(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-18
(45)【発行日】2023-12-26
(54)【発明の名称】精錬用取鍋
(51)【国際特許分類】
B22D 41/00 20060101AFI20231219BHJP
C21C 7/00 20060101ALI20231219BHJP
【FI】
B22D41/00 Z
C21C7/00 P
(21)【出願番号】P 2019193092
(22)【出願日】2019-10-24
【審査請求日】2022-08-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000003713
【氏名又は名称】大同特殊鋼株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098615
【氏名又は名称】鈴木 学
(74)【代理人】
【識別番号】100165489
【氏名又は名称】榊原 靖
(72)【発明者】
【氏名】間内 良太
【審査官】岡田 隆介
(56)【参考文献】
【文献】特開昭51-039502(JP,A)
【文献】特開2000-319715(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22D 41/00
C21C 5/28
C21C 5/34
C21C 5/46
C21C 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒形状の外周面および円形状の底面を覆う鉄皮と、該鉄皮の内側に配設した耐火材とからなる取鍋本体を有し、内側に貯留した溶鋼を精錬しつつ搬送する精錬用取鍋であって、
上記外周面の鉄皮とその内側に配設した耐火材との上端面に沿って、平面視が円環形状である鋳鉄製の天板を配置して
おり、
上記天板は、上記外周面の鉄皮の内側面に水平状に溶着されたフランジにボルト・ナットにより固定されている、
ことを特徴とする精錬用取鍋。
【請求項2】
前記天板は、平面視での円周方向に沿って複数の天板部に分割されている、
ことを特徴とする請求項1に記載の精錬用取鍋。
【請求項3】
前記天板を構成する鋳鉄は、ねずみ鋳鉄である、
ことを特徴とする請求項1または2に記載の精錬用取鍋。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内側に収容した溶鋼を精錬しつつ搬送する精錬用取鍋に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、転炉のような溶融金属容器の上端面に沿って複数の可動破砕部材を、複数の油圧シリンダによって個別に昇降可能に取り付け、前記可動破砕部材の上面に、あるいは隣接する可動破砕部材同士の上面に跨がって、出鋼時などに溶融金属からのスプラッシュが付着して形成される地金を除去し易くしてなる溶融金属容器の開口部の地金除去装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
しかし、前記溶融金属容器の開口部の地金除去装置では、垂直な案内扞により位置決めされた複数の前記可動破砕部材と、溶融金属容器の上端面との間に、複数の油圧シリンダと、これらの周囲ごとに水冷ジャケットとを配置し、これらごとに連通する一対ずつの油送配管と一対ずつの水冷配管とが必要となる。そのため、前記容器における開口部付近の構造が複雑となり、且つ操作が煩雑になると共に、設備コストおよび保守コストが嵩む、という問題点があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開昭60-2618号公報(第1~4頁、第1~5図)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、背景技術で説明した問題点を解決し、構造が簡素で且つ取鍋本体の上端面に付着した地金を除去するなどの保守作業が容易であると共に、設備コストと保守管理コストとを低減できる精錬用取鍋を提供する、ことを課題とする。
【課題を解決するための手段および発明の効果】
【0006】
本発明は、前記課題を解決するため、取鍋本体の上端面に沿って溶鋼からのスプラッシュが付着して形成される地金と、熱膨張率が相違し且つ該地金との接合部を脆性化し得る鋳鉄製の天板を配置する、ことに着想して成されたものである。
