(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-18
(45)【発行日】2023-12-26
(54)【発明の名称】静電荷像現像用トナー
(51)【国際特許分類】
G03G 9/087 20060101AFI20231219BHJP
G03G 9/097 20060101ALI20231219BHJP
【FI】
G03G9/087 325
G03G9/087 331
G03G9/097 365
(21)【出願番号】P 2019191704
(22)【出願日】2019-10-21
【審査請求日】2022-09-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000001270
【氏名又は名称】コニカミノルタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001254
【氏名又は名称】弁理士法人光陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】滝ヶ浦 佑介
(72)【発明者】
【氏名】川村 貴生
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 奈津紀
(72)【発明者】
【氏名】本橋 亜美
(72)【発明者】
【氏名】上田 昇
【審査官】塚田 剛士
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-005225(JP,A)
【文献】特開2004-240421(JP,A)
【文献】特開2017-223854(JP,A)
【文献】特開2017-203852(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03G 9/087
G03G 9/097
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、離型剤と、着色剤と、結着樹脂とを含有するトナー母体粒子を含む静電荷像現像用トナーであって、
前記結着樹脂として、ビニル系樹脂と結晶性ポリエステル樹脂と
非晶性ポリエステル樹脂とを含有し、
前記結着樹脂中における前記ビニル系樹脂の含有量が50質量%以上であり、
前記着色剤が、銅フタロシアニンであり、当該着色剤の分散剤がドデシル硫酸ナトリウムであり、
前記ドデシル硫酸ナトリウムの含有量が、前記銅フタロシアニン及び前記ドデシル硫酸ナトリウムの合計量に対して30~36質量%の範囲内であり、
前記静電荷像現像用トナーの示差走査熱量測定による降温時の発熱ピーク全体の発熱量をΔHc、発熱ピークにおける70℃までの時点での発熱量をΔHc(70)としたとき、ΔHc(70)/ΔHcが下記式(1)の関係を満たし、かつ、
前記静電荷像現像用トナーの示差走査熱量測定による降温時の発熱ピークの立ち上がり温度をTci〔℃〕、発熱ピークのピークトップ温度をTcp〔℃〕、降温速度をV〔℃/min〕としたとき、見かけの結晶化速度V/(Tcp-Tci)〔1/min〕が、下記式(2)の関係を満たすことを特徴とする静電荷像現像用トナー。
0.600≦ΔHc(70)/ΔHc ・・・(1)
0.70≦V/(Tcp-Tci) ・・・(2)
【請求項2】
前記結着樹脂中における前記ビニル系樹脂の含有量が、60質量%以上であることを特徴とする請求項1に記載の静電荷像現像用トナー。
【請求項3】
前記結着樹脂中における前記ビニル系樹脂の含有量が、65質量%以上であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の静電荷像現像用トナー。
【請求項4】
前記ΔHc(70)/ΔHcが、下記式(3)の関係を満たすことを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれか一項に記載の静電荷像現像用トナー。
0.700≦ΔHc(70)/ΔHc ・・・(3)
【請求項5】
前記ΔHc(70)/ΔHcが、下記式(4)の関係を満たすことを特徴とする請求項1から請求項4までのいずれか一項に記載の静電荷像現像用トナー。
0.800≦ΔHc(70)/ΔHc ・・・(4)
【請求項6】
前記V/(Tcp-Tci)が、下記式(5)の関係を満たすことを特徴とする請求項1から請求項5までのいずれか一項に記載の静電荷像現像用トナー。
1.30≦V/(Tcp-Tci) ・・・(5)
【請求項7】
前記離型剤の結晶化温度Tcp(W)が、下記式(6)の関係を満たすことを特徴とする請求項1から請求項6までのいずれか一項に記載の静電荷像現像用トナー。
75℃≦Tcp(W)≦90℃ ・・・(6)
【請求項8】
前記離型剤が、ライスワックスであることを特徴とする請求項1から請求項7までのいずれか一項に記載の静電荷像現像用トナー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、静電荷像現像用トナーに関し、特に、低温定着性及び定着分離性に優れ、かつ、部材への離型剤付着を抑制することができる静電荷像現像用トナーに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、トナー画像定着時にトナー中の離型剤が染み出すことで、定着部材とトナー画像間の定着分離性を確保している。
しかし、定着後に排紙される過程で画像表面に染み出た離型剤が結晶化しきらないことで、排紙過程でトナー画像と接する部材において離型剤の付着が発生する。そして、付着した離型剤が、その後結晶化し、部材に固着されることで、後から定着されてくる画像の用紙搬送性不良や、部材に付着した離型剤が定着された画像に再付着することによる画像表面の汚染などの問題が生じていた。
部材への離型剤の付着を抑制するためには、定着時に画像表面に染み出す離型剤の量を少なくすること、染み出した離型剤を素早く結晶化させるために融点の高い離型剤を使用すること、などが挙げられる。
しかしながら、定着時に染み出す離型剤の量を少なくすると定着分離性が悪化し、融点の高い離型剤を使用すると低温定着性が悪化するといった問題があった。
そこで、特許文献1に開示されている技術のように、融点が高い離型剤を併用することで、低温定着を保ちつつ、定着後に部材と接するまでに結晶化する割合をある程度増やすことができる。しかしながら、このようなトナーでは結晶化速度は十分ではなく、部材への離型剤付着を十分に抑制することができなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記問題・状況に鑑みてなされたものであり、その解決課題は、低温定着性及び定着分離性に優れ、かつ、部材への離型剤付着を抑制することができる静電荷像現像用トナーを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、上記課題を解決すべく、上記問題の原因等について検討する過程において、結着樹脂として、離型剤と親和性の高いビニル系樹脂を50質量%以上含有させ、かつ、離型剤と相互作用する結晶性樹脂を含有させ、さらに、ΔHc(70)/ΔHc及びV/(Tcp-Tci)を特定範囲に規定することで、低温定着性及び定着分離性に優れ、かつ、部材への離型剤付着を十分に抑制することができる静電荷像現像用トナーを提供することができることを見いだし本発明に至った。
すなわち、本発明に係る上記課題は、以下の手段により解決される。
【0006】
1.少なくとも、離型剤と、着色剤と、結着樹脂とを含有するトナー母体粒子を含む静電荷像現像用トナーであって、
前記結着樹脂として、ビニル系樹脂と結晶性ポリエステル樹脂と非晶性ポリエステル樹脂とを含有し、
前記結着樹脂中における前記ビニル系樹脂の含有量が50質量%以上であり、
前記着色剤が、銅フタロシアニンであり、当該着色剤の分散剤がドデシル硫酸ナトリウムであり、
前記ドデシル硫酸ナトリウムの含有量が、前記銅フタロシアニン及び前記ドデシル硫酸ナトリウムの合計量に対して30~36質量%の範囲内であり、
前記静電荷像現像用トナーの示差走査熱量測定による降温時の発熱ピーク全体の発熱量をΔHc、発熱ピークにおける70℃までの時点での発熱量をΔHc(70)としたとき、ΔHc(70)/ΔHcが下記式(1)の関係を満たし、かつ、
前記静電荷像現像用トナーの示差走査熱量測定による降温時の発熱ピークの立ち上がり温度をTci〔℃〕、発熱ピークのピークトップ温度をTcp〔℃〕、降温速度をV〔℃/min〕としたとき、見かけの結晶化速度V/(Tcp-Tci)〔1/min〕が、下記式(2)の関係を満たすことを特徴とする静電荷像現像用トナー。
0.600≦ΔHc(70)/ΔHc ・・・(1)
0.70≦V/(Tcp-Tci) ・・・(2)
【0007】
2.前記結着樹脂中における前記ビニル系樹脂の含有量が、60質量%以上であることを特徴とする第1項に記載の静電荷像現像用トナー。
【0008】
3.前記結着樹脂中における前記ビニル系樹脂の含有量が、65質量%以上であることを特徴とする第1項又は第2項に記載の静電荷像現像用トナー。
【0009】
4.前記ΔHc(70)/ΔHcが、下記式(3)の関係を満たすことを特徴とする第1項から第3項までのいずれか一項に記載の静電荷像現像用トナー。
0.700≦ΔHc(70)/ΔHc ・・・(3)
【0010】
5.前記ΔHc(70)/ΔHcが、下記式(4)の関係を満たすことを特徴とする第1項から第4項までのいずれか一項に記載の静電荷像現像用トナー。
0.800≦ΔHc(70)/ΔHc ・・・(4)
【0011】
6.前記V/(Tcp-Tci)が、下記式(5)の関係を満たすことを特徴とする第1項から第5項までのいずれか一項に記載の静電荷像現像用トナー。
1.30≦V/(Tcp-Tci) ・・・(5)
【0012】
7.前記離型剤の結晶化温度Tcp(W)が、下記式(6)の関係を満たすことを特徴とする第1項から第6項までのいずれか一項に記載の静電荷像現像用トナー。
75℃≦Tcp(W)≦90℃ ・・・(6)
【0013】
8.前記離型剤が、ライスワックスであることを特徴とする第1項から第7項までのいずれか一項に記載の静電荷像現像用トナー。
【発明の効果】
【0014】
本発明の上記手段により、低温定着性及び定着分離性に優れ、かつ、部材への離型剤付着を抑制することができる静電荷像現像用トナーを提供することができる。
本発明の効果の発現機構又は作用機構については、明確にはなっていないが、以下のように推察している。
部材への離型剤の付着を抑制するためには、定着時に画像表面に染み出す離型剤の量を少なくすること、染み出した離型剤を素早く結晶化させるために融点の高い離型剤を使用すること、などが挙げられる。しかし、定着時に染み出す離型剤の量を少なくすると定着分離性が悪化し、融点の高い離型剤を使用すると低温定着性が悪化するといった問題があった。
そこで、良好な低温定着性を保ちつつ、良好な定着分離性と部材への離型剤付着の抑制を両立させるためには、冷却過程における離型剤の結晶化速度、結晶化割合、そして部材/離型剤/トナー画像間の付着力が重要となる。定着時に染み出した離型剤が部材と接触した際に部材に付着しづらくするためには、染み出した離型剤とトナー画像表面との間の付着力を強くする必要がある。
そこで、離型剤と親和性の高いビニル系樹脂を結着樹脂として50質量%以上含有させることで、定着時に染み出した離型剤と画像表面との間の付着力が大きくなり、部材に付着しづらくなる。
また、結着樹脂として結晶性ポリエステル樹脂を含有させることで、離型剤と結晶性ポリエステル樹脂が相互作用することによって双方の結晶化が促進され結晶化を速めることができ、さらに、0.60≦ΔHc(70)/ΔHc、0.7≦V/(Tcp-Tci)とすることで、部材と接するまでに素早く多くの離型剤を結晶化させることができ、離型剤の部材への付着を抑制することができる。
このようにして、少なくとも、離型剤と、着色剤と、結着樹脂としてビニル系樹脂と結晶性ポリエステル樹脂とを含有し、前記結着樹脂中における前記ビニル系樹脂の含有量が50質量%以上であるトナーにおいて、0.60≦ΔHc(70)/ΔHc、0.7≦V/(Tcp-Tci)を満たすことで、良好な低温定着性を保ちつつ、良好な定着分離性と部材への離型剤付着の抑制を両立することができると推察される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】示差走査熱力測定によるピークトップ温度、発熱量及び立ち上がり温度の算出方法を説明するための図
