(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-18
(45)【発行日】2023-12-26
(54)【発明の名称】光変調器
(51)【国際特許分類】
G02F 1/025 20060101AFI20231219BHJP
【FI】
G02F1/025
(21)【出願番号】P 2019152709
(22)【出願日】2019-08-23
【審査請求日】2022-04-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087480
【氏名又は名称】片山 修平
(72)【発明者】
【氏名】田中 肇
(72)【発明者】
【氏名】石川 務
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 昌崇
【審査官】野口 晃一
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-246223(JP,A)
【文献】特開2018-022089(JP,A)
【文献】米国特許第06654534(US,B1)
【文献】特開平09-033869(JP,A)
【文献】特開2016-029469(JP,A)
【文献】国際公開第2006/095776(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/052013(WO,A1)
【文献】H. Tanaka et al.,Study on the optical damage mechanism of InP IQ modulators using a step stress test,2019 24th Opto-Electronics and Communications Conference (OECC) and 2019 International Conference on Photonics in Switching and Computing (PSC),IEEE,2019年07月07日,WD2-4,p. 1-p. 3,DOI: 10.23919/PS.2019.8817755
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02F 1/00-1/125
1/21-7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体で形成され、光が伝搬する導波路と、
前記導波路の上に設けられ、前記導波路に電気的に接続された第1電極と、
前記導波路から離間し、前記導波路に電気的に接続された第2電極と、を具備し、
前記光の伝搬方向において、前記第2電極の前記光の入射側の端部は前記第1電極の前記光の入射側の端部よりも後段に位置し、
前記導波路は、第1の導電型を有する第1半導体層の一部と、前記第1半導体層の上に設けられたコア層と、前記コア層の上に設けられ、第2の導電型を有する第2半導体層と、を含み、
前記第1半導体層の別の一部は前記導波路の外側に広がり、
前記第1電極は前記第2半導体層と電気的に接続され、
前記第2電極は前記第1半導体層のうち前記導波路の外側に広がる部分の上に設けられ、前記第1半導体層と電気的に接続され、
前記第1半導体層のうち前記第1電極の前記光の入射側の端部が設けられた位置における幅は、前記第1半導体層のうち前記第2電極の前記光の入射側の端部が設けられた位置における幅よりも小さく、
前記第1半導体層の幅は、前記第1電極の前記光の入射側の端部から離れるにつれて、徐々に大きくなる光変調器。
【請求項2】
前記第1半導体層はn型の導電型を有し、
前記第2半導体層はp型の導電型を有する請求項1に記載の光変調器。
【請求項3】
前記第1半導体層および前記第2半導体層はインジウムリンを含み、
前記コア層はアルミニウムガリウムインジウム砒素を含む請求項1または請求項2に記載の光変調器。
【請求項4】
前記光の伝搬方向における前記第1電極の端部から前記第2電極の端部までの距離は350μm以上である請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の光変調器。
【請求項5】
前記第1電極および前記第2電極は前記光の伝搬方向に延伸し、
前記光の伝搬方向における前記第2電極の長さは200μm以上である請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の光変調器。
【請求項6】
前記第1電極は、前記光の入射側の端部である第1端部と、前記第1端部とは反対に位置する第2端部とを有し、
