(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-18
(45)【発行日】2023-12-26
(54)【発明の名称】植物由来ポリエチレンを含むシーラント層を有する手切り開封包装体用の積層体
(51)【国際特許分類】
B32B 27/00 20060101AFI20231219BHJP
B32B 27/32 20060101ALI20231219BHJP
B65D 65/40 20060101ALI20231219BHJP
【FI】
B32B27/00 H
B32B27/32 Z
B65D65/40 D
(21)【出願番号】P 2019171159
(22)【出願日】2019-09-20
【審査請求日】2022-07-26
(31)【優先権主張番号】P 2018182559
(32)【優先日】2018-09-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002897
【氏名又は名称】大日本印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100127926
【氏名又は名称】結田 純次
(74)【代理人】
【識別番号】100140132
【氏名又は名称】竹林 則幸
(72)【発明者】
【氏名】柴田 あゆみ
(72)【発明者】
【氏名】多久島 和弘
【審査官】横山 敏志
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-176951(JP,A)
【文献】特開2018-051788(JP,A)
【文献】特開2017-056691(JP,A)
【文献】特開2013-136689(JP,A)
【文献】特開2015-189160(JP,A)
【文献】特開2009-155516(JP,A)
【文献】特開2020-055637(JP,A)
【文献】レーザ加工による詰め替え用スタンドパウチの易開封性化,日本包装学会誌,Vol.6 No.2,1997年,www.spstj.jp/publication/thesis/vol6/vol6No2-2.pdf
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00ー43/00
B65D 65/00-65/46
Japio-GPG/FX
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、基材層、接着剤層1、バリア層、接着剤層2、シーラント層を有し、この順で積層されている、手切り開封包装体用の、積層体であって、
接着剤層2と前記シーラント層は隣接しており、
前記シーラント層は、該積層体の片面の最表層であり、低密度ポリエチレンを含有し、
該シーラント層の全厚みは、30μm以上、40μm未満であり、
該低密度ポリエチレンは、植物由来の低密度ポリエチレンを含有し、
密度が0.920kg/m
3
以上、0.925kg/m
3
以下であり、MFRが0.8g/10分以上、3.0g/10分以下であり、
該基材層が、ポリプロピレン、ポリエステル、リサイクルポリエステル、植物由来のポリエステル、のいずれかからなる樹脂フィルムを含み、
該バリア層が、金属箔、金属蒸着膜、金属酸化物膜からなる群から選ばれる、1種または2種以上であ
り、
該シーラント層は、シーラント層中の最外表面層である第1のシーラント層と、該第1のシーラント層の内側に隣接した第2のシーラント層を有する多層構成であり、
該第1のシーラント層は、化石燃料由来の低密度ポリエチレンを含み、植物由来の低密度ポリエチレンを含まず、
該第2のシーラント層は、植物由来の低密度ポリエチレンを含み、
該シーラント層の全厚みは、30μm以上、40μm未満であり、
該第2のシーラント層/該第1のシーラント層の厚み比は、3/7以上、7/3以下であることを特徴とする、
手切り開封包装体用の、積層体。
【請求項2】
接着剤層1および/または接着層2が、熱硬化性樹脂の硬化物を含有することを特徴とする、請求項1に記載の、積層体。
【請求項3】