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の静電荷像現像用トナーは、少なくとも、離型剤と、着色剤と、結着樹脂とを含有するトナー母体粒子を含む静電荷像現像用トナーであって、前記結着樹脂として、ビニル系樹脂と結晶性ポリエステル樹脂と非晶性ポリエステル樹脂とを含有し、前記結着樹脂中における前記ビニル系樹脂の含有量が50質量%以上であり、前記着色剤が、銅フタロシアニンであり、当該着色剤の分散剤がドデシル硫酸ナトリウムであり、前記ドデシル硫酸ナトリウムの含有量が、前記銅フタロシアニン及び前記ドデシル硫酸ナトリウムの合計量に対して30~36質量%の範囲内であり、前記静電荷像現像用トナーの示差走査熱量測定による降温時の発熱ピーク全体の発熱量をΔHc、発熱ピークにおける70℃までの時点での発熱量をΔHc(70)としたとき、ΔHc(70)/ΔHcが下記式(1)の関係を満たし、かつ、前記静電荷像現像用トナーの示差走査熱量測定による降温時の発熱ピークの立ち上がり温度をTci〔℃〕、発熱ピークのピークトップ温度をTcp〔℃〕、降温速度をV〔℃/min〕としたとき、見かけの結晶化速度V/(Tcp-Tci)〔1/min〕が、下記式(2)の関係を満たすことを特徴とする。
0.600≦ΔHc(70)/ΔHc ・・・(1)
0.70≦V/(Tcp-Tci) ・・・(2)
この特徴は、下記各実施形態に共通又は対応する技術的特徴である。
【0017】
本発明の実施態様としては、前記結着樹脂中における前記ビニル系樹脂の含有量が、60質量%以上であることが、離型剤と親和性の高いビニル系樹脂の含有量が多くなり、定着時に染み出した離型剤とトナー画像表面との間の付着量がより大きくなるため、部材への離型剤付着を確実に抑制できる点で好ましい。特に、前記結着樹脂中における前記ビニル系樹脂の含有量が、65質量%以上であることが好ましい。
【0018】
また、前記ΔHc(70)/ΔHcが、前記式(3)の関係を満たすことが、部材への離型剤付着抑制の観点から好ましく、特に前記式(4)の関係を満たすことが好ましい。
【0019】
前記V/(Tcp-Tci)が、前記式(5)の関係を満たすことが、部材への離型剤付着抑制の観点から好ましい。
【0020】
前記離型剤の結晶化温度Tcp(W)が、前記式(6)の関係を満たすことが、部材への離型剤付着抑制及び低温定着性の観点から好ましい。
【0021】
前記離型剤が、ライスワックスであることが、安全面で好ましく、また、分子量が比較的均一であり、DSCの発熱プロファイルが急峻なピークを持つため、高い結晶化開始温度Tciと高いΔHc(70)/ΔHc、V/(Tcp-Tci)を両立することが可能であり、離型剤付着抑制の観点で好ましい。
【0022】
以下、本発明とその構成要素及び本発明を実施するための形態・態様について説明をする。なお、本願において、「~」は、その前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味で使用する。
【0023】
[本発明の静電荷像現像用トナーの概要]
本発明の静電荷像現像用トナー(以下、単に「トナー」ともいう。)は、少なくとも、離型剤と、着色剤と、結着樹脂とを含有するトナー母体粒子を含む静電荷像現像用トナーであって、前記結着樹脂として、ビニル系樹脂と結晶性ポリエステル樹脂とを含有し、前記結着樹脂中における前記ビニル系樹脂の含有量が50質量%以上であり、前記静電荷像現像用トナーの示差走査熱量測定による降温時の発熱ピーク全体の発熱量をΔHc、発熱ピークにおける70℃までの時点での発熱量をΔHc(70)としたとき、ΔHc(70)/ΔHcが下記式(1)の関係を満たし、かつ、前記静電荷像現像用トナーの示差走査熱量測定による降温時の発熱ピークの立ち上がり温度をTci〔℃〕、発熱ピークのピークトップ温度をTcp〔℃〕、降温速度をV〔℃/min〕としたとき、見かけの結晶化速度V/(Tcp-Tci)〔1/min〕が、下記式(2)の関係を満たすことを特徴とする。
0.600≦ΔHc(70)/ΔHc ・・・(1)
0.70≦V/(Tcp-Tci) ・・・(2)
【0024】
前記式(1)及び式(2)の関係を満たすことで、良好な低温定着性を保ちつつ、良好な定着分離性と部材への離型剤付着の抑制を両立することができる。
0.60>ΔHc(70)/ΔHcとなった場合、定着された画像が部材に接する際に(約70℃)、画像表面の離型剤のうち結晶化できていない成分が増えるため(結晶化していない離型剤が多くなってしまい)、部材と離型剤の接着力が大きくなり部材へ離型剤が付着してしまう。画像表面の離型剤が全て結晶化していれば、部材への付着力が小さいため、部材への付着が発生しない。よって、部材への離型剤付着抑制の観点からΔHc(70)/ΔHcは0.600≦ΔHc(70)/ΔHcである必要がある。
また、ΔHc(70)/ΔHcは、下記式(3)の関係を満たすことがより好ましく、特に下記式(4)の関係を満たすことが好ましい。
0.700≦ΔHc(70)/ΔHc ・・・(3)
0.800≦ΔHc(70)/ΔHc ・・・(4)
【0025】
一方、式(2)に関しては結晶化の速度を表しており、結晶化速度が遅いと(0.70>V/(Tcp-Tci)となった場合)、部材と接する際に結晶化できていない離型剤において、より低温まで結晶化できない離型剤の量が増える。つまりは結晶化できていない離型剤においてより粘度が低い成分が増えるため、部材との付着力が上がってしまい、離型剤付着が悪化する。よって、部材への離型剤付着抑制の観点からV/(Tcp-Tci)は0.70≦V/(Tcp-Tci)である必要がある。
また、前記V/(Tcp-Tci)は、下記式(5)の関係を満たすことがより好ましい。
1.30≦V/(Tcp-Tci) ・・・(5)
【0026】
前記式(1)及び式(2)を満たすための達成手段としては、例えば、着色剤の分散剤としてドデシル硫酸ナトリウムやドデシルジフェニルエーテルジスルホン酸ジナトリウムのような長鎖の炭化水素基を含む界面活性剤を用い、界面活性剤の量を着色剤に対し30~40質量%の範囲内とすること、結晶核剤のトナー母体粒子への導入、又は、高融点(例えば、80~90℃)の離型剤をブレンドする(すなわち、本来使用したい離型剤Aとは別に離型剤Aよりも高融点の離型剤Bを少しブレンドする。)、等が挙げられる。
これは、前記した着色剤の分散剤を用いた際、溶融したトナーが冷却される過程で、離型剤が着色剤表面に吸着した分散剤の疎水的な部位に集まり、そこを核として結晶化が進行するため、離型剤の結晶化が素早く進行することから、前記式(1)及び式(2)の関係を満たすものと推察される。
そして、このようにして、少なくとも、離型剤と、着色剤と、結着樹脂としてビニル系樹脂と結晶性ポリエステル樹脂とを含有し、前記結着樹脂中における前記ビニル系樹脂の含有量が50質量%以上であるトナーにおいて、前記式(1)及び式(2)の関係を満たすことで、良好な低温定着性を保ちつつ、良好な定着分離性と部材への離型剤付着の抑制を両立した静電荷像現像用トナーを得ることができる。
【0027】
<示差走査熱力測定によるピークトップ温度、発熱量及び立ち上がり温度の算出方法>
示差走査熱量計「DSC7000X」(HITACHI製)及び熱分析装置コントローラー「AS3/DX」(HITACHI製)を用いて示差走査熱量分析によって、DSC測定を行った。
具体的には、測定試料5mgをALオートサンプラ用試料容器φ6.8 H2.5 mm(HITACHI製)に入れ、ALオートサンプラ用カバー(HITACHI製)を用いて封入し、これを「AS3/DX」のサンプルホルダーにセットし、測定温度0~100℃で、昇温速度10℃/分、降温速度10℃/分の測定条件で、Heat-cool-Heatの温度制御を行い、その1st.coolにおけるデータをもとに解析を行った。リファレンスの測定には空のアルミニウム製パンを使用した。
1st.coolにおける結晶性樹脂由来の発熱ピークのピークトップ温度をTcp(℃)とした(
図1(a)参照。)。ピークが複数ある場合、一番高温側に出ているピークのピークトップ温度をTcp(℃)とする(
図1(c)参照。)。
また、1st.coolにおける結晶性樹脂由来の発熱ピークにおいて、ピークベースラインより明らかにピーク曲線が離れたと認められる温度、すなわち、ピーク曲線の微分値が正で、微分値の増加が大きくなりはじめる温度又は微分値が負から正になる温度を立ち上がり温度Tci(℃)とした(
図1(a)参照。)。ピークが複数ある場合、一番高温側に出ているピークの立ち上がり温度をTci(℃)とする(
図1(c)参照。)。
発熱ピーク全体の発熱量をΔHc(mJ/mg)とし(
図1(b)中、斜線部分参照。)、発熱ピークの立ち上がり温度から70℃までにおける発熱量をΔHc(70)とした(
図1(b)中、ドット部分参照。)。ピークが複数ある場合は、すべてのピークの発熱量の総和をΔHcとし(
図1(d)中、斜線部分参照。)、そのうち70℃までにおける発熱量をΔHc(70)とする(
図1(d)ドット部分参照。)。
【0028】
[静電荷像現像用トナーの構成]
本発明のトナーは、少なくとも、離型剤と、着色剤と、結着樹脂とを含有するトナー母体粒子を含む。
本発明に係るトナー母体粒子は、離型剤、着色剤及び結着樹脂のほか、必要に応じて帯電制御剤、界面活性剤などの種々の内添剤を含有してもよい。
なお、本発明において、トナー母体粒子に外添剤を添加したものをトナー粒子といい、トナー粒子の集合体をトナーという。トナー母体粒子は、一般的には、そのままでもトナー粒子として用いることもできるが、本発明においては、トナー母体粒子に外添剤を添加したものをトナー粒子として用いる。
【0029】
<結着樹脂>
本発明に係る結着樹脂は、少なくともビニル系樹脂と結晶性ポリエステル樹脂を含有する。また、本発明の効果を阻害しない範囲内で、その他、公知の樹脂(例えば、非晶性ポリエステル樹脂等)を含有していてもよい。
前記結着樹脂中におけるビニル系樹脂の含有量は、50質量%以上である。好ましくは、60質量%以上であり、特に65質量%以上であることが好ましい。
【0030】
<ビニル系樹脂>
前記ビニル系樹脂は、例えばビニル化合物の重合体であり、その例には、アクリル酸エステル樹脂、スチレン・アクリル酸エステル樹脂及びエチレン-酢酸ビニル樹脂が含まれる。中でも、熱定着時の可塑性の観点から、スチレン・アクリル酸エステル樹脂(スチレン・アクリル樹脂)が好ましい。結着樹脂が少なくともスチレン・アクリル樹脂を含有することにより、定着時の離型剤の過剰な染み出しを抑制し、ワックス付着を抑制することができる。
【0031】
(スチレン・アクリル樹脂)
前記結着樹脂が、スチレン・アクリル樹脂であることにより、定着時に離型剤が染み出したとしても、スチレン・アクリル樹脂は離型剤と親和性が高いため、画像表面に染み出した離型剤と画像表面の付着力が強くなり、離型剤の付着を抑制することができる。すなわち、スチレン・アクリル樹脂を用いることで、離型剤と画像表面間の付着力を強くすることができる。
【0032】
スチレン・アクリル樹脂は、少なくとも、スチレン単量体と(メタ)アクリル酸エステル単量体とを付加重合させて形成される。スチレン単量体は、CH2=CH-C6H5の構造式で表されるスチレンの他に、スチレン構造中に公知の側鎖や官能基を有するスチレン誘導体を含む。
【0033】
((メタ)アクリル酸エステル単量体)
(メタ)アクリル酸エステル単量体は、CH(Ra)=CHCOORb(Raは水素原子又はメチル基を表し、Rbは炭素数1~24のアルキル基を表す)で表されるアクリル酸エステルやメタクリル酸エステルの他に、これらのエステルの構造中に公知の側鎖や官能基を有するアクリル酸エステル誘導体やメタクリル酸エステル誘導体を含む。
【0034】
(メタ)アクリル酸エステル単量体の例には、メチルアクリレート、エチルアクリレート、イソプロピルアクリレート、n-ブチルアクリレート、t-ブチルアクリレート、イソブチルアクリレート、n-オクチルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、ステアリルアクリレート、ラウリルアクリレート及びフェニルアクリレートなどのアクリル酸エステル単量体;メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、n-ブチルメタクリレート、イソプロピルメタクリレート、イソブチルメタクリレート、t-ブチルメタクリレート、n-オクチルメタクリレート、2-エチルヘキシルメタクリレート、ステアリルメタクリレート、ラウリルメタクリレート、フェニルメタクリレート、ジエチルアミノエチルメタクリレート、ジメチルアミノエチルメタクリレートなどのメタクリル酸エステルが含まれる。