前記第2電極は、前記光の入射側の端部である第3端部と、前記第3端部とは反対に位置する第4端部とを有し、
前記導波路に直交する方向において、前記第2端部と前記第4端部とは同じ位置にある請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の光変調器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は光変調器に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体層で形成され、光を変調する光変調器が開発されている(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】M. Yuda, M. Fukuda and H. Miyazawa, Degradation mode in semiconductor optical modulators, ELECTRONICS LETTERS, 1995, September 28th, Vol. 31, No. 20, pp.1778-1779
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
光変調器に光を入射し、かつ電極に電圧を印加することで光変調器を動作させる。光変調器の半導体層は、光を吸収し電流を発生させる。こうした光吸収電流によって光変調器が破壊されることがある。そこで、破壊を抑制することが可能な光変調器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係る光変調器は、半導体で形成され、光が伝搬する導波路と、前記導波路の上に設けられ、前記導波路に電気的に接続された第1電極と、前記導波路から離間し、前記導波路に電気的に接続された第2電極と、を具備し、前記光の伝搬方向において、前記第2電極の前記光の入射側の端部は前記第1電極の前記光の入射側の端部よりも後段に位置するものである。
【発明の効果】
【0006】
上記発明によれば、破壊を抑制することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】
図1(a)は実施例1に係る光変調器を例示する平面図である。
図1(b)はアーム導波路を拡大した断面図である。
【
図2】
図2(a)はアーム導波路を拡大した平面図である。
図2(b)は光吸収電流密度と位置との関係を示す図である。
【
図3】
図3(a)は実施例2に係る光変調器を例示する平面図である。
図3(b)は耐圧の評価結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
[本願発明の実施形態の説明]
最初に本願発明の実施形態の内容を列記して説明する。
【0009】
本願発明の一形態は、(1)半導体で形成され、光が伝搬する導波路と、前記導波路の上に設けられ、前記導波路に電気的に接続された第1電極と、前記導波路から離間し、前記導波路に電気的に接続された第2電極と、を具備し、前記光の伝搬方向において、前記第2電極の前記光の入射側の端部は前記第1電極の前記光の入射側の端部よりも後段に位置する光変調器である。光の入射により導波路で生じる電流が第2電極に到達するまでに、電圧降下が発生する。このため第2電極の端部に印加される電圧が低下し、導波路の破壊を抑制することができる。
(2)前記導波路は、第1の導電型を有する第1半導体層と、前記第1半導体層の上に設けられたコア層と、前記コア層の上に設けられ、第2の導電型を有する第2半導体層と、を含み、前記第1半導体層は前記導波路の外側に広がり、前記第1電極は前記第2半導体層と電気的に接続され、前記第2電極は前記第1半導体層の上に設けられ、前記第1半導体層と電気的に接続されてもよい。導波路のpn接合の破壊を抑制することができる。
(3)前記第1半導体層および前記第2半導体層はインジウムリンを含み、前記コア層はアルミニウムガリウムインジウム砒素を含んでもよい。導波路のpn接合の破壊を抑制することができる。
(4)前記光の伝搬方向における前記第1電極の端部から前記第2電極の端部までの距離は350μm以上でもよい。導波路の破壊を効果的に抑制することができる。
(5)前記第1電極および前記第2電極は前記光の伝搬方向に延伸し、前記光の伝搬方向における前記第2電極の長さは200μm以上でもよい。第2電極における電界の集中を抑制し、破壊を抑制することができる。
【0010】
[本願発明の実施形態の詳細]
本発明の実施形態に係る光変調器の具体例を、以下に図面を参照しつつ説明する。なお、本発明はこれらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【実施例1】