前記硬化物が、ポリオールとイソシアネート化合物との硬化物であることを特徴とする、請求項2に記載の、積層体。
【請求項4】
前記基材層と、接着剤層1と、前記バリア層と、接着剤層2と、前記シーラント層は、
この順で隣接していることを特徴とする、請求項1~3の何れか1項に記載の、積層体。
【請求項5】
前記積層体は、手切り開封用のハーフカット線を有し、
該ハーフカット線は、前記基材層を貫通し、且つ、前記バリア層と接着剤層2と前記シーラント層とを貫通しないように形成されていることを特徴とする、
請求項1~4の何れか1項に記載の、積層体。
【請求項6】
前記積層体は、手切り開封用の傷痕群を有し、
該傷痕群は、前記基材層を貫通し、且つ、前記バリア層と接着剤層2と前記シーラント層とを貫通しないように形成されていることを特徴とする、
請求項1~4の何れか1項に記載の、積層体。
【請求項7】
請求項1~6の何れか1項に記載の積層体から作製されたことを特徴とする、包装材料。
【請求項8】
請求項7に記載の包装材料から作製されたことを特徴とする、包装体。
【請求項9】
請求項7に記載の包装材料から作製されたことを特徴とする、包装袋。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも、基材層、接着剤層1、バリア層、接着剤層2、シーラント層を有し、この順で積層されており、シーラント層は植物由来の低密度ポリエチレンを含有する、手切り開封包装体用の積層体、包装材料、包装体に関するものであり、更に詳しくは、優れた生産性、耐ブロッキング性、手切り開封性、耐破袋性を示し、且つ、高いバイオマス度を示す積層体、包装材料、包装体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境への負荷を低減するために、シーラントフィルム等のポリエチレン系樹脂フィルムの原料の一部を、化石燃料由来ポリエチレンから、植物由来ポリエチレンに置き換えることが検討されている(特許文献1)。植物由来ポリエチレンは、従来の化石燃料由来ポリエチレンと、化学構造的には変わりがなく、同等の物性を有することが期待されている。
【0003】
しかしながら、実際には、植物由来ポリエチレンを含む樹脂フィルムは、化石燃料由来ポリエチレンのみからなる樹脂フィルムと同等の性質は示さない。
特に、植物由来ポリエチレンを含む樹脂フィルムは、植物由来ポリエチレンの配合率が高く、バイオマス度が高くなるにつれて、シーラントフィルムとして使用した場合の耐ブロッキング性、手切り性、耐落下衝撃性が低下することが分かった。
したがって、バイオマス度が高いポリエチレンフィルムは、耐ブロッキング性、手切り性、耐落下衝撃性を必要とする包装材のシーラントフィルムとしては不適であり、実用性に欠けるものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記の問題点を解決し、植物由来ポリエチレンをシーラント層に含有して環境への負荷を低減しつつ、優れた、生産性、耐ブロッキング性、手切り開封性、耐破袋性を与える包装材料用の積層体、包装材料、包装体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、種々研究の結果、特定の層構成を有し、シーラント層に植物由来の低密度ポリエチレンを含有する積層体が、上記の目的を達成することを見出した。
そして、本発明は、以下の点を特徴とする。
1.少なくとも、基材層、接着剤層1、バリア層、接着剤層2、シーラント層を有し、この順で積層されている、手切り開封包装体用の、積層体であって、
接着剤層2と前記シーラント層は隣接しており、前記シーラント層は、該積層体の片面の最表層であり、低密度ポリエチレンを含有し、該低密度ポリエチレンは、植物由来の低密度ポリエチレンを含有することを特徴とする、手切り開封包装体用の、積層体。
2.接着剤層1および/または接着層2が、熱硬化性樹脂の硬化物を含有することを特徴とする、上記1に記載の、積層体。
3.前記硬化物が、ポリオールとイソシアネート化合物との硬化物であることを特徴とする、上記2に記載の、積層体。
