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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-18
(45)【発行日】2023-12-26
(54)【発明の名称】餅状食品および餅状食品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 7/10 20160101AFI20231219BHJP
   A23G 3/34 20060101ALI20231219BHJP
   A23G 3/42 20060101ALI20231219BHJP
   C08B 11/12 20060101ALN20231219BHJP
【FI】
A23L7/10 102
A23G3/34 106
A23G3/42
C08B11/12
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019164953
(22)【出願日】2019-09-10
(65)【公開番号】P2021040536
(43)【公開日】2021-03-18
【審査請求日】2022-08-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000183484
【氏名又は名称】日本製紙株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100130812
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100164161
【弁理士】
【氏名又は名称】三宅 彩
(72)【発明者】
【氏名】多田 裕亮
(72)【発明者】
【氏名】薮野 伸季
【審査官】戸来 幸男
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/199924(WO,A1)
【文献】特開2020-005530(JP,A)
【文献】特開2020-018241(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 7/10
A23G 3/34
A23G 3/42
A23L 29/262
C08B 11/12
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(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
もち米及びセルロースナノファイバーを含む餅状食品であって、
前記セルロースナノファイバーはカルボキシメチル基置換度が0.55~1.6のカルボキシメチルセルロース又はその塩を、セルロースナノファイバーに対して5~300質量%の範囲で含むことを特徴とする餅状食品
【請求項2】
セルロースナノファイバーがアニオン変性セルロースナノファイバーである請求項1記載の餅状食品。
【請求項3】
アニオン変性セルロースナノファイバーがカルボキシ基を有するセルロースナノファイバーまたはカルボキシアルキル基を有するセルロースナノファイバーである請求項1ないし2記載の餅状食品。
【請求項4】
アニオン変性セルロースナノファイバーがカルボキシメチル置換度が0.01~0.50の範囲内であるカルボキシメチル化セルロースナノファイバーである請求項3に記載の餅状食品。
【請求項5】
前記餅状食品が、大福餅、桜餅、あんころ餅、ぼた餅、草餅、求肥、おはぎ、団子からなる群より選ばれた1種である、請求項1~のいずれかに記載の餅状食品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セルロースナノファイバーを含む餅状食品、およびセルロースナノファイバーを含有する餅状食品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
餅状食品はもち米またはもち米粉を主体に、必要に応じてうるち米、各種澱粉類、小麦粉などを混合させたものを蒸した後に、搗くあるいは練ることにより提供されるものである。
【0003】
餅状食品は製造後、時間と共に硬化し食感が悪化することがある。このような問題を解決するために、水溶性ヘミセルロースを添加することにより、硬化を抑制し食感を改良することが提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平10-150938号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の方法においては、冷凍後解凍した際の食感が悪化することを防止することは不十分であった。また、砂糖を添加する方法は食感が低下する上に、不要な甘味を付与してしまう。
