IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 三菱自動車工業株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-変速制御装置 図1
  • 特許-変速制御装置 図2
  • 特許-変速制御装置 図3
  • 特許-変速制御装置 図4
  • 特許-変速制御装置 図5
  • 特許-変速制御装置 図6
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-18
(45)【発行日】2023-12-26
(54)【発明の名称】変速制御装置
(51)【国際特許分類】
   B60L 15/20 20060101AFI20231219BHJP
   B60K 6/46 20071001ALI20231219BHJP
   B60K 6/52 20071001ALI20231219BHJP
   B60K 6/547 20071001ALI20231219BHJP
   B60W 20/30 20160101ALI20231219BHJP
   B60W 10/10 20120101ALI20231219BHJP
【FI】
B60L15/20 S
B60K6/46 ZHV
B60K6/52
B60K6/547
B60W20/30
B60L15/20 K
B60W10/10 900
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019210486
(22)【出願日】2019-11-21
(65)【公開番号】P2021083251
(43)【公開日】2021-05-27
【審査請求日】2022-10-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000006286
【氏名又は名称】三菱自動車工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100130513
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 直也
(74)【代理人】
【識別番号】100074206
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 文二
(74)【代理人】
【識別番号】100130177
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 弥一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100167380
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100187827
【弁理士】
【氏名又は名称】赤塚 雅則
(72)【発明者】
【氏名】弓削 勝忠
【審査官】井古田 裕昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-034727(JP,A)
【文献】特開2016-179780(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60L 15/20
B60K 6/46
B60K 6/52
B60K 6/547
B60W 20/30
B60W 10/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の前後の駆動輪のうち前後一方の駆動輪を駆動する第一モータと、
前記前後の駆動輪のうち前後他方の駆動輪を駆動する第二モータと、
前記第二モータの出力軸から前記前後他方の駆動輪に伝達される回転の回転数を変速する複数段のギアを有する変速機と、
前記変速機をドライバの手動によって、その変速動作を自動的に行う自動変速モード、低速ギアに制限する低速ギアモード、及び、高速ギアに制限する高速ギアモードに切り替える切り替え手段と、
を備え
車速を検出する車速センサと、
車速に基づいてギアの切り替え制御を行う制御部と、
を備え、
前記制御部は、前記切り替え手段にて低速ギアモードを選択しているとき、低速ギアと高速ギアの切り替え速度を前記自動変速モードにおける切り替え速度より高い第1車速に設定し、