4.前記基材層と、接着剤層1と、前記バリア層と、接着剤層2と、前記シーラント層は、この順で隣接していることを特徴とする、上記1~3の何れかに記載の、積層体。
5.前記バリア層が、金属箔、金属蒸着膜、金属酸化物膜からなる群から選ばれる、1種または2種以上であることを特徴とする、上記1~4の何れかに記載の、積層体。
6.前記バリア層が、金属箔であることを特徴とする、上記1~4の何れかに記載の、積層体。
7.前記基材層が、樹脂フィルムを含むことを特徴とする、上記1~6の何れかに記載の、積層体。
8.前記基材層が、ポリエステルからなる樹脂フィルムを含むことを特徴とする、上記1~6の何れかに記載の、積層体。
9.前記基材層が、リサイクルポリエステル、または植物由来のポリエステルからなる樹脂フィルムを含むことを特徴とする、上記1~8の何れかに記載の、積層体。
10.前記積層体は、手切り開封用のハーフカット線を有し、該ハーフカット線は、前記基材層を貫通し、且つ、前記バリア層と接着剤層2と前記シーラント層とを貫通しないように形成されていることを特徴とする、上記1~9の何れかに記載の、積層体。
11.前記積層体は、手切り開封用の傷痕群を有し、該傷痕群は、前記基材層を貫通し、且つ、前記バリア層と接着剤層2と前記シーラント層とを貫通しないように形成されていることを特徴とする、上記1~9の何れかに記載の、積層体。
12.上記1~11の何れかに記載の積層体から作製されたことを特徴とする、包装材料。
13.上記12に記載の包装材料から作製されたことを特徴とする、包装体。
14.上記12に記載の包装材料から作製されたことを特徴とする、包装袋。
【発明の効果】
【0007】
本発明の積層体、包装材料、包装体は、植物由来ポリエチレンを含有して環境への負荷を低減しつつ、優れた、生産性、耐ブロッキング性、手切り開封性、耐破袋性を示す。
そして、カーボンニュートラルの観点から、大気中のCO2量の増加を抑制し、且つ、石油資源利用の節約にも貢献することができる。
なお、カーボンニュートラルとは、植物を燃やしても、その際に排出されるCO2量は、植物が生育時に吸収したCO2量と等しいため、大気中のCO2量の増減には影響を与えないことを指す。したがって、植物由来の原料を多く含むほど、CO2量の増加を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の包装材料用のシーラントフィルム(単層)の層構成についてその一例を示す概略的断面図である。
【
図2】本発明の包装材料用の積層体の層構成についてその一例を示す概略的断面図である。
【
図3】本発明の包装材料を用いて形成される詰め替えパウチの構成について、その一例を示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明について以下に更に詳しく説明する。
本発明において使用される樹脂名は、業界において慣用されるものが用いられる。
本発明において、密度は、150℃でプレス成型して得られた厚さ1mmのシートについて、JIS K 6760(1981)に準拠して測定される値であり、MFRは、JIS K 7210(1995)に準拠して、試験温度190℃で、試験荷重21.18Nで測定される値である。
【0010】
<積層体>
本発明の手切り開封包装体用の積層体は、少なくとも、基材層、接着剤層1、バリア層、接着剤層2、シーラント層を有し、この順で積層されており、シーラント層は、積層体の片面の最表層である。
接着剤層2とシーラント層は隣接しており、さらには、材層、接着剤層1、バリア層、接着剤層2、シーラント層が、この順で隣接していることが好ましい。
さらに、積層体は手切り開封用の、ハーフカット線および/または傷痕群を有していることが好ましい。これらを有することによって、積層体及び該積層体から作製された包装材料、包装体の手切り開封性を高めることができる。
【0011】
(基材層)