【0011】
(光変調器)
図1(a)は実施例1に係る光変調器100を例示する平面図である。光変調器100は、例えばGaAs系半導体またはInP系半導体などで形成されたマッハツェンダ型変調器である。光変調器100は、基板10、入射ポート40、出射ポート42、44、46および48、複数の導波路、複数のカプラ、および反射防止膜54を備える。導波路はメサ構造を有するアーム導波路である。カプラは(MMI:Multi-Mode Interferometer)カプラである。X軸方向およびY軸方向は基板10の辺の方向であり、Z軸方向は半導体層の積層方向である。これらの方向は互いに直交する。
【0012】
基板10は化合物半導体で形成された半導体基板である。基板10は矩形であり、4つの面10a~10dを有する。面10aと面10bとはY軸方向に延伸し、X軸方向において互いに対向する。面10cと面10dとはX軸方向に延伸し、Y軸方向において互いに対向する。面10aおよび10bの長さは例えば8~9mmであり、面10cおよび10dの長さは例えば10~12mmである。
【0013】
面10aに入射ポート40、出射ポート42、44、46および48が設けられている。入射ポート40のY軸方向片側に、入射ポート40に近い順に出射ポート42および46が設けられている。反対側に、入射ポート40に近い順に出射ポート44および48が設けられている。面10bには反射防止膜54が設けられている。反射防止膜54は例えば厚さ0.22μmの酸化アルミニウム(Al
2O
3)などで形成され、波長1.53μm~1.57μmの範囲の光の反射を抑制する。なお、面10aにも不図示の反射防止膜を設ける。なお、
図1(a)において電極は不図示である。
【0014】
基板10には複数の導波路、アーム導波路および複数のカプラが形成されている。アーム導波路は後述のように例えば複数のクラッド層、およびクラッド層に挟まれたコア層を含む。導波路41、47、52a~52dはX軸方向に延伸する。アーム導波路34aおよび34bはX軸方向に延伸する部分とY軸方向に延伸する部分とを有する。
【0015】
導波路41の一端は入射ポート40に光結合し、他端は1入力1出力のカプラ45の一端に光結合する。導波路47の一端はカプラ45の他端に光結合し、他端は1入力2出力のカプラ49の一端に光結合する。カプラ49の他端にはカプラ50aを介して導波路52aおよび52bが光結合し、カプラ50bを介して導波路52cおよび52dが光結合する。導波路52aにはカプラを介して2つのアーム導波路34aおよび34bの一端が光結合する。アーム導波路34aの他端は後段のカプラの一端に光結合する。導波路52b~52dにもそれぞれ2つのアーム導波路が光結合する。
【0016】
すなわち、導波路52a~52dよりも後段にはさらに複数のアーム導波路およびカプラが設けられる。アーム導波路34の一部は屈曲し、+X方向から-X方向に折り返すように延伸する。出射ポート42、44、46および48には1つずつ導波路が光結合する。
【0017】
図1(b)はアーム導波路34aおよび34bを拡大した断面図である。基板10の上にコンタクト層12(第1半導体層)、下部クラッド層13、コア層14、上部クラッド層16
(第2半導体層)およびコンタクト層18が順に積層されている。
【0018】
基板10は例えば半絶縁性のインジウムリン(InP)で形成された半導体基板である。コンタクト層12および下部クラッド層13は、例えばシリコン(Si)がドープされたn型InPで形成されている。コンタクト層12の厚さは例えば500nmであり、下部クラッド層13の厚さは例えば800nmである。コア層14は、例えば厚さ500nmのガリウムインジウム砒素リン(GaInAsP)で形成され、多重量子井戸(MQW:Multiple Quantum Well)構造を有する。上部クラッド層16は例えば亜鉛(Zn)がドープされた厚さ1300nmのp型InPで形成されている。コンタクト層18は、例えばZnがドープされた厚さ200nmのp型InGaAsで形成されている。
【0019】
基板10上の化合物半導体層(コンタクト層12、下部クラッド層13、コア層14、上部クラッド層16およびコンタクト層18)はアーム導波路34aおよび34bを形成する。コンタクト層12は、アーム導波路34aとアーム導波路34bとの間、およびアーム導波路34bよりも-Y側に連続して広がる。コンタクト層12によりアーム導波路34aおよび34bは電気的に接続されている。基板10およびコンタクト層12はメサを形成し、そのメサのさらに上に、メサ構造のアーム導波路34aおよび34bが設けられる。2つのアーム導波路34aおよび34bをまとめてアーム導波路34と記載することがある。