前記切り替え手段にて高速ギアモードを選択しているとき、低速ギアと高速ギアの切り替え速度を前記自動変速モードにおける切り替え速度より低い第2車速に設定する
変速制御装置。
【請求項2】
前記制御部は、車速が前記第1車速を超えた状態で、前記切り替え手段にて低速ギアモードが選択された場合、車速を該第1車速まで低下させて低速ギアに切り替えるための車速低下手段を備える
請求項に記載の変速制御装置。
【請求項3】
ドライバによるアクセルペダルの踏み込み量を検出するアクセルペダルセンサをさらに備え、
前記制御部は、車速が前記第1車速よりも低く、前記踏み込み量が予め定めた加速判定閾値よりも大きいときに前記切り替え手段にて低速ギアモードが選択された場合、ドライバに対し所定の警告を行った上で、前記制御部の高速ギアから低速ギアへの切り替えを所定時間保留する制御を行う
請求項またはに記載の変速制御装置。
【請求項4】
前記切り替え手段は、さらにギアをニュートラル状態として前記前後一方の駆動輪のみで駆動する二輪駆動モードを備える
請求項1~のいずれか1項に記載の変速制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、車両の変速制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ハイブリッド車や電気自動車のようにモータの駆動力によって走行する車両においては、例えば下記特許文献1に示すように、その前輪と後輪にそれぞれ駆動用のモータ(特許文献1の図1中のフロントモータ18、リアモータ20参照)を併設して四輪駆動式としたものがある。そして、ドライバのアクセルペダルの踏み込み量に基づく要求トルク(要求駆動力)に対応して、各モータへの駆動力の分配を制御している。
【0003】
このモータには、例えば特許文献2に示す変速機が併設されることがある。この変速機は、低車速域のときに適用される低速ギアと、高車速域のときに適用される高速ギアとから構成される多段式のギアを備えている(特許文献2の図2中の高速ギア機構30、低速ギア機構40参照)。
【0004】
この変速機の車速に対するトルク特性(ドライブシャフト周りの軸トルク)の一例を図2(b)に示す。この変速機のギアを低速ギアに切り替えることによって、車速が比較的低速で大きなトルクを必要とする走行状態(例えば、登坂時や低速からの全開加速時等)に対応することができる一方で、高速ギアに切り替えることによって、それほど大きなトルクを必要としない広い車速域(例えば、街中や高速道路での通常走行時等)に対応することができる。
【0005】
この変速機は、前輪及び後輪の両方に設けることもできるが、車両の重量増加が問題となることがある。このため、例えば、前輪を図2(a)に示すトルク特性を有するドライブシャフト直結式のフロントモータで駆動し、後輪を図2(b)に示すトルク特性を有する変速機が併設されたリアモータで駆動する構成とすることが多い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2012-101771号公報
【文献】特開2001-4016号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
変速機のギアは、車速やドライバによる要求駆動力などに基づいて自動的に変速されるが、自動変速による変速タイミングが、ドライバの加速要求等に常に一致しているとは限らず、その場合、ドライバが加速不足等の違和感を持つ場合がある。
【0008】
そこで、この発明は、前後の駆動輪にそれぞれ駆動用のモータを設けるとともに、その少なくとも一方に変速機を併設した車両に用いられる変速制御装置において、ドライバの加速要求等に対応してギアの変速を行い得るようにすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するために、この発明においては、車両の前後の駆動輪のうち前後一方の駆動輪を駆動する第一モータと、前記前後の駆動輪のうち前後他方の駆動輪を駆動する第二モータと、前記第二モータの出力軸から前記前後他方の駆動輪に伝達される回転の回転数を変速する複数段のギアを有する変速機と、前記変速機をドライバの手動によって、その変速動作を自動的に行う自動変速モード、低速ギアに制限する低速ギアモード、及び、高速ギアに制限する高速ギアモードに切り替える切り替え手段と、を備える変速制御装置を構成した。
【0010】