基材層には、積層体の用途に応じて任意の樹脂フィルムまたはシートを含むことができる。例えば、詰め替え用のシャンプーやリンス、食品等を密封包装する詰め替えパウチに適用する場合は、引っ張り強度、屈曲強度、衝撃強度等の機械的強度に優れるとともに、印刷適性に優れることが好ましく、例えば、二軸延伸ナイロンフィルム、二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム等の二軸延伸ポリエステルフィルム、二軸延伸ポリプロピレンフィルム等を好適に使用できるほか、合成紙等も使用することができる。これらは単独で使用してもよく、また、複数を組み合わせて使用してもよい。
【0012】
上記の樹脂フィルムの中でも、ポリエステルからなる樹脂フィルムを含むことが好ましく、さらには、リサイクルポリエステルおよび/または植物由来のポリエステルからなる樹脂フィルムを含むことがより好ましい。
基材層の積層面にアンカーコート剤を予め塗布しておくか、コロナ処理等の前処理を施しておくことにより、層間の接着強度を高めることができる。
【0013】
(接着剤層1、2)
接着剤層1、2は、熱硬化性樹脂の硬化物を含有することが好ましい。ここで、該熱硬化性樹脂は、ポリオールとイソシアネート化合物との硬化物であることが好ましい。
接着剤層1、2は、該熱硬化性樹脂を含んでなる熱硬化性樹脂組成物を用いて、ドライラミネーション法によって形成されることが好ましい。
接着剤層1と接着剤層2は、同一の組成であっても、異なる組成であってもよい。
接着剤層1、2の乾燥後の塗布量は、1.0~5.0g/m2であることが好ましい。
【0014】
(バリア層)
バリア層は、積層体にガスバリア性を付与する層であり、バリア層は接着樹脂層と隣接して、接着樹脂層を介して基材層に接着されていることが好ましい。接着する際には、バリア層の積層面にアンカーコート剤を予め塗布しておくか、コロナ処理等の前処理を施しておくことにより、層間の接着強度を高めることができる。
バリア層は、金属箔、金属蒸着膜、金属酸化物膜からなる群から選ばれる、1種または2種以上であることが好ましく、これらの中でも金属箔であることがより好ましい。
金属箔としては例えばアルミニウム箔が挙げられ、金属蒸着膜としては、例えば、アルミニウム、珪素等が挙げられ、金属酸化物膜としては、アルミニウム酸化物、珪素酸化物等が挙げられる。
上記の金属蒸着膜と金属酸化物膜は、樹脂フィルムに蒸着された蒸着膜付きフィルムの形態で用いることもできる。該樹脂フィルムとしては、二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリアクリロニトリルフィルム、エチレン-ビニルアルコール共重合体フィルム等を使用することができる。
【0015】
(シーラント層)
本発明の積層体において、シーラント層は、積層体の片面の最表層である。
本発明の積層体のシーラント層は、低密度ポリエチレンを含有していることが好ましく、該低密度ポリエチレンは、植物由来の低密度ポリエチレンを含有していることが好まし
い。
【0016】
また、シーラント層は、シーラントフィルムの構成成分として一般的に使用される任意の熱可塑性樹脂が含有することができる。例えば、目的に応じて、低温シール性に優れる樹脂や、耐内容物性に優れる樹脂、接着性に優れる樹脂、フィルム全体の腰強度を高めてフィルムの薄肉化に寄与する樹脂、等の種々の機能を付与する樹脂を選択することができる。
【0017】
シーラント層は、組成が同一または異なる、2層以上の多層構成であってもよい。
例えば、シーラント層中の、最外表面層を第1のシーラント層とし、第1のシーラント層の内側に隣接した層を第2のシーラント層とした場合には、第1のシーラント層は、化石燃料由来の低密度ポリエチレンを含むことが好ましく、第2のシーラント層は、植物由来の低密度ポリエチレンを含むことが好ましく、第2のシーラント層/第1のシーラント層の厚み比は、3/7以上、7/3以下であることが好ましい。
また、第1のシーラント層には、植物由来の低密度ポリエチレン樹脂を含まないことが好ましい。
【0018】
シーラント層は、更に内側に第3のシーラント層等があってもよいが、第1のシーラント層と、バリア層と隣接している第2のシーラント層のみで構成される2層構成であることが好ましい。