【0035】
なお、本明細書中、「(メタ)アクリル酸エステル単量体」とは、「アクリル酸エステル単量体」と「メタクリル酸エステル単量体」との総称であり、それらの一方又は両方を意味する。例えば、「(メタ)アクリル酸メチル」は、「アクリル酸メチル」及び「メタクリル酸メチル」の一方又は両方を意味する。
【0036】
前記(メタ)アクリル酸エステル単量体は、1種でもそれ以上でもよい。例えば、スチレン単量体と2種以上のアクリル酸エステル単量体とを用いて共重合体を形成すること、スチレン単量体と2種以上のメタクリル酸エステル単量体とを用いて共重合体を形成すること及びスチレン単量体とアクリル酸エステル単量体及びメタクリル酸エステル単量体とを併用して共重合体を形成すること、のいずれも可能である。
【0037】
(スチレン単量体)
スチレン単量体の例には、スチレン、o-メチルスチレン、m-メチルスチレン、p-メチルスチレン、α-メチルスチレン、p-フェニルスチレン、p-エチルスチレン、2,4-ジメチルスチレン、p-tert-ブチルスチレン、p-n-ヘキシルスチレン、p-n-オクチルスチレン、p-n-ノニルスチレン、p-n-デシルスチレン及びp-n-ドデシルスチレンが含まれる。
【0038】
(スチレン・アクリル樹脂の好ましい構成)
前記スチレン・アクリル樹脂の可塑性を制御する観点から、スチレン・アクリル樹脂におけるスチレン単量体に由来する構成単位の含有量は、40~90質量%の範囲内であることが好ましい。また、前記スチレン・アクリル樹脂における(メタ)アクリル酸エステル単量体に由来する構成単位の含有率は、10~60質量%の範囲内であると好ましい。
【0039】
(他の単量体)
スチレン・アクリル樹脂は、前記スチレン単量体及び(メタ)アクリル酸エステル単量体以外の他の単量体に由来する構成単位をさらに含有していてもよい。他の単量体は、多価アルコール由来のヒドロキシ基(-OH)又は多価カルボン酸由来のカルボキシ基(-COOH)とエステル結合する化合物であることが好ましい。すなわち、スチレン・アクリル樹脂は、前記スチレン単量体及び(メタ)アクリル酸エステル単量体に対して付加重合可能であり、かつ、カルボキシ基又はヒドロキシ基を有する化合物(両性化合物)がさらに重合してなる重合体であることが好ましい。
【0040】
(両性化合物)
両性化合物の例には、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、イタコン酸、ケイ皮酸、フマル酸、マレイン酸モノアルキルエステル、イタコン酸モノアルキルエステルなどのカルボキシ基を有する化合物、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレートなどのヒドロキシ基を有する化合物が含まれる。
【0041】
(両性化合物に由来する構成単位の好ましい含有量)
前記スチレン・アクリル樹脂における前記両性化合物に由来する構成単位の含有量は、0.5~20質量%の範囲内であることが好ましい。
【0042】
(スチレン・アクリル樹脂の合成方法)
前記スチレン・アクリル樹脂は、公知の油溶性又は水溶性の重合開始剤を使用して単量体を重合する方法によって合成することができる。油溶性の重合開始剤の例には、アゾ系又はジアゾ系重合開始剤及び過酸化物系重合開始剤が含まれる。
【0043】
(アゾ系又はジアゾ系重合開始剤)
前記アゾ系又はジアゾ系重合開始剤の例には、2,2′-アゾビス-(2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2′-アゾビスイソブチロニトリル、1,1′-アゾビス(シクロヘキサン-1-カルボニトリル)、2,2′-アゾビス-4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル及びアゾビスイソブチロニトリルが含まれる。
【0044】
(過酸化物系重合開始剤)
過酸化物系重合開始剤の例には、ベンゾイルパーオキサイド、メチルエチルケトンパーオキサイド、ジイソプロピルペルオキシカーボネート、クメンヒドロパーオキサイド、t-ブチルヒドロパーオキサイド、ジ-t-ブチルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、2,4-ジクロロベンゾイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、2,2-ビス-(4,4-t-ブチルパーオキシシクロヘキシル)プロパン及びトリス-(t-ブチルパーオキシ)トリアジンが含まれる。
【0045】
(水溶性ラジカル重合開始剤)
また、乳化重合法でスチレン・アクリル樹脂の樹脂粒子を合成する場合には、重合開始剤として水溶性ラジカル重合開始剤が使用可能である。水溶性ラジカル重合開始剤の例には、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウムなどの過硫酸塩、アゾビスアミノジプロパン酢酸塩、アゾビスシアノ吉草酸とその塩及び過酸化水素が含まれる。
【0046】
(ビニル系樹脂の好ましい重量平均分子量)
ビニル系樹脂は、その可塑性を制御しやすいという観点から、その重量平均分子量(Mw)が、5000~150000の範囲内であると好ましく、10000~70000の範囲内であるとより好ましい。
【0047】
<結晶性ポリエステル樹脂>
本発明において、結晶性樹脂とは、結晶性樹脂又はトナー粒子のDSCにおいて、階段状の吸熱変化ではなく、明確な吸熱ピークを有する樹脂をいう。明確な吸熱ピークとは、具体的には、DSCにおいて、昇温速度10℃/分で測定した際に、吸熱ピークの半値幅が15℃以内であるピークを意味する。結晶性ポリエステル樹脂とは、このような結晶性樹脂のうち、ポリエステル樹脂であるものをいう。
【0048】
(結晶性ポリエステル樹脂の融点)
前記結晶性ポリエステル樹脂の融点(Tm)は、十分な低温定着性と高温保存性とを得る観点から、50~90℃の範囲内にあることが好ましく、60~80℃の範囲内にあることがより好ましい。
【0049】
(融点の測定方法)
結晶性ポリエステル樹脂の融点は、DSCにより測定することができる。具体的には、試料5mgをアルミニウム製パンKITNO.B0143013に封入し、熱分析装置DiamondDSC(パーキンエルマー社製)のサンプルホルダーにセットして、昇温、降温、昇温の順に温度を変動させる。1回目と2回目の昇温時には、10℃/minの昇温速度で0℃から100℃まで昇温させて100℃を1分間保持する。降温時には、10℃/minの降温速度で100℃から0℃まで降温させて0℃の温度を1分間保持する。2回目の加熱時に得られる吸熱曲線における吸熱ピークのピークトップの温度を融点(Tm)として測定する。
【0050】
(結晶性ポリエステル樹脂の好ましい重量平均分子量及び数平均分子量)
前記結晶性ポリエステル樹脂の重量平均分子量(Mw)は5000~50000の範囲内で、数平均分子量(Mn)は2000~10000の範囲内にあることが、低温定着性及び最終画像における安定した光沢の発現の観点から好ましい。
【0051】
(重量平均分子量及び数平均分子量の測定方法)
重量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)は、以下のようにゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によって測定した分子量分布から求めることができる。
【0052】
試料を濃度1mg/mLとなるようにテトラヒドロフラン(THF)中に添加し、室温において超音波分散機を用いて5分間分散処理した後、ポアサイズ0.2μmのメンブランフィルターで処理して、試料液を調製する。GPC装置HLC-8120GPC(東ソー社製)及びカラム「TSKguardcolumn+TSKgelSuperHZM-M3連」(東ソー社製)を用い、カラム温度を40℃に保持しながら、キャリア溶媒としてTHFを流速0.2mL/分で流す。キャリア溶媒とともに、調製した試料液10μLをGPC装置内に注入し、屈折率検出器(RI検出器)を用いて試料を検出する。そして、単分散のポリスチレン標準粒子の10点を用いて測定した検量線を用いて、試料の分子量分布を算出する。
【0053】
(結着樹脂中における結晶性ポリエステル樹脂の含有量)
結着樹脂中における結晶性ポリエステル樹脂の含有量は、5~20質量%の範囲内であることが、良好な低温定着性と定着分離性を両立する観点から好ましい。前記含有量が5質量%以上であれば、形成されるトナー画像の低温定着性が十分となる。また、前記含有量が20質量%以下であれば、定着分離性が十分となる。
【0054】
(結晶性ポリエステル樹脂の構成)
結晶性ポリエステル樹脂は、2価以上のカルボン酸(多価カルボン酸)と、2価以上のアルコール(多価アルコール)との重縮合反応によって得られる。
【0055】
(ジカルボン酸)
多価カルボン酸の例には、ジカルボン酸が含まれる。このジカルボン酸は、1種でもそれ以上でもよく、脂肪族ジカルボン酸であることが好ましく、芳香族ジカルボン酸をさらに含んでいてもよい。脂肪族ジカルボン酸は、直鎖型であることが、結晶性ポリエステル樹脂の結晶性を高める観点から好ましい。
【0056】
(脂肪族ジカルボン酸)
脂肪族ジカルボン酸の例には、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、1,9-ノナンジカルボン酸、1,10-デカンジカルボン酸、1,11-ウンデカンジカルボン酸、1,12-ドデカンジカルボン酸(ドデカン二酸)、1,13-トリデカンジカルボン酸、1,14-テトラデカンジカルボン酸、1,16-ヘキサデカンジカルボン酸、1,18-オクタデカンジカルボン酸、これらの低級アルキルエステル及びこれらの酸無水物が含まれる。中でも、本発明の所期の効果を効率的に奏させる観点から、炭素数6~16の範囲内の脂肪族ジカルボン酸が好ましく、さらに炭素数10~14の範囲内の脂肪族ジカルボン酸がより好ましい。
【0057】
(芳香族ジカルボン酸)
芳香族ジカルボン酸の例には、テレフタル酸、イソフタル酸、オルトフタル酸、t-ブチルイソフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸及び4,4′-ビフェニルジカルボン酸が含まれる。中でも、入手容易性及び乳化容易性の観点から、テレフタル酸、イソフタル酸又はt-ブチルイソフタル酸が好ましい。
【0058】
(結晶性ポリエステル樹脂におけるジカルボン酸の好ましい含有量)
結晶性ポリエステル樹脂における前記ジカルボン酸由来の構成単位に対する脂肪族ジカルボン酸由来の構成単位の含有量は、結晶性ポリエステル樹脂の結晶性を十分に確保する観点から、50モル%以上であることが好ましく、70モル%以上であることがより好ましく、80モル%以上であることがさらに好ましく、100モル%であることが特に好ましい。
【0059】
(ジオール)
前記多価アルコール成分の例には、ジオールが含まれる。ジオールは、1種でもそれ以上でもよく、脂肪族ジオールであることが好ましく、それ以外のジオールをさらに含んでいてもよい。脂肪族ジオールは、結晶性ポリエステル樹脂の結晶性を高める観点から、直鎖型であることが好ましい。
【0060】
(脂肪族ジオール)
前記脂肪族ジオールの例には、エチレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,7-ヘプタンジオール、1,8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール、1,10-デカンジオール、1,11-ウンデカンジオール、1,12-ドデカンジオール、1,13-トリデカンジオール、1,14-テトラデカンジオール、1,18-オクタデカンジオール及び1,20-エイコサンジオールが含まれる。中でも、低温定着性及び転写性の両立との効果が得られやすい観点から、炭素数2~120の範囲内の脂肪族ジオールが好ましく、さらに炭素数4~6の範囲内の脂肪族ジオールがより好ましい。
【0061】
(その他のジオール)
その他のジオールの例には、二重結合を有するジオール及びスルホン酸基を有するジオールが含まれる。具体的には、二重結合を有するジオールの例には、2-ブテン-1,4-ジオール、3-ヘキセン-1,6-ジオール及び4-オクテン-1,8-ジオールが含まれる。
【0062】
(結晶性ポリエステル樹脂における脂肪族ジオールの好ましい含有量)