前記構成においては、車速を検出する車速センサと、車速に基づいてギアの切り替え制御を行う制御部と、を備え、前記制御部は、前記切り替え手段にて低速ギアモードを選択しているとき、低速ギアと高速ギアの切り替え速度を前記自動変速モードにおける切り替え速度より高い第1車速に設定し、前記切り替え手段にて高速ギアモードを選択しているとき、低速ギアと高速ギアの切り替え速度を前記自動変速モードにおける切り替え速度より低い第2車速に設定する構成とすることができる。
【0011】
前記制御部を備えた構成においては、前記制御部は、車速が前記第1車速を超えた状態で、前記切り替え手段にて低速ギアモードが選択された場合、車速を該第1車速まで低下させて低速ギアに切り替えるための車速低下手段を備える構成とすることができる。
【0012】
前記各構成においては、ドライバによるアクセルペダルの踏み込み量を検出するアクセルペダルセンサをさらに備え、前記制御部は、車速が前記第1車速よりも低く、前記踏み込み量が予め定めた加速判定閾値よりも大きいときに前記切り替え手段にて低速ギアモードが選択された場合、ドライバに対し所定の警告を行った上で、前記制御部の高速ギアから低速ギアへの切り替えを所定時間保留する制御を行う構成とすることができる。
【0013】
前記各構成においては、前記切り替え手段は、さらにギアをニュートラル状態として前記前後一方の駆動輪のみで駆動する二輪駆動モードを備える構成とすることができる。
【発明の効果】
【0014】
この発明では、変速制御装置において、ドライバの操作によって自動変速モード、低速ギアモード、及び、高速ギアモードを切り替え可能としたので、ドライバの加速要求等を満足して操作性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】この発明に係る変速制御装置が搭載された車両の一例(四輪駆動式のシリーズ式ハイブリッド車)を示す模式図である。
図2】(a)はフロントモータのトルク特性を、(b)はリアモータのトルク特性をそれぞれ示す図である。
図3】車速に対する各モードでのギアの切り替え状態を示す図である。
図4】低速ギアモード、高速ギアモード、又は、二輪駆動モードとしたときのトルクマップを示す図である。
図5】変速制御装置の制御フローの第一例を示すフローチャートである。
図6】変速制御装置の制御フローの第二例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
この発明に係る変速制御装置が搭載された車両10の一例を図1に示す。この車両10は、前輪11及び後輪12の両方の駆動輪11、12をモータによって駆動する四輪駆動式のシリーズ式ハイブリッド車であり、変速制御装置は、前輪11を駆動する第一モータ13(以下、フロントモータ13という。)、後輪12を駆動する第二モータ14(以下、リアモータ14という。)、リアモータ14の出力軸から後輪12に伝達される回転の回転数を変速する複数段のギアを有する変速機15、車速を検出する車速センサ16、変速機15をドライバの手動によって、その変速動作を自動的に行う自動変速モード、低速ギアに制限する低速ギアモード、高速ギアに制限する高速ギアモード、及び、そのギアをニュートラル状態として前輪11のみで走行する二輪駆動モードの間でいずれかのモードに切り替える切り替え手段17と、変速機15の切り替え制御を行う制御部18と、を備えている。
【0017】
また、この変速制御装置は、ドライバによるアクセルペダル19の踏み込み量(アクセルペダルストローク)を検出するアクセルペダルセンサ20、エンジン21、及び、ジェネレータ22を備えている。ジェネレータ22は、エンジン21の回転力によって発電を行い、その電力によって直接、又は、一旦バッテリ23に蓄えられた電力によって、フロントモータ13及びリアモータ14が駆動される。
【0018】
フロントモータ13は、前輪11のドライブシャフトに変速機を介さずに直結されている。図2(a)に示すように、フロントモータ13は、低速で最大トルクFmaxを発生し、車速が上がるにつれてそのトルク(ドライブシャフトの軸トルク)が減少するトルク特性を有している。
【0019】
