領域10の表面Mg濃度の最大値C2に依存する。チャネル領域10にピーク位置P3が存在するため、GaN半導体装置100のチャネル特性は安定している。
【0041】
また、ウェル領域3のMg濃度は、ウェル領域3の表面方向だけでなく、ウェル領域3の深さ方向にもレトログレードプロファイルを有する。ウェル領域3の表面D1と底部D2との間には、Mg濃度が最大値C2となるピーク位置D3が存在する。GaN半導体装置100の耐圧は、ウェル領域3においてチャネル領域10よりも深い位置のMg濃度に依存する。ウェル領域3の深い位置にピーク位置D3が存在するため、GaN半導体装置100の耐圧は高い。これにより、GaN半導体装置100は、良好なチャネル特性と良好な耐圧とを両立している。
【0042】
本発明の実施形態1に係るGaN半導体装置100の製造方法は、GaN層2にp型のウェル領域3を形成する工程と、ウェル領域3の表面D1側にn型のソース領域4を形成する工程と、ウェル領域3上にゲート絶縁膜5を形成する工程と、ゲート絶縁膜5上にゲート電極6を形成する工程と、を備える。ウェル領域3を形成する工程は、ウェル領域3の表面方向に対して傾斜した傾斜面21aを有するマスク21MをGaN層2上に形成する工程と、マスク21Mが形成されたGaN層2に、マスク21M側からMgをイオン注入する工程と、を有する。マスク21Mを形成する工程では、GaN層2においてウェル領域3が形成される予定領域3’上に傾斜面21aを配置する。
【0043】
この製造方法によれば、GaN半導体装置100を容易に、安定して製造することができる。例えば、Mgをイオン注入する工程において、Mgの注入エネルギーや注入角度にばらつきが生じると、表面Mg濃度のピーク位置P3は第1端部P1と第2端部P2との間で位置が変動するが、ピーク位置P3におけるMg濃度(すなわち、表面Mg濃度の最大値C2)は一定である。このため、上記の製造方法により製造されるGaN半導体装置100は、チャネル特性のばらつきが抑制される。同様に、Mgをイオン注入する工程において、Mgの注入エネルギーや注入角度にばらつきが生じると、ウェル領域3の深さ方向におけるMg濃度のピーク位置D3は表面D1と底部D2との間で位置が変動するが、ピーク位置D3におけるMg濃度(すなわち、Mg濃度の最大値C2)は一定である。このため、上記の製造方法により製造されるGaN半導体装置100は、耐圧のばらつきが抑制される。
【0044】
また、上記の製造方法では、傾斜面21aを有するマスク21Mを通してGaN層2にMgをイオン注入してp型のウェル領域3を形成する。このため、ウェル領域3の形状は傾斜面21aの形状を反映して湾曲化する。これにより、ウェル領域3の端部での電界集中が緩和されるので、さらなる耐圧向上の効果が期待される。
【0045】
上記の製造方法によれば、チャネル特性のばらつきと耐圧のばらつきとを抑制するために、Mgの活性化率を算出したり、GaN層2に犠牲酸化膜を形成したり、犠牲酸化膜をドライエッチングしたりする必要がない。このため、上記の製造方法は、良好なチャネル特性と良好な耐圧とを両立可能なGaN半導体装置100を、工程数の増加を抑えつつ製造することができる。
【0046】
<実施形態2>
上記の実施形態1では、図2及び図3に示したように、ウェル領域3の表面D1と底部D2との間でMg濃度が極大かつ最大となるピーク位置D3と、ウェル領域3の第1端部P1と第2端部P2との間で表面Mg濃度が極大かつ最大となるピーク位置P3とが、それぞれ1つずつ存在する場合を説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されない。本発明の実施形態では、ピーク位置D3、P3が、互いに同じ数だけ複数存在してもよい。
【0047】
図13は、本発明の実施形態2に係るウェル領域3の深さ方向におけるMg濃度の分布の一例を示すグラフである。図13において、横軸はウェル領域3の深さ方向における位置を示し、縦軸はMg濃度を示す。図14は、本発明の実施形態2に係るウェル領域3の表面Mg濃度の分布の一例を示すグラフである。図14において、横軸はウェル領域3の表面方向における位置を示し、縦軸は表面Mg濃度を示す。
【0048】
図13に示すように、ウェル領域3の表面D1と底部D2との間には、Mg濃度が極大かつ最大となる2つのピーク位置D31、D32(本発明の「第2ピーク位置」の一例)が存在する。図14に示すように、ウェル領域3の第1端部P1と第2端部P2との間には、表面Mg濃度が最大かつ極大となる2つのピーク位置P31、P32(本発明の「第1ピーク位置」の一例)が存在する。このような態様であっても、GaN半導体装置100は、良好なチャネル特性と良好な耐圧とを両立することができる。