結晶性ポリエステル樹脂におけるジオール由来の構成単位に対する脂肪族ジオール由来の構成単位の含有量は、トナーの低温定着性及び最終的に形成される画像の光沢性を高める観点から、50モル%以上であることが好ましく、70モル%以上であることがより好ましく、80モル%以上であることがさらに好ましく、100モル%であることが特に好ましい。
【0063】
(ジオールとジカルボン酸との好ましい割合)
結晶性ポリエステル樹脂のモノマーにおける前記ジオールと前記ジカルボン酸との割合は、ジオールのヒドロキシ基[OH]とジカルボン酸のカルボキシ基[COOH]との当量比[OH]/[COOH]で2.0/1.0~1.0/2.0の範囲内であることが好ましく、1.5/1.0~1.0/1.5の範囲内であることがより好ましく、1.3/1.0~1.0/1.3の範囲内であることが特に好ましい。
【0064】
(結晶性ポリエステル樹脂の合成)
結晶性ポリエステル樹脂は、公知のエステル化触媒を利用して、前記多価カルボン酸及び多価アルコールを重縮合する(エステル化する)ことにより合成することができる。
【0065】
(結晶性ポリエステル樹脂の合成に使用可能な触媒)
結晶性ポリエステル樹脂の合成に使用可能な触媒は、1種でもそれ以上でもよく、その例には、ナトリウム、リチウムなどのアルカリ金属化合物;マグネシウム、カルシウムなどの第2族元素を含む化合物;アルミニウム、亜鉛、マンガン、アンチモン、チタン、スズ、ジルコニウム、ゲルマニウムなどの金属化合物;亜リン酸化合物;リン酸化合物;及びアミン化合物が含まれる。
【0066】
具体的には、スズ化合物の例には、酸化ジブチルスズ、オクチル酸スズ、ジオクチル酸スズ及びこれらの塩が含まれる。チタン化合物の例には、テトラノルマルブチルチタネート、テトライソプロピルチタネート、テトラメチルチタネート、テトラステアリルチタネートなどのチタンアルコキシド;ポリヒドロキシチタンステアレートなどのチタンアシレート;及びチタンテトラアセチルアセトナート、チタンラクテート、チタントリエタノールアミネートなどのチタンキレートが含まれる。ゲルマニウム化合物の例には、二酸化ゲルマニウムが含まれ、アルミニウム化合物の例には、ポリ水酸化アルミニウムなどの酸化物、アルミニウムアルコキシド及びトリブチルアルミネート、が含まれる。
【0067】
(結晶性ポリエステル樹脂の好ましい重合温度)
結晶性ポリエステル樹脂の重合温度は、150~250℃の範囲内であることが好ましい。また、重合時間は、0.5~10時間の範囲内であることが好ましい。重合中には、必要に応じて反応系内を減圧にしてもよい。
【0068】
(ハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂)
結晶性ポリエステル樹脂として、ハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂(以下、単に「ハイブリッド樹脂」ともいう。)を含有していてもよい。ハイブリッド結晶性樹脂を含有させることにより、併用する非晶性樹脂との親和性が向上するため、トナーの低温定着性が向上する。また、結晶性樹脂のトナー中での分散性が向上するため、ブリードアウトを抑制することができる。
【0069】
ハイブリッド樹脂は、1種でもそれ以上でもよい。また、ハイブリッド樹脂は、前記結晶性ポリエステル樹脂の全量と置き換えられていてもよいし、一部と置き換えられていても併用されていてもよい。
【0070】
ハイブリッド樹脂は、結晶性ポリエステル重合セグメントと、非晶性重合セグメントとが化学的に結合した樹脂である。結晶性ポリエステル重合セグメントとは、前記結晶性ポリエステル樹脂に由来する部分を意味する。すなわち、前述した結晶性ポリエステル樹脂を構成する分子鎖と同じ化学構造の分子鎖を意味する。また、非晶性重合セグメントとは、前記非晶性樹脂に由来する部分を意味する。すなわち、前述した非晶性樹脂を構成する分子鎖と同じ化学構造の分子鎖を意味する。
【0071】
(ハイブリッド樹脂の好ましい重量平均分子量(Mw))
ハイブリッド樹脂の好ましい重量平均分子量(Mw)は、十分な低温定着性及び優れた長期保管安定性を確実に両立し得るという観点から、5000~100000の範囲内であると好ましく、7000~50000の範囲内であるとより好ましく、8000~20000の範囲内であると特に好ましい。ハイブリッド樹脂のMwを100000以下とすることにより、十分な低温定着性を得ることができる。一方、ハイブリッド樹脂のMwを5000以上とすることにより、トナー保管時において当該ハイブリッド樹脂と非晶性樹脂との相溶が過剰に進行することが抑制され、トナー同士の融着による画像不良を効果的に抑制することができる。
【0072】
(結晶性ポリエステル重合セグメント)
結晶性ポリエステル重合セグメントは、例えば、結晶性ポリエステル重合セグメントによる主鎖に他成分を共重合させた構造を有する樹脂であってもよいし、結晶性ポリエステル重合セグメントを他成分からなる主鎖に共重合させた構造を有する樹脂であってもよい。当該結晶性ポリエステル重合セグメントは、前述した多価カルボン酸及び多価アルコールから、前述した結晶性ポリエステル樹脂と同様に合成され得る。
【0073】
(ハイブリッド樹脂における結晶性ポリエステル重合セグメントの含有量)
ハイブリッド樹脂における結晶性ポリエステル重合セグメントの含有量は、ハイブリッド樹脂に十分な結晶性を付与する観点から、80~98質量%の範囲内であることが好ましく、90~95質量%の範囲内であるとより好ましく、91~93質量%の範囲内であることがさらに好ましい。なお、ハイブリッド樹脂中(又はトナー中)の各重合セグメントの構成成分及びその含有量は、例えば、核磁気共鳴(NMR)やメチル化反応熱分解ガスクロマトグラフィー/質量分析法(Py-GC/MS)などの公知の分析方法を利用することにより特定することができる。
【0074】
(好ましい結晶性ポリエステル重合セグメントの態様)
結晶性ポリエステル重合セグメントは、モノマーに不飽和結合を有するモノマーをさらに含むことが、非晶性重合セグメントとの化学的な結合部位を当該セグメント中に導入する観点から好ましい。不飽和結合を有するモノマーは、例えば二重結合を有する多価アルコールであり、その例には、メチレンコハク酸、フマル酸、マレイン酸、3-ヘキセンジオイック酸、3-オクテンジオイック酸などの二重結合を有する多価カルボン酸;2-ブテン-1,4-ジオール、3-ヘキセン-1,6-ジオール及び4-オクテン-1,8-ジオールが含まれる。前記結晶性ポリエステル重合セグメントにおける前記不飽和結合を有するモノマーに由来する構成単位の含有量は、0.5~20質量%の範囲内であることが
好ましい。
【0075】
前記ハイブリッド樹脂は、ブロック共重合体であってもよいし、グラフト共重合体であってもよいが、グラフト共重合体であることが、結晶性ポリエステル重合セグメントの配向を制御しやすくなり、ハイブリッド樹脂に十分な結晶性を付与する観点から好ましく、結晶性ポリエステル重合セグメントが非晶性重合セグメントを主鎖として、グラフト化されていることがより好ましい。すなわち、ハイブリッド樹脂は、主鎖として前記非晶性重合セグメントを有し、側鎖として前記結晶性ポリエステル重合セグメントを有するグラフト共重合体であることが好ましい。
【0076】
(官能基の導入)
ハイブリッド樹脂には、さらにスルホン酸基、カルボキシ基、ウレタン基などの官能基が導入されていてもよい。前記官能基の導入は、前記結晶性ポリエステル重合セグメント中でもよいし、前記非晶性重合セグメント中であってもよい。
【0077】
(非晶性重合セグメント)
非晶性重合セグメントは、結着樹脂を構成する非晶性樹脂とハイブリッド樹脂との親和性を高める。それにより、ハイブリッド樹脂が非晶性樹脂中に取り込まれやすくなり、トナーの帯電均一性がより一層向上する。ハイブリッド樹脂中(又はトナー中)の非晶性重合セグメントの構成成分及びその含有量は、例えばNMRやメチル化反応Py-GC/MSなどの公知の分析方法を利用することにより特定することができる。
【0078】
また、非晶性重合セグメントは、本発明に係る非晶性樹脂と同様に、DSCの1度目の昇温過程におけるガラス転移温度(Tg1)が、30~80℃の範囲内であることが好ましく、40~65℃の範囲内であることがより好ましい。なお、ガラス転移温度(Tg1)は、公知の方法(例えば、DSC)で測定することができる。
(好ましい非晶性重合セグメントの態様)
【0079】
非晶性重合セグメントは、結着樹脂に含まれる非晶性樹脂と同種の樹脂で構成されることが、結着樹脂との親和性を高め、トナーの帯電均一性を高める観点から好ましい。このような形態とすることにより、ハイブリッド樹脂と非晶性樹脂との親和性がより向上し、「同種の樹脂」とは、繰り返し単位中に特徴的な化学結合を有する樹脂同士のことを意味する。
【0080】
「特徴的な化学結合」とは、物質・材料研究機構(NIMS)物質・材料データベース(http://polymer.nims.go.jp/PoLyInfo/guide/jp/term_polymer.html)に記載の「ポリマー分類」に従う。すなわち、ポリアクリル、ポリアミド、ポリ酸無水物、ポリカーボネート、ポリジエン、ポリエステル、ポリハロオレフィン、ポリイミド、ポリイミン、ポリケトン、ポリオレフィン、ポリエーテル、ポリフェニレン、ポリホスファゼン、ポリシロキサン、ポリスチレン、ポリスルフィド、ポリスルホン、ポリウレタン、ポリウレア、ポリビニル及びその他のポリマーの計22種によって分類されたポリマーを構成する化学結合を「特徴的な化学結合」という。
【0081】
また、樹脂が共重合体である場合における「同種の樹脂」とは、共重合体を構成する複数のモノマー種の化学構造において、前記化学結合を有するモノマー種を構成単位としている場合、特徴的な化学結合を共通に有する樹脂同士を意味する。したがって、樹脂自体の示す特性が互いに異なる場合や、共重合体中を構成するモノマー種のモル成分比が互いに異なる場合であっても、特徴的な化学結合を共通に有していれば同種の樹脂とみなす。
【0082】
例えば、スチレン、ブチルアクリレート及びアクリル酸によって形成される樹脂(又は重合セグメント)と、スチレン、ブチルアクリレート及びメタクリル酸によって形成される樹脂(又は重合セグメント)とは、少なくともポリアクリルを構成する化学結合を有しているため、これらは同種の樹脂である。さらに例示すると、スチレン、ブチルアクリレート及びアクリル酸によって形成される樹脂(又は重合セグメント)と、スチレン、ブチルアクリレート、アクリル酸、テレフタル酸及びフマル酸によって形成される樹脂(又は重合セグメント)とは、互いに共通する化学結合として、少なくともポリアクリルを構成する化学結合を有している。したがって、これらは同種の樹脂である。
【0083】
非晶性重合セグメントの例には、ビニル重合セグメント、ウレタン重合セグメント及びウレア重合セグメントが含まれる。中でも、熱可塑性を制御しやすいと観点から、ビニル重合セグメントであることが好ましい。ビニル重合セグメントは、本発明に係るビニル樹脂と同様にして合成され得る。
【0084】
(スチレン単量体に由来する構成単位の好ましい含有量)
非晶性重合セグメントにおけるスチレン単量体に由来する構成単位の含有量は、40~90質量%の範囲内であることが、ハイブリッド樹脂の可塑性を制御することが容易となる観点から好ましい。また、同様の観点から、非晶性重合セグメントにおける(メタ)アクリル酸エステル単量体に由来する構成単位の含有量は、10~60質量%の範囲内であることが好ましい。
【0085】
(両性化合物の好ましい含有量)
さらに、非晶性重合セグメントは、前述した両性化合物をモノマーにさらに含有することが、前記結晶性ポリエステル重合セグメントとの化学的な結合部位を前記非晶性重合セグメントに導入する観点から好ましい。非晶性重合セグメントにおける前記両性化合物に由来する構成単位の含有量は、0.5~20質量%の範囲内であることが好ましい。
【0086】
(ハイブリッド樹脂における非晶性重合セグメントの好ましい含有量)
前記ハイブリッド樹脂における前記非晶性重合セグメントの含有量は、ハイブリッド樹脂に十分な結晶性を付与する観点から、3~15質量%の範囲内であることが好ましく、5~10質量%の範囲内であることがより好ましく、7~9質量%の範囲内であることがさらに好ましい。
【0087】
(ハイブリッド樹脂の製造方法)
ハイブリッド樹脂は、例えば、以下に示す第1から第3の製造方法によって製造することができる。
【0088】