【0006】
そこで、本発明は、冷凍後解凍した際にひび割れを抑制し、食感を低下させない餅を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、かかる目的を達成するため鋭意検討した結果、セルロースナノファイバー(CNF)を配合することが有効であることを見出し、本発明を完成した。
【0008】
本発明は以下を提供する。
(1) もち米及びセルロースナノファイバーを含む餅状食品。
(2) セルロースナノファイバーがアニオン変性セルロースナノファイバーである(1)記載の餅状食品。
(3) アニオン変性セルロースナノファイバーがカルボキシ基を有するセルロースナノファイバーまたはカルボキシアルキル基を有するセルロースナノファイバーである(1)ないし(2)記載の餅状食品。
(4) アニオン変性セルロースナノファイバーがカルボキシメチル置換度が0.01~0.50の範囲内であるカルボキシメチル化セルロースナノファイバーである(3)に記載の餅状食品。
(5) さらにカルボキシメチル化セルロースを含有する(1)~(4)のいずれかに記載の餅状食品。
(6) 前記餅状食品が、大福餅、桜餅、あんころ餅、ぼた餅、草餅、求肥、おはぎ、団子からなる群より選ばれた1種である、請求項1~5のいずれかに記載の餅状食品。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、冷凍して解凍した際にひび割れが抑制され、食感にも優れる餅状食品を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明において「~」は端値を含む。すなわち「X~Y」はその両端の値XおよびYを含む。
【0011】
本発明の餅状食品は、もち米及びセルロースナノファイバーを含み、必要に応じてうるち米、小麦粉、澱粉類等を含む。
【0012】
(もち米)
本発明の餅状食品に用いるもち米としては特に制限はなく、もち米の粉体(もち粉、白玉粉、道明寺粉等)でもよい。また、必要に応じて、うるち米、米粉(上新粉)、小麦粉(強力粉、準強力粉、中力粉、薄力粉、デュラム小麦粉、全粒粉等)、そば粉、とうもろこし粉、澱粉類(馬鈴薯澱粉、片栗粉、タピオカ澱粉、小麦澱粉、れんこん澱粉、甘藷澱粉、コーンスターチ、きび粉、葛粉、わらび粉、及び加工澱粉(澱粉に酵素的、物理的及び/又は化学的な加工を施したもの))を混合させてもよい。
【0013】
(副原料)
本発明において、必要に応じて、一般に餅状食品に使用されている副原料、あるいは餅状食品の種類や望まれる品質等によって使用されている副原料を使用することができる。具体的には、糖類(ブドウ糖、果糖などの単糖類、麦芽糖、ショ糖、乳糖などの2糖類、異性化糖、水飴、還元水飴、糖アルコール)、食塩、重曹等の膨張剤、生クリーム、チーズ、クリームチーズ等の乳製品、卵(全卵、殺菌液卵黄、凍結卵黄、乾燥卵黄、加糖卵黄)、乳成分(牛乳、脱脂乳、脱脂粉乳、全脂粉乳、加糖粉乳)、蜂蜜、ショートニング、油脂類(マーガリン、バター、液油、乳化油脂等)、乳化剤(グリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ステアロイル乳酸カルシウム等)、増粘多糖類(カルボキシメチル化セルロース、グアーガム、キサンタンガム、カラギーナン等)、香辛料(シナモン、バジリコ等)、洋酒類(ブランデー、ラム酒等)、豆類(大豆、そら豆)、胡麻、ドライフルーツ(レーズン、ドライチェリー等)、ナッツ類(アーモンド、ピーナツ等)、酵素(αアミラーゼ、βアミラーゼ、グルコアミラーゼ、プロテアーゼ、リパーゼ、キシラナーゼ、ヘミセルラーゼ、グルコースオキシダーゼ等)、香料(例えばバニラエッセンス)、人工甘味料(例えばアスパルテーム)、食物繊維(ペクチン、グアーガム分解物、アガロース、グルコマンナン、ポリデキストローズ、アルギン酸ナトリウム、セルロース、ヘミセルロース、リグニン、キチン、キトサン、難消化性デキストリン等)、活性グルテン、大豆蛋白、抹茶パウダー、チョコレート、ココアパウダー等が例示できる。
【0014】
(セルロースナノファイバー)