シーラント層の全厚みは、25μm以上、40μm以下の範囲が好ましい。上記範囲よりも小さいと環境負荷低減が小さく、上記範囲よりも大きいと、シーラントフィルムの手切り性や耐落下衝撃性が低下しやすい。
そして、シーラント層のバイオマス度は10%以上、50%以下であることが好ましい。
上記範囲よりも小さいと積層体のバイオマス度が低くなり、環境負荷低減効果が低くなりやすい。
シーラント層の積層方法としては、例えば、バリア層とシーラント層用のシーラントフィルムとを、接着剤層2用の接着剤を用いたドライラミネーション法によって積層する方法が挙げられる。接着剤層2用の接着剤は、バリア層とシーラントフィルムのどちら側に塗布、乾燥してもよい。
【0019】
シーラント層は、本発明の効果を著しく阻害しない範囲で、任意の添加剤を含んでもよい。添加剤としては、樹脂フィルムの成形加工性や生産性、各種の物性を調整するために一般に使用される種々の樹脂用添加剤、例えばアンチブロッキング剤、スリップ剤、酸化防止剤、顔料、流動制御材、難燃剤、充填剤、紫外線吸収剤、界面活性剤等が挙げられる。
シーラント層は上記のポリエチレン系樹脂、熱可塑性樹脂、添加剤等を含有するポリエチレン系樹脂組成物から形成することができる。
【0020】
(ハーフカット線)
ハーフカット線は、公知のレーザーやカッターなどで加工して形成することができる。
ハーフカット線は、基材層は貫通しているが、バリア層、接着剤層2、シーラント層は貫通しないように形成されている。接着剤層1は貫通していても、貫通していなくともよく、ハーフカット線の加工方法によって異なる。例えば、レーザーで加工する場合には貫通していてもよいが、カッター等で加工する場合には、貫通していなくともよい。
積層体がハーフカット線を有することによって、積層体及び該積層体から作製された包装材料、包装体は、手切り開封性が向上する。
ハーフカット線の本数には特に制限は無く、1本または2本以上の何本でもよい。
ハーフカット線が2本以上の場合には、ハーフカット線は、平行であっても、収斂する
配置であってもよく、或いは、複数の平行なハーフカット線とこれに斜めに交差する斜め方向のハーフカット線とを組み合わせた配置であってもよい。
【0021】
(傷痕群)
傷痕群は、公知のレーザーやカッターなどで加工して形成することができる。
傷痕群は、基材層は貫通しているが、バリア層、接着剤層2、シーラント層は貫通しないように形成されている。接着剤層1は貫通していても、貫通していなくともよく、傷痕群の加工方法によって異なる。例えば、レーザーで加工する場合には貫通していてもよいが、カッター等で加工する場合には、貫通していなくともよい。
積層体が傷痕群を有することによって、積層体及び該積層体から作製された包装材料、包装体は、手切り開封性が向上する。
傷痕群のパターンや幅、傷痕の形状や個数には特に制限は無い。
【0022】
[ポリエチレン系樹脂]
ポリエチレンは、由来する原料によって、化石燃料由来ポリエチレン系樹脂と植物由来ポリエチレン系樹脂に分類され、また、その分子構造、密度、MFRによって、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)と低密度ポリエチレン(LDPE)に分類される。そしてさらに、直鎖状低密度ポリエチレンとしては、C4直鎖状低密度ポリエチレン(C4LLDPE)とC6直鎖状低密度ポリエチレン(C6LLDPE)が存在する。
すなわち、例えば、植物由来ポリエチレン系樹脂としては、植物由来C4直鎖状低密度ポリエチレン、植物由来C6直鎖状低密度ポリエチレン、植物由来低密度ポリエチレンが挙げられる。
【0023】
また、重合時の触媒としては、メタロセン触媒等のシングルサイト触媒またはチーグラー・ナッタ触媒等のマルチサイト系触媒が挙げられ、メタロセン触媒等のシングルサイト触媒の場合には構造均一性、強度、透明性、シール性が優れ、物性と成形性とのバランスに優れたポリエチレンが得られ、チーグラー・ナッタ触媒等のマルチサイト系触媒の場合には機械物性に優れたポリエチレンが得られる。