(第1の製造方法)
第1の製造方法は、あらかじめ合成された非晶性重合セグメントの存在下で結晶性ポリエステル重合セグメントを合成する重合反応を行ってハイブリッド樹脂を製造する方法である。
【0089】
この方法では、まず、上述した非晶性重合セグメントを構成する単量体(好ましくは、スチレン単量体や(メタ)アクリル酸エステル単量体などのビニル単量体)を付加反応させて非晶性重合セグメントを合成する。次に、非晶性重合セグメントの存在下で、多価カルボン酸と多価アルコールとを重合反応させて結晶性ポリエステル重合セグメントを合成する。このとき、多価カルボン酸と多価アルコールとを縮合反応させるとともに、非晶性重合セグメントに対し、多価カルボン酸又は多価アルコールを付加反応させることにより、ハイブリッド樹脂が合成される。
【0090】
前記第1の方法において、結晶性ポリエステル重合セグメント又は非晶性重合セグメント中に、これら重合セグメントが互いに反応可能な部位を組み込むことが好ましい。具体的には、非晶性重合セグメントの合成時、非晶性重合セグメントを構成する単量体の他に、前述した両性化合物も使用する。当該両性化合物が結晶性ポリエステル重合セグメント中のカルボキシ基又はヒドロキシ基と反応することにより、結晶性ポリエステル重合セグメントは、非晶性重合セグメントと化学的かつ定量的に結合する。また、結晶性ポリエステル重合セグメントの合成時、そのモノマーに、前述した不飽和結合を有する化合物をさらに含有させてもよい。
【0091】
前記第1の方法により、非晶性重合セグメントに結晶性ポリエステル重合セグメントが分子結合した構造(グラフト構造)のハイブリッド樹脂を合成することができる。
【0092】
(第2の製造方法)
第2の製造方法は、結晶性ポリエステル重合セグメントと非晶性重合セグメントとをそれぞれ形成しておき、これらを結合させてハイブリッド樹脂を製造する方法である。
【0093】
この方法では、まず、多価カルボン酸と多価アルコールとを縮合反応させて結晶性ポリエステル重合セグメントを合成する。また、結晶性ポリエステル重合セグメントを合成する反応系とは別に、上述した非晶性重合セグメントを構成する単量体を付加重合させて非晶性重合セグメントを合成する。このとき、結晶性ポリエステル重合セグメント及び非晶性重合セグメントの一方又は両方に、結晶性ポリエステル重合セグメントと非晶性重合セグメントとが互いに反応可能な部位を前述のようにして組み込むことが好ましい。
【0094】
次に、合成した結晶性ポリエステル重合セグメントと非晶性重合セグメントとを反応させることにより、結晶性ポリエステル重合セグメントと非晶性重合セグメントとが分子結合した構造のハイブリッド樹脂を合成することができる。
【0095】
また、前記反応可能な部位が結晶性ポリエステル重合セグメント及び非晶性重合セグメントのいずれにも組み込まれていない場合は、結晶性ポリエステル重合セグメントと非晶性重合セグメントとが共存する系において、結晶性ポリエステル重合セグメント及び非晶性重合セグメントの両方と結合可能な部位を有する化合物を投入する方法を採用してもよい。それにより、当該化合物を介して結晶性ポリエステル重合セグメントと非晶性重合セグメントとが分子結合した構造のハイブリッド樹脂を合成することができる。
【0096】
(第3の製造方法)
第3の製造方法は、結晶性ポリエステル重合セグメントの存在下で非晶性重合セグメントを合成する重合反応を行ってハイブリッド樹脂を製造する方法である。
【0097】
この方法では、まず、多価カルボン酸と多価アルコールとを縮合反応させて重合を行い、結晶性ポリエステル重合セグメントを合成しておく。次に、結晶性ポリエステル重合セグメントの存在下で、非晶性重合セグメントを構成する単量体を重合反応させて非晶性重合セグメントを合成する。このとき、前記第1の製造方法と同様に、結晶性ポリエステル重合セグメント又は非晶性重合セグメントに、これら重合セグメントが互いに反応可能な部位を組み込むことが好ましい。
【0098】
前述の方法により、結晶性ポリエステル重合セグメントに非晶性重合セグメントが分子結合した構造(グラフト構造)のハイブリッド樹脂を合成することができる。
【0099】
前記第1から第3の製造方法の中でも、第1の製造方法は、非晶性樹脂鎖に結晶性ポリエステル樹脂鎖をグラフト化した構造のハイブリッド樹脂を合成しやすいことや生産工程を簡素化できるため好ましい。第1の製造方法は、非晶性重合セグメントをあらかじめ形成してから結晶性ポリエステル重合セグメントを結合させるため、結晶性ポリエステル重合セグメントの配向が均一になりやすい。
【0100】
<非晶性ポリエステル樹脂>
本発明に係る結着樹脂は、非晶性ポリエステル樹脂を含有してもよい。
非晶性ポリエステル樹脂は、ポリエステル樹脂であって、示差走査熱量測定(DSC)を行ったときに、融点を有さず、比較的高いガラス転移温度(Tg)を有する樹脂である。
なお、多価カルボン酸と多価アルコールとの重縮合によって得られたポリエステル樹脂に、さらにモノカルボン酸、及び/又はモノアルコールを加えて、重合末端のヒドロキシル基、及び/又はカルボキシ基をエステル化し、ポリエステル樹脂の酸価を調整しても良い。
前記モノカルボン酸としては酢酸、無水酢酸、安息香酸、トリクロル酢酸、トリフルオロ酢酸、無水プロピオン酸等を挙げることができる。前記モノアルコールとしてはメタノール、エタノール、プロパノール、オクタノール、2-エチルヘキサノール、トリフルオロエタノール、トリクロロエタノール、ヘキサフルオロイソプロパノール、フェノールなどを挙げることができる。
【0101】
<離型剤>
本発明に係るトナー母体粒子は、離型剤を含有する。
本発明に係る離型剤の結晶化温度Tcp(W)は、下記式(6)の関係を満たすことが好ましい。
75℃≦Tcp(W)≦90℃ ・・・(6)
Tcp(W)が75℃以上の場合、部材に接するまでに結晶化する離型剤の割合が大きくなり、部材への離型剤付着が良好となる。また、Tcp(W)が90℃以下の場合は、離型剤の融点が高すぎないことから、低温定着性に優れる。
【0102】
(結晶化温度Tcp(W)の測定方法)
前記離型剤の結晶化温度Tcp(W)は、離型剤単体の結晶化温度ではなく、トナー中における離型剤の結晶化温度で、前記「示差走査熱力測定によるピークトップ温度、発熱量及び立ち上がり温度の算出方法」で説明した方法と同様の方法で測定する。すなわち、示差走査熱量計「DSC7000X」(HITACHI製)及び熱分析装置コントローラー「AS3/DX」(HITACHI製)を用いて示差走査熱量分析によって、DSC測定を行う。
具体的には、測定試料5mgをALオートサンプラ用試料容器φ6.8 H2.5 mm(HITACHI製)に入れ、ALオートサンプラ用カバー(HITACHI製)を用いて封入し、これを「AS3/DX」のサンプルホルダーにセットし、測定温度0~100℃で、昇温速度10℃/分、降温速度10℃/分の測定条件で、Heat-cool-Heatの温度制御を行い、その1st.coolにおけるデータをもとに解析を行った。リファレンスの測定には空のアルミニウム製パンを使用した。
1st.coolにおける離型剤由来の発熱ピークのピークトップ温度をTcp(W)(℃)とした(
図1(a)参照。)。ピークが複数ある場合、一番高温側に出ているピークのピークトップ温度をTcp(W)(℃)とする(
図1(c)参照。)。
【0103】
前記離型剤としては、例えば、ライスワックス、エステルワックス又は炭化水素ワックス等が挙げられる。中でも、ライスワックスは、米ぬかを精製して作られるため、安全であるだけでなく、分子量が比較的均一であり、DSCの発熱プロファイルが急峻なピークを持つため、高い結晶化開始温度Tciと高いΔHc(70)/ΔHc及びV/(Tcp-Tci)を両立することが可能であり、離型剤付着抑制の観点で好ましい。
【0104】
前記ライスワックスの主成分は、脂肪酸と高級アルコールエステルであり、脂肪酸としては、パルミチン酸(C16)、ベヘン酸(C22)、リグノセリン酸(C24)やその他の脂肪酸からなるものが挙げられる。高級アルコールエステルとしては、主に1-ヘキサコサノール(C26)、トリアコンタノール(C30)からなるものが挙げられる。また、スクアレンやリン脂質も含むことが好ましい。
ライスワックスの製造方法としては、例えば、特開2011-89098号公報の段落0012に記載された方法を用いることができる。
また、本発明の離型剤としては、ライスワックス以外のワックス、例えば、エステルワックス又は炭化水素ワックスを併用してもよい。
【0105】
前記エステルワックスとしては、総炭素数が45以上71以下のエステルワックスであることが好ましく、45以上55以下のエステルワックスがより好ましい。エステルワックスの総炭素数が上記範囲であれば、低温定着性及び定着分離性を満足しつつ、かつワックス付着性を改善することができる。
【0106】
前記エステルワックスは、モノエステル及びジエステルのいずれをも用いることができるが、モノエステルが好ましい。
【0107】
前記エステルワックスは、少なくともエステルを含んでいる。当該エステルとしては、モノエステル及びジエステルのいずれをも用いることができ、例えば、下記一般式(1)~(3)で表される構造を有する高級脂肪酸及び高級アルコールのエステル類などを挙げることができる。
【0108】
一般式(1)R1-COO-R2
一般式(2)R1-COO-(CH2)n-OCO-R2
一般式(3)R1-OCO-(CH2)n-COO-R2
【0109】
一般式(1)~(3)中、R1は置換又は無置換の炭素数22~35の炭化水素基を表し、R2は置換又は無置換の炭素数23~36の炭化水素基を表す。R1及びR2は、同一であっても、異なっていてもよい。nは、1~30の整数を表す。
【0110】
R1は炭素数22~35の炭化水素基を表し、R2は、炭素数23~36の炭化水素基を表すが、好ましくは、R1の炭素数22~29、R2の炭素数23~30炭化水素基である。
【0111】
nは、1~30の整数を表すが、好ましくは1~12の整数を表す。
【0112】
前記一般式(1)で表される構造を有するモノエステルの具体例としては、例えば、以下の式(1-1)~(1-7)で表される構造を有する化合物を例示することができる。
【0113】
式(1-1)CH3-(CH2)22-COO-(CH2)23-CH3
式(1-2)CH3-(CH2)23-COO-(CH2)24-CH3
式(1-3)CH3-(CH2)24-COO-(CH2)25-CH3
式(1-4)CH3-(CH2)23-COO-(CH2)22-CH3
式(1-5)CH3-(CH2)21-COO-(CH2)24-CH3
式(1-6)CH3-(CH2)25-COO-(CH2)25-CH3
式(1-7)CH3-(CH2)28-COO-(CH2)29-CH3。
【0114】
前記一般式(2)及び一般式(3)で表される構造を有するジエステルの具体例としては、例えば、以下の式(2-1)~(2-5)及び式(3-1)~(3-3)で表される構造を有する化合物を例示することができる。
【0115】
式(2-1)CH3-(CH2)20-COO-(CH2)4-OCO-(CH2)20-CH3
式(2-2)CH3-(CH2)20-COO-(CH2)2-OCO-(CH2)20-CH3
式(2-3)CH3-(CH2)22-COO-(CH2)2-OCO-(CH2)22-CH3
式(2-4)CH3-(CH2)26-COO-(CH2)2-OCO-(CH2)26-CH3
式(2-5)CH3-(CH2)20-COO-(CH2)6-OCO-(CH2)20-CH3
式(3-1)CH3-(CH2)21-OCO-(CH2)6-COO-(CH2)21-CH3
式(3-2)CH3-(CH2)23-OCO-(CH2)6-COO-(CH2)23-CH3
式(3-3)CH3-(CH2)19-OCO-(CH2)6-COO-(CH2)19-CH3。
【0116】
以上の中でも、エステルとしては、モノエステルであることが好ましい。
【0117】
また、前記エステルワックスとしては、上記したエステルワックスの2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0118】
(炭化水素系ワックス)