本発明において、セルロースナノファイバー(以下、CNFということがある。)は、セルロース系原料であるパルプなどがナノメートルレベルまで微細化されたもので、繊維幅が1~500nm程度の微細繊維である。セルロースナノファイバーの平均繊維径および平均繊維長は、原子間力顕微鏡(AFM)または透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて、各繊維を観察した結果から得られる繊維径および繊維長を平均することによって得ることができる。また、セルロースナノファイバーの平均アスペクト比は、通常50以上である。上限は特に限定されないが、通常は1000以下である。平均アスペクト比は、下記の式により算出することができる:
アスペクト比=平均繊維長/平均繊維径
【0015】
セルロースナノファイバーは、パルプに機械的な力を加えて微細化することで得られ、未変性のセルロースあるいは、カルボキシ化したセルロース(酸化セルロースとも呼ぶ)、カルボキシメチル化したセルロース、リン酸エステル基を導入したセルロースのようなアニオン変性セルロース、カチオン化したセルロースなどの変性セルロースを解繊することによって得ることができる。微細繊維の平均繊維長と平均繊維径は、酸化処理、解繊処理により調整することができる。本発明においては、カルボキシメチル化処理を行って得られたカルボキシメチル化セルロースを解繊して得られたカルボキシメチル化(CM化)セルロースナノファイバーを用いることが好ましい。
【0016】
(セルロース原料)
本発明に用いるセルロースナノファイバーを製造するためのセルロース原料としては、例えば、植物性材料(例えば、木材、竹、麻、ジュート、ケナフ、農地残廃物、布、パルプ)、動物性材料(例えばホヤ類)、藻類、微生物(例えば酢酸菌(アセトバクター))産生物等を起源とするものが挙げられる。パルプとしては、針葉樹未漂白クラフトパルプ(NUKP)、針葉樹漂白クラフトパルプ(NBKP)、広葉樹未漂白クラフトパルプ(LUKP)、広葉樹漂白クラフトパルプ(LBKP)、針葉樹未漂白サルファイトパルプ(NUSP)、針葉樹漂白サルファイトパルプ(NBSP)、サーモメカニカルパルプ(TMP)、再生パルプ、古紙等が挙げられる。これらのすべてが使用できるが、植物または微生物由来のセルロース繊維が好ましく、植物由来のセルロース繊維がより好ましい。
【0017】
(カルボキシメチル化)
本発明において、カルボキシメチル化セルロースナノファイバーを用いる場合、カルボキシメチル化したセルロースは、上記のセルロース原料を公知の方法でカルボキシメチル化することにより得てもよいし、市販品を用いてもよい。いずれの場合も、セルロースの無水グルコース単位当たりのカルボキシメチル置換度は0.01~0.50であることが好ましい。そのようなカルボキシメチル化したセルロースを製造する方法の一例として次のような方法を挙げることができる。セルロースを発底原料にし、溶媒として3~20質量倍の水または低級アルコールを使用する。具体的には水、メタノール、エタノール、N-プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、N-ブタノール、イソブタノール、第3級ブタノール等を単独、あるいは2種以上を併用して使用できる。水と低級アルコールの混合溶媒を用いる場合、低級アルコールの混合割合は60~95質量%である。マーセル化剤としては、発底原料の無水グルコース残基当たり0.5~20倍モルの水酸化アルカリ金属、具体的には水酸化ナトリウム、水酸化カリウムを使用する。発底原料と溶媒、マーセル化剤を混合し、反応温度0~70℃、好ましくは10~60℃で、反応時間を15分~8時間、好ましくは30分~7時間としてマーセル化処理を行う。その後、カルボキシメチル化剤をグルコース残基当たり0.05~10.0倍モル添加し、反応温度30~90℃、好ましくは40~80℃で、反応時間を30分~10時間、好ましくは1時間~4時間としてエーテル化反応を行う。
【0018】
<カルボキシメチル化セルロースナノファイバー>
本発明のカルボキシメチル化セルロースナノファイバーは、水に分散した際にも繊維状の形状の少なくとも一部が維持されるものである。すなわち、カルボキシメチル化セルロースナノファイバーの水分散体を電子顕微鏡で観察すると、繊維状の物質を観察することができるものである。また、カルボキシメチル化セルロースナノファイバーをX線回折で測定した際にセルロースI型結晶のピークを観測することができるものである。
【0019】
<セルロースI型の結晶化度>