【0049】
ピーク位置D31、D32、P31、P32は、例えば図8に示した工程で、互いに異なる注入エネルギーでMgを2回に分けてイオン注入することによって形成することができる。例えば、例えば図8に示した工程では、製造装置は、第1の注入エネルギーでMgをイオン注入し、続いて、第1の注入エネルギーとは異なる第2の注入エネルギーでMgをイオン注入する。または、ピーク位置D31、D32、P31、P32は、例えば図8に示した工程で、厚さ又は傾斜面21aの傾斜角度が互いに異なる2種類のマスク21Mを用いて、Mgを2回に分けてイオン注入することによって形成することができる。
【0050】
(変形例1)
本発明の実施形態において、ピーク位置D31におけるMg濃度と、ピーク位置D32におけるMg濃度は、互いに同一の値でなくてもよい。同様に、ピーク位置P31における表面Mg濃度と、ピーク位置P32における表面Mg濃度も、互いに同一の値でなくてもよい。
【0051】
図15は、本発明の実施形態2に係るウェル領域3の深さ方向におけるMg濃度の分布の一例(変形例1)を示すグラフである。図15の横軸と縦軸は、図13と同じである。図16は、本発明の実施形態2に係るウェル領域3の表面Mg濃度の分布の一例(変形例1)を示すグラフである。図16の横軸と縦軸は、図14と同じである。
【0052】
図15に示すように、ピーク位置D31におけるMg濃度が最大値C2であり、ピーク位置D32におけるMg濃度は最大値C2よりも小さい値C3であってもよい。図16に示すように、ピーク位置P31における表面Mg濃度が最大値C2であり、ピーク位置D32における表面Mg濃度は最大値C2よりも小さい値C3であってもよい。このような態様であっても、GaN半導体装置100は、良好なチャネル特性と良好な耐圧とを両立することができる。
【0053】
(変形例2)
図17は、本発明の実施形態2に係るウェル領域3の深さ方向におけるMg濃度の分布の一例(変形例2)を示すグラフである。図17の横軸と縦軸は、図13と同じである。図18は、本発明の実施形態2に係るウェル領域3の表面Mg濃度の分布の一例(変形例2)を示すグラフである。図18の横軸と縦軸は、図14と同じである。
【0054】
図17に示すように、ピーク位置D32におけるMg濃度は最大値C2であり、ピーク位置D31におけるMg濃度が最大値C2よりも小さい値C3であってもよい。図18に示すように、ピーク位置P32における表面Mg濃度が最大値C2であり、ピーク位置D31における表面Mg濃度は最大値C2よりも小さい値C3であってもよい。このような態様であっても、GaN半導体装置100は、良好なチャネル特性と良好な耐圧とを両立することができる。
【0055】
(変形例3)
図19は、本発明の実施形態2に係るウェル領域3の深さ方向におけるMg濃度の分布の一例(変形例3)を示すグラフである。図19の横軸と縦軸は、図13と同じである。図20は、本発明の実施形態2に係るウェル領域3の表面Mg濃度の分布の一例(変形例3)を示すグラフである。図20の横軸と縦軸は、図14と同じである。
【0056】
図19に示すように、ウェル領域3の表面D1と底部D2との間には、Mg濃度が極大となる3つのピーク位置D31、D32、D33(本発明の「第2ピーク位置」の一例)が存在してもよい。3つのピーク位置D31、D32、D33のうち、ピーク位置D32におけるMg濃度が最大値C2であり、ピーク位置D31、D33におけるMg濃度は最大値C2よりも小さい値C3であってもよい。
【0057】
図20に示すように、ウェル領域3の第1端部P1と第2端部P2との間には、表面Mg濃度が極大となる3つのピーク位置P31、P32、P33(本発明の「第1ピーク位置」の一例)が存在してもよい。3つのピーク位置P31、P32、P33のうち、ピーク位置P32における表面Mg濃度が最大値C2であり、ピーク位置P31、P33における表面Mg濃度は最大値C2よりも小さい値C3であってもよい。このような態様であっても、GaN半導体装置100は、良好なチャネル特性と良好な耐圧とを両立することができる。
【0058】
ピーク位置D31からD33、P31からP33は、例えば図8に示した工程で、互いに異なる注入エネルギーでMgを3回に分けてイオン注入することによって形成することができる。または、ピーク位置D31からD33、P31からP33は、例えば図8に示した工程で、厚さ又は傾斜面21aの傾斜角度が互いに異なる3種類のマスク21Mを用いて、Mgを3回に分けてイオン注入することによって形成することができる。