即ち、本発明の精錬用取鍋(請求項1)は、円筒形状の外周面および円形状の底面を覆う鉄皮と、該鉄皮の内側に配設した耐火材とからなる取鍋本体を有し、内側に貯留した溶鋼を精錬しつつ搬送する精錬用取鍋であって、上記外周面の鉄皮とその内側に配設した耐火材との上端面に沿って、平面視が円環形状である鋳鉄製の天板を配置しており、上記天板は、上記外周面の鉄皮の内側面に水平状に溶着されたフランジにボルト・ナットにより固定されている、ことを特徴とする。
【0007】
前記精錬用取鍋によれば、以下の効果(1)~(3)が得られる。
(1)精錬中または出鋼時において、貯留した溶鋼からスプラッシュ(溶滴)が前記取鍋本体の上方に向かって飛散するが、該スプラッシュは、前記天板の上面に落下した際に、形成される地金の底面側がCを2%以上含む鋳鉄との間での拡散によって白銑化層となる。同時に、該白銑化層と天板の鋳鉄との熱膨張率の差により、前記地金は、天板の上面に密着することなく、比較的少ない外力で取鍋本体の外部に容易に除去できる。従って、取鍋本体の上端面の天板上に付着した地金を除去する保守作業を容易に且つ最少限化できると共に、後工程を含む製鋼プロセス中におけるタイムロスを可及的に低減することが可能となる。
(2)前記外周面の鉄皮とその内側に配設した耐火材との上端面に沿って、平面視が円環形(リング)状である鋳鉄製の天板を配置するという簡素な構造であるため、設備コストや保守管理コストを大幅に低減できる。
(3)前記天板が、前記外周面の鉄皮の内側面に水平状に溶着されたフランジにボルト・ナットにより固定されているので、該天板を容易に取り替えられ、特に、複数の天板部に分割した形態では、一層容易に取り替えられる。従って、前記効果(1)をより確実に得ることができる。
【0008】
尚、前記精錬用取鍋は、予め溶解炉で精錬された溶鋼を内側に注湯・貯留して、次工程に搬送するに際し、炉底中央部からArガスを吹き込んで攪拌すると共に、上端の開口部を覆う取鍋蓋を垂直に貫通する複数の電極によって、上記溶鋼を更に精錬するものである。
また、前記鉄皮は、厚さが数cmの構造用鋼(例えば、SC鋼種)からなる。
更に、前記耐火材は、前記鉄皮の内側に断熱材を介して順次配設したパーマネントレンガおよびワークレンガと、該ワークレンガの上面に沿って配設した天端レンガと、を含む。該天端レンガおよび上記パーマネントレンガの上端面と、前記フランジとの間には、不定形耐火物からなるキャスターが充填されている。
また、上記パーマネントレンガの上端面は、前記鉄皮の内側面に対して直角(水平)に溶着された中抑え板によって位置決めされている。
前記キャスターの内部には、前記鉄皮の内側面に対して斜め上方向き溶着された天端抑え板が進入している。
加えて、鋳鉄製の前記天板(天端プレート)は、精錬した溶鋼を出鋼するための出鋼口を除いた本取鍋の上端面の全周面に配置される。
【0009】
また、本発明には、前記天板は、平面視での円周方向に沿って複数の天板部に分割されている、精錬用取鍋(請求項2)も含まれる。
これによれば、例えば、出鋼時にスプラッシュを受け易い出鋼口の両側付近や、スプラッシュによる地金が過度に表面に付着した位置の天板部のみを取り替える作業ことにより、前記地金の除去が容易に行え且つ該天板の捕集が容易にできるため、前記効果(1)を確実に得ることができる。
尚、上記天板の分割形態は、平面視の円環形状に沿ってほぼ等間隔に区分した形態、あるいは、上記出鋼口の両側を挟む一対の天板部における円周方向の長さを他の天板部における円周方向の長さよりも短くした形態が例示される。
【0011】
加えて、本発明には、前記天板を構成する鋳鉄は、ねずみ鋳鉄である、精錬用取鍋(請求項3)も含まれる。
これによれば、前記天板をC含有量が2%以上のねずみ鋳鉄で構成していることにより、該天板の上面に付着したスプラッシュから形成される地金の底面に沿って、白銑化層が容易に生成されると共に、前記天板あるいは複数の天板部を低コストで製造できるため、前記効果(1)を奏することは基より、前記効果(2)をも確実に得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】(A)は、本発明による一形態の精錬用取鍋を示す平面図、(B)は、(A)中のB-B線の矢視に沿った垂直断面図。
【
図2】
図1(B)中の一点鎖線部分Xの部分拡大図。
【
図3】(A)、(B)は、溶鋼からのスプラッシュが天板の上面に付着して形成された地金の挙動を示す概略図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下において、本発明を実施するための形態について説明する。