本発明に用いられるカルボキシメチル化セルロースナノファイバーにおけるセルロースの結晶化度は、結晶I型が40%以上であり、好ましくは50%以上である。セルロースI型の結晶化度が40%以上と高いと、水等の溶媒中で溶解せずに結晶構造を維持するセルロースの割合が高いため、チキソ性が高くなり(チキソトロピー)、増粘剤等の粘度調整用途に適するようになる。また、例えば、これに限定されないが、ゲル状の物質(例えば、食品や化粧品など)に添加した際に、優れた保形性を付与できるという利点が得られる。セルロースの結晶性は、マーセル化剤の濃度と処理時の温度、並びにカルボキシメチル化の度合によって制御できる。マーセル化及びカルボキシメチル化においては高濃度のアルカリが使用されるために、セルロースのI型結晶がII型に変換されやすいが、アルカリ(マーセル化剤)の使用量を調整するなどして変性の度合いを調整することによって、所望の結晶性を維持させることができる。セルロースI型の結晶化度の上限は特に限定されない。現実的には90%程度が上限となると考えられる。
【0020】
カルボキシメチル化セルロースナノファイバーのセルロースI型の結晶化度の測定方法は、以下の通りである:
試料をガラスセルに乗せ、X線回折測定装置(LabX XRD-6000、島津製作所製)を用いて測定する。結晶化度の算出はSegal等の手法を用いて行い、X線回折図の2θ=10°~30°の回折強度をベースラインとして、2θ=22.6°の002面の回折強度と2θ=18.5°のアモルファス部分の回折強度から次式により算出する。
Xc=(I002c―Ia)/I002c×100
Xc=セルロースI型の結晶化度(%)
I002c:2θ=22.6°、002面の回折強度
Ia:2θ=18.5°、アモルファス部分の回折強度。
【0021】
カルボキシメチル化セルロースのナノファイバーにおけるI型結晶の割合は、ナノファイバーとする前のカルボキシメチル化セルロースにおけるものと、通常、同じである。
【0022】
<カルボキシメチル置換度>
本発明に用いられるカルボキシメチル化セルロースのナノファイバーは、セルロースの無水グルコース単位当たりのカルボキシメチル置換度が、0.50以下である。カルボキシメチル置換度が0.50を超えると水へ溶解し、繊維形状を維持できなくなると考えられる。操業性を考慮すると当該置換度は0.01~0.50であることが好ましく、0.02~0.50であることがさらに好ましく、0.05~0.40であることがさらに好ましく、0.10~0.40であることがさらに好ましい。セルロースにカルボキシメチル基を導入することで、セルロース同士が電気的に反発するため、ナノファイバーへと解繊することができるようになるが、無水グルコース単位当たりのカルボキシメチル置換度が0.01より小さいと、解繊が不十分となり、透明性の高いセルロースナノファイバーが得られない場合がある。なお、従来の水媒法では、カルボキシメチル置換度が0.20~0.40の範囲では、セルロースI型の結晶化度が60%以上であるカルボキシメチル化セルロースのナノファイバーを得ることは困難であったが、本発明者らは、例えば後述する方法により、カルボキシメチル置換度が0.20~0.40の範囲であり、セルロースI型の結晶化度が60%以上であるカルボキシメチル化セルロースのナノファイバーを製造できることを見出した。カルボキシメチル置換度は、反応させるカルボキシメチル化剤の添加量、マーセル化剤の量、水と有機溶媒の組成比率をコントロールすること等によって調整することができる。
【0023】
本発明において無水グルコース単位とは、セルロースを構成する個々の無水グルコース(グルコース残基)を意味する。また、カルボキシメチル置換度(エーテル化度ともいう。)とは、セルロースを構成するグルコース残基中の水酸基のうちカルボキシメチルエーテル基に置換されているものの割合(1つのグルコース残基当たりのカルボキシメチルエーテル基の数)を示す。なお、カルボキシメチル置換度はDSと略すことがある。
【0024】
カルボキシメチル置換度の測定方法は以下の通りである:
試料約2.0gを精秤して、300mL共栓付き三角フラスコに入れる。硝酸メタノール1000mLに特級濃硝酸100mLを加えた液100mLを加え、3時間振盪して、カルボキシメチル化セルロースナノファイバーの塩(CMC)をH-CMC(水素型カルボキシメチル化セルロースナノファイバー)に変換する。その絶乾H-CMCを1.5~2.0g精秤し、300mL共栓付き三角フラスコに入れる。80%メタノール15mLでH-CMCを湿潤し、0.1N-NaOHを100mL加え、室温で3時間振盪する。指示薬として、フェノールフタレインを用いて、0.1N-HSOで過剰のNaOHを逆滴定し、次式によってカルボキシメチル置換度(DS値)を算出する。