【0059】
(変形例4)
本発明の実施形態において、3つのピーク位置D31からD33のうち、Mg濃度が極大かつ最大となるピーク位置は、ピーク位置D32に限定されない。同様に、3つのピーク位置P31からP33のうち、表面Mg濃度が極大かつ最大となるピーク位置は、ピーク位置P32に限定されない。
【0060】
図21は、本発明の実施形態2に係るウェル領域3の深さ方向におけるMg濃度の分布の一例(変形例4)を示すグラフである。図21の横軸と縦軸は、図13と同じである。図22は、本発明の実施形態2に係るウェル領域3の表面Mg濃度の分布の一例(変形例4)を示すグラフである。図22の横軸と縦軸は、図24と同じである。
【0061】
図21に示すように、3つのピーク位置D31、D32、D33のうち、ピーク位置D31におけるMg濃度が最大値C2であり、ピーク位置D32、D33におけるMg濃度は最大値C2よりも小さい値C3であってもよい。図22に示すように、3つのピーク位置P31、P32、P33のうち、ピーク位置P31における表面Mg濃度が最大値C2であり、ピーク位置P32、P33における表面Mg濃度は最大値C2よりも小さい値C3であってもよい。このような態様であっても、GaN半導体装置100は、良好なチャネル特性と良好な耐圧とを両立することができる。
【0062】
(変形例5)
図23は、本発明の実施形態2に係るウェル領域3の深さ方向におけるMg濃度の分布の一例(変形例5)を示すグラフである。図23の横軸と縦軸は、図13と同じである。図24は、本発明の実施形態2に係るウェル領域3の表面Mg濃度の分布の一例(変形例5)を示すグラフである。図24の横軸と縦軸は、図14と同じである。
【0063】
図23に示すように、3つのピーク位置D31、D32、D33のうち、ピーク位置D33におけるMg濃度が最大値C2であり、ピーク位置D31、D32におけるMg濃度は最大値C2よりも小さい値C3であってもよい。図24に示すように、3つのピーク位置P31、P32、P33のうち、ピーク位置P33における表面Mg濃度が最大値C2であり、ピーク位置P31、P32における表面Mg濃度は最大値C2よりも小さい値C3であってもよい。このような態様であっても、GaN半導体装置100は、良好なチャネル特性と良好な耐圧とを両立することができる。
【0064】
<実施形態3>
図25は、本発明の実施形態3に係るGaN半導体装置100Aの構成例を示す断面図である。図25に示すように、GaN半導体装置100Aは、GaN層2の表面側に設けられたn型のJFET領域30(本発明の「第2導電型の不純物領域」の一例)を備える。JFET領域30は、p型のウェル領域3によって表面方向(例えば、X軸方向)の両側から挟まれている。JFET領域30は、n型のGaN層2(n型のドリフト層)よりもn型不純物の濃度が高い。このような構成であっても、GaN半導体装置100Aは、良好なチャネル特性と良好な耐圧とを両立することができる。
【0065】
また、GaN半導体装置100Aは、図1に示したGaN半導体装置100と比べて、ドレイン電極8からウェル領域3に至る電流経路の電気抵抗が低く、空乏層による電流経路の狭窄も抑制されるため、オン抵抗を低減することができる。また、p型のウェル領域3とn型のJFET領域30とのpn接合部では、ウェル領域3とn-型ドリフト層とのpn接合部よりもウェル領域3側に空乏層が広がる。このため、GaN半導体装置100Aは、図1に示したGaN半導体装置100と比べて、耐圧をさらに向上させることができる。GaN半導体装置100Aは、良好なチャネル特性と、良好な耐圧と、良好なオン抵抗とを両立することができる。
【0066】
<比較例>
次に、本発明の比較例について説明する。図26は、本発明の比較例に係るGaN半導体装置200の製造工程の一部を示す断面図である。図26に示すように、GaN半導体装置200は、n型のGaN基板101と、GaN基板101上に設けられたn型のGaN層102と、GaN層102に設けられたp型のウェル領域103と、ウェル領域103の表面側に設けられたn型のソース領域104と、を備える。
【0067】
p型のウェル領域103を形成する工程で、垂直性の高いマスク121を用いてMgのイオン注入を行う。マスク121の端部の側面は、GaN層102の表面に対してほぼ垂直となっている。図26に示すように、比較例では、垂直性の高いマスク121を用いるため、Mgの注入ピークはGaN層102の表面に平行となる。