炭化水素系ワックスとしては、その種類には特に制限はなく、例えば、ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックスなどのポリオレフィンワックス、マイクロクリスタリンワックスなどの分枝鎖状炭化水素ワックス;パラフィンワックス(例えば、フィッシャー・トロプシュワックス)、サゾールワックスなどの長鎖炭化水素系ワックス;及びジステアリルケトンなどのジアルキルケトン系ワックス、カルナウバワックス、モンタンワックス、ベヘン酸ベヘニル、トリメチロールプロパントリベヘネート、ペンタエリスリトールテトラベヘネート、ペンタエリスリトールジアセテートジベヘネート、グリセリントリベヘネート、1,18-オクタデカンジオールジステアレート、トリメリット酸トリステアリル、ジステアリルマレエートなどのエステル系ワックス、エチレンジアミンベヘニルアミド、トリメリット酸トリステアリルアミドなどのアミド系ワックス;が含まれる。好ましくは、マイクロクリスタリンワックス、フィッシャー・トロプシュワックス、パラフィンワックスなどが挙げられる。
【0119】
上記マイクロクリスタリンワックスとは、石油ワックスの中で、主成分が直鎖状炭化水素(ノルマルパラフィン)であるパラフィンワックスとは異なり、直鎖状炭化水素の他に分岐鎖状炭化水素(イソパラフィン)や環状炭化水素(シクロパラフィン)を多く含むワックスをいい、一般に、マイクロクリスタリンワックスは、低結晶性のイソパラフィンやシクロパラフィンが多く含有されているために、パラフィンワックスに比べて結晶が小さく、分子量が大きいものである。
【0120】
マイクロクリスタリンワックスは、炭素数が30~60の範囲内、重量平均分子量が500~800の範囲内、融点が60~90℃の範囲内である。重量平均分子量が600~800の範囲内、融点が60~85℃の範囲内であるものが好ましい。また、低分子量のもので特に数平均分子量が300~1000の範囲内のものが好ましく、400~800の範囲内のものがより好ましい。また、重量平均分子量と数平均分子量との比(Mw/Mn)は、1.01~1.20の範囲内であることが好ましい。
【0121】
マイクロクリスタリンワックスとしては、例えば、日本精蝋(株)製のHNP-0190、Hi-Mic-1045、Hi-Mic-1070、Hi-Mic-1080、Hi-Mic-1090、Hi-Mic-2045、Hi-Mic-2065、Hi-Mic-2095などのマイクロクリスタリンワックスや、イソパラフィンが主成分であるワックスEMW-0001、EMW-0003などが挙げられる。
【0122】
マイクロクリスタリンワックスにおける分岐の有無及びその割合は、具体的には、下記条件における13C-NMR測定方法により得られるスペクトルにより、下記式(i)により算出することができる。
【0123】
式(i):分岐の割合(%)=(C3+C4)/(C1+C2+C3+C4)×100
【0124】
式(i)中、C1は1級炭素原子に係るピーク面積、C2は2級炭素原子に係るピーク面積、C3は3級炭素原子に係るピーク面積、C4は4級炭素原子に係るピーク面積を表す。
【0125】
(13C-NMR測定方法の条件)
測定装置:FTNMR装置Lambda400(日本電子社製)
測定周波数:100.5MHz
パルス条件:4.0μs
データポイント:32768
遅延時間:1.8sec
周波数範囲:27100Hz
積算回数:20000回
測定温度:80℃
溶媒:ベンゼン-d6/o-ジクロロベンゼン-d4=1/4(v/v)
試料濃度:3質量%
試料管:径5mm
測定モード:1H完全デカップリング法
【0126】
炭化水素系ワックスの融点としては、好ましくは60~90℃の範囲であり、より好ましくは65~85℃の範囲であり、さらに好ましくは70~80℃の範囲である。上記範囲であれば、トナーに含有した際の降温時の発熱ピークトップ温度を60~85℃に調整しやすいとの技術的効果がある。なお、この炭化水素系ワックスの融点も結着樹脂の融点と同様の方法で測定することができる。
【0127】
(好ましい離型剤の含有量)
トナー母体粒子中、離型剤の含有量は、定着分離性確保などの観点から、3~15質量%の範囲であることが好ましく、5~12質量%の範囲であることがより好ましく、7~10質量%の範囲であることがさらに好ましい。
【0128】
<着色剤>
本発明に係る着色剤としては、公知の無機又は有機着色剤を使用することができる。着色剤としてはカーボンブラック、磁性粉のほか、各種有機、無機の顔料、染料等が使用できる。特に、有彩色顔料を用いることが好ましく、無機の顔料としては、フタロシアニン系顔料を用いることが好ましい。着色剤の添加量はトナー母体粒子に対して1~30質量%、好ましくは2~20質量%の範囲とされる。
【0129】
また、着色剤の粒子の大きさは、体積平均粒径で、例えば10~1000nmの範囲内であることが好ましく、50~500nmの範囲内であることがより好ましく、80~300nmの範囲内であることがさらに好ましい。
【0130】
当該体積平均粒径は、カタログ値であってもよく、また、例えば着色剤の体積平均粒径(体積基準のメディアン径)は、「UPA-150」(マイクロトラック・ベル株式会社製)によって測定することができる。
【0131】
<荷電制御剤・外添剤>
トナー母体粒子は、必要に応じて荷電制御剤を含有したり、トナー母体粒子に外添剤を添加することができる。
【0132】
(荷電制御剤)
荷電制御剤としては、ニグロシン系染料、ナフテン酸又は高級脂肪酸の金属塩、アルコキシル化アミン、第4級アンモニウム塩、アゾ系金属錯体、サリチル酸金属塩等の公知の化合物を用いることができる。荷電制御剤により、帯電性に優れたトナーを得ることができる。
【0133】
荷電制御剤の含有量は、結着樹脂100質量部に対して、通常0.1~5.0質量部の範囲内とすることができる。
【0134】
(外添剤)
トナー母体粒子は、そのままトナーとして用いることができるが、流動性、帯電性、クリーニング性等を改良するため、流動化剤、クリーニング助剤等の外添剤で処理されていてもよい。
【0135】
外添剤としては、例えばシリカ微粒子、アルミナ微粒子、酸化チタン微粒子等の無機酸化物微粒子や、ステアリン酸アルミニウム微粒子、ステアリン酸亜鉛微粒子等の無機ステアリン酸化合物微粒子、チタン酸ストロンチウム、チタン酸亜鉛等の無機チタン酸化合物微粒子等が挙げられる。これらは、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0136】
これら無機粒子は、耐熱保管性及び環境安定性の向上の観点から、シランカップリング剤やチタンカップリング剤、高級脂肪酸、シリコーンオイル等によって、光沢処理が行われていることが好ましい。
【0137】
外添剤の添加量(複数の外添剤を用いる場合はその合計の添加量)は、トナー母体粒子100質量部に対して0.05~5質量部の範囲内であることが好ましく、0.1~3質量部の範囲内であることがより好ましい。
【0138】
<コア・シェル構造>
トナー母体粒子は、そのままトナーとして用いることができるが、当該トナー母体粒子をコア粒子として当該コア粒子とその表面を被覆するシェル層とを備えるコア・シェル構造のような多層構造のトナー母体粒子であってもよい。シェル層は、コア粒子の全表面を被覆していなくてもよく、部分的にコア粒子が露出していてもよい。コア・シェル構造の断面は、例えば透過型電子顕微鏡(TEM:TransmissionElectronMicroscope)、走査型プローブ顕微鏡(SPM:ScanningProbeMicroscope)等の公知の観察手段によって、確認することができる。
【0139】
コア・シェル構造の場合は、コア粒子とシェル層でガラス転移点、融点、硬度等の特性を異ならせることができ、目的に応じたトナー母体粒子の設計が可能である。例えば、結着樹脂、着色剤、離型剤等を含有し、ガラス転移点(Tg)が比較的低いコア粒子の表面に、ガラス転移点(Tg)が比較的高い樹脂を凝集、融着させて、シェル層を形成することができる。シェル層は、非晶性樹脂を含有することが好ましい。
【0140】
<トナー母体粒子の粒径>
トナー母体粒子の粒径としては、体積基準のメディアン径(d50)が3~10μmの範囲内にあることが好ましく、5~8μmの範囲内にあることがより好ましい。前記範囲内にあれば、1200dpiレベルの非常に微小なドット画像であっても高い再現性が得られる。なお、トナー母体粒子の粒径は、製造時に使用する凝集剤の濃度や有機溶媒の添加量、融着時間、結着樹脂の組成等によって制御することができる。
トナー母体粒子の体積基準のメディアン径(d50)の測定には、マルチサイザー3(ベックマン・コールター社製)に、データ処理用ソフトSoftwareV3.51を搭載したコンピューターシステムを接続した測定装置を用いることができる。
具体的には、測定試料(トナー母体粒子)を、界面活性剤溶液(トナー母体粒子の分散を目的として、例えば界面活性剤成分を含む中性洗剤を純水で10倍希釈した界面活性剤溶液)に添加してなじませた後、超音波分散を行い、トナー母体粒子分散液を調製する。このトナー母体粒子分散液を、サンプルスタンド内のISOTONII(ベックマン・コールター社製)の入ったビーカーに、測定装置の表示濃度が8%になるまでピペットにて注入する。ここで、この濃度にすることにより、再現性のある測定値を得ることができる。そして、測定装置において、測定粒子カウント数を25000個、アパーチャー径を100μmとし、測定範囲である2~60μmの範囲を256分割しての頻度値を算出し、体積積算分率の大きい方から50%の粒子径を体積基準のメディアン径(d50)として得る。
【0141】
<トナー母体粒子の平均円形度>
トナー母体粒子は、帯電性の安定性及び低温定着性を高める観点から、平均円形度が0.930~1.000の範囲内にあることが好ましく、0.950~0.995の範囲内にあることがより好ましい。平均円形度が前記範囲内にあれば、個々のトナー母体粒子が破砕しにくくなる。これにより、摩擦帯電付与部材の汚染を抑制してトナーの帯電性を安定させることができるとともに、形成される画像の画質を高めることができる。トナー母体粒子の平均円形度は、FPIA-2100(Sysmex社製)を用いて測定することができる。
【0142】
具体的には、測定試料(トナー母体粒子)を界面活性剤入り水溶液にてなじませ、超音波分散処理を1分間行って分散させる。その後、FPIA-2100(Sysmex社製)によって、測定条件HPF(高倍率撮像)モードにて、HPF検出数3000~10000個の適正濃度で撮影を行う。HPF検出数が前記の範囲内であれば、再現性のある測定値を得ることができる。撮影した粒子像から、個々のトナー母体粒子の円形度を下記式(I)に従って算出し、各トナー母体粒子の円形度を加算して全トナー母体粒子数で除することにより、平均円形度を得る。
【0143】
式(I):
円形度=(粒子像と同じ投影面積をもつ円の周囲長)/(粒子投影像の周囲長)
【0144】
[現像剤]
本発明の静電荷像現像用トナーは、磁性又は非磁性の一成分現像剤として使用することもできるが、キャリアと混合して二成分現像剤として使用してもよい。トナーを二成分現像剤として使用する場合において、キャリアとしては、鉄、フェライト、マグネタイト等の金属、それらの金属とアルミニウム、鉛等の金属との合金等の従来公知の材料からなる磁性粒子を用いることができ、特にフェライト粒子が好ましい。
【0145】
また、キャリアとしては、磁性粒子の表面を樹脂等の被覆剤で被覆したコートキャリアや、バインダー樹脂中に磁性体微粉末を分散した分散型キャリア等用いてもよい。
キャリアの体積基準のメディアン径(d50)としては、20~100μmの範囲内であることが好ましく、25~80μmの範囲内であることがより好ましい。
【0146】
キャリアの体積基準のメディアン径(d50)は、例えば湿式分散機を備えたレーザー回折式粒度分布測定装置ヘロス(HELOS)(SYMPATEC社製)により測定することができる。
【0147】
[トナーの製造方法]
本発明に係るトナーの製造方法は、公知の方法を採用できる。例えば、乳化重合凝集法や乳化凝集法を好適に採用できる。
【0148】
本発明に係るトナーの製造方法に好ましく用いられる乳化重合凝集法は、乳化重合法によって製造された結着樹脂の粒子(以下、「結着樹脂粒子」ともいう。)の分散液を、着色剤の粒子(以下、「着色剤粒子」ともいう。)分散液及びワックスなどの離型剤の分散液と混合し、トナー母体粒子が所望の粒径となるまで凝集させ、さらに結着樹脂粒子間の融着を行うことにより形状制御を行って、トナー母体粒子を製造する方法である。
【0149】
また、本発明に係るトナーの製造方法として好ましく用いられる乳化凝集法は、溶媒に溶解した結着樹脂溶液を貧溶媒に滴下して樹脂粒子分散液とし、この樹脂粒子分散液と着色剤分散液及びワックスなどの離型剤分散液とを混合し、所望のトナー母体粒子の径となるまで凝集させ、さらに結着樹脂粒子間の融着を行うことにより形状制御を行って、トナー母体粒子を製造する方法である。
