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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-18
(45)【発行日】2023-12-26
(54)【発明の名称】半導体装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/60 20060101AFI20231219BHJP
   H01L 25/07 20060101ALI20231219BHJP
   H01L 25/18 20230101ALI20231219BHJP
【FI】
H01L21/60 321E
H01L25/04 C
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019166581
(22)【出願日】2019-09-12
(65)【公開番号】P2021044456
(43)【公開日】2021-03-18
【審査請求日】2022-08-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000005234
【氏名又は名称】富士電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105854
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 一
(74)【代理人】
【識別番号】100103850
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 秀▲てつ▼
(72)【発明者】
【氏名】金井 直之
(72)【発明者】
【氏名】日向 裕一朗
【審査官】安田 雅彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-029157(JP,A)
【文献】国際公開第2014/203798(WO,A1)
【文献】特開2010-010574(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/60
H01L 23/48-23/50
H01L 25/00-25/18
H05K 3/32- 3/34
H02M 7/42- 7/98
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁回路基板と、
該絶縁回路基板の上面に設けられた導電層の上に配置されたチップ接続部材と、
該チップ接続部材により裏面が接合され、一端側に第1電極パッドと他端側に前記第1電極パッドよりも大電流が流れる第2電極パッドとを有する半導体チップと、
前記絶縁回路基板に対面する配線基板に設けられた第1貫通孔に圧入され、前記第1電極パッドの上に配置された第1はんだ材に一端が接合された第1接続ピンと、
前記配線基板に設けられた第2貫通孔に圧入され、前記第2電極パッドの上に配置された第2はんだ材に一端が接合された第2接続ピンと
を備え、
前記第2はんだ材の量は、前記第1はんだ材よりも多く、
前記第1接続ピンの表面に設けられた第1めっき層は、前記第2接続ピンの表面に設けられた第2めっき層よりはんだの濡れ性が高いことを特徴とする半導体装置。
【請求項2】
前記一端側と前記他端側とにおける前記チップ接続部材の膜厚の差が、20μm未満であることを特徴とする請求項1に記載の半導体装置。
【請求項3】
前記第1接続ピンの第1めっき層が銀又は金からなり、前記第2接続ピンの第2めっき層がニッケルからなることを特徴とする請求項1又は2に記載の半導体装置。
【請求項4】
少なくとも前記第2接続ピンが複数であり、前記第1接続ピンより多いことを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の半導体装置。
【請求項5】
前記第2電極パッドの表面積が、前記第1電極パッドの表面積よりも大きいことを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載の半導体装置。
【請求項6】
前記半導体チップが、10mm×10mm未満の寸法であることを特徴とする請求項1~のいずれか1項に記載の半導体装置。