また、本発明においては、エチレンと各種不飽和化合物との共重合体もポリエチレンの一種として扱う。
さらに、本発明においては、各種の総称として「系樹脂」を付記して、例えば、各種のポリエチレンの総称としてポリエチレン系樹脂とも表記する。
【0024】
(化石燃料由来ポリエチレン系樹脂)
本発明において、化石燃料由来ポリエチレン系樹脂とは、植物由来の原料を用いず、従来どおり、石油から得られるナフサを熱分解して得られるエチレン、並びにα-オレフィン(1-ブテン、1-ヘキセン等)を原料として重合して製造されるポリエチレンである。
重合方法としては、低密度ポリエチレン用には高圧法が、直鎖状低密度ポリエチレン用には高圧法、スラリー法、溶液法、気相重合法等の重合方法が一般的である。
【0025】
(植物由来ポリエチレン系樹脂)
本発明において、「植物由来」とは、植物を原料として得られるアルコールから製造される、植物原料に由来する炭素を含むことを意味する。
植物由来ポリエチレン系樹脂は、併用する石油由来ポリエチレン系樹脂の物性や、シーラントフィルムの用途に応じて、適した密度やMFRのものを選択することができる。
【0026】
植物由来ポリエチレンの製造方法としては、慣用の方法にしたがって、サトウキビ、トウモロコシ、サツマイモ等の植物から得られる糖液や澱粉を、酵母等の微生物により発酵させてバイオエタノールを製造し、これを触媒存在下で加熱し、分子内脱水反応等により
エチレン、並びにα-オレフィン(1-ブテン、1-ヘキセン等)を得る。次いで、これらをモノマーとして用いて、石油由来ポリエチレンの製造と同様にして、慣用の触媒の存在下で重合させることにより、植物由来ポリエチレン系樹脂を製造することができる。コモノマー種である上記α-オレフィンには、場合により、石油由来のものを用いることもできる。
重合時の触媒や重合方法は、化石燃料由来ポリエチレン系樹脂と同様である。
【0027】
(低密度ポリエチレン)
低密度ポリエチレンは、100~400MPaの高圧下でラジカル重合されるポリエチレンである。
本発明において使用される低密度ポリエチレンは、密度が0.920kg/m3以上、0.933kg/m3以下であることが好ましく、0.920kg/m3以上、0.925kg/m3以下であることがより好ましい。MFRは、0.5g/10分以上、3.5g/10分以下であることが好ましく、0.8g/10分以上、3.0g/10分以下であることがより好ましい。
【0028】
(直鎖状低密度ポリエチレン)
直鎖状低密度ポリエチレンは、チーグラー触媒やメタロセン触媒などの遷移金属触媒を用いて、常圧~1MPaの低圧下でエチレンとα―オレフィンが重合されるポリエチレンである。
本発明において、直鎖状低密度ポリエチレンとしては、C4直鎖状低密度ポリエチレンおよび/またはC6直鎖状低密度ポリエチレンを含むことができる。
ここで、C4直鎖状低密度ポリエチレンとは、エチレンと1-ブテンの共重合体からなる直鎖状低密度ポリエチレンであり、C6直鎖状低密度ポリエチレンとは、エチレンと1-ヘキセンとの共重合体からなる直鎖状低密度ポリエチレンである。
これらの直鎖状低密度ポリエチレンは、チーグラー・ナッタ触媒を用いて合成されたものが、シーラント層に含有された場合に手切り性や引裂き性に優れ、好ましい。
【0029】
(バイオマス度)
大気中の二酸化炭素には、C14が一定割合(105.5pMC)で含まれているため、大気中の二酸化炭素を取り入れて成長する植物、例えばとうもろこし中のC14含有量も105.5pMC程度であることが知られている。また、化石燃料中にはC14が殆ど含まれていないことも知られている。
したがって、PET中の全炭素原子中に含まれるC14の割合を測定することにより、バイオマス由来の炭素の割合を算出することができる。本発明において、「バイオマス度」とは、バイオマス由来成分の重量比率を示すものである。
PETを例にとると、PETは、2炭素原子を含むエチレングリコールと8炭素原子を含むテレフタル酸とがモル比1:1で重合したものであり、エチレングリコールとしてバイオマス由来のもののみを使用した場合、ポリエステル中のバイオマス由来成分の重量比率は31.25%であるため、バイオマス度の理論値は31.25%となる。