【0020】
基板10の上には樹脂層20および21、絶縁膜22、23、24および25が設けられている。絶縁膜22は基板10の上面、アーム導波路34の側面および上面を覆う。樹脂層20は、絶縁膜22の上面に設けられ、アーム導波路34aおよび34bの側面を埋め込む。樹脂層20の上面に絶縁膜23が設けられ、絶縁膜23の上面に樹脂層21が設けられている。樹脂層21の上面に絶縁膜24が設けられ、絶縁膜24の上面に絶縁膜25が設けられている。
【0021】
アーム導波路34の上にオーミック層28、メッキ層26および配線層27が順に積層され、これらが変調用電極35(第1電極)として機能する。オーミック層28はコンタクト層18の上面に接触し、メッキ層26はオーミック層28の上面に接触し、配線層27はメッキ層26の上面に接触する。
【0022】
オーミック層28は例えば厚さ30nmの白金(Pt)層、50nmのチタン(Ti)層、50nmのPt層および200nmの金(Au)層を順に積層したものである。オーミック層28の幅は例えば1μmである。メッキ層26および配線層27はそれぞれ、例えば厚さ50nmのチタンタングステン(TiW)層、厚さ50nmのPtおよびAuを順に積層した金属層(TiW/Pt/Au)である。メッキ層26の厚さは例えば1μmであり、配線層27の厚さは例えば4μmである。変調用電極35はアーム導波路34aおよび34bのコンタクト層18および上部クラッド層16に電気的に接続される。
【0023】
アーム導波路34aおよび34bから離間した位置であってコンタクト層12の上面には電極36(第2電極)が設けられている。電極36は、順に積層された電極36aおよび電極36bを含む。電極36aは例えばAu、ゲルマニウム(Ge)およびニッケル(Ni)の合金で形成され、厚さは200nmである。電極36bは例えば厚さ50nmのTi層、厚さ50nmのPt層、および厚さ900nmのAu層を順に積層したものである。電極36はコンタクト層12に電気的に接続される。
【0024】
絶縁膜25は絶縁膜24および配線層27を覆う。樹脂層20および21は例えばBCB(ベンゾシクロブテン)などで形成されている。樹脂層20の厚さは例えば2.5μmであり、樹脂層21の厚さは例えば3.5μmである。絶縁膜24は例えば厚さ0.3μmの酸化シリコン(SiO2)膜であり、絶縁膜22、23および25は例えば厚さ0.3μmの酸窒化シリコン(SiON)膜である。
【0025】
図2(a)はアーム導波路34を拡大した平面図である。
図2(a)においてカプラは省略している。
図2(a)に示すように、アーム導波路34aおよび34bの一部は平行である。当該箇所において、アーム導波路34a、34b、2つの変調用電極35、および電極36は互いに平行であり、X軸方向に延伸する。光L0は-X側からアーム導波路34aおよび34bに入射し、+X方向に伝搬する。アーム導波路34aおよび34bのY軸方向の幅W1は例えば1.5μmである。コンタクト層12は、XY平面内でアーム導波路34よりも広い範囲に広がる。コンタクト層12の上であり、かつアーム導波路34aおよび34bから離間した位置に電極36が設けられる。
【0026】
図2(a)に示すように、Y軸方向においてアーム導波路34bの-Y側端部からコンタクト層12の端部までの距離D2は例えば1μmである。変調用電極35のX軸方向の長さL1は例えば1500μmである。電極36のX軸方向の長さL2は長さL1より小さい。変調用電極35の幅W2は例えば5μmであり、電極36の幅W3は例えば14μmである。
【0027】
光の伝搬方向において、光が先に到達する側が前段であり、後に到達する側は後段とする。
図2(a)において前段とは-X側であり、後段とは+X側である。変調用電極35の-X側(光L0の入射側)の端部を端部35aとし、電極36の-X側(光L0の入射側)端部を端部36cとする。端部36cは端部35aよりも後段に位置する。
図1(a)の入射ポート40から端部36cまでの距離は入射ポート40から端部35aまでの距離より大きい。
【0028】
図1(a)に示す入射ポート40から入射される光は、導波路41、カプラ45、導波路47、カプラ49、導波路52a~52dを伝搬し、アーム導波路に入射する。アーム導波路34a,34bを伝搬する光は例えば基本モードである。複数のアーム導波路を伝搬する光は、より後段のカプラにおいて光は分岐および合波され、出射ポート42、44、46および48から出射される。