【請求項7】
前記第1接続ピンと前記第2接続ピンとの直径が異なることを特徴とする請求項1~のいずれか1項に記載の半導体装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体装置に関し、特にパワー半導体素子を搭載した半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
パワー半導体モジュールは、効率的な電力変換を求められる分野で広く適用されている。近年注目を浴びている太陽光発電や風力発電等の再生可能エネルギ分野、ハイブリッド自動車や電気自動車等の車載分野、車両等の鉄道分野等が挙げられる。このようなパワー半導体モジュールには、スイッチング素子やダイオード等のパワー半導体素子を有する半導体チップが内蔵されている。パワー半導体素子には、シリコン(Si)半導体や、炭化珪素(SiC)半導体等のワイドバンドギャップ半導体が用いられる。SiC半導体は、Si半導体に比べて高耐圧、高耐熱、低損失等の特徴を有し、パワー半導体モジュールに用いることにより、装置の小型化や低損失化が可能となる。パワー半導体モジュールでは、パワー半導体素子は、耐湿性、耐熱性、機械特性等に優れたエポキシ樹脂を含む封止材で封止される。
【0003】
特許文献1には、リード端子のそれぞれが金(Au)バンプを介して半導体チップのソース電極及びゲート電極に接続され、ダイ端子が銀(Ag)めっきを介して半導体チップの裏面電極に接続されることが記載されている。Auバンプは、ボールボンディング法によりソース電極及びゲート電極それぞれの全面に均等に配置される。ダイ端子は、加熱しながら超音波接合法により裏面電極に接合される。特許文献2には、パワー半導体モジュールにおいて、半導体チップの表面電極への電気配線にボンディングワイヤやリードフレーム等に代えて、インプラントピン等の接続ピン及びプリント配線基板(PCB)等の配線基板を用いる構造が開示されている。半導体チップの表面には、ソース電極及びゲート電極に電気的に接続されたソースパッド及びゲートパッドが配置される。ソースパッド及びゲートパッドのそれぞれに、配線基板に挿入された接続ピンがはんだにより電気的に接続される。
【0004】
半導体チップの表面に配置されるソースパッドとゲートパッドとは、面積が異なり、はんだ接合する接続ピンの数も異なる。そのため、接続ピンをソースパッド及びゲートパッドにはんだ接合する際に、半導体チップが傾斜してしまい、パワー半導体モジュールの信頼性が低下する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2008‐311685号公報
【文献】特許第5241177号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記課題に着目してなされたものであって、はんだの濡れ性に起因する半導体チップの傾斜を防止することができ、信頼性の確保が可能な半導体装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明の一態様は、(a)絶縁回路基板と、(b)絶縁回路基板の上面に設けられた導電層の上に配置されたチップ接続部材と、(c)チップ接続部材により裏面が接合され、一端側に第1電極パッドと他端側に第1電極パッドよりも大電流が流れる第2電極パッドとを有する半導体チップと、(d)絶縁回路基板に対面する配線基板に設けられた第1貫通孔に圧入され、第1電極パッドの上に配置された第1はんだ材に一端が接合された第1接続ピンと、(e)配線基板に設けられた第2貫通孔に圧入され、第2電極パッドの上に配置された第2はんだ材に一端が接合された第2接続ピンとを備え、第2はんだ材の量は、第1はんだ材よりも多く、第1接続ピンの表面に設けられた第1めっき層は、第2接続ピンの表面に設けられた第2めっき層よりはんだの濡れ性が高い半導体装置であることを要旨とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、はんだの濡れ性に起因する半導体チップの傾斜を防止することができ、信頼性の確保が可能な半導体装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の代表的な実施形態(以下において「代表実施形態」という。)に係る半導体装置の一例を示す断面概略図である。