A=[(100×F’-0.1N-HSO(mL)×F)×0.1]/(H-CMC
の絶乾質量(g))
カルボキシメチル置換度=0.162×A/(1-0.058×A)
F’:0.1N-HSOのファクター
F:0.1N-NaOHのファクター。
【0025】
カルボキシメチル化セルロースのナノファイバーにおけるカルボキシメチル置換度は、ナノファイバーとする前のカルボキシメチル化セルロースにおけるカルボキシメチル置換度と、通常、同じである。
【0026】
<繊維径、アスペクト比>
本発明に用いられるカルボキシメチル化セルロースのナノファイバーは、ナノスケールの繊維径を有するものである。平均繊維径は、好ましくは3nm~500nm、さらに好ましくは3nm~150nm、さらに好ましくは3nm~20nm、さらに好ましくは5nm~19nm、さらに好ましくは5nm~15nmである。
【0027】
カルボキシメチル化セルロースナノファイバーのアスペクト比は、特に限定されないが、350以下であることが好ましく、300以下であることがさらに好ましく、200以下であることがさらに好ましく、120以下であることがさらに好ましく、100以下であることがさらに好ましく、80以下であることがさらに好ましい。アスペクト比が350以下であると、繊維が過度に長すぎず、繊維同士の絡まり合いが少なくなり、セルロースナノファイバーの塊(ダマ)の発生を低減することができ、添加剤として使用するのに適する。また、流動性が高いので、高濃度でも使用しやすくなり、高固形分が要求される用途においても使いやすくなるという利点が得られる。アスペクト比の下限は、特に限定されないが、好ましくは25以上であり、さらに好ましくは30以上である。アスペクト比が25以上であると、その繊維状の形状から、チキソ性の向上といった効果が得られる。カルボキシメチル化セルロースナノファイバーのアスペクト比は、カルボキシメチル化時の溶媒と水の混合比、薬品添加量、及びカルボキシメチル化の度合によって制御でき、また、例えば、後述する製法により製造することができる。
【0028】
カルボキシメチル化セルロースのナノファイバーの平均繊維径および平均繊維長は、径が20nm以下の場合は原子間力顕微鏡(AFM)、20nm以上の場合は電界放出型走査電子顕微鏡(FE-SEM)を用いて、ランダムに選んだ200本の繊維について解析し、平均を算出することにより、測定することができる。また、アスペクト比は下記の式により算出することができる:
アスペクト比=平均繊維長/平均繊維径。
【0029】
(解繊)
セルロース原料の解繊は、セルロース原料に変性処理を施す前に行ってもよいし、後に行ってもよい。また、解繊は、一度に行ってもよいし、複数回行ってもよい。複数回の場合それぞれの解繊の時期はいつでもよい。
【0030】
解繊に用いる装置は特に限定されないが、例えば、高速回転式、コロイドミル式、高圧式、ロールミル式、超音波式などのタイプの装置が挙げられ、高圧又は超高圧ホモジナイザーが好ましく、湿式の高圧又は超高圧ホモジナイザーがより好ましい。装置は、セルロース原料又は変性セルロース(通常は分散液)に強力なせん断力を印加できることが好ましい。装置が印加できる圧力は、50MPa以上が好ましく、より好ましくは100MPa以上であり、さらに好ましくは140MPa以上である。装置は、セルロース原料又は変性セルロース(通常は分散液)に上記圧力を印加することができ、かつ強力なせん断力を印加できる、湿式の高圧又は超高圧ホモジナイザーが好ましい。これにより、解繊を効率的に行うことができる。
【0031】
セルロース原料の分散体に対して解繊を行う場合、分散体中のセルロース原料の固形分濃度は、通常は0.1質量%以上、好ましくは0.2質量%以上、より好ましくは0.3質量%以上である。これにより、セルロース繊維原料の量に対する液量が適量となり効率的である。上限は通常10質量%以下、好ましくは6質量%以下である。これにより流動性を保持することができる。
【0032】
解繊(好ましくは高圧ホモジナイザーでの解繊)、又は必要に応じて解繊前に行う分散処理に先立ち、必要に応じて予備処理を行ってもよい。予備処理は、高速せん断ミキサーなどの混合、撹拌、乳化、分散装置を用いて行えばよい。
【0033】
(乾燥)