リアモータ14は、後輪12のドライブシャフトに変速機15を介して設けられている。この変速機15は、高速ギアと低速ギアとを有する2段変速機である。図2(b)に示すように、高速ギアは、街中や高速道路での通常走行時のように、それほど大きなトルクを必要としない低速から高速までの広い車速域に対応している。リアモータ14は、高速ギアとしたときに、低速で最大トルクRHmaxを発生し、車速が上がるにつれてそのトルクが減少するトルク特性を有している。
【0020】
低速ギアは、登坂時のように、車速が比較的低速で大きなトルクを必要とする走行状態に対応している。この低速ギアは、低速で最大トルクRLmaxを発生し、車速が上がるにつれてそのトルクが減少するトルク特性を有している。中間車速域では、高速ギアと低速ギアのトルクはほぼ一致している。
【0021】
フロントモータ13の最大トルクFmaxは、高速ギアから低速ギアへの変速の際に、一時的にフロントモータ13のみでリアモータ14に割り振られた要求トルクを負担できるように、リアモータ14の高速ギアにおける最大トルクRHmaxよりも大きく、かつ、低速ギアにおける最大トルクRLmaxよりも小さく設定されている。
【0022】
この車両10においては、ドライバの要求トルクに対し、フロントモータ13とリアモータ14のトルク配分比が常にほぼ50:50となるように、制御部18によって各モータ13、14のトルクが制御されている。このように、配分比を制御することにより、車両10の安定的な走行性能を確保している。なお、この配分比は例示に過ぎず、四輪駆動車として安定的な走行が可能な配分比の範囲内(例えば、30:70~70:30の範囲内)で可変とすることもできる。
【0023】
切り替え手段17は、運転席周りのドライバの手が届く範囲に設けられている。この切り替え手段17を手動で操作することによって、自動変速モード、低速ギアモード、高速ギアモード、又は、二輪駆動モードのいずれかのモードに切り替えることができる。なお、このモードの種類はこれらをすべて備えているものに限定されず、例えば、自動変速モード、低速ギアモード、及び、高速ギアモードの3モードとすることもできる。
【0024】
各モードにおける車速とギア位置の対応の一例を図3に示す。自動変速モードでは、車速に対応してギア位置が高速ギア(HI)と低速ギア(LO)のいずれかに自動的に切り替えられる。車両10の停止状態において、ギアは低速ギアとなっている。停車状態から例えば60km/時以下の車速域(図3中の丸数字1~2の範囲)は低速ギアが維持され、車速が60km/時(LO→HI切替車速)を上回ると低速ギアから高速ギアに切り替えられる。そして、それ以上の車速域(図3中の丸数字3~4の範囲)は高速ギアが維持される。その一方で、車両10の減速中は、30km/時以上の車速域(図3中の丸数字2~4の範囲)は高速ギアが維持され、車速が30km/時(HI→LO切替車速)を下回ると高速ギアから低速ギアに切り替えられる。
【0025】
低速ギアモードでは、原則的にギア位置が低速ギアに制限される(図3中の丸数字1~3の範囲)が、車速が自動変速モードにおける切り替え速度(上記の例では60km/時)より高い第1車速以上となったときに、低速ギアから高速ギアに切り替えられるように設定してもよい。この実施形態においては、第1車速を低速ギアでの走行が可能な最高車速である切替限界車速V1(例えば80km/時)としている。このようにすると、図3に示すように、切替限界車速V1より低い車速域(図3中の丸数字1~3の範囲)においてギアが低速ギアに固定される。その一方で、この切替限界車速V1以上の車速域(図3中の丸数字4)において低速ギアから高速ギアにギアが切り替えられて、リアモータ14の過回転が防止される。
【0026】
高速ギアモードでは、原則的にギア位置が高速ギアに制限される(図3中の丸数字1~4の範囲)が、車速が自動変速モードにおける切り替え速度(上記の例では30km/時)より低い第2車速以下となったときに、高速ギアから低速ギアに切り替えられるように設定してもよい。この実施形態においては、第2車速を0km/時としている。このようにすると、図3に示すように、全ての車速域(図3中の丸数字1~4の範囲)においてギアが高速ギアに固定される。
【0027】
上記のように、第1車速と第2車速を異なる車速とする(ヒステリシスを有する)ことによって、走行中に低速ギアと高速ギアとの間で不用意に頻繁にギア位置が切り替えられるのを防止して、スムーズな走行性を確保することができる。
【0028】