図2図1の半導体装置の一部となる半導体チップに対する接続ピンの配置の一例を示す平面概略図である。
図3図3(a)は代表実施形態に係る半導体装置に用いる制御電極用接続ピンとしての第1接続ピンの一例を示す断面概略図で、図3(b)は代表実施形態に係る半導体装置に用いる主電極用接続ピンとしての第2接続ピンの一例を示す断面概略図である。
図4図2のA-A線から見た半導体チップ周りの拡大断面概略図である。
図5図5(a)は従来の半導体装置に用いる制御電極用接続ピンを示す断面概略図で、図5(b)は従来の半導体装置の主電極用接続ピンを示す断面概略図である。
図6】従来の半導体装置の一部となる半導体チップ周りの拡大断面概略図である。
図7】代表実施形態に係る半導体装置に用いる配線基板の作製方法の一例を説明する断面概略図である。
図8】代表実施形態に係る半導体装置に用いる配線基板の作製方法の一例を説明するための図7に引き続く断面概略図である。
図9】代表実施形態に係る半導体装置に対する熱サイクル試験結果の一例を説明する表である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に代表実施形態を説明する。以下の図面の記載において、同一又は類似の部分には同一又は類似の符号を付している。但し、図面は模式的なものであり、厚みと平面寸法との関係、各装置や各部材の厚みの比率等は現実のものとは異なることに留意すべきである。したがって、具体的な厚みや寸法は以下の説明を参酌して判定すべきものである。また、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれていることは勿論である。
【0011】
また、以下の説明における「左右」や「上下」の方向は、単に説明の便宜上の定義であって、本発明の技術的思想を限定するものではない。よって、例えば、紙面を90度回転すれば「左右」と「上下」とは交換して読まれ、紙面を180度回転すれば「左」が「右」に、「右」が「左」になることは勿論である。
【0012】
本明細書においてMISトランジスタのソース領域は絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ(IGBT)のエミッタ領域として選択可能な「一方の主電極領域」である。又、MIS制御静電誘導サイリスタ(SIサイリスタ)等のサイリスタにおいては、一方の主電極領域はカソード領域として選択可能である。MISトランジスタのドレイン領域は、IGBTにおいてはコレクタ領域を、サイリスタにおいてはアノード領域として選択可能な半導体装置の「他方の主電極領域」である。本明細書において単に「主電極領域」と言うときは、当業者の技術常識から妥当な一方の主電極領域又は他方の主電極領域のいずれかを意味する。また、「制御電極」とは、一方の主電極領域と他方の主電極領域の間を流れる主電流を制御する電極を意味する。例えば、MISトランジスタにおいてソース領域とドレイン領域の間、あるいはIGBTにおいてはエミッタ領域とコレクタ領域の間を流れる主電流を制御するゲート電極が該当する。
【0013】
(半導体装置の構造)
代表実施形態に係る半導体装置は、図1に示すように、絶縁回路基板2、絶縁回路基板2に搭載された半導体チップ1、及び半導体チップ1の上方に配置された配線基板7を備える。絶縁回路基板2は、絶縁板22、絶縁板22の上面にパターニングされた配線層となる導電層21、及び絶縁板22の下面に設けられた放熱層となる導電層23を有する。配線基板7は、樹脂板72、樹脂板72の上面にパターニングされた配線層71、及び樹脂板72の下面にパターニングされた配線層73を有する。配線基板7の下面側は、絶縁回路基板2の導電層21の上面側に平行に対面するように設けられる。配線基板7においては、配線基板7を貫通するように、インプラントピン等の制御電極用接続ピンとしての第1接続ピン5及び主電極用接続ピンとしての第2接続ピン6が第1貫通孔25及び第2貫通孔26にそれぞれ圧入されている。半導体チップ1の下面は、はんだ等のチップ接続部材3を介して絶縁回路基板2の導電層21に電気的に接続される。半導体チップ1をなす半導体基板の上部には、図示は省略したが、制御電極(ゲート電極)となる導体層及び主電極領域(ソース電極領域)となる半導体領域が設けられる。