【0068】
図27は、本発明の比較例に係るウェル領域103の深さ方向におけるMg濃度の分布を示すグラフである。図28は、本発明の比較例に係るウェル領域3の表面Mg濃度の分布を示すグラフである。図27及び図28において、比較例1はMgの注入エネルギーが低い場合を示し、比較例2はMgの注入エネルギーが高い場合を示している。
【0069】
図27に示すように、比較例のMg濃度分布は、ウェル領域103の深さ方向ではレトログレードプロファイルとなる。注入エネルギーが低い比較例1と、注入エネルギーが高い比較例2とにおいて、深さ方向のMg濃度の最大値はC21であり、互いに同じ値となる。これに対して、図28に示すように、比較例の表面Mg濃度分布は、ウェル領域103の表面方向において一定となる。注入エネルギーが低い比較例1ではMgの注入ピークは浅い領域に位置するが、注入エネルギーが高い比較例2ではMgの注入ピークは深い領域に位置する。このため、比較例1、2間で、表面Mg濃度に差が生じる。比較例1の表面Mg濃度C11よりも、比較例2の表面Mg濃度C12の方が低い値となる。
【0070】
このように、比較例に係るGaN半導体装置200では、Mgの注入エネルギーや注入角度のばらつきが、ウェル領域103の表面Mg濃度に反映される。このため、GaN半導体装置200では、ウェル領域103の表面Mg濃度がばらつきやすく、チャネル特性が変動しやすい傾向がある。
【0071】
<特性の比較>
本発明の実施形態1から3と比較例とについて、特性を比較した結果を表1に示す。表1では、特性として、Mgの表面濃度分布と、しきい値と、耐圧を示している。また、表1において、〇は良を、×は不良を意味する。
【0072】
【表1】
【0073】
実施形態1から3では、チャネル領域10の表面Mg濃度の最大値にばらつきは生じにく、安定したしきい値が得られる。これに対して、比較例では、チャネル領域の表面Mg濃度の最大値にばらつきが生じやすく、しきい値が変動しやすい。耐圧に関しては、実施形態1から3、比較例とも、ウェル領域の深い領域にMg濃度のピークが存在するため、高耐圧の特性が得られる。
【0074】
<その他の実施形態>
上記のように、本発明は実施形態及び変形例によって記載したが、この開示の一部をなす論述及び図面は本発明を限定するものであると理解すべきではない。この開示から当業者には様々な代替実施形態、変形例が明らかとなろう。
【0075】
例えば、ゲート絶縁膜5には、シリコン酸窒化(SiON)膜、ストロンチウム酸化物(SrO)膜、シリコン窒化物(Si)膜も使用可能である。また、ゲート絶縁膜5には、単層の絶縁膜をいくつか積層した複合膜等も使用可能である。ゲート絶縁膜5としてSiO膜以外の絶縁膜を用いた縦型MOSFETは、縦型MISFETと呼んでもよい。MISFETは、MOSFETを含む、より包括的な絶縁ゲート型トランジスタを意味する。
【0076】
このように、本発明はここでは記載していない様々な実施形態等を含むことは勿論である。上記した実施形態及び各変形例の要旨を逸脱しない範囲で、構成要素の種々の省略、置換及び変更のうち少なくとも1つを行うことができる。また、本明細書に記載された効果はあくまでも例示であって限定されるものでは無く、また他の効果があってもよい。本発明の技術的範囲は上記の説明から妥当な特許請求の範囲に係る発明特定事項によってのみ定められるものである。
【符号の説明】
【0077】
1、101 GaN基板
1a、2a 表面
1b 裏面
2、102 GaN層
3、103 ウェル領域
3’ (ウェル領域が形成される)予定領域
4、104 ソース領域
4’ (ソース領域が形成される)予定領域
5 ゲート絶縁膜
6 ゲート電極
7 ソース電極
8 ドレイン電極
10 チャネル領域
21 絶縁膜
21a、22a 傾斜面
21M、121 マスク
22、23 レジストマスク
23 レジストマスク
30 JFET領域
100 GaN半導体装置
D1 表面
D2 底部
D3、D31、D32、D33 ピーク位置
P1 第1端部
P2 第2端部
P3、P31、P32、P33 ピーク位置
VL 仮想線
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
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図26
図27
図28