二輪駆動モードでは、全ての車速域(図3中の丸数字1~4の範囲)においてギアがニュートラル状態(N)とされる。このため、リアモータ14から後輪12に駆動力が伝達されず、フロントモータ13による前輪11の駆動力のみによって車両10は駆動する。
【0029】
制御部18は、車速に基づいて、高速ギアに切り替えられた状態の自動変速モード、又は、高速ギアモードから低速ギアモードへの切り替え可否の判断を行う。そして、切り替えが可能と判断されたとき、すなわち、高速ギアから低速ギアに切り替えてもリアモータ14が過回転状態とならないと判断できたときに、高速ギアから低速ギアへの切り替え制御を行う。
【0030】
制御部18は、車速センサ16、切り替え手段17、アクセルペダルセンサ20と接続されており、検出された車速やアクセルペダルストローク、選択されたモードなどに基づいて、フロントモータ13及びリアモータ14の出力、変速機15の切り替えなどが制御される。
【0031】
制御部18は、高速ギアから低速ギアへの切り替えに際し、必要に応じて車速を低下させるための車速低下手段24を備えている。車速低下手段24は、後述するように、トルクマップを高速ギア用から低速ギア用に切り替えて高車速域における駆動力を低下させる、又は、ドライバに高速ギアから低速ギアへの切り替えを行うことができない旨の警告を行って自発的な速度低下を促すいずれかの手段によって、車速を高速ギアから低速ギアへの切り替えが可能な車速まで低下させる機能を有している。
【0032】
低速ギアモード、高速ギアモード、又は、二輪駆動モードとしたときのトルクマップを図4に示す。このトルクマップは、各モードにおける車速と最大駆動力(前輪11の駆動力と後輪12の駆動力の合計値)の関係を示している。自動変速モードのときは、そのギア位置に対応して、低速ギアモード又は高速ギアモードのいずれかのトルクマップが適用される。リアモータ14に併設された変速機15を低速ギアに切り替えることによって、低車速域で最も大きな駆動力を得ることができる(図4中のLO参照)。しかしながら、低速ギアは、切替限界車速V1以上の高車速域(例えば、80km/時以上)には対応していない。
【0033】
変速機15を高速ギアに切り替えると、低速ギアとしたときほどの駆動力を得ることはできないが、全ての車速域に対応することができる(図4中のHI参照)。また、変速機15をニュートラル状態とすると、後輪12の駆動力を得ることができないため、他モードと比較して最大駆動力は小さくなるものの、フロントモータ13によって駆動される前輪11の駆動力によって、全ての車速域において駆動力を得ることができる(図4中の2WD参照)。
【0034】
例えば、車速がS1のときにアクセルペダル19を全開状態まで踏み込んだときの最大駆動力は、低速ギアモードのときにPL1、高速ギアモードのときにPH1、二輪駆動モードのときにP21となる。また、車速がS2のときにアクセルペダル19を全開位置まで踏み込んだときの最大駆動力は、高速ギアモードのときにPH2、二輪駆動モードのときにP22となる一方で、低速ギアモードのときはほぼゼロとなる。このように、アクセルペダルストロークが同じであっても、モードを変更することによって最大駆動力は変化する。
【0035】
この変速制御装置の制御フローのフローチャートの第一例を図1中の符号を参照しつつ図5を用いて説明する。この制御フローにおいては、高速ギア(HI)をギアの初期位置としており、駆動力の制御に高速ギア用のトルクマップを適用している(図5のステップS1)。このとき、切り替え手段は、自動変速モード又は高速ギアモードに設定されている。
【0036】
まず、ドライバが切り替え手段17を手動操作することによって、モードが自動変速モード又は高速ギアモードから低速ギアモードに切り替えられる(図5のステップS2)。ここで、車速と、高速ギアから低速ギアへの切り替えが可能な切替限界車速V1(例えば80km/時)との大小関係を比較する(図5のステップS3)。車速が切替限界車速V1よりも小さいときは(図5のステップS3のYES側)、トルクマップを高速ギア用から低速ギア用に変更した上で(図5のステップS4)、高速ギアから低速ギアに切り替えられ(図5のステップS5)、リターン処理が行われる(図5のステップS6)。
【0037】