本発明に用いるセルロースナノファイバーは、解繊後に得られる分散液の状態で使用することも可能であるが、必要に応じて乾燥し、また水に再分散して使用することもできる。乾燥方法は何ら限定されないが、例えば凍結乾燥法、噴霧乾燥法、棚段式乾燥法、ドラム乾燥法、ベルト乾燥法、ガラス板等に薄く伸展し乾燥する方法、流動床乾燥法、マイクロウェーブ乾燥法、起熱ファン式減圧乾燥法などの既知の方法を使用できる。乾燥後に必要に応じて、カッターミル、ハンマーミル、ピンミル、ジェットミル等で粉砕しても良い。また、水への再分散の方法も特に限定されず、既知の分散装置を使用することができる。
【0034】
本発明に用いるセルロースナノファイバーの形態は、分散液の状態であっても良いし、粉末状であっても良いが、菓子類製造時の作業性に優れる観点から、分散液の状態で用いることが好ましい。
【0035】
本発明において、セルロースナノファイバーの配合量は、菓子類の原料の小麦粉に対して、固形分換算で好ましくは0.01~5質量%、より好ましくは0.05~3質量%、さらに好ましくは0.1~2質量%である。
【0036】
本発明のセルロースナノファイバーは、必要に応じて、他の成分を含んでいてもよい。例えば、粉末を製造する際、乾燥前に、セルロースナノファイバーの分散体に水溶性高分子を共存させると、再分散性が向上するので、好ましい。
【0037】
<水溶性高分子>
水溶性高分子としては、例えば、セルロース誘導体(カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、エチルセルロース)、キサンタンガム、キシログルカン、デキストリン、デキストラン、カラギーナン、ローカストビーンガム、アルギン酸、アルギン酸塩、プルラン、澱粉、かたくり粉、クズ粉、コーンスターチ、アラビアガム、ローカストビーンガム、ジェランガム、ポリデキストロース、ペクチン、キチン、水溶性キチン、キトサン、カゼイン、アルブミン、大豆蛋白溶解物、ペプトン、タマリンドガム、グァーガム、等が挙げられる。この中でも、セルロース誘導体は、カルボキシメチル化セルロースナノファイバーとの親和性の点から好ましく、カルボキシメチルセルロース及びその塩は特に好ましい。カルボキシメチルセルロース及びその塩のような水溶性高分子は、カルボキシメチル化セルロースナノファイバー同士の間に入りこみ、ナノファイバー間の距離を広げることで、再分散性を向上させると考えられる。
【0038】
水溶性高分子として、カルボキシメチルセルロース又はその塩を用いる場合には、無水グルコース単位当たりのカルボキシメチル基置換度が0.55~1.6のカルボキシメチルセルロースを用いることが好ましく、0.55~1.1のものがより好ましく、0.65~1.1のものがさらに好ましい。また、分子が長い(粘度が高い)ものの方が、ナノファイバー間の距離を広げる効果が高いので好ましい。また、カルボキシメチルセルロースの1質量%水溶液における25℃、60rpmでのB型粘度は、3mPa・s~14000mPa・sが好ましく、7mPa・s~14000mPa・sがより好ましく、1000mPa・s~8000mPa・sがさらに好ましい。なお、ここでいう水溶性高分子としての「カルボキシメチルセルロース又はその塩」とは、水に完全に溶解するものであることから、上述の水中で繊維形状を確認することができるカルボキシメチル化セルロースナノファイバーとは区別される。
【0039】
水溶性高分子の配合量は、セルロースナノファイバー(絶乾固形分)に対して、5質量%~300質量%であることが好ましく、20質量%~300%質量がさらに好ましく、25質量%~200質量%がさらに好ましく、25質量%~60質量%がさらに好ましい。
【0040】
(餅状食品の製造方法)
セルロースナノファイバーを水分散液の状態で餅状食品の原料に配合する場合は、まず、セルロースナノファイバーの水分散液を準備する。セルロースナノファイバーの粉末から水分散液を調製する場合は、例えば、セルロースナノファイバーの粉末および水をミキサーで撹拌すれば良い。次に、もち米、セルロースナノファイバー水分散液、必要に応じて副原料等を混合して生地を調整し、得られた生地を蒸し、その後搗く、あるいは練るなどの処理することにより本発明の餅状食品を製造することができる。
【0041】
本発明の餅状食品は、セルロースナノファイバーを含むため、均一で細かい気泡を有するので、食感に優れる。餅状食品として、具体的には大福餅、桜餅、あんころ餅、ぼた餅、草餅、求肥、おはぎ、団子等が挙げられる。
【実施例
【0042】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0043】
(カルボキシメチル置換度の測定方法)
1)カルボキシメチル化セルロース繊維(絶乾)約2.0gを精秤して、300mL容共栓付き三角フラスコに入れる。