【0150】
本発明のトナーにおいては、どちらの製造方法も適用可能である。
本発明のトナーの製造方法として、乳化重合凝集法を用いる場合の一例を以下に示す。
【0151】
(1)水系媒体中に着色剤の微粒子が分散されてなる分散液を調製する工程
(2)水系媒体中に、必要に応じて内添剤を含有した結着樹脂粒子が分散されてなる分散液を調製する工程
(3)乳化重合により、結着樹脂粒子の分散液を調製する工程
(4)着色剤の微粒子の分散液と、結着樹脂粒子の分散液とを混合して、着色剤の微粒子と結着樹脂粒子とを凝集、会合、融着させてトナー母体粒子を形成する工程
(5)トナー母体粒子の分散系(水系媒体)からトナー母体粒子を濾別し、界面活性剤などを除去する工程
(6)トナー母体粒子を乾燥する工程
(7)トナー母体粒子に外添剤を添加する工程、である。
【0152】
乳化重合凝集法によってトナーを製造する場合において、乳化重合法によって得られる結着樹脂粒子は、組成の異なる結着樹脂よりなる2層以上の多層構造を有するものであってもよい。このような構成の結着樹脂粒子は、例えば2層構造を有するものは、常法に従った乳化重合処理(第1段重合)によって樹脂粒子の分散液を調製し、この分散液に重合開始剤と重合性単量体とを添加し、この系を重合処理(第2段重合)する手法によって得ることができる。
【0153】
また、乳化重合凝集法によってはコア・シェル構造を有するトナー母体粒子を得ることもできる。具体的には、コア・シェル構造を有するトナー母体粒子は、まず、コア粒子用の結着樹脂粒子と着色剤の微粒子を凝集、会合、融着させてコア粒子を作製する。次いで、コア粒子の分散液中にシェル層用の結着樹脂粒子を添加してコア粒子表面にシェル層用の結着樹脂粒子を凝集、融着させてコア粒子表面を被覆するシェル層を形成することにより得ることができる。
【0154】
また、本発明のトナーの製造方法として、粉砕法を用いる場合の一例を以下に示す。
(1)結着樹脂、着色剤、離型剤並びに必要に応じて内添剤をヘンシェルミキサーなどにより混合する工程
(2)得られた混合物を押出混練機などにより加熱しながら混練する工程
(3)得られた混練物をハンマーミルなどにより粗粉砕処理した後、さらにターボミル粉砕機などにより粉砕処理を行う工程
(4)得られた粉砕物を、例えばコアンダ効果を利用した気流分級機を用いて微粉分級処理しトナー母体粒子を形成する工程
(5)トナー母体粒子に外添剤を添加する工程、である。
【0155】
なお、本発明を適用可能な実施形態は、上述した実施形態に限定されることなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【実施例】
【0156】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、下記実施例において、特記しない限り、操作は室温(25℃)で行われた。また、特記しない限り、「%」及び「部」は、それぞれ、「質量%」及び「質量部」を意味する。
【0157】
[非晶性ポリエステル樹脂〔a1〕の合成]
下記ビニル樹脂の単量体、非晶性ポリエステル樹脂とビニル樹脂のいずれとも反応する置換基を有する単量体及び重合開始剤の混合液を滴下ロートに入れた。
スチレン 80.0質量部
n-ブチルアクリレート 20.0質量部
アクリル酸 10.0質量部
ジ-t-ブチルパーオキサイド(重合開始剤) 16.0質量部
また、下記非晶性ポリエステル樹脂の単量体を、窒素導入管、脱水管、撹拌器及び熱電対を備えた四つ口フラスコに入れ、170℃に加熱し溶解させた。
ビスフェノールAエチレンオキサイド2モル付加物 50.2質量部
ビスフェノールAプロピレンオキサイド2モル付加物 249.8質量部
テレフタル酸 120.1質量部
ドデセニルコハク酸 46.0質量部
撹拌下で、滴下ロートに入れた混合液を四つ口フラスコへ90分かけて滴下し、60分間熟成を行った後、減圧下(8kPa)にて未反応の単量体を除去した。その後、エステル化触媒としてTi(OBu)4を0.4質量部投入し、235℃まで昇温して、常圧下(101.3kPa)にて5時間、さらに減圧下(8kPa)にて1時間、反応を行った。次いで200℃まで冷却し、減圧下(20kPa)にて反応を行った後、脱溶剤を行い、非晶性ポリエステル樹脂を得た。得られた非晶性ポリエステル樹脂〔a1〕の重量平均分子量(Mw)が24000、酸価が18.2mgKOH/gであった。
【0158】
〔非晶性ポリエステル樹脂粒子分散液〔A1〕の調製〕
得られた非結晶性ポリエステル樹脂〔a1〕108質量部をメチルエチルケトン64質量部に、70℃で30分撹拌し、溶解させた。
次に、この溶解液に、25質量%の水酸化ナトリウム水溶液3.4質量部を添加した。この溶解液を、撹拌機を有する反応容器に入れ、撹拌しながら、70℃に温めた水210質量部を70分間に亘って滴下混合した。滴下の途中で容器内の液は白濁化し、全量滴下後に均一に乳化状の状態を得た。この乳化液の油滴の粒径をレーザー回折式粒度分布測定器「LA-750(HORIBA製)」にて測定した結果、体積平均粒径は90nmであった。
次いで、この乳化液を70℃で保温したまま、ダイヤフラム式真空ポンプ「V-700」(BUCHI社製)を使用し、15kPa(150mbar)に減圧下で3時間撹拌することで、メチルエチルケトンを蒸留除去し、非結晶性ポリエステル樹脂〔a1〕の微粒子が分散された非結晶性ポリエステル樹脂粒子分散液〔A1〕を作製した。上記粒度分布測定器にて測定した結果、非結晶性ポリエステル樹脂粒子分散液〔A1〕中、非結晶性ポリエステル樹脂粒子の体積平均粒径は94nmであった。
【0159】
[結晶性ポリエステル樹脂〔c1〕の合成]
テトラデカン二酸 200質量部
1,6-ヘキサンジオール 102質量部
撹拌器、温度計、コンデンサー及び窒素ガス導入管を備えた反応容器に上記モノマーを入れ、反応容器中を乾燥窒素ガスで置換した。反応系の温度を1時間かけて190℃に上昇させ、反応系内が均一に撹拌されていることを確認した後、触媒としてTi(OBu)4を0.3質量部投入し、さらに、生成される水を留去しながら反応系の温度を190℃から6時間かけて240℃に上昇させ、さらに、240℃に維持した状態で6時間脱水縮合反応を継続して重合反応を行うことにより、結晶性ポリエステル樹脂〔c1〕を得た。結晶性ポリエステル樹脂〔c1〕は、重量平均分子量(Mw)が18000、酸価が20.1mgKOH/g、融点が78.0℃であった。
【0160】
[結晶性ポリエステル樹脂粒子分散液〔C1〕の調製]
結晶性ポリエステル樹脂〔c1〕 174.3質量部
上記をメチルエチルケトン102質量部に入れ、75℃で30分撹拌し、溶解させた。次に、この溶解液に、25質量%の水酸化ナトリウム水溶液3.1質量部を添加した。この溶解液を、撹拌機を有する反応容器に入れ、撹拌しながら、70℃に温めた水375質量部を70分間にわたって滴下混合した。滴下の途中で容器内の液は白濁化し、全量滴下後に均一に乳化状の状態を得た。
次いで、この乳化液を70℃で保温したまま、ダイヤフラム式真空ポンプ「V-700」(BUCHI社製)を使用し、15kPa(150mbar)に減圧下で3時間撹拌することで、メチルエチルケトンを蒸留除去した後、冷却速度6℃/minで冷却し、結晶性ポリエステル樹脂〔c1〕の微粒子が分散された結晶性ポリエステル樹脂粒子分散液〔C1〕を作製した。上記粒度分布測定器にて測定した結果、結晶性ポリエステル樹脂粒子分散液〔C1〕中、結晶性ポリエステル樹脂粒子の体積平均粒径は202nmであった。
【0161】
[着色剤粒子分散液〔P1〕の調製〕
ドデシル硫酸ナトリウム226.2質量部をイオン交換水1600質量部に添加した溶液を撹拌しながら、銅フタロシアニン(C.I.ピグメントブルー15:3)420質量部を徐々に添加した。撹拌装置クレアミックス(エム・テクニック社製、「クレアミックス」は同社の登録商標)を用いて分散処理することにより、着色剤粒子分散液〔P1〕を調製した。分散液中の着色剤粒子は、体積基準のメディアン径が110nmであった。
【0162】
[ビニル系樹脂粒子分散液〔S1〕の調製例]
(第1段重合)
撹拌装置、温度センサー、冷却管及び窒素導入装置を取り付けた5Lの反応容器に、ドデシル硫酸ナトリウム8質量部及びイオン交換水3000質量部を仕込み、窒素気流下230rpmの撹拌速度で撹拌しながら、内温を80℃に昇温させた。昇温後、過硫酸カリウム10質量部をイオン交換水200質量部に溶解させた溶液を添加し、再度液温を80℃として、下記単量体の混合液を1時間かけて滴下した。
スチレン 480.0質量部
n-ブチルアクリレート 250.0質量部
メタクリル酸 68.0質量部
上記混合液の滴下後、80℃にて2時間加熱、撹拌することにより単量体の重合を行い、ビニル系樹脂粒子分散液〔s1〕を調製した。
【0163】
(第2段重合)
撹拌装置、温度センサー、冷却管及び窒素導入装置を取り付けた5Lの反応容器に、イオン交換水1200質量部と前記第1段重合により調製したビニル系樹脂粒子分散液〔s1〕を固形分換算で55質量部を仕込み、87℃に加熱した。その後、下記単量体、連鎖移動剤及び離型剤を85℃にて溶解させた混合液を循環経路を有する機械式分散機CLEARMIX(エム・テクニック社製)により、10分間の混合分散処理を行い、乳化粒子(油滴)を含む分散液を調製した。この分散液を上記5Lの反応容器に追加し、過硫酸カリウム5.4質量部をイオン交換水103質量部に溶解させた重合開始剤の溶液を添加し、この系を87℃にて1時間にわたり加熱撹拌することにより重合を行って、ビニル系樹脂粒子分散液〔s1′〕を調製した。
スチレン(St) 256.5質量部
2-エチルヘキシルアクリレート(2-EHA) 95.3質量部
メタクリル酸(MAA) 38.2質量部
n-オクチル-3-メルカプトプロピオネート(連鎖移動剤)4.0質量部
離型剤1:ライスワックス 130.9質量部
【0164】
(第3段重合)
上記第2段重合により得られたビニル系樹脂粒子分散液〔s1′〕にさらに過硫酸カリウム8.3質量部をイオン交換水157.9質量部に溶解させた溶液を添加した。さらに、84℃の温度条件下で、下記単量体及び連鎖移動剤の混合液を90分かけて滴下した。
スチレン(St) 400.0質量部
n-ブチルアクリレート(BA) 140.0質量部
メタクリル酸(MAA) 40.0質量部
メタクリル酸メチル(MMA) 47.2質量部
n-オクチル-3-メルカプトプロピオネート 9.6質量部
滴下終了後、2時間にわたり加熱撹拌することにより重合を行った後、28℃まで冷却し、ビニル系樹脂粒子分散液〔S1〕を得た。
【0165】
[トナー〔1〕の製造]
撹拌装置、温度センサー及び冷却管を取り付けた反応容器に、468質量部(固形分換算)のビニル系樹脂粒子分散液〔S1〕及び1430質量部のイオン交換水を投入した。室温下(25℃)で、5モル/Lの水酸化ナトリウム水溶液を添加してpHを10に調整した。さらに、30質量部(固形分換算)の着色剤粒子分散液〔P1〕を投入し、140質量部の50質量%塩化マグネシウム水溶液を、撹拌下、30℃で10分間かけて添加した。得られた分散液を3分間静置した後、60分間かけて80℃まで昇温し、80℃に到達後、48質量部(固形分換算)の結晶性ポリエステル樹脂粒子分散液〔C1〕を20分かけて投入し、粒子径の成長速度が0.01μm/分となるように撹拌速度を調整して、コールターマルチサイザー3(ベックマン・コールター社製)により測定した体積基準のメディアン径が6.0μmになるまで成長させた。
次いで、非晶性ポリエステル樹脂分散液〔A1〕54質量部(固形分換算)を30分間かけて投入し、反応液の上澄みが透明になった時点で、塩化ナトリウム80質量部をイオン交換水300質量部に溶解させた水溶液を添加して、粒子径の成長を停止させた。
次いで、80℃の状態で撹拌し、トナー母体粒子の平均円形度が0.970になるまで粒子の融着を進行させ、その後0.5℃/分以上の降温速度で冷却し30℃以下まで液温を下げた。
次いで、固液分離を行い、脱水したトナーケーキをイオン交換水に再分散し、固液分離する操作を3回繰り返して洗浄した。洗浄後、35℃で24時間乾燥させることにより、トナー母体粒子を得た。