【0029】
図1(b)に示すアーム導波路34aおよび34bに光を入力し、変調用電極35と電極36との間に直流で例えばマイナス数Vの逆バイアス電圧、および例えば振幅1.5V、周波数20GHzの交流電圧を重畳して印加する。変調用電極35と電極36との間で高周波(例えば20GHz程度)の電気信号が流れる。電気信号によりアーム導波路34a,34bの屈折率が変化し、アーム導波路34aおよび34bにおける光路長が変化する。このためアーム導波路34a,34bを伝搬する光の位相が変化する。この結果、合波後の光を変調することができる。他のアーム導波路においても同様に光を変調することができる。
【0030】
電極36はn型の半導体層であるコンタクト層12に接続され、コンタクト層12および下部クラッド層13はコア層14の下に位置する。変調用電極35はp型の半導体層であるコンタクト層18に接続され、コンタクト層18および上部クラッド層16はコア層14の上に位置する。このため、逆バイアス電圧を印加すると、コア層14にはZ軸方向に沿って電界がかかる。コア層14は光を吸収して電子-正孔対を発生させ、これらのキャリアは電界によって+Z側または-Z側に流れる。したがってアーム導波路34にはZ軸方向に沿った電流が流れる。電流密度が増大するとアーム導波路34が短絡破壊する恐れがある。
【0031】
図2(b)は光吸収電流密度と位置との関係を示す図である。横軸は、変調用電極35の端部35aを基準としたX軸方向の位置であり、大きくなるほど端部35aから+X側に離れた位置を示す。縦軸はアーム導波路34のコア層14が1mWの光を吸収することで発生させる電流の密度の計算結果である。実線はコア層14の光の吸収係数αが23cm
-1の例、点線は吸収係数αが15cm
-1の例、破線は吸収係数αが
7.7cm
-1の例、一点鎖線は吸収係数αが0.8cm
-1の例を表す。
【0032】
図2(b)に示すように、端部35aに近い位置ほど電流密度は高く、端部35aから遠い位置ほど電流密度は低い。アーム導波路34に入射する光の強度は、アーム導波路34への入射位置に近いほど強く、伝搬するにしたがい減衰する。光強度が高いとコア層14で発生する電流も大きくなり、光強度が弱いと電流も小さくなる。変調用電極35の端部35aはアーム導波路34の入射位置に近いため、光強度は高い。したがって
図2(
b)に示すように端部35aに近い位置では電流密度が高く、遠い位置では電流密度が低下する。
【0033】
高い電圧を印加すること、および強い光を入射することで電流が増加し、コア層14が破壊される恐れがある。例えば、アーム導波路34に入射する光の強度が4dBm以上になると、端部35a付近における電流密度は1kAを超え、破壊が発生する。電流によってアーム導波路34には熱が発生する。発熱によりコア層14は光を吸収しやすくなり、電流が増加し、さらに大きな熱が発生する。こうしたポジティブフィードバックにより破壊が起きやすくなる。コア層14の破壊により、アーム導波路34におけるpn接合の整流特性が消失し、短絡状態となる。このため、逆電圧をかけたときにも大きな電流が流れることになり、変調が困難となる。
【0034】
破壊を防ぐためには、例えば変調用電極35に印加する電圧を低下すればよい。しかし、光の変調を行うためには例えば10V以上の逆電圧を印加する。したがって電圧を低下させることは困難である。また、光強度を低下させることによって、電流密度を小さくし、破壊を防ぐこともできる。しかし、光通信に用いる光信号を増幅させる増幅器を多く用いることになり、装置が大型化してしまう。したがって光強度を低下させることも難しい。
【0035】
実施例1によれば、
図2(a)に示すように、光の伝搬方向において電極36の端部36cは変調用電極35の端部35aよりも後段に位置する。コア層14で発生する電流はコンタクト層12を通過して電極36の端部36cに到達する。コンタクト層12の抵抗成分と電流とに起因して、コンタクト層12の内部においてX軸方向の電圧降下が発生する。端部36cにおけるコンタクト層12の電位は電極36に与えられる電位に等しく、例えば接地電位(0V)である。端部36cから-X軸側の領域では、電圧降下によってコンタクト層12の電位が端部36cから-X軸方向に向かって下がっていく。一方、アーム導波路34のコンタクト層18の電位は、変調用電極35が
アーム導波路34と接触している端部35a