具体的には、PETの質量は192であり、そのうちバイオマス由来のエチレングリコールに由来する質量は60であるため、60÷192×100=31.25となる。
【0030】
<包装材料>
本発明の包装材料は、本発明の積層体を用いて作製された包装材料である。
【0031】
<包装体>
本発明の包装体は、本発明の包装材料を用いて作製された包装体であり、例えば、本発明の包装材料を使用し、これを二つ折にするか、又は包装材料2枚を用意し、そのシーラント層の面を対向させて重ね合わせ、さらにその周辺端部を、例えば、側面シール型、二
方シール型、三方シール型、四方シール型、封筒貼りシール型、合掌貼りシール型(ピローシール型)、ひだ付シール型、平底シール型、角底シール型、ガゼット型等のヒートシール形態によりヒートシールして、種々の形態の包装袋を製造することができる。
【0032】
本発明の包装体は、高いバイオマス度を有しつつ、優れた手切り性及び耐落下衝撃性を発揮することから、特に、詰め替え用のシャンプーやリンス、食品等を密封包装する詰め替えパウチのシーラントフィルムとして好適に使用することができる。
上記において、ヒートシールの方法としては、例えば、バーシール、回転ロールシール、ベルトシール、インパルスシール、高周波シール、超音波シール等の公知の方法で行うことができる。
【0033】
図3は、包装体の一態様である詰め替えパウチの構成について、その一例を示す正面図である。
図3に示した詰め替えパウチ100は、スタンディングパウチ形式で作製したものであり、パウチの底部を、前後の、本発明の包装材料からなる壁面フィルム11、11’の下部の間に底面フィルム(包装材料は壁面フィルムと同じてあっても異なっていてもよい)を内側に折り返して底面フィルム折り返し部12まで挿入してなるガセット部14を有する形式で形成し、内側に折り込まれた底面フィルムの両側下端近傍には、この場合、半円形の底面フィルム切り欠き部13a 、13bを設け、ガセット部14を、内側が両側から中央部にかけて湾曲線状に凹状となる船底形の底部シール部15でヒートシールして形成し、パウチの胴部は、前後の壁面フィルム11、11’の両側の端縁部を側部シール部16a、16bでヒートシールして形成すると共に、パウチ100の上部の一方のコーナー部(図において左側のコーナー部)には、その外周を注出口部シール部17でヒートシールしてなる先細り形状で斜め外側上方を向く狭い幅の注出口部20が、その両側に切り欠き部19a、19bを設けて突出する形状に設けられている。
【0034】
また、注出口部20の先端側の開封位置には、易開封性手段として、ハーフカット線21とその上側の端部にノッチ22を設けて構成したものである。
尚、パウチ100の上部のうち、注出口部20を設けていない部分は、上部シール部18でヒートシールするが、この部分は内容物の充填口に使用するため、内容物の充填前は未シールの開口部とし、内容物の充填後にヒートシールするものである。
また、前記ハーフカット線21は、図では3本の平行なハーフカット線で示したが、1本、または2本のほか、中心のハーフカット線の両側に各1本~3本等複数のハーフカット線を平行に、または中心のハーフカット線に収斂する形状に、或いは、複数の平行なハーフカット線とこれに斜めに交差する斜め方向のハーフカット線とを組み合わせた形状等、任意の形状に設けることができる。
以下に、実施例、比較例を挙げて本発明を更に具体的に説明する。
【実施例】
【0035】
実施例で用いられた原料は下記の通り。
・アルミニウム箔1:日本製箔(株)社製A1N30H-O。厚さ7μm。
・植物由来エチレングリコール1:インディアグライコール社製。バイオマス度100%。
・植物由来LDPE1:Braskem社製SBC818。密度0.918kg/m3、MFR8.1g/10分。
・化石燃料由来LDPE1:宇部丸善ポリエチレン(株)社製高圧法低密度ポリエチレン、UBEポリエチレンF224N。密度0.924g/cm3、MFR2.0g/10分。