その一方で、車速が切替限界車速V1以上のときは(図5のステップS3のNO側)、高速ギアから低速ギアに切り替えるとリアモータ14が過回転状態となるため、ギアの切り替えを制限する必要がある。そこで、すぐに低速ギアに切り替えることなく、車速と切替限界車速V1よりも予め定めた所定速度だけ大きい切替判定車速V2との大小関係を比較する。例えば、切替限界車速V1が80km/時のときに、それよりも5km/時大きい85km/時を切替判定車速V2と定めることができる。
【0038】
車速が切替判定車速V2よりも小さいときは(図5のステップS7のYES側)、車速低下手段24によって、トルクマップが高速ギア用から低速ギア用に変更される(図5のステップS8)。図4で説明したように、車速が切替限界車速V1よりも高速の車速域では、トルクマップを高速ギア用から低速ギア用に変更すると、アクセルペダルストロークに変化がなくても駆動力が低下するため、その駆動力の低下に伴って車速が自然に低下する。
【0039】
ここで、改めて車速と切替限界車速V1との大小関係を比較し(図5のステップS9)、車速が切替限界車速V1よりも小さいときは(図5のステップS9のYES側)、高速ギアから低速ギアに切り替えられた上で(図5のステップS5)、リターン処理が行われる(図5のステップS6)。その一方で、車速が切替限界車速V1以上のときは(図5のステップS9のNO側)、車速が切替限界車速V1よりも小さくなるまでこの大小関係の比較ステップを継続する(図5のステップS9)。
【0040】
その一方で、車速が切替判定車速V2以上のときは(図5のステップS7のNO側)、車速低下手段24によって、高速ギアから低速ギアへの切り替えを行うことができない旨の警告が行われる(図5のステップS10)。ここで、改めて車速と切替限界車速V1との大小関係を比較する(図5のステップS11)。警告を受けたドライバが、アクセルペダル19を緩めたりブレーキペダルを踏み込んだりすることによって車速が低下し、その車速が切替限界車速V1よりも小さくなったときは(図5のステップS11のYES側)、トルクマップを高速ギア用から低速ギア用に変更した上で(図5のステップS12)、高速ギアから低速ギアに切り替えられ(図5のステップS5)、リターン処理が行われる(図5のステップS6)。その一方で、車速が切替限界車速V1以上のときは(図5のステップS11のNO側)、ドライバへの警告と(図5のステップS10)、車速と切替限界車速V1との大小関係の比較を継続する(図5のステップS11)。
【0041】
なお、車両10が減速中などのように、短時間のうちに車速が切替判定車速V2を下回る可能性が高いときは、車速が切替判定車速V2を上回っている場合でも、即座にドライバに警告しないように設定することもできる。
【0042】
この変速制御装置の制御フローのフローチャートの第二例を図1中の符号を参照しつつ図6を用いて説明する。この制御フローも図5に示したものと同様に、高速ギア(HI)をギアの初期位置としており、駆動力の制御に高速ギア用のトルクマップを適用している(図6のステップS21)。このとき、切り替え手段17は、自動変速モード又は高速ギアモードに設定されている。
【0043】
まず、ドライバが切り替え手段17を手動操作することによって、モードが自動変速モード又は高速ギアモードから低速ギアモードに切り替えられる(図6のステップS22)。ここで、車速と、高速ギアから低速ギアへの切り替えが可能な切替限界車速V1(例えば80km/時)との大小関係を比較する(図6のステップS23)。車速が切替限界車速V1以上のときは(図6のステップS23のNO側)、リアモータ14の過回転状態を防止すべく高速ギアから低速ギアへの切り替えが制限され、図5のステップS7以下と同じ制御フローによって制御が行われる(図6のステップS24)。その一方で、車速が切替限界車速V1よりも小さいときは(図6のステップS23のYES側)、アクセルペダルセンサ20で検出したアクセルペダルストロークと、予め定めた加速判定閾値Xとの大小関係を比較する(図6のステップS25)。
【0044】
アクセルペダルストロークが加速判定閾値X以下のとき(図6のステップS25のNO側)、すなわち、アクセルペダル19の踏み込み量が小さいときは、ドライバは加速意思を有しておらず、車速が上がる可能性も低い。そこで、トルクマップを高速ギア用から低速ギア用に変更した上で(図6のステップS26)、高速ギアから低速ギアに切り替えられ(図6のステップS27)、リターン処理が行われる(図6のステップS28)。その一方で、アクセルペダルストロークが加速判定閾値Xよりも大きいとき(図6のステップS25のYES側)、すなわち、アクセルペダル19の踏み込み量が大きいときは、ドライバは加速意思を有しており、車速が上がる可能性が高い。その場合、ドライバは高速ギアを維持するのが通常であり、低速ギアモードへの切り替えはドライバの誤操作である可能性がある。