における位置も含め、変調用電極35に印加される逆電圧に等しく、例えばマイナス10Vである。アーム導波路34のコア層14にかかる電圧は、コンタクト層12の電位とコンタクト層18の電位との差に比例する。コンタクト層12における電圧降下によってアーム導波路34のコア層14に印加される電圧が低下し、特に光強度の高い端部35a付近でアーム導波路34のコア層14にかかる電圧を低下させることができる。これによりアーム導波路34の破壊を抑制することができる。
【0036】
電圧降下は次式で表される。Rはコンタクト層12の電気抵抗、Rsはコンタクト層12のシート抵抗、Lは端部35aと端部36cとの間の長さ、ηλ(-dP/dx)/1260は光吸収で発生する電流、W4はコンタクト層12のY軸方向の幅、αは吸収係数、ηは量子効率、λはアーム導波路34に入射する光の波長、P0は光の強度である。
【数1】
【0037】
λ=1550nm、P0=10mW、η=1、Rs=30Ω/sq、α=4cm-1、W4=25μm、L=750μmの場合、電圧降下は約1.5Vである。破壊を抑制するためには電圧降下の大きさが1V以上であることが好ましく、端部間の距離Lは350μm以上であることが好ましい。
【0038】
実施例1によれば、電圧降下によりコア層14の破壊を抑制する。したがってアーム導波路34に入射する光の強度を低下させなくてよく、増幅器を増やさなくてもよい。電圧は変調に十分な大きさとすればよい。
【0039】
アーム導波路34はn型のコンタクト層12および下部クラッド層13、コア層14、p型の上部クラッド層16およびコンタクト層18を含む。これらはpn接合を形成する。
図1(b)および
図2(a)に示すように、コンタクト層12はアーム導波路34aおよび34bの下、これらの間、およびアーム導波路34bより外側(-Y側)に連続的に広がる。電極36はコンタクト層12の上に設けられる。電流は電極36の端部36cに到達するまでコンタクト層12を流れるため、電圧降下が発生し、コア層14の破壊を抑制することができる。この結果、アーム導波路34のpn接合の破壊が抑制され、整流特性も維持される。
【0040】
コンタクト層12はn-InPを含み、上部クラッド層16はp-InPを含み、コア層14はAlGaInAsを含む。破壊が抑制され、これらの間のpn接合が保護される。アーム導波路34は他の化合物半導体で形成されてもよい。
【実施例2】
【0041】
実施例2ではESD(Electrostatic Discharge、静電気放電)耐圧を向上させる。
図3(a)は実施例2に係る光変調器200を例示する平面図である。実施例1と同じ構成については説明を省略する。
図3(a)に示すように、電極36の長さはL3である。長さL3を大きくすることで、電極36における電界の集中を抑制し、静電破壊を抑制する。
【0042】
光変調器200において変調用電極35の長さL1は1500μm、電極36の長さL3を14μmまたは1400μmとし、パルス電圧を印加し、破壊される電圧を調べた。
図3(b)は耐圧の評価結果を示す図である。横軸はパルス電圧を示し、縦軸は破壊に関する標準偏差の倍数(正規分布で期待される確率)を示す。三角はL3=14μmの例であり、円はL3=1400μmの例である。
図3(b)に示すように、L3=14μmの例では500V程度の電圧で光変調器が破壊される。変調用電極35から生じる電界が電極36に集中するためである。一方、L3=1400μmの例では2500Vで光変調器が破壊される。
【0043】
実施例2によれば、X軸方向の電極36の長さL3を大きくすることで、電極36において電界の集中を抑制し、電極36に電界が均等に分布する。これにより耐圧を向上させ、破壊を抑制することができる。特に電極36の長さL3は200μm以上であることが好ましい。長さL3は例えば変調用電極35の長さL1と同じか、長さL1の20%以上などであることが好ましい。光変調器200をパッケージに組み込む際に静電気によって数百Vの電圧が印加されることがある。耐圧の上昇により静電気による破壊を抑制することができる。実施例1と同様に端部36cが端部35aより後段に位置することで、電流による破壊を抑制することができる。
【0044】
以上、本発明の実施例について詳述したが、本発明は係る特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【符号の説明】
【0045】
10 基板
12、18 コンタクト層
13 下部クラッド層
14 コア層
16 上部クラッド層
20、21 樹脂層
22~25 絶縁膜
26 メッキ層
27 配線層
34、34a、34b、 アーム導波路
35 変調用電極
36、36a、36b 電極
40 入射ポート
41、47、52a~52d 導波路
42、44、46、48 出射ポート
45、49、50a、50b カプラ
100、200 光変調器