・DL接着剤1:ポリオール/イソシアネート系接着剤。ドライラミネート法用。熱硬化性。
・スリップ剤1:宇部丸善ポリエチレン(株)社製M425。エルカ酸アミド/LDPEの質量比=2/98。
【0036】
[植物由来PETフィルム1の作製]
化石燃料由来テレフタル酸と植物由来エチレングリコール1とから合成された植物由来ポリエチレンテレフタレート(PET)を用いて製膜し、二軸延伸して、12μm厚の植物由来PETフィルム1を得た。放射性炭素(14C)測定に基づくバイオマス度は13%。
【0037】
[シーラントフィルム1~10の作製]
表1に記載の配合で原料をブレンドして溶融混合してポリエチレン系樹脂組成物を調製し、上吹き空冷インフレーション共押出製膜機により厚み25~55μmに製膜して、シーラントフィルム1~10を得た。
【0038】
【0039】
[実施例1]
基材層としての植物由来PETフィルム1と、バリア層としてのアルミニウム箔1とを、接着剤層1用の接着剤としてDL接着剤1を用いて、ドライラミネート法により接着し、さらに、アルミニウム箔1側と、シーラントフィルム1とを、接着剤層2用の接着剤としてDL接着剤1を用いて、ドライラミネート法により接着し、積層体を得た。
このとき、DL接着剤1の乾燥後の塗布量は4.0g/m2とした。
得られた積層体を用いて、各種評価を実施した。積層体の構成と評価結果を表2に記す。
【0040】
[実施例2~6、比較例1~3]
シーラント層用のシーラントフィルム1を表1に示されたものに変更した以外は、実施例1と同様に操作して積層体を得て、同様に評価した。積層体の構成と評価結果を表2に記す。
[比較例4]
基材層としての植物由来PETフィルム1に、乾燥後の塗布量が0.2g/m2となるようにポリオールとイソシアネート化合物との硬化物であるポリウレタン樹脂からなるアンカーコート層を塗布した後、サンドイッチラミネート法を用いて、植物由来LDPE1を介して、植物由来PETフィルム1のアンカーコート層の面とバリア層としてのアルミニウム箔1と貼り合わせた。
このとき、植物由来LDPE1の厚みは15μmとした。次に、アルミニウム箔1の面上に、押出コーティング法を用いて、ポリエチレン系樹脂組成物を厚みが40μmとなるように押出して積層体を得た。このとき、ポリエチレン系樹脂組成物は、シーラントフィルム2と同じ組成とした。
積層体の構成と評価結果を表2に記す。
【0041】
<評価結果まとめ>
全実施例は、比較例1~4よりも優れた環境適性を有した上で、同等以上の耐破袋性と手切開封性のバランスを示した。
【0042】
<評価方法>
[耐破袋性]
10個のパウチ袋のそれぞれに水360mlを充填し、1.2m高さから垂直(底が下)10回、水平(表面が下)10回落下させ、特にカット箇所や傷痕群の箇所の破袋や、シール後退の有無を確認した。常温(25℃)と低温(3℃)にて評価した。結果の表記の意味は下記の通り。
判定基準
◎:破袋、シール後退は認められなかった。
○:ごくまれにシール後退が認められた。
△:シール後退が認められた。
×:破袋が認められた。
【0043】
[手切開封性]
10個のパウチ袋のノッチ部からハーフカット線に沿って開封し、開封開始時のひっかかりとシーラントフィルムの伸びの有無を確認した。5名で2個ずつ分担して評価実施。
判定基準
◎:初期開封がスムーズで、引っかかりもシーラントの伸びもない
○:◎に比べると軽度の引っかかりが有る、もしくは軽度のシーラント伸びが有る。
△:引っかかりが有る、もしくはシーラントの伸びが有る。
×:初期開封が重く、重度の引っかかりもしくはシーラントの伸びが有る
【0044】
【符号の説明】
【0045】
1 積層体
2 基材層
3a 接着剤層1
3b 接着剤層2
4 バリア層
5 シーラント層
6 樹脂フィルム
11、11’ 壁面フィルム
12 底面フィルム折り返し部
13a、13b 底面フィルム切り欠き部
14 ガセット部
15 底部シール部
16a、16b 側部シール部
17 注出口部シール部
18 上部シール部
19a、19b 切り欠き部
20 注出口部
21 ハーフカット線
22 ノッチ
100 詰め替え用包装袋(パウチ)