【0045】
そこで、モードが低速ギアモードに切り替えられ、かつ、アクセルペダルストロークが加速判定閾値Xよりも大きいときは、低速ギアモードへの切り替え操作が行われた旨の警告が行われる(図6のステップS29)。そして、トルクマップを高速ギア用から低速ギア用に変更した上でタイムカウントを開始し(図6のステップS30)、低速ギアへの切り替えを一定時間保留する。このように、トルクマップを低速ギア用に変更することによって、図4において説明したように、切替限界車速V1以上の高車速域における駆動力をほぼゼロとすることができるため、低速ギアへの切り替えを保留している間に不用意に車速が上がって、切替限界車速V1を超えるのを防止することができる。
【0046】
ここで、タイムカウントの開始後に、ドライバが再びモード変更せずに一定時間経過したか否か判断される(図6のステップS31)。ドライバが一定時間、再びモード変更しないときは(図6のステップS31のYES側)、低速ギアモードへの切り替えがドライバの誤操作ではないと判断され、高速ギアから低速ギアに切り替えられた上で(図6のステップS27)、リターン処理が行われる(図6のステップS28)。その一方で、ドライバが低速ギアモードから自動変速モード又は高速ギアモードに切り替えたときは(図6のステップS31のNO側)、トルクマップを低速ギア用から高速ギア用に変更した上で(図6のステップS32)、リターン処理が行われる(図6のステップS28)。
【0047】
例えば、低車速域(例えば、図4に示すトルクマップの車速S1付近)における高速ギアから低速ギアへの切り替えに際しては、アクセルペダルストロークに変化がなくても駆動力が増加する。この駆動力の増加に伴って、必要電力がバッテリ23の最大出力を上回ることがある。この場合、エンジン21を始動してジェネレータ22による発電を行うことによって、バッテリ23の最大出力との差分を補う必要がある。
【0048】
ジェネレータ22による発電は、エンジン21を始動した後にその回転が安定状態となった時点で安定するため、エンジン21の始動開始からジェネレータ22による安定発電までの間に若干のタイムラグがある。このため、高速ギアから低速ギアへの切り替えを完了した後にエンジン21を始動すると、低速ギアへの切り替え直後における必要電力が不足し、ドライバが一時的に出力不足を感じる可能性がある。
【0049】
そこで、上記のタイムラグを見越して、制御部18が高速ギアから低速ギアへの切り替えを行う判断を行った時点でエンジン21を始動するように制御することもできる。このようにすると、切り替えを行う判断に基づいて実際に高速ギアから低速ギアに切り替えられる時点において、ジェネレータ22による安定発電を行うことができるため、低速ギアへの切り替え後にドライバが出力不足を感じる虞はない。
【0050】
上記において説明した変速制御装置の構成、制御フローのフローチャート等は、この発明を説明するための単なる例示に過ぎず、前後の駆動輪11、12にそれぞれ駆動用のモータ13、14を設けるとともに、その少なくとも一方に変速機15を併設した車両10に用いられる変速制御装置において、ドライバの加速要求等に対応してギアの変速を行い得るようにする、というこの発明の課題を解決し得る限りにおいて、上記の構成要素、制御フロー等に適宜変更を加えることができる。
【0051】
上記においては、シリーズ式ハイブリッド車を例示して説明したが、この変速制御装置は電気自動車にも適用することができる。さらに、プラグインハイブリッド車やパラレル式ハイブリッド車等のように、駆動源としてモータを備えた車両に幅広く適用できる可能性がある。
【符号の説明】
【0052】
10 車両
11 前輪(駆動輪)
12 後輪(駆動輪)
13 フロントモータ(第一モータ)
14 リアモータ(第二モータ)
15 変速機
16 車速センサ
17 切り替え手段
18 制御部
19 アクセルペダル
20 アクセルペダルセンサ
21 エンジン
22 ジェネレータ
23 バッテリ
24 車速低下手段
V1 切替限界車速
V2 切替判定車速
X 加速判定閾値
図1
図2
図3
図4
図5
図6