得られたトナー母体粒子100質量部に、疎水性シリカ粒子(個数平均一次粒径:12nm、疎水化度:68)0.6質量部、疎水性酸化チタン粒子(個数平均一次粒径:20nm、疎水化度:63)1.0質量部及びゾル・ゲルシリカ(数平均一次粒子径=110nm、)1.0質量部を添加し、ヘンシェルミキサー(日本コークス工業社製)により回転翼周速35mm/秒、32℃で20分間混合した。混合後、45μmの目開きのふるいを用いて粗大粒子を除去し、トナー〔1〕を得た。得られたトナー〔1〕のΔHc(70)/ΔHcとV/(Tcp-Tci)はDSCにて前述の方法で測定、算出し、下記表Vに示すとおりとなった。
【0166】
[現像剤〔1〕の製造]
トナー〔1〕と、アクリル樹脂を被覆した体積平均粒径32μmのフェライトキャリアとを、トナー粒子濃度が6質量%となるように添加して混合した。こうして、トナー〔1〕を含有する二成分現像剤である現像剤〔1〕を製造した。
【0167】
[ビニル系樹脂粒子分散液〔S2〕~〔S17〕の調製]
ビニル系樹脂粒子分散液〔S1〕の調製において、第2段重合における離型剤の種類と量を下記表IIに記載したとおりに変更した以外は同様にして、ビニル系樹脂粒子分散液〔S2〕~〔S17〕を得た。なお、表II中の各離型剤の種類と結晶化温度は下記表Iに示すものである。
【0168】
【0169】
【0170】
〔ビニル系樹脂粒子分散液〔S18〕の調製〕
(第2段重合)
撹拌装置、温度センサー、冷却管及び窒素導入装置を取り付けた5Lの反応容器に、イオン交換水1000質量部と上記第1段重合により調製したビニル系樹脂粒子分散液〔s1〕を固形分換算で55質量部を仕込み、87℃に加熱した。その後、下記単量体及び連鎖移動剤を80℃にて溶解させた混合液を循環経路を有する機械式分散機CLEARMIX(エム・テクニック社製)により、10分間の混合分散処理を行い、乳化粒子(油滴)を含む分散液を調製した。この分散液を上記5Lの反応容器に追加し、過硫酸カリウム6.2質量部をイオン交換水117.6質量部に溶解させた重合開始剤の溶液を添加し、この系を87℃にて1時間にわたり加熱撹拌することにより重合を行って、ビニル系樹脂粒子分散液〔s18′〕を調製した。
スチレン(St) 293.4質量部
2-エチルヘキシルアクリレート(2-EHA) 109.0質量部
メタクリル酸(MAA) 43.7質量部
n-オクチル-3-メルカプトプロピオネート(連鎖移動剤)4.5質量部
【0171】
(第3段重合)
上記第2段重合により得られたビニル系樹脂粒子分散液〔s18′〕にさらに過硫酸カリウム8.3質量部をイオン交換水157.9質量部に溶解させた溶液を添加した。さらに、84℃の温度条件下で、下記単量体及び連鎖移動剤の混合液を90分かけて滴下した。
スチレン(St) 460.0質量部
n-ブチルアクリレート(BA) 148.7質量部
メタクリル酸(MAA) 40.9質量部
メタクリル酸メチル(MMA) 58.0質量部
n-オクチル-3-メルカプトプロピオネート 9.7質量部
滴下終了後、2時間にわたり加熱撹拌することにより重合を行った後、28℃まで冷却し、ビニル系樹脂粒子分散液〔S18〕を得た。
【0172】
[着色剤粒子分散液[P2]~[P4]の調製]
前記着色剤粒子分散液[P1]の調製において、分散剤(ドデシル硫酸ナトリウム)の添加量及び着色剤(銅フタロシアニン)の添加量を下記表IIIに示すとおりに変更した以外は同様にして、着色剤粒子分散液[P2]~[P4]を調製した。
【0173】
【0174】
[トナー〔2〕~〔19〕、〔22〕の製造及び現像剤〔2〕~〔19〕、〔22〕の製造〕
トナー〔1〕の製造においてビニル系樹脂粒子分散液、非晶性ポリエステル樹脂粒子分散液、結晶性ポリエステル樹脂粒子分散液及び着色剤粒子分散液の種類と添加量をそれぞれ表IVに記載のものに変更したことの他は同様にして、トナー〔2〕~〔19〕及び〔22〕を得た。その際のΔHc(70)/ΔHcとV/(Tcp-Tci)はトナー〔1〕と同様にして算出し、それぞれ下記表Vに示す値であった。
また得られたトナー粒子に対して外添剤を添加し、トナー〔1〕と同様にして現像剤〔2〕~〔19〕及び〔22〕を得た。
【0175】
[離型剤粒子分散液〔W1〕の調製]
離型剤1(ライスワックス) 50質量部
アニオン性界面活性剤(第一工業製薬(株):ネオゲンRK) 5質量部
イオン交換水 200質量部
を110℃に加熱して、ホモジナイザー(IKA社製:ウルトラタラックスT50)を用いて分散した後、マントンゴーリン高圧ホモジナイザー(ゴーリン社)で分散処理し、平均粒径が0.21μmである離型剤を分散させてなる離型剤分散液W1(離型剤濃度:26質量%)を調製した。離型剤粒子分散液〔W1〕中の粒子の体積平均粒子径を、マイクロトラックUPA-150(日機装社製)にて測定したところ、215nmであった。
【0176】
[トナー〔20〕の製造]
結晶性樹脂粒子分散液〔C1〕 16.0質量部
非晶性樹脂粒子分散液〔A1〕 140質量部
着色剤粒子分散液〔P1〕 10.0質量部
離型剤粒子分散液〔W1〕 16.0質量部
アニオン性界面活性剤(Dowfax2A1 20%水溶液)4.1質量部
pHメーター、撹拌羽、温度計を具備した重合釜に、上記原料のうち、非晶性樹脂粒子分散液〔A1〕、結晶性樹脂粒子分散液〔C1〕、アニオン性界面活性剤及びイオン交換水250質量部を入れ、140rpmで15分間撹拌しながら、界面活性剤を非晶性樹脂粒子分散液〔A1〕と結晶性樹脂粒子分散液〔C1〕になじませた。これに着色剤粒子分散液〔P1〕及び離型剤粒子分散液〔W1〕を加え混合した後、この原料混合物に0.3Mの硝酸水溶液を加えて、pHを4.8に調製した。
次いで、Ultraturraxにより4000rpmでせん断力を加えながら、凝集剤として硫酸アルミニウムの10%硝酸水溶液22質量部滴下する。この凝集剤滴下の途中で、原料混合物の粘度が急激に増大するので、粘度上昇した時点で、滴下速度を緩め、凝集剤が一箇所に偏らないようする。凝集剤の滴下が終了したら、さらに回転数5000rpmに上げて5分間撹拌し、凝集剤と原料混合物を充分混合する。
その後、反応容器に撹拌器及びマントルヒーターを設置し、スラリーが充分に撹拌されるように撹拌器の回転数を調整しながら、温度40℃までは0.2℃/分の昇温速度、40℃を超えてからは0.05℃/分の昇温速度で昇温し、10分ごとにコールターマルチサイザー3(アパーチャー径100μm、ベックマン・コールター社製)にて粒径を測定した。体積平均粒子径が5.2μmになったところで温度を保持し、あらかじめ混合しpH3.8に調製しておいた。
ビニル系樹脂粒子分散液〔S18〕 18質量部
イオン交換水 22質量部
アニオン性界面活性剤(Dowfax2A1 20%水溶液)0.8質量部
の混合液を20分間かけて投入した。
次いで、50℃に30分間保持した後、反応容器に、EDTA(エチレンジアミン四酢酸)20%液を0.8部添加した後、1mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液を加え、原料分散液のpHを7.5に制御した。その後、5℃ごとにpHを7.5に調整しながら、昇温速度1℃/分で85℃まで昇温し、85℃で保持した。「FPIA-3000」を用い円形度が0.970になるまで粒子の融着を進行させ、その後0.5℃/分以上の降温速度で冷却し30℃以下まで液温を下げた。
次いで、固液分離を行い、脱水したトナーケーキをイオン交換水に再分散し、固液分離する操作を3回繰り返して洗浄した。洗浄後、35℃で24時間乾燥させることにより、トナー粒子を得た。得られたトナー粒子100質量部に、疎水性シリカ粒子(個数平均一次粒径:12nm、疎水化度:68)0.6質量部、疎水性酸化チタン粒子(個数平均一次粒径:20nm、疎水化度:63)1.0質量部及びゾル・ゲルシリカ(数平均一次粒子径=110nm、)1.0質量部を添加し、ヘンシェルミキサー(日本コークス工業社製)により回転翼周速35mm/秒、32℃で20分間混合した。混合後、45μmの目開きのふるいを用いて粗大粒子を除去し、トナー〔20〕を得た。得られたトナー〔20〕のΔHc(70)/ΔHcとV/(Tcp-Tci)はトナー〔1〕と同様にして算出し、それぞれ表Vに示す値であった。
トナー〔20〕のトナー粒子と、アクリル樹脂を被覆した体積平均粒径32μmのフェライトキャリアとを、トナー粒子濃度が6質量%となるように添加して混合した。こうして、トナー〔20〕を含有する二成分現像剤である現像剤〔20〕を製造した。
【0177】
[トナー〔21〕の製造及び現像剤〔21〕の製造]
トナー〔20〕の製造において、ビニル系樹脂粒子分散液、非晶性ポリエステル樹脂粒子分散液の量をそれぞれ表IVに記載のものに変更したことの他は同様にして、トナー〔21〕を得た。その際のΔHc(70)/ΔHcとV/(Tcp-Tci)はトナー〔1〕と同様にして算出し、それぞれ表Vに示す値であった。
また得られたトナー粒子に対し、トナー〔1〕と同様にして現像剤〔21〕を得た。
【0178】
【0179】
【0180】
[評価]
<低温定着性>
複合機「bizhub PRESS(登録商標) C1070」(コニカミノルタ社製)の定着装置を、定着上ベルト及び定着下ローラーの表面温度を変更可能に改造したものを用い、二成分現像剤を順次装填した。上記装置について、定着温度、トナー付着量、システム速度を自由に設定できるように改造した。
常温常湿(温度20℃、湿度50%RH)の環境下において、A4サイズの上質紙「NPI上質(127.9g/m2)」(日本製紙社製)上で付着量を11.3g/m2となるように設定した。その後、100mm×100mmサイズの画像を定着させる定着実験を、設定される定着温度を110℃から2℃刻みで上げるように変更しながら180℃まで繰り返し行った。定着オフセットによる画像汚れが目視で確認されない最低の定着温度を最低定着温度(U.O.回避温度)とした。以下の基準で評価した。
(基準)
◎:最低定着温度が135℃未満(低温定着性に優れる優良なトナー)
○:最低定着温度が135℃以上140℃未満(実用上問題がないレベル)
×:最低定着温度が140℃以上(目標とする通紙速度では十分定着しておらず、実用上問題があるレベル)
【0181】
<定着分離性>
複合機「bizhub PRESS(登録商標) C1070」(コニカミノルタ社製)の定着装置を、定着上ベルト及び定着下ローラーの表面温度を変更可能に改造したものを用い、二成分現像剤を順次装填した。上記装置について、定着温度、トナー付着量、システム速度を自由に設定できるように改造した。評価紙としてA4サイズの塗工紙「OKトップコート+(85.0g/m2)」(王子製紙社製)を用いた。アンダーオフセットが発生しない温度(U.O.回避温度)を基準として25℃上昇させた温度(U.O.回避温度+25℃)を定着上ベルトの温度とし、定着下ローラーを90℃に設定し、それぞれの全ベタ画像(付着量8.0g/m2)について先端余白量を変化させて画出し、紙詰まり(ジャム)が発生した直前の先端余白量を薄紙分離性能の尺度とした。分離可能な先端余白量の値が小さい方が、分離性能が良い。なお、評価は、常温常湿環境(NN環境:25℃、50%RH)で実施した。また、分離可能な先端余白は、小さければ小さいほど、薄紙分離性に優れることを意味しており、当該先端余白が10mm未満であるとき、合格と判定した。
(基準)
◎:分離可能な先端余白が2mm未満
○:分離可能な先端余白が2mm以上、5mm未満
△:分離可能な先端余白が5mm以上、10mm未満
×:分離可能な先端余白が10mm以上
【0182】
<部材への離型剤付着>
複合機「bizhub PRESS(登録商標) C1070」(コニカミノルタ社製)の定着装置を、定着上ベルトの表面温度を140~220℃の範囲で、定着下ローラーの表面温度を120~200℃の範囲で変更することができるように改造した。この改造機に各現像剤を順次装填して、常温常湿(温度20℃、湿度50%RH)環境下において、A4(坪量157g/m2)グロスコート紙に、トナー付着量が8.0g/m2のベタ画像を形成し、定着処理した。定着処理時の定着速度は460mm/sec、定着温度(定着上ベルトの表面温度)はアンダーオフセット温度+35℃とした。
100枚プリント後の搬送ローラーへのワックス付着状態を、目視により下記のように10段階でランク評価し、ランク7以上(◎及び○)を合格とした。
(基準)
◎:ランク10~9:ワックス付着が全く確認されない
○:ランク8~7:ワックス付着が若干確認されるが、品質には問題ないレベル
×:ランク6~1:ワックス付着が確認され、実用できないレベル
【0183】
【0184】
上記結果に示されるように、本発明のトナーは、比較例のトナーに比べて、良好な低温定着性と定着分離性が得られ、かつ、部材への離型剤付着の抑制を両立することができることが分かった。