2)硝酸メタノール1000mLに特級濃硝酸100mLを加えた液100mLを加え、3時間振とうして、カルボキシメチルセルロース塩(CM化セルロース)を水素型CM化セルロースにする。
3)水素型CM化セルロース(絶乾)を1.5~2.0g精秤し、300mL容共栓付き三角フラスコに入れる。
4)80%メタノール15mLで水素型CM化セルロースを湿潤し、0.1NのNaOHを100mL加え、室温で3時間振とうする。
5)指示薬として、フェノールフタレインを用いて、0.1NのH2SO4で過剰のNaOHを逆滴定する。
6)カルボキシメチル置換度(DS)を、次式によって算出する:
A=[(100×F’-(0.1NのH2SO4)(mL)×F)×0.1]/(水素型CM化セルロースの絶乾質量(g))
DS=0.162×A/(1-0.058×A)
A:水素型CM化セルロースの1gの中和に要する1NのNaOH量(mL)
F’:0.1NのH2SO4のファクター
F:0.1NのNaOHのファクター
【0044】
(平均繊維径、アスペクト比の測定方法)
CNFの平均繊維径および平均繊維長は、原子間力顕微鏡(AFM)を用いてランダムに選んだ200本の繊維について解析した。アスペクト比は下記の式により算出した。
アスペクト比=平均繊維長/平均繊維径
【0045】
[実施例1]
(カルボキシメチル化セルロースナノファイバーの製造)
パルプを混ぜることが出来る撹拌機に、パルプ(NBKP(針葉樹晒クラフトパルプ)、日本製紙株式会社製)を乾燥質量で200g、水酸化ナトリウムを乾燥質量で111g加え、パルプ固形分が20%(w/v)になるように水を加えた。その後、30℃で30分間撹拌した後にモノクロロ酢酸ナトリウムを216g(有効成分換算)添加した。30分間撹拌した後に、70℃まで昇温し1時間撹拌した。その後、反応物を取り出して中和、洗浄して、グルコース単位当たりのカルボキシメチル置換度0.25のカルボキシメチル化したパルプを得た。その後、カルボキシメチル化したパルプを水で固形分1%とし、高圧ホモジナイザーにより20℃、150MPaの圧力で5回処理することにより解繊し、カルボキシメチル化(CM化)セルロースナノファイバーの水分散液を得た。得られたCM化セルロースナノファイバーは、平均繊維径が5nm、アスペクト比が500であった。
得られたカルボキシメチル化セルロースナノファイバーを水で固形分0.7質量%の分散体とし、カルボキシメチルセルロース(商品名:F350HC-4、粘度(1質量%、25℃、60rpm)約3000mPa・s、カルボキシメチル置換度約0.90)を、カルボキシメチル化セルロースナノファイバーに対して40質量%(すなわち、カルボキシメチル化セルロースナノファイバーの固形分を100質量部としたときにカルボキシメチルセルロースの固形分が40質量部となるように)添加し、TKホモミキサー(12,000rpm)で60分間攪拌した。得られたCM化セルロースナノファイバーの水分散液をドラム乾燥装置で脱水・乾燥することにより乾燥固形物を得てから粉砕し、粉砕物を30メッシュを用いて分級し、CM化セルロースナノファイバーの粉末を得た。
【0046】
(餅の製造)
もち米粉100部、水100部をよく練り合わせ、蒸し器で30分間蒸した。蒸し上がった生地をホームベーカリの生地モードにて5分間練り、さらに上記で得られたCM化セルロースナノファイバーの粉末1部を添加し、さらに5分間練った。
次に練りあがった生地から20gを取り、小豆の粒餡12gを包んで大福餅を製造し、ラップで包装し48時間冷凍保管し、その後解凍した。
【0047】
[比較例1]
CM化セルロースナノファイバーを添加しない以外は、実施例1と同様にして大福餅を製造した。
【0048】
[比較例2]
CM化セルロースナノファイバーに替えて上砂糖を17部添加した以外は、実施例1と同様にして大福餅を製造した。
【0049】
実施例1、比較例1~2で製造した大福餅について、解凍後の状態を目視し、食感については試食して下記の評価を行い、結果を表1に示した。
<食感>
10人のパネラーに大福餅を試食させ、食感のよさを1~10点で評価し、平均値で評価した。
◎:8~10点、△:4~7点、×:1~3
【0050】
【表1】
【0051】
表1に示されるように、実施例1のCM化セルロースナノファイバーを含む大福餅は、セルロースナノファイバーを含まない比較例1の大福餅に比較して、食感に優れており、解凍後にひび割れがなく、硬化が抑制されていた。上砂糖を添加した比較例2の大福餅は、食感には優れていたが、甘みが過剰であった。