半導体チップ1の上面には、図2に示すように、制御電極に電気的に接続された第1電極パッド(制御電極パッド)15、及び主電極領域に電気的に接続された第2電極パッド(主電極パッド)16がそれぞれ絶縁膜等からなる保護膜9の上に設けられる。第1電極パッド15は半導体チップ1の一端側に配置され、平面パターンとして第2電極パッド16は半導体チップ1の他端側で第1電極パッド15に対面するように配置される。第1電極パッド15及び第2電極パッド16の上には、それぞれ第1はんだ材4a及び第2はんだ材4bが配置される。第1接続ピン5は、一端が第1はんだ材4aに接合され、半導体チップ1の制御電極と電気的に接続される。第2接続ピン6は、一端が第はんだ材4bに接合され、半導体チップ1の主電極領域と電気的に接続される。代表実施形態に係る半導体装置として、図1に示すように、封止樹脂8に配線基板7、第1接続ピン5、第2接続ピン6、半導体チップ1、及び絶縁回路基板2の一部が封止された構造が例示されているが、限定されない。例えば、絶縁回路基板2の導電層23を、はんだ等の接合層を介して放熱ベースに接続した構造であってもよい。また、封止樹脂8を外装ケースに内蔵した構造であってもよい。
【0014】
半導体チップ1には、炭化珪素(SiC)を用いた絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ(IGBT)、MOS電界効果トランジスタ(MOSFET)、ショットキバリアダイオード(SBD)等の電力用半導体素子が用いられる。半導体チップ1は、SiCに限定されない。SiCの他にも、例えばシリコン(Si)、窒化ガリウム(GaN)、ロンズデーライト(六方晶ダイヤモンド)又は窒化アルミニウム(AlN)等の六方晶系の半導体材料がそれぞれ使用可能である。また、電力用半導体素子として、バイポーラトランジスタ(BPT)、静電誘導トランジスタ(SIT)、静電誘導サイリスタ(SIサイリスタ)やゲートターンオフサイリスタ(GTOサイリスタ)等も使用可能である。また、上記した半導体素子を組み合わせて用いてもよい。例えば、Si‐IGBTとSiC‐SBDを用いたハイブリッドモジュール等を用いてもよい。また、図1及び図2に示すように、半導体チップ1を1つ搭載した構造を例示したが、限定されない。搭載する半導体チップ1の数は複数であってもよい。更に、搭載する絶縁回路基板2や配線基板7の数も複数であってもよい。
【0015】
図2に示すように、半導体チップ1の上面に設けられる第1電極パッド15及び第2電極パッド16として、矩形状の表面パターンを例示したが、限定されない。半導体チップ1の主電流が通電される第2電極パッド16は、主電流の通電を制御する制御電極に電気的に接続された第1電極パッド15に比べて、面積を大きくすることが望ましい。図2では、第1電極パッド15に1つの第1接続ピン5を、第2電極パッド16には2つの第2接続ピン6を配置しているが、限定されない。第1接続ピン5として1以上であってもよく、第2接続ピン6として1、あるいは3以上であってもよい。なお。半導体チップ1のチップ寸法は10mm角未満が望ましい。
【0016】
絶縁回路基板2の絶縁板22には、電気絶縁性、熱伝導性に優れたセラミック基板が用いられる。セラミック基板には、例えば、窒化ケイ素(Si34)、窒化アルミニウム(AlN)、アルミナ(Al23)等を採用可能である。特に、高耐圧用途においては、電気絶縁性及び熱伝導性を両立した材料が好ましく、例えば、AlNやSi34を用いることが可能である。絶縁回路基板2の導電層21、23として、加工性に優れている銅(Cu)やアルミニウム(Al)等の金属材料が用いられる。また、CuやAl等の金属層の表面に防錆等の目的でニッケル(Ni)めっき等の処理を施してもよい。絶縁回路基板2は、例えば、セラミック基板の表面に銅が共晶接合された直接銅接合(DCB)基板、セラミック基板の表面に活性金属ろう付け(AMB)法により金属が配置されたAMB基板等を採用可能である。
【0017】
チップ接続部材3、制御電極用はんだ材4a、及び主電極用はんだ材4bのはんだ材は、鉛フリーはんだ等を用いることができる。例えば、はんだ材として、錫(Sn)‐銀(Ag)‐銅(Cu)系、Sn‐アンチモン(Sb)系、Sn‐Sb‐Ag系、Sn‐Cu系、Sn‐Sb‐Ag‐Cu系、Sn‐Cu‐Ni系、Sn‐Ag系等が採用可能である。