図1(A)は、本発明による一形態の精錬用取鍋1を示す平面図、
図1(B)は、(A)中のB-B線の矢視に沿った垂直断面図である。
上記精錬用取鍋1は、
図1(A)、(B)に示すように、円筒形状の外周面および円形状の底面を覆う鉄皮3、および該鉄皮3の内側に沿って配設した耐火材4からなり、全体が円筒形状の取鍋本体2と、該取鍋本体2の上端部における一部から外側に突出した出鋼口10と、該出鋼口10を除いた前記外周面の鉄皮3および耐火材4の上端面15に沿って配置された平面視が円環形(リング)状である鋳鉄製の天板16と、を備えている。
【0014】
前記天板16は、平面視で前記上端面15の円周方向に沿って、例えば、7つ(複数)の天板部16a~16gにほぼ等間隔に分割されている。尚、該天板部16a~16gは、厚さが数cmのねずみ鋳鉄から構成されている。
また、前記取鍋本体2の底面側には、該底面中央の鉄皮3と内側底面の耐火材4との間を垂直に貫通するガス吹込管11が配設されている。該ガス吹込管11からは、取鍋本体2の内側に貯留した溶鋼Mを攪拌するためのArなどの不活性ガスが吹き込まれる。尚、前記天板16および出鋼口10の上側には、図示しない取鍋蓋が載置され、かかる取鍋蓋を垂直方向に沿って貫通し、且つ下端を前記溶鋼Mの液面の直上に位置させた図示しない3本の電極が配置され、本取鍋1の搬送中または待機中において、前記溶鋼Mを所望の金属または合金組成に精錬する。
【0015】
更に、前記耐火材4は、前記
図1(B)中の一点鎖線部分Xを拡大した
図2に例示するように、外周面の鉄皮3の内周面に配置した耐熱性の無機(例えば、セラミック)シート層5と、その内側に沿って内外2列で配設したパーマネントレンガ6と、その内側に沿って1列で配設したワークレンガ7とを備えている。尚、前記レンガ6,7は、例えば、MgOのような耐火物を主成分としている。
前記シート層5と内外2列のパーマネントレンガ6と上端面には、鉄皮3の内周面に外端側を溶接wされた鋼製の中抑え板12が水平姿勢で配置されている。該中抑え板12の内端側と前記ワークレンガ7の上面とには、側面視が変形した台形状の天端レンガ8が配置されている。尚、該天端レンガ8と前記レンガ6,7とは、取鍋本体2の内周面に沿って複数個が連設されている。
【0016】
また、
図2に示すように、前記鉄皮3の内周面において、前記中抑え板12の上側に隣接して外端側が溶接wされ、且つ内端側が斜め上方に延びた鋼製の天端抑え板13が傾斜して配置されている。更に、前記鉄皮3の内周面における上端側には、鋼製のフランジ14が溶接wにより水平姿勢で固定されている。
尚、前記中抑え板12、天端抑え板13、およびフランジ14は、厚さが数cmのSC鋼種からなり、少なくとも、前記出鋼口10を除いた前記鉄皮3の内周面の全周に沿って連設されている。
前記天端レンガ8と中抑え板12と鉄皮3とフランジ14とに囲まれた空間内には、前記天端抑え板13を埋設する不定形耐火物のキャスター9が充填されている。該キャスター9は、前記耐火材4の一部を構成し、その上端面15は、前記フランジ14の上面とほぼ面一である。
【0017】
加えて、前記フランジ14の上面の円周方向に沿って、前記天板16を構成する複数の天板部16a~16gがボルト・ナット17,18を介して、個別に固定されている。即ち、
図2で例示するように、前記フランジ14の前記鉄皮3側およびこれと反対の内(先)端側の位置ごとを垂直に貫通する内外2つのボルト17を、該ボルト17ごとのボルト頭をフランジ14の下面に溶接wして固定している。前記各ボルト17の雄ネジ部の上端側を、前記天板16を構成する天板部16dの上面側に開口する内外2つの凹部19内に個別に進入させ、かかる状態で各ボルト17の雄ネジ部に座金を介してナット18をネジ結合している。前記凹部19は、全体が円柱形または多角柱形である。
尚、前記内外2組のボルト・ナット17,18は、前記天板16を構成する複数の天板部16a~16gごとにおいて、それぞれの円周方向に沿って複数の箇所ごとで、前記フランジ14へのネジ止めに用いられている。
【0018】
前述した構成からなる前記精錬用取鍋1の作用について、以下に説明する。
予め、図示しない溶解炉から注湯された所定量の溶鋼Mを、前記
図1(B)で示したように、内側に貯留した精錬用取鍋1は、その取鍋本体2の開口部を取鍋蓋で覆われ、該取鍋蓋を垂直に貫通する3本の電極(何れも図示せず)と前記溶鋼Mとの間に生じるアークによって、該溶鋼Mを精錬している。この際、前記ガス吹込管11からArガスが溶鋼M内に吹き込まれ、該溶鋼Mを攪拌している。かかる状態で、天井クレーンまたは搬送台車(何れも図示せず)によって、前記精錬用取鍋1は、次の製鋼工程、例えば、鋳造工程に搬送される。この搬送中ないし次工程で待機中の精錬時において、前記溶鋼Mの液面からスプラッシュ(溶滴)M1が上方に向かって飛散する。