【0018】
配線基板7には、ポリイミドフィルム基板やエポキシフィルム基板等の樹脂板72、樹脂板72にCu、Al等の導電層がパターニングされた配線層71、73を有するプリント回路基板(PCB)等が用いられる。CuやAl等の導電層の表面に防錆等の目的でNiめっき等の処理を施してもよい。あるいは、接合の目的で錫(Sn)めっき等の処理を施してもよい。配線基板7の第1貫通孔25及び第2貫通孔26の表面には、下地層としてのNi膜にSnめっき層が設けられる。配線基板7の配線層71、73との電気的な接続が必要な場合、第1接続ピン5及び第2接続ピン6を第1貫通孔25及び第2貫通孔26に設けたSnめっき層を介して上面の配線層71、あるいは下面の配線層73に金属学的に接続する。また、配線基板7の配線層71、73との電気的接続が不要であれば、配線基板7の第1貫通孔25及び第2貫通孔26にめっき層を設けずに、第1接続ピン5及び第2接続ピン6を樹脂板72に直接接触させる構造としてもよい。
【0019】
封止樹脂8は、エポキシ樹脂主剤と硬化剤とを含み、無機充填材やその他の添加物が任意に添加されたエポキシ樹脂組成物で形成される。エポキシ樹脂主剤として、脂肪族エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂等を用いることができる。また、主剤として、エポキシ樹脂に代えて、マレイド樹脂、シアネート樹脂等を用いてもよい。あるいは、主剤として、エポキシ樹脂、マレイド樹脂及びシアネート樹脂等の中の二種類以上の樹脂を混合して用いてもよい。
【0020】
絶縁回路基板2上面の導電層21にはんだ等の接合材によって接合された外部端子ピン(図示省略)を封止樹脂8の外部に引き出すことにより、外部接続端子として用いることができる。外部接続ピンとして、導電性の優れているCu等の金属材料が採用可能である。
【0021】
図1及び図2に示したように、第1接続ピン5及び第2接続ピン6は、それぞれ配線基板7の第1貫通孔25及び第2貫通孔26を介して半導体チップ1の上面に設けられた第1電極パッド15及び第2電極パッド16に電気的に接続される。第1接続ピン5は、図3(a)に示すように、Cuからなる円柱状のピン主部10と、ピン主部10の表面にメッキ処理により設けた、はんだ濡れ性のよい、例えばAg等の第1めっき層35を有する。一方、第2接続ピン6は、図3(b)に示すように、Cuからなる円柱状のピン主部10と、ピン主部10の表面にメッキ処理により設けた、はんだ濡れ性が第1めっき層35より劣る、例えばNi等の第2めっき層36を有する。
【0022】
ここで、絶縁回路基板2の導電層21と半導体チップ1との接合、及び半導体チップ1の第1電極パッド15及び第2電極パッド16と第1接続ピン5及び第2接続ピン6との接合方法について説明する。まず、絶縁回路基板2の導電層21の上面にディスペンス塗布法、印刷法等により、クリームはんだ等のはんだペーストを、例えば50μm以上150μm以下程度の厚さで選択的に塗布する。導電層21の上面に塗布したはんだペーストの上に半導体チップ1を搭載する。次に、図2に示した半導体チップ1の第1電極パッド15及び第2電極パッド16それぞれの上にディスペンス塗布法、印刷法等により、クリームはんだ等のはんだペーストを、例えば50μm以上150μm以下程度の厚さで選択的に塗布する。そして、第1電極パッド15及び第2電極パッド16それぞれに塗布したはんだペーストの上に、配線基板7に圧入された第1接続ピン5及び第2接続ピン6をそれぞれ接触させて配置する。その後、真空窒素リフローやギ酸還元リフロー等のリフロー技術によって200℃以上300℃以下程度の温度ではんだを溶融し、図1に示すように、導電層21と半導体チップ1とがチップ接続部材3により接合される。同時に、第1電極パッド15及び第2電極パッド16と第1接続ピン5及び第2接続ピン6とが、それぞれ制御電極用はんだ材4a及び主電極用はんだ材4bにより接合される。
【0023】
図4は、上記接合方法で作製した代表実施形態に係る半導体装置の半導体チップ1の周りの拡大断面図である。図4に示すように、第1接続ピン5には制御電極用はんだ材4aの濡れ上がりが発生し、図2に示した2つの第2接続ピン6にも主電極用はんだ材4bの濡れ上がりが発生している。図4では明示してないが、図3(a)及び(b)で示すように、第1接続ピン5のAg等からなる第1めっき層35は、第2接続ピン6のNi等からなる第2めっき層36に比べてはんだの濡れ性がよい。そのため、第1接続ピン5のはんだの濡れ上がりは、2つの第2接続ピン6のそれぞれに比べて大きい。また、半導体チップ1と絶縁回路基板2の導電層21とを接合するチップ接続部材3は、制御電極側の厚さTgと主電極側の厚さTsとの差異は20μm未満とほぼ平坦となる。以下において、図5及び図6を用いて説明するとおり、従来の半導体装置に用いられている第1接続ピン50及び第2接続ピン60の場合は、制御電極側に対して主電極側が持ち上がって半導体チップ1が傾斜してしまう問題がある。これに対し、代表実施形態に係る半導体装置では、半導体チップ1が傾斜することなく実装することができ、熱サイクルの負荷時に、チップ接続部材3にかかる熱応力によるクラックの発生を防止して、信頼性の低下を抑制することが可能となる。
【0024】
従来の半導体装置の半導体チップ1の第1接続ピン(制御電極用接続ピン)50は、図5(a)に示すように、Cuからなる円柱状のピン主部10と、ピン主部10の表面にメッキ処理により設けた、はんだ濡れ性のよいAg等のめっき層35aを有する。同様に、第2接続ピン(主電極用接続ピン)60は、図5(b)に示すように、第1接続ピン50と同様に、Cuからなる円柱状のピン主部10と、ピン主部10の表面にメッキ処理により設けた、はんだ濡れ性のよいAg等のめっき層35aを有する。このように、従来の半導体装置では、第1接続ピン50及び第2接続ピン60には、共にはんだ濡れ性のよいめっき層35aが設けられる。
【0025】
上記説明した代表実施形態に係る半導体装置の場合と同様に、従来の半導体装置の場合も絶縁回路基板2の導電層21の上面にディスペンス塗布法、印刷法等により、はんだペーストを、例えば50μm以上150μm以下程度の厚さで選択的に塗布する。導電層21の上面に塗布したはんだペーストの上に半導体チップ1を搭載する。図2に示した半導体チップ1と同様に、第1電極パッド15及び第2電極パッド16それぞれの上にディスペンス塗布法、印刷法等により、はんだペーストを、例えば50μm以上150μm以下程度の厚さで選択的に塗布する。第1電極パッド15は「制御電極パッド」に対応し、第2電極パッド16は「主電極パッド」に対応する。第1電極パッド15及び第2電極パッド16それぞれに塗布したはんだペーストの上に、配線基板7に圧入された第1接続ピン50及び第2接続ピン60をそれぞれ接触させて配置する。従来の半導体装置の場合も、真空窒素リフローやギ酸還元リフロー等のリフロー技術によって200℃以上300℃以下程度の温度ではんだを溶融し、図6に示すように、導電層21と半導体チップ1とがチップ接続部材3aにより接合される。同時に、第1電極パッド15及び第2電極パッド16と第1接続ピン50及び第2接続ピン60とが、それぞれ制御電極用はんだ材40a及び主電極用はんだ材40bにより接合される。
【0026】
図6に示すように、第1接続ピン50及び第2接続ピン60にはそれぞれ、制御電極用はんだ材40a及び主電極用はんだ材40bの濡れ上がりが同程度の大きさで発生している。図2に示した代表実施形態に係る半導体装置と同様に、従来の半導体装置でも第2電極パッド16には2つの第2接続ピン60が接合される。そのため、第2電極パッド16に塗布されるはんだの量は、第1電極パッド15よりも多い。更に、図5(a)及び(b)で示すように、第1接続ピン50及び第2接続ピン60は、共にAg等からなるはんだ濡れ性のよいめっき層35aを有する。そのため、リフロー処理の際のはんだの濡れ上がりは、1つの第1接続ピン50に対して2つの第2接続ピン6の方が強くなり、半導体チップ1の主電極側が制御電極側に対して浮き上がるような力が働く。その結果、図6に示すように、半導体チップ1は、制御電極側に対して主電極側が持ち上がって傾斜して搭載されるという問題が発生する。図6に示すように、半導体チップ1と絶縁回路基板2の導電層21とを接合するチップ接続部材3aは、制御電極側の厚さTgと主電極側の厚さTsとの差異は20μm以上、例えば50μm以上150μm以下程度と傾斜する。その結果、従来の半導体装置では、熱サイクルの負荷時に、チップ接続部材3aにかかる熱応力によるクラックが発生して、信頼性が低下してしまう。