【0019】
更に、前記精錬用取鍋1の取鍋本体2を外側に傾け、前記出鋼口10から鋳造工程の鋳型(図示せず)内へ注湯する際にも、前記スプラッシュM1が飛散するが、特に前記出鋼口10付近の上方で顕著に飛散する。該スプラッシュM1の一部は、前記天板16を構成する天板部16a~16gの上面に落下して付着する。
図3(A)に示すように、天板16を構成する何れかの16a~16gの上面に飛散したスプラッシュM1は、該天板16の上面に付着した際に、該天板16を構成するねずみ鋳鉄からC(炭素)の拡散を受ける。その結果、
図3(B)に示すように、前記スプラッシュM1が凝固して形成された地金M2には、その底面側に沿って、Cを多量に含み且つ比較的脆弱な白銑鉄層wsが生成される。
【0020】
しかも、前記地金M2を構成する鋼と、前記天板16を構成するねずみ鋳鉄との熱膨張率が相違するため、上記地金M2の底面側に位置する白銑鉄層ws付近と、上記天板16の上面との間で、これらの面方向に沿った剪断応力が誘発され易くなっている。即ち、上記地金M2は、上記天板16には密着していない。
そのため、前記注湯作業を終えた前記精錬用取鍋1の取鍋本体2を、垂直姿勢も復帰した状態で、前記天板16を構成する天板部16a~16gの上面の何れかに付着している前記地金M2を、例えば、鉄製の棒材などの治具でほぼ横方向に沿って軽く押圧するか、あるいは、上方から軽く殴打する。これらの比較的簡単で且つ少ない労力の作業によって、前記地金M2を前記天板16の上面から容易且つ迅速に剥離することが可能となる。
【0021】
更に、前記天板16を構成する天板部16a~16gの何れかが、その上面の性状の劣化や熱的な変形を過度に受けた場合には、前記ナット18をボルト17から取り外した後、新たな天板部16xをネジ止めすることにより、該天板部16xの取り替え作業も、容易に且つ短時間にて行うことが可能である。
従って、前記取鍋本体2の上端面15に沿って前記天板16を配置した前記精錬用取鍋1によれば、前記地金M2を容易ら且つ短時間で除去することができるので、前記効果(1)を奏し得ることが容易に理解される。
しかも、前記外周面の鉄皮3とその内側に配設した耐火材4との上端面に沿って、平面視がな円環形状である鋳鉄製の天板16を配置するという簡素な構造であるため、設備コストや保守管理に要するコストを大幅に低減できるので、前記効果(2)を確実に得ることも可能である。
【0022】
本発明は、前記した形態の取鍋精錬炉1に限定されるものではない。
例えば、前記天板16を構成する鋳鉄は、パーライト鋳鉄、まだら鋳鉄、あるいは、白鋳鉄としても良い。
また、前記天板16を複数の天板部に分割する場合、前記出鋼口10の両側に隣接して配置する一対の天板部の円周方向の長さを、これらの位置以外に配置される複数の他の天板部ごとにおける円周方向の長さよりも短くした形態としても良い。
更に、前記出鋼口10の両側に隣接して配置する一対の天板部の厚みを、これらの位置以外に配置される他の複数の天板部の厚みよりも厚くした形態としても良い。
【0023】
また、前記天板16は、前記取鍋本体2の内容積が比較的小さい場合、平面視がほぼC字形状の単一材としたり、あるいは、円周方向で2個~6個程度の天板部に等しく、または任意の長さごとに分割した形態としても良い。
更に、前記天板16または複数の天板部16a~16nを前記フランジ14にネジ止めする場合、前記ボルト・ナット17,18を平面視の円周方向に沿って1列または3列以上とすると共に、後者の場合には、格子状または千鳥状の位置パターンに配置する形態としても良い。
加えて、前記天板16または複数の天板部16a~16nの上面を、前記取鍋本体2の外周面の鉄皮3側に向かって数度~5度程度下がるように傾斜した形態としても良い。
【産業上の利用可能性】
【0024】
本発明によれば、構造が簡素で且つ取鍋本体の開口部の上端面に付着した地金を除去するなどの保守作業が容易になると共に、設備コストおよび保守管理コストも大幅に低減できる精錬用取鍋を確実に提供できる。
【符号の説明】
【0025】
1…………………精錬用取鍋
2…………………取鍋本体
3…………………鉄皮
4…………………耐火材
15………………上端面
16………………天板
16a~16g…天板部
17,18………ボルト・ナット