【0027】
一方、代表実施形態では、はんだ濡れ性のよいAg等の第1めっき層35を有する1本の第1接続ピン5と、Agよりはんだ濡れ性の劣るNi等の第2めっき層36を有する2本の第2接続ピン6を用いて半導体チップ1の傾斜を防止している。もし、第1電極パッド15と第2電極パッド16の開口面積比が逆転して、はんだペーストの塗布量も逆転する場合は、第1接続ピン5と第2接続ピン6とのはんだ濡れ性の関係も逆転すればよい。例えば、第2接続ピン6がはんだ濡れ性のよいAg等の第1めっき層35を有し、第1接続ピン5がAgよりはんだ濡れ性の劣るNi等の第2めっき層36を有するようにすればよい。上記のように、第1めっき層35として、Agめっき、第2めっき層36として、Niめっきを用いて説明したが、限定されない。例えば、第1めっき層35として、Niよりはんだ濡れ性のよいAuやSn等が使用可能である。また、第2めっき層36として、Ag、Au、Sn等よりはんだ濡れ性が劣る金属等の導電膜が使用可能である。
【0028】
なお、半導体チップ1の寸法は、10mm角未満が好ましく、更に、3mm角以上5mm角以下がより好ましい。従来のSiを用いた半導体チップは、10mm角以上、例えば12mm角以上15mm角以下程度の寸法を有している。このように、大面積の従来のSi半導体チップでは、リフロー処理の際のはんだの濡れ上がりは存在するが、半導体チップ下のはんだ材全体の厚さの変動や傾斜は顕著には現れない。代表実施形態に係る半導体装置では、SiC等のワイドバンドギャップ半導体の半導体チップ1が用いられる。SiC半導体チップ1では、電流密度を高めることができ、パワー半導体素子として小型化ができる。そのため、半導体チップ1を10mm角未満の寸法としても、十分にパワー半導体素子としての特性を実現できる。半導体チップ1の寸法を10mm角未満、あるいは3mm角以上5mm角以下と縮小すると、リフロー処理の際のはんだの濡れ上がりに起因する半導体チップ1の持ち上がりが発生する。したがって、第1接続ピン5に比べて第2接続ピン6のはんだ濡れ性を低くして、はんだの濡れ上がりに起因する半導体チップ1の持ち上がりを防止することが重要となる。
【0029】
また、代表実施形態に係る半導体装置の配線基板7の接続ピンの挿入方法の一例を、図7及び図8を参照して説明する。なお、以下に述べる接続ピンの挿入方法は一例であり、特許請求の範囲に記載した趣旨の範囲であれば、この変形例を含めて、これ以外の種々の挿入方法により実現可能であることは勿論である。
【0030】
まず、第1接続ピン5として、はんだ濡れ性のよいAg等をめっきした直径が0.45mm程度の複数の第1接続ピンを準備する。また、第2接続ピン6として、はんだ濡れ性がAgより劣るNi等をめっきした直径が0.50mm程度の複数の第2接続ピンを準備する。更に、配線基板7の所定の位置に、直径が0.46mm程度の第1貫通孔25及び直径が0.51mm程度の第2貫通孔26を開口する。配線基板7をピン挿入装置に配置し、配線基板7の上に複数の第1接続ピンをばら撒き、配線基板7に振動を与える。配線基板7の振動により、図7に示すように、複数の第1接続ピンが第1貫通孔25に挿入されるが、第2貫通孔26では一旦挿入されても抜け落ちる。第1貫通孔25に第1接続ピン5が挿入されたら、配線基板7の上に複数の第2接続ピンをばら撒き、配線基板7に振動を与える。配線基板7の振動により、図8に示すように、複数の第2接続ピンが第2貫通孔26に挿入されるが、第1貫通孔25には挿入されない。このようにして、第2貫通孔26に第2接続ピン6が挿入される。第1接続ピンと第2接続ピンの直径は、逆でもよいが、第2接続ピン6の電流密度が高いため、第2接続ピン6に対応する第2接続ピンの直径を大きくすることが望ましい。また、上記では、細い第1接続ピンを先に挿入したが、直径の大きな第2接続ピンを先に挿入してもよい。
【0031】
実施例として、代表実施形態に係る半導体装置を試作し、半導体チップ1の傾斜及びパワーサイクルの評価を実施した。図1に示した絶縁回路基板2には、絶縁板22として厚さ0.32mm程度のSi34セラミック基板、及び導電層21、23として厚さ0.3mmのCu等の導電性板を用いた。窒素(N2)雰囲気リフロー炉を用いたはんだ付けにより、絶縁回路基板2上に半導体チップ1及び外部端子ピンを、並びに、半導体チップ1上に配線基板7に挿入された接続ピンを接合して配設した。配設された部材を金型に設置した。脂肪族エポキシ樹脂主剤、硬化剤、及び無機充填剤を、所定の質量比で混合し、真空脱泡を行った。その後、樹脂を金型に注入し、100℃、1時間で一時硬化した後、150℃、3時間で二次硬化を行って半導体装置を作製した。実施例1として、第1接続ピン5は、直径0.45μmでAgめっき、第2接続ピン6は、直径0.45μmでNiめっきとした。実施例2として、第1接続ピン5は、直径0.45μmでAgめっき、第2接続ピン6は、直径0.50μmでNiめっきとした。また、比較例1として、従来同様に、第1接続ピン5は、直径0.45μmでAgめっき、第2接続ピン6は、直径0.45μmでAgめっきとした。
【0032】
作製した実施例1、2及び比較例1の半導体装置に対して、熱サイクル試験を実施した。熱サイクル試験は、最大接合部温度Tjmax=175℃、Tjmin=75℃(温度差ΔT=100℃)で行い、20万サイクル後の接合部とケース間の熱抵抗[K/W]上昇率を確認した。また、熱サイクル試験前の初期での半導体チップの傾斜も確認した。図7は、熱サイクル試験による評価結果を示す表である。図7の表に示すように、半導体チップ1の傾斜は、実施例1及び実施例2ともに20μm未満であり、ほぼ平坦であることが確認できた。20万サイクル後の熱抵抗上昇率は、実施例1で8%程度、実施例2で7%程度と熱抵抗の増加を抑制できることが確認できた。一方、比較例1では、半導体チップ1の傾斜が100μm以上120μm以下程度と大きいことがわかる。20万サイクル後の熱抵抗上昇率は、20%程度と大きく、図6に示したように、チップ接続部材3aが傾いて部分的に薄くなってしまうため、チップ接続部材3aにクラックが入りやすく、熱抵抗の上昇を招いてしまう。
【0033】
代表実施形態では、第1接続ピン5のAg等からなる第1めっき層35は、第2接続ピン6のNi等からなる第2めっき層36に比べてはんだの濡れ性がよい。そのため、第1接続ピン5のはんだの濡れ上がりは、2つの第2接続ピン6のそれぞれに比べて大きい。第2接続ピン6のはんだの濡れ上がりが低減されているので、リフロー時のはんだの濡れ上がりに起因する半導体チップ1の持ち上がりを防止することができる。その結果、半導体チップ1と絶縁回路基板2の導電層21とを接合するチップ接続部材3は、図4に示した制御電極側の厚さTgと主電極側の厚さTsとの差異は20μm未満とほぼ平坦となる。そのため、代表実施形態に係る半導体装置では、半導体チップ1が傾斜することなく実装することができ、熱サイクルの負荷時に、チップ接続部材3にかかる熱応力によるクラックの発生を防止して、信頼性の低下を抑制することが可能となる。
【0034】
(その他の実施形態)
上記のように、本発明は一つの代表実施形態によって記載したが、この開示の一部をなす論述及び図面は本発明を限定するものであると理解すべきではない。上記の代表実施形態の開示の趣旨を理解すれば、当業者には様々な代替実施形態、実施例及び運用技術が本発明に含まれ得ることが明らかとなろう。又、上記の代表実施形態及び各変形例において説明される各構成を任意に応用した構成等、本発明はここでは記載していない様々な実施形態等を含むことは勿論である。したがって、本発明の技術的範囲は上記の例示的説明から妥当な、特許請求の範囲に係る発明特定事項によってのみ定められるものである。
【符号の説明】
【0035】
1…半導体チップ
2…絶縁回路基板
3…チップ接続部材
4a…第1はんだ材
4b…第2はんだ材
5…第1接続ピン(制御電極用接続ピン)
6…第2接続ピン(主電極用接続ピン)
7…配線基板
8…封止樹脂
9…保護膜
10…ピン主部
15…第1電極パッド(制御電極パッド)
16…第2電極パッド(主電極パッド)
21、23…導電層
22…絶縁板
25…第1貫通孔
26…第2貫通孔
35…第1めっき層
36…第2めっき層
71、73…配線層
72…